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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】吸水剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240805BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240805BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240805BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20240805BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20240805BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 3/04 20060101ALI20240805BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B01J20/26 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
A61F13/53 300
A61L15/22 200
C08F20/06
C08L3/04
C08L33/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022536360
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026205
(87)【国際公開番号】W WO2022014550
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020120248
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】光上 義朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】和田 高明
(72)【発明者】
【氏名】井上 聖都
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077157(JP,A)
【文献】特開昭64-062317(JP,A)
【文献】特開平08-089796(JP,A)
【文献】特開昭54-053165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
A61F 13/15-13/84
A61L 15/22
C08F 6/00-246/00,301/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08C 19/00-19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類、および還元剤を含む吸水剤組成物の製造方法であって、
該吸水剤組成物の製造工程として、重合工程、ゲル粉砕工程、乾燥工程、および表面架橋工程をこの順に含み、
重合工程の終了後であって、ゲル粉砕工程の開始前、開始時および、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに、前記多糖類を添加するとともに、
重合工程の終了後であって、ゲル粉砕工程の開始前から表面架橋工程の開始前の間に、前記還元剤を添加し、
該重合工程の開始時から該表面架橋工程の終了時までの何れかの段階で、該重合工程に導入される単量体組成物、および重合工程終了後の工程で添加される該多糖類の合計質量に対して、該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10ppm~100000ppm添加することを特徴とする吸水剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記表面架橋工程は、100~250℃での表面架橋反応を含むことを特徴とする請求項に記載の吸水剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水剤組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂(SAP/Super Absorbent polymer)は、水膨潤性水不溶性の架橋重合体であり、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)、農園芸用の土壌保水剤、工業用の止水剤等、様々な吸水性物品において利用されている。
【0003】
また近年、地球環境の負荷低減、資源保護、カーボンニュートラル、SDGs(持続可能な開発目標)等の観点に基づき、さらには生分解性を備えることが好ましいことから、一般に、石油等の枯渇性エネルギー資源に替えて、現生生物体構成物質である再生可能な動植物由来の有機性資源である、いわゆるサステナブル(持続可能な)原料を利用しようとする動きが活発化している。そして、吸水性樹脂の分野においても、サステナブル原料として天然物由来の多糖類を少なくとも一部に用いる研究が進められている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、アクリル酸ナトリウムとデンプンとをグラフト重合してなるデンプングラフトポリアクリル酸ナトリウムが吸水性樹脂として市販されていることが記載されている。特許文献1および2には、前記吸水性樹脂(デンプングラフトポリアクリル酸ナトリウム)の製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、吸水性樹脂の任意の製造工程においてデンプン化合物を添加する超吸収性組成物(吸水性樹脂組成物)の製造方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献5および6にも、吸水性樹脂の重合後の含水ゲル状架橋重合体にデンプンなどの多糖類を混合する吸水性樹脂の製造方法が記載されている。特許文献7~9にもセルロースが原料として混合されたポリアクリル酸系吸水性樹脂が提案されている。特許文献10~12にもデンプンが原料として混合されたポリアクリル酸系吸水性樹脂が提案されている。特許文献13には変性デンプン架橋体からなる吸水性樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US4,076,663
【文献】日本国特開昭54-53165号公報
【文献】日本国特開平1-062317号公報
【文献】日本国特表2009-528412号公報
【文献】EP0476574A2
【文献】US5,340,853
【文献】日本国特開2009-185216号公報
【文献】日本国特開2009-242466号公報
【文献】日本国特開2012-031217号公報
【文献】日本国特開H07-228640号公報
【文献】日本国特開2013-034942号公報
【文献】日本国特開2011-213759号公報
【文献】日本国特開2013-253262号公報
【文献】WO2011/126079
【文献】WO2016/158975
【文献】WO2016/204302
【文献】日本国特開2001-79829号公報
【文献】日本国特開昭63-118375号公報
【文献】日本国特開2004-210924号公報
【文献】日本国特開2003-206305号公報
【文献】日本国特開2005-29751号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本薬局方外医薬品成分規格(1989)1319~1320頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸水性樹脂自体は本来白色であるが、吸水性樹脂は主におむつおよび生理用ナプキン等に使用され、その際白色のパルプと混合されて使用されるため、見た目の衛生感の点から吸水性樹脂の着色は一般的に許容されない。ところが、前記特許文献1~13で使用されるデンプンに代表される多糖類は、一般に耐熱性に乏しい。このため、製造過程で単量体または吸水性樹脂に多糖類を添加して得られる吸水剤組成物は、当該製造過程における高温条件下での工程(例えば、水を含む吸水性樹脂(含水ゲル状架橋重合体)の高温での乾燥工程、または、高温での表面架橋工程)によって茶褐色等に着色するという問題点を有している。また、高温での乾燥処理および高温での表面架橋処理を行うことが困難であることから、前記着色を抑制するために低温で乾燥等を行うと、吸水剤組成物の物性および生産性が低下するという不都合も生じる。つまり、多糖類を含む吸水剤組成物は、その製造過程において、高温条件下(100℃以上の加熱条件下)に置くと着色する。その着色を抑制するために、製造工程(若しくは製造条件)に制限が生じることになる。吸水性樹脂の物性向上を目的として乾燥後にも表面架橋が行われるが、かかる製造条件(乾燥条件や表面架橋条件)の制約によって、一般に多糖類を含む吸水性樹脂は物性的に低いもの、あるいは高価なものになる。
【0010】
それゆえ、サステナブル原料として多糖類を少なくとも一部に用いても、生産性が低下することなく、高温条件下(100℃以上の加熱条件下)での製造工程(若しくは製造条件)でも着色することがない、高品質(および、安定した品質)の吸水剤組成物およびその製造方法が求められている。
【0011】
即ち、本発明の一態様は、サステナブル原料として多糖類を少なくとも一部に用いても、生産性が低下することなく、製造過程での加熱によって着色を生じることのない、即ち、高温条件下(100℃以上の加熱条件下)での製造工程(若しくは製造条件)でも着色することがない、高品質(および、安定した品質)の吸水剤組成物およびその製造方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討した結果、還元剤が吸水性樹脂(特に含水ゲル状架橋重合体)と混合された多糖類(特にデンプン)の高温加熱時の着色防止に有効であることを見出し本発明を完成した。すなわち、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類および還元剤を含む吸水剤組成物であって、該吸水剤組成物は表面架橋されており、該吸水剤組成物が該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10ppm~10000ppm含有し、該吸水剤組成物の着色度(YI値)が60以下である吸水剤組成物によって、上述した課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔11〕に記載の発明を含む。
【0014】
〔1〕ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類および還元剤を含む吸水剤組成物であって、該吸水剤組成物は表面架橋されており、該吸水剤組成物が該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10ppm~10000ppm含有し、該吸水剤組成物の着色度(YI値)が60以下であることを特徴とする吸水剤組成物。
【0015】
〔2〕前記還元剤が硫黄原子を含む無機化合物、硫黄原子を含む有機化合物、および燐原子を含む無機化合物からなる群より選択される1種類以上の化合物を含む還元剤である、〔1〕に記載の吸水剤組成物。
【0016】
〔3〕前記還元剤が亜硫酸水素ナトリウムおよび/または亜硫酸ナトリウムである、〔1〕または〔2〕に記載の吸水剤組成物。
【0017】
〔4〕前記多糖類がデンプンおよび/またはデンプン変性物である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の吸水剤組成物。
【0018】
〔5〕前記吸水剤組成物中の残存モノマーが1000ppm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の吸水剤組成物。
【0019】
〔6〕0.3kPaの加圧下における加圧下吸水倍率(AAP0.3)が、10g/g以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の吸水剤組成物。
【0020】
〔7〕ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類、および還元剤を含む吸水剤組成物の製造方法であって、該吸水剤組成物の製造工程として、重合工程、乾燥工程、および表面架橋工程をこの順に含み、該重合工程の開始時から該表面架橋工程の終了時までの何れかの段階で、該重合工程に導入される単量体組成物および該多糖類の合計質量に対して、該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10ppm~100000ppm添加することを特徴とする吸水剤組成物の製造方法。
【0021】
〔8〕重合工程の終了時以降に、前記多糖類を添加する、〔7〕に記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0022】
〔9〕重合工程と乾燥工程との間にゲル粉砕工程をさらに含み、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時および、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに、前記多糖類を添加する、〔7〕または〔8〕に記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0023】
〔10〕重合工程の終了時以降から乾燥工程の開始時までに、前記還元剤を添加する、〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0024】
〔11〕重合工程と乾燥工程の間にゲル粉砕工程をさらに含み、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)から表面架橋工程の開始前の間に、前記還元剤を添加する、〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0025】
〔12〕重合工程と乾燥工程の間にゲル粉砕工程をさらに含み、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)および/または開始時に、前記還元剤を添加する、〔7〕~〔11〕に記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0026】
〔13〕重合工程と乾燥工程との間にゲル粉砕工程をさらに含み、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時および、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに、前記多糖類を添加するとともに、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)から表面架橋工程の開始前の間に、前記還元剤を添加する、〔7〕に記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0027】
〔14〕前記表面架橋工程は、100~250℃での表面架橋反応を含むことを特徴とする〔7〕~〔13〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法。
【0028】
〔15〕〔7〕~〔14〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法により製造された、吸水剤組成物。
【0029】
また、本発明は、〔16〕重合工程と乾燥工程の間にゲル粉砕工程をさらに含み、重合工程で得られた含水ゲル状架橋重合体を、当該含水ゲル状架橋重合体の固形分換算の質量平均粒子径d1が1mm以下となるようにゲル粉砕する、〔7〕~〔14〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法。;〔17〕前記多糖類がデンプンおよび/またはデンプン変性物である、〔7〕~〔14〕および〔16〕のいずれかに記載の吸水剤組成物の製造方法。;〔18〕前記デンプンおよび/またはデンプン変性物の粒子径が1~1000μmである、〔17〕に記載の吸水剤組成物の製造方法。;でもある。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、サステナブル原料として多糖類を少なくとも一部に用いても、生産性が低下することなく、製造過程での加熱によって着色を生じることのない、即ち、高温条件下(100℃以上の加熱条件下)での製造工程(若しくは製造条件)でも着色することがない、高品質(および、安定した品質)の吸水剤組成物およびその製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に関して詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ記載された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味し、「ppm」は、「質量ppm」または「重量ppm」を意味する。また、「(メタ)アクリル」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味し、「質量」と「重量」は、同義語であると見なす。さらに、吸水性樹脂、吸水性樹脂組成物および吸水剤組成物等の質量は、特に記載のない限り、固形分に換算した数値を表す。
【0032】
〔1〕用語の定義
〔1-1〕吸水性樹脂、吸水性樹脂組成物、吸水剤組成物
本明細書において、吸水性樹脂とは、水膨潤性水不溶性の架橋重合体を意味し、一般的に粒子状である。また、水膨潤性とは、NWSP 241.0.R2(15)で規定される無加圧下吸水倍率(CRC)が5g/g以上であることを意味し、水不溶性とは、NWSP 270.0.R2(15)で規定される可溶分(Ext)が50質量%以下であることを意味する。
【0033】
前記吸水性樹脂は、カルボキシル基を有する不飽和単量体を架橋重合させてなる親水性の架橋重合体である。
【0034】
また、本明細書において、前記吸水性樹脂は、「内部のみが架橋された重合体、つまり、内部と表面の架橋密度が実質的に同じである重合体」または「内部と表面とが架橋された重合体、つまり、表面の架橋密度が内部の架橋密度に対して相対的に高い重合体」を指す場合がある。
【0035】
本明細書において、前記「内部のみが架橋された重合体」と前記「内部と表面とが架橋された重合体」は原則、区別することなく、何れも「吸水性樹脂」と表記する。但し、表面架橋の有無について明確に区別する必要がある場合は、前記「内部のみが架橋された重合体」は表面架橋が施される前であるため、「表面架橋前の吸水性樹脂」または「ベースポリマー」と表記し、前記「内部と表面とが架橋された重合体、つまり、表面の架橋密度が内部の架橋密度に対して相対的に高い重合体」は表面架橋が施された後であるため、「表面架橋後の吸水性樹脂」または「表面架橋された吸水性樹脂」と表記する。なお、「表面架橋前」とは、「表面架橋剤を添加する前」または「表面架橋剤が添加された後であっても加熱処理による表面架橋反応が始まる前」のことを意味する。
【0036】
なお、本明細書においては、「吸水性樹脂」とは樹脂成分のみを指し、添加剤等の樹脂以外の成分を含む場合には「吸水性樹脂組成物」と表記する。さらに、前記表面架橋されていない吸水性樹脂に添加剤等が含まれる場合には「表面架橋前の吸水性樹脂組成物」または「ベースポリマー組成物」と表記し、前記表面架橋された吸水性樹脂に添加剤等が含まれる場合には「表面架橋後の吸水性樹脂組成物」または「表面架橋された吸水性樹脂組成物」と、それぞれ表記する。
【0037】
さらに、本明細書において、最終製品として出荷する段階での「吸水性樹脂組成物」を特に「吸水剤組成物」と表記する。
【0038】
〔1-2〕アクリル酸(塩)系単量体組成物、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂
本明細書において、アクリル酸(塩)とはアクリル酸および/またはその塩を意味し、アクリル酸(塩)系単量体組成物とは、内部架橋剤を除く単量体全体に対して、アクリル酸(塩)を50モル%以上含む単量体組成物を意味する。
【0039】
本明細書において、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂とは、前記のアクリル酸(塩)系単量体組成物を原料として用いて得られた架橋重合体を意味する。つまり、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を構成する構造単位全体に対して、アクリル酸(塩)由来の構造単位を50モル%以上有する架橋重合体であり、任意成分としてグラフト成分を有する架橋重合体である。
【0040】
具体的には、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂は、重合反応に関与する単量体成分のうち、内部架橋剤を除いた部分に対して、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であって、好ましくは100モル%以下、特に好ましくは実質100モル%のアクリル酸(塩)を原料として用いて得られた重合体である。
【0041】
また、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を主成分とする、吸水性樹脂組成物または吸水剤組成物とは、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を50質量%以上含む組成物を意味する。
【0042】
〔1-3〕NWSP
NWSPは、Non-Woven Standard Procedures-Edition 2015の略称であり、EDANA(European Disposables and Nonwovens Associations:欧州不織布工業会)とINDA(Association of the Nonwoven Fabrics Industry:北米不織布工業会)とが共同で発行した、欧州および米国において統一された、不織布およびその製品の評価方法である。また、NWSPには、吸水性樹脂の標準的な測定方法も示されている。本明細書では、NWSP原本(2015年)に準拠して、吸水性樹脂(吸水性樹脂組成物、または吸水剤組成物)の物性を測定する。
【0043】
なお、本明細書では別途言及しない限り、吸水性樹脂、吸水性樹脂組成物または吸水剤組成物の各種物性の測定方法は、下記実施例での測定方法に従う。
【0044】
〔2〕吸水剤組成物
本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類および還元剤を含む吸水剤組成物であって、該吸水剤組成物は表面架橋されており、該吸水剤組成物が該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10~10000ppm含有し、該吸水剤組成物の着色度(YI値)が60以下である。
【0045】
前記吸水剤組成物は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂と多糖類とが混合および/または混練された形態(該吸水性樹脂と該多糖類とが混ぜ合わされて一体化した状態)が表面架橋されている。該吸水性樹脂と該多糖類とが混ぜ合わされて一体化した状態が表面架橋されていることが好ましい。例えば、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂に多糖類が練りこまれた複合樹脂、および、多糖類の存在下でアクリル酸(塩)系単量体と内部架橋剤とを原料として重合して得られた、ポリアクリル酸(塩)-多糖類の複合体等が表面架橋されている形態が挙げられる。吸水剤組成物は、単独で存在するポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂および/または多糖類を含んでいてもよく、前記複合樹脂の表面に露出した多糖類が、表面架橋されていない部分があってもよい。
【0046】
〔ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂〕
ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂(以下、単に「吸水性樹脂」と称する)は、アクリル酸(塩)系単量体を主成分として含む単量体組成物を、重合開始剤の存在下で重合して得られる架橋重合体である。
【0047】
(a)単量体
吸水性樹脂(ポリマー)を形成する原料成分(モノマー)であり、アクリル酸(塩)系単量体、アクリル酸(塩)系単量体以外の単量体および、内部架橋剤がある。吸水性樹脂を形成するモノマー全量は、単量体組成物である。アクリル酸(塩)系単量体としては、(メタ)アクリル酸およびその塩が挙げられる。
【0048】
単量体組成物に含まれてもよいアクリル酸(塩)系単量体以外の単量体としては、不飽和二重結合を有する単量体(エチレン性不飽和単量体)のうち、酸基を含有する単量体が好ましい。当該単量体としては、具体的には、(無水)マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、およびそれらの塩が挙げられる。これら単量体は、必要に応じて一種類または二種類以上用いられる。
【0049】
前記塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩がより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0050】
また、アクリル酸(塩)系単量体を主成分として含む単量体組成物は、10~90モル%の範囲で中和されていることが好ましく、40~80モル%の範囲で中和されていることがより好ましく、60~75モル%の範囲で中和されていることが特に好ましい。
【0051】
従って、アクリル酸(塩)系単量体を主成分として含む単量体組成物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸(水素)ナトリウム、炭酸(水素)カリウム等の炭酸(水素)塩、アンモニア等の一価の塩基性化合物を含む中和液で中和されていることが好ましく、水酸化ナトリウムを含む中和液で中和されていることが特に好ましい。
【0052】
なお、単量体組成物は、重合した後に中和されてもよい。即ち、含水ゲル状架橋重合体(以下、「含水ゲル」と称する)を中和して中和物としてもよい。但し、吸水性樹脂の生産性、各種物性等を考慮すれば、中和された単量体組成物を用いて重合し、含水ゲルを得ることがより好ましい。
【0053】
また、単量体組成物は、必要に応じて、上述した単量体以外に、親水性または疎水性の不飽和単量体(以下、「他の単量体」と称する)を含んでいてもよい。当該他の単量体としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアリルアクリレート等が挙げられる。他の単量体の使用量は、得られる吸水剤組成物の物性を損なわない程度であればよく、具体的には、単量体組成物の内部架橋剤を除いた部分に対して、50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
【0054】
(b)内部架橋剤
内部架橋剤としては、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリオキシエチレン)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(β-アクリロイルオキシプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(β-アクリロイルオキシプロピオネート)、ポリ(メタ)アリロキシアルカン等の、分子内に重合性二重結合を少なくとも2個有する化合物;ポリグリシジルエーテル(エチレングリコールジグリシジルエーテル等)、ポリオール(エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等)等の、カルボキシル基と反応して共有結合を形成し得る化合物;等が挙げられ、分子内に重合性二重結合を少なくとも2個有する化合物がより好ましい。これら内部架橋剤は、必要に応じて一種類または二種類以上用いられる。
【0055】
内部架橋剤は、得られる吸水剤組成物の物性を考慮して、前記の単量体組成物から内部架橋剤を除くモノマー全量に対して、5.0モル%以下の範囲で用いることが好ましく、2.0モル%以下の範囲で用いることがより好ましく、0.5モル%以下の範囲で用いることがさらに好ましく、0.1モル%以下の範囲で用いることが特に好ましく、0.01~0.1モル%の範囲で用いることが最も好ましい。また、内部架橋剤による架橋方法と、重合時のラジカル自己架橋、放射線架橋等の公知の架橋方法とを併用することもできる。
【0056】
(c)重合開始剤
重合開始剤としては、例えば、光分解型重合開始剤、熱分解型重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、前記単量体組成物から内部架橋剤を除くモノマー全量に対して、0.0001~1モル%の範囲が好ましく、0.0005~0.5モル%の範囲がより好ましい。光分解型重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン誘導体、ベンジル誘導体、アセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、アゾ化合物等が挙げられる。熱分解型重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム)、過酸化物(過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド)、アゾ化合物(2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド等)等が挙げられる。レドックス系重合開始剤としては、例えば、前記過硫酸塩または過酸化物(酸化剤)と、L-アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム等の還元性化合物(還元剤)とを組み合わせた開始剤が挙げられる。そして、レドックス系重合開始剤を用いる場合には、重合工程を経て最終製品となる吸水剤組成物に含有する未反応の単量体(残存モノマー)の量を低減することができることから、過硫酸塩を組み合わせることがより好ましい。
【0057】
また、光分解型重合開始剤および熱分解型重合開始剤を併用することも、好ましい態様である。この場合の併用比率(モル比)は、適宜設定すればよいが、1/100~100/1が好ましく、1/10~10/1がより好ましい。
【0058】
なお、重合開始剤として用いられる過硫酸塩および過酸化物は、単量体組成物の重合時に消費され、得られる吸水剤組成物に残留しない。
【0059】
また、重合開始剤と併用して、または併用しないで、紫外線等の活性エネルギー線を用いて重合を行うこともできる。
【0060】
(d)溶媒
単量体組成物の重合時に用いられる溶媒は、特に限定されない。即ち、単量体組成物の重合には、公知の溶媒を適宜用いることができる。前記公知の溶媒として、脱イオン水(イオン交換水)が好ましく、該脱イオン水(イオン交換水)を用いて得られた単量体組成物を、特に単量体水溶液と称する。
【0061】
〔多糖類〕
本発明で使用できる多糖類としては、例えば、生物体内から得られる天然の多糖類、または、その変性物が挙げられる。これらの多糖類は、石油等の化石原料を使用していないため、再生可能原料といえる。当該多糖類は、単糖類反復単位を含む骨格を有するポリマーである。多糖類としては、例えば、デンプン、アミロペクチン、アミロース、セルロース、ガラクトマンナン、グルコマンナン、キサンタンガム、カラギーナン、キチン、キトサン、およびこれらの変性物等が挙げられる。デンプンとしては、例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、小麦デンプン、タピオカデンプン、ワキシーコーンデンプン、米デンプン、甘藷デンプン等が挙げられる。セルロースとしては、例えば、木綿、木材由来のパルプ、バクテリアセルロース、リグノセルロース、再生セルロース(セロハン、再生繊維等)、微結晶セルロース等が挙げられる。ガラクトマンナンとしては、例えば、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム等が挙げられる。
【0062】
また、変性デンプン、変性アミロペクチン、変性アミロース、変性セルロース、変性ガラクトマンナン、変性グルコマンナン、変性キサンタンガム、変性カラギーナン等を得るための変性方法としては、アセチル化処理等のエステル化、カルボキシアルキル化等のエーテル化、リン酸化、酸化、硫酸化、リン酸架橋、アジピン酸架橋、酵素処理、およびこれらの組み合わせが挙げられる。変性によって導入される置換基の種類は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。変性時の置換度は、得られる吸水剤組成物の物性を考慮して、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.25以下が特に好ましい。
【0063】
また、多糖類は、架橋されていてもよい。多糖類は、公知の任意の方法で架橋することができ、具体的には、架橋剤を用いて架橋させてもよく、放射線(例えば、ガンマ線、X線、電子ビーム等の放射線)および/または熱を用いて架橋させてもよい。前記架橋剤としては、例えば、分子内に環状部分を有するN-メチロール化合物(ジメチロールエチレン尿素、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等)、ポリカルボン酸(クエン酸トリカルバリル酸、ブタンテトラカルボン酸等)、多官能性エポキシ化合物(エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル等)、多価金属イオン(アルミニウムイオン、クロムイオン等)、多官能性アミン(アミノ酸、ポリアミン、トリアミン、ジアミン等)、多官能性アルデヒド類(グルタルアルデヒド、グリオキサール等)等が挙げられる。これら架橋剤は、必要に応じて一種類または二種類以上用いればよい。
【0064】
前記多糖類の中でも、入手の容易さ等から、デンプン、セルロース、およびこれらの変性物がより好ましく、未変性のデンプン、未変性のセルロースがさらに好ましく、未変性のデンプンが最も好ましい。特に、デンプンは、糊化(α化)によって流動性を付与することが可能であり、吸水性樹脂に均一に混練できるようになる。それゆえ、吸水性樹脂組成物中に多糖類が偏析する(多糖類のみが多く存在する)ことを抑制することができるため、最も好ましい。
【0065】
これら多糖類は、必要に応じて一種類または二種類以上用いられる。前記多糖類の粒子径は、1μm~1000μmの範囲であることが好ましく、1μm~500μmの範囲であることがより好ましく、1μm~200μmの範囲であることがさらに好ましい。また、前記多糖類がデンプンである場合には、その粒子径は、1μm~150μmの範囲であることが好ましく、1μm~100μmの範囲であることがより好ましい。
【0066】
多糖類の分子量は、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることがさらに好ましく、5000以上であることが特に好ましく、10000以上であることが最も好ましい。多糖類の分子量の上限値は、特に限定されないものの、1000万以下であることが好ましく、800万以下であることがより好ましく、500万以下であることがさらに好ましい。多糖類の分子量が500未満であると、吸水剤組成物の吸水倍率が低下するおそれがある。また、多糖類の分子量が1000万を超えると、その取り扱いが難しくなる。
【0067】
吸水剤組成物に含有される多糖類の量は、吸水剤組成物の全量を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。多糖類の含有量の上限値は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。従って、後述するが、吸水性樹脂、好ましくは含水ゲルには、得られる吸水剤組成物に含有される量が上述した量となるように、多糖類を添加する。多糖類の含有量が10質量%未満であると、サステナブル原料としての多糖類の使用量が少なくなる。多糖類の含有量が50質量%を超えると、吸水剤組成物の吸水倍率が低下するおそれがある。
【0068】
〔還元剤〕
還元剤は、硫黄原子を含む無機化合物、硫黄原子を含む有機化合物、および燐原子を含む無機化合物からなる群より選択される1種類以上を含む。硫黄原子を含む無機化合物としては、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等)、亜硫酸水素塩(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等)、第一鉄塩(硫酸第一鉄等)、第一銅塩(硫酸第一銅等)等が挙げられる。硫黄原子を含む有機化合物としては、2-ヒドロキシ-2-スルホナト酢酸およびその塩、2-ヒドロキシ-2-スルフィナト酢酸およびその塩等が挙げられる。燐原子を含む無機化合物としては、亜リン酸および亜リン酸塩(亜リン酸二ナトリウム、亜リン酸二カリウム、亜リン酸二アンモニウム等)、亜リン酸水素塩(亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸水素アンモニウム等)、次亜リン酸および次亜リン酸塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウム等)が挙げられる。これら還元剤は、必要に応じて一種類または二種類以上用いられる。前記還元剤の中でも、硫黄原子を含む無機化合物を含む還元剤が好ましく、亜硫酸水素ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0069】
吸水剤組成物に含有される還元剤の量は、吸水剤組成物の全量に対して、10~10000ppmの範囲であることが好ましく、30~5000ppmの範囲であることがより好ましく、50~3000ppmの範囲であることがさらに好ましい。従って、後述するが、吸水性樹脂、好ましくは含水ゲルには、得られる吸水剤組成物に含有される量が上述した量となるように、還元剤を添加する。還元剤の含有量が前記範囲を下回ると、製造過程での加熱によって吸水剤組成物に着色を生じる。還元剤の含有量が前記範囲を上回ると、吸水剤組成物の諸物性(吸水物性)が低下する。
【0070】
〔任意成分〕
吸水剤組成物は、任意成分として、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン等の水溶性樹脂または吸水性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;発泡剤(炭酸塩、アゾ化合物、気泡等)、界面活性剤;添加剤(消臭剤、抗菌剤、香料;二酸化珪素、酸化チタン等の無機粉末;顔料、染料、親水性短繊維、可塑剤);ジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)等のキレート剤、ヒドロキシカルボン酸;を含有することもできる。これら任意成分の添加量は、単量体組成物から内部架橋剤を除くモノマー全量に対して、前記水溶性樹脂、吸水性樹脂、熱可塑性樹脂の場合は50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。また、前記発泡剤、界面活性剤、添加剤の場合は5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。また、前記キレート剤、ヒドロキシカルボン酸の場合は10~5000ppmの範囲が好ましく、10~1000ppmの範囲がより好ましく、50~1000ppmの範囲がさらに好ましく、100~1000ppmの範囲が特に好ましい。
【0071】
本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物によれば、多糖類を含む従来の吸水剤組成物に見られる「製造過程での加熱によって生じる着色」を抑制することができる。係る「製造過程での加熱によって生じる着色」の抑制は、上述した特許文献7~9で対象としている課題「多糖類を含まない吸水性樹脂組成物の経時着色の防止」とは、その機序が大きく異なっていることを念のため付言する。具体的には、多糖類を含む吸水剤組成物に見られる「製造過程での加熱によって生じる着色」は、例えば、多糖類(デンプン)とポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂とを含むベースポリマー組成物の150℃以上での表面架橋工程等によって生じる(即ち、製造工程直後の着色である)のに対して、多糖類を含まない吸水剤組成物に見られる「経時着色」は、例えば、90℃、90%RHの条件下、一週間で生じる(即ち、製造後の保存期間中に生じる)着色であり、両者は互いに異なる着色である。
【0072】
〔3〕吸水剤組成物の製造方法
本発明の実施の一形態に係る吸水性樹脂組成物の製造方法は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂、多糖類、および還元剤を含む吸水剤組成物の製造方法であって、該吸水剤組成物の製造工程として、重合工程、乾燥工程、および表面架橋工程をこの順に含み、該重合工程の開始時から該表面架橋工程の終了時までの何れかの段階で、該重合工程に導入される単量体組成物および該多糖類の合計質量に対して、該多糖類を10質量%以上、該還元剤を10ppm~100000ppm添加する方法である。
【0073】
〔重合工程〕
単量体組成物の重合方法は、特に限定されず、公知の逆相懸濁重合法または水溶液重合法を用いることができる。逆相懸濁重合法は、単量体組成物の水溶液(以下、「単量体水溶液」と称する)を疎水性有機溶剤(分散媒)に懸濁させて重合する重合法である。水溶液重合法は、分散溶媒を用いずに単量体水溶液を重合する重合法である。前記重合方法のうち、生産性、重合の制御の容易さ、得られる吸水性樹脂の各種物性等を考慮すれば、水溶液重合法が好ましい。これらの重合によって、水を含有する架橋重合体(含水ゲル)が得られる。
【0074】
水溶液重合法としては、単量体水溶液を静置状態で重合する静置重合法、攪拌装置内で重合する攪拌重合法等が挙げられる。
【0075】
静置重合法では、エンドレスベルトまたは重合容器を用いた連続静置重合法がより好ましい。前記エンドレスベルトとしては、重合熱を接材面から逃し難い樹脂ないしゴム製のベルトが好ましい。また、前記重合容器は、その上部に開放空間が存在することが好ましい。
【0076】
前記エンドレスベルトを用いる場合における単量体水溶液の供給量は、通常、エンドレスベルト上での深さが1~100mmの範囲となる量が好ましく、3~50mmの範囲となる量がより好ましく、5~30mmの範囲となる量がさらに好ましい。水溶液の深さが1mm未満であると、単量体水溶液の温度調節が困難となるおそれがある。一方、単量体水溶液の深さが100mmを超えると、重合熱を除熱することが困難となるおそれがある。
【0077】
攪拌重合法では、一軸攪拌機、または二軸以上の攪拌機が好適に用いられる。攪拌重合法としては、連続ニーダー重合等が好ましい。
【0078】
本発明の実施の一形態において、単量体水溶液に占める有効成分(単量体組成物、重合開始剤および任意成分の合計)の濃度は、特に限定されないものの、30~80質量%の範囲が好ましく、40~70質量%の範囲がより好ましく、45~65質量%の範囲がさらに好ましい。前記の有効成分の濃度が30質量%未満であると、吸水剤組成物の生産性が低下する場合があり、70質量%を超えると、吸水剤組成物の吸水倍率が低下する場合がある。
【0079】
単量体水溶液の調製時における単量体の中和は、断熱状態で行うことが好ましい。また、単量体の中和を連続的に行うと共に重合を連続的に行うことがより好ましい。これにより、発生する中和熱および/または水和熱を単量体水溶液の昇温に有効に利用することができる。
【0080】
また、発生する中和熱および/または水和熱は、単量体水溶液の溶存酸素を除去することにも好適に利用することができる。中和熱および/または水和熱を利用することにより、重合を阻害する溶存酸素を揮散させて除去するために不活性ガスを単量体水溶液に吹き込んだり、減圧脱気したりする必要が無くなる。具体的には、単量体水溶液を中和熱および/または水和熱によって昇温させ、単量体水溶液に占める溶存酸素の量を4mg/L以下にすることが好ましく、2mg/L以下にすることがより好ましく、1mg/L以下にすることがさらに好ましい。なお、調製した単量体水溶液は、不活性ガス(好ましくは窒素)雰囲気下で、気泡をかみ込まないように穏やかに攪拌することが好ましい。
【0081】
また、単量体水溶液を調製する前に、単量体組成物、中和液、脱イオン水(イオン交換水)等の一部または全部を脱酸素しておき、単量体水溶液を調製するときに、中和熱および/または水和熱によって、さらに溶存酸素を除去することも好ましい。但し、単量体組成物と中和液をラインミキシングすると共に重合開始剤をラインミキシングして、80℃以上で重合を開始する場合には、ラインミキシング中に重合が開始されることを防ぐために、単量体組成物、中和液、脱イオン水(イオン交換水)等の脱酸素量を減らすか、または脱酸素しないことが好ましい。
【0082】
重合は、操作の容易さ等を考慮して、通常、常圧下で行われるものの、単量体水溶液の沸騰温度を下げるために減圧下で水を留去しながら行うことも好ましい態様である。
【0083】
重合開始温度は、特に限定されないものの、通常、20~105℃の範囲が好ましく、50~100℃の範囲がより好ましく、60~100℃の範囲がさらに好ましく、70~100℃の範囲が最も好ましい。重合開始温度が20℃未満であると、重合時間が長くなって吸水剤組成物の生産性および/または各種物性が低下する場合がある。重合開始温度が105℃を超えると、生産性は向上するものの、誘導時間(重合を開始するための条件が整った時点から、実際に重合が開始されるまでの時間)が短くなるため、重合開始剤の混合操作等を行うときの重合制御が難しくなる場合がある。重合開始温度を50℃以上にするには、重合装置および/または単量体水溶液を加熱してもよいが、上述した中和熱および/または水和熱を利用することが好ましい。
【0084】
重合開始温度は、単量体水溶液の白濁、粘度上昇、温度上昇等を観測することによって測定することができる。なお、紫外線等の活性エネルギー線、レドックス系重合開始剤、アゾ化合物を用いて重合を行う場合には、一般に誘導時間が1秒間~1分間程度と短いため、重合開始温度を、重合開始剤を添加するまたは活性エネルギー線を照射する直前の単量体水溶液の温度で規定してもよい。
【0085】
重合時における最高到達温度(ピーク温度)は、特に限定されないものの、60~150℃の範囲が好ましく、70~140℃の範囲がより好ましく、80~130℃の範囲がさらに好ましく、85~120℃の範囲が特に好ましく、90~115℃の範囲が最も好ましい。最高到達温度が150℃を超えると、得られる吸水剤組成物の各種物性が低下する場合がある。最高到達温度は、重合を開始してから1分おきに重合溶液の温度を測定し、該温度の上昇が止まった時点(温度変化がなくなった時点)をいう。
【0086】
重合時間は、特に限定されないものの、1秒間~60分間の範囲が好ましく、10秒間~40分間の範囲がより好ましく、15秒間~10分間の範囲がさらに好ましく、30秒間~3分間の範囲が最も好ましい。重合時間が60分間を超えると、得られる吸水剤組成物の生産性および/または各種物性が低下する場合がある。ここで、重合時間は、重合を開始するための条件が整った時点(光分解型重合開始剤を用いる場合は光照射開始時、熱分解型重合開始剤等を用いる場合は単量体水溶液に重合開始剤を添加した時点)から、最高到達温度に達するまでの時間を指す。即ち、「重合時間=(誘導時間)+(実際に重合が開始されてから最高到達温度に達するまでの時間)」である。
【0087】
従って、重合工程の開始時とは、重合を開始するための条件が整った時点を指す。重合工程の終了時とは、最高到達温度に達した時点を指す。重合終了した時点で含水ゲルを得る。また、本実施形態の効果に支障がない程度であれば、重合終了した時点の含水ゲルを用いることに限らず、重合終了する前の段階(重合中の段階)の含水ゲルを用いても構わない。
【0088】
重合時の固形分の上昇率は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。なお、固形分の上昇率は、単量体水溶液の固形分と、得られた含水ゲルの固形分との差で規定される。
【0089】
重合工程で得られた含水ゲルは、固形分濃度が、好ましくは40~70質量%の範囲、より好ましくは45~55質量%の範囲である。
【0090】
〔ゲル粉砕工程〕
重合工程で得られた含水ゲルは、そのまま乾燥工程に供してもよい。しかし、例えば水溶液重合法で含水ゲルを得た場合には、ゲル粉砕機等の粉砕機を用いて含水ゲルの大きさが1/10以下程度になるまでゲル粉砕(細断)した後、乾燥工程に供することが好ましい。また、含水ゲルをゲル粉砕するときに、必要に応じて、少量の水または水蒸気を添加してもよい。
【0091】
ゲル粉砕工程では、重合工程で得られた含水ゲルを、当該含水ゲルの固形分換算の質量平均粒子径d1が1mm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下となるようにゲル粉砕する。これにより、吸水性樹脂、多糖類、および還元剤が均一に混練されるため、吸水剤組成物全体にムラ無く着色抑制効果を付与することができる。
【0092】
ゲル粉砕は種々の方法で行われる。ゲル粉砕の方法としては、具体的には、例えば、任意形状の多孔構造を有するダイを備えたスクリュー型押出機(ミートチョッパー)を用い、押し出してゲル粉砕する方法等が挙げられる。また、複数の機器を組み合わせてゲル粉砕を実施してもよい。例えば、好適に使用できるゲル粉砕方法としては、特許文献14~17(WO2011/126079、WO2016/158975、WO2016/204302、特開2001-79829号公報)等に記載の方法を挙げることができる。
【0093】
従って、ゲル粉砕工程の開始時とは、含水ゲルをゲル粉砕機等の粉砕機に投入した時点を指し、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)とは、重合工程の終了後から前記ゲル粉砕工程の開始時までの期間を指す。また、ゲル粉砕工程中とは、ゲル粉砕工程の開始時より後であって、粉砕機から粉砕物として排出される前の期間をいう。
【0094】
ゲル粉砕された含水ゲル(以下、粒子状含水ゲルと称する)は、固形分濃度が、好ましくは50~80質量%の範囲、より好ましくは55~70質量%の範囲である。
【0095】
〔乾燥工程〕
前記ゲル粉砕された粒子状含水ゲルを乾燥することにより、乾燥物を得る。乾燥方法としては、加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、ドラムドライヤー乾燥、バンド乾燥、疎水性有機溶媒との共沸脱水、高温の水蒸気を用いた高湿乾燥等の種々の方法が挙げられる。このうち、露点が40~100℃(より好ましくは50~90℃)の気体による熱風乾燥がより好ましい。
【0096】
乾燥温度は、特に限定されないものの、100~200℃の範囲が好ましく、120~180℃の範囲がより好ましく、140~160℃の範囲がさらに好ましい。また、熱風乾燥の場合には、熱風温度は、100~200℃の範囲が好ましく、120~180℃の範囲がより好ましく、140℃~160℃の範囲がさらに好ましい。
【0097】
乾燥時間は適宜設定すればよく、特に限定されないものの、10秒間~2時間程度の範囲が好ましく、1分間~1.5時間程度の範囲がより好ましく、10分間~1時間程度の範囲がさらに好ましい。
【0098】
乾燥機に投入する直前の粒子状含水ゲルの表面温度は、40~110℃の範囲が好ましく、60~100℃の範囲がより好ましい。表面温度が40℃に満たない場合には、乾燥時に風船状の乾燥物ができて粉砕時に微粉が多く発生し、吸水剤組成物の各種物性が低下することがある。
【0099】
ゲル粉砕工程を行った後の粒子状含水ゲルを乾燥機に投入するまでの時間は、得られる吸水剤組成物の着色を防止するために、短い方が好適である。当該時間は、2時間以内であることが好ましく、1時間以内であることがより好ましく、30分間以内であることがさらに好ましく、10分間以内であることが特に好ましく、2分間以内であることが最も好ましい。
【0100】
従って、乾燥工程の開始時とは、粒子状含水ゲルを乾燥機に投入した時点を指す。
【0101】
乾燥工程においては、得られる乾燥物の含水率を3~15質量%の範囲にすることが好ましく、4~14質量%の範囲にすることがより好ましく、5~13質量%の範囲にすることがさらに好ましく、6~12質量%の範囲にすることが特に好ましい。乾燥物の含水率が3質量%を下回ると、吸水剤組成物の各種物性が低下する場合がある。乾燥物の含水率が15質量%を上回ると、粉砕工程で乾燥物を粉砕することが難しくなる場合がある。
【0102】
〔粉砕工程〕
乾燥工程で得られた乾燥物(吸水性樹脂または吸水性樹脂組成物、以下吸水性樹脂等と称する)は、必要に応じて、所定の範囲の大きさの粒子を得るために粉砕すればよい。粉砕方法としては、特に限定されないものの、例えば、振動ミル、ロールグラニュレーター、ナックルタイプ粉砕機、ロールミル、高速回転式粉砕機(ピンミル、ハンマーミル、スクリューミル、ロールミル)、円筒状ミキサー等を用いた方法が挙げられる。
【0103】
粉砕後の吸水性樹脂等(粉砕物)の形状は、例えば、顆粒状、粉末状、フレーク状、繊維状等の任意の形状とすることができる。
【0104】
〔分級工程〕
粉砕工程で得られた粉砕物(吸水性樹脂等)は、必要に応じて、所定の範囲の大きさの粒子(分級物)のみを選別するために分級すればよい。分級方法としては、特に限定されないものの、例えば、篩を用いた篩い分けが挙げられる。具体的には、例えば、150μm~850μmの大きさの吸水性樹脂等(分級物)を得る場合には、先ず、粉砕物を目開きが850μmの篩で篩い分けし、当該篩を通過した粉砕物を目開きが150μmの篩で篩い分けし、当該篩を通過しなかった(篩上に残った)粉砕物を回収すればよい。
【0105】
表面架橋前の吸水性樹脂等(分級物)の質量平均粒子径(D50)は、特に限定されないものの、250μm~450μmの範囲が好ましく、275μm~425μmの範囲がより好ましく、300μm~400μmの範囲がさらに好ましい。また、150μm未満の大きさの粒子の割合は、少ないほど好適であり、通常、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。さらに、150μm~850μmの大きさの粒子の割合は、95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい(上限値は100質量%)。粒度分布の対数標準偏差(σζ)は、0.2~0.5の範囲が好ましく、0.25~0.45の範囲がより好ましく、0.30~0.40の範囲がさらに好ましい。
【0106】
前記表面架橋前の吸水性樹脂等の粒度(質量平均粒子径、粒度分布の対数標準偏差等)は、好ましくは表面架橋後、さらには最終製品としての吸水剤組成物にも適用される。従って、表面架橋前の粒度を表面架橋後も維持することができるように、吸水性樹脂等を表面架橋処理することが好ましい。特に、表面架橋前の質量平均粒子径(D50)と150μm未満の大きさの粒子の割合を表面架橋後も維持することができるように、吸水性樹脂等を表面架橋処理することがより好ましい。
【0107】
〔微粉回収工程〕
分級工程で得られた微粉(例えば150μm未満の大きさの吸水性樹脂等)は、必要に応じて、回収し、再生する。前記微粉は、重合工程における単量体水溶液に添加するか、または、多量の水(特に温度が50℃~沸点の水)と混合(微粉と水の質量比は5:4~3:7)した後、重合工程で得られた含水ゲルに添加する。これにより、最終製品にならずに廃棄される吸水性樹脂等の量を低減することができる。
【0108】
〔表面架橋工程〕
前記各工程を経て得られた表面架橋前の吸水性樹脂等を表面架橋することにより、表面架橋された吸水性樹脂等を得る。表面架橋とは、吸水性樹脂等の表面(表面近傍:吸水性樹脂等の表面から数10μm程度までの深さ)に、架橋密度が内部よりも高い表面架橋層を設けることである。表面架橋は、例えば、粒子表面でのラジカル架橋または表面重合によって、または、表面架橋剤を用いた表面架橋反応によって行うことができる。
【0109】
表面架橋剤としては、例えば、オキサゾリン化合物、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、多価アルコール化合物、ポリアミドポリアミン-エピハロ付加物、ヒドロキシアクリルアミド化合物、オキサゾリジノン化合物、ビスまたはポリ-オキサゾリジノン化合物、2-オキソテトラヒドロ-1,3-オキサゾリジン化合物、アルキレンカーボネート化合物、アルミニウム塩等の多価金属イオン等が挙げられる。これら表面架橋剤は、一種類または二種類以上用いられる。また、表面架橋剤と共に、有機酸および/または無機酸等を併用してもよい。さらに、吸水性樹脂等の表面で単量体の重合を行って表面架橋することもできる。
【0110】
表面架橋方法としては、表面架橋剤としてエポキシ化合物、ポリアミドポリアミン-エピハロ付加物を用いる方法、アルミニウム塩等の多価金属イオンを用いる方法、有機酸および/または無機酸等を併用する方法、吸水性樹脂等の表面で単量体の重合を行う方法がより好ましい。これら方法により、低温で含水率を維持したまま吸水性樹脂等の表面架橋反応を進行させることができるので、各種物性に優れた吸水剤組成物を得ることができる。
【0111】
表面架橋剤としては、具体的には、例えば、(ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコール、(ジ、ポリ)プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、(ポリ)グリセリン、2-ブテン-1,4-ジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ジまたはトリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール化合物;(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ジ、ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、(ジ、ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリシドール等のエポキシ化合物;1,2-エチレンビスオキサゾリン等の多価オキサゾリン化合物;1,3-ジオキソラン-2-オン等のアルキレンカーボネート化合物;硫酸アルミニム等の多価金属化合物、ポリアミドポリアミン-エピハロヒドリン付加物(例えば、Hercules社が販売するKymene 557LX、Kymene 557H、Kymene plus、星光PMC社が販売するWS4002、WS4020、WS4010、WS4046等);等が挙げられる。
【0112】
表面架橋剤の使用量は、表面架橋前の吸水性樹脂等100質量部に対して、0.005~10質量部であることが好ましく、0.005~5質量部であることがより好ましく、0.01~3質量部であることがさらに好ましい。表面架橋剤の使用量が0.005質量部未満または10質量部を超えると、吸水剤組成物の各種物性が低下する場合がある。
【0113】
吸水性樹脂等と表面架橋剤とを混合するときの溶媒としては、水を用いることが好ましい。水の使用量は、表面架橋前の吸水性樹脂等100質量部に対して、1~10質量部であることが好ましい。これにより、吸水性樹脂等の表面に表面架橋剤水溶液が十分に浸透するので、適切な厚さおよび架橋密度を有する多層的な表面架橋層が形成される。
【0114】
また、前記溶媒として親水性有機溶媒を用いてもよい。当該親水性有機溶媒としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール等の低級アルコール類;アセトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、アルコキシポリエチレングリコール等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;等が挙げられる。親水性有機溶媒の使用量は、吸水性樹脂等の種類や粒子径等にもよるが、表面架橋前の吸水性樹脂等100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、0.1~10質量部の範囲であることがより好ましい。
【0115】
吸水性樹脂等と表面架橋剤とを混合する方法は、特に限定されないものの、水および/または親水性有機溶媒に溶解させた表面架橋剤を、吸水性樹脂等に直接、噴霧または滴下して混合する方法が好ましい。
【0116】
吸水性樹脂等と表面架橋剤とを混合するときに用いる混合装置は、両者を均一かつ確実に混合するために、大きな混合力を備えていることが望ましい。当該混合装置としては、具体的には、例えば、円筒型混合機、二重壁円錐型混合機、V字型混合機、リボン型混合機、スクリュー型混合機、流動型ロータリーディスク混合機、気流型混合機、双腕型ニーダー、内部混合機、粉砕型ニーダー、回転式混合機、スクリュー型押出機、タービュライザー等が挙げられる。
【0117】
吸水性樹脂等と表面架橋剤とを混合した後、表面架橋反応を進行させるために、必要に応じて混合物を加熱してもよい。加熱温度は、20~250℃の範囲が好ましく、30~200℃の範囲がより好ましく、50~170℃の範囲がさらに好ましい。本発明の一実施形態によれば、100℃以上の表面架橋反応に対し特に着色を抑制することができる。100~250℃の表面架橋反応における吸水剤組成物(吸水性樹脂)の着色を抑制することに効果がある。また、加熱時間は、加熱温度にもよるが、1分間~2時間の範囲が好ましく、5分間~1時間の範囲がより好ましく、10分間~30分間の範囲がさらに好ましい。加熱温度と加熱時間の好適な組み合わせとしては、例えば、70~120℃で3分間~1時間、100~250℃で3分間~1時間、130~170℃で1分間~30分間が挙げられる。表面架橋することにより、吸水性樹脂は、加圧下吸水倍率(AAP)等の各種物性により優れる。
【0118】
従って、表面架橋工程の終了時とは、所定の加熱時間が経過した時点を指す。
【0119】
各種物性に優れた吸水剤組成物を得るには、表面架橋前の吸水性樹脂等の含水率を3~15質量%の範囲、より好ましくは4~14質量%の範囲、さらに好ましくは5~13質量%の範囲、特に好ましくは6~12質量%の範囲に保持した状態で、表面架橋反応を行うことが好適である。表面架橋前の吸水性樹脂等の含水率が3質量%を下回ると、吸水剤組成物の各種物性が低下する場合がある。表面架橋前の吸水性樹脂等の含水率が15質量%を上回ると、吸水剤組成物の取り扱い性(流動性)が低下する場合がある。
【0120】
表面架橋後、必要に応じて、吸水性樹脂等をさらに乾燥させてもよい。また、表面架橋後、必要に応じて、吸水性樹脂等に水、更なる添加剤等を加えて、含水率、各種物性を調整してもよい。当該更なる添加剤としては、例えば、親水性のアモルファスシリカ等の水不溶性微粒子、還元剤、抗菌剤、消臭剤、キレート剤、多価金属化合物等が挙げられる。更なる添加剤の使用量は、表面架橋後の吸水性樹脂等100質量部に対して、0.001~20質量部であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.1~5質量部であることがさらに好ましい。
【0121】
〔多糖類添加工程〕
多糖類添加工程は、重合工程の開始時から表面架橋工程の終了時までに、単量体水溶液、含水ゲル、粒子状含水ゲル、乾燥物、乾燥物の粉砕物およびその分級物、表面架橋前の吸水性樹脂、または表面架橋後の吸水性樹脂のうちの少なくとも一つに、多糖類を添加する工程である。多糖類は、重合工程の終了時以降に添加することがより好ましく、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時、該ゲル粉砕工程中、粉砕工程後から乾燥開始まで間の少なくともいずれかに添加することがさらに好ましい。特に好ましくは、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時および、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに添加することである。
【0122】
多糖類の添加方法としては、特に限定されず、多糖類の全量を一度に添加してもよく、数回に分けて添加してもよい。また、多糖類は、顆粒状、粉末状等の状態で添加することが好ましい。
【0123】
多糖類を重合工程の終了時以降に添加すると、多糖類は吸水性樹脂粒子の表面に非局在化し、吸水性樹脂粒子の表面の一部に高濃度に存在することになる。そして、さらに吸水性樹脂と多糖類とが均一に混合されることにより、吸水性樹脂粒子の表面を海に、多糖類を島に見立てると、吸水性樹脂と多糖類とが海島状に存在していることになる。また、吸水性樹脂粒子の表面に、多糖類が高濃度で存在していることになる。言い換えれば、前記多糖類の含有量が、前記吸水剤組成物の内部より表層部でより高い。また、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに多糖類を添加する場合における添加方法は、特に限定されないものの、より均一に混合することができるように、混練する方法がより好ましい。これにより、例えば多糖類がデンプンである場合には、糊化工程を行わなくとも吸水性樹脂に含まれる水分でデンプンが糊化(α化)して吸水性樹脂と一体化(複合化)する。これにより、還元剤が、一体化した多糖類と吸水性樹脂との複合化樹脂に均一に分散することとなる。それゆえ、多糖類を含む従来の吸水剤組成物に見られる「製造過程(主に、乾燥工程後の吸水性樹脂組成物(ベースポリマー組成物)を高温での表面架橋する工程)での加熱によって生じる着色」を抑制することができる。
【0124】
吸水剤組成物に含有される多糖類の量が10質量%以上となるように、多糖類を添加すればよい。多糖類の添加量は、前記重合工程の原料として用いられる単量体組成物および、多糖類の合計質量に対し、10質量%以上である。吸水剤組成物に含有される多糖類の量は、吸水剤組成物の全量を100質量%として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。多糖類の含有量の上限値は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0125】
また、多糖類を吸水性樹脂の重合工程の終了時以降に添加すると、多糖類は吸水性樹脂の表面に非局在化し、吸水性樹脂の表面の一部に高濃度に存在することになる。つまり、吸水性樹脂の表面に、多糖類が高濃度で存在していることになる。なお、多糖類がデンプンである場合には、ヨウ素を用いる(ヨウ素デンプン反応を行う)ことにより、透明な吸水性樹脂と、ヨウ素デンプン反応によって着色した多糖類とが相分離して存在しているかどうかを容易に確認することができる。
【0126】
〔還元剤添加工程〕
還元剤添加工程は、重合工程の開始時から表面架橋工程の終了時までに、単量体水溶液、含水ゲル、乾燥物、粉砕物、または吸水性樹脂のうちの少なくとも一つに、還元剤を添加する工程である。還元剤は、重合工程の終了時以降から乾燥工程(もしくは、表面架橋工程)の開始時までに添加することがより好ましい。より好ましくは、本発明の一実施形態に係る吸水性樹脂組成物の製造方法が、重合工程と乾燥工程の間にゲル粉砕工程をさらに含み、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)から表面架橋工程の開始前までに、前記還元剤を添加することがさらに好ましい。ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時、該ゲル粉砕工程中、粉砕工程後から乾燥開始まで間の少なくともいずれかに前記還元剤を添加することがさらに好ましい。特に、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)、開始時、該ゲル粉砕工程中の少なくともいずれかに添加することが好ましい。ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)および/または開始時に添加することが最も好ましい。
【0127】
さらに、多糖類および還元剤を共に、ゲル粉砕工程の開始前(但し重合工程の終了後)および/または開始時に添加することが特に好ましい。また、本発明の実施の一形態に係る吸水性樹脂組成物の製造方法は、多糖類および還元剤を吸水性樹脂と均一に混合するために、混練工程を含むことが好ましい。混練工程を含むことで、例えば多糖類がデンプンである場合には、糊化工程を行わなくとも吸水性樹脂に含まれる水分でデンプンが糊化(α化)して吸水性樹脂と一体化(複合化)し、一体化した多糖類と吸水性樹脂との複合樹脂に還元剤が均一に分散している形態となる。この形態により、多糖類を含む従来の吸水剤組成物に見られる「製造過程(主に、高温での表面架橋)での加熱によって生じる着色」を抑制することができる。α化した多糖類を含む吸水性樹脂組成物は、加熱工程によって特に着色が生じやすいが、本実施形態によって、その着色が抑制される。混錬工程は、ゲル粉砕工程中および/またはゲル粉砕工程後に実施されることが好ましい。また、ゲル粉砕工程と混錬工程が実質的に同じであってもよい。
【0128】
また、混練後(但し、乾燥工程前)またはゲル粉砕後の、多糖類と含水ゲルとを含有する混合物の固形分濃度は、好ましくは30~80質量%の範囲、より好ましくは40~70質量%の範囲である。換言すると、前記混合物中の含水率は、好ましくは20~70質量%の範囲、より好ましくは、30~60質量%の範囲である。混練する工程またはゲル粉砕工程での混合物の温度は、50~100℃の範囲が好ましく、70~100℃の範囲がより好ましく、90~100℃の範囲がさらに好ましい。
【0129】
還元剤の添加方法としては、特に限定されず、還元剤の全量を一度に添加してもよく、数回に分けて添加してもよい。また、還元剤は、より均一に混合することができるように、溶媒(好ましくは水)に溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0130】
吸水剤組成物に含有される還元剤の量が吸水剤組成物の全量に対して、10ppm~10000ppmになるように、還元剤の添加量を調整する。還元剤の添加量は、前記重合工程の原料として用いられる単量体組成物および、多糖類の合計質量に対し、10~100000ppmである。前記還元剤の添加量は、より好ましくは、100~80000ppmであり、さらに好ましくは、1000~50000ppmであり、最も好ましくは、5000~30000ppmである。また、多糖類の添加量と還元剤の添加量との比率(多糖類の添加量:還元剤の添加量)は、好ましくは99:1~80:20であり、より好ましくは、97:3~85:15であり、さらに好ましくは、95:5~90:10である。
【0131】
還元剤を吸水性樹脂に添加することにより、製造過程において、加熱乾燥、加熱を伴う表面架橋処理を行っても、吸水剤組成物の製造過程での加熱による着色を防止することができる。また、最終の製品出荷段階での吸水剤組成物に含まれる残存モノマーも低減することができる。
【0132】
〔従来技術との差異〕
前記特許文献1~13のように、吸水性樹脂の原料の一部または全部に多糖類を使用した吸水性樹脂は知られているが、多糖類の低い耐熱性、特に含水ゲルと混合された多糖類の低い耐熱性のため、前記課題をかかえるものであった。本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討した結果、還元剤が吸水性樹脂(特に含水ゲル)と混合された多糖類(特にデンプン)の高温加熱時の着色防止に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0133】
なお、従来、吸水性樹脂の改質(吸水性樹脂への耐尿性付与(尿によるゲルの劣化抑制)、吸水性樹脂の残存モノマー低減、吸水性樹脂の長時間保管時の着色防止など)を目的として、吸水性樹脂に還元剤を添加する技術は知られている(例えば特許文献17~21)。しかし、これらの技術は上述のような効果をなんら示唆しない。
【0134】
また、多糖類を使用した吸水性樹脂に関する前記特許文献1~13は、多糖類を使用した吸水性樹脂への還元剤の添加や、還元剤が多糖類を使用した吸水性樹脂の高温加熱時の着色防止に寄与することをなんら示唆しない。
【0135】
さらに、前記特許文献14~17は、重合後の含水ゲルのゲル粉砕を開示するが、同じく多糖類を使用した吸水性樹脂への還元剤の添加や、還元剤が多糖類を使用した吸水性樹脂の高温加熱時の着色防止に寄与することをなんら示唆しない。
【0136】
本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物は、サステナブル原料として多糖類を少なくとも一部に用いても、生産性が低下することなく、製造過程での加熱(加熱乾燥、加熱を伴う表面架橋処理)によって着色を生じることがない。ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂は、カルボン酸(塩)基を有し、当該樹脂中に遊離のカルボン酸および塩基性化合物が混在しているため、デンプン等の多糖類が存在すると、製造過程での加熱によって着色を生じ易い。特に、乾燥工程後の吸水性樹脂組成物(ベースポリマー組成物)を高温で表面架橋する工程では、ベースポリマー組成物の含水率が低く冷却作用が低くなることから、加熱によってより着色が生じやすい。そのため、従来技術では着色に関する課題を解決することが困難である。しかしながら、本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物、および、本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物の製造方法によって、従来技術では困難であった着色に関する課題を解決することができる。得られた吸水剤組成物(最終製品)のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)は、20.0以下であり、好ましくは15.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは5.0以下である。
【0137】
また、吸水剤組成物は、高温条件下(100℃以上の加熱条件下)でも使用することができる。
【0138】
〔吸水剤組成物の各種物性〕
上述した各工程を行って得られる吸水剤組成物には、必要に応じて、上述した任意成分を添加してもよい。
【0139】
上述した各工程を行って得られる吸水剤組成物は、吸水剤組成物の製造過程での加熱による着色がASTM D1925によるイエローインデックス(YI値)で60以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは40以下である(下限値は10)。
【0140】
また、上述した各工程を行って得られる吸水剤組成物は、残存モノマーが1000ppm以下、より好ましくは700ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である(下限値は1ppm)。
【0141】
また、上述した各工程を行って得られる吸水剤組成物は、0.3kPaの加圧下における加圧下吸水倍率(AAP0.3)が、10g/g以上、より好ましくは12g/g以上、さらに好ましくは15g/g以上である。0.3kPaの加圧下における加圧下吸水倍率(AAP0.3)の上限値は、特に限定されないものの、40g/g以下、より好ましくは35g/g以下、さらに好ましくは30g/g以下である。
【0142】
上述した各工程を行って得られる本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物は、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)、農園芸用の土壌保水剤、工業用の止水剤等、様々な吸水性物品において好適に利用することができる。
【実施例
【0143】
以下に示す実施例および比較例に従って本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定解釈されるものではなく、各実施例に記載された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も、本発明の範囲に含まれることとする。
【0144】
<評価方法>
〔CRC(無加圧下吸収倍率)〕
CRC(無加圧下吸収倍率)は、NWSP 241.0.R2(15)に準拠して測定した。具体的には、吸水剤組成物0.2gを不織布製の袋に入れ、大過剰の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液中に30分間浸漬して当該吸水剤組成物を自由膨潤させた後、遠心分離機(遠心力:250G)を用いて脱水し、CRC(無加圧下吸収倍率)(単位:g/g)を測定した。
【0145】
〔AAP(加圧下吸収倍率)〕
AAP(加圧下吸収倍率)は、加圧下条件を0.7psiから0.3psiに変更した以外はNWSP 242.0.R2(15)に準拠して測定した。具体的には、大過剰の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を用い、吸水剤組成物0.9gを1時間、2.07kPa(21g/cm、0.3psi)の加圧下で膨潤させた後、AAP(加圧下吸収倍率)(単位:g/g)を測定した。なお、0.3psiの加圧下条件で測定した結果をAAP0.3と表記する。
【0146】
〔着色度〕
吸水剤組成物の着色度は、ハンターLab表色系で測定した。測定装置として、日本電色工業株式会社製の分光式色差計(SE-7700)を使用し、測定条件として反射測定を選択した。なお、前記分光式色差計は、粉末・ペースト試料用容器(内径30mm、高さ12mm)、粉末・ペースト試料用標準丸白板No.2および30Φ投光パイプを備えている。
【0147】
前記粉末・ペースト試料用容器に、吸水剤組成物5gを充填し、室温(20~25℃)、相対湿度50RH%の雰囲気下で、当該吸水剤組成物の表面のL値、a値、b値、YI値を測定した。L値は高いほど明るく、YI値は小さいほど低着色で白色に近づくことを示す。同じ測定装置を用い、同じ測定方法によって、他の尺度の物体色であるa値およびb値(色度)も測定することができる。a値およびb値は小さいほど低着色で白色に近づくことを示す。
【0148】
なお、前記吸水剤組成物が、製造直後若しくは工場出荷前(通常)の吸水剤組成物である場合、または、保存条件が気温30℃以下、相対湿度50%RHの雰囲気下であって製造後1年以内である吸水剤組成物である場合には、経時での色調変化が無いと判断し、その色調を当該吸水剤組成物の着色度とした。
【0149】
〔残存モノマー〕
吸水剤組成物1.0gを0.9質量%塩化ナトリウム水溶液200mlに添加し、1時間攪拌して残存モノマーを抽出した。その後、塩化ナトリウム水溶液に抽出した残存モノマー量(単位:ppm(質量基準))を、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定し、定量した。
【0150】
〔亜硫酸ナトリウム含有量〕
吸水剤組成物の亜硫酸ナトリウム含有量は、当該吸水剤組成物から可溶成分を抽出した後、抽出した可溶成分量(単位:ppm(質量基準))を、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定し、定量した。具体的には、以下の方法を用いて定量した。
【0151】
なお、実施例および比較例において、亜硫酸ナトリウム含有量は、吸水剤組成物が含有する還元剤の量に相当する。
【0152】
〔可溶成分の抽出〕
吸水剤組成物0.1gを0.1質量%ホルムアルデヒド水溶液100gに添加し、500rpmで1時間攪拌した。得られた水溶液の上澄みを、定性濾紙(ADVANTEC社製、No.2)を用いて濾過し、抽出溶液とした。
【0153】
〔高速液体クロマトグラフィーによる定量分析〕
亜硫酸ナトリウム含有量を定量するのに用いる高速液体クロマトグラフの構成としては、例えば、以下の構成が挙げられる。
イオンクロマトグラフィーシステム:Dionex Integrion RFICシステム
カラム:Dionex IonPac AS11-HC,Dionex IonPac AG11-HC
先ず、定量対象である亜硫酸ナトリウムを0.1質量%ホルムアルデヒド水溶液に溶解させ、任意の濃度の亜硫酸ナトリウム水溶液を作製した。この水溶液を前記構成の高速液体クロマトグラフを用いて分析し、得られたクロマトグラムのピーク面積と亜硫酸ナトリウムの濃度との関係から、検量線を作製した。高速液体クロマトグラフで検出されたピークは亜硫酸ナトリウムの電離によって発生した亜硫酸イオンに由来するピークであるため、計算時には、亜硫酸イオンを全て亜硫酸ナトリウムであるとして、質量換算を行った。
【0154】
続いて、測定対象の抽出溶液を前記構成の高速液体クロマトグラフを用いて分析し、得られたクロマトグラムのピーク面積と検量線との関係から、吸水剤組成物中の亜硫酸ナトリウムの含有量を算出した。
【0155】
なお、実施例および比較例で使用する原料化合物、反応試薬および溶媒は、特に注釈の無い限り、市販品(例えば、株式会社日本触媒から販売されている市販品等)とした。
【0156】
〔実施例1〕
(重合溶液(単量体水溶液)の調製工程)
容量2Lのポリプロピレン製容器に、アクリル酸416.5g、内部架橋剤として10質量%ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量:523)アクリル酸溶液6.13g(アクリル酸に対して0.02モル%)、キレート剤として2.0質量%ジエチレントリアミン5酢酸・3ナトリウム(DTPA・3Na)水溶液1.29g(アクリル酸に対して0.96ミリモル%)、48.5質量%水酸化ナトリウム水溶液352.6g、および脱イオン水(イオン交換水)405.1gを均一に混合して、単量体水溶液を調製した。
【0157】
(吸水性樹脂組成物の製造)
前記単量体水溶液を液温77.5℃で攪拌しながら、重合開始剤として4.5質量%過硫酸ナトリウム水溶液18.4gを加えた。その後、当該単量体水溶液を、ホットプレートにより50℃に調温したステンレス製バット型容器に注いだ。重合反応の開始から3分間経過後に、含水ゲルを取り出し、一片が60±5gの大きさになるように切断した。次いで、切断したゲルの全量をポリ袋(大倉工業株式会社製:OK袋No.18)に入れた後、還元剤として10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液76.7g(含水ゲル中の固形分に対して18750ppm。単量体組成物および多糖類の合計質量に対して、15000ppmとなる)を投入した。直ちにポリ袋の口を縛り、ポリ袋に水滴が付着しなくなるまで振り混ぜた。
【0158】
上記操作で得られた含水ゲルを、ミートチョッパー(株式会社平賀製作所製:32型、プレート孔径:6.4mm)に6秒間経過する毎に一つずつ投入しながら、同時に、90℃に加熱した脱イオン水を毎分29g投入して粉砕し、粒子状の含水ゲルとした。
【0159】
この粒子状含水ゲル787.0g、および多糖類としてタピオカ酢酸デンプンBK-V97.0g(東海澱粉株式会社製)(固形分90%、含水ゲル中の固形分に対して25質量%。単量体組成物および該多糖類の合計質量に対して、20質量%添加する。吸水剤組成物に対する含有量が、20質量%となる)をポリ袋(大倉工業株式会社製:OK袋No.15)に入れ、直ちにポリ袋の口を縛った後、全体が均一になるように振り混ぜた。これにより、混合物を得た。
【0160】
得られた混合物を、90℃に調温した2.5L卓上ニーダー(小池鉄工株式会社製)に投入し、混練・粉砕を開始した。変速機で混練速度を6速にした後、混練物に脱イオン水(イオン交換水)116.0gを加えた。その後、ニーダーに蓋をして15分間混練し、デンプン混練ゲルを得た。
【0161】
このデンプン混練ゲル700.0gを50メッシュの金網上に広げ、170℃で45分間、熱風乾燥を行った。乾燥物を、ロールミル(有限会社井ノ口技研社製:WML型ロール粉砕機)を用いて粉砕し、さらに目開き600μm、300μmのJIS篩で篩い分けた。これにより、粒子径が300~600μmの不定形破砕状の吸水性樹脂組成物(ベースポリマー組成物)を得た。得られたベースポリマー組成物の残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表2に記載した。
【0162】
得られたベースポリマー組成物100質量部に対して、プロピレングリコール0.75質量部、デナコールEX-810(ナガセケムテックス株式会社製)0.07質量部、および脱イオン水(イオン交換水)1.75質量部からなる表面架橋剤溶液を添加して均一に混合し混合物を得た。その後、当該混合物を100℃で40分間、加熱処理することで表面架橋処理を行った。
【0163】
得られた表面架橋後の吸水性樹脂組成物を、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、表面架橋された吸水剤組成物を得た。
【0164】
得られた吸水剤組成物のCRC、AAP0.3、残存モノマー、残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表1に記載した。また、得られた吸水剤組成物のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)を算出し表2に記載した。
【0165】
〔実施例2〕
実施例1において、表面架橋剤溶液をベースポリマー樹脂組成物(ベースポリマー組成物)100質量部に対してエチレンカーボネート0.4質量部、プロピレングリコール0.7質量部、脱イオン水(イオン交換水)2.9質量部の均一な混合溶液とし、加熱処理を210℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、表面架橋された吸水剤組成物を得た。
【0166】
得られた吸水剤組成物のCRC、AAP0.3、残存モノマー、残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表1に記載した。また、得られた吸水剤組成物のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)を算出し表2に記載した。
【0167】
〔実施例3〕
実施例2において、含水ゲルに10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液を添加しなかった以外は、実施例2と同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(ベースポリマー組成物)を得た。
【0168】
得られたベースポリマー組成物100質量部に対して、20質量%亜硫酸ナトリウム水溶液5質量部(単量体組成物および多糖類の合計質量に対して10000ppm)を均一に混合し、60℃で30分間加温することにより、亜硫酸ナトリウム含有ベースポリマー組成物を得た。得られた亜硫酸ナトリウム含有ベースポリマー組成物の残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表2に記載した。続いて、当該亜硫酸ナトリウム含有ベースポリマーに実施例2と同様の表面架橋を行い、表面架橋された吸水剤組成物を得た。得られた吸水剤組成物のCRC、AAP0.3、残存モノマー、残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表1に記載した。また、得られた吸水剤組成物のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)を算出し表2に記載した。
【0169】
〔比較例1〕
実施例1において、含水ゲルに10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液およびタピオカ酢酸デンプンBK-Vを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って、吸水剤組成物を得た。
【0170】
但し、卓上ニーダーによる混練時には、当該卓上ニーダーに投入する混合物の含水量を、実施例1の混合物の含水量と同じになるように調節した。即ち、含水ゲルと10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液との混合を行わず、前記の切断した含水ゲルをミートチョッパーに6秒毎に一つずつ投入しながら、同時に、90℃に加熱した脱イオン水を毎分50g投入して粉砕し、粒子状の含水ゲルとした。そして、粒子状含水ゲルとタピオカ酢酸デンプンBK-Vとの混合を行わず、卓上ニーダーに当該粒子状含水ゲル984gと脱イオン水16gを投入して混錬した。
【0171】
得られたベースポリマー組成物の残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表2に記載した。
【0172】
得られた吸水剤組成物のCRC、AAP0.3、残存モノマー、残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表1に記載した。また、得られた吸水剤組成物のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)を算出し表2に記載した。
【0173】
〔比較例2〕
実施例2において、含水ゲルに10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液を添加しなかった以外は、実施例2と同様の操作を行い、吸水剤組成物を得た。
【0174】
具体的には、前記の切断したゲルと10質量%亜硫酸ナトリウム水溶液との混合を行わないで、前記の切断したゲルを、ミートチョッパーに6秒毎に一つずつ投入しながら、同時に、90℃に加熱した脱イオン水を投入して粉砕し、粒子状の含水ゲルとした。但し、このとき実施例2では毎分29g投入した、90℃に加熱した脱イオン水を、毎分50g投入した。
【0175】
得られたベースポリマー組成物の残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表2に記載した。
得られた吸水剤組成物のCRC、AAP0.3、残存モノマー、残存亜硫酸ナトリウム、L値、a値、b値およびYI値を測定し、結果を表1に記載した。また、得られた吸水剤組成物のYI値とベースポリマー組成物のYI値との差、ΔYI値(吸水剤組成物のYI値-ベースポリマー組成物のYI値)を算出し表2に記載した。
【表1】
【0176】
【表2】
表1から、吸水性樹脂(粒子状含水ゲル)に多糖類(タピオカ酢酸デンプン)を添加して得られる実施例1の吸水剤組成物の吸水剤組成物は、多糖類を含まない比較例1の吸水剤組成物とYI値がほぼ同様であることが分かる。また、実施例2および実施例3の吸水剤組成物(表面架橋後の最終製品)は、比較例2の吸水剤組成物(表面架橋後の最終製品)と比較してYI値が低い。すなわち、多糖類を含む実施例1~3の吸水剤組成物は、着色が抑制されていることが分かる。
【0177】
また、実施例2および実施例3の吸水性樹脂組成物は、比較例2の吸水性樹脂組成物と比較して、表面架橋前のベースポリマー組成物(中間品)に対するYI値の増加量(ΔYI値)が小さい。実施例1も同様である。これらのことから、還元剤の添加が製造過程での高温加熱時(熱風乾燥および表面架橋処理)の着色防止に有効であることが分かる。
【0178】
本発明では多糖類を含む吸水性樹脂の製造において、特定の工程で還元剤を添加することによって、従来の吸水性樹脂と同じ条件での吸水性樹脂の製造が可能性であり、着色防止に新たな設備投資や乾燥温度の低温化の必要もなく、高い生産性および高物性の吸水性樹脂が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の実施の一形態に係る吸水剤組成物は、紙おむつ、生理用ナプキン、成人向け失禁用製品(失禁パッド)、ペット用シート等の衛生材料(衛生用品)、農園芸用の土壌保水剤、工業用の止水剤等、様々な吸水性物品において好適に利用することができる。