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特許7532327セメント組成物及びそれを用いた補修方法、並びに、コンクリート構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】セメント組成物及びそれを用いた補修方法、並びに、コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240805BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240805BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240805BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240805BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240805BHJP
   C04B 111/72 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B22/08 Z
C04B24/26 D
C04B24/26 F
C04B24/26 G
E04G23/02 A
C04B111:72
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021159629
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049714
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2023-09-11
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】山岸 隆典
(72)【発明者】
【氏名】高木 聡史
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514634(JP,A)
【文献】特開2008-050214(JP,A)
【文献】特開2012-214369(JP,A)
【文献】特開2005-112689(JP,A)
【文献】国際公開第2018/154890(WO,A1)
【文献】特許第7085050(JP,B1)
【文献】特開2023-049719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04G 23/02
C04B 111/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミン酸カルシウム及びポゾランを含有してなるセメント組成物であって、
前記アルミン酸カルシウムが化学成分としてSOとZrOとPを含有し、
前記アルミン酸カルシウム100質量部に対してSOとZrOとPの合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、
前記Pの含有量(P/(SO+ZrO+P))が10質量%以上45質量%以下であり、
前記ポゾランが高炉水砕スラグ微粉末を含み、
前記アルミン酸カルシウム中のSO が0.01質量%以上0.25質量%以下であるセメント組成物。
【請求項2】
前記アルミン酸カルシウムのCaO/Alモル比が、0.5以上2.0以下である請求項に記載のセメント組成物。
【請求項3】
さらに、セメント用ポリマーを含有する請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
さらに、骨材を含有する請求項1~のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載されたセメント組成物を用いて補修したコンクリート構造物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載されたセメント組成物を用いた補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用するセメント組成物及びそれを用いた補修方法、並びに、コンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水処理施設を中心に、コンクリート構造物の硫酸による劣化事例が増加しているため、コンクリートの硫酸劣化に関する研究も以前にも増して多く見受けられるようになった。下水処理施設で硫酸が生成する原因として、微生物の活動によることが知られており、酸性劣化の対策として耐酸性の材料を使用することに加えて、抗菌剤の適用等が検討されている。
【0003】
耐酸性材料としては、ポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュ、シリカフューム等を多量に混和したモルタルやコンクリート(特許文献1参照)、アルミナセメントを使用したモルタルやコンクリートが提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。しかしながら、初期にひび割れが発生したり、流動性が低下する課題もあった。
【0004】
【文献】特開2000-128618号公報
【文献】特開昭60-180945号公報
【文献】特開平01-141844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有するセメント組成物及びそれを用いた補修方法、並びに、コンクリート構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み鋭意検討の結果、本発明者らは、所定の化学組成を有するアルミン酸カルシウムとポゾランを含むセメント組成物により、当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1] アルミン酸カルシウム及びポゾランを含有してなるセメント組成物であって、前記アルミン酸カルシウムが化学成分としてSOとZrOとPを含有し、前記アルミン酸カルシウム100質量部に対してSOとZrOとPの合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、前記Pの含有量(P/(SO+ZrO+P))が10質量%以上45質量%以下である、セメント組成物。
[2] 前記ポゾランが高炉水砕スラグ微粉末である[1]に記載のセメント組成物。
[3] 前記アルミン酸カルシウムのCaO/Alモル比が、0.5以上2.0以下である[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[4] さらに、セメント用ポリマーを含有する[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物。
[5] さらに、骨材を含有する[1]~[4]のいずれかに記載のセメント組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載されたセメント組成物を用いて補修したコンクリート構造物。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載されたセメント組成物を用いた補修方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有するセメント組成物及びそれを用いた補修方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。また、本発明で言うコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、コンクリートを総称するものである。
【0010】
[セメント組成物]
本発明に係るセメント組成物は、アルミン酸カルシウム及びポゾランを含有してなる。
本発明で使用するアルミン酸カルシウムは、カルシア原料とアルミナ原料などを混合して、キルンで焼成し、あるいは、電気炉で溶融し冷却して得られるCaOとAlとを主成分とする水和活性を有する物質の総称であり、結晶質、又は非晶質のいずれであっても使用可能である。硬化時間が早く、初期強度発現性が高い材料である。
【0011】
本発明に係るアルミン酸カルシウム中には、化学成分としてSOとZrOとPを含有する。
アルミン酸カルシウム中に化学成分としてSOとZrOとPを含有するものである。アルミン酸カルシウム中のSOは0.01質量%以上0.9質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.25質量%以下であることがより好ましい。ZrOは0.01質量%以上0.7質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.25質量%以下であることがより好ましい。Pは0.01質量%以上0.6質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0012】
なお、「アルミン酸カルシウムが化学成分としてSOとZrOとPを含有する」とは、X線回折測定でSO、ZrO、及びPのそれぞれを同定できるほどのピークは観察されないが、蛍光X線測定でそれぞれの含有量を測定できる状態をいい、構造的には、アルミン酸カルシウム中にSO、ZrO、及びPのそれぞれが固溶しているような状態と推察される。
【0013】
本発明に係るアルミン酸カルシウムは、優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有する観点から、SOとZrOとPの合計量の量は0.05質量%以上2.0質量%以下となっており、0.07質量%以上1.7質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
さらに、初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有する観点からPの含有量(P/(SO+ZrO+P))は10質量%以上45質量%以下であり、12質量%以上43質量%以下であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。また、SO、ZrO、Pの量は、蛍光X線回折法(XRF)で測定することができる。
【0015】
流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、強度発現性が高く、ひび割れを抑える観点からSOとZrOとPの合計量は0.05質量%以上2.0質量%以下であり、0.07質量%以上1.7質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
アルミン酸カルシウム100質量部に対してSOとZrOとPの合計量を0.05質量%以上2.0質量%以下としたり、Pの含有量(P/(SO+ZrO+P))を10質量%以上45質量%以下としたりするには、例えば、原料中のそれぞれの含有量を測定しておき、所望の合計量となるように、SO、ZrO、及びPをそれぞれ含む原料の混合量を調整すればよい。
【0017】
アルミン酸カルシウムのなかでも、CaOとAlとのモル比(CaO/Alモル比)は、0.5以上2.0以下であることが好ましく、0.7以上1.8以下であることがより好ましい。モル比が上記範囲内であることで、硬化時間をより短縮して初期強度発現性を高めることができる。
CaOとAlとのモル比を上記範囲とするには、例えば、アルミン酸カルシウムを作製する際の原料配合を調整すればよい。
【0018】
アルミン酸カルシウムを工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO、Fe、MgO、TiO、MnO、NaO、KO、SrO、Cr、Nb、Ga、Y、ThO、NiO、SeO、LiO、RbO、As、ZnO、S、Cl及びF等が挙げられる。これらの不純物の存在は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0019】
また、不純物化合物としては、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・2Fe等のカルシウムアルミノフェライト、2CaO・FeやCaO・Fe等のカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al・SiO、アノーサイトCaO・Al・2SiO等のカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiO、モンチセライトCaO・MgO・SiO等のカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO、ランキナイト3CaO・2SiO、ワラストナイトCaO・SiO等のカルシウムシリケート、カルシウムチタネートCaO・TiO、カルシウムアルネート3CaO・Al、遊離石灰、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiO等を含む場合がある。本発明ではこれらの結晶質または非晶質が混在していても良い。
【0020】
本発明に係るアルミン酸カルシウムの粒度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積で3000~9000cm/gの範囲にあることが好ましく、4000~8000cm/g程度のものがより好ましい。3000cm/g以上であることで、充分な強度発現性が得られやすくなり、9000cm/g以下であることで取り扱いを良好にすることができる。
ブレーン比表面積は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0021】
本発明に係るポゾランとは、アルミン酸カルシウムのコンバージョンによる強度低下を防止する効果や耐酸性を向上させる効果を助長する役割を担う。ポゾランは、特に限定されるものではなく、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、廃ガラス粉末等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。なかでも、高炉水砕スラグ微粉末の使用が好ましい。
【0022】
高炉水砕スラグ微粉末の粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000~9000cm/g程度の範囲にある。フライアッシュとシリカヒュームの粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、フライアッシュについては、ブレーン比表面積で3000~9000cm/g程度の範囲にあり、シリカヒュームについては、BET比表面積で2~20m/g程度の範囲にある。
【0023】
本発明において、アルミン酸カルシウムとポゾランの配合割合は、特に限定されるものではないが、アルミン酸カルシウムとポゾランからなる結合材100部中、アルミン酸カルシウム30~80部が好ましく、40~70部がより好ましい。ポゾランは、20~70部が好ましく、30~60部がより好ましい。
【0024】
アルミン酸カルシウムが30部以上であったり、ポゾランが70部以下であると、優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を十分な状態としやすくなる。また、アルミン酸カルシウムが80部以下であったり、ポゾランが20部以上であると、コンバージョンによる強度低下が発生せず、十分な耐酸性が得られやすくなる。
【0025】
本発明のセメント組成物においては、セメント用ポリマーをさらに含有することが好ましい。セメント用ポリマー(以下、ポリマーという)とは、水性ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂、水溶性ポリマー、液状ポリマー等が挙げられるが、特に限定されるものではない。水性ポリマーディスパージョンとしては、天然ゴムラテックスやアクリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の合成ゴムラテックスやエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアクリル酸エステル(PAE)などの樹脂エマルジョン等が挙げられる。ポリマーの形態としては、再乳化粉末タイプや液体タイプなどがある。これらはモルタルと既存コンクリートとの付着性の向上、耐久性の向上のために使用される。
【0026】
ポリマーの使用量は、アルミン酸カルシウムとポゾランからなる結合材100部に対して、固形分換算で1~15部が好ましく、3~10部がより好ましい。1部以上であることで既存コンクリートなどとの高い付着性、耐久性の向上が期待できる。15部以下であることで、その効果の向上を期待しながら、経済性を維持できる。
【0027】
ポリマーの混合方法は、特に限定されるものではないが、粉体の場合、予めセメントと混合、若しくは混練り時に他の材料と同時投入するか、水に懸濁または溶解することなどが挙げられ、液体の場合は、混練り時に他の材料と同時投入するか、水に混合して使用する方法などがある。
【0028】
本発明のセメント組成物においては、骨材をさらに含有することが好ましい。
本発明で使用する骨材としては、通常のセメントモルタルやコンクリートに使用するものと同様の細骨材や粗骨材が使用可能である。即ち、川砂、川砂利、山砂、山砂利、砕石、砕砂、石灰石骨材、石灰砂、けい砂、色砂、人口骨材、高炉スラグ骨材、海砂、海砂利、人工軽量骨材、及び重量骨材等が使用可能であり、これらを組み合わせることも可能である。特に、流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低い効果を目的とした用途では、シリカ質のけい砂や石灰石骨材や石灰砂の使用が好ましい。
【0029】
骨材の配合割合は、アルミン酸カルシウムとポゾランからなる結合材100部に対して、0部以上1000 部以下が好ましく、50部以上400部以下がより好ましい。0部以上であることで初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有することができる。1000部以下であることで優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動保持性を有することができる。
【0030】
本発明のセメント組成物の粒度は、使用する目的・用途に依存するため特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000~8000cm/gが好ましく、4000~6000cm/gがより好ましい。3000cm/g以上とすることで強度発現性が十分に得られ、8000cm/g以下であることで良好な作業性を示すことができる。
【0031】
本発明では、公知のセメントを併用しても良い。公知のセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、また、白色セメント、微粉セメントや石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が併用可能である。
【0032】
本発明では、砂や砂利等の骨材の他に、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末などの混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、ガス発砲物質、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結調整剤、繊維、ベントナイト等の粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体等のうちの1種または2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0033】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予め一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサ等の使用が可能である。
【0034】
[補修方法、コンクリート構造物]
本発明に係る補修方法は、既述の本発明のセメント組成物を用いた補修方法である。
当該補修方法としては、例えば、コンクリートの劣化した箇所をはつり取った後、断面修復する工事が挙げられる。断面修復を行う劣化したコンクリ-トは様々で、大きな面積を修復するものもあれば、部分的な小さい面積を修復するものもあり、修復面積や、修復材を施工する量で補修工法が選定される。比較的大きな面積であれば、吹き付け工法あるいは、グラウト材を注入する場合が多い。また、壁面や部材厚がある場合は、型枠を組みグラウト材を注入する。一方、修復面積が小さい場合は、コテ塗りで行うこととなる。部分的な断面修復を行う場合、面積は小さいが、修復材の塗り厚が厚い場合が多く、何層にも分けて塗り重ねる方法が用いられる。いずれの工法にも本発明のセメント組成物は使用できるが、なかでも、コテ塗り工法が好適である。
【0035】
以上のような補修方法により、既述の本発明のセメント組成物を用いて補修したコンクリート構造物が得られる。
【実施例
【0036】
以下、実施例で詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0037】
[実験例1]
(アルミン酸カルシウムの作製)
下記表1に示すCaO/Alモル比となるように炭酸カルシウムと酸化アルミニウムを混合し、さらに、溶融後のSO、ZrO、及びPが表1に示す割合となるように、SO原料(石膏)、ZrO原料(酸化ジルコニウム)、P原料(リン酸カルシウム)を添加し、1,500℃で焼成してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3,000cm/gに粉砕して、各種のアルミン酸カルシウムを作製した。
【0038】
(セメント組成物の作製)
表1に示すアルミン酸カルシウムとポゾランの種類と量を表1に示すように配合し、セメント組成物を調合した。次いで、セメント組成物100質量部(アルミン酸カルシウムとポゾランからなる結合材100部)に対して細骨材を200質量部、減水剤を0.03質量部混和し、モルタルを調製し、流動保持性、耐酸性評価、ひび割れ促進試験の評価を行った。なお、比較のために、アルミン酸カルシウムの替わりに普通ポルトランドセメントを用いた場合についても同様に行った。結果を表1に併記する。
【0039】
<使用材料>
ポゾラン(A):高炉水砕スラグ微粉末、ブレーン比表面積6000cm/g、市販品
ポゾラン(B):フライアッシュ、ブレーン比表面積4300cm/g、市販品
ポゾラン(C):ポゾランAとポゾランBの等量混合物
ポゾラン(D):シリカフューム、BET比表面積で10m/g、市販品
普通ポルトランドセメント(OPCと略記):市販品
水:水道水
細骨材:珪砂N50号、日瓢礦業社製
減水剤:メラミンスルホン酸系粉末減水剤
【0040】
<試験方法>
・流動保持性:JIS R 5201に準じて測定し、練り混ぜ直後のフロー値から20分後のフロー値を引き、流動性保持効果を確認した。
流動性保持効果=練り混ぜ直後のフロー値-20分後のフロー値
・耐酸性評価:材齢28日まで20℃の水中養生を行った供試体を5%濃度の硫酸溶液に3ヶ月間浸漬し、供試体の外観の変化や質量減少から耐酸性を評価した。
評価基準は、×は外観の変化が著しく、かつ、質量変化率が±5%以上の場合、△は外観の変化が著しいか、あるいは、質量変化率が±5%以上のいずれか一方を満たす場合、○は外観の変化と質量変化ともに上記条件に該当しない場合とした。
・ひび割れ試験:横30cm×縦30cm×厚さ6cmのコンクリート平板に厚み1cmとなるように打設した。打設完了した試験体は、20℃、湿度60%の恒温恒湿室内にて送風機を用いて風速3m/秒の風をあてた状態で12時間後のひび割れ長さを測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から、本発明のセメント組成物は、優れた流動性保持効果、耐酸性と初期ひび割れ抵抗性に優れることが分かる。
【0043】
[実験例2]
実験例1のNo.1-3のアルミン酸カルシウム(1)60部とポゾラン(A)40部とを配合した結合材100部に対して、表2に示すようにポリマーを固形分換算で配合し、流動性保持、耐酸性評価に加え付着試験を実施したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0044】
<使用材料>
ポリマー(A):市販のアクリルゴム(固形分45%)
ポリマー(B):市販のスチレン・ブタジエンゴム(固形分45%)
ポリマー(C):市販のポリアクリル酸エステル、再乳化粉末タイプ
【0045】
【表2】
【0046】
表2から、本発明のセメント組成物は、ポリマーを配合しても流動性保持効果は変わらず、付着強度が向上し、耐酸性に優れることが分かる。
【0047】
[実験例3]
硫酸で腐食したコンクリートの下水道管の劣化部をはつり、本発明のセメント組成物(実験例2のNo.2-3のモルタル)を使用して、コテ塗りで補修した。補修後1年を経過したが特に異常は見られなかった。
本発明のセメント組成物及びそれを用いた補修方法により、コンクリート構造物の耐久性のある補修が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のセメント組成物及びそれを用いた補修方法は、優れた耐酸性と初期ひび割れ抵抗性、流動性保持を有するので、下水処理施設等の土木及び建築分野で幅広く適用することができる。