(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】膨張式スリーブ多電極カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20240805BHJP
A61B 5/28 20210101ALI20240805BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B5/28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020176493
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-08-29
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0106920(US,A1)
【文献】国際公開第2017/174387(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165990(US,A1)
【文献】特表2013-508121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25
A61B 5/28
A61B 5/33
A61B 5/367
A61B 18/00
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
シースを通して、患者の器官の空洞内へと挿入するように構成されたシャフトと、
前記シャフトの遠位端部に固定された膨張式スリーブカテーテルであって、
前記シャフトの前記遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている、弾性内側端部区分
であって、前記所定の形状は、直線状の基部区分部分、及び弓状の区分部分を含む、弾性内側端部区分と、
前記
弾性内側端部区分を
、前記シャフトの前記遠位端部から、前記直線状の基部区分部分に沿い、前記弓状の区分部分に沿って、前記装置の遠位端部まで包囲する、膨張式スリーブと、
前記膨張式スリーブの上に配置され、組織に接触するように構成されている、複数の電極と、を備える、膨張式スリーブカテーテルと、を備える、装置。
【請求項2】
前記膨張式スリーブは前記弾性内側端部区分を前記膨張式スリーブの中に包囲し、前記弾性内側端部区分の周囲で膨張可能であり、
前記膨張式スリーブは外側表面を有し、前記複数の電極は前記膨張式スリーブの前記外側表面上に配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記膨張式スリーブカテーテルが偏向可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電極が円筒形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記電極が半円筒形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記複数の電極が、前記膨張式スリーブの上に円周方向に配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記
弾性内側端部区分が、
前記直線状の基部区分部分及び
前記弓状の区分部分を備える自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で、少なくとも部分的に作製されている、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記膨張式スリーブは、前記
弾性内側端部区分の前記直線状の基部区分部分及び前記弓状の区分部分に沿って、前記
弾性内側端部区分が通されることにより、前記
弾性内側端部区分を包囲する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記
弾性内側端部区分が、前記シースを出る場合に非拘束状態に変わる、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記膨張式スリーブが、生理食塩水溶液を使用して膨張されるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
上に配置された前記複数の電極を有する可撓性PCBシートを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記可撓性PCBシートが、前記膨張式スリーブに接着されている、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
膨張式スリーブカテーテルを製造するための方法であって、
非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている弾性内側端部区分を、シャフトの遠位端部に固定すること
であって、前記所定の形状は、直線状の基部区分部分、及び弓状の区分部分を含む、ことと、
前記
弾性内側端部区分を
前記シャフトの前記遠位端部から、前記直線状の基部区分部分に沿い、前記弓状の区分部分に沿って、前記膨張式スリーブカテーテルの遠位端部まで膨張式スリーブで包囲することと、
前記膨張式スリーブの外周上に、組織に接触するように構成されている複数の電極を配置することと、を含む、方法。
【請求項14】
前記膨張式スリーブは外側表面を有し、
前記膨張式スリーブで包囲することは、
前記膨張式スリーブが前記弾性内側端部区分の周囲で膨張可能であるように、前記弾性内側端部区分を前記膨張式スリーブの中に包囲することを含み、
前記複数の電極を配置することは、
前記複数の電極を前記膨張式スリーブの前記外側表面上に配置することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記弓状の区分部分は、前記弓状の区分部分の近位端部から前記弓状の区分部分の最遠位端まで、前記シャフトの長手方向軸に対して、増加する半径を有する外向きの螺旋形態を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記弓状の区分部分は最遠位端を有しており、前記膨張式スリーブは前記弓状の区分部分の前記最遠位端を越えて延在し、前記最遠位端を包囲しており、前記膨張式スリーブは、溶液が前記弓状の区分部分の前記最遠位端を包囲するように、前記溶液を用いて膨張されるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記弓状の区分部分は、前記直線状の基部区分部分の遠位端部から遠位に延在する、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許仮出願第62/924,394号(2019年10月22日出願)の利益を主張するものであり、その開示は、あたかも本明細書に漏れなく記述されているかのように、参考として本明細書に組み込まれている。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、医療用プローブに関し、具体的には、心臓の電気解剖学的マッピング及びアブレーションカテーテルに関する。
【背景技術】
【0003】
多電極心臓カテーテルは、特許文献において従来提案されていた。例えば、米国特許第9,289,606号は、狭い線状の損傷部並びに分布した広い領域の損傷部を生成するための構成を含む、方向感知性の多極性先端電極組立体を含むカテーテルシステムを記載している。一実施形態では、電極要素は、管状基部構造体の最も外側の表面上に、線状又は弓状の様式で連続的に分布される。管状基部構造体は、非導電性材料を含む。
【0004】
別の例として、米国特許第8,600,472号は、心臓の電気マッピング及びアブレーションのためのシステムで使用するためのラッソーカテーテルを含む心臓カテーテルを記載している。ラッソーカテーテルは、隆起した環状リングバンプ電極の配列を有し、各環状電極は複数の穿孔を有し、それらの穿孔は、環状リングの表面の下に形成された空洞又は空間と流体連通している。空洞は、カテーテルのラッソー区分の外側表面又はループ管腔の周りに360°にわたって形成されており、その空洞は、ループ管腔を通して穿設されたブリーチホール(又は穴)と流体連通し、かつ灌注管腔と流体連通している。
【0005】
肺静脈(PV)隔離処置は、不整脈を引き起こし得る望ましくない電気経路を排除する目的で、多くの場合、PVの小孔にて円周方向の損傷を引き起こすためにアブレーションを適用する。例えば、米国特許公開第2016/0175041号は、左心房内へとカテーテルを導入すること、カテーテルの管腔を通してラッソーガイドを延伸させてPVの壁部と係合させること、及びバルーンをラッソーガイドの上に展開させることによって実行される心臓アブレーションを記載している。バルーンは、その外面に配置された電極組立体を有する。電極組立体は、カテーテルの長手方向軸線の周りに円周方向に配置された複数のアブレーション電極を含む。膨張したバルーンは、アブレーション電極がPVにガルバニック接触するようにPVの小孔に接して位置付けられ、電気エネルギーは、アブレーション電極を介して伝達され、PVを取り囲む円周方向の損傷部を生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載された本発明の一実施形態は、シャフト及び膨張式スリーブカテーテルを含む装置を提供する。シャフトは、シースを通して患者の器官の空洞へと挿入されるように構成されている。膨張式スリーブカテーテルはシャフトの遠位端部に固定され、膨張式スリーブカテーテルは、(i)シャフトの遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成された弾性内側端部区分と、(ii)内側端部区分を包囲する膨張式スリーブと、膨張式スリーブの上に配置され、組織に接触するように構成されている複数の電極と、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、弾性内側端部区分は直線状である。その他の実施形態では、膨張式スリーブカテーテルは偏向可能である。
【0008】
いくつかの実施形態では、電極は円筒形状を有する。その他の実施形態では、電極は半円筒形状を有する。
【0009】
一実施形態では、膨張式スリーブカテーテルはラッソーカテーテルであり、弾性内側端部区分は、非拘束状態にある場合に弓状の形状をとるように形成され、複数の電極は、膨張式スリーブの上に円周方向に配置されている。
【0010】
別の実施形態では、内側端部区分は、直線状の基部区分部分及び弓状の区分部分を含む自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で、少なくとも部分的に作製されている。更に別の実施形態では、膨張式スリーブは、内側端部区分の直線状の基部区分部分及び弓状の区分部分に沿って、内側端部区分が通されることにより、内側端部区分を包囲する。
【0011】
いくつかの実施形態では、内側端部区分は、シースを出る場合に非拘束状態に変わる。
【0012】
いくつかの実施形態では、膨張式スリーブは、生理食塩水溶液を使用して膨張されるように構成されている。
【0013】
一実施形態では、装置は、上に配置された複数の電極を有する可撓性PCBシートを更に含む。
【0014】
別の実施形態では、可撓性PCBシートは、膨張式スリーブに接着されている。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、シースを通して患者の器官の空洞内へと挿入することであって、膨張式スリーブカテーテルがシャフトの遠位端部に固定され、膨張式スリーブカテーテルは、(i)シャフトの遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成された弾性内側端部区分と、(ii)内側端部区分を包囲する膨張式スリーブと、(iii)膨張式スリーブの上に配置され、組織に接触するように構成されている複数の電極と、を含む、方法が追加的に提供される。膨張式スリーブカテーテルが空洞内のシースから出て、弾性内側端部区分が所定の形状をとった後、膨張式スリーブが膨張され、複数の電極と組織との間に接触が行われ、電極を使用して医療処置を実施する。
【0016】
本発明の別の実施形態によれば、膨張式スリーブカテーテルの製造方法が更に提供され、本方法は、シャフトの遠位端部に弾性内側端部区分を固定することを含み、弾性内側端部区分は、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている。内側端部区分は、膨張式スリーブで包囲される。複数の電極が、組織に接触するように構成されている膨張式スリーブの外周上に配置されている。
【0017】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態による、電気解剖学的マッピング用システムの模式的な描写図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、電気解剖学的検知及びアブレーションのための操作位置における、
図1に示す膨張式スリーブラッソーカテーテルの遠位部分の模式的な描写図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、
図2の膨張式スリーブラッソーカテーテルの概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による、
図2の膨張式スリーブラッソーカテーテルを使用した肺静脈(PV)隔離のための方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態による、偏向可能な、膨張式スリーブ線状カテーテルの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
概論
弓状の遠位端部又は偏向可能な形状(例えば、区分的線形形状)を有する、又は剛性の線状形状を有する遠位端部などの、心臓用途の診断及び/又は治療用カテーテルの遠位端部は、従来、シャフトの遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状(例えば、弓状又は直線状の)をとるように形成された弾性端部区分によってその形状をとる。弓状の形状の場合、弓状の形状は、原則として、弓状端部区分の上に配置された電極が、肺静脈(PV)の小孔などの、心臓内の開口部の一部又は全ての周囲と係合することを可能にしなければならない。線状遠位端部の場合、遠位端部は、可変解剖学的構造(例えば、隔膜)に適合するように偏向されて、偏向可能な遠位端部の上に配置された電極の一部又は全てが、標的心臓組織と係合することを可能にし得る。
【0020】
しかし、電極を支持するのに十分大きい断面を有する、プラスチックコーティングされた金属などの剛性材料で作製された、弓状のもの又は線状のものなどの弾性遠位区分は、開口部の可変形状に容易に適応することができない。結果として、例えば、弓状端部区分の周囲にわたって配置された電極の一部分のみが実際に組織と接触し、電極は血液プール内の組織と接触していないままである。従って、組織から電気生理学的信号を取得するために電極が使用される場合、血液からの望ましくない電気生理学的信号によって干渉されてしまう。電極が組織アブレーションに使用される場合、電力は血液に注入されるが、これは血液凝固などの副作用を引き起こし得る。
【0021】
同様に、線状剛性遠位端部及び更には偏向可能なものは、解剖学的構造(例えば、心室壁組織)の可変形状に容易に適応しない場合がある。
【0022】
更に、組織に接触する電極であっても、弓状端部区分の剛性に起因して、例えば、電極領域のかなりの部分が依然として血液プールと接触している状態で、組織と部分的にのみ接触していてもよい。このような電極はまた、望ましくない電気生理学的信号を与える場合があり、アブレーションの副作用に寄与し得る。
【0023】
以下に記載される本発明の実施形態は、薄い内側端部区分を包囲する膨張式スリーブを備えるカテーテルを提供するが、このカテーテルは、非拘束状態にある場合に、弓状の形状などの所定の形状をとる。開示された内側端部区分は、以下では「ワイヤ形成部」とも呼ばれ、スリーブの全長にわたって膨張式スリーブを進める。開示されたワイヤ形成部は、スリーブに、その所定の形状(例えば、弓状、線状)を与え、剛性の「骨格」として機能するのに対し、膨張式スリーブは、追加の構造的剛性と組織調節特性との間の必要なバランスをカテーテルに与える。例えば、膨張式スリーブの剛性は、スリーブの膨張を維持するためにスリーブ内へとポンプ注入される生理食塩水溶液の速度を調整することによって調節することができる。別の例として、スリーブ構造に使用されるスリーブ及び/又はプラスチック型の厚さは、最適化されたバランスを与えるように選択することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、複数の電極は、膨張式スリーブの外周又は細長い表面全体にわたって、円周方向及び等距離に配置される。十分な弾力性を維持しながら解剖学的形状を受容するその固有の能力に起因して、開示された膨張式スリーブカテーテルの断面直径は、広い面積の電極を支持するのに十分な大きさにすることができ、これは依然として組織と完全に接触させることができる。
【0025】
典型的な処置では、シャフトの遠位端部に固定された膨張式カテーテルは、医師によって、左心房などの所望の身体位置へとシースを通して前進させられ、ワイヤ形成部はシースによって直線状態になる。膨張式ラッソーカテーテルの場合、ラッソーがシースから出て左心房へと出ると、ワイヤ形成部は、その非拘束の弓状の形態に戻る。次に、医師はスリーブを膨張させ、カテーテルを操作して、スリーブ上に配置された電極と、小孔などの組織との間の接触を確立する。診断及び/又は治療処置が終了すると、医師はラッソーを収縮させ、シースを通して収縮したラッソーカテーテルを引き抜く。引き抜きプロセスは、典型的には、細いワイヤ形成部を使用することによって容易に作製される。
【0026】
いくつかの実施形態では、(それらの電気的接続を有する)電極は、典型的には可撓性PCBシートである電極支持体上に形成され、支持体は膨張式スリーブに接着されている。膨張式ラッソーカテーテルのいくつかの実施形態では、電極は、膨張式スリーブの外(組織に面する)周上に配置され、完全に円筒状ではない。これはすなわち、膨張式スリーブを完全に取り囲むことなく、組織から離れる方向に面する内周に到達しない。本構成は、電極の血液への不要な曝露を最小限に抑えるのに役立つ。膨張式スリーブの収容特性は、電極形状及び位置とあわせ、漂遊電気生理学的信号からの望ましくない干渉及び血液への電力の放出を最小限に抑える一助となる。
【0027】
上述のように、開示された膨張式スリーブは、例えばスリーブに接着され得る広い面積の電極を支持することができる。広い面積の電極は、例えば、より大きな損傷部を形成することによって、小さな電極よりも臨床的に性能が優れ得る。更に、大きな電極は、カテーテルが小孔壁組織に押し付けられた場合にこすられるよう、より弾力的であり、その結果、電極は組織と堅固に接触することができる。
【0028】
開示された膨張式スリーブカテーテルは、(例えば、バルーンカテーテルなどのその他の種類のカテーテルと比較して)優れた診断能力及び治療能力を有し得、その使用は、薬剤抵抗性不整脈などの重度の心疾患に、首尾良く安全なアブレーション治療を行う割合を増加させることができる。
【0029】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、電気解剖学的マッピング用システム20の模式的な描写図である。明らかなように、膨張式スリーブラッソーカテーテル40は、シャフト23を通して、手術台29上の患者28の心臓26内へと挿入されるシャフト22の遠位端部に装着される。
図1は、心臓26の左心房45などの心室の電気解剖学的マッピングを実施するために膨張式スリーブラッソーカテーテル40を使用している医師30を示す。インセット25は、複数の電極53と共に配置された膨張式スリーブラッソーカテーテル40を更に示す。
【0030】
シャフト22の遠位端部が標的位置(例えば、左心房45)に到達すると、医師30はシース23を後退させ、カテーテル40は、
図3に示すワイヤ形成部に起因してラッソー形状をとり、その予め形成された弓状の形状に自己拡張する。次に、医師30は、生理食塩水溶液をスリーブ50へと圧送することによってスリーブ50を膨張させる。
図2で明らかなように、医師30は、PVの小孔などの組織と接触しているスリーブ50の周辺部の上に配置された電極53を位置付けるように、シャフト22を更に操作する。
【0031】
マッピング処置中に、電極53は、左心房45の組織から信号を取得する、及び/又は左心房45の組織へと信号を流す。コンソール24中のプロセッサ38は、電気的インタフェース35を介してこれらの信号を受信し、これらの信号に含められた情報を用いて電気解剖学的マップ31を構築する。処置中、及び/又は処置後に、プロセッサ38は、ディスプレイ26上に、電気解剖学的マップ31を表示してもよい。典型的には、プロセッサ38は、メモリ41内に電気解剖学的マップ31を記憶する。
【0032】
医師30は、カテーテルの近位端部付近にあるマニピュレータ32を用いて、かつ/又はシース23からの偏向を利用して、シャフト22を操作することによって、心臓26の左心房45の内部の標的位置へとシャフト22の遠位端部を操縦する。シャフト22の挿入中、膨張式スリーブラッソーカテーテル40は、シース23によって畳み込まれた構成で維持されている。カテーテル40を畳み込まれた構成で収容することにより、シース23はまた、標的位置までの経路に沿った血管外傷を最小限に抑える役割も果たす。
【0033】
処置中に、追跡システムを使用して電極53の相対位置を追跡することで、診断信号の各々とその診断信号を取得した位置とを関連付けることができる。好適な追跡システムは、例えば、米国特許第8,456,182号に記載され、その開示が参考として本明細書に組み込まれているBiosense-Webster(Irvine,California)製のAdvanced Catheter Location(ACL)システムである。ACLシステムでは、プロセッサは、電極のそれぞれと患者28の皮膚に連結されている複数の表面電極49との間で測定されたインピーダンスに基づいて、電極53の相対位置を推定する。
【0034】
図1に示す例示的な図は、純粋に、概念を分かりやすくするために選択されたものである。電圧信号の測定に基づく方法など、その他の追跡方法を使用することができる。任意の実施形態では、プロセッサ38は、測定中及び/又はアブレーション中の膨張式スリーブラッソーカテーテル40と左心房45の内側表面との間の物理的接触の質を表示するように、更に構成されている。
【0035】
プロセッサ38は、典型的には、本明細書に記載された機能を実行するようにプログラムされたソフトウェア搭載の汎用コンピュータを備える。ソフトウェアは、例えばネットワーク上で、コンピュータに電子形態でダウンロードすることができるか、又は代替的に若しくは追加的に、磁気メモリ、光学メモリ若しくは電子メモリなどの、非一時的な有形媒体上に提供及び/若しくは記憶されてもよい。
【0036】
膨張式ラッソーカテーテル
図2は、本発明の一実施形態による、高周波アブレーションのための操作位置における、
図1に示す膨張式スリーブラッソーカテーテル40の遠位部分の模式的な描写図である。膨張式スリーブラッソーカテーテル40は、完全に膨張されてシャフト22の遠位端部に固定されて示されている。シャフト22の遠位端部は、シャフト22の遠位端部に沿って、かつシャフト22の遠位端部に平行な長手方向軸線70を画定する。弓状の内側端部区分(
図3に見られる)は、膨張したスリーブ50を長手方向軸線70の周りで螺旋状に、同時にわずかに前行させる。
【0037】
本発明で使用する場合、用語「弓状」又は「弓状の形状」とは、長手方向軸線の周りに延在する円弧区分の形状を意味し、円弧区分は、(
図3のように)長手方向軸線70に面する観察者によって目視された場合に、半円形の区分又は楕円形の区分で屈曲されてもよい。可撓性スリーブは、
図2に見ることができる、一般に一定の半径(軸線70から測定される)を有する弓状の形状を画定してもよい。あるいは、
図3では、可撓性スリーブは、軸線70上の観察者から見た場合に、軸線70から(r
1、r
2、r
3、r
4、r
5...r
n)を増加させる半径を有する外向きの螺旋形態で延在する、弓形の形状を画定してもよい。特定の実施形態では、円弧区分は、長手方向軸線70に対して90度未満~180度(
図3)、特定の場合では最大720度まで延在することができる。弧状区分はまた、軸線70の周りで螺旋又は渦巻の一部を模倣するために、軸線70に沿って並進してもよい。
【0038】
明らかなように、膨張式スリーブラッソーカテーテル40の完全に膨張したスリーブ50は、小孔60の全周にわたってPV61の小孔60に接触する。膨張スリーブ50は、スリーブ50の外側表面上の可撓性PCB55上に配置された複数のアブレーション電極53を有する。PV隔離処置では、電極53を通る電気エネルギーの通過は、電気伝播を遮断してPVを心臓から隔離する円周方向の損傷部59を小孔60に形成する。電極53は、アブレーション後のPVの電気的隔離を確認するために、電気記録図を得る上で更に有用である。
【0039】
インセット48は、両方ともが解剖学的形状を許容する、ワイヤ形成部と膨張式スリーブ50との組み合わされた構造の固有の能力を強調する見解から、半円筒形状の電極53が、電極53の領域の大部分又は全体にわたって、小孔60の組織としっかりと接触するのに十分強く押圧されている間の膨張式ラッソー40を示す。
【0040】
図2に示す例示的な図は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。例えば、楕円形パッチなどの、電極53のその他の幾何学的形状が可能である。
【0041】
図3は、本発明の一実施形態による、
図2に示す膨張式スリーブラッソーカテーテル40の概略断面図である。明らかなように、スリーブ50は、スリーブ50によって画定された円周方向の空間58を占有するワイヤ形成部57によって進められる。電極53は、可撓性PCB55上に配置されており、可撓性PCB55それ自体はスリーブ50の外部外側表面上に配置されている。
【0042】
スリーブ50は、例えば、シャフト22の内側に進んでスリーブ50と流体接続する管腔(図示せず)を通してポンプ圧送される生理食塩水溶液66によって、完全に膨張されて示されている。
【0043】
一実施形態では、ワイヤ形成部57は、直線状の基部区分部分62及び弓状の区分部分63を備える自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で、少なくとも部分的に作製されている。従って、医師30が、カテーテル40を、シース23末端縁を越えて前進させた場合、ワイヤ形成部57は非拘束状態に変わり、その結果、畳み込まれた直線上の構成から、直線状の基部区分部分62及び弓状の区分部分63を有する拡張構成へと自己構成される。
【0044】
図3に示す例示的な図は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。
図3は、本発明の実施形態に関連する部分のみを示す。提示の簡略化のために、灌注穴、温度センサ、及び電気配線などのその他の詳細は省略される。
【0045】
図4は、本発明の一実施形態による、肺静脈(PV)隔離のための方法を概略的に示したフローチャートである。この処置は、挿入工程83において、医師30が膨張式スリーブラッソーカテーテル40を心臓の左心房内へと挿入することによって開始されてよい。
【0046】
次に、展開工程85において、医師30は、カテーテル40を、小孔60の内壁の近傍でシース23から外に展開し、ワイヤ形成部57をその予め形成された形状にする。次に、膨張工程87において、医師30はスリーブ50を膨張させる。位置決め工程89において、医師30は、膨張式ラッソーカテーテルをPV61の小孔60と円周方向に接触させ、電極53を小孔60の壁組織としっかり接触させる。膨張式ラッソーカテーテル40が定位置にあると、測定工程91において、アブレーション前の心臓電気記録図が医師30によって取得される。
【0047】
ここで、本方法は判定工程93に進み、医師30は、電気記録図に基づいて、電極53が正しく位置付けられているかどうかを判定する。判定工程93における判定が否定的である場合、次に、本方法は工程89に戻り、医師30は、膨張式ラッソーカテーテル40を最適に位置付けることを再試行してもよい。
【0048】
判定工程93での判定が肯定的である場合、次に、本方法は、アブレーション工程95に進み、その間、医師30は、電極53を使用してアブレーションを実施する。アブレーション操作は、小孔60を取り囲む組織の領域内に円周方向の損傷部59を形成する。損傷部59は電気伝播を遮断し、PV61を心臓から効果的に電気的に隔離しなければならない。PV61の機能的隔離を確認するために、測定工程100において、医師30により、膨張式ラッソーカテーテル40の電極53からアブレーション後の電気記録図が取得される。
【0049】
心臓電気記録図の分析が、判定工程102において、損傷部59が心臓からPV61を完全に電気的に隔離していないことを示す場合、次に、医師30は、位置決め工程89に折り返すことによって、別の試みを実施してもよい。
【0050】
アブレーションの完了後、処置を反復して、シャフト22の遠位端部を引き抜き、それによって収縮したラッソーカテーテル40を引き抜くことにより、別のPV小孔を治療してもよい。本方法は、次に、工程85に戻ってもよい。あるいは、医師30は、後退工程104において処置を終了し、カテーテルを心臓から後退させてもよい。
【0051】
図4に示す例示のフローチャートは、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。代替的実施形態では、灌注を適用して小孔60の組織を冷却するように、追加の工程を実施してもよい。
【0052】
膨張式線状カテーテル
ラッソーカテーテルと類似して前方向に真っ直ぐなことにより、様々な種類のカテーテル形状のためにスリーブカテーテルが実施されてもよい。これには、カテーテルが剛性又は偏向可能である場合に、線状配列の電極を担持しているカテーテルを含む。図示の実施形態は偏向可能な遠位端部のものであるが、直線状、線状である遠位端部については同じ説明が有効である。
【0053】
図5は、本発明の一実施形態による、偏向可能な、膨張式スリーブ線状カテーテル44の概略断面図である。
【0054】
明らかなように、カテーテル44のスリーブ500は、スリーブ500によって画定された空間580を占める偏向可能なワイヤ形成部570によって進められる。ワイヤ形成部570は、別個のリンクによって作製されてもよく、ワイヤを偏向させる要素を含んでもよい。あるいは、ワイヤ形成部570は、直線などの自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で、少なくとも部分的に作製される。円筒形状の電極である電極530は、可撓性PCB550上に配置され、それ自体がスリーブ500の外部外側表面上に配置される。
【0055】
スリーブ500は、例えば、カテーテルのシャフト内に入り、スリーブ500と流体接続する管腔(図示せず)を通してポンプ圧送される生理食塩水溶液66によって、完全に膨張されて示されている。
【0056】
図5に示す例示的な図は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。
図5は、本発明の実施形態に関連する部分のみを示す。提示の簡略化のために、偏向要素、灌注穴、温度センサ、及び電気配線などのその他の詳細は省略される。
【0057】
上述した、ラッソー式で直線状の偏向可能なカテーテルの実施形態は、例としてもたらされた。開示された膨張式スリーブは、別の例として、マルチアームカテーテルなどの任意の形状の内側端部区分と共に使用されてもよい。
【0058】
本明細書に記載された実施形態は、主に、心臓診断及び治療用途に関連して開示された膨張式のラッソー式、直線状及び偏向可能なカテーテルに対処するが、本明細書に記載された方法及びシステムはまた、神経内科及び耳鼻咽喉科などのその他の用途にも使用することができる。
【0059】
従って、上記実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上記の種々の特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形形態及び修正例を含むものである。参考により本明細書に組み込まれる文献は、これらの組み込まれる文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0060】
〔実施の態様〕
(1) 装置であって、
シースを通して、患者の器官の空洞内へと挿入するように構成されたシャフトと、
前記シャフトの遠位端部に固定された膨張式スリーブカテーテルであって、
前記シャフトの前記遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている、弾性内側端部区分と、
前記内側端部区分を包囲する、膨張式スリーブと、
前記膨張式スリーブの上に配置され、組織に接触するように構成されている、複数の電極と、を備える、膨張式スリーブカテーテルと、を備える、装置。
(2) 前記弾性内側端部区分が直線状である、実施態様1に記載の装置。
(3) 前記膨張式スリーブカテーテルが偏向可能である、実施態様1に記載の装置。
(4) 前記電極が円筒形状を有する、実施態様1に記載の装置。
(5) 前記電極が半円筒形状を有する、実施態様1に記載の装置。
【0061】
(6) 前記膨張式スリーブカテーテルがラッソーカテーテルであり、前記弾性内側端部区分が、非拘束状態にある場合に弓状の形状をとるように形成され、前記複数の電極が、前記膨張式スリーブの上に円周方向に配置されている、実施態様1に記載の装置。
(7) 前記内側端部区分が、直線状の基部区分部分及び弓状の区分部分を備える自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で、少なくとも部分的に作製されている、実施態様6に記載の装置。
(8) 前記膨張式スリーブは、前記内側端部区分の前記直線状の基部区分部分及び前記弓状の区分部分に沿って、前記内側端部区分が通されることにより、前記内側端部区分を包囲する、実施態様7に記載の装置。
(9) 前記内側端部区分が、前記シースを出る場合に非拘束状態に変わる、実施態様1に記載の装置。
(10) 前記膨張式スリーブが、生理食塩水溶液を使用して膨張されるように構成されている、実施態様1に記載の装置。
【0062】
(11) 上に配置された前記複数の電極を有する可撓性PCBシートを備える、実施態様1に記載の装置。
(12) 前記可撓性PCBシートが、前記膨張式スリーブに接着されている、実施態様11に記載の装置。
(13) 方法であって、
シースを通して、患者の器官の空洞内へと、シャフトの遠位端部に固定された膨張式スリーブカテーテルを挿入することであって、前記膨張式スリーブカテーテルが、
前記シャフトの前記遠位端部に固定され、非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている、弾性内側端部区分と、
前記内側端部区分を包囲する、膨張式スリーブと、
前記膨張式スリーブの上に配置され、組織と接触するように構成されている、複数の電極と、を備える、ことと、
前記膨張式スリーブカテーテルが前記空洞内の前記シースから出て、前記弾性内側端部区分が前記所定の形状をとった後、前記膨張式スリーブを膨張させることと、
前記複数の電極と組織との間の接触を行い、前記電極を使用して医療処置を行うことと、を含む、方法。
(14) 前記弾性内側端部区分が直線状である、実施態様13に記載の方法。
(15) 前記膨張式スリーブカテーテルが偏向可能である、実施態様13に記載の方法。
【0063】
(16) 前記電極が円筒形状を有する、実施態様13に記載の方法。
(17) 前記電極が半円筒形状を有する、実施態様13に記載の方法。
(18) 前記カテーテルがラッソーカテーテルであり、前記弾性内側端部区分が、非拘束状態にある場合に弓状の形状をとるように形成され、前記複数の電極が、前記膨張式スリーブの上に円周方向に配置されている、実施態様13に記載の方法。
(19) 前記内側端部区分が、直線状の基部区分部分及び弓状の区分部分を含む自己構成可能な予め形成された形状を有する形状記憶合金で少なくとも部分的に作製されている、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記膨張式スリーブは、前記内側端部区分の前記直線状の基部区分部分及び弓状の区分部分に沿って前記内側端部区分が通されることにより、前記内側端部区分を包囲する、実施態様19に記載の方法。
【0064】
(21) 前記内側端部区分が、前記シースを出る場合に非拘束状態に変わる、実施態様13に記載の方法。
(22) 前記膨張式スリーブを膨張させることが、生理食塩水溶液を使用して前記膨張式スリーブを膨張させることを含む、実施態様13に記載の方法。
(23) 膨張式スリーブカテーテルを製造するための方法であって、
非拘束状態にある場合に所定の形状をとるように形成されている弾性内側端部区分を、シャフトの遠位端部に固定することと、
前記内側端部区分を膨張式スリーブで包囲することと、
前記膨張式スリーブの外周上に、組織に接触するように構成されている複数の電極を配置することと、を含む、方法。