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  • 特許-モータ制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/20 20160101AFI20240805BHJP
【FI】
H02P29/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020074613
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021175206
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特許第5372249(JP,B2)
【文献】特開平9-69013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与のトルク又は位置のいずれかの制御モード指令に基づいて、モータを制御するモータ制御装置において、位置制御モードにおいては所与の位置指令に応じてモータの位置を制御し、前記トルク制御モードにおいては速度制限指令以上の速度では速度制限指令に応じて速度を制限し速度制限指令より低い速度では所与のトルク指令に応じてモータのトルクを制御するモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、
前記モータの速度を検出する速度検出部と、
位置指令から前記モータの位置を減算して位置偏差を求める減算器と、
前記位置偏差に基づいてモータ速度指令を求める位置制御器と、
前記モータ速度指令から前記モータの速度を減算して速度偏差を出力する減算器と、
前記速度偏差を入力として速度制御演算を行い、モータトルク指令を出力する速度制御器と、
前記トルク指令に基づく速度偏差を求める速度偏差算出器と、
前記トルク指令に基づく速度偏差と前記モータの速度を加算して前記トルク指令に基づく速度指令を求める加算器と、
前記トルク指令に基づく速度指令を速度制限指令に基づき制限して、制限後の速度指令を出力する速度制限部と、
制御モード自動切り換え信号に基づき、前記位置制御器からの速度指令と前記制限後の速度指令を切り換えて、モータ速度指令を出力する速度指令選択部と、
前記モータトルク指令に基づくトルクを出力させるモータトルク制御部と、を備え、
前記速度制御器は、比例制御器と、積分制御器とを有し、
前記速度指令選択部は、
前記位置制御器からの速度指令と前記トルク指令に基づく前記制限後の速度指令とを比較し、前記位置制御器からの速度指令の値が前記制限後の速度指令の値より大きい場合は前記位置制御器からの速度指令の値を選択し、前記位置制御器からの速度指令の値が前記制限後の速度指令の値以下の場合は、前記制限後の速度指令の値を選択してモータ速度指令が求められるものである
モータ制御装置。
【請求項2】
前記速度指令選択部は、モータの駆動する部材の位置が押当て制御対象に近づいて所定の位置に達すると、制御モード自動切り換えを有効にする
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記速度制御器は、
前記速度指令選択部で前記制限後の速度指令を選択し、
前記トルク指令に基づく速度指令が前記速度制限部において速度制限されていない場合は、比例制御が行われるものであり、
前記トルク指令に基づく速度指令が前記速度制限部において速度制限されている場合は、比例積分制御が行われるものである
請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押当て制御用のモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接用サーボガンでは、溶接ガンの電極部の溶接チップでワークを挟んでモータのトルクを制御して加圧し、電極チップ間を通電しワークを溶着させている。このような溶接ガンでは、位置制御や速度制御で加圧対象に接触する手前まで移動し、トルク制御に切替えて加圧している。そして、トルク制御に切替えた時に過大な速度が発生して加圧対象に衝突することがないように、速度制限機能を備えたトルク制御を実施している。溶着が終了すると、再び位置制御や速度制御で移動を行う。
【0003】
このような位置制御や速度制御とトルク制御を切り替えて押当て制御を実施した例として特許文献1がある。特許文献1には、エンコーダを備えたモータを制御するモータ制御装置であって、モータによって駆動される機械負荷が加圧対象物に接近し、かつ、機械負荷の最終位置が加圧対象物の一定距離手前となるべき指令値である位置指令を生成する位置指令生成部と、エンコーダで検出されたモータの位置が位置指令に追従するように第1の速度指令を出力する位置制御部と、加圧対象物に加えるべき圧力または力の指令値である圧力指令を生成する圧力指令生成部と、機械負荷が加圧対象物に押し当てられたときに、機械負荷で検出された圧力または力が圧力指令に追従するように第2の速度指令を出力する圧力制御部と、機械負荷が加圧対象物に接触する際のモータの速度の上限を規定するクリープ速度と、第1の速度指令と、第2の速度指令との何れか1つを選択し、モータが動作すべき速度指令として出力する速度指令選択部と、速度指令選択部が出力する速度指令にモータの速度が追従するようにモータに電流を供給する電流指令を出力する速度制御部とを備え、速度指令選択部は、第1の速度指令を選択した後、第1の速度指令がクリープ速度を下回ったタイミング以降では、第2の速度指令またはクリープ速度の小さい値を選択することを特徴とするモータ制御装置が記載されている。
【0004】
このように、特許文献1の手法では、第1の速度指令がクリープ速度を下回ったタイミング以降では、第2の速度指令またはクリープ速度の小さい値を選択する処理を実施している。しかしながら、圧力制御部を構成するためには圧力検出器や力検出器が必要であり、こういった検出器を設けられない設備では、押当て制御を行うことができないという問題があった。また、圧力や力検出器の出力に含まれるノイズや、圧力制御ループを構成する機械の剛性に起因した不安定要素がある場合、圧力制御部からの速度指令にリップルが生じ、クリープ速度と第2の速度指令が切り替わる付近では、圧力制御ループが遮断されたり、また、復活したりするため、動作が不安定になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6113378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の様な問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、圧力検出器や力検出器が不要で、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行を高速に行え、さらに、速度制限状態からトルク制御への移行を高速で安定に行うことのできる押当て制御用のモータの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、トルク又は位置のいずれかの制御モード指令に基づいてモータを制御するモータ制御装置において、位置制御モードにおいては位置指令に応じてモータの位置を制御し、前記トルク制御モードにおいては速度制限指令以上の速度では速度制限指令に応じて速度を制限し速度制限指令より低い速度ではトルク指令に応じてモータのトルクを制御するモータ制御装置であって、前記モータ制御装置は、前記モータの速度を検出する速度検出部と、位置指令から位置を減算して位置偏差を求める減算器と、前記位置偏差に基づいて速度指令を求める位置制御器と、トルク指令に基づく速度偏差を求める速度偏差算出器と、トルク指令に基づく速度偏差と速度を加算してトルク指令に基づく速度指令を求める加算器と、トルク指令に基づく速度指令を速度制限指令に基づき制限して、制限後の速度指令を出力する速度制限部と、制御モード自動切り換え信号に基づき、前記位置制御器からの速度指令と前記制限後の速度指令を切り換えて、モータ速度指令を出力する速度指令選択部と、前記モータ速度指令から前記モータの速度を減算して速度偏差を出力する減算器と、前記速度偏差を入力として速度制御演算を行い、モータトルク指令を出力する速度制御器と、前記モータトルク指令に基づくトルクを出力させるモータトルク制御部と、を備え、前記速度制御器は、比例制御器と、積分制御器とを有し、前記速度指令選択部は、前記位置制御器からの速度指令と前記トルク指令に基づく前記制限後の速度指令とを比較し、前記位置制御器からの速度指令の値が前記制限後の速度指令の値より大きい場合は前記位置制御器からの速度指令の値を選択し、前記位置制御器からの速度指令の値が前記制限後の速度指令の値以下の場合は、前記制限後の速度指令の値を選択してモータ速度指令が求められるものであることを特徴とするモータ制御装置が提供される。
【0008】
前記速度指令選択部は、モータの駆動する部材の位置が押当て制御対象に近い所定の位置に達すると、制御モード自動切り換えを有効にするものであっても良い。
【0009】
前記速度制御器は、前記速度指令選択部で前記制限後の速度指令を選択し、前記トルク指令に基づく速度指令が前記速度制限部において速度制限されていない場合は、比例制御が行われるものであり、前記トルク指令に基づく速度指令が前記速度制限部において速度制限されている場合は、比例積分制御が行われるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧力検出器や力検出器を必要とせず、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行を高速に行うことができる。
さらに、速度制限状態からトルク制御への移行を高速で安定に行うことのできる押当て制御用のモータの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、モータ制御装置及び方法の一態様を示すブロック図である。
図2図2は、具体的な速度制御器の構成例を示した図である。
図3図3は、位置制御で加圧対象に接触する手前まで移動し、トルク制御に切替えて加圧動作をする場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るモータ制御装置及び方法の実施の態様を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の態様の説明如何により本発明の範囲が限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の技術的範囲に属する限り、如何なる態様であっても本発明の範囲に含まれるものである。
図1に、モータ制御装置及び方法の一態様を示す。
【0013】
トルク指令と速度制限指令に基づいてモータの速度制限機能付きのトルク制御装置及び制御方法は、前記〔背景技術〕の項でも述べたとおり、公知のものであるので、詳細の説明は省略するが、本発明の実施の態様は次のとおりである。
【0014】
本発明のモータ21のモータのトルクと位置を制御するモータ制御装置Aは、概略、エンコーダEN23、エンコーダEN23の位置を微分して速度を求める速度検出部25と、速度偏差算出器1、加算器3、速度制限部5、制御モード切り換え部7、減算器11、速度制御器15、速度指令選択部16、モータトルク制御器17、位置制御器35などから構成されている。
【0015】
図1に示す実施例は、トルク制御モードと位置制御モードを切り換え可能な例を示したものである。モータ制御装置Aの各部の機能は以下のとおりである。トルク指令Tを速度偏差算出器1に通してトルク指令に基づく速度偏差SDTを求める。トルク指令に基づく速度偏差SDTと速度Vを加算器3により加算してトルク指令に基づく速度指令STCを求める。速度制限部5において、トルク指令Tに基づく速度指令STCを速度制限指令SLCで指令される速度制限値で速度制限して、制限後の速度指令SCLを求める。
また、位置指令Lから位置Pを減算して、位置偏差PDTを求め、位置制御器35に通して位置制御器からの速度指定Sを求める。
【0016】
制御モード切り換え部7では、速度指令選択部16からの速度指令選択指令STSに基づき、位置制御器からの速度指令Sと制限後の速度指令SCLを切り替え、モータ速度指令SMCを求める。速度指令選択指令STSが位置制御器からの速度指令の場合は位置制御器からの速度指令Sをモータ速度指令SMCとし、速度指令選択指令STSが制限後の速度指令SCLの場合は、制限後の速度指令SCLをモータ速度指令SMCとする。そして、モータ速度指令SMCに基づき、モータを速度制御する。
【0017】
モータ21が押当て制御対象に近づくと、上位コントローラは位置信号等に基づき、制御モード自動切り換え信号CMSを有効にする。制御モード自動切り換え信号CMSが有効になると、速度指令選択部16では、位置制御器からの速度指令Sと制限後の速度指令SCLを比較し、位置制御器からの速度指令Sが制限後の速度指令SCLより大きい場合は位置制御器からの速度指令Sを選択し、位置制御器からの速度指令Sが制限後の速度指令SCL以下になると、制限後の速度指令SCLを選択して、モータ速度指令SMCを求める。このモータ速度指令SMCに基づき、モータ21を速度制御する。
【0018】
具体的には、モータに付けられているエンコーダEN23の位置を微分して速度を求める。モータ速度指令SMCから速度を減算して速度偏差Sを求め、速度制御器15を通してモータトルク指令TMTを算出する。モータトルク指令TMTに基づき、モータトルク制御器17によりモータトルク指令TMT通りのトルクがモータから出力される。モータから出力されたトルクにより回転した位置をエンコーダEN23で検出し、モータ速度指令SMCと一致するように速度制御が行われる。
【0019】
速度制御器15は比例制御器15aを有し、制御状態に基づく速度指令選択部16からの速度制御器制御信号STSSにより、比例制御器15aのみで動作させたり、比例制御器15aと積分制御器15bの両方を動作させたりする。
速度指令選択部16で、位置制御器からの速度指令Sが選択されている場合は、速度制御器制御信号STSSにより比例制御器15aと積分制御器15bの両方を動作させて比例積分制御を行う。速度指令選択部16で制限後の速度指令SCLが選択されていて、トルク指令Tに基づく速度指令が速度制限にかかっている場合も同様に比例積分制御を行う。速度指令選択部16で制限後の速度指令SCLが選択されていて、トルク指令Tに基づく速度指令が速度制限にかかっていない場合は速度制御器制御信号STSSにより比例制御を行う。
【0020】
図2は、図1における速度制御器15のより具体的な構成例を示した図である。比例ゲイン15a-1により比例制御器15aが構成され、積分ゲイン15b-1と積分器15b-2、そして積分減衰ゲイン15b-3と切替スイッチ15b-4とから積分制御器15bが構成されている。
【0021】
速度制御器15を比例積分制御で動作させる場合は、切替スイッチ15b-4を1にし、積分制御器15bに積分動作を行わせる。速度制御器15を比例制御器で動作させる場合は、切替スイッチ15b-4を2にし、積分器15b-2の値をマイナス符号の積分減衰ゲインに基づき減衰させて0にして、比例動作を行わせる。これらのモータ制御を行う各部はソフトウェアで構成することができ、制御サンプル毎に制御演算が行われる。
【0022】
速度指令選択部16は、モータ21の駆動する部材の位置が押当て制御対象に近い所定の位置に達すると、制御モード自動切り換え信号CMSを受けて制御モード自動切り換えを有効にする。すなわち、位置制御モードとトルク制御モードとを自動切り替え可能な状態にする。
速度指令選択部16は、位置制御器からの速度指令Sと制限後の速度指令SCLとを比較する。
位置制御器からの速度指令Sの値が制限後の速度指令SCLの値より大きい場合は位置制御器からの速度指令Sの値を選択する。
【0023】
一方、位置制御器からの速度指令Sの値が制限後の速度指令の値SCL以下の場合は、制限後の速度指令SCLの値を選択してモータ速度指令SMCが求められる。
【0024】
速度制御器15は、速度指令選択部16で制限後の速度指令を選択し、トルク指令Tに基づく速度指令STCが速度制限部5において速度制限されていない場合は、比例制御が行われる。
一方、トルク指令に基づく速度指令STCが速度制限部5において速度制限されている場合は、比例積分制御が行われる。
【0025】
速度指令選択指令STSが制限後の速度指令SCLの場合は、制御モード切り換え部7は制限後の速度指令SCLを選択し、次のようにして速度制限機能付きのトルク制御が実施される。
速度制御器15を比例制御器15aで構成し、そのゲインをGPとすると、速度制御系でのモータ速度指令SMCからモータトルク指令TMTを算出する計算の逆算により、トルク指令Tからトルク指令に基づく速度指令STCは、以下のように算出できる。
【0026】
トルク指令に基づく速度偏差SDT=トルク指令T/GP (1)
トルク指令に基づく速度指令STC=トルク指令に基づく速度偏差SDT+速度V(2)
【0027】
そして、求められたトルク指令に基づく速度指令STCに対して速度制限指令SLCに基づき速度制限を行い、制限後の速度指令SCLを求める。
制限後の速度指令SCLに従ってモータ21の速度制御を行うと、以下のようになる。
モータトルク指令TMT=速度偏差S×GP=(モータ速度指令SMC-速度V)×GP
【0028】
ここで、速度制限にかからない場合は、モータ速度指令SMC=トルク指令に基づく速度指令STCのため、
モータトルク指令TMT=(トルク指令に基づく速度指令STC-速度V)×GP={(トルク指令に基づく速度偏差SDT+速度V)-速度V}×GP (3)
ここで、(トルク指令に基づく速度偏差SDT)×GP=トルク指令/GP×GP=トルク指令Tとなり、モータトルク指令TMTはトルク指令Tと一致し、このモータトルク指令TMTに基づきトルク制御を行い、モータトルク指令TMT通りのモータトルクがモータ21から出力される。
速度制限にかかった場合は、モータ速度指令SMCは速度制限指令SLCになり、速度制限指令SLCに基づくモータの速度制御が行われ、速度制限指令SLCに速度が比例積分制御される。
【0029】
図3は、本実施の形態による位置制御で加圧対象に接触する手前まで移動し、トルク制御に切替えて加圧動作をする場合のシミュレーション結果の一例を示す図である(A~G)。ここでは、一例としてスポット溶接用サーボガンに用いた場合の形態を示している。
【0030】
波形Aは、位置制御器からの速度指令STCを示す図である。
波形Bは、トルク指令TCと負荷トルクを示す図である。
波形Cは、制御(位置、トルク)モード自動切り替えを示す図である。
波形Dは、制限後の速度指令SCLを示す図である。
波形Eは、モータ速度指令SMCを示す図である。
波形Fは、速度Vを示す図である。
波形Gはモータトルク指令TMCを示す図である。
【0031】
位置制御において、サーボガンの位置が加圧対象に近づくと、制御モード自動切り換えが有効になり(波形C)、位置制御器からの速度指令STC(波形A)が制限後の速度指令SCL(波形D)以下になると、速度指令選択部16は制限後の速度指令SCLを選択して、モータ速度指令SMCは速度制限指令SLCで設定された速度制限値(300min-1)になっている(波形Eの0.12-0.14参照)。
【0032】
そして、制限された速度で加圧対象物に近づき、加圧対象物に接触すると負荷トルクが増加して(波形B)速度が低下し(波形F)、速度制限状態が解除され、トルク指令T通りのモータトルク指令TMTで加圧対象を加圧している(波形G)。
加圧対象物を加圧すると、制御モード自動切り換えを無効にする(波形C)。圧力制御ループがないため、速度制限機能付きトルク制御系からの出力である制限後の速度指令SLC(波形D)は一定のきれいな値であり、位置制御からトルク制御への切り換えは高速でスムーズである(波形G)。また、加圧対象に接触する時の、速度制限状態からトルク制御への切り換えも、チャタリング等の不安定な現象はみられず、瞬時にトルク制御に切り替わっている(波形G)。
【0033】
以上のように、本発明では、モータが押当て制御対象に近づくまでは通常の位置制御を実施し、モータが押当て制御対象に近づくと、制御モード自動切り換えを有効にする。制御モード自動切り換えが有効になると、速度指令選択部で位置制御器からの速度指令と制限後の速度指令を比較する。位置制御器からの速度指令が制限後の速度指令以下になると、制限後の速度指令を選択して速度制限機能付きトルク制御を行う。本発明では圧力制御ループがないため、切り換えは高速でスムーズであり、切り換え後は、加圧対象に接触するまで速度制限値で動作する。加圧対象に接触すると、速度が低下して、速度制限状態が解除される。そして、トルク指令通りのモータトルク指令になり、加圧対象をトルク指令で加圧する。速度制限状態からトルク制御状態への切り換わりも、圧力制御ループがないため、高速でスムーズであり、本制御手法の速度制限機能付きトルク制御では自動的に切り替わる。速度制限機能付きのトルク制御系は、トルク指令に基づく速度偏差に速度を加算して速度制限するだけである。従って、速度制御ループの上位に速度制限を実現するための圧力制御ループがなく、特別な制御パラメータは必要ない。速度制御器のゲインが低くても、速度制限にかかっていない時はトルク指令通りのモータトルク指令が算出され、速度制御器のゲインの影響を受けない。速度制御器のゲインは普通にモータを速度制御する時に、速度ループが安定するように調整すればよい。また、機械系に共振などがある場合は、ノッチフィルタやローパスフィルタを速度制御器の出力に設けてもよい。その場合は、トルク指令に対する応答がフィルタを追加した分だけ、低下する。
【0034】
以上の様に、本発明では、トルク指令を基にトルク指令に基づく速度指令を算出し、速度制限を行って制限後の速度指令を求め、位置制御器からの速度指令と制限後の速度指令を比較し、位置制御器からの速度指令が制限後の速度指令より大きい場合は位置制御器からの速度指令を選択する。位置制御器からの速度指令が制限後の速度指令以下になると、制限後の速度指令を選択して、モータ速度指令を求めて押当て制御を実現している。これにより、圧力検出器や力検出器が不要で、位置制御や速度制御から速度制限機能付きトルク制御への移行が高速であり、速度制限状態からトルク制御への移行が高速で安定な押当て制御用のモータの制御装置を提供することができる。
【0035】
上述した各態様は、いずれも本発明の一態様を示すものであって、本発明自体がそれらの態様によって示される具体的な構成に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載された事項に基づき当業者が想定し得るものはすべて含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
A モータ制御装置
P 位置
V 速度
1 速度偏差算出器
3 加算器
5 速度制限部
7 制御モード切り換え部
11 減算器
15 速度制御器
15a 比例制御器
15a-1 比例ゲイン
15b 積分制御器
15b-2 積分器
15b-3 減衰ゲイン
15b-4 切替スイッチ
16 速度指令選択部
17 モータトルク制御器
21 モータ
23 エンコーダ
35 位置制御器
位置指令
DT 位置偏差
速度指令
CL 制限後の速度指令
TSS 速度制御器制御信号
速度偏差
DT トルク指令に基づく速度偏差
LC 速度制限指令
TC トルク指令に基づく速度指令
TS 速度制御機器制御信号
MC モータ速度指令
トルク指令
MT モータトルク指令
図1
図2
図3