(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】超電導線材の接続方法及び超電導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01R 4/68 20060101AFI20240805BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240805BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01R4/68
H01F6/06 150
H01F6/06 140
H01B13/00 561Z
(21)【出願番号】P 2020152017
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】垂井 洋静
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-022719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0061458(US,A1)
【文献】特開平06-150993(JP,A)
【文献】特開2001-102105(JP,A)
【文献】特開平6-275145(JP,A)
【文献】特開昭60-109291(JP,A)
【文献】特開平4-301388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/58- 4/72
H01F 6/06
H01B13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超電導線と第2の超電導線との間に、NbTi合金層を形成して接続する超電導線の接続方法であって、
前記第1の超電導線の接続部分と、前記第2の超電導線の接続部分の被覆を除去する被覆除去工程と、
前記被
覆除去工程の後、前記第1の超電導線及び前記第2の超電導線の接続部分を低融点金属(ただし、PbおよびInを除く。)で被覆する工程と、
前記第1の超電導線の接続部分と、前記第2の超電導線の接続部分とを平行にしてスリーブの一方の開口部から内部に挿入し、前記一方の開口部を封止する工程と、
前記スリーブの他方の開口部からNbTi粉末を充填し、排気して他方の開口部を封止する工程と、
前記スリーブを加熱しつつ加圧し、前記NbTi粉末を焼結させて前記NbTi合金層を形成する焼結工程と
を有することを特徴とする超電導線の接続方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導線の接続方法であって、
前記第1の超電導線、前記第2の超電導線は、NbおよびTiを主成分とする金属、又は、NbおよびSnを主成分とする金属からなる超電導フィラメントを有する
ことを特徴とする超電導線の接続方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超電導線の接続方法であって、
前記NbTi合金層は、超電導特性を有する
ことを特徴とする超電導線の接続方法。
【請求項4】
超電導線の回路部と、超電導線同士の接続部とを具備する閉回路を有する超電導磁石装置であって、
前記接続部の一方の超電導線と他方の超電導線が、低融点金属(ただし、PbおよびInを除く。)を含むNbTi合金層を介して接続・固定され、前記低融点金属(ただし、PbおよびInを除く。)を含むNbTi合金層の外側にNbTi合金層が設けられた構造を有する
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超電導磁石装置であって、
前記NbTi合金層は、NbTi合金粉末の焼結体からなる
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の超電導磁石装置であって、
前記接続部において一方の前記超電導線と他方の前記超電導線はCuあるいはAlを主成分とする金属で被覆されていないことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れか1項に記載の超電導磁石装置であって、
前記接続部の一方の前記超電導線と他方の前記超電導線は、NbおよびTiを主成分とする金属、又は、NbおよびSnを主成分とする金属からなる超電導フィラメントを有する
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れか1項に記載の超電導磁石装置であって、
前記NbTi合金層は、超電導特性を有する
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材の接続方法及び超電導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、
図7に示すように、超電導磁石装置200は、超電導コイル201と永久電流スイッチと202の閉回路で構成される。この超電導磁石装置200が、永久電流モードで運転される場合には、発生磁場の減衰を抑制するため、超電導コイル201と永久電流スイッチ202の超電導線材同士を極めて低い接続抵抗(例えば10
-11Ω以下)で接続する必要がある。
【0003】
この超電導線同士の接続には、従来はんだ接続が用いられてきた。はんだ接続では、接続したい超電導フィラメントの間にはんだ材料が介在するため、原理的に接続抵抗を下げることが難しい。そのため、はんだ材料自体が超電導特性をもつようなPb(鉛)系はんだを用いることによって接続抵抗を下げることがなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のはんだを用いた超電導線材同士の接続では、環境負荷の高い鉛を多量に使用するため、鉛フリー化が求められている。超電導特性を有する鉛フリーはんだの有力候補としては、In(インジウム)系はんだがある。しかし、In系はんだは、Pb系はんだと比較して磁場安定性に乏しく、外部磁場が印加される環境では常電導転移して抵抗が上昇してしまい使用できない。さらにInは生体毒性が明らかになりつつあり作業環境の面でも課題が多い。
【0006】
本発明の目的は、はんだ接続を用いること無く、超電導線材同士を極めて低い接続抵抗で接続することのできる超電導線材の接続方法及び超電導磁石装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の超電導線の接続方法は、第1の超電導線と第2の超電導線との間に、NbTi合金層を形成して接続する超電導線の接続方法であって、前記第1の超電導線の接続部分と、前記第2の超電導線の接続部分の被覆を除去する被覆除去工程と、前記被覆除去工程の後、前記第1の超電導線及び前記第2の超電導線の接続部分を低融点金属(ただし、PbおよびInを除く。)で被覆する工程と、前記第1の超電導線の接続部分と、前記第2の超電導線の接続部分とを平行にしてスリーブの一方の開口部から内部に挿入し、前記一方の開口部を封止する工程と、前記スリーブの他方の開口部からNbTi粉末を充填し、排気して他方の開口部を封止する工程と、前記スリーブを加熱しつつ加圧し、前記NbTi粉末を焼結させて前記NbTi合金層を形成する焼結工程とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、はんだ接続を用いること無く、超電導線材同士を極めて低い接続抵抗で接続することのできる、超電導線の接続方法及び超電導磁石装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態におけるNbTi合金粉末の生成工程を説明するための図。
【
図2】第1実施形態におけるNbTiフィラメントの被覆除去工程を説明するための図。
【
図3】実施形態における接続行程を説明するための図。
【
図4】第1実施形態における接続状態を説明するための図。
【
図5】第2実施形態におけるNbTiフィラメントの被覆除去工程を説明するための図。
【
図6】第2実施形態における接続状態を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る超電導線の接続方法及び超電導磁石装置ついて、図面を参照して説明する。
【0011】
図7に示したとおり、超電導磁石装置200は、超電導コイル201と永久電流スイッチ202との閉回路で構成される。この超電導磁石装置200が、永久電流モードで運転される場合には、発生磁場の減衰を抑制するため、超電導コイルと永久電流スイッチの超電導線材同士を極めて低い接続抵抗(例えば0
-11Ω以下)で接続する必要がある。
【0012】
実施形態に係る超電導線の接続方法は、超電導磁石装置200における、超電導コイル201と永久電流スイッチ202との接続部203における超電導線材同士の接続等に用いられる。なお、超電導コイル201には、図示しない電源から直流電流が流され、永久電流スイッチ202が閉じられたた状態で電源が切り離される。超電導磁石装置200は、例えば、医療分野で使用される磁気共鳴画像診断装置(MRI)、核磁気共鳴装置(NMR)等に用いられる。
【0013】
実施形態に係る超電導線の接続方法は、第1の超電導線と第2の超電導線とを接続する超電導線材の接続方法であって、第1の超電導線と第2の超電導線との間に、NbTi合金層を形成して接続する。
【0014】
[第1実施形態]
(NbTi合金粉末の生成工程)
図1に示すように、まず、純度3N程度、粒径50ミクロン程度の純Nb粉末と、Ti粉末を、質量比47:53で秤量して混合する。これを、ジルコニア製ポットにジルコニアボールとともに充填し、Arガス流通下で遊星ボールミル装置を用いて所定条件、例えば500rpm、24時間の条件で粉砕・混合しメカニカルアロイング(機械的に合金化)することでNbTi合金粉末を得る。
【0015】
(NbTiフィラメントの被覆除去工程)
次に、NbTiフィラメントの被覆除去工程を実施する。この工程では、まず、第1の超電導線101と、第2の超電導線102のエナメル被覆を所定の接続長さだけ薬液あるいは機械加工によって除去してCu(又はAl)被覆(マトリクス)表面を露出させる。この後、
図2に示すように、酸の溶液、例えば、20%硝酸溶液110にCu(又はAl)被覆露出部を1時間以上常温で浸漬することで、NbTiフィラメントを完全に露出させる。
【0016】
(接続行程)
次に、第1の超電導線101と、第2の超電導線102とを接続する接続行程を実施する。この工程では、まず、
図3(a)に示すように、NbTiフィラメントが露出した第1の超電導線101と第2の超電導線102の2本のNbTiフィラメント露出部を平行に並べて銅スリーブ120に挿入する。次に、
図3(b)に示すように、銅スリーブ120の一端(超電導線を挿入した側)を、プレス等でかしめて封じ切る。
【0017】
次に、
図3(c)に示すように、銅スリーブ120の他端側(口の空いている側)から、銅スリーブ120内にNbTi合金粉末を充填する。この後、
図3(d)に示すように、銅スリーブ120の他端側(口の空いている側)から真空排気しつつ、他端側をプレス等でかしめて封じ切る。
【0018】
次に、
図3(e)に示すように、銅スリーブ120を200乃至400℃程度、例えば、400℃に加熱しながら、1乃至50MPa例えば10MPa程度で加圧し、所定時間、例えば1時間程度保持してNbTi合金粉末を焼結させてNbTi合金層を形成する。この場合、加圧により銅スリーブ120が潰れないように、一定形状の型に銅スリーブ120を入れて加圧、加熱することが好ましい。この後、自然冷却にて温度を低下させた後取り出し、接続部を得る。
【0019】
図4に、上述のようにして得られた接続部の断面の構成を、模式的に示す。
図4に示すように、銅スリーブ120の内部には、ニオブチタン合金粉末焼結層が形成され、第1の超電導線101と第2の超電導線102とは、これらの間に形成されたニオブチタン合金粉末焼結層を介して接続されている。なお、銅スリーブ120の形状としては、例えば円筒形状のものを使用し、加圧する際に断面矩形形状の型に入れて加圧することにより、
図4に示すように、断面矩形形状の接続部の形状となるが、銅スリーブ120及び型の形状は、係る形状のものに限定されるものではない。
【0020】
そして、例えば第1の超電導線101から第2の超電導線102の向きで閉回路に直流電流を印加した場合、第1の超電導線101の端部のNbTiフィラメントから、ニオブチタン合金粉末焼結層を介して、第2の超電導線102の端部のNbTiフィラメントに流れる電流パスが形成される。
【0021】
ニオブチタン合金粉末焼結層は、NbTiバルク材に近い超電導特性を有しているため、従来のはんだ接続よりも接続抵抗が低く、なおかつ磁場安定性に優れた接続部構造を形成することができる。また、本実施形態では、鉛フリーであり、フッ酸などの危険な薬品を使用することもない。なお、4Kにおける臨界磁場の大きさは、ニオブチタンが11T、鉛ビスマスはんだが1.77Tである。
【0022】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、NbTiフィラメントの被覆除去工程が前述した第1実施形態の場合と相違している。また、第2実施形態では、第1の超電導線101及び第2の超電導線102のマトリクスはCuである。
【0023】
(NbTi合金粉末の生成工程)
NbTi合金粉末の生成工程については、第1実施形態と同様である。すなわち、
図1に示すように、まず、純度3N程度、粒径50ミクロン程度の純Nb粉末と、Ti粉末を、質量比47:53で秤量して混合する。これを、ジルコニア製ポットにジルコニアボールとともに充填し、Arガス流通下で遊星ボールミル装置を用いて所定条件、例えば500rpm、24時間の条件で粉砕・混合しメカニカルアロイング(機械的に合金化)することでNbTi合金粉末を得る。
【0024】
(NbTiフィラメントの被覆除去工程)
NbTiフィラメントの被覆除去工程では、まず、第1の超電導線101と、第2の超電導線102のエナメル被覆を所定の接続長さだけ薬液あるいは機械加工によって除去してCu被覆(マトリクス)表面を露出させる。この後、
図5に示すように、300乃至400℃、例えば400℃に温度調整したスズ(Sn)浴130に1時間以上浸漬することでCu被覆材がSn浴中に溶出し、NbTiフィラメントがSnで被覆される。なお、NbTiフィラメントをSnで被覆した後、さらに他の低融点金属浴中に、第1の超電導線101及び第2の超電導線102を浸漬してスズの被覆を、他の低融点金属の被覆に置換してもよい。
【0025】
(接続行程)
次に、接続行程では、NbTiフィラメントがスズで被覆された第1の超電導線101と第2の超電導線102の2本のNbTiフィラメントを平行に並べて銅スリーブ120に挿入する(
図3(a)参照)。次に、銅スリーブ120の一端(超電導線を挿入した側)を、プレス等でかしめて封じ切る(
図3(b)参照)。
【0026】
次に、銅スリーブ120の他端側(口の空いている側)から、銅スリーブ120内にNbTi合金粉末を充填する(
図3(c)参照)。この後、銅スリーブ120の他端側(口の空いている側)から真空排気しつつ、他端側をプレス等でかしめて封じ切る(
図3(d)参照)。
【0027】
次に、
図3(e)に示すように、銅スリーブ120を200乃至400℃程度、例えば、400℃に加熱しながら、1乃至50MPa例えば10MPa程度で加圧し、所定時間、例えば1時間程度保持してNbTi合金粉末を焼結させてNbTi合金層を形成する。この場合、加圧により銅スリーブ120が潰れないように、一定形状の型に銅スリーブ120を入れて加圧、加熱することが好ましい。この後、自然冷却にて温度を低下させた後取り出し、接続部を得る。
【0028】
図6に、上述のようにして得られた接続部の断面の構成を、模式的に示す。
図6に示すように、銅スリーブ120の内部には、ニオブチタン合金粉末焼結層が形成され、第1の超電導線101と第2の超電導線102とは、これらの間に形成されたニオブチタン合金粉末焼結層を介して接続されている。また、ニオブチタン合金粉末焼結層には、加熱加圧時に溶解し拡散した微量のSnを含む領域が形成されている。
【0029】
そして、例えば第1の超電導線101から第2の超電導線102の向きで閉回路に直流電流を印加した場合、第1の超電導線101の端部のNbTiフィラメントから、Snを含むニオブチタン合金粉末焼結層を介して、第2の超電導線102の端部のNbTiフィラメントに流れる電流パスが形成される。
【0030】
NbTi合金粉末焼結層は、加熱加圧時に溶解し拡散した微量のSnを含むため、第1実施形態よりも抵抗は高い。しかしながら、介在するSnの厚みは数ミクロン程度であるため、抵抗値の増分は10―14Ω程度と低く接続抵抗にはほとんど影響せず、従来のはんだ接続よりも十分に低い接続抵抗を有し、なおかつ磁場安定性に優れた接続部構造を形成できる。
【0031】
本実施形態では、NbTiフィラメントの銅被覆(マトリクス)を、一旦Snの被覆に置換し、この状態で接続行程を実施する。このため、NbTiフィラメントが大気に触れることが無く、NbTiフィラメントがSnで被覆された状態で加熱、加圧が行われるので、NbTiフィラメントの各線材同士が直接接触して塊状になり、断面積が大きくなってしまうことを抑制することができる。
【0032】
なお、上記の実施形態では、NbTiフィラメントの超電導線について説明したが、他のフィラメント、例えばNbSnフィラメントの超電導線についても同様にして適用することができる。
【0033】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
101……第1の超電導線、102……第2の超電導線、110……硝酸溶液、120……銅スリーブ、130……スズ(Sn)浴、200……超電導磁石装置、201……超電導コイル、202……超電導スイッチ、203……接続部。