(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】FimH変異体、それを含む組成物、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/245 20060101AFI20240805BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240805BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240805BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240805BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20240805BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240805BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240805BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240805BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240805BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240805BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C07K14/245
C12N15/31 ZNA
A61K38/16
A61P43/00 105
A61P13/02 105
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2023541784
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2022050166
(87)【国際公開番号】W WO2022153166
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-12-06
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】グリープストラ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウェールデンブルグ,エヴリン,マーリーン
(72)【発明者】
【氏名】ゲウルトセン,イェルーン
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,ケレン,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ファイツマ,ロウリス,ヤコブ
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/183501(WO,A1)
【文献】国際公開第02/102974(WO,A2)
【文献】米国特許第6737063(US,B2)
【文献】Proteins,2019年,Vol.88, No.4,p.593-603
【文献】Folia Microbiologica,2019年,Vol.64, No.4,p.587-600
【文献】JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2013年,Vol.288, No.33,p.24128-24139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するFimHレクチンドメインを含み、
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)を含み、
前記FimHレクチンドメインが、表面プラズモン共鳴を使用して測定した場合に、マンノースリガンドへの結合について少なくとも1000nM以上のK
Dを有する、ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を更に含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)を含む、請求
項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
FimHピリンドメインを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号1
と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むFimHレクチンドメインを含み、
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)を含む、ポリペプチド。
【請求項6】
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1と少なくとも97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)をさらに含む、請求項5または6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
71位がチロシン(Y)であり、144位がバリン(V)である配列番号1のアミノ酸を含む、請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項9】
配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を有する全長FimHである、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有する全長FimHである、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
配列番号
4及び5の少なくとも1つの
アミノ酸22~300と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は、US6,737,063に記載されている配列番号23~45及び55のうちの少なくとも1つ
と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、
配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)を含む、FimHポリペプチド。
【請求項12】
配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V
)を更に含
む、請求項
11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項
1~12のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項
13に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項15】
請求項
13に記載のポリヌクレオチド又は請求項
14に記載のベクターを含む、組換え宿主細胞。
【請求項16】
請求項
1~12のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項
13に記載のポリヌクレオチド、又は請求項
14に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項17】
腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫応答の誘導に使用するための、請求項
1~12のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項
13に記載のポリヌクレオチド、請求項
14に記載のベクター、又は請求項
16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
対象における大腸菌によって引き起こされる尿路感染症の予防又は治療において使用するための、請求項
1~12のいずれか1項に記載のポリペプチド、請求項
13に記載のポリヌクレオチド、請求項
14に記載のベクター、又は請求項
16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドを産生するための方法であって、前記ポリペプチドを、請求項
13に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項
14に記載のベクターを含む組換え細胞から発現させることを
含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学微生物学及びワクチンの分野に関する。具体的には、本発明は、FimHレクチンドメインをマンノースに対して低親和性を有する立体構造にする少なくとも1つのアミノ酸変異を含む、FimHレクチンドメインを含み、対象への投与時に、膀胱上皮細胞への大腸菌(E. coli)の接着の高レベルの抗体媒介性阻害を誘導する、ポリペプチドに関する。更に、本発明は、そのようなポリペプチドを含む組成物、及び免疫応答の刺激を、それを必要とする対象において免疫原性ポリペプチドの投与によって行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸外感染症の原因である大腸菌(E. coli)株は、腸外病原性大腸菌(extra-intestinal pathogenic E. coli、ExPEC)と呼ばれている。ExPECは、外来通院、長期治療、及び病院の環境において腸外感染症を引き起こす最も一般的な腸内グラム陰性生物である。大腸菌に起因する典型的な腸外感染症としては、尿路感染症(UTI)、菌血症、及び敗血症が挙げられる。大腸菌は、重症敗血症の主因であり、高い罹患率及び死亡率の原因である。
【0003】
ExPECは、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の他のメンバーと同様に、粘膜上皮表面への付着を補助するI型線毛を産生する。これらのI型線毛は、腸内細菌科のメンバーの表面から生じる毛髪様構造である。I型線毛の主要な成分は、右巻きの螺旋状に配置されるFimAのサブユニットが繰り返されて、中心軸に孔を有する長さおよそ1μm及び直径7nmのフィラメントを形成したものである。主サブユニットとしてのFimAと共に、線毛フィラメントはまた、副タンパク質サブユニットとしてFimF、FimG、及びFimHも含む。副タンパク質サブユニットFimHは、真核細胞表面上のマンノース含有糖タンパク質へのI型線毛細菌の付着を促進するマンナン結合アドヘシンであり、マンナン及びフィブロネクチンを含む様々な標的に結合するタンパク質のファミリーを表す。免疫電子顕微鏡研究により、FimHが、I型線毛の遠位端に戦略的に配置され、そこでFimGと複合体を形成して柔軟な線毛構造を形成すると見られており、フィラメントに沿って様々な間隔で長手方向にも配置されることが明らかとなった。
【0004】
FimHアドヘシンタンパク質は、UTIに対する様々な前臨床モデルにおいてワクチンとして使用された場合に、防御を誘導することが示されている(Langermann S,et al.,1997,Science,276:607-611、Langermann S,et al.,2000,J Infect Dis,181:774-778、O’Brien VP et al.,2016,Nat Microbiol,2:16196)。
【0005】
大腸菌感染中、マンノシル化受容体に結合するアドヘシンFimHのレクチンドメインは、マンノースに対して低親和性(緊張)及びマンノースに対して高親和性(伸長/弛緩)という2つの異なる立体構造を取り得ることが示されている(Kalas et al,2017,Sci Adv 10;3(2))。低親和性の立体構造は、細菌の運動性及び新しい組織のコロニー形成を促進する。高親和性の立体構造は、尿排泄の機械的な力の下での強固な細菌接着を確実にする。更に、低親和性バリアントに対する抗体は、尿路上皮細胞への細菌結合を遮断し、膀胱内のCFU数を減少させることが示された(Tchesnokoca,2011 Infect Immun.79(10):3895-904;Kisiela,2013 Proc Natl Acad Sci,19;110(47):19089-94)。
【0006】
国際公開第02102974号は、多数のFimH変異体について記載しており、これらは全て、分子の渓谷領域(canyon region)にアミノ酸改変を含む。具体的には、国際公開第02102974号は、結合ポケット内のマンノース相互作用残基が変異されているバリアントについて記載している。この変異の位置は、FimH変異体をより開いた立体構造に保ち、それによって、野生型タンパク質ではアクセスしにくいエピトープを露出させるので、選択されている。しかしながら、現在までに、本発明者らの知る限りでは、これらの変異体のいずれも、ワクチン候補として更に追究されてはいない。臨床試験では、野生型FimHのみが使用されている。
【発明の概要】
【0007】
したがって、大腸菌によって引き起こされる細菌感染症に対して高度に阻害性の抗体を誘導することができるワクチンが、当該技術分野において依然として必要とされている。
【0008】
第1の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列の71位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペプチドを提供する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列の144位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を更に含む、第1の態様に記載のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドを提供する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、本発明によるポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。
【0011】
第4の態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチドを含む、ベクターを提供する。
【0012】
第5の態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチド又はベクターを含む、宿主細胞を提供する。
【0013】
第6の態様において、本発明は、本発明によるポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はベクターを含む、医薬組成物を提供する。
【0014】
第7の態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫応答の誘導に使用するための、本発明によるポリペプチド、本発明によるポリヌクレオチド、本発明によるベクター、又は本発明による医薬組成物を提供する。本発明は更に、腸内細菌に関連する状態の治療又は予防を、それを必要とする対象において行うための方法であって、有効量の本発明によるポリペプチド、本発明によるポリヌクレオチド、本発明によるベクター、又は本発明による医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0015】
第8の態様において、本発明は、ポリペプチドを産生するための方法であって、本発明のポリヌクレオチド及び/又は本発明のベクターを含む組換え細胞からポリペプチドを発現させることを含み、任意選択で、ポリペプチドを回収することであって、これに、任意選択で、ポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、ことを更に含む、方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】異なるFimHバリアントによって誘導される抗体の機能性である。ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedy-ラットモデル、Eurogentec)と組み合わせた60ug/用量の異なるFimHバリアントを、0日目、7日目、10日目、及び18日目に、4回の筋肉内免疫付与を受容させた。血清試料を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に得た。 A)様々なFimHバリアント(グラフの下に示される)を用いた初回実験。阻害性抗体力価(IC50)を、12段階希釈曲線に当てはめた4パラメーターのロジスティック回帰モデルに基づいて計算した。データは、2匹の動物/群からの二連の血清試料の平均を表す。
【
図1B】異なるFimHバリアントによって誘導される抗体の機能性である。ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedy-ラットモデル、Eurogentec)と組み合わせた60ug/用量の異なるFimHバリアントを、0日目、7日目、10日目、及び18日目に、4回の筋肉内免疫付与を受容させた。血清試料を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に得た。 B)FimH変異体F144V、F71Y、及びF144V/F71Y二重変異体を用いた別個の実験。阻害性抗体力価(IC50)を、6段階希釈曲線に当てはめた4パラメーターのロジスティック回帰モデルに基づいて計算した。グラフは、二連に測定した血清試料の免疫付与前及び免疫付与後の個々のIC50力価、並びにGMT(幾何平均力価)±95%CI(信頼区間)を示す。LOD:検出限界。
【
図2A】NMRスペクトル法によって決定されたマンノシドリガンドの存在下及び不在下における異なるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態である。左のパネルは、マンノシドリガンドが結合していない(例えば、アポ状態の)ときの低親和性状態(L)の一様に
15Nで標識したFimH
LDバリアントの
15N HSQC NMRスペクトルを示し、右のパネルは、マンノシドリガンドが結合している(例えば、リガンド状態の)ときの高親和性状態(H)のスペクトルを示す。マンノシドリガンドの結合時に化学シフトを受ける重要なアミノ酸残基が、枠内に示されている。残基は、公けに入手可能な大腸菌(E coli)K12由来のNMRスペクトルから同定されている(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)が、大腸菌23-10に特異的であった残基番号1及び2は除き、このことは、野生型FimH
LD 23-10タンパク質が、大腸菌K12のFimH
LDと比較して、アポ状態においてわずかに異なる立体構造を有することを示す。
【
図2B】NMRスペクトル法によって決定されたマンノシドリガンドの存在下及び不在下における異なるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態である。左のパネルは、マンノシドリガンドが結合していない(例えば、アポ状態の)ときの低親和性状態(L)の一様に
15Nで標識したFimH
LDバリアントの
15N HSQC NMRスペクトルを示し、右のパネルは、マンノシドリガンドが結合している(例えば、リガンド状態の)ときの高親和性状態(H)のスペクトルを示す。マンノシドリガンドの結合時に化学シフトを受ける重要なアミノ酸残基が、枠内に示されている。残基は、公けに入手可能な大腸菌(E coli)K12由来のNMRスペクトルから同定されている(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)が、大腸菌23-10に特異的であった残基番号1及び2は除き、このことは、野生型FimH
LD 23-10タンパク質が、大腸菌K12のFimH
LDと比較して、アポ状態においてわずかに異なる立体構造を有することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、FimHレクチンドメインを含む新規なポリペプチドであって、FimHレクチンドメインが、マンノースに対して低親和性を有する立体構造(本明細書において「低親和性立体構造」とも称される)に「固定」されている、ポリペプチドを提供する。本発明は、マンノースに対して低親和性の立体構造にあるFimH抗原が、マンノシドを介した接着を阻害し得る抗体を誘導することができるという観察に、部分的に基づく。これらの抗体は、高度に阻害性であり、細菌感染症の予防又は治療において、増強された効果を有する。本明細書において、F71Y変異を有するFimHレクチンドメインが、例えば、例として再発性UTIを予防又は低減するための、UTIに対するワクチンにおいて使用するのに非常に好適なものとなる、望ましい特性の驚くほど良好な組み合わせを有することが見出された。
【0018】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列番号1の参照アミノ酸配列の71位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペプチド、好ましくは、免疫原性ポリペプチドを提供する。
【0019】
第2の態様において、本発明は更に、配列番号1の参照アミノ酸配列のそれぞれ71位及び144位に対応する両方の位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペプチド、好ましくは、免疫原性ポリペプチドを提供する。この「二重変異体」は、低親和性立体構造に固定されたままであり、したがって、同様に、マンノシドを介した接着を阻害し得る抗体を誘導することができる。これらの阻害性抗体を誘導することに加えて、FimHレクチンドメインのF71Y及びF144V二重変異体は、高親和性立体構造に戻るように切り替えることができず、これによって二重変異体に驚くほど高い安定性がもたらされることが、本明細書において見出された。この高親和性立体構造に戻るように切り替えることができないことは、二重変異体が、例えば、例として再発性UTIを予防又は低減するための、UTIに対するワクチンにおいて使用するのに非常に好適なものとなる、非常に望ましい特性であるが、これは、とりわけ、保管中又は他の保管若しくは使用条件下において立体構造が安定であるかどうかを試験するための追加の品質又は安定性管理を必要としないことが確実であるためである。
【0020】
本明細書に使用される場合、アミノ酸71位置及び144位置は、それぞれ、配列番号1のFimHレクチンドメインの参照アミノ酸配列の71位置及び144位を指す。配列番号1以外の本発明のアミノ酸配列において、好ましくは、アミノ酸71位及び144位は、それぞれ、配列アライメント、好ましくは、デフォルト設定を使用したClustalW(1.83)配列アライメントにおいて、その他のアミノ酸配列の、配列番号1の71位及び144位に対応する位置に存在する。当業者であれば、上記で定義したアミノ酸配列アライメントアルゴリズムを使用して、配列番号1以外のFimHレクチンドメインアミノ酸配列の対応するアミノ酸位置を同定する方法を把握しているであろう。
【0021】
本出願全体を通じて、配列番号1のアミノ酸配列の71位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む本発明のポリペプチドは、本明細書において、「FimH(F71mut)」と称される。同様に、配列番号1のアミノ酸配列の、それぞれ71位及び144位に対応する両方の位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を含むFimHレクチンドメインを含む本発明のポリペプチドは、本明細書において、「FimH(F71mut/F144mut)」と称される。
【0022】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)及びトリプトファン(W)の群から選択されるアミノ酸を含む。
【0023】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)を含む。
【0024】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む。
【0025】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)を含む。
【0026】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインのうちの少なくとも1つは、配列番号1との少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0027】
一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)は、FimHレクチンドメインをマンノース立体構造に対して低親和性にする少なくとも1つの変異を含む。一実施形態において、FimH(F71mut)は、配列番号1の71位に対応する位置において変異されている。一実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番号1の71位及び144位に対応する位置において変異されている。
【0028】
この文脈におけるマンノースに対して低親和性を有するFimHレクチンドメインとは、本明細書において、例えば、実施例2において指定される条件下で、表面プラズモン共鳴を使用して測定した場合に少なくとも1000nM以上の解離定数(KD)でマンノシドリガンドに結合するFimHレクチンドメインとして定義される。マンノースに対して高親和性を有するFimHレクチンドメインとは、本明細書において、同じ条件下で、100nM以下のKDでマンノシドリガンドに結合するFimHレクチンドメインとして定義され、典型的には、野生型FimHが、このカテゴリーに入る。これらの条件下で100nM~1000nMのKDを有するFimHレクチンドメインは、本明細書において、マンノースに対して中等度の親和性を有すると称される。
【0029】
この文脈における「変異体」、「変異」、「変異された」、又は「置換」、「置換された」という用語は、対応する親分子(ここでは、71位及び144位にFを有するFimHレクチンドメインを含むポリペプチドである)におけるものではない示された位置において、別のアミノ酸が存在することを意味する。そのような親分子は、物理的にポリペプチドとして又はそのようなポリペプチドをコードする核酸の形態で存在し得るが、アミノ酸配列又はアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列として、単にインシリコ又は理論上で存在してもよい。したがって、この文脈における変異又は置換はまた、例えば、タンパク質が、変異又は置換をコードするように合成された核酸から発現される場合、対応する親分子をコードする核酸がプロセス中に最初に実際に調製されなかった場合であっても、例えば、核酸分子が化学合成によって完全に調製されている場合であっても、存在すると考えられる。
【0030】
好ましくは、変異は、単一のアミノ酸残基の置換である。変異は、好ましくは、それぞれ、配列番号1の71位及び144位のうちの少なくとも1つに対応するアミノ酸残基の置換である。好ましくは、変異は、配列番号1の71位に対応する位置におけるフェニルアラニン(F)の別のアミノ酸による置換である。好ましくは、本発明のポリペプチドは、配列番号1の144位に対応する位置におけるフェニルアラニン(F)の別のアミノ酸による置換を更に含む。FimH(F71mut)の場合には、配列番号1の71位に対応する位置は、好ましくは、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選択されるアミノ酸で置換される。1つの好ましい実施形態において、FimH(F71mut)は、71位におけるフェニルアラニン(F)からチロシン(Y)への置換を含む。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、71位にチロシンを含む非天然のポリペプチドである。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、71位に天然に存在するフェニルアラニンの代わりにチロシンを有する(「FimH(F71Y)」と称される)。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)は、71位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わりにチロシンを有する(「FimH(x71Y)」、式中、xは、親分子におけるフェニルアラニン又はチロシン以外のアミノ酸である)。
【0031】
一実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、配列番号1の71位及び144位に対応する位置に変異を含む。71位における変異は、好ましくは、本明細書に記載の置換である。144位における変異は、好ましくは、配列番号1の144位に対応するアミノ酸残基の置換である。好ましくは、変異は、配列番号1の144位に対応する位置におけるフェニルアラニン(F)アミノ酸残基の置換である。好ましくは、144位におけるアミノ酸は、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸によって置換される。1つの好ましい実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、144位におけるフェニルアラニン(F)からバリン(V)への置換を含む。
【0032】
ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、71位にチロシン及び144位にバリンを含む、非天然のポリペプチドである。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、71位に天然に存在するフェニルアラニンの代わりにチロシンを有し、144位に天然に存在するフェニルアラニンの代わりにバリンを有する。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut/F144mut)は、71位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わりにチロシン、及び144位にフェニルアラニン以外の天然に存在するアミノ酸の代わりにバリンを有する。
【0033】
全長FimHFLは、2つのドメイン:短いテトラペプチドループリンカーによってC末端ピリンドメイン(FimHPD)に接続されたN末端レクチンドメイン(FimHLD)から構成される。本発明のある特定の実施形態において、本発明によるFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを含まない。本発明の別の実施形態において、本発明によるFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含む。一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)は、FimHレクチンドメインが、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸配列を含む、全長FimHポリペプチドである。本発明のある特定の実施形態において、本発明によるFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、別のポリペプチドに融合されたFimHレクチンドメインの融合ポリペプチドであり、この他のポリペプチドは、目的の任意のポリペプチドであってもよく、これは、FimHに関連している必要も、天然でFimHと会合している必要もない。ある特定の実施形態において、本発明のFimHレクチンドメインを含むポリペプチドは、FimHピリンドメインを更に含み、加えて別のポリペプチドを含む、融合ポリペプチドであり、この他のポリペプチドは、目的の任意のポリペプチドであってもよく、これは、FimHに関連している必要も、天然でFimHと会合している必要もない。本発明の融合ポリペプチドは、例えば、ワクチン接種の目的で、免疫原として使用することもできる。
【0034】
一実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列番号2との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それによって、好ましくは、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、本明細書に記載のF71Y及び任意選択でF144V置換を除いて、配列番号2を有する配列を含んでもよい。別の実施形態において、ポリペプチドは、配列番号4との、又は好ましくは少なくともそのアミノ酸22~300との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するFimHFLであり、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y及び/又はF144V置換を除いて、配列番号4又は少なくともそのアミノ酸22~300を有する配列を含み得る。
【0035】
ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,063号に記載されている配列番号23~45及び55との少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。
【0036】
FimHポリペプチドは、大腸菌の様々な株の間で高度に保存されており、それらはまた、広範囲のグラム陰性菌間でも高度に保存されている。更に、株間で生じるアミノ酸変化は、概して、類似のアミノ酸位置で生じる。大腸菌株の間でのFimHの高度な保存の結果として、1つの株に由来するFimHポリペプチドは、FimHレクチンによって他の大腸菌株が細胞に結合するのを阻害若しくは防止し、並びに/又は他の大腸菌株によって引き起こされる感染症に対する保護及び/若しくは治療を提供する、抗体応答を誘導することができる。したがって、一実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列番号5との、又は好ましくは少なくともそのアミノ酸22~300との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y置換、及び任意選択でF144V置換を除いて、配列番号5又は少なくともそのアミノ酸22~300を有する配列を含み得る。別の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、配列番号6との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、それによって、71位又は71位及び144位は、それぞれ、FimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)について本明細書で上記に定義されているアミノ酸残基を含む。ある特定の実施形態において、FimHFLポリペプチドは、本明細書に記載されるF71Y置換、及び任意選択でF144V置換を除いて、配列番号6を有する配列を含み得る。
【0037】
ある特定の実施形態において、FimHは、好ましくは大腸菌FimHである。
【0038】
本明細書に使用される場合、「ペリプラズムシャペロン」という用語は、共通の結合エピトープ(複数可)の認識を介して様々なシャペロン結合タンパク質と複合体を形成することができる、細菌のペリプラズムに局在するタンパク質として定義される。シャペロンは、細菌細胞からペリプラズムに輸送されたタンパク質がそれらの天然の立体構造に折り畳まれるときに鋳型として機能する。シャペロン結合タンパク質とシャペロンとの会合はまた、ペリプラズム内に局在するプロテアーゼによる分解から結合タンパク質を保護する役割を果たし、水溶液中でのそれらの溶解度を増加させ、集合している線毛へのそれらの正しい順序での取り込みをもたらす。シャペロンタンパク質は、そのような集合を媒介することによって線毛の集合に関与するが、構造には組み込まれない、グラム陰性菌におけるタンパク質のクラスである。FimCは、FimHのペリプラズムシャペロンタンパク質である。本発明において使用するためのFimCポリペプチドは、配列番号3との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。ある特定の実施形態において、FimCポリペプチドは、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,737,063号に記載される配列番号29との少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。FimCとFimHとの非共有結合複合体は、FimCHと命名される。
【0039】
したがって、更なる態様において、本発明は、本明細書で定義されるFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)を含み、本明細書で定義されるFimHピリンドメイン又は全長FimHを更に含むポリペプチドと、本明細書で定義されるFimCポリペプチドとを含む、複合体を提供する。
【0040】
本発明の一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインは、FimHピリンドメインを更に含むポリペプチドの一部であり、このポリペプチドは、FimCと複合体を形成して、FimCH複合体を形成する。
【0041】
本出願の発明者らは、異なるアミノ酸変化を有するいくつかのFimHレクチンドメインバリアントを作製し、それらを、様々なアッセイにおいて、効率について試験している(実施例を参照されたい)。
【0042】
本明細書に記載されるFimH(F71mut)及びFimH(F71mut/F144mut)は、いずれも、FimCH複合体を形成することができた。
【0043】
一実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインは、配列番号2との少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するFimHFLポリペプチドの一部であり、これは、任意選択で、FimCポリペプチドと複合体を形成して、FimCH複合体を形成する。最終形態のFimHFLポリペプチド、すなわち、成熟FimHFLポリペプチドは、典型的には、例えば配列番号4及び5のアミノ酸1~21として示されるシグナルペプチドを含まず、すなわち、配列番号4又は配列番号5の成熟FimHFLポリペプチドは、これらの配列のアミノ酸22~300を含むが、典型的にはそのアミノ酸1~21が欠如していることが理解される。FimHFLポリペプチドの組換え産生に関して、組換え宿主細胞においてシグナルペプチドを含む成熟FimHFLポリペプチドをコードし、ポリペプチドのペリプラズム位置につながる全般的な分泌経路を通じて内部(細胞質)膜を越えて輸送されること(「ペリプラズム発現」と称されることもある)が有用であるが、単離され、例えば医薬組成物において使用される最終的な成熟FimHFLポリペプチドにおいて、シグナルペプチドは、典型的には、ポリペプチドを発現している組換え細胞によるプロセシングの結果としてもはや存在しない。
【0044】
一実施形態において、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは少なくとも約99%、又は100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、本明細書で上記に定義されているFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを含むFimHタンパク質とを含むか、又はそれらからなる。ある特定の実施形態において、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは少なくとも約99%、又は100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、本明細書で上記に定義されているFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを含むFimHタンパク質又はFimHFLタンパク質とを含むか、又はそれらからなり、それによって、FimHFLタンパク質は、好ましくは、(例えば、シグナルペプチドを依然として含む配列番号4又は5において)F92置換を含む。任意選択で、FimCH複合体は、配列番号3との少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは少なくとも約99%、又は100%の配列同一性を有するFimCタンパク質と、レクチンドメインにF71(Y)及びF144(V)置換を含むFimHタンパク質、又は(例えば、シグナルペプチドを依然として含む配列番号4若しくは5において)F92(Y)及びF165(V)置換を含む全長FimHタンパク質を含むか、又はそれらからなる。
【0045】
シグナルペプチドを依然として含む全長FimHにおいて、アミノ酸92位は、FimHレクチンドメインにおけるアミノ酸71位に対応し、165位は、アミノ酸144位に対応する。当業者には、上記に定義されるアミノ酸配列アライメントアルゴリズムを使用して、全長FimHアミノ酸配列及びFimHレクチンドメインアミノ酸配列における対応するアミノ酸位置を同定する方法が公知であろう。
【0046】
一実施形態において、大腸菌シャペロンFimCと、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)を含むポリペプチドとを含む複合体は、組換え細胞からFimCと共に、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)を含むポリペプチドを共発現させることによって形成することができる。
【0047】
一実施形態において、FimCH複合体は、1つの細菌株を起源とするFimCを含むが、FimHは、異なる細菌株を起源とする。別の実施形態において、FimCH複合体は、いずれも同じ細菌株を起源とするFimC及びFimHを含む。ある特定の実施形態において、FimH、又はFimC、又はFimH及びFimCの両方は、天然に存在する実際の細菌単離物に由来しない人工配列であってもよく、例えば、それらはまた、天然の単離物のコンセンサス配列又は組み合わせに基づいてもよい。
【0048】
一実施形態において、FimCH複合体は、Hisタグを含む少なくとも1つのポリペプチドを含む。一実施形態において、本明細書に記載の全長FimHが、Hisタグを含むか、又は本明細書に記載のFimCが、Hisタグを含む。好ましくは、FimCH複合体において、FimCが、Hisタグを含む。本明細書に使用される場合、Hisタグは、ヒスチジン(His)残基のストレッチ、例えば、6個のHis残基であり、これは、内部に付加され得るか、又は好ましくはタンパク質のN末端若しくはC末端に付加され得る。そのようなタグは、精製を容易にするための使用が周知されている。
【0049】
更なる態様において、本発明は、本明細書で上記に定義されているFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)レクチンドメインを含むポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、それに作動可能に連結されたプロモーターによって先行され得る。ある特定の実施形態において、プロモーターは、FimHコード配列に対して内因性である。ある特定の実施形態において、プロモーターは、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌においてFimHの発現を作動させる内因性プロモーターである。他の実施形態において、プロモーターは、FimHコード配列に対して異種であり、例えば、組換え発現系における使用のために当業者に公知の強力なプロモーターが使用される。例えば、誘導性Lacプロモーターを含むpET-DUETベクターは、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドの発現及び/又はFimCポリペプチドの発現のために使用することができる。Lacプロモーター又はTacプロモーターなどの誘導性プロモーターの場合、IPTGを使用して発現を誘導することができる。好ましくは、ポリヌクレオチドは、その天然の環境から単離されている。ある特定の実施形態において、本発明は、本発明による単離されたポリヌクレオチドを提供する。ポリペプチドは、組換え、合成、又は人工ポリヌクレオチドであり得る。ポリヌクレオチドは、任意の形態の核酸、例えば、DNA又はRNA、好ましくは、DNAであり得る。ポリヌクレオチドは、天然に存在するFimHをコードするポリヌクレオチドには存在しない1つ以上のヌクレオチドを含み得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは、その5’末端及び/又は3’末端に、天然に存在するFimHをコードするポリヌクレオチドには存在しない1つ以上のヌクレオチドを有する。コードされる成熟FimC及び/又はFimHの配列は、好ましくは、それぞれのポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドにおいてシグナルペプチドが先行してもよく、シグナルペプチドは、それぞれ、FimC及び/又はFimHポリペプチドに対して内因性シグナルペプチド(すなわち、これらのタンパク質について天然に存在するシグナルペプチド)であってもよく、又はそれらは異種シグナルペプチド、すなわち、他のタンパク質由来のシグナルペプチド若しくは合成シグナルペプチドであってもよい。シグナルペプチドは、ペリプラズム発現に有用であるが、典型的には、切断され、最終的に産生及び精製されるFimC及び/又はFimHそれぞれには存在しない。
【0050】
更なる態様において、本発明は、本発明のFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、ベクターに関する。ある特定の実施形態において、ベクターは、プラスミド又はウイルスベクター、好ましくは、プラスミドである。ベクターは、好ましくは、DNA、例えば、DNAプラスミドの形態である。ある特定の実施形態において、ベクターは、プロモーターに作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含み、これは、ポリヌクレオチドがプロモーターの制御下にあることを意味する。プロモーターは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流、例えば、プラスミドの発現カセットに、位置し得る。
【0051】
なおも更なる態様において、本発明は、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は本明細書に記載のベクターを含む、宿主細胞に関する。本発明のFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、一般的な分子生物学的方法によって細胞に導入することができる。そのような核酸は、染色体外、例えば、プラスミド若しくは他のベクター上にあってもよく、又は宿主細胞のゲノムに組み込まれていてもよい。好ましくは、タンパク質をコードする核酸は、宿主細胞における核酸の発現を作動させる配列(例えば、プロモーター)に作動可能に連結されている。プロモーターは、構成的プロモーターであってもよく、又はその活性が調節され得る、例えば、温度変化若しくは細胞内の特定の化学物質若しくはタンパク質の存在などの特定の条件下において抑制若しくは誘導され得るプロモーターであってもよく、これらは全て、当該技術分野において周知である。
【0052】
宿主細胞は、単離された細胞であり得る。宿主細胞は、培養培地において、例えば、バイオリアクターなどの培養容器において、培養され得る。細胞は、本発明のFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現に好適な任意の微生物細胞、原核細胞、又は真核細胞であってよい。好ましくは、宿主細胞は、細菌宿主細胞である。好ましくは、細菌宿主細胞は、グラム陰性菌細胞である。好ましくは、宿主細胞は、大腸菌(E. coli)及びクレブシエラ(Klebsiella)から選択される。好ましくは、宿主細胞は、大腸菌である。
【0053】
必要に応じて及び/又は所望される場合には、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、薬学的に許容される担体を添加することによって、薬学的に活性な混合物に組み込むことができる。
【0054】
したがって、更なる態様において、本発明はまた、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、組成物、好ましくは、医薬組成物を、提供する。
【0055】
本発明の(医薬)組成物は、担体、充填剤、保存剤、可溶化剤、及び/又は希釈剤を含む、任意の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。生理食塩水並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液も、特に注射溶液用の液体担体として採用され得る。好適な賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。好適な薬学的担体の例は、公知であり、例えば、教本及びマニュアルに記載されている。
【0056】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、1つ以上の緩衝液、例えば、トリス緩衝化生理食塩水、リン酸緩衝液、HEPES、又はスクロースリン酸グルタミン酸緩衝液を更に含む。
【0057】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、1つ以上の塩、例えば、トリス-塩酸塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、グルタミン酸一ナトリウム、及びアルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、又はそのようなアルミニウム塩の混合物)を更に含む。
【0058】
本発明の組成物は、組成物が投与される宿主において、免疫応答の誘起に使用することができ、すなわち、免疫原性である。したがって、本発明の組成物は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌によって引き起こされる感染症に対する、好ましくは、クレブシエラ(Klebsiella)又は大腸菌(E. coli)であり、より好ましくは、大腸菌によって引き起こされる感染症に対するワクチンとして使用することができ、したがって、任意選択で、ワクチンにおいて使用するのに好適な任意の追加の成分を含み得る。例えば、ワクチン組成物の追加の任意選択の成分は、本明細書に記載されるアジュバントである。
【0059】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、保存剤、例えば、フェノール、塩化ベンゼトニウム、2-フェノキシエタノール、又はチメロサールを更に含む。特定の実施形態において、本発明の(医薬)組成物は、0.001%~0.01%の保存剤を含む。他の実施形態において、本発明の(医薬)組成物は、保存剤を含まない。
【0060】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、対象への意図される投与経路に好適となるように製剤化される。例えば、本発明の組成物は、皮下、非経口、経口、皮内、経皮、結腸直腸、腹腔内、膣内、又は直腸投与に好適となるように製剤化することができる。特定の実施形態において、医薬組成物は、静脈内、経口、頬側、腹腔内、鼻腔内、気管内、皮下、筋肉内、局所、皮内、経皮、又は肺投与、好ましくは、筋肉内投与用に、製剤化することができる。
【0061】
本発明の組成物は、投与の指示書と共に、容器、パック、又はディスペンサに入れることができる。
【0062】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、使用前に保管され得、例えば、組成物は、凍結保管(例えば、約-20℃又は約-70℃)され得るか、冷蔵条件(例えば、約2~8℃、例えば、約4℃)で保管され得るか、又は室温で保管され得る。
【0063】
ある実施形態において、本明細書における本発明の医薬組成物は、アジュバントを更に含む。本明細書に使用される場合、「アジュバント」という用語は、本発明の組成物と共に、又はその一部として、投与された場合に、FimHに対する免疫応答を増大、増強、及び/又はブーストするが、アジュバント化合物が単独で投与された場合には、コンジュゲート及び/又はFimHに対する免疫応答を生じない、化合物を指す。アジュバントは、例えば、リンパ球動員、B細胞及び/又はT細胞の刺激、並びに抗原提示細胞の刺激を含むいくつかの機序によって、免疫応答を増強することができる。
【0064】
ある特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、アジュバントを含むか、又はアジュバントと組み合わせて投与される。本発明の組成物と組み合わせて投与するためのアジュバントは、免疫原性組成物の投与の前に、それと同時に、又はその後に、投与することができる。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)及びアジュバントは、単一の組成物の形態で投与される。
【0065】
他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、アジュバントを含まず、アジュバントと組み合わせて投与されない。
【0066】
アジュバントの具体例としては、アルミニウム塩(ミョウバン)(アルミニウム水酸化物、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び酸化アルミニウムなど、これには、ミョウバン又はナノミョウバン製剤を含むナノ粒子が含まれる)、リン酸カルシウム(例えば、Masson JD et al,2017,Expert Rev Vaccines 16:289-299)、モノホスホリルリピドA(MPL)、又は3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)(例えば、英国特許第2220211号、欧州特許第0971739号、欧州特許第1194166号、米国特許第6491919号を参照されたい)、AS01、AS02、AS03、及びAS04(全てGlaxoSmithKline、例えば、AS04については欧州特許第1126876号、米国特許第7357936号、AS02については、欧州特許第0671948号、同第0761231号、米国特許第5750110号を参照されたい)、イミダゾピリジン化合物(国際公開第2007/109812号を参照されたい)、イミダゾキノキサリン化合物(国際公開第2007/109813号を参照されたい)、デルタ-イヌリン(例えば、Petrovsky N and PD Cooper,2015,Vaccine 33:5920-5926を参照されたい)、STING活性化合成環状ジヌクレオチド(例えば、米国特許出願公開第20150056224号)、レシチンとカルボマーホモポリマーとの組み合わせ(例えば、米国特許第6676958号)、並びにサポニン、例えば、Quil A及びQS21(例えば、Zhu D and W Tuo,2016,Nat Prod Chem Res 3:e113(doi:10.4172/2329-6836.1000e113を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されず、任意選択で、QS7と組み合わされる(Kensil et al.,in Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach(eds.Powell & Newman,Plenum Press,NY,1995)、米国特許第5,057,540号を参照されたい)。いくつかの実施形態において、アジュバントは、フロイントアジュバント(完全又は不完全)である。ある特定の実施形態において、アジュバントは、Quil-A、例えば、Brenntag(現Croda)又はInvivogenから市販されているものなどを含む。QuilAは、キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja saponaria Molina)の木に由来するサポニンの水抽出性画分を含有する。これらのサポニンは、共通のトリテルペノイド骨格構造を有する、トリテルペノイドサポニンの群に属する。サポニンは、T依存性抗原並びにT非依存性抗原に対する強力なアジュバント応答、並びに強力な細胞傷害性CD8+リンパ球応答を誘導し、粘膜抗原に対する応答を増強することが公知である。これらはまた、コレステロール及びリン脂質と組み合わされて、免疫刺激性複合体(ISCOM)を形成し得、QuilAアジュバントは、異なる起源に由来する広範な抗原に対する抗体媒介性免疫応答及び細胞媒介性免疫応答の両方を活性化し得る。ある特定の実施形態において、アジュバントは、AS01、好ましくは、AS01Bである。S01は、MPL(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA)、QS21(キラヤ・サポナリア・モリナ、画分21)、及びリポソームを含む、アジュバント系である。ある特定の実施形態において、AS01は、市販されているか(GSK)、又は参照により本明細書に組み込まれる国際公開第96/33739号に記載されるように作製され得る。ある特定のアジュバントは、エマルジョンを含み、これは、2つの非混和性流体、例えば、油及び水の混合物であり、そのうちの一方が、他方の内側に小滴として懸濁され、界面活性剤によって安定化されている。水中油型エマルジョンは、油の小滴を取り囲む連続相を形成する水を有するが、油中水型エマルジョンは、連続相を形成する油を有する。ある特定のエマルジョンは、スクアレン(代謝可能な油)を含む。ある特定のアジュバントは、ブロックコポリマーを含み、これは、2つのモノマーが一緒にクラスター化して繰り返し単位のブロックを形成する場合に形成されるコポリマーである。ブロックコポリマー、スクアレン、及び微粒子安定剤を含む油中水型エマルジョンの例は、TiterMax(登録商標)であり、これは、Sigma-Aldrichから商業的に入手することができる。任意選択で、エマルジョンは、更なる免疫刺激成分、例えば、TLR4アゴニストと組み合わせられ得るか、又はそれを含み得る。ある特定のアジュバントは、MF59(例えば、欧州特許第0399843号、米国特許第6299884号、米国特許第6451325号を参照されたい)及びAS03においても使用される水中油型エマルジョン(例えば、スクアレン又はラッカセイ油など)であり、任意選択で、免疫刺激剤、例えば、AS02におけるモノホスホリルリピドA及び/又はQS21と組み合わされる(Stoute et al.,1997,N.Engl.J.Med.336,86-91を参照されたい)。アジュバントの更なる例は、免疫刺激剤、例えば、例えばAS01E及びAS01BにおけるMPL及びQS21を含有するリポソームである(例えば、米国特許出願公開第2011/0206758号)。アジュバントの他の例は、CpG、並びにイミダゾキノリン(例えば、イミキモド及びR848)である。例えば、Reed G,et al.,2013,Nature Med,19:1597-1608を参照されたい。
【0067】
ある特定の実施形態において、アジュバントは、サポニン、好ましくは、キラヤ・サポナリアから得られるサポニンの水抽出可能な画分を含む。ある特定の実施形態において、アジュバントは、QS-21を含む。
【0068】
ある特定の実施形態において、アジュバントは、toll様受容体4(TLR4)アゴニストを含有する。TLR4アゴニストは、当該技術分野において周知であり、例えば、Ireton GC and SG Reed,2013,Expert Rev Vaccines 12:793-807を参照されたい。ある特定の実施形態において、アジュバントは、リピドA、又はそのアナログ若しくは誘導体を含む、TLR4アゴニストである。
【0069】
例えば、TLR4アゴニストを含むアジュバントは、様々な手法で、例えば、油中水型(w/o)エマルジョン又は水中油型(o/w)エマルジョン(例は、MF59、AS03である)などのエマルジョン、安定(ナノ)エマルジョン(SE)、脂質懸濁液、リポソーム、(ポリマー)ナノ粒子、ビロソーム、吸着ミョウバン(alum adsorbed)、水性製剤(AF)などで製剤化することができ、アジュバント中の免疫調節分子及び/又は免疫原のための様々な送達系を表す(例えば、Reed et al.,2013(上記)、Alving CR et al,2012,Curr Opin Immunol 24:310-315を参照されたい)。
【0070】
免疫刺激性TLR4アゴニストは、任意選択で、他の免疫調節成分、例えば、サポニン(例えば、QuilA、QS7、QS21、Matrix M、Iscoms、Iscomatrixなど)、アルミニウム塩、他のTLRのための活性化因子(例えば、イミダゾキノリン、フラジェリン、CpG、dsRNAアナログなど)などと組み合わされ得る(例えば、Reed et al,2013(上記)を参照されたい)。
【0071】
本明細書に使用される場合、「リピドA」という用語は、LPS分子の疎水性脂質部分を指し、この部分は、グルコサミンを含み、ケトシド結合により、LPS分子の内部コアにおいてケト-デオキシオクツロソン酸塩に連結されており、LPS分子がグラム陰性菌の外膜の外葉に固定されている。LPS及びリピドA構造の合成の概要については、例えば、Raetz,1993,J.Bacteriology 175:5745-5753,Raetz CR and C Whitfield,2002,Annu Rev Biochem 71:635-700、米国特許第5,593,969号及び同第5,191,072号を参照されたい。リピドAは、本明細書に使用される場合、天然に存在するリピドA、その混合物、アナログ、誘導体、及び前駆体を含む。この用語は、単糖類、例えば、リピドXと称されるリピドAの前駆体、二糖リピドA、ヘプタアシルリピドA、ヘキサアシルリピドA、ペンタアシルリピドA、テトラアシルリピドA、例えば、リピドIVAと称されるリピドAのテトラアシル前駆体、脱リン酸化リピドA、モノホスホリルリピドA、ジホスホリルリピドA、例えば、大腸菌(Escherichia coli)及びロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のリピドAを含む。いくつかの免疫活性化リピドA構造は、6つのアシル鎖を含む。グルコサミン糖に直接的に結合された4つの第一級アシル鎖は、通常、10~16炭素長の3-ヒドロキシアシル鎖である。2つの追加のアシル鎖が、多くの場合、第一級アシル鎖の3-ヒドロキシ基に結合される。大腸菌リピドAは、例として、典型的には、糖に結合した4つのC14 3-ヒドロキシアシル鎖、並びにそれぞれ、2’位及び3’位において第一級アシル鎖の3-ヒドロキシ基に結合した1つのC12及び1つのC14を有する。
【0072】
本明細書に使用される場合、「リピドAアナログ又は誘導体」という用語は、リピドAに構造及び免疫学的活性が類似しているが、必ずしも天然に存在するわけではない分子を指す。リピドAアナログ又は誘導体は、例えば、短縮若しくは縮合されるように、及び/又は別のアミン糖残基、例えば、ガラクトサミン残基で置換されたグルコサミン残基を有するように、還元末端にグルコサミン-1-リン酸の代わりに2-デオキシ-2-アミノグルコン酸を含有するように、4’位にリン酸の代わりにガラクツロン酸部分を有するように、改変されていてもよい。リピドAアナログ又は誘導体は、細菌から単離されたリピドAから、例えば、化学的誘導によって調製されてもよく、又は例えば、最初に好ましいリピドAの構造を決定し、そのアナログ若しくは誘導体を合成することによって化学的に合成されてもよい。リピドAアナログ又は誘導体もまた、TLR4アゴニストアジュバントとして有用である(例えば、Gregg KA et al,2017,MBio 8,eDD492-17,doi:10.1128/mBio.00492-17を参照されたい)。例えば、リピドAアナログ又は誘導体は、例えば、アルカリ処理によって、野生型リピドA分子の脱アシル化によって、得ることができる。リピドAアナログ又は誘導体は、例えば、細菌から単離されたリピドAから調製することができる。そのような分子はまた、化学的に合成することもできる。リピドAアナログ又は誘導体の別の例は、リピドA生合成及び/又はリピドA改変に関与する酵素の変異、又はその欠失若しくは挿入を有する細菌細胞から単離されたリピドA分子である。MPL及び3D-MPLは、リピドAの毒性を弱めるように改変されたリピドAアナログ又は誘導体である。リピドA、MPL、及び3D-MPLは、長鎖脂肪酸が結合した糖骨格を有し、この骨格は、グリコシド連結した2つの6炭糖、及び4位のホスホリル部分を含む。典型的には、5~8個の長鎖脂肪酸(通常、12~14個の炭素原子)が糖骨格に結合している。天然源の誘導に起因して、MPL又は3D-MPLは、様々な脂肪酸長を有するいくつかの脂肪酸置換パターン、例えば、ヘプタアシル、ヘキサアシル、ペンタアシルなどの複合体又は混合物として存在し得る。これはまた、本明細書に記載される他のリピドAアナログ又は誘導体のいくつかについても当てはまるが、合成リピドAバリアントもまた規定され得、そして均質であり得る。MPL及びその製造は、例えば、米国特許第4,436,727号に記載されている。3D-MPLは、例えば、米国特許第4,912,094(B1)号に記載されており、3位の還元末端グルコサミンにエステル結合している3-ヒドロキシミリスチン酸アシル残基の選択的除去によってMPLとは異なる(例えば、米国特許第4,912,094(B1)号の第1欄のMPLの構造と第6欄の3D-MPLとを比較されたい)。当該技術分野では、3D-MPLが使用されることが多いが、MPLと呼ばれることもある(例えば、Ireton GC and SG Reed,2013(上記)の表1の最初の構造は、この構造をMPL(登録商標)と称しているが、実際には、3D-MPLの構造を示している)。本発明によるリピドA(アナログ、誘導体)の例としては、MPL、3D-MPL、RC529(例えば、欧州特許第1385541号)、PET-リピドA、GLA(グリコピラノシル脂質アジュバント、合成二糖脂質、例えば、米国特許出願公開第20100310602号、米国特許第8722064号)、SLA(例えば、Carter D et al,2016,Clin Transl Immunology 5:e108(doi:10.1038/cti.2016.63))、PHAD(リン酸化ヘキサアシル二糖、その構造は、GLAの構造と同じである)、3D-PHAD、3D-(6-アシル)-PHAD(3D(6A)-PHAD)(PHAD、3D-PHAD、及び3D(6A)PHADは、合成リピドAバリアントであり、例えば、avantilipids.com/divisions/adjuvantsを参照されたく、これは、これらの分子の構造も提供する)、E6020(CAS番号287180-63-6)、ONO4007、OM-174などが挙げられる。3D-MPL、RC529、PET-リピドA、GLA/PHAD、E6020、ONO4007、及びOM-174の例示的な化学構造については、例えば、Ireton GC and SG Reed,2013(上記)の表1を参照されたい。SLAの構造については、例えば、Reed SG et al,2016,Curr Opin Immunol 41:85-90の
図1を参照されたい。ある特定の好ましい実施形態において、TLR4アゴニストアジュバントは、3D-MPL、GLA、又はSLAから選択されるリピドAアナログ又は誘導体を含む。
【0073】
リピドAアナログ又は誘導体を含む例示的なアジュバントとしては、GLA-LSQ(合成MPL[GLA]、QS21、リポソームとして製剤化された脂質)、SLA-LSQ(合成MPL[SLA]、QS21、リポソームとして製剤化された脂質)、GLA-SE(合成MPL[GLA]、スクアレン油/水エマルジョン)、SLA-SE(合成MPL[SLA]、スクアレン油/水エマルジョン)、SLA-ナノミョウバン(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ナノミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、SLA-AF(合成MPL[SLA]、水性懸濁液)、GLA-AF(合成MPL[GLA]、水性懸濁液)、SLA-ミョウバン(合成MPL[SLA]、アルミニウム塩)、GLA-ミョウバン(合成MPL[GLA]、アルミニウム塩)、並びにAS01(MPL、QS21、リポソーム)、AS02(MPL、QS21、油/水エマルジョン)、AS25(MPL、油/水エマルジョン)、AS04(MPL、アルミニウム塩)、及びAS15(MPL、QS21、CpG、リポソーム)を含むGSK ASxxシリーズのアジュバントのうちのいくつかが挙げられる。例えば、国際公開第2013/119856号、同第2006/116423号、米国特許第4,987,237号、同第4,436,727号、同第4,877,611号、同第4,866,034号、同第4,912,094号、同第4,987,237号、同第5191072号、同第5593969号、同第6,759,241号、同第9,017,698号、同第9,149,521号、同第9,149,522号、同第9,415,097号、同第9,415,101号、同第9,504,743号、Reed G,et al.,2013(上記)、Johnson et al.,1999,J Med Chem,42:4640-4649、及びUlrich and Myers,1995,Vaccine Design:The Subunit and Adjuvant Approach;Powell and Newman,Eds.;Plenum:New York,495-524を参照されたい。
【0074】
非糖脂質分子、例えば、ネオセプチン-3などの合成分子又はLeIFなどの天然分子もまた、TLR4アゴニストアジュバントとして使用することができ、例えば、Reed SG et al,2016(上記)を参照されたい。
【0075】
別の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本発明の医薬組成物に関する。
【0076】
更なる態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌に対する免疫応答を誘導するための医薬としての、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する。
【0077】
本明細書に使用される場合、「免疫原」又は「免疫原性」又は「抗原」という用語は、単独でか、アジュバントと組み合わせてか、又はディスプレイビヒクル上に提示されるかのいずれかで、レシピエントへの投与の際に、それ自体に対する免疫学的応答を誘導することができる分子を記載して、互換可能に使用される。
【0078】
本明細書に使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的応答」又は「免疫応答」は、対象における、抗原又は組成物中に存在する抗原に対する体液性及び/又は細胞性免疫応答の発生を指す。
【0079】
更なる態様において、本発明は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌によって引き起こされる細菌感染症に対する免疫応答の誘導に使用するための、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物に関する。ある特定の実施形態において、細菌感染症は、クレブシエラ(Klebsiella)種、又は大腸菌(E. coli)によって引き起こされる。好ましい実施形態において、細菌感染症は、大腸菌(E. coli)によって引き起こされる。したがって、一実施形態において、本発明は、大腸菌(E. coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)、好ましくは、大腸菌に対する免疫応答の誘導のための医薬としての、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、又は本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する。
【0080】
好ましい実施形態において、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌によって引き起こされる細菌感染症は、大腸菌(E. coli)、例えば、腸管外病原性大腸菌(ExPEC)による感染症であり、例えば、感染症は尿路感染症(UTI)であり得る。一実施形態において、本発明は、対象におけるUTIに関連する症状及び/又は続発症の治療、予防、又は抑制に使用するための、本明細書に記載のFimHレクチンドメインを含むポリペプチド、本明細書に記載のポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物に関する。ある特定の実施形態において、当該UTIは、rUTIである。大腸菌は、若い女性及び高齢者における重要な健康管理問題であるUTI及びrUTIの主要な原因物質の1つである。したがって、好ましい実施形態において、細菌感染症は、大腸菌によって引き起こされるUTI又はrUTIである。
【0081】
一実施形態において、本発明は、それを必要とする対象の腸内細菌関連の状態と関連する症状及び/又は続発症を治療、予防、又は抑制する方法に関する。この方法は、有効量の本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。好ましくは、投与は、腸内細菌関連の状態を治療又は予防するのに有効な免疫応答を誘導する。好ましくは、腸内細菌関連の状態は、尿生殖路感染症、より具体的には、UTI又はrUTIである。
【0082】
本発明はまた、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科のグラム陰性菌によって引き起こされる細菌感染症、好ましくは、大腸菌(E. coli)によって引き起こされる細菌感染症を治療、予防、又は抑制するための薬剤の製造のための、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチド、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は本明細書に記載の医薬組成物の使用に関する。より好ましくは、細菌感染症は、大腸菌によって引き起こされるUTI又は再発性UTI(rUTI)である。
【0083】
本発明は更に、本発明のポリペプチドの産生のための方法であって、本発明のFimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び/又は本明細書に記載されるベクターを含む、組換え細胞を培養することを含み、培養が、ポリペプチドの産生を導く条件下で行われる、方法に関する。
【0084】
ある特定の実施形態において、本方法は、ポリペプチドを回収することを更に含み、任意選択で、これには医薬組成物への製剤化が続く。
【0085】
好ましくは、大腸菌細胞、例えば、大腸菌BL21誘導体細胞が、本発明のFimH(F71mut)又はFimH(F71mut/F144mut)ポリペプチドを産生するための方法において使用される。
【0086】
ポリペプチドの回収は、好ましくは、当該技術分野において周知の従来のタンパク質精製方法を使用して実施され得る精製及び/又は単離工程を含む。そのような方法は、例えば、硫酸アンモニウム若しくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン及び/若しくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、並びに/又はレクチンクロマトグラフィーを含み得る。
【0087】
そのような精製及び/又は単離の典型的な例は、タンパク質に対する抗体、又はタンパク質構造の一部として発現しているHisタグ若しくは切断可能なリーダー若しくはテイルに対する抗体を利用し得る。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるポリペプチドは、Hisタグを含んでおり、IMAC親和性精製などの方法によって精製される。ある特定の実施形態において、本明細書に記載されるポリペプチドは、Hisタグを含まず、そのような場合、精製は、クロマトグラフィー、例えば、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0088】
定義
「背景技術」において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用又は記載し、これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本発明のコンテキストを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0089】
別の定義がなされない限り、本明細書に使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で引用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によりあたかもその全体が本明細書に記載されているように組み込まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0090】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈上必要としない限り、「含む(comprise)」という用語並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、指定の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、任意のその他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外するものではないことを意味すると、理解されよう。本明細書に使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」又は「含む(including)」という用語に置き換えることができ、又は場合によって本明細書に使用される場合、「有する(having)」という用語に置き換えることもできる。
【0091】
本明細書に使用される場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書に使用される場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程は除外しない。本発明の態様又は実施形態に関連して本明細書に使用される場合、本開示の範囲を変化させるために、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び「有する」という上記用語のいずれかを、用語「からなる(consisting of)」又は「から本質的になる(consisting essentially of)」に置き換えることができる。
【0092】
本明細書に使用される場合、複数の列挙された要素間の「及び/又は」という接続的な用語は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしの第1の要素の適用性を指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細書に使用される場合、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。選択肢のうちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。
【0093】
本明細書に使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」は、本発明による組成物の有効性にも本発明による組成物の生物学的活性にも干渉しない非毒性性材料を指す。「薬学的に許容される担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入体、又は医薬製剤において使用するための当該技術分野において周知である他の材料を含み得る。薬学的に許容される担体の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう。特定の実施形態によれば、本開示を考慮して、ワクチンにおける使用に好適な任意の薬学的に許容される担体を本発明で使用することができる。好適な賦形剤としては、滅菌水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組み合わせ、並びに安定剤、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)又は他の好適なタンパク質及び還元糖が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本明細書に使用される場合、「有効量」という用語は、対象において所望される生物学的又は医薬的応答を誘起する活性成分又は構成成分の量を指す。有効量は、記載される目的に対して経験的及び日常的な方法で決定することができる。例えば、任意選択でインビトロアッセイを用いて、最適な用量範囲の特定に役立てることができる。
【0095】
本明細書に使用される場合、「対象」又は「患者」とは、本発明の実施形態による方法又は組成物によってワクチン接種される、又はワクチン接種された、任意の動物、好ましくは、哺乳動物、最も好ましくは、ヒトを意味する。本明細書に使用される場合、用語「哺乳動物」は、あらゆる哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル、ヒトなど、最も好ましくは、ヒトが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、対象は、ヒト成人である。本明細書に使用される場合、「ヒト成人」という用語は、18歳以上のヒトを指す。ある特定の実施形態において、対象は、18歳未満、例えば、0~18歳、例えば、9~18歳、又は12~18歳である。ある特定の実施形態において、対象は、約18~約50歳のヒト対象である。ある特定の実施形態において、対象は、約50~約100歳、例えば、50~85歳、60~80歳、50歳以上、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、80歳以上、85歳以上のヒトである。本明細書のいくつかの実施形態において、対象は、85歳以下、80歳以下、75歳以下である。ある特定の実施形態において、ヒト対象は、男性である。ある特定の実施形態において、ヒト対象は、女性である。
【0096】
本明細書に使用される場合、「UTI」は、腎臓、膀胱、尿管、又は尿道の感染症を意味する。UTIの症状は、排尿時の灼熱感、頻繁な又は激しい尿意、不完全な排尿、異常な外観及び/又は臭いを有する尿、尿中の白血球の上昇、疲労感又は震え、見当識障害、発熱又は悪寒、倦怠感、背中、下腹部、骨盤、又は膀胱における疼痛又は圧迫のうちの1つ以上を含み得る。しかしながら、一部の患者において、症状は、存在しないか、又は非特異的であり得る。UTIの続発症は、侵襲性疾患又は敗血症などの全身性合併症を含み得る。ある特定の実施形態において、UTIは、臨床的に及び/又は微生物学的に記録され、例えば、尿の細菌培養及び/又は分子若しくは他の方法で確認される。ある特定の実施形態において、対象は、UTIを以前に有していたか、又は現在有しているヒト対象である。ある特定の実施形態において、対象は、過去2年、過去1年、又は過去6カ月以内にUTIを有していた。ある特定の実施形態において、対象は、再発性UTI(rUTI)を有していたか、又は現在有している。本明細書に使用される場合、「rUTI」は、6ヶ月間に少なくとも2回の感染又は1年間に少なくとも3回のUTIを意味する。ある特定の実施形態において、FimH(F71mut)若しくはFimH(F71mut/F144mut)、本発明のFimCH複合体、本発明の融合ポリペプチド、又は本発明の組成物が投与される対象は、過去2年以内、過去1年以内、又は過去6ヶ月以内に、少なくとも2回UTIに罹患している。ある特定の実施形態において、対象は、合併型UTIに罹患している。本明細書に使用される場合、「合併型UTI」は、尿生殖路の構造的若しくは機能的異常又は基礎疾患の存在などの状態に関連するUTIを意味する。ある特定の実施形態において、UTIは、尿中の白血球数の上昇又は他の尿異常をもたらす。ある特定の実施形態において、UTIを有する対象は、尿中に多数の細菌を有し、すなわち、尿は無菌ではなく、例えば、少なくとも約10個の細胞/mL、少なくとも約100個の細胞/mL、少なくとも約103個の細胞/mL、例えば、少なくとも約104個の細胞/mL、例えば、少なくとも約105個の細胞/mLの細菌細胞数を有する。
【0097】
本明細書に使用される場合、抗原又は組成物に対する「免疫学的応答」又は「免疫応答」は、対象における、抗原又は組成物中に存在する抗原に対する体液性及び/又は細胞性免疫応答の発生を指す。
【0098】
別途記載のない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の全ての要素を指すと理解されるべきである。
【0099】
「約」又は「およそ」という語は、数値(例えば、約10)に関連して使用される場合、好ましくは、その値が、所与の値(10)の10%前後、好ましくは、その値の5%前後であり得ることを意味する。
【0100】
「相同性」、「配列同一性」などの用語は、本明細書において互換可能に使用される。配列同一性は、本明細書において、配列を比較することによって決定される、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド若しくはタンパク質)配列間又は2つ以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列間の関係として定義される。当該技術分野において、「同一性」はまた、場合によっては、そのような線状の配列間の一致によって決定されるような、アミノ酸又は核酸配列間の配列関連性の程度を意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存的アミノ酸置換物を、第2のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法によって容易に計算することができる。
【0101】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、グローバル又はローカルアライメントアルゴリズムを使用して、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列のアライメントによって決定することができる。同様の長さの配列は、好ましくは、全長にわたって配列を最適にアライメントするグローバルアライメントアルゴリズム(例えば、Needleman Wunsch)を使用してアライメントされ、一方で、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアライメントアルゴリズム(例えば、Smith Waterman)を使用してアライメントされる。次いで、配列は、それらが(例えば、デフォルトパラメーターを使用してプログラムGAP又はBESTFITによって最適にアライメントされる場合に)少なくともある特定の最小パーセンテージの配列同一性(以下に定義される)を共有する場合、「実質的に同一」又は「本質的に類似」と称され得る。GAPは、Needleman及びWunschグローバルアライメントアルゴリズムを使用して、2つの配列をそれらの長さ全体(全長)にわたってアライメントし、一致の数を最大化し、ギャップの数を最小化する。グローバルアライメントは、2つの配列が類似の長さを有する場合に、配列同一性を決定するために好適に使用される。概して、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ生成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)で使用される。ヌクレオチドについては、使用されるデフォルトスコア付けマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質については、デフォルトスコア付けマトリックスは、Blosum62である(Henikoff & Henikoff,1992,PNAS 89,915-919)。配列アライメント及び配列同一性パーセンテージのスコアは、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して、又はEmbossWINバージョン2.10.0におけるプログラム「needle」(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを使用)若しくは「water」(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを使用)などのオープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPと同じパラメーターを使用して、又はデフォルト設定(「needle」及び「water」の両方、並びにタンパク質及びDNAアライメントの両方について、デフォルトギャップ開始ペナルティは10.0であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは0.5である;デフォルトスコア付けマトリックスは、タンパク質についてはBlosum62であり、DNAについてはDNAFullである)を使用して、決定され得る。配列が実質的に異なる全長を有する場合、ローカルアライメント、例えば、Smith Watermanアルゴリズムを使用するものが、好ましい。
【0102】
あるいは、類似性又は同一性パーセンテージは、FASTA、BLASTなどのアルゴリズムを使用して、公開データベースを検索することによって決定されてもよい。したがって、本発明の核酸配列及びタンパク質配列は、更に、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列を同定するために、公開データベースに対する検索を実施するための「問い合わせ配列」として使用され得る。そのような検索は、Altschul,et al.,(1990,J.Mol.Biol,215:403-10)のBLASTn及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いてBLASTヌクレオチド検索を実行して、本発明の核酸分子に対して相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を実施して、本発明のタンパク質分子に対して相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付きアライメントを得るために、ギャップ付きBLASTを、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載されているように利用することができる。BLAST及びギャップ付きBLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、BLASTX及びBLASTn)のデフォルトパラメーターを使用してもよい。National Center for Biotechnology Informationのホームページ、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を参照されたい。
【0103】
配列の説明:
【0104】
【0105】
FimHポリペプチドの配列の他の例は、米国特許第6,737,063号、例えば、その中の配列番号23~45又は55のいずれか1つに記載されており、これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0106】
以下の本発明の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施例は本発明を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって定められる点を理解されたい。
【0107】
ワクチン有効性におけるFimH立体構造変化の影響を理解するために、膀胱の細菌接着及びコロニー形成を減少させることができる機能的抗体を誘導する改善されたFimHバリアントを同定することを目的として、タンパク質を低親和性状態に潜在的に固定することができる異なる変異を含むFimHのいくつかのバリアントを設計した。好適なFimHレクチンドメインバリアントを見出す機会を最適化するために、異なる予測された作用様式を有するバリアントを選択した。以前に記載されている変異体FimH_Q133K及びFimH_R60P、並びに野生型(WT)FimHを、対照として用いた。
【0108】
実施例1:阻害性抗体を誘導する能力
低親和性立体構造のFimHに対して生成された抗体は、細菌細胞を遮断し、膀胱内でのコロニー形成を減少させることができることが示されている。したがって、第1の工程として、本発明者らは、接着阻害アッセイ(AIA)を使用することによって、低親和性立体構造に固定されたFimHの異なるバリアントによって誘導される抗体の機能性を評価した。
【0109】
材料及び方法
FimHの設計及び発現
FimC及びFimHを、ペリプラズムにおける発現のための異種シグナル配列、及び固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)を使用した親和性精製のためのFimC上のC末端Hisタグを使用して、pET-DUET又はpET-22bベクターにおいて発現させた。IPTGを使用して発現を誘導し、タンパク質を抽出し、IMAC精製(Talon)を使用して精製した。
【0110】
免疫付与
ウィスターラットに、非フロイントアジュバント(Speedyラット28日モデル、Eurogentec)と組み合わせた異なるFimHバリアント(各バリアント60μg/用量)で、0日目、7日目、10日目、及び18日目に4回筋肉内(i.m.)免疫付与を行った。血清抗体の機能性を、0日目(免疫付与前)及び28日目(免疫付与後)に、以下に記載される接着阻害アッセイ(AIA)によって調べた。
【0111】
接着阻害アッセイ(AIA)
細菌(大腸菌株J96)を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した。標識した細菌を、膀胱尿路上皮細胞(5637細胞株)と共に37℃で1時間インキュベートした。接着細菌の%を、フローサイトメトリーによって測定した。血清阻害の評価のために、細菌を予め血清試料と共に37℃で30分間インキュベートし、次いで5637細胞と混合した。
【0112】
ELISA
96ウェルプレートを、1ug/mLのFimHで一晩コーティングした。洗浄後、コーティングしたウェルをブロッキング緩衝液[リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+2%ウシ血清アルブミン(BSA)]と共に室温で1時間インキュベートした。PBS+0.05%Tween 20で洗浄した後、血清を、プレートに添加し、次いで、これを室温で1時間インキュベートした。洗浄後、2%BSAを含むPBSで希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ラット抗体を、室温で1時間、各ウェルに添加した。最後の洗浄後、反応を、テトラメチルベンジジン基質で顕色させた。反応を、1Mリン酸で停止させ、吸光度を450nmで測定する。
【0113】
結果
血清抗体阻害力価を、4パラメーターのロジスティック(4PL)回帰モデルに基づいて最大半量阻害濃度(IC50)として計算した。更に、異なるFimHバリアントによって誘導された血清抗体(総IgG)のレベルをELISAによって評価した。最大半量有効濃度として定義されるIC50力価を、4PL非線形回帰モデルを用いて分析した二連の6ステップ滴定曲線に基づいて計算した。
【0114】
予備実験において、いくつかの異なるFimHバリアントを、阻害性抗体を誘導するそれらの能力について試験した。
図1Aにおいて見ることができるように、バリアントFimH(F71Y)、FimH(F144V)は、最も高いレベルの機能的抗体を誘導した。FimH(F144V)バリアントは、2020年1月16日にJanssen Pharmaceuticals,Incの名前で出願された欧州特許出願第20152217号に以前に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、FimH(F71Y)が同様に高レベルの阻害性抗体を誘導することは、驚くべきことであり、本発明以前には全く予測できなかった。
【0115】
予備結果を確認するために、AIAアッセイを多数の動物で繰り返し、この実験では、FimH(F71Y)及びFimH(F144V)の両方が高レベルの阻害性抗体を確実に誘導することができることが確認された(
図1B)。
【0116】
FimH(F71Y)及びFimH(F144V)バリアントは、結合ポケットの立体構造変化を誘導する異なる機序によって低親和性立体構造に固定されるとみられる。FimH(F71Y)バリアントにおける置換は、残基が疎水性ポケット(弛緩状態)に折り畳まれるのを防止し、緊張状態をより好ましいものとするが、FimH(F144V)バリアントでは、置換は、低親和性立体構造を安定化するマンノース結合ポケットの比較的近くに位置する。低親和性状態への立体構造変化は、これらの2つの異なる機序によってもたらされるため、本発明者らは、F71Y及びF144V置換の両方を含むレクチンドメインが、低親和性立体構造に更により安定して固定され得、それによってその種類のFimHバリアントに更なる利点を提供するであろうという仮説を立てた。この仮説を試験するために、本発明者らは、そのレクチンドメインにF71Y及びF144V置換の両方を含むFimH二重変異体(FimH(F71Y/F144V))を作製した。
図1Bにおいて見ることができるように、FimH(F71Y/F144V)は、高レベルの阻害性抗体を同様に誘導することができた。
【0117】
これらの結果に基づいて、FimH(F71Y)及びFimH(F71Y/F144V)を、リード候補として選択した。これらの特性を、以下に記載するように更に分析した。
【0118】
実施例2:新規バリアントの設計-SPRデータ
SPR
FimHレクチンドメインバリアントとn-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガンドとの相互作用の結合親和性及び動態に関する詳細な洞察を得るために、表面プラズモン共鳴(SPR)測定を行った。簡単に説明すると、FimHバリアントをマンノシドリガンド5表面に滴定し(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)、ここではHBS-N(0.01M HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20)中3又は10μMの最高濃度を用いた。タンパク質を、0.12~10μM又は0.036~3.0μMで、単一サイクル動態注入を使用して注入した。
【0119】
結果
以前に記載された変異体FimH_Q133K及びFimH_R60Pは、結合ポケット内のマンノース相互作用残基に変異を有する。これらの変異は、マンノースとの結合相互作用に直接的に影響を及ぼすと予測される。これらの変異体を、陽性対照とした。二重変異体R60P_Q133Kも用いて、潜在的に増強された作用について調べた。更に、野生型(WT)FimHレクチンドメインを、陰性対照として用いた。
【0120】
マンノースへの結合に対するバリアントの親和性を、SPRを使用して評価した。結果を、表2に示す。予想した通り、FimHのマンノシド結合ポケットに変異を有するレクチンドメインバリアント(Q133K及びR60P_Q133K)は、マンノシドに全く結合しなかった。R60P変異体は、予想した通り、マンノシドに対して低い親和性を示した。
【0121】
高レベルの阻害性抗体を誘導することができるにもかかわらず、F71Y置換を含むバリアントは、依然としてマンノシドに対していくらかの親和性を示し、この変異がマンノシドへの結合を完全には消失させなかったことを示した。F144V置換を含むFimHレクチンドメインバリアントでは、マンノシドへの結合は、完全に消失した(参照により本明細書に組み込まれる、2020年1月16日にJanssen Pharmaceuticals,Incの名前で出願された欧州特許出願第20152217号において、単一のF144V変異体について以前に開示されているように)。F71Y及びF144Vの両方を含む変異体では、マンノシドへの結合はまた、完全に消失した。
【0122】
【表2】
*低親和性K
D≧1000nM、中等度の親和性K
D100~1000nM、高親和性K
D≦100nM
【0123】
実施例3:特徴付けられた阻害性mAb475及び926に結合する能力
FimHのレクチンドメインにおける変異は、強力かつ機能的な免疫応答の誘発に重要なエピトープ、例えば、FimHの結合ポケットに存在するエピトープの喪失を引き起こし得る。結合ポケットの完全性が本明細書に記載の変異によって損なわれないことを確実にするために、モノクローナル抗体(mAb)mAb475及びmAb926の変異体FimHレクチンドメインへの結合を評価した。mAb475及びmAb926は、FimHのマンノース結合ポケット内のFimHレクチンドメイン上の重複するが異なるエピトープを認識する(Kisiela et al.2013&2015)。
【0124】
結果
変異型FimHレクチンドメインは、以前に国際公開第02102974号に記載されている。国際公開第02102974号は、ほとんどが特定されていない変異の可能な変異の広範なリストを記載している(65個の可能な変異部位が、およそ159アミノ酸長であるFimHのレクチンドメインにおいて示唆されている)。しかしながら、国際公開第02102974号は、54位、133位、又は135位にアミノ酸置換を有するFimHレクチンドメインが最も有望な候補であることを示しており、FimH_Q133Kが非常に好ましい選択肢として明示的に言及されている。したがって、FimH-23-10_Q133Kが、機能性mAb475によって認識されなかったことは非常に驚くべきことであり、結合ポケットの完全性の問題を示した(表3)。対照的に、FimH(F71Y)及びFimH(F144V)の両方が、mAb475及びmAb926の両方によって認識され、結合ポケットが完全に無傷のままであることを示した(表3)。また、FimH(F71Y/F144V)二重変異体は、依然として両方の抗体によって認識され、結合ポケットがまた、この二重変異体においても無傷のままであったことを示した(表3)。
【0125】
【0126】
実施例4:NMRによるFimHレクチンドメインバリアントの立体構造状態分析
15Nを成長培地に添加することにより方法の節に記載されるように生成した15Nで均一に標識したFimHLDバリアントの1H,15N異核単一量子コヒーレンス核磁気共鳴(HSQC NMR)スペクトルを、n-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガンドの不在下及び存在下で測定して、残基に基づくレベルでの構造的差異を評価した。タンパク質を、150μMに濃縮し、7%~10%のD2Oを含む20mMリン酸緩衝液、pH7.4中で測定した。n-ヘプチル-α-D-マンノピラノシドリガンドを、D2Oに溶解し、10倍モル過剰までタンパク質に段階的に添加した。それぞれの試料のスペクトルを、公けに入手可能な参照スペクトルと比較した(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)。
【0127】
結果
FimHバリアントFimH(F71Y)、FimH(F144V)、及びFimH(F71Y/F144V)を、マンノシドリガンドの存在下で低親和性立体構造のままとなるそれらの能力について分析した。リガンドの不在下では、3つ全てのバリアントは、高親和性状態を示すことが知られている残基の化学シフトを比較すると、低親和性立体構造にある(Rabbani S et al,J Biol.Chem.,2018,293(5):1835-1849)。対照的に、FimH
LD 23-10野生型は、マンノシドリガンドの不在下において、高親和性立体構造に固定される。しかしながら、リガンドの存在下では、FimH(F71Y)及びFimH(F144V)は、高親和性立体構造に切り替わって戻るが、FimH(F71Y/F144V)は低親和性立体構造のままであり、例えば、FimH(F71Y/F144V)へのリガンドの添加後に化学シフトは観察されない(
図2及び表4)。
【0128】
【0129】
K12野生型とは異なる2つの未知の残基は別として、FimHLD 23-10野生型は、リガンドなしで既に高親和性(H)立体構造にあると考えられる。単一変異体バリアントF71Y及びF144Vは、リガンドなしでは低親和性(L)立体構造にあるが、リガンドの存在下ではH立体構造に切り替わり、一方で、二重変異体バリアントF71Y/F144Vは、リガンドの存在下であってもL立体構造のままであった。この高親和性立体構造に戻るように切り替えることができないことにより、FimH(F71Y/F144V)は、ワクチンの医薬組成物において使用するのに特に有望なものとなり、これは、例えば、保管中及び他の保管条件下において立体構造が安定であるかどうかを試験するための追加の品質又は安定性管理を必要としないことが確実であるためである。更に、高親和性立体構造に戻るように切り替えることができないことにより、FimH(F71Y/F144V)を研究ツールとして使用して、作用機序を研究すること、又は立体構造に関する知識を得ることが可能となり、これにより、FimH(F71Y/F144V)を使用して、有用な研究、診断、及び場合により薬学的用途を有する特異的抗体を生成することが可能になる。
【0130】
したがって、結論として、試験した全てのFimHバリアントのうち、FimH(F71Y)、FimH(F144V)、及びFimH(F71Y/F144V)は、FimHの結合ポケットを無傷に保ちながら、最高レベルの機能的阻害性抗体を誘導することができる。FimH(F71Y/F144V)は、マンノシドへの結合を完全に消失させ、リガンドの存在下であっても低親和性立体構造に固定されたままとなるという更なる利点を有する。
本発明によれば、以下の態様を提供し得る。
[1]
配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)又はトリプトファン(W)を含むFimHレクチンドメインを含む、ポリペプチド。
[2]
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の71位に対応する位置にチロシン(Y)を含む、上記[1]に記載のポリペプチド。
[3]
配列番号1のアミノ酸配列の144位に対応する位置にフェニルアラニン(F)以外のアミノ酸を更に含む、上記[1]又は[2]に記載のポリペプチド。
[4]
前記ポリペプチドが、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、グリシン(G)、メチオニン(M)、及びアラニン(A)からなる群から選択されるアミノ酸を含む、上記[3]に記載のポリペプチド。
[5]
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1の144位に対応する位置にバリン(V)を含む、上記[3]又は[4]に記載のポリペプチド。
[6]
前記FimHレクチンドメインが、配列番号1との少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、好ましくは、前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって置換されている配列番号1を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリペプチド。
[7]
前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって置換され、144位のフェニルアラニン残基がバリンによって置換されている配列番号1を含む、上記[6]に記載のポリペプチド。
[8]
前記ポリペプチドが、FimHピリンドメインを更に含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリペプチド。
[9]
前記ポリペプチドが、配列番号2との少なくとも90%の配列同一性を有する全長FimHであり、好ましくは、前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって置換されている配列番号2を含み、より好ましくは、前記FimHレクチンドメインが、71位のフェニルアラニン残基がチロシンによって置換され、144位のフェニルアラニン残基がバリンによって置換されている配列番号2を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載のポリペプチド。
[10]
上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
[11]
上記[10]に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[12]
上記[10]に記載のポリヌクレオチド又は上記[11]に記載のベクターを含む、組換え宿主細胞。
[13]
上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリペプチド、上記[10]に記載のポリヌクレオチド、又は上記[11]に記載のベクターを含む、医薬組成物。
[14]
好ましくは、大腸菌(E. coli)又はクレブシエラ(Klebsiella)であり、好ましくは大腸菌である腸内細菌(Enterobacteriaceae)科の細菌に対する免疫応答の誘導に使用するための、上記[1]~[9]に記載のポリペプチド、上記[10]に記載のポリヌクレオチド、上記[11]に記載のベクター、又は上記[12]に記載の医薬組成物。
[15]
対象における大腸菌によって引き起こされる尿路感染症の予防又は治療において使用するための、上記[1]~[9]に記載のポリペプチド、上記[10]に記載のポリヌクレオチド、上記[11]に記載のベクター、又は上記[12]に記載の医薬組成物。
[16]
FimHレクチンドメインを含むポリペプチドを産生するための方法であって、前記ポリペプチドを、上記[10]に記載のポリヌクレオチド及び/又は上記[11]に記載のベクターを含む組換え細胞から発現させることを含み、任意選択で、前記ポリペプチドを回収及び精製することであって、これに、任意選択で前記ポリペプチドの医薬組成物への製剤化が続く、ことを更に含む、方法。