(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】制電性樹脂組成物、制電性樹脂組成物の製造方法、及び電子部品包装材
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20240805BHJP
C08K 5/55 20060101ALI20240805BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240805BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20240805BHJP
B65D 73/02 20060101ALI20240805BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08L53/02
C08K5/55
C08K5/20
C08F293/00
B65D73/02 A
C08J3/22 CET
(21)【出願番号】P 2020099517
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚彦
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199829(JP,A)
【文献】特開2007-084785(JP,A)
【文献】特開2007-063302(JP,A)
【文献】国際公開第2012/173119(WO,A1)
【文献】特開2015-199880(JP,A)
【文献】特開2011-006604(JP,A)
【文献】特開昭63-226663(JP,A)
【文献】特開昭60-108450(JP,A)
【文献】特開昭60-013839(JP,A)
【文献】特開昭52-047849(JP,A)
【文献】特開昭59-043040(JP,A)
【文献】特開平01-185329(JP,A)
【文献】特開平03-072555(JP,A)
【文献】特開平01-230653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D
C08F
C08J
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、
ブロック共重合体(b)と、
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)と、
を、含む制電性樹脂組成物であって、
前記ブロック共重合体(b)が、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体であり、ビニル芳香族炭化水素単量体単位を
90質量%以上含む重合体ブロックを有し、
前記ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%であり、共役ジエン単量体単位が70~10質量%であり、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、前記ブロック共重合体(b)の合計量を100質量%としたとき、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の質量比が81質量%以下であり、前記ブロック共重合体(b)の質量比が19質量%以上100質量%未満であり、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、前記ブロック共重合体(b)と、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の合計量を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であり、
前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
【化1】
(式(1)中、R
1
、R
2
は、それぞれ独立に、CH
3
(CH
2
)
n
-CO-OCH
2
(nは12~22の整数)、又はHOCH
2
で、かつ少なくとも一方がCH
3
(CH
2
)
n
-CO-OCH
3
(nは12~22の整数)である。
R
3
、R
4
は、それぞれ独立に、CH
3
、C
2
H
5
、HOCH
2
、HOC
2
H
4
、及びHOCH
2
CH(CH
3
)からなる群より選ばれるいずれかである。
ここで、一般式(1)における「δ+」は、分子内の共有結合中に極性が存在していることを示し、(+)は酸素原子の電子供与性が強くなっていることを示し、(-)はホウ素原子の電子吸引性が強くなっていることを示し、「→」は電子が引き付けられる経路を示し、「---」は原子間結合力が弱められた状態を示す。)
表面抵抗率が1×10
12Ω/□以下であ
り、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と前記ブロック共重合体(b)の屈折率の差が0.004以下であり、ヘイズ値が4.0%以下である、制電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)が、
ビニル芳香族炭化水素単量体の単独重合体(a1)、
ビニル芳香族炭化水素単量体のグラフト共重合体(a2)、及び
ビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とのランダム共重合体(a3)からなる群より選ばれるいずれかである、
請求項
1に記載の制電性樹脂組成物。
【請求項3】
ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFR(以下、MFRaと記す)と、前記ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係が、
下記(i)~(iv)のいずれか一の条件を満たす、
請求項
1又は2に記載の制電性樹脂組成物。
<条件(i)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が0質量%を超え30質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%以上100質量%未満の場合は、
MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下である。
<条件(ii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が30質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%未満で50質量%以上の場合には、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下であり、
MFRa≧MFRb ・・(式2)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が50質量%を超えて70質量%以下であり、前記(b)成分が50質量%未満で30質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iv)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が70質量%を超えて81質量%以下であり、前記(b)成分が30質量%未満で19質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が3質量%以上5質量%以下である。
【請求項4】
ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a3)のMFR(以下、MFRaと記す)と、前記ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係において、
下記(v)又は(vi)の条件を満たす、
請求項
2に記載の制電性樹脂組成物。
<条件(v)>
前記(a3)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a3)成分が0質量%を超え20質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%以上100質量%未満の場合は、MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、
前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、(c)が0.5質量%以上5質量%以下である。
<条件(vi)>
前記(a3)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a3)成分が20質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%未満で50質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
を満足し、前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が3質量%以上5質量%以下である。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の制電性樹脂組成物の製造方法であって、
ブロック共重合体(b)と、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)とを用い、マスターバッチ全量を100質量%としたとき、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を5質量%以上20質量%以下の組成比率として溶融混練することによりマスターバッチを製造する工程(I)と、
前記マスターバッチと、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)及び/又はブロック共重合体(b)との混練によるマスターバッチを希釈する工程(II)と、
を、有する制電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の制電性樹脂組成物の成形体である、電子部品包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性樹脂組成物、制電性樹脂組成物の製造方法、及び電子部品包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(例えば、スチレン系樹脂)は、成形加工性、剛性、透明性等に優れ、かつ安価で比重が低く、経済的にも優れているため、ビニル芳香族炭化水素系樹脂で成形された成形品は、射出成形品や、Tダイから押し出されるシート状成形品や、異形金型から押出される丸状や角状のチューブ型異形押出成形品等として、様々な分野で広く使用されている。
【0003】
中でも、集積回路(IC)や大規模集積回路(LSI)等の電子部品を電子機器に実装・梱包するためのキャリアテープや、コネクタ並びに各種半導体部品を実装・梱包するためのマガジン管(マガジンスティックともいう)、及び液晶パネル等を梱包するための搬送用トレー等の各種電子部品包装材には、耐衝撃ポリスチレンや透明MBS樹脂(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂)といったビニル芳香族炭化水素系樹脂で構成されたシート状成形品やチューブ状の押出成形品が広く一般的に使用されている。
前記キャリアテープやマガジン管、搬送用トレー等の電子部品包装材は、その使用形態から剛性、耐衝撃性等の力学物性に加え、スリット加工時にバリを発生させない、あるいは真空成形時に偏肉のない均一な肉厚を得るための成形加工性や、透明性(視認性)、更には、静電気による電子部品の障害や破壊を防止するための制電性が要求される等、多岐に亘る要求特性があり、それらに応えるべく、これらの特性を向上させ、より良好な物性バランスを得るために様々な改良検討がなされている。
【0004】
とりわけビニル芳香族炭化水素系樹脂をベースとした制電性材料としては、従来から、スチレン系樹脂にケッチェンブラック等の導電性カーボンを配合した組成物が広く知られている。
従来提案されているスチレン系樹脂に導電性カーボンを配合したスチレン系制電性材料は、表面抵抗率105Ω/□程度を発揮し、電子部品の種類によっては必要不可欠な極めて低い表面抵抗率を発現するが、電子部品によってはそこまで低い表面抵抗率は必ずしも必要不可欠ではなく、表面抵抗率1010Ω/□程度でも十分な電子部品も多数存在する。
一方、導電性カーボンを配合した制電性材料の短所としては、成形品の色が黒く不透明なため視認性に劣り、包装された状態で内容物の確認がし難いという問題がある。また、成形した電子部品包装材に電子部品を実装して実際に搬送した際に、搬送時の振動による電子部品と包装材の接触部分の摩擦により導電性カーボンが脱落し、脱落した導電性カーボンが電子部品に付着するなどの、コンタミネーションを起こし得る問題も指摘されている。
【0005】
他方において、導電性カーボンを用いずに制電性能を発現させた樹脂組成物に関する技術開発も従来よりなされている。
例えば、スチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂にポリオキシアルキレン鎖を有する高分子型の導電性ポリマーをブレンドした樹脂組成物に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、一般的に高分子型の導電性ポリマーは、基材樹脂であるスチレン系樹脂より屈折率が低く、高分子型の導電性ポリマーを配合した樹脂組成物からなる電子部品包装材は、それらの屈折率の乖離が大きいため、白濁し視認性が損なわれるという問題がある。更には、制電性発現のためには高分子型の導電性ポリマーを通常10%以上もの含有量で、多量に配合する必要があり、そのポリマー構造ゆえ弾性率が低く、樹脂組成物の剛性が低下する等、樹脂組成物の力学特性が大きく変化するという問題もある。
【0006】
また、制電性樹脂組成物を得るための手法として、汎用的な帯電防止剤である界面活性剤を熱可塑性樹脂に添加する方法も従来知られている。
しかしながら、界面活性剤タイプの帯電防止剤は成形品の表面にブリードアウトすることにより性能を発現するため、成形品の表面を水拭きすると一時的に制電性能が低下し、表面抵抗率が上昇する等の制電性能における安定性に課題がある。更には、帯電防止剤そのものが成形品表面にブリードアウトするため、内容物である電子部品に付着しコンタミネーションを生じる懸念もあり、電子部品包装材用途には不適切である。
【0007】
そこで近年、新しいタイプの帯電防止剤として、有機ホウ素化合物と窒素含有化合物とからなるドナー・アクセプター系分子化合物を用い、これを熱可塑性樹脂に添加した制電性樹脂組成物が提案されている(例えば特許文献2、非特許文献1参照)。
これは、分子化合物の概念を取り入れた帯電防止剤である。この制電性樹脂組成物は、従来の成形品表面にブリードアウトして帯電防止効果を発揮する界面活性剤タイプとは異なり、電子ドナーとアクセプターを組み合わせることにより、電荷の遣り取りを瞬時に行うことで、帯電した電荷を瞬時に減衰させ帯電防止効果を発現するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-6604号公報
【文献】特許第5734491号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】雑誌「プラスチックスエージ」2018年4月号47~52ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記有機ホウ素化合物と窒素含有化合物とからなるドナー・アクセプター系分子化合物を用いた制電性樹脂組成物にも課題がある。
制電性能を発現するのはPEやPP、環状ポリオレフィン等のいわゆる結晶性を有するポリオレフィン樹脂か、あるいは、ポリアミド、PET樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニルやポリアセタール等の炭化水素以外のヘテロ原子を高分子骨格内に一定濃度以上含有するいわゆる極性樹脂に限定される。すなわち、汎用ポリスチレン(GPPSともいう)やゴム変性ポリスチレン(HIPSともいう)やメタアクリル酸メチル含量が20質量%程度のメタアクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(MS樹脂ともいう)では、例えば4質量%程度の、通常においては十分な量と考えられる前記ドナー・アクセプター系分子化合物を配合したとしても、表面抵抗率を下げる効果が得られず、制電性能は発現されない、という問題点を有している。
【0011】
そこで本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、汎用ポリスチレン(GPPS)やグラフトゴム粒子を含有するゴム変性ポリスチレン(HIPS)やスチレンアクリル共重合樹脂等のスチレン系樹脂をベース樹脂として用いた場合であっても、前記ドナー・アクセプター系分子化合物を配合した樹脂組成物において、ドナー・アクセプター系分子化合物本来の特性を引き出し、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、ドナー・アクセプター系分子化合物と、特定のブロック共重合体を組み合わせ、かつ組成の最適化を行うことにより、優れた帯電防止性能及び透明性を発現できる制電性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0013】
〔1〕
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、
ブロック共重合体(b)と、
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)と、
を、含む制電性樹脂組成物であって、
前記ブロック共重合体(b)が、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体であり、ビニル芳香族炭化水素単量体単位を90質量%以上含む重合体ブロックを有し、前記ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%であり、共役ジエン単量体単位が70~10質量%であり、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、前記ブロック共重合体(b)の合計量を100質量%としたとき、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の質量比が81質量%以下であり、前記ブロック共重合体(b)の質量比が19質量%以上100質量%未満であり、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、前記ブロック共重合体(b)と、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の合計量を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であり、
前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
表面抵抗率が1×1012Ω/□以下であり、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と前記ブロック共重合体(b)の屈折率の差が0.004以下であり、ヘイズ値が4.0%以下である、制電性樹脂組成物。
〔2〕
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)が、
ビニル芳香族炭化水素単量体の単独重合体(a1)、
ビニル芳香族炭化水素単量体のグラフト共重合体(a2)、及び
ビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とのランダム共重合体(a3)からなる群より選ばれるいずれかである、前記〔1〕に記載の制電性樹脂組成物。
〔3〕
ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFR(以下、MFRaと記す)と、前記ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係が、
下記(i)~(iv)のいずれか一の条件を満たす、前記〔1〕又は〔2〕に記載の制電性樹脂組成物。
<条件(i)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が0質量%を超え30質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%以上100質量%未満の場合は、
MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下である。
<条件(ii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が30質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%未満で50質量%以上の場合には、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下であり、
MFRa≧MFRb ・・(式2)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が50質量%を超えて70質量%以下であり、前記(b)成分が50質量%未満で30質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iv)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が70質量%を超えて81質量%以下であり、前記(b)成分が30質量%未満で19質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が3質量%以上5質量%以下である。
〔4〕
ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a3)のMFR(以下、MFRaと記す)と、前記ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係において、
下記(v)又は(vi)の条件を満たす、前記〔2〕に記載の制電性樹脂組成物。
<条件(v)>
前記(a3)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a3)成分が0質量%を超え20質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%以上100質量%未満の場合は、MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、
前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、(c)が0.5質量%以上5質量%以下である。
<条件(vi)>
前記(a3)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a3)成分が20質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%未満で50質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
を満足し、前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が3質量%以上5質量%以下である。
〔前記〔1〕に記載の前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)〕
前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
【0015】
(式(1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、CH3(CH2)n-CO-OCH2(nは12~22の整数)、又はHOCH2で、かつ少なくとも一方がCH3(CH2)n-CO-OCH3(nは12~22の整数)である。
R3、R4は、それぞれ独立に、CH3、C2H5、HOCH2、HOC2H4、及びHOCH2CH(CH3)からなる群より選ばれるいずれかである。
ここで、一般式(1)における「δ+」は、分子内の共有結合中に極性が存在していることを示し、(+)は酸素原子の電子供与性が強くなっていることを示し、(-)はホウ素原子の電子吸引性が強くなっていることを示し、「→」は電子が引き付けられる経路を示し、「---」は原子間結合力が弱められた状態を示す。)
【0016】
〔5〕
前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の制電性樹脂組成物の製造方法であって、
ブロック共重合体(b)と、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)とを用い、マスターバッチ全量を100質量%としたとき、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を5質量%以上20質量%以下の組成比率として溶融混練することによりマスターバッチを製造する工程(I)と、
前記マスターバッチと、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)及び/又はブロック共重合体(b)との混練によるマスターバッチを希釈する工程(II)と、
を、有する制電性樹脂組成物の製造方法。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の制電性樹脂組成物の成形体である、電子部品包装材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、汎用ポチスチレン(GPPS)やゴム変性ポリスチレン(HIPS)、メタアクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(MS樹脂)等のスチレン系樹脂と組み合わせた場合においても、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物、当該制電性樹脂組成物の製造方法、及び電子部品包装材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
〔制電性樹脂組成物〕
(第一の制電性樹脂組成物)
本実施形態の第一の制電性樹脂組成物は、ブロック共重合体(b)と、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)とを含む制電性樹脂組成物である。
前記ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体であり、ビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックを有し、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%、共役ジエン単量体単位が70~10質量%である。
また、前記ブロック共重合体(b)とドナー・アクセプター系分子化合物(c)の合計量を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である。
【0020】
上記構成を有することにより、汎用ポリスチレン(GPPS)やゴム変性ポリスチレン(HIPS)、メタアクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(MS樹脂)等のスチレン系樹脂と組み合わせた場合においても、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。
【0021】
本実施形態の第一の制電性樹脂組成物は、表面抵抗率が1×1012Ω/□以下であることが好ましい。
これにより、優れた帯電防止性能を発揮し得る。
第一の制電性樹脂組成物における表面抵抗率は、5×1011Ω/□以下であることが好ましく、5×1010Ω/□以下であることがより好ましい。
制電性樹脂組成物の表面抵抗率は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
第一の制電性樹脂組成物の表面抵抗率は、前記ブロック共重合体(b)のポリマー構造の最適化に加え、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を適量を配合することにより上記数値範囲に制御することができる。
本来的には表面抵抗率の下限値は無く、低いほど性能良好と見なされる。ただし、表面抵抗率の低減はコストに比例するため、現実的には、1×108Ω/□~1×109Ω/□を下限として設計することが好ましい。
【0022】
(第二の制電性樹脂組成物)
本実施形態の第二の制電性樹脂組成物は、
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、
ブロック共重合体(b)と、
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)と、
を、含む制電性樹脂組成物である。
前記ブロック共重合体(b)が、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体であり、ビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックを有し、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%、共役ジエン単量体単位が70~10質量%である。
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の合計量を100質量%としたとき、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の質量比は81質量%以下であり、前記ブロック共重合体(b)の質量比が19質量%以上100質量%未満である。
また、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)と、前記ブロック共重合体(b)と、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の合計量を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である。
さらに、第二の制電性樹脂組成物は、表面抵抗率が1×1012Ω/□以下である。
【0023】
上記構成を有することにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた、各種スチレン系樹脂組成物である制電性樹脂組成物が得られる。
【0024】
本実施形態の第二の制電性樹脂組成物は、表面抵抗率が1×1012Ω/□以下である。
これにより、優れた帯電防止性能を発揮し得る。
第二の制電性樹脂組成物における表面抵抗率は、5×1011Ω/□以下であることがより好ましく、5×1010Ω/□以下であることがさらに好ましい。
制電性樹脂組成物の表面抵抗率は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
第二の制電性樹脂組成物の表面抵抗率は、前記ブロック共重合体(b)組成比率とポリマー構造の最適化に加え、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を適量を配合することにより上記数値範囲に制御することができる。
【0025】
前記第二の制電性樹脂組成物の好ましい態様を以下に示す。
前記第二の制電性樹脂組成物は、ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFR(以下、MFRaと記す)と、ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係が、下記の(i)~(iv)のいずれか一の条件を満たすものであることが好ましい。
【0026】
<条件(i)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、(a)成分が0質量%を超え30質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%以上100質量%未満の場合、MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が0.5質量%以上5質量%以下である。
【0027】
上記条件(i)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、ブロック共重合体(b)の組成比率が高いため、柔軟性に富み、優れた衝撃強さを有する効果が得られる。
条件(i)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、好ましくは1~5質量であり、より好ましくは2~4質量%である。
【0028】
<条件(ii)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が30質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%未満で50質量%以上の場合には、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下であり、
MFRa≧MFRb ・・(式2)
の関係となる場合、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
【0029】
上記条件(ii)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)に由来し、樹脂組成物の剛性をより高める効果が得られる。
条件(ii)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、前記(式1)を満たす場合、好ましくは1~5質量%であり、より好ましくは2~4質量%である。
また、前記(式2)を満たす場合、好ましくは2~5質量%であり、より好ましくは2~4質量%である。
【0030】
<条件(iii)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が50質量%を超えて70質量%以下であり、前記(b)成分が50質量%未満で30質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、かつ、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が0.9質量%以上5質量%以下である。
【0031】
上記条件(iii)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)に由来し、樹脂組成物の剛性を更に高める効果が得られる。
条件(iii)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、好ましくは2~5質量%であり、より好ましくは3~5質量%である。
【0032】
<条件(iv)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が70質量%を超えて81質量%以下であり、前記(b)成分が30質量%未満で19質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が3質量%以上5質量%以下である。
【0033】
上記条件(iv)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)が元来有する剛性に近しい値にまで高める効果が得られる。
条件(iv)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、好ましくは3.5~5質量%であり、より好ましくは4~5質量%である。
【0034】
本明細書中、重合体を構成する各単量体単位の命名は、単量体単位が由来する単量体の命名に従う。例えば、「ビニル芳香族炭化水素単量体単位」とは、単量体であるビニル芳香族炭化水素単量体を重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、置換ビニル基に由来する置換エチレン基の二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。
また、「共役ジエン単量体単位」とは、単量体である共役ジエンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、共役ジエン単量体に由来するオレフィンの二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。
【0035】
なお、本明細書中、「主体とする」とは、所定の単量体単位の含有量が90質量%以上であることをいう。
例えば、ブロック共重合体(b)において、「ビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロック」とは、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が90質量%以上であるブロックをいう。
ビニル芳香族炭化水素単量体単位が90質量%未満、かつ共役ジエン単量体単位が10質量%を超える重合体ブロックはランダム共重合体ブロックと定義する。
ランダム共重合体ブロックは、完全ランダム構造でも、テーパード構造(連鎖に沿って、共重合組成比率が段階的に変化するもの)でもよい。
【0036】
(ブロック共重合体(b)、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の質量比)
本実施形態の第一の制電性樹脂組成物は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体(b)及びドナー・アクセプター系分子化合物(c)を含む。
前記ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%、共役ジエン単量体単位が70~10質量%である。
前記ブロック共重合体(b)と、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の合計を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である。
【0037】
(ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)、ブロック共重合体(b)、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の質量比)
本実施形態の第二の制電性樹脂組成物における、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の質量比は、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)/ブロック共重合体(b)=0を超える量/100未満~81以下/19以上の間である。
前記質量比率内で、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の質量比の変動に応じて、各々のMFR値(MFRaとMFRb)の大小に依存して、性能を発現するドナー・アクセプター系分子化合物(c)の最低必要量が決まる。
質量比に応じたビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の各々のMFR値の条件に応じて、十分な制電性能を発現できるように、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)/ブロック共重合体(b)の比率及び/又はドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量を設定する。
【0038】
本実施形態の制電性樹脂組成物において、優れた帯電防止性能、すなわち制電性能発現に至るための、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の質量比とMFRの相対比較値は、制電性能を発現するに至るドナー・アクセプター系分子化合物(c)の最低限必要な配合量に密接に関係する。
例えば、ブロック共重合体(b)を用いずに、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)にドナー・アクセプター系分子化合物(c)を、4質量%程度配合したとしても、制電性能は発現しない。制電性能を発現するためには、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)の合計を100質量部とした場合には、少なくともブロック共重合体(b)の含有量を19質量%以上とした組成であることが必要である。
また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたときの、ブロック共重合体(b)が70質量%以上となると、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の制電性能発現に至る最低配合量が0.5質量%となり、また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)やブロック共重合体(b)のMFR値に依存しなくなるため、性能発現する組成範囲は格段に広がる。
例えば、ビニル芳香族炭化水素樹脂(a)を用いずに、ブロック共重合体(b)を99.5質量%にドナー・アクセプター系分子化合物(c)を0.5質量%配合することでも制電性能は発揮する。つまり、ビニル芳香族炭化水素樹脂に制電性能を発現させるためにはブロック共重合体(b)の一定割合以上存在することが必須であり、制電性能発現に至る何らかの相互作用が考えられる。
【0039】
以下、本実施形態の制電性樹脂組成物の構成成分である、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)、ブロック共重合体(b)、及びドナー・アクセプター系分子化合物(c)について詳細に説明する。
【0040】
(ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a))
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)は、汎用ポリスチレン(GPPS)に代表される、ビニル芳香族炭化水素単量体の単独重合体(a1)、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)に代表される、ポリブタジエンやスチレン・ブタジエンゴムなどの合成ゴムをスチレンモノマーに溶解させ、攪拌しながらグラフト重合を行って得られるグラフト共重合体(a2)、及び、MS樹脂に代表される、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とのランダム共重合体(a3)からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。
(a1)及び(a2)に対し、(a3)は、その極性の違いから、ブロック共重合体(b)と混合した際の分散形態が異なるため、制電性樹脂組成物における制電性能発現の組成範囲が異なる。
【0041】
前記第二の制電性樹脂組成物は、ISO1133で規定される200℃・5kg荷重条件下におけるメルトフローレイト(MFR)において、前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a3)のMFR(以下、MFRaと記す)と、ブロック共重合体(b)のMFR(以下、MFRbと記す)の関係が、下記の(v)又は(vi)の条件を満たすものであることが好ましい。
【0042】
<条件(v)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a3)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、(a3)成分が0質量%を超え20質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%以上100質量%未満の場合、MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、
前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下である。
【0043】
上記条件(v)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、(a1)あるいは(a2)を用いた組成物と比較してヘイズ値が低く透明性に優れた樹脂組成物が得られる。
条件(v)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、好ましくは1~5であり、より好ましくは2~4質量%である。
【0044】
<条件(vi)>
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a3)とブロック共重合体(b)との合計を100質量%としたとき、前記(a3)成分が20質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が80質量%未満で50質量%以上の場合には、
MFRa<MFRb ・・(式1)
を満足し、前記(a3)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が3質量%以上5質量%以下である。
【0045】
上記条件(vi)を満たすことにより、優れた帯電防止性能を発現し、かつ透明性にも優れた制電性樹脂組成物が得られる。また、(a1)あるいは(a2)を用いた組成物と比較してヘイズ値が低く透明性に優れた樹脂組成物が得られる。
条件(vi)において、前記ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の含有量は、好ましくは3.5~5質量%であり、より好ましくは4~5質量%である。
【0046】
MS樹脂(a3)における、ビニル芳香族炭化水素単量体単位(S)と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位(M)との共重合比率は、S/M=83/17~60/40(質量%)の間であることが好ましく、より好ましくはS/M=82/18~68/32(質量%)であり、さらに好ましくはS/M=82/18~78/22(質量%)である。
この組成比のMS樹脂を使用することで、ブロック共重合体(b)との屈折率が近似となり、分散形態は完全相容ではないものの、ミクロンオーダーで均一分散形態を呈し、透明性と力学物性に優れた制電性樹脂組成物が得られる。
一方、成分(a3)のビニル芳香族炭化水素単量体単位の含有量が60質量%未満である場合、ブロック共重合体(b)との屈折率の乖離が大きくなり、制電性樹脂組成物の白濁傾向が顕著となり、更には極性の乖離も大きくなるため相容性も悪化し、制電氏樹脂組成物の力学特性が著しく低下するため好ましくない。
制電性能を阻害しない範囲であれば、MS樹脂(a3)は、共重合可能な他の単量体単位を必要に応じて含んでもよい。
【0047】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)を構成するビニル芳香族炭化水素単量体は、分子内に芳香環とビニル基とを有すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
これらのビニル芳香族炭化水素単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、工業的な入手の容易さ及び経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0048】
前記ビニル芳香族炭化水素系樹脂のうち、特に、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とのランダム共重合体(a3)を構成する(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、及びメタクリル酸アルキルエステルからなる群より選ばれる1種、あるいは2種以上の単量体を意味する。
【0049】
アルキルエステルは、炭素数1~8(C1~C8)のアルキルアルコールとアクリル酸及び/又はメタクリル酸とのエステル化合物の1種以上であればよい。
(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル(ブチルアクリレート)、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル等のアクリル酸C1-6アルキルエステル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸シクロアルキルエステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル等のメタクリル酸C1-6アルキルエステル、及びメタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸シクロヘキシルエステルが挙げられ、これらの中でも、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の軟化温度を一層高くでき、その結果、得られる成形体の成形性及び耐熱変形性を一層向上できる観点から、アクリル酸C1-6アルキルエステル、メタクリル酸C1-6アルキルエステルが好ましく、アクリル酸C1-4アルキルエステル、メタクリル酸C1-4アルキルエステルがより好ましく、より好ましくはアクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸メチルであり、さらに好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0050】
本明細書中、「ビニル芳香族炭化水素単量体単位と、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とのランダム共重合体」(a3)には、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と、その他の(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位以外の、これらの重合可能なその他の単量体単位を少量含む重合体も含まれる。
その他の単量体単位の量は、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)中、2質量%以下であることが好ましい。
特に好ましい共重合体として例示した「ビニル芳香族炭化水素単量体単位と、メタクリル酸メチルとのランダム共重合体」の場合も、他の単量体単位を2質量%以下含む態様もこれに包含される。
【0051】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)は、公知の重合方法により製造することができる。
公知の重合方法としては、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)が、GPPSに代表されるビニル芳香族炭化水素単量体の単独重合体(a1)の場合、例えばスチレンモノマーを例にとると、エチルベンゼンの共存下で有機過酸化物の存在下、あるいは有機過酸化物を使用せず熱のみで、ラジカル重合を経て、溶媒のエチルベンゼンと未反応スチレンモノマーを除去し、スチレン単独重合体(GPPS)を得ることができる。
【0052】
また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)が、HIPSに代表されるゴム変性ポリスチレンであるグラフト共重合体(a2)の場合、例えば、ポリブタジエンをエチルベンゼンとスチレンモノマーの混合液に溶解し、有機過酸化物の存在下、適切な温度下にて攪拌しながらラジカル重合させ、溶媒のエチルベンゼンと未反応スチレンモノマーを除去することで、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)を得ることができる。
ポリブタジエンの分子量(ムーニー粘度、あるいは溶液粘度)やポリブタジエンに代わりスチレン・ブタジエンゴムを使用する等、あるいは攪拌速度の制御によりグラフトゴム粒子の大きさやオクルード形状やその粗密を制御することができる。
【0053】
さらに、ビニル芳香族炭化水素樹脂(a)が、MS樹脂に代表される(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含むランダム共重合体(a3)の場合は、ビニル芳香族炭化水素単量体と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルとの共存下に、上記の例と同様に、ラジカル重合による製造法が工業的には一般的である。
【0054】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFRは、単量体単位の重合度やグラフト率等の要因によって変化するが、これらの要因に加え、ミネラルオイル等の添加剤を添加することによっても大きく変化する。ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFRは前記(a)成分と(b)成分との分散状態に影響し、当該分散状態は、本実施形態の制電性樹脂組成物の制電性能発現のための重要な要素である。
前記条件(i)~(vi)は、このミネラルオイル等の添加剤を含んだ状態の(a)成分のMFR値を規定しており、当該MFRの値が、本実施形態の制電性樹脂組成物の性能発現に直接影響する。
【0055】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の製造方法においては、エチルベンゼン等の重合溶媒や、有機過酸化物等のラジカル発生剤、脂肪族メルカプタン等の連鎖移動剤を適宜使用してもよい。以下に具体例を述べる。
【0056】
重合溶媒は、連続重合過程における反応系内の粘度を低く保つために用いるものであり、その有機溶剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0057】
特に、重合単量体として多官能ビニル芳香族炭化水素単量体を使用する場合などは、ゲル化を抑制する観点から、重合溶媒を使用することが好ましい。
重合溶媒を使用することにより、ゲルを生じ難くなり、重合プロセスにおけるより緻密な制御が可能となり、所望の組成と物性を有するビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)を得ることがより容易となる。
【0058】
重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化を制御するという観点から、通常、重合反応器内の組成物全体に対し、1~50質量%であることが好ましく、5~25質量%の範囲内であることがより好ましい。
1~50質量%の重合溶媒を使用することにより、ゲル化の抑制と高度な重合プロセス制御により、工業生産性と経済性に優れたビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)を得ることができる。
【0059】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の重合工程においては、有機過酸化物等のラジカル剤を好ましく使用することができる。
ラジカル剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ジ(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート等のアルキルパーオキサイド類;t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類;t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)等のパーオキシカーボネート類;N,N'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、N,N'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、N,N'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、N,N'-アゾビス[2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
これらのラジカル剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
さらにビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の重合工程において、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の分子量調整を目的として連鎖移動剤を用いることができる。
連鎖移動剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー、テルピノーレン等が挙げられる。
【0061】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)の分子量は、モノマー濃度や有機過酸化物等のラジカル剤の量、連鎖移動剤の有無や量等を調整することにより制御することができる。
一般的にはラジカル発生量を減らし、連鎖移動剤を用いなければ高分子量化し、ラジカル発生量を増やし、連鎖移動剤を添加あるいは量を増やせば低分子量化する。
【0062】
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)としては、市販品を用いることが可能である。例えば、GPPS及びHIPSは、PSジャパン社製品「PSJ-ポリスチレン」が挙げられる。GPPSは透明でHIPSは乳白であり、いずれの銘柄も好適に利用できるが、MFRにより性能発現の傾向が異なる点に留意する。
また、MS樹脂では、PSジャパン社製品「PSJ-ポリスチレン SC004」や「PSJ-ポリスチレン MM290」、東洋スチレン社製品「トーヨーMS MS200」や「トーヨーMS MS300」、「トーヨーMS KS10」等が好ましい銘柄として挙げられる。
これらはいずれもブロック共重合体(b)と屈折率が近似であり、透明組成物が得られ易く、また、分散形態は完全相容ではないものの、ミクロンオーダーで均一分散性を呈し、透明性と力学物性に優れた制電性樹脂組成物が得られることから好ましく使用することができる。
【0063】
(ブロック共重合体(b))
ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位を含むブロック共重合体であり、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が30~90質量%、共役ジエン単量体単位が70~10質量%であり、少なくとも1つのビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックを有する。
ブロック共重合体(b)を構成するビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックとは、ビニル芳香族炭化水素単量体単位が90質量%以上からなる重合体ブロックである。
また、ブロック共重合体(b)を構成する共役ジエン単量体単位は、共役ジエン単量体単位単独からなる共役ジエン重合体ブロックの他、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族炭化水素単量体単位との共重合ブロックとして含有されてもよい。共重合ブロックの場合、均一ランダム構造や、テーパード構造(連鎖に沿って単量体の組成比率が変化する)など、種々の共重合ブロック構造とすることができる。
また、ブロック共重合体(b)は、異なる平均分子量を有する2種以上のブロック共重合体を組み合わせてもよく、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位の共重合比率が異なる2種以上のブロック共重合体を組み合わせてもよい。
また、ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位及び共役ジエン単量体単位以外の重合可能な他の単量体単位を、必要に応じて含んでもよい。
【0064】
ビニル芳香族炭化水素単量体は、分子内に芳香環とビニル基とを有するものであればよく、以下に限定されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、及び1,1-ジフェニルエチレンが挙げられる。
これらのビニル芳香族炭化水素単量体は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、工業的及び経済性の観点から、スチレンが好ましい。
【0065】
共役ジエン単量体としては、一対の共役二重結合を有するジオレフィンであればよく、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
これらの共役ジエン単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
これらの中でも、工業的な入手の容易さ及び経済性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、工業的な入手の容易さ及び経済性がより高い観点で1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0066】
ブロック共重合体(b)におけるビニル芳香族炭化水素単量体単位と、共役ジエン単量体単位との質量割合は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位/共役ジエン単量体単位=30/70~90/10である。
各単量体単位の比率が上記範囲内にあることにより、後述のドナー・アクセプター系分子化合物(c)と組み合わせた本実施形態の制電性樹脂組成物において、良好な制電性を発現することができる。
【0067】
ブロック共重合体(b)において、ビニル芳香族炭化水素単量体単位/共役ジエン単量体単位の質量%の比率の範囲は、上述したように、30/70~90/10である。
ブロック共重合体(b)を構成するビニル芳香族炭化水素単量体単位の比率が30質量%に満たない場合は、単体では非常に弾性率が低いため、かかるブロック共重合体(b)を用いた制電性樹脂組成物を電子部品包装材として利用するには、成分(a)であるビニル芳香族炭化水素系樹脂を主体とした組成物とする必要性がある。しかしながら、ブロック共重合体(b)自体のビニル芳香族炭化水素単量体単位の比率が低いため、(a)成分であるビニル芳香族炭化水素系樹脂との相容性が悪化し、その影響でドナー・アクセプター系分子化合物(c)の分散性も悪化する傾向にある。
ブロック共重合体(b)において、ビニル芳香族炭化水素単量体単位の含有量は、30質量%以上とすることにより、実用上十分な弾性率を確保しつつ、(a)成分との相容性が良好で、後述する(c)成分の分散性も良好な制電性樹脂組成物が得られる。
【0068】
一方で、ブロック共重合体(b)を構成するビニル芳香族炭化水素単量体単位の比率が90質量%を超える場合は、制電性樹脂組成物のベース樹脂としてブロック共重合体(b)を100質量%とした場合であっても、ビニル芳香族炭化水素樹脂(a)を任意の割合でブレンドしても、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を4質量%配合しても表面抵抗率は低下しにくい傾向にある。
【0069】
ブロック共重合体(b)における、ビニル芳香族炭化水素単量体単位、及び共役ジエン単量体単位の含有量は、後述する実施例に記載する方法により定量することができる。
また、これらの単量体単位の含有量は、ブロック共重合体(b)の重合工程における、各々の単量体の添加量と比率を調整することにより制御することができる。
【0070】
ブロック共重合体(b)としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)~(7)に示すブロック構造を有するブロック共重合体が挙げられる。
S1-B1-S2 ・・・(1)
S1-B/S1-S2 ・・・(2)
S1-B1-S2-B2 ・・・(3)
S1-B/S1-S2-B/S2 ・・・(4)
S1-B/S1-B/S2-S2 ・・・(5)
S1-B1-B/S1-S2 ・・・(6)
S1-B1-S2-B2-S3 ・・・(7)
【0071】
前記一般式(1)~(7)中、S1、S2、及びS3は、それぞれビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックを示し、B1及びB2は、それぞれ共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)を示し、B/S1及びB/S2は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位及び共役ジエン共重合体単位の含有量が各々90質量%未満であるランダム共重合体ブロック(B/S)を示す。
【0072】
なお、前記一般式(1)~(7)中の、S、B、B/Sに付した番号は、それぞれ、重合体ブロックと、重合体ブロック(B)と、ランダム共重合体ブロック(B/S)と、を同定するための番号であり、数字が異なるものは、それぞれのブロックの分子量(重合度)、あるいは共重合比率が同一であっても異なっていてもよい。また、ランダム共重合体ブロック(B/S)の連鎖構造は、均一ランダムブロックでも、テーパードブロック(連鎖に沿って、徐々に組成比率が変化したもの)であってもよい。
【0073】
また、ブロック共重合体(b)は、線状重合体でも分岐状重合体のいずれでもよい。
分岐状重合体を得る方法としては、例えば、重合終末端をカップリング反応させる方法や、多官能開始剤を用いて重合初期から分岐させる方法等が挙げられる。
【0074】
また、本実施形態の制電性樹脂組成物の好適な用途として、電子部品包装材料が挙げられるが、かかる用途に鑑み、要求される種々の力学特性の観点から、ブロック共重合体(b)は、ビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックSを少なくとも1つ以上有するものであり、好ましくは重合体ブロックSを少なくとも2つ以上有するものである。
なお、本明細書において、「ビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロック」を、「重合体ブロックS」と記載する場合がある。
【0075】
<ブロック共重合体(b)のピーク分子量及び分子量分布>
本実施形態の制電性樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定法(GPC測定法)により測定される分子量分布曲線において、分子量が30,000以上300,000以下の範囲内に、ブロック共重合体(b)由来のピーク分子量が少なくとも1つ存在することが好ましい。これにより、本発明の制電性樹脂組成物の力学特性と成形加工性のバランスが一層良好となる。
同様の観点から、ブロック共重合体(b)由来のピーク分子量は、40,000以上250,000以下の範囲内に存在することがより好ましく、50,000以上210,000以下の範囲内に存在することがさらに好ましい。
なお、ブロック共重合体(b)のピーク分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0076】
<ブロック共重合体(b)の分子量分布(Mw/Mn)>
ブロック共重合体(b)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されない。後述するカップリング剤等により一部ポリマーの重合活性末端を会合させることにより、異なる分子量の組み合わせを有するため分子量分布(Mw/Mn)が大きいブロック共重合体(b)を得ることができる。
【0077】
さらには、重合途中にエタノール等のアルコールを適量添加することにより、一部のポリマーの重合を停止させることで異なる分子量の混合物であるブロック共重合体(b)を得ることができる。例えば、重合系内の重合開始剤のモル数よりも、少ないモル当量のエタノール等のアルコールを重合系内に添加することにより、部分的にポリマーの重合を停止させることができるため、ピーク分子量を複数有する分子量分布(Mw/Mn)の大きいブロック共重合体(b)を得ることができる。
【0078】
<重合体ブロックSの数平均分子量(Mn)>
ブロック共重合体(b)におけるビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックSの数平均分子量(Mn)は、好ましくは10,000~60,000であり、より好ましくは15,000~50,000であり、さらに好ましくは20,000~40,000である。
重合体ブロックSの数平均分子量(Mn)が上記範囲内であることにより、一層優れた力学特性及び良好な成形外観をバランスよく備えた成形品(例えば、スチレン系樹脂シート)を得ることができる。
ブロック共重合体(b)における重合体ブロックSの数平均分子量(Mn)は、重合開始剤に対するビニル芳香族炭化水素単量体の供給量(フィード量)を調整することにより制御可能である。
【0079】
ブロック共重合体(b)は、少なくとも1つのビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックSを含む。好ましくは2つ以上の重合体ブロックSを含み、少なくとも1つの重合体ブロックSはポリマー鎖の末端に存在することがより好ましい。重合体ブロックSの分子量は、2つ以上含む場合も各々独立して構造を制御することが可能である。
なお、上記重合体ブロックSの数平均分子量(Mn)は、ブロック共重合体(b)中の全ての重合体ブロックSを合わせた数平均分子量として表される。例えば、S1-B/S1-S2構造のブロック共重合体(b)の場合、重合体ブロックSの平均分子量は、S1とS2を合わせた数平均分子量となる。
【0080】
ブロック共重合体(b)における重合体ブロックSの数平均分子量は、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により得た重合体ブロックS成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素単量体重合体成分は除かれている。)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することにより得ることができる。具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0081】
<重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)>
ブロック共重合体(b)中のビニル芳香族炭化水素単量体単位を主体とする重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5~4.0であり、より好ましくは1.6~3.6であり、さらに好ましくは1.7~3.2である。
重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内であることにより、本実施形態の制電性樹脂組成物の成形加工性、及びブロック共重合体(b)とビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)との分散性のバランスが一層良好なものとなり、成形時の流れ模様などの成形外観不良の生じ難い良好な成形外観を有する成形品が得られる傾向にある。
【0082】
ブロック共重合体(b)における重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)は、ブロック共重合体(b)中の全ての重合体ブロックSを合わせた全体の平均分子量分布である。例えば、S1-B/S1-S2構造のブロック共重合体(b)の場合、重合体ブロックSの平均分子量は、S1及びS2の平均分子量分布となる。2つ以上存在する各々の重合体ブロックSの鎖長を近付けたり離したり等、重合開始剤に対するビニル芳香族炭化水素単量体の供給量(フィード量)を調整することで制御可能である。
【0083】
ブロック共重合体(b)における重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)を制御する他の方法としては、例えば、重合体ブロックSの重合工程中において、重合開始剤よりも少ないモル数量のエタノール等のアルコールを添加し、一部のポリマーの重合を停止させる方法が挙げられる。これにより重合体ブロックSは、異なる2つの分子量からなる混合物となる。このように2つ以上の異なる鎖長分布を有する重合体ブロックSを有するブロック共重合体(b)とすることでも重合体ブロックSの分子量分布を制御することが可能である。
ブロック共重合体(b)における重合体ブロックSの分子量分布(Mw/Mn)は、具体的には後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0084】
<ブロック共重合体(b)の製造方法>
本実施形態の制電性樹脂組成物を構成するブロック共重合体(b)の製造方法は、公知の技術を利用できる。代表的な従来技術を例示すれば、炭化水素溶剤中で有機リチウム化合物等のアニオン性重合開始剤を用い、共役ジエン単量体とビニル芳香族炭化水素単量体をブロック共重合する方法が挙げられる。例えば、特公昭36-19286号公報、特公昭43-17979号公報、特公昭48-2423号公報、特公昭49-36957号公報、特公昭57-49567号公報、特公昭58-11446号公報に記載された方法により製造することができる。
【0085】
ブロック共重合体(b)は、炭化水素溶媒中、ビニル芳香族炭化水素単量体と共役ジエン単量体を共重合することにより得られる。
ブロック共重合体(b)の製造に用いる炭化水素溶媒としては、従来公知の炭化水素溶媒が使用できる。以下に限定されるものではないが、例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;また、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらの炭化水素溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、有機リチウム開始剤を用いる場合は、n-へキサン、シクロヘキサンが一般的であり、中でもシクロヘキサンが工業的に最も汎用的であり、好適に使用される。
【0086】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、共役ジエン単量体及びビニル芳香族炭化水素単量体に対しアニオン重合活性を示す重合開始剤が好適に使用できる。具体的には、脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、芳香族単量体アルカリ金属化合物、有機アミノアルカリ金属化合物等のアルカリ金属化合物が挙げられる。
【0087】
アルカリ金属化合物に用いられるアルカリ金属としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
好適なアルカリ金属化合物としては、以下に限定されないが、例えば、炭素数1~20の脂肪族及び芳香族炭化水素リチウム化合物であって、1分子中に1個のリチウムを含む化合物や、1分子中に複数のリチウムを含むジリチウム化合物、トリリチウム化合物、テトラリチウム化合物が挙げられる。
このようなアルカリ金属化合物としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec-ブチルリチウムの反応生成物、さらにはジビニルベンゼンとsec-ブチルリチウムと少量の1,3-ブタジエンとの反応生成物等が挙げられる。
【0088】
また更に、米国特許第5708092号、英国特許第2241239号、米国特許第5527753号に示す外国特許に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用することができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中でも、n-ブチルリチウムが好ましい。
【0089】
ブロック共重合体(b)の製造プロセスとしては、重合原料であるビニル芳香族炭化水素単量体及び共役ジエン単量体の仕込み比率を調整することにより、最終的に得られるブロック共重合体(b)のビニル芳香族炭化水素単量体単位の含有量及び共役ジエン単量体単位の含有量を制御することができる。
【0090】
また、ブロック共重合体(b)の製造プロセスの選択肢として、例えば、重合途中から重合開始剤を追加添加するプロセス、反応活性点を2つ以上有する多官能単量体を少量添加することで、部分的にカップリング反応をさせるプロセス、あるいは、重合途中に重合活性点未満のアルコール、水等を添加した後、再度モノマーを供給して重合を継続するプロセス等も好適に採用することができる。このようなプロセスを適宜選択することにより、互いに分子量の異なる複数の成分が存在するブロック共重合体(b)を作製することができる。
【0091】
ビニル芳香族炭化水素単量体単位と共役ジエン単量体単位とからなる共重合体ブロックを作製する方法としては、ビニル芳香族炭化水素単量体と共役ジエン単量体との混合物を連続的に重合系に供給して重合する方法、極性化合物あるいはランダム化剤を使用して、ビニル芳香族炭化水素単量体と共役ジエン単量体とを共重合する等の方法等が挙げられる。
【0092】
極性化合物及びランダム化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類;チオエーテル類;ホスフィン類;ホスホルアミド類;アルキルベンゼンスルホン酸塩;カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
【0093】
ブロック共重合体(b)の重合工程における重合温度は、ポリマー構造によって最適条件が異なるが、重合開始剤を用いたアニオン重合の場合、一般的には-10℃~150℃、好ましくは40℃~120℃の範囲である。
また、重合に要する時間は、通常は48時間以内であり、好ましくは1時間から10時間の範囲である。また、重合系の雰囲気は窒素ガス等の不活性ガスで置換することが好ましい。重合圧力は上記重合温度範囲で単量体及び重合溶媒を液層に維持するために十分な圧力の範囲で行えばよく、特に制限されるものではない。更に重合系内には重合開始剤及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が意図せず混入しないよう留意することが好ましい。
【0094】
ブロック共重合体(b)にランダム共重合体ブロックが含有される場合、ビニル芳香族炭化水素単量体と共役ジエン単量体との混合物を連続的に重合系に供給して重合する、及び/又は、極性化合物或いはランダム化剤を使用してビニル芳香族炭化水素単量体と共役ジエン単量体を共重合する等の方法が採用できる。
【0095】
ブロック共重合体(b)の製造において、重合開始剤として有機アルカリ金属を用いる場合、重合反応を停止させる際に、2分子以上が結合して停止させるカップリング反応を好適に利用することができる。カップリング反応は、下記に例示するカップリング剤を重合系内に添加することができる。また、カップリング剤の添加量を調整することで、重合系内の一部のポリマーのみをカップリングさせ、未カップリングポリマーとカップリングポリマーを共存させることで、分子量分布において2つ以上のピークを有するブロック共重合体(b)を製造することも可能である。
【0096】
ブロック共重合体(b)の製造に好適に使用できるカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、2官能以上の任意のカップリング剤が挙げられる。
具体的には、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、γ-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン等のアミノ基を含有するシラン化合物が挙げられる。
また、他のカップリング剤としては、例えば、1-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-4-メチルピペラジン、1-[3-(ジエトキシエチルシリル)-プロピル]-4-メチルピペラジン、1-[3-(トリメトキシシリル)-プロピル]-3-メチルイミダゾリジン、1-[3-(ジエトキシエチルシリル)-プロピル]-3-エチルイミダゾリジン、1-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-3-メチルヘキサヒドロピリミジン、1-[3-(ジメトキシメチルシリル)-プロピル]-3-メチルヘキサヒドロピリミジン、3-[3-(トリブトキシシリル)-プロピル]-1-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロピリミジン、3-[3-(ジメトキシメチルシリル)-プロピル]-1-エチル-1,2,3,4-テトラヒドロピリミジン、1-(2-エトキシエチル)-3-[3-(トリメトキシシリル)-プロピル]-イミダゾリジン、(2-{3-[3-(トリメトキシシリル)-プロピル]-テトラヒドロピリミジン-1-イル}-エチル)ジメチルアミン等のシリル基を含有するシラン化合物が挙げられる。
【0097】
また、他のカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルフェノキシシランγ-グリシドキシプロピルジエチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジイソプロペンオキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)ジメトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)ジエトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)ジプロポキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)ジブトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)ジフェノキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルメトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルエトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルプロポキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルブトキシシラン、ビス(γ-グリシドキシプロピル)メチルフェノキシシラントリス(γ-グリシドキシプロピル)メトキシシラン等のグリシドキシ基を含有するシラン化合物が挙げられる。
また、他のカップリング剤としては、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、ビス(γ-メタクリロキシプロピル)ジメトキシシラン、トリス(γ-メタクリロキシプロピル)メトキシシラン等のメタクリロキシ基を含有するシラン化合物が挙げられる。
また、他のカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-トリフェノキシシランβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル-トリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-エチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-エチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジフェノキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジメチルメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジエチルエトキシシランβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジメチルエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジメチルプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジメチルブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジメチルフェノキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-ジエチルメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル-メチルジイソプロペンオキシシラン等のエポキシシクロヘキシル基を含有するシラン化合物が挙げられる。その他のカップリング剤としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、N,N'-ジメチルプロピレンウレア、N-メチルピロリドンが挙げられる。
【0098】
なお、ブロック共重合体(b)のリビング末端に、前記カップリング剤を付加反応させる場合には、ブロック共重合体(b)のリビング末端の構造はなんら限定されないが、本実施形態の制電性樹脂組成物の機械的強度等の観点から、ビニル芳香族炭化水素単量体を主体とするブロックのリビング末端であることが好ましい。
カップリング剤の使用量は、ブロック共重合体(b)のリビング末端1当量に対して、0.1当量以上10当量以下であることが好ましく、0.5当量以上4当量以下であることがより好ましい。カップリング剤は1種単独、あるいは任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
(ドナー・アクセプター系分子化合物(c))
本実施形態の制電性樹脂組成物は、ドナー・アクセプター系化合物(c)を含有する。
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)とは、ドナーとアクセプターの双方を併せ持った分子化合物である。ここで言うドナーとは電子供与基であり、アクセプターとは電子吸引性基を意味している。
具体的には、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)は、ドナー成分として、下記一般式(1)の上段側で示される有機ホウ素化合物と、アクセプター成分として、下記一般式(1)の下段側で示される有機窒素化合物の各々が混合して得られる化合物であることが好ましい。
【0100】
【0101】
前記一般式(1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、CH3(CH2)n-CO-OCH2(nは12~22の整数)、又はHOCH2で、かつ少なくとも一方がCH3(CH2)n-CO-OCH3(nは12~22の整数)である。
R3、R4は、それぞれ独立に、CH3、C2H5、HOCH2、HOC2H4、及びHOCH2CH(CH3)からなる群より選ばれるいずれかである。
ここで、一般式(1)における「δ+」は、分子内の共有結合中に極性が存在していることを示し、(+)は酸素原子の電子供与性が強くなっていることを示し、(-)はホウ素原子の電子吸引性が強くなっていることを示し、「→」は電子が引き付けられる経路を示し、「---」は原子間結合力が弱められた状態を示す。
【0102】
前記一般式(1)の上段側で示される前記有機ホウ素化合物部分からなるドナー成分は、炭素数12~22の直鎖型炭化水素基を少なくとも1個有し、また、前記一般式(1)の下段側で示される前記有機窒素化合物部分からなるアクセプター成分は、N-置換基の1個がアミド結合を介して炭素数12~22の直鎖型炭化水素基が末端に結合した基で、残りの2個のN-置換基が炭素数1~3の炭化水素基又はヒドロキシ炭化水素基である三級アミンである。
【0103】
ドナー・アクセプター系分子化合物は、複数の銘柄が株式会社ボロン研究所にて製造販売されており、特に商品名「ビオミセルBN-105」は、その代表例である。
【0104】
本実施形態の制電性樹脂組成物に用いるドナー・アクセプター系分子化合物(c)は、樹脂に添加し組成物とすることにより、帯電防止効果を有し制電性を発揮する。
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)による制電性発現は、配合する樹脂組成物のポリマー種や、組成比、各成分の溶融粘度等によりその性能が影響を受ける。
制電性能発現の観点から、適切なドナー・アクセプター系分子化合物(c)の組成範囲は、とりわけその下限値は、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とブロック共重合体(b)との質量比と各成分のMFR値で変化する。
【0105】
すなわち、本実施形態の制電性樹脂組成物は、下記の(i)~(iv)のいずれか一の条件を満たす。
<条件(i)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が0質量%を超え30質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%以上100質量%未満の場合は、
MFRaとMFRbの数値の如何に関わらず、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下である。
<条件(ii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が30質量%を超えて50質量%以下であり、前記(b)成分が70質量%未満で50質量%以上の場合には、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係となる場合、 前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.5質量%以上5質量%以下であり、
MFRa≧MFRb ・・(式2)
の関係となる場合、 前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iii)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が50質量%を超えて70質量%以下であり、前記(b)成分が50質量%未満で30質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が0.9質量%以上5質量%以下である。
<条件(iv)>
前記(a)成分と前記(b)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a)成分が70質量%を超えて81質量%以下であり、前記(b)成分が30質量%未満で19質量%以上の場合は、
MFRa<MFRb ・・(式1)
の関係を満足し、前記(a)成分と前記(b)成分と前記(c)成分の合計を100質量%としたとき、前記(c)成分が4質量%以上5質量%以下である。
【0106】
このように、ブロック共重合体(b)の組成比率が高くなるにつれて、また、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)のMFR値(MFRa)よりもブロック共重合体(b)のMFR値(MFRb)が高い方が、より少ない添加量のドナー・アクセプター系分子化合物(c)で表面抵抗率の低下が確認され、制電性能を発現し易い傾向にある。
【0107】
(制電性樹脂組成物に配合可能なその他の添加剤)
本実施形態の制電性樹脂組成物は、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、任意の添加剤を含んでもよい。
添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものが挙げられ、以下に限定されるものではないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、カーボンブラック等の無機充填剤;ステアリルアルコール等の高級アルコール類、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ベヘン酸マグネシウム、水添リシノール酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩;エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド等の脂肪酸アマイド等の滑剤及び離型剤;パラフィンオイル、プロセスオイル、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤及び可塑剤;ヒンダードフェノール系、リン系の熱安定剤及び酸化防止剤:ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤:難燃剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;有機顔料、無機顔料、有機染料等の着色剤等が挙げられる。
【0108】
〔制電性樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の制電性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、ブロック共重合体(b)及びドナー・アクセプター系分子化合物(c)、またはこれにビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)を加えて、常温でドライブレンドした後、二軸押出機にて加熱溶融混練してダイから加熱溶融した制電性樹脂組成物をストランド状に押出し、冷却バスを通して再度ペレタイズしペレット状の組成物を得る方法が挙げられる。
加熱溶融混練りに際しては、加熱溶融可能な熱可塑性樹脂用混練機であれば特に制限はなく、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、リボンブレンダー、単軸押出機あるいは二軸押出機等の混合機等の混練機を好適に使用することができる。
また、冷却バスを用いたストランドカット法のみならず、ホットカット法やアンダーウォータ―カット法等、目的に応じて好ましく使用することができる。
【0109】
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が有する制電性能を十分に発揮するためには、下記の製造方法により制電性樹脂組成物を製造することが好ましい。
すなわち、ブロック共重合体(b)とドナー・アクセプター系分子化合物(c)とを、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)の組成比率が5質量%以上20質量%以下となるように溶融混練して、(c)成分が高濃度のマスターバッチを製造する工程(I)と、前記マスターバッチと、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)及び/又はブロック共重合体(b)とを混練し、マスターバッチを希釈する工程(II)を経て、本実施形態の制電性樹脂組成物を得る。
【0110】
前記マスターバッチを経由する製造方法を採用することで、制電性樹脂組成物におけるドナー・アクセプター系分子化合物(c)の分散性は格段に向上し、より少ない添加量で所望の低減された表面抵抗率を効率よく発現することができ、得られる制電性樹脂組成物の力学特性と制電性能のバランスが最適なものとなる。
本実施形態の制電性樹脂組成物は、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)が成分(b)からなる樹脂マトリックス中、又は成分(a)と成分(b)からなる樹脂マトリックス中に、樹脂混練機を用いて十分に分散させることが性能発現のためには重要であり、いったん高濃度マスターバッチを作製した後に、それを希釈することで所望の制電性樹脂組成物を得る製造方法が推奨される。
【0111】
〔電子部品包装材〕
本実施形態の制電性樹脂組成物の成形体は、電子部品包装材として好適である。
電子部品包装材としては、例えば、キャリアテープ、搬送トレー、マガジン管等が挙げられる。
本実施形態の電子部品包装材は、その肉厚方向の構成において単層であっても多層であってもよいが、経済的な観点から本実施形態の電子部品包装材は、本実施形態の制電性樹脂組成物が電子部品包装材の表層あるいは表裏層に限定して使用されることが一般的である。
電子部品製品と接触する側の表層部に、本実施形態の制電性樹脂組成物からなる層を数十μm具備した多層シート成形を行い、その後、真空成形や圧縮成形等を経て電子部品製品を収納する凹部(ポケット、或いはエンボスとも言う)が形成される。搬送トレー等の段積みして利用する電子部品包装材は、その裏面側も電子部品製品と接触するため、表層のみならず裏層にも本実施形態の制電性樹脂組成物を具備した電子部品包装材を用いることが一般的であり好ましい。
【0112】
本実施形態の制電性樹脂組成物は、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を添加しても、成分(a)と成分(b)からなる基材樹脂の透明性はさほど損なわれない。
用いる成分(a)と成分(b)の組み合わせの選択により、透明性の良好な電子部品包装材を得ることができる。
【0113】
本実施形態の電子部品包装材は、その肉厚や構成する各層の厚みは特に限定されず、その包装材の対象となる電子部品により、場合に応じて適切に設計される。
本実施形態の電子部品包装材が押出成形品の場合、全体の肉厚としては、好ましくは50μm~4mmであり、より好ましくは0.1mm~2.0mm、さらに好ましくは0.1mm~1.5mm、さらにより好ましくは0.2mm~1.2mmである。最終用途がキャリアテープであれば、傾向として薄肉となり、一方で搬送トレーであれば、傾向として厚肉となる。
電子部品製品と接触する制電性樹脂組成物からなる層の厚みは、好ましくは5μm~1mm、より好ましくは10μm~0.1mm、さらに好ましくは15μm~50μmである。原反シートから真空成形や圧縮成形などの二次加工を行う際に、エンボス側面など引き伸ばされてより薄肉になる箇所もあるため、原反シートにおいてある程度の制電性樹脂組成物からなる層厚みを有しておく方が好ましい。
【0114】
本実施形態の電子部品包装材は、工程内リサイクルを目的として、中間層の少なくとも一層にシートの端材を粉砕したものをブレンドして用いてもよい。その場合、新材とリサイクル材を任意の割合でブレンドする方法が一般的であるが、リサイクル材単独としてもよい。リサイクル材は同一ラインから発生する類似組成であることが好ましいが、本実施形態の作用効果を阻害しない範囲で、他の系列で発生した異なる樹脂組成物をブレンドしてもよい。
【0115】
また、本実施形態の電子部品包装材は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、その表面に印刷やコロナ放電やグロー放電等の放電処理、酸処理等の表面処理を施してもよい。
【0116】
〔電子部品包装材の特性〕
(表面抵抗率)
制電性樹脂組成物、並びに制電性樹脂組成物から成形して得られる電子部品包装材の表面抵抗率は1×1012Ω/□以下である。
ドナー・アクセプター系分子化合物(c)を配合しない、成分(a)と成分(b)のみからなる樹脂組成物あるいは成形品の表面抵抗率は一般的には1×1016Ω/□以上を示す絶縁体である。表面抵抗率が1×1012Ω/□以下となり得るのはドナー・アクセプター系分子化合物(c)を配合した効果である。
ただし、成分(a)であるビニル芳香族炭化水素系樹脂単独ではドナー・アクセプター系分子化合物(c)を配合しても、その性能を引き出すことは困難であり、成分(b)であるブロック共重合体の存在が不可欠である。
電子部品包装材の表面抵抗率は、成形方法や製品の形状には依存せず、電子部品に接する表面部分の樹脂組成のみで決まる。
よって、電子部品包装材の表面抵抗率は、電子部品に直接接する制電性樹脂組成物の表面抵抗率と同じ値となり、互換性がある。
表面抵抗率は、実施例に記載の方法で測定でき、例えば、シムコジャパン株式会社製簡易型表面抵抗計「ST-3」を用いて測定できる。サンプルはシート状に成形し、23℃・湿度50%の恒温室に静置(例えば24時間)した後で測定するのが好ましい。押出シートサンプルの表面抵抗率は、各々表面と裏面にて、押出方向(MD)と押出垂直方向(TD)での測定値の平均値とすることができる。
【0117】
(ヘイズ値)
本実施形態の制電性樹脂組成物並びに電子部品包装材は、包装する部品の種類等によっては視認性があった方が好ましい場合もあり、透明性を有することで適応用途が広がる。例えば、搬送トレー用途では視認性が要求されるケースは多くないが、一方、キャリアテープ用途では視認性が要求されるケースも多く、透明性を有する方が好ましい。
実施例で示した透明性は、ISO14782に準拠し、制電性樹脂組成物を射出成形で作製した1mm厚み平板を用いて測定したヘイズ値で表現される。
視認性を有する(包装材越しに内容物の電子部品が見える)ヘイズ値の領域は20%以下であり、ヘイズ値が小さくゼロに近いほど視認性が向上する。内容物がしっかり見えるのはヘイズ値が4.0%以下であり、ヘイズ値が2.0%以下だと内容物の輪郭まで明確に見える。
【0118】
本実施形態の制電性樹脂組成物のヘイズ値を低減させ透明性を向上させるには、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)及びブロック共重合体(b)の各々の各成分単体が各々透明性を有し、かつ、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)、ブロック共重合体(b)の各々の屈折率が近似していることが必要である。具体的には屈折率の差が0.004以下であると透明性は良好となり、ヘイズ値4.0%以下を達成できる。
【0119】
本実施形態の制電性樹脂組成物のヘイズ値は上述の通り射出平板で測定された値を用いるが、実際の電子部品包装材は押出成形で成形されることが多く、樹脂組成物の高次構造に由来した分散形態や、ロール温度、ロール間のクリアランス、或いはロール表面の鏡面度等の仕上げ状態によりその押出肌は変化し、ヘイズ値も変化する。また、表層と中間層からなる多層成形シートの場合、電子部品包装材自体の透明性は各々の層の透明性が影響する。
【実施例】
【0120】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
なお、本実施形態は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0121】
(実施例及び比較例で使用したビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)、及びドナー・アクセプター系分子化合物(c))
ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)-1~7、ドナー・アクセプター系分子化合物(c-1)は、市販のものを入手し使用した。
下記〔表1〕に、これらのメーカー、銘柄名、種別に加え、(a)成分についてはMFR値(表1中、MFRaと記載する)も加えて一覧を示す。
【0122】
【0123】
(ビニル芳香族炭化水素樹脂(a)のメルトフローレイト(MFRa))
(a)成分のMFRは、物性表として公開されている値を用いた。
測定規格はISO1133に準拠し、温度200℃及び荷重5kgfにて測定したものである。後述するブロック共重合体(b)のMFRbと同一規格及び同一条件であるものとした。
【0124】
(ブロック共重合体(b))
〔製造例1~8〕
ブロック共重合体(b)は、下記の製造例に従って各ブロック共重合体(b)-1~8を製造した。
【0125】
〔製造例1〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン20質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部とテトラメチルメチレンジアミン0.015質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン14質量部とスチレン10質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン16質量部とスチレン10質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、スチレン30質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0126】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.4質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-1を回収した。
【0127】
〔製造例2〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン31質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン21質量部とスチレン20質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン2質量部とスチレン6質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。次に、重合液に、スチレン20質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0128】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.3質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-2を回収した。
【0129】
〔製造例3〕
窒素ガス雰囲気下において、ブタジエン8質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウム0.08質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、スチレン14質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を15分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン22質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を15分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、スチレン29質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0130】
その後、一部の重合を停止させるため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して0.5倍モル添加し、重合液を10分攪拌した後、重合液に、スチレン27質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
その後、完全に重合を停止させるため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して0.5倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.4質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-3を回収した。
【0131】
〔製造例4〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン60質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部とテトラメチルメチレンジアミン0.015質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン30質量部とスチレン10質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
【0132】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.3質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-4を回収した。
【0133】
〔製造例5〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン40質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部とテトラメチルメチレンジアミン0.015質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン15質量部とスチレン10質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、スチレン35質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0134】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.2質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-5を回収した。
【0135】
〔製造例6〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン42質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン8質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を10分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。次に、重合液に、スチレン50質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0136】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.2質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-6を回収した。
【0137】
〔製造例7〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン16質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウムを0.08質量部添加し、80℃で20分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン68質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を10分かけて添加し80℃で重合した。
次に、重合液に、スチレン16質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0138】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.5質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-7を回収した。
【0139】
〔製造例8〕
窒素ガス雰囲気下において、スチレン9質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n-ブチルリチウム0.08質量部を添加し、80℃で15分間重合した。
次に、重合液に、1,3-ブタジエン75質量部とスチレン7質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、重合液に、スチレン9質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で30分間重合した。
【0140】
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn-ブチルリチウムに対して等倍モル添加し、ブロック共重合体100質量部に対して、熱安定剤として2-t-ブチル-6(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレートを0.5質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体(b)-8を回収した。
【0141】
(各ブロック共重合体(b)-1~8のビニル芳香族炭化水素単量体単位(スチレン単位)、及び共役ジエン単量体単位(ブタジエン単位)の含有量)
上記の製造例1~8で得られた各ブロック共重合体について、各モノマー成分であるスチレンと1,3-ブタジエンの共重合比率について、下記に示す分析法で重合時の仕込み比率との差異がないか確認を行った。分析機器として島津製作所製の紫外可視分光光度計を用いた。
具体的には、各ブロック共重合体(b)1~8約30mg(0.1mg単位まで正確に秤量)をクロロホルム100mLに溶解させ、そのポリマー溶液を石英セルに満たして紫外可視分光光度計にセットし、これに紫外線波長260~290nmを走査させた。スチレンの芳香族環がこの波長域で吸光性を示す特性を利用し、測定により得られた吸光ピーク高さ値を既知の試料で作成した検量線を用いて、各ブロック共重合体(b)に含まれるスチレン組成比率(質量%)を求めた。スチレンに由来するピーク波長は269.2nmに現れる。
結果、重合時のスチレン仕込み比率と、ブロック共重合体中のスチレン組成比率に差異が無いことを確認した。一方でブタジエン組成比率(質量%)は、100からスチレン組成比率(質量%)を差し引くことで求められる。
【0142】
(各ブロック共重合体(b)-1~8の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn、ピーク分子量、及び分子量ピーク数)
前記ブロック共重合体(b)-1~8の、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ピーク分子量、及び分子量ピーク数は、それぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置により、下記測定条件により測定した。
【0143】
(測定条件)
GPC装置:東ソー社製 HLC-8220
カラム :東ソー社製 SuperMultiporeHZ-Mを2本直列に接続
カラム温度:40℃
送液量 :0.2mL/分
検出器 :屈折計(RI)
【0144】
なお、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、分子量測定を行う目的の重合体約10mgをテトラヒドロフラン20mLに溶解させ、ろ過して不溶分を除去してGPC測定用サンプルを得た。
【0145】
具体的な測定法を以下に述べる。まず、分子量が各々異なる分子量既知の標準ポリスチレンサンプルを9点用いて検量線を作成した。最も高分子量の標準ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)は1090000、最も低分子量のものは1050のものを使用した。続いて、分子量を測定する各ブロック重合体を用いて上記の要領で測定用サンプルを調製した。
【0146】
カラムが収納されている槽内温度が一定になったことを確認した後、溶液サンプルを注入し、測定を開始した。測定終了後、得られた分子量分布曲線の統計処理を行い、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を算出した。分子量分布(Mw/Mn)は、得られた重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値とした。また、ピーク分子量及び分子量ピーク数は、上記分子量分布曲線より判断した。
【0147】
(各ブロック共重合体(b)-1~8の重合体ブロックSの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn))
次に、各ブロック共重合体(b)-1~8を構成しているビニル芳香族単量体単位のみからなる重合体ブロックSの分子量測定を行った。
具体的には、三角フラスコを用いて重合体約20mgを約10mLのクロロホルムに溶解した後、オスミウム酸溶液20mLを加えて約90℃にて30分間湯煎し、共役ジエン部分を分解した。
湯煎後、三角フラスコを流水で冷却し、分解後のポリマー溶液に約200mLのメタノールを静かに注ぎ、溶剤に溶解しない成分を析出させた。
この析出した固体成分がビニル芳香族単量体単位のみからなる重合体ブロックSであり、ブロックを形成していないスチレン単量体や、重合度の低いスチレンは、メタノール/ターシャリーブチルアルコール/クロロホルム混合溶液に溶解したままである。この析出物をガラスフィルタ―を用いて吸引ろ過し、純メタノールで洗浄し真空乾燥を行うことで、ブロック共重合体(b)から重合体ブロックSのみを単離した。
【0148】
ここで、上述のオスミウム酸溶液とは、酸化オスミウム(VIII)1gと、日油株式会社より上市され入手可能な商品名「パーブチルH(化学名ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド,純度69%)」2kgとを、ターシャリーブチルアルコール3Lで溶解・混合した溶液である。
【0149】
このように得られた重合体ブロックS約10mgをテトラヒドロフラン20mLに再び溶解させてGPC装置により測定した。測定条件及び方法は、上記ブロック共重合体(b)の分子量の測定条件及び方法に準じて行った。
【0150】
(ブロック共重合体(b)のメルトフローレイト(MFRb))
規格ISO1133に準拠し、温度200℃、及び荷重5kgfの条件にて測定を行った。
【0151】
各製造例1~8により得られたブロック共重合体(b)-1~8の各々の製造時におけるモノマーフィード組成とビニル芳香族単量体単位と共役ジエン単量体単位の比率(質量%)、GPC測定結果に基づいた分子量情報、及びメルトフローレイトを下記〔表2〕に示す。
【0152】
【0153】
〔制電性樹脂組成物の製造方法〕
前記〔表1〕に示したビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)-1~7、及びドナー・アクセプター系分子化合物(c-1)と、前記〔製造例1~8〕で示したブロック共重合体(b)-1~8を用いて、以下に記す方法により制電性樹脂組成物を製造した。
まず、(a)成分、(b)成分、(c)成分を、所望の組成比率にて常温でドライブレンドした。その後、日本製鋼所社製二軸押出機TEX30α(L/D=42)のホッパーに投入し、シリンダー温度210℃にて溶融混練を行った。
なお、(a)-5を用いた配合組成の場合のみ、シリンダー温度230℃で実施した。
前記(c)成分が有する制電性能を十分に発揮させるためには、前記(c)成分を前記(b)成分中にて高度に微分散させる必要があり、高濃度マスターバッチの製造を経由する場合(実施例35~44)、或いは高濃度マスターバッチの製造を経由せずに直接制電性樹脂組成物を製造する場合(実施例1~34、比較例1~24)のいずれにおいても、各単独成分からの初回加工時、すなわち構成成分の溶融混練工程においては、混練性の高い混練機、具体的には二軸押出機を使用した。
【0154】
一方、成分(c)を高濃度に含有するマスターバッチをベースとして、成分(a)及び/又は成分(b)を用いてマスターバッチの希釈により制電性樹脂組成物を製造する場合(実施例35~44)は、希釈する工程においては、より混練性の緩やかな単軸押出機を用いてマスターバッチを希釈し、ペレット形状の制電性樹脂組成物を製造した。
その後、射出成形により所望の成形品を製造し、又は、Tダイを具備した単軸押出機を用いてマスターバッチを希釈しつつ、所望の厚みのシート状の制電性樹脂組成物を製造した。
いったん成分(c)が高度に微分散したマスターバッチが作製されていれば、その後の希釈加工は緩やかな混練条件でも制電性能は十分に発揮されることが確認された。
【0155】
高濃度マスターバッチの希釈加工を実施する場合(実施例35~44)、後述の射出成形を実施するものに関しては、田辺プラスチックス機械製単軸押出機VS40-28V(L/D=28;圧縮混練ゾーン有り)を用いてペレット形状の制電性樹脂組成物を製造した。また、後述の押出シート成形を実施するものに関しては、以下に記したシート押出成形機を用いて、所望の厚みを有するシート状の制電性樹脂組成物を製造した。
【0156】
〔制電性樹脂組成物の特性〕
(制電性樹脂組成物の押出成形と表面抵抗率測定)
上述のように、成分(c)であるドナー・アクセプター系分子化合物が高度に微分散した制電性樹脂組成物からなるペレット(実施例1~34、比較例1~24)を用いて、あるいは、成分(c)を高濃度に含有するマスターバッチをベースに成分(a)及び/又は成分(b)を用いて希釈し(実施例35~44)、単軸Tダイ押出機により押出シートを作製した。
Tダイシート成形は、株式会社池貝製シート押出成形機FS40-36V+TS400(単軸スクリュー、ダルメージ混練付き、スクリュー径40mm、L/D=36、Tダイ幅400mm、鏡面ロール)を用いて、シリンダー温度210℃、ロール温度70℃にて、スクリュー回転数とロール引き取り速度を調整することにより、厚み0.20mmの単層シートを各々作製した。
なお、(a)-5を用いた配合組成のみ、シリンダー温度230℃、ロール温度80℃で実施した。
表面抵抗率の評価に際しては単層シートで測定することとし、測定用シートの作製は単層押出にて実施した。
押出シートの両端は各々約30mm程度トリミングし、幅220mmの原反シートを得た。
【0157】
実施例及び比較例における表面抵抗率は、23℃・湿度50%の恒温室にシート状に成形された制電性樹脂組成物を24時間静置した後、シムコジャパン株式会社製簡易型表面抵抗計「ST-3」を用いて測定した。
押出シートサンプルの表面抵抗率は、各々表面と裏面にて、押出方向(MD)と押出垂直方向(TD)での測定値の平均値とした。
【0158】
(制電性樹脂組成物の射出成形とヘイズ値)
制電性樹脂組成物のヘイズ値の評価は、射出成形による平板を用いた。
射出成形は、日精樹脂工業株式会社製ハイブリッド型射出成形機FNX110III-18A(型締圧110トン)を用い、金型は厚み1mm、短辺100mm、長辺150mmで、短辺側にフィルムゲートを有する鏡面仕上げの平板金型を用い、シリンダー温度210℃、金型温度50℃でショートショットポイントに射出圧力を5%上乗せして1mm厚み平板成形体を得た。
成形サイクルは射出7秒、冷却25秒で実施した。
なお、(a)-5配合組成のみ、シリンダー温度230℃で実施した。
【0159】
上述した射出成形で得られた1mm厚みの成形品から適切な大きさに切り出して測定用試験片とし、スガ試験機製ヘーズメーターHZ-1型を用いてヘイズ値の評価を行った(単位:%)。
なお、ヘイズ値が40%を超える場合は、ISO14782にも明記されているように正確な測定が不可能なため、実施例・比較例の結果には「40超(不透明)」と記載した。
【0160】
〔参考例1~4、実施例5~23、参考例24~28、実施例29~34、比較例1~24〕
前記〔表1〕に示したビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)-1~7、及びドナー・アクセプター系分子化合物(c)-1と、前記〔表2〕に示した前記製造例1~8のブロック共重合体(b)-1~8を用いて、前記の二軸押出機を用いて溶融混練を行い、一段加工にて各々の樹脂組成物を得、前記の単軸Tダイ押出機により得られた厚み0.25mmのシート状制電性樹脂組成物の表面抵抗率を測定し、更に、前記の射出成形機により得られた1mm厚み平板を用いてヘイズ値を測定した。
測定結果を下記〔表3〕及び〔表4〕に示す。
なお、表中、表面抵抗率が1×1012Ω/□以下を到達した場合はその実際の測定値を記載し、一方、1×1012Ω/□以下に到達しなかった場合は、制電性能を発現できる表面抵抗率の範囲外であるという意味で「Out」と記載した。
【0161】
【0162】
【0163】
〔製造例9~14〕
ブロック共重合体(b)、ドナー・アクセプター系分子化合物(c)、及びビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)を用い、かつ、マスターバッチ全量を100質量%としたとき、成分(c)が5質量%以上20質量%以下となるように、下記〔表5〕に示す配合比率に従って前記二軸押出機にて溶融混練を行い、成分(c)を高濃度に含有するマスターバッチの製造を行った。
【0164】
【0165】
〔実施例35~42、参考例43、実施例44〕
前記〔製造例9~14〕で製造した、成分(c)を高濃度に含有するマスターバッチに、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)及び/又はブロック共重合体(b)を配合してマスターバッチを希釈する二段加工の方法により、前記の単軸Tダイ押出機により得られた厚み0.25mmのシート状樹脂組成物の表面抵抗率を測定した。また、前記の射出成形機により得られた1mm厚み平板を用いてヘイズ値を測定した。
使用したマスターバッチの製造例と合わせて、測定結果を下記〔表6〕に示した。
【0166】
【0167】
前記〔表6〕に示した〔実施例35〕は、マスターバッチを経て二段加工により製造し
た制電性樹脂組成物であるが、前記〔表3〕に示した〔実施例9〕と最終組成自体は同一
である。
同様に、〔実施例36〕は〔実施例13〕と、〔実施例37〕と〔実施例15〕と、〔
実施例38〕は〔実施例19〕と、〔実施例39〕と〔実施例44〕は〔実施例11〕と
、〔実施例40〕は〔実施例14〕と、〔実施例41〕は〔実施例7〕と、〔実施例42
〕は〔実施例10〕と、〔参考例43〕は〔参考例28〕と、各々最終組成自体は同一の制電性樹脂組成物である。
【0168】
マスターバッチを経て二段加工した場合、透明性は、ヘイズ値が0.1(%)程度改善するか、あるいは同等であった。
表面抵抗率は、いずれの実施例においても、マスターバッチを経て二段加工した方が、より低い表面抵抗率を発現したことが分かった。
いったん成分(c)の高濃度マスターバッチを作製した後に、それを成分(a)及び/又は成分(b)を用いて希釈する二段加工の方が、表面抵抗率がより低下し、結果的により優れた制電性樹脂組成物を製造できた。
言い換えれば、同じ表面抵抗率を発現させるために必要な成分(c)の配合量の削減も可能となり、力学特性と経済性の両立を図ることも可能であることが分かった。
【0169】
また、そのマスターバッチを作製する際には、ブロック共重合体(b)及びドナー・アクセプター系分子化合物(c)を必須成分とすることにより、表面抵抗率を低下させる効果が優れることが、実施例44と実施例35~43とを対比することにより明らかとなった。
具体的には、ブロック共重合体(b)を用いずに、ビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)とドナー・アクセプター系分子化合物(c)のみで高濃度マスターバッチを製造した場合、〔実施例11〕と〔実施例39〕と〔実施例44〕の3例を比較して明らかなように、マスターバッチ法による表面抵抗率の改善効果が認められず、一段混錬とさして変わらない結果となることが分かった。
【0170】
以上の結果より、実施例の制電性樹脂組成物は、所望の表面抵抗率を発現した。
一方で、比較例1~24は、元来制電性を発現するために配合しているドナー・アクセプター系分子化合物(c)を多く配合しても表面抵抗率が1×1012Ω/□以下に到達せず、本発明の制電性樹脂組成物を得ることが困難であることが示された。
【0171】
また、一段で制電性樹脂組成物を得る製造方法と、成分(b)と成分(c)を必須成分とする高濃度マスターバッチを製造した後に、それを元に成分(a)及び/又は成分(b)を用いて希釈することにより、制電性樹脂組成物を得る製造方法との比較では、最終組成が全く同じ前述の実施例どうしの比較において、後者の高濃度マスターバッチの製造を経て二段加工で得られた制電性樹脂組成物の方が表面抵抗率がより低減し、良好な傾向となることが分かった。成分(c)であるドナー・アクセプター系分子化合物の分散がより微分散化し、添加効率が向上したためである。
【0172】
〔実施例45〕
上記実施例40で得られた制電性樹脂組成物を40μmの厚みの表裏層とし、コア層にビニル芳香族炭化水素系樹脂(a)-3を90質量%に、ブロック共重合体(b)-1を10質量%の割合でブレンドして得られる組成物にて、0.3mm厚みの多層押出シートを、Tダイを具備した多層シート押出機を用いて成形した。
Tダイ多層シート成形は、株式会社プラスチック工学研究所製多層シート押出成形機GT-40-28-A+UT-25-28-H(単軸スクリュー、マドック混練付き、スクリュー径40mm(コア層)+25mm(表裏層)、L/D=28、Tダイ幅400mm、シボ付きロール)を用いて、シリンダー温度210℃、ロール温度70℃にて、スクリュー回転数とロール引き取り速度を調整することにより、上記の0.3mm厚みの多層押出シートを作製した。
成形したシートを110℃で加熱し、プレス成形により電子部品を収納できる搬送用トレーを得た。
得られた電子部品搬送用トレーは、表面抵抗率が10の10乗台と帯電防止性に優れた制電性能を具備し、適度な剛性と耐熱変形性を具備し、表裏層とコア層の層間接着強度も良好で端面から剥離することなく強固に接着しており、故意に折り曲げても容易に破断しない卓越した強度を有していることから、好適に実用に供することができることを確認した。
【0173】
本実施形態においては、とりわけスチレン系樹脂マトリックスに対し、ドナー・アクセプター系分子化合物のマトリックス樹脂組成に対する性能発現の選択性と、制電性能を発現せしめる樹脂組成マップを明らかとした。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の制電性樹脂組成物は、表面抵抗率が1×1012Ω/□以下を発現することで良好な制電性を発揮し、更には、制電性能を発現する物質であるドナー・アクセプター系分子化合物は樹脂組成物の加工性や力学特性、光学特性に対する影響が最小限であるため、樹脂組成物そのものが透明性を有する場合は、その制電性樹脂組成物も透明性を保持しており、更には耐折強さ等の力学特性にも優れ、2種3層などの押出多層シートとした際の層間接着強度も優れた電子部品包装成形品の材料として産業上の利用可能性を有している。
また、本発明の制電性樹脂組成物は、キャリアテープ、マガジン管、電子部品搬送用トレー等、電子部品の包装材の材料として、産業上の利用可能性を有している。