(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 3/00 20060101AFI20240805BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B3/00 U
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2023115948
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 康伸
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224117(JP,A)
【文献】特開2014-036271(JP,A)
【文献】国際公開第2020/194375(WO,A1)
【文献】特開2016-044000(JP,A)
【文献】特開平05-075506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00 - 3/02
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
公衆回線網を介して監視センタと通信可能に接続されるエレベータシステムであって、
昇降路内に設置される第1無線アンテナと、
前記昇降路内において前記第1無線アンテナから離れた位置に設置される第2無線アンテナと、
前記第1無線アンテナによって捕捉される電波の状態と、前記第2無線アンテナによって捕捉される電波の状態とを検出する診断手段と、
前記検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態に基づき、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナのいずれか一方を、前記監視センタと通信するための無線アンテナとして選択するアンテナ選択手段と、
を備え
、
前記診断手段は、
前記第1無線アンテナによって捕捉される電波の強度および電波の受信品質を測定し、前記測定された第1無線アンテナの電波の強度および電波の受信品質に基づき前記第1無線アンテナの電波の状態を検出し、
前記第2無線アンテナによって捕捉される電波の強度および電波の受信品質を測定し、前記測定された第2無線アンテナの電波の強度および電波の受信品質に基づき前記第2無線アンテナの電波の状態を検出し、
電波の強度および電波の受信品質に基づき複数の電波の状態が予め定められたテーブルに基づいて、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態が、前記複数の電波の状態のうちのどの状態に対応するかを検出し、
前記アンテナ選択手段は、
前記検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態が同じ状態を示す場合、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナのうち、前記測定された電波の受信品質がより高い無線アンテナを、前記監視センタと通信するための無線アンテナとして選択することを特徴とする、エレベータシステム。
【請求項2】
前記アンテナ選択手段は、
前記検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態を比較し、電波の状態がより良好な無線アンテナを、前記監視センタと通信するための無線アンテナとして選択することを特徴とする、
請求項1に記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、設置スペースの観点から昇降路内に無線通信用のアンテナ(無線アンテナ)を設置し、その無線アンテナを介して外部の監視センタと通信するエレベータシステムが考案されている。エレベータシステムと監視センタとの間では、例えば、当該エレベータシステムに含まれる各種機器の稼働状況に関するデータがやり取りされる。これによれば、監視センタにいる監視員は、エレベータシステムの稼働状況を遠隔地から監視することできる。
【0003】
ところで、昇降路はコンクリートや鉄製で囲まれた閉空間である上に、当該昇降路内には乗りかごやカウンタウェイトなど、無線アンテナによって捕捉される電波の遮蔽物になり得る要素が多数存在する。また、無線アンテナによって捕捉される電波の状態は、エレベータが設置された建物の周辺環境にも左右される。無線アンテナによって捕捉される電波が、上述した遮蔽物や周辺環境の影響を受けてしまうと、エレベータシステムと監視センタとの間で上述したデータをやり取りする際に、通信エラーが発生し、正常な通信を行うことができない可能性がある。これによれば、エレベータシステムと監視センタとの間で、遠隔監視に必要なデータのやり取りを正常に行うことができず、遠隔監視の品質が低下してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-2318号公報
【文献】特開2016-37388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、遠隔監視の品質の低下を抑制することが可能なエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るエレベータシステムは、公衆回線網を介して監視センタと通信可能に接続される。前記エレベータシステムは、昇降路内に設置される第1無線アンテナと、前記昇降路内において前記第1無線アンテナから離れた位置に設置される第2無線アンテナと、前記第1無線アンテナによって捕捉される電波の状態と、前記第2無線アンテナによって捕捉される電波の状態とを検出する診断手段と、前記検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態に基づき、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナのいずれか一方を、前記監視センタと通信するための無線アンテナとして選択するアンテナ選択手段と、を備える。前記診断手段は、前記第1無線アンテナによって捕捉される電波の強度および電波の受信品質を測定し、前記測定された第1無線アンテナの電波の強度および電波の受信品質に基づき前記第1無線アンテナの電波の状態を検出し、前記第2無線アンテナによって捕捉される電波の強度および電波の受信品質を測定し、前記測定された第2無線アンテナの電波の強度および電波の受信品質に基づき前記第2無線アンテナの電波の状態を検出し、電波の強度および電波の受信品質に基づき複数の電波の状態が予め定められたテーブルに基づいて、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態が、前記複数の電波の状態のうちのどの状態に対応するかを検出する。前記アンテナ選択手段は、前記検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態が同じ状態を示す場合、前記第1無線アンテナおよび第2無線アンテナのうち、前記測定された電波の受信品質がより高い無線アンテナを、前記監視センタと通信するための無線アンテナとして選択する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、各実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態におけるエレベータ制御装置と遠隔監視装置の概略構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、同実施形態における無線アンテナの電波状態を検出する方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、同実施形態におけるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2実施形態におけるエレベータ制御装置と遠隔監視装置の概略構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、同実施形態におけるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第3実施形態におけるアンテナ選択処理を説明するための図である。
【
図8】
図8は、同実施形態におけるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0009】
(各実施形態に共通する構成)
図1は、各実施形態に係るエレベータシステム1の概略構成例を示す図である。なお、
図1では、エレベータシステム1がマシンルームレスタイプのエレベータシステムである場合を例示したが、これに限定されず、エレベータシステム1は、例えば建物の最上部に機械室を有するタイプのエレベータシステムであってもよい。
【0010】
図1に示すように、エレベータシステム1は、例えばインターネットなどの公衆回線網Nを介して、後述する監視センタ40と通信可能に接続される。
【0011】
図1に示すエレベータシステム1において、昇降路10内の壁面にはエレベータ制御装置20が設置される。エレベータ制御装置20は、昇降路10内の上部に設置された巻上機11の駆動制御を含む、エレベータシステム1内の各種機器の制御を行う。
【0012】
巻上機11の駆動軸にはトラクションシーブ12が取り付けられており、当該トラクションシーブ12の外周部にはメインロープ13が巻き架けられている。メインロープ13の一端は乗りかご14の上部に連結され、他端はカウンタウェイト(C/W)15の上部に連結されている。なお、
図1では便宜的に、1本のメインロープ13のみを示しているが、実際には、メインロープ13は、複数本のワイヤロープにより構成されている。
【0013】
乗りかご14およびカウンタウェイト15はそれぞれ、昇降路10内に立設されたガイドレール16,17によって昇降可能に支持されている。エレベータ制御装置20の制御に基づいて巻上機11が駆動されると、メインロープ13が巻き架けられているトラクションシーブ12が回転し、当該メインロープ13に連結されている乗りかご14およびカウンタウェイト15はそれぞれ、ガイドレール16,17に沿ってつるべ式に昇降動作する。
【0014】
エレベータ制御装置20は、遠隔監視装置30と有線または無線によって接続される。
【0015】
遠隔監視装置30は、エレベータシステム1内の各種機器の稼働状況に関するデータを収集し、収集したデータを、公衆回線網Nを介して監視センタ40に送信する。遠隔監視装置30は、監視センタ40と通信するために、少なくとも2つの無線アンテナに接続されている。
図1では、遠隔監視装置30が、昇降路10内の上部に設置された第1無線アンテナ18と、昇降路10内の下部に設置された第2無線アンテナ19とに接続された場合を例示している。第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19は、上述したように、昇降路10内の上部と下部など、互いに離れた位置に設置される。
【0016】
監視センタ40は、遠隔監視装置30から公衆回線網Nを介して送信される各種データに基づき、エレベータシステム1における異常の有無を常時監視している。また、監視センタ40は、定期的に、エレベータシステム1内の各種機器の稼働状況を遠隔から診断するための診断指令を遠隔監視装置30に送信する。監視センタ40は、上述した診断指令にしたがってエレベータシステム1において実行される診断処理の結果を示す診断結果情報(つまり、エレベータシステム1内の各種機器の稼働状況に関するデータ)を受信し、当該受信した診断結果情報を、例えば図示せぬモニタに表示させる。これによれば、監視センタ40にいる監視員は、エレベータシステム1内の各種機器の稼働状況を遠隔地から監視することができる。
【0017】
ところで、エレベータシステム1は、昇降路10内に設置された無線アンテナを用いて、監視センタ40と公衆回線網Nを介した通信を行うが、昇降路10内には乗りかご14やカウンタウェイト15など、無線アンテナによって捕捉される電波の遮蔽物となり得る要素が多数存在するため、これら要素が電波の遮蔽物となり、無線アンテナによって捕捉される電波の状態に悪影響を与える可能性がある。また、無線アンテナによって捕捉される電波の状態は、エレベータシステム1を導入した建物の周辺環境にも左右される。無線アンテナによって捕捉される電波が、上述した遮蔽物や周辺環境の影響を受けてしまうと、エレベータシステム1が監視センタ40と正常な通信を行うことができない可能性がある。
【0018】
このため、以下に示す第1実施形態~第3実施形態においては、昇降路10内の上部と下部など、互いに離れた位置に少なくとも2つの無線アンテナ18,19を設置し、正常な通信を行うことができる可能性の高い無線アンテナを選択して、監視センタ40と公衆回線網Nを介した通信を行う、エレベータシステム1について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係るエレベータ制御装置20と遠隔監視装置30の概略構成例を示す図である。
図2に示すように、エレベータ制御装置20は、運転制御部21を備えている。運転制御部21は、
図1に示した巻上機11の駆動制御を含む乗りかご14の運転制御を行う。
【0020】
遠隔監視装置30は、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19に接続される。また、遠隔監視装置30は、
図2に示すように、診断部31、通信部32およびアンテナ選択部33を備えている。なお、
図2では、説明の便宜上、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19が互いに近くの位置に図示されているが、実際には、
図1に示したように、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19は、昇降路10内の上部と下部など、互いに離れた位置に設置される。
【0021】
診断部31は、第1無線アンテナ18によって捕捉される電波の強度(以下、「第1無線アンテナ18の電波強度」と表記)を測定する。また、診断部31は、第1無線アンテナ18によって捕捉される電波の受信品質(以下、「第1無線アンテナ18の受信品質」と表記)を測定する。診断部31は、測定された第1無線アンテナ18の電波強度と第1無線アンテナ18の受信品質とに基づき、第1無線アンテナ18によって捕捉される電波の状態(以下、「第1無線アンテナ18の電波状態」と表記)を検出する。なお、上述した電波強度は例えばRSRP(Reference Signal Received Power)であり、上述した受信品質は例えばRSRQ(Reference Signal Received Quality)である。また、上述した電波強度と受信品質とに基づき電波状態を検出する方法の詳細は、後述する。
【0022】
同様に、診断部31は、第2無線アンテナ19によって捕捉される電波の強度(以下、「第2無線アンテナ19の電波強度」と表記)を測定する。また、診断部31は、第2無線アンテナ19によって捕捉される電波の受信品質(以下、「第2無線アンテナ19の受信品質」と表記)を測定する。診断部31は、測定された第2無線アンテナ19の電波強度と第2無線アンテナ19の受信品質とに基づき、第2無線アンテナ19によって捕捉される電波の状態(以下、「第2無線アンテナ19の電波状態」と表記)を検出する。
【0023】
アンテナ選択部33は、診断部31によって検出された第1無線アンテナ18の電波状態と、第2無線アンテナ19の電波状態とに基づき、監視センタ40と正常に通信を行うことができる可能性が高い無線アンテナを選択する。より詳しくは、アンテナ選択部33は、第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを比較し、より良好な電波状態の無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0024】
通信部32は、アンテナ選択部33によって選択された無線アンテナを用いて、監視センタ40と公衆回線網Nを介した通信を行う。
【0025】
なお、ここでは詳細な説明を省略するが、遠隔監視装置30(診断部31)は、アンテナ選択部33によって選択された無線アンテナを用いて監視センタ40と通信を行い、監視センタ40から上述した診断指令を受信すると、当該診断指令にしたがって上述した診断処理を実行する。診断処理の結果を示す診断結果情報は、アンテナ選択部33によって選択された無線アンテナを用いて監視センタ40に送信される。これによれば、遠隔監視装置30は、正常に通信を行うことができる可能性の高い無線アンテナを用いて、診断指令の受信や診断結果情報の送信(つまり、遠隔監視に必要なデータのやり取り)を行うことができるため、通信エラーにより遠隔監視に必要なデータのやり取りを正常に行うことができず、遠隔監視の品質が低下してしまうことを抑制することができる。
【0026】
ここで、
図3を参照して、診断部31が無線アンテナの電波状態を検出する方法について説明する。
診断部31は、測定した無線アンテナの電波強度および受信品質と、
図3に示すテーブルとに基づき、無線アンテナの電波状態を検出する。なお、
図3に示すテーブルには、電波の強度および電波の受信品質に基づいて、予め電波状態が設定されており、例えば、遠隔監視装置30の図示せぬメモリに記憶されているものとする。
【0027】
診断部31は、測定した無線アンテナの電波強度および受信品質の交点が、
図3に示すテーブルの第1領域r1~第9領域r9のうちのどの領域に位置するかに基づき、当該無線アンテナの電波状態を検出する。無線アンテナの電波状態は、基本的には、
図3に示すように、無線アンテナの電波強度および受信品質が高いほど、良好な状態を示す。
図3では、無線アンテナの電波状態が、無線アンテナの電波強度および受信品質に基づき、以下に示す9つの状態に区分される場合を想定している。
【0028】
・電波強度および受信品質の交点が第3領域r3内に位置する無線アンテナの電波状態:「非常に良い」
・電波強度および受信品質の交点が第2領域r2または第6領域r6内に位置する無線アンテナの電波状態:「良好」
・電波強度および受信品質の交点が第5領域r5内に位置する無線アンテナの電波状態:「概ね良好」
・電波強度および受信品質の交点が第1領域r1または第9領域r9内に位置する無線アンテナの電波状態:「やや不良」
・電波強度および受信品質の交点が第4領域r4または第8領域r8内に位置する無線アンテナの電波状態:「不良」
・電波強度および受信品質の交点が第7領域r7内に位置する無線アンテナの電波状態:「非常に悪い」
【0029】
なお、上述したように、無線アンテナの電波強度および受信品質の交点が第2領域r2内に位置する無線アンテナの電波状態と、電波強度および受信品質の交点が第6領域r6内に位置する無線アンテナの電波状態とは共に「良好」に相当するが、電波強度が高くても受信品質が低いと正常な通信を行うことができない可能性があるため、これら2つの無線アンテナの電波状態を比較した場合、第6領域r6に対応する無線アンテナの電波状態は、第2領域r2に対応する無線アンテナの電波状態よりも良好な状態を示す。
【0030】
同様に、第1領域r1に対応する無線アンテナの電波状態と、第9領域r9に対応する無線アンテナの電波状態とは共に「やや不良」に相当するが、これら2つの無線アンテナの電波状態を比較した場合、第9領域r9に対応する無線アンテナの電波状態は、第1領域r1に対応する無線アンテナの電波状態よりも良好な状態を示す。
【0031】
さらに、第4領域r4に対応する無線アンテナの電波状態と、第8領域r8に対応する無線アンテナの電波状態とは共に「不良」に相当するが、これら2つの無線アンテナの電波状態を比較した場合、第8領域r8に対応する無線アンテナの電波状態は、第4領域r4に対応する無線アンテナの電波状態よりも良好な状態を示す。
【0032】
また、2つの無線アンテナの電波強度および受信品質の交点が同じ領域内に位置する場合、上述した理由から、より高い受信品質を示す一方の無線アンテナの電波状態は、他方の無線アンテナの電波状態よりも良好な状態を示す。なお、
図3に示すテーブルの区分数および電波状態は例示であり、
図3に示すものに限定はされないものとする。
【0033】
図4は、第1実施形態に係るエレベータシステム1において実行されるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図4に示すアンテナ選択処理は、任意のタイミングで実行されて構わない。例えば、アンテナ選択処理は、エレベータシステム1と監視センタ40との間で通信を行う前に実行されてもよいし、定期的に実行されてもよい。
【0034】
まず、遠隔監視装置30の診断部31は、第1無線アンテナ18の電波強度と、第1無線アンテナ18の受信品質とを測定する。そして、診断部31は、測定された第1無線アンテナ18の電波強度および受信品質と、
図3に示したテーブルとに基づき、第1無線アンテナ18の電波状態を検出する(ステップS1)。
【0035】
続いて、診断部31は、第2無線アンテナ19の電波強度と、第2無線アンテナ19の受信品質とを測定する。診断部31は、測定された第2無線アンテナ19の電波強度および受信品質と、
図3に示したテーブルとに基づき、第2無線アンテナ19の電波状態を検出する(ステップS2)。
【0036】
しかる後、アンテナ選択部33は、診断部31によって検出された第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを比較し、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択し(ステップS3)、ここでの一連の処理を終了させる。
【0037】
以上説明したように、第1実施形態に係るエレベータシステム1は、昇降路10内の互いに離れた位置に設置された第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19を備えている。また、第1実施形態に係るエレベータシステム1は、第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを検出し、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0038】
このように、第1実施形態に係るエレベータシステム1は、2つの無線アンテナ18,19のうち、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択するため、通信エラーにより遠隔監視に必要なデータのやり取りを正常に行うことができず、遠隔監視の品質が低下してしまうことを抑制することができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係るエレベータシステム1は、エレベータ制御装置20がかご位置検出部22(
図5参照)を備えている点で、第1実施形態と相違している。また、第2実施形態に係るエレベータシステム1は、遠隔監視装置30の診断部31が、無線アンテナの電波状態を検出する機能を有していない点で、第1実施形態と相違している。なお、以下では、主に、第1実施形態と相違する点について説明し、第1実施形態と同様な点については説明を省略する。
【0040】
図5は、第2実施形態に係るエレベータ制御装置20と遠隔監視装置30の概略構成例を示す図である。
エレベータ制御装置20のかご位置検出部22は、例えば、巻上機11の回転に同期してパルスジェネレータ(図示せず)から出力されるパルス信号に基づき、乗りかご14の位置を検出する。検出された乗りかご14の位置を示す位置情報は、遠隔監視装置30に送られる。
【0041】
遠隔監視装置30のアンテナ選択部33は、エレベータ制御装置20から送られてくる位置情報に基づき、監視センタ40と正常に通信を行うことができる可能性が高い無線アンテナを選択する。より詳しくは、アンテナ選択部33は、位置情報によって示される乗りかご14の現在位置から、より離れて(より遠くに)位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0042】
図6は、第2実施形態に係るエレベータシステム1において実行されるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図6に示すアンテナ選択処理は、
図4に示したアンテナ選択処理と同様に、任意のタイミングで実行されて構わない。例えば、アンテナ選択処理は、エレベータシステム1と監視センタ40との間で通信を行う前に実行されてもよいし、定期的に実行されてもよい。
【0043】
まず、エレベータ制御装置20のかご位置検出部22は、図示せぬパルスジェネレータからのパルス信号に基づき、乗りかご14の現在位置を検出する(ステップS11)。検出された乗りかご14の現在位置を示す位置情報は、遠隔監視装置30に送られる。
【0044】
遠隔監視装置30のアンテナ選択部33は、エレベータ制御装置20(かご位置検出部22)から送られてくる位置情報によって示される乗りかご14の現在位置から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択し(ステップS12)、ここでの一連の処理を終了させる。
【0045】
以上説明したように、第2実施形態に係るエレベータシステム1は、第1実施形態と同様に、昇降路10内の互いに離れた位置に設置された第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19を備えている。また、第2実施形態に係るエレベータシステム1は、乗りかご14の現在位置を検出し、乗りかご14の現在位置から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
このように、第2実施形態に係るエレベータシステム1は、2つの無線アンテナ18,19のうち、電波の遮蔽物となり得る乗りかご14から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択するため、通信エラーにより遠隔監視に必要なデータのやり取りを正常に行うことができず、遠隔監視の品質が低下してしまうことを抑制することができる。
【0046】
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態について説明する。第3実施形態に係るエレベータシステム1は、第1実施形態に係るエレベータシステム1の機能と、第2実施形態に係るエレベータシステム1の機能の両方を併せ持つ点で、第1および第2実施形態と相違している。つまり、第3実施形態に係るエレベータシステム1は、
図5に示す診断部31が無線アンテナの電波状態を検出する機能を有している点で、第2実施形態と相違している。以下では、主に、第1および第2実施形態と相違する点について説明し、第1および第2実施形態と同様な点については説明を省略する。
【0047】
遠隔監視装置30のアンテナ選択部33は、診断部31によって検出された第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態と、エレベータ制御装置20から送られてくる位置情報とに基づき、監視センタ40と正常に通信を行うことができる可能性が高い無線アンテナを選択する。より詳しくは、アンテナ選択部33は、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態が共に、「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれか(つまり、
図7のドットが付された領域に対応する電波状態)であるかどうかを判定する。
【0048】
アンテナ選択部33は、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態が共に「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれかである場合(つまり、無線アンテナ18,19の電波状態が共に正常な通信を行うことができる可能性の高い状態である場合)、エレベータ制御装置20からの位置情報によって示される乗りかご14の現在位置から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0049】
一方、アンテナ選択部33は、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態の少なくとも一方が「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれかでない場合(つまり、無線アンテナ18,19の電波状態のうちの少なくとも一方が正常な通信を行うことができる可能性の低い状態である場合)、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0050】
図8は、第3実施形態に係るエレベータシステム1において実行されるアンテナ選択処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図8に示すアンテナ選択処理は、
図4および
図6に示したアンテナ選択処理と同様に、任意のタイミングで実行されて構わない。例えば、アンテナ選択処理は、エレベータシステム1と監視センタ40との間で通信を行う前に実行されてもよいし、定期的に実行されてもよい。
【0051】
まず、エレベータ制御装置20のかご位置検出部22は、図示せぬパルスジェネレータからのパルス信号に基づき、乗りかご14の現在位置を検出する(ステップS21)。検出された乗りかご14の現在位置を示す位置情報は、遠隔監視装置30に送られる。
【0052】
次に、遠隔監視装置30の診断部31は、第1無線アンテナ18の電波強度と、第1無線アンテナ18の受信品質とを測定する。そして、診断部31は、測定された第1無線アンテナ18の電波強度および受信品質と、
図3に示したテーブルとに基づき、第1無線アンテナ18の電波状態を検出する(ステップS22)。
【0053】
また、診断部31は、第2無線アンテナ19の電波強度と、第2無線アンテナ19の受信品質とを測定する。診断部31は、測定された第2無線アンテナ19の電波強度および受信品質と、
図3に示したテーブルとに基づき、第2無線アンテナ19の電波状態を検出する(ステップS23)。
【0054】
なお、ステップS21の処理と、ステップS22およびS23の処理とは、順序を入れ替えて実行されてもよい。つまり、ステップS22およびS23の処理が実行された後に、ステップS21の処理が実行されても構わない。
【0055】
アンテナ選択部33は、診断部31によって検出された第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とが共に、「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれかであるかどうかを判定する(ステップS24)。
【0056】
ステップS24の処理の結果、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態の少なくとも一方が「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれかでないと判定された場合(ステップS24のNo)、アンテナ選択部33は、第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを比較し、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択し(ステップS25)、ここでの一連の処理を終了させる。
【0057】
一方、ステップS24の処理の結果、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態が共に「非常に良い」、「良好」、「概ね良好」のいずれかであると判定された場合(ステップS24のYes)、アンテナ選択部33は、エレベータ制御装置20(かご位置検出部22)から送られてくる位置情報によって示される乗りかご14の現在位置から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択し(ステップS26)、ここでの一連の処理を終了させる。
【0058】
以上説明したように、第3実施形態に係るエレベータシステム1は、第1および第2実施形態と同様に、昇降路10内の互いに離れた位置に設置された第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19を備えている。また、第3実施形態に係るエレベータシステム1は、第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを検出し、かつ、乗りかご14の現在位置を検出し、検出された無線アンテナ18,19の電波状態が共に正常な通信を行うことができる可能性の高い状態である場合には、乗りかご14の現在位置から、より離れて位置する無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。さらに、第3実施形態に係るエレベータシステム1は、検出された無線アンテナ18,19の電波状態のうちの少なくとも一方が正常な通信を行うことができる可能性の低い状態である場合には、より良好な電波状態を示す無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0059】
このように、第3実施形態に係るエレベータシステム1は、2つの無線アンテナ18,19の電波状態と、電波の遮蔽物となり得る乗りかご14の現在位置との両方を考慮した上で、監視センタ40と通信するための無線アンテナを選択するため、通信エラーにより遠隔監視に必要なデータのやり取りを正常に行うことができず、遠隔監視の品質が低下してしまうことを抑制することができる。
【0060】
以下、変形例について説明する。
(第1変形例)
第1変形例は、例えば、第1実施形態または第3実施形態に適用可能な変形例である。
【0061】
第1変形例においては、遠隔監視装置30の通信部32が、例えばeUICC(Embedded Universal Integrated Circuit Card)など、複数の通信キャリアに対応した通信モジュールである場合を想定する。
【0062】
この場合、診断部31は、通信キャリア毎に、第1無線アンテナ18の電波状態と第2無線アンテナ19の電波状態とを検出する。
【0063】
通信部32は、診断部31によって検出された通信キャリア毎の第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態を参照し、複数の通信キャリアの中から、最も良好な電波状態を示した無線アンテナによって捕捉される電波に対応した通信キャリアを選択する。
【0064】
また、アンテナ選択部33は、上述した最も良好な電波状態の無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択する。
【0065】
以上説明した第1変形例によれば、エレベータシステム1は、無線アンテナだけでなく、通信キャリアの選択(変更)も行うことができるため、例えば、特定の通信キャリアにおいて大規模な通信障害が発生したとしても、無線アンテナによって捕捉される電波の通信キャリアを別の通信キャリアに変更した上で、良好な電波状態の無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択することが可能である。
【0066】
(第2変形例)
第2変形例は、例えば、第1実施形態または第3実施形態に適用可能な変形例である。
【0067】
第2変形例においては、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19が、昇降路10内の互いに離れた位置に設置されるのではなく、例えば、互いに離れた階床(つまり、別の階床)の乗場表示装置や三方枠などに、フィルムアンテナとして貼り付けられる場合を想定する。
【0068】
この場合であっても、遠隔監視装置30の診断部31は、第1無線アンテナ18および第2無線アンテナ19の電波状態を検出し、より良好な電波状態の無線アンテナを、監視センタ40と通信するための無線アンテナとして選択することが可能であり、第1実施形態や第3実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0069】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、遠隔監視の品質の低下を抑制することが可能なエレベータシステム1を提供することができる。
【0070】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1…エレベータシステム、10…昇降路、11…巻上機、12…トラクションシーブ、13…メインロープ、14…乗りかご、15…カウンタウェイト、16,17…ガイドレール、18…第1無線アンテナ、19…第2無線アンテナ、20…エレベータ制御装置、30…遠隔監視装置、40…監視センタ。
【要約】
【課題】遠隔監視の品質の低下を抑制することが可能なエレベータシステムを提供すること。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータシステムは、公衆回線網を介して監視センタと通信可能に接続される。エレベータシステムは、昇降路内に設置される第1無線アンテナと、昇降路内において第1無線アンテナから離れた位置に設置される第2無線アンテナと、第1無線アンテナによって捕捉される電波の状態と、第2無線アンテナによって捕捉される電波の状態とを検出する診断手段と、検出された第1無線アンテナおよび第2無線アンテナの電波の状態に基づき、第1無線アンテナおよび第2無線アンテナのいずれか一方を、監視センタと通信するための無線アンテナとして選択するアンテナ選択手段と、を備える。
【選択図】
図1