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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/20 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
B23K11/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020105972
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022000311
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】龍末 朗
(72)【発明者】
【氏名】米山 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】園田 寿良
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-272825(JP,A)
【文献】特開昭52-41147(JP,A)
【文献】特開2003-251468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属で形成された第1の部材と第2の金属で形成された第2の部材とで第3の金属で形成された第3の部材を挟み、前記第1の部材に第1の電極を接触させ、前記第2の部材に第2の電極を接触させ、前記第1の電極と前記第2の電極との夫々に対して前記第3の部材に向けて力を加えて電流を流す溶接工程を備え、
前記溶接工程において、前記第1の部材と前記第3の部材の第1の面とが溶接される第1の溶接部の面積、前記第2の部材と前記第3の部材の前記第1の面とは反対側の第2の面とが溶接される第2の溶接部の面積より大きく、
前記第1の溶接部では前記溶接工程においてペルチェ効果により発熱が発生し、
前記第2の溶接部では前記ペルチェ効果により吸熱が発生することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記力を加える方向に直交する2つの方向のうちの少なくとも一方の方向において、前記第2の部材の長さは、前記第1の部材の長さよりも短いことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記一方の方向において、前記第2の部材の長さは、前記第2の電極の先端部が前記第2の面に投影された領域の長さよりも短いことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項4】
第1の金属で形成された第1の部材と第2の金属で形成された第2の部材とで第3の金属で形成された第3の部材を挟み、前記第1の部材に第1の電極を接触させ、前記第2の部材に第2の電極を接触させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間に力を加えて電流を流す溶接工程を備え、
前記溶接工程において、前記第1の部材と前記第3の部材の第1の面とが溶接され、前記第2の部材と前記第3の部材の前記第1の面とは反対側の第2の面とが溶接される溶接方法であって、
前記第1の部材の熱容量は、前記第2の部材の熱容量より大きく、
前記第1の部材と前記第1の面とが溶接される第1の溶接部では前記溶接工程においてペルチェ効果により発熱が発生し、
前記第2の部材と前記第2の面とが溶接される第2の溶接部では前記ペルチェ効果により吸熱が発生することを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
前記第1の部材の厚さは、前記第2の部材の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記力を加える方向に直交する2つの方向のうちの少なくとも一方の方向において、前記第2の部材の長さは、前記第1の部材の長さよりも短いことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記一方の方向において、前記第2の部材の長さは、前記第2の電極の先端部が前記第2の面に投影された領域の長さよりも長いことを特徴とする請求項に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記第1の部材と前記第2の部材とは一体に形成されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記第1の部材と前記第2の部材とは別体に形成されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第3の部材は、インレットが有するアース端子であり、
前記第1の部材及び前記第2の部材は、前記インレットを保持する板金であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記第3の部材は、基板に実装されるアース端子であり、
前記第1の部材及び前記第2の部材は、前記基板を有する電子装置が有する板金であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記第1の金属及び前記第2の金属は鉄であり、
前記第3の金属は銅であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法に関し、特に、異種間の金属を結合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置等の電子装置は、一般にインレットを有しており、インレットへ電源コードを嵌合することで電子装置に交流電力が供給される。電子装置の筐体に用いられている筐体板金は、電気的な性能を満足させるために、電子装置に設けられているインレットのアース端子と電気的に締結されている。ここで、電気的な性能とは、例えば、装置内部に設けられた電気基板からの放射ノイズを遮断するためのシールド効果等である。筐体板金には、安価であることや加工のし易さ、入手が簡易である、比較的低い電気伝導率を有する、等の理由から、鉄が広く使用されている。一方、インレットのアース端子は、電流が流れることが前提であるため、低い電気伝導率であることが必須であり、また、入手が簡易である、かつ安価であることを理由に、銅が広く使用されている。
【0003】
インレットのアース端子と電子装置の筐体板金との電気的な締結方法においては、例えば特許文献1や特許文献2に示す構成が知られている。特許文献1には、筐体板金とインレットのアース端子とが、ねじによって締結された構成が記載されている。特許文献2には、筐体板金とインレットのアース端子とが、はんだ付けによって締結された構成が記載されている。また、例えば特許文献3には、アルミニウムとスチールのような融点が大きく異なる異種金属接合において、機械的強度を確保する方法が記載されている。すなわち、融点が高い金属で融点が低い金属を挟み込み、電極により加圧し電流を流すことで発生する熱により融点が低い金属を溶かし、融点が高い金属同士を接触させ溶接する方法である。
【0004】
更に、図9図10に示すような従来の異種間金属の結合方法も提案されている。この結合方法では、アース端子3を板金10の第1の部分10aと第2の部分10bとで挟み込んだ状態で、第1の電極20aと第2の電極20bに電流を流す。これにより、アース端子3と第1の部分10aの界面の接触抵抗と印加電流によりジュール熱が発生し、溶接部11aで溶接される。同様に、アース端子3と第2の部分10bの界面の接触抵抗と印加電流によりジュール熱が発生し、溶接部11bで溶接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3311061号公報
【文献】特許第5723992号公報
【文献】特表2016-523718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、異なる金属に電流を流してジュール熱によって溶接する際、ジュール熱の他に、接合点ではペルチェ効果による発熱と吸熱とが起こる。従来例の様にアース端子3を第1の部分10aと第2の部分10bとで挟み込んで、2つの接合点で溶接を行う場合、ペルチェ効果により一方の接合点では発熱、他方の接合点では吸熱が起こるおそれがある。この場合、熱バランスが崩れることにより接合が安定せず、片側の面のみが剥がれ、溶接不良が発生するという課題がある。このため、溶接不良を低減することが求められている。
【0007】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、溶接不良を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の構成を備える。
【0009】
(1)第1の金属で形成された第1の部材と第2の金属で形成された第2の部材とで第3の金属で形成された第3の部材を挟み、前記第1の部材に第1の電極を接触させ、前記第2の部材に第2の電極を接触させ、前記第1の電極と前記第2の電極との夫々に対して前記第3の部材に向けて力を加えて電流を流す溶接工程を備え、前記溶接工程において、前記第1の部材と前記第3の部材の第1の面とが溶接される第1の溶接部の面積、前記第2の部材と前記第3の部材の前記第1の面とは反対側の第2の面とが溶接される第2の溶接部の面積より大きく、前記第1の溶接部では前記溶接工程においてペルチェ効果により発熱が発生し、前記第2の溶接部では前記ペルチェ効果により吸熱が発生することを特徴とする溶接方法。
(2)第1の金属で形成された第1の部材と第2の金属で形成された第2の部材とで第3の金属で形成された第3の部材を挟み、前記第1の部材に第1の電極を接触させ、前記第2の部材に第2の電極を接触させ、前記第1の電極と前記第2の電極との間に力を加えて電流を流す溶接工程を備え、前記溶接工程において、前記第1の部材と前記第3の部材の第1の面とが溶接され、前記第2の部材と前記第3の部材の前記第1の面とは反対側の第2の面とが溶接される溶接方法であって、前記第1の部材の熱容量は、前記第2の部材の熱容量より大きく、前記第1の部材と前記第1の面とが溶接される第1の溶接部では前記溶接工程においてペルチェ効果により発熱が発生し、前記第2の部材と前記第2の面とが溶接される第2の溶接部では前記ペルチェ効果により吸熱が発生することを特徴とする溶接方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の板金の構成を示す図
図2】実施例1の板金とアース端子の溶接を示す図
図3】実施例2の板金とアース端子の溶接を示す図
図4】実施例3の板金の構成を示す図
図5】実施例3の板金とアース端子の溶接を示す図
図6】実施例4の電子装置としての画像形成装置の構成を示す図
図7】実施例4のインレット、板金、基板アース端子の構成を示す図
図8】実施例4の板金、基板アース端子の構成を示す図
図9】従来例のインレットと板金の構成を示す図
図10】従来例の異種間金属の溶接工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
[従来の溶接方法]
以下に説明する実施例との比較のために従来の異種間金属の溶接方法について図9図10を用いて説明する。図9(a)(b)は、インレット5の構成を説明する図である。図9(a)は、インレット5に電源ケーブル(不図示)を挿入する方向から見た図であり、図9(b)は、図9(a)を反対側から見た図である。インレット5は、インレット端子1、2、アース端子3、モールド部4を有している。インレット端子1、2は交流電源(不図示)から電流が供給される端子である。アース端子3は電子装置のグランド(以下、GNDとする)となる板金(以下、フレームGNDともいう)に接続される端子である。モールド部4はインレット端子1、2及びアース端子3を固定するための部材である。
【0015】
図9(c)はインレット5と電子装置が有する板金10とが接続された構成を示した図である。板金10はインレット5のモールド部4を保持すると共に、アース端子3を第1の部分10aと第2の部分10bとで挟み込んだ構成になっている。すなわち、第1の部分10a及び第2の部分10bは板金挟み込み部ともいえる。ここで、板金10は、第1の部分10a、第2の部分10b、部分10c、部分10d、屈曲部10eを有している。部分10dは、インレット5を避けつつアース端子3の先端(モールド部4とは反対側の端部)に向かって部分10cから連続してのびている。第1の部分10aは、部分10dに連続しており、アース端子3の第1の面3a(以下、面3aという)に接している。第2の部分10bは、屈曲部10eを介して第1の部分10aに連続しており、アース端子3の面3aとは反対側の第2の面3b(以下、面3bという)に接している。このようにして、第1の部分10a及び第2の部分10bは板金10(詳細には部分10c)と一体に構成されている。そして、電子装置の板金10、詳細には第1の部分10aと第2の部分10bとが、インレット5のアース端子3を挟み込むように配置されている。アース端子3は板金10の第1の部分10aと第2の部分10bに溶接される。なお、各端子の長さ方向、言い換えれば板金10の部分10cに直交する方向をZ方向とする。また、図10で後述する第1の電極20a及び第2の電極20bに(アース端子3に向けて)力を加える方向をX方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向(図9の上下方向)をY方向とする。
【0016】
図10はアース端子3と第1の部分10a、第2の部分10bとを溶接する手順(溶接工程)を断面図で示した図である。なお、屈曲部10eは不図示としている。図10(a)は溶接を行う前の状態を示している。第1の電極20aと第2の電極20bは、いずれも先端部の角がC面取りされた円柱形状の電極であり、アース端子3と第1の部分10a、第2の部分10bに電流を流す部材である。図10(b)は第1の電極20aと第2の電極20bとによってアース端子3と第1の部分10a、第2の部分10bが図9(b)の矢印方向(X方向)に加圧されている状態を示している。図10(b)の状態で第1の電極20aから第2の電極20bに電流を印加する。なお、電流の方向は逆でも良い。図10(c)は電流印加後、アース端子3の面3aと第1の部分10aとが溶接され、アース端子3の面3bと第2の部分10bとが溶接された状態を示した図である。第1の電極20a及び第2の電極20bに電流を印加すると、アース端子3の面3aと第1の部分10aの界面の接触抵抗と電流によってジュール熱が発生し、溶接部11aで溶接される。同様に、アース端子3の面3bと第2の部分10bの界面の接触抵抗と電流によってジュール熱が発生し、溶接部11bで溶接される。
【実施例1】
【0017】
実施例1では、溶接面積を異ならせる構成について説明する。なお、溶接体であるインレット5の構成は図9(a)(b)と同様であり、説明を省略する。また、電子装置(不図示)が備える板金の構成は図9(c)と同様である。なお、実施例1では板金を板金30とする。図1(a)は、実施例1の板金30のアース端子3との溶接部分の構成を説明した図である。実施例1では、第1の電極20a及び第2の電極20bの先端部の面の形状は円形状とする。
【0018】
[板金の構成]
図1(a)は実施例1の板金30の要部の構成を説明した図である。電子装置(不図示)はインレット5と板金30(又は板金35)とを備えている。板金30は、第1の部分30a、第2の部分30b、屈曲部30eを有している。なお、板金30も、図9で説明した部分10c、10dに相当する部分を有するものとし、後述する板金35についても同様とする。第1の部分30aは、第1の金属である鉄で形成された第1の部材であり、第2の部分30bは、第2の金属である鉄で形成された第2の部材である。なお、アース端子3は第3の金属である銅で形成された第3の部材である。実施例1では、第1の部分30aと第2の部分30bとが屈曲部30eによって連続して一体となった構成であり、板金の幅(以下、板金幅という)が第1の部分30aよりも第2の部分30bの方が小さく(短く)(細く)なっている。
【0019】
ここで、板金幅とは、アース端子3の長さ方向(Z方向)における長さをいう。Z方向は第1の電極20a及び第2の電極20bに力を加える方向(X方向)に直交する2つの方向(Y方向とZ方向)のうちの少なくとも一方の方向である。言い換えれば、面3a及び面3bに平行な2つの方向のうちの少なくとも一方の方向ともいえる。第1の部分30aの板金幅をW30aとし、第2の部分30bの板金幅をW30bとすると、W30a>W30bとなっている。なお、実施例1では屈曲部30eの板金幅を第2の部分30bの板金幅W30bと略同じ幅としているが、屈曲部30eの板金幅を第1の部分30aの板金幅W30aと略同じ幅としてもよい。
【0020】
[板金幅とジュール熱]
図2はアース端子3、第1の部分30a、第2の部分30b、第1の電極20a、第2の電極20bの断面図である。図2(a)はZ方向から、図2(b)はY方向からそれぞれ見た、溶接部の中心を切断した断面図である。第1の溶接部31a(以下、溶接部31aとする)は、アース端子3の面3aと第1の部分30aとが溶接される部分である。第2の溶接部31b(以下、溶接部31bとする)はアース端子3の面3bと第2の部分30bとが溶接される部分を示している。
【0021】
図2(a)に示すように、溶接部31bのY方向の長さと溶接部31aのY方向の長さは略等しくなっている。一方、図2(b)に示すように、上述したように、第2の部分30bの板金幅W30bは第1の部分30aの板金幅W30aよりも細くなっているため、溶接部31bの幅も溶接部31aの幅よりも小さくなっている。このため、溶接部31bの面積S31bは溶接部31aの面積S31aより小さくなっている(S31b<S31a)。なお、図2(b)に示すように、実施例1の第2の部分30bの板金幅W30bは、第2の電極のZ方向の長さよりも小さい。
【0022】
図2(c)はX方向から見た図2(b)のA-A断面図であり、図2(d)はX方向から見た図2(b)のB-B断面図である。領域32aは第1の電極20aの先端の円形状の面をA-A断面に投影した領域であり、領域32bは第2の電極20bの先端の円形状の面をB-B断面に投影した領域である。端部33aはアース端子3の面3aと第1の部分30aとが接する領域の一方の端部(アース端子3の先端側)を示しており、端部33bはアース端子3の面3bと第2の部分30bとが接する領域の他方の端部(モールド部4側)を示している。端部34aは第2の部分30bの一方の端部(アース端子3の先端側)を示しており、端部34bは第2の部分30bの他方の端部(モールド部4側)を示している。
【0023】
図2(d)に示すように、第2の部分30bの端部34a及び端部34bは、第2の電極20bの先端の円形状に相当する領域32bの内側に含まれている。このため、斜線で示している溶接部31bの面積S31bは、溶接部31aの面積S31aよりも小さくなっている。
【0024】
この構成により、第1の部分30aとアース端子3の面3aとの接触抵抗と、第2の部分30bとアース端子3の面3bとの接触抵抗とは異なることとなる。具体的には、第2の部分30bとアース端子3との接触抵抗の方が、第1の部分30aとアース端子3との接触抵抗よりも大きくなる。したがって、第1の電極20a及び第2の電極20bに電流を印加した際に溶接部31a、31bで発生するジュール熱は、第2の部分30bとアース端子3との接合点の方が第1の部分30aとアース端子3との接合点より大きくなる。
【0025】
ここで、ペルチェ効果によって、一方の接合点では発熱、他方の接合点では吸熱が起こる。このため、ペルチェ効果による吸熱・発熱と、ジュール熱による発熱の合算とが2つの接合点において略均等になる様に、ジュール熱を異ならせれば、安定した溶接を行うことができる。すなわち、ペルチェ効果により発熱が起きる接合点(溶接部31a)では、ジュール熱が小さくなる様に第1の部分30aの構成とする。一方、ペルチェ効果により吸熱が起きる接合点(溶接部31b)では、ジュール熱を大きくする様に第2の部分30bの構成(板金幅についてW30b<W30a)とすれば良い。
【0026】
[板金の変形例]
図1(b)は、板金35が屈曲部を有しない構成で、第1の部分35aと第2の部分35bとを別体とした構成を示している。この構成でもアース端子3と第1の部分35aとの溶接部の面積と、アース端子3と第2の部分35bとの溶接部の面積とを異ならせることができる。このため、図1(b)と同様の効果が得られる。図1(b)の構成と比べて、板金35の使用量や加工費を低減することができる。
【0027】
以上説明した様に、実施例1では、アース端子3と第1の部分との接合点の接触抵抗と、アース端子と第2の部分との接合点の接触抵抗とを異ならせる。これにより、ペルチェ効果による熱バランスの崩れが発生しても、接合点において発生するジュール熱によって熱のバランスをとることができ、安定した溶接を行うことができる。なお、実施例1では、第1の電極20a及び第2の電極20bの先端の面の形状を円形状としたが、第1の電極20a及び第2の電極20bの先端の面の形状は矩形等他の形状であってもよい。
【0028】
以上、実施例1によれば、溶接不良を低減することができる。
【実施例2】
【0029】
[板金の構成]
実施例2では、板金の熱容量を異ならせる構成について説明する。図3はアース端子3、板金40、第1の電極20a、第2の電極20bの断面図である。板金40は、第2の部材である第2の部分40aと第1の部材である第1の部分40bとを有しており、屈曲部を有しない。図3(a)はZ方向から、図3(b)はY方向から、それぞれ見た溶接部の中心を切断した断面図である。第2の部分40aと第1の部分40bとは別体の構成である。第2の溶接部41a(以下、溶接部41aとする)は、アース端子3の面3aと第2の部分40aとの溶接部を示している。第1の溶接部41b(以下、溶接部41bとする)はアース端子3の面3bと第1の部分40bとの溶接部を示している。t1は第2の部分40aの厚み、t2は第1の部分40bの厚みを示している。ここで厚みとは、板金40のX方向の長さである。第1の部分40bの厚みt2の方が第2の部分40aの厚みt1より厚くなっている(t2>t1)。なお、第2の部分40aの板金幅と第1の部分40bの板金幅とは略同じである(図3(b)参照)。
【0030】
[板金の厚みと熱容量]
図3(c)はX方向から見た図3(b)のA-A断面図であり、図3(d)はX方向から見た図3(b)のB-B断面図である。領域42aは第1の電極20aの先端の円形状をA-A断面に投影した領域を示しており、領域42bは第2の電極20bの先端の円形状をB-B断面に投影した領域を示している。端部43aはアース端子3の面3aと第2の部分40aとが接する領域の一方の端部を示しており、端部43bはアース端子3の面3bと第1の部分40bとが接する領域の他方の端部を示している。斜線で示している溶接部41aと溶接部41bの面積は略同じになっている。
【0031】
この構成により、厚みt1と厚みt2が異なるため、第2の部分40aの熱容量と第1の部分40bの熱容量とは異なる。具体的には、第1の部分40bの熱容量の方が第2の部分40aの熱容量よりも大きくなる。したがって、第1の電極20a及び第2の電極20bに電流を印加した際の溶接部の温度上昇は、第1の部分40bの方が第2の部分40aよりも緩やかになる。溶接部41aの面積と溶接部41bの面積とが略等しいため、電流を流した際に発生するジュール熱は両方の溶接部において略等しくなる。
【0032】
ここで、ペルチェ効果は、一方の接合点では発熱、他方の接合点では吸熱が起こるため、この分は溶接部41aと溶接部41bとの熱バランスの崩れを引き起こす。そこで、ペルチェ効果により発熱が起きる接合点(溶接部41b)では、温度上昇が緩やかになる様に熱容量の大きい第1の部分40bの構成とする。一方、ペルチェ効果により吸熱が起きる接合点(溶接部41a)では、温度上昇が急峻になる様に熱容量の小さい第2の部分40aの構成とする。これにより、溶接部41aと溶接部41bの温度上昇が略等しくなり、安定した溶接を行うことができる。
【0033】
以上説明した様に、第2の部分40aの熱容量と第1の部分40bの熱容量とを異ならせることで、ペルチェ効果による熱バランスの崩れが発生しても、安定した溶接を行うことができる。なお、板金40が屈曲部を有し、第2の部分40aと第1の部分40bとを屈曲部を介して一体として構成し、例えば屈曲部において徐々に厚さを変更するように構成してもよい。以上、実施例2によれば、溶接不良を低減することができる。
【実施例3】
【0034】
[板金の構成]
実施例3では、板金の熱容量を異ならせる実施例2とは別の構成について説明する。図4は実施例3の板金60の構成を説明した図である。板金60は、第1の部材である第1の部分60aと第2の部材である第2の部分60bと屈曲部60eとを有している。実施例3の第1の部分60aと第2の部分60bとは一体となった構成であり、第1の部分60aの板金幅w1よりも第2の部分60bの板金幅w2の方が細く(短く)なっている(w1>w2)。なお、実施例3では屈曲部60eの板金幅を第2の部分60bの板金幅w2と略同じ幅としているが、屈曲部60eの板金幅を第1の部分60aの板金幅w1と略同じ幅としてもよい。
【0035】
[板金幅と熱容量]
図5はアース端子3、第1の部分60a、第2の部分60b、第1の電極20a、第2の電極20bの断面図である。図5(a)はZ方向から、図5(b)はY方向からそれぞれ見た、溶接部の中心を切断した断面図である。第1の部分60aと第2の部分60bとは一体の構成である。第1の溶接部61a(以下、溶接部61aとする)は、アース端子3の面3aと第1の部分60aとの溶接部を示している。第2の溶接部61b(以下、溶接部61bとする)はアース端子3の面3bと第2の部分60bとの溶接部を示している。板金幅w1は第1の部分60aの幅、板金幅w2は第2の部分60bの幅を示しており、板金幅w2の方が板金幅w1より短くなっている(w2<w1)。また、第2の部分60bの板金幅w2は、第2の電極20bの先端の円形状の幅(Z方向の長さ)よりも大きい。
【0036】
図5(c)はX方向から見た図5(b)のA-A断面図であり、図5(d)はX方向から見た図5(b)のB-B断面図である。領域62aは第1の電極20aの先端の円形状の面をA-A断面に投影した領域を示しており、領域62bは第2の電極20bの先端の円形状の面をB-B断面に投影した領域を示している。端部63aはアース端子3の面3aと第1の部分60aとが接する領域の一方の端部を示しており、端部63bはアース端子3の面3bと第2の部分60bとが接する領域の他方の端部を示している。また、端部64aはアース端子3の面3bと第2の部分60bとが接する領域の一方の端部を示しており、端部64bはアース端子の面3bと第2の部分60bとが接する領域の他方の端部を示している。斜線で示している溶接部61aと溶接部61bの面積は略同じになっている。
【0037】
この構成により、板金幅w1と板金幅w2とが異なるため、第1の部分60aの熱容量と第2の部分60bの熱容量とが異なる。具体的には、第1の部分60aの熱容量の方が第2の部分60bの熱容量よりも大きくなる。したがって、第1の電極20a及び第2の電極20bに電流を印加した際の溶接部の温度上昇は、第1の部分60aの方が第2の部分60bよりも緩やかになる。
【0038】
溶接部61aと溶接部61bの面積が略等しいため、第1の電極20a及び第2の電極20bに電流を流した際に発生するジュール熱は両方の溶接部において略等しくなる。ペルチェ効果は、一方の接合点では発熱、他方の接合点では吸熱が起こるため、溶接部61aと溶接部61bの熱バランスの崩れとなる。そこで、ペルチェ効果により発熱が起きる接合点(溶接部61a)では、温度上昇が緩やかになる様に熱容量の大きい第1の部分60aの構成とする。一方、ペルチェ効果により吸熱が起きる接合点(溶接部61b)では、温度上昇が急峻になる様に熱容量の小さい第2の部分60bの構成とする。これにより、溶接部61aと溶接部61bの温度上昇が略等しくなり、安定した溶接を行うことができる。
【0039】
以上説明した様に、第1の部分60aの熱容量と第2の部分60bの熱容量とを異ならせることで、ペルチェ効果による熱バランスの崩れが発生しても、安定した溶接を行うことができる。以上、実施例3によれば、溶接不良を低減することができる。
【実施例4】
【0040】
実施例4では、異種金属接合構成を、電子装置の一例としての画像形成装置に用いられる電源基板に実装されるアース端子に適用した構成について説明する。
【0041】
[レーザビームプリンタの説明]
図6に画像形成装置の一例として、レーザビームプリンタの概略構成を示す。レーザビームプリンタ1000(以下、プリンタ1000という)は、感光ドラム1010、帯電部1020、現像部1030を備えている。感光ドラム1010は、静電潜像が形成される像担持体である。帯電部1020は、感光ドラム1010を一様に帯電する。現像部1030は、感光ドラム1010に形成された静電潜像をトナーにより現像することでトナー像を形成する。感光ドラム1010上(像担持体上)に形成されたトナー像をカセット1040から供給された記録材としてのシートPに転写部1050によって転写し、シートPに転写した未定着のトナー像を定着器1060によって定着してトレイ1070に排出する。この感光ドラム1010、帯電部1020、現像部1030、転写部1050が画像形成部である。また、プリンタ1000は、電源装置1080を備え、電源装置1080からモータ等の駆動部と制御部5000へ電力を供給している。プリンタ1000は、筐体板金7と、筐体板金7とビス8により締結された筐体板金6と、筐体板金6によって保持されたインレット5と、を有している(図9参照)。インレット5に電源コード(不図示)が嵌合されることで、電源装置1080に交流電力が供給される。制御部5000は、CPU(不図示)を有しており、画像形成部による画像形成動作やシートPの搬送動作等を制御している。なお、筐体板金6は、実施例1の板金30、35や実施例2の板金40、実施例3の板金60に相当する。なお、本発明の溶接方法を適用することができる画像形成装置は、図6に例示された構成に限定されない。
【0042】
[画像形成装置内部の接続構成]
図7は、インレット5、電源板金53、電源基板50、アース端子の構成を示した図である。電源板金53はプリンタ1000内の板金であり、電源基板50は電源装置1080の回路基板である。電源板金53は、溶接体である接続部52、56、57を有している。電源基板50は、基板アース端子54、55を有している。
【0043】
インレット5のインレット端子1は束線51aによって電源基板50と接続され、インレット端子2は束線51bによって電源基板50と接続される。これにより交流電源(不図示)からの電力が電源基板50へ供給されている。また、インレット5のアース端子3は、接続部52で電源板金53と接続されている。なお、接続部52は、これまでの実施例で説明した第1の部分及び第2の部分とインレット5のアース端子3とが接続(溶接)されている部分である。基板アース端子54、55は、電源基板50に実装された端子であり、電源板金53の接続部56、57にそれぞれ接続されている。また、電源基板50と電源板金53とはフレームモールド(不図示)で保持されている。
【0044】
[接続部56、57への応用]
図8は基板アース端子55と接続部57の詳細を示した図である。基板アース端子55は電源基板50の部品実装面に実装されており、裏側の半田面では半田付けにより基板パターンと接続されている。第3の部材である曲げ加工部55aは曲げ加工により形成された部分であり、電源基板50の面と略直交する方向に曲げ加工され、電源基板50の外側へ延びた形状となっている。ここで、曲げ加工部55aの一方の面(第1の面)を面551a、他方の面(第2の面)を面551bとする。電源板金53は、第1の部材である第1の部分53aと第2の部材である第2の部分53bと屈曲部53eとを備えている。電源板金53には例えば鉄が使用され、基板アース端子55の曲げ加工部55aには例えば銅が使用される。
【0045】
電源板金53の第1の部分53aと第2の部分53bとは基板アース端子55の曲げ加工部55aを挟み込んでいる。第1の部分53aと曲げ加工部55aの面551aとが溶接により接合され、第2の部分53bと曲げ加工部55aの面551bとが溶接により接合されている。第2の部分53bの板金幅は第1の部分53aの板金幅よりも細くなっており、実施例1の板金30と同様の構成となっている。なお、第1の部分及び第2の部分の構成は、実施例2や実施例3の構成でも良い。また、基板アース端子54と接続部56も同様の構成であり、説明を省略する。
【0046】
以上の様な構成とすることで、画像形成装置に用いられる電源基板の基板アース端子にも実施例1~3の構成を適用可能である。以上、実施例4によれば、溶接不良を低減することができる。
【符号の説明】
【0047】
3 アース端子
3a 第1の面
3b 第2の面
20a 第1の電極
20b 第2の電極
30a 第1の部分
30b 第2の部分
31a 第1の溶接部
31b 第2の溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10