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特許7532346医療的緊急状態にある患者の個々に合わせた早急な処置のためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】医療的緊急状態にある患者の個々に合わせた早急な処置のためのシステム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20240805BHJP
【FI】
G16H50/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021517032
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IL2019051077
(87)【国際公開番号】W WO2020075159
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】62/743,113
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515124875
【氏名又は名称】イノヴィテック メディカル ソリューションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カントール、イュード
(72)【発明者】
【氏名】ハルパーン、ギイ ビロン
【審査官】鹿野 博嗣
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0015115(US,A1)
【文献】特開2012-221508(JP,A)
【文献】特表2005-528967(JP,A)
【文献】特開2013-238971(JP,A)
【文献】特開2011-172948(JP,A)
【文献】特表2012-514799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療的緊急状態に見舞われた患者に、個々に合わせた早急な処置を提供するための機器モジュールであって、
i)プロセッサと、データ記憶要素と、専用ソフトウェアと、入力装置と、表示装置と、
通信部品とを備える、制御ユニットと、
ii)前記患者のバイタルサインに関するリアルタイムデータを監視及び収集するための、前記患者の身体に取り付けることができる、心電図検査(ECG)センサ、パルスオキシメーター、及び1つ又はそれ以上の付加的なセンサを含む、センサユニットと、
iii)処置を施すための患者を識別するための構成部品、自動体外式除細動器(AED)、及び人工呼吸器ユニットを備える、機器ユニットと、
を備える、機器モジュールであり、
a)前記データ記憶要素が、システムに身元が認識されている患者の、前記制御ユニットに事前に記憶された病歴を含み、
b)前記入力装置及び前記通信部品が、前記制御ユニットに身元が認識されていない患者のために、遠隔地から病歴を取得し、緊急事態中にリアルタイムに前記データ記憶要素に前記病歴を転送するように構成され、
c)前記機器モジュールの前記制御ユニットにおける前記プロセッサ及び前記専用ソフトウェアが、
A)前記病歴に基づいて、前記センサユニットに含まれる特定のセンサを患者に取り付けるための指示を生成することと、
B)前記患者のバイタルサインに関する前記リアルタイムデータの値を、対応するパラメータに対する前記患者の前記病歴のデータからの値、及び、前記患者の前記病歴からの他の情報と比較し、取るべき行動を決定することと、
C)前記機器ユニットからの機器を使用して前記患者に処置を施すための特定の指示を使用者に提供することであって、前記特定の指示は前記AEDをいかに作動させるか胸当てパッドの様々な配置、与えるショックの様々な強度、及び前記与えるショックの様々なタイミングを含む、特定の指示を使用者に提供することと
を実行することにより、前記データ記憶要素に記憶された前記患者の前記リアルタイムデータと前記病歴との比較に基づいて処置アウトプットを作成するように構成され、
A)前記機器モジュールの前記制御ユニットにおける前記プロセッサ及び前記専用のソフトウェアにより生成される前記特定の指示が、
i)酸素を与える圧力並びに時間を含む前記人工呼吸器ユニットをどのように作動させるかと、
ii)前記人工呼吸器ユニットによって与えられる酸素と共に、前記AEDによって与えられるショックの同期及びタイミングと、
を含むこと、及び、
B)前記機器モジュールの前記制御ユニットにおける前記プロセッサ及び前記専用のソフトウェアが、処置の有効性を評価するために前記患者の前記身体に取り付けられた前記センサから受信した情報を使用するよう構成されていること
を特徴とする、機器モジュール。
【請求項2】
患者への早急な投与が必要となり得る薬剤を含む、個々に合わせた薬剤ユニットを更に備え、前記個々に合わせた薬剤ユニットが電子的にロックされており、前記プロセッサから送信された信号によって、又は、遠隔に位置する医師によってのみロックが解除され得る、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項3】
前記個々に合わせた薬剤ユニットが、ぶどう糖タブレット、アトロピン、及びニトログリセリンのうちの少なくとも1つを含む、請求項に記載の機器モジュール。
【請求項4】
前記取るべき行動が、前記患者のいる場所で処置を施すこと、或いは、前記患者を病院、専門のヘルスケアセンター、又はヘルスケア提供者の元へ早急に移動させることのいずれかである、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項5】
前記処置の有効性の評価が、前記処置が変更、継続、又は中止されるべきかどうか、及び、前記評価が実行されている時に、前記患者が病院へ搬送されるべきかどうかを決定する、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項6】
前記入力装置が、前記プロセッサ及び前記データ記憶要素に情報を入力するように構成されたキーボード又はグラフィカルユーザーインターフェースのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項7】
前記表示装置が、
a)前記患者に関連する個人情報、
b)前記患者の前記病歴、
c)前記患者に取り付けられたセンサからのデータ、
d)前記プロセッサ内の前記専用ソフトウェアによって生成された、前記センサユニットからセンサを前記患者に適用するための指示、
e)前記プロセッサ内の前記専用ソフトウェアによって生成された、処置を施すための、及び、前記機器ユニットからの機器を使用するための指示
のうちの少なくとも1つを表示するように構成されたコンピュータスクリーン又はグラフィカルユーザーインターフェースのうちの少なくとも1つを備える、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項8】
前記通信部品が、前記制御ユニットと、前記センサユニットの前記センサ、前記機器ユニットの前記機器、並びに、遠隔に位置する医療従事者、センサ、及びデータベースとのWi-Fi、セルラー方式、又はBluetooth双方向通信用に構成され、前記通信部品が、前記制御ユニットと前記個々に合わせた薬剤ユニットとの一方向有線又は無線通信用に構成される、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項9】
前記センサユニットが、脳波検査(EEG)センサ、超音波センサ、カプノグラフ、血圧計、別の種類の非侵襲性血圧センサ、呼吸数を測定するセンサ、体温を測定するセンサ、体重評価要素、血糖値測定器、ヘモグロビン計、白血球を観察するように構成された光学センサ、及び、脳卒中時の特徴である非対称性を検出するように構成されたカメラ又は他の種類の画像センサのうちの少なくとも1つの種類のセンサを備える、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項10】
前記機器ユニットの、患者を識別するための前記構成部品が、指紋又は網膜スキャナ、バーコードスキャナ、顔認識用のカメラ、及び文書スキャナのうちの少なくとも1つを備え、各々が前記制御ユニットの前記通信部品に接続される、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項11】
前記システムに身元が認識されていない患者の前記病歴が、
a)前記患者のヘルスケア提供者のデータベースに接触することによって、
b)前記患者が携行している運転免許証、身分証明書、又はパスポートから、
c)前記患者が身に着けている医療用警告ブレスレットから、
d)前記患者に付き添う人物の証言から、
e)前記人物の病歴を含む、前記人物の個人用スマートフォンのプリインストールされた特別なアプリケーションから、
のうちの少なくとも1つの方法によって取得される、請求項1に記載の機器モジュール。
【請求項12】
医療的緊急状態に見舞われた患者に、個々に合わせた早急な処置を提供するためのシステムであって、
a)請求項1に記載の機器モジュールと、
b)患者のバイタルサインを測定するように構成され、前記患者が日常業務に取り組む時に前記患者に取り付けられているセンサと、前記センサによって収集されたデータを前記機器モジュールの前記制御ユニットに無線伝送するように構成された構成部品とを備える、監視モジュールと
を備えるシステム。
【請求項13】
前記監視モジュールが、医療的緊急状態が検出された場合に警報信号を発し、前記警報信号を前記機器モジュールに無線伝送するように構成された構成部品を備える、請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急医療処置を提供するための機器の分野に関する。詳細には、本発明は、患者に最も効果的な処置を提供する救命機器の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
医療的緊急事態は様々な環境で発生し、外傷、中枢神経系損傷(例えば無呼吸を伴う脳卒中)、心臓の状態(例えば冠動脈疾患又は心臓不整脈)、呼吸器の状態(例えば肺塞栓症及び慢性閉塞性肺傷害、又は肺痙攣性疾患)などの様々な身体機能に影響を及ぼし得、又、アナフィラキシーショックなどの全身的な状態は、複数の身体機能に影響を及ぼす。
【0003】
緊急な場合の救命処置の有効性には、早急な医療支援が欠かせない。多くの場合、緊急事態の発生現場に専門の医療従事者は存在せず、最初の緊急ケアの実施は、居合わせた素人に任され、この人物は、緊急事態発生時に現場に物理的に存在した、専門の医療資格は無いが、支援可能で支援する意欲を持った任意の人物である。従って、素人のケア提供者は救命機器を頼り、この救命機器は、素人のケア提供者の医学的知識がほとんど無い、又は、全くないことが前提となるため、取り扱いがとても簡単でなくてはならない。
【0004】
緊急事態で医療支援を提供する一般的に利用可能な救命救急装置は、包帯などを含むファーストエイドキット、心臓不整脈の処置として電気ショック療法を適用する携帯型電子装置である自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillators)、及び、患者の状態に応じて患者に酸素富化(oxygen enrichment)又は強制換気を提供するための、専門家ではない使用者は通常利用できない酸素療法装置の3種類である。この種の装置は、専門家にも一般の人々にも馴染みが深く、多くの異なるデザインがあり、世界中の多くの公共の場で利用することができる。
【0005】
本特許出願の出願者は、院内及び院外での医療的緊急事態において、意思決定支援救命救急を患者に提供するために、電気ショック療法及び酸素療法の両方を適用する構成部品を備えるシステムを、同時係属中のPCT出願国際公開第2015/068164号に記載している。
【0006】
この種の先行技術の装置は多くの命を救うが、場合によっては、診断が間違っているか、療法が正しく適用されなければ、かえって害となる恐れがある。正しい診断及び/又は適用する療法に関する不確実性が、ある程度までは装置自体に組み込まれており、これは、正しい診断及び/又は適用する療法が、異常な読取が検出された場合に適用されるべきである、装置のセンサが測定するパラメータの「正常」値及び処置は、「平均的な」人物にとって効果的であると事前に決定されている標準的な処置である、という仮定に全て基づいているためである。
【0007】
言い換えれば、診断及び処置の両方が、母集団の値とは大きく異なり得る、重要なパラメータの患者のベースライン値に基づいていない。一般的ではない病歴(non-conventional medical history)を有する人物の場合で、緊急事態の原因が、認識されている医学的状態である場合、平均からのこのベースラインの偏差は非常に重要である。
【0008】
以下のような実例がある。
-一部の人は、ST上昇などの異常な心電図検査(ECG:Electrocardiography)プロファイルを有する。標準的な患者にとって、ST上昇は冠動脈心疾患を示し、従って、一般化された監視システムは、ST上昇が検出されると、入院の必要性を示す。しかしながら、患者の病歴によりこの異常が現れている場合、別の処置アウトプットが生成されるべきである。
-慢性肺疾患(COPDなど)の患者の血中酸素飽和度は、典型的には非標準的である。処置アウトプットを生成するために、患者のベースライン飽和度データが使用されれば、正しい臨床的判断が取得され得る。
-激しい喘息発作を伴う患者は、呼吸数及びCO2レベルが異常になる。患者の病歴と比較しなければ、従来技術の装置は、病院、専門のヘルスケアセンター、又はヘルスケア提供者の元へ患者を移動させる(evacuate)必要があると示し得る。患者の病歴を統合することで、ステロイド剤又は抗ヒスタミン剤の正しい投薬量、或いは酸素療法など、より正確な他の処置アウトプットをシステムが生成することが可能となる。
-現在AEDは、設定された強度を用いて全ての患者に除細動を適用する。年齢及び医学的状態などの患者の個人的な基準を考慮することで、除細動器の強度を調整し、最適な結果を得て、二次的損傷を最小にすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/068164号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、緊急事態において早急な医療支援を提供するためのシステムを提供することであり、このシステムは、個々に合わせる機能を備え、これにより、特定の人物のリアルタイムデータの測定値及び病歴バックグラウンドの両方に応じて処置モード及び医療的判断を調整することが可能となる。
【0011】
本発明の別の目的は、緊急治療室で提供される処置に可能な限り近い個々に合わせた処置を、医療的緊急状態の最初から個人に提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的及び有利性は、説明がすすむにつれて明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様では、本発明は、医療的緊急状態に見舞われた患者に、個々に合わせた早急な処置を提供するための機器モジュールである。機器モジュールは、
i)プロセッサと、データ記憶要素と、専用ソフトウェアと、入力装置と、表示装置と、通信部品とを備える、制御ユニットと、
ii)患者のバイタルサインに関するリアルタイムデータを収集するための、患者の身体に取り付けることができるセンサを備える、センサユニットと、
iii)患者を識別するための、及び、処置を施すための構成部品を備える、機器ユニットと
を備える。
【0014】
機器モジュールは、
a)データ記憶要素が、システムに身元が認識されている患者の、制御ユニットに事前に記憶された病歴を含み、
b)入力装置及び通信部品が、システムに身元が認識されていない患者の病歴を取得するように構成され、
c)プロセッサ及び専用ソフトウェアが、
i)センサユニットからセンサを患者に適用するための指示を生成することと、
ii)センサデータの値を、対応するパラメータに対する患者の病歴のデータからの値、及び、患者の病歴からの他の情報と比較し、取るべき行動を決定することと、
iii)処置ユニットからの機器を使用して患者に処置を施すための特定の指示、及び/又は、個々に合わせた薬剤ユニットから薬剤を投与するための特定の指示を使用者に提供することと
を実行することにより、患者のリアルタイムデータと病歴との比較に基づいて処置アウトプットを作成するように構成されること
を特徴とする。
【0015】
機器モジュールの実施例では、プロセッサ及び専用ソフトウェアは、処置の有効性を評価するために、患者の身体に取り付けられたセンサから受信した情報を使用するように更に構成される。
【0016】
機器モジュールの実施例は、患者への早急な投与が必要となり得る薬剤を含む、個々に合わせた薬剤ユニットを更に備える。個人用薬剤区画は電子的にロックされており、プロセッサから送信された信号によって、又は、遠隔に位置する医師によってのみロックが解除され得る。
【0017】
機器モジュールの実施例では、個々に合わせた薬剤ユニットは、ぶどう糖タブレット、アトロピン、及びニトログリセリンのうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
機器モジュールの実施例では、取るべき行動は、患者のいる場所で処置を施すこと、或いは、患者を病院、専門のヘルスケアセンター、又はヘルスケア提供者の元へ早急に移動させることのいずれかである。
【0019】
機器モジュールの実施例では、処置の有効性の評価は、処置が変更、継続、又は中止されるべきかどうか、及び、評価が実行されている段階で、患者が病院へ搬送されるべきかどうかを決定する。
【0020】
機器モジュールの実施例では、入力装置は、プロセッサ及びデータ記憶要素に情報を入力するように構成されたキーボード又はグラフィカルユーザーインターフェースのうちの少なくとも1つを備える。
【0021】
機器モジュールの実施例では、表示装置は、
a)患者に関連する個人情報、
b)患者の病歴、
c)患者に取り付けられたセンサからのデータ、
d)プロセッサ内のソフトウェアによって生成された、センサユニットからセンサを患者に適用するための指示、
e)プロセッサ内のソフトウェアによって生成された、処置を施すための、及び、処置ユニットからの機器を使用するための指示
のうちの少なくとも1つを表示するように構成されたコンピュータスクリーン又はグラフィカルユーザーインターフェースのうちの少なくとも1つを備える。
【0022】
機器モジュールの実施例では、通信部品は、制御ユニットと、センサユニットのセンサ、処置ユニットの機器、並びに、遠隔に位置する医療従事者、センサ、及びデータベースとの間のWi-Fi、セルラー方式、又はBluetooth双方向通信用に構成され、通信部品は、制御ユニットと個々に合わせた薬剤ユニットとの間の一方向有線又は無線通信用に構成される。
【0023】
機器モジュールの実施例では、センサユニットは、心電図検査(ECG)センサ、パルスオキシメーター、脳波検査(EEG:Electroencephalography)センサ、超音波センサ、カプノグラフ、血圧計、別の種類の非侵襲性血圧センサ、呼吸数を測定するセンサ、体温を測定するセンサ、体重評価要素、血糖値測定器、ヘモグロビン計、白血球を観察するように構成された光学センサ、及び、脳卒中時の特徴である非対称性を検出するように構成されたカメラ又は他の種類の画像センサのうちの少なくとも1つの種類のセンサを備える。
【0024】
機器モジュールの実施例では、機器ユニットの、患者を識別するための構成部品は、指紋又は網膜スキャナ、バーコードスキャナ、顔認識用のカメラ、及び文書スキャナのうちの少なくとも1つを備え、各々が制御ユニットの通信部品に接続される。
【0025】
機器モジュールの実施例では、システムに身元が認識されていない患者の病歴は、
a)患者のヘルスケア提供者のデータベースに接触することによって、
b)患者が携行している運転免許証、身分証明書、又はパスポートから、
c)患者が身に着けている医療用警告ブレスレットから、
d)患者に付き添う人物の証言から、
e)人物の病歴を含む、その人物の個人用スマートフォンのプリインストールされた特別なアプリケーションから、
のうちの少なくとも1つの方法によって取得される。
【0026】
第2の態様では、本発明は、医療的緊急状態に見舞われた患者に、個々に合わせた早急な処置を提供するためのシステムであって、
a)請求項1に記載の機器モジュールと、
b)患者のバイタルサインを測定するように構成され、患者が日常業務に取り組む時に患者に取り付けられているセンサと、センサによって収集されたデータを機器モジュールの制御ユニットに無線伝送するように構成された構成部品とを備える、監視モジュールと
を備える。
【0027】
本システムの実施例では、監視モジュールは、医療的緊急状態が検出された場合に警報信号を発し、警報信号を機器モジュールに無線伝送するように構成された構成部品を備える。
【0028】
本発明の上記及び他の全ての特徴及び有利性が、添付の図面を参照し、以下の本発明の実施例の例示的及び非限定的な記載を通して更に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のシステムの主要な構成部品を示す概略図である。
図2】緊急事態で個々に合わせた医療処置を提供する図1のシステムを使用して実行されるプロセスの、全体的な構成を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、呼吸、心臓、及び/又は中枢神経系の機能に影響を及ぼす医療的緊急事態で、早急な処置を提供するために設計されたシステムである。非限定的な実例として、システムは、外傷及び持病などの状態にも使用され得る。システムの主要な目標は、医療的緊急状態に見舞われた人物に、その人物が緊急治療室で受けるであろう処置に可能な限り近い個々に合わせた処置を、事象が発生した瞬間から提供することである。これは、特定の状況では不要であり得る、又は、害となる恐れさえもある一般的な処置を提供する、現在の緊急ケアシステムとは相反するものである。
【0031】
処置手順の自動化により、例えば、在宅ケア、クリニック、介護施設、オフィスビル、ホテル、競技場、及びコンサートホールなどの公的及び/又は私的な場所、或いは医療施設でシステムが使用されることが可能となる。処置手順の自動化により、最低限の訓練を受けた人物によってシステムが操作されることが可能となるが、専門の医療ケア提供者によってあらゆる場所でシステムが用いられ得ることも明らかである。システムが、医院、リタイアメントホーム、介護施設、リハビリテーションセンター、又は病院などのヘルスケア施設で使用される場合、システムは、外来者、従業員、及び患者から日常的にベースラインデータを収集するために使用され得る。
【0032】
システムは、緊急医療処置を必要とする人物、以後「患者」として認識される人物の識別を可能にする構成部品を備える。識別は、特定のキーを割り当てる、或いは、身元が認識され、ベースラインデータがシステムのデータベースに存在する患者それぞれに対する固有番号又は文字コードを入力するなどにより、手動で実行され得る。代替え的には、患者の識別は、システムと通信するように構成されたスマートフォンなどの携帯型装置のアプリケーションによって達成され得る。患者の識別は、システムに備わる識別手段によって自動的にも実行され得、この識別手段により、処理対象がシステムに物理的に接続されると、例えば、指紋スキャン、網膜スキャン、又は顔認識によって、或いは、例えば患者が身に着け、患者がシステムに近接すると検出されるブレスレットなどの専用のウェアラブル装置から送られる信号によって、対象の識別が可能となる。システムに認識されていない患者は、運転免許証、身分証明書、又はパスポートなどの患者が携行している情報によって識別され得る。
【0033】
システムから最大限の有用性を得るために、簡単にアクセスできる患者の健康歴のデータベースを利用可能にすべきである。このため、システムは、自宅、職場、及び、存在する人物の多くの身元が認識され、彼らの認識されているこれまでの一般的ではない病歴に関する処置についての情報が、システムに直接入力され得る同様の場所において、最も効果的に配置される。考えられる別のシナリオでは、飛行機又はクルーズ船に乗り込む、或いは、ホテルにチェックインするなどの特定の状況で、乗客/顧客に病歴を提供することを要求してもよく、この病歴が、ローカルに記憶される、又は、システムがアクセスすることができるセントラルロケーションに記憶される。
【0034】
個々に合わせる機能を使用するために、適切な処置を決定するように設計されたアルゴリズムは、患者の病歴が認識されている(この場合は、その患者のベースラインデータが使用される)か、又は、認識されていないかを、システムに通知する特定のステップを含む。特定の患者のベースラインデータが、システムのデータベースにない場合、1.システムは、例えばアクセスが許可されれば、患者のヘルスケア提供者のデータベースに接触することにより、ベースラインを生成するのに必要なデータの収集を試みることができる、2.これまでの病歴などの部分情報は、医療用警告ブレスレットから、個人用スマートフォンにプリインストールされた人物の病歴を含む特別なアプリケーションを利用することにより、更に、患者に付き添う人物の証言から取得され、性別、およその体重、身長、及び年齢などの情報は、手動で入力され得る、3.個人データがない場合、システムは、現在のシステムが作動するのと同じ方法で、測定したパラメータの正常値に依拠することができる、という3つの選択肢がある。
【0035】
図1は、本発明のシステムの主要な構成部品を概略的に示す。システム10は、監視モジュール12と、機器モジュール14との2つのモジュールを備える。
【0036】
監視モジュール12は、実際には、システムの一体的な部分であるとは限らない。それは、例えば自動インシュリンポンプ、並びに、血圧及び脈拍を監視するブレスレットなどの様々な種類のセンサを表し、それらのセンサは、日常業務に取り組む際に取り付けられ、その人物のバイタルサインに関するデータを制御ユニット16に伝送するように装備され、このデータは、制御ユニット16において、データ記憶要素26に記憶されたその人物の病歴のベースラインデータをアップデートするために使用される。又、監視モジュール12は、医療的緊急状態が検出された場合に警報信号を発し、それらを機器モジュール14に無線伝送するように構成される。
【0037】
機器モジュール14は、いくつかのユニットを備えるものとして本明細書で記載される。しかしながら、これらのユニットは、必ずしも機器モジュール14内の物理的な区画でなくてもよいが、いくつかの実施例では、ユニットへの分割は、類似の機能を有する異なる構成部品を関連付ける概念的なものであり得ることを理解されたい。同様に、機器モジュールの構成部品を特定のユニットに割り当てることは、単に説明を簡単にするためであり、多くの異なる配置が可能である。
【0038】
図1に示される実施例では、機器モジュール14は、
-制御ユニット16と、
-センサユニット18と、
-機器ユニット20と、
-個々に合わせた薬剤ユニット22と
を備える。
【0039】
制御ユニット16は、
-プロセッサ24と、
-データ記憶要素26と、
-専用ソフトウェア28と、
-例えば、プロセッサ24及びデータ記憶要素26に情報を入力するように構成されたキーボード又はグラフィカルユーザーインターフェースなどの入力装置30と、
-特に、患者に関連する個人情報と、患者の病歴と、監視ユニット12のセンサからのデータと、プロセッサ24内のソフトウェア28によって生成された、センサユニット18からセンサを適用するための指示、及び、処置ユニット20からの機器を使用して処置を施すための指示とを表示するように構成された、例えばコンピュータスクリーン又はグラフィカルユーザーインターフェースなどの表示装置32と、
-制御ユニット16と、監視ユニット12、センサユニット18のセンサ、処置ユニット20の機器、並びに、遠隔に位置する医師、他の医療従事者、及びデータベース38との間のWi-Fi、セルラー方式、又はBluetooth双方向通信36用に構成され、制御ユニット16と個々に合わせた薬剤ユニット22との間の一方向有線又は無線通信40用に構成された通信部品34と
を備える。制御ユニット16の構成部品間の内部通信リンクは示されないが、当業者には明らかであろう。
【0040】
制御ユニット16の構成部品は、
-患者の特定のデータを収集し記憶する機能と、
-特定の患者それぞれに対するファイル履歴を生成する機能と、
-監視モジュールに含まれる、患者の身体に取り付けられたセンサから、患者のバイタルサインに関するデータをリアルタイムに収集する機能と、
-リアルタイムデータと患者の病歴ファイルとの比較に基づいて処置アウトプットを作成する機能と
を実行するために互いに相互作用するように構成される。
【0041】
システムの実施例では、制御ユニット16の全ての機能は、システムの他のユニットを含む筐体の中に物理的に組み込まれた専用の構成部品によって提供され得る。他の実施例では、制御ユニット16の機能は、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、又は、セルラー方式電話などのモバイル通信装置によって提供され得る。
【0042】
システム10の全ての実施例が、本明細書に上述された全ての構成部品を備えるわけではなく、いくつかの実施例は、システムの使用者に対する可聴警報又は指示を生成することが可能な構成部品など、追加の特徴部を備えることができる。
【0043】
センサユニット18の基本的な実施例は、患者からECG信号を検出するように構成された少なくとも1つのECGセンサと、血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターとを含む。
【0044】
これらの基本的なセンサに加え、センサユニット18は、脳波検査(EEG)センサ、超音波センサ、CO2を測定するカプノグラフ、血圧を測定する血圧計(又は他の非侵襲性血圧センサ)、呼吸数を測定するセンサ、体温を測定する1つ又は複数のセンサ、体重評価要素(例えば光学センサ入力及び頭部スケールに基づくもの)、血糖値測定器、ヘモグロビン計、白血球を観察するように構成された光学センサ、及び脳卒中時の特徴である非対称性を検出するセンサ(例えばカメラ)のうちの1つ又は複数も含むことができる。
【0045】
センサユニット18の特定の実施例は、認識されている特定の医学的状態を起こしている患者に使用するために供給され得る。例えば、これまでに発作を起こしたことがある高齢の患者のための監視モジュールは、EEGセンサを含み、これまでに喘息発作を起こしたことがある子供のための監視モジュールは、カプノグラフと、呼吸数を測定するセンサとを含む。
【0046】
一部の患者は、監視モジュール12を身に着けない場合があるが、EEG、血圧、及び/又は心拍数などを監視する目的で、例えば1日に1回センサユニット18のセンサに定期的に接続することもできる。更に、患者は、ベースラインを定義するためにセンサユニット18のセンサに接続し得る、又は接続され得る。
【0047】
機器ユニット20の基本的な実施例は、患者を識別するための構成部品を備える。患者を識別するための構成部品は、例えば、指紋又は網膜スキャナと、バーコードスキャナと、顔認識用のカメラと、文書スキャナとを備え、各々が制御ユニット16の通信部品38に接続される。
【0048】
機器ユニット20の実施例は、自動体外式除細動器(AED)と、人工呼吸器ユニットと、及び/又は、例えばファン又は熱電冷却器などの冷却装置とを追加的に備えることができる。人工呼吸器ユニットは、圧力/流量センサと、タービン又は他の圧力生成器と、リザーバーを有する又は有さない密閉型又は開放型マスク、或いは、気管内チューブなどの患者への送達手段とを備える。AEDは、内部バッテリ又は外部電源に接続された、電流を生成する電気回路と、ショッカブルな心臓不整脈が監視モジュールのECGセンサによって検出され、除細動が必要とされるときに、患者に電気ショックを与えるように構成された2つのECG胸当てパッドとを備える。人工呼吸器ユニットは、患者の状態に応じて、受動的又は能動的に患者に純酸素又は酸素富化を提供するために、加圧酸素又は空気のシリンダも備えることができる。
【0049】
個人用薬剤区画22は、認識されている医学的状態がある患者への早急な投与が必要となり得る薬剤を含む。例えば、糖尿病患者の自宅又は職場のシステムは、患者の血糖値が著しく低いときに投与されるぶどう糖タブレットを含むことができ、ハチ刺され又は特定の食べ物に対してアレルギー反応を起こすと認識されている人物に使用するために、アトロピンが個人用薬剤区画22に含まれ得、狭心症又は高血圧の病歴を有する人物のために、ニトログリセリンが含まれ得る。個人用薬剤区画22は、電子的にロックされており、プロセッサ24から送信された信号によって、又は、遠隔に位置する医師によってのみロックが解除され得る。
【0050】
図2は、緊急事態で個々に合わせた医療処置を提供するシステム10を使用して実行されるプロセスの、全体的な構成を概略的に示すフローチャートである。
【0051】
プロセスを開始する前に、オペレータは、患者及びシステムを互いに近づけ、システムを作動させる。オペレータは、医療的緊急状態の始まりを警告する既知の兆候に気付いた患者、又は、医療的緊急状態にある患者を目撃した別の人物であり得る。他の場合は、監視モジュール12のセンサによって得られた、予め定義された制限を超える測定値によって起動が引き起こされ得る。システム10の制御ユニット16は、予め定義された制限を超えると、システムにログインするように患者に警告する、又は、処置を開始するためにシステムを自動的に作動させるように定義され得る。
【0052】
いつくかのシナリオでは、患者及びシステムを互いに近づけなくても処置が開始される。そのようなシナリオの非限定的な実例では、睡眠時無呼吸症を治療中の患者に、患者が就寝中に、機器ユニット20の人工呼吸器ユニットによって持続的気道陽圧(CPAP)が印加される。患者は呼吸がしづらくなっているとセンサが示した場合、人工呼吸器ユニットは、患者を強制的に治療する、即ち強制換気するために、自動的に換気モードに切り替えられる。別の非限定的な実例では、ミルクアレルギーを有する患者が日常的に身に着けているパッチが、アナフィラキシーショック時にステロイド剤を送達するために作動され得る。
【0053】
第1のステップ100では、本明細書に上述した方法の少なくとも1つによって、患者がシステムに識別される。必要ならば、プロセッサは、患者を識別するために使用されるセンサユニット18の1つ又は複数のセンサを取り付け、患者を識別するための、機器ユニット20からの適切な構成部品を操作するように、ディスプレイ32を用いて聴覚的又は視覚的に使用者に指示する。
【0054】
プロセスの第2のステップ102は、システム10の制御ユニット12によって必要な病歴データを取得することである。データの取得は、以下の方法のうちの1つで行われる。
-特定の場所にシステムを初めて設置する際に、その場所を定期的に使用する人々に対して、ベースラインテストが行われる。それぞれの人物に対してファイルが生成され、システムの制御ユニット16のメモリ26に記憶される。ファイルは、性別、年齢、体重、身長などの生体情報データと、ECG、飽和度、心拍数、呼吸数などのベースラインバイタルサイン測定の結果とを含む。上述の方法のうちの1つによって患者が識別された後、患者がシステムに認識されている場合、患者のファイルから患者のベースラインデータにアクセスする。
-患者の病歴が認識されていない場合、システムは、本明細書に上述した3つの選択肢のうちの1つを用いて必要な医療データを取得することを試みる。リモートサーバなどの遠隔地から、又は、私的な電子カルテから取得されたデータは、リアルタイムにメモリ26に入力され得る。遠隔地からの医療データの転送は、陸上通信線を介して、或いは、Wi-Fi、セルラー方式、又はBluetoothなどの1つ又は複数の無線プロトコル36を介して外部の場所と通信することができる、制御ユニット16の通信部品38によって行われ得る。
【0055】
第3のステップ104では、第2のステップで求めた患者の病歴、並びに、場合により、例えば、意識がある又は意識不明、高体温、低体温、及び、脈拍が遅い又は速いなど、使用者によって感知され、システムに手動で入力された患者の全身状態に関する情報に基づき、プロセッサ12は、更に監視し、より精密なバイタルサインデータを提供するために、センサユニット18から患者の身体に特定のセンサを取り付ける指示を、表示装置32を使用して使用者に提示する。
【0056】
第4のステップ106では、ソフトウェア28のアルゴリズムは、センサデータの値を、患者の病歴のベースラインデータからの対応するパラメータに対する値と比較する。加えて又は代替え的には、この比較は、システムから遠隔受信したデータを使用し、医師又は救急センター38によって行われることもできる。
【0057】
第5のステップ108では、ソフトウェア28の意思決定アルゴリズムは、取るべき行動を決定するために、特に第4のステップ106からの比較値、及び、患者の病歴からの情報を使用する。具体的に言うと、それ以上の処置が必要ではないかどうか、患者を病院、専門のヘルスケアセンター、ヘルスケア提供者の元へ早急に移動させるべきかどうか、又は、患者のいる場所で処置が施されるべきかどうかを決定する。代替え的には、医師又は救急センター38が決定し得る。
【0058】
第6のステップ110では、処置が施される場合、システム10の制御ユニット16は、例えば、酸素を与える、及び/又は、個々に合わせた薬剤ユニット22から薬剤を投与する圧力並びに時間などの特定の指示を使用者に提供する。特定の状況では、システムは、例えば電気ショックを与えるなど、処置を自動的に開始することができる。
【0059】
第7のステップ112では、ソフトウェア28のアルゴリズムは、処置の有効性、即ち、処置が変更、継続、又は中止されるべきかどうか、及び、この段階で、患者が病院へ搬送されるべきかどうかを評価するために、患者の身体に取り付けられたセンサから受信した情報を使用することができる。
【0060】
第3から第7のステップは、患者の状態が改善される、又は、救急の専門家が現場に到着するまで繰り返され得る。
【0061】
システムの選択的な特徴部は、通信部品34からの通信リンク36であり、これにより、医師(連絡先がデータ記憶装置26の患者の個人歴に入力されていれば、主として患者の担当医)、1対応者などの外部ソース38からの自動的又は手動的な治療介入が可能となる。これらの遠隔要員38の一部は、提案を入力する、又は、システムによって使用者に提供された指示を変更する権限が与えられ得る。加えて、彼らは、個人用薬剤ユニット22を遠隔的にロックを解除する権限が与えられ得る。
【0062】
公共の場で一般的に見られる市販の除細動器では、患者の特定の医療状態に関係なく、年齢(小児及び成人)のみに基づいた除細動の一般的な原則を順守する。専門的なケア(例えば救急車、緊急治療室)のもとでは、ショッカブルな不整脈を起こしている患者は、より個々に合わせたプロトコルを用いて治療され、様々なパッドの配置、与えるショックの様々な強度、薬剤、酸素とショックとの様々な同期及びタイミングが用いられ、人工呼吸と除細動との同期が監視される。専門的な環境では、これにより、患者が新患であって、専門のケア提供者に患者の病歴が認識されていない、又は、部分的に認識されている場合でも、患者にとって非常に良い結果がもたらされる。
【0063】
有利には、本発明のシステムにより、非専門的なケア又は非医療環境の元で、個々に合わせた処置及び処置プロトコルが使用可能となる。このシステムは、複雑な病歴に基づいて個々に合わせた処置を提供することもでき、このことは、システムが、特定の医学的状態を起こしている特定の患者のために推奨する、以下の特定の処置の実例から理解することができる。これらの実例では、誤診を防止し、緊急処置の効率を改善することにおいて、患者の病歴に関する認識及び/又は遠隔の医療ケアスペシャリストからのオンライン指導が有利であることが示される。
【0064】
「1.根源が心臓にある事例」
この実例では、システムは、不整脈を伴う患者に適用される。病歴によれば、患者は、低血圧及びうっ血性心不全を伴う心房細動を患い、抗凝血剤を服用している。患者にシステムが適用され、適用時に患者の識別が実行され、患者の病歴が明らかとなり、考慮される。適用後の最初の測定値は、血圧80/40、心拍数140、飽和度86である。
【0065】
患者の病歴に関する認識がなければ、患者は、最初に例えば出血性などの未特定のショック(undifferentiated shock)を起こしていると誤診されていた恐れがあり、出血部位を探すために時間が浪費されていただろう。抗凝血剤の状況を認識していることにより、カルディオバージョンが可能となる。
【0066】
「2.根源が呼吸器にある事例」
この実例では、システムは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び喘息増悪を伴う患者に適用される。
【0067】
患者は、呼吸困難の症状を示す。システム内の病歴によれば、患者は、慢性気管支炎を患っていると認識されている。
【0068】
患者の病歴に関する認識がなければ、呼吸困難の原因がわからず、うっ血性心不全、アレルギー反応などの別の診断により、時間を無駄にしていた恐れがある。更に、高流量の酸素をCOPDの患者に与えるなど、誤った処置をする危険がある。従って、リアルタイムに病歴を認識することで、85%から88%の血中酸素飽和度に対する低流量の酸素のタイトレーションなどの適切な処置が可能となる。
【0069】
「3.根源が神経性のものである状態」
この実例では、システムは、一過性脳虚血発作(TIA:Transient Ischemic Attack)の病歴を有し、アスピリンを服用している患者に適用される。右半身の脱力、話しづらさの訴えにより、患者にシステムが適用される。
【0070】
システムによる診断は、急性脳卒中の疑いである。
【0071】
患者の病歴に関する認識がなければ、アスピリンが再度投与されていた恐れがあり、出血の危険性が高まっていたであろう。
【0072】
「4.アナフィラキシー」
この実例では、システムは、乳製品アレルギーがあると認識されている患者に適用される。システムの適用時に患者の識別が実行され、患者の病歴が明らかとなり、考慮される。以下の訴えにより、患者にシステムが適用される。患者は、めまい、吐き気を感じ、炎症を起こし、紅潮しているように見え、血管浮腫(腫れ)及びそう痒感(かゆみ)があり得る。システムが患者の病歴を認識しているため、患者は、飽和度の低下を示す浅い低呼吸を測定する、センサユニット18からの呼吸センサを用いて定期的に監視される。
【0073】
患者の病歴に関する認識がなければ、喘息、未特定のショック、又は、更にはパニック発作(過呼吸)という診断に、臨床像が誤って導かれる恐れがある。
【0074】
「5.アナフィラキシーショック」
この実例では、患者には、軽度のピーナッツアレルギーがある。患者は、レストランで気付かないうちにピーナッツを含む料理を食べてしまう。観察された症状は、呼吸のしづらさである。この症状のため、患者は、識別をするため、及び、センサによる測定をするためにシステムに接続された。呼吸及び飽和度を測定するセンサは、低飽和及び呼吸困難を示す。患者が識別され、病歴が取得された。
【0075】
病歴とセンサの測定値との統合に基づくと、診断はアナフィラキシーショックであり、提案された処置は、エピネフリンの投与である。システムが接触していた医師は、提案された処置を承認し、薬剤ユニット22のロックを解除する信号を送信する。使用者又は可能であれば患者自信が、エピネフリンを含むシリンジを取り出すこと、及び、薬剤の投与方法について指示を受ける。
【0076】
「6.肝臓移植経験者であると認識されている移植患者」
この実例では、患者は、意識不明の状態で発見される。システムを患者に接続させた後のセンサによる最初の測定値は、血圧140/85、心拍数110、飽和度95%、BPM22、発熱、及び、心電図は正常洞調律である。
【0077】
患者の病歴が認識されていなければ、患者は脳卒中(脳血管障害(CVA)-出血)を起こしていると誤診されていた恐れがある。しかしながら、患者が肝臓移植経験者であるとシステムが認識していたため、システムは、患者の状態を肝不全による意識不明と診断し、ヘモグロビン計を含むパルスオキシメーターを適用する、ECG電極を適用する、EtCO2センサを適用する、血糖値をチェックする、及び、救急サービスとの通信ラインを開通させる、という初期の治療介入がシステムによって推奨された。
【0078】
「7.癌-癌患者であると認識されている患者」
患者は、発熱、頻脈、敗血症、及び、白血球を観察するように構成された光学センサを使用して測定された白血球減少の症状を示す。
【0079】
システムを患者に接続させた後の最初のセンサによる測定値は、血圧140/85、心拍数110、飽和度95%、BPM22、発熱、及び、心電図は正常洞調律である。
【0080】
患者の病歴が認識されていなければ、インフルエンザ又は他の軽度の感染症であると誤診されていた恐れがある。しかしながら、化学療法を受けている癌患者で、敗血症を起こしていることをシステムが認識していたため、ヘモグロビン計を含むパルスオキシメーターを適用する、ECG電極を適用する、EtCO2センサを適用する、血糖値をチェックする、及び、救急サービスとの通信ラインを開通させる、という初期の治療介入がシステムによって推奨された。加えて、患者は、救急サービスにおける資格を有する医療関係者からの助言に従って、隔離され、広域スペクトル抗生物質で治療を受けるべきである。
【0081】
「8.糖尿病患者-低血糖症、高血糖症」
患者は気を失い、調べてみると、瞳孔が開き、光に反応しない。
【0082】
システムを患者に接続させた後の最初のセンサによる測定値は、血圧150/90、心拍数90、飽和度95%、BPM20、発熱、及び、心電図は正常洞調律である。
【0083】
患者の病歴が認識されていなければ、患者は、重度の脳損傷を起こしていると誤診されていた可能性があり、高血圧に対する処置など、この場合は有害であったであろう間違った処置を受けていた恐れがある。しかしながら、システムが認識していた患者の病歴により、患者は、認識されている糖尿病に関連した眼の障害を伴う低血糖であると明らかになったため、酸素を投与する、ヘモグロビン計を含むパルスオキシメーターを適用する、ECG電極を適用する、EtCO2センサを適用する、血糖値をチェックする、ブドウ糖処置を施す、及び、救急サービスとの通信ラインを開通させる、という初期の治療介入がシステムによって推奨された。医療処置、即ち、酸素の投与、ぶどう糖処置、及び場合によりアスピリンの投与が、救急サービスから受信した指示に従って実行される。
【0084】
本発明の実施例を例示として説明したが、本発明が、特許請求の範囲を超えることなく、多くの変更、変形、及び改造を伴い実施され得ることを理解されたい。
図1
図2