(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240805BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
(21)【出願番号】P 2020096809
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 昌由
(72)【発明者】
【氏名】玉倉 大次
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】竹下 皇二
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077957(WO,A1)
【文献】特表2002-506663(JP,A)
【文献】特開2012-075802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
A62B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鼻孔と口を覆うためのマスクであって、本体部と耳かけ部とを有して成り、該本体部の少なくとも一部がシート状の圧電部から構成されており、該圧電部が電場形成フィラメントを含んで成る糸を有し、
前記本体部が、前記圧電部から成る圧電領域と、非圧電領域とから構成され、該圧電領域が該非圧電領域よりも伸縮
し、
前記圧電領域と前記非圧電領域とが互いに縫合により結合されている、マスク。
【請求項2】
少なくとも鼻孔と口を覆うためのマスクであって、本体部と耳かけ部とを有して成り、該本体部の少なくとも一部がシート状の圧電部から構成されており、該圧電部が電場形成フィラメントを含んで成る糸を有し、
前記本体部が、前記圧電部から成る圧電領域と、非圧電領域とから構成され、該圧電領域が該非圧電領域よりも伸縮
し、
前記本体部の周囲に配置される縁取り部をさらに有し、前記縁取り部がバインダーテープまたはマイクロファイバークロスから構成される、マスク。
【請求項3】
前記圧電領域が上下方向および/または左右方向に伸縮する、請求項1
または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記圧電領域が前記本体部の下半分に配置されている、請求項1
~3のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項5】
前記圧電領域が前記本体部の中心を通って上下方向に帯状に配置されている、請求項1
~3のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項6】
前記圧電領域が前記本体部の下半分の中央部分に配置されている、請求項1
~3のいずれか1項に記載のマスク。
【請求項7】
前記本体部の周囲に配置される縁取り部をさらに有する、請求項1~
6のいずれかに記載のマスク。
【請求項8】
前記縁取り部が肌と接する部分に高摩擦材料を有する、請求項
7に記載のマスク。
【請求項9】
前記縁取り部が鼻の頂部または鼻筋と接する部分に金属製または樹脂製のワイヤを有する、請求項
7に記載のマスク。
【請求項10】
前記圧電領域が前記糸のニットまたはストレッチ性を有する織布または不織布から構成される、請求項1~
9のいずれかに記載のマスク。
【請求項11】
前記非圧電領域が織物またはトリコットから構成される、請求項1~
10のいずれかに記載のマスク。
【請求項12】
前記非圧電領域がカップ状に成形されている、請求項1~
11のいずれかに記載のマスク。
【請求項13】
前記電場形成フィラメントがポリ乳酸から構成される、請求項1~
12のいずれかに記載のマスク。
【請求項14】
前記マスクが抗菌性および/または抗ウイルス性を有する、請求項1~
13のいずれかに記載のマスク。
【請求項15】
前記抗菌性および/または前記抗ウイルス性が前記圧電部の伸縮により発生する、請求項
14に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクに関する。より具体的には、本発明は少なくとも鼻孔と口を覆うためのマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より抗菌性などの機能を有するマスクが開発されている。例えば、特許文献1には、ゼオライトなどの無機多孔質材料を使用したマスクが開示されている。特許文献2には、抗ウイルス剤を使用したマスクが開示されている。特許文献3には、カテキンポリフェノール類などの機能性物質を使用したマスクが開示されている。特許文献4には、エレクトレット化された不織布を使用したマスクが開示されている。特許文献5には、圧電繊維を使用した多層構造のマスクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-188082号公報
【文献】特開2010- 30983号公報
【文献】国際公開(WO)第2012/091087号公報
【文献】国際公開(WO)第2018/151058号公報
【文献】国際公開(WO)第2019/077957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、従前のマスクには克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0005】
従前では無機多孔質材料や抗ウイルス剤、カテキンポリフェノール類などの機能性物質を使用したマスクが開発されているが(特許文献1~3参照)、通常、マスクは鼻孔や口を覆うものであることから、このような薬剤や物質が人体に混入することを考えると、その安全性は十分であるとはいえない。また、エレクトレット化された不織布を使用したマスクでは(特許文献4参照)、その使用とともに経時的に電荷が消失して捕集効率が低下するなど問題や、洗濯により電荷が消失して繰り返し使用することができないなどの問題があり、さらなる改良の余地があった。また、圧電繊維を使用したマスクにおいても(特許文献5参照)、その圧電性による抗菌効果の向上など、さらなる改良の余地があった。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、安全性や機能がより向上したマスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成されたマスクの発明に至った。
【0008】
本願発明者らは、まず第1に「電場形成フィラメントを含んで成る糸」が外部からのエネルギー(例えば張力や応力など)を受けて電場を形成することで電位を発生し、例えば、このような電位によって抗菌作用などが奏されることに着目した。
【0009】
本願発明者らによる鋭意研究の結果、例えば、このような糸を用いて作製した布からなるマスクにおいて、電場/電位が発生することを意図した所望の部位の伸縮性を向上させることにより、あるいは電場/電位が発生することを意図しない部位の伸縮性を低下させることで、かかる所望の部位において糸にかかる張力や応力が集中して電場/電位が集中的に発生すること、ひいては抗菌性や抗ウイルス性などの効果または機能が向上し得ることを見出した。また、本願発明者らの研究により、このような電場/電位を発生させることで抗菌性などの効果を奏するマスクは、従前のようにゼオライトや抗ウイルス剤などの薬剤を添加する必要が全くないので、より安全に使用することがでることもわかった。
【0010】
このような知見に基づいて、本発明では、少なくとも鼻孔と口を覆うためのマスクであって、本体部と耳かけ部とを有して成り、この本体部の少なくとも一部がシート状の圧電部から構成されており、かかる圧電部が電場形成フィラメントを含んで成る糸を有するマスクが提供される。より具体的には、マスクの本体部が圧電部から成る圧電領域と非圧電領域とから構成され、圧電領域が非圧電領域よりも伸縮することを特徴とするマスクが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、安全性や機能がより向上したマスクが得られる。より具体的には、抗菌性や抗ウイルス性などの機能が向上したより安全性の高いマスクが得らえる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るマスクを顔に装着した状態を模式的に示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のいくつかの実施形態に係るマスクの本体部を模式的に示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るマスクを顔に装着した状態を模式的に示す概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の第4の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の第4の実施形態に係るマスクを顔に装着した状態を示す写真である。
【
図10】
図10は、本発明の第5の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図11】
図11は、本発明の第6の実施形態に係るマスクを模式的に示す概略図である。
【
図12】
図12(A)は、糸1(S糸)の構成を示す図であり、
図12(B)は、
図12(A)のA-A線における断面図であり、
図12(C)は、
図12(A)のB-B線における断面図である。
【
図13】
図13(A)および
図13(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の変形との関係を示す図である。
【
図14】
図14(A)は、糸2(Z糸)の構成を示す図であり、
図14(B)は、
図14(A)のA-A線における断面図であり、
図14(C)は、
図14(A)のB-B線における断面図である。
【
図15】
図15は、電場形成フィラメント10の周りに誘電体100を備える糸の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、例えば
図1に示すように、少なくとも鼻孔と口を覆うためのマスクに関する(以下、「本開示のマスク」または省略して単に「マスク」と呼ぶ場合もある)。本開示のマスクは、具体的には、「本体部」と「耳かけ部」とを有して成り、この本体部の少なくとも一部がシート状の「圧電部」から構成されており、かかる圧電部が「電場形成フィラメントを含んで成る糸」(例えば
図12~15に示す糸)を有することを特徴とする。本開示のマスクは、より具体的には、マスクの本体部が上記の「圧電部」から成る「圧電領域」と「非圧電領域」とから構成されており、かかる「圧電領域」が「非圧電領域」よりも「伸縮」することを特徴とする(例えば
図3に示す概略図を参照のこと)。
以下、本開示のマスクをその構造に基づいて詳しく説明する。
【0014】
[本開示のマスク]
本開示のマスクは、少なくとも「本体部」と「耳かけ部」とを有し、例えば
図1に示すようにヒトの顔に装着することで少なくとも鼻孔と口を覆うことができるように構成されている。
【0015】
本開示において、マスクの「本体部」とは、例えば
図1において符号Xで示すように、ヒトの顔に装着することで少なくとも鼻孔と口を覆うことができる部分または部材を意味する。例えば
図1に示すように、本体部Xは三次元的に広がる立体的な形状(3D形状)を有していてもよいし、あるいは二次元的に広がる平面的な形状(2D形状)を有していてもよい。本体部Xの寸法は、例えば
図1に示すように少なくとも鼻孔と口とを覆うことができるものであれば特に制限はなく、例えば
図1に示すように鼻の頂部や鼻筋の一部、顎までも覆うことができる寸法を有することが好ましい。
【0016】
本開示のマスクは、本体部の「少なくとも一部」がシート状の「圧電部」から構成されており、かかる圧電部が以下にて詳細に説明する「電場形成フィラメント」を含んで成る「糸」(例えば
図12~15に示す糸)を含むことを主たる特徴として有する。
【0017】
「電場形成フィラメント」は、以下にて詳細に説明する通り、例えば外部からのエネルギー(例えば張力や応力など)が加わると、電場や電位(又は電荷)を発生させることができるので、このようにして発生した電場や電位に起因して抗菌性や抗ウイルス性などの効果を奏することができる。本開示のマスクでは、このような「電場形成フィラメント」を含んで成る「糸」を有する圧電部、好ましくは「電場形成フィラメントを含んで成る糸」から構成される圧電部を本体部の「少なくとも一部」(例えば
図3参照)に使用することで、外部からのエネルギーの適用により従前よりも効果的に抗菌性や抗ウイルス性などの効果を奏することができる。例えば
図1に示す通り、本体部Xに「上下方向」(例えば矢印Pで示す方向)および/または「左右方向」(例えば矢印Qで示す方向)に力が加わると、具体的には口の運動などに起因して力が加わると、より具体的には、発話や、ガムなどの食べ物の咀嚼や、咳、くしゃみなどの生理現象などに起因して力が加わることで従前よりも効果的に抗菌性や抗ウイルス性などの効果を奏することができる。ここで、本体部の「上下方向」とは、例えばマスクを顏に装着して正面から見た場合の上下方向を意味し、より具体的には鼻筋に沿う方向または口唇に対して垂直な方向を意味する(例えば
図2、特に
図2Bの矢印Pで示す方向)。また、本体部の「左右方向」とは、例えばマスクを顏に装着して正面から見た場合の左右方向を意味し、より具体的には鼻筋に対して垂直な方向または口唇に沿う方向(例えば
図2、特に
図2Bの矢印Qで示す方向)を意味する。
【0018】
本開示において「圧電部」とは、以下にて詳細に説明する「電場形成フィラメントを含んで成る糸」から主に構成され得る部分または部材を意味する。より具体的には、外部からのエネルギー(例えば張力や応力など)を適用することでその表面に電場や電位(又は電荷)などを発生させることができるシート状の部分または部材を意味する。より具体的には、「電場形成フィラメントを含んで成る糸」から構成され得る編物(例えばニット)や織物(例えば、スパンデックスコアのストレッチヤーンからなる織布、好ましくはストレッチ性を有する織布)、不織布(例えば、ニードルパンチやスパンボンド)などを意味する。
【0019】
本開示においてマスクの「耳かけ部」とは、例えば
図1に示すように本体部から延在して耳にかけることができる符号Yで示される紐状または帯状の部分または部材を意味する。耳かけ部を構成する材料に特に制限はない。このような耳かけ部は、例えば、布(編布、織布、不織布など)、紐(糸、革、ゴムなどから作製された紐など)から作製することができる。耳掛け部は、より具体的には、バインダーテープ、マイクロファイバークロスなどから作製することができる。このような耳かけ部は、伸縮性を有していても、伸縮性を有していなくてもよい。このような耳掛け部は、本体部の少なくとも一部を構成し得る圧電部に外部からのエネルギーを集中させるために伸縮性が低いことが好ましい。ここで、耳掛け部の「伸縮性が低い」とは、本体部を構成し得る圧電部の伸縮性と比べて相対的に耳掛け部の伸縮性が低いことを意味する。耳かけ部はマスクの本体部を少なくとも鼻孔と口を覆う位置に固定するために設置され得るものであり、耳にかけることに限定した構造でなくてもよい。例えば、後頭部で支持するために本体部の左右を繋いだ頭かけ構造でもよい。
【0020】
本開示のマスクは、必要に応じて「縁取り部」を有していてよい。本開示において「縁取り部」とは、本体部の周囲に配置され得る部分または部材を意味し、例えば
図1および
図2において符号Zで示すように本体部の周囲を覆うことができる部分または部材を意味する。このような縁取り部は、本体部の周囲の全部を覆っていてもよく、あるいは本体部の周囲の一部だけを覆っていてもよい。縁取り部を構成し得る材料に特に制限はない。縁取り部は、例えば、布(織布、編布、不織布など)から作製することができる。縁取り部は、より具体的には、バインダーテープ、マイクロファイバークロスなどから作製することができる。このような縁取り部は、伸縮性を有していても、伸縮性を有していなくてもよい。このような縁取り部は、本体部の少なくとも一部を構成し得る圧電部に外部からのエネルギーを集中させるために伸縮性が低いことが好ましい。ここで、縁取り部の「伸縮性が低い」とは、本体部の少なくとも一部を構成し得る圧電部の伸縮性と比べて相対的に縁取り部の伸縮性が低いことを意味する。また、高摩擦材料(又は摩擦力が高い材料又は摩擦材)を縁取り部の肌と接触し得る部分(又は肌側)に用いることでマスクのズレが生じにくく、本体部の少なくとも一部を構成し得る圧電部に外部からのエネルギーを集中させることが可能である。摩擦力が高い材料に特に制限はない。摩擦力が高い材料は、例えば、一般的に衣服用のズレ落ち防止に用いられるゴム材などでもよく、一般的に絆創膏や医療用ドレッシング材に用いられる粘着剤などでもよく、帝人フロンティア株式会社製のナノフロントなどの布状の材料でもよい。さらには、マスク、特に本体部のズレを生じにくくするために、縁取り部の鼻の頂部又は鼻筋と接触し得る部分に金属製や樹脂製のワイヤなどを配置又は内在させてもよい。このようなワイヤは可撓性を有していてもよく顔の凹凸にあわせて変形可能であってもよい。
【0021】
本開示において「伸縮性」とは、概して、繰り返し延びたり縮んだりすることのできる性質を意味する(「ストレッチ性」とも呼ばれる)。伸縮性は、例えば「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」などの試験方法に基づいて決定してもよい。
【0022】
本開示のマスクは、上述の通り、本体部の少なくとも一部が圧電部から構成されており、このような本体部が、圧電部から構成され得る「圧電領域」と、「非圧電領域」とから構成されていることが好ましい。この「圧電領域」が「非圧電領域」よりも伸縮すること又は高い伸縮性を有することがより好ましい。
【0023】
本開示において「圧電領域」とは、圧電部から構成された本体部の少なくとも一部の領域を意味し、上述の通り、例えば外部からのエネルギー(例えば張力や応力など)を適用すると、その表面に電場や電位(又は電荷)などを発生させることができる領域を意味する。圧電領域は、以下にて詳細に説明する「電場形成フィラメントを含んで成る糸」の編物(例えばニット)、織物(例えば、スパンデックスコアのストレッチヤーンからなる織布、好ましくはストレッチ性を有する織布、より好ましくは非圧電領域よりもストレッチ性を有する織布)、または不織布から構成されることが好ましい。
【0024】
本開示において「非圧電領域」とは、概して、本体部の圧電部から構成された領域を除く、本体部の他の領域を意味する。
【0025】
本開示において「圧電領域が非圧電領域よりも伸縮する」とは、例えば「圧電領域」が「非圧電領域」よりも相対的に高い「伸縮性」を有すること又は「柔らかい」もしくは「可撓性」を有することなどを意味する。あるいは「非圧電領域」が「圧電領域」よりも相対的に低い「伸縮性」を有すること又は「硬い」もしくは「剛性」を有することなどを意味する。
【0026】
本開示において「非圧電領域」を構成することができる材料は、「非圧電領域」が「圧電領域」よりも相対的に低い伸縮性を有するような材料であれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、織物や編物(例えばトリコット)などのシート状の材料である。ここで織物や編物に用いられる糸は一般的な天然繊維でも化学繊維でもよく、「電場形成フィラメントを含んで成る糸」であってもよく、その場合、圧電領域よりも相対的に低い組織構造のシートであればよい。非圧電領域は、圧電領域よりも相対的に低い伸縮性を有するように、例えばカップ状に固めて成形されていてもよい。
【0027】
本開示のマスクは、例えば
図2Aの矢印Pで示す上下方向および/または矢印Qで示す左右方向に外力が加わると、本体部Xに含まれる「圧電部」または「圧電領域」が上下方向および/または左右方向に伸縮又は変形することができる。このとき「非圧電領域」は圧電領域よりも相対的に低い伸縮性を有する(又は可撓性が低い又は硬い)ため、外力は、より「圧電領域」に集中することになる。その結果、「圧電領域」において電場および/または電位をより効果的に発生させることができ、例えば抗菌性や抗ウイルス性などの効果をより顕著に奏することができる。従って、「圧電領域」は、例えば鼻孔や口を覆う部分に配置されることが好ましい。より具体的には、
図2Bの本体部Xを長方形で模式的かつ形式的に示す概略図において、鼻孔や口を覆うことができる本体部Xの部分b、d、eおよび/またはfなどに「圧電領域」を配置することが好ましく、本体部Xの部分aおよび/またはcなどに「非圧電領域」を配置することが好ましい。
【0028】
本開示のマスクの本体部において、「圧電領域」が本体部の「下半分」に配置されていることが好ましい。より具体的には、
図3Aに模式的かつ形式的に示すように、本体部の3つの部分d、eおよびfに「圧電領域」が配置されることが好ましい。マスクを顏に装着した場合、圧電領域が配置される部分d、eおよびf、特に部分eによって、口を全体的に覆うことができ、口の動きにあわせて電場/電位を発生させることができる(
図2B参照)。このとき、本体部の部分a、bおよびc(すなわち「上半分」)には、「非圧電領域」が配置されていることが好ましい。本体部の「上半分」に「非圧電領域」が存在することによって、「非圧電領域」が「圧電領域」よりも相対的に低い「伸縮性」を有することから(つまり「圧電領域」が「非圧電領域」よりも相対的に高い「伸縮性」を有することから)、本体部の「下半分」に配置されている「圧電領域」において、外部からのエネルギーをより集中させることができる。特に本体部の「上半分」がこのような「非圧電領域」により相対的または実質的に固定されることから、口の動きに合わせて、「下半分」の「圧電領域」がより効果的に「上下方向(又は縦方向)」に集中して伸縮することができる。その結果、「圧電領域」が配置される部分d、eおよびfにおいて、口の動きが微細であっても、すなわち圧電領域の伸縮が微細であっても、本体部の「下半分」に電場/電位を集中して効果的に発生させることができる。このようなことから、口を出入りする空気に対して、より向上した抗菌効果や抗ウイルス効果などを奏することができる。
【0029】
本開示のマスクの本体部において、「圧電領域」が「本体部の中心を通って上下方向に帯状」に配置されていることが好ましい(ここで「本体部の中心」とは、本体部の幾何学的中心、例えば
図3に示す態様では長方形の対角線の交点を指す)。より具体的には、
図3Bに模式的かつ形式的に示すように、本体部の2つの部分bおよびeに「圧電領域」が配置されることが好ましい。マスクを顏に装着した場合、圧電領域が配置される部分bおよびeによって、鼻と口とを上下方向(又は縦方向)で帯状に覆うことができる(
図2B参照)。このとき、本体部の左側の部分aおよびdならびに右側の部分cおよびf(すなわち「左右の両側」)には「非圧電領域」が分割して配置されていることが好ましい。本体部の「左右の両側」に「非圧電領域」が存在することによって、「非圧電領域」が「圧電領域」よりも相対的に低い「伸縮性」を有することから(つまり「圧電領域」が「非圧電領域」よりも相対的に高い「伸縮性」を有することから)、「本体部の中心を通って上下方向に帯状」に配置されている「圧電領域」(b,e)に外部からのエネルギーをより集中させることができる。特に本体部の左右の両側が「非圧電領域」(a,dおよびc,f)によって相対的または実質的に固定されることから、口の動きに合わせて、「圧電領域」がより効率的に「上下方向(又は縦方向又は鼻筋に沿う方向)」および「左右方向(又は横方向又は口唇に沿う方向)」に集中して伸縮することができる。その結果、「圧電領域」が配置される部分bおよびeにおいて、口の動きが微細であっても、すなわち圧電領域の伸縮が微細であっても、本体部の中央の上下方向(又は縦方向)の帯状の部分において、電場/電位を集中して効果的に発生させることができる。このようなことから、鼻や口を出入りする空気に対して、より向上した抗菌効果や抗ウイルス効果などを奏することができる。
【0030】
本開示のマスクの本体部において、「圧電領域」が本体部の「下半分の中央部分」に配置されていることが好ましい(ここで本体部の「中央部分」とは、例えば
図2Bおよび
図3に示す態様では部分b,eを指し、本体部の「下半分の中央部分」とは、例えば
図3に示す態様では部分eを指す)。より具体的には、
図3Cに模式的かつ形式的に示すように、本体部の部分eのみに圧電領域が配置されることが好ましい。マスクを顏に装着した場合、圧電領域が配置される部分eによって主に口を覆うことができる(
図2B参照)。このとき、本体部の部分a~dおよびfでは部分e(つまり「圧電領域」)を囲むように「非圧電領域」が配置されていることが好ましい。本体部の「圧電領域」(e)を囲むように「非圧電領域」(a~dおよびf)が存在することによって、「非圧電領域」が「圧電領域」よりも相対的に低い「伸縮性」を有することから(つまり「圧電領域」が「非圧電領域」よりも相対的に高い「伸縮性」を有することから)、「非圧電領域」で囲まれた「圧電領域」(e)に外部からのエネルギーをより集中させることができる。特に「非圧電領域」(a~dおよびf)が相対的または実質的に固定されることから、口の動きに合わせて、「圧電領域」(e)がより効率的に集中して伸縮することができる。その結果、「圧電領域」(e)において、口の動きが微細であっても、すなわち圧電領域の伸縮が微細であっても、「圧電領域」(e)に電場/電位を集中して効果的に発生させることができる。このようなことから、特に口に出入りする空気に対して、さらにより向上した抗菌効果や抗ウイルス効果などを奏することができる。
【0031】
ここで、
図2Bおよび
図3に模式的かつ形式的に示す態様では、説明の便宜上、部分bで鼻孔を被覆し、部分eで口を被覆するように記載されているが、部分eのみで鼻孔および口の両方を被覆してもよい。
【0032】
また、
図2Bおよび
図3では、説明の便宜上、本体部を均等に6つの部分に分けているが、このような区分はあくまで例示として示したに過ぎず、例えばマスクの本体部を立体的に成形するなどの観点から「圧電領域」と「非圧電領域」との区分や比率は適宜変更してもよい。
【0033】
本開示のマスクにおいて、本体部の「圧電領域」および「非圧電領域」は、いずれもシート状の構造を有することが好ましい。本体部の「圧電領域」と「非圧電領域」とが互いに縫合により結合されていることがより好ましい。本体部では「圧電領域」と「非圧電領域」とが互いに重複した状態で縫合して互いに結合させることが好ましい。「圧電領域」と「非圧電領域」とを互いに縫合により結合させる場合、その縫目又はミシン目の位置は、特に限定されず、例えば
図3において実線で示される部分に限定されるものではない。また、マスクの本体部を立体的に縫製するなどの観点から縫目の位置を適宜変更および追加してもよい。例えば、鼻筋に沿って口唇に垂直な方向で本体部を左右に均等に分割するような中央の位置に縫目が存在していてもよい。
【0034】
以下、好ましい実施形態として、第1の実施形態~第6の実施形態を挙げて、本開示のマスクをより詳細に説明する。
【0035】
[第1の実施形態]
図4に本発明の第1の実施形態に係るマスク110を模式的に示す。
図4はマスク110を正面から見た正面図または平面図として示され、その外形や寸法、縦横比などは実物とは異なっていてよい。また、マスクの本体部の形状、特に本体部の外形は図示する形状に限定されるものではなく、例えば
図3に示すような長方形や他の形状(例えば六角形、七角形、八角形などの多角形)であってよい。
【0036】
図4に示すマスク110の本体部は、形式的に4つの部分(111,112,113および114)に分けられており、部分111および112が「非圧電領域」(IおよびII)を成し、部分113および114が「圧電領域」(IIIおよびIV)を成す。
【0037】
図4に示すマスク110の本体部は、「上半分」の2つの部分(111および112)に非圧電領域(IおよびII)が配置されており、「下半分」の2つの部分(113および114)に圧電領域(IIIおよびIV)が配置されている構造を有する。
【0038】
図4に示すマスク110の本体部では、その「上半分」および「下半分」に「非圧電領域」(IおよびII)および「圧電領域」(IIIおよびIV)がそれぞれ配置されていることから、
図4に示すマスク110は、
図3Aに示す態様に対応することができる。ただし、
図4に示すマスク110では、本体部を4つの部分(111,112,113および114)に分けている点で
図3Aに模式的に示す態様とは異なっている。また、
図4に示す縦横2本の破線は、4つの部分(111,112,113および114)の境界を示し、4つの部分が互いに縫い合わされたときに形成され得る縫目を示していてよい。
【0039】
「非圧電領域」(IおよびII)は、圧電領域(IIIおよびIV)よりも相対的に低い伸縮性を有し、相対的に延び難く又は硬く、織物、編物(特にトリコット)などから構成されることが好ましい。
【0040】
「圧電領域」(IIIおよびIV)は、非圧電領域(IおよびII)よりも相対的に高い伸縮性を有し、相対的に延び易く又は可撓性を有し、編物(特にニット)、不織布などから構成されることが好ましい。
【0041】
「耳かけ部」(115)は、本体部に縫い付けられていることが好ましく、布(織布、編布、不織布など)、紐(糸、革、ゴムなどから作製された紐など)から構成されることが好ましい。
【0042】
「縁取り部」(116)は、存在していても存在していなくてもよく、布(織布、編布、不織布など)から作製することが好ましい。縁取り部は、バインダーテープ、マイクロファイバークロスなどから作製されていてもよい。また、一般的に衣服用のズレ落ち防止に用いられるゴム材、一般的に絆創膏や医療用ドレッシング材に用いられる粘着剤、帝人フロンティア株式会社製のナノフロントなどの布状の高摩擦材料などの材料が肌と接触し得る部分(又は肌側)に配置されていてもよい。さらには、縁取り部の鼻の頂部または鼻筋に接触し得る部分に金属製や樹脂製のワイヤなどを配置又は内在させてもよい。このようなワイヤは可撓性を有していてもよく顔の凹凸にあわせて変形可能であってもよい。
【0043】
図4に示す本発明の第1の実施形態に係るマスク110では、本体部の非圧電領域(IおよびII)が圧電領域(IIIおよびIV)よりも相対的に低い伸縮性を有することから、非圧電領域(IおよびII)は、相対的に圧電領域(IIIおよびIV)が伸縮し難く、圧電領域(IIIおよびIV)に外力が集中して相対的に伸縮することができる。
【0044】
圧電領域(IIIおよびIV)は、主に口を覆うことから(
図2B参照)、例えば、発話時の口の開閉や、ガムなどの食べ物の咀嚼や、あくび、くしゃみなどの生理現象に応じて、圧電領域(IIIおよびIV)を上下方向(又は縦方向)により集中して収縮させることができる。ここで、圧電領域は、このような収縮により電場/電位(または電荷)を「上下方向」(縦方向)に集中して発生させることができるため、より口元に集中して、抗菌性および/抗ウイルス性などの作用を発揮させることができる。
【0045】
[第2の実施形態]
図5に本発明の第2の実施形態に係るマスク120を模式的に示す。
図5に示すマスク120の本体部は、まず、形式的に6つの部分(121,122,123,124,125および126)に分けられており、そのうち4つの部分121,123,124および126が「非圧電領域」(A,C,DおよびF)を成し、残りの2つの部分122および125が「圧電領域」(BおよびE)を成す。換言すると、マスク120は、左側の部分(121,124)および右側の部分(123,126)には、左側の非圧電領域(A,D)および右側の非圧電領域(C,F)がそれぞれ配置されている。つまりマスク本体の左右の両側には非圧電領域が配置されている。マスク本体の中央部分(122,125)には圧電領域(B,E)が配置されている。従って、圧電領域(B,E)が本体部の中心を通って上下方向(又は縦方向)に帯状に配置されていることになる。
【0046】
図5に示すマスク120は、
図3Bに示す態様に対応することができる。ここで、
図5に示す破線は、いずれも6つの部分(121~126)の境界を示し、6つの部分が互いに縫い合わされたときに形成され得る縫目を示していてよい。また、部分122および125は、それぞれ左右にさらに分割されていてよく、例えば
図4に示す態様と同様に部分122および125の中央に上下方向(縦方向)の縫目を有していてよい(図示せず)。
【0047】
第2の実施形態のマスク120では、例えば
図5に示すように、上下方向(縦方向)および左右方向(横方向)のいずれにも縫目を有するが、左右方向(横方向)の縫目は省略してもよい。つまり、本体部を縦方向だけで3つ以上に分割してもよい。その場合、上下方向(縦方向)の縫目だけが存在してよい。
【0048】
上下方向(縦方向)の縫目は、マスク本体を立体的に成形するのに役立つとともに、鼻筋に沿って上下方向(縦方向)に気流を整える役割を果たすことができる。これにより、鼻孔および口まわりに空間ができ、息苦しさを軽減することができる。
左右方向(横方向)の縫目は、マスク本体を立体的に成形するのに役立ち、特に顔にフィットするようにマスク本体を成形するリブやワイヤのような役割を果たすことができる。
【0049】
「非圧電領域」(左側A,Dおよび右側C,F)は、圧電領域(B,F)よりも相対的に低い伸縮性を有し、相対的に延び難く又は硬く、織物、編物(特にトリコット)などから構成されることが好ましい。
【0050】
「圧電領域」(B,E)は、非圧電領域(左側A,Dおよび右側C,F)よりも相対的に高い伸縮性を有し、相対的に延び易く又は可撓性を有し、編物(特にニット)、不織布などから構成されることが好ましい。
【0051】
「耳かけ部」(127)および「縁取り部」(128)は、
図4に示す態様の耳かけ部115および縁取り部116と同様のものを使用することができる。
【0052】
図5に示す本発明の第2の実施形態に係るマスク120では、中央の圧電領域(B,E)に外力が集中して相対的に圧電領域が伸縮することができる。
【0053】
中央の圧電領域(B,E)は、鼻孔と口の両方を覆うことから(
図2B参照)、例えば、発話時の口の開閉や、ガムなどの食べ物の咀嚼や、あくび、くしゃみなどの生理現象に応じて、圧電領域(B,E)を「上下方向」収縮させることができる。ここで、中央の圧電領域(B,E)は、このような収縮により電場/電位(又は電荷)を集中して発生させることができるため、鼻孔および口元の両方に集中して、抗菌性および/または抗ウイルス性などの作用を発揮させることができる。
また、マスク120では、本体部の左右の両側が非圧電領域(左側A,Dおよび右側C,F)で相対的に固定され得ることから、中央の圧電領域(B,E)が「上下方向」(縦方向)だけでなく、「左右方向」(横方向)にも伸縮させることができ、中央の圧電領域(B,E)に伸縮をさらに集中させることができる。そして発生する電位をさらに増加させることができ、ひいては電場/電位(又は電荷)の発生を増大または最大化することができる。また、左右方向(横方向)の縫目が存在することで、マスク120の本体部をセル化することができ(少なくとも6つのセルに分割することができる)、特に領域Eにおいて、空気の通り道である鼻下および口元にかけて、特に上下方向(縦方向)に収縮して電位を集中的に発生させることができ、ひいては領域Eにおいて、抗菌性や抗ウイルス性などの効果を向上させることができる。
図6に本発明の第2の実施形態に係るマスク120を顔に装着した状態を模式的に示す。
【0054】
[第3の実施形態]
図7に本発明の第3の実施形態に係るマスク130を模式的に示す。
図7に示すマスク130の本体部は、例えば
図5に示すマスク120と同様に6つの部分(131,132,133,134,135および136)に分けられており、そのうち5つの部分131,132,133,134および136が「非圧電領域」(A,B,C,DおよびF)を成し、残り1つの部分135のみが「圧電領域」(E)を成す。換言すると、マスク130は、本体部の「下半分の中央部分」(135)に「圧電領域」(E)が配置され、「圧電領域」(E)の周囲の部分(134,131,132,133および136)に非圧電領域(D,A,B,CおよびF)が配置されている。
【0055】
図7に示すマスク130は、
図3Cに示す態様に対応することができる。また、
図7に示すマスク130は、
図5に示すマスク120における領域Bが「圧電領域」から「非圧電領域」に変更されたものであるともいえる。従って、
図7に示すマスク130の他の構成は、
図5に示すものと同様であってもよい。
【0056】
図7に示す本発明の第3の実施形態に係るマスク130では、「下半分の中央部分」(135)の「圧電領域」(E)にのみ外力が集中して相対的に伸縮することができる。
【0057】
本体部の下半分の中央部分(135)の「圧電領域」(E)は、主に口を覆うことから(
図2B参照)、例えば、発話時の口の開閉や、ガムなどの食べ物の咀嚼や、あくび、くしゃみなどの生理現象に応じて、圧電領域(E)のみを「上下方向」(縦方向)に収縮させることができる。ここで、圧電領域(E)は、このような収縮により電場/電位(又は電荷)を集中して発生させることができるため、特に口元に集中して、さらにより向上した抗菌性および/抗ウイルス性などの作用を発揮させることができる。
また、マスク130では、圧電領域(E)の周囲が非圧電領域(D,A,B,CおよびF)で囲まれて相対的に固定されていることから、圧電領域(E)のみが「上下方向」(縦方向)だけでなく、「左右方向」(横方向)にも伸縮させることができ、圧電領域(E)に外力をさらに集中させることができため、発生する電場/電位(又は電荷)をさらに増加させることができ、ひいては電場/電位(又は電荷)の発生を最大化することができる。
【0058】
[第4の実施形態]
図8に本発明の第4の実施形態に係るマスク140を模式的に示す。
図8に示すマスク140では、本体部の全面が圧電部141から構成され、すなわち本体部の全面が「圧電領域」であり、さらに「縁取り部」(143)を必須の構成要件として有することを特徴とする。
【0059】
「耳かけ部」(142)は、
図4に示す態様の耳かけ部115と同様のものを使用することができる。
【0060】
「縁取り部」(143)は、布(織布、編布、不織布など)から作製され、特に肌との密着性の高いバインダーテープ、マイクロファイバークロスなどから作製されることが好ましい。このような「縁取り部」(143)は、マスクの装着時において、マスクが顔からずれることを抑制し、マスク本体にかかる外力のロスを最小化することができる。その結果、外力が微少である場合にも圧電部(圧電領域)141において、電場/電位(又は電荷)を発生させることができ、ひいては圧電効果(電場、電位、電界、電荷)を最大化することができる。マスクが顔からずれることを抑制するために、一般的に衣服用のズレ落ち防止に用いられるゴム材、一般的に絆創膏や医療用ドレッシング材に用いられる粘着剤、帝人フロンティア株式会社製のナノフロントなどの布状の高摩擦材料などの材料が肌に接触し得る部分(又は肌側)に配置されていてもよい。さらには、マスクのズレが生じにくくするために、縁取り部の鼻の頂部または鼻筋に接触し得る部分に金属製や樹脂製のワイヤなどを配置又は内在させてもよい。このようなワイヤは可撓性を有していてもよく顔の凹凸にあわせて変形可能であってもよい。
【0061】
図8に示す本発明の第4の実施形態に係るマスク140において、本体部は、例えば
図3や
図4、
図5、
図7に示す態様のものに変更してもよい。また、マスク140において、例えば
図4に示すように本体部の中央で上下方向(又は縦方向)に縫目を設けてもよい。すなわち、マスク140において本体部を左右に分けて互いに縫合により結合させてもよい(
図9参照)。
【0062】
[第5の実施形態]
図10に本発明の第5の実施形態に係るマスク150を模式的に示す。マスク150の本体部は、上側の部分152(上半分)が非圧電領域であり、下側の部分151(下半分)が圧電領域であり、部分151はシート状の圧電部から構成されている。
【0063】
上半分の非圧電領域は、例えばカップ状に成形されていてよく、下半分の圧電領域よりも硬質であることが好ましい。本体部の上半分の非圧電領域が伸縮性を実質的に有していないことが好ましい。本体部の下半分の圧電領域は、例えば引張られた状態、すなわち張力がかけられた状態で上半分の非圧電領域に結合されていることが好ましい。ここで、結合の様式に特に制限はなく、例えば、縫合、接着、融着などにより結合させることができる。このような状態では、少しの震動又は微細な震動を下半分の圧電領域に加えるだけでも電場/電位(又は電荷)を発生させることができ、ひいては圧電効果(電場、電位、電界、電荷)を最大化することができる。
【0064】
[第6の実施形態]
図11に本発明の第6の実施形態に係るマスク160を模式的に示す。マスク160の構成は、
図10に示すものと基本的に同様であり、マスク160の本体部は、周囲の部分162(外周部)が非圧電領域であり、中心の部分161(中心部)が圧電領域であり、部分161はシート状の圧電部から構成されていることが好ましい。このような態様においても、少しの震動又は微細な震動を中心部の圧電領域に加えただけでも中心部に電場/電位(又は電荷)を発生させることができ、ひいては圧電効果(電場、電位、電界、電荷)を最大化することができる。
【0065】
[多層化]
本開示のマスクの本体部は必要に応じて多層化されていてもよい。本開示のマスクにおいて、上述の本体部を例えば2枚以上重ねて使用してもよい。このとき、使用する本体部は同一であっても異なっていてもよい。具体的には、
図4~
図8に示すマスクの本体部を必要に応じて適宜組み合わせて重ねて使用してもよい。
【0066】
本開示の本体部を3枚以上重ねて使用する場合、例えばエレクトレットフィルタやメルトブローン不織布フィルタやナノフィルタ(ナノオーダーの直径の繊維を含むフィルタ)などの他のフィルタ層を設けてもよい。このようなフィルタ層は、例えば集塵を目的として本開示の本体部よりも捕集効率(例えば、JIS B 9908に従う捕集効率)が高いものを選択して使用することが好ましい。
【0067】
エレクトレットフィルタなどの他のフィルタ層を設ける場合、2つの最外層(すなわち、大気に接する側の層および顔に接する側の層)は、本開示の本体部から成る層であることが好ましい。
【0068】
また、2つの最外層のうち大気に接する側の層は本開示の本体部からなる層であり、顔に接する側の層は別の機能を有する機能層であってもよい。
例えば機能層は冷感性、温感性を付与するものなどが挙げられる。機能層を吸湿発熱繊維により構成した場合、機能層に温感性を付与することができる。機能層をメントール、サリチル酸、カンフル、ハッカ油等の冷感剤を含ませた布帛シートや、接触冷感機能をもたせた繊維などにより構成した場合、機能層に冷感性を付与することができる。
【0069】
[通気性]
本開示のマスクでは、少なくとも息ができる程度の通気性を確保することが好ましい。
【0070】
[電場形成フィラメントを含んで成る糸]
本開示のマスクの本体部の少なくとも一部を構成し得る「圧電部」に含まれる「電場形成フィラメントを含んで成る糸」(以下、「本開示の糸」または単に「糸」と省略して記載する場合もある)について、以下にて詳しく説明する。必要に応じて、図面を参照して説明を行うものの、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したに過ぎず、外観や寸法比などは実物とは異なり得る。
【0071】
本開示の糸は、「電場形成フィラメント」(又は表面電荷により電場を形成することのできる繊維)を含んで成るものであり、例えば糸の軸方向に外力を適用することで電場を形成し、正または負の表面電位を発生させることができることを特徴とする。
【0072】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特に明記しない限り、下限および/または上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の”1”を含むと共に、上限値の”10”をも含むものとして解釈され得る。
また、各種数値に”約”または”程度”が付されている場合もあるが、この”約”および”程度”といった用語は、数パーセント、例えば±10パーセント、±5パーセント、±3パーセント、±2パーセント、±1パーセントの変動を含み得ることを意味する。
【0073】
[糸の基本構成]
本開示の糸は、複数の「電場形成フィラメント」を含んで成る。電場形成フィラメントの数に特に制限はなく、例えば、2本以上、2~500本、好ましくは10~350本、より好ましくは20~200本程度の電場形成フィラメントが本開示の糸に含まれてよい。
【0074】
本開示おいて、「電場形成フィラメント」とは、「外部からのエネルギーにより電荷を発生して電場を形成することができる繊維(フィラメント)」を意味する(以下、「電荷発生繊維」と称する場合もある)。電場形成フィラメントとして、例えば、特許第6428979号公報に記載の電荷発生繊維などを使用してよい。
【0075】
電場形成フィラメントの寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。このような電場形成フィラメントを有して成る本開示の糸は、太さの異なる複数の電場形成フィラメントを含んでよい。従って、本開示の糸は、長さ方向において、径が一定であっても、一定でなくてもよい。
【0076】
電場形成フィラメントは、長繊維であっても、短繊維であってもよい。電場形成フィラメントは、例えば0.01mm以上の長さ(寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0077】
電場形成フィラメントの太さ(径)に特に制限はなく、電場形成フィラメントの長さに沿って、同一(一定)であっても、同一でなくてもよい。電場形成フィラメントは、例えば0.001μm(1nm)~1mmの太さを有してよい。太さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0078】
電場形成フィラメントの形状、特に断面形状に特に制限はないが、例えば円形、楕円形、矩形、異形の断面を有していてよい。円形の断面形状を有することが好ましい。
【0079】
電場形成フィラメントは、例えば、圧電効果(外力による分極現象)または圧電性(機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。なかでも、圧電材料を含んで成る繊維(以下、「圧電繊維」と称する場合もある)を使用することが特に好ましい。圧電繊維は、圧電気により電場を形成することができるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。
尚、圧電繊維に含まれる圧電材料の寿命は、例えば、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、このような圧電繊維では、アレルギー反応を引き起こす可能性も低い。
【0080】
「圧電材料」は、圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0081】
「圧電材料」(又は「圧電繊維」)は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。
「圧電性ポリマー」として、「焦電性を有する圧電性ポリマー」や、「焦電性を有していない圧電性ポリマー」などが挙げられる。
【0082】
「焦電性を有する圧電性ポリマー」とは、概して、焦電性を有し、温度変化を与えるだけで、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるポリマー材料から成る圧電材料を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるものが好ましい。
【0083】
「焦電性を有していない圧電性ポリマー」とは、概して、ポリマー材料から成り、上記の「焦電性を有する圧電性ポリマー」を除く圧電性ポリマーを意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。ポリ乳酸としては、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)などが知られている。
【0084】
尚、本開示の糸は、電場形成フィラメント(又は電荷発生繊維)として、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き(カバリング)、該導電体に電圧を加えて電荷を発生させる構成を有するものであってもよい。
【0085】
本開示の糸は、複数の電場形成フィラメントを単に引きそろえただけの糸(引きそろえ糸)であってよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸)であってもよい。尚、糸の撚り合わせ方法に特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。
【0086】
例えば、
図12(A)に示す通り、糸1は、複数の電場形成フィラメント10を撚り合わせることによって構成することもできる。
図12(A)に示す態様では、糸1は、電場形成フィラメント10を左旋回して撚られた左旋回糸(以下、「S糸」と称する)であるが、電場形成フィラメント10を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、「Z糸」と称する)であってもよい(例えば、
図14(A)の糸2を参照のこと)。このように、本開示の糸は、撚り合わせ糸の場合、「S糸」、「Z糸」のいずれであってもよい。
【0087】
本開示の糸において、電場形成フィラメント10の間隔は、約0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。尚、電場形成フィラメント10の間隔が0μmである場合、電場形成フィラメント同士が互いに接触していることを意味する。
【0088】
以下、本開示の糸を詳述するために、電場形成フィラメントとして圧電材料を含んで成り、かかる圧電材料が「ポリ乳酸」である態様を一例として挙げて、
図12~
図14を参照しながら、本開示の糸の例をより詳しく説明する。
【0089】
圧電材料として使用することができるポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。このように結晶化度を高めることで表面電位の値を向上させることができる。
【0090】
図12(A)に示す通り、一軸延伸されたポリ乳酸を含んで成る電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd
14およびd
25のテンソル成分を有する。
【0091】
したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に最も効率よく電荷(又は電位)を発生することができる。
【0092】
ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、例えば6.2×104であり、重量平均分子量(Mw)は、例えば1.5×105である。尚、分子量は、これらの値に限定されるものではない。
【0093】
図13(A)および
図13(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の変形との関係を示す図である。
図13(A)に示すように、電場形成フィラメント10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、電場形成フィラメント10は、紙面表側では、負の電荷を発生させることができる。電場形成フィラメント10は、
図13(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も電荷(又は電位)を発生することができるが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、電場形成フィラメント10は、紙面表側では、正の電荷を発生させることができる。
【0094】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じ得るため、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、ポリマーの中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0095】
電場形成フィラメント10は、断面が円形状の繊維であることが好ましい。電場形成フィラメント10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程とを分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程とを連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む)、圧電性ポリマーを乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するようなゲル紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法などを含む)により繊維化する手法、または圧電性ポリマーを静電紡糸により繊維化する手法等により製造され得る。なお、電場形成フィラメント10の断面形状は、円形に限るものではない。
【0096】
例えば
図12に示す糸1は、このようなポリ乳酸を含んで成る電場形成フィラメント10を複数本で撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)(S糸)であってよい(撚り方に特に制限はない)。各電場形成フィラメント10の延伸方向900は、それぞれの電場形成フィラメント10の軸方向に一致している。したがって、電場形成フィラメント10の延伸方向900は、糸1の軸方向に対して、左に傾いた状態となる。尚、その角度は、撚り回数に依存する。
【0097】
このようなS糸である糸1に「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、糸1の表面には負(-)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には正(+)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0098】
糸1は、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、糸1に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、糸1と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0099】
次に、
図14を参照すると、糸2は、Z糸であるため、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の延伸方向900は、糸2の軸方向に対して、右に傾いた状態となる。尚、その角度は、糸の撚り回数に依存する。
【0100】
このようなZ糸である糸2に「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、糸2の表面には正(+)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には負(-)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0101】
糸2も、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、糸2に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、糸2と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0102】
さらに、S糸である糸1と、Z糸である糸2とを近接させた場合には、糸1と糸2との間に電場を生じさせることもできる。
【0103】
糸1と糸2とで生じる電荷(又は電位)の極性は互いに異なる。各所の電位差は、繊維同士が複雑に絡み合うことにより形成され得る電場結合回路、または水分等で糸の中に偶発的に形成され得る電流パスで形成され得る回路により定義され得る。
【0104】
糸1、糸2については、特許第6428979号公報を読むとより深く理解することができる。また、特許第6428979号公報は、本明細書中に参照することで組み込まれる。
【0105】
本開示の糸において、電場形成フィラメントがポリ乳酸(PLA)から構成されることが好ましい。電場形成フィラメントがポリ乳酸などの圧電材料を含むことで表面電位をより適切に制御することができる。また、ポリ乳酸は疎水性であることから、圧電部にさらりとした肌触りを提供することができ、ひいてはマスクに快適性を付与することもできる。
【0106】
「ポリ乳酸」の結晶化度は、例えば15~80%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内であると、ポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による分極をより効果的に生じさせることができる。
【0107】
本開示の糸は、上記の態様、特にポリ乳酸から構成され得る糸に限定して解釈されるべきではない。また、本開示の糸の製造方法についても特に制限はなく、上記の製造方法に限定されるものではない。
【0108】
さらに、本開示の糸は、電場形成フィラメントの周りに「誘電体」が設けられてよい。例えば、
図15の断面図で模式的に示す通り、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の周りには誘電体100を設けることができる。
【0109】
本開示において「誘電体」とは、「誘電性」(電場により電気的に正負に分極(又は誘電分極又は電気分極)する性質)を有する材料または物質を含んで成るものを意味し、その表面には電荷を溜めることができる。
【0110】
誘電体は、電場形成フィラメントの長手軸方向および周方向に存在してよく、電場形成フィラメントを完全に被覆していても、部分的に被覆していてもよい。尚、誘電体が電場形成フィラメントを部分的に被覆する場合、被覆されていない部分は、電場形成フィラメント自体がそのまま露出していてよい。
【0111】
従って、誘電体は、電場形成フィラメントの長手軸方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてよい。また、誘電体は、電場形成フィラメントの周方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてもよい。
【0112】
また、誘電体は、その厚みが均一であっても、不均一であってもよい(例えば、
図15を参照のこと)。
【0113】
誘電体は、複数の電場形成フィラメントの間に存在していてもよく、この場合、複数の電場形成フィラメントの間に誘電体が存在しない部分があってもよい。また、誘電体の中に気泡や空洞が存在していてもよい。
【0114】
誘電体は、誘電性を有する材料または物質を含む限り特に制限はない。誘電体として、主に繊維産業において表面処理剤(又は繊維処理剤)として使用できることが知られている誘電性の材料(例えば、油剤、帯電防止剤など)を用いてもよい。
【0115】
本開示の糸において、誘電体は、油剤を含んで成ることが好ましい。油剤として、電場形成フィラメントの製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(製糸油剤)などを使用することができる(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)。また、製布(たとえば製編、製織など)の工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)や、仕上工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)も使用することができる。ここでは代表例として、フィラメント製造工程、製布工程、仕上げ工程などを挙げたが、これらの工程に限定されるものではない。油剤として、特に電場形成フィラメントの摩擦を低減するために用いられる油剤などを使用することが好ましい。
【0116】
油剤として、例えば、竹本油脂株式会社製デリオン・シリーズ、松本油脂製薬株式会社製マーポゾール・シリーズ、マーポサイズ・シリーズ、丸菱油化工業株式会社製パラテックス・シリーズなどが挙げられる。
【0117】
油剤は、電場形成フィラメントに沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電場形成フィラメントを糸に加工した後、洗濯によって油剤の少なくとも一部または全部が電場形成フィラメントから脱落していてもよい。
【0118】
また、電場形成フィラメントの摩擦を低減するために用いられる誘電体は、洗濯時に使用される洗剤や柔軟剤などの界面活性剤であってもよい。
【0119】
洗剤として、例えば、花王株式会社製アタック(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製トップ(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製アリエール(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0120】
柔軟剤として、例えば、花王株式会社製ハミング(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製ソフラン(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製レノア(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0121】
誘電体は、導電性(電気を通す性質)を有していてよく、その場合、誘電体は、帯電防止剤を含んで成ることが好ましい。帯電防止剤として、電場形成フィラメントの製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる帯電防止剤などを使用することができる。帯電防止剤として、特に電場形成フィラメントのほぐれを低減するために用いられる帯電防止剤を使用することが好ましい。
【0122】
帯電防止剤として、例えば、株式会社日新化学研究所製カプロン・シリーズ、日華化学株式会社製ナイスポール・シリーズ、デートロン・シリーズなどが挙げられる。
【0123】
帯電防止剤は、電場形成フィラメントに沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電場形成フィラメントを糸に加工した後、洗濯によって帯電防止剤の少なくとも一部または全部が電場形成フィラメントから脱落していてもよい。
【0124】
また、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などは、電場形成フィラメントの周りに存在していなくてもよい。すなわち、電場形成フィラメント、ひいては本開示の糸は、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない場合もある。その場合、電場形成フィラメントの間に存在する空気(又は空気層)が誘電体として機能し得る。従って、この場合、誘電体は空気を含んで成る。
【0125】
例えば、電場形成フィラメントの周りに上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが付着した糸を洗濯や溶剤浸漬によって処理することで上述の表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない糸を使用してもよい。その場合、無垢の電場形成フィラメントが露出することになる。あるいは、本発明において、無垢の電場形成フィラメントのみを含んで成る糸を使用してもよい。
【0126】
また、本発明では、例えば洗濯や溶剤浸漬などの処理によって、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが部分的に除去されて無垢の電場形成フィラメントが部分的に露出した糸を使用してもよい。
【0127】
誘電体の厚み(又は電場形成フィラメントの間隔)は、約0μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約10μm、より好ましくは約2.0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。
【0128】
(表面電位)
本開示の糸において、外力の適用により発生する表面電位は、例えば0.1V以上、好ましくは1.0V以上である(正負いずれの電位も発生させることができる)。表面電位が1.0V以上であると、本開示のマスクにおいて、集塵力とともに、発生した電位により抗菌作用や抗ウイルス作用なども奏することができる。ここで、表面電位の測定方法に特に制限はなく、例えば走査型プローブ顕微鏡などを用いて測定することができる。
抗菌作用や抗ウイルス作用は、表面電位による直接的な殺菌作用や殺ウイルス作用であってもよく、細菌や真菌などの菌やウイルスが有する電位とは反対の電位を発生させることで菌やウイルスを寄せ付けないことに起因する作用であってもよい。
【0129】
[本開示のマスクの機能]
本開示のマスクは、防塵性に加えて、抗菌性および/または抗ウイルス性などの機能を有することができる。このような抗菌性および/または抗ウイルス性などの機能は、上述の通り、本開示のマスクの本体部に含まれる圧電部、特に圧電領域の伸縮により発生する電場/電位(又は電荷)に主に起因する。例えば、本開示のマスクの本体部に含まれる圧電領域を除く非圧電領域の伸縮性が圧電領域の伸縮性よりも相対的に低いことに起因して、圧電領域に電場/電位(又は電荷)が集中して効果的に発生し、抗菌性および/または抗ウイルス性などの機能が顕著に向上する。
本開示のマスクは、抗菌剤や抗ウイルス剤などの薬剤を全く使用しないことから、安全に使用することができる。
本開示のマスクは、洗濯などにより、抗菌性および/または抗ウイルス性などが低下する恐れがないので繰り返し洗濯して使用することができる。つまり、マスクが破損しない限り、半永久的に抗菌性および/または抗ウイルス性など効果が持続する。
本開示のマスクは、抗菌性および/または抗ウイルス性など効果に加えて、脱臭効果を奏することもできる。このような脱臭効果は、圧電領域に電場/電位(又は電荷)を集中して効果的に発生させて悪臭の元となる細菌や真菌を死滅または低減させることなどに起因するものと考えらえる。
本開示のマスクは、圧電領域を構成する糸、特に好ましくは電場形成フィラメントが疎水性のポリ乳酸から構成されることから、蒸れ感を低減し、さらりとした触感またはテクスチャを提供して口や鼻などに快適性を付与することもできる。また、息がしやすい、口や鼻などに対して追従性があることや、フィット感が向上するなどの効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本開示のマスクは、上述の通り、安全性を有し、防塵性、抗菌性および/または抗ウイルス性や脱臭性、快適性、追従性、フィット感などに優れ、洗濯することで繰り返し使用することができる。従って、本開示のマスクは、防塵マスク、抗菌マスク、抗ウイルスマスク、医療用マスクなどとして使用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1,2 糸
10 電場形成フィラメント
100 誘電体
110,120,130,140,150,160 マスク
X 本体部
Y,115,127,137,142,153,163 耳かけ部
Z,116,128,138,143 縁取り部
141 圧電部(圧電領域)
113,114,122,125,135,151,161 圧電領域の部分
111,112,121,123,124,126 非圧電領域の部分
131,132,133,134,136,152,162 非圧電領域の部分
900 延伸方向
910A 第1対角線
910B 第2対角線