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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/022 20160101AFI20240805BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H02P25/022
H02P27/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021048335
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147188
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】會澤 敏満
(72)【発明者】
【氏名】小湊 真一
(72)【発明者】
【氏名】大村 直起
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-201495(JP,A)
【文献】特開平3-226297(JP,A)
【文献】特開2009-124812(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097734(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/022
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの固定子巻線に通電を行う通電部と、
前記固定子巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流のピーク値を検出するピーク電流検出部と、
前記モータへの印加電圧と前記電流との位相差を検出する位相差検出部と、
前記印加電圧の大きさを、入力される周波数指令に基づいて算出する電圧算出部と、
前記ピーク電流を極力低下させるように前記印加電圧を補正する電圧補正部と、
前記位相差の下限値を設定する下限値設定部と、
前記位相差が前記下限値を下回ったことを判定すると、前記周波数指令を低下させると共に、前記電圧補正部に前記補正電圧を増加させる制御部とを備えるモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータへの通電周波数が前記周波数指令に達した際に前記電圧補正部を機能させる補正タイミング判定部を備える請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧補正部が前記補正電圧を増加させる値を、前記モータへの通電周波数に応じて変化させる請求項1又は2記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記周波数指令を基準として前記電圧補正部で算出した補正電圧の値を調整する請求項1から3の何れか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記下限値設定部は、前記下限値を、前記周波数指令に応じて変化させる請求項1から4の何れか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
今回の位相差と前回の位相差との変化量が閾値を超えたことを判定すると、モータの回転異常と判定する回転異常判定部を備える請求項1から5の何れか一項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転位置センサを用いることなくモータを制御する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年省電力化が進む中、例えば、3相のブラシレスDCモータを駆動するための電力変換装置は、正負の直流電源線間にハーフブリッジ回路が3相分並列接続された構成となっている。ハーフブリッジ回路は、直流電源線間に直列に接続された一対の半導体スイッチング素子と、それら半導体スイッチング素子のそれぞれに逆並列接続された還流ダイオードとからなる。
【0003】
上記構成の電力変換装置においては、各半導体スイッチング素子の駆動がPWM(Pulse Width Modulation)制御される。これにより、直流電源線から与えられる直流電力が3相の交流電力に変換され、モータの巻線に電流が通電される。ブラシレスDCモータを駆動する回路としては、特に始動トルクが必要な用途においては位置センサを使用するセンサ駆動が提案されている。しかしながら、低コスト化や小型化を実現するためには、位置センサを用いることなくモータを制御するモータ駆動装置が求められる。
【0004】
例えば、ホール素子などの磁極センサでモータの回転位置を検出する代わりに、モータ巻線に発生する誘起電圧を利用して回転位置を検出し、これに基づいてモータ電圧を出力する方法がある。1相の通電電気角が120°の矩形波状の電圧を出力する120°矩形波駆動では、出力が停止する60°区間において誘起電圧を検出することができる。しかし、120°矩形波駆動は、正弦波状の電圧を出力する180°正弦波駆動に比較すると、騒音・振動が大きいという問題がある。
【0005】
一般的に、位置センサを用いることなく正弦波駆動する手法として、モータ電圧方程式に基づいて誘起電圧を算出し、その誘起電圧を用いて回転位置を推定するものがある。しかし、この手法は演算負荷が高く、高価なマイコンを使用せざるを得ないと共に、モータ定数等が必要となる。
【0006】
一方、インバータから出力された電圧(V)と周波数(f)の比(V/f)を一定にするV/f制御という手法があり、この手法は演算負荷が少なく、回転位置の検出やモータ定数は不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-124812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、V/f制御では、ロータの回転位置を把握していないため、負荷トルクが重くなり過ぎると周波数指令にモータの回転が追従できず、異常停止,つまり脱調してしまう。一方で、脱調を回避するため電圧指令を大きめに設定すると、効率が悪化してしまう。
そこで、高い効率と負荷変動に対するロバスト性との両立を実現できるモータ駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態のモータ駆動装置は、
モータの固定子巻線に通電を行う通電部と、
前記固定子巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流のピーク値を検出するピーク電流検出部と、
前記モータへの印加電圧と前記電流との位相差を検出する位相差検出部と、
前記印加電圧の大きさを、入力される周波数指令に基づいて算出する電圧算出部と、
前記ピーク電流を極力低下させるように前記印加電圧を補正する電圧補正部と、
前記位相差の下限値を設定する下限値設定部と、
前記位相差が前記下限値を下回ったことを判定すると、前記周波数指令を低下させると共に、前記電圧補正部に前記補正電圧を増加させる制御部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態であり、モータ駆動装置の構成を示す機能ブロック図
図2】V/f制御時のベクトル図
図3図2をグラフ化して示す図(その1)
図4図2をグラフ化して示す図(その2)
図5】デューティ90%でモータ回転数が2900rpm,3000rpm,3100rpmのときの電圧電流位相差とトルクとの関係を示す図
図6】「速度指令調整なし」のときの負荷印加時の制御波形を示す図
図7】「速度指令調整あり」のときの負荷印加時の制御波形を示す図
図8】位相差の下限値を周波数指令に応じて変化させることを示す図
図9】出力電圧補正量算出部による効果を示す図
図10】本実施形態のV/f制御とベクトル制御との効率を比較した図
図11】出力電圧補正が安定的に行われている状態を示す図
図12図11に示す状態から、周波数指令が半分になった状態を示す図
図13図12に示すケースにおいて、出力電圧の補正量を周波数指令に比例させた状態を示す図
図14】周波数指令が調整されて出力電圧が低下した後に、周波数指令の加減速を繰り返す状態を示す図
図15図14に示すケースに「出力電圧調整」を導入した場合の波形を示す図
図16】電圧電流位相差の変化態様に応じて行う脱調の判定を示す図
図17】制御のメインルーチンのフローチャート
図18】出力調整処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、モータ駆動装置の構成を示す機能ブロック図である。例えば永久磁石モータであるモータ1の各相巻線には、電力変換器であるインバータ2の各相出力端子が接続されている。インバータ2は、具体的には示さないが、正負の直流電源線間にハーフブリッジ回路が3相分並列に接続された構成である。ハーフブリッジ回路は、直流電源線間に直列に接続された一対の半導体スイッチング素子と、それら半導体スイッチング素子のそれぞれに逆並列接続された還流ダイオードとからなる。半導体スイッチング素子は、例えばNチャネルMOSFETなどである。
【0012】
周波数指令加減速制限部3には、外部より周波数指令ωrefが入力されるが、加減速制限部3は、その周波数指令ωrefについて必要に応じた加減速の制限を加え、減算器4を介してf/V変換部5に出力する。例えば、周波数指令ωrefがステップ状に急変した場合に、加減速制限部3は、その指令値が時間に比例して漸増するように変換する。f/V変換部5は、入力される周波数指令に応じて変換した電圧信号を、PWM制御におけるDuty指令として出力する。また、周波数指令は、積分器6により積分されることで位置指令に変換される。
【0013】
変調制御部7には、減算器8を介したDuty指令と位置指令とが入力され、変調制御部7は、3相PWM信号(U,V,W±)を生成して、インバータ2の各半導体スイッチング素子にゲート信号として出力する。
【0014】
電圧電流位相差検出処理部9は、インバータ2の負電源側に1つのみ配置される1シャント抵抗,又は各相アームの負電源側に配置される3シャント抵抗等からの電圧より、モータ電流を検出する。電圧電流位相差検出処理部9では、変調制御部7より得られる電圧位相と、モータ電流位相との差を算出する。3シャント方式であれば電流のゼロクロス点での位相差を算出し、1シャント方式であれば、2相電流のクロスタイミングから残り1相の電流のゼロクロス点を求めることで位相差を算出する。
【0015】
電流ピーク検出処理部10は、検出されたモータ電流からそのピークを求め、出力電圧補正量算出部11は、電流のピークが極力小さくなるように出力電圧を補正するための補正値を減算器8に出力する。制御部に相当する周波数指令補正量算出部12では、電圧電流位相差検出処理部9で検出された位相差が、下限値設定部14により入力される下限値以下になると、周波数指令を低下させる補正値を減算器4に出力すると共に、Duty指令を増大させる指令値を出力電圧補正量算出部11に出力する。
【0016】
回転異常判定部に相当する脱調判定部13は、電圧電流位相差検出処理部9で検出された電圧電流位相差の変化に基づいて、モータ1が脱調したことを判定する。補正タイミング判定部15は、周波数指令ωrefと周波数指令加減速制限部3の出力とが一致した際に、出力電圧補正量算出部11に電圧補正処理を開始させる。以上が、モータ制御装置16を構成している。
【0017】
図2は、V/f制御時のベクトル図を示す。負荷トルクが小さい場合、電流ベクトルIはd軸に近いが、負荷が大きくなると、トルクを増やすためにq軸に近づく。負荷が大きくなり過ぎると弱め界磁制御となり、電流が増えてトルクも増えるが、電圧位相が進み過ぎるとトルクが低下してしまい、脱調に至ることになる。
【0018】
図3及び図4は、図2をグラフ化したもので、電圧と電流の位相差とトルク及び電流の関係を示している。PWMデューティが一定の場合、負荷が大きくなると磁極が遅れてd軸電流Idが負の値になり、電圧位相が進んで位相差が小さくなる。
【0019】
図5は、デューティ90%固定でモータ回転数が2900rpm,3000rpm,3100rpmのときの電圧電流位相差とトルクとの関係を示す。この関係から、本実施形態では、位相差が小さくなり0[deg]以下となった場合に、速度指令, つまり周波数速度指令を低下させて位相差を大きくする制御を追加した。
【0020】
図6は「速度指令調整なし」、図7は「速度指令調整あり」のときの負荷印加時の制御波形を示す。速度指令調整なしのときはモータが脱調して停止してしまったが、速度指令調整ありのときは、図中に円で囲んで示している部分において速度指令を低下させることで、モータの脱調による停止を回避できた。また、位相差の下限値については、下限値設定部14が、例えば図8に示すように周波数指令ωrefに応じて上昇させるように変更することで、周波数指令ωrefが変化しても負荷変動に対するロバスト性を確保できるようになる。
【0021】
図9は、出力電圧補正量算出部11による効果を示している。モータ電流のピーク値が低下するよう、電圧指令,つまりDuty指令が自動的に調整されている。出力電圧補正量算出部11の処理の詳細については、後述する制御フローチャートで説明する。
【0022】
図10は、本実施形態のV/f制御とベクトル制御との効率を比較したものである。ベクトル制御との効率差は1ポイント未満であり、本実施形態の制御によって、ベクトル制御と同等の性能を達成できている。
【0023】
尚、出力電圧の補正量は、周波数指令に応じて変更する必要がある。図11から図13では、「電圧補正実行」において、波形がインパルス状に立ち上がっているタイミングで補正が実行されている。例えば、図11に示すように、出力電圧補正が安定的に行われている状態から、図12に示すように周波数指令が半分になると、補正量が大き過ぎるため制御が不安定となってしまい、電流ピーク値の抑制が困難になってしまう。これに対して、図13に示すように出力電圧の補正量を周波数指令に比例させることで、周波数指令が急激に低下した場合にも出力電圧の補正が良好に行われるようになり、制御が安定して電流ピーク値を適切に抑制できる。
【0024】
また、上述のように補正を行なうことで出力電圧は低下するが、図14に示すように、周波数指令が調整されて低下した後に、モータ1を加速するための出力電圧が不足して元の周波数指令に戻せなくなり、周波数指令の加減速を繰り返してしまう問題がある。そこで、本実施形態では、周波数指令を低下させた際に出力電圧を上昇させることで、V/f制御における高効率化を実現する「出力電圧調整」と、負荷変動に対応する「周波数指令調整」とを両立させている。図15は「出力電圧調整」を導入した場合の波形を示しており、周波数指令の加減速が繰り返される状態を回避できている。
【0025】
ここで、周波数指令を低下させた際に、出力電圧補正量算出部11で算出された補正電圧をそのまま使用すると、補正量が大き過ぎて出力電圧が負の値になってしまい、モータ1が駆動できなくなってしまう問題が生じる。この問題については、低下させる前の元の周波数指令に対して、低下させた周波数指令の割合に応じて電圧補正部で算出した補正電圧を低減すれば良い。これにより、出力電圧の過補正を防止して、モータ1が停止することを回避できる。
【0026】
また、V/f制御ではモータ1のロータ回転位置を検出していないため、負荷が急変して脱調したことを適切に検出することが求められる。本実施形態では、図16中に楕円で囲んだ部分に示すように、電圧電流位相差が正の値に大きく急変した場合に脱調と判定することで検出する。
【0027】
図17は、制御のメインルーチンのフローチャートを示す。この処理は、例えば周波数が20kHz程度であるPWM周期毎に実行される。先ず、補正タイミング判定部15は、モータ1の回転周波数ωが、周波数指令ωrefに一致したか否かを判断する(S01)。回転周波数ωが周波数指令ωrefに一致していなければ(NO)、回転周波数の加減算が行われる(S02)。ここでの加減算は、周波数指令加減算部3に応じて行われるものである。
【0028】
回転周波数ωが周波数指令ωrefに一致すると(S01;YES)出力電圧補正が開始され、電圧電流位相差検出処理部9及びピーク検出処理部10は電流値を取り込む。ピーク検出処理部10は、今回の電流値がホールドしているピーク値よりも大きい場合は更新した電流ピーク値をホールドする(S1)。
【0029】
電圧電流位相差検出処理部9は、電流のゼロクロス点を検出すると(S2;YES)、モータ電気角1周期毎の処理を実行する。先ず、前回求めた電圧電流の位相差を保存してから(S3)今回の位相差を算出する(S4)。脱調判定部13は、前回と今回との位相差の変化量が閾値1よりも大きい場合は(S5;YES)脱調と判定する(S8)。今回の位相差が閾値2以下であれば(S6;YES)、モータ1の負荷が大きくなっているため、周波数指令を低減すると共に(S9)出力電圧を増加させる(S10)。今回の位相差が閾値2よりも大であれば(S6;NO)出力調整処理を行う(S7)。
【0030】
図18に示す出力調整処理では、電流ピーク値Ip又は電流ピーク値Ip及び周波数ωから指標εを算出すると共に、電流ピーク値又は指標εの積算値γaを算出する(S11)。周波数ωは周波数指令ωrefを用いる。ここで、積算値γaは、後述する処理によって、電流Iのαref周期毎にゼロにリセットされる。αrefは「2」以上の自然数である。したがって、積算値γaも電流Iの複数周期毎にゼロにリセットされる。
【0031】
n周期目の積算値γa(n)は、(1)式のようになる。
γa(n)=γa(n-1)+ε(n)=γa(n-1)+Ip/ω …(1)
Ip:n周期目に取得した電流ピーク値
ω:n周期目に取得した周波数
ε(n):n周期目の指標
γa(n-1):(n-1)周期目の積算値
【0032】
次に、出力電圧補正量算出部11は、駆動電圧Vの出力調整状況が何れのStage(0~4)であるかを判断する(S12)。初回の判定では、例えばStage=0と判断される。
<Stage=0の場合:出力電圧を低下させる>
出力電圧補正量算出部11は、駆動電圧Vを所定の電圧量分減少させてから(S13)Stage=1に設定し(S14)、カウント値αをインクリメントする(S15)。カウント値αは、積算値γaを用いた前回の比較から電流Iの何周期分経過したかを示す。
【0033】
<Stage=1の場合:出力電圧をそのまま保持する>
出力電圧補正量算出部11は、カウント値αが基準値αref以上であるか否かを判断する(S16)。基準値αrefは、積算値γaをゼロリセットする周期値である。カウント値αが基準値αrefより小さい場合は(NO)カウント値αをインクリメントして(S22)Stage=1を維持する。
【0034】
一方、カウント値αが基準値αref以上の場合(S16;YES)、出力電圧補正量算出部11は、前回の比較から今回の比較までの積算値γaを、前々回の比較から前回の比較までの積算値γbと比較する(S17)。積算値γaが積算値γbより小さい場合は(S18;YES)Stage=0に設定する(S19)。一方、積算値γaが積算値γb以上の場合は(NO)Stage=2に設定する(S21)。それから、カウント値α及び積算値γaをゼロにリセットすると共に、積算値γaで積算値γbを更新する(S20)。
【0035】
<Stage=2の場合:出力電圧を上昇させる>
出力電圧補正量算出部11は、駆動電圧Vを所定の電圧量分増加させてから(S23)Stage=3に設定し(S24)、カウント値αをインクリメントする(S25)。
【0036】
<Stage=3の場合:出力電圧をそのまま保持する>
出力電圧補正量算出部11は、カウント値αが基準値αref以上であるか否かを判断する(S26)。カウント値αが基準値αrefより小さい場合は(NO)、カウント値αをインクリメントして(S32)Stage=3を維持する。一方、カウント値αが基準値αref以上の場合は(YES)積算値γaと積算値γbとを比較する(S27)。積算値γaが積算値γbより小さい場合は(YES)Stage=2に設定する(S29)。一方、積算値γaが積算値γb以上の場合は(NO)Stage=0に設定する(S31)。そして、ステップS20と同様の処理を行う(S30)。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、モータ駆動装置16において、電流ピーク検出処理部10は、モータ1に通電される電流のピーク値を検出し、電圧電流位相差検出処理部9は、モータ1への出力電圧と前記電流との位相差を検出する。f/V変換部5は、入力される周波数指令ωrefに基づいて出力電圧Dutyを算出し、出力電圧補正量算出部11は、電流のピーク値を極力低下させるように出力電圧を補正する。そして、周波数指令補正量算出部12は、前記位相差が下限値を下回ったことを判定すると、周波数指令ωrefを低下させる補正を行うと共に、出力電圧補正量算出部11に補正を実行させる。
【0038】
このように構成すれば、周波数指令ωrefの補正によってモータ1の脱調を防止できると共に、出力電圧の補正によってモータ1の出力トルクが低下することを回避して、V/f制御を高い効率で行うことができる。
【0039】
また、補正タイミング判定部15は、モータ1への通電周波数が周波数指令ωrefに達した際に出力電圧補正量算出部11を機能させるので、適切なタイミングで出力電圧の補正を開始させることができる。この場合、出力電圧補正量算出部11は、補正電圧を増加させる値をモータ1への通電周波数に応じて変化させるので、周波数指令が急激に低下した場合でも出力電圧の補正が良好に行われるようになり、制御が安定して電流ピーク値を適切に抑制できる。
【0040】
更に、出力電圧補正量算出部11は、周波数指令ωrefを基準として補正電圧の値を調整するので、出力電圧の過補正を防止して、モータ1が停止することを回避できる。また、下限値設定部14は、位相差の下限値を周波数指令ωrefに応じて変化させるので、周波数指令ωrefが変化しても負荷変動に対するロバスト性を確保できる。
【0041】
加えて、脱調判定部13は、今回の位相差と前回の位相差との変化量が閾値を超えたことを判定すると、モータ1の回転異常,つまり脱調と判定するので、ロータ位置を検知しないV/f制御においても、モータ1の脱調を確実に判定できる。
【0042】
(その他の実施形態)
制御装置16を、モータドライバIC(集積回路)として構成しても良い。
位相差の下限値は、必ずしも周波数指令ωrefに応じて変化させる必要はなく、一定値であっても良い。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
図面中、1はモータ、2はインバータ、5はf/V変換部、9は電圧電流位相差検出処理部、10は電流ピーク検出処理部、11は出力電圧補正量算出部、12は周波数指令補正量算出部、13は脱調判定部、14は下限値設定部、15は補正タイミング判定部、16はモータ制御装置を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18