(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】生理障害抑制方法、カビ増殖抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/157 20060101AFI20240805BHJP
A23L 3/3427 20060101ALI20240805BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240805BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A23B7/157
A23L3/3427
A01N59/16 Z
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2021511491
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020012900
(87)【国際公開番号】W WO2020203441
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019066260
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紗里奈
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-342872(JP,A)
【文献】特開平10-043583(JP,A)
【文献】特開平11-216359(JP,A)
【文献】特開平11-215950(JP,A)
【文献】特開平10-095703(JP,A)
【文献】特開平08-196607(JP,A)
【文献】特開平07-174455(JP,A)
【文献】特表2009-513344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/
A01N 59/
A23L 3/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における生理障害を抑制する生理障害抑制方法であって、
空間中に存在し、植物の生理障害を促進する物質である生理障害促進物質を触媒体によって
分解または転化することにより減少させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、生理障害抑制方法。
【請求項2】
前記ゼオライトが、A型、フェリエライト、モルデナイト、X型またはY型の結晶構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゼオライトが2価の金属イオンを有する、請求項1もしくは2に記載の方法。
【請求項4】
前記生理障害物質が、揮発性有機化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記
白金含有化合物が、白金酸化物である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゼオライトがA型の結晶構造を有する、請求項1から
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
白金または白金含有化合物を担持している前記ゼオライトにおける
白金または白金含有化合物の担持量が0.1~10質量%である、請求項1から
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記植物が、マンゴーまたはイチゴである請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
植物および/または食品におけるカビの増殖を抑制するカビ増殖抑制方法であって、
空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質である当該カビの揮発性カビ増殖促進物質を、触媒体によって
分解または転化することにより減少させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、カビ増殖抑制方法。
【請求項10】
植物および/または食品におけるカビの増殖を抑制するカビ増殖抑制方法であって、
空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を、触媒体によって植物および/または食品に発生するカビの増殖を抑制する物質である当該カビの揮発性カビ増殖抑制物質に転化させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、カビ増殖抑制方法。
【請求項11】
前記ゼオライトが、A型、フェリエライト、モルデナイト、X型またはY型の結晶構造を有する、請求項
9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記ゼオライトが2価の金属イオンを有する、請求項
9から11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記
白金含有化合物が、白金酸化物である請求項
9に記載の方法。
【請求項14】
ゼオライトがA型の結晶構造を有する、請求項
9から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
白金または白金含有化合物を担持しているゼオライトにおける
白金または白金含有化合物の担持量が0.1~10質量%である、請求項
9から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記植物が、マンゴーまたはイチゴである請求項
9から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記揮発性カビ増殖促進物質が、揮発性有機化合物である請求項
9に記載の方法。
【請求項18】
平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在する植物の生理障害を促進する物質を
分解または転化することにより減少させる、生理障害促進物質減少剤。
【請求項19】
平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質を
分解または転化することにより減少させる、揮発性カビ増殖促進物質減少剤。
【請求項20】
平均粒子径が1~10nmである
白金または白金含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を、植物および/または食品に発生するカビの増殖を抑制する物質である揮発性カビ増殖抑制物質に転化させる、
植物および/または食品におけるカビ増殖抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物における生理障害の進行を抑制する方法、および植物におけるカビの増殖を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、例えば、青果物の生産、流通、貯蔵において、収穫後の鮮度の保持は、商品価値に大きく影響するため極めて重要である。例えば、青果物自身が放出するエチレン等の影響による呼吸量の増加、変色や腐敗の発生や、蒸散などによる萎縮の発生、カビの増殖などで、商品としての品質が著しく損なわれる。
【0003】
そのため、植物、例えば、青果物の鮮度を保持する技術が提案されており、その一つとしてエチレン除去による方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は植物におけるカビの増殖を抑制できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述のとおり、植物の商品価値が損なわれる理由の一つとして該植物におけるカビの増殖が挙げられる。カビの増殖は、空間中に存在する、植物におけるカビの増殖を促進する物質(揮発性カビ増殖促進物質)などの作用により、促進される。
鋭意研究の結果、本発明者は、所定の大きさの貴金属または貴金属含有化合物を担持した特定のゼオライトを含む触媒体を用いることにより、揮発性カビ増殖促進物質を減少させることができることを見出した。
加えて、本発明者は、上記の触媒体を用いることにより、植物の生理障害を促進する物質(生理障害促進物質)をも減少させることができることを見出した。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 植物における生理障害を抑制する生理障害抑制方法であって、
空間中に存在し、植物の生理障害を促進する物質である生理障害促進物質を触媒体によって減少させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、生理障害抑制方法。
[2] 前記ゼオライトが、A型、フェリエライト、モルデナイト、X型またはY型の結晶構造を有する、[1]に記載の方法。
[3] 前記ゼオライトが2価の金属イオンを有する、[1]もしくは[2]に記載の方法。
[4] 前記生理障害物質が、揮発性有機化合物である[1]に記載の方法。
[5] 貴金属または貴金属含有化合物として、白金または白金含有化合物が担持されている、[1]から[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記貴金属含有化合物が、白金酸化物である[1]に記載の方法。
[7] 前記ゼオライトがA型の結晶構造を有する、[1]から[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 貴金属または貴金属含有化合物を担持している前記ゼオライトにおける貴金属または貴金属含有化合物の担持量が0.1~10質量%である、[1]から[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 前記植物が、マンゴーまたはイチゴである[1]から[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 植物および/または食品におけるカビの増殖を抑制するカビ増殖抑制方法であって、
空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質である当該カビの揮発性カビ増殖促進物質を、触媒体によって減少させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、カビ増殖抑制方法。
[11] 植物および/または食品におけるカビの増殖を抑制するカビ増殖抑制方法であって、
空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を、触媒体によって植物および/または食品に発生するカビの増殖を抑制する物質である当該カビの揮発性カビ増殖抑制物質に転化させることを含み、
前記触媒体が、平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む、カビ増殖抑制方法。
[12] 前記ゼオライトが、A型、フェリエライト、モルデナイト、X型またはY型の結晶構造を有する、[10]または[11]に記載の方法。
[13] 前記ゼオライトが2価の金属イオンを有する、[10]から[12]のいずれか一つに記載の方法。
[14] 貴金属または貴金属含有化合物として、白金または白金含有化合物が担持されている、[10]から[13]のいずれか1項に記載の方法。
[15] 前記貴金属含有化合物が、白金酸化物である[10]に記載の方法。
[16] ゼオライトがA型の結晶構造を有する、[10]から[15]のいずれか1項に記載の方法。
[17] 貴金属または貴金属含有化合物を担持しているゼオライトにおける貴金属または貴金属含有化合物の担持量が0.1~10質量%である、[10]から[16]のいずれか1項に記載の方法。
[18] 前記植物が、マンゴーまたはイチゴである[10]から[17]のいずれか1項に記載の方法。
[19] 前記揮発性カビ増殖促進物質が、揮発性有機化合物である[10]に記載の方法。
[20] 平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在する植物の生理障害を促進する物質を減少させる、生理障害促進物質減少剤。
[21] 平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質を減少させる、揮発性カビ増殖促進物質減少剤。
[22] 平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含み、空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を、植物および/または食品に発生するカビの増殖を抑制する物質である揮発性カビ増殖抑制物質に転化させる、揮発性カビ増殖促進物質減少剤。
[23] 前記カビがAlternaria sp.および/またはBotrytis sp.であり、前記揮発性カビ増殖促進物質がアセトアルデヒドおよび/またはエタノールである、[10]から[18]のいずれか1項に記載の方法。
[24] 前記カビがPenicillium citrinum、Cladosporium cladosporioides、およびAspergillus nigerのうち少なくとも1つであり、前記食品が発酵食品であり、前記揮発性カビ増殖抑制物質がアセトアルデヒドである、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物におけるカビの増殖を抑制できる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の1つについて詳述する。
本発明の一つの態様は、空間中に存在し、植物の生理障害を促進する物質である生理障害促進物質を触媒体によって減少させることにより植物における生理障害を抑制することを含む、生理障害抑制方法に関する。
また、本発明の一つの態様は、空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質である当該カビの揮発性カビ増殖促進物質を触媒体によって減少させることにより植物および/または食品におけるカビの増殖を抑制することを含む、カビ増殖抑制方法に関する。
また、本発明の一つの態様は、空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を触媒体によって植物および/または食品に発生するカビの増殖を抑制する物質である当該カビの揮発性カビ増殖抑制物質に転化させることを含む、カビ増殖抑制方法に関する。
これらに係わる触媒体は平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されており、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトを含む。
なお、以下の説明においては、理解を容易とするため、生理障害促進物質および揮発性カビ増殖促進物質、および揮発性カビ増殖抑制物質に転化される揮発性有機化合物を総称して生理障害促進物質等とも称す。
また、本明細書において、植物とは、植物体全体のほか、例えば食用となる果実など、植物体の一部をさす場合も含む概念である。
また、生理障害促進物質等を減少させるとは、例えばこれらの物質を他の物質に酸化分解などの分解または転化などすることや、生理障害促進物質等の生成量を何らかの原因で減少させていることにより、結果的に生理障害促進物質等を減少させることを含む概念である。
【0010】
[触媒体]
本実施形態に係る触媒体は、上述のとおり、貴金属または貴金属含有化合物が担持されたゼオライトを含む。そのため、該ゼオライトを貴金属または貴金属含有化合物の支持体と称することもできる。
ゼオライトとは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称を意味している。ゼオライトは、その構造固有の細孔を有しており、通常0.2~1.0nmの細孔径を有する多孔体である。本実施形態において、ゼオライトの細孔径は特に限定されないが、より効率的に生理障害促進物質等を減少させることができる観点から、0.5nm以上、1.0nm以下の細孔径を有することが好ましい。なお、ゼオライトの細孔径はガス吸着法、例えば、窒素吸着法により算出される値である。
【0011】
本実施形態において、ゼオライトは、Si/Al(モル比)が1以上10以下である。この中でもより効率的に生理障害促進物質等を減少または転化させることができるため、A型、フェリエライト、モルデナイト、Y型またはX型の結晶構造を有するゼオライトが好ましく、A型の結晶構造を有するゼオライトがより好ましく、5A型の結晶構造を有するゼオライトがさらにより好ましい。
なお、ゼオライトのSi/Al(モル比)は、例えば蛍光X線分析(XRF)または誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定することができる。
また、ゼオライトの結晶構造は電子顕微鏡、粉末X線回折法、固体NMRにより特定することができる。
また、より効率的に生理障害促進物質等を減少または転化させることができるため、本実施形態に係るゼオライトは二価の金属イオンを含有することが好ましい。二価の金属イオンとしては、例えばMg2+、Ca2+、Mn2+などを挙げることができる。二価の金属イオンを含有するか否かについては例えばX線光電分光法(XPS)またはX線吸収微細構造分析(XAFS)により分析することができる。
ゼオライトは天然又は合成ゼオライトを用いることができ、特に限定されない。また、例えば公知の方法により合成されたものを用いることもできるほか、市販品のゼオライトを購入して用いるようにしてもよい。
【0012】
本実施形態に係る触媒体においては、ゼオライト(支持体)に、貴金属または貴金属含有化合物(その構成元素として貴金属元素を含む化合物)に分類される化合物のうち少なくとも一種が担持されている。貴金属または貴金属含有化合物としては、金、銀およびその酸化物、白金、パラジウムおよびその酸化物、ロジウムおよびその酸化物、ルテニウムおよびその酸化物、オスミウムおよびその酸化物、イリジウムおよびその酸化物などが挙げられる。
このうち、より効率的に生理障害促進物質等を減少または転化させることができるため、ゼオライトに担持される貴金属または貴金属含有化合物として白金または白金含有化合物が好ましい。白金含有化合物とは、その構成元素として白金元素を含む化合物であり、PtO、PtO2、PtO2・H2O、白金黒等を挙げることができる。例えば、白金、PtO、PtO2、PtO2・H2O、白金黒等のうち1種または2種以上が本実施形態の触媒体においてゼオライト(支持体)に担持されるようにしてもよい。
【0013】
本実施形態において、貴金属または貴金属含有化合物は粒子状の形状を有しており、その平均粒径が1nm以上10nm以下である。
なお、粒子の平均粒径は透過型電子顕微鏡(TEM)の画像写真での粒子サイズを算出し、その平均値として得ることができる。貴金属または貴金属含有化合物が貴金属に担持される態様も特に限定されず、例えばゼオライトの細孔内外において担持されている。
または、粒子の平均粒径は、COパルス吸着法によって測定され、外表面に存在する金属原子数を吸着したCO分子の数から求める方法によって算出されてもよい。この結果と金属粒子の形状を立方体や正八面体等の形状に仮定すると、その仮定に基づく金属粒子径を推算することができる。
【0014】
貴金属または貴金属含有化合物は、より高い触媒活性を得ることができるため、これらを含む状態でのゼオライトに対して0.1~10質量%担持されることが好ましく、0.1~5質量%であるのがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらにより好ましい。10質量%よりも多く担持させると、白金または白金含有化合物同士が凝集しやすくなり、範囲内にある場合と比較して触媒活性が減少する。一方、0.1質量%未満では、範囲内にある場合と比較して十分な触媒活性が得られないため、0.1質量%以上が好ましい。
【0015】
なお、本実施形態に係る触媒体においては貴金属または貴金属含有化合物に加えて、助触媒として作用する物質(以下単に助触媒と称する)や各種金属元素などが支持体に担持されていてもよく、特に限定されない。具体的には、助触媒粒子と金または白金含有化合物粒子が混在するものや、各種金属元素を金または白金含有化合物の粒子と複合化させた複合粒子からなる複合触媒であってもよい。助触媒または金属元素としては卑金属およびそれらの酸化物などが挙げられる。
【0016】
本実施形態の触媒体の形状は特に限定されず、当業者が適宜設定でき、例えば粉末状や顆粒状などの粉体としてもよい。また、本実施形態の触媒体がフィルタ、フィルム等に固定されている態様や、不織布等の通気性を有する素材で袋詰めされた態様であってもよい。
【0017】
次に、本実施形態に係わる触媒体を得る方法の一例について説明する。
本実施形態に係わる触媒体は、Si/Al(モル比)が1以上10以下であるゼオライトに平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物を担持させることにより得ることができる。
まず、ゼオライトと担持させる貴金属または貴金属含有化合物に対応する貴金属化合物が溶解している溶液(以下、貴金属化合物溶液と称する)とを接触させる。その後、焼成および/または還元処理を行いゼオライト上などに貴金属または貴金属含有化合物の粒子を形成することにより、貴金属または貴金属含有化合物をゼオライトに担持させることができる。
具体的には、例えば、貴金属化合物溶液にゼオライトを浸漬後、焼成および/または還元処理を行うようにすることができる。
【0018】
より具体的には、貴金属化合物溶液を20~90℃、好ましくは50~70℃に加温、攪拌しながら、pH3~10、好ましくはpH5~8になるようにアルカリ溶液を用いて調整する。その後、ゼオライトを貴金属化合物溶液に浸漬し、続いて、減圧脱気処理を行った後、200~600℃で加熱焼成を行うことでゼオライトに貴金属または貴金属含有化合物の粒子を担持させることができる。
【0019】
また、上述のようにゼオライトを貴金属化合物溶液に浸漬させた後に、200~600℃の焼成処理と100~300℃の水素気流に晒す処理を行う水素還元法や、水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬する液相還元法など公知の還元操作を実施することでも、ゼオライトに貴金属または貴金属含有化合物の粒子を担持させることができる。
なお、用いる貴金属化合物の種類によっては、上述の公知な還元操作を実施することなく200~600℃の加熱焼成処理のみで、貴金属または貴金属含有化合物の粒子を細孔内に得ることもできる。また、貴金属化合物の還元が一部に留まり、貴金属単体と貴金属含有化合物とが共存してゼオライトに担持されているようにしてもよい。
【0020】
貴金属または貴金属含有化合物に対応する貴金属化合物は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。例えば、白金または白金含有化合物に対応する白金化合物としては、例えば塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジクロロテトラアンミン白金などが挙げられる。
貴金属化合物溶液における貴金属化合物の濃度は特に限定されないが、1×10-2~1×10-5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した貴金属または貴金属含有化合物の粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0021】
[生理障害を抑制する処理、カビの増殖を抑制する処理]
本実施形態により植物の生理障害を抑制するにあたっては、空間中に存在し、植物の生理障害を促進する物質である生理障害促進物質を減少させる。具体的には例えば、酸素の存在下、上述の触媒体によって生理障害を促進する作用がない、または作用がより小さい物質に分解または転化する、または生理障害促進物質等の生成量を何らかの原因で減少させている。
また、本実施形態により植物および/または食品においてカビの増殖を抑制するにあたっては、空間中に存在し、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する物質である揮発性カビ増殖促進物質を減少させる。具体的には例えば、酸素の存在下、上述の触媒体によってカビの増殖を促進する作用がない、または作用がより小さい物質に分解または転化する、または揮発性カビ増殖促進物質の生成量を何らかの原因で減少させている。
また、本実施形態により植物および/または食品においてカビの増殖を抑制するにあたっては、空間中に存在し、植物および/または食品から発生する揮発性有機化合物を、触媒体によって当該カビの増殖を抑制する物質である揮発性カビ増殖抑制物質に転化させる場合もある。
【0022】
ここで、本明細書において、植物における生理障害とは、該植物が収穫等される前の状態では通常引き起こされない代謝や反応が引き起こされることをいい、具体的には過剰な呼吸、過剰なエチレンの生成、過剰な物質代謝、収穫された後の生長、しなびの原因となる蒸散量の増加、などを挙げることができる。例えば、マンゴーにおいては、果実の表皮からヤニ状の細胞液がにじみ出る状態(ヤニ果)や、果実の果肉が軟らかくなり、好ましくない臭いである発香臭がする状態(果実軟化病)が、生理障害の一つとして例示できる。生理障害促進物質としては、本実施形態に係わる方法を適用することで、生理障害促進物質による影響をより小さくすることができるため、揮発性有機化合物であることが好ましく、例えば、エチレン、エタノール、アセトアルデヒド、ジャスモン酸類(例えばジャスモン酸のメチルエステル体など)、を挙げることができる。このうち、生理障害促進物質による影響をさらにより小さくすることができるため、生理障害促進物質がエタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることがより好ましい。
【0023】
また、植物および/または食品に発生するカビの増殖を促進する揮発性カビ増殖促進物質についても該化合物が揮発性有機化合物である場合に本実施形態に係わる方法を適用することで該化合物による影響をより小さくすることができるため、好ましい。このような揮発性有機化合物として、例えば、エチレン、エタノール、アセトアルデヒド、酢酸ブチル、1,2-ジエトキシエタンを挙げることができる。
このうち、揮発性カビ増殖促進物質による影響をさらにより小さくすることができるため、揮発性カビ増殖促進物質がエタノールおよび/またはアセトアルデヒドであることがより好ましい。
【0024】
揮発性カビ増殖促進物質となる物質はカビの種類によって異なる。
本実施形態の方法によりその増殖を抑制できるカビ(対象となり得るカビ病菌)の具体例としては、Colletotrichum sp. 、Botrytis sp. 、Penicillium sp. 、Monilinia sp. 、Diplodia sp. 、Cladosporium sp. 、Alternaria sp. 、Aspergillus sp. などを挙げることができる。さらにColletotrichum sp.はColletotrichum gloeosporioidesまたはColletotrichum acutatumを挙げることができる。さらにBotrytis sp.はBotrytis cinereaを挙げることができる。
例えば、Alternaria sp.およびBotrytis sp.の場合は、アセトアルデヒド、エタノールが揮発性カビ増殖促進物質として例示できる。
また、揮発性カビ増殖抑制物質として作用する物質は、カビの種類に加えて植物および/または食品の種類によっても異なる。ある植物および/または食品についてはカビ増殖促進物質として作用する物質が他の植物および/または食品に対してはカビ増殖抑制物質として作用することもある。例えば、パンなどの発酵食品の場合は、発酵食品から生じたエタノールが本実施形態に係る触媒体の作用によりアセトアルデヒドに転化され、当該アセトアルデヒドがPenicillium citrinum、Cladosporium cladosporioides、Aspergillus nigerの増殖を抑制する。
【0025】
本実施形態においては、例えば、植物が存在する空間内に上述の触媒体を配置し、気体である生理障害促進物質等を該触媒体と接触させることで、生理障害促進物質等を減少させる。
該環境下における温度条件や湿度条件、酸素濃度条件は生理障害促進物質等の減少が進行する限り当業者が適宜設定でき、特に限定されないが、例えば、温度は、-20~50℃とすることができ、1~50℃でもよく、さらに5~50℃でもよい。また、本実施形態に係わる触媒体によれば、相対湿度が80~100%のときにも有効に作用する。言い換えれば、該相対湿度が80~100%のときには本実施形態に係わる方法が適用されることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態に係わる触媒体が配置される該環境下においては、植物として例えば青果物を配置し、該青果物に対する生理障害促進物質等の影響を小さくするようにしてもよい。これにより青果物が食用とすることができない状態となるなどして商品価値が失われる場合を少なくすることができる。
また、青果物に加えて、花卉などの生理障害促進物質等の影響で状態が変化するものも該環境下に配置されるようにしてもよく、特に限定されない。
なお、上述の温度、湿度などは触媒とともに配置されるこれら青果物や花卉の種類や状態に応じて設定されるようにしてもよい。
【0027】
青果物の具体例としては、落葉性果樹、常緑性果樹、熱帯果樹、果実的野菜、野菜などを挙げることができる。
落葉性果実としては、ナシ、リンゴ、アメリカンチェリー、ブラックチェリー、ダークチェリー、アンズ、梅、サクランボ、スモモ、モモ、アケビ、イチジク、カキ、カシス、キイチゴ、キウイ、グミ、ザクロ、ナツメ、ブドウ、ブラックベリー、ブルーベリー、マツブサ、ラズベリー、ユスラウメが例示される。
常緑性果樹としては、ミカン、タチバナ、キンカン、オリーブ、ビワ、ヤマモモが例示される。
熱帯果樹としては、マンゴー、バナナ、カカオ、マンゴスチン、アセロラ、アボカド、パッションフルーツ、パパイア、ババコ、マウンテンパパイア、ライチ、ココナッツ、ナツメヤシが例示される。
果実的野菜としては、イチゴ、スイカ、メロンが例示される。
野菜としては、レタス、もやし、チンゲンサイが例示される。
【0028】
また、花卉としては、カーネーション、トルコキキョウ、デルフィニウム、スイーピー、シュッコンカスミソウ、デンドロビウム、カンパニュラ、キンギョソウ、ストック、バラ、ブルースターを挙げることができる。
【0029】
これらのうち本実施形態の方法を適用することで、生理障害の進行やカビの増殖を他の青果物や花卉と比較してより抑えることができるため、植物がマンゴーおよび/またはいちごであることが好ましい。
【0030】
また、食品としては、食パン、菓子パン、ビスケット、もち、和菓子または洋菓子のいずれかであることが好ましい。
【0031】
触媒体と植物および/または食品とを共に配置する態様については特に限定されない。
例えば、植物および/または食品を収容する収容部と、該収容部内に配置されている生理障害促進物質等を減少または転化させる本実施形態に係わる触媒体とを備える包装体を用いるようにしてもよい。
具体的には包装体の収容部内に上記植物および/または食品とともに本実施形態に係わる触媒体が配置されるような場合を例示することができる。
また、他の態様として、例えば、植物および/または食品が保管される室内の空気を流通させる装置が有するフィルタに本実施形態に係わる触媒体が固定されているなどしてもよい。
【0032】
本実施形態によれば、平均粒子径が1~10nmである貴金属または貴金属含有化合物が担持されているA型、フェリエライト、モルデナイト、Y型またはX型の結晶構造を有するゼオライトを含む触媒体に空間中に存在する生理障害促進物質等を接触させることで、生理障害促進物質等を減少または転化させることが可能である。そのため、例えば青果物等である植物における生理障害や植物および/または食品におけるカビの増殖を抑えることができるので、植物の商品価値の維持などへの寄与が可能である。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
[触媒体の製造例1]
細孔径0.5nmの5A型のゼオライト1.0gを10mLの水に懸濁させ、貴金属担持量が1.0質量%になるようにPtジニトロジアンミン硝酸水溶液を滴下し、その水溶液を室温にて撹拌した。ロータリーエバポレータを用いて40℃に加熱して溶媒を留去し、得られた固形物を室温で12時間真空乾燥させ、水素ガス10%、窒素ガス90%の還元処理ガス中にて250℃で1時間焼成し、Pt/5A型ゼオライトの触媒体を得た。5A型ゼオライトに対する、Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、4.1nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、1であった。
さらに、このゼオライトは、2価の金属イオンであるCa2+を有していた。
【0035】
[触媒体の製造例2(比較例)]
5A型のゼオライトに代えて、細孔径0.6nmのZSM-5のゼオライトを用いた以外は製造例1と同様とし、製造例2の触媒体を得た。Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。
また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、5.0nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、12であった。
さらに、このゼオライトは、1価の金属イオンであるNa+を有していた。
【0036】
[触媒体の製造例3]
5A型のゼオライトに代えて、細孔径0.8nmのフェリエライト型のゼオライトを用いた以外は製造例1と同様とし、製造例3の触媒体を得た。Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、3.9nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、5であった。
さらに、このゼオライトは、1価の金属イオンであるK+を有していた。
【0037】
[触媒体の製造例4]
5A型のゼオライトに代えて、細孔径0.7nmのモルデナイト型のゼオライトを用いた以外は製造例1と同様とし、製造例4の触媒体を得た。Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、4.0nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、8であった。
さらに、このゼオライトは、1価の金属イオンであるK+を有していた。
【0038】
[触媒体の製造例5]
5A型のゼオライトに代えて、細孔径1nmのX型のゼオライトを用いた以外は製造例1と同様とし、製造例5の触媒体を得た。Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、3.6nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、1.23であった。
さらに、このゼオライトは、1価の金属イオンであるNa+を有していた。
【0039】
[触媒体の製造例6]
5A型のゼオライトに代えて、細孔径0.8nmのY型のゼオライトを用いた以外は製造例1と同様とし、製造例6の触媒体を得た。Pt担持量をICPで測定したところ1質量%であった。また、触媒体をCOパルス吸着法で測定したところ、Ptの平均粒子径は、3.9nmであった。
また、このゼオライトのSi/Al(モル比)が、2.43であった。
さらに、このゼオライトは、1価の金属イオンであるNa+を有していた。
【0040】
<試験例1 5℃、90%条件のエチレン、アセトアルデヒド、エタノールに対する試験>
製造例1~6で得られた触媒体を用いてエチレン、アセトアルデヒド、エタノールの除去試験を行った。このうち製造例1、3~6の触媒体を用いる場合が本発明の実施例に当たる。
製造例1~6で得られた触媒体1.0g入りのテドラーバッグ5Lにエチレン、アセトアルデヒド、エタノールの各ガス濃度5ppmを含む加湿した空気を入れ、封入し、5℃にて静置した。テドラーバッグ内の相対湿度は90%であった。テドラーバッグ内の各ガス濃度を0、1、2および3時間経過後に測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1より比較例である製造例2を用いた場合では6時間後のエチレン濃度、3時間後のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度は不検出となっておらず、残存していた。一方、実施例である製造例1、3~6を用いた場合では6時間後のエチレン濃度、アセトアルデヒド濃度、エタノール濃度は不検出であった。したがって、製造例1、3~6の触媒体を用いた場合が、製造例2の触媒体を用いた場合よりも、エチレン、アセトアルデヒド、エタノールが早く減少したことが理解できる。特に、製造例1の触媒体を用いた場合は、製造例3~6より分解時間が短いことが分かる。
【0043】
<試験例2 25℃、90%条件でのアセトアルデヒドに対する試験>
アセトアルデヒド濃度を25ppmとし、温度を25℃とした以外は試験例1と同様として、製造例1で得られた触媒体を用いてアセトアルデヒドの減少についての試験を行い、テドラーバッグ内のアセトアルデヒド濃度と二酸化炭素濃度を0、2および4時間経過後に測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
表2より、4時間後のテドラーバッグ内のアセトアルデヒド濃度は不検出、二酸化炭素は45ppm検出され、アセトアルデヒドが二酸化炭素へ分解されたことがわかる。
【0046】
<試験例3 イチゴの貯蔵試験>
5Lの密閉容器内に、イチゴ(1パック)および上記製造例1で得た触媒体1.0gを入れて封入したものを実施例1と、イチゴ(1パック)のみを入れて封入したものを比較例1として、5℃で2週間保管した。2週間後、密閉容器内のアセトアルデヒド、エタノール濃度を測定した。また、イチゴのカビの発生率を調べた。その結果を表3に示す。
【0047】
【0048】
比較例1に対して実施例1ではアセトアルデヒド、エタノール濃度が減少し、さらにカビ発生率は比較例1が83%に対し実施例1では20%であった。また、生成したカビの種類を同定したところ、Alternaria sp.およびBotrytis sp.であった。したがって、実施例1により、エタノールおよびアセトアルデヒドが減少したことにより、イチゴにおけるカビの発生を抑制できることが示された。
【0049】
<試験例4 マンゴーの貯蔵試験>
52×55×65cm(内容積185.9L)のアクリルボックスに、完熟したアーウィン種マンゴー48個および上記製造例1で得た触媒5gを収納した不織布の袋をアクリルボックスの内側面に設置したものを実施例2、アーウィン種マンゴーのみをいれたものを比較例2として、室温26℃の条件にて6日間保管した。6日後、アクリルボックス内のエチレン、アセトアルデヒド、エタノール濃度を測定した。また、発病した果数を全果数で割って炭疽病の発病率として算出した。また、官能評価として、果実の硬さ、香り、食味を以下の5段階評価で実施した。
果実の硬さ:1柔らかい、2やや柔らかい、3ふつう、4やや硬い、5硬い
香り:1劣る、2やや劣る、3ふつう、4やや優れる、5優れる
食味:1劣る、2やや劣る、3ふつう、4やや優れる、5優れる
また、上記貯蔵処理に供していない完熟したアーウィン種マンゴーを基準として用い、この果実の硬さ、香り、食味を評点3のふつうとした。
結果を表4に示す。
【0050】
【0051】
比較例2に対して実施例2ではアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度が減少していることが確認された。炭疽病の発病率は比較例2より実施例1のほうが低い数値であった。尚、炭疽病の菌種を同定したところColletotrichum gloeosporioidesであった。さらに、果実の硬さ、香り、食味は比較例2に対して実施例2のほうが優れていることがわかった。また、比較例2ではマンゴーの生理障害のひとつであるヤニ果とみられる果皮からヤニ状の細胞液がにじみ出るマンゴーが発生しており、軟化や発酵臭を引起したため、果実の硬さ、香り、食味の結果に差異が認められたと考えられる。したがって、実施例2により、生理障害促進物質または揮発性カビ増殖促進物質を減少させることで、炭疽病の発病やマンゴーの生理障害を抑制できることが示された。
【0052】
<試験例5 食パンの保存試験>
滅菌処理(電子レンジ500Wで20秒加熱)した食パンのスライス面に以下のカビの胞子懸濁液(1.0×10^6個/mL)をそれぞれ100μL×3箇所に接種した。
・アオカビ(Penicillium citrinum)
・クロカワカビ(Cladosporium cladosporioides)
・クロコウジカビ(Aspergillus niger)
密閉容器内に、湿った脱脂綿と上記でカビを接種した食パン1斤および製造例1で得た触媒体1gを収納した不織布の袋を入れたものを実施例3、湿った脱脂綿と上記でカビを接種した食パンのみを入れたものを比較例3として、室温30℃の条件にて3日間貯蔵した。3日後、密閉容器内のエタノール濃度を測定した。また、各カビの発病状況として、カビ発生個所/カビ接種箇所を調べた。その結果を表5に示す。
【0053】
【0054】
比較例3に対して実施例3ではエタノール濃度が減少し、アセトアルデヒド濃度が増加していることが確認された。また、各カビに対するカビ発生個所/カビ接種箇所は実施例3では何れも0/3であるのに対して、比較例3では3/3であった。したがって、実施例3は食パンから生じたエタノールが実施例3に係る触媒体の作用によりアセトアルデヒドに転化され、当該アセトアルデヒドが食パンに接種したアオカビ、クロカワカビ、クロコウジカビの増殖を抑制できることが示された。