(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】中性固化材及び土の処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/40 20060101AFI20240805BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20240805BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20240805BHJP
C09K 17/08 20060101ALI20240805BHJP
C09K 17/22 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09K17/40 P
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K17/08 P
C09K17/22 P
(21)【出願番号】P 2023000743
(22)【出願日】2023-01-05
(62)【分割の表示】P 2020033491の分割
【原出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】中田 英喜
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特許第7277405(JP,B2)
【文献】特開2019-044054(JP,A)
【文献】特開2018-015731(JP,A)
【文献】特開平09-157647(JP,A)
【文献】特開平09-310069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00 - 17/52
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
B01D 21/00 - 21/34
C02F 1/52 - 1/56
E02F 5/00 - 7/10
C02F 11/00 - 11/20
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムと、
硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩と、
アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤とを含み、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が55~75mol%である、中性固化材。
【請求項2】
前記高分子凝集剤を1~8質量%含む、請求項1に記載の中性固化材。
【請求項3】
前記硫酸アルミニウム及び前記硫酸第一鉄を含む請求項1
又は2に記載の中性固化材。
【請求項4】
処理対象となる土と中性固化材との混合物を、JIS A1228に準じて測定されるコーン指数が800kN/m
2以上となるまで養生する工程を備え、
前記中性固化材が、酸化マグネシウムと、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩と、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤とを含み、前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が55~75mol%である、土の処理方法。
【請求項5】
気泡剤を含む前記土を処理対象とする、請求項
4に記載の土の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性固化材及び土の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質土壌や建設発生土等の搬出や再利用を容易にするために、土の強度を向上させる土壌固化材が用いられる。土壌固化材は、その含有成分に応じて、セメント系、石灰系及び石膏系などに分類されており、典型的には、水質や植生等の周囲環境の保全を考慮して、土壌改良後の土壌のpHを中性付近に維持することができる石膏系の土壌固化材が用いられる。しかし、石膏系の土壌固化材は、セメント系のものと比較して、強度発現が十分でないことがあり、この点について改善の余地があった。
【0003】
土壌固化材を用いた際の改良土の強度向上を目的として、特許文献1には、酸化マグネシウムと、硫酸アルミニウム及び/または硫酸鉄、残部が石膏からなる土壌固化材が開示されている。また特許文献2には、金属硫酸塩等の金属塩、マグネシウム含有物及び高分子系の増粘用材料に加えて、半水石膏等の助材を含む土壌用改良材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-109829号公報
【文献】特開2008-100313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の土壌改良材は、改良土のpHを中性付近に維持することが可能であったが、強度発現性が十分でなく、目的とする強度に改良できないことがあった。
【0006】
また建設発生土に固化処理を行って得られた改良土は、建設発生土が発生した現場で再利用される場合と、別の現場で再利用される場合とがある。後者の場合、典型的には、改良土は、建設発生土が発生した現場で一定期間養生した後、再利用される場所へ搬入される。このとき、掘削や解きほぐし等の工程を行うことに起因して、改良土としての強度低下が生じ得る。その結果、再利用される場所での十分な強度が発現できないことがある。このような点を改善することに関して、特許文献1及び2に記載の土壌改良材では何ら検討されていない。
【0007】
そこで本発明は、pHを中性付近に維持しつつ、且つ掘削,解きほぐしによる強度低下が発生しにくい改良土を得ることができる中性固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の組成を有する高分子凝集剤を用いることによって、改良土のpHの維持と高い強度とを両立できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、酸化マグネシウムと、
硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩と、
アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤とを含み、
前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が55~90mol%である、中性固化材を提供するものである。
【0010】
また本発明の好適な態様として、前記高分子凝集剤を1~8質量%含む中性固化材を提供するものである。
【0011】
また本発明の好適な態様として、前記酸化マグネシウムを10~50質量%含む中性固化材を提供するものである。
【0012】
更に本発明は、処理対象となる土と中性固化材との混合物を、JIS A1228に準じて測定されるコーン指数が800kN/m2以上となるまで養生する工程を備え、
前記中性固化材は、酸化マグネシウムと、硫酸アルミ、硫酸第一鉄、及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩と、ポリアクリルアミド及びアクリル酸ナトリウムを主成分とする高分子凝集剤とを含み、前記高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットの組成比が55~90mol%である、土の処理方法を提供するものである。
【0013】
更に本発明の好適の態様として、気泡剤を含む前記土を処理対象とする土の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、pHを中性付近に維持しつつ、且つ高い強度を発現した土に改良できるので、改良土を幅広い用途で再利用することができ、資源の有効利用に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、中性固化材による土の処理方法の一例を、気泡シールド工法に用いられるシールドマシンの一例とともに示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0017】
本発明の中性固化材は、改良対象となる土と混合することによって、pHが中性に維持され、且つ高い強度を発現した土を得るために用いられる材料である。改良対象となる土は、例えば水を含んだ軟質土壌等の含水土壌、あるいは、泥土等といった、道路工事、シールド工法等によるトンネル工事及び建造物建設工事等の各種建設工事によって副次的に発生した建設発生土や建設汚泥等が挙げられる。つまり、本発明の中性固化材は、含水土壌、建設発生土及び建設汚泥の少なくとも一種を固化するために好適に用いられる。
以下の説明では、「改良土」は、改良対象となる土に本発明の中性固化材を含有させて改良させた後の土を指す。
【0018】
本発明における「中性」とは、「改良土におけるpHが5.8以上8.6以下である」ことを指す。これは、水質汚濁防止法に規定される排水基準のpHにおける「海域以外の公共用水域に排出されるもの」の項に示されている数値である。したがって、本発明の中性固化材を含む改良土は、例えば該改良土に浸透した雨水が地下水や河川に流出してしまった場合でも、排水基準に適合しているので、改良土の用途や使用場所に制限されず、環境負荷を低減して再利用することができる。
【0019】
本発明の中性固化材は、以下の(1)ないし(3)に示す成分を含む。
(1)酸化マグネシウム
(2)硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩
(3)アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤
【0020】
本発明の中性固化材は、酸化マグネシウムを含む。酸化マグネシウムは、主に、改良対象となる土を固化するために配合される成分である。
酸化マグネシウムとしては、例えば水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムを600~900℃で焼成した軽焼酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0021】
中性固化材における酸化マグネシウムの含有量は、無水物換算として、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは10~47質量%であり、更に好ましくは10~45質量%である。酸化マグネシウムを上述した含有量とすることによって、改良対象となる土の強度発現性と、pHを中性に維持することとを高いレベルで両立することができる。これに加えて、重金属類等により汚染された土壌を改良対象とした場合に、重金属類を不溶化させて、改良土からの重金属類の溶出を抑制することができる。その結果、改良土を用いた周囲の環境を保全できるという利点もある。
【0022】
本発明の中性固化材は、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも一種の硫酸塩を含む。硫酸塩は、主に、改良対象となる土のpHを中性に維持するために配合される成分である。
【0023】
中性固化材に含まれる硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄又は石膏のいずれか一種であってもよく、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち二種を含んでいてもよく、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のすべてを含んでいてもよい。
改良対象となる土の強度発現性と、pHを中性に維持することとを高いレベルで両立させる観点から、中性固化材に含まれる硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のうち少なくとも二種以上を含むことが好ましく、硫酸アルミニウム及び硫酸第一鉄を少なくとも含むことがより好ましく、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄及び石膏のすべてを含むことが更に好ましい。
【0024】
中性固化材における硫酸塩の総含有量は、無水物換算として、好ましくは42~89質量%であり、より好ましくは44~87質量%であり、更に好ましくは46~84質量%である。
硫酸塩を上述した含有量とすることによって、改良対象となる土の強度を発現させつつ、pHを中性に且つ安定的に維持することができる。
【0025】
硫酸塩として硫酸アルミニウムを含む場合、中性固化材における硫酸アルミニウムの含有量は、無水物換算として、好ましくは0~65質量%であり、より好ましくは0~60質量%であり、更に好ましくは0~55質量%である。つまり、硫酸塩の総含有量が上述の範囲を満たす限りにおいて、硫酸アルミニウムは非含有であってもよい。
硫酸アルミニウムを上述した含有量とすることによって、改良対象となる土の強度を発現させつつ、pHを中性に且つ安定的に維持することができる。
【0026】
硫酸塩として硫酸第一鉄を含む場合、中性固化材における硫酸第一鉄の含有量は、無水物換算として、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~25質量%であり、更に好ましくは0~20質量%である。つまり、硫酸塩の総含有量が上述の範囲を満たす限りにおいて、硫酸第一鉄は非含有であってもよい。
硫酸第一鉄を上述した含有量とすることによって、改良対象となる土のpHを中性に維持しながら、強度をより高く発現させることができる。これに加えて、重金属類等により汚染された土壌を改良対象とした場合に、重金属類を還元させて不溶化させて、改良土からの重金属類の溶出を抑制することができる。
【0027】
硫酸塩として石膏を含む場合、石膏としては、無水石膏、半水石膏及び二水石膏等のうち少なくとも一種を用いることができる。またJIS R9151に規定する石膏を用いることもできる。これらのうち、改良対象となる土の強度向上及びpHの維持に加えて、製造コストの低減を達成する観点から、石膏として半水石膏を用いることが好ましい。
硫酸塩として石膏を含む場合、中性固化材における石膏の含有量は、無水物換算として、好ましくは0~75質量%であり、より好ましくは0~70質量%であり、更に好ましくは0~65質量%である。つまり、硫酸塩の総含有量が上述の範囲を満たす限りにおいて、石膏は非含有であってもよい。
石膏を上述した含有量とすることによって、石膏自体が有する水硬性によって、改良土の強度を更に高く発現させることができる。
【0028】
本発明の中性固化材は、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有する高分子凝集剤を含む。
高分子凝集剤は、主に、改良対象となる土の粒子を凝集させて、改良土の強度を高めるために配合される成分であり、好ましくは有機ポリマーの単一成分又は混合物である。中性固化材における高分子凝集剤の総含有量は、好ましくは1~8質量%であり、より好ましくは1~7質量%であり、更に好ましくは1~6質量%である。
本発明における「ユニット」とは、ポリマーを構成するモノマー単位を指す。
【0029】
中性固化材に含まれる高分子凝集剤の具体的態様は、例えば、第1モノマーであるアクリルアミドと、第2モノマーであるアクリル酸ナトリウムとが重合してなる共重合体(コポリマー)である態様等があり、高分子凝集剤中にアクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとを有するものである。
また、前記共重合体は、各モノマーが交互に重合した交互共重合体、各モノマーの配列が無秩序であるランダム共重合体、同種のモノマーが連続して重合した構成単位を有するブロック共重合体、及び一方のモノマーからなる重合体が他方のモノマーからなる重合体に分枝して結合しているグラフト共重合体等の少なくとも一種の態様であり得る。
【0030】
中性固化材に含まれる高分子凝集剤は、該高分子凝集剤を構成するアクリルアミドユニットが特定の組成比であることを特徴の一つとしている。
詳細には、高分子凝集剤に含まれるアクリルアミドユニットの組成比は、好ましくは55~90mol%であり、より好ましくは60~85mol%であり、更に好ましくは60~80mol%である。アクリルアミドユニットがこのような割合で構成された高分子凝集剤を用いることによって、改良対象となる土の強度発現性と、pHを中性に維持することとを高いレベルで両立させることができる。
【0031】
アクリルアミドユニットが上述した割合となった高分子凝集剤を用いることによって、強度を向上させるように改質できる理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
一般的に、中性~アルカリ性のpH領域(すなわちpHが5.8以上の領域)では、土粒子を構成する鉱物粒子の等電点が低いことに起因して、該粒子が負に帯電しており、水と土粒子との間で静電的な反発が生じやすい。そのため、土粒子は凝集等の団粒化が生じにくいため,結果として土全体の強度が低くなりやすい。
上述した高分子凝集剤を添加すると、まず、アクリルアミドユニットに由来するアミド基が土粒子表面に吸着し、次いで、アクリル酸ナトリウムユニットに由来するカルボキシ基が反発しあって,高分子凝集剤の分子鎖を広げ、その広がりによって土粒子や水を抱え込む(取り込む)ことによって、土粒子を効果的に団粒化させ,土粒子間に水を保持することができるため、改良土の強度を向上させることができると考えられる。特に,上述した高分子凝集剤の添加による強度発現プロセスは、(i)凝集剤の土粒子の表面への吸着、(ii)土粒子どうしの架橋、及び(iii)土粒子の団粒化といった順に進むものと考えられており、高分子凝集剤に含まれるアクリルアミドユニットの組成比を好ましくは55~90mol%とすることによって、強度発現に重要な前記(i)及び(ii)の過程をバランス良く進行させることができると考えられる。
【0032】
高分子凝集剤に含まれる炭素、水素及び窒素は、例えば以下の方法で測定することができる。詳細には、測定対象となる高分子凝集剤を約2mg精秤し、これを元素分析装置(例えばジェイ・サイエンス・ラボ社製、マイクロコーダーJM10)に導入して、各元素の質量を定量測定する。標品は、例えばアンチピリン(炭素元素:70.2質量%、水素元素:6.4質量%、窒素元素:14.9質量%)を用いることができる。
【0033】
上述の方法で測定された炭素元素の質量比(質量%)をC1とし、窒素元素の質量比(質量%)をN1とする。これらの値から、アクリルアミドユニット及びアクリル酸ナトリウムユニットの各組成比を以下の方法で算出する。
まず、アクリルアミドユニットは「-CH2-CH(CO-NH2)-」の化学式であるところ、該ユニット中の炭素数は3であり、該ユニット中の窒素数は1である。
また、アクリル酸ナトリウムユニットは「-CH2-CH(COONa)-」の化学式であるところ、該ユニット中の炭素数は3であり、該ユニット中の窒素数はゼロである。
【0034】
高分子凝集剤中のアクリルアミドユニットの組成比(mol%)を「A」とし、高分子凝集剤中のアクリル酸ナトリウムユニットの組成比(mol%)を「100-A」とし、各ユニットの炭素数及び窒素数に基づくと、アクリルアミドユニットの炭素の組成比(mol%)は、「3×A」、アクリルアミドユニットの窒素の組成比(mol%)は「A」でそれぞれ表される。また、アクリル酸ナトリウムユニットの炭素の組成比(mol%)は「3×(100-A)」で表される。
【0035】
上述の各割合に基づいて、高分子凝集剤中における、窒素元素の組成比(N5)に対する炭素元素の組成比(C5)の比(C5/N5)は、以下の式(a)により算出される。
(C5/N5)={(3×A)+3×(100-A)}/A=300/A ・・(a)
【0036】
ここで、C5/N5は、「{(C1)/(炭素原子量)}/{(N1)/(窒素原子量)}」として表される(炭素原子量=12、窒素原子量=14)から、アクリルアミドユニットの組成比Aは以下の式(b)で算出される。
アクリルアミドユニットの組成比A(mol%)
=300/{(C1)/(炭素原子量)}/{(N1)/(窒素原子量)} ・・(b)
【0037】
また、アクリル酸ナトリウムユニットの組成比は、以下の式(c)で算出される。
アクリル酸ナトリウムユニットの組成比(mol%)=100-A ・・(c)
【0038】
高分子凝集剤に含まれるアクリル酸ナトリウムユニットの組成比は、好ましくは10~45mol%であり、より好ましくは15~40mol%であり、更に好ましくは20~35mol%である。
【0039】
酸化マグネシウム、硫酸塩及び高分子凝集剤は、その性状が、それぞれ独立して、粉末状であってもよく、あるいは水等の溶媒に溶解又は分散させた液状又はスラリー状であってもよい。酸化マグネシウム及び硫酸塩は、それぞれ独立して、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
中性固化材の運搬時及び使用時における取り扱い性を高める観点から、酸化マグネシウム、硫酸塩及び高分子凝集剤はいずれも粉末状であることが好ましい。
また同様の観点から、本発明の中性固化材は、粉末状であることが好ましい。
【0040】
酸化マグネシウムのブレーン比表面積は、好ましくは6000~20000cm2/gであり、より好ましくは7000~20000cm2/gであり、更に好ましくは8000~20000cm2/gである。
ブレーン比表面積をこのような範囲とすることによって、中性固化材の施工性を高めることができるとともに、高い水和活性に起因して改良対象となる土の固化性を高めて、改良土の強度を向上することができる。また、上述のブレーン比表面積の範囲は、酸化マグネシウムとして軽焼酸化マグネシウムを用いた場合に満たされることが、施工性の向上と改良土の強度の向上とを高いレベルで両立できる点で好ましい。
酸化マグネシウムのブレーン比表面積は、例えばJIS R5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定することができる。
【0041】
酸化マグネシウムのBET比表面積は、好ましくは5~30m2/gであり、より好ましくは7~30m2/gであり、更に好ましくは8~30m2/gである。
このような範囲とすることによって、中性固化材の施工性を高めることができるとともに、高い水和活性に起因して改良対象となる土の固化性を高めて、改良土の強度を向上することができる。また、上述のブレーン比表面積の範囲は、酸化マグネシウムとして軽焼酸化マグネシウムを用いた場合に満たされることが、施工性の向上と改良土の強度の向上とを高いレベルで両立できる点で好ましい。
酸化マグネシウムのBET比表面積は、例えば高精度ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP-mini)を用いて、定容量型ガス吸着法によって測定することができる。
【0042】
酸化マグネシウムにおけるMgO含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。このような含有割合となっていることによって、改良土の周辺環境のpH緩衝能が減弱しづらくなるとともに、改良土の強度を向上させることができる。
【0043】
酸化マグネシウムにおけるCaO含有割合は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。このような含有割合となっていることによって、改良土の周辺環境のpHを中性に維持しやすくすることができるとともに、改良土の強度を向上させることができる。
【0044】
上述した酸化マグネシウムに含有するMgO含有率およびCaO含有率は、JIS M
8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0045】
本発明の効果が奏される限りにおいて、中性固化材は、改良対象となる土の性状に応じて、添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、ハイドロタルサイト及びハイドロカルマイト等のカルシウムアルミネート系鉱物、珪石等のケイ素含有鉱物、炭酸マグネシウム及び石灰石等の炭酸塩、セピオライト、パーライト、ゼオライト及びシリカ等の多孔質体、並びにキレート剤等の少なくとも一種を用いることができる。
各種添加剤の性状は、それぞれ独立して、粉末状であってもよく、あるいは水等の溶媒に溶解又は分散させた液状又はスラリー状であってもよい。
また各種添加剤は、それぞれ独立して、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
各種添加剤の添加の有無及び混合量については、予め配合試験を行って、その結果に基づいて決定することが好ましい。
【0046】
本発明の中性固化材は、該中性固化材と、改良対象の土とを混合して固化処理を行う固化処理方法に供することができる。
改良対象の土との混合時における中性固化材の性状は、粉末であってもよく、スラリー状であってもよい。
また、中性固化材と、改良対象の土との混合は、中性固化材と改良対象の土とを同時に混合してもよく、中性固化材及び改良対象の土のうち一方を他方に添加してもよい。
【0047】
改良対象の土1m3当たりの中性固化材の添加量は、改良対象の土の種類や性状、並びに目的とする発現強度に応じて適宜変更可能であるが、混合の均一性、発現強度の向上及び処理コストの低減を兼ね備える観点から、好ましくは20~200kg/m3であり、より好ましくは20~150kg/m3であり、更に好ましくは20~75kg/m3である。
【0048】
中性固化材と改良対象の土とを混合する装置は、例えば、バックホウ、ミキシングバケット装着バックホウ、スタビライザー、自走式土質改良機、定置式ミキサー、トレンチャー型撹拌混合機、深層混合処理機、パワーブレンダー及びプラント混合等といった、当該技術分野において通常用いられる装置を用いることができる。
【0049】
以下に、本発明の中性固化材を用いた土の処理方法の一例を
図1を参照して説明する。本発明の中性固化材は、改良処理の対象となる土として、例えば泥土圧シールド工法や気泡シールド工法等のシールド工法によって排出された泥土等の掘削土に対して用いることができる。
図1に示すシールドマシン1は、典型的には気泡シールド工法に用いられるものである。シールドマシン1は、掘削方向に貫通した穴を複数備える円盤状のカッター11と、該カッター11に接続され、カッター11を回転駆動させるためのモーター12とを備える。モーター12の駆動軸の延びる方向は、掘削方向と一致している。また、同図に示すシールドマシン1は、カッター11より掘削方向後方に位置し、カッター11によって掘削された掘削土を掘削方向後方に搬送するためのスクリューコンベア3を備える。
【0050】
まず、シールドマシン1によって地盤を掘削する。本実施形態では、地盤を掘削するにあたり、掘削土の流動性を高めることを目的として、掘削対象の土に気泡を注入する気泡注入管15を備えている。気泡注入管15は、一方がポンプ等の気泡供給装置(図示せず)と接続されており、他方はカッター11側へ開口している。気泡供給装置は、例えば気泡剤とともに気泡を供給してもよい。
【0051】
地盤の掘削によって発生した掘削土は、カッター11に設けられた穴を介して、シールドマシン1におけるチャンバー2及びスクリューコンベア3によって、掘削方向とは反対方向に搬送される。気泡剤を含む掘削土は、流動性を高くなり、搬送しやすくなっている。
スクリューコンベア3による搬送の際、スクリューコンベア3からの掘削土の排出時における圧力変化に起因する噴発防止を目的として、スクリューコンベア3の掘削方向前方側に設けられた投入装置4で、スクリューコンベア3の内部に噴発防止材を添加して、掘削土10と混合しながら搬送してもよい。
続いて、スクリューコンベア3によって掘削方向後方に搬送された掘削土10は、スクリューコンベア3における掘削方向後方側に位置するゲート31を介して、ベルトコンベア5上に排出され、搬送される。
【0052】
そして、ベルトコンベアによって搬送された掘削土10をバケット6に入れ、掘削土10に本発明の中性固化材を固化材添加装置20から添加して、ミキサ30により混合し、好ましくは一定期間養生する。これらの操作は、掘削土10をズリトロや立坑を介して地上に搬出した後で行ってもよく、トンネル建設現場内で行ってもよい。養生期間は、目的とする強度や搬出先の受け入れ状況等に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは1日~14日程度、より好ましくは1日~7日程度とすることができる。
【0053】
以上の工程を経て、処理対象の土に強度を発現させた改良土を得ることができる。その後、養生後の土を、ズリトロやトラック等の搬送設備を用いて、処理場や再利用現場等の目的の場所へ搬送して、再利用されるか、又は必要に応じて廃棄される。この改良土は再利用可能なレベルに強度が向上しているので、建設資材として搬出可能であり、また有効利用が可能となる。
【0054】
このように、本発明の中性固化材を用いることによって、従来技術では強度不足により産業廃棄物又は用途が限定された土として処理されていた建設発生土を、建設発生土の発生現場から外部に搬出する前に固化処理して、同一の又は異なる建設現場で改良土を建設資材として再利用することができる。
【0055】
特に、建設発生土が発生した建設現場と異なる建設現場で改良土を用いる場合、改良土を一定期間養生した後で他の建設現場に搬出されるところ、本発明の中性固化材を用いて固化した改良土は、搬出時において掘削や解きほぐしを行った場合でも、改良土の強度が十分に維持された状態で搬出することができる。また改良土を搬入した他の建設現場でも、特段の工程を経ることなく、改良土をそのまま再利用することができる。
【0056】
また、本発明の中性固化材によって改良された土は、高い強度を発現したものであるので、例えば国土交通省による通達「発生土利用基準について」の土質区分基準に規定される「第2種建設発生土」や、国土交通省による通知「建設汚泥処理度利用技術基準」の品質基準に規定される「第2種処理土」として好適に利用することができる。詳細には、本発明の中性固化材によって改良された土は、例えば、工作物の埋戻し、建築物の埋戻し、土木構造物の裏込め、道路用盛土、築堤、土地造成、鉄道盛土、空港盛土及び水面埋立等の土木工事用又は建設用等の広範な用途で好適に利用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下の説明では、特に断りのない限り「%」は「質量%」を表す。
【0058】
〔実施例1~6及び比較例1~5〕
<1.建設発生土再現試料の調製>
原土として、粉末状の泥岩を用いた。この泥岩は、JIS A1203に準じて測定された含水比(以下、これを単に「含水比」ともいう)は29.9%であり、JIS A1210に準じて測定された湿潤密度は1.75g/cm3であり、JGS 0211-2000に準じて測定されたpHは8.4であった。
次いで、前記の泥岩に、水、気泡剤(太平洋シールドメカニクス社製、OK-1)及び噴発防止材(太平洋シールドメカニクス社製、SP-α)を以下の表1に示す割合で添加して、含水比が異なる2種の建設発生土再現試料(泥土状試料)を得た。以下、これらの建設発生土再現試料を「発生土試料1」及び「発生土試料2」ともいう。
【0059】
【0060】
<2.中性固化材の調製>
原料として、以下に示す酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム及び硫酸第一鉄と、アクリルアミドユニットとアクリル酸ナトリウムユニットとの含有mol%が異なる高分子凝集剤とを以下の表2に示す割合で混合し、計10種類の粉末状の中性固化材を調製した。
・酸化マグネシウム:宇部マテリアルズ(株)製、軽焼酸化マグネシウム
・硫酸アルミニウム:中国産、硫酸アルミニウム14水和物
・硫酸第一鉄:中国産、硫酸第一鉄1水和物
・高分子凝集剤:
(1)中性固化材B及びH:MTアクアポリマー社製、アコフロックA-150UH
(2)中性固化材C:三洋化成工業社製、サンフロックAH-9S
(3)中性固化材D及びI:三洋化成工業社製、サンフロックAH-4SFA
(4)中性固化材E及びJ:MTアクアポリマー社製、アコフロックA-125
(5)中性固化材F:テクニカ合同社製、ウォーターフロックPA-041
(6)中性固化材G:MTアクアポリマー社製、アコフロックA-220
【0061】
【0062】
<3.改良土の調製>
粉末状の中性固化材を、発生土試料1には30kg/m3の添加量にて添加して混合し、発生土試料2には40kg/m3の添加量にて添加して混合し、目的とする改良土を得
た。なお、各改良土のpHは、中性に維持されていた。
【0063】
〔土の強度評価〕
発生土試料及び改良土を対象として、JIS A1228に従ってコーン指数を測定した。
発生土試料においては、各材料の混合直後においてコーン指数測定用試験体を作製し、それぞれコーン指数を測定した。
改良土においては、練り返しの影響を確認するため、同一の改良土を養生1日後及び養生7日後において繰返し用いて、試験直前に各養生期間におけるコーン指数測定用試験体を作製し、それぞれコーン指数を測定した。
土の強度判定は、改良土の掘削や解きほぐしにおける強度低下の影響と、周囲環境の違いとを考慮して、屋内で上述の期間養生したあとで測定したコーン指数の値に0.9を乗じた値を改良土の現場における強度推定値とし、この推定値が800kN/m2以上(第2種建設発生土以上)であるものを良好(表3中「〇」で示す。)と評価し、推定値が800kN/m2未満のものを不良(表3中「×」で示す。)と評価した。結果を表1及び表3に示す。
【0064】
【0065】
表3に示すように、酸化マグネシウムと、硫酸塩と、アクリルアミドユニット組成比が所定の割合である高分子凝集剤とを用いた実施例の中性固化材は、比較例と比較して、養生期間によらず、改良土の強度を十分に発現できるものであることが判る。このことは、発生土試料のコーン指数が、前記通達「発生土利用基準について」の土質区分基準における「第4種建設発生土」に区分される程度の値であったものが、中性固化材の添加によって、第2種建設発生土相当のコーン指数を有する改良土に改良されたことからも支持される。
特に,中性固化材における高分子凝集剤の含有量を好適な範囲とした実施例1~4の中性固化材は、改良土の強度を一層高く発現させることができ、また掘削や解きほぐしによる強度低下の影響も少ないので、中性固化材の添加後一定期間養生させた場合であっても、改良土を好適に再利用できることも判る。
【0066】
以上のとおり、本発明の中性固化材は、改良対象となる土を、pHを中性付近に維持しつつ、且つ高い強度を発現した土に改良できるので、改良土を幅広い用途で再利用することができ、資源の有効利用に繋げることができる。