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特許7532137最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
G05B13/02 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020131759
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028390
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148988(JP,A)
【文献】特開2002-197402(JP,A)
【文献】特開2013-080366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値を含む複数の評価値と、を取得し、取得した複数の前記評価値に基づいて決定される係数により前記評価値の制約条件に優先順位付けを行い、複数の前記評価値各々に対応する前記係数を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部と、
前記第2評価関数値を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行するコントローラと、を備え
複数の前記評価値各々に対応する前記係数は、前記第1評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第1スイッチング関数により得られる第1係数と、第2評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第2スイッチング関数により得られる第2係数とを含み、
前記第2評価関数値は、前記第1評価値に前記第1係数を乗じた値と、前記第2評価値に1から前記第1係数を引いた差と前記第2係数との積を乗じた値と、1から前記第1係数を引いた差と1から前記第2係数を引いた差との積を前記第1評価関数値に乗じた値との和である、最適値探索制御装置。
【請求項2】
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される複数の評価値と、を取得し、取得した複数の前記評価値に基づいて、制約条件を満たす優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部と、
前記第2評価関数値を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行するコントローラと、を備え、
前記評価関数生成部は、第1スイッチと、前記第1スイッチの後段に直列に接続した第2スイッチと、を備え、
複数の前記評価値は、第1評価値と、前記第1評価値よりも制約条件の前記優先順位が高い第2評価値とを含み、
前記第1スイッチには、前記第1評価関数値と、前記第1評価値とが入力され、前記第1スイッチは、前記第1評価値が閾値を超えたときに前記第1評価値を出力し、前記第1評価値が閾値以下であるときに前記第1評価関数値を出力し、
前記第2スイッチには、前記第1スイッチの出力値と前記第2評価値とが入力され、前記第2スイッチは、前記第2評価値が閾値を超えたときに前記第2評価値を前記第2評価関数値として出力し、前記第2評価値が閾値以下であるときに、前記第1スイッチの出力値を前記第2評価関数値として出力する、最適値探索制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記第2評価関数値が入力されるハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力値に前記操作量を変化させるためのディザー信号を乗じる乗算器と、
前記乗算器の出力値が入力されるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの出力値を積分する積分器と、
前記積分器の出力値に振幅が調整された前記ディザー信号を加算した前記操作量を出力する加算器と、を備えた請求項1又は請求項2記載の最適値探索制御装置。
【請求項4】
請求項記載の最適値探索制御装置と、
前記ディザー信号の振幅調整器または前記操作量の駆動波形を出力するモニタと、
ユーザの操作に基づいて前記ディザー信号の振幅の設定値を調整する外部コントローラと、を有する最適値探索制御システム。
【請求項5】
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および前記第1評価値よりも制約条件の優先順位が高い第2評価値と、を取得し、
前記第1評価値が閾値を超えたときに前記第1評価値を第1スイッチの出力とし、前記第1評価値が閾値以下であるときに前記第1評価関数値を前記第1スイッチの出力とするように前記第1スイッチを切り替え
前記第2評価値が閾値を超えたときに前記第2評価値を第2スイッチの出力値である第2評価関数値とし、前記第2評価値が閾値以下であるときに、前記第1スイッチの出力値を前記第2評価関数値とするように前記第2スイッチを切り替え
前記第2評価関数値を用いて、前記第2評価関数値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する最適値探索制御方法。
【請求項6】
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値を含む複数の評価値と、を取得し、
取得した複数の前記評価値に基づいて決定される係数により前記評価値の制約条件に優先順位付けを行い、複数の前記評価値各々に対応する前記係数を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を算出し、
前記第2評価関数値を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行し、
複数の前記評価値各々に対応する前記係数は、前記第1評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第1スイッチング関数により得られる第1係数と、第2評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第2スイッチング関数により得られる第2係数とを含み、
前記第2評価関数値は、前記第1評価値に前記第1係数を乗じた値と、前記第2評価値に1から前記第1係数を引いた差と前記第2係数との積を乗じた値と、1から前記第1係数を引いた差と1から前記第2係数を引いた差との積を前記第1評価関数値に乗じた値との和である、最適値探索制御方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項5又は請求項6の最適値探索制御方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラント制御の方法として、極値制御と呼ばれる技術が注目されている。極値制御は、プラントの複雑なモデルを用いないモデルフリーのリアルタイム最適制御技術であり、例えば、最適化(最小化あるいは最大化)したい評価関数(コスト関数、性能指標)を構成する値を直接計測できるオンラインセンサー情報から計算し、評価関数値を(局所)最適値(局所最小値=極小値もしくは局所最大値=極大値)に維持する様に操作量を変化させながら、適応的に最適値を探索するものである。すなわち、極値制御によるプラント制御を行う場合には、最大化(極大化)もしくは最小化(極小化)したいプラントの性能指標を表す評価関数値をオンラインで計測する。
【0003】
評価関数は、例えば、プラントからの複数の出力値に対して、所定の係数をかけ合わせて足し合わせた一元化指標で定義され得る。極値制御では、操作量を変化させて評価関数値の低減方向を探索することにより、それぞれの出力がすべて低減する(低い値でバランスする)操作量の方向を自動で探索することができる。
【0004】
一方で、評価関数を構成するプラント(例えば、性能指標などを低減する要求があるプラント)の出力などの要素には、規制値が設けられている場合がある。この規制値は、例えば、ある一定値以下で運用しなければならない値であって、法律等により定められた値であり得る。規制値が設けられている場合には、例えば、各要素に対して、プラントの出力が規制値を超過すると評価関数が増大するような制約関数(ペナルティ関数)を足し合わせることで、プラントの出力値が規制値を遵守する方向に操作量を動かしながら評価関数が最小となるように操作量の探索する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-33104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、プラントの複数の出力値に対して規制値があるときには、全ての制約条件を満たすことが難しい状況が想定され得る。複数の制約条件の中には、必ず遵守されなければならない条件と、遵守されることが望ましい条件とが含まれ得、必ず遵守されなければならない条件が満たされなくなるような操作量が最適値として導き出される可能性があり、プラントの出力値が正常値の範囲を超えてしまう可能性があった。上記の状況を踏まえて、必ず遵守されるべき条件を少なくとも満たしつつ、プラント等の要求を実現する操作量を探索する手法を用いたプラントの管理が望まれている。
【0007】
本発明の実施形態は、上記事情を鑑みて成されたものであって、複数の制約条件に満たすべき優先順位を設定可能な最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、最適値探索制御プログラム、および、最適値探索制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態による最適値探索制御装置は、制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値を含む複数の評価値と、を取得し、取得した複数の前記評価値に基づいて決定される係数により前記評価値の制約条件に優先順位付けを行い、複数の前記評価値各々に対応する前記係数を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部と、前記第2評価関数値を用いて、制約条件を満たす前記優先順位の高い前記評価値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行するコントローラと、を備え、複数の前記評価値各々に対応する前記係数は、前記第1評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第1スイッチング関数により得られる第1係数と、第2評価値に対して0より大きく1以下の範囲で連続して変化する微分可能な第2スイッチング関数により得られる第2係数とを含み、前記第2評価関数値は、前記第1評価値に前記第1係数を乗じた値と、前記第2評価値に1から前記第1係数を引いた差と前記第2係数との積を乗じた値と、1から前記第1係数を引いた差と1から前記第2係数を引いた差との積を前記第1評価関数値に乗じた値との和である
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の最適値探索制御システムを下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、第1実施形態の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
図3図3は、図2に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図4図4は、比較例の最適値探索制御装置を下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
図5図5は、比較例の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
図6図6は、図5に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図7図7は、第1実施形態の最適値探索制御装置の第1変形例を概略的に示す図である。
図8図8は、りん濃度の制約を優先した評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図9図9、第1実施形態の最適値探索制御装置の第2変形例を概略的に示す図である。
図10図10は、第2実施形態の最適値探索制御装置を下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
図11図11は、図10に示す最適値探索制御装置のスイッチ関数部において用いられる係数の設定方法の一例について説明するための図である。
図12図12は、図10に示す最適値探索制御装置のスイッチ関数部において用いられる係数の設定方法の一例について説明するための図である。
図13図13は、第2実施形態の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
図14図14は、図13に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図15図15は、第2実施形態の最適値探査制御装置の効果を説明するための図である。
図16図16は、図15に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムについて、図面を参照して説明する。
【0011】
本実施形態の最適値探索制御装置は、極値制御により最適値を探索する手段を備えている。極値制御は、操作量の変化に応じた評価量に基づく評価関数値の変化に基づいて、評価関数の最適値を適応的に探索する制御手法である。評価関数値は、制御対象プロセスの制御量に基づいて決定される指標値であり、評価量と制御量との関係は所定の評価関数によって表される。この評価関数は、制御量に基づくものであれば任意の評価基準に基づいて設定されてよい。また評価量は制御量そのものであってもよい。極値制御における制御対象プロセスでは、この評価関数は操作量に対して未知の関数である。
【0012】
極値制御では、ディザー信号によって操作量を継続的に振動させ、評価関数値の変化(増減)を観測する。通常このディザー信号は、正弦波で与えられることが多い。操作量の変化に対する評価関数値の変化に基づいて、評価関数値が最適値に近づくような方向に操作量を変化させる。このような操作量の変化を繰り返すことによって評価関数の最適値を探索していく。
【0013】
図1は、第1実施形態の最適値探索制御システムを下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の最適値探索制御システムは、外部コントローラ1と、モニタ2と、最適値探索制御装置と、を備えている。本実施形態の極値探索制御装置は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが格納されたメモリと、を備えた演算装置であって、以下に説明する種々の機能をソフトウエアにより、若しくは、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせることにより実現可能に構成されている。
【0014】
外部コントローラ1は、ユーザの操作に基づいて、例えば、極値探索制御装置のコントローラにて用いられるパラメータの設定値を変更することが可能である。外部コントローラ1は、例えば、後述する乗算器100にてディザー信号に乗じられる振幅aの設定値を調整することが可能である。
モニタ2は表示手段を備え、例えば、極値探索制御装置から制御対象プロセスへ入力される操作量uの値と、制御対象プロセスにてリアルタイムに測定された複数の評価量とを選択的に表示可能として、ユーザに提示することができる。
【0015】
本実施形態の極値探索制御装置は、例えば下水処理プラント10を制御対象プロセスとする装置であって、スイッチ機構22と、コントローラと、を備えている、コントローラは、ローパスフィルタ(LPF:Low-Pass Filter)60と、第1ディザー信号発生器90と、第2ディザー信号発生器50と、ハイパスフィルタ(HPF:High-Pass Filter)30と、積分器70と、乗算器40と、加算器80と、乗算器100と、を備えている。
なお、スイッチ機構22はコントローラに含まれていても構わない。
【0016】
ハイパスフィルタ30は、スイッチ機構22から出力された評価関数値からその最適値に応じた一定値のバイアスを除去することができる。
ディザー信号発生器50、90は、操作量に加える操作量に与えられる摂動信号を出力する。ディザー信号発生器50から出力された信号は、乗算器40に入力される。ディザー信号発生器90から出力された信号は、乗算器100にて振幅aを乗じた後に加算器80に入力される。
【0017】
乗算器40は、ハイパスフィルタ30を通過した評価関数にティザー信号を掛け合わせたものを出力する。
ローパスフィルタ60は、乗算器40の出力から低周波成分を抽出する役割を持ち、これより、評価関数値が増加したのか減少したのかが分かる。
【0018】
積分器70は、ローパスフィルタによって抽出された低周波成分を積分することによって、評価関数値を最適値に近づけるために動かすべき操作量の方向を推定する推定器として機能する。
加算器80は、積分器70から出力された値と、乗算器100から出力されたディザー信号とを加算して、操作量uとして下水処理プラント10へ出力する。
【0019】
スイッチ機構22は、制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される複数の評価値と、を取得し、取得した複数の評価値に基づいて、制約条件を満たす優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部である。
【0020】
スイッチ機構22は、直列に接続された複数のスイッチS1、S2を備えている。
本実施形態では、スイッチ機構22は、下水処理プラント10より得られる評価関数(第1評価関数)y、および、下水処理プラント10にてリアルタイムに計測されたりん濃度と窒素濃度とを取得可能であり、取得したりん濃度の値と窒素濃度との値に基づいて、スイッチS1、S2の接続状態を切り替えるように構成されている。なお、スイッチ機構22のスイッチS1、S2は、機械的に出力値を切り替えるスイッチであってもよく、電気的に出力値を切り替えるスイッチであってもよい。
【0021】
スイッチS1は、下水処理プラント10から得られる評価関数yの値と、下水処理プラント10から取得したりん濃度の値(第1評価量)とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS1は、例えば、りん濃度が所定の閾値を超えたときにりん濃度を出力し、りん濃度が所定の閾値以下であるときに評価関数yを出力するように動作する。
【0022】
スイッチS2は、スイッチS1から出力された値と、下水処理プラント10から取得した窒素濃度の(第2評価量)とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS2は、例えば、窒素濃度が所定の閾値を超えたときに窒素濃度を出力し、窒素濃度が所定の閾値以下であるときにスイッチS1から出力された値を出力するように動作する。
【0023】
上記のようにスイッチ機構22を構成することにより、窒素濃度の制約を優先して評価関数を切り替えることが出来る。すなわち、りん濃度や窒素濃度の計測値が規制値を超えたときにスイッチS1、S2が切り替わり、計測値そのものの値が出力値として選択される。例えば、りん濃度と窒素濃度とが同時に規制値を超えているときには、スイッチS2の出力値は窒素濃度の計測値となり、スイッチS2の出力値が評価関数(第2評価関数)として出力される。したがって、図1に示すスイッチ機構22を備えることにより、本実施形態の極値探索制御装置ではリン濃度の制約条件を満たすことよりも、窒素濃度の制約条件を満たすことが優先される。
【0024】
これにより、下水処理プラント10を制御対象プロセスとする極値探索制御装置において、窒素濃度やりん濃度をリアルタイムに計測しながら、窒素濃度を優先的に規制値(所定の閾値)以下とする要求に応えることが可能である。
【0025】
下水処理プラント10への適用上、評価関数yとして、例えば、放流水の水質にコスト換算係数をかけ合わせて、コスト換算した水質コストや、ポンプやブロワなどの電力費を足し合わせた総コストを採用すると下記のように表すことが可能である。
【0026】
y=コスト換算係数×窒素濃度+コスト換算係数×リン濃度+電力費換算係数×ポンプ(またはブロワ)電力量
本実施形態の極値探索制御装置によれば、総コスト(評価関数y)が最小となる操作量uを探索することが可能であり、上記総コストの値が操作量uに対して最適となる運用を探索することは、水質の改善とポンプやブロワで消費される電力費の改善(省エネ)を両立したプラントの運用をリアルタイムで実現することにつながる。
【0027】
例えば、汚泥返送ポンプによる返送率(流入量に対して、返送する汚泥の割合)制御に、極値制御を適用することを考える。汚泥返送ポンプの返送率に対して、放流水の水質である窒素濃度とりん濃度とはトレードオフの関係にあるため、制約付き評価関数の形状は、最小値をもつような形状となる。
【0028】
図2は、第1実施形態の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
ここでは、下水処理プラント10の放流水の窒素濃度およびりん濃度の水質が規制値を満たさない条件が存在する状況における評価関数を一例として示している。例えば、図2に示すA1は、評価関数が窒素の水質規制値を満たさなくなる領域であって、図2に示すA2は、評価関数がりんの水質規制値を満たさなくなる領域である。この例では、評価関数は、窒素の水質が規制値を守る境界(評価関数の値が減少する)条件下で、評価関数が最小となる返送率(操作量)は0.6となる。
【0029】
図3は、図2に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
この例では、シミュレーション開始時は、窒素濃度が規制値(=1)を超え、りん濃度は規制値(=1)以下となっている状態である。この状態において、極値探索制御装置のスイッチ機構22の出力値は、窒素濃度の測定値となる。
【0030】
図3に示すように、シミュレーションを開始すると、返送率は0.6に収束し、その結果、窒素濃度は窒素の規制値以下に収束させ、りん濃度は規制値を若干上回る水質でバランスした。このように、より優先度が高い窒素濃度に関しては、規制値を満たすように下水処理プラント10を管理することが可能となる。
【0031】
なお、下水処理における窒素濃度やりん濃度の水質は、プラントの環境条件や、流入量、流入水質によって、変動し得る値であるので、図2に示す評価関数の形状は条件によって変わり得る。極値制御は、このような評価関数の形状が条件によって、変化したとしても、常にその評価関数の値が最小となる運転条件を探索することができる制御である。
【0032】
以下に、上記実施形態の極値探索制御装置に対して、例えば環境条件や流入量、流入水質の変化に伴って評価関数の形状が変化したときに、あらかじめ設定した評価関数の重み係数などの設定によって、窒素濃度やりん濃度が規制値を満たしたり満たさなかったりする状況が発生し得る比較例について説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
図4は、比較例の最適値探索制御装置を下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
比較例の最適値探索制御装置は、スイッチ機構22に替えて制約条件付加部20を備えている点において、上述の第1実施形態と異なっている。
【0034】
制約条件付加部20は、下水処理プラント10から得られる評価関数yに対して制約条件を付加した評価関数y´を出力する。例えば、放流水の窒素濃度やりん濃度が所定の規制値を超えた際に、評価関数が増大するような仕組みとして、ペナルティ関数exp(全窒素濃度-全窒素濃度の規制値)とexp(全りん濃度-全りん濃度の規制値)とを組み合わせて、下記のように定義することができる。
【0035】
y′=y+exp(窒素濃度TN-窒素濃度規制値TNLim)+exp(りん濃度TP-リン濃度規制値TPLim)
これにより、放流水質に規制がある場合に、規制値以内に保つような機能を付加することが可能である。
【0036】
例えば、汚泥返送ポンプによる返送率(流入量に対して、返送する汚泥の割合)制御に、極値制御を適用することを考える。返送率に対して、放流水の水質である窒素とりんは、トレードオフの関係にあるため、制約付き評価関数の形状は、最小値をもつような形状となる。
【0037】
図5は、比較例の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
制約条件付き評価関数y´が、例えば図5に示すような関係となるとき、制約条件付き評価関数が最小値をとる返送率は0.5の時最小となる。ただし、この条件下では、放流水の窒素濃度およびりん濃度がどちらも規制値を超過してしまう条件となっている。
【0038】
図6は、図5に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【0039】
図6に示すように、返送率は制約付き評価関数が最小となる0.5に収束し、その結果、窒素濃度やりん濃度は、どちらも規制値を超過した値に収束する結果となった。これは、制約付き評価関数y´の構造上、評価関数y´の形状が条件ごとに決まってしまい、その状況での最小となる運用条件を探索するため、窒素濃度とりん濃度との両方が規制値を満たす条件がない状況では、どちらも規制値を満たさない条件に収束する可能性があった。
【0040】
これに対し、上述の第1実施形態では、環境条件や流入量、流入水質の変化に伴う、評価関数の形状の変化によらず常に、窒素の水質が規制値を守るように制御したい場合には、窒素の水質制約の優先度を上げることが可能である。
【0041】
すなわち、本実施形態によれば、複数の制約条件に満たすべき優先順位を設定可能な最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムを提供することができる。
【0042】
図7は、第1実施形態の最適値探索制御装置の第1変形例を概略的に示す図である。
この例では、スイッチ機構22のスイッチS1に窒素濃度の測定値が入力され、スイッチS2にりん濃度の測定値が入力されている点において、図1の構成と異なっている。
なお、ここでは、外部コントローラ1とモニタ2との記載を省略しているが、これらを備えた最適値探索制御システムとして構成されても構わない。
【0043】
すなわち、スイッチS1は、下水処理プラント10から得られる評価関数yと、下水処理プラント10から取得した窒素濃度の値とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS1は、例えば、窒素濃度が所定の閾値を超えたときに窒素濃度を出力し、窒素濃度が所定の閾値以下であるときに評価関数yを出力するように動作する。
【0044】
スイッチS2は、スイッチS1から出力された値と、下水処理プラント10から取得したりん濃度の値とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS2は、例えば、りん濃度が所定の閾値を超えたときにりん濃度を出力し、りん濃度が所定の閾値以下であるときにスイッチS1から出力された値を出力するように動作する。
【0045】
図7に示すように、りん濃度の制約が規制値を超えた際にその計測値を出力値として選択するスイッチS2を後段に配置することで、最適値探索制御装置は、りん濃度が制約を遵守することが優先される条件下で、最適となる運用条件を探索することできる。
【0046】
図8は、りん濃度の制約を優先した評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【0047】
この例では、シミュレーション開始時は、窒素濃度が規制値(=1)を超え、りん濃度は規制値(=1)以下となっている状態である。この状態において、極値探索制御装置のスイッチ機構22の出力値は、窒素濃度の測定値となる。
【0048】
図8に示すように、シミュレーションを開始すると、返送率は0.4に収束し、その結果、窒素濃度は窒素の規制値を若干上回り、りん濃度は規制値以下となる水質でバランスした。
上記のように、スイッチ機構22において後段に配置されたスイッチS2に入力される値が、制約条件を満たす優先度が高くなるように設定される。
【0049】
なお、窒素濃度やりん濃度のほかにも制約条件があり、例えば3つ以上の制約条件がある場合には、3つ以上のスイッチを直列に接続し、制約条件を満たす優先度のより高い出力をより後段に配置されたスイッチに入力することで、制約条件に優先順位を付加することが可能である。また、評価関数の定義は上記実施形態にて説明した形に限定されるものではなく、最小値または最大値をもつ関数であればよい。いずれの場合であっても、上述の第1実施形態と同様の効果を得ることが出来る。
【0050】
図9は、第1実施形態の最適値探索制御装置の第2変形例を概略的に示す図である。
この例では、最適値探索制御装置はプラント12を制御対象プロセスとし、二種類の操作対象の制御に同時に極値制御を適用する最適値探索制御装置において、操作対象ごとに極値制御のコントローラを設けている点にて図1の構成と異なっている。
なお、ここでは、外部コントローラ1とモニタ2との記載を省略しているが、これらを備えた最適値探索制御システムとして構成されても構わない。
【0051】
第2変形例の最適値探索制御装置は、スイッチ機構22と、第1コントローラC1と、第2コントローラC2と、を備えている。
第1コントローラC1と第2コントローラC2との構成は、図1に示す最適値探索制御装置のコントローラと同様の構成である。なお、第1コントローラC1と第2コントローラC2とは、第1ディザー信号発生器90と、第2ディザー信号発生器50と、乗算器100とを共有しても構わない。
【0052】
第1コントローラC1は、入力された評価関数に対して操作量uAを出力する。第2コントローラC2は、入力された評価関数に対して操作量uBを出力する。操作量uAと操作量uBとのそれぞれに対して、極値制御を行うコントローラを設けることにより、評価関数yが最小または最大となる運用条件を操作量uAと操作量uBとのそれぞれについて探索することができる。
【0053】
スイッチS1は、プラント12から得られる評価関数yと、プラント12から取得した出力Aの値とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS1は、例えば、出力Aが所定の閾値を超えたときに窒素濃度を出力し、出力Aが所定の閾値以下であるときに評価関数yを出力するように動作する。
【0054】
スイッチS2は、スイッチS1から出力された値と、プラント12から取得した出力Bの値とのいずれかを出力するように経路を切り替える。スイッチS2は、例えば、出力Bが所定の閾値を超えたときに出力Bを出力し、出力Bが所定の閾値以下であるときにスイッチS1から出力された値を出力するように動作する。
【0055】
出力Aよりも出力Bが規制値を満たすことを優先したい場合には、出力AをスイッチS1に入力し、出力BをスイッチS1よりも後段のスイッチS2に入力するように設定することで、常に出力Aよりも出力Bの方が規制値を遵守することが優先されるように動作させることが可能となる。
【0056】
上記のように複数の操作対象を制御する最適値探索制御装置において、複数のコントローラを備える場合であっても、上述の第1実施形態と同様の効果を得ることが出来る。なお、満たすべき出力の制約がない場合には、制約を除外して動作させてもよい。例えば、図9において、出力Aの制約を考慮する必要がない場合にはスイッチS1を省略してもよく、また、スイッチS1は常に評価関数yを出力することとし、出力Bのみの制約を考慮した機構としてもよい。いずれの場合であっても、上述の第1実施形態と同様の効果を得ることが出来る。
【0057】
次に、第2実施形態の最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムについて図面を参照して詳細に説明する。
図10は、第2実施形態の最適値探索制御装置を下水処理プラントに適用した際の一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態の最適値探索制御装置は、スイッチ機構22に替えてスイッチ関数部24を備えている点において上述の第1実施形態と異なっている。
なお、ここでは、外部コントローラ1とモニタ2との記載を省略しているが、これらを備えた最適値探索制御システムとして構成されても構わない。
【0058】
スイッチ関数部24は、制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される複数の評価値と、を取得し、取得した複数の評価値に基づいて、制約条件を満たす優先順位の高い評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部である。
【0059】
スイッチ関数部24は、評価関数(第1評価関数)yの値と、下水処理プラント10にてリアルタイムに計測された窒素濃度TNの値(第1評価量)と、下水処理プラント10にてリアルタイムに計測されたりん濃度TPの値(第2評価量)と、を受信し、優先順位を含む評価関数(第2評価関数)y2の値を出力する。評価関数y2は、例えば、下記式のように、評価関数yと窒素濃度TNとりん濃度TPとのそれぞれに所定の係数を掛けた値を足し合わせた値である。
【0060】
y2=r1×TN+(1-r1)×r2×TP+(1-r1)×(1-r2)×y
ここで、r1とr2とは、対応する評価値に応じて0より大きく1以下の範囲で設定される値である。スイッチ関数部24にて、上記のように係数の値を設定することにより、連続的に評価値の切り替え(どの評価値を優先するか)を行うことが可能となる。
【0061】
例えば、優先度の高い出力項目TN(例えば窒素濃度の場合)には係数r1のみがかかり、次に優先度が高い出力項目TP(例えばリン濃度の場合)にはr1を1から引いた係数(1-r1)とりん濃度の出力値によって決まる係数r2がかかり、さらに最も優先度が低い評価関数yには係数(1-r1)と係数(1-r2)がかかっている。
【0062】
図11および図12は、図10に示す最適値探索制御装置のスイッチ関数部において用いられる係数の設定方法の一例について説明するための図である。
図11には、窒素濃度TNの係数r1を設定する方法として第1スイッチング関数(例えばシグモイド関数)を用いたときの係数r1の一例を示している。
図12は、りん濃度TPの係数r2を設定する方法として第2スイッチング関数(例えばシグモイド関数)を用いたときの係数r2の一例を示している。
【0063】
シグモイド関数は、f(x)=1/(1+exp(b×(a-x)))の形で表される、0<f(x)<1の単調増加関数となる。この例において、例えば、シグモイド関数のパラメータaやパラメータbを変更することでスイッチング関数の性能(形状)を変えることができる。例えばパラメータaを変更すると、閾値(例えば評価値の規制値などに相当)、パラメータbを変更することでスイッチングの効き方をコントロールすることが可能である。例えば、窒素濃度とりん濃度との規制値が1[mg/L]であるときには、a=1とすることで規制値を設定することができる。
【0064】
なお、シグモイド関数により係数を求める手法は一例であり、評価値によって0~1の範囲で滑らかに変化するスイッチング関数(所定の範囲(例えば0~1の範囲)において微分可能である関数、および、当該所定の範囲において連続な関数)であればどのような構造を持つものでも有効である。例えば、0から1の間に変極点をもつような単調増加関数G(x)(例えばG(x)にはG(x)=xなどを用いる)に0≦G(x)≦1の飽和機構を追加した飽和関数や、アークタンジェント、累積正規分布関数、ゴンぺルツ関数、グーデルマン関数などの関数について値域が0~1になるようにスケール変換した関数などを用いてもよい。また、-1~1の範囲で変化する滑らかな関数として用いられる正則化信号を用いた関数h(x)=x/(1+|x|)についても、h‘(x)=(1+|x|+x)/(1+|x|)のように式変更することで、0~1の範囲で変化する滑らかなスイッチング関数として活用することが可能である。
なお、窒素濃度TNの係数r1を設定する第1スイッチング関数と、りん濃度TPの係数r2を設定する第2スイッチング関数とは、同じスイッチング関数であってもよく、異なるスイッチング関数であってもよい。
【0065】
上記のように求めた係数r1と係数r2とを評価関数y2に適用すると、窒素濃度TNが増加すると、評価値である窒素濃度TNの係数であるr1の係数が1に近づき、その一方で、第2項、第3項には(1-r1)がかけられているため、それぞれが0に近い値をとる。そのため、窒素濃度TNが増加していくと、第1項の窒素濃度の評価値そのものの項だけが残ることとなり、極値制御により窒素濃度TNが低減する方向に操作量を動かすことができ、窒素濃度の制約条件の優先度を高めることが可能となる。
【0066】
上述の評価関数y2において例えばりん濃度の制約が優先される状況は、係数r1の値が0に近い値をとっている(窒素濃度が制約を満たしている)際に、りん濃度の水質が悪化するときに起こりうる。このとき、係数r1が0に近い値をとり、係数r2が1に近い値をとるため、評価関数y2の第1項目および第3項目の値が0に近い値となり、第2項目のりん濃度TPの評価値そのものの項だけが残る。このときに、極値制御によりりん濃度TPが低減する方向に操作量を動かすことができ、窒素濃度TNが低い条件下でりん濃度TPの制約条件の優先度を高めることができる仕組みである。
【0067】
なお、制約条件を付加した出力が三つ以上の場合には、それに応じて評価関数を構成する項の数を増やせばよい。その場合、最も優先したい出力値に掛け合わせる係数を一つとし、優先度を下げるごとに掛け合わせる係数の数を増加させていくことで、全ての項に優先順位付けを行うことが可能である。
【0068】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、複数の制約条件に優先順位を付加させつつ、評価関数が最適となる操作量の探索を行う最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムを提供することが出来る。
更に、本実施形態の最適値探査制御装置では、優先したい制約条件を遵守しつつ、制約条件が切り替わる境界において評価関数値を連続的変化させることが可能である。
【0069】
図15は、第2実施形態の最適値探索制御装置の効果を説明するための図である。
図15では、評価関数が最適となる条件(境界条件)において、評価値の値が不連続になる場合の例を示している。この場合、極値制御による最適値探索を行うと、評価関数の値が最小となる操作量の方向の探索は可能であるが、収束するときにハンチング(操作量がバタつく)する現象が生じることがある。
【0070】
図16は、図15に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図16に示すように、評価関数の形状が連続でないときには、返送率、窒素濃度およびりん濃度の値が収束せずに振動するハンチング現象が生じ、値が振動する幅が大きい場合には制御が不安定化してしまう恐れがある。また、実用化の観点からは、このように操作量が最適であるにもかかわらず、振動的になる現象は好ましくない。
【0071】
図13は、第2実施形態の極値探索制御装置にて適用される評価関数の一例について説明するための図である。
上記に対し、本実施形態の極値探索制御装置では、優先したい制約条件を遵守しつつ、制約条件が切り替わる境界A3において評価関数値を連続的変化させることが可能である。したがって、最適値を探索したときに、探索結果の値が収束しないことを回避することが出来る。
【0072】
図14は、図13に示す評価関数について極値制御による最適値探索を行ったときの返送率と、放流水の窒素濃度およびりん濃度とのシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
図14に示すように、評価関数の形状が連続的に変化するときには、返送率、窒素濃度およびりん濃度の値が振動せずに収束した。
【0073】
上記のように、本実施形態によれば、上述の第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、更に安定した制御を行うことが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、複数の制約条件に満たすべき優先順位を設定可能な最適値探索制御装置、最適値探索制御方法、コンピュータプログラム、および、最適値探索制御システムを提供することができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
[付記1]
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される複数の評価値と、を取得し、取得した複数の前記評価値に基づいて、制約条件を満たす優先順位の高い前記評価値の少なくとも一部を含む第2評価関数値を出力する評価関数生成部と、
前記第2評価関数値を用いて、前記優先順位の高い前記評価値が最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行するコントローラと、を備えた最適値探索制御装置。
[付記2]
前記評価関数生成部は、第1スイッチと、前記第1スイッチの後段に直列に接続した第2スイッチと、を備え、
複数の前記評価値は、第1評価値と第2評価値とを含み、
前記第1スイッチには、前記第1評価関数値と、前記第1評価値とが入力され、前記第1スイッチは、前記第1評価値が制約条件を満たさないときに前記第1評価値を出力し、前記第1評価値が制約条件を満たしているときに前記第1評価関数値を出力し、
前記第2スイッチには、前記第1スイッチの出力値と前記第2評価値とが入力され、前記第2スイッチは、前記第2評価値が制約条件を満たさないときに前記第2評価値を出力し、前記第2評価値が制約条件を満たしているときに、前記第1スイッチの出力値を出力する、付記1記載の最適値探索制御装置。
[付記3]
複数の前記評価値は、第1評価値と第2評価値とを含み、
前記評価関数生成部は、前記第1評価値に第1係数を乗じた値と、前記第2評価値に1から前記第1係数を引いた差と第2係数との積を乗じた値と、との和を含む前記第2評価関数値を演算し、
前記第1係数および前記第2係数は0より大きく1以下の値である、付記1記載の最適値探索制御装置。
[付記4]
前記第1係数は前記第1評価値を用いて所定の範囲で変化する第1スイッチング関数により得られる値であって、前記第2係数は前記第2評価値を用いて所定の範囲で変化する第2スイッチング関数により得られる値である、付記3記載の最適値探索制御装置。
[付記5]
前記コントローラは、
前記第2評価関数値が入力されるハイパスフィルタと、
前記ハイパスフィルタの出力値に前記操作量を変化させるためのディザー信号を乗じる乗算器と、
前記乗算器の出力値が入力されるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの出力値を積分する積分器と、
前記積分器の出力値に振幅が調整された前記ディザー信号を加算した前記操作量を出力する加算器と、を備えた付記1乃至付記4のいずれかに記載の最適値探索制御装置。
[付記6]
付記5記載の最適値探索制御装置と、
前記ディザー信号の振幅調整器または前記操作量の駆動波形を出力するモニタと、
ユーザの操作に基づいて前記ディザー信号の振幅の設定値を調整する外部コントローラと、を有する最適値探索制御システム。
[付記7]
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値と、を取得し、
前記第1評価値が制約条件を満たさないときに前記第1評価値を第1スイッチの出力とし、前記第1評価値が制約条件を満たしているときに前記第1評価関数値を前記第1スイッチの出力とし、
前記第2評価値が制約条件を満たさないときに前記第2評価値を第2評価関数値とし、前記第2評価値が制約条件を満たしているときに、前記第1スイッチの出力値を前記第2評価関数値とし、
前記第2評価関数値を用いて、前記第1評価値、前記第2評価値、および前記第1評価関数値の少なくともいずれかが最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する最適値探索制御方法。
[付記8]
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値、を取得し、
第1係数を前記第1評価値に乗じた値と、1から前記第1係数を引いた差と第2係数との積を前記第2評価値に乗じた値と、との和を含む第2評価関数値を演算し、前記第1係数および前記第2係数は0より大きく1以下の値であって、
前記第2評価関数値を用いて、前記第1評価値、前記第2評価値および前記第1評価関数値の少なくともいずれかが最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行する最適値探索制御方法。
[付記9]
コンピュータに、
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値と、を取得し、
前記第1評価値が制約条件を満たさないときに前記第1評価値を第1スイッチの出力とし、前記第1評価値が制約条件を満たしているときに前記第1評価関数値を前記第1スイッチの出力とし、
前記第2評価値が制約条件を満たさないときに前記第2評価値を第2評価関数値とし、前記第2評価値が制約条件を満たしているときに、前記第1スイッチの出力値を前記第2評価関数値とし、
前記第2評価関数値を用いて、前記第1評価値、前記第2評価値、および前記第1評価関数値の少なくともいずれかが最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行させる、コンピュータプログラム。
[付記10]
コンピュータに、
制御対象プロセスの操作量に応じて変化する制御量に基づいて決定される第1評価関数値と、前記制御対象プロセスにてリアルタイムに計測される第1評価値および第2評価値、を取得し、
第1係数を前記第1評価値に乗じた値と、1から前記第1係数を引いた差と第2係数との積を前記第2評価値に乗じた値と、との和を含む第2評価関数値を演算し、前記第1係数および前記第2係数は0より大きく1以下の値であって、
前記第2評価関数値を用いて、前記第1評価値、前記第2評価値および前記第1評価関数値の少なくともいずれかが最適値に向かうように前記操作量を変化させる極値制御を実行させる、コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0075】
1…外部コントローラ、2…モニタ、10…下水処理プラント、12…プラント、20…制約条件付加部、22…スイッチ機構(評価関数生成部)、24…評価関数生成部、30…ハイパスフィルタ、40…乗算器、50…ディザー信号発生器、60…ローパスフィルタ、70…積分器、80…加算器、90…ディザー信号発生器、100…乗算器、S1…第1スイッチ、S2…第2スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16