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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】超薄型静圧気体軸受およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20240805BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
F16C32/06 Z
B29C43/18
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022517719
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(86)【国際出願番号】 SG2020050402
(87)【国際公開番号】W WO2021112759
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】10201911803U
(32)【優先日】2019-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】517312700
【氏名又は名称】アクリビス システムズ ピーティーイー エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】リー,シェン ヤン
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057654(JP,A)
【文献】特開昭52-067446(JP,A)
【文献】特開2014-185775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/00-32/06
B29C 39/00-39/44,43/00-43/58
45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超薄型静圧気体軸受の製造方法であって、
i.前記超薄型静圧気体軸受のハウジングである基板(20)を設ける工程と、
ii.埋設チューブを準備し、該埋設チューブを、静圧気体軸受の設計に基づいた形状に折り曲げる工程と、
iii.工程(ii)の前記埋設チューブ(20)を、前記基板(10)に取り付け、前記基板(10)に対して、前記埋設チューブ(20)を揃える工程と、
iv.正確な形状寸法の成形用マスタに対して、前記基板(10)を、固定した前記埋設チューブ(20)とともに位置決めする工程と、
v.前記基板(10)および前記成形用マスタの間に封止物質を注入する工程と、
vi.前記封止物質が硬化して、硬化した前記封止物質が、エンケースメント層(70)として前記基板(10)上に固体層を形成した後、前記成形用マスタから前記基板(10)を脱型する工程と、
vii.切削加工により、埋設チューブ(22)に複数のオリフィス(22)を形成する工程と、
を含み、これにより前記超薄型静圧気体軸受を得る、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記埋設チューブ(20)は、内容積を有し、前記基板(10)の表面に固定されて、外部から加圧ガスを供給するガス分配システムを形成する、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加圧ガス供給源(80)により、加圧ガスが前記埋設チューブ(20)に供給される、ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記埋設チューブ(20)の終端には、ガス器具(72)が設けられ、前記埋設チューブ(20)の内容積は、流体連結するよう接続される、ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記静圧気体軸受の設計に合わせた位置に、前記複数のオリフィス(22)が形成される、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のオリフィス(22)は、前記静圧気体軸受の設計に合わせたサイズを有する、ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のオリフィス(22)のそれぞれの直径は、1マイクロメートル~300マイクロメートルである、ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記埋設チューブ(20)の外径は、0.1mm~3mmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記埋設チューブ(20)の壁厚は、0.01mm~0.5mm、好ましくは、0.01mm~0.1mmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記封止物質の全体の厚みは、0.1mm~5mmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記封止物質の全体の厚みは、好ましくは、0.25mm~0.5mmである、ことを特徴とする、請求項1または10に記載の方法。
【請求項12】
前記埋設チューブ(20)の最も高い地点から、硬化した前記封止物質からなる層の表面までで測定した、前記封止物質の被覆厚は、0mm~1mmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記埋設チューブを前記基板に固定する際、接着剤を用いる、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記埋設チューブ(20)は、ステンレス鋼、ガラス、セラミック、ポリマー、または複合材料といった材料からなる、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記埋設チューブ(20)は、円形、矩形、または正方形の断面を有する、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記封止物質を注入する前に、前記成形用マスタに離型剤を塗布する工程をさらに含む、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
a.平面を有する基板(10)と、
b.張り巡らせた埋設チューブ(20)と、
c.エンケースメント層(70)と、
を備え、
前記埋設チューブ(20)は、少なくとも一つのオリフィス(22)を有しており、また、内容積を有し、前記基板(10)の表面に固定されて、加圧ガス供給源(80)により外部から加圧ガスを供給するガス分配システムを形成し、前記埋設チューブ(20)の終端には、ガス器具(72)が設けられ、前記埋設チューブ(20)の内容積は、流体連結するよう接続され、
前記エンケースメント層(70)は、完全に前記埋設チューブ(20)を包むように前記基板(10)の平面に塗布された封止物質からなり、前記封止物質は、張り巡らされた前記埋設チューブ(20)および前記基板(10)の表面を固定する接着剤の役割を果たす、ことを特徴とする、超薄型静圧気体軸受。
【請求項18】
前記オリフィスの直径は、1マイクロメートル~300マイクロメートルである、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項19】
前記埋設チューブ(20)の外径は、0.1mm~3mmである、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項20】
前記埋設チューブ(20)の壁厚は、0.01mm~0.5mm、好ましくは、0.01mm~0.1mmである、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項21】
前記エンケースメント層(70)の全体の厚みは、0.1mm~5mmである、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項22】
前記エンケースメント層(70)の全体の厚みは、好ましくは、0.25mm~0.5mmである、ことを特徴とする、請求項17または21に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項23】
前記埋設チューブ(20)の最も高い地点から、硬化した前記エンケースメント層(70)の表面までで測定した、前記エンケースメント層(70)の被覆厚は、0mm(前記埋設チューブ(20)と接線方向接触の状態)~1mmである、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項24】
前記埋設チューブ(20)は、0.1mm~3mmの外径を有する金属材料からなる、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項25】
前記ガス器具(72)は、前記加圧ガス供給源(80)に接続されている、ことを特徴とする、請求項17に記載の超薄型静圧気体軸受。
【請求項26】
前記被覆厚は、前記埋設チューブ(20)の最も高い地点から、前記エンケースメント層(70)の表面までで測定される、ことを特徴とする、請求項23に記載の超薄型静圧気体軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年7月12日に出願されたシンガポール仮特許出願第10201911803U号の利益を主張するものであり、その内容は全て、参照することにより、本書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、静圧気体軸受、特に、超薄型静圧気体軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
静圧気体軸受とは、外的圧力下にある機体を供給することで、加圧された空気やその他気体の層を形成する、非接触軸受の類である。加圧ガス層は、軸受表面の相手要素から軸受表面を離間する潤滑層としての役割を有し、これにより、スティクションを発生させることなく、粘性摩擦を最小限にしながら、相対運動を可能にする。一般的に、静圧気体軸受は、気体の層への気体流入を制御し、静圧気体軸受に剛性を付与する補正素子を備える。つまり、適切に設計された静圧気体軸受において、潤滑ガスからなる層の厚みを変化させ得る外力によって気体の層内で圧力分散が起こり、外力に抵抗して、元に戻ろうとする力が働く。
【0004】
静圧気体軸受は、使用される補正素子の種類によって、分類がなされる。補正素子の種類には、多孔媒体、オリフィス、毛管、マイクロチャネルなどが含まれる。大半の静圧気体軸受では、潤滑ガスからなる層への注入口に流動制限を設けることによって、補正素子が機能する。静圧気体軸受の性能は、こうした注入口での制限特性に影響されやすいため、注入口での制限特性を繰り返し安価に再現することや、注入口絞り弁に加圧ガスを分配する方法は、先行技術において、数多くの取り組みがなされてきた分野でもある。
【0005】
特許文献1および特許文献2では、多孔性の焼結材料を塑性変形させて、流動制限性を高めた表面領域を形成し、続いて、この流動制限性を高めた層にレーザー光で穴を開けることで、絞りオリフィスを形成することで、オリフィスによって補正がなされる静圧気体軸受が実現され得ることが提示されている。該方法により、(多孔性焼結層において、実現可能な最小厚みを考慮するとミリメートル単位の)実質厚みを有する静圧気体軸受が実現できる。特許文献3では、異方性エッチングを施した単結晶シリコンを使用して、ミクロ単位で静圧気体軸受を製造する方法が提示されているが、この方法では、材料のコストやシリコン系フォトリソグラフィ工程に関する加工コストが高いため、軸受の大型化に比例して、全体のコストも大幅に上がってしまう。特許文献4には、注入口絞り要素としてマイクロチャネルが使用されている静圧気体軸受の設計が開示されているが、マイクロチャネルを外部の加圧ガス供給源と接続するために使用されるガス分配システムは開示されていない。特許文献5には、静圧気体軸受における加圧ガス分配システムの設計が開示されており、ここでは、レーザー光によってオリフィスが下降された複合カバーとともに、凹部および溝部を有するハウジングが使用されている。ハウジング要素の凹部および溝部が、レーザー加工されたオリフィスに加圧ガスを分配する機能を有する。こうした設計によっても、複合カバーの厚みに加え、ハウジング要素の凹部および溝部を収容する必要性から、本開示のものよりも、軸受の厚みが増加してしまう。
【0006】
特許文献6は、ノズルとして複数のマイクロホールを有する静圧気体軸受を製造する方法を開示している。ここで、マイクロホールが形成される領域の素材の厚みが非常に薄くなっており、これにより、その領域にいて、軸受表面の後方からのレーザー光を当てて、マイクロホールが形成できるようになっている。また、ホール形成前に、求められる形状および表面公差を有するよう、軸受表面が加工される。こうした設計の場合、軸受ハウジング要素の後方から、マイクロホール領域を視認できるようにしなければならず、ハウジング要素の製造において、ある程度の複雑さと設計上のコストがかかってしまう。
【0007】
特許文献7は、静圧気体軸受を開示しており、該静圧気体軸受は、基礎層および基礎層から突出する複数の突起体を有する土台と、基礎層を覆い、少なくとも一つの突起体の露出面を露出させる封止層と、を備える。ここで、少なくとも二つの突起体が、封止層によって互いに離間しており、少なくとも二つの突起体は、互いに異なる高さを有し、最も高い突起体の露出面が、封止層から露出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5564063号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0237627号明細書
【文献】欧州特許第0578130号明細書
【文献】米国特許第6164827号明細書
【文献】米国特許第9624981号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0708262号明細書
【文献】米国特許第9739305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、超薄型静圧気体軸受およびその製造方法に関する。本発明は、オリフィスによって補正がなされるタイプ、本質的に補正がなされるタイプ、毛細管現象により補正がなされるタイプ、マイクロチャネルにより補正がなされるタイプ等の静圧気体軸受や、これらの流量補正方法を組み合わせたものを利用する静圧気体軸受に適用可能である。
【0010】
本開示の発明は、超薄型静圧気体軸受を製造する方法に関する。ここで、静圧気体軸受は、供給源によって加圧ガス(例えば、コンプレッサからの制御された出力)を外部から注入口流量制御装置に供給するガス分配システムに関する設計であり、こうした構造を有する静圧気体軸受を製造する方法が提案されている。本発明によれば、金属材料からなる小径のチューブ(外径が0.15mm~3mmの、同業界では「埋設チューブ」として既知のもの)が、基板材料に固定されている。一つの静圧気体軸受において、一本以上の埋設チューブが基板表面に設けられ得る。チューブの内容積が流体連結し、一本以上の埋設チューブが、静圧気体軸受の表面にわたって、加圧ガス分配システムを形成するよう、チューブの内容積が接続される。埋設チューブを張り巡らすことによって形成されたガス分配ネットワークの終端には、一つ以上のガス器具が設けられ、これにより、分配ネットワークが、外部の加圧ガス供給源と接続される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の主な目的は、超薄型気体軸受の製造方法を提供することにあり、該方法は、
(i)軸受ハウジングである基板を設ける工程と、
(ii)埋設チューブを準備し、該埋設チューブを、静圧気体軸受の設計に基づいた形状に折り曲げる工程と、
(iii)工程(ii)の埋設チューブを基板に取り付け、基板に対して、埋設チューブを揃える工程と、
(iv)正確な形状寸法の成形用マスタに対して、基板を、固定した埋設チューブとともに位置決めする工程と、
(v)基板および成形用マスタの間に封止物質を注入する工程と、
(vi)封止物質が硬化して、硬化した封止物質が基板上に固体層を形成した後、成形用マスタから基板を脱型する工程と、
(vii)切削加工により、埋設チューブに複数のオリフィスを形成する工程と、
を含み、これにより超薄型静圧気体軸受を得る。
【0012】
また、本発明のさらなる目的は、超薄型静圧気体軸受を製造する方法を提供することにあり、ここで、オリフィスは、静圧気体軸受の設計に合わせた位置に形成され、オリフィスの大きさも、静圧気体軸受の設計に合わせたサイズである。
【0013】
本発明の別の主たる目的は、超薄型静圧気体軸受を提供することにあり、超薄型静圧気体軸受は、
a.平面を有する基板と、
b.張り巡らせた埋設チューブと、
c.エンケースメント層と、
を備える。
埋設チューブは、少なくとも一つのオリフィスを有しており、また、内容積を有し、基板の表面に固定されて、加圧ガス供給源により外部から加圧ガスを供給するガス分配システムを形成し、埋設チューブの終端には、ガス器具が設けられ、埋設チューブの内容積は、流体連結するよう接続される。
エンケースメント層は、埋設チューブを完全に包むように基板の平面に塗布された封止物質からなり、封止物質は、張り巡らされた埋設チューブおよび基板の表面を固定する接着剤の役割を果たす。
【0014】
本発明の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブが張り巡らされており、チューブは、少なくとも一つのオリフィスを備え、内容積を有し、基板の表面に固定されて、加圧ガス供給源により外部から加圧ガスを供給するガス分配システムを形成し、張り巡らせた埋設チューブの一つ以上の端部には、ガス器具が設けられ、チューブの内容積は、流体連結するよう接続されている。
【0015】
さらに、本発明の別の目的は、超薄型静圧気体軸受を提供することにあり、ここで、加圧ガス供給源は、加圧された空気を静圧気体軸受に供給可能なコンプレッサである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、オリフィスの直径は、1マイクロメートル~300マイクロメートルであり、埋設チューブの外径は、0.1mm~3mmである。
【0017】
本発明のさらなる別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブの壁厚は、0.01mm~0.5mm、好ましくは、0.01mm~0.1mmであり、エンケースメント層の全体の厚みは、0.1mm~5mmであり、埋設チューブは、ステンレス鋼、ガラス、セラミック、ポリマー、またはそれらの複合を含む。
【0018】
さらに、本発明の別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、基板表面からエンケースメント層表面までの厚みは、0.25mm~0.5mmである。
【0019】
さらに、本発明の別の目的亜は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブの最も高い地点から、硬化したエンケースメント層の表面までで測定した、エンケースメント層の被覆厚は、0mm~1mmである。
【0020】
本発明のさらなる別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブを前記基板に固定する際、接着剤を用いる。
【0021】
本発明のさらなる別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、エンケースメント層は、液体状の封止物質を塗布し、続いて、該物質を硬化させることで形成され、成形用マスタの形状寸法を再現した固体エンケースメント層を作製できる。
【0022】
また、本発明のさらなる目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブは、ステンレス鋼、ガラス、セラミック、ポリマー、または複合材料といった材料からなる。
【0023】
本発明の別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、ここで、埋設チューブは、円形、矩形、または正方形の断面を有する。
【0024】
また、本発明のさらなる別の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法を提供することにあり、該製造方法は、封止物質を注入する前に、成形用マスタに離型剤を塗布する工程をさらに含む。
【0025】
これ以降で明らかにされる本発明の目的やその他の目的は、超薄型静圧気体軸受の製造方法によって実現される。
【0026】
以下の詳細な説明および添付の図面を参照し、本発明の理解をさらに深めていく。添付の図面は、あくまで図示例であり、本発明を限定する意図はない。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明による超薄型静圧気体軸受の断面図である。
図2図2は、本発明による超薄型静圧気体軸受の平面図である。
図3図3は、本発明のエンケースメント層にある埋設チューブのオリフィスを模式的に示す。
図4図4は、本発明の好ましい実施形態における、製造フローチャートである。
図5図5は、本発明による静圧気体軸受に一体化された鉄芯リニアモータを示す斜視図である。
図6図6は、本発明による静圧気体軸受の製造を示す斜視図である。
図7図7は、本発明による静圧気体軸受に一体化されたリニアモータフォーサの断面図を模式的に示す。
図8図8は、本発明のエンケースメント層を形成する、封止樹脂注入路を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して、本発明の詳細を説明する。ここで、本発明の複数の図面を通して、同一の符号は、同一あるいは類似の構成要素を示す。
【0029】
図1の断面図を参照すると、本発明の第1の実施形態による静圧気体軸受は、基板10と、基板10の上面に取り付けられた、静圧気体軸受厚み12を有するエンケースメント層70と、を備える。ここで、エンケースメント層70は、複数のオリフィス22を有する埋設チューブ20を含む。基板10は、エンケースメント層70に覆われ、埋設チューブ20は、エンケースメント層70内に、そのエッジに沿って存在する。複数のオリフィス22は、エンケースメント層70の表面または周辺121に面する。換言すると、オリフィス22は、エンケースメント層70の外側と流体連結状態にある。本発明によれば、埋設チューブ20は、エンケースメント層70上にループ状に配置される。埋設チューブ20の一端は、ガス器具72に接続され、該ガス器具は、静圧気体軸受が作動している間、加圧ガス供給源80に接続されている。
【0030】
図2は、本発明による超薄型静圧気体軸受の平面図である。図示の通り、埋設チューブ20は、エンケースメント層70のエッジに沿って配置されており、その配置はループ状になっている。埋設チューブ20のガス器具72は、エンケースメント層70の一横端に位置する。ここで、ガス器具72は、加圧ガス供給源80に接続され、加圧ガスが供給されて、静圧気体軸受が作動する。
【0031】
図3は、本発明のエンケースメント層70に位置する埋設チューブ20のオリフィスを模式的に示している。静圧気体軸受のエンケースメント層70には、埋設チューブ20が位置しており、複数のオリフィス22がエンケースメント層70の外部に面する埋設チューブ20上に形成されている。埋設チューブ20のオリフィス22は、レーザー加工により形成される。
【0032】
図4は、本発明の好ましい実施形態による、製造フローチャートである。まず、工程110で基板10を準備する。基板10は、選択的に、モジュール軸受、一体化軸受の機械構造の一部、あるいは、鉄芯リニアモータフォーサの一部に特化した、軸受ハウジングであってもよい。次の工程120では、埋設チューブ20が準備され、静圧気体軸受の特定の設計に合わせた形状に形成される。本発明による方法の第3工程130では、事前に形成された埋設チューブ20を基板10上に貼り付け、貼り付け時に接着剤を使用する。あるいは、治具を使用して、基板10を適切な場所に位置決めすることにより、基板10に対して、埋設チューブ20を正確に揃える。
【0033】
次の工程である工程140では、事前に形成され、貼り付けられた埋設チューブ20とともに、基板10を、正確な形状寸法を有する成形用マスタに対して位置決めする。平面上のスラスト軸受の場合、適切な形状寸法における正確性および表面仕上げを有する実質平面が使用される。続いての工程は、工程150である。この工程150では、基板10および成形用マスタの間に封止物質が注入され、注入前には、離型剤が成形用マスタに塗布される。工程150の封止物質が硬化すると、工程160では、基板10を成形用マスタから脱型する。硬化した封止物質によって、固体エンケースメント層が基板上に形成され、該エンケースメント層は、成形用マスタの、形状寸法における正確性および表面仕上げが再現されたものとなっている。これが、本発明による方法の工程160である。
【0034】
続いて、軸受設計に基づいて基板10上の埋設チューブ20を加工することで、複数のオリフィスを正確なサイズ感で、また、オリフィス22として正確な位置で、形成する。オリフィス22の加工はレーザー装置等で実施する。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、超薄型気体軸受の製造方法は、以下の工程を含む。
(i)軸受ハウジングである基板10を設ける工程
(ii)埋設チューブ20を準備し、該埋設チューブ20を、気体軸受の設計に基づいた形状に折り曲げる工程
(iii)工程(iii)の埋設チューブ20を基板10に取り付け、基板10に対して、埋設チューブ20を揃える工程
(iv)正確な形状寸法の成形用マスタに対して、基板10を、固定した埋設チューブ20とともに位置決めする工程
(v)基板10および成形用マスタの間に封止物質を注入する工程
(vi)封止物質が硬化して、硬化した封止物質が、エンケースメント層として基板10上に固体層を形成した後、成形用マスタから基板10を脱型する工程
(vii)気体軸受設計に基づいて、切削加工により複数のオリフィス22を形成する工程
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、埋設チューブ20において、気体軸受設計に合わせた位置にオリフィス22が形成され、オリフィス22は、気体軸受設計に合わせたサイズを有する。
【0037】
埋設チューブ20のオリフィス22の直径は、1マイクロメートル~300マイクロメートルであり、埋設チューブ20の外径は、0.1mm~3mmである。埋設チューブ20の壁厚は、0.01mm~0.5mm、好ましくは、0.01mm~0.1mmである。
【0038】
封止樹脂/エンケースメント層70の全体の厚みは、0.1mm~5mmであり、これは、基板10の表面から硬化したエンケースメント層70の表面までを測定して得た値である。全体の厚みは、好ましくは、0.25mm~0.5mmであり、封止樹脂等の封止物質を使用して、エンケースメント層70を形成し、埋設チューブ20に固定する。本発明によれば、埋設チューブ20の最も高い地点から、硬化した樹脂層70の表面までで測定した、エンケースメント層70の被覆厚は、0mm~1mmである。埋設チューブ20を基板10に固定する際に使用する接着剤は、エポキシ系構造用接着剤、UV硬化接着剤、シアノアクリレート接着剤等である。
【0039】
本発明において、埋設チューブ20は、ステンレス鋼、ガラス、セラミック、ポリマー、または複合材料等の材料からなり、埋設チューブ20は、円形、矩形、または正方形の断面を有し、埋設チューブ20は、加圧ガスの最大使用圧力に耐えうる強度を有する。
【0040】
上記の工程(v)では、封止樹脂を基板10および成形用マスタの間に注入する前段階で、離型剤が成形用マスタに塗布される。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、本開示の発明は、オリフィスによって補正がなされるタイプ、本質的に補正がなされるタイプ、毛細管現象により補正がなされるタイプ、マイクロチャネルにより補正がなされるタイプ等の静圧気体軸受や、これらの流量補正方法を組み合わせたものを利用する静圧気体軸受に適用可能である。供給源によって加圧ガス(例えば、コンプレッサからの制御された出力)を外部から注入口流量制御装置に供給するガス分配システムが開示される。
【0042】
静圧気体軸受単体において、一本以上の埋設チューブ20が基板10の表面に設けられる。チューブ20が流体連結し、一本以上の埋設チューブ20が静圧気体軸受の表面にわたって、加圧ガス分配システムを形成するよう、埋設チューブ20の内容積が接続される。埋設チューブを張り巡らせたことによるガス分配ネットワークは、一つ以上のガス器具72で終端する。これにより、分配ネットワークが、図2に示すように、外部の加圧ガス供給源80と接続される。
【0043】
スラスト静圧気体軸受の場合、基板10は実質平面を有する。しかし、例えば、限定はされないが、ジャーナル軸受用の、実質円筒面のように、自由度に合わせて、その他の軸受表面構造を採用してもよい。ただし、基板表面の幾何学的・寸法的公差は、後工程で最終的に形成される軸受面において、実質緩和される。公差を緩和することにより、コスト削減を実現し、また、静圧気体軸受の設計を、例えば、機械に搭載された可動キャリッジ等の種々の基板上に直接実現し、緊密な一体化および最大限の小型化を実現する。埋設チューブ20は、接着剤やその他の固定方法によって、選択的に基板10に固定されていてもよく、これにより、平面上の位置を保ったり、あるいは、緩めておいたりすることができる。
【0044】
図5は、本発明による静圧気体軸受に一体化された、鉄芯リニアモータを示す斜視図であり、図6は、本発明による静圧気体軸受の製造を示す斜視図である。
【0045】
図5を参照すると、本発明の静圧気体軸受に内蔵された鉄芯リニアモータ50が示されている。ここで、超薄型静圧気体軸受は、リニアモータフォーサ50およびリニアモータステータ30の間に位置いている。
【0046】
図6に示す通り、埋設チューブ20に固定されたエンケースメント層70は、リニアモータフォーサ50とリニアモータステータ30の間に位置する。埋設チューブ20は、本発明の静圧気体軸受のガス分配システムとして形成される。
【0047】
静圧気体軸受の製造方法によれば、エンケースメント用化合物を基板10の表面に塗布する。これにより、図1に示す通り、エンケースメント用化合物が完全に埋設チューブ20を覆って、硬化すると、エンケースメント層70が得られる。硬化したエンケースメント用化合物は、張り巡らされた埋設チューブ20および基板10の表面の両方を接着するよう形成されることが理想である。好ましい実施形態では、複製マスタが、高性能な静圧気体軸受を形成できるような、適切な形状公差および面粗度を有するよう、加工され、そのマスタを、エンケースメント用化合物の硬化工程中に、静圧気体軸受に対して使用する。これにより、エンケースメント用化合物が硬化すると、さらなる加工を必要とすることなく、静圧気体軸受表面としてそのまま使用できほど正確な表面を得ることができる。
【0048】
他の実施形態では、硬化したエンケースメント層に、ミリング加工、旋盤加工、研削、研磨といったさらなる加工を施してもよく、これにより、静圧気体軸受に適した表面形状および粗度を得ることができる。
【0049】
エンケースメント用化合物の硬化や任意の表面加工工程を行った後に、図3に示す通り、レーザー光等の定方向高出力ビームを、軸受表面から埋設チューブ20の内容積を通すことで、少なくとも一つのオリフィス22を形成してもよい。別の好ましい実施形態では、オリフィス22の切削を、切削機械等によって、機械的に行う。さらに他の実施形態では、オリフィス22は、硬化したエンケースメント層および埋設チューブ壁のエッチングによって、化学的に形成される。こうして外部の軸受表面および埋設チューブ20の内容積の間に形成されたオリフィス22は、静圧気体軸受の、潤滑ガスからなる層に対し、加圧ガスを外部から供給するよう機能する。
【0050】
本発明によれば、加圧ガス分配ネットワークを形成する埋設チューブ20を使用することで、薄型の気体軸受を得る。ここで開示される発明によれば、その全体厚みが、使用される埋設チューブ20の外径と同等の静圧気体軸受を得ることができる。静圧気体軸受によって案内される構造(例えば、工具の可動キャリッジ)をそのまま基板として使用し、張り巡らせた埋設チューブを完全に覆うためだけにエンケースメント用化合物を準備して、埋設チューブ20の外部の表面に実質的に接する軸受面を形成した場合、厚さを最小限におさえることができる。
【0051】
本発明は、種々の補正方法を伴う静圧気体軸受に関する。好ましい実施形態では、埋設チューブ20の大きさが調整される。これにより、断面積および特徴的な流動長によって、軸受表面から埋設チューブ20の内容積を掘削して得たオリフィス22よりも、実質的に低い楕円形の流動絞りを得る。この好ましい実施形態では、掘削されたオリフィス22によって、1次流動絞りが形成され(ベルヌーイ減少による圧力低下)、これにより、オリフィスにより補正がなされる、または本質的に補正がなされる静圧気体軸受が得られる。別の好ましい実施形態では、張り巡らされた埋設チューブ20の大きさを調整してもよく、オリフィス22での抵抗よりも高い管状流動制限(ハーゲン・ポアズイユ減少による圧力低下)を実現する。これにより、粘度を有する流動性質に好んで適用される、毛細管現象により補正がなされる静圧気体軸受を得る。さらに好ましい実施形態では、成形用マスタのパターンを複製することで、あるいは、硬化後に加工を施すことで、軸受表面に複数のマイクロチャネルを形成する。張り巡らされた埋設チューブ20およびオリフィス22の両方の大きさを調整することで、張り巡らされたマイクロチャネルで効果的な流路制限が得られる。これにより、マイクロチャネルにより補正がなされる静圧気体軸受が得られる。さらに好ましい実施形態では、埋設チューブ20、オリフィス22、そして軸受表面の任意のマイクロチャネルの大きさを調節することで、それらが組み合わさって、ハイブリッド方式の補正を行う静圧気体軸受を得ることができる。
【0052】
図7は、本発明による静圧気体軸受に一体化されたリニアモータフォーサの断面図を模式的に示すものであり、図8は、本発明のエンケースメント層を形成するための封止樹脂注入路を示す断面図である。図7に示す通り、エンケースメント層70は、張り巡らされた埋設チューブ20とともに、リニアモータフォーサ50およびリニアモータ ステータ30の間に位置する。
【0053】
図7および図8に示す好ましい実施形態は、平面スラスト静圧気体軸受である。本開示の設計を使用すれば、代替の実施形態として、ジャーナル、球体、放射状といったその他の種類の静圧気体軸受も実現可能である。
【0054】
図8に示すように、封止樹脂等の封止物質が、基板10上の矢印24で示す注入路に沿って注入されることで、事前に形成された埋設チューブ20を基板10に貼り付けることができる。封止物質の注入時に、そして、封止物質の硬化工程の一部あるいは全体を通して、位置揃えねじ26および固定板28を使用することで、基板10を確実に固定することができる。
【0055】
以上、本発明を説明したが、種々の変更が加えられ得ることは明らかである。こうした変更は、本発明の主旨および範囲からの逸脱には当たらず、これらの変更がすべて、添付の請求項の範囲に含まれ得ることは、当業者にとっても明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8