(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】損傷領域推定システム、推定装置及び損傷領域推定方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20240805BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20240805BHJP
G01N 29/14 20060101ALI20240805BHJP
G01N 29/40 20060101ALI20240805BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
E01B35/00
G01N29/14
G01N29/40
G01N29/44
(21)【出願番号】P 2021070431
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高安 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】砂押 貴光
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054026(WO,A1)
【文献】特開2002-286700(JP,A)
【文献】特開2012-158919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
E01B 35/00
G01N 29/14
G01N 29/40
G01N 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、前記対象物における損傷領域を推定する推定部と、
を備え、
前記弾性波は、前記対象物を流れる電流が漏出して電食が発生する際に放出される波である
、
損傷領域推定システム。
【請求項2】
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波の特徴量を抽出する信号処理部をさらに備え、
前記位置標定部は、前記弾性波の特徴量に基づいて前記複数の弾性波の発生源の位置を標定し、標定した前記複数の弾性波の発生源の位置を表す発生源分布を導出し、
前記推定部は、前記発生源分布を用いて前記対象物における損傷領域を推定する、
請求項1に記載の損傷領域推定システム。
【請求項3】
前記推定部は、前記発生源分布において密度が閾値以上の領域を前記損傷領域として推定する、
請求項2に記載の損傷領域推定システム。
【請求項4】
前記対象物を流れる電流は、鉄道車両と変電所との間を流れる帰線電流である、
請求項
1から3のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項5】
前記複数のセンサは、少なくとも前記対象物、又は、前記対象物に接触している物体のいずれかに設置される、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項6】
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波により得られる弾性波の特徴量のデータを無線により送信する第1の無線通信部と、
少なくとも前記第1の無線通信部に給電する電源供給部と、
前記第1の無線通信部から送信された前記弾性波の特徴量のデータを受信する第2の無線通信部と、
をさらに備え、
前記位置標定部は、前記第2の無線通信部により受信された前記弾性波の特徴量のデータを用いて前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項7】
前記第2の無線通信部、前記位置標定部及び前記推定部は、鉄道車両に設置される、
請求項
6に記載の損傷領域推定システム。
【請求項8】
前記電源供給部は、自立電源である、
請求項
6又は
7に記載の損傷領域推定システム。
【請求項9】
環境の変化を検出する検出部と、
前記検出部により環境の変化が検出された場合に、少なくとも前記第1の無線通信部を起動させる制御部と、
をさらに備える、
請求項
6から
8のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項10】
前記電源供給部が振動発電機である場合、前記振動発電機が動作したことを契機に少なくとも前記第1の無線通信部を起動させる制御部と、
をさらに備える、
請求項
6から
8のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項11】
損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、前記対象物における損傷領域を推定する推定部と、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された弾性波毎に主共振周波数が所定の範囲内であるか否かを判定する信号判定部
と、
を備え、
前記位置標定部は、前記信号判定部によって主共振周波数が所定の範囲内であると判定された弾性波を用いて発生源の位置を標定する
、
損傷領域推定システム。
【請求項12】
損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する複数のセンサと、
前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、前記対象物における損傷領域を推定する推定部と、
鉄道車両の位置情報を提供する位置情報提供装置と、
前記位置情報提供装置から提供された前記鉄道車両の位置情報に基づいて、センサと前記鉄道車両との距離が所定値以上離れているセンサを前記複数のセンサの中から選択する信号選別部と、
を備え、
前記位置標定部は、選択されたセンサによって検出された弾性波に基づいて発生源の位置を標定する
、
損傷領域推定システム。
【請求項13】
前記複数のセンサの中心周波数は、前記弾性波の主共振周波数に略等しい、
請求項1から
12のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項14】
前記対象物は、鉄道車両が走行する軌条である、
請求項1から
13のいずれか一項に記載の損傷領域推定システム。
【請求項15】
損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、
前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、前記対象物における損傷領域を推定する推定部と、
を備え
、
前記弾性波は、前記対象物を流れる電流が漏出して電食が発生する際に放出される波である推定装置。
【請求項16】
損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定し、
標定により得られた前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて前記対象物における損傷領域を推定し、
前記対象物は軌条であり、
前記軌条に電流を印加し、
前記軌条を流れる電流が漏出して電食が発生する際に放出される弾性波の発生源の位置を標定し、
標定した前記複数の弾性波の発生源の位置を表す発生源分布を導出し、
前記発生源分布を用いて前記軌条における損傷領域を推定する
、
損傷領域推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、損傷領域推定システム、推定装置及び損傷領域推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レール異常に伴う鉄道の輸送トラブルが発生している。レール異常の中でも、レール破断は脱線等の重大事故を引き起こす危険性が高いため、早急な対応が求められている。レール破断を検知する技術も提案されているが、従来の手法では、レールが破断したことを検知するため、既にレールの損傷が大きくなっていることが想定される。
【0003】
損傷の初期段階で異常を捉えることができればより効果的な対策が期待でき、重大事故防止の観点からも望ましい。損傷の初期段階で異常を捉えることができる従来技術も提案されている。しかしながら、従来の手法では、異常を検知できない場所があったり、異常を検知するために数多くのセンサを設置する必要があり、損傷領域を簡便に推定することができない場合があった。なお、このような問題は、レールに限らず、架線等においても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-80133号公報
【文献】特開2006-220569号公報
【文献】特開2006-258494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、破断が発生する前段階で鉄道に関する対象物の損傷領域を簡便に推定することができる損傷領域推定システム、推定装置及び損傷領域推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の損傷領域推定システムは、複数のセンサと、位置標定部と、推定部とを持つ。複数のセンサは、損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物で発生する弾性波を検出する。位置標定部は、前記複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、前記複数の弾性波の発生源の位置を標定する。推定部は、前記複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、前記対象物における損傷領域を推定する。前記弾性波は、前記対象物を流れる電流が漏出して電食が発生する際に放出される波である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態における損傷領域推定システムの概要を説明するための図。
【
図2】第1の実施形態における損傷領域推定システムの構成を表す図。
【
図3】第1の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図。
【
図4】第1の実施形態における損傷領域推定システムの処理の流れを示すシーケンス図。
【
図5】実レールを模擬した実験モデルの一例を示す図。
【
図6】実験モデルにて実施した原理検証試験の概要を説明するための図。
【
図7】原理検証試験により得られた1つの弾性波の波形の一例を示す図。
【
図8】各センサによって検出された弾性波を分析した結果を示す図。
【
図9】第2の実施形態における損傷領域推定システムの構成を表す図。
【
図10】変形例における損傷領域推定システムの構成を表す図。
【
図11】
図6に示す環境下で電流印加の無い場合に得られた弾性波の波形の一例を示す図。
【
図12】第3の実施形態における損傷領域推定システムの構成を表す図。
【
図13】第4の実施形態における損傷領域推定システムの構成を表す図。
【
図14】第4の実施形態における信号選別部の具体的な処理を説明するための図。
【
図15】第4の実施形態における信号選別部の具体的な処理を説明するための図。
【
図16】低周波数のセンサと、高周波数のセンサとを用いて電食弾性波を検出した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の損傷領域推定システム、推定装置及び損傷領域推定方法を、図面を参照して説明する。
【0009】
(概要)
実施形態における損傷領域推定システムは、軌条で発生した弾性波に基づいて、軌条における損傷領域を推定する。軌条とは、例えば鉄道車両が走行するレールである。軌条において弾性波が発生する現象は、例えば
図1に示すように、軌条を流れる電流が漏出して電食が発生することによって生じる。
【0010】
図1は、実施形態における損傷領域推定システムの概要を説明するための図である。
図1には、鉄道車両RSがレールR上を走行している様子が示されている。鉄道車両RSは、変電所1から供給される電流を利用して走行する。より具体的には、変電所1から出力される電流は、電車線2及び鉄道車両RSが備えるパンタグラフ3を介して鉄道車両RSに供給される。鉄道車両RSで利用されなかった電流は、レールRを介して変電所1に戻る。電流がレールRを介して変電所1に戻る際、一部の電流は漏れ電流として地面4に流れる。このような現象により、レールRにおいて電食が発生する。
図1では、電食が発生した箇所を電食部5として示している。
【0011】
電食部5では、弾性波AEが発生する。電食部5で発生した弾性波AEは、レールR内部を伝搬していく。そこで、実施形態における損傷領域推定システムでは、レールR又はレールRに接触している物体に複数のセンサ10を設置して、レールR内部を伝搬した弾性波AEを複数のセンサ10で検出する。レールRに接触している物体は、例えばレールRをまくらぎに固定するためのレールクリップや鉄道車両RSの車輪などである。損傷領域推定システムでは、複数のセンサ10それぞれによって検出された弾性波AEに基づいて位置標定を行う。これにより、弾性波AEの発生源(以下「弾性波源」という)が標定される。そして、損傷領域推定システムでは、位置標定の結果を用いて、レールRにおける損傷領域を推定する。損傷領域とは、電食によりレールRにおいて損傷が発生している領域である。
【0012】
上記のような手法で損傷領域を推定することにより、従来のようにレールが破断する前段階でレールの異常を発見することができる。
以下、実施形態における損傷領域推定システムの詳細について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態における損傷領域推定システム100の構成を表す図である。損傷領域推定システム100は、複数のセンサ10-1~10-n(nは1以上の整数)、信号処理部20及び推定装置30を備える。第1の実施形態において、センサ10と信号処理部20との間、及び、信号処理部20と推定装置30との間は、有線により接続される。なお、以下の説明では、センサ10-1~10-nを区別しない場合にはセンサ10と記載する。第1の実施形態において、センサ10及び信号処理部20は、軌条で発生する弾性波を検出する検出装置として構成される。
【0014】
センサ10は、レールR又はレールRに接触している物体に設置される。以下の説明では、センサ10が、レールRに設置されているものとする。信号処理部20及び推定装置30は、センサ10と同じ場所に設けられてもよいし、センサ10が設置されている場所と異なる場所(例えば、管理者がいる管理所等)に設けられてもよい。
【0015】
センサ10は、鉄道車両RSが走行する軌条で発生する弾性波を検出する。センサ10は、検出した弾性波を電気信号に変換する。センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10としてより好適なものは、100kHz~200kHzに感度を有する圧電素子である。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。センサ10は、増幅器を内蔵していてもよい。
【0016】
センサ10に代えて加速度センサ又はマイクロホンが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、レールR内部で発生する弾性波を検出する。そして、加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波を電気信号に変換する。
【0017】
信号処理部20は、センサ10から出力された電気信号を入力とする。信号処理部20は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理部20が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等である。信号処理部20は、信号処理により得られた弾性波の特徴量のデータを送信データとして、有線ケーブル40を介して推定装置30に出力する。
【0018】
信号処理部20は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。不揮発型のFPGAを用いることで、待機時の消費電力を抑えることができる。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもよい。信号処理部20は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。
【0019】
図3は、第1の実施形態における信号処理部20の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20は、フィルタ21、A/D変換器22、波形整形フィルタ23、ゲート生成回路24、到達時刻決定部25、特徴量抽出部26、送信データ生成部27、メモリ28及び出力部29を備える。
【0020】
フィルタ21では、センサ10から出力された電気信号において信号帯域以外のノイズ成分が除去される。フィルタ21は、例えばバンドパスフィルタ(BPF:Band pass filter)である。
【0021】
A/D変換器22は、ノイズ成分が除去された電気信号を量子化してデジタル信号に変換する。A/D変換器22は、デジタル信号を波形整形フィルタ23に出力する。
【0022】
波形整形フィルタ23は、入力された時系列データのデジタル信号から所定の信号帯域外のノイズ成分を除去する。波形整形フィルタ23は、例えばバンドパスフィルタ(BPF)である。波形整形フィルタ23は、例えばフィルタ21と同じ周波数帯域を通過させるように設定されているものとする。波形整形フィルタ23は、ノイズ成分除去後の信号(以下「ノイズ除去信号」という。)をゲート生成回路24及び特徴量抽出部26に出力する。
【0023】
ゲート生成回路24は、波形整形フィルタ23から出力されたノイズ除去信号を入力とする。ゲート生成回路24は、入力したノイズ除去信号に基づいてゲート信号を生成する。ゲート信号は、ノイズ除去信号の波形が持続しているか否かを示す信号である。
【0024】
ゲート生成回路24は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えばノイズ除去信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0025】
ゲート生成回路24は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を到達時刻決定部25及び特徴量抽出部26に出力する。一方、ゲート生成回路24は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を到達時刻決定部25及び特徴量抽出部26に出力する。
【0026】
到達時刻決定部25は、不図示の水晶発振器などのクロック源から出力されるクロックと、ゲート生成回路24から出力されたゲート信号とを入力とする。到達時刻決定部25は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたクロックを用いて、弾性波到達時刻を決定する。到達時刻決定部25は、決定した弾性波到達時刻を時刻情報として送信データ生成部27に出力する。到達時刻決定部25は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。到達時刻決定部25は、クロック源からの信号をもとに、電源投入時からの累積の時刻情報を生成する。具体的には、到達時刻決定部25は、クロックのエッジをカウントするカウンタとし、カウンタのレジスタの値を時刻情報とすればよい。カウンタのレジスタは所定のビット長を有するように決定される。
【0027】
特徴量抽出部26は、波形整形フィルタ23から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路24から出力されたゲート信号とを入力とする。特徴量抽出部26は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、ノイズ除去信号の特徴量を抽出する。特徴量抽出部26は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。特徴量は、ノイズ除去信号の特徴を示す情報である。
【0028】
特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。特徴量抽出部26は、抽出した特徴量に関するパラメータを送信データ生成部27に出力する。特徴量抽出部26は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、レールRに設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。これにより、特徴量に関するパラメータが、どのセンサ10により検出された弾性波の特徴量であるのかを特定することができる。
【0029】
波形の振幅は、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。
【0030】
波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0031】
送信データ生成部27は、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを入力とする。送信データ生成部27は、入力したセンサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む送信データを生成する。送信データ生成部27は、生成した送信データをメモリ28に記録してもよいし、メモリ28に記録せずに出力部29に出力してもよい。
【0032】
メモリ28は、送信データを記憶する。メモリ28は、例えばデュアルポートRAM(Random Access Memory)である。
【0033】
出力部29は、メモリ28に記憶されている送信データ、又は、送信データ生成部27から出力された送信データを推定装置30に逐次出力する。
【0034】
図2に戻って説明を続ける。
推定装置30は、有線通信部31、制御部32、記憶部33及び表示部34を備える。
【0035】
有線通信部31は、信号処理部20から出力された送信データを、有線ケーブル40を介して受信する。有線通信部31は、受信した送信データを制御部32に出力する。
【0036】
制御部32は、推定装置30全体を制御する。制御部32は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32は、プログラムを実行することによって、取得部321、イベント抽出部322、位置標定部323、分布生成部324及び推定部325として機能する。
【0037】
取得部321、イベント抽出部322、位置標定部323、分布生成部324及び推定部325の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0038】
取得部321、イベント抽出部322、位置標定部323、分布生成部324及び推定部325の機能の一部は、予め推定装置30に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが推定装置30にインストールされることで実現されてもよい。
【0039】
取得部321は、各種情報を取得する。例えば、取得部321は、有線通信部31によって受信された送信データを取得する。取得部321は、取得した送信データを記憶部33に保存する。
【0040】
イベント抽出部322は、記憶部33に記憶されている送信データの中から1イベントにおける送信データを抽出する。イベントとは、レールRで発生した弾性波発生事象を表す。本実施形態における弾性波発生事象は、例えばレールRで発生した電食である。1回のイベントが発生した場合、複数のセンサ10で略同時刻に弾性波が検出されることになる。すなわち、記憶部33には、略同時刻に検出された弾性波に関する送信データが記憶されていることになる。そこで、イベント抽出部322は、所定の時間窓を設け、到達時刻が時間窓の範囲内に存在する全ての送信データを1イベントにおける送信データとして抽出する。イベント抽出部322は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部323に出力する。
【0041】
時間窓の範囲Twは、対象とするレールRにおける弾性波伝搬速度vと、最大のセンサ間隔dmaxを用いて、Tw≧dmax/vの範囲になるように決定してもよい。誤検出を避けるためには、Twをできるだけ小さい値に設定することが望ましいため、実質的にはTw=dmax/vとすることができる。弾性波伝搬速度vは、予め求められていてもよい。
【0042】
位置標定部323は、センサ位置情報と、イベント抽出部322によって抽出された複数の送信データそれぞれに含まれるセンサID及び時刻情報とに基づいて弾性波源の位置標定を行う。なお、弾性波は、例えば振幅やエネルギーが所定値以下のデータを除去するなどしてもよい。
【0043】
センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。センサ位置情報は、例えばレールRの特定位置からの水平方向および垂直方向の距離など等の情報を含む。位置標定部323は、センサ位置情報を予め保持している。センサ位置情報は、位置標定部323が弾性波源の位置標定を行う前であればどのタイミングで位置標定部323に記憶されてもよい。
【0044】
センサ位置情報は、記憶部33に記憶されていてもよい。この場合、位置標定部323は、位置標定を行うタイミングで記憶部33からセンサ位置情報を取得する。弾性波源の位置の標定には、カルマンフィルタ、最小二乗法などが用いられてもよい。位置標定部323は、計測期間中に得られた弾性波源の位置情報を分布生成部324に出力する。
【0045】
分布生成部324は、位置標定部323から出力された複数の弾性波源の位置情報を入力とする。分布生成部324は、入力した複数の弾性波源の位置情報を用いて、弾性波源分布を生成する。弾性波源分布は、弾性波源の位置が示された分布を表す。より具体的には、弾性波源分布は、損傷領域の推定対象となるレールRを表した仮想的なデータ上において弾性波源の位置を示す点が示された分布である。なお、分布生成部324は、弾性波源分布を用いて、弾性波源の位置をコンター図で表すことによって弾性波源密度分布を生成してもよい。
【0046】
推定部325は、分布生成部324によって生成された弾性波源分布に基づいてレールRにおける損傷領域を推定する。具体的には、推定部325は、弾性波源の密度が閾値以上の領域を損傷領域として推定する。
【0047】
記憶部33は、取得部321によって取得された送信データを記憶する。記憶部33は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0048】
表示部34は、推定部325の制御に従って評価結果を表示する。表示部34は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部34は、画像表示装置を推定装置30に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部34は、評価結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0049】
図4は、第1の実施形態における損傷領域推定システム100の処理の流れを示すシーケンス図である。なお、
図4の処理開始時には、レールRに電流が流れているものとする。
各センサ10は、弾性波を検出する(ステップS101)。例えば、各センサ10は、電食により発生した弾性波を検出する。各センサ10は、検出した弾性波を電気信号に変換して信号処理部20に出力する。信号処理部20は、各センサ10から出力された各電気信号に対して信号処理を行う(ステップS102)。具体的には、信号処理部20は、各電気信号に対してノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等の信号処理を行う。信号処理部20は、上記の信号処理をセンサ10から電気信号が得られる度に実行する。
【0050】
信号処理部20は、信号処理後のデータを用いてセンサ10毎の送信データを生成する(ステップS103)。信号処理部20は、生成したセンサ10毎の送信データを、有線ケーブル40を介して推定装置30に送信する(ステップS104)。ここで、信号処理部20は、送信データを生成する度に推定装置30に送信してもよいし、ある期間分の送信データを生成したタイミングでまとめて推定装置30に送信してもよい。
【0051】
推定装置30の有線通信部31は、信号処理部20から送信された送信データを受信する。取得部321は、有線通信部31によって受信された送信データを取得する。取得部321は、取得した送信データを記憶部33に記録する(ステップS105)。イベント抽出部322は、記憶部33に記憶されている1イベントにおける複数の送信データを抽出する(ステップS106)。イベント抽出部322は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部323に出力する。
【0052】
位置標定部323は、イベント抽出部322によって抽出された1イベントにおける複数の送信データそれぞれに含まれるセンサID、時刻情報と、センサ位置情報とに基づいて、弾性波源の位置を標定する(ステップS107)。位置標定部323は、弾性波源の標定結果を分布生成部324に出力する。イベント抽出部322及び位置標定部323は、ステップS106及びステップS107の処理を所定期間繰り返し実行する。
【0053】
分布生成部324は、所定期間分の弾性波源の位置情報を用いて、弾性波源分布を生成する(ステップS108)。分布生成部324は、生成した弾性波源分布を推定部325に出力する。推定部325は、分布生成部324によって生成された弾性波源分布に基づいてレールRにおける損傷領域を推定する(ステップS109)。具体的には、推定部325は、弾性波源の密度が閾値以上の領域を損傷領域として推定する。一例として、推定部325は、弾性波源分布上をメッシュで区切り、区切られた領域毎に弾性波源の密度を算出する。そして、推定部325は、弾性波源の密度が閾値以上の領域を損傷領域として推定してもよい。なお、弾性波源分布がコンター図で表されている場合には、ある閾値以上の領域を損傷領域として推定してもよい。
【0054】
推定部325は、推定結果を出力する(ステップS110)。例えば、推定部325は、推定結果を表示部34に表示させてもよい。
【0055】
次に、
図5から
図8を用いて、レール模擬試験体による原理検証試験の結果をもとに、レールRの健全性の評価方法を詳しく説明する。ここで、レール模擬試験体とは
図5に示す実レールを模擬した実験モデルである。
図5に示す実験モデルは、レールRと、コンクリートブロックCBと、レールクリップRCと、ゴムシートGSとで構成される。コンクリートブロックCBは、まくらぎに見立てたブロックである。レールクリップRCは、レールRをコンクリートブロックCBに固定するための部材であり、ボルトBと、ナットNとにより固定される。ゴムシートGSは、レールR及びレールクリップRCと、コンクリートブロックCBとを機械的又は電気的に絶縁するための部材である。コンクリートブロックCBと、ボルトBとの間には接着剤Aが流入されている。
【0056】
実施形態における検査手順は以下の通りである。第一に、検査対象となるレールRに複数のセンサ10を設置する。第二に、レールRに所定の電流を印加する。第三に、損傷(例えば、電食部)から発生した弾性波をセンサ10で検出する。第四に、センサ10で検出した弾性波を分析して弾性波源位置を標定する。以降、第二から第四までの工程を繰り返し、損傷領域を推定する。
【0057】
以下、
図6を参照しながら、実験モデルにて実施した原理検証試験の概要を説明する。本試験では、レールRに4個のセンサ10-1~10-4を配置した。
図6では、手前に設置したセンサ10-2及び10-4を示している。センサ10-1及び10-3は、センサ10-2及び10-4と対面する位置に設置される。ただし、センサの設置箇所及び個数はこれに限らず、レールクリップRCやまくらぎなどの電食により発生した弾性波を検出可能な場所及び個数(複数)であればよい。
【0058】
続いて、定電流電源にてレールR(正極)と、レールクリップRC(負極)との間に直流電流を一定時間印加した。ここで、直流電流とした理由は、直流電気鉄道(検測車含む)から変電所間に流れる帰線(一般的にはレールR)電流の漏れ電流を模擬するためである。なお、交流電気鉄道を想定して交流電流を印加してもよい。さらに、現場の湿潤環境(トンネル内の漏水箇所など)を模擬するため、塩水(濃度:3%)を含ませたスポンジSPをレールRとレールクリップRCで挟んだ。
【0059】
図7は、上記の原理検証試験により得られた1つの弾性波の波形の一例を示す図である。
図7の左に示す図は、横軸を時間、縦軸を振幅とした弾性波の波形を表し、
図7の右に示す図は、横軸を周波数、縦軸を振幅とした弾性波の波形を表す。
図7の右に示すように、電食により発生した弾性波は、低域(例えば、100kHz未満)に主共振周波数(
図7の破線6)を持っていることがわかる。
【0060】
各センサ10によって検出された弾性波を分析(例えば、2次元位置標定、信号振幅分類)した結果を
図8に示す。
図8では、振幅が40[dB]以上の弾性波源を示している。
図8に示す例では、複数の電食部5の位置が標定されており、円7で示す領域が損傷領域として推定される。このように、レールRに設置したセンサ10-1~10-4を利用して電食部5の位置及び損傷領域を推定出来ていることがわかる。
【0061】
従来、レールR破断を検知する技術として、列車検知用の軌道回路を利用した方法が広く適用されてきた。一方で、軌道回路の利用廃止の動向に合わせて、レールR破断時の衝撃振動を起点に伝搬した超音波を検知するといった軌道回路を利用しない方法も提案さている。この方法では、き裂など比較的程度の大きな損傷に対しては有効に機能する。しかしながら、例えば腐食などのき裂進展以前の損傷については、検出感度などの理由から適用は困難と考えられる。
【0062】
き裂進展以前の損傷を検知する手法としては、例えば、特許文献2で開示されている超音波を利用した方法が提案されていた。特許文献2の手法では、レールRの頂面である踏面に当てた超音波探触子からレールR内に向けて超音波を照射し、損傷部からの反射エコーを検知することで損傷の有無を知ることができる。特許文献3では、レールR底部に設置した磁気センサを利用して検査箇所の漏洩電流を計測し、レールRの電食状態を判定する方法が提案されていた。
【0063】
しかしながら、特許文献2に開示されている方法では、レールR底端部などの超音波が到達しにくい箇所への適用は容易ではない。具体的には、レールRとレールクリップ間で発生する電食検知などには適用が容易ではない。一方、特許文献3に開示されている方法であれば、レールRとレールクリップ間で発生する電食検知は可能と推察される。しかしながら、電食損傷位置を特定するためにはレールクリップ毎に磁気センサを配置しなければならず、作業が容易ではない。
【0064】
それに対して、第1の実施形態における損傷領域推定システム100では、鉄道車両RSが走行するレールRで発生する弾性波を検出する複数のセンサ10と、複数のセンサ10それぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部323と、複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、レールRにおける損傷領域を推定する推定部325とを備える。そのため、破断が発生する前段階でレールRにおける損傷領域を簡便に推定することが可能になる。
【0065】
さらに、損傷領域推定システム100では、複数のセンサ10それぞれによって検出された複数の弾性波の特徴量を抽出する信号処理部20をさらに備える。位置標定部323は、弾性波の特徴量に基づいて複数の弾性波の発生源の位置を標定した後に発生源分布を導出する。推定部325は、発生源分布を用いてレールRにおける損傷領域を推定する。このように、弾性波源の位置が示された分布を利用するため、弾性波源の数に応じて損傷領域を推定することができる。
【0066】
さらに、損傷領域推定システム100では、推定部325が、発生源分布において密度が閾値以上の領域を損傷領域として推定する。弾性波源の密度が閾値以上である領域は、弾性波がより多く発生している領域である。弾性波は、材料の変形、破壊又は電気化学反応時などに損傷部分から放出される波である。弾性波源が多い領域ほど、損傷が発生している可能性がある。このように、損傷領域推定システム100では、発生源分布を用いて、容易に損傷領域を推定することができる。
【0067】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、信号処理部と推定装置とが有線により接続されていた。第2の実施形態では、信号処理部と推定装置とを無線により接続する構成について説明する。
【0068】
図9は、第2の実施形態における損傷領域推定システム100aの構成を表す図である。損傷領域推定システム100aは、複数のセンサ10-1~10-n、信号処理部20a、無線通信部50、電源供給部60及び推定装置30aを備える。第2の実施形態において、センサ10、信号処理部20a、無線通信部50及び電源供給部60は、レールRで発生する弾性波を検出する検出装置として構成される。以下、第1の実施形態との相違点について説明する。
【0069】
信号処理部20aは、信号処理により得られたデータを送信データとして無線通信部50に出力する。
【0070】
無線通信部50は、信号処理部20aから出力された送信データを、所定のタイミングで推定装置30aに送信する。無線通信部50は、第1の無線通信部の一態様である。
【0071】
電源供給部60は、信号処理部20a及び無線通信部50に電源を供給する。電源供給部60は、自立電源であることが好ましい。電源供給部60は、例えば1次電池、帰線電流による二次電池の充電又は振動発電機に代表されるエナジーハーベスタを利用する装置である。
【0072】
(振動発電機)
電源供給部60は、信号処理部20a及び無線通信部50に電源を供給可能な位置であればどこに設置されてもよい。電源供給部60がレールR又はレールRに接触している物体に設置されている場合、電源供給部60をレールRの上下振動を利用して発電する振動発電機とすることで、電池交換が不要でかつ配線を台車上で完結することができ、設置コストを低減することができ、好適である。振動発電機における可動子の固有振動数が、設置する場所における固有振動周波数±10%の範囲に含まれるように構成することで、より大きな発電量が得られる。特に振動発電機における可動子の固有振動数が設置場所の1次曲げ固有振動数近傍に設定されることが望ましい。
【0073】
推定装置30aは、無線通信部35、制御部32、記憶部33及び表示部34を備える。推定装置30aは、有線通信部31に代えて無線通信部35を備える点で第1の実施形態と構成が異なる。推定装置30aは、それ以外の構成については、第1の実施形態における推定装置30と構成は同じである。
【0074】
無線通信部35は、無線通信部50から送信された送信データを無線により受信する。無線通信部35は、第2の無線通信部の一態様である。
【0075】
第2の実施形態における損傷領域推定システム100aの処理は、検出装置から推定装置30aへの送信データの送信が有線から無線になった点を除けば第1の実施形態と同様である。
【0076】
以上のように構成された損傷領域推定システム100aによれば、弾性波の特徴量のデータを含む送信データを無線により送信する無線通信部50と、少なくとも無線通信部50に給電する電源供給部60と、無線通信部50から送信された送信データを受信する無線通信部35を備えている。これにより、無線通信部50を備える検出装置は、電源供給部60から給電される電力で動作可能になる。さらに、無線化することにより、ケーブルの敷設や管理の作業コストを削減することができる。
【0077】
さらに、損傷領域推定システム100aでは、少なくとも無線通信部35、位置標定部323及び推定部325を備える推定装置30aが鉄道車両RSに設置される。これにより、推定装置30aを載せた鉄道車両RS(例えば、営業車や検測車など)を少なくとも1台以上走行させて、検出装置からデータを吸い上げればよく、データ収集効率を向上させることができる。
【0078】
さらに、損傷領域推定システム100aでは、電源供給部60として、1次電池、帰線電流による二次電池の充電、振動発電機に代表されるエナジーハーベスタ等の自立電源を用いる。これにより、電源が近くにない場所であっても容易に送信データを送信することが可能になる。
【0079】
(第2の実施形態における損傷領域推定システム100aの変形例)
損傷領域推定システム100aにおいて、間欠動作を可能とするウェイクアップ機能を備えるように構成されてもよい。間欠動作を可能とするウェイクアップ機能を備えた構成を
図10に示す。
図10は、変形例における損傷領域推定システム100bの構成を表す図である。損傷領域推定システム100bは、複数のセンサ10-1~10-n、信号処理部20a、無線通信部50、電源供給部60、検出部70、制御部80及び推定装置30bを備える。センサ10、信号処理部20b、無線通信部50、電源供給部60、検出部70及び制御部80は、レールRで発生する弾性波を検出する検出装置として構成される。検出装置において、信号処理部20b及び無線通信部50が処理開始前はスリープ状態である点、検出部70及び制御部80を新たに備える点が第2の実施形態との相違点である。
【0080】
検出部70は、環境の変化を検出する。例えば、検出部70は、加速度センサである。環境の変化とは、加速度が所定値以上変化したことである。検出部70は、鉄道車両RSの走行振動を監視し、所定値以上の加速度を検出した場合に、環境が変化したことを制御部80に通知する。
【0081】
制御部80は、検出部70により環境の変化が検出された場合に、スリープ状態である機能部を起動させる。例えば、制御部80は、電源供給部60に対して信号処理部20b及び無線通信部50への給電を行うように制御することによってスリープ状態である信号処理部20b及び無線通信部50を起動させる。なお、信号処理部20b又は無線通信部50の一方がスリープ状態であってもよい。
【0082】
このように構成されることによって、信号処理部20b及び無線通信部50は常に起動している必要はなく、消費電力を抑制することができる。
【0083】
なお、電源供給部60として振動発電機を利用する場合には、制御部80は振動発電機からの電源の出力信号が得られたことを契機にスリープ状態である機能部を起動させる。この場合、損傷領域推定システム100bは、検出部70を備えなくてよい。
【0084】
このように構成されることによって、上記の検出部70を備えなくて済む。そのため、検出部70を備える構成よりもコストを削減することができる。
【0085】
(第3の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態では、センサで検出される弾性波を全て利用する構成を説明した。しかしながら、実際に現場で運用するためには、各種外乱への対策が必要である。例えば、センサで検出される弾性波には、電食により発生する弾性波(以下「電食弾性波」という。)の他に、自然腐食に起因する弾性波(以下「自然腐食弾性波」という。)等がある。自然腐食が発生する現場で作業する場合には、電食弾性波と、自然腐食弾性波とが混在する可能性が高い。電食による損傷領域の推定精度の劣化を抑制するためには、これらの弾性波を分離する必要がある。そこで、第3の実施形態では、センサで検出される弾性波のうち、自然腐食弾性波を除くための構成について説明する。
【0086】
図11は、
図6に示す環境下で電流印加の無い場合に得られた弾性波の波形の一例を示す図である。
図11の左に示す図は、横軸を時間、縦軸を振幅とした弾性波の波形を表し、
図11の右に示す図は、横軸を周波数、縦軸を振幅とした弾性波の波形を表す。
図11に示す弾性波は、湿潤環境下で生じた自然腐食弾性波であり電食弾性波とは異なる。
図11の右に示すように、自然腐食弾性波は、高域(例えば、100kHz以上)に主共振周波数(
図11の破線8)を持っていることがわかる。このように、電食弾性波と、自然腐食弾性波とでは、主共振周波数が異なる。そこで、センサ10により得られた弾性波の周波数成分を確認することで、電食弾性波と、自然腐食弾性波とを分離することができる。
【0087】
図12は、第3の実施形態における損傷領域推定システム100cの構成を表す図である。損傷領域推定システム100cは、複数のセンサ10-1~10-n、信号処理部20a、無線通信部50、電源供給部60及び推定装置30cを備える。推定装置30c以外の構成は、第2の実施形態と同様である。
【0088】
推定装置30cは、無線通信部35、制御部32c、記憶部33及び表示部34を備える。制御部32cは、推定装置30c全体を制御する。制御部32cは、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32cは、プログラムを実行することによって、取得部321、イベント抽出部322、信号判定部326、位置標定部323c、分布生成部324及び推定部325として機能する。
【0089】
取得部321、イベント抽出部322、信号判定部326、位置標定部323c、分布生成部324及び推定部325の機能部のうち一部または全部は、ASICやPLD、FPGAなどのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0090】
取得部321、イベント抽出部322、信号判定部326、位置標定部323c、分布生成部324及び推定部325の機能の一部は、予め推定装置30cに搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが推定装置30cにインストールされることで実現されてもよい。
【0091】
制御部32cは、位置標定部323に代えて位置標定部323cを備える点、信号判定部326を新たに備える点で制御部32と構成が異なる。以下、相違点について説明する。
【0092】
信号判定部326は、複数のセンサ10それぞれによって検出された弾性波毎に主共振周波数が所定の範囲内であるか否かを判定する。例えば、信号判定部326は、センサ10によって検出された弾性波毎に、主共振周波数が低域(例えば、100kHz)未満であるか否かを判定する。
【0093】
位置標定部323cは、信号判定部326によって主共振周波数が所定の範囲内であると判定された弾性波を用いて弾性波源の位置を標定する。主共振周波数が所定の範囲内であると判定された弾性波は、上述したように、電食弾性波である。このように、位置標定部323cは、電食弾性波を用いて弾性波源の位置を標定する。
【0094】
以上のように構成された損傷領域推定システム100cによれば、複数のセンサ10それぞれによって検出された弾性波毎に、主共振周波数が所定の範囲内であるか否かを判定する信号判定部326を備える。そして、位置標定部323cは、信号判定部326によって主共振周波数が所定の範囲内であると判定された弾性波を用いて発生源の位置を標定する。これにより、損傷領域推定システム100cでは、電食弾性波と、自然腐食弾性波とを分離して用いることができる。したがって、電食に起因する損傷領域を精度よく推定することが可能になる。
【0095】
(第3の実施形態における損傷領域推定システム100cの変形例)
上記の実施形態では、電食弾性波と、自然腐食弾性波とを分離して、電食に起因する損傷領域を推定する構成を示した。推定装置30cは、自然腐食に起因する損傷領域を推定するように構成されてもよい。このように構成される場合、位置標定部323cは、信号判定部326によって主共振周波数が所定の範囲内ではないと判定された弾性波を用いて弾性波源の位置を標定すればよい。そして、推定部325は、位置標定部323cによって標定された弾性波源の位置に基づいて損傷領域を推定する。このように、位置標定部323cによって標定された弾性波源の位置は、自然腐食に起因する弾性波の発生源である。そのため、自然腐食に起因する損傷領域を精度よく推定することが可能になる。
【0096】
推定装置30cは、電食に起因する損傷領域と、自然腐食に起因する損傷領域との両方を推定するように構成されてもよい。このように構成される場合、位置標定部323cは、第1段階として信号判定部326によって主共振周波数が所定の範囲内であると判定された弾性波を用いて弾性波源の位置を標定する。さらに、位置標定部323cは、第2段階として信号判定部326によって主共振周波数が所定の範囲内ではないと判定された弾性波を用いて弾性波源の位置を標定する。そして、推定部325は、位置標定部323cによって別々に標定された弾性波源の位置に基づいて、電食に起因する損傷領域と、自然腐食に起因する損傷領域との両方を推定する。推定部325は、推定結果を別々に表示部34に表示する。
【0097】
(第4の実施形態)
鉄道車両の帰線電流による電食誘起を想定した場合、鉄道走行位置と電食弾性波の発生源とが所定の距離以内では走行外乱をセンサにより同時に検出して電食弾性波のセンサ到達時刻が正確に読み取れず、位置標定の精度劣化を招く可能性がある。一方で、走行外乱の周波数帯域が電食弾性波の主要帯域から離れている場合には、周波数フィルタリングによる外乱除去は十分可能と考えられる。しかし、両者が接近している場合は難しい。このような場合に有効な手段の一つとして、時間領域での外乱除去が挙げられる。具体的には、ある時刻で取得した鉄道車両の位置から所定の距離以上離れたセンサを選別することで、外乱の混入回避が期待できる。そこで、第4の実施形態では、鉄道車両の位置に応じて、位置標定に利用するセンサを選択する構成について説明する。
【0098】
図13は、第4の実施形態における損傷領域推定システム100dの構成を表す図である。損傷領域推定システム100dは、複数のセンサ10-1~10-n、信号処理部20a、無線通信部50、電源供給部60、推定装置30d及び位置情報提供装置90を備える。推定装置30d及び位置情報提供装置90以外の構成は、第2の実施形態と同様である。
【0099】
位置情報提供装置90は、鉄道車両RSの位置情報を取得して、取得した位置情報を推定装置30dに提供する。位置情報提供装置90は、例えばGPS(Global Positioning System)により位置情報を取得してもよい。なお、位置情報提供装置90は、鉄道車両RSの位置情報を取得できればその他の方法で鉄道車両RSの位置情報を取得してもよい。例えば、位置情報提供装置90は、軌道回路やCBTC(Communication Based Train Control)の列車検知情報を参照してもよい。
【0100】
推定装置30dは、無線通信部35、制御部32d、記憶部33及び表示部34を備える。制御部32dは、推定装置30d全体を制御する。制御部32dは、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部32dは、プログラムを実行することによって、取得部321、イベント抽出部322、信号選別部327、位置標定部323d、分布生成部324及び推定部325として機能する。
【0101】
取得部321、イベント抽出部322、信号選別部327、位置標定部323d、分布生成部324及び推定部325の機能部のうち一部または全部は、ASICやPLD、FPGAなどのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0102】
取得部321、イベント抽出部322、信号選別部327、位置標定部323d、分布生成部324及び推定部325の機能の一部は、予め推定装置30dに搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが推定装置30dにインストールされることで実現されてもよい。
【0103】
制御部32dは、位置標定部323に代えて位置標定部323dを備える点、信号選別部327を新たに備える点で制御部32と構成が異なる。以下、相違点について説明する。
【0104】
信号選別部327は、位置情報提供装置90から提供された鉄道車両RSの位置情報に基づいて、センサ10と鉄道車両RSとの距離が所定値以上離れているセンサ10を複数のセンサ10の中から選択する。
【0105】
信号選別部327によるセンサ10の選択方法について説明する。
図14及び
図15は、信号選別部327の具体的な処理を説明するための図である。
図14及び
図15において、ある地点の変電所1と他の地点の変電所1との間の距離をLとし、鉄道車両RSの位置をX
Tとし、あるセンサ10の位置をX
s0とし、あるセンサ10と他のセンサ10との間の距離をΔX
smaxとする。鉄道車両RSの位置は、鉄道車両RSの中心の位置であってもよい。この場合、鉄道車両RSの位置と、先頭の車輪との間の距離をΔX
Tfとし、鉄道車両RSの位置と、後尾の車輪との間の距離をΔX
Trとする。
【0106】
図14では、鉄道車両RSの位置X
Tが地点L/2の位置に達していない状態を示している。この場合、信号選別部327は、以下の式(1)を満たすセンサ10を複数のセンサ10の中から選択する。
【0107】
Xs0>XT+ΔXTf+ΔXsmax・・・式(1)
【0108】
図15では、鉄道車両RSの位置X
Tが地点L/2の位置を通り過ぎている状態を示している。この場合、信号選別部327は、以下の式(2)を満たすセンサ10を複数のセンサ10の中から選択する。
【0109】
Xs0<XT-ΔXTr-ΔXsmax・・・式(2)
【0110】
位置標定部323dは、信号選別部327によって選択されたセンサ10によって検出された弾性波に基づいて弾性波源の位置を標定する。
【0111】
以上のように構成された損傷領域推定システム100dによれば、鉄道車両RSの位置情報を提供する位置情報提供装置90と、位置情報提供装置90から提供された鉄道車両RSの位置情報に基づいて、センサ10と鉄道車両RSとの距離が所定値以上離れているセンサ10を複数のセンサ10の中から選択する信号選別部327と、を備える。位置標定部323dは、選択されたセンサ10によって検出された弾性波に基づいて弾性波源の位置を標定する。このように、センサ10と鉄道車両RSとの距離が所定値以上離れているセンサ10を複数のセンサ10の中から選択することで、走行外乱の影響を抑制して位置標定ができる。そのため、位置標定の精度劣化を抑制することができる。
【0112】
(第1の実施形態から第4の実施形態のいずれかに共通する変形例)
上記の各実施形態では、損傷領域の推定対象が、軌条である場合を例に説明した。損傷領域の推定対象は、鉄道に関する対象物であればよく、軌条に限定される必要はない。例えば、損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物は、架線であってもよい。第2の実施形態から第4の実施形態のように、無線方式を用いる場合には、軌条の他に、架線の損傷領域を推定することも可能である。架線においても、軌条と同様に腐食により弾性波が発生する。センサ10の設置対象が架線に代わる点を除けば、処理は第2の実施形態から第4の実施形態と同様である。
【0113】
第3の実施形態及び第4の実施形態では、検出装置と推定装置とが有線により接続されるように構成されてもよい。第3の実施形態及び第4の実施形態は、第2の実施形態と同様に変形されてもよい。
【0114】
第1の実施形態から第4の実施形態では、レールRを流れる電流として、鉄道車両RSと変電所との間を流れる帰線電流を例に説明したが、レールRに電流を流すことができればそのほかの手法で与えられる電流であってもよい。例えば、
図6に示したように、定電流電源を用いて、任意のタイミングでレールRに電流を流してもよい。この方法であれば、検査したいタイミング検査が可能になる。
【0115】
推定装置30,30a,30b,30cが備える一部の機能は、別の筺体に備えられていてもよい。第1の実施形態における推定装置30を例にすると、例えば、推定装置30の制御部32には取得部321及び推定部325の機能が備えられ、イベント抽出部322、位置標定部323及び分布生成部324の機能が別の筺体に備えられてもよい。このように構成される場合、推定部325は、弾性波源分布を別の筺体から取得し、取得した弾性波源分布を用いて損傷領域を推定する。
【0116】
第1の実施形態から第4の実施形態において、センサ10として低周波のセンサ10を用いるように構成されてもよい。低周波のセンサ10とは、例えば共振周波数が70kHzのセンサである。上述したように、電食弾性波は、低域に主共振周波数をもつという特徴がある。したがって、センサ10の中心周波数を電食弾性波の主共振周波数に合致させることで自然腐食弾性波の分離及び電食弾性波を高感度に検出することができる。具体的には、センサ10として低周波数のセンサ10(共振周波数:70kHz)を用いればよい。
図16は、低周波数のセンサ10と、高周波数のセンサ10とを用いて電食弾性波を検出した結果を示す図である。
図16(A)は低周波数のセンサ10を用いて電食弾性波を検出した結果を表し、
図16(B)は高周波数のセンサ10を用いて電食弾性波を検出した結果を表す。
図16(A)及び
図16(B)に示すように、低周波数のセンサ10を適用することで、高周波数のセンサ10(共振周波数:150kHz)よりも電食弾性波を高感度に検出できていることがわかる。
【0117】
信号処理部20は、推定装置30,30c,30dに備えられてもよい。信号処理部20aは、推定装置30aに備えられてもよい。信号処理部20bは、推定装置30bに備えられてもよい。このように構成される場合、信号処理部20,20a,20bは、センサ10から出力された電気信号を、センサ10から直接、又は、不図示の中継装置を介して取得する。
【0118】
推定部325は、出力制御部として動作してもよい。出力制御部は、出力部を制御して、推定結果を出力する。ここで、出力部には、表示部34、通信部および印刷部が含まれる。出力部が通信部である場合、出力制御部は通信部を制御して、推定結果を他の装置に送信する。出力部が印刷部である場合、出力制御部は印刷部を制御して、推定結果を印刷する。なお、推定装置30,30a,30b,30c,30dは、表示部34、通信部および印刷部の一部又は全てを備えて上記の動作を実行してもよい。
【0119】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、損傷領域の推定対象となる鉄道に関する対象物(例えば、鉄道車両RSが走行する軌条)で発生する弾性波を検出する複数のセンサと、複数のセンサそれぞれによって検出された複数の弾性波に基づいて、複数の弾性波の発生源の位置を標定する位置標定部と、複数の弾性波の発生源の位置に基づいて、対象物における損傷領域を推定する推定部とを持つことにより、破断が発生する前段階で鉄道に関する対象物の損傷領域を簡便に推定することができる。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0121】
10、10-1~10-n…センサ,20、20a、20b…信号処理部,21…フィルタ,22…A/D変換器,23…波形整形フィルタ,24…ゲート生成回路,25…到達時刻決定部,26…特徴量抽出部,27…送信データ生成部,28…メモリ,29…出力部,30、30a、30b、30c、30d…推定装置,50…無線通信部,60…電源供給部,70…検出部,80…制御部,90…位置情報提供装置,31…有線通信部,32、32c、32d…制御部,33…記憶部,34…表示部,321…取得部,322…イベント抽出部,323、323c、323d…位置標定部,324…分布生成部,325…推定部,326…信号判定部,327…信号選別部