(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20230101AFI20240805BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20240805BHJP
【FI】
C02F1/50 550L
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 550C
C02F1/50 560Z
C02F1/50 531P
C02F1/76 A
(21)【出願番号】P 2020146666
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】黒川 太
(72)【発明者】
【氏名】鷹箸 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 吉倫
(72)【発明者】
【氏名】君島 和彦
(72)【発明者】
【氏名】溝口 喬也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 良陽
(72)【発明者】
【氏名】松本 隼
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-150888(JP,A)
【文献】特開平02-187193(JP,A)
【文献】特開平06-079284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/70- 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得する第1取得部と、
過去の気相に関するデータに関連付けられた過去の実績値を蓄積したデータベースにアクセスし、前記第1取得部が取得した前記気相に関するデータに類似する過去の前記気相に関するデータを検索し、検索された過去の前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が、単位時間および単位面積当たりにおいて、
前記被処理水の気液界面から揮発することにより前記気相へ移動する移動量
の予測値を演算する塩素移動量演算部と、
前記移動量
の予測値に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する塩素低下量演算部と、を備えた塩素低下量演算装置。
【請求項2】
前記気相に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された気温計の測定値を含む、請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項3】
前記気相に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された風量計および風速計の少なくともいずれかの測定値を含む、請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項4】
前記気相に関するデータは、外部から取得した気象データに含まれる気相の風量の値および風速の値の少なくともいずれかを含む、請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項5】
前記塩素移動量演算部は、検索された過去の前記気相に関するデータの時刻情報から所定時間経過後の過去の前記実績値を取得し、過去の前記実績値に基づく前記移動量の予測値を演算する請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項6】
前記被処理水の液相に関するデータを取得する第2取得部を更に備え、
前記塩素移動量演算部は、
過去の前記気相に関するデータおよび前記液相に関するデータを用いて、前記移動量
の予測値を演算する、請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項7】
前記液相に関するデータは、前記上部開放槽に設置された水温計の測定値を含み、
前記塩素移動量演算部は、前記気相に関する情報と前記水温計の測定値とから、気液平衡に基づいて前記移動量
の予測値を演算する、請求項6記載の塩素低下量演算装置。
【請求項8】
前記液相に関するデータは、前記水処理プロセスに設置された水質計により測定された原水水質の値を含み、
前記原水水質
の値に基づいて、前記被処理水における単位時間および単位体積当たりの塩素の消費量を演算する塩素消費量演算部を更に備え、
前記塩素低下量演算部は、塩素の前記移動量
の予測値と前記消費量とに基づいて前記塩素低下量を演算する、請求項6記載の塩素低下量演算装置。
【請求項9】
前記被処理水に照射される日射に関するデータを取得する第3取得部と、
前記日射に関するデータに基づいて、前記被処理水における単位時間および単位面積当たりの塩素の分解量を演算する塩素分解量演算部と、を更に備え、
前記塩素低下量演算部は、塩素の前記移動量
の予測値と前記分解量とに基づいて前記塩素低下量を演算する、請求項1記載の塩素低下量演算装置。
【請求項10】
前記日射に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された日射計により測定され、紫外線の量又は強度の値を含む、請求項9記載の塩素低下量演算装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の塩素低下量演算装置と、
前記塩素低下量を用いて前記被処理水に対する塩素の注入率を決定する制御装置と、
前記注入率と、前記水処理プロセスに流入する前記被処理水の流量とに基づいて、前記被処理水に対して塩素を注入する塩素注入装置の動作を制御するコントローラと、を備えた塩素注入制御システム。
【請求項12】
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得し、
過去の気相に関するデータに関連付けられた過去の実績値を蓄積したデータベースにアクセスし、取得した前記気相に関するデータに類似する過去の前記気相に関するデータを検索し、過去の前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が単位時間および単位面積当たりにおいて
、前記被処理水の気液界面から揮発することにより前記気相へ移動する移動量
の予測値を演算し、
前記移動量
の予測値に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する、塩素低下量演算方法。
【請求項13】
コンピュータを、
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得する手段と、
過去の気相に関するデータに関連付けられた過去の実績値を蓄積したデータベースにアクセスし、取得した前記気相に関するデータに類似する過去の前記気相に関するデータを検索し、過去の前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が単位時間および単位面積当たりにおいて
、前記被処理水の気液界面から揮発することにより前記気相へ移動する移動量
の予測値を演算する手段と、
前記移動量
の予測値に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する手段と、して機能させる塩素低下量演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
国内の水道法では、浄水処理プロセスにおいて被処理水の塩素による消毒が義務付けられている。例えば、給水末端(例えば給水栓)での遊離残留塩素濃度は、0.1mg/L以上とすることが定められている。
【0003】
一方、浄水処理プロセスにおいては、被処理水中の塩素が種々の要因によって分解され、処理水の塩素濃度が低下することが知られている。そのため、浄水処理プロセスでは、被処理水に塩素剤の量(以下「塩素剤注入量」という。)を、上記要因の影響を考慮して調整する必要がある。しかしながら、従来は、例えば管理者のノウハウなどに基づいて塩素剤の注入量が調整される運用が成されることも多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-68270号公報
【文献】特開平6-79284号公報
【文献】特許第4982114号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】山本耕司、「貯水槽における残留塩素の挙動」、生活衛生27-4(1983)、212頁-215頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による塩素低下量演算装置は、被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得する第1取得部と、過去の気相に関するデータに関連付けられた過去の実績値を蓄積したデータベースにアクセスし、前記第1取得部が取得した前記気相に関するデータに類似する過去の前記気相に関するデータを検索し、検索された過去の前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が、単位時間および単位面積当たりにおいて、前記被処理水の気液界面から揮発することにより前記気相へ移動する移動量の予測値を演算する塩素移動量演算部と、前記移動量の予測値に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する塩素低下量演算部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の塩素低下量演算装置および塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、第2実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図5】
図5は、第2実施例の塩素注入制御システムの他の構成例を概略的に示す図である。
【
図6】
図6は、第3実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図7】
図7は、第4実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、第5実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
【
図10】
図10は、第6実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図12】
図12は、第7実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図14】
図14は、第8実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態の塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムについて、図面を参照して説明する。
浄水場において消毒剤として塩素剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)を被処理水に注入することが多く行われている。被処理水に注入される塩素は、例えば日射による紫外線や原水に由来する無機物質や有機物質により分解および消費され、原水水質や日射量などに基づいて沈澱池出口の有効塩素濃度の減少を見込んで、塩素剤の注入量が決定され得る。
【0010】
一方で、例えば上部が開放された貯水槽(上部開放槽)などにおいて塩素が揮発する現象が確認されている。しかしながら、沈澱池出口の有効塩素濃度の演算をする際には、浄水場の上部開放槽などで揮発する塩素の量は考慮されておらず、その為に予めかなり余裕をもって塩素剤を注入するよう運用が行われることもあった。
【0011】
本願発明者らは、浄水場の上部開放槽における塩素の揮発量と気相の移動量との関係性を検討したところ、他の原水由来の有機物質や紫外線による塩素分解量および塩素消費量を除いた残留塩素量の変化量と傾向が略一致することを見出した。
【0012】
以下に説明する実施形態では、上記事項を鑑みて、揮発による塩素濃度の減少を考慮して沈澱池出口の有効塩素濃度を管理値以上に維持する、塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムについて説明する。
【0013】
図1は、一実施形態の塩素低下量演算装置および塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示すブロック図である。
本実施形態の塩素注入制御システム100は、浄水処理プロセスの固液分離工程の前段において、被処理水に塩素剤を注入するシステムである。具体的には、塩素注入制御システム100は、被処理水を着水井10、混和池20、フロック形成池30、沈澱池40の順に送る過程において、被処理水中の濁質を凝集剤によって沈降分離させる固液分離工程に適用された一例である。
なお、
図1乃至
図15において実線の矢印は被処理水の流れを表しており、破線の矢印は情報の流れを表している。
【0014】
着水井10は、河川等の水源から取り込んだ原水を貯留する貯水池である。着水井10に着水した原水は、所定時間の滞留の後に後段の混和池20に送られる。
混和池20は、被処理水と凝集剤とを混和させることにより、被処理水中に微細なフロックを形成させるための貯水池である。混和池20において凝集剤と混和された被処理水は、後段のフロック形成池30に送られる。
【0015】
フロック形成池30は、被処理水の撹拌によってフロックの集塊化を促進するための貯水池である。フロック形成池30に送られた被処理水は、所定時間の撹拌の後に後段の沈澱池40に送られる。
沈澱池40は、フロックを重力沈降させることによって被処理水から濁質を分離するための貯水槽である。沈澱池40に送られた被処理水は所定時間の滞留の後に、その上澄み水が処理水として次工程へと送液される。
【0016】
本実施形態の塩素注入制御システム100は、上述の固液分離工程の混和池20に、凝集剤とともに被処理水に注入される塩素剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)の注入量を制御する。
【0017】
塩素注入制御システム100は、塩素注入装置5と、コントローラ6と、塩素注入制御装置7と、塩素低下量演算装置8と、流量計11と、残留塩素濃度計31、41と、を備えている。
【0018】
塩素注入装置5、コントローラ6、塩素注入制御装置7、および、塩素低下量演算装置8は、それぞれが、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが格納されたメモリとを備え得る。なお、塩素注入装置5、コントローラ6、塩素注入制御装置7、および、塩素低下量演算装置8のうちの複数の構成は、プロセッサおよびメモリを共有していても構わない。塩素注入装置5、コントローラ6、塩素注入制御装置7、および、塩素低下量演算装置8は、ソフトウェアにより又はソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより、以下に説明する種々の機能を実現することが出来る。
塩素注入装置5は、コントローラ6から供給される流量(以下「注入流量」という)に基づいて、所定量の塩素剤を被処理水へ注入する機能を有する。
【0019】
コントローラ6は、混和池20に流入する原水の流量と、塩素注入制御装置7から指示される塩素注入率の設定値とに基づいて、塩素注入装置5に指示する塩素剤の注入流量を決定する機能を有する。また、コントローラ6は、決定した注入流量の塩素剤が被処理水に注入されるように、塩素注入装置5の動作を制御する。
【0020】
なお、コントローラ6は、流量計11から塩素剤の注入流量を決定する際に用いる原水の流量の測定値を取得することができる。流量計11は、着水井10と混和池20との間の流路に設置される。
【0021】
塩素注入制御装置7は、例えば、塩素剤の注入量に関するデータ(以下「塩素剤注入量データ」という)と、被処理水における塩素の塩素剤注入後から各確認地点までの間での塩素濃度の変化量と、塩素低下量演算装置8で演算された塩素低下量のデータと、処理水の残留塩素濃度及びその目標値と、に基づいてコントローラ6に指示する塩素注入率の設定値を決定する機能を有する。具体的には、塩素剤注入量データは、被処理水に対する現在の塩素剤注入量を示すデータを含む。塩素注入制御装置7は、決定した塩素注入率の設定値の塩素剤が被処理水に注入されるように、コントローラ6へ塩素注入率を出力する。
【0022】
一般に、水中の塩素が気相へ移動する速度は気相と接触する池における塩素濃度によって変化する。塩素注入制御装置7は、単位時間および単位面積当たり、固液分離工程において気液間で移動する被処理水中の塩素の量(以下「塩素移動量」という)に基づく塩素低下量を用いて、塩素注入率の設定値を決定することができる。
【0023】
なお、塩素注入制御装置7は、処理水の残留塩素濃度の目標値と、処理水の実際の残留塩素濃度との乖離の度合いに応じて、上述のように決定した設定値を補正するフィードバック制御を行ってもよい。例えば、塩素注入制御装置7は、残留塩素濃度の目標値と実際の残留塩素濃度の値との差がゼロとなるようにPI制御やPID制御を行い、塩素注入率の設定値を演算してもよい。
【0024】
塩素注入制御装置7は、残留塩素濃度計31、41から処理水の残留塩素濃度の測定値を取得することが出来る。残留塩素濃度計31は、フロック形成池30の流出部付近における被処理水の残留塩素濃度を測定する。残留塩素濃度計41は、沈澱池40の流出部付近における被処理水の残留塩素濃度を測定する。残留塩素濃度計31および残留塩素濃度計41によって測定された処理水の残留塩素濃度は、「処理水データ」として塩素注入制御装置7に入力され得る。
【0025】
図2は、
図1に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
塩素低下量演算装置8は、気相物性・物理量等データ取得部(第1取得部)81と、塩素移動量演算部82と、塩素低下量演算部83と、塩素低下量演算結果出力部84と、を備え、気相の物性・物理量等の情報と塩素剤注入量データとに基づいて、気液間で移動する塩素移動量を演算する。
【0026】
気相物性・物理量等データ取得部81は、気相の物性情報(物理量等)を外部から取り込む機能を有している。気相の物性情報は、例えば、気相の移動量および気温の少なくともいずれかの情報を含み得る。気相の移動量の情報は、例えば被処理水界面の気相の移動量の情報であって、風量、風速、風向の情報を含み得る。また、気相の物性情報は、その他気象データ(日射量、紫外線量など)を含んでいてもよい。気相物性・物理量等データ取得部81で取得した気相の物性情報に関するデータは、気相物性・物理量等データ取得部81から塩素移動量演算部82に送られる。
【0027】
塩素移動量演算部82は、気相物性・物理量等データ取得部81から気相の物性情報に関するデータを取得する。また塩素移動量演算部82は、必要に応じて、流量計11から原水流量の測定値と取得することができる。塩素移動量演算部82は、例えば、取得した気相の物性情報を用いて、被処理水中から気相への塩素の移動量を演算することができる。
【0028】
本願発明者らが様々な条件において塩素の移動量を測定した結果、塩素の移動量は、上部開放槽が設置されている地域の地理的条件や気象条件に依存し、季節により変化するとともに、1日の中でも時刻に応じて変化する値であることが見出された。そこで、本実施形態において、塩素移動量演算部82は、対象とする上部開放槽について予め測定された値に基づく演算式やテーブルを用いて、塩素の移動量を演算するものとしている。ここで用いる演算式は、演算を行う時点の季節毎に用意されていてもよく、演算を行う時点の気象条件に基づいて複数の演算式の中から選択されてもよい。
【0029】
ここで演算される塩素の移動量は、例えば、単位時間および気液界面の単位面積当たりにおいて、被処理水の気液界面から物理的に揮発する塩素の量(重量もしくはモル量)である。塩素移動量演算部82は、気相の物性・物理量等情報に基づく気相の移動量の情報を少なくとも用いて、予め設定された演算式やテーブルを用いることにより塩素の移動量を演算することが可能である。塩素移動量演算部82は、塩素の移動量を演算する際に、例えば、被処理水の塩素濃度、気温、被処理水(又は原水)の水温、気液界面積、などの値を更に用いてもよい。被処理水(又は原水)の水温は、季節や気温に応じて設定された値を用いてもよく、図示しない水温計により測定された値を用いてもよい。また、塩素移動量演算部82は、塩素移動量を演算する際に、必要に応じて塩素注入制御装置7から送られてきた塩素剤注入量データ(例えば、塩素注入率の実績値や被処理水の塩素濃度の測定値)を用いることができる。塩素移動量演算部82は、塩素移動量の演算結果を塩素低下量演算部83に送る。
【0030】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82から送られてきた塩素移動量を取得する。塩素低下量演算部83は、例えば、取得した塩素移動量と、紫外線や原水水質等により消費および分解される塩素量とを用いて、単位時間および単位面積当たりの被処理水の塩素低下量を算出することが出来る。塩素低下量演算部83は、塩素低下量の演算結果を塩素低下量演算結果出力部84に送る。
塩素低下量演算結果出力部84は、塩素低下量演算部83から送られてきた塩素低下量の演算結果を、塩素注入制御装置7へ送る。
【0031】
上記のように、本実施形態の塩素注入制御システムでは、気相の移動量を用いて演算された被処理水の塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの固液分離工程の管理に要するコストを低減することが可能である。
【0032】
すなわち、本実施形態によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
【0033】
以下、上述の実施形態の塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムについて、複数の実施例について説明する。なお、以下の複数の実施例において、上述の実施形態の同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の複数の実施例は組み合わせても構わない。
【0034】
[第1実施例]
図3は、第1実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
この実施例は、気相の物性・物理量等情報として、気温の情報を採用した例である。
【0035】
例えば、フロック形成池30や沈澱池40上部に覆いが無く大気解放である場合、取得対象となる気相の物性・物理量等情報は、フロック形成池30や沈澱池40上部の大気の情報となる。特に晴天時には、大気の温度は、一日の中で日中に大きく上昇した後に低下するよう変化する。水温に対して気温の変化が大きいときには、水面付近では水温と気温との温度差による対流が発生する。
【0036】
被処理水中の塩素濃度(具体的には次亜塩素酸濃度)は、各々の池上部の大気中の塩素分圧(具体的には次亜塩素酸分圧)と一定の平衡状態を保っており、大気の移動により接触面での分圧が変化すると平衡が崩れる。その結果、被処理水中の塩素濃度と塩素分圧とを平衡状態に戻すために塩素が気液間で移動することとなる。
【0037】
そこで、本実施例では、水面付近での対流の発生を検知するために気温計42をプロセス内に設置している。気温計42は、上部開放槽における被処理水の水面付近に設置されることが望ましい。気温計42にて計測された気温の値は、気相の物性・物理量等情報として気相物性・物理量等データ取得部81に供給される。
【0038】
塩素移動量演算部82は、気相物性・物理量等データ取得部81から気温の値を受け取り、気温と被処理水の水温との温度差に基づいて塩素移動量を演算する。なお、被処理水の水温は、例えば、季節や月毎に一日の中の水温の変化を予め測定した情報に基づいて、予め設定された値を用いることが出来る。塩素移動量演算部82は、例えば、気温と被処理水の水温との温度差に対応する塩素の移動量の値が格納されたテーブルを備えていてもよく、気温と被処理水の水温との温度差に基づいて予め設定された塩素の移動量の演算式を用いてもよい。
【0039】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82にて上記のように演算された塩素の移動量を用いて、被処理水の塩素低下量を演算することができる。その結果、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相の移動量に基づく塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0040】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
なお、気温計42は、上部開放槽における被処理水の水面付近の複数の箇所に設置されてもよい。気液界面の面積が広い上部開放槽における気温を測定する場合には、1か所で気温を計測するよりも複数個所で気温を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の気温計42の各々に対応するように、上部開放槽の気液界面を複数のエリアとし、エリア毎に演算した塩素移動量の和により全体の塩素移動量を演算することができる。
【0041】
[第2実施例]
図4は、第2実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
この実施例は、気相の物性・物理量等情報として、風量の情報を採用している点において上述の第1実施例と異なっている。具体的には、本実施例では、フロック形成池30や沈澱池40上部の風量の測定値を、気相の物性・物理量等情報として用いることにより、塩素低下量演算装置8の演算精度を向上させている。
【0042】
本実施例では、水面付近での対流の発生を検知するために風量計43を設置している。風量計43は、例えば、浄水プロセス内又はその付近に設置されることが望ましく、さらには、上部開放槽における被処理水の水面付近に設置されることが望ましい。風量計43にて計測された風量(単位時間当たりに移動した大気の体積)の値は、気相の物性・物理量等情報として気相物性・物理量等データ取得部81に供給される。
【0043】
塩素移動量演算部82は、気相物性・物理量等データ取得部81から風量の値を受け取り、風量の測定値に基づいて塩素移動量を演算する。塩素移動量演算部82は、例えば、風量の測定値に対応する塩素の移動量の値が格納されたテーブルを備えていてもよく、風量の測定値に基づいて予め設定された塩素の移動量の演算式を用いてもよい。
【0044】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82にて上記のように演算された塩素移動量を用いて、被処理水の塩素低下量を演算することができる。その結果、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相の移動量に基づく塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0045】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
なお、本実施例において、風量の予測値が入手可能な場合は、測定値に替えて予測値を気相物性・物理量等情報の一つとして、塩素移動量の演算に利用してもよい。
また、風量計43は、上部開放槽における被処理水の水面付近の複数の箇所に設置されてもよい。気液界面の面積が広い上部開放槽における風量を測定する場合には、1か所で風量を計測するよりも複数個所で風量を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の風量計43の各々に対応するように、上部開放槽の気液界面を複数のエリアとし、エリア毎に演算した塩素移動量の和により全体の塩素移動量を演算することができる。
【0046】
また、風量計と、風向を検出する手段とを設置して、風量の測定値と風向の検出結果とを組み合わせて塩素移動量の演算に利用してもよい。例えば、池の上流側から下流側へ気相が移動する場合は、下流側の液面付近には既に被処理水から塩素が移動済みの気相が来るなど、風向によって気液間の塩素濃度差が異なる場合がある。そのため、塩素の移動量も風向きの影響を受ける場合がある。風向きの影響を考慮して塩素の移動量を演算することにより、大気の移動量による塩素移動量の演算精度を向上させることが出来る。風向を検出する手段も風量計と同様に、複数個所に設置しても構わない。
【0047】
図5は、第2実施例の塩素注入制御システムの他の構成例を概略的に示す図である。
例えば風量計43(又は後述する風速計44)が浄水プロセス内又はその付近に設置できないときや、近隣に気象台があり風量(又は風速)に関する情報が入手可能なときには、気相の物性・物理量等情報の一つとして気象データを利用してもよい。風量データおよび風速データの少なくともいずれかを含む気象データは、例えばインターネットなどのネットワークを介して気相の物性・物理量等情報として気相物性・物理量等データ取得部81に供給され得る。この例であっても、風量計43(又は後述する風速計44)を設置した場合と同様の効果を得ることが出来る。
【0048】
[第3実施例]
図6は、第3実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
この実施例は、気相の物性・物理量等情報として、風速の情報を採用している点において上述の第1実施例と異なっている。具体的には、本実施例では、フロック形成池30や沈澱池40上部の風速の測定値を、気相の物性・物理量等情報として用いることにより、塩素低下量演算装置8の演算精度を向上させている。
【0049】
本実施例では、水面付近での対流の発生を検知するために風速計44を設置している。風速計44は、風車型風速計であってもよく、熱線型風速計であってもよい。風速計44は、例えば、浄水プロセス内又はその付近に設置されることが望ましく、さらには、上部開放槽における被処理水の水面付近に設置されることが望ましい。風速計44にて計測された風速(単位時間当たりに大気が移動した距離)の値は、気相の物性・物理量等情報として気相物性・物理量等データ取得部81に供給される。
【0050】
塩素移動量演算部82は、気相物性・物理量等データ取得部81から風速の値を受け取り、風速の計測値に基づいて塩素移動量を演算する。塩素移動量演算部82は、例えば、風速に対応する塩素移動量の値が格納されたテーブルを備えていてもよく、風速に基づいて予め設定された塩素移動量の演算式を用いてもよい。
【0051】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82にて上記のように演算された塩素移動量を用いて、被処理水の塩素低下量を演算することができる。その結果、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相の移動量に基づく塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0052】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
なお、風速計44は、上部開放槽における被処理水の水面付近の複数の箇所に設置されてもよい。気液界面の面積が広い上部開放槽における風速を測定する場合には、1か所で風速を計測するよりも複数個所で風速を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の風速計44の各々に対応するように、上部開放槽の気液界面を複数のエリアとし、エリア毎に演算した塩素移動量の和により全体の塩素移動量を演算することができる。
【0053】
なお、風速計44が浄水場に設置できない場合や、近隣に気象台があり風速に関する情報が入手可能な場合は、第2実施例と同様に気相の物性・物理量等情報の一つとして気象データを利用してもよい。また風速の予測値が入手可能な場合は、測定値に替えて予測値を気相物性・物理量等情報として、塩素移動量の演算に利用してもよい。
また、上述の第2実施例と同様に、風向を検出する手段を更に設置して、風速の測定値と風向の検出結果とを組み合わせて塩素移動量の演算に利用してもよい。
【0054】
[第4実施例]
図7は、第4実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
この実施例では、塩素低下量演算装置8は、気相の物性・物理量等情報に基づいて塩素移動量の予測値を演算し、塩素移動量の予測値に基づく塩素低下量を演算している点において上述の第1実施例と異なっている。塩素移動量の予測値は、例えば、各地点における被処理水の塩素濃度の過去の実績値に基づく値である。
【0055】
塩素低下量演算装置8の塩素移動量演算部82は、例えば、現時点(塩素移動量を演算する時点)の気相の物性・物理量等情報を取得し、過去の気相の物性・物理量等情報と、過去の実績値(各地点の被処理水の塩素濃度を少なくとも含む)とを紐づけて蓄積したデータベースにアクセスして、現時点の気相の物性・物理量等情報と類似している過去の気相の物性・物理量等情報を検索して、検索結果に紐づけられた過去の実績値を取得する。
【0056】
このとき、塩素移動量演算部82は、過去の実績値として、各地点における被処理水の塩素濃度とを少なくとも1組取得し、例えば、検索された情報の時刻情報から所定時間経過後の各地点における被処理水の塩素濃度や、過去の気温、風量、風速などの気相の情報を合わせて取得してもよい。塩素移動量演算部82は、取得した過去の実績値に基づく塩素移動量の予測値を演算し、塩素低下量演算部83へ送信する。
なお、塩素低下量演算装置8は、過去の気相の物性・物理量等情報と、過去の実績値とを紐づけて蓄積したデータベースを備えていてもよい。
【0057】
塩素低下量演算部83は、取得した塩素移動量の予測値を用いて、塩素低下量を演算する。このとき、塩素低下量演算部83は、更に、過去の気温、風量、風速などの気相の情報を考慮してもよい。
【0058】
上記のように、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相条件に基づいて塩素移動量の予測値を演算し、塩素移動量の予測値に基づく塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0059】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
【0060】
[第5実施例]
図8は、第5実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
この実施例では、塩素低下量演算装置8が、気相の物性・物理量等情報および液相の物性・物理量等情報に基づいて塩素低下量を演算している点において上述の第3実施例と異なっている。
【0061】
気液間の物質移動においては、気相の物性・物理量等の他、液相の物性・物理量等も影響しており、例えば浄水場の取水として表流水など水質が季節や天候等で変動する場合は液相の物性・物理量等の変動を考慮することにより、塩素移動量を精度よく演算することが可能となる。液相の物性・物理量等で気液間の塩素移動量に最も影響が大きいのが、液相の温度であり、特に気相との境界面に近い水温を液相の物性・物理量として取得することにより、塩素移動量の演算精度を向上させることが出来る。
【0062】
そこで、本実施例では、沈澱池40の水温を測定する水温計46を設置して、水温計46で測定された値を、液相の物性・物理量等情報として塩素低下量演算装置8へ供給している。
【0063】
図9は、
図8に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施例では、塩素低下量演算装置8は、液相物性・物理量等データ取得部(第2取得部)85を更に備えている。液相物性・物理量等データ取得部85は、液相物性・物理量等情報のデータとして、例えば沈澱池40の水温の測定値を水温計46から取得する。液相物性・物理量等データ取得部85は、取得した水温の値を塩素移動量演算部82へ送信する。
【0064】
塩素移動量演算部82は、気相物性・物理量等データ取得部81と液相物性・物理量等データ取得部85とから送られてきたデータ(風速の測定値および水温の測定値)に基づいて、気液平衡に基づいて、被処理水中から気相部への塩素の移動量を演算する。なお、塩素移動量演算部82では、塩素移動量を演算する際に、必要に応じて、塩素注入制御装置7から送られてきた塩素剤注入量データを用いることができる。塩素移動量演算部82は、塩素移動量の演算結果を塩素低下量演算部83に送る。したがって、塩素低下量演算部83は、液相の物性・物理量等情報も考慮した塩素低下量を演算することが可能となる。
【0065】
上記のように、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相条件と液相条件とに基づいて塩素低下量を演算し、その塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの固液分離工程の管理に要するコストを低減することが可能である。
【0066】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
なお、水温計46は、上部開放槽の複数の箇所に設置されてもよい。気液界面の面積が広い上部開放槽における気液界面近傍の水温を測定する場合には、1か所で水温を計測するよりも複数個所で水温を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の水温計46の各々に対応するように、上部開放槽の気液界面を複数のエリアとし、エリア毎に演算した塩素移動量の和により全体の塩素移動量を演算することができる。
【0067】
[第6実施例]
図10は、第6実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
本実施例では、塩素低下量演算装置8が、気相の物性・物理量等情報および液相の物性・物理量等情報に基づいて塩素低下量を演算している点は上述の第5実施例と同様である。本実施例では、沈澱池40の水温を測定する水温計46と、着水井10の水質(原水水質)を測定する水質計12と、を設置して、水温計46で測定された値と水質計12で測定された値とを、液相の物性・物理量等情報として塩素低下量演算装置8へ供給している点が上述の第5実施例と異なっている。
【0068】
被処理水の塩素濃度は、混和池20において塩素注入装置5により塩素剤が注入された後、上部開放槽において接触している大気の移動により大気側に移動することで変化するとともに、原水中に含まれる水質成分と塩素との化学反応により変化する。このことから、本実施例では、液相の物性・物理量等の情報として原水水質の情報を取得し、被処理水に含まれる物質による塩素の消費量を考慮して塩素低下量を演算することにより、塩素低下量の演算精度を向上させることができる。
【0069】
図11は、
図10に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施例の塩素低下量演算装置8は、液相物性・物理量等データ取得部85と、塩素消費量演算部86と、を更に備えている。
【0070】
液相物性・物理量等データ取得部85は、液相物性・物理量等情報のデータとして、例えば、着水井10の水質(原水水質)の測定値を水質計12から取得し、沈澱池40の水温の測定値を水温計46から取得する。液相物性・物理量等データ取得部85は、取得した原水水質の測定値を塩素消費量演算部86へ送信し、取得した水温の測定値を塩素移動量演算部82へ送信する。
【0071】
塩素移動量演算部82は、上述の第5実施例と同様に、気相物性・物理量等データ取得部81と液相物性・物理量等データ取得部85とから送られてきたデータ(風速の測定値および原水水質の測定値)に基づいて、気液平衡に基づいて、被処理水中から気相部への塩素の移動量を演算する。なお、塩素移動量演算部82では、塩素移動量を演算する際に、必要に応じて、塩素注入制御装置7から送られてきた塩素剤注入量データを用いることができる。塩素移動量演算部82は、塩素移動量の演算結果を塩素低下量演算部83に送る。
【0072】
塩素消費量演算部86は、液相物性・物理量等データ取得部85から送られてきた原水水質データ(水質測定値)に基づいて、被処理水における塩素の消費量を演算する。なお、塩素消費量演算部86では、塩素消費量を演算する際に、必要に応じて、塩素注入制御装置7から送られてきた塩素剤注入量データを用いることができる。塩素消費量演算部86は、塩素消費量の演算結果を塩素低下量演算部83に送る。
【0073】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82から取得した塩素移動量と、塩素消費量演算部86から取得した塩素消費量とに基づいて、被処理水の塩素低下量を演算することが出来る。塩素低下量演算部83は、塩素低下量の演算結果を塩素低下量演算結果出力部84に送信する。
【0074】
上記のように、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相条件と液相条件とに基づいて塩素低下量を演算し、その塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0075】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
なお、水質計12は、着水井10の複数の箇所に設置されてもよい。着水井10内の複数の箇所における水質が異なる可能性がある場合、1か所で水質を計測するよりも複数個所で水質を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の水質計12から得られた値に基づいて着水井10全体における原水水質を演算し、塩素移動量を演算することができる。
【0076】
[第7実施例]
図12は、第7実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
本実施例では、塩素低下量演算装置8が日射に関する情報を取得し、気相の物性・物理量等情報(風速の測定値)と日射に関する情報とを考慮して塩素低下量を演算している点において、上述の第3実施例と異なっている。本実施例では、沈澱池40の近傍に日射計47を設置し、日射計47で測定された値(例えば、単位時間および単位面積当たりに、太陽から上位開放槽近傍に対して放射されるエネルギー量)を、日射に関する情報として塩素低下量演算装置8へ供給している。
【0077】
日中の太陽光に含まれる紫外線により、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンが分解されることが知られている。したがって、例えば沈澱池40の上部に覆いが無く大気解放である場合、塩素量の変化の一つとして日射による塩素分解を考慮することにより、より塩素低下量の演算精度を向上させることが可能となる。
【0078】
なお、日射計47の代わりに紫外線量や紫外線強度を測定する手段を沈澱池40の近傍に設置し、測定された紫外線量や紫外線強度を日射に関する情報として用いてもよい。このことにより、より塩素の分解量の演算精度を上げることが可能である。
また、日射計47は、上部開放槽近傍の複数の箇所に設置されてもよい。気液界面の面積が広い上部開放槽における気液界面近傍の日射に関する情報を測定する場合には、1か所で日射に関する情報を計測するよりも複数個所で日射に関する情報を測定した方が、塩素移動量の演算精度が向上する。この場合、塩素移動量演算部82は、例えば、複数の日射計47の各々に対応するように、上部開放槽の気液界面を複数のエリアとし、エリア毎に演算した塩素移動量の和により全体の塩素移動量を演算することができる。
【0079】
図13は、
図12に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施例では、塩素低下量演算装置8は、日射に関するデータ取得部(第3取得部)87と、塩素分解量演算部88と、を更に備えている。
【0080】
日射に関するデータ取得部87は、日射に関する情報として、日射計47で測定された値を取得する。日射に関するデータ取得部87は、日射計47から取得した値を塩素分解量演算部88へ送信する。
【0081】
塩素分解量演算部88は、日射に関するデータ取得部87から日射計47の測定値を受信し、日射による塩素の分解量を演算する。塩素分解量演算部88は、例えば、日射計47の測定値に対する塩素分解量を予め格納したテーブルを備えていてもよく、予め設定された演算式に日射計47の測定値を適用して塩素の分解量を演算してもよい。なお、塩素分解量演算部88では、塩素消費量を演算する際に、必要に応じて、塩素注入制御装置7から送られてきた塩素剤注入量データを用いることができる。塩素分解量演算部88は、塩素分解量の演算結果を塩素低下量演算部83に送る。
【0082】
塩素低下量演算部83は、塩素移動量演算部82から取得した塩素移動量と、塩素低下量演算部83から取得した塩素分解量とに基づいて、被処理水の塩素低下量を演算することが出来る。塩素低下量演算部83は、塩素低下量の演算結果を塩素低下量演算結果出力部84に送信する。
【0083】
上記のように、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相条件と日射に関する情報とに基づいて塩素低下量を演算し、その塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの固液分離工程の管理に要するコストを低減することが可能である。
【0084】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
【0085】
[第8実施例]
図14は、第8実施例の塩素注入制御システムの一構成例を概略的に示す図である。
本実施例の塩素注入制御システムは、第3実施例の塩素注入制御システムと、第6実施例の塩素注入制御システムと、第7実施例の塩素注入制御システムとを組み合わせた例である。すなわち、本実施例では、塩素低下量演算装置8は、気相の物性・物理量等情報と、液相の物性・物理量等情報と、日射に関する情報と、を用いて塩素低下量を演算する。気相の物性・物理量等情報、液相の物性・物理量等情報に加えて日射等情報を塩素低下量演算に反映させることで、演算精度を向上することが出来る。
【0086】
図15は、
図14に示す塩素低下量演算装置の一構成例を概略的に示す図である。
本実施例の塩素低下量演算装置8は、液相物性・物理量等データ取得部85と、塩素消費量演算部86と、日射に関するデータ取得部87と、塩素分解量演算部88と、を更に備えている。したがって、本実施例によれば、気相および液相の物性・物理量等情報により演算した塩素移動量演算結果と、液相の物性・物理量等情報により演算した塩素消費量演算結果と、日射による塩素分解量演算結果を総合して、塩素低下量演算部83で塩素低下量を演算することにより、精度の高い塩素低下量演算結果を塩素注入制御装置7に送ることが可能となる。
【0087】
上記のように、本実施例の塩素注入制御システムでは、気相条件と日射に関する情報とに基づいて塩素低下量を演算し、その塩素低下量を考慮した塩素注入率にて、塩素剤の注入が行われる。したがって、被処理水に塩素剤を過剰に注入することなく、処理水の塩素濃度を適切に調整することが可能となる。その結果、浄水処理プロセスの塩素注入工程の薬品コストを低減することが可能である。
【0088】
すなわち、本実例によれば、被処理水に注入する塩素量をより適切に決定するための塩素低下量演算装置、塩素注入制御システム、塩素低下量演算方法及びプログラムを提供することができる。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
[付記1]
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得する第1取得部と、
前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が、単位時間および単位面積当たりにおいて気相へ移動する移動量を演算する塩素移動量演算部と、
前記移動量に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する塩素低下量演算部と、を備えた塩素低下量演算装置。
[付記2]
前記気相に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された気温計の測定値を含む、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記3]
前記気相に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された風量計および風速計の少なくともいずれかの測定値を含む、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記4]
前記気相に関するデータは、外部から取得した気象データに含まれる気相の風量の値および風速の値の少なくともいずれかを含む、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記5]
前記第1取得部は、過去の気相に関するデータに関連付けられた過去の実績値を蓄積したデータベースにアクセスし、取得した前記気相に関するデータに類似する前記過去の気相に関するデータに関連付けられた前記実績値を取得し、
前記塩素移動量演算部は、前記実績値を用いて前記移動量の予測値を演算し、
前記塩素低下量演算部は、前記移動量の予測値に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記6]
前記被処理水の液相に関するデータを取得する第2取得部を更に備え、
前記塩素移動量演算部は、前記気相に関するデータおよび前記液相に関するデータを用いて、前記移動量を演算する、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記7]
前記液相に関するデータは、前記上部開放槽に設置された水温計の測定値を含み、
前記塩素移動量演算部は、前記気相に関する情報と前記水温計の測定値とから、気液平衡に基づいて前記移動量を演算する、付記6記載の塩素低下量演算装置。
[付記8]
前記液相に関するデータは、前記水処理プロセスに設置された水質計により測定された原水水質の値を含み、
前記原水水質データに基づいて、前記被処理水における単位時間および単位体積当たりの塩素の消費量を演算する塩素消費量演算部を更に備え、
前記塩素低下量演算部は、塩素の前記移動量と前記消費量とに基づいて前記塩素低下量を演算する、付記6記載の塩素低下量演算装置。
[付記9]
前記被処理水に照射される日射に関するデータを取得する第3取得部と、
前記日射に関するデータに基づいて、前記被処理水における単位時間および単位面積当たりの塩素の分解量を演算する塩素分解量演算部と、を更に備え、
前記塩素低下量演算部は、塩素の前記移動量と前記分解量とに基づいて前記塩素低下量を演算する、付記1記載の塩素低下量演算装置。
[付記10]
前記日射に関するデータは、前記上部開放槽近傍に設置された日射計により測定され、紫外線の量又は強度の値を含む、付記9記載の塩素低下量演算装置。
[付記11]
付記1乃至付記10のいずれか記載の塩素低下量演算装置と、
前記塩素低下量を用いて前記被処理水に対する塩素の注入率を決定する制御装置と、
前記注入率と、前記水処理プロセスに流入する前記被処理水の流量とに基づいて、前記被処理水に対して塩素を注入する塩素注入装置の動作を制御するコントローラと、を備えた塩素注入制御システム。
[付記12]
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得し、
前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が単位時間および単位面積当たりにおいて気相へ移動する移動量を演算し、
前記移動量に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する、塩素低下量演算方法。
[付記13]
コンピュータを、
被処理水に塩素剤を注入する工程を有する水処理プロセスの上部開放槽近傍の気相に関するデータを取得する手段と、
前記気相に関するデータを用いて、前記被処理水に含まれる塩素が単位時間および単位面積当たりにおいて気相へ移動する移動量を演算する手段と、
前記移動量に基づいて前記被処理水の塩素低下量を演算する手段と、して機能させる塩素低下量演算プログラム。
【符号の説明】
【0090】
10…着水井、11…流量計、12…水質計、20…混和池、30…フロック形成池、31…残留塩素濃度計、40…沈澱池、41…残留塩素濃度計、42…気温計、43…風量計、44…風速計、46…水温計、47…日射計、
5…塩素注入装置、6…コントローラ、7…塩素注入制御装置、8…塩素低下量演算装置、81…気相物性・物理量等データ取得部(第1取得部)、82…塩素移動量演算部、83…塩素低下量演算部、84…塩素低下量演算結果出力部、85…液相物性・物理量等データ取得部(第2取得部)、86…塩素消費量演算部、87…日射に関するデータ取得部(第3取得部)、88…塩素分解量演算部、100…塩素注入制御システム