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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20240805BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240805BHJP
   G03G 9/093 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G03G21/00 314
G03G9/08
G03G9/093
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020096395
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021189358
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 進介
(72)【発明者】
【氏名】梅田 健介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貴章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩衣
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-022232(JP,A)
【文献】特開2007-031145(JP,A)
【文献】特開平09-211979(JP,A)
【文献】特開2006-350063(JP,A)
【文献】特開2000-122500(JP,A)
【文献】特開2019-211768(JP,A)
【文献】特開2017-156450(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0243625(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 9/08
G03G 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と、
前記像担持体の表面負極性に帯電する帯電手段と、
前記像担持体に静電潜像を形成すべく前記像担持体を露光する露光手段と、
前記像担持体に極性に帯電した現像剤を供給して前記静電潜像を現像剤像として現像する現像手段と、
前記現像剤像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写手段と、
を備え、
前記現像剤像が前記被転写体に転写された後、前記像担持体に残留した現像剤が前記現像手段により回収される画像形成装置において、
前記像担持体の回転方向における、前記転写手段により前記現像剤像が前記被転写体へ転写される前記像担持体の転写部よりも下流、かつ、前記帯電手段により帯電される前記像担持体の帯電部よりも上流において、前記像担持体の表面に付着した正極性に帯電された付着物を回収するブラシ部材を備え、
前記ブラシ部材は、表面が前記負極性に帯電された前記像担持体と接触し摩擦帯電されることで、前記極性と同じ帯電極性に帯電される帯電特性を有し、前記像担持体が回転している状態において前記像担持体の表面に付着した前記正極性に帯電された付着物が前記ブラシ部材に電気的に移動することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記ブラシ部材は、前記極性とは逆の正極性に帯電される前記付着物を回収することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記ブラシ部材は、前記ブラシ部材の帯電系列に比べて前記極性とは逆の正極性側の帯電系列を有する前記付着物を回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ブラシ部材は、複数の毛材と、前記複数の毛材を支持する基布と、を有し、
前記毛材は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂からなることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記毛材の前記基布から露出している部分を真っ直ぐに延ばしたときの長さL1と、前記ブラシ部材を前記像担持体に対して所定の設置位置に設置したときの前記基布と前記像担持体の表面との間の最短距離L2と、の差分である前記ブラシ部材の前記像担持体に対する侵入量が、0.75mm以上、1.25mm以下の範囲であることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記像担持体の回転方向における、前記像担持体の前記転写部よりも下流、かつ、前記帯電部よりも上流の部分において前記像担持体を露光する帯電前露光手段をさらに備え、
前記ブラシ部材は、前記像担持体の回転方向における前記転写部よりも下流、かつ、前記帯電前露光手段により露光される前記像担持体の帯電前露光部よりも上流において、前記付着物を回収することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記ブラシ部材は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂からなる複数の毛材と、前記複数の毛材を支持する基布と、を有するブラシ部材であり、
前記毛材の前記基布から露出している部分を真っ直ぐに延ばしたときの長さL1と、前記ブラシ部材を前記像担持体に対して所定の設置位置に設置したときの前記基布と前記像担持体の表面との間の最短距離L2と、の差分である前記ブラシ部材の前記像担持体に対する侵入量が、0.75mm以上、1.75mm以下の範囲であることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記帯電手段は、前記像担持体と接触することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記ブラシ部材は、複数の毛材と、前記複数の毛材を支持する基布と、を有し、
前記毛材の密度は110~290kF/inchであることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記ブラシ部材は、複数の毛材と、前記複数の毛材を支持する基布と、を有し、
前記毛材の密度は110~200kF/inchであることを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式などを利用して像担持体上に形成したトナー像を転写材に転写することで記録画像を得る、レーザプリンター、複写機、ファクシミリなどの画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用紙に転写されず感光ドラムに残った現像剤を現像部で回収して再利用するクリーナーレス方式では、感光ドラムに付着した紙粉・填料も現像器に回収されてしまい、現像剤の帯電性に影響を与えることで不具合が発生する場合がる。そのため、感光ドラムに付着した紙粉・填料を回収するための構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-156450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、紙に含まれる紙粉や填料の種類は様々であり、その帯電特性も正極性に帯電されやすいものもあれば、負極性に帯電されやすいものもある。
【0005】
特に、現像器内でトナーと異なる極性に帯電されやすい紙粉とトナーが混在する場合、摩擦帯電によりトナーが想定以上に帯電してしまい、電界が不足することによる転写不良など様々な画像不良が発生する。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、コストアップや装置の大型化を抑制しつつ、感光ドラムに付着したトナーと逆極性の紙粉・填料を回収可能とする回収部材を備えることにより画像の不具合を抑制する画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の画像形成装置は、
像担持体と、
前記像担持体の表面負極性に帯電する帯電手段と、
前記像担持体に静電潜像を形成すべく前記像担持体を露光する露光手段と、
前記像担持体に極性に帯電した現像剤を供給して前記静電潜像を現像剤像として現像する現像手段と、
前記現像剤像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写手段と、
を備え、
前記現像剤像が前記被転写体に転写された後、前記像担持体に残留した現像剤が前記現像手段により回収される画像形成装置において、
前記像担持体の回転方向における、前記転写手段により前記現像剤像が前記被転写体へ転写される前記像担持体の転写部よりも下流、かつ、前記帯電手段により帯電される前記
像担持体の帯電部よりも上流において、前記像担持体の表面に付着した正極性に帯電された付着物を回収するブラシ部材を備え、
前記ブラシ部材は、表面が前記負極性に帯電された前記像担持体と接触し摩擦帯電されることで、前記正規極性と同じ帯電極性に帯電される帯電特性を有し、前記像担持体が回転している状態において前記像担持体の表面に付着した前記正極性に帯電された付着物が前記ブラシ部材に電気的に移動することを特徴とする。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストアップや装置の大型化を抑制しつつ、感光ドラムに付着したトナーと逆極性の紙粉・填料を回収可能とする回収部材を備えることにより、画像の不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1における画像形成装置の模式図
図2】実施形態1におけるブラシ部材の模式図
図3】実施形態1における紙粉捕集性の実験装置の模式図
図4】実施形態1の変形例における画像形成装置の模式図
図5】実施形態1におけるトナーとドロマイトの帯電量分布
図6】実施形態1におけるファラデーゲージの構造の模式図
図7】実施形態1におけるトナーの模式図
図8】実施形態1におけるタルク通紙後の帯電量比較
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態の概略構成を示すものである。本実施形態の画像形成装置はモノクロプリンターである。
【0012】
本実施形態における画像形成装置には像担持体としての円筒型の感光体、即ち、感光ドラム1が設けられている。感光ドラム1の周囲には、帯電手段としての帯電ローラ2、現像手段としての現像装置3が設けられている。また、帯電ローラ2と現像装置3との間の図中下方には、露光手段としての露光装置4が設けられている。また、感光ドラム1には転写ローラ5が圧接されている。
【0013】
本実施形態における感光ドラム1は負帯電性の有機感光体である。この感光ドラム1は、アルミニウムのドラム状の基体上に感光層を有しており、駆動装置(不図示)によって図中矢印の方向(時計方向)に所定のプロセススピードで回転駆動される。本実施形態では、プロセススピードは、感光ドラム1の周速度(表面移動速度)に相当する。
【0014】
帯電ローラ2は、感光ドラム1に所定の圧接力で接触し、帯電部を形成する。また、帯電電圧供給手段としての帯電高圧電源(不図示)によって、所望の帯電電圧を印加され、感光ドラム1の表面を所定の電位に均一に帯電させる。本実施形態では、感光ドラム1は帯電ローラ2により負極性に帯電される。
【0015】
露光装置4は、本実施形態では、レーザスキャナー装置であり、ホストコンピュータ等の外部装置から入力された画像情報に対応したレーザ光を出力し、感光ドラム1の表面を走査露光する。この露光により、感光ドラム1の表面に画像情報に応じた静電潜像(静電像)が形成される。尚、露光装置4としては、レーザスキャナー装置に限定されることはなく、例えば、感光ドラム1の長手方向に沿って複数のLEDが配列されたLEDアレイを採用しても良い。
【0016】
本実施形態では現像方式として接触現像方式を用いる。現像装置3は、現像剤担持体と
しての現像ローラ31、現像剤供給手段としてのトナー供給ローラ32、トナーを収容する現像剤収容室33、現像ブレード34からなる。現像剤収容室34からトナー供給ローラ32により現像ローラ31に供給されたトナーは現像ブレード34との接触部を通過することで、所定の極性に帯電される。なお、本実施形態では粒径が6μm、正規の帯電極性が負極性のトナーを用いている。また、本実施形態では一成分非磁性接触現像法を採用したが、二成分非磁性接触/非接触現像法を使用してもよいし、磁性現像法を採用してもよい。
【0017】
感光ドラム1上に形成された静電潜像は、現像ローラ31と感光ドラム1との対向部において、現像ローラ31によって搬送されたトナー(現像剤)によりトナー像(現像剤像)として現像される。このとき、現像ローラ31には、現像電圧印加手段としての現像高圧電源(不図示)により現像電圧が印加される。本実施形態では、反転現像方式にて、静電潜像を現像する。即ち、帯電処理後の感光ドラム1における、露光によって電荷が減衰した部分に、感光ドラム1の帯電極性と同極性に帯電したトナーを付着させることで、静電潜像をトナー像として現像する。
【0018】
転写ローラ5としては、ポリウレタンゴムやEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)などから成るスポンジゴムなどの弾性部材で構成されたものを好適に用いることができる。
【0019】
転写ローラ5は感光ドラム1に向けて押圧され、感光ドラム1と転写ローラ5とが圧接する転写部を形成する。転写ローラ5には、転写電圧印加手段として不図示の転写高圧電源が接続され、所定のタイミングで所定の電圧が印加される。
【0020】
感光ドラム1上に形成されたトナー像が転写部に到達するタイミングに合わせてカセット6に格納された被転写体としての転写材Sが給紙ユニット7により給紙され、レジストローラ対8を通り転写部に搬送される。感光ドラム1上に形成されたトナー像は、転写高圧電源によって所定の転写電圧が印加された転写ローラ5により、転写材S上に転写される。
【0021】
トナー像転写後の転写材Sは、定着器9に搬送される。定着器9は、不図示の定着ヒーターと定着ヒーターの温度を測定する不図示のサーミスターを内蔵した定着フィルム91と、定着フィルム91に圧接するための加圧ローラ92を備えたフィルム加熱方式の定着器である。そして、転写材Sは加熱及び加圧されることによりトナー像が定着されて、排紙ローラ対10を通過して機外へ排出される。
【0022】
また、転写材Sに転写されずに感光ドラム1に残留した転写残トナーは、以下の工程で除去される。
【0023】
転写残トナーには正極性に帯電しているトナーや、負極性に帯電しているものの充分な電荷を有していないトナーが混在する。転写残トナーは帯電部において、放電により再び負極性に帯電される。帯電部において再び負極性に帯電させられた転写残トナーは、感光ドラム1の回転に伴い現像部に到達する。ここで、先述の通り現像部に到達した感光ドラム1には静電潜像が形成されている。現像部に到達した転写残トナーの挙動について、感光ドラム1の露光部と非画像形成部に分けて説明する。
【0024】
感光ドラム1の非画像形成部に付着している転写残トナーは、現像部において感光ドラム1の非画像形成部電位と現像電圧との電位差により現像ローラ31に転移し、現像剤収容室33中に回収される。なお、現像剤収容室33に回収されたトナーは再度画像形成に使用される。
【0025】
感光ドラム1の露光部に付着している転写残トナーは、現像部において感光ドラム1から現像ローラ31に転移されず、現像ローラ31から現像されたトナーとともに転写部に移動し転写材Sに転写され、感光ドラム1より除去される。
【0026】
[紙粉除去機構]
次に、本実施形態における紙粉除去機構について説明する。図1に示した通り、本実施形態における画像形成装置は紙粉除去機構としてのブラシ部材11(回収部材)を有する。ブラシ部材11は、詳しくは後述するが、感光ドラム1の表面を摺擦する複数の毛材であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)糸11aと、PTFE糸11aを支持する基布11bで構成される。このブラシ部材11が、感光ドラム1の移動方向(回転方向)において、転写部よりも下流側、かつ、帯電部よりも上流側で感光ドラム1と接触するように配置されている。ブラシ部材11は不図示の支持部材によって支持され、感光ドラム1に対して固定位置に配置されており、感光ドラム1の移動に伴って感光ドラム1の表面を摺擦する。
【0027】
ブラシ部材11は、記録材Sから感光ドラム1上に転写部において転移した紙粉などの付着物を捕集(回収)し、感光ドラム1の移動方向においてブラシ部材11よりも下流側の帯電部、および、現像部へと移動する紙粉の量を低減する。
【0028】
本実施形態におけるブラシ部材11にはPTFE糸を基布に織りこんだものが使用され、感光ドラム1との摩擦帯電によりブラシ部材11がトナーと同じ帯電極性である負極性に帯電されやすいという、帯電特性を有する。この効果については後述する。
【0029】
本実施形態におけるブラシ部材11の感光ドラム1の周方向(以下、短手方向)の長さは5mmに設定されているが、これに限定されるものではない。たとえば、画像形成装置やプロセスカートリッジの寿命に応じて適宜変更してもよい。ブラシ部材11の短手方向の長さが長いほど、より長期間紙粉を捕集できることは言うまでもない。
【0030】
本実施形態におけるブラシ部材11の長手方向の長さは216mmに設定されているが、これに限定されるものではない。たとえば、画像形成装置の最大通紙幅に応じて適宜変更してもよい。
【0031】
本実施形態におけるブラシ部材11の繊度は84T/48F(10000mあたり84gの太さの糸を48本束ねたものを意味している)としているが、後述するブラシ密度の条件を満足できるならば適宜変更してもよい。
【0032】
ブラシ部材11の密度は、トナーの通過性と紙粉捕集性を考慮して決めることが望ましい。すなわち、ブラシ部材11の密度が大きすぎるとトナーの通過性が悪化しトナーがスタックしてしまい、スタックしたトナーが飛散し機内汚れになるなど不具合が発生することがある。また、ブラシ部材11の密度が小さすぎると紙粉を捕集する能力が弱まってしまう。
【0033】
ここで、紙粉捕集性の判定方法について説明する。本実施形態では、感光ドラム1に紙粉が付着することにより発生する斑点画像の数に基づいて紙粉捕集性を判断している。感光ドラム1に紙粉が付着すると帯電部において紙粉付着部の帯電が阻害され、周囲の非紙粉付着部よりも感光ドラム1の表面電位が低くなってしまう。そのため、非画像形成部であっても、紙粉付着部には現像ローラ31からトナーが飛翔しやすくなってしまい、斑点画像となる。
【0034】
本実施形態では、転写材SとしてCenturyStar紙(CENTURY PULP AND PAPER製、商品名)を用いて白画像をプリントし、10枚目の紙にあらわれた斑点画像をカウントしている。本実施形態では、視覚的に影響が大きい0.8mm以上の大きさの斑点が15個以上の場合、紙粉捕集性NGと判定している。
【0035】
【表1】
【0036】
本実施形態では上記結果に基づき、ブラシ部材11の密度は紙粉捕集性と機内汚れ防止が両立できる170kF/inch^2とした。(kF/inch^2はブラシの密度の単位であり、1平方インチ当たりのフィラメントの数を示す)なお、上記結果からブラシ部材11の密度は110kF/inch^2から200kF/inch^2が好適であると言える。
【0037】
次に、ブラシ部材11の感光ドラム1に対する侵入量(以後、“ブラシ部材11の侵入量”と呼ぶ)について、図2を用いて説明する。図2(a)はブラシ部材11が単体の状態を示す模式図であり、図2(b)はブラシ部材11を感光ドラム1に当接させた状態(ブラシ部材11を画像形成装置に組み込んだ状態)の模式図である。
【0038】
図2(a)に示すように、ブラシ部材11が単体の状態、すなわち、PTFE糸11aを屈曲させようとする力が外部からかかっていない状態での基布から露出しているPTFE糸11aの先端までの距離L1とする。ここで、本実施形態におけるL1は6.5mmとなっている。
【0039】
ブラシ部材11は基布11bを両面テープなどの固定手段により所定の設置位置に設置された不図示の支持部材に固定し、PTFE糸11aの先端が感光ドラム1に対して侵入するようにして配設される。ここで、支持部材と感光ドラム1の間のクリアランスは固定されている。このときの基布11bから感光ドラム1までの最短距離をL2とする。本実施形態では、最短距離L2とL1の差分をブラシ部材11の侵入量と定義している。
【0040】
次に、ブラシ部材11の侵入量の決定方法について説明する。本発明者らの検討により、ブラシ部材11の侵入量がブラシ部材11の紙粉捕集性に対して大きな影響を与えることがわかった。ただし、ここでの紙粉捕集性とは大きなサイズ、例えば0.8mm以上の大きさの紙粉捕集性を意味している。ブラシ部材11の侵入量が小さい場合、ブラシ部材11と感光ドラム1との接触長さが小さくなる。そのため、感光ドラム1上を移動してくる大きなサイズの紙粉の慣性力によりブラシ部材11の毛先が動いてしまい、大きなサイ
ズの紙粉がすり抜けやすくなってしまう。大きなサイズの紙粉がすり抜けてしまうと、現像部で回収された紙粉が現像ブレード34と現像ローラ31の間に挟まってしまい、現像ローラ31上のトナーがはぎ取られ、画像にスジが発生する不具合が発生することがある(以下、現像スジと呼ぶ)。
【0041】
ブラシ部材11の侵入量が大きい場合、感光ドラム1に対してブラシ部材11の毛先が寝て腹当たりする状態(図2(b))となり、ブラシ部材11と感光ドラム1との接触長さが大きくなる。ブラシ部材11と感光ドラム1との接触長さが大きくなると、紙粉とブラシ部材11が接触した際にブラシ部材11の毛先が動きにくく、大きなサイズの紙粉がすり抜けにくくなることで紙粉の捕集性能が向上する。その結果、現像スジの発生を抑えることができる。大きなサイズの紙粉捕集性を確保するためには、ブラシ部材11の侵入量を十分に大きくすることが望ましい。
【0042】
一方で、ブラシ部材11の侵入量が画像に対して大きな影響を与えることもわかった。すなわち、ブラシ部材11の侵入量が大きいほど感光ドラム1と当接圧が強い状態で摺擦されるため、感光ドラム1に意図しない帯電ムラが発生し、画像に濃度ムラとしてあらわれてしまう(以下、摺擦メモリと呼ぶ)。
【0043】
表2に本実施形態におけるブラシ部材11の侵入量と大きなサイズの紙粉捕集性、および、摺擦メモリ発生状況の関係を示す。
【0044】
ここで、大きなサイズの紙粉捕集性の判断方法について、図3を用いて説明する。本実施形態では感光ドラム1上のブラシ部材11の下流部分にスクレーパーを取り付けた実験装置を作成し、スクレーパーに回収された紙粉を観察し、そこに含まれる大きなサイズの紙粉の数によって判断を行っている。本実施形態では、転写材Sとして紙であるOffice 70(キヤノン、商品名)を用いて白画像を10枚プリントした後のスクレーパーに回収された紙粉を観察し、そこに0.8mm以上のサイズの紙粉が15個以上であった場合にNGと判定している。
【0045】
【表2】
【0046】
以上の結果を基に、本実施形態におけるブラシ部材11の侵入量は大きなサイズの紙粉捕集性と摺擦メモリが両立できる1.00mmに設定されている。しかしながら、ブラシ部材11の侵入量は、これに限られず、紙粉捕集性と摺擦メモリを両立できる0.75m
m以上1.25mm以下の範囲であればよい。
なお、紙粉捕集性の検討を行った条件のベースは、ブラシ部材11の密度を170kF/inch^2、侵入量を1.00mmとした。
【0047】
[本実施形態の特徴部分]
ここでは、先述したブラシ部材11の材料としてPTFEの糸を用いたものを使用し、摩擦帯電によりトナーと同じ帯電極性(本実施形態では負極性)に帯電させる構成とした効果について説明する。また、比較例1としてブラシ部材11の材料としてナイロンの糸を用いたものを使用し、摩擦帯電によりトナーと逆極性(本実施形態では正極性)に帯電させる構成、比較例2としてブラシ部材を用いない構成とした効果について説明する。
【0048】
転写部において転写材Sから感光ドラム1に紙粉が転移する際、紙粉とともに転写材Sから剥離した填料も感光ドラム1に転移する場合がある。転写材Sにはさまざまな種類があり、転写材Sに含まれる填料もまたさまざまな種類がある。転写材Sの中には填料としてドロマイト(CaMg(CO)が含まれるものがある。ドロマイトはその特性として、正極性(本実施形態ではトナーと逆極性)に帯電されやすく、帯電系列も、トナーの正規の帯電極性とは逆極性側となりやすい。図4にトナーとドロマイトの帯電量分布の例を示す。図4において、(A)はトナーの帯電量分布を示し、(b)はドロマイトの帯電量分布を示している。ここで、帯電量分布はホソカワミクロン社製イースパートアナライザーEST-Gを用いて、トナーは感光ドラム1上に現像された状態のものを測定している。また、ドロマイトは転写材SとしてJK-Ledger紙(JK PAPER LTD.製、商品名)を通紙した際に感光ドラム1に付着したものを測定している。
【0049】
ドロマイトが現像部で感光ドラム1から現像ローラ31に転移し、現像剤収容室33に蓄積されることによる不具合について説明する。
【0050】
現像剤収容室33内で負極性に帯電されやすいトナーと正極性に帯電されやすいドロマイトが混在する場合、それぞれが摺擦すると帯電列の差が大きいため、通常の摩擦帯電よりもトナーの帯電量が大きくなってしまう。その結果、トナーを現像/転写するために必要な現像/転写電圧が大きくなってしまい、通常の現像/転写電圧では十分な現像/転写が行われず画像濃度が低下してしまう。
【0051】
そこで、本実施形態ではブラシ部材11の材料として負極性になりやすいPTFEを用い、感光ドラム1に転移したドロマイトを静電的に回収する構成となっている。一方で、ブラシ部材11の材料として正極性になりやすいナイロンを用いた比較例1やブラシ部材11を持たない比較例2の場合、感光ドラム1に転移したドロマイトを静電的に回収することができない。
【0052】
現像剤収容室33内におけるドロマイトの蓄積度合いを比較するため、JK-Ledger紙(JK PAPER LTD.製、商品名)を4000枚通紙した後の現像剤収容室33内に残留しているトナーを蛍光X線分析し、CaOのX線強度を比較した結果を表3に示す。なお、X線強度の測定は(株)リガク社製の波長分散型蛍光X線分析装置“Supermini200”を用いて行った。
【0053】
【表3】
【0054】
表3からわかるように、本実施形態では比較例に比べ現像剤収容室33内に残留しているトナーに含まれるCaOが大幅に少なくなっている、すなわち、ドロマイトが現像剤収容室33へ蓄積される量が減少している。その結果、トナーとドロマイトが混在することによる濃度低下を抑制することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の構成をとることで、クリーナーレス方式の画像形成装置においても紙粉、および、填料の影響を受けることなく良好な画像が出力可能となる。
【0056】
(変形例)
帯電部での安定した放電を目的として、帯電部に進入する前の感光ドラム1の表面電位を除電する手段としての前露光装置12(帯電前露光部)を設ける画像形成装置も多い。特に、本実施形態の画像形成装置のように転写残トナーを帯電し現像部で回収する構成の場合、前露光装置12により転写後の感光ドラム1を除電し、帯電時に均一な放電を生じさせることで転写残トナーを安定して負極性に帯電させることができる。その結果、十分に負極性に再帯電できないトナーがなくなり、現像部でより確実に転写残トナーを回収することが可能となる。
【0057】
このような構成の場合、図5に示したようにブラシ部材11は感光ドラム1表面の転写部の下流、かつ、前露光部の上流となる部分に当接させる。このような構成をとることで、先述した感光ドラム1の摺擦メモリが発生した場合でも前露光装置での除電により帯電ムラが均され、濃度ムラが発生しにくくなる。そのため、ブラシ部材11の侵入量を大きくすることができ、大きなサイズの紙粉すり抜けをより抑えることができる。
【0058】
表4に本実施形態の変形例におけるブラシ部材11の侵入量と大きなサイズの紙粉捕集性、および、摺擦メモリ発生状況の関係を示す。
【0059】
【表4】
【0060】
以上の結果を基に、本実施形態の変形例におけるブラシ部材11の侵入量は1.50mmに設定されている。しかしながら、ブラシ部材11の侵入量は、これに限られず、紙粉捕集性と摺擦メモリを両立できる0.75mm以上1.75mm以下の範囲であればよい。
【0061】
以上説明したような構成をとることで、より大きなサイズの紙粉による現像スジが少ない状態で紙粉捕集性と濃度ムラを両立することができる。
【0062】
(実施形態2)
本実施形態における画像形成装置の構成は実施形態1と同様であり説明を省略する。一般的なトナーの表面にはシリカが外添されている。シリカには負極性に帯電されやすい特性があり、シリカが帯電されることでトナー全体が帯電される。
【0063】
しかしながら、トナーが現像部などで繰り返し圧力を受けると表面のシリカが失われ、帯電性が低下する、すなわち、負極性に帯電されにくくなる。さらに、填料として負極性に帯電されやすいタルク(MgSi10(OH))が含まれる転写材を用いた場合、現像部で回収されたタルクとトナーが摺擦することで、極端にトナーは負極性に帯電しにくくなってしまう。その結果、非正規極性である正極性に帯電されたトナーの割合が著しく増えてしまい、そのトナーが現像部において非画像形成部に飛翔し、画像汚れとなってしまう。以下、トナーとタルクが摺擦することで発生する画像汚れをタルクかぶりと呼ぶ。なお、上述のタルクの帯電系列は、ドロマイトとは異なりトナーの正規極性と同じ極性である負極性となる。そして、タルクやドロマイト、ブラシ部材11を含めた帯電系列の順位は、(+) ドロマイト(紙粉) >( セルロース(紙粉) (一般的な紙粉
)>) 感光体表層 > 紙粉除去ブラシ > タルク(紙粉) (-)となる。
【0064】
実施形態1において、感光ドラム1の表面にブラシ部材11を設け、紙粉と正極性に帯電された填料を捕集する構成について説明した。この場合、負極性に帯電されたタルクはブラシ部材11に捕集されず、現像剤収容部33に回収されてしまいトナーと摺擦する。上記の説明からわかるように、実施形態1で説明した画像形成装置では、トナーが劣化した状態でタルクが含まれる転写材Sを用いた場合、タルクかぶりが発生しやすくなってしまう。
【0065】
本実施形態の目的は、タルクが含まれる転写材Sを用いた場合においてもトナーの帯電性低下を抑制し、タルクかぶりを抑制する画像形成装置を提供することにある。
【0066】
本実施形態では、帯電性の低下を抑止できるトナーについて説明する。具体的には、トナーとして結着樹脂及び着色剤を含有するトナー粒子を有し、最大荷重2.0×10-4[N]の条件で測定したときのマルテンス硬度(以下、当該マルテンス硬度と呼ぶ)が、200MPA以上1100MPA以下であるものを使用する。この改良トナーは耐摩耗性が高いため、現像部において繰り返し圧力を受けても表面の変化が抑えられ、タルクと摺擦しても非正規極性である正極性に帯電されたトナーの割合が増えることなくタルクかぶりの発生を抑えられる。
【0067】
以下、改良トナーについて詳細に説明する。
[マルテンス硬度について]
硬度とは、物体の表面又は表面近傍の機械的性質の一つであり、異物によって変形や傷を与えられようとするときの物体の変形しにくさや傷つきにくさであり、様々な測定方法や定義が存在する。例えば測定方法は測定領域の広さによって使い分けられ、測定領域が10μm以上の場合にはビッカース法、10μm以下の場合にはナノインデンテーション法、1μm以下の場合にはAFMなどと使い分けられることが多い。定義としては、例えば押し込み硬さとしてはブリネル硬度やビッカース硬度、引っ掻き硬さとしてはマルテンス硬度、反発硬さとしてはショア硬度などが使い分けられている。
【0068】
トナーの測定においては、一般的な粒径は3μm~10μmであるから、ナノインデンテーション法が好ましく用いられる測定方法である。発明者らの検討によると本発明の効果を発現するための硬度の規定として、引っ掻き硬さを表すマルテンス硬度が適当であった。これは、トナーが現像機内で金属や外添剤などの硬い物質に引っ掻かれることに対する強さを表し得るのが引っ掻き硬さであるためと考えている。
【0069】
ナノインデンテーション法にてトナーのマルテンス硬度を測定する方法は市販のISO14577-1に準拠した装置にて、ISO14577-1に規定された押込み試験の手順に従って、得られた荷重-変位曲線から算出することができる。本発明においては、前記ISO規格に準拠した装置として、超微小押し込み硬さ試験機「ENT-1100b」(株式会社エリオニクス製)を用いた。測定方法は、装置に付属の「ENT1100操作マニュアル」に記載されているが、具体的な測定方法は以下の通りである。
【0070】
測定環境は、付属の温度調節装置にてシールドケース内を30.0℃に保った。雰囲気温度を一定に保つことは熱膨張やドリフトなどによる測定データのバラつき低減に有効である。設定温度は、トナーが摩擦される現像機近辺の温度を想定した30.0℃の条件とした。試料台は装置に付属の標準試料台を用い、トナーを塗布した後にトナーが分散するように微弱なエアーを吹き付け、その試料台を装置にセットして1時間以上保持してから測定を行った。
【0071】
圧子には装置に付属の先端が20μm四方の平面である平圧子(チタン製圧子、先端はダイヤモンド製)を用いて測定した。トナーの様に小径かつ球形の物体、外添剤が付着している物体、表面に凹凸が存在する物体においては、尖った圧子を用いると測定精度に大きな影響を与えるため平圧子を用いる。試験の最大荷重は2.0×10-4Nに設定して行う。この試験荷重に設定することで、現像部においてトナー1粒が受けるストレスに相当する条件で、トナーの表層を破壊せずに硬度を測定することが可能である。本発明においては、耐摩擦性が重要であるから表層を破壊せずに維持したまま硬さを測ることが重要である。
【0072】
測定対象の粒子としては、装置付属の顕微鏡による測定用画面(視野サイズ:横幅160μm、縦幅120μm)にトナーが単独で存在しているものを選択する。ただし、変位量の誤差を極力無くすため、粒子径(D)が個数平均粒径(D1)の±0.5μmの範囲にあるもの(D1-0.5μm≦D≦D1+0.5μm)を選択する。なお、測定対象粒子の粒径測定は装置付属のソフトを用いてトナーの長径と短径を測定し、[(長径+短径)/2]をもって粒子径D(μm)とした。また、個数平均粒径は「コールター・カウンター Multisizer 3(ベックマン・コールター株式会社製)により後述する方法にて測定する。
【0073】
測定に際しては、粒子径D(μm)が上記条件を満たす任意のトナー100粒を選んで測定を行う。測定の際に入力する条件は以下の通りである。
試験モード :負荷-除荷試験
試験荷重 :20.000mgf(=2.0×10-4N)
分割数:1000step
ステップインターバル:10msec
【0074】
解析メニュー「データ解析(ISO)」を選択して測定を行うと、測定後に装置付属ソフトでマルテンス硬度が解析され、出力される。トナー100粒について上記測定を行って、その相加平均値を本発明におけるマルテンス硬度とした。
【0075】
[改良トナーの説明]
先述の通り本実施形態では、トナーとして結着樹脂及び着色剤を含有するトナー粒子を有し、当該マルテンス硬度が、200MPA以上1100MPA以下であるものを使用する。最大荷重2.0×10-4Nの条件で測定する時のマルテンス硬度を200MPA以上1100MPA以下に調整するための手段は特に限定されない。ただし、当該硬度は一般的なトナーに用いられている有機樹脂の硬さに比べて大幅に硬いため、硬度を上げるために通常行われている手段では達成が困難である。例えば、ガラス転移温度の高い樹脂設計にする手段、樹脂分子量を上げる手段、熱硬化する手段、表層にフィラーを添加する手段などでは達成が難しい。
【0076】
一般的なトナーに用いられている有機樹脂のマルテンス硬度は、最大荷重2.0×10-4Nの条件で測定すると50MPA~80MPA程度である。さらに樹脂設計や分子量を上げるなどして硬度を上げた場合でも120MPA以下程度である。さらに、磁性体やシリカといったフィラーを表層近傍に充填して熱硬化させた場合でも180MPA以下程度であり、本発明のトナーは一般的なトナーに比べて大幅に硬い。
【0077】
上記特定の硬度範囲に調整するための1つの手段として、例えば、適切な硬度を持つ無機物などの物質でトナーの表層を形成させ、更にその化学構造やマクロ構造を適切な硬度を持つ様に制御する方法が挙げられる。
【0078】
具体的な例示として、上記特定の硬度をとり得る物質としては有機ケイ素重合体が挙げられ、材料の選択として有機ケイ素重合体のケイ素原子に直接結合している炭素原子の数や炭素鎖長などによって硬度を調整することが可能である。トナー粒子が、有機ケイ素重合体を含有する表層を有し、該有機ケイ素重合体のケイ素原子に直接結合している炭素原子の数が、ケイ素原子1個当たり、平均1個以上3個以下であると、上記特定の硬度に調整しやすいため好ましい。また、好ましくは、有機ケイ素重合体のケイ素原子に直接結合している炭素原子の数は、ケイ素原子1個当たり、1個以上2個以下で、より好ましくは1個である。
【0079】
化学構造によりマルテンス硬度を調整する手段としては表層物質の架橋や重合度などの
化学構造の調整などにより可能である。マクロ構造によりマルテンス硬度を調整する手段としては、表層の凸凹形状や凸間を繋ぐネットワーク構造の調整などにより可能である。これらの調整は有機ケイ素重合体を表層として用いる場合には、有機ケイ素重合体を前処理する際のpH、濃度、温度、時間などで調整可能である。また、トナーのコア粒子に有機ケイ素重合体を表層付けするタイミングや形態、濃度、反応温度などによって調整可能である。
【0080】
本発明において特に好ましいのは以下の方法である。まず、結着樹脂及び着色剤を含むトナーのコア粒子を製造して水系媒体に分散し、コア粒子分散液を得る。この時の濃度はコア粒子分散液総量に対し、コア粒子の固形分が10質量%以上40質量%以下となる濃度で分散することが好ましい。そして、該コア粒子分散液の温度は35℃以上に調整しておくことが好ましい。また、該コア粒子分散液のpHは有機ケイ素化合物の縮合が進みにくいpHに調整することが好ましい。有機ケイ素重合体の縮合が進みにくいpHは物質によって異なるため、最も反応が進みにくいpHを中心として、±0.5以内が好ましい。一方、有機ケイ素化合物は加水分解処理を行ったものを用いることが好ましい。例えば、有機ケイ素化合物の前処理として別容器で加水分解しておく。加水分解の仕込み濃度は有機ケイ素化合物の量を100質量部とした場合、イオン交換水やRO水などイオン分を除去した水40質量部以上500質量部以下が好ましく、より好ましくは水100質量部以上400質量部以下である。加水分解の条件としては、好ましくはpHが2~7、温度が15~80℃、時間が30~600分である。
【0081】
得られた加水分解液とコア粒子分散液とを混合して縮合に適したpH(好ましくは6~12、又は1~3、より好ましくは8~12)に調整することで、有機ケイ素化合物を縮合させながらトナーのコア粒子表面に表層付けすることができる。縮合と表層付けは35℃以上で60分間以上行うことが好ましい。また、縮合に適したpHに調整する前に35℃以上で保持する時間を調整することで表面のマクロ構造を調整可能であるが、特定のマルテンス硬度を得やすくするため、3分以上120分以下が好ましい。
【0082】
図7は実施形態2におけるトナー粒子の断面図を示したものである。上記のような手段によって反応残基を減らすことができ、図7に示すように、表層40bに凹凸を形成させ、更に凸間にネットワーク構造を形成させることができるため、上記特定のマルテンス硬度のトナーを得られやすい。
【0083】
有機ケイ素重合体を含有する表層40bを用いる場合には、有機ケイ素重合体の固着率が90%以上100%以下であることが好ましい。より好ましくは、95%以上である。固着率がこの範囲であれば耐久使用を通じてのマルテンス硬度の変化が小さく、帯電を維持することができる。有機ケイ素重合体の固着率の測定方法は後述する。
【0084】
[表層について]
トナー粒子が表層を有する場合、表層40bとはトナーコア粒子40aを被覆してトナー粒子40の最表面に存在する層である。有機ケイ素重合体を含有する表層は従来のトナー粒子に比べてとても硬い。そのため、定着性の観点からトナー粒子表面の一部に表層が形成されていない部分を設けることも好ましい。
【0085】
ただし、有機ケイ素重合体を含有する表層の厚みが2.5nm以下である分割軸の数の割合(以下、表層の厚み2.5nm以下の割合ともいう)が、20.0%以下であることが好ましい。この条件は、トナー粒子の表面のうち少なくとも80.0%以上が、2.5nm以上の有機ケイ素重合体を含有する表層で構成されていることを近似している。すなわち、本条件を満たすと、有機ケイ素重合体を含有する表層が十分にコア表面を被覆することとなる。より好ましくは10.0%以下である。測定は透過型電子顕微鏡(TEM)
を用いた断面観察により規定できるが、詳細は後述する。
【0086】
[有機ケイ素重合体を含有する表層について]
トナー粒子が有機ケイ素重合体を含有する表層を有する場合、式(1)で表される部分構造を有することが好ましい。
R-SiO3/2 式(1)
(Rは炭素数1以上6以下の炭化水素基を示す。)
式(1)の構造を有する有機ケイ素重合体において、Si原子の4個の原子価のうち1個はRと、残り3個はO原子と結合している。O原子は、原子価2個がいずれもSiと結合している状態、つまり、シロキサン結合(Si-O-Si)を構成する。有機ケイ素重合体としてのSi原子とO原子を考えると、Si原子2個でO原子3個を有することになるため、-SiO3/2と表現される。この有機ケイ素重合体の-SiO3/2構造は、多数のシロキサン結合で構成されるシリカ(SiO)と類似の性質を有することが考えられる。従って、従来の有機樹脂により表層形成されたトナーに比べて無機物に近い構造のため、マルテンス硬度を高くすることが可能であると考えられる。
【0087】
さらに、トナー粒子のテトラヒドロフラン(THF)不溶分の29Si-NMRの測定で得られるチャートにおいて、有機ケイ素重合体の全ピーク面積に対する式(1)の構造に帰属されるピーク面積の割合が20%以上であることが好ましい。詳細な測定法は後述するが、これはトナー粒子に含まれる有機ケイ素重合体の中でR-SiO3/2で表される部分構造を、20%以上有していることを近似している。
【0088】
前述の通り、Si原子の4つの原子価のうち、3つが酸素原子と結合し、さらにそれら酸素原子が別のSi原子と結合することが、-SiO3/2の部分構造の意味である。もし、そのうち酸素1つがシラノール基であったとすると、その有機ケイ素重合体の部分構造はR-SiO2/2-OHで表現される。さらに、酸素2つがシラノール基であれば、その部分構造はR-SiO1/2(-OH)となる。これら構造を比較すると、より多くの酸素原子がSi原子と架橋構造を形成するほうが、SiOで表わされるシリカ構造に近い。そのため-SiO3/2骨格が多いほど、トナー粒子表面の表面自由エネルギーを低くすることができるため、環境安定性及び耐部材汚染に優れた効果がある。
【0089】
また、式(1)で表される部分構造による耐久性と、式(1)中のRの疎水性及び帯電性により、表層よりも内部に存在する、染み出しやすい低分子量(Mw1000以下の)樹脂、低Tg(40℃以下)の樹脂が抑えられる。さらに、場合によっては離型剤のブリードも抑えられる。式(1)で表される部分構造のピーク面積の割合は、有機ケイ素重合体形成に用いる有機ケイ素化合物の種類及び量、並びに、有機ケイ素重合体形成時の加水分解、付加重合及び縮合重合の反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。
【0090】
式(1)で表される部分構造において、Rは炭素数が1以上6以下の炭化水素基であることが好ましい。これにより帯電量が安定しやすい。特に環境安定性に優れている、炭素数が1以上5以下の脂肪族炭化水素基、又はフェニル基が好ましい。
【0091】
本発明において、上記Rは炭素数が1以上3以下の脂肪族炭化水素基であることが、帯電性及びカブリ防止のさらなる向上のためにより好ましい。帯電性が良好であると、転写性が良く転写残トナーが少ないためドラム、帯電部材及び転写部材の汚染が良化する。
【0092】
炭素数が1以上3以下の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、又はビニル基が好ましく例示できる。環境安定性と保存安定性の観点から、より好ましくは、Rはメチル基である。
【0093】
有機ケイ素重合体の製造例としては、ゾルゲル法が好ましい。ゾルゲル法は、液体原料を出発原料に用いて加水分解及び縮合重合させ、ゾル状態を経てゲル化する方法であり、ガラス、セラミックス、有機-無機ハイブリット、ナノコンポジットを合成する方法に用いられる。この製造方法を用いれば、表層、繊維、バルク体、微粒子などの種々の形状の機能性材料を液相から低温で作製することができる。
【0094】
トナー粒子の表層に存在する有機ケイ素重合体は、具体的には、アルコキシシランに代表されるケイ素化合物の加水分解及び縮重合によって生成されることが好ましい。この有機ケイ素重合体を含有する表層をトナー粒子に設けることによって、環境安定性が向上し、かつ、長期使用時におけるトナーの性能低下が生じにくく、保存安定性に優れたトナーを得ることができる。
【0095】
さらに、ゾルゲル法は、液体から出発し、その液体をゲル化することによって材料を形成しているため、様々な微細構造及び形状をつくることができる。特に、トナー粒子が水系媒体中で製造される場合には、有機ケイ素化合物のシラノール基のような親水基による親水性によってトナー粒子の表面に析出させやすくなる。上記微細構造及び形状は反応温度、反応時間、反応溶媒、pHや有機ケイ素化合物の種類及び量などによって調整することができる。
【0096】
トナー粒子の表層の有機ケイ素重合体は、下記式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物の縮重合物であることが好ましい。
【化1】
(式(Z)中、Rは、炭素数1以上6以下の炭化水素基を表し、R、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基を表す。)
【0097】
の炭化水素基(好ましくはアルキル基)により疎水性を向上することができ、環境安定性に優れたトナー粒子を得ることができる。また、炭化水素基として芳香族炭化水素基であるアリール基、例えばフェニル基を用いることもできる。Rの疎水性が大きい場合、様々な環境において帯電量変動が大きくなる傾向を示すことから、環境安定性を鑑みてRは炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。R、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基である(以下、反応基ともいう)。これらの反応基が加水分解、付加重合及び縮重合させて架橋構造を形成し、耐部材汚染及び現像耐久性に優れたトナーを得ることができる。加水分解性が室温で穏やかであり、トナー粒子の表面への析出性と被覆性の観点から、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基やエトキシ基であることがより好ましい。また、R、R及びRの加水分解、付加重合及び縮合重合は、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。本発明に用いられる有機ケイ素重合体を得るには、上記に示す式(Z)中のRを除く一分子中に3つの反応基(R、R及びR)を有する有機ケイ素化合物(以下、三官能性シランともいう)を1種又は複数種を組み合わせて用いるとよい。
【0098】
上記式(Z)で表される化合物としては以下のものが挙げられる。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシメトキシシラン、メチルエトキシジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルメトキシジクロロシラン、メチルエトキシジクロロシラン、メチルジメトキシクロロシラン、メチルメトキシエトキシクロロシラン、メチルジエトキシクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルジアセトキシメトキシシラン、メチルジアセトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジメトキシシラン、メチルアセトキシメトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジエトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルメトキシジヒドロキシシラン、メチルエトキシジヒドロキシシラン、メチルジメトキシヒドロキシシラン、メチルエトキシメトキシヒドロキシシラン、メチルジエトキシヒドロキシシラン、のような三官能性のメチルシラン。
【0099】
エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリアセトキシシラン、エチルトリヒドロキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリアセトキシシラン、プロピルトリヒドロキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリアセトキシシラン、ブチルトリヒドロキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、ヘキシルトリヒドロキシシランのような三官能性のシラン。
【0100】
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリアセトキシシラン、フェニルトリヒドロキシシランのような三官能性のフェニルシラン。
【0101】
また、本発明の効果を損なわない程度に、式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物とともに、以下を併用して得られた有機ケイ素重合体を用いてもよい。一分子中に4つの反応基を有する有機ケイ素化合物(四官能性シラン)、一分子中に2つの反応基を有する有機ケイ素化合物(二官能性シラン)又は1つの反応基を有する有機ケイ素化合物(一官能性シラン)。例えば以下のようなものが挙げられる。
【0102】
ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリイソシアネートシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメトキシシラン、ビニルエトキシジメトキシシラン、ビニルエトキシジヒドロキシシラン、ビニルジメトキシヒドロキシシラン、ビニルエトキシメトキシヒドロキシシラン、ビニルジエトキシヒドロキシシラン、のような三官能性のビニルシラン。
【0103】
さらに、トナー粒子中の有機ケイ素重合体の含有量は0.5質量%以上10.5質量%以下であることが好ましい。
【0104】
有機ケイ素重合体の含有量が0.5質量%以上であることで、表層の表面自由エネルギーを更に小さくすることができ、流動性が向上し、部材汚染やカブリの発生を抑制することができる。10.5質量%以下であることで、チャージアップを発生し難くすることができる。有機ケイ素重合体の含有量は有機ケイ素重合体形成に用いる有機ケイ素化合物の種類及び量、有機ケイ素重合体形成時のトナー粒子の製造方法、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。
【0105】
有機ケイ素重合体を含有する表層とトナーコア粒子は、隙間なく接していることが好ましい。これにより、トナー粒子の表層よりも内部の樹脂成分や離型剤等によるブリードの発生が抑えられ、保存安定性、環境安定性及び現像耐久性に優れたトナーを得ることができる。表層には上記の有機ケイ素重合体の他に、スチレン-アクリル系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂や各種添加剤などを含有させてもよい。
【0106】
[結着樹脂について]
トナー粒子は、結着樹脂を含有する。結着樹脂は特段限定されず、従来公知のものを用いることができる。ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂などが好ましい。ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂及びその他の結着樹脂として、以下の樹脂又は重合体が例示できる。
【0107】
ポリスチレン、ポリビニルトルエンのようなスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体のようなスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂。これら結着樹脂は単独又は混合して使用できる。
【0108】
結着樹脂がカルボキシ基を含有することが帯電性の観点で好ましく、カルボキシ基を含む重合性単量体を用いて製造された樹脂であることが好ましい。例えば、アクリル酸;メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸などのα-アルキル不飽和カルボン酸の誘導体あるいはβ-アルキル不飽和カルボン酸の誘導体;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;コハク酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、コハク酸モノアクリロイルオキシエチレンエステル、フタル酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノメタクリロイルオキシエチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステル誘導体など。
【0109】
ポリエステル樹脂としては、下記に挙げるカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させたものを用いることができる。カルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及び、トリメリット酸が挙げられる。アルコール成分としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、及び、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0110】
また、ポリエステル樹脂は、ウレア基を含有したポリエステル樹脂であってもよい。ポリエステル樹脂としては末端などのカルボキシル基はキャップしないことが好ましい。
高温時におけるトナーの粘度変化の改良を目的として結着樹脂が重合性官能基を有していてもよい。重合性官能基としては、ビニル基、イソシアナート基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0111】
[架橋剤]
結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、架橋剤を添加してもよい。
【0112】
例えば、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#200、#400、#600の各ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステル型ジアクリレート(MANDA 日本化薬)、及び以上のアクリレートをメタクリレートに変えたもの。
【0113】
架橋剤の添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量部以上15.000質量部以下であることが好ましい。
【0114】
[離型剤について]
トナー粒子は、離型剤を含有することが好ましい。トナー粒子に使用可能な離型剤としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスのような天然ワックス及びその誘導体、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸のような脂肪酸、あるいはその酸アミド、エステル、及びケトン、硬化ヒマシ油及びその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックス、シリコ-ン樹脂が挙げられる。なお、誘導体には酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。
【0115】
離型剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100.0質量部に対して5.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0116】
[着色剤について]
トナー粒子は、着色剤を含有する。着色剤は特段限定されず、例えば以下に示す公知のものを使用することができる。
【0117】
黒色顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、非磁性フェライト、マグネタイト、上記黄色系着色剤、赤色系着色剤及び青色系着色剤を用い黒色に調色されたものが挙げられる。これらの着色剤は、単独又は混合して、さらには固溶体の状態で用いることができる。
【0118】
またカラーの着色剤としては以下を例に挙げることができる。黄色顔料としては、黄色酸化鉄、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキなどの縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物が用いられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、155、168、180。
【0119】
橙色顔料としては以下のものが挙げられる。
パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジRK、インダスレンブリリアントオレンジGK。
【0120】
赤色顔料としては、ベンガラ、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、ブリラントカーミン3B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキなどの縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が挙げられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254。
【0121】
青色顔料としては、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBGなどの銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が挙げられる。具体的には以下のものが挙げられる。
C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66。
【0122】
紫色顔料としては、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキが挙げられる。
【0123】
緑色顔料としては、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンGが挙げられる。白色顔料としては、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛が挙げられる。
【0124】
必要により、重合阻害性のない物質により着色剤の表面処理を施してもよい。なお、着色剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100.0質量部に対して3.0質量部以上15.0質量部以下であることが好ましい。
【0125】
[トナー粒子の製造方法について]
トナー粒子の製造方法は公知の手段を用いることができ、混練粉砕法や湿式製造法を用いることができる。粒子径の均一化や形状制御性の観点からは湿式製造法を好ましく用いることができる。さらに、湿式製造法には懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化重合凝集法、乳化凝集法などを挙げることができる。
【0126】
ここでは懸濁重合法について説明する。まず、結着樹脂を生成するための重合性単量体、着色剤及び必要に応じてその他の添加剤をボールミル、超音波分散機のような分散機を用いてこれらを均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を調製する。(重合性単量体組成物の調製工程)このとき、必要に応じて多官能性単量体や連鎖移動剤、また、離型剤としてのワックスや荷電制御剤、可塑剤などを適宜加えることができる。懸濁重合法に
おける重合性単量体として、以下に示すビニル系重合性単量体が好適に例示できる。
【0127】
スチレン;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレンのようなスチレン誘導体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、iso-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-アミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルフォスフェートエチルアクリレート、ジエチルフォスフェートエチルアクリレート、ジブチルフォスフェートエチルアクリレート、2-ベンゾイルオキシエチルアクリレートのようなアクリル系重合性単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、ジエチルフォスフェートエチルメタクリレート、ジブチルフォスフェートエチルメタクリレートのようなメタクリル系重合性単量体;メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル、蟻酸ビニルのようなビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトン。
【0128】
次に、上記重合性単量体組成物を予め用意しておいた水系媒体中に投入し、高せん断力を有する撹拌機や分散機により、重合性単量体組成物からなる液滴を所望のトナー粒子のサイズに形成する(造粒工程)。
【0129】
造粒工程における水系媒体は分散安定剤を含有していることが、トナー粒子の粒径制御、粒度分布のシャープ化、製造過程におけるトナー粒子の合一を抑制するために好ましい。分散安定剤としては、一般的に立体障害による反発力を発現させる高分子と、静電気的な反発力で分散安定化を図る難水溶性無機化合物とに大別される。難水溶性無機化合物の微粒子は、酸やアルカリにより溶解するため、重合後に酸やアルカリで洗浄することにより溶解させて容易に除去することができるため、好適に用いられる。
【0130】
難水溶性無機化合物の分散安定剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、リンのいずれかが含まれているものが好ましく用いられる。より好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、リンのいずれかが含まれていることが望まれる。具体的には、以下のものが挙げられる。
【0131】
リン酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ヒドロキシアパタイド。上記分散安定剤に有機系化合物、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプンを併用しても構わない。これら分散安定剤は、重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部以上2.00質量部以下使用することが好ましい。
【0132】
さらに、これら分散安定剤の微細化のため、重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部以上0.1質量部以下の界面活性剤を併用してもよい。具体的には市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤が利用できる。例えばドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウムが好ましく用いられる。
【0133】
造粒工程の後、あるいは造粒工程を行いながら、好ましくは50℃以上90℃以下の温度に設定して、重合性単量体組成物に含まれる重合性単量体の重合を行い、トナー粒子分散液を得る(重合工程)。
【0134】
重合工程では容器内の温度分布が均一になる様に撹拌操作を行うことが好ましい。重合開始剤を添加する場合、任意のタイミングと所要時間で行うことができる。また、所望の分子量分布を得る目的で重合反応後半に昇温してもよく、さらに、未反応の重合性単量体、副生成物などを系外に除去するために反応後半、または反応終了後に、一部水系媒体を蒸留操作により留去してもよい。蒸留操作は常圧又は減圧下で行うことができる。
【0135】
懸濁重合法において使用する重合開始剤としては、一般的に油溶性開始剤が用いられる。例えば、以下のものが挙げられる。
【0136】
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリルのようなアゾ化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、プロピオニルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシピバレート、クメンヒドロパーオキサイドのようなパーオキサイド系開始剤。
【0137】
重合開始剤は必要に応じて水溶性開始剤を併用してもよく、以下のものが挙げられる。過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチロアミジン)塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩酸塩、アゾビス(イソブチルアミジン)塩酸塩、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルスルホン酸ナトリウム、硫酸第一鉄又は過酸化水素。
【0138】
これらの重合開始剤は単独又は複数を併用して使用でき、重合性単量体の重合度を制御するために、連鎖移動剤、重合禁止剤等をさらに添加し用いることも可能である。
【0139】
トナー粒子の粒径は、高精細かつ高解像の画像を得るという観点から重量平均粒径が3.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。トナーの重量平均粒径は細孔電気抵抗法により測定することができる。例えば「コールター・カウンター Multisizer3」(ベックマン・コールター(株)製)を用いて測定することができる。こうして得られたトナー粒子分散液は、トナー粒子と水系媒体を固液分離する濾過工程へと送られる。
【0140】
得られたトナー粒子分散液からトナー粒子を得るための固液分離は、一般的な濾過方法で行うことができ、その後トナー粒子表面から除去しきれなかった異物を除去するため、
リスラリーや洗浄水のかけ洗いなどによって更に洗浄を行うことが好ましい。十分な洗浄が行なわれた後に、再び固液分離してトナーケーキを得る。その後、公知の乾燥手段により乾燥され、必要であれば分級により所定外の粒径を有する粒子群を分離してトナー粒子を得る。このとき分離された所定外の粒径を有する粒子群は最終的な収率を向上させるために再利用してもよい。
【0141】
有機ケイ素重合体を有する表層を形成する場合は、水系媒体中でトナー粒子を形成する場合には水系媒体中で重合工程などを行いながら前述のように有機ケイ素化合物の加水分解液を添加して該表層を形成させることができる。重合後のトナー粒子の分散液をコア粒子分散液として用いて、有機ケイ素化合物の加水分解液を添加し、該表層を形成させてもよい。また、混練粉砕法など水系媒体以外の場合には得られたトナー粒子を水系媒体に分散してコア粒子分散液として用いて、前述のように有機ケイ素化合物の加水分解液を添加し、該表層を形成させることができる。
【0142】
[トナーの物性の測定方法]
<NMR測定用のトナー粒子のTHF不溶分の分離法>
トナー粒子のテトラヒドロフラン(THF)不溶分は、以下のようにして得ることができる。トナー粒子10.0gを秤量し、円筒濾紙(東洋濾紙製No.86R)に入れてソックスレー抽出器にかける。溶媒としてTHF200mLを用いて20時間抽出し、円筒濾紙中の濾物を40℃で数時間真空乾燥を行って得られたものをNMR測定用のトナー粒子のTHF不溶分とする。
【0143】
なお、外添剤などでトナー粒子の表面が処理されている場合は、下記方法によって外添剤を除去し、トナー粒子を得る。イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させ、ショ糖濃厚液を調製する。遠心分離用チューブ(容量50mL)に上記ショ糖濃厚液を31gと、コンタミノンN(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を6mL入れる。それによって分散液を作製する。この分散液にトナー1.0gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐす。
【0144】
遠心分離用チューブをシェイカーにて350spm(strokes per min)、20分間振とうする。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(容量50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R 株式会社コクサン製)にて3500rpm、30分間の条件で分離する。この操作により、トナー粒子と外れた外添剤が分離する。トナーと水溶液が十分に分離されていることを目視で確認し、最上層に分離したトナーをスパチュラ等で採取する。採取したトナーを減圧濾過器で濾過した後、乾燥機で1時間以上乾燥し、トナー粒子を得る。この操作を複数回実施して、必要量を確保する。
【0145】
<式(1)で表される部分構造の確認方法>
トナー粒子に含有される有機ケイ素重合体における、式(1)で表される部分構造の確認には以下の方法を用いる。
式(1)のRで表される炭化水素基は、13C-NMRにより確認する。(13C-NMR(固体)の測定条件)
装置:JEOL RESONANCE製 JNM-ECX500II
試料管:3.2mmφ
試料:NMR測定用のトナー粒子のテトラヒドロフラン不溶分 150mg
測定温度:室温
パルスモード:CP/MAS
測定核周波数:123.25MHz(13C)
基準物質:アダマンタン(外部標準:29.5ppm)
試料回転数:20kHz
コンタクト時間:2ms
遅延時間:2s
積算回数:1024回
【0146】
当該方法にて、ケイ素原子に結合しているメチル基(Si-CH)、エチル基(Si-C)、プロピル基(Si-C)、ブチル基(Si-C)、ペンチル基(Si-C11)、ヘキシル基(Si-C13)またはフェニル基(Si-C)などに起因するシグナルの有無により、式(1)のRで表される炭化水素基を確認する。
【0147】
<トナー粒子に含有される有機ケイ素重合体における、式(1)の構造に帰属されるピーク面積の割合の算出方法>
トナー粒子のTHF不溶分の29Si-NMR(固体)測定を、以下の測定条件で行う。(29Si-NMR(固体)の測定条件)
装置:JEOL RESONANCE製 JNM-ECX500II
試料管:3.2mmφ
試料:NMR測定用のトナー粒子のテトラヒドロフラン不溶分 150mg
測定温度:室温
パルスモード:CP/MAS
測定核周波数:97.38MHz(29Si)
基準物質:DSS(外部標準:1.534ppm)
試料回転数:10kHz
コンタクト時間:10ms
遅延時間:2s
積算回数:2000~8000回
【0148】
上記測定後に、トナー粒子のテトラヒドロフラン不溶分の、置換基及び結合基の異なる複数のシラン成分をカーブフィティングにて下記X1構造、X2構造、X3構造、及びX4構造にピーク分離して、それぞれピーク面積を算出する。
X1構造:(Ri)(Rj)(Rk)SiO1/2 式(2)
X2構造:(Rg)(Rh)Si(O1/2 式(3)
X3構造:RmSi(O1/2 式(4)
X4構造:Si(O1/2 式(5)
【化2】
(式(2)、(3)及び(4)中のRi、Rj、Rk、Rg、Rh、Rmはケイ素に結合している、炭素数1~6の炭化水素基などの有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基又はアルコキシ基を示す。)
【0149】
本発明においては、トナー粒子のTHF不溶分の29Si-NMRの測定で得られるチャートにおいて、前記有機ケイ素重合体の全ピーク面積に対する式(1)の構造に帰属さ
れるピーク面積の割合が20%以上であることが好ましい。なお、上記式(1)で表される部分構造をさらに詳細に確認する必要がある場合、上記13C-NMR及び29Si-NMRの測定結果と共にH-NMRの測定結果によって同定してもよい。
【0150】
<透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたトナー粒子の断面観察によって測定される、有機ケイ素重合体を含有する表層の厚みが2.5nm以下の割合の測定方法>
【0151】
本発明において、トナー粒子の断面観察は以下の方法により行う。トナー粒子の断面を観察する具体的な方法としては、常温硬化性のエポキシ樹脂中にトナー粒子を十分分散させた後、40℃の雰囲気下で2日間硬化させる。得られた硬化物からダイヤモンド刃を備えたミクロトームを用い薄片状のサンプルを切り出す。このサンプルを透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM-2800)(TEM)で1万~10万倍の倍率に拡大し、トナー粒子の断面を観察する。
【0152】
結着樹脂と表層材料の原子量の違いを利用し、原子量が大きいとコントラストが明るくなることを利用して確認を行うことができる。材料間のコントラストを付けるためには四酸化ルテニウム染色法及び四酸化オスミウム染色法を用いる。
【0153】
当該測定に用いた粒子は、上記TEMの顕微鏡写真より得られたトナー粒子の断面から円相当径Dtemを求め、その値が後述の方法により求めたトナー粒子の重量平均粒径D4の±10%の幅に含まれるものとする。
【0154】
上述のように、JEOL製JEM-2800を用い、加速電圧200kVでトナー粒子断面の暗視野像を取得する。次にGAtAn社製EELS検出器GIF QuAntAmを用い、Three Window法によりマッピング像を取得して表層を確認する。
【0155】
次いで、円相当径Dtemがトナー粒子の重量平均粒径D4の±10%の幅に含まれるトナー粒子1個について、トナー粒子断面の長軸Lと、長軸Lの中心を通りかつ垂直な軸L90の交点を中心にして、トナー粒子断面を均等に16分割する。次に、該中心からトナー粒子の表層へ向かう分割軸をそれぞれAn(n=1~32)、分割軸の長さをRAn、表層の厚みをFRAnとする。
【0156】
そして、32本存在する各分割軸上における有機ケイ素重合体を含有する表層の厚みが2.5nm以下である分割軸の数の割合を求める。平均化するため、トナー粒子10個の測定を行い、トナー粒子1個あたりの平均値を計算する。
【0157】
[透過型電子顕微鏡(TEM)写真より得られたトナー粒子の断面から求めた円相当径(Dtem)]
TEM写真より得られたトナー粒子の断面から求めた円相当径(Dtem)は以下の方法で求める。まず、1つのトナー粒子に対して、TEM写真より得られるトナー粒子の断面から求めた円相当径Dtemを下記式に従って求める。
【0158】
[TEM写真より得られたトナー粒子の断面から求めた円相当径(Dtem)]=(RA1+RA2+RA3+RA4+RA5+RA6+RA7+RA8+RA9+RA10+RA11+RA12+RA13+RA14+RA15+RA16+RA17+RA18+RA19+RA20+RA21+RA22+RA23+RA24+RA25+RA26+RA27+RA28+RA29+RA30+RA31+RA32)/16
トナー粒子10個の円相当径を求め、粒子1個あたりの平均値を計算してトナー粒子の断面から求めた円相当径(Dtem)とする。
【0159】
[有機ケイ素重合体を含有する表層の厚み2.5nm以下の割合]
[有機ケイ素重合体を含有する表層の厚み(FRAn)が2.5nm以下である割合]=〔{有機ケイ素重合体を含有する表層の厚み(FRAn)が2.5nm以下である分割軸の数}/32〕×100
【0160】
この計算をトナー粒子10個に対して行い、得られた10個の表層の厚み(FRAn)が2.5nm以下である割合の平均値を求め、トナー粒子の表層の厚み(FRAn)が2.5nm以下である割合とした。
【0161】
<トナー粒子中の有機ケイ素重合体の含有量の測定>
有機ケイ素重合体の含有量の測定は、波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(Panalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQ ver.4.0F」(Panalytical社製)を用いる。なお、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は27mm、測定時間10秒とする。また、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ(PC)、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタ(SC)で検出する。
【0162】
測定サンプルとしては、専用のプレス用アルミリングの中にトナー粒子4gを入れて平らにならし、錠剤成型圧縮機「BRE-32」(前川試験機製作所社製)を用いて、20MPAで、60秒間加圧し、厚さ2mm、直径39mmに成型したペレットを用いる。
有機ケイ素重合体を含まないトナー粒子100質量部に対して、シリカ(SiO)微粉末を0.5質量部添加し、コーヒーミルを用いて充分に混合する。同様にして、トナー粒子100質量部に対して、シリカ微粉末を5.0質量部、10.0質量部それぞれ混合し、これらを検量線用の試料とする。
【0163】
それぞれの試料について、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにして検量線用の試料のペレットを作製し、PETを分光結晶に用いた際に回折角(2θ)=109.08°に観測されるSi-Kα線の計数率(単位:cps)を測定する。この際、X線発生装置の加速電圧、電流値はそれぞれ、24kV、100mAとする。得られたX線の計数率を縦軸に、各検量線用試料中のSiO添加量を横軸として、一次関数の検量線を得る。次に、分析対象のトナー粒子を、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにしてペレットとし、そのSi-Kα線の計数率を測定する。そして、上記の検量線からトナー粒子中の有機ケイ素重合体含有量を求める。
【0164】
<有機ケイ素重合体の固着率の測定方法>
イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させ、ショ糖濃厚液を調製する。遠心分離用チューブ(容量50mL)に上記ショ糖濃厚液を31gと、コンタミノンN(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を6mL入れる。それによって分散液を作製する。この分散液にトナー1.0gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐす。
【0165】
遠心分離用チューブをシェイカーにて350spm(strokes per min)、20分間振とうする。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(容量50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R 株式会社コクサン製)にて3500rpm、30分間の条件で分離する。トナーと水溶液が十分に分離されていることを目視で確認し、最上層に分離したトナーをスパチュラ等で採取する。採取したトナーを含む水溶液を減圧濾過器で濾過した後、乾燥機で1時間以上乾燥する。乾燥品をスパチュラで解砕し、蛍光X線でケイ素の量を測定する。水洗後のトナーと初期のトナーの測定対象の元素量
比から固着率(%)を計算する。
【0166】
各元素の蛍光X線の測定は、JIS K 0119-1969に準ずるが、具体的には以下の通りである。測定装置としては、波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(Panalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQver.4.0F」(Panalytical社製)を用いる。なお、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は10mm、測定時間10秒とする。また、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ(PC)、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタ(SC)で検出する。
【0167】
測定サンプルとしては、専用のプレス用アルミリング直径10mmの中に水洗後のトナーと初期のトナーを約1g入れて平らにならし、錠剤成型圧縮機を用いて、20MPAで60秒間加圧し、厚さ約2mmに成型したペレットを用いる。錠剤成型圧縮機としては「BRE-32」(前川試験機製作所社製)を用いる。
【0168】
上記条件で測定を行い、得られたX線のピーク位置をもとに元素を同定し、単位時間あたりのX線光子の数である計数率(単位:cps)からその濃度を算出する。トナー中の定量方法としては、例えばケイ素量はトナー粒子100質量部に対して、例えば、シリカ(SiO)微粉末を0.5質量部添加し、コーヒーミルを用いて充分混合する。同様にして、シリカ微粉末を2.0質量部、5.0質量部となるようにトナー粒子とそれぞれ混合し、これらを検量線用の試料とする。
【0169】
それぞれの試料について、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにして検量線用の試料のペレットを作製し、PETを分光結晶に用いた際に回折角(2θ)=109.08°に観測されるSi-Kα線の計数率(単位:cps)を測定する。この際、X線発生装置の加速電圧、電流値はそれぞれ、24kV、100mAとする。得られたX線の計数率を縦軸に、各検量線用試料中のSiO添加量を横軸として、一次関数の検量線を得る。次に、分析対象のトナーを、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにしてペレットとし、そのSi-Kα線の計数率を測定する。そして、上記の検量線からトナー中の有機ケイ素重合体の含有量を求める。上記方法により算出した初期のトナーの元素量に対して、水洗後のトナーの元素量の比率を求め固着率(%)とした。
【0170】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例中及び比較例中の各材料の「部」及び「%」は特に断りがない場合、全て質量基準である。
【0171】
[詳細な実施例1]
<水系媒体1の調製工程>
反応容器中のイオン交換水1000.0部に、リン酸ナトリウム(12水和物)(ラサ工業社製)14.0部を投入し、窒素パージしながら65℃で1.0時間保温した。
【0172】
T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、12000rpmにて撹拌しながら、イオン交換水10.0部に9.2部の塩化カルシウム(2水和物)を溶解した塩化カルシウム水溶液を一括投入し、分散安定剤を含む水系媒体を調製した。さらに、水系媒体に10質量%塩酸を投入し、pHを5.0に調整し、水系媒体1を得た。
【0173】
<表層用有機ケイ素化合物の加水分解工程>
撹拌機、温度計を備えた反応容器に、イオン交換水60.0部を秤量し、10質量%の塩酸を用いてpHを3.0に調整した。これを撹拌しながら加熱し、温度を70℃にした
。その後、表層用有機ケイ素化合物であるメチルトリエトキシシラン40.0部を添加して2時間以上撹拌して加水分解を行った。加水分解の終点は目視にて油水が分離せず1層になったことで確認を行い、冷却して表層用有機ケイ素化合物の加水分解液を得た。
【0174】
<重合性単量体組成物の調製工程>
・スチレン:50.0部
・カーボンブラック(Nipex35[Orion Engineered CArbon社製]):7.0部
【0175】
前記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5.0時間分散させて、顔料分散液を調製した。前記顔料分散液に下記材料を加えた。
・スチレン:20.0部
・n-ブチルアクリレート:30.0部
・架橋剤(ジビニルベンゼン):0.3部
・飽和ポリエステル樹脂:5.0部
(プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)とテレフタル酸との重縮合物(モル比10:12)、ガラス転移温度Tg=68℃、重量平均分子量Mw=10000、分子量分布Mw/Mn=5.12)
・フィッシャートロプシュワックス(融点78℃):7.0部
これを65℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmにて均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0176】
<造粒工程>
水系媒体1の温度を70℃、T.K.ホモミクサーの回転数を12000rpmに保ちながら、水系媒体1中に重合性単量体組成物を投入し、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート9.0部を添加した。そのまま該撹拌装置にて12000rpmを維持しつつ10分間造粒した。
【0177】
<重合工程>
造粒工程の後、撹拌機をプロペラ撹拌羽根に換え150rpmで撹拌しながら70℃を保持して5.0時間重合を行い、85℃に昇温して2.0時間加熱することで重合反応を行ってコア粒子を得た。コア粒子を含むスラリーの温度を55℃に冷却してpHを測定したところ、pH=5.0だった。55℃で撹拌を継続したまま、表層用有機ケイ素化合物の加水分解液を20.0部添加してトナーの表層形成を開始した。そのまま30分保持した後に、水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーを縮合完結用にpH=9.0に調整して更に300分保持し、表層を形成させた。
【0178】
<洗浄、乾燥工程>
重合工程終了後、トナー粒子のスラリーを冷却し、トナー粒子のスラリーに塩酸を加えpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離した。リスラリーと固液分離とを、ろ液の電気伝導度が5.0μS/cm以下となるまで繰り返した後に、最終的に固液分離してトナーケーキを得た。
【0179】
得られたトナーケーキは気流乾燥機フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業製)にて乾燥を行い、更にコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて微粗粉をカットしてトナー粒子1を得た。乾燥の条件は吹き込み温度90℃、乾燥機出口温度40℃、トナーケーキの供給速度はトナーケーキの含水率に応じて出口温度が40℃から外れない速度に調整した。
【0180】
トナー粒子1の断面TEM観察においてケイ素マッピングを行い、表層にケイ素原子が存在すること、有機ケイ素重合体を含有するトナー粒子の表層の厚みが2.5nm以下である分割軸の数の割合が、20.0%以下であることを確認した。以降の実施例においても、有機ケイ素重合体を含有する表層は同様のケイ素マッピングで表層にケイ素原子が存在すること、表層の厚み2.5nm以下である分割軸の数の割合が20.0%以下であることを確認した。本実施例においては、得られたトナー粒子1を外添せずにそのままトナー1として用いた。
【0181】
トナー1について行った評価について、その方法を以下に述べる。
<マルテンス硬度の測定>
先述した方法により測定を行った。
【0182】
<固着率の測定方法>
先述した方法により測定を行った。
【0183】
<プリントアウト評価>
市販のキヤノン製レーザビームプリンタLBP7600Cの改造機を用いた。改造点は、評価機本体及びソフトウェアを変更することにより、現像ローラ31の回転速度を1.8倍の周速で回転するように設定した。具体的には、改造前の現像ローラ31の回転速度は周速200mm/secであるのを、改造後の回転速度は360mm/secとした。
【0184】
LBP7600Cのトナーカートリッジに、トナー40gを装填した。そして、そのトナーカートリッジを常温常湿NN(25℃/50%RH)の環境下で24時間放置した。当該環境下で24時間放置後のトナーカートリッジを上記LBP7600Cに取り付けた。
【0185】
帯電立ち上がり、現像ローラSi量、転写性及び再転写性の評価においては、NN環境で、1.0%の印字率画像をA4用紙横方向で4,000枚までプリントアウトした後に評価を行った。帯電立ち上がりの評価は初期にも行った。
【0186】
更に、一連の評価が終わった後、常温常湿NN(25℃/50%RH)の環境下で24時間放置したトナーをトナーカートリッジに40g補給し、LBP7600Cの改造機に取り付け、NN環境で補給後の評価を行った。評価項目は、帯電立ち上がり、転写性及び再転写性とした。
【0187】
<現像スジの評価>
LETTERサイズのXerox Vitality Multipurpose Printer Paper用紙(XEROX社製、75g/m)にハーフトーン(トナーの載り量:0.2mg/cm)の画像をプリントアウトし、現像スジの評価をした。評価基準を以下のように設定し、C以上を良好と判断した。
【0188】
(評価基準)
A:現像ローラ31上にも、画像上にも排紙方向の縦スジは見られない。
B:現像ローラ31の両端に周方向の細いスジが5本以下見られる。または画像上に排紙方向の縦スジがほんの少し見られる。
C:現像ローラ31の両端に周方向の細いスジが6本以上20本以下見られる。または画像上に細かいスジが5本以下見られる。
D:現像ローラ31上に21本以上のスジが見られる。または、画像上に1本以上の顕著なスジ、あるいは6本以上の細かいスジが見られる。
【0189】
<ゴーストの評価>
3cm幅のベタ画像縦ラインとベタ白縦ラインの繰り返しで構成される画像を連続10枚印字させてから、ハーフトーン画像を一枚印字させ、画像上に残る前画像の履歴を目視で判断した。なお、ハーフトーン画像の画像濃度はマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルタを使用して、反射濃度測定を行い反射濃度0.4になるように調整した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:ゴースト発生なし。
B:目視で一部に軽微な前画像の履歴が確認できる。
C:目視で一部に前画像の履歴が確認できる。
D:目視で全体的に前画像の履歴が確認できる。
【0190】
<クリーニング性の評価>
トナーの載り量が0.2mg/cmであるハーフトーン画像を5枚印刷し、評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:クリーニング不良画像なし、帯電ローラ2の汚れもなし。
B:クリーニング不良画像なし、帯電ローラ2の汚れあり。
C:ハーフトーン画像上にクリーニング不良が少し確認できる。
D:ハーフトーン画像上にクリーニング不良が目立つ。
【0191】
<帯電立ち上がりの評価>
ベタ画像を10枚出力する。10枚目の出力中に強制的にマシンを停止して、現像ブレード34を通過した直後の現像ローラ31上のトナー帯電量を測定する。現像ローラ31上の帯電量の測定は、図6の透視図に示すファラデーケージ13を用いて行った。内部(図の右側)を減圧状態にして現像ローラ31上のトナーが吸い込まれるようにし、トナーフィルター133を設けてトナーを捕集した。なお、131は吸引部であり、132はホルダーである。この捕集したトナーの質量Mとクーロンメーターにて直接測定した電荷Qより、単位質量当たりの電荷量Q/M(μC/g)を計算し、トナー帯電量(Q/M)として、以下の通りランク付けした。
A:-40μC/g 未満
B:-40μC/g 以上-30μC/g 未満
C:-30μC/g 以上-20μC/g 未満
D:-20μC/g 以上
【0192】
[詳細な実施例2~実施例12]
“重合工程”における加水分解液を添加するときの条件、及び添加後の保持時間を表5のように変えた以外は、実施例1と同様の方法でトナーを作製した。なお、スラリーのpH調整は塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液で行った。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0193】
[詳細な実施例13~実施例18]
“表層用有機ケイ素化合物の加水分解工程”において用いる表層用有機ケイ素化合物を表5のように変えた以外は、実施例1と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0194】
[詳細な実施例19~実施例23]
“重合工程”における加水分解液を添加する時の条件を表5のように変えた以外は、実施例1と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評
価を行った。評価結果を表6に示す。
【0195】
[比較例1、比較例2]
“重合工程”における加水分解液を添加する時の条件、及び添加後の保持時間を表5のように変えた以外は、実施例1と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0196】
[比較例3]
“表層用有機ケイ素化合物の加水分解工程”は行わなかった。代わりに、表層用有機ケイ素化合物のメチルトリエトキシシラン8部をモノマーのまま“重合性単量体組成物の調製工程”で添加した。
【0197】
“重合工程”では70℃に冷却してpH測定を行った後、加水分解液の添加を行わなかった。70℃で撹拌を継続したまま、水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーを縮合完結用にpH=9.0に調整して更に300分保持して表層を形成させた。それ以外は実施例1と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0198】
[比較例4]
比較例3において、“重合性単量体組成物の調製工程”で添加するメチルトリエトキシシランを15部に変えた。それ以外は比較例3と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0199】
[比較例5]
比較例3において、“重合性単量体組成物の調製工程”で添加するメチルトリエトキシシランを30部に変えた。それ以外は比較例3と同様の方法でトナーを作製した。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0200】
[比較例6]
<結着樹脂1の製造例>
・テレフタル酸 25.0mol%
・アジピン酸 13.0mol%
・トリメリット酸 8.0mol%
・プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2.5mol付加物) 33.0mol%
・エチレンオキサイド変性ビスフェノールA(2.5mol付加物) 21.0mol%
上記に示す酸成分及びアルコール成分の合計100部と、エステル化触媒として2-エチルヘキサン酸錫0.02部を4口フラスコに仕込む。そして、減圧装置、水分離装置、窒素ガス導入装置、温度測定装置及び撹拌装置を装着し、窒素雰囲気下にて230℃に昇温して反応を行った。反応終了後、生成物を容器から取り出し、冷却、粉砕し、結着樹脂1を得た。
【0201】
<結着樹脂2の製造例>
モノマー組成比及び反応温度を以下の通り変更した以外は、結着樹脂1と同様の方法で、結着樹脂2を作製した。
・テレフタル酸 50.0mol%
・トリメリット酸 3.0mol%
・プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2.5mol付加物) 47.0mol%
・反応温度 190℃
【0202】
<比較用トナー6の製造例>
結着樹脂1:70.0部
結着樹脂2:30.0部
磁性酸化鉄粒子:90.0部
(個数平均粒径0.14μm、Hc = 11.5kA/m 、σs=84.0Am/kg、σr=16.0Am/kg)
フィッシャートロプシュワックス(融点105℃):2.0部
荷電制御剤1(下記構造式):2.0部
【0203】
荷電制御剤1
【化3】
式中、tBuはtertブチル基を示す。
【0204】
上記材料をヘンシェルミキサーで前混合した後、ニーディング部を3か所、及びスクリュー部を有する二軸混練押し出し機によって、溶融混練した。この時、供給口に近い第1ニーディング部の加熱温度を110℃、第2ニーディング部の加熱温度を130℃、第3ニーディング部の加熱温度を150℃、パドルの回転数を200rpmで溶融混練した得られた混練物を冷却する。そして、ハンマーミルで粗粉砕した後、ジェット気流を用いた微粉砕機で粉砕し、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて得られた微粉砕粉末を分級し、重量平均粒径7.0μmのトナー粒子を得た。
【0205】
トナー粒子100部に対し、疎水性シリカ微粉末(BET140m/g 、シランカップリング処理及びシリコーンオイル処理、疎水化度78%)1.0部、及びチタン酸ストロンチウム(D50;1.2μm)3.0部を外添混合する。そして、目開き150μmのメッシュで篩い、比較用トナー6を得た。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0206】
[比較例7]
特開2015-45860号公報の実施例に記載の磁性トナー粒子1を作製した。バインダー中に磁性体がフィラーとして存在し、表面が熱処理されている物である。得られたトナーに対して、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0207】
【表5】
【0208】
【表6】
【0209】
[トナーの効果]
以上、表で示される通り、マルテンス硬度を200[MPA]以上1100[MPA]以下に調整することにより、従来のトナーよりも現像部におけるトナーの耐摩耗性が大幅に向上し、印字によるトナーの電荷量の変化を従来に比べ抑制できた。また、タルクとトナーが摺擦することで発生するタルクかぶりも従来に比べ抑制できた。さらに、マルテンス硬度が200[MPA]よりも低い場合には本発明の効果が満足に得られないことも表より読み取れる。
【0210】
[外添剤]
上記トナー粒子は、外添せずにトナーとすることもできるが、さらに、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、いわゆる外添剤である流動化剤、クリーニング助剤などを添加してトナーとしてもよい。
【0211】
外添剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子などが挙げられる。あるいは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0212】
これらの種々の外添剤の添加量は、その合計が、トナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以
下である。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0213】
トナーは、トナー粒子の表面にポジ帯電粒子を有することが好ましい。ポジ帯電粒子の個数平均粒径は、0.10μm以上1.00μm以下が好ましい。より好ましくは0.20μm以上0.80μm以下である。
【0214】
この様なポジ帯電粒子を有すると、耐久使用を通して転写効率が良好である事が明らかとなった。当該粒径のポジ帯電粒子であることで、トナー粒子表面で転がり可能であり、感光ドラムと転写ベルトの間で摩擦されてトナーの負帯電が促進され、結果的に転写バイアス印加によるポジ化を抑制しているためと考えられる。本発明のトナーは表面が硬いことが特徴であり、ポジ帯電粒子がトナー粒子表面に固着又は埋没しにくいため、転写効率を高く維持できる。ポジ帯電粒子の種類としては、ハイドロタルサイト、酸化チタン、及びメラミン樹脂等が好ましい。この中でも特にハイドロタルサイトが好ましい。
【0215】
また、トナー粒子は、表面に窒化ホウ素を有することも好ましい。トナー粒子表面に窒化ホウ素を存在させる手段としては特に限定されないが、外添により付与する方法が好ましい。トナーのマルテンス硬度が本発明の範囲であれば、窒化ホウ素を均一に且つ高固着率でトナー粒子表面に存在させることができ、さらに耐久使用を通して固着率の低下が少ないことを見出した。
【0216】
本実施例で説明したトナーを用いることによって、現像部などで繰り返し圧力を受けても表面の状態が変化しにくくなり、帯電性低下を防止できる。よって、填料として負極性に帯電されやすいタルクが含まれる転写材が用いられ、現像部で回収されたタルクとトナーが摺擦しても、トナーの帯電極性は正規極性である負極性のままとなる。その結果、非正規極性である正極性に帯電されたトナーの割合を低く抑えることができるので、かぶりの発生を抑えることができる。図8に填料としてタルクが含まれる転写材を4000枚通紙した後のトナーの帯電量の分布を、本実施例で説明したトナーを用いた場合と従来トナーを用いた場合とで比較したグラフを示す。なお、ここでもトナーの帯電量測定はホソカワミクロン社製イースパートアナライザーEST-Gを用いて測定されている。また、ここでは現像ローラ31上に付着している状態のトナーを測定している。
【0217】
図8からわかるように、従来トナーではトナーの帯電極性が正極性よりになってしまったが、改良トナーでは負極性を維持できている。その結果、従来トナーでは正極性のトナーが非画像形成部に飛翔してしまいタルクかぶりが発生したが、改良トナーでは非画像形成部へのトナー飛翔が発生せず、タルクかぶりを防止することができる。
【0218】
以上、説明した画像形成装置を用いることにより、クリーナーレス構成においても紙粉やさまざまな種類の填料の影響を受けることなく良好な画像を出力できる。
【符号の説明】
【0219】
1‥‥感光ドラム 2‥‥帯電ローラ 3‥‥現像装置 31‥‥現像ローラ 32‥‥供給ローラ 33‥‥現像剤収容室 34‥‥現像ブレード 4‥‥露光装置 5‥‥転写ローラ 11‥‥ブラシ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8