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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/10 20160101AFI20240805BHJP
【FI】
H02P29/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020179897
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2021108532
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019238211
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇治
(72)【発明者】
【氏名】平出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】北原 通生
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-010339(JP,A)
【文献】特開2011-250616(JP,A)
【文献】特開平03-045183(JP,A)
【文献】特開昭62-212801(JP,A)
【文献】特開平09-220740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から与えられた、トルク指令と速度制限指令に基づいて速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、
前記モータの速度を検出する速度検出部と、
前記トルク指令に基づいてトルク指令に基づく速度指令を算出し、前記トルク指令に基づく速度指令に制限を加えたモータ速度指令を出力する速度制限部を有し、
前記速度制限部は、前記トルク指令から前記トルク指令に基づく速度指令を算出する速度指令算出部と、前記トルク指令に基づく速度指令に前記速度制限指令に基づく速度制限を加えて前記モータ速度指令を出力する速度制限器と、を備え、
前記トルク指令に基づく速度指令算出部は、前記トルク指令に基づき速度偏差を算出する速度偏差算出器と、前記速度偏差に前記速度を加算して前記トルク指令に基づく速度指令を出力する加算器とを有し、
さらに、前記モータ速度指令と前記モータの前記速度との速度偏差に基づいてモータトルク指令を算出する速度制御器と、
前記モータトルク指令に基づいてモータトルクを制御するモータトルク制御器と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記速度制限指令は、前記モータの前記速度の上限が、所定の閾値、所定のテーブル値又は所定の関数値に基づいて定められるものである、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記速度制御器は、比例制御器または比例積分制御器の少なくとも一方を有する、請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
外部から与えられた、トルク指令と速度制限指令に基づいて速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御方法であって、
前記トルク指令に基づき速度偏差を算出し、
前記速度偏差に前記モータの前記速度を加算することによってトルク指令に基づく速度指令を出力し、
前記トルク指令に基づく速度指令に前記速度制限指令に基づく速度制限を加えてモータ速度指令を出力し、
前記モータ速度指令と前記モータの前記速度との速度偏差に基づいて、速度制御器により、モータトルク指令を算出し、
前記モータトルク指令に基づいてモータトルクを制御する、
ことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項5】
前記速度制限指令は、前記モータの前記速度の上限が、所定の閾値、所定のテーブル値又は所定の関数値に基づいて定められるものである、請求項4に記載のモータ制御方法。
【請求項6】
前記速度制御器は、トルク制御中は比例制御を、速度制限中は比例積分制御を行うものである、請求項4又は5に記載のモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク指令と速度制限指令に基づいてモータ速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御装置及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルムなどの製造では、しわやたるみなどを防止して品質を向上させるために、張力制御装置を用いて製造を行っている。このような張力制御装置の巻出し用モータの制御では、巻径に応じた一定のトルクで巻出し用モータを駆動して、張力を一定に保っている。
【0003】
そして、被加工物が切断した場合の、巻出し用モータの速度上昇を抑制するため、速度制限機能を備えたトルク制御を実施している。また、スポット溶接用サーボガンの場合、溶接ガンの電極部の溶接チップでワークを挟んでモータのトルクを制御して加圧し、電極チップ間を通電しワークを溶着させている。
【0004】
このような溶接ガンでも、位置制御や速度制御で加圧対象に接触する手前まで移動し、トルク制御に切替えた時に過大な速度が発生して加圧対象に衝突することがないように、速度制限機能を備えたトルク制御を実施している。
【0005】
こういった速度制限機能を備えたトルク制御を実施した例として特許文献1がある。
【0006】
特許文献1では、外部からの入力に基づいてモータの制御をするモータ制御装置であって、印加電圧に基づいて回転するモータと、モータの磁極位置を検出する磁極位置センサと、磁極位置センサが出力する位置信号に基づいてモータの回転速度を演算する速度演算部と、外部からの入力をトルク電流指令へと変換する変換部と、モータの制限回転速度と速度演算部が演算したモータの回転速度とに基づいてトルク電流指令を補正するトルク電流補正部と、補正されたトルク電流指令を用いて電圧指令を演算するベクトル演算部と、電圧指令に基づいてモータへの印加電圧を作成する印加電圧作成部と、を有するモータ制御装置が記載されている。
【0007】
しかし、このようなトルク指令をトルク電流補正部の出力で補正する方式では、速度制限時にトルク指令を打ち消すトルク電流補正を出力する必要があり、トルク指令が大きな場合、打消し信号も大きくなり、応答が遅く、速度のオーバーシュートが大きいといった問題や、速度制限付近で動作させた時に、速度制限制御のオンオフが行われ、大きなオーバーシュートが繰り返されるため挙動が不安定になるという問題や、一つの速度制限指令しか入力できないため、トルク指令の方向にしか速度を制限できないといった問題や、トルク指令が0の時は方向が定まらないので速度を制限することができないといった問題があった。
【0008】
前記のようなトルク指令の方向にしか速度を制限できないといった問題や、トルク指令が0の時は方向が定まらないので速度を制限することができないといった問題を解消した例として特許文献2がある。
【0009】
特許文献2では、駆動対象を駆動するモータを制御して駆動対象を目標トルクに対応する圧力で加圧対象に押し付けるモータ制御装置であって、モータの速度検出値に基づいてモータに対するトルク指令およびトルク指令を補償するための回帰トルクを算出する速度制御器と、目標トルクと速度制御器が算出した回帰トルクとの偏差に応じた第1速度指令を算出する回帰トルク制御器とを備え、回帰トルク制御器は、算出した第1速度指令を駆動対象と加圧対象との接触速度に基づいて定められる所望の速度制限値で制限して出力し、速度制御器は、回帰トルク制御器が出力した第1速度指令に速度検出値が追従するようにトルク指令を算出することを特徴とするモータ制御装置が記載されている。
【0010】
特許文献2の手法では、速度制限値をモータの正回転側と逆回転側の両方とも設定でき、トルク指令の極性とは関係なく速度を制限することができるため、トルク指令の方向にしか速度を制限できないといった問題や、トルク指令が0の時は方向が定まらないので速度を制限することができないといった問題は解消される。しかし、このようなトルク指令を回帰トルクと比較して回帰トルク制御器で速度指令を算出してモータに対するトルク指令(モータトルク指令)を補償する方式では、回帰トルク制御器のゲインをかなり高くしないと、トルク指令通りのモータトルク指令が生成されない。
【0011】
しかし、回帰トルク制御ループは、比例積分制御器で構成される速度制御器と、同じく比例積分制御器で構成される回帰トルク制御器の2つの制御器で構成され、積分要素が2重に入るため制御系が不安定になり易く、制御ゲインを上げると回帰トルクに振動が生じてくる。回帰トルクに振動が生ずると、モータトルク指令にも振動が生じてくる。このため、ゲインを高くして使用することができず、トルク指令より少し小さなモータトルクしか出力できないという問題があった。
【0012】
特に回帰トルク制御器の比例ゲインを上げると振動しやすく、比例ゲインを上げて使用することができないため、制御パラメータによっては、速度制限状態からの復帰が適切に動作しない場合があり、調整が大変で、安定に動作するパラメータ範囲が狭いという問題があった。
【0013】
また、速度制御器の積分器は、回帰トルク制御器の積分器としても動作するため、トルク指令が急変した場合は、速度制御器の積分器も動作してしまい、この結果、速度のオーバーシュートが大きいといった問題や、速度制限付近で動作させた時に、速度制限制御のオンオフが行われ、大きなオーバーシュートが繰り返されるため、挙動が不安定になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2003-33068号公報
【文献】国際公開2011/145366号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、前記問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、制御パラメータの調整が容易で、トルク指令の極性やモータの回転方向によらずトルク制御中の速度を制限でき、速度制限時のオーバーシュートが小さく、速度制限にかからない場合にトルク指令通りのモータトルクを出力できるモータの制御装置及びモータの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、次のとおりの、モータ制御装置である。
【0017】
トルク指令と速度制限指令に基づいて速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御装置であって、
前記モータ制御装置は、
前記モータの速度を検出する速度検出部と、
前記トルク指令に基づいてトルク指令に基づく速度指令を算出し、前記トルク指令に基づく速度指令に制限を加えたモータ速度指令を出力する速度制限部を有し、
前記速度制限部は、前記トルク指令から前記トルク指令に基づく速度指令を算出する速度指令算出部と、前記トルク指令に基づく速度指令に前記速度制限指令に基づく速度制限を加えて前記モータ速度指令を出力する速度制限器と、を備え、
前記トルク指令に基づく速度指令算出部は、前記トルク指令に基づき速度偏差を算出する速度偏差算出器と、前記速度偏差に前記速度を加算して前記トルク指令に基づく速度指令を出力する加算器と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【0018】
また、本発明は、次のとおりの、モータ制御方法でもある。
【0019】
トルク指令と速度制限指令に基づいて速度を制限しながらモータのトルクを制御するモータ制御方法であって、
前記トルク指令に基づき速度偏差を算出し、
前記速度偏差に前記モータの前記速度を加算することによってトルク指令に基づく速度指令を出力し、
前記トルク指令に基づく速度指令に前記速度制限指令に基づく速度制限を加えてモータ速度指令を出力する、
ことを特徴とするモータ制御方法。
【0020】
このような本発明のモータ制御装置及びモータ制御方法の実施の態様は、特許請求の範囲の従属項に示すように種々の態様において実施することができ、それらやその他の詳細及び利点については、後述の発明を実施するための形態の項において詳細に説明する。
【発明の効果】
【0021】
前記構成により、本発明では、速度制御ループでのモータ速度指令からモータトルク指令を算出する計算の逆算を行う方法で、トルク指令を基に、トルク指令に基づく速度指令を算出し、速度制限を行ってモータ速度指令を求め、モータ速度指令に基づきモータを速度制御するという簡単な構成でトルク制御中の速度制限を実現している。このため、特別なパラメータの調整が不要で、トルク指令の極性やモータの回転方向によらず速度を制限でき、速度制限時のオーバーシュートが小さく、速度制限にかからない場合は、トルク指令通りのモータトルクを出力できるモータの制御装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、モータ制御装置及び方法の一態様を示すブロック図である。
図2図2は、モータ制御装置及び方法の別の態様を示すブロック図である。
図3図3は、モータ制御装置及び方法の一態様(速度比例制御)の速度変化シミュレーション結果を示すグラフである。
図4図4は、モータ制御及びその方法の別の態様(速度比例積分制御)の速度変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5は、トルク指令を補正する方式の動作例の速度変化のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るモータ制御装置及び方法の実施の態様を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の態様の説明如何により本発明の範囲が限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の技術的範囲に属する限り、如何なる態様であっても本発明の範囲に含まれるものである。
【0024】
図1に、モータ制御装置及び方法の一態様を示す。
【0025】
本発明のモータMのモータトルクTを制御するモータ制御装置Aは、概略、モータ速度Sを求めるためのエンコーダEN、微分器Dif、速度偏差算出器1、加算器2、減算器3、速度制限器4、速度制御器5、モータトルク制御器6などから構成されている。
【0026】
ここで、モータ速度Sを求めるためのエンコーダENと微分器Difは、両者でモータ速度Sを検出する速度検出部Bを構成している。なお、速度検出部Bの構成要素は、エンコーダENと微分器Difからなるものだけではなく、速度を検出できればどのようなものであっても良い。
【0027】
また、速度偏差算出器1と加算器2は、トルク指令に基づく速度指令算出部Cを、かかるトルク指令に基づく速度指令算出部Cと速度制限器4は、速度制限部Dを構成している。
【0028】
このように構成されるモータ制御装置Aには、モータMのモータトルクTを制御するためのトルク指令Tcと、モータMのモータ速度Sを制限するための速度制限指令Sucが、外部から与えられ、所望のトルクと一定の速度制限の下でモータMの運転が行われる。
【0029】
外部から与えられた所望のトルク指令Tcは、速度偏差算出器1に入力され、トルク指令Tcに基づく速度偏差Sd1を算出して出力する。
【0030】
トルク指令Tcに基づく速度偏差Sd1には、速度検出部Bから出力されたモータ速度Sが加算器2において加算され、トルク指令に基づく速度指令Scを出力する。このトルク指令に基づく速度指令Scは、速度制限器4に入力され、そこで外部から与えられた所望の速度制限指令Sucに基づいて速度制限が行われて、モータ速度指令Smcを算出する。このモータ速度指令Smcに基づき、モータMを速度制御することとなる。
【0031】
具体的には、モータMに付けられているエンコーダENの発する位置信号を微分器Difで微分してモータ速度Sが求められる。モータ速度指令Smcとモータ速度Sを減算器3において減算出力した速度偏差Sd2信号を、速度制御器5に入力し、速度制御器5はモータトルク指令Tmcを算出する。モータトルク指令Tmcに基づき、モータトルク制御器6によりモータトルク指令TmcどおりのモータトルクTがモータMから出力される。モータMから出力されたモータトルクTにより回転した位置はエンコーダENで検出され、モータ速度指令Smcと一致するように速度制御ループが構成されている。
【0032】
速度制御器5を比例制御器で構成し、そのゲインをGとしたとき、速度制御ループの演算は、次式(1)、(2)に基づいて行われる。
【0033】
モータ速度指令Smc-モータ速度S=速度偏差Sd2 ・・・(1)
速度偏差Sd2×比例制御器のゲインG=モータトルク指令Tmc ・・・(2)
【0034】
両式より、モータトルク指令Tmcからモータ速度指令Smcを次のように逆算して求めることができる。
【0035】
速度偏差Sd2=モータトルク指令Tmc/比例制御器のゲインG ・・・(3)
モータ速度指令Smc=速度偏差Sd2+モータ速度S ・・・(4)
【0036】
本発明では、外部から与えられるトルク指令Tcに対して、上式(3)、(4)の関係を用いて、まず、トルク指令に基づく速度指令Scを算出する。
【0037】
トルク指令に基づく速度偏差Sd1=トルク指令Tc/G ・・・(5)
トルク指令に基づく速度指令Sc=トルク指令に基づく速度偏差Sd1+モータ速度S ・・・(6)
【0038】
そして、求められたトルク指令に基づく速度指令Scに対して、速度制限器4において速度制限指令Sucに基づいて速度制限を行い、モータ速度指令Smcを求める。
【0039】
このモータ速度指令Smcに基づいてモータの速度制御を行うと、
【0040】
モータトルク指令Tmc=速度偏差Sd2×G
=(モータ速度指令Smc-モータ速度S)×G
【0041】
ここで、速度制限にかからない、すなわち、トルク指令に基づく速度指令Scが速度制限指令Sucより小さい場合は、モータ速度指令Smc=トルク指令に基づく速度指令Scとなるため、
【0042】
モータトルク指令Tmc=(トルク指令に基づく速度指令Sc-モータ速度S)×G
={(トルク指令に基づく速度偏差Sd1+モータ速度S)
-モータ速度S}×G
=(トルク指令に基づく速度偏差Sd1)×G
=トルク指令Tc/G×G
=トルク指令Tc
【0043】
となり、モータトルク指令Tmcはトルク指令Tcと一致し、このモータトルク指令Tmcに基づきモータMがトルク制御され、モータトルク指令Tmc、すなわちトルク指令TcどおりのモータトルクTがモータMから出力される。
【0044】
速度制限にかかった場合、すなわち、トルク指令に基づく速度指令Scが速度制限指令Suc以上の場合には、モータ速度指令Smcは速度制限指令Sucになり、速度制限指令Sucに基づくモータMの速度制御が行われる。トルク指令に基づく速度偏差Sd1にモータ速度Sを加算して速度制限するだけなので、速度制御ループの上位に速度制限を実現するためのトルク制御ループがなく、制御ループを構成する特別な制御パラメータは必要がない。
【0045】
なお、速度制限指令Sucは一つの入力でCW(時計回転方向)側とCCW(反時計回転方向)側の両方を制限してもよいし、速度制限指令を2つ設けてCW側とCCW側を独立に制限してもよい。
【0046】
また、速度制限指令Sucは、モータ速度Sの上限を、所定の閾値、所定のテーブル値、所定の関数値等に基づいて定めることもできる。この場合、「所定の」とは、任意に定めることができることを含むことはいうまでもなく、さらに、モータ制御装置A等の製造時、試験時、出荷時、使用時等いずれの時点においても任意に設定することが可能であることをも包含するものである。
【0047】
以上のように、本発明では、速度制御系でのモータ速度指令Smcからモータトルク指令Tmcを算出する計算の逆算により、トルク指令Tcを基にトルク指令に基づく速度指令Scを算出し、速度制限を行ってモータ速度指令Smcを求め、モータ速度指令Smcを基にモータトルク指令Tmcを算出する。
【0048】
また、速度制御器5のゲインGが低い場合にも、速度制限にかかっていない時はトルク指令Tcどおりのモータトルク指令Tmcが算出され、速度制御器5の比例制御器のゲインGの影響を受けない。速度制御器5のゲインGは、通常の運転状態でモータMを速度制御する時に、速度ループが安定するように常法に従って調整しておけばよい。
【0049】
図2に、モータ制御装置及び方法の別の態様を示す。
【0050】
この態様においては、図1に示しモータ制御装置及び方法において、モータMやそこに接続される軸や巻取り装置等の機械系に共振が生じるなど所定の場合には、ノッチフィルタNFやローパスフィルタLPFなどのフィルタを速度制御器5の出力側に設けることが可能である。その場合には、トルク指令Tcに対する応答がローパスフィルタLPF等のフィルタを追加した分低下することになる。その余の構成は、前記の一の態様と同じである。
【0051】
速度制御器5を比例制御器で構成している場合には、オーバーシュートが無い。モータMによる張力制御中に被加工物が切断された場合などは、巻出し部の回転摩擦のみのため、負荷トルクは小さく、比例制御であっても制限されるモータ速度に生じる誤差は僅かである。
【0052】
以上、2つの態様を示してきたが、本発明の用途によっては、負荷が持つ負荷トルクTbが大きく、速度制限指令Sucに対して負荷トルクTbを速度制御のゲインGで除算した分の速度誤差が生じることがある。
【0053】
その場合には、速度制御器5を比例積分制御器で構成し、速度制限にかからない場合は比例制御器として動作させ、速度制限にかかった場合に、積分制御器を有効にする。速度制限にかかった場合は、積分制御器により、負荷トルクTbの影響が抑制される。しかし、積分制御器から出力される値は負荷トルクTbを補償する分の値が出力されるのみのため、積分制御器の補償量は僅かであり、モータ速度のオーバーシュートは僅かとなる。
【0054】
また、負荷トルクTbが大きくて回生動作も行う場合には、回生中に速度制限にかかった時に比例積分制御器の積分制御器をオフにする。速度誤差は生ずるものの、回生中に積分制御器がオンオフを繰り返してモータトルクTの脈動を生ずるのを防止する作用が生じる。
【0055】
図3及び図4に、モータ制御及びその方法の複数の態様の速度変化のシミュレーション、また、図5に、トルク指令を補正する方式の動作例の速度変化の、シミュレーション結果を示す。それぞれ、縦軸に速度の大きさを、横軸に時間の経過を示す。いずれも同じ速度制限指令Sucの下でのグラフである。
【0056】
図3では、モータ制御及びその方法の一態様において、時間Tが0≦T≦0.25であるときに、負荷トルクを無とした場合の結果を示している。この時間範囲では、速度制限指令Sucの設定どおりに速度が制限されている様子が現れている。また、0.25≦Tの範囲においては、負荷トルクを有とした場合の結果を示している。この時間範囲では、後述するとおり、速度制限指令Sucに対して負荷トルクTbを速度制御のゲインGで除算した分の速度誤差が生じている。ここでの例は、あくまでも一例であるが、29.4min-1の誤差を示している。力行時においては、かかる誤差の分だけ低く制限され、回生時においては、かかる誤差の分だけ高く制限されることとなる。
【0057】
一図飛んで図5には、前記モータ制御及び方法との比較のため、特許文献1のトルク指令を補正する方式の動作例を示している。時間Tが0≦T≦0.25であるときに、負荷トルクを無とした場合の結果を示している。また、0.25≦Tの範囲においては、負荷トルクを有とした場合の結果を示している。何れの力行時においても、速度の立ち上がり時に、290min-1、265min-1などの大きなオーバーシュートが生じており、また、回生時でトルク指令が0になると、速度の制限が行われない状況が生じている。オーバーシュートが大きいのは、トルク指令を打消すだけの大きさの速度ループからのトルク指令が出力されて速度が制限される仕組みであることから、大きな打消しトルク指令が出るまでの時間遅れの存在によるものである。
【0058】
図4には、モータ制御及びその方法の別の態様の速度変化のシミュレーション結果を示している。この態様は、速度制御器を比例積分制御(PI制御)が行えるように構成し、速度制限値に至らない場合には比例制御(P制御)として作動させることを可能としたもので、速度制限に至った場合には、積分制御器を有効にして速度比例積分制御(PI制御)を行わせるようにしたものの動作例を示している。時間Tが0≦T≦0.25であるときに、負荷トルクを無とした場合の結果を示している。この時間範囲では、速度制限にかかった時に、積分制御器が作動するが、トルクの打消しを行っていないため、30min-1のオーバーシュートにとどまっている。また、0.25≦Tの範囲においては、負荷トルクを有とした場合の結果を示している。この時間範囲でも速度制限にかかった時に積分制御器が動作するためオーバーシュートを生ずるが、図5に示すトルク指令を補正する方式の動作例と比べると、オーバーシュートの量は相当少ない。
【0059】
以上のように、本発明の態様においては、いずれも、特別なパラメータの調整が不要で、トルク指令の極性やモータの回転方向によらず速度を制限でき、速度制限時のオーバーシュートが小さく、速度制限にかからない場合は、トルク指令通りのモータトルクを出力できるモータの制御装置を実現することができる。
【0060】
上述した各態様は、いずれも本発明の一態様を示すものであって、本発明自体がそれらの態様によって示される具体的な構成に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載された事項に基づき当業者が想定し得るものはすべて含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
M ・・・モータ
S ・・・モータ速度
T ・・・モータトルク
A ・・・モータ制御装置
EN ・・・エンコーダ
Dif ・・・微分器
1 ・・・速度偏差算出器
2 ・・・加算器
3 ・・・減算器
4 ・・・速度制限器
5 ・・・速度制御器
6 ・・・モータトルク制御器
B ・・・速度検出部
C ・・・トルク指令に基づく速度指令算出部
D ・・・速度制限部
Tc ・・・トルク指令
Suc ・・・速度制限指令
Sd1、Sd2 ・・・速度偏差
Sc ・・・トルク指令に基づく速度指令
Smc ・・・モータ速度指令
G ・・・速度制御器のゲイン
Tmc ・・・モータトルク指令
Tb ・・・負荷トルク
NF ・・・ノッチフィルタ
LPF ・・・ローパスフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5