(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】ナノ細孔アレイにおける二重層形成および細孔挿入のためにトラップされた電荷を使用するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240805BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20240805BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12Q1/6816 Z
(21)【出願番号】P 2022566396
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(86)【国際出願番号】 EP2021061278
(87)【国際公開番号】W WO2021219795
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-10-30
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】バラル,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】カーマン,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤモハン,ハリクリシュナン
(72)【発明者】
【氏名】コマディナ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】マネー,ジェイ・ウィリアム,ジュニア
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-511721(JP,A)
【文献】特表2019-526043(JP,A)
【文献】特表2019-522196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370903(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜形成材料および有機溶媒を含む溶液を、配列決定チップのウェル上の流路を通して流して、第1の水溶液を前記ウェル内に残しながら、前記流路から前記第1の水溶液を移動させるステップであって、前記ウェルが、対向電極と電気的に導通している作用電極を備える、前記ステップ
、
前記ウェル内の前記第1の水溶液中の電荷をトラップするために、前記膜形成材料を含む前記溶液を流す前記ステップの間に、前記作用電極と前記対向電極との間に第1の電圧を印加するステップ、
第2の水溶液を前記流路に流すことによって、前記膜形成材料を含む前記溶液を前記流路から移動させ、それによって、前記ウェルを覆う膜形成材料の層を残し、前記ウェル内にトラップされた電荷によって前記第1の水溶液を封止するステップ、ならびに、
前記膜形成材料の層を、配列決定用途のためにナノ細孔を受容することができる膜へと薄くするステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記作用電極と前記対向電極との間に印加される前記第1の電圧が、約10~2000mVの間の大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作用電極と前記対向電極との間に印加される前記第1の電圧が、少なくとも約10mVの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作用電極と前記対向電極との間に印加される前記第1の電圧が、少なくとも約100mVの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記作用電極と前記対向電極との間に印加される前記第1の電圧が、少なくとも約200mVの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記作用電極と前記対向電極との間に印加される前記第1の電圧が、少なくとも約500mVの大きさを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記膜形成材料の層を薄くするステップが、前記膜形成材料の層の上に流体を流すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記膜上にナノ細孔溶液を流すステップ、および、
前記膜にナノ細孔を挿入するステップ
、
をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ウェル内の前記トラップされた電荷を測定するステップ、および、
前記ナノ細孔を前記膜に挿入する前記ステップの間に、前記作用電極と前記対向電極との間に第2の電圧を印加するステップであって、前記第2の電圧が、前記ウェル内の測定された前記トラップされた電荷に少なくとも部分的に基づく、前記ステップ、
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ウェル内の前記トラップされた電荷を測定するステップ、および、
前記ナノ細孔を前記膜に挿入する前記ステップの間に、前記作用電極と前記対向電極との間に第2の電圧を印加するステップであって、前記第2の電圧が、前記第1の電圧の大きさに少なくとも部分的に基づく大きさを有する、前記ステップ、
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記配列決定チップがウェルのアレイを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の電圧が、少なくとも10~1000Hzの周波数を有する第1の波形として印加される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
対向電極および配列決定チップを包含するフローセルを備える消耗デバイスであって、前記配列決定チップが複数の作用電極を備え、各作用電極が前記配列決定チップの表面上に形成されたウェル内に配置されている、前記消耗デバイス、
ポンプを備える配列決定デバイスであって、前記ポンプが前記消耗デバイスの前記フローセルと流体連通するように構成され、前記消耗デバイスの前記対向電極および前記作用電極が前記配列決定デバイスと電気的に導通する、前記配列決定デバイス、ならびに、
コントローラであって、
前記複数の作用電極と前記対向電極との間に第1の電圧を印加して、前記配列決定チップの前記ウェル内に電荷を確立し、
膜形成材料を前記フローセル内であって、かつ前記ウェル上に圧送し、
複数のウェルの各ウェル上に膜を形成して、前記配列決定チップの前記複数のウェル内に前記電荷をトラップし、
複数の前記膜に細孔を挿入する、
ように構成された、前記コントローラ、
を備える、システム。
【請求項14】
細孔を前記複数の膜に挿入することが、ナノ細孔溶液を前記フローセル内に圧送し、前記複数の作用電極と前記対向電極との間に第2の電圧を印加することを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1の電圧が、約10~2000mVの間の大きさを有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1の電圧が、少なくとも約200mVの大きさを有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1の電圧が、少なくとも約500mVの大きさを有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記第2の電圧が、前記第1の電圧の大きさに依存する大きさを有する、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
前記第2の電圧が、前記トラップされた電荷の大きさに依存する大きさを有する、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
前記第1の電圧が、少なくとも10~1000Hzの周波数を有する第1の波形として印加される、請求項13~19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記配列決定チップがウェルのアレイを備える、請求項13~19のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、2021年5月1日に出願された米国仮特許出願第63/019,206号に対する優先権の利益を主張する。
参照による組み込み
【0002】
本明細書で述べられる全ての刊行物および特許出願は、それぞれの個々の刊行物または特許出願が参照によって組み込まれることが具体的且つ個別に示されるかのように同程度に参照によって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0003】
本発明の実施形態は、一般に、核酸を配列決定するためのシステムおよび方法に関し、より具体的には、核酸のナノ細孔ベースの配列決定のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ナノ細孔ベースの配列決定チップは、DNA配列決定に使用されることができる分析ツールである。これらのデバイスは、アレイとして構成された、非常に多数のセンサセルを組み込むことができる。例えば、配列決定チップは、例えば1000行×1000列のセルを有する100万個のセルのアレイを含むことができる。アレイのセルのそれぞれは、膜と、内径において1ナノメートルオーダーの細孔サイズを有するプロテイン細孔と、を含むことができる。そのようなナノ細孔は、ヌクレオチドの迅速な配列決定において有効であることが示されている。
【0005】
電位が、伝導性流体に浸されたナノ細孔にわたって印加されると、ナノ細孔にわたるイオンの伝導に起因する小イオン電流が存在できる。電流のサイズは、細孔サイズと、ナノ細孔内に配置された分子のタイプと、に影響を受けやすい。分子は、特定のヌクレオチドに結合された特定のタグとなり得る。したがって、核酸の特定の位置でのヌクレオチドの検出が可能となる。分子の抵抗を測定する方法として、ナノ細孔を含む回路における電圧または他の信号が(例えば、積分コンデンサにて)測定されることができ、それによって、ナノ細孔内にどのような分子があるかを検出することが可能となる。
【0006】
配列決定チップが適切に機能するためには、一般的に、所与のセルに対する膜において、細孔が1つのみ挿入されるべきである。複数の細孔が単一の膜内に挿入されると、複数の細孔を同時に通過したヌクレオチドにより生成された電気的シグニチャのインタープリテーションが、はるかに難しくなる。
【0007】
細孔挿入ステップ中の、膜にわたる電圧の印加は、おそらくは、膜の安定性を下げることと、細孔自体が、膜内に、より容易に挿入するのを可能にすることとにより、細孔挿入のプロセスを促進する場合がある。しかしながら、膜にわたる過大な電圧の印加は、セルを使用不可能な状態とする膜の甚大な破壊を引き起こす可能性がある。
【0008】
したがって、膜が過剰に損傷するリスクを下げつつ、単一の細孔を膜内に確実に挿入するためのシステムおよび方法を提供することが好適である。
【発明の概要】
【0009】
様々な実施形態は、ナノ細孔に基づく配列決定、より具体的には、配列決定に使用するための二重層または膜の形成および二重層または膜へのナノ細孔の挿入に関連する技術およびシステムを提供する。
【0010】
他の実施形態は、以下に説明される方法に関連付けられたシステムおよびコンピュータ可読媒体に向けられている。
【0011】
本発明の実施形態の特性および利点の良好な理解は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照して得ることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、方法が提供される。本方法は、膜形成材料および有機溶媒を含む溶液を、配列決定チップのウェル上の流路を通して流して、第1の水溶液をウェル内に残しながら、第1の水溶液を流路から移動させるステップであって、ウェルが、対向電極と電気的に導通している作用電極を含む、前記ステップと、ウェル内の第1の水溶液中の電荷をトラップするために、膜形成材料を含む溶液を流すステップの間に、作用電極と対向電極との間に第1の電圧を印加するステップと、第2の水溶液を流路に流すことによって、膜形成材料を含む溶液を流路から移動させ、それによって、ウェルを覆う膜形成材料の層を残し、ウェル内のトラップされた電荷によって第1の水溶液を封止するステップと、膜形成材料の層を、配列決定用途のためにナノ細孔を受容することができる膜へと薄くするステップと、を含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される第1の電圧は、約10から2000mVの間の大きさを有する。
【0014】
いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される第1の電圧は、少なくとも約10mVの大きさを有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される第1の電圧は、少なくとも約100mVの大きさを有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される第1の電圧は、少なくとも約200mVの大きさを有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される第1の電圧は、少なくとも約500mVの大きさを有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、膜形成材料の層を薄くするステップは、膜形成材料の層の上に流体を流すことを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本方法は、膜の上にナノ細孔溶液を流すステップと、膜にナノ細孔を挿入するステップであって、ウェル内に封止されたトラップされた電荷が、膜へのナノ細孔挿入の可能性を高めるように構成される、前記ステップと、をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、本方法は、ウェル内のトラップされた電荷を測定するステップと、ナノ細孔を膜に挿入するステップの間に、作用電極と対向電極との間に第2の電圧を印加するステップであって、第2の電圧が、ウェル内の測定されたトラップされた電荷に少なくとも部分的に基づく、前記ステップと、をさらに含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、本方法は、ウェル内のトラップされた電荷を測定するステップと、ナノ細孔を膜に挿入するステップの間に、作用電極と対向電極との間に第2の電圧を印加するステップであって、第2の電圧が、第1の電圧の大きさに少なくとも部分的に基づく大きさを有する、前記ステップと、をさらに含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、配列決定チップは、ウェルのアレイを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、少なくとも10~1000Hzの周波数を有する第1の波形として印加される。
【0024】
いくつかの実施形態では、システムが提供される。システムは、対向電極および配列決定チップを包含するフローセルを含む消耗デバイスであって、配列決定チップが複数の作用電極を備え、各作用電極が配列決定チップの表面上に形成されたウェル内に配置される、消耗デバイスと、ポンプを備える配列決定デバイスであって、ポンプが消耗デバイスのフローセルと流体連通するように構成され、消耗デバイスの対向電極および作用電極が配列決定デバイスと電気的に連通する、配列決定デバイスと、複数の作用電極と対向電極との間に第1の電圧を印加して、配列決定チップのウェル内に電荷を確立し、膜形成材料をフローセル内及びウェル上に圧送し、複数のウェルの各ウェルの上に膜を形成して、配列決定チップの複数のウェル内に電荷をトラップし、複数の膜に孔を挿入するように構成されたコントローラと、を含むことができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、細孔を複数の膜に挿入するステップは、ナノ細孔溶液をフローセル内に圧送し、複数の作用電極と対向電極との間に第2の電圧を印加することを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、約10から2000mVの間の大きさを有する。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、少なくとも約200mVの大きさを有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、少なくとも約500mVの大きさを有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、第2の電圧は、第1の電圧の大きさに依存する大きさを有する。
【0030】
いくつかの実施形態では、第2の電圧は、トラップされた電荷の大きさに依存する大きさを有する。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1の電圧は、少なくとも10から1000Hzの周波数を有する第1の波形として印加される。
【0032】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含んでいる。カラー図面を含む本特許または特許出願公開の写しは、請求に応じて、必要な手数料を支払うことにより、特許庁によって提供されることになる。
【0033】
本発明の新規の特徴は、以下の特許請求の範囲に具体的に記載されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が利用される例示的な実施形態を説明する以下の詳細な説明、およびその添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】ナノ細孔セルのアレイを有するナノ細孔センサチップの実施形態の平面図である。
【
図2】ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの特性を評価するために使用されることができるナノ細孔センサチップにおけるナノ細孔セルの実施形態を示している。
【
図3】ナノ細孔ベースの、合成による配列決定(Nano-SBS)技術を使用してヌクレオチドの配列決定を行うナノ細孔セルの実施形態を示している。
【
図4】ナノ細孔セルにおける電気回路の実施形態を示している。
【
図5】ACサイクルの明期および暗期中にナノ細孔セルからキャプチャされたデータポイントの例を示している。
【
図6】ナノ細孔センサセルの回路図の実施形態を示している。
【
図7】細孔挿入を促進するために使用されることができるステップ状の電圧波形を示している。
【
図8】細孔挿入を促進するために使用されることができる傾斜電圧波形を示している。
【
図9】
図9Aおよび
図9Bは、いくつかの実施形態において、細孔が挿入されると、細孔が、上昇した電圧を膜自体にわたって消散させることができ、それにより、細孔が挿入された後に、電圧がさらに上昇する際に、膜への損傷のリスクを低減することと、さらなる細孔挿入の可能性を低減することと、の双方を示している。
【
図10A】電圧および時間の関数としてのアレイにおける細孔挿入数のプロットを示している。
【
図10B】電圧および時間の関数としての、膜の破壊から生じる、不活性化/短絡数のプロットを示している。
【
図11】本開示の特定の態様にかかるコンピュータシステムである。
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、膜形成および細孔挿入に対するウェル内の電荷をトラップする潜在的効果を示している。
【
図13】
図13A~
図13Cは、
図12Aおよび
図12Bに示される効果が、膜形成プロセス中に膜材料(すなわち、脂質またはトリブロックコポリマー)流量を変えることによって変調されることができることを示している。
【
図15A】脂質分注波形が脂質分注中に印加されない場合の線条パターンの非存在を示している。
【
図15B】セルが脂質分注波形の印加中に不活性化される場合の線条パターンの非存在を示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
用語
特に定義しない限り、本明細書で使用する技術的および科学的用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。ここに説明されるそれらと同様の、または、等価な、方法、デバイス、および材料は、開示される技術の実践において使用されることができる。以下の用語は、頻繁に使用される特定の用語の理解を促進するために提供され、本開示の範囲を限定することを意味しない。ここに使用される略語は、化学および生物学の分野におけるそれらの一般的な意味を有する。
【0036】
「ナノ細孔」とは、膜内に形成された、または、さもなければ設けられた、細孔、チャネル、または通路を指す。膜は、脂質二重層のような有機膜、またはポリマー材料から作られた合成膜とすることができる。ナノ細孔は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)もしくは電界効果トランジスタ(FET)回路などの、センシング回路、または、そのようなセンシング回路に接続された電極に隣接して、または、これに近接して配置されることができる。いくつかの例では、ナノ細孔は、約0.1ナノメートル(nm)から約1000nmオーダーの、特徴的な幅または直径を有する。いくつかの実装では、ナノ細孔は、タンパク質とすることができる。
【0037】
「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本鎖型または二本鎖型のいずれかのそれらのポリマーを指す。この用語は、既知のヌクレオチド類似体または修飾骨格鎖残基もしくは連鎖を含む核酸を包含し、これらは、合成物質、天然に存在するもの、および、天然に存在しないものであり、これらは、参照核酸と同様の結合特性を有し、これらは、参照ヌクレオチドと同様の様式にて代謝される。そのような類似体の例は、ホスホロチオエート、ホスホラミダイト、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、およびペプチド核酸(PNAs)を含むが、これらに限定されない。特に示されない限り、特定の核酸配列はまた、暗に、それらの保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換体)、および、相補的配列、同様に、明示された配列を包含する。具体的には、縮重コドン置換体は、1つ以上の選択された(または、全ての)コドンの第3の位置が、混合基および/またはデオキシイノシン残基と置換された配列を生成することによって達成されることができる(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991)、Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、Rossoliniら、Mol.Cell.Probes8:91-98(1994))。核酸という用語は、遺伝子、相補的デオキシリボ核酸(cDNA)、伝令リボ核酸(mRNA)、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと、互いに交換可能に使用されることができる。
【0038】
用語「ヌクレオチド」は、天然に存在するリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドモノマーを指すことに加えて、(例えば、相補的塩基に対するハイブリダイゼーションなどの)ヌクレオチドが使用されている特定のコンテキストに関して、そのコンテキストがそうでないと明確に示さない限りは、機能的に等価な誘導体および類似体を含む、それらの関連する構造変異体を指すものと理解されることができる。
【0039】
用語「タグ」とは、原子もしくは分子、または、原子もしくは分子の集合体とすることができる、検出可能な部分を指す。タグは、光学的な、電気化学的な、磁気的な、または静電性(例えば、誘導性、または、容量性)シグニチャを提供することができ、このシグニチャは、ナノ細孔の助力によって検出されることができる。典型的には、ヌクレオチドがタグに結合されると、このタグは、「タグ付けされたヌクレオチド」と呼ばれる。タグは、リン酸塩部分を介してヌクレオチドに結合されることができる。
【0040】
用語「テンプレート」とは、DNA合成のために、DNAヌクレオチドの相補鎖にコピーされた一本鎖核酸分子を指す。いくつかの場合では、テンプレートは、mRNAの合成中にコピーされたDNAの配列を指すことができる。
【0041】
用語「プライマ」とは、DNA合成のための開始ポイントを提供する、短い核酸配列を指す。DNAポリメラーゼなど、DNA合成を触媒する酵素は、DNA複製についてのプライマに新たなヌクレオチドを追加することができる。
【0042】
「ポリメラーゼ」とは、ポリヌクレオチドの、テンプレートに向けられた合成を行う酵素を指す。この用語は、全長ポリペプチドと、ポリメラーゼ活性を有するドメインとの双方を包含する。DNAポリメラーゼは、当業者によく知られており、これらに限定されないが、ピロコッカス・フリオサス、テルモコッカス・リトラリス、およびサーモトガ・マリティマ、または、それらの修飾されたバージョンから分離された、または、これらから派生したDNAポリメラーゼを含む。これらは、DNA依存性ポリメラーゼおよび逆転写酵素などのRNA依存性ポリメラーゼの双方を含む。DNA依存性DNAポリメラーゼの少なくとも5つのファミリーが知られているが、大部分は、ファミリーA、BおよびCに分類される。様々なファミリー間の配列類似性はほとんどまたは全くない。ファミリーAポリメラーゼのほとんどは、ポリメラーゼ、3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性と、5’から3’のエキソヌクレアーゼ活性とを含む、複数の酵素機能を含むことができる、一本鎖型タンパク質である。ファミリーBポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼおよび3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性と、同様に、補助要素とを伴う単一の触媒ドメインを有する。ファミリーCポリメラーゼは、典型的には、重合化と、3’から5’のエキソヌクレアーゼ活性とを伴うマルチサブユニットタンパク質である。大腸菌(E.coli)では、DNAポリメラーゼI(ファミリーA)、DNAポリメラーゼII(ファミリーB)、およびDNAポリメラーゼIII(ファミリーC)の3つのタイプのDNAポリメラーゼが見つかっている。真核細胞では、DNAポリメラーゼ□、□、および□の3つの異なるファミリーBポリメラーゼが、核の複製において関与しており、ファミリーAポリメラーゼの1つであるポリメラーゼ□が、ミトコンドリアDNA複製のために使用される。他のタイプのDNAポリメラーゼは、ファージポリメラーゼを含む。同様に、RNAポリメラーゼは、典型的には、真核性RNAポリメラーゼI、II、およびIII、ならびに、細菌性RNAポリメラーゼ、同様に、ファージおよびウイルスポリメラーゼを含む。RNAポリメラーゼは、DNA依存性およびRNA依存性とすることができる。
【0043】
用語「明期」とは、一般的に、AC信号を通して印加された電界により、タグ付けされたヌクレオチドのタグがナノ細孔内に押し込められる期間を指す。用語「暗期」とは、一般に、AC信号を通して印加された電界により、タグ付けされたヌクレオチドのタグがナノ細孔から押し出される期間を指す。ACサイクルは、明期および暗期を含むことができる。異なる実施形態では、ナノ細孔セルを明期(または、暗期)にするために、ナノ細孔セルに印加される電圧信号の極性は異なることができる。
【0044】
用語「信号値」とは、配列決定セルから出力される配列決定信号の値を指す。特定の実施形態によれば、配列決定信号は、1つ以上の配列決定セルの回路におけるポイントにおいて測定され、および/または、そこから出力された電気的信号であり、例えば、信号値は、電圧または電流である(または、これを表す)。信号値は、電圧および/または電流の直接測定の結果を表すことができ、および/または、間接測定値を表してもよく、例えば、信号値は、電圧または電流が指定値に到達するまでにかかる、測定された期間とすることができる。信号値は、ナノ細孔の抵抗率と相互に関連し、(挿通された、および/または、挿通されていない)ナノ細孔の抵抗率および/またはコンダクタンスが導かれることができる、いずれかの測定可能な量を表すことができる。別の例としては、信号値は、例えば、ポリメラーゼを用いて核酸に付加されたヌクレオチドに結合された蛍光体からの光の強度に対応することができる。
【0045】
用語「オスモル濃度」とは、これは浸透圧濃度としても知られており、溶質濃度の測定単位を指す。オスモル濃度は、溶液の単位体積毎の溶質粒子のオスモル数を測定する。オスモルは、溶液の浸透圧に寄与する溶質のモル数の測定単位である。オスモル濃度は、溶液の浸透圧の測定と、浸透圧濃度が異なる2種類の溶液を分離する半透膜(浸透作用)にわたって溶媒がどのように分散するかの決定と、を可能にする。
【0046】
用語「オスモライト」とは、溶液内に溶解されると、その溶液のオスモル濃度を上げる、いずれの溶解可能な化合物を指す。
【0047】
特定の実施形態によれば、本明細書に開示される技術およびシステムは、ナノ細孔ベースの配列決定チップのセルにおける、単一の細孔の膜内への挿入に関する。いくつかの実施形態では、細孔の膜内への挿入は、さらなる細孔の膜内への挿入の可能性を低減し、それにより、細孔挿入をさらに自己制限し、挿入ステップ中のアクティブフィードバックの必要性を低減するかまたはこれを排除する。
【0048】
ナノ細孔システム、回路、および配列決定操作の例が最初に説明され、続いて、DNA配列決定セルにおいてナノ細孔を置き換える技術例が説明される。本発明の実施形態は、プロセス、システム、およびコンピュータ可読記憶媒体上に具現化されるコンピュータプログラム製品、および/または、プロセッサに接続されたメモリ上に記憶された、および/または、このメモリにより提供された命令を実行するよう構成されたプロセッサ、を含む多くの方法にて実装されることができる。
【0049】
I.ナノ細孔ベースの配列決定チップ
図1は、ナノ細孔セル150のアレイ140を有するナノ細孔センサチップ100の実施形態の平面図である。ナノ細孔セル150のそれぞれは、ナノ細孔センサチップ100のシリコン基板上に集積された制御回路を含む。いくつかの実施形態では、グループのそれぞれが、特性評価のために、異なるサンプルを受け取ることができるように、ナノ細孔セル150のグループをそれぞれ分離するために側壁136がアレイ140に含まれている。ナノ細孔セルのそれぞれは、核酸の配列を決定するために使用されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、カバープレート130を含む。いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100はまた、コンピュータプロセッサなどの他の回路とインターフェースする複数のピン110も含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、同じパッケージに複数のチップを含み、例えば、マルチチップモジュール(MCM)またはシステムインパッケージ(SiP)を構成する。チップは、例えば、メモリ、プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、データコンバータ、高速I/Oインターフェース、などを含むことができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔センサチップ100は、本明細書に開示される、プロセスの様々な実施形態を実行する(例えば、自動的に実行する)ための様々な構成要素を含むことができる、ナノチップワークステーション120に接続される(例えば、ドッキングされる)。これらのプロセスは、例えば、脂質懸濁液、または、他の膜構造懸濁液、分析物溶液、および/または、他の液体、懸濁液、または固体を供給するための、ピペットなどの、分析物デリバリメカニズムを含むことができる。ナノチップワークステーションの構成要素は、ロボティックアーム、1つ以上のコンピュータプロセッサ、および/またはメモリをさらに含むことができる。複数のポリヌクレオチドが、ナノ細孔セル150のアレイ140上にて検出されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔セル150のそれぞれは、個々にアドレス可能である。
【0052】
II.ナノ細孔配列決定セル
ナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150は、多くの異なる方法において実装されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、異なるサイズおよび/または化学構造のタグが、配列決定される核酸分子における異なるヌクレオチドに結合される。いくつかの実施形態では、配列決定される核酸分子のテンプレートに対する相補鎖が、テンプレートと異なってポリマータグ付けされたヌクレオチドとハイブリタイズすることにより合成されてもよい。いくつかの実装では、核酸分子と、結合されたタグとの双方は、ナノ細孔を通って移動し、ナノ細孔を通過するイオン電流は、ナノ細孔内にあるヌクレオチドを、そのヌクレオチドに結合されたタグの特定のサイズおよび/または構造に依拠して示すことができる。いくつかの実装では、タグのみがナノ細孔内に移される。ナノ細孔内の異なるタグはまた、多くの異なる方法でも検出されることができる。
【0053】
A.ナノ細孔配列決定セル構造
図2は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの特性を評価するために使用されることができる、
図1のナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150などの、ナノ細孔センサチップにおける例示的なナノ細孔セル200の実施形態を示している。ナノ細孔セル200は、誘電体層201および204から形成されたウェル205と、ウェル205上に形成された脂質二重層214などの膜と、脂質二重層214上の脂質二重層214によりウェル205から分離されたサンプルチャンバ215と、を含むことができる。ウェル205は、一定量の電解質206を含むことができ、サンプルチャンバ215は、溶解性タンパク質細孔膜貫通分子錯体(PNTMC)などの、ナノ細孔を含むバルク電解質208と、対象分析物(例えば、配列決定される核酸分子)と、を保持することができる。
【0054】
ナノ細孔セル200は、ウェル205の底にある作用電極202と、サンプルチャンバ215内に配置された対向電極210とを含むことができる。信号源228は、電圧信号を、作用電極202と対向電極210との間に印加することができる。単一のナノ細孔(例えば、PNTMC)は、電圧信号により引き起こされるエレクトロポレーションプロセスにより、脂質二重層214内に挿入されることができ、それによって、ナノ細孔216を脂質二重層214内に形成する。アレイ内の個別の膜(例えば、脂質二重層214または他の膜構造)は、化学的にも電気的にも互いに接続されないものとすることができる。したがって、アレイにおけるナノ細孔セルのそれぞれは、対象分析物に作用し、さもなければ不浸透性の脂質二重層を通してイオン電流を変調するナノ細孔に関連付けられた、単一のポリマー分子に固有のデータを生成する、独立した配列決定マシンとすることができる。
【0055】
細孔挿入のためのシステムおよび方法の追加的な実施形態が、以下のセクションIIIにて説明される。特に、これらのシステムおよび方法は、セルの膜における、単一細孔挿入を効率的に達成する、自己制限性細孔挿入を説明する。
【0056】
図2に示すように、ナノ細孔セル200は、シリコン基板などの基板230上に形成されることができる。誘電体層201は、基板230上に形成されることができる。誘電体層201を形成するために使用される誘電材料は、例えば、ガラス、酸化物、窒化物などを含むことができる。電気的刺激を制御することと、ナノ細孔セル200から検出される信号を処理することとのための電気回路222は、基板230上、および/または、誘電体層201内に形成されることができる。例えば、複数のパターン化された金属層(例えば、金属1~金属6)が、誘電体層201内に形成されることができ、複数のアクティブデバイス(例えば、トランジスタ)が、基板230上に作られることができる。いくつかの実施形態では、信号源228は、電気回路222の一部として含まれる。電気回路222は、例えば、アンプ、積分器、アナログ-デジタルコンバータ、ノイズフィルタ、フィードバック制御ロジック、および/または様々な他の構成要素などを含むことができる。電気回路222は、メモリ226に接続されたプロセッサ224にさらに接続されることができ、ここで、プロセッサ224は、配列決定データを分析し、アレイにおいて配列決定されたポリマー分子の配列を決定することができる。
【0057】
作用電極202は、誘電体層201上に形成されることができ、ウェル205の底の一部を少なくとも形成することができる。いくつかの実施形態では、作用電極202は、金属電極である。非ファラデー性伝導について、作用電極202は、例えば、白金、金、窒化チタン、および黒鉛などの、腐食および酸化に耐性のある金属または他の材料製とすることができる。例えば、作用電極202は、白金が電気めっきされた白金電極とすることができる。別の例では、作用電極202は、窒化チタン(TiN)作用電極とすることができる。作用電極202は、多孔質とすることができ、それによって、その表面積が広くなり、作用電極202に関連付けられた静電容量をもたらす。ナノ細孔セルの作用電極は、別のナノ細孔セルの作用電極から独立することができるため、作用電極は、本開示ではセル電極と呼ばれることがある。
【0058】
誘電体層204は、誘電体層201の上に形成されることができる。誘電体層204は、ウェル205を取り囲む壁を形成する。誘電体層204を形成するために使用される誘電材料は、例えば、ガラス、酸化物、一窒化シリコン(SiN)、ポリイミド、または他の好適な疎水性絶縁材料などを含むことができる。誘電体層204の上面は、シラン処理されることができる。シラン処理は、誘電体層204の上面の上方に疎水層220を形成することができる。いくつかの実施形態では、疎水層220は、約1.5ナノメートル(nm)の厚さを有する。
【0059】
誘電体層壁204により形成されたウェル205は、作用電極202の上方に多量の電解質206を含む。多量の電解質206は、緩衝されることができ、以下のうちの1つ以上を含むことができる:塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)。いくつかの実施形態では、多量の電解質206は、約3ミクロン(μm)の厚さを有する。
【0060】
また、
図2に示すように、膜が、誘電体層204の上に形成されることができ、ウェル205にわたって広がる。いくつかの実施形態では、この膜は、疎水層220の上方に形成された脂質単層218を含む。この膜が、ウェル205の開口に到達すると、脂質単層208は、ウェル205の開口にわたって広がる脂質二重層214に変遷することができる。脂質二重層は、例えば、ジフィタノイル-ホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DoPhPC)、パルミトイル-オレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイル-ホスファチジル-メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロール、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-ラクトシル、GM1ガングリオシド、リゾホスファチジルコリン(LPC)、または、これらのいずれの組み合わせから選択される、リン脂質などの脂質類を含むかまたはこれらから構成されることができる。例えば、ホスファチジン酸誘導体(例えば、DMPA、DDPA、DSPA)、ホスファチジルコリン誘導体(例えば、DDPC、DLPC、DMPC、DPPC、DSPC、DOPC、POPC、DEPC)、ホスファチジルグリセロール誘導体(例えば、DMPG、DPPG、DSPG、POPG)、ホスファチジルエタノールアミン誘導体(例えば、DMPE、DPPE、DSPE、DOPE)、ホスファチジルセリン誘導体(例えば、DOPS)、PEGリン脂質誘導体(例えば、mPEGリン脂質、ポリグリセリンリン脂質、官能性リン脂質、末端活性リン脂質)、ジフィタノイルリン脂質(例えば、DPhPC、DOPhPC、DPhPE、およびDOPhPE)などの、他のリン脂質誘導体がまた使用されてもよい。いくつかの実施形態では、二重層は、例えば、両親媒性ブロック共重合体(例えば、ポリ(ブタジエン)-ブロック-ポリ(酸化エチレン)、PEGジブロック共重合体、PEGトリブロック共重合体、PPGトリブロック共重合体、ならびにポロクサマー)、および、非イオン性またはイオン性とすることができる、他の両親媒性共重合体などの非脂質ベースの材料を使用して形成されることができる。いくつかの実施形態では、二重層は、脂質ベースの材料と、非脂質ベースの材料との組み合わせから形成されることができる。いくつかの実施形態では、二重層材料は、アルカン(例えば、デカン、トリデカン、ヘキサデカンなど)、および/または1つ以上のシリコーンオイル(例えば、AR-20)などの、1つ以上の有機溶媒を含む溶媒相にて供給されることができる。
【0061】
示されるように、脂質二重層214は、例えば単一のPNTMCによって形成された単一のナノ細孔216によって埋め込まれている。上述したように、エレクトロポレーションによって単一のPNTMCを脂質二重層214に挿入することによって、ナノ細孔216が形成されることができる。ナノ細孔216は、対象分析物の少なくとも一部および/または小さいイオン(例えば、Na+、K+、Ca2+、Cl-)を、脂質二重層214の2つの側の間に通すのに十分な大きさとすることができる。
【0062】
サンプルチャンバ215は、脂質二重層214の上にあり、特性評価対象分析物の溶液を保持することができる。溶液は、バルク電解質208を含む水溶液であり、最適なイオン濃度に緩衝され、ナノ細孔216を開いたままにするために最適なpHにて維持されることができる。ナノ細孔216は、脂質二重層214を横断し、バルク電解質208から作用電極202へのイオンフローの唯一の経路を提供する。ナノ細孔(例えば、PNTMC)および対象分析物に加えて、バルク電解質208は、以下のうちの1つ以上をさらに含むことができる:塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)。
【0063】
対向電極(CE)210は、電気化学的な電位センサとすることができる。いくつかの実施形態では、対向電極210は、複数のナノ細孔セルの間にて共有されており、したがって、共通電極と呼ばれることがある。いくつかの場合では、共通電位および共通電極は、全てのナノ細孔セルに、または、少なくとも特定のグルーピング内の全てのナノ細孔セルに共通することができる。共通電極は、共通電位を、ナノ細孔216に接触しているバルク電解質208に印加するように構成されることができる。対向電極210および作用電極202は、脂質二重層214にわたって電気的刺激(例えば、電圧バイアス)を提供するために、信号源228に接続されることができ、脂質二重層214の電気的特性(例えば、抵抗、静電容量、およびイオン電流フロー)を検知するために使用されることができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔セル200はまた、参照電極212を含むことができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、較正の一部として、ナノ細孔セルの作成中に、様々なチェックが行われる。ナノ細孔セルが形成されると、例えば、所望に作動しているナノ細孔セル(例えば、セル内の1つのナノ細孔)を識別するために、さらなる較正ステップが行われることができる。そのような較正チェックは、物理的チェック、電圧較正、オープンチャネル較正、および単一のナノ細孔を有するセルの識別を含むことができる。
【0065】
B.ナノ細孔配列決定セルの検出信号
ナノ細孔センサチップ100におけるナノ細孔セル150などの、ナノ細孔センサチップにおけるナノ細孔セルは、合成技術による、単一分子ナノ細孔ベースの配列決定(Nano-SBS)を使用する、並列配列決定を可能とすることができる。
【0066】
図3は、Nano-SBS技術を使用する、ヌクレオチドの配列決定を行うナノ細孔セル300の実施形態を示している。Nano-SBS技術では、配列決定されるテンプレート332(例えば、ヌクレオチド酸分子または別の対象分析物)およびプライマが、ナノ細孔セル300のサンプルチャンバ内のバルク電解質308内に導入されることができる。例として、テンプレート332は、円形または線形とすることができる。核酸プライマは、4つの異なるポリマーでタグ付けされたヌクレオチド338が加えられることができるテンプレート332の一部にハイブリタイズされることができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、酵素(例えば、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ334)が、テンプレート332に対する相補鎖を合成することにおける使用のために、ナノ細孔316に関連付けられている。例えば、ポリメラーゼ334は、ナノ細孔316に共有結合されることができる。ポリメラーゼ334は、一本鎖核酸分子をテンプレートとして使用する、ヌクレオチド338のプライマ上への組み込みを、触媒することができる。ヌクレオチド338は、A、T、G、またはCの、4つの異なるタイプのうちの1つであるヌクレオチドを用いるタグ種(「タグ」)を含むことができる。タグ付けされたヌクレオチドがポリメラーゼ334と正しく複合化されると、脂質二重層314および/またはナノ細孔316にわたって印加される電圧によって生成される電場の存在下で生成される力などの電気力によって、タグがナノ細孔内に引き込まれる(例えば、ロードされる)ことができる。タグの末端は、ナノ細孔316のバレル内に配置されることができる。ナノ細孔316のバレル内に保持されたタグは、そのタグの明確な化学構造および/またはサイズにより、固有のイオン封鎖信号340を生成することができ、それによって、タグが結合する添加塩基を電子的に識別することができる。
【0068】
ここで使用されるように、「ロードされた(loaded)」または「挿通された(threaded)」タグは、0.1ミリ秒(ms)~10000msなどの、相当な期間にわたって、ナノ細孔内に、またはその付近に配置されるかおよび/または残るものである。いくつかの場合では、タグは、ヌクレオチドから放出される前に、ナノ細孔内にロードされる。いくつかの例では、ロードされたタグが、ヌクレオチド組み込み事象の際に放出された後にナノ細孔を通過する(および/またはナノ細孔により検出される)確率が適度に高く、例えば90%~99%である。
【0069】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ334がナノ細孔316に接続される前には、ナノ細孔316のコンダクタンスは、約300ピコシーメンス(300pS)などに高い。タグがナノ細孔内にロードされるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、信号340)は、タグの別個の化学構造および/またはサイズにより生成される。例えば、ナノ細孔のコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pS、または120pSとすることができ、これらのそれぞれは、4つのタイプのタグ付けされたヌクレオチドのうちの1つに対応する。そして、ポリメラーゼは、異性化およびリン酸転移反応を経て、ヌクレオチドを、成長中の核酸分子内に組み込み、タグ分子を解放することができる。
【0070】
いくつかの場合では、タグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子(テンプレート)の現在の位置とマッチ(相補的塩基)しない場合がある。核酸分子との塩基対になっていない、タグ付けされたヌクレオチドもまた、ナノ細孔を通過することができる。これらの対合されていないヌクレオチドは、典型的には、正しく対合されたヌクレオチドがポリメラーゼと結合したままである時間スケールよりも短い時間スケール内で、ポリメラーゼによって拒絶されることができる。対合されていないヌクレオチドに結合されたタグは、ナノ細孔を迅速に通過することができ、短い期間(例えば、10ms未満)にわたって検出されることができる一方で、対合されたヌクレオチドに結合されたタグは、ナノ細孔内にロードされ、長い期間(例えば、少なくとも10ms)にわたって検出されることができる。したがって、対合されていないヌクレオチドは、ヌクレオチドがナノ細孔内にて検出される時間の少なくとも一部に基づいて、下流プロセッサにより識別されることができる。
【0071】
ロードされた(挿通された)タグを含むナノ細孔のコンダクタンス(または、等価的に抵抗)は、信号値(例えば、電圧またはナノ細孔を通過する電流)を介して測定され、それにより、タグ種の識別、したがって、現在の位置にあるヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、(例えば、タグがナノ細孔を通って移動する方向が反転されないように)直流(DC)信号が、ナノ細孔セルに印加される。しかしながら、直流を使用して、ナノ細孔センサを長い期間にわたって作動させることは、電極の組成を変え、ナノ細孔にわたるイオン濃度を不均衡なものとし、ナノ細孔セルの寿命に悪影響を及ぼす可能性がある他の好ましくない効果を有する可能性がある。交流(AC)波形を印加することは、電子移動を減らし、これらの好ましくない効果を回避し、以下に説明されるような特定の利点を有することができる。タグ付けされたヌクレオチドを利用する本明細書で説明される核酸配列決定方法は、印加されるAC電圧に完全に共存可能であり、したがって、AC波形が、これらの利点を達成するために使用されることができる。
【0072】
AC検出サイクル中に電極を再充電させることができることは、犠牲電極、これは、通電反応において分子的特徴が変わる電極(例えば、銀を含む電極)、または、通電反応における分子的特徴が変わる電極が使用される場合に好適とすることができる。直流信号が使用される場合、電極は、検出サイクル中に消耗する可能性がある。再充電することは、電極が小型である場合(例えば、電極が、1平方ミリメートル毎に少なくとも500個の電極を有する電極のアレイを提供するほど十分小さい場合)に問題になる可能性がある、完全に消耗するなどの、電極が消耗限度に到達することを防ぐことができる。電極寿命は、場合によっては、電極幅とともに進み、少なくとも部分的に、それに依存する。
【0073】
ナノ細孔を通過するイオン電流を測定するための好適な条件は、当業者に知られており、それらの例が本明細書に提供される。測定は、膜および細孔にわたって印加される電圧を用いて実行されることができる。いくつかの実施形態では、使用される電圧は、-2000mV~+2000mVの範囲にある。使用される電圧は、好ましくは、下限が-2000mV、-1900mV、-1800mV、-1700mV、-1600mV、-1500mV、-1400mV、-1300mV、-1200mV、-1100mV、-1000mV、-900mV、-800mV、-700mV、-600mV、-500mV、-400mV、-300mV、-200mV、-150mV、-100mV、-50mV、-20mV、および0mVから選択され、上限が独立して+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mV、+400mV、+500mV、+600mV、+700mV、+800mV、+900mV、+1000mV、+1100mV、+1200mV、+1300mV、+1400mV、+1500mV、+1600mV、+1700mV、+1800mV、+1900mV、および+2000mVから選択される範囲内である。使用される電圧は、より好適には、100mV~240mVの範囲、最も好適には、160mV~240mVの範囲とすることができる。増加した印加電位を使用したナノ細孔により、異なるヌクレオチド間の識別を増加させることができる。AC波形およびタグ付けされたヌクレオチドを使用する核酸配列決定は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2013年11月6に出願された、「Nucleic Acid Sequencing Using Tags」と題された、米国特許出願公開第2014/0134616号明細書に記載されている。米国特許出願公開第2014/0134616号明細書に記載されているタグ付けされたヌクレオチドに加えて、配列決定は、例えば、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、およびチミンの5つの共通する核酸塩基の(S)-グリセロールヌクレオシドトリホスフェート(gNTPs)などの糖部分または非環式部分が少ないヌクレオチド類似体を使用して行われることができる(Horhotaら、Organic Letters、8:5345-5347[2006])。
【0074】
C.ナノ細孔配列決定セルの電気回路
図4は、ナノ細孔セル400などの、ナノ細孔セル内の電気回路400(
図2の電気回路222の部分を含むことができる)の実施形態を示している。上述したように、いくつかの実施形態では、電気回路400は、ナノ細孔センサチップにおける複数のナノ細孔セルまたは全てのナノ細孔セルの間にて共有されることができ、したがって、共通電極とも呼ばれることがある対向電極410を含む。共通電極は、電圧源V
LIQ420に接続することにより、共通電位を、ナノ細孔セルにおける脂質二重層(例えば、脂質二重層214)に接触しているバルク電解質(例えば、バルク電解質208)に印加するように構成されることができる。いくつかの実施形態では、AC非ファラデーモードが利用され、AC信号(例えば、矩形波)を用いて電圧V
LIQを変調し、それをナノ細孔セルにおいて脂質二重層に接触しているバルク電解質に印加する。いくつかの実施形態では、V
LIQは、±200~250mVの大きさと、例えば、25と400Hzとの間の周波数とを有する矩形波である。対向電極410と脂質二重層(例えば、脂質二重層214)との間のバルク電解質は、例えば、100μF以上の大型のコンデンサ(図示せず)によりモデル化されることができる。
【0075】
図4はまた、作用電極402(例えば、作用電極202)と、脂質二重層(例えば、脂質二重層214)と、の電気的性状を表す電気的モデル422をも示している。電気的モデル422は、脂質二重層に関連付けられた静電容量をモデル化するコンデンサ426(C
二重層)と、ナノ細孔に関連付けられた可変抵抗をモデル化する抵抗器428(R
細孔)とを含、これらは、ナノ細孔における特定のタグの存在に基づいて変化することができる。電気的モデル422はまた、二重層静電容量(C
二重層)を有し、作用電極402とウェル205との電気的性状を表すコンデンサ424をも含む。作用電極402は、他のナノ細孔セルにおける作用電極から独立した明確な電位を印加するよう構成されることができる。
【0076】
パスデバイス406は、脂質二重層と、作用電極とを、電気回路400に接続するかまたは電気回路から切断することに使用されることができるスイッチである。パスデバイス406は、制御線407により制御されることができ、ナノ細孔セルにおける脂質二重層にわたって印加される電圧刺激を有効または無効にする。脂質が堆積して脂質二重層を形成する前には、ナノ細孔セルのウェルが封止されていないために、これら2つの電極間のインピーダンスが非常に低い場合があり、したがって、短絡状況を回避するために、パスデバイス406は、開いた状態に維持されることができる。脂質溶媒がナノ細孔セルに堆積されて、ナノ細孔セルのウェルを封止した後に、パスデバイス406は、閉じられることができる。
【0077】
回路400は、オンチップ積分コンデンサ408(ncap)をさらに含むことができる。積分コンデンサ408は、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に接続されるように、リセット信号403を使用してスイッチ401を閉じることにより、予め充電されることができる。いくつかの実施形態では、電圧源VPRE405は、900mVなどの大きさの一定の基準電圧を提供する。スイッチ401が閉じられると、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405の基準電圧レベルまで、予め充電されることができる。
【0078】
積分コンデンサ408が予め充電された後、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405から切断されるように、リセット信号403が使用されてスイッチ401を開くことができる。この時点にて、電圧源VLIQのレベルに依存して、対向電極410の電位は、作用電極402(および、積分コンデンサ408)の電位のそれよりも高いレベルとすることができ、その逆もしかりである。例えば、電圧源VLIQからの矩形波の正相(例えば、AC電圧源信号サイクルの明期または暗期)中は、対向電極410の電位は、作用電極402の電位よりも高いレベルにある。電圧源VLIQからの矩形波の負相(例えば、AC電圧源信号サイクルの暗期または明期)中は、対向電極410の電位は、作用電極402の電位よりも低いレベルにある。したがって、いくつかの実施形態では、積分コンデンサ408は、明期の間に、電圧源VPRE405の予め充電された電圧レベルから、より高いレベルまで、さらに充電され、また、暗期の間に、対向電極410と作用電極402との間の電位差により、より低いレベルまで放電されることができる。他の実施形態では、充電および放電は、それぞれ、暗期および明期に行われる。
【0079】
積分コンデンサ408は、1kHz、5kHz、10kHz、100kHz、またはそれ以上よりも高くすることができる、アナログ-デジタルコンバータ(ADC)435のサンプリングレートに依存して、一定期間にわたって充電または放電されることができる。例えば、1kHzのサンプリングレートでは、積分コンデンサ408は、約1msの期間にわたって充電/放電されることができ、そして、電圧レベルを、積分期間の終わりにADC435によりサンプリングされて変換されることができる。特定の電圧レベルは、ナノ細孔における特定のタグ種に対応し、したがって、テンプレート上の現在の位置にあるヌクレオチドに対応する。
【0080】
ADC435によりサンプリングされた後に、積分コンデンサ408は、積分コンデンサ408が再度電圧源VPRE405に接続されるように、リセット信号403を使用してスイッチ401を閉じることにより、再度予め充電されることができる。積分コンデンサ408を予め充電するステップと、積分コンデンサ408が充電または放電する一定期間にわたって待機するステップと、ADC435により、積分コンデンサの電圧レベルをサンプリングして変換するステップは、配列決定プロセスを通してのサイクルのそれぞれにおいて繰り返されることができる。
【0081】
デジタルプロセッサ430は、例えば、正規化、データバッファリング、データフィルタリング、データ圧縮、データの削減、イベントの抽出、または、ナノ細孔セルのアレイから、種々のデータフレームへのADC出力データのアセンブリングのために、ADC出力データを処理することができる。いくつかの実施形態では、デジタルプロセッサ430は、塩基の決定などの下流の処理をさらに行う。デジタルプロセッサ430は、(例えば、グラフィック処理ユニット(GPU)、FPGA、ASIC、などでの)ハードウェアとして、または、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせとして、実装されることができる。
【0082】
したがって、ナノ細孔にわたって適用される電圧信号は、ナノ細孔の特定の状態を検出することに使用されることができる。ナノ細孔の可能性のある状態の1つは、タグが結合されたポリリン酸塩が、ナノ細孔のバレルからなくなる際のオープンチャネル状態であり、これはまた、本明細書では挿通されていないナノ細孔の状態とも呼ばれる。ナノ細孔の他の4つの可能性のある状態は、それぞれ、4つの異なるタイプのタグが結合されたポリリン酸塩ヌクレオチド(A、T、G、またはC)のうちの1つがナノ細孔のバレル内に保持されている際の状態に対応する。ナノ細孔のさらに別の可能性のある状態は、脂質二重層が破れた際の状態である。
【0083】
積分コンデンサ408上の電圧レベルが一定期間後に測定されると、ナノ細孔の異なる状態は、異なる電圧レベルの測定値をもたらすことができる。これは、積分コンデンサ408上の電圧減衰(放電による下降、または、充電による上昇)の率(すなわち、時間プロットに対する積分コンデンサ408上の電圧のスロープの傾き)が、ナノ細孔抵抗(例えば、抵抗器R細孔428の抵抗)に依存するためである。とりわけ、異なる状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗が、分子の(タグの)明確な化学構造により異なるため、電圧減衰の、異なる、対応する率が観察されることができ、ナノ細孔の異なる状態を識別するために使用されることができる。電圧減衰曲線は、RC時定数τ=RCの指数関数曲線とすることができ、ここで、Rは、ナノ細孔(すなわち、R細孔抵抗器428)に関連付けられた抵抗であり、Cは、Rと並列に膜(すなわち、C二重層コンデンサ426)に関連付けられた静電容量である。ナノ細孔セルの時定数は、例えば、約200~500msとすることができる。減衰曲線は、二重層の詳細な実装により、指数関数曲線とは正確に合わない場合があるが、減衰曲線は、指数関数曲線と同様であり、単調なものであり、したがって、タグの検出を可能にすることができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、オープンチャネル状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗は、100MOhm~20GOhmの範囲にある。いくつかの実施形態では、タグが、ナノ細孔のバレルの内側にある状態において、ナノ細孔に関連付けられた抵抗は、200MOhm~40GOhmの範囲内とすることができる。他の実施形態では、ADC435への電圧が電気的モデル422における電圧減衰により依然として変化するため、積分コンデンサ408は省略されている。
【0085】
積分コンデンサ408上の電圧の減衰率は、異なる方法にて決定されることができる。上記説明したように、電圧減衰率は、一定期間中の電圧減衰を測定することにより決定されることができる。例えば、積分コンデンサ408上の電圧は、まずADC435により、時間t1において測定されることができ、続いて、電圧は、再度、ADC435により、時間t2において測定される。時間曲線に対する積分コンデンサ408上の電圧のスロープがより急である場合、電圧差はより大きく、電圧曲線のスロープがより急でない場合、電圧差はより小さい。したがって、電圧差は、積分コンデンサ408上の電圧の減衰率、したがって、ナノ細孔セルの状態を決定するための測定基準として使用されることができる。
【0086】
他の実施形態では、電圧減衰の率は、電圧減衰の、選択された量に対して必要な期間を測定することにより決定される。例えば、電圧が、降下するために必要な時間、または、第1の電圧レベルV1から第2の電圧レベルV2に上昇するために必要な時間が測定されることができる。電圧のスロープが、時間曲線に対してより急である場合、必要な時間はより短く、電圧のスロープが、時間曲線に対してより急でない場合、必要な時間はより長い。したがって、測定された必要な時間は、積分コンデンサncap408上の電圧の減衰率、したがって、ナノ細孔セルの状態を決定するための測定基準として使用されることができる。当業者であれば、例えば、電圧または電流の測定などの信号値測定技術を含む、ナノ細孔の抵抗を測定するために使用されることができる様々な回路を理解するであろう。
【0087】
いくつかの実施形態では、電気回路400は、オンチップにて作られる、パスデバイス(例えば、パスデバイス406)と、追加コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))と、を含まず、それによって、ナノ細孔ベースの配列決定チップのサイズの削減を促進する。膜(脂質二重層)の薄いという特性により、膜(例えば、コンデンサ426(C二重層))に関連付けられた静電容量だけで、追加的なオンチップ静電容量を必要とすることなく、それ単体で、必要なRC時定数を作るために十分なものとすることができる。したがって、コンデンサ426は、積分コンデンサとして使用されることができ、電圧信号VPREにより予め充電されることができ、続いて、電圧信号VLIQにより放電または充電されることができる。電気回路において、さもなければ、オンチップにて作られる、追加コンデンサと、パスデバイスとの排除は、ナノ細孔配列決定チップにおける単一のナノ細孔セルの取付面積を大きく減らすことができ、それによって、より多くのセルを含むように(例えば、ナノ細孔配列決定チップにおいて、数百万のセルを有するように)ナノ細孔配列決定チップのスケーリングを促進する。例えば、配列決定チップは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または2000万個のセルを有することができる。いくつかの実施形態では、チップは、約8百万ウェルを有することができる。
【0088】
D.ナノ細孔セル内でのデータサンプリング
核酸の配列決定を行うために、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(C二重層))の電圧レベルは、タグ付けされたヌクレオチドが、核酸に加えられている間に、ADC(例えば、ADC435)によりサンプリングされて変換されることができる。例えば、印加される電圧が、VLIQがVPREよりも低くなるようなものであれば、対向電極と、作用電極とを通して印加されているナノ細孔にわたる電界により、ヌクレオチドのタグは、ナノ細孔のバレル内に押し込まれることができる。
【0089】
1.挿通
挿通イベントは、タグ付けされたヌクレオチドがテンプレート(例えば、一片の核酸)に結合され、そのタグが、ナノ細孔のバレルに出入りして移動する場合である。この移動は、挿通イベント中に複数回生じることができる。タグがナノ細孔のバレル内にある場合、ナノ細孔の抵抗は、より高くすることができ、ナノ細孔を通って流れることができる電流は、より小さくすることができる。
【0090】
配列決定中、タグは、ACサイクルによっては、ナノ細孔内になくともよく(オープンチャネル状態と呼ばれる)、ここで、ナノ細孔の抵抗がより小さいために、電流は最大である。タグがナノ細孔のバレル内に引き込まれると、ナノ細孔は、明モードとなる。タグがナノ細孔のバレルから押し出されると、ナノ細孔は、暗モードとなる。
【0091】
2.明期および暗期
ACサイクル中、積分コンデンサ上の電圧は、ADCによって複数回サンプリングされることができる。例えば、一実施形態では、AC電圧信号が、例えば約100Hzでシステム全体に印加され、ADCの取得速度は、セル当たり約2000Hzとすることができる。このように、ACサイクル(AC波形のサイクル)毎に取得される約20のデータポイント(電圧測定値)が存在することができる。AC波形の1つのサイクルに対応する複数のデータポイントは、セットと呼ばれることができる。ACサイクルに対する1セットのデータポイントでは、例えば、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められた場合の明モード(期間)に対応することができる、VLIQがVPREよりも低い場合に、サブセットが取得されることができる。別のサブセットは、例えば、VLIQがVPREよりも高い場合に、タグがナノ細孔のバレルから印加された電界により押し出された場合の暗モード(期間)に対応することができる。
【0092】
3.測定電圧
データポイントのそれぞれについて、スイッチ401が開かれると、例えば、VLIQが、VPREよりも高い場合に、VPREからVLIQへの上昇として、または、VLIQが、VPREよりも低い場合に、VPREからVLIQへの降下として、VLIQによる充電/放電の結果として、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(C二重層))での電圧は減衰するように変化する。作用電極が帯電することにより、最終的な電圧値は、VLIQから逸脱することができる。積分コンデンサ上の電圧レベルの変化率は、ナノ細孔を含むことができ、したがって、ナノ細孔において分子(例えば、タグ付けされたヌクレオチドのタグ)を含むことができる、二重層の抵抗の値によって統制されることができる。電圧レベルは、スイッチ401が開いた後の所定の時間において測定されることができる。
【0093】
スイッチ401は、データ取得の速度において作動することができる。スイッチ401は、典型的にはADCによる測定の直後に、データの2回取得の間の比較的短い期間にわたって閉じられることができる。スイッチは、VLIQの各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)の間に複数のデータポイントが取得されることを可能にする。スイッチ401が開いたままである場合、積分コンデンサ上の電圧レベル、したがって、ADCの出力値は、十分に減衰しており、その状態にてとどまっている。その代わりに、スイッチ401を閉じている場合、積分コンデンサは、再度、予め充電され(VPREまで)、別の測定の用意ができている状態となる。したがって、スイッチ401は、各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)にわたって複数のデータポイントの取得を可能にする。そのような複数回の測定は、固定のADCによる(例えば、平均化されてもよい、測定数が多いことによる8ビット~14ビット)より高い解像度を可能にすることができる。複数回の測定はまた、ナノ細孔内に挿通された分子についての運動情報を提供することができる。タイミング情報は、挿通が行われる期間の決定を可能にすることができる。これはまた、核酸鎖に加えられた複数のヌクレオチドが配列決定されているか否かの決定を補助するために使用されることができる。
【0094】
図5は、ACサイクルの明期および暗期中にナノ細孔セルからキャプチャされたデータポイントの例を示している。
図5では、データポイントの変化が、説明を目的として強調されている。作用電極または積分コンデンサに印加された電圧(V
PRE)は、例えば、900mVなどの一定のレベルにある。ナノ細孔セルの対向電極に適用された電圧信号510(V
LIQ)は、矩形波として示されるAC信号であり、この場合、デューティサイクルは、例えば、約40%などの50%以下のいずれかの好適な値とすることができる。
【0095】
明期520中、(例えば、タグ上の電荷および/またはイオンの流れに起因して)作用電極および対向電極において印加された異なる電圧レベルにより引き起こされた電界により、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められることができるように、対向電極に適用された電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加された電圧VPREよりも低い。スイッチ401が開かれると、ADCの前のノードでの(例えば、積分コンデンサでの)電圧が降下する。電圧データポイントが取得された後に(例えば、指定期間後に)、スイッチ401が閉じられることができ、測定ノードでの電圧が上昇し、VPREに再び戻る。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返されることができる。このようにして、複数のデータポイントが、明期中に取得されることができる。
【0096】
図5に示すように、V
LIQ信号のサインの変化後の明期における第1のデータポイント522(第1のポイントデルタ(FPD)とも呼ばれる)は、後続のデータポイント524より低い場合があり得る。これは、ナノ細孔内にタグがなく(オープンチャネル)、したがって、それは低い抵抗および高い放電率を有するためとすることができる。いくつかの例では、第1のデータポイント522は、
図5に示すように、V
LIQレベルを超えることができる。これは、信号をオンチップコンデンサに接続する二重層の静電容量により引き起こされることができる。データポイント524は、挿通イベントが生じた後に、すなわち、タグがナノ細孔のバレル内に押し込められた後に取得されることができ、この場合、ナノ細孔の抵抗、したがって、積分コンデンサの放電の速度は、ナノ細孔のバレル内に押し込められた特定のタイプのタグに依存する。データポイント524は、以下に説明されるように、C
二重層424において蓄積された電荷により、測定のそれぞれに対して若干減少することができる。
【0097】
暗期530中、対向電極に印加された電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加された電圧(VPRE)よりも高く、いずれかのタグがナノ細孔のバレルから押し出されるようになっている。スイッチ401が開かれると、電圧信号510(VLIQ)の電圧レベルは、VPREよりも高いために、測定ノードにおける電圧が上昇する。電圧データポイントが取得された後に(例えば、指定期間後に)、スイッチ401が閉じられることができ、測定ノードにおける電圧が降下し、VPREに再び戻る。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返されることができる。したがって、第1のポイントデルタ532と、後続のデータポイント534とを含む複数のデータポイントが、暗期中に取得されることができる。上述したように、暗期中、いずれかのヌクレオチドタグがナノ細孔から押し出され、したがって、正規化における使用に加えて、いずれかのヌクレオチドタグについての最小限の情報が取得される。
【0098】
図5はまた、明期540中、対向電極に印加された電圧信号510(V
LIQ)が、作用電極に印加された電圧(V
PRE)よりも低くても、挿通イベントが生じない(オープンチャネル)ということを示している。したがって、ナノ細孔の抵抗は低く、積分コンデンサの放電の速度は高い。結果として、第1のデータポイント542および後続のデータポイント544を含む、取得されたデータポイントは、低電圧レベルを示す。
【0099】
明期または暗期中に測定される電圧は、ナノ細孔の一定の抵抗の(例えば、1つのタグがナノ細孔内にある間に、所与のACサイクルの明モード中に行われる)測定のそれぞれに対して、おおよそ同じであると予期される場合があるが、これは、二重層コンデンサ424(C
二重層)にて電荷が蓄積する場合には当てはまらないこともある。この電荷蓄積は、ナノ細孔セルの時定数をより長くさせる結果をもたらすことができる。結果として、電圧レベルはシフトされることができ、したがって、あるサイクルにおけるデータポイントのそれぞれについて、測定された値を減少させる。このように、サイクル内で、データポイントは、
図5に示すように、ある程度データポイントから別のデータポイントへ変化することができる。
【0100】
測定に関するさらなる詳細は、例えば、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus」と題された米国特許出願公開第2016/0178577号明細書、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus」と題された米国特許出願公開第2016/0178554号明細書、「Non-Destructive Bilayer Monitoring Using Measurement Of Bilayer Response To Electrical Stimulus」と題された米国特許出願第15/085,700号、および、「Electrical Enhancement Of Bilayer Formation」と題された米国特許出願第15/085,713号に見ることができ、これらの開示は、全ての目的のために、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0101】
4.正規化およびベースコーリング
ナノ細孔センサチップの使用可能なナノ細孔セルのそれぞれについて、核酸を配列決定するためのプロダクションモードが実行されることができる。配列決定中に取得されるADC出力データは、より高い精度を提供するために、正規化されることができる。正規化は、サイクルシェイプ、ゲインドリフト、電荷注入オフセット、およびベースラインシフトなどのオフセット効果を説明することができる。いくつかの実装では、挿通イベントに対応する、明期サイクルの信号値は、サイクルに対して、単一の信号値(例えば、平均値)が取得されるように平坦化されることができ、または、サイクル内減衰(サイクルシェイプ効果の1つのタイプ)を減らすように、測定された信号に対して調整が行われることができる。ゲインドリフトは、一般に、信号全体に広がり、100s~1,000sの秒のオーダーにて変化する。例として、ゲインドリフトは、溶液の変化(細孔抵抗)、または、二重層静電容量の変化によりトリガされることができる。ベースラインシフトは、約100msの時間スケールで生じ、作用電極における電圧オフセットに関する。ベースラインシフトは、明期から暗期の間の配列決定セルにおける荷電平衡を維持する必要性の結果としての、挿通からの有効整流比の変化により促すことができる。
【0102】
正規化の後、実施形態は、挿通されたチャネルの電圧のクラスタを決定することができ、各クラスタは、異なるタグ種、したがって異なるヌクレオチドに対応する。クラスタは、所与のヌクレオチドに対応する所与の電圧の確率を決定するために使用されることができる。別の例として、クラスタは、異なるヌクレオチド(塩基)間での差別化のためのカットオフ電圧を決定するために使用されることができる。
【0103】
III.自己制限細孔挿入
細孔が、セルの膜内に挿入された後に、膜にわたる電圧は、細孔の比較的高いコンダクタンスにより、急速に降下し始める。膜にわたる電圧の降下は、膜におけるさらなる細孔挿入に対する駆動力を減らす。
【0104】
図6は、作用電極と対向電極との間に印加される電圧(V
app)602、二重層の両端の電圧(V
bly)604、作用電極(C
二重層)608および積分コンデンサ(N
CAP)610を事前充電するために使用される電圧(V
pre)606、ならびに対向電極に印加される電圧(V
liq)612など、本明細書に記載のシステムおよび方法に関連することができるセンサセルの様々な電圧および構成要素のいくつかを強調するナノ細孔センサセルの回路
図600の実施形態を示している。
【0105】
ここに説明されるものは、タンパク質細孔を挿入し、挿入ステップ中のアクティブなフィードバックなく、単一細孔挿入を制御するこの性状を利用する方法およびシステムである。この細孔挿入方法のいくつかの実施形態では、AC接続された電圧が、容量性の作用電極を介して印加され、この電圧は、細孔のない膜のコンダクタンスが低いことにより、膜にわたって維持される。いくつかの実施形態では、細孔挿入の現在の状態にかかわらず、電圧は、セルのアレイ全体に印加されることができる。いくつかの実施形態では、電圧は、膜を有するセルに印加されることができる。印加される電圧波形は、傾斜として、複数の拡大ステップとして、または、追加的なタンパク質細孔挿入の確率を低くし、一方で、膜が損傷するリスクをも減らすように設計された他の形状として、段階的に大きくされることができる。これは、小さい電圧ステップ、電圧傾斜における、穏やかな電圧上昇の率などを使用することにより、電圧印加過渡特性を制限することにより達成されることができる。
【0106】
例えば、
図7に示すようないくつかの実施形態では、細孔挿入電圧(V
app)は、0mVにて始まり、5秒毎に100mVのインクリメントにて2000mVの最大電圧(または対応する負電圧)まで上昇する、ステップ状の電圧波形700として印加されることができる。いくつかの実施形態では、初期電圧は、約0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100mVとすることができる。いくつかの実施形態では、ステップの上昇は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または300mVとすることができる。いくつかの実施形態では、ステップサイズは、約100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1mV未満とすることができる。いくつかの実施形態では、ステップのそれぞれの期間は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、または60秒とすることができる。いくつかの実施形態では、ステップのそれぞれは、可変の期間を有することができる。例えば、いくつかの実施形態では、より低い電圧にあるステップのいくつかまたは全ては、より高い電圧にあるステップのものよりも長い期間を有することができる。いくつかの実施形態では、最大電圧は、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、または2000mVである。いくつかの実施形態では、細孔挿入電圧波形の1つ以上の要素は、初期開始電圧、電圧ステップの上昇の大きさ、ステップのそれぞれの期間、および/または最大電圧などの、所定のものとすることができる。
【0107】
図8に示すようないくつかの実施形態では、細孔挿入電圧は、0mVにて始まり、毎分1Vの率にて、2000mVの最大電圧(または対応する負電圧)まで上昇する、傾斜した電圧波形800として印加されることができる。いくつかの実施形態では、初期電圧は、約0、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100mVとすることができる。いくつかの実施形態では、電圧上昇の率は、毎分約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0Vである。いくつかの実施形態では、最大電圧は、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、または2000mVである。いくつかの実施形態では、細孔挿入電圧波形の1つ以上の要素は、初期開始電圧、電圧上昇の率、および/または最大電圧などの、所定のものとすることができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、細孔挿入電圧波形の1つ以上の要素は、膜が、セルにわたって封止を形成した後のその膜にわたる抵抗である、膜封止抵抗などの、セルの構成要素の測定された電気的および/または物理的性状に基づいて決定されることができる。いくつかの実施形態では、これらの測定値は、1つ以上の刺激パラメータを変更するために刺激中に取得された測定値を使用するアクティブフィードバックベースの方法とは対照的に、印加される前に波形が完全に決定されるように電圧波形が印加される前に取得されることができる。ここに説明されるポレーションの方法は自己制限性があるため、細孔を膜内に挿入することから導き出される、システムまたはシステムの構成要素の電気的または物理的性状の変化を測定することと、続いて、これに応じて、第2の細孔の膜内への挿入を防ぐために、ポレーション電圧を調整することとを含む、アクティブなポレーションの方法を利用する必要はない。
【0109】
いくつかの実施形態では、ここに説明される方法は、懸濁膜を伴うマイクロウェルの基部に容量性電極を有し、膜の反対側に対向電極を有するセンサのアレイに適用されることができる。これらのセンサは、挿入駆動電圧の印加が、全てのセルから取り除かれた後に、細孔の存在を検出することに使用されることができる。電圧の印加中に細孔の存在を検出することは可能であるが、この方法ではそれは必要なく、アレイにおけるまたは集合体におけるいずれかの個別のセンサへの電圧の印加に対するフィードバックなしに細孔が挿入されることができる。
【0110】
この方法は、アレイ内の個別の膜同士、アレイ上の狭い領域または広い領域同士、または、1つのデバイスからのアレイから、第2のデバイスからの別のアレイへの間にて異なることができる、細孔挿入活性化障壁に打ち勝つために必要な電圧を効果的にスキャンする。さらに、ポレーション電圧は、細孔変異体間、膜組成物間、および脂質二重層、ブロックコポリマー、または他の実装を含む立体配座間で変化することができる。電圧を、狭い範囲から広い範囲にわたってスキャンすること、または、スウィープすることにより、単一の電圧波形は、多数の、異なるタイプの細孔アレイ、または、一定の量の変動性を伴う同じタイプの細孔アレイにおいて、効果的に機能する、十分に強固なものとされることができる。
【0111】
さらに、低い電圧から高い電圧にかけてスウィープすることにより、二重層が膜を損傷する臨界電圧レベルに到達する前に、膜において、細孔が挿入される可能性がより高くなることができる。さらに、
図9Aおよび
図9Bに示すように、細孔が挿入されると、細孔は、蓄積した電圧を膜にわたって消散させることができ、したがって、細孔が挿入された後に、電圧がさらに上昇する際に、膜への損傷のリスクを下げることと、さらなる細孔挿入の可能性を下げることとの双方が可能となる。電圧ステップの大きさまたは電圧傾斜の上昇の率が大きすぎない限り、細孔は、膜にわたる過剰な電圧の蓄積を効果的に消散させることができ、したがって、膜が損傷するリスクを下げ、さらなる細孔挿入の可能性を下げる。一方、ポレーションステップを完了するための時間を短くするために、電圧ステップの大きさを大きくするかまたは電圧傾斜の上昇の率を上げることが望ましい。
【0112】
いくつかの実施形態では、電圧波形の上限は、電圧および時間の関数としての細孔挿入の動態および/または確率を、電圧および時間の関数としての膜損傷の動態および/または確率と比較することによって決定されることができる。例えば、
図10Aは、電圧の関数としてのアレイ内の細孔挿入数のプロットを示し、
図10Bは、電圧の関数としての、典型的には膜破壊および損傷に起因する不活性化/短絡数のプロットを示している。これら2つのプロットから、細孔挿入数が多く、不活性化/短絡数が少ない、バランスのとれた最適な最大電圧が決定されることができる。
【0113】
いくつかの実施形態では、細孔挿入ステップ中の溶液中の細孔の濃度は、十分に低く、細孔の膜内へのパッシブな挿入を減らすように、一方で、依然として十分に高く、電圧により支援された細孔の膜内への挿入を可能にするように、選択される。細孔のパッシブな挿入とは、細孔挿入における支援のための、膜にわたる電圧の印加のない、細孔の膜内への挿入を指す。いくつかの実施形態では、パッシブな挿入を通して挿入される細孔の割合は、50%、40%、30%、20%、または10%未満であり、電圧支援挿入を通して挿入される細孔の割合は、少なくとも、50%、60%、70%、80%、または90%である。パッシブな細孔挿入の率を下げることは、複数の細孔が、単一の膜内に挿入される可能性を下げることができる。
【0114】
いくつかの実施形態では、漏れ電流は、セル上に膜が配置されてからのアレイ内の1つ以上のセルにおける電圧の蓄積を引き起こすことができる。このトラップされた電荷は、それらの大きさにおいて、時間とともに、セル間にて変化することができ、これは、ポレーションを誘導する際に、セルの膜の全てにわたって均一な電圧を印加することを困難にする。例えば、トラップされた電荷が、様々な量にて、アレイ内のセルにおいて存在する際に、均一な電圧(Vapp)を、セルの全てに印加することは、ポレーションステップ中に、セルが、実効電圧を異なる量にて受けることとなることができ、これは、単一細孔挿入のあるセルの数の変動性のレベルが高くなることができ、および/または、いくつかのセルでは、電圧が過剰な量にて印加されることができることとなり、これは、膜への損傷を引き起こすことができる。ステップ状のまたは傾斜した電圧波形を使用することは、これらの問題を解決することができる。
【0115】
いくつかの実施形態では、セルの開口上の膜の形成は、セルの開口上に、脂質またはブロック共重合体などの溶媒および膜材料を流すことにより達成される。続いて、例えば、脂質が使用されている場合は、米国特許出願公開第20170283867号明細書にさらに説明されているように、膜は、この膜にわたって電圧を印加することにより、および/または、国際特許公報第2018001925号パンフレットにさらに説明されているように、この膜にわたってオスモル濃度の不均衡を操作することにより、二重層に薄くされることができ、これらのそれぞれは、全ての目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。以下に説明されるように、薄くされた膜とは、細孔が膜内に挿入されることができるように、十分に薄くされた(すなわち、例えば、厚さが細孔の長さ未満の)膜であり、一方、薄くされていない膜とは、厚すぎて細孔の挿入ができない(すなわち、例えば、厚さが細孔の長さよりも厚い)膜である。いくつかの実施形態では、アレイ内のセル上の、薄くされた膜(すなわち、脂質二重層)の形成は、ポレーションプロセスを開始する前、および、細孔を膜内に挿入する前に完了されることができる。他の実施形態では、膜を薄くするプロセスは、例えば、薄くするプロセスとポレーションプロセスとの双方のための、ここに説明される電圧波形のいずれかなど、同じ電圧波形を使用することにより、細孔を膜内に挿入するプロセスと組み合されることができ、細孔の複合体は、薄くすることとポレーションとの組み合せプロセスの間に膜上に流されることができる。いくつかの実施形態では、薄くすることとポレーションとの組み合せプロセスは、膜材料がセル上に既に分配され、アレイ内のセルにわたって、薄くされていない膜が形成された後に、適用されることができ、これは膜材料の分配中に電圧を印加し、初期的な薄くされていない膜を形成することは、電荷を不均一にトラップし得るからである。さらに、浸透圧不均衡は、薄膜化およびポレーションの複合プロセス中に膜全体にわたって確立されることができる。薄くするステップとポレーションステップとを組み合わせることは、実質的にアレイ状の細孔センサを用意することにかかる時間を減らすことができ、したがって、センサアレイシステムのスループットを改善する。
【0116】
ここに説明される方法は、良好な単一細孔挿入の率を改善することと、複数の細孔挿入の率を下げることと、膜が損傷する可能性を下げることとを含む、多くの利点を提供する。
【0117】
IV.膜形成時および孔挿入時の電圧制御
上述したように、配列決定チップは、数百万個のセルを有することができ、各セルは、作用電極を有するウェルを含むことができる。いくつかの実施形態では、配列決定チップは、消費者に販売および出荷されることができる消耗デバイスの一部とすることができる。消耗デバイスは、配列決定チップ上に配置され、配列決定チップの複数のセル上に1つ以上の流路を形成するフローセルを含むことができる。いくつかの実施形態では、消耗デバイスおよび配列決定チップは、ウェルの上または中に形成された膜(すなわち、脂質二重層またはトリブロックコポリマー膜)なしでエンドユーザに供給されることができる。したがって、いくつかの実施形態では、エンドユーザには、ウェル上またはウェル内に膜を形成し、配列決定ランを実行する直前にナノ細孔を膜に挿入するための試薬が供給される。いくつかの実施形態では、ある試薬は、例えば溶媒(すなわち、有機溶媒)に溶解または分散した脂質またはトリブロックコポリマーなどの膜形成材料を含むことができ、別の試薬は、ナノ細孔溶液(すなわち、ナノ細孔、テザリングポリメラーゼ、および配列決定される核酸から形成される分子複合体)を含むことができる。
【0118】
本明細書では、膜を効率的に形成し、数百万個のセルを有する配列決定チップ内の大部分のウェルに膜内に単一のナノ細孔を挿入するためのシステムおよび方法が記載される。二重層形成および細孔挿入ステップにおける高効率は、費用効果が高く臨床的に有用な結果を生成する上で非常に重要である。例えば、効率が低いと、配列決定チップごとに処理することができる試料が少なくなり、アッセイごとのコストが上昇する可能性がある。「事前配列決定プロトコル」という用語は、ウェルを横切って膜を確立し、膜に細孔(好ましくは各膜の単一の細孔)を挿入するために使用されるステップおよび条件を包含する。
【0119】
いくつかの実施形態では、配列決定チップ上への膜形成材料(すなわち、脂質またはトリブロックコポリマー)の最初の堆積時に印加される電圧波形は、事前配列決定プロトコルに耐えて細孔を受け入れる能力が異なる膜または二重層の空間的に周期的または非周期的なパターン(ストライプ、バンド、線条)を生成することができる。
図12Aに示すように、このパターンは、膜または二重層の形成時に、良好な膜または二重層によって覆われたウェルで作製された線条の空間パターンとして明らかであり得、これは、故障した膜または二重層(短絡)または厚い有機相(脂質またはトリブロックコポリマーおよび溶媒)のいずれかによって覆われたウェルの相補的な線条間と交互になる。
図12Bに示すように、この同じ空間パターンはまた、後に、高密度の単一孔を受け入れたウェルの線条として現れ、低密度または挿入された孔のない相補的な線条と交互になり、後者は、故障した膜または二重層(「短絡」)または厚い有機相被覆に関連する。
【0120】
換言すれば、いくつかの実施形態では、最初の脂質またはトリブロックコポリマー堆積時の電圧および流体の流れ(すなわち、流速)および流体特性(すなわち、オスモル濃度差)の組み合わせは、ウェル開口上に生成される膜または二重層の品質、およびこれらの膜または二重層がナノ細孔事前配列決定プロトコルの後の段階で単一の細孔を受け入れる可能性の双方を決定するようである。この効果は、脂質および溶媒の高い抵抗性のために比較的長い時定数で持続することができる電圧によって媒介されることができ、これは、それらが被覆されるときにウェル内に電荷を効果的にトラップすることができる。いくつかの実施形態では、二重層または膜のコンダクタンスおよび/または抵抗は、二重層または膜がウェル内の電荷をトラップする際にどの程度効率的であるかについての指標または予測を提供することができる。いくつかの実施形態では、電圧効果は、例えば、SPICEによる電気回路シミュレーション、およびCOMSOLによるマルチフィジックスシミュレーションを含む様々な方法を使用してモデル化されることができる。膜形成およびトラップ電荷に影響を及ぼすことができる他の要因は、緩衝液組成、緩衝液導電率、緩衝液浸透圧、電気化学(ネルンスト)電位および電気化学接合電位を含むことができる。
【0121】
二重層または膜の形成および細孔の挿入の双方に対するトラップ電荷の効果は、二重層または膜および単一の細孔の事前配列決定収率を増加させ、場合によっては最大化する新たな予想外の手段を表し、これは、事前配列決定プロセスおよび配列決定プロセスの双方の間に性能を向上させ、変動性を低減する両方の手段を提供することができる。
【0122】
二重層または膜およびナノ細孔チップにわたる単一細孔の収率を最大化または増加させるために、様々な事前配列決定条件(消耗品、流体流量、電圧刺激波形形状(すなわち、傾斜、正方形、三角形など)、電圧振幅、電圧極性、波形周波数、デューティサイクルなど)を特徴付けて評価した。これらの実験に基づいて、脂質またはトリブロックコポリマーの分配時の電圧、二重層または膜薄化中に印加される電圧、および細孔挿入時に印加される電圧は、全て互いに相互作用することができ、高い二重層または膜収率および高い単一細孔挿入をもたらすように電圧の集合体が操作されることができる。いくつかの実施形態では、電圧および流れを組み合わせることによって、二重層または膜を自発的に薄くし、細孔の受動的挿入をもたらすのに十分なトラップされた電荷および電圧を得ることが可能である。このトラップされた電荷および電圧は、細孔の挿入時に迅速に消散し、それによって多孔形成の可能性を効果的に防止または低減する。
【0123】
A.膜形成
いくつかの実施形態では、二重層または膜形成プロセスは、有機溶媒に溶解されることができる脂質またはポリマー(すなわち、トリブロックコポリマー)の溶液を消耗デバイスの流路内および配列決定チップのウェル上に導入することから始まる。脂質またはトリブロックコポリマーの溶液は、ウェル内に水相を残しながら、フローセル内の水溶液を実質的に置換することができる。ウェル上に脂質またはトリブロックコポリマー溶液を導入する間、各ウェルの作用電極とウェルの外側に配置された対向電極(すなわち、配列決定チップ表面に対向するフローセルの表面上)との間に電圧波形を任意に印加することができる。いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される電圧の大きさは、約0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100mVとすることができる。いくつかの実施形態では、作用電極と対向電極との間に印加される電圧の大きさは、約100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、または800mVとすることができる。いくつかの実施形態では、電圧波形の極性は、正とすることができる。他の実施形態では、電圧波形の極性は、負とすることができる。極性は、ウェルにトラップされる電荷の「タイプ」(+veまたは-ve)を決定する。事前配列決定プロトコルの後続のステップにおいて印加される電圧は、ウェル内の電荷および後続の印加電圧の極性に応じて累積的または減法的効果を有する。
【0124】
いくつかの実施形態では、脂質またはトリブロックコポリマー分注ステップ中に電極間に電圧が印加されない。脂質分注ステップ中に電極間に電圧を印加することは、電極によって電圧が能動的に印加されていなくても、最終的に形成される二重層または膜にわたる電圧が0にならないように、ウェル内に電荷をトラップすることができる。上述したように、ウェル内の電荷のトラップは、二重層または膜への細孔の受動的挿入の率を高めることができる(すなわち、二重層または膜が形成されると、脂質またはトリブロックコポリマー分注ステップ中にウェルにトラップされて充電された場合、細孔挿入の可能性が増加することができる)。いくつかの実施形態では、アクティブポレーションが細孔挿入の主要な機構であるように、パッシブポレーションの率を低下させることが望ましい場合がある。
【0125】
電荷をウェルにトラップした脂質またはトリブロックコポリマー分注ステップの後、有機相を置換するために水性緩衝液を導入することによって、過剰な脂質またはトリブロックコポリマーの大部分を流路から除去して、ウェルの開口部を封止して配置された脂質またはトリブロックコポリマー層を残すことができる。いくつかの実施形態では、ウェルの開口部を横切って配置された脂質またはトリブロックコポリマー層(すなわち、厚く覆われたウェルまたはプロトバイレイヤまたはプロトメンブレン)を横切って電圧刺激も印加されて、脂質を脂質二重層に、またはトリブロックコポリマーを細孔挿入に適した薄層または膜に薄くすることもできる。いくつかの実施形態では、薄膜化に使用される電圧刺激の大きさは、最大約100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、または800mVとすることができる。いくつかの実施形態では、電圧刺激(および本明細書に記載の他の電圧印加)は、例えば、連続的な傾斜として、一連の漸進的に増加するステップとして、または単一のステップとして印加されることができ、いずれかの極性で印加されることができる。いくつかの実施形態では、電荷がウェルにトラップされている場合、薄膜化電圧刺激の極性は、薄膜化電圧が印加されるときに膜を横切る電圧をさらに増加させるように選択されることができる。換言すれば、いくつかの実施形態では、膜を薄くするために印加される電圧は、トラップされた電荷および薄膜化電圧のそれぞれの極性に応じて、ウェル内の任意のトラップされた電荷に加算または減算することができる。さらに、いくつかの実施形態では、電極は、それらの分極に応じて接地に対する異なるインピーダンスをもたらす擬似容量特性を有し、これはウェル内のトラップ電荷の消散に影響を及ぼすことができる。いくつかの実施形態では、負極性は、正極性よりも低いインピーダンスをもたらす。
【0126】
いくつかの実施形態では、各ウェルの電極およびそれぞれの対向電極が使用されて、二重層または膜が形成されているかどうかを検出することができる。例えば、抵抗測定または他の電気的測定(すなわち、電流または静電容量)は、厚く覆われたセル、プロトバイレイヤ/プロトメンブレン、または二重層/膜の形成を示すことができる。いくつかの実施形態では、トラップされた電荷の量は、細孔挿入中の電圧挿入振幅を測定することによって決定されることができる。細孔が挿入されると、印加電圧波形の測定電圧は、トラップ電荷が存在しない場合には同じままであるが、トラップされた電荷および印加電圧波形のそれぞれの極性に応じて、トラップされた電荷が存在する場合には上方または下方に偏向する。トラップされた電荷を測定するための他の技術は、トラップされた電荷によって影響を受ける膜の静電容量もしくは抵抗または他の電気的測定値を測定することを含むことができる。
【0127】
B.細孔/複合流
脂質二重層またはトリブロックコポリマーの薄層(すなわち、膜)がウェル上に形成された後、ナノ細孔から形成された分子複合体、ナノ細孔につながれたポリメラーゼ、およびポリメラーゼに結合した核酸などのナノ細孔の溶液が膜上に流されることができる。いくつかの実施形態では、ウェル内のトラップされた電荷は、作用電極と対向電極との間に活性印加電圧がない状態で膜へのナノ細孔挿入を誘導することができる。いくつかの実施形態では、ナノ細孔が膜に挿入されると、ウェル内にトラップされた電荷をナノ細孔を通して消散させることができ、それによって第2のナノ細孔が膜に挿入される可能性を低減する。いくつかの実施形態では、溶液中のナノ細孔の濃度は、マルチポレーションの可能性を低減するように選択されることができる。
【0128】
いくつかの実施形態では、各ウェルの電極およびそれぞれの対向電極が使用されて、細孔が二重層または膜に挿入されているかどうかを検出することができる。例えば、抵抗またはコンダクタンス測定または他の電気的測定(すなわち、電流または電圧)は、二重層または膜への細孔の挿入を示すことができる。
【0129】
C.エレクトロポレーション
いくつかの実施形態では、細孔が二重層または膜に挿入されていないことをシステムが検出した場合、そのウェルに電圧刺激を印加してポレーションを誘導することができる。いくつかの実施形態では、マルチポレーションの可能性を低減するように、印加電圧の大きさおよび/または波形が選択されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、印加電圧の大きさは、約300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、または800mV以下とすることができる。いくつかの実施形態では、印加電圧の大きさは、ウェル内のトラップされた電荷の大きさに部分的に基づくことができる。例えば、いくつかの実施形態では、トラップされた電荷の大きさ+印加電圧の大きさは、約300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、または800mV以下とすることができる。いくつかの実施形態では、電荷がウェルにトラップされている場合、ポレーション電圧刺激の極性は、ポレーション電圧刺激が印加されるときに膜を横切る電圧をさらに増加させるように選択されることができる。いくつかの実施形態では、マルチポレーションの可能性を低減するために、細孔の流れおよび/またはポレーション中の溶液中のナノ細孔の濃度は、約1pM~1uMとすることができる。使用される細孔の濃度は、膜材料、緩衝剤組成、および細孔挿入中に印加される電圧波形に依存することができる。
【0130】
D.トラップされた電荷の放電、調整、および/または操作
いくつかの実施形態では、ウェル内のトラップされた電荷を操作することができる。例えば、いくつかの実施形態では、エレクトロポレーションステップの前にトラップされた電荷が放電されることができる。他の実施形態では、トラップ電荷の大きさは、増加または減少のいずれかで調整されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、各ウェル内のトラップされた電荷は、各ウェル内のトラップされた電荷がほぼ同じ(すなわち、約5、10、15、20、または25%以内)になるように調整されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、ウェル内のトラップされた電荷に対向する極性を有する電圧を印加することによって、トラップされた電荷が(部分的または完全に)放電されることができる。あるいは、電極を負に分極させる電圧を印加する場合、接地へのそのインピーダンスを低減し、したがってトラップされた電荷を排出することができる。より一般的には、トラップされた電荷の大きさを調整するために電圧の印加が使用されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、ウェル内のトラップされた電荷と一致する極性を有する電圧を印加することによって、トラップされた電荷を増加させることができる。いくつかの実施形態では、電極はファラデーとすることができ、緩衝液成分は、酸化還元反応を受け得る試薬を含む。
【0131】
いくつかの実施形態では、ウェル内に電荷をトラップするための脂質分注ステップ中の電圧波形の印加はまた、
図12Aおよび
図12Bに示すようにチップにわたって線条パターンを誘発することができ、これは、
図12Aに示すように、(1)二重層/薄膜および(2)二重層/膜形成中の厚く覆われたウェルの面積と相関する。
図12Bに示すように、細孔形成後、線条は、(1)高密度の単一細孔、および(2)低密度の単一細孔、および/または故障した二重層/膜または厚く覆われたセルの面積とも相関する。線条パターンはまた、ウェルにわたる膜形成材料の流量および膜形成中の印加電圧波形の周波数に基づいて生じるウェル内の異なるトラップされた電荷量と相関する。
【0132】
いくつかの実施形態では、線条パターンおよびトラップ電荷分布は変更または操作されることができる。例えば、いくつかの実施形態では、
図13A~
図13Cに示すように、脂質またはポリマー(すなわち、トリブロックコポリマー)の分配中の流量または流体速度は、線条パターンおよびトラップ電荷分布を変化させることができる。
図13Aは、50Hz波形を印加した場合の1μL/sの脂質流量を示している。
図13Bは、50Hz波形を印加した場合の2μL/sの脂質流量を示している。
図13Cは、50Hz波形を印加した場合の4μL/sの脂質流量を示している。脂質または膜分配ステップ中の脂質またはポリマーの流速または流体速度を増加させることは、チップ全体の線条の数を減少させるが、線条の幅を増加させるのに対して、流速または流体速度を減少させることは、チップ全体の線条の数を増加させ、線条の幅を減少させる。
【0133】
いくつかの実施形態では、
図14A~
図14Cに示すように、膜形成中に印加される電圧波形周波数が使用されて、線条パターンおよびトラップされた電荷を変更することができる。
図14A~
図14Cでは、脂質流量は4μL/sで一定に保持され、脂質分注中に印加された電圧波形の周波数は、
図14Aに示すように25Hzから、
図14Bの50Hzおよび
図14Cの100Hzまで変化した。脂質またはポリマーの分注中の電圧波形の周波数を増加させることは、幅が減少したチップにわたる線条の数を増加させ、または逆に、脂質またはポリマーの分注中の電圧波形の周波数を減少させることは、幅が増加したチップにわたる線条の数を減少させた。いくつかの実施形態では、電圧波形の周波数は、約10、15、20、25、50、75、100、125、150、175、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000Hzよりも大きくすることができる。いくつかの実施形態では、電圧波形の周波数は、約10、15、20、25、50、75、100、125、150、175、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000Hz未満とすることができる。
【0134】
いくつかの実施形態では、線条は、脂質またはポリマーの分注中に電圧波形を印加することによって引き起こされるようである。いくつかの態様では、
図15Aに示すように、膜形成中の脂質またはポリマー分配ステップ中に電圧波形を印加しないことによって、または
図15Bに示すように、脂質分配波形中にセルを不活性化することによって、線条が減少または排除されることができる。
【0135】
IV.コンピュータシステム
ここに説明されるコンピュータシステムのいずれも、多くのそれらが任意のものであってよい、任意の好適な数のサブシステムを利用することができる。そのようなサブシステムの例が、コンピュータシステム1110における
図11に示されている。いくつかの実施形態では、コンピュータシステムは、単一のコンピュータ装置を含み、ここでサブシステムは、コンピュータ装置の構成要素とすることができる。他の実施形態では、コンピュータシステムは、複数のコンピュータ装置を含み、それらのそれぞれは、内部構成要素を有するサブシステムである。コンピュータシステムは、デスクトップおよびラップトップコンピュータ、タブレット、携帯電話、および他のモバイルデバイスを含むことができる。
【0136】
図11に示すサブシステムは、システムバス1180を介して相互接続されている。プリンタ1174、キーボード1178、記憶デバイス(単一または複数)1179、ディスプレイアダプタ1182に接続されているモニタ1176、などの追加的なサブシステムが示されている。I/Oコントローラ1171に接続される周辺デバイスおよび入力/出力(I/O)デバイスは、I/Oポート1177(例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)、FireWire(登録商標))などの、当業者にとって公知のいずれかの多数の手段を用いて、コンピュータシステムに接続されることができる。例えば、I/Oポート1177または外部インターフェース1181(例えば、Ethernet(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)など)は、コンピュータシステム1110を、インターネットなどのワイドエリアネットワーク、マウス入力デバイス、またはスキャナに接続するために使用されることができる。システムバス1180を介した相互接続は、セントラルプロセッサ1173が、サブシステムのそれぞれと通信し、システムメモリ1172または記憶デバイス(単一または複数)1179(例えば、ハードドライブなどの固定ディスク、または、光ディスク)からの複数の命令の実行、ならびにサブシステム間の情報の交換の制御を可能にする。システムメモリ1172および/または記憶デバイス(単一または複数)1179は、コンピュータ可読媒体を具現化することができる。別のサブシステムは、カメラ、マイクロフォン、加速度計、または他のセンサなどの、データ収集デバイス1175である。本明細書で説明したデータの任意のものは、ある構成要素から別の構成要素へ出力され得て、ユーザに出力されることができる。
【0137】
コンピュータシステムは、例えば、外部インターフェース1181により、内部インターフェースにより、または、1つの構成要素から別の構成要素に接続および取り外されることができる、リムーバブルストレージデバイスを介して、共に接続された、複数の同じ構成要素またはサブシステムを含むことができる。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム、サブシステム、または装置は、ネットワークを経由して通信する。そのような例では、1つのコンピュータは、クライアントと見なされることができ、別のコンピュータは、サーバと見なされることができ、それらのそれぞれは、同じコンピュータシステムの一部とすることができる。クライアントおよびサーバは、それぞれ、複数のシステム、サブシステム、または構成要素を含むことができる。
【0138】
実施形態の様々な態様が、ハードウェア回路(例えば、APSICまたはFPGA)を使用する、および/または、一般的に、モジュラでのまたは統合されたプログラマブルプロセッサを用いる、コンピュータソフトウェアを使用する、制御ロジックの形態にて実装されることができる。本明細書で使用される場合、プロセッサは、単一のコアプロセッサ、同じ集積チップ上のマルチコアプロセッサ、または、単一の回路基板、もしくは、ネットワーク化されたもの、ならびに専用のハードウェア上の、複数の処理ユニットを含むことができる。本明細書で提供される開示および教示に基づいて、当業者は、ハードウェアおよびハードウェアとソフトウェアとの組み合わせを使用して、本発明の実施形態を実施するための他の手段および/または方法を知り、理解するであろう。
【0139】
本出願に説明されるソフトウェア構成要素または機能のいずれも、例えば、Java(登録商標)、C、C++、C#、オブジェクティブC、Swiftなどの、いずれの好適なコンピュータ言語、または、従来の技術若しくはオブジェクト指向の技術を使用する、例えば、PerlまたはPythonなどのスクリプト言語を使用して、プロセッサにより実行されるソフトウェアコードとして実装されることができる。ソフトウェアコードは、記憶および/または伝送のために、コンピュータ可読媒体上の一連の命令またはコマンドとして記憶されることができる。好適な非一時的コンピュータ可読媒体は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、ハードドライブ、フロッピーディスクなどの磁気媒体、コンパクトディスク(CD)もしくはDVD(デジタル多用途ディスク)などの光学的媒体、またはフラッシュメモリ、などを含むことができる。コンピュータ可読媒体は、そのような記憶または伝送デバイスの任意の組み合わせとすることができる。
【0140】
そのようなプログラムはまた、エンコードされ、インターネットを含む、種々のプロトコルに準拠する有線ネットワーク、光ネットワーク、および/または無線ネットワークを介しての伝送に適合されたキャリア信号を使用して、伝送されることができる。そのため、コンピュータ可読媒体は、そのようなプログラムを用いて符号化されたデータ信号を使用して作成されることができる。プログラムコードを用いて符号化されたコンピュータ可読媒体は、互換性のあるデバイスを用いてパッケージ化されることができるか、または、他のデバイスとは別個に提供されることができる(例えば、インターネットダウンロードを介して)。任意のそのようなコンピュータ可読媒体は、単一のコンピュータ製品(例えば、ハードドライブ、CD、もしくはコンピュータシステム全体)上に、もしくは、その内部に与えられることができる、または、システムもしくはネットワーク内の異なるコンピュータ製品上にもしくはその内部に存在することができる。コンピュータシステムは、本明細書に記載される結果のいずれかをユーザに提供するための、モニタ、プリンタ、または他の好適なディスプレイを含むことができる。
【0141】
ここに説明される方法のいずれは、上記のステップを行うように構成されることができる、1つ以上のプロセッサを含むコンピュータシステムを用いて完全に、または、部分的に行われてもよい。したがって、実施形態のそれぞれは、潜在的にステップのそれぞれまたはステップのグループのそれぞれを行う異なる構成要素を用いて、本明細書に記載される方法のいずれかのステップを行うように構成されているコンピュータシステムを対象とすることができる。本明細書における方法のステップは、順序立てられたステップとして提示されているが、同時に、または、異なる時に、または、異なる順序で行われることができる。追加的に、これらのステップの部分は、他の方法からの他のステップの部分とともに使用されることができる。また、1つのステップの全て、または、その部分は、任意とすることができる。追加的に、これらの方法のいずれかのステップのいずれかは、これらのステップを行うためのシステムのモジュ-ル、ユニット、回路、または他の手段を用いて行われることができる。
【0142】
特定の実施形態の具体的な詳細は、本発明の実施形態の趣旨および範囲から逸脱することなく、いずれの好適な様式にて組み合わされることができる。しかしながら、本発明の他の実施形態は、各個別の態様、または、それら個別の態様の具体的な組み合わせに関連する具体的な実施形態を対象とすることができる。
【0143】
先の実施形態は、理解を明確にする目的のために、いくらか詳細に説明されたが、本発明は、提供されたそれらの詳細に限定されない。本発明を実施するための多くの代替的な方法がある。開示された実施形態は、説明のためであり、限定するものではない。本発明の例示的な実施形態の上記説明は、図示および説明を目的として提示されている。網羅的であること、または本発明を、説明されたそのものの形式に限定することを意図するものではなく、多数の変形例および変形形態が、上述の教示に照らして、可能である。
【0144】
特徴または要素が本明細書で別の特徴または要素「上」にあると言及される場合、それは、他の特徴または要素上に直接存在することができ、または介在する特徴および/または要素も存在してもよい。対照的に、特徴または要素が別の特徴または要素の「直接上に」あると言及される場合、介在する特徴または要素は存在しない。特徴または要素が別の特徴または要素に「接続される」、「取り付けられる」または「結合される」と言及される場合、それは他の特徴または要素に直接接続され、取り付けられ、または結合されることも可能であり、または介在する特徴または要素が存在することができることも理解されよう。対照的に、特徴または要素が別の特徴または要素に「直接接続される」、「直接接続される」、または「直接結合される」と言及される場合、介在する特徴または要素は存在しない。一実施形態に関して説明または示されているが、そのように説明または示されている特徴および要素は、他の実施形態に適用することができる。別の特徴に「隣接して」配置された構造または特徴への言及は、隣接する特徴と重複するか、またはその下にある部分を有することができることも当業者には理解されるであろう。
【0145】
本明細書に使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することは意図されていない。例えば、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数形も含むことを意図している。本明細書で使用される場合、「備える(comprises)」および/または「備える(comprising)」という用語は、記載された特徴、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないことがさらに理解される。本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連するリストされた項目の1つ以上のありとあらゆる組み合わせを含み、「/」と省略されることができる。
【0146】
「下(under)」、「下(below)」、「下(lower)」、「上(over)」、「上(upper)」などのような空間的に相対的な用語は、説明を容易にするために、ある要素または特徴と別の要素または図に示されている特徴との関係を説明するために本明細書において使用されることができる。空間的に相対的な用語は、図に示されている方向に加えて、使用中または動作中の装置の異なる方向を包含することを意図していることが理解されよう。例えば、図の装置が裏返されている場合、他の要素または特徴の「下(under)」または「下方(beneath)」として記述されている要素は、他の要素または特徴の「上方(over)」になる。したがって、「下(under)」という例示的な用語は、上と下の双方の方向を包含することができる。装置は、他の方法で方向付けられ(90度回転または他の方向に)、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子がそれに応じて解釈され得る。同様に、「上向き(upwardly)」、「下向き(downwardly)」、「垂直(vertical)」、「水平(horizontal)」などの用語は、特に明記しない限り、説明の目的でのみ本明細書で使用される。
【0147】
「第1」および「第2」という用語は、本明細書では様々な特徴/要素(ステップを含む)を説明するために使用されることができるが、文脈が別段の指示をしない限り、これらの特徴/要素はこれらの用語によって制限されるべきではない。これらの用語は、ある特徴/要素を別の特徴/要素から区別するために使用される場合がある。したがって、以下で論じる第1の特徴/要素は、第2の特徴/要素と呼ぶことができ、同様に、以下で論じる第2の特徴/要素は、本発明の教示から逸脱することなく、第1の特徴/要素と呼ぶことができる。
【0148】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の定めがない限り、「備える(comprise)」という単語、および「備える(comprises)」および「備える(comprising)」などの変異は、方法および物品(例えば、組成物ならびに装置および方法を含む装置)において共同で使用されることができることを意味する。例えば、用語「備える(comprising)」は、ここに記されるいずれの要素またはステップを含むことを暗示するが、いずれの他の要素またはステップを除外することを含まない、と理解される。
【0149】
実施例で使用されるものを含め、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、特に明示的に指定されない限り、全ての数は、その用語が明示的に表示されない場合でも、「約(about)」または「およそ(approximately)」という語で始まるかのように読むことができる。「約」または「およそ」という句は、大きさおよび/または位置を説明するときに使用されて、説明される値および/または位置が値および/または位置の合理的な予想範囲内にあることを示すことができる。例えば、数値は、記載された値(または値の範囲)の+/-0.1%、記載された値(または値の範囲)の+/-1%、記載された値(または値の範囲)の+/-2%、記載された値(または値の範囲)の+/-5%、記載された値(または値の範囲)の+/-10%などの値を有することができる。本明細書に示された任意の数値はまた、文脈上別段の指示がない限り、その値をほぼ含むと理解されるべきである。例えば、値「10」が開示されている場合、「約10」も開示されている。本明細書に記載されている任意の数値範囲は、そこに含まれる全てのサブ範囲を含むことを意図している。また、当業者が適切に理解するように、値が「以下」であると開示される場合、「値以上」および値間の可能な範囲も開示されることも理解される。例えば、値「X」が開示される場合、「X以下」ならびに「X以上」(例えば、Xが数値である場合)も開示される。また、本特許出願全体で、データは多くの様々な形式で提供され、このデータは、終了点と開始点、およびデータポイントの任意の組み合わせの範囲を表すことも理解される。例えば、特定のデータポイント「10」および特定のデータポイント「15」が開示される場合、10および15よりも大きい、それ以上、それよりも小さい、それ以下、およびそれに等しいことが、10~15の間とともに開示されていると見なされることが理解される。2つの特定のユニット間の各ユニットもまた開示されていることも理解される。例えば、10および15が開示される場合、11、12、13、および14もまた開示される。
【0150】
様々な例示的な実施形態が上に記載されているが、特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施形態にいくつかの変更を加えることができる。例えば、記載された様々な方法ステップが実行される順序は、代替の実施形態ではしばしば変更されることができ、他の代替の実施形態では、1つ以上の方法ステップが完全にスキップされることができる。様々な装置およびシステムの実施形態の任意の特徴は、いくつかの実施形態には含めてもよく、他の実施形態には含めなくてもよい。したがって、前述の説明は、主に例示的な目的で提供されており、特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0151】
本明細書に含まれる例および図は、限定ではなく例示として、主題が実施されることができる特定の実施形態を示している。前述のように、他の実施形態を利用してそこから導き出すことができ、その結果、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的および論理的な置換および変更を行うことができる。本発明の主題のそのような実施形態は、複数のものが実際に開示されている場合、単に便宜のために、そして本特許出願の範囲を任意の単一の発明または発明の概念に自発的に限定することを意図することなく、本明細書において個別にまたは集合的に「発明」という用語によって言及されることができる。したがって、特定の実施形態が本明細書で例示および説明されてきたが、同じ目的を達成するために計算された任意の構成は、示された特定の実施形態の代わりに使用されることができる。本開示は、様々な実施形態のありとあらゆる適応または変形をカバーすることを意図している。上記の実施形態、および本明細書に具体的に記載されていない他の実施形態の組み合わせは、上記の説明を検討すると、当業者にとって明らかであろう。