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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】光デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20240805BHJP
   H04B 10/70 20130101ALI20240805BHJP
   H04B 10/548 20130101ALI20240805BHJP
【FI】
G02F1/01 C
H04B10/70
H04B10/548
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023023722
(22)【出願日】2023-02-17
(65)【公開番号】P2023184418
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】2208954.4
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】タオフィク パライソ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェームス シールズ
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-028584(JP,A)
【文献】特開2015-040959(JP,A)
【文献】特開2019-148794(JP,A)
【文献】特開2016-025550(JP,A)
【文献】特表2018-515046(JP,A)
【文献】特表2007-535711(JP,A)
【文献】国際公開第2022/003704(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0301094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H04B 10/00-10/90
G09C 1/00-5/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ルーティング素子によって受光された光が第1の光路または第2の光路の一方へと方向付けられるように、前記第1の光路および前記第2の光路に結合された前記光ルーティング素子と、
前記第1の光路および前記第2の光路を単一の出力経路へと結合するコンバイナと、
制御信号を前記光ルーティング素子に適用するコントローラと、前記制御信号は、前記光ルーティング素子によって受光された前記光の一部分が前記第1の光路へと方向付けられるのか前記第2の光路へと方向付けられるのかを示し、
前記第1の光路を通してルーティングされる光パルスと前記第2の光路を通してルーティングされる光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように前記第1の光路に設けられた位相制御素子と、
を備え
前記光ルーティング素子は、前記制御信号に応答して第1のルーティング状態と第2のルーティング状態とを切り替え可能であり、前記第1のルーティング状態では、前記光ルーティング素子は、受信された光パルスを前記第1の光路へと方向付け、前記第2のルーティング状態では、前記光ルーティング素子は、受信された光パルスを前記第2の光路へと方向付ける、光デバイス。
【請求項2】
前記制御信号は、第1のパルスおよび第2のパルスを有する連続するコヒーレントなパルス対のための符号化状態を示し、
前記光ルーティング素子は、第1の符号化状態を示す前記制御信号に応答して、前記第1のパルスを前記第1の光路へと方向付ける前記第1のルーティング状態から、前記第2のパルスを前記第2の光路へと方向付ける第2のルーティング状態に切り替えるように構成され、
前記光ルーティング素子は、第2の符号化状態を示す前記制御信号に応答して、前記第1のパルスを前記第2の光路へと方向付ける前記第2のルーティング状態から、前記第2のパルスを前記第1の光路へと方向付ける前記第1のルーティング状態に切り替えるように構成される、
請求項に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記所定の固定位相差は、前記第1の符号化状態および前記第2の符号化状態が第1の基底の直交状態となるようにするものである、請求項に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光ルーティング素子は、第3の符号化状態を示す前記制御信号に応答して、前記第1のパルスおよび前記第2のパルスの両方を前記第1の光路を通してルーティングするために前記第1のルーティング状態を維持し、または前記第1のパルスおよび前記第2のパルスを前記第2の光路を通してルーティングするために前記第2のルーティング状態を維持するように構成され、
前記第3の符号化状態は、第2の基底における状態であり、前記第1の基底および前記第2の基底は共役基底である、請求項に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1の光路の少なくとも一部分を規定する第1の導光素子と、前記第2の光路の少なくとも一部分を規定する第2の導光素子とをさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記固定位相差は、前記第2の導光素子の少なくとも一部分とは異なる光伝搬定数を有する前記第1の導光素子の少なくとも一部分によって提供される、請求項に記載の光デバイス。
【請求項7】
異なる光伝搬定数は、異なる屈折率、異なる幾何学的プロファイル、および異なる化学組成のうちの少なくとも1つを有する、前記第1の導光素子の前記少なくとも一部分と前記第2の導光素子の前記少なくとも一部分とによって提供される、請求項に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記位相制御素子は能動位相制御素子であり、前記能動位相制御素子は、熱光学素子、MEMS素子、圧電部品、キャリア注入位相変調器、キャリア空乏化位相変調器、または電気光学位相変調器のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記位相制御素子は、第1の位相制御素子であり、前記光デバイスは、前記第2の光路に設けられた第2の位相制御素子をさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記光ルーティング素子は、1つまたは複数のさらなる光路に結合され、前記コンバイナは、前記1つまたは複数のさらなる光路を前記単一の出力経路へとさらに結合し、
前記制御信号は、前記光ルーティング素子によって受信された光パルスが前記第1の光路へと方向付けられるのか、前記第2の光路へと方向付けられるのか、または前記1つまたは複数のさらなる光路のうちのいずれか1つへと方向付けられるのかをさらに示し、
前記1つまたは複数のさらなる光路の各光路には、位相制御素子が設けられている、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項11】
前記光ルーティング素子によって受信されることになる光パルスを生成する光源をさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項12】
前記光源は、レーザ、光学フィルタ、強度変調器、および時間遅延干渉計のうちの1つまたは複数を備える、請求項11に記載の光デバイス。
【請求項13】
前記光源は、1未満の平均光子数を有する光パルスを生成する、請求項11に記載の光デバイス。
【請求項14】
前記光ルーティング素子によって受光された光の強度を制御する1つまたは複数の入力光強度制御素子をさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項15】
前記第1の光路の出力の光強度および/または前記第2の光路の出力の光強度を制御する1つまたは複数の出力光強度制御素子をさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項16】
フォトニックチップをさらに備え、前記光デバイスは、前記フォトニックチップ上に実装される、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項17】
請求項1に記載の前記光デバイスと、前記単一の出力経路からの出力を受信し、前記出力を1つまたは複数の基底で測定する光受信機とを備える量子通信システム。
【請求項18】
量子状態を符号化する方法であって、
光源からコヒーレントな光パルス対を受信するステップと、
制御信号を受信するステップと、
前記制御信号に応答して、前記光パルス対のうちの第1のパルスを第1の光路または第2の光路へとルーティングし、前記光パルス対のうちの第2のパルスを前記第1の光路または前記第2の光路へとルーティングするステップと、ここにおいて、前記第1の光路を通る光パルスと前記第2の光路を通る光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように前記第1の光路に位相制御素子が設けられ、
少なくとも前記第1の光路と前記第2の光路の出力を単一の出力経路へと組み合わせるステップと、
を備え
前記ルーティングするステップは、前記制御信号に応答して、第1のルーティング状態と第2のルーティング状態とを切り替え可能であり、前記第1のルーティング状態では、受信された光パルスを前記第1の光路へと方向付け、前記第2のルーティング状態では、受信された光パルスを前記第2の光路へと方向付ける、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施形態は、量子状態を位相符号化するための光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
量子通信システムにおいて、情報は量子ビットすなわちキュービットへと符号化され、それらは次いで送信機によって受信機に送られる。キュービットは、光子などの単一量子の選択された基底の量子状態によって符号化され得る。量子状態は、純粋な量子状態を定義するために光子の特性を使用し、そして純粋な量子状態間の位相関係を変化させて基底の選択された状態を形成することによって形成され得る。
【0003】
符号化された量子状態は、量子鍵配送(QKD)を含む量子暗号方法への実用的応用を有する。QKD方式では、二者間、すなわち、送信機(多くの場合「アリス」と呼ばれる)と受信機(多くの場合「ボブ」と呼ばれる)との間で暗号鍵が共有される。情報の符号化および復号は、古典的な暗号技法を使用して古典チャネルを介してアリスとボブとの間で共有鍵を使用することにより行われるが、鍵は、多くの場合「イブ」と呼ばれる第三者による盗聴に対してセキュアにされている特性を有する量子通信チャネルを介して配送される。QKD方式では、アリスは情報の符号化のために2つ以上の基底を選択し、ここで各基底は、その基底を形成する複数の相互直交状態を含んでいる。基底は互いに偏らないように選択されるので、符号化ビットの測定に使用された基底が、符号化ビットの符号化に使用された基底と同じである場合、元の状態を正確に測定することができるが、測定基底が符号化基底と異なる場合、測定は、測定基底における状態をランダムに出力することになる。光子の量子力学的特性に起因して、イブが、光子の状態に永続的に影響を及ぼすことなく、そしてアリスとボブにイブの存在について警告することなく、光子を測定し、送信し直すことは不可能である。
【0004】
次に本発明の実施形態について、添付図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】1つの実施形態に係る量子状態エンコーダの概略図である。
図2A図1の量子状態エンコーダを使用した第1の状態の符号化を例示する概略図である。
図2B図1の量子状態エンコーダを使用した第2の状態の符号化を例示する概略図である。
図2C図1の量子状態エンコーダを使用した第3の状態の符号化を例示する概略図である。
図3図2A図2Cの第1、第2、および第3の状態を符号化するための、制御信号の光ルーティング素子への適用を例示する時間-電圧の図である。
図4】さらなる量子状態エンコーダを例示する概略図である。
図5図4の量子状態エンコーダを使用して符号化されてよい量子状態のコンステレーションを例示する。
図6】フォトニックチップ上に形成された光デバイスを例示する概略図である。
図7】エンコーダとしての働きをする光デバイスと光受信機とを含む量子通信システムを例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
様々な態様および実施形態は添付の特許請求の範囲に提示される。
【0007】
1つの実施形態では、光デバイスが提供され、本光デバイスは、光ルーティング素子によって受光された光が第1の光路または第2の光路の一方へと方向付けられるように、第1の光路および第2の光路に結合された光ルーティング素子と、第1の光路および第2の光路を単一の出力経路へと結合するコンバイナと、制御信号を当該光ルーティング素子に適用するコントローラと、制御信号は、光ルーティング素子によって受光された光の一部分が第1の光路へと方向付けられるのか第2の光路へと方向付けられるのかを示し、第1の光路を通してルーティングされる光パルスと第2の光路を通してルーティングされる光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように第1の光路に設けられた位相制御素子と、を備える。
【0008】
開示されたシステムは、QKDのために使用される量子状態など、量子状態の符号化に関係する技術的課題に対処する。すなわち、システムは、位相不安定性およびドリフトを最小限にして量子状態を符号化するという技術的課題に対処し、それによって量子ビット誤り率(QBER)を低減し、より高い秘密鍵レート(SKR)を提供する。
【0009】
複数の符号化方式をQKDのために使用することができる。1つの例は、偏光符号化であり、選択される基底は、直線偏光基底および対角偏光基底である。第2の例は、タイムビン符号化であり、量子状態は、パルスを互いに区別するのに十分な時間遅延だけ分離した「タイムビン」へと分離されたコヒーレントなパルス対を準備することによって符号化される。
【0010】
タイムビン符号化方式では、2つのパルスは、前のタイムビンにあり|0>状態を表す前パルス|e>と、後のタイムビンにあり|1>状態を表す後パルス|l>とによって表すことができる。量子状態は、前パルスおよび後パルスを組み合わせたものによって構築することができる。前パルスと後パルスは、互いに位相関係φを有する。異なる状態は、異なる位相によって表され、例えば、第iの状態については、
【数1】

である。位相は、QKDのための基底を構築するように選択され得、例えば、状態の少数の基底(minority basis){0,π}は以下であり、
|ψ>=|e>+|l>
|ψ>=|e>-|l>
状態の多数の基底(majority basis){π/2,3π/2}は以下である。
【数2】
【0011】
タイムビン状態は、単一光子パルスを生成し、非対称マッハツェンダ干渉計(AMZI)などの光ビームスプリッタにより各光子パルスを分割することによって生成することができる。分割されたパルスの各々は、再結合される前に、各アームが異なる経路長を有する異なるアームに方向付けられる。異なる経路長により、タイムビン分離に対応する時間遅延がパルス間に導入される。時間遅延は、デコヒーレンスが生じるほどのものではないが、パルスを区別するには十分なものである。例えば、時間差は約500psまたは1ナノ秒であってよい。
【0012】
本明細書に記載の光デバイスは、位相遅延を提供するために1つの光路において位相制御素子の特徴をなすさらなる干渉計を使用することにより2つのタイムビンパルス間の位相シフトφを符号化する方法を提供する。よって、前パルスおよび後パルスのうちのどちらかを位相制御素子を有する経路へと方向付けるかを選択することによって、異なる符号化状態を生成することができる。例えば、位相遅延は、受動位相制御素子によって導入することができ、または位相変調器などの能動位相制御素子によって導入することができる。前パルスまたは後パルスを異なる光路に選択的に方向付けるために光ルーティング素子が使用される。
【0013】
これは、単一の固定位相差を提供する単一の位相制御素子を使用することにより、多くの符号化状態を生成することができることを意味する。そのため、光デバイスには、複数の状態を符号化するために複数のレベルを切り替え可能である高速位相変調器は必要ない。また光デバイスには、同じ効果を達成するために複数の切り替え可能な位相変調器も必要ない。位相レベルの切り替えを最小限にし、必要な構成部品を最小限にすることによって、光デバイスは、複雑でなくなり、高価でなくなり、パワー集約的でなくなる。そのため、光デバイスはまた、位相変調器の状態を絶えず切り替えることから生じ得る位相不安定性またはドリフトに対しても弱くなくなる。そのため、光デバイスは、QBERを低減し、より高いSKRを提供する。
【0014】
1つの実施形態では、光ルーティング素子は、制御信号に応答して第1のルーティング状態と第2のルーティング状態とを切り替え可能であり、第1のルーティング状態では、光ルーティング素子は、受信された光パルスを第1の光路へと方向付け、第2のルーティング状態では、光ルーティング素子は、受信された光パルスを第2の光路へと方向付ける。
【0015】
1つの実施形態では、制御信号は、第1のパルスおよび第2のパルスを有する連続するコヒーレントなパルス対のための符号化状態を示し、光ルーティング素子は、第1の符号化状態を示す制御信号に応答して、第1のパルスを第1の光路へと方向付ける第1のルーティング状態から、第2のパルスを第2の光路へと方向付ける第2のルーティング状態に切り替えるように構成され、光ルーティング素子は、第2の符号化状態を示す制御信号に応答して、第1のパルスを第2の光路へと方向付ける第2のルーティング状態から、第2のパルスを第1の光路へと方向付ける第1のルーティング状態に切り替えるように構成される。
【0016】
1つの実施形態では、所定の固定位相差は、第1の符号化状態および第2の符号化状態が第1の基底の直交状態となるようにするものである。
【0017】
1つの実施形態では、光ルーティング素子は、第3の符号化状態を示す制御信号に応答して、第1のパルスおよび第2のパルスの両方を第1の光路を通してルーティングするために第1のルーティング状態を維持し、または第1のパルスおよび第2のパルスを第2の光路を通してルーティングするために第2のルーティング状態を維持するように構成され、第3の符号化状態は、第2の基底における状態であり、第1の基底および第2の基底は共役基底である。
【0018】
1つの実施形態では、光デバイスはさらに、第1の光路の少なくとも一部分を規定する第1の導光素子と、第2の光路の少なくとも一部分を規定する第2の導光素子とを備える。
【0019】
1つの実施形態では、固定位相差は、第2の導光素子の少なくとも一部分とは異なる光伝搬定数を有する第1の導光素子の少なくとも一部分によって提供される。
【0020】
1つの実施形態では、固定位相差は、第2の導光素子の少なくとも一部分とは異なる長さを有する第1の導光素子の少なくとも一部分によって提供される。
【0021】
1つの実施形態では、異なる光伝搬定数は、異なる屈折率、異なる幾何学的プロファイル、または異なる化学組成のうちの少なくとも1つを有する、第1の導光素子の少なくとも一部分と第2の導光素子の少なくとも一部分とによって提供される。
【0022】
1つの実施形態では、位相制御素子は能動位相制御素子であり、位相制御素子は、熱光学素子、MEMS素子、圧電部品、キャリア注入位相変調器、キャリア空乏化位相変調器(carrier depletion phase modulator)、または電気光学位相変調器のうちの少なくとも1つを含む。
【0023】
1つの実施形態では、位相制御素子は、第1の位相制御素子であり、光デバイスはさらに、第2の光路に設けられた第2の位相制御素子を備える。
【0024】
1つの実施形態では、光ルーティング素子は、1つまたは複数のさらなる光路に結合され、コンバイナはさらに、1つまたは複数のさらなる光路を単一の出力経路へと結合し、制御信号は、光ルーティング素子によって受信された光パルスが第1の光路へと方向付けられるのか、第2の光路へと方向付けられるのか、または1つまたは複数のさらなる光路のうちのいずれか1つへと方向付けられるのかをさらに示し、1つまたは複数のさらなる光路の各光路には、第1の光路を通る光パルスと1つまたは複数の光路のうちのいずれか1つを通る光パルスとの間、または第2の光路を通る光パルスと1つまたは複数の光路のうちのいずれか1つを通る光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように位相変調器が設けられている。
【0025】
1つの実施形態では、光デバイスは、光ルーティング素子によって受信されることになる光パルスを生成する光源をさらに備える。
【0026】
1つの実施形態では、光源は、レーザ、光学フィルタ、強度変調器、および時間遅延干渉計のうちの1つまたは複数を備える。
【0027】
1つの実施形態では、光源は、1未満の平均光子数を有する光パルスを生成する。
【0028】
1つの実施形態では、光デバイスはさらに、光ルーティング素子によって受光された光の強度を制御する1つまたは複数の入力光強度制御素子を備える。
【0029】
1つの実施形態では、光デバイスはさらに、第1の光路の出力の光強度および/または第2の光路の出力の光強度を制御する1つまたは複数の出力光強度制御素子を備える。
【0030】
1つの実施形態では、光デバイスはさらにフォトニックチップを備え、光デバイスは、フォトニックチップ上に実装される。
【0031】
1つの実施形態では、上で述べた光デバイスと、単一の出力経路からの出力を受信し、出力を1つまたは複数の基底で測定する光受信機とを備える量子通信システムが説明される。
【0032】
1つの実施形態では、量子状態を符号化する方法が説明され、本方法は、光源からコヒーレントな光パルス対を受信するステップと、制御信号を受信するステップと、制御信号に応答して、光パルス対のうちの第1のパルスを第1の光路または第2の光路へとルーティングし、光パルス対のうちの第2のパルスを第1の光路または第2の光路へとルーティングするステップと、ここにおいて、第1の光路を通る光パルスと第2の光路を通る光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように第1の光路に位相制御素子が設けられ、少なくとも第1の光路と第2の光路の出力を単一の出力経路へと組み合わせるステップと、を備える。
【0033】
図1は、光デバイス100を例示する概略図である。光デバイス100は、光源から光(光パルス110など)を受光するように構成された入力102を備える。また光デバイス100は、符号化された量子状態を出力するように構成された単一の出力経路104を備える。
【0034】
光デバイス100は、第1の光路108Aおよび第2の光路108Bに結合された光ルーティング素子106を備え、それにより光ルーティング素子106によって受光された光(光パルス110など)は、第1の光路108Aまたは第2の光路108Bの一方へと方向付けられるようになる。各光路は、自由空間光路、または導波部品を備える光路を含んでよい。導波部品はオフチップで実装されてよい。例えば、光路は、光路の少なくとも一部または全体を形成するオフチップ光ファイバまたはオフチップポリマー導波路を備える。代替として、導波部品は、オンチップフォトニック導波路であってもよい。オンチップ光導波路は、平面(2-D)導波路または非平面(3-D)導波路を含む光導波路であってよい。導波路は、リン化インジウムなどの半導体材料を使用して形成されていてよいし、またはシリコンオンインシュレータ導波路、ガラス導波路、電気光学導波路、または中空導波路であってよい。使用してよい導波路の幾何学的形状は、埋め込み導波路、拡散導波路、リッジ/ワイヤ導波路、ストリップ装荷(strip-loaded)導波路、ARROW導波路、リブ導波路、およびスロット導波路を含む。
【0035】
光デバイス100はさらに、第1の光路108Aおよび第2の光路108Bを単一の出力経路104へと結合するコンバイナ112を備える。単一の出力経路104は、単一の出力経路104への光出力を送信するための通信チャネルに結合されてよい。光デバイス100はさらに、制御信号CSを当該光ルーティング素子106に適用するコントローラ114を備える。制御信号CSは、光ルーティング素子106によって受光された光が第1の光路108Aへと方向付けられるのか第2の光路108Bへと方向付けられるのかを示す。したがって、光ルーティング素子106は、光スイッチの形態としての働きをする。光ルーティング素子106は、制御信号CSを受信したら、受光された光を選択された光路へと選択的に伝達するように再構成可能である。ルーティング素子106が光の選択的な再方向付けを達成するために再構成され得る方法については以下でより詳細に説明する。
【0036】
光デバイス100はさらに、第1の光路108Aに設けられた位相制御素子116を備え、それにより第1の光路108Aを通してルーティングされる光パルスと、第2の光路108Bを通してルーティングされる光パルスとの間に所定の固定位相差が提供される。よって、各経路を通過するパルスがコンバイナ112において再結合されると、パルスは、符号化された量子状態を形成することになる。
【0037】
例示的な動作では、光デバイス100は、第1の光パルスおよび第2の光パルスを有する対のコヒーレントパルスを受信する。これらのパルスは、パルスの測定可能な特性により区別可能である。測定可能な特性は、光パルスの位相、光パルスの強度、および/または光パルスの偏光を含むことができる。以下の詳細な説明および添付図面の基礎を形成する1つの実施形態では、パルスは、タイムビン符号化方式でタイムビンへと分離される。この場合、各パルスは、時間遅延Δtだけ分離して、光デバイスに連続して到着することになる。この例では、第1のパルスは「前パルス」と呼び、|e>と表す。第2のパルスは「後パルス」と呼び、|l>と表す。しかしながら、システムで使用され得る光パルスを特徴付けるために他の測定可能な特性を使用することができることが理解されよう。例えば、光子の異なる偏光を有する光パルスが使用されてよい。
【0038】
前パルスおよび後パルスは、光学プロセスおよび光学装置により生成され、以下でより詳細に説明する。前パルスおよび後パルスは、光デバイスの入力102に供給される初期状態|ψint>=|e>+|l>を共に形成する。前パルスおよび後パルスは、小さい位相オフセットδをそれらの間に有するように生成されてよく、これにより|ψint>=|e>+eiδ|l>となる。しかしながら、このオフセットが存在するとき、これはパルスの符号化を通して伝搬され、検出器での測定中に補償される。このように、オフセットが存在したとしても、エンコーダは依然として、前パルスと後パルスとの間に同じ固定位相差を導入してQKDプロトコルで使用するための符号化状態を生成することになり、光受信機での状態測定に影響を及ぼさない。そのため、以下で説明する符号化プロセスでは、このオフセットは無視され、初期状態は|ψint>=|e>+|l>とみなされる。光ルーティング素子106によって受信された前パルスおよび後パルスの各々は、光ルーティング素子106の構成に基づいて異なる光路にルーティングされる。1つの実装形態では、光ルーティング素子106は、制御信号CSに応答して第1のルーティング状態と第2のルーティング状態とを切り替え可能である。第1のルーティング状態では、光ルーティング素子106は、受信された光パルス110を第1の光路108Aへと方向付ける。第2のルーティング状態では、光ルーティング素子106は、受信された光パルス110を第2の光路108Bへと方向付ける。よって、光ルーティング素子106は、能動光スイッチとしての働きをする。光ルーティング素子106は、所望の最終符号化状態に基づいて、選択されたルーティング状態を選ぶように再構成可能である。1つの例では、制御信号CSは、定期的な時間期間で異なる信号状態を切り替える時変信号である。制御信号CSの異なる信号状態は、入力パルス間の時間分離に対応する量だけ時間的に分離している。各信号状態は、受信された光パルスとそろえて光ルーティング状態を切り替えるように光ルーティング素子106を制御する。信号状態のパターンは、所望の最終符号化出力状態に基づいて選択される。
【0039】
一実施形態では、光ルーティング素子106は光スイッチを備える。一実施形態では、光スイッチは、無線周波数マッハツェンダ変調器(RF-MZM)スイッチであってよい。例えば、光スイッチは、逆の電圧によって駆動される、各アームに同一の位相変調器を有するプッシュプル型MZMである。制御信号CSは、RF-MZMのどの出力が信号を出力するかを切り替えるために位相変調器の各々に供給される。各アーム内の同一の位相変調器に逆の電圧を供給すると、より高い電圧で駆動される単一の位相変調器を設けたときと同等の位相調整が生じる。各位相変調器における位相を変調するためにより小さい電圧が供給されるので、位相不安定性およびアーティファクトを最小限にすることができ、光スイッチがより高品質となる。光スイッチの各アーム内の同一の位相変調器のために任意の能動位相制御素子が設けられてよい。例えば、位相変調器の各々は、熱光学素子、微小電気機械システム(MEMS)素子、圧電部品、キャリア注入位相変調器、キャリア空乏化位相変調器、または電気光学位相変調器を含んでよい。
【0040】
代替として、光スイッチは、微小電気機械システム(MEMS)スイッチであってもよい。MEMSスイッチは、制御信号CSに応答して光路を機械的に作動させることによって光を再方向付けするように構成される。
【0041】
光ルーティング素子106の切替え速度は、少なくとも1/(タイムビンパルスの分離時間)という切替え速度など、タイムビンパルス同士を判別するように選択される。例えば、タイムビンパルスが500ps分離している場合、切替え速度は少なくとも2GHzである。
【0042】
コントローラ114は、データを処理し、信号を光ルーティング素子106に供給するように構成された任意のコンピュータ処理素子であってよい。1つの実施形態では、制御信号CSは、高レベルと低レベルとを切り替える電圧信号である。高電圧レベルおよび低電圧レベルは、それぞれ、ルーティング状態間で光ルーティング素子106を切り替える。よってコントローラ114は、入力パルスのタイムビン分離と同期させて電圧の変化を提供するように構成される。
【0043】
上述の光ルーティング素子106が、タイムビン符号化パルスを選択的にルーティングするように構成された光スイッチを備えることが理解されよう。別の実施形態では、光スイッチは、偏光によって符号化される光を選択的にルーティングするように構成される。この実施形態では、光ルーティング素子106は、切り替え可能な偏光ビームスプリッタから選択された光スイッチを備える。切り替え可能な偏光ビームスプリッタは、入力された光を2つの出力経路へと分割するように構成される。切り替え可能な偏光ビームスプリッタは、制御信号CSに応答して偏光ビームの出力経路を切り替えるように構成される。
【0044】
次に、タイムビン符号化方式についての、図1に示す上述の光デバイス100の適用例を説明する。最終符号化状態の生成について図2A図2Cを参照して以下で説明する。この実装形態では、制御信号CSは、第1のパルス220Aおよび第2のパルス220Bを有する連続するコヒーレントなパルス対についての最終符号化状態|ψenc>を示す。第1のパルスおよび第2のパルスは、上述の初期状態|ψint>の前パルスおよび後パルスである。
【0045】
第1の状態の符号化について図2Aを参照することによって示す。第1のパルス220Aを受信する前、光ルーティング素子206は第1のルーティング状態である。第1のパルス220Aを受信すると、光ルーティング素子206は、第1のパルス220Aを第1の光路208Aへと方向付ける。光ルーティング素子206は、制御信号CSに応答して第1のルーティング状態にされてよい。光ルーティング素子206は、第1のパルス220Aを第1の光路208Aへと方向付ける第1のルーティング状態から、第2のパルス220Bを第2の光路208Bへと方向付ける第2のルーティング状態に切り替えるように構成される。第1のルーティング状態から第2のルーティング状態への切り替えは、第1の符号化状態を示す制御信号CSに応答するものである。切り替えは、第1のパルス220Aを受信した後だが第2のパルス220Bを受信する前に行われる。次いで第2のパルス220Bは、第2の光路208Bへとルーティングされる。
【0046】
位相制御素子216は、第1の光路208Aを通る第1の光パルスを受信し、位相シフトする。よって、第1のパルス220Aおよび第2のパルス220Bがコンバイナ212によって組み合わされると、最終符号化状態が|ψenc>=eiφ|e>+|l>となるように生成される。
【0047】
第2の状態の符号化について図2Bを参照することによって示す。第1のパルス220Aを受信する前、光ルーティング素子206は第2のルーティング状態である。第1のパルス220Aを受信すると、光ルーティング素子206は、第1のパルス220Aを第2の光路208Bへと方向付ける。光ルーティング素子206は、制御信号CSに応答して第2のルーティング状態にされてよい。光ルーティング素子206は、第1のパルス220Aを第2の光路208Bへと方向付ける第2のルーティング状態から、第2のパルス220Bを第1の光路208Aへと方向付ける第1のルーティング状態に切り替えるように構成される。第2のルーティング状態から第1のルーティング状態への切り替えは、第2の符号化状態を示す制御信号CSに応答するものである。切り替えは、第1のパルス220Aを受信した後だが第2のパルス220Bを受信する前に行われ、その結果、第2のパルス220Bは第1の光路208Aへとルーティングされる。
【0048】
位相制御素子216は、第1の光路208Aを通る第2の光パルスを受信し、位相シフトする。よって、第1のパルス220Aおよび第2のパルス220Bがコンバイナ212によって組み合わされると、最終符号化状態が|ψenc>=|e>+eiφ|l>となるように生成される。
【0049】
第3の状態の符号化について図2Cを参照することによって示す。第1のパルス220Aを受信する前、光ルーティング素子206は、初期ルーティング状態として第1のルーティング状態または第2のルーティング状態のいずれかである。光ルーティング素子206は、制御信号CSに応答してその初期ルーティング状態にされてよい。光ルーティング素子206は、第3の符号化状態を示す制御信号に応答して初期ルーティング状態を維持するように構成される(例えば、光ルーティング素子206は、第1のパルスおよび第2のパルスの両方を第1の光路208Aを通してルーティングするために第1のルーティング状態を維持するように構成される。代替として、光ルーティング素子206は、第3の符号化状態を示す制御信号に応答して、第1のパルスおよび第2のパルスを第2の光路208Bを通してルーティングするために第2のルーティング状態を維持するように構成される。)。よって、第1の光パルス220Aおよび第2の光パルス220Bは同じ光路へと方向付けられる。コンバイナ212の出力において2つのパルス間に相対位相シフトはない。よって、最終符号化状態は、|ψenc>=eiφ|e>+eiφ|l>(両方のパルスが第1の光路208Aを通過する場合)となるように、または|ψenc>=|e>+|l>(両方のパルスが第2の光路208Bを通過する場合)となるように生成される。
【0050】
図2A図2Cのシステムを用いると、単一の固定位相差を使用することにより3つの可能な状態を符号化することができる。そのため、位相制御素子216は、異なるレベルを切り替える必要はない。このように、1つの実施形態では、固定位相差を提供するために受動位相制御素子216が使用されてよい。図2A図2Cのシステムを用いると、能動マルチレベル光変調器または複数の個別の能動光変調器を用いることなく量子状態を符号化することができる。位相変調器において複数のレベルを繰り返し切り替えると、経時的に位相変調器をドリフトさせる可能性があり、変動(もしくはパターニング)を引き起こす可能性があり、または位相不安定性を引き起こす可能性がある。そのため、図2A図2Cのシステムを使用した最終符号化状態は、パターニングの低減、不安定性の低減、およびドリフトの低減を伴って生成される。このように、開示されたシステムおよび方法を使用して生成された量子状態は、既存のシステムと比較して、より低いQBERおよびより高いSKRを有する。
【0051】
図1および図2A図2Cの光デバイスは、所望の光学状態を生成するために2つの光路間に任意の固定位相差を適用することができる。1つの実施形態では、固定位相差はQKD方式で使用するための状態を符号化するために選択される。
【0052】
1つの実施形態では、図1および図2A図2Cの光デバイスはエンコーダとしての働きをし、量子状態を符号化する方法を実施するために使用され、本方法は、光源からコヒーレントな光パルス対を受信するステップと、制御信号を受信するステップと、制御信号に応答して、光パルス対のうちの第1のパルスを第1の光路または第2の光路へとルーティングし、光パルス対のうちの第2のパルスを第1の光路または第2の光路へとルーティングするステップと、ここにおいて、第1の光路を通る光パルスと第2の光路を通る光パルスとの間に所定の固定位相差が提供されるように第1の光路に位相制御素子が設けられ、少なくとも2つの光路の出力を単一の出力経路へと組み合わせるステップと、を備える。
【0053】
先に説明したように、いくつかの離散量QKD方式が互いに偏らない2つの基底を使用し、各基底は2つの相互直交状態を備える。一般に、少なくとも3つの状態が必要であり、2つの状態が2つの基底のうちの第1の基底であり、少なくとも1つが2つの基底のうちの第2の基底である。よって、QKDで使用するための1つの実施形態では、所定の固定位相差Δφは、第1の符号化状態および第2の符号化状態が第1の基底の直交状態であり、第3の符号化状態が第2の基底における状態であるようにするものであり、ここにおいて、第1の基底および第2の基底は互いに偏らない基底である。
【0054】
1つの実施形態では、相対位相シフトがΔφ=π/2として選択されて、以下の3つの符号化状態が生成される。
【数3】
【0055】
状態|χ>および|χ>は、上述の多数基底{π/2,3π/2}における状態に対応する。|χ>は、上述の少数基底{0,π}における0位相状態に対応する。よって、これらの3つの状態は、3状態BB84プロトコルなどのQKDプロトコルで用いることができる。この方式では、状態|χ>および|χ>は、それらの間にπ/2のグローバル位相回転を伴って符号化されるが、符号化状態の測定に影響を及ぼさない。
【0056】
別の実施形態では、相対位相シフトはΔφ=πとして選択される。この実施形態では、一連のコヒーレントパルスがエンコーダに送られる。同じ経路へと方向付けられる連続した光パルスは、ゼロの位相差を光パルス間に有して出力されるが、一方で、異なる経路へと方向付けられた連続したパルスは、±πの相対位相を光パルス間に有して出力される。受信機が{0,π}基底の状態を復号するように配置されている場合、測定結果は、相対位相πの符号に依存しない。よって、以下の2つの状態が生成されてよい。
|Γ>=e±iπ|e>+|l>
|Γ>=|e>+|l>
【0057】
状態|Γ>および|Γ>は、上述の{0,π}基底におけるπおよび0位相状態に対応する。よって、これらの2つの状態は、差動位相シフト(DPS)QKDプロトコルにおいて用いることができる。
【0058】
次に、制御信号CSに応答した光ルーティング素子の例示的な動作について図3に関連させて説明する。光源は、複数のパルス対を含む一連の光パルスPを生成するように構成される。例えば、対P11およびP12、対P21およびP22、対P31およびP32、対P41およびP42、ならびに対P51およびP52の各々は、タイムビン分離時間Δtだけ分離した2つのパルスを有する。
【0059】
制御信号CSは、正信号+Vまたは負信号-Vの2つのレベルのうちの1つとして光ルーティング素子106に供給される。1つの実施形態では、この信号は電圧の形態である。例示的な正信号は+4Vであり、例示的な負信号は-4Vである。+V信号がコントローラ114によって供給されると、光ルーティング素子106は第2のルーティング状態にされる。-V信号がコントローラ114によって供給されると、光ルーティング素子106は第1のルーティング状態にされる。制御信号CSが、例えば、以下でより詳細に説明する装置において3つ以上の経路を切り替えるとき、3つ以上のレベルを備えてよいことが理解されよう。
【0060】
図3に例示されるように、制御信号は、受信された光パルスの時間分離に合わせて光ルーティング素子106を切り替えるように構成された時変信号である。制御信号が第1のパルスおよび第2のパルス(例えば、パルス対P11およびP12)に対して同じレベル+Vで維持されるとき、2つのパルスは同じ経路へと方向付けられる。各パルスにはΔφ=0の位相変調が提供される。そのため、第1のパルスおよび第2のパルスは、ゼロの位相差をそれらの間に有する。そのため、第1のパルスおよび第2のパルスは組み合わさって{0,π}基底の0位相状態に対応する符号化状態を形成する。制御信号が第1のパルスと第2のパルス(例えば、パルス対P21およびP22またはパルス対P31およびP32)との間で-Vから+Vに切り替わると、パルスは異なる経路へと方向付けられる。位相制御素子がπ/2の位相シフトを提供するように構成された例では、第1のパルスはΔφ=π/2の位相変調で変調され、第2のパルスはΔφ=0の位相変調で変調される。そのため、これらの第1のパルスおよび第2のパルスは組み合わさって{π/2,3π/2}基底のπ/2位相状態に対応する符号化状態を形成する。さらなる例として、図3は、{π/2,3π/2}基底の3π/2位相状態へと符号化されるさらなる例示的なパルス対P41およびP42と、{0,π}基底の0位相状態へと符号化される例示的なパルス対P51およびP52を例示する。
【0061】
こうして、一連の入力光パルスから、光デバイスは、光デバイスの出力で一連の符号化された量子状態を生成することができる。
【0062】
上述の実施形態の光路の各々は、光伝搬媒体を備える。1つの実施形態では、経路は自由空間に形成される。1つの実施形態では、光デバイス100はさらに、第1の光路108Aの少なくとも一部分を規定する第1の導光素子と、第2の光路108Bの少なくとも一部分を規定する第2の導光素子とを備える。光路に導光素子を設けることにより、伝搬損失が最小限になる。1つの実施形態では、導光素子は、光ファイバまたはポリマー導波路から選択される。別の実施形態では、導光素子は、上述の例示的なオンチップ導波路の材料およびオンチップ導波路の幾何学的形状を含む、フォトニック回路上に一体化されたフォトニック導波路から選択される。
【0063】
上記実施形態は、固定位相差を提供する位相制御素子116を参照することによって説明した。この位相制御素子116は、受動位相制御素子であってよく、電圧などの外部信号によって能動的に制御されることなく、第1の光路を伝播する光に位相遅延を提供するように機能する。受動位相制御素子は、能動位相制御素子と比較して、より高い安定性と位相シフト信号におけるアーティファクトの低減とを提供する。
【0064】
一実施形態では、固定位相差は、第2の導光素子の少なくとも一部分とは異なる光伝搬定数を有する第1の導光素子の少なくとも一部分によって受動的に提供される。異なる光伝搬定数は、異なる特徴を有する、第1の導光素子の少なくとも一部分と第2の導光素子の少なくとも一部分とによって提供されてよい。これらの異なる特徴は、異なる屈折率、異なる幾何学的プロファイル、および異なる化学組成のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0065】
例えば、異なる屈折率は、異なる材料から形成されている導光素子により提供され得る。特に、導光領域に光を閉じ込めるために、2つの領域間の屈折率の差が使用される。2つの領域は、半導体材料と空気、または同じ半導体の2つの異なるドーピング、または2つの異なる材料等であってよい。例示的な材料には、シリコン(3.5)、窒化シリコン(1.7)、リン化インジウム(3.5)、ガリウムヒ素(3)、およびガラス(1.5)が含まれ、ここで括弧内の数字は、電気通信波長(約192THzの周波数を有する)における材料ごとの近似屈折率である。また、異なるフォトニック結晶材料により異なる伝搬定数が形成された、光の伝搬のための光チャネルを提供する、線欠陥を有するフォトニック結晶を使用することにより、異なる屈折率が提供されてもよい。代替として、メタマテリアルを導波路として使用してよい。
【0066】
異なる導光素子の幾何学的プロファイルは、導光素子の断面を含む。導光素子の断面エリアの違いにより、導波路を通して伝搬される光の有効屈折率の違いが生じる。例えば、導光素子は、光伝搬材料の平面層を含む2-D/平面導光素子であってよい。コアとは異なる屈折率を有するクラッドおよび/または空気間にコアが積層されて、1つの横断方向における光閉じ込めを提供する。さらなる例として、導光素子は、3-D導光素子であってよく、ここではコアは非平面であり、異なる屈折率を有するクラッドおよび/または空気によって取り囲まれており、全横断方向における光閉じ込めを提供する。コアの横断面エリアは、導光素子内を伝播する光モードについての有効屈折率を加減するために変えられてよく、横断方向における異なる軸について異なる屈折率を提供するように加減されてよい。使用してよい例示的なコアの幾何学的形状は、埋め込み導波路、拡散導波路、リッジ/ワイヤ導波路、ストリップ装荷導波路、ARROW導波路、リブ導波路、およびスロット導波路を含む、上述の導波路幾何学的形状を含む。メタマテリアルが使用される例では、異なる伝搬定数がメタサーフェスの異なるエリアにおいて形成されてよい。
【0067】
位相制御素子は、各光路の異なる全体経路長を含むことによって受動的に位相遅延を導入することができる。第1の経路が第2の経路よりも量ΔLだけわずかに長くされている場合、第1の経路を通過する光は第2の経路に対して量Δt=ΔL*n/cだけ遅延することになり、ここで、cは光の速度であり、nは屈折率である。これにより角速度ωを有する光パルスではΔΦ=ωΔL*n/cという位相シフトとなる。電気通信で用いられる波長(約192THz)の場合、ごく短い経路長が必要であり、ΔL=ΔΦ*c/(ω*n)=ΔΦ*λ/(2π*n)によって与えられる。例えば、屈折率が約3.5であるシリコンまたはInPから形成された導光素子の場合、ΔL=110nmがπ/2位相シフトを提供することになる。真空(n=1)に設けられた導光素子の場合、ΔL=390nmがπ/2位相シフトを提供することになる。
【0068】
代替例として、各光路における光伝搬材料のドーピング濃度を変えることによって異なる化学組成が得られてよく、これは次に、各光路の屈折率に異なって影響を及ぼす。例えば、導波路は、InPを基板として使用しIn1-xGaAs1-yをコアとして使用して各光路において用いられてよく、ここで、各光路において異なる屈折率を提供するために、各光路はコアにおいて異なるヒ素濃度yを有する導波路を使用する。同様に、II-V半導体の混合物(GaAs/AlGaAs、InGaAs/AlInGaAs、またはGaN/AlGaNを含む)、またはゲルマニウムをドーピングしたシリコン、窒化シリコン、もしくは酸化窒化シリコンから形成された導波路を使用することができる。
【0069】
1つの実施形態では、位相制御素子116は、能動位相制御素子を備える。能動位相制御素子は、屈折率を調整するために導波路に熱を供給する、導波路上にまたは導波路に近接して抵抗物質が置かれた熱光学素子を備えてよい。代替的または追加的に、位相制御素子は、屈折率に影響を及ぼすために導波路にひずみをかけるように圧電材料が設けられた圧電部品を備える。代替的または追加的に、位相制御素子は、MEMS素子、キャリア注入位相変調器、キャリア空乏化位相変調器、または電気光学位相変調器を備える。これらの特定の位相制御素子は例にすぎず、他の位相変調素子により相対位相を符号化することができる。例えば、位相変調素子は、電場がPN接合にわたって印加されて伝搬指数変化を生じさせる進行波電極を含んでよい。光波および電波が同様の速度で伝搬する場合、高い変調周波数に達することが可能である。さらなる例では、位相変調素子は、屈折率変化をもたらす表面弾性波の形態の機械的振動を生じさせるために圧電材料上で使用される櫛形電極を含んでよい。
【0070】
さらなる例では、位相制御素子116は、2D材料と、グラフェンなど原子層堆積によって堆積された材料とを含んでよい。2-D材料は、導波路の上部に設けられ、高速で位相を受動的にシフトするために使用される。
【0071】
位相同調素子が使用される1つの実施形態では、2つの光路の特徴は同一である。よって、位相差Δφは、位相同調素子のみの作用によって生成される。代替として、位相同調素子は、異なる光路が異なる特徴を有する上記例と組み合わせて設けられてよい。位相同調素子からの位相変調および異なる特徴からの位相変調が組み合わさって、選択された固定位相差が生成される。
【0072】
1つの実施形態では、上述の位相制御素子は、第1の位相制御素子であり、ここにおいて、光デバイスはさらに、第2の光路に設けられた第2の位相制御素子を備える。第2の位相制御素子もまた、第1の位相制御素子に関連して上述した受動位相シフティングを提供する受動位相制御素子であってよいし、または、第1の位相制御素子に関連して上述した、熱光学素子、MEMS素子、圧電部品、キャリア注入位相変調器、キャリア空乏化位相変調器、または電気光学位相変調器のうちの少なくとも1つを備える能動位相制御素子であってよい。このようにして、2つの位相制御素子は、所望の位相差を付与するように構成され、例えば、1つの位相同調素子には-π/4位相を付与させ、もう1つの位相制御素子は+π/4位相を付与する(それによって、組み合わさってπ/2の位相差になる)。
【0073】
1つの実施形態では、光デバイス100において使用される任意の位相制御素子は、時変位相差を付与するように能動的に制御され得る能動位相制御素子であってよい。例えば、位相制御素子は、π/nの位相差を付与するように構成され得、ここでn>1である。また、コントローラ114は、nを変化させるために位相制御信号を能動位相制御素子に供給するように構成されてよい。nの変化は、パルスごとに異なるn値を選択するようにタイムビン分離パルスに合わせたものであってよい。よってnの値は、連続するパルス対の間の所望の位相差を符号化するために選択され得る。この実施形態では、幅広い最終符号化出力状態が可能である。マルチレベル位相変調器が使用されるが、マルチレベル位相変調器は依然として光ルーティング素子106と共に実装される。光ルーティング素子106はマルチレベル位相変調器を通してパルスを選択的にルーティングすることができる。よって、マルチレベル位相変調器を使用する上述の光デバイスは、選択されたnの値ごとに複数の状態を符号化することができる。さらに、符号化に利用可能な状態の数を増加させて、エンコーダは、4状態および6状態BB84プロトコルおよび連続量QKDプロトコルを含む、より多数の状態を使用する量子通信プロトコルのためのパルスを符号化してよい。
【0074】
1つの実施形態では、光デバイス100は、光ルーティング素子106によって受信されることになる光パルスを生成する光源を備える。1つの実施形態では、光源はレーザを含む。そのようなレーザは、ランダム化された位相をパルス間に有する一連の時間分離パルスを生成するように構成された利得スイッチレーザであってよい。次いで、非対称マッハツェンダ干渉計(AMZI)などの時間遅延干渉計へと各パルスを方向付けることによってコヒーレントパルス対が生成されて、各入力パルスからコヒーレントな時間分離した対が生成されてよい。よって、出力パルスの各対は、AMZIから出力された他の出力パルスに対して位相ランダム化されている。
【0075】
代替の実施形態では、光源は、第2のレーザおよび光学フィルタを備える。第2のレーザは(従来の用語を使用すると)「マスタレーザ」として動作し、第1のレーザは(従来の用語を使用すると)「スレーブレーザ」である。第2のレーザは第1のレーザにシードを供給し、これは、第1のレーザによって出力されるレーザパルスが固定の位相関係を有することを意味する。第1のレーザの各出力パルスが上述のAMZIへと入力されて、コヒーレントパルス対が生成され得る。代替として、第1のレーザからの出力パルス対は、量子状態を符号化するためのコヒーレントパルス対として使用することができる。
【0076】
1つの実施形態では、第2のレーザは、位相制御素子によって変調される。第2のレーザによって供給されるシードは、マルチレベル信号によって変調されて、各マスタレーザシード間に異なる位相関係を導入し、これは次に、第1のレーザの出力パルス間に異なる位相を生成する。この位相変調は固定またはランダムであってよい。
【0077】
別の代替例として、レーザは、強度変調器と共に用いられる連続波CWレーザであってよく、CWレーザの出力が選択的に変調されてパルスレーザ出力が生成される。
【0078】
1つの実施形態では、光源は、1未満の平均光子数を有する光パルスを生成するように構成される。代替として、光デバイスには、コンバイナの出力に結合された減衰器が設けられ、1未満の平均光子数を有するように光パルスをコンバイナの出力において減衰させる。平均光子数1未満を用いるこれらの実施形態では、システムは、離散量量子通信のために適応される。
【0079】
代替の実施形態では、光パルスは、1未満の平均光子数を有するように生成され、この場合、システムは、連続量量子通信のために適応されてよいし、または古典的通信での使用のために適応されてよい。
【0080】
1つの実施形態では、光源は、タイムビン差Δtに等しい均一の分離時間を有する一連の光パルスを生成するように構成される。一連の光パルスは、符号化されることになる複数の光パルス対を備える。一連の光パルスの一例が図3の複数のパルスPで例示されており、各パルスが時間的に隣接するパルスからΔtの時間分離を有することを示している。そのため、任意の2つの連続するパルスは同じ時間分離を有する。
【0081】
一実施形態では、DPS QKDプロトコルで量子状態を符号化するために、一連の光パルスは均一の分離を有し、位相コヒーレントであり、固定位相差はπである。この実施形態では、一連の光パルスからの任意の2つの連続するパルスが量子状態を符号化するために使用されてよい。任意のパルス対のうちの第1のパルスが第1の光路を通して方向付けられてπ位相シフトを提供される場合、第2のパルスは、第1の光路または第2の光路のいずれかを通して方向付けられ得る。第2のパルスが第1の光路を通して送られる場合、パルス間に位相差はなく、パルス対は0位相状態を形成する。第2のパルスが第2の光路を通して送られた場合、パルス間にπの位相差があり、パルス対はπ位相状態を形成する。代わりに任意のパルス対のうちの第1のパルスが第2の光路を通して方向付けられて0位相シフトを提供される場合、第2のパルスは、第1の光路または第2の光路のいずれかを通して方向付けられ得る。第2のパルスが第1の光路を通して送られる場合、パルス間にπ位相差があり、パルス対はπ位相状態を形成する。第2のパルスが第2の光路を通して送られた場合、パルス間に位相差はなく、パルス対は0位相状態を形成する。1つの実装形態では、光パルスは先行するパルスと組み合わされて第1の量子状態を形成する。さらに、光パルスは後続する光パルスと組み合わされて第2の量子状態を形成する。よって、3つの光パルスが使用されて2つの量子状態を形成することができる。結果として、パルス内でより多くの量子状態を符号化することができ、より高いSKRを達成することができる。
【0082】
1つの実施形態では、光デバイス100はさらに、光ルーティング素子によって受光された光の強度を制御する1つまたは複数の入力光強度制御素子を備える。入力光強度制御素子は、減衰素子または増幅素子を備えてよい。減衰素子または増幅素子は、光路で生じ得る任意の異なる量の光減衰のバランスをとるように光の強度を調整する。例えば、光強度制御素子は、吸収および散乱などの影響を軽減する。そのため、光強度制御素子は量子通信チャネルにおける光パルス強度のミスバランスを補正する。光パルス強度のバランスがとれていると、盗聴者は強度差から位相などの光子特性を推論することができず、したがって符号化基底を推測する。
【0083】
入力光強度制御素子の代替として、またはそれに加えて、光デバイスは、第1の光路108Aの出力の光強度および/または第2の光路108Bの出力の光強度を制御する1つまたは複数の出力光強度制御素子を備えてよい。出力光強度制御素子は、減衰素子または増幅素子であってよく、第1の光路および第2の光路を通過する光の強度を調整するように構成される。1つの実施形態では、出力光強度制御素子は、異なる光路を通して伝播する光の強度のバランスをとって同じ出力強度を生成するように構成され得る。
【0084】
追加または代替の実施形態では、本明細書に記載のコンバイナ素子は、各光路を通して伝搬される光のごく一部を選択的に伝達するように構成されてよい。1つの実施形態では、コンバイナは、MZMの一方または両方のアームに同調可能な減衰素子または同調可能な増幅素子を備える同調可能なMZMである。
【0085】
図4には、前述の光デバイスの変形形態が例示されている。図4の光デバイスは、さらなる量子状態を符号化するために使用されてよい。図4の光デバイス400は、図1および図2A図2Cに関連して前述した特徴を備え、第1の光路408Aおよび第2の光路408Bに結合された光ルーティング素子406と、第1の光路408Aおよび第2の光路408Bを単一の出力経路へと結合するコンバイナ412と、第1の光路408Aに設けられた位相制御素子416とを含む。図1および図2A図2Cに関連して上述した特徴が図4にも関連して提供されてよいことが理解されよう。そのため、前述の特徴は繰り返して説明しない。
【0086】
さらに、光デバイス400において、光ルーティング素子406は1つまたは複数のさらなる光路408C...408Nに結合され、コンバイナ412はさらに、1つまたは複数のさらなる光路408C...408Nを単一の出力経路へと結合する。さらに制御信号CSは、光ルーティング素子によって受信された光パルスが第1の光路408Aへと方向付けられるのか、第2の光路408Bへと方向付けられるのか、または1つまたは複数のさらなる光路のうちのいずれか1つへと方向付けられるのかを示す。1つの実施形態では、光ルーティング素子406は、縦列構成で接続された複数のMZMを備える。縦列構成において、第1のMZMは入力光パルスを受信し、第1のMZMの一方または両方の出力が、別個の後続のMZMの入力に結合される。後続の各MZMは、光デバイスの光路に結合されてよいし、またはさらなる後続のMZMに結合されてよく、ここで縦列MZM構成は、光路の数に等しい出力総数を備える。光ルーティング素子406は、1つまたは複数のさらなる光路の各々について後続のMZMを備える。制御信号CSは、光ルーティング素子406の最終出力を選択するように各MZMの出力を切り替えるために縦列MZMの各MZMに供給される信号を備える。
【0087】
代替の実施形態では、光ルーティング素子406は、複数の出力を有するMEMS光スイッチを備え、出力の数は光デバイスにおける光路の数に対応している。さらなる代替の実施形態では、光ルーティング素子406は、複数のMEMS光スイッチを備え、各MEMS光スイッチが2つの出力を有しており、複数のMEMS光スイッチは縦列構成で設けられている。
【0088】
1つまたは複数のさらなる光路408C...408Nの各経路には、位相制御素子416C...416Nが設けられる。1つのさらなる経路から最大N個のさらなる経路まで任意の数のさらなる経路があってよい。
【0089】
1つまたは複数のさらなる光路に設けられたさらなる位相制御素子は、上述の位相制御素子116と同じ方法で様々な形態をとってよい。1つの実施形態では、各位相制御素子は、異なる位相変調φを提供するように構成される。よって、各経路は、その経路を通過する光パルスに異なる位相シフトを提供するように構成され得る。制御信号CSに応答して、光ルーティング素子406は、N個の光路のうちのいずれかの特定の経路に光パルスをルーティングすることができる。第Nの経路を通過する光パルスは位相変調φを経る。パルス対の各パルスを第1の光路408A、第2の光路408B、および1つまたは複数のさらなる光路408C...408Nから選択された光路へと再方向付けすることにより、能動マルチレベル位相変調器または複数の能動位相変調器を使用することなく様々な量子状態を符号化することができる。
【0090】
図4の上記実施形態では、光デバイスは、低減された数の光位相制御素子を使用することにより多数の量子状態の符号化を可能にすることによって量子状態符号化に改良をもたらす。すなわち、光デバイスに追加された経路および位相制御素子ごとに、さらなる2つの位相が符号化のために利用可能である。上述のように、状態を符号化するために使用される光学制御素子の数を低減すると、パターニング、不安定性、およびドリフトが低減する。
【0091】
例えば、システムは、π位相変調を提供するように構成されたさらなる経路408Cを備えてよい。この場合、光ルーティング素子406は、前パルス|e>をさらなる経路408Cへとルーティングし、後パルス|l>を第2の光路408Bへとルーティングするように方向付けられてよく、光学状態|χ>=eiπ|e>+|l>を符号化し、これは、上述の{0,π}基底のπ位相状態に対応する。よって、さらなる光路408Cを使用する図4のシステムは、{0,π}および{π/2,3π/2}基底の4つの全状態を生成するために使用することができ、システムを4状態BB84 QKDプロトコルのためのエンコーダとする。
【0092】
3つの光路を有する光デバイスは、合計5つの可能な状態を符号化するために使用することができ、4つの光路を有する光デバイスは、7つの可能な状態を符号化するために使用することができる。一般に、図4の光デバイスが合計N個の光路を含み、各光路内の各位相制御素子が異なる位相シフトを提供するように構成されているとき、光デバイスは合計2N-1個の状態を符号化することができる。よって、エンコーダは、2つ、4つ、6つ、8つ、16個、またはそれ以上の可能な状態を必要とし得る、連続量QKD(CV-QKD)方式に必要な数の状態を符号化するために使用することができる。
【0093】
1つの実施形態では、1つまたは複数のさらなる光路408C...408Nは、第3の光路および第4の光路を備える。第3の光路は、受光された光を変調してΔφ=π/2+δという固定位相差を付与するように構成された位相制御素子を備え、第4の光路は、受光された光を変調してΔφ=δという固定位相差を付与する位相制御素子を備える。
【0094】
よって、第3の光路を通過する光と第4の光路を通過する光との間の位相差は、Δφ=π/2となる。光ルーティング素子406は、第1の光路および第2の光路への選択的なルーティングと同じ方法で、パルスを第3の光路および第4の光路へと選択的に方向付けて{0,π}および{π/2,3π/2}基底で状態を符号化することができる。しかしながら、第3の光路および第4の光路を通って符号化された最終状態と第1の光路および第2の光路によって符号化された最終状態とは、量δだけ位相が分離している。この実施形態を使用した最終符号化状態のコンステレーションが図5に例示されている。この実施形態を用いると、グローバル位相シフトされた最終符号化状態を固定位相入力パルスから生成することができる。
【0095】
図4のシステムを用いると、任意の赤道ブロッホ状態(equatorial Bloch state)を符号化するために異なる位相変調を伴うように任意の数の光路が選択されてよいことが理解されよう。よって、図4の実施形態は、量子チャネルを介した通信のための量子状態の生成におけるフレキシビリティを向上させる。
【0096】
図6は、さらなる実施形態を例示しており、上述の光デバイスがフォトニックチップ600を備え、光デバイスはフォトニックチップ600上に実装されている。上述の光デバイスの各構成部品が、フォトニックチップ600の一体化部品として実装されてよい。1つの実施形態では、フォトニックチップ600は、第1のレーザ601、光学フィルタ602、第2のレーザ604、光ルーティング素子606、第1の光路608A、第2の光路608B、第1の光路608Aに配置された第1の位相制御素子610A、第2の光路608Bに配置された第2の位相制御素子610B、コンバイナ612、および出力ポート614を備える。1つの実施形態では、第1の光路および第2の光路は、チップ上に一体的に形成された導波路によって実装される。また第1の光路および第2の光路は、前述の任意選択の導光素子を備えてよい。さらに、チップ部品間で光を伝搬するために使用される他の素子も、チップ上に一体的に形成された導波路によって実装されてよい。
【0097】
1つの実施形態では、フォトニックチップは入力ポート616を備える。入力ポート616は、外部コントローラから制御信号CSを受信するように構成される。入力ポート616は、制御信号CSを光ルーティング素子606にルーティングするように構成される。
【0098】
1つの実施形態では、入力ポート616は、フォトニックチップ600上の他の構成部品を制御するための信号を供給するためにこれらの構成部品にも接続される。例えば(図6には図示せず)、入力ポート616は、第1のレーザ601、光学フィルタ602、第1の位相制御素子610A、第2の位相制御素子610B、およびコンバイナ612の各々に結合されてよい。
【0099】
代替の一実施形態では、コントローラもフォトニックチップ600上に一体的に形成される。一体的に形成されたコントローラは、光ルーティング素子606に結合される。1つの実施形態では、一体的に形成されたコントローラは、フォトニックチップ600上の他の構成部品を制御するための信号を供給するためにこれらの構成部品にも接続される。例えば、一体的に形成されたコントローラは、第1のレーザ601、光学フィルタ602、第1の位相制御素子610A、第2の位相制御素子610B、およびコンバイナ612の各々に結合される。コントローラは、コントローラ動作を修正するための外部信号を受信するために入力ポート616にも結合されてよい。1つの実施形態では、フォトニックチップはリン化インジウム(InP)チップである。
【0100】
フォトニックチップを使用することにより、使いやすさ、フットプリントの縮小、通信の高速化、および高パワー効率が可能となる。さらに、フォトニックチップにより光デバイスおよび量子通信システムの小型化が可能になる。
【0101】
1つの実施形態では、光デバイス100は、図7に例示されるように量子通信システムの一部として使用される。量子通信システムは、本明細書に記載の実装形態に係る光デバイス700を備える。また量子通信システムは、単一の出力経路からの出力を受信するように構成され、受信された出力を1つまたは複数の基底で測定するように構成された光受信機710を備える。光デバイス700は、出力702からの符号化状態を量子チャネル708を介して送るための光送信機として動作する。光デバイス700は、「アリス」によって利用される符号化デバイスの例であり、光受信機710は、「ボブ」によって利用される復号デバイスの例である。
【0102】
光受信機710は、量子チャネル708を介して送られた情報を受信するように構成された受信機ポート712を備える。受信機ポートは、受信された符号化状態を2つの受信機光路へと等確率で分割するビームスプリッタ716に結合される。2つの受信機光路は、第1の受信機光路714Aおよび第2の受信機光路714Bを備える。第2の受信機光路714Bは、第1の受信機光路714Aよりも長い経路長を有するように構成される。第2の受信機光路714Bを通過する光は、光デバイス700によって符号化された時間分離した光パルスのタイムビン分離Δtと適合する時間遅延を受ける。光受信機710はさらに、2つの出力受信機光路を第1の検出器722Aおよび第2の検出器722Bに結合するコンバイナ720を備える。
【0103】
第2の受信機光路714Bに入る光パルスは、第1の受信機光路714Aに入る符号化状態に対して遅延を受けることになる。よって、第2の受信機光路714Bに入った前パルスは、第1の受信機光路714Aに入った後パルスと時間的に一致するように遅延されることになる。よって、第1および第2の受信機光路の出力は受信機コンバイナ720によって組み合わされ、これは量子干渉の影響を受けることになる。
【0104】
干渉は、第1の受信機光路714Aにある受信機位相制御素子718を使用することにより同調させることができる。受信機位相制御素子718は、測定位相差を提供するように、第1の受信機光路714Aを通る符号化状態の位相を変調し、該測定位相差は、選択された基底で測定するために選択されている。1つの実施形態では、測定位相差は{π/2,3π/2}基底で測定するためにπ/2に選択され、測定位相差は{0,π}基底で測定するために0に選択される。
【0105】
一例として、検出器が{0,π}基底で測定するように構成され、符号化状態が{0,π}基底の0状態で符号化されているとき、光検出器は、検出器722Aにおいて1を登録し、検出器722Bにおいて0を登録することになる。検出器が{0,π}基底で測定するように構成され、符号化状態が{π/2,3π/2}基底のπ/2状態で符号化されているとき、検出器は、等確率で検出器722Aおよび検出器722Bにおいて計数を測定する。さらなる例として、検出器が{π/2,3π/2}基底で測定するように構成され、符号化状態が{π/2,3π/2}基底のπ/2位相状態で符号化されているとき、光検出器は、検出器722Aにおいて1を登録し、検出器722Bにおいて0を登録することになる。同様に、検出器が{π/2,3π/2}基底で測定するように構成され、符号化状態が{π/2,3π/2}基底の3π/2位相状態で符号化されているとき、光検出器は、検出器722Aにおいて0を登録し、検出器722Bにおいて1を登録することになる。検出器が{π/2,3π/2}基底で測定するように構成され、符号化状態が{0,π}基底の0位相状態で符号化されているとき、検出器は、等確率で検出器722Aおよび検出器722Bにおいて計数を測定する。
【0106】
初期状態|ψint>=|e>+eiδ|l>において前パルスと後パルスとの間に位相オフセットが存在する上述の状況を再考する。この状況では、受信機位相制御素子718によって提供される位相シフトの調整によってオフセットは補償される。例えば、δ位相オフセットが存在する場合、検出器は{π/2,3π/2}基底で測定するように構成されるべきであり、位相制御素子は(π/2+δ)の位相シフトを付与するように設定される。δ位相オフセットは、量子鍵情報を含むパルスの前に光デバイスによって送られた較正パルスの測定値から決定されてよい。
【0107】
1つの実施形態では、光受信機710はさらに、ビームスプリッタ716に入る光の強度を制御する1つまたは複数の光強度制御素子を備える。追加的または代替的に、光受信機は、コンバイナ720に入る光の強度を制御する光強度制御素子を備える。光強度制御素子は、長いほうの光路714Bを光が通過することから受ける伝搬損失のバランスをとるために設けられる。1つの実施形態では、ビームスプリッタ716および/またはコンバイナ720は同調可能な構成部品である。例えば、ビームスプリッタ716および/またはコンバイナ720の各々は同調可能なMZIである。同調可能な構成部品は、長いほうの光路の通過による伝搬損失に対抗するために光の強度のバランスをとるために設けられる。
【0108】
光受信機710は、フォトニックチップ上に実装されてよく、光受信機710の各構成部品はフォトニックチップ上の一体化部品として実装される。受信機コントローラ724もフォトニックチップ上に実装されてよい。代替として、受信機コントローラは、フォトニックチップと通信する外部コンピュータハードウェアにおいて実装されてよい。1つの例では、ビームスプリッタ716、コンバイナ720、第1の受信機光路714A、第2の受信機光路714B、および受信機位相制御素子718は共に、AMZIによって具現化される。1つの実施形態では、フォトニックチップはリン化インジウム(InP)チップである。
【0109】
特定の実施形態について説明したが、これらの実施形態は単に例として提示されており、本発明の範囲を限定することは意図していない。本明細書に記載の新規のデバイスおよび方法は、その他の様々な形態で具現化することができ、さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、本明細書に記載のデバイス、方法、および製品の形態に様々な省略、置き換え、および変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲とその均等物は、本発明の範囲および要旨に含まれる形態または変形を網羅することを意図している。

図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7