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特許7532673電荷キャリア分布が改善されるVピット強化コンポーネント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】電荷キャリア分布が改善されるVピット強化コンポーネント
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20240805BHJP
   H01L 33/20 20100101ALI20240805BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240805BHJP
【FI】
H01L33/14
H01L33/20
H01L33/32
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023542948
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2021053858
(87)【国際公開番号】W WO2022174892
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン シアオチュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ヘン
(72)【発明者】
【氏名】ナ ジョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス-イグレシアス アルバロ
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0083160(US,A1)
【文献】特開2010-040838(JP,A)
【文献】特開2013-012684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p側半導体層(1)、n側半導体層(2)、及びそれらの間にある活性領域(3)を備える半導体層列(20)を有するコンポーネント(10)であって、
-前記活性領域(3)が、複数の量子障壁層(32)及び量子井戸層(31)を備える多重量子井戸構造を有し、前記量子障壁層(32)と前記量子井戸層(31)とが垂直方向に沿って交互に配置されており、
-前記活性領域(3)が、前記活性領域(3)の主表面(30)に対して斜めに延びるファセット(41)を有する少なくとも1つの凹部(4)を備え、前記凹部(4)が前記p側半導体層(1)に向かって開いており、
-少なくとも前記凹部(4)内で、前記量子障壁層(32)が、nドープされており、一定でないドーピングプロファイル(DP)を有していて、その結果、前記コンポーネント(10)の動作中に、前記n側半導体層(2)から前記p側半導体層(1)に向かって、負に帯電した電荷キャリアの輸送が、前記一定でないドーピングプロファイル(DP)によって増加し、
-前記量子障壁層(32)は、p側量子障壁層(32p)とn側量子障壁層(32n)とに分けられ、
-最大で10%の製造公差まで、前記p側量子障壁層(32p)は同じドーパント濃度を有し、前記p側量子障壁層(32p)の1つは、全ての量子障壁層(32)の中で最も高いドーパント濃度を有しており、
-前記p側量子障壁層(32p)は、前記p側半導体層(1)と前記n側量子障壁層(32n)との間にあり、
-全てのn側量子障壁層(32n)は、前記p側量子障壁層(32p)よりも低いドーパント濃度を有し、
-前記多重量子井戸構造内の全ての量子障壁層(32)の少なくとも10%、及び最大で70%が、n側量子障壁層(32n)であり、
-前記n側半導体層(2)から前記p側半導体層(1)に向かって、前記n側量子障壁層(32)のドーパント濃度が徐々に増加する、前記コンポーネント(10)。
【請求項2】
-前記活性領域(3)が、前記活性領域(3)の前記主表面(30)に対して斜めに延びるファセット(41)を有する複数の凹部(4)を備え、前記凹部(4)が前記p側半導体層(1)に向かって開いており、
-前記複数の凹部(4)のそれぞれで、前記量子障壁層(32)が、nドープされており、前記一定でないドーピングプロファイル(DP)を有している、請求項1に記載のコンポーネント(10)。
【請求項3】
-前記量子障壁層(32)は複数のサブグループに分けられ、
-最大で10%の製造公差まで、同じサブグループの前記量子障壁層(32)は同じドーパント濃度を有し、
-異なるサブグループの前記量子障壁層(32)は、異なるドーパント濃度を有する、請求項1に記載のコンポーネント(10)。
【請求項4】
前記量子障壁層(32)の各サブグループは平均ドーパント濃度を有し、前記n側半導体層(2)から前記p側半導体層(1)に向かって、異なるサブグループの平均ドーパント濃度は徐々に増加する、請求項3に記載のコンポーネント(10)。
【請求項5】
-前記多重量子井戸構造における前記一定でないドーピングプロファイル(DP)には、前記n側量子障壁層(32n)の異なるドーパント濃度が反映される、請求項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項6】
前記n側量子障壁層(32n)の少なくとも1つまたは少なくとも1つの第1のサブグループは、全ての量子障壁層(32)の中で最も低いドーパント濃度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項7】
前記多重量子井戸構造内の全ての量子障壁層(32)の少なくとも10%、及び最大で50%が、n側量子障壁層(32n)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項8】
前記多重量子井戸構造内の全ての量子障壁層(32)の少なくとも10%、及び最大で30%が、n側量子障壁層(32n)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項9】
-前記n側半導体層(2)から前記p側半導体層(1)に向かって、前記量子障壁層(32)のドーパント濃度は、個別に、またはグループで、徐々に増加し、
-異なる量子障壁層(32)または量子障壁層の異なるサブグループは、異なるドーパント濃度を有する、請求項1に記載のコンポーネント(10)。
【請求項10】
前記凹部(4)の外側でも、前記量子障壁層(32)はnドープされており、前記一定でないドーピングプロファイルを示す、請求項1~のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項11】
前記半導体層列(20)または前記活性領域()は、InGaN/GaN構造をベースとする、請求項1~のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【請求項12】
前記量子障壁層(32)は、Siでドープされる、請求項1~のいずれか1項に記載のコンポーネント(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電荷キャリア分布が均一化され、発光再結合率が増加する上に、外部量子効率が増加する半導体コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
p側半導体層とn側半導体層との間に多重量子井戸(MQW)構造を配置して活性領域を構成する光電子コンポーネントでは、活性領域内の電荷キャリアがMQW構造全体にわたって均一に分布しない可能性があることが知られている。それによって、通常は、そのような光電子コンポーネントの効率損失がもたらされる。活性領域にV字型のピラミッド型ピット、つまりVピットがある状態では、正に帯電した電荷キャリアの輸送、つまり正孔輸送は、Vピットの側壁を介してMQW構造の異なる量子井戸層(QW)に注入されることによって、向上させることができる。Vピット注入により、より深い量子井戸層への正孔輸送が改善されたとしても、正孔移動度が低いため、正孔は依然としてMQW構造全体に均一に分布しない。
【0003】
これまで、MQW構造内の正孔分布を改善するために、温度やMgドーピングプロファイルなどのp側成長条件を最適化すること、または正孔注入を促進する電子ブロック層の設計を最適化することによる多くの取り組みが行われてきた。しかしながら、これらの方法は、例えば、活性領域へのMgの拡散によって影響を受けるESD耐久性またはESD堅牢性などのコンポーネントの他のコンポーネント特性との相互作用のため、非常に複雑である。また、特にVピット内の層厚さ及びMgドーピングレベルを容易に特徴付けることができないため、コンポーネントの大量生産における再現性の点でも非常に複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1つの目的は、効率が向上したコンポーネント、特に電荷キャリア分布が改善されたVピット強化コンポーネントを特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、独立請求項に記載のコンポーネントによって解決される。本コンポーネントのさらなる実施形態及びさらなる発展形態は、さらなる請求項の主題である。
【0006】
コンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、コンポーネントは、活性領域を含む半導体層列を有する。活性領域は、可視、紫外、または赤外スペクトル範囲の電磁放射を生成するように特に構成されている。例えば、活性領域は、複数の量子障壁層と複数の量子井戸層とを有する多重量子井戸構造を有し、量子障壁層と量子井戸層とは垂直方向に沿って交互に配置される。したがって、多重量子井戸構造内及び周囲の量子層まで、任意の量子井戸層がその2つの隣接する量子障壁層の間に挟まれ得、任意の量子障壁層がその2つの隣接する量子井戸層の間に挟まれ得る。
【0007】
垂直方向とは、活性領域の主表面または半導体層列の主表面に対して特に垂直な方向を意味すると理解される。とりわけ、垂直方向は、コンポーネントのエピタキシャル成長した半導体層列の成長方向に平行である。横方向とは、活性ゾーンの主表面または半導体層列の主表面に平行に延びる方向を意味すると理解される。垂直方向と横方向とは互いに垂直である。
【0008】
活性領域は、コンポーネントのp側とn側との間、例えば、半導体層列のp導電型、すなわちp側半導体層と、半導体層列のn導電型、すなわちn側半導体層との間にある。半導体層列は、特に、III-V族化合物半導体材料をベースとしている。半導体層列は、化学元素周期表の第3主族からの少なくとも1つまたは複数の元素と第5主族からの少なくとも1つまたは複数の元素とを有するIII-V族化合物半導体材料をベースとしている。さらに、半導体層列がII-VI族化合物半導体材料をベースとすることも可能である。例えば、コンポーネントは、発光ダイオード(LED)などの光電子コンポーネントである。
【0009】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数の凹部が、p側に面する活性領域の領域、すなわちp側半導体層の側に形成される。コンポーネントのp側からn側に向かう方向に、凹部の横断面は減少する。断面図では、凹部は例えばV字形である。例えば、凹部は、例えば六角形の横断面及び6つのファセットを含む逆ピラミッド、逆角錐台、逆円錐、または円錐台の形状を有する。1つまたは複数の凹部は、1つまたは複数のVピットによって形成することができる。半導体層列におけるそのようなVピットは、エピタキシプロセスにおける成長速度、エピタキシ反応器内の温度または圧力、及び/またはドーパントの種類及び濃度などの適切な成長パラメータ及び/または、例えば、半導体層列の個々の層におけるIII-VまたはII-VIの材料比に関する材料組成を調整することによって生成することができる。
【0010】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、活性領域は、半導体層列のc面と実質的に平行に延びる主表面を有する。特に、活性領域の主表面はc面である。c面、すなわち(0001)面は、c方向を有する、すなわち<0001>結晶方位を有する結晶面を意味すると理解される。半導体層列は、基板、具体的には成長用基板の前面にエピタキシャルに被着させることができる。例えば、成長用基板の前面はc面である。半導体層列の層がC面である基板の前面上にエピタキシャルに堆積される場合、半導体層列の各層は一般に<0001>配向を示す。したがって、半導体層列の層は、主表面として、c面、すなわち(0001)面を有することができる。
【0011】
コンポーネントの少なくとも1つの実施形態では、これは、p側半導体層、n側半導体層、及びそれらの間にある活性領域を備える半導体層列を有する。活性領域は、複数の量子障壁層及び量子井戸層を備える多重量子井戸構造を有し、量子障壁層と量子井戸層とは垂直方向に沿って交互に配置される。活性領域は、活性領域の主表面に対して斜めに延びるファセットを有する少なくとも1つの凹部を備え、凹部はp側半導体層に向かって開いており、少なくとも凹部内で、量子障壁層が、nドープされており、一定でないドーピングプロファイルを有していて、コンポーネントの動作中に、n側半導体層からp側半導体層に向かって、負に帯電した電荷キャリアの輸送が、一定でないドーピングプロファイルによって増加するようにする。
【0012】
特に、量子障壁層は、例えばSiでnドープされる。本開示では、明示的に別段の記載がない限り、ドーパント濃度はn型ドーパント濃度を指すものとする。量子障壁層が高いドーパント濃度、例えば高いSiドーパント濃度を有する場合、この量子障壁層に隣接する量子井戸層への負に帯電した電荷キャリアの注入は、より低いドーパント濃度を有する量子障壁層の場合よりも難しくなくなる。したがって、低いドーパント濃度から始めて、p側半導体層に向かって垂直方向に沿ってドーパント濃度を徐々に増加させることにより、負に帯電した電荷キャリアは、全ての量子障壁層が一定の高いドーパント濃度を有する場合と比較して効果的に減速される。ドーパント濃度が低い領域からドーパント濃度が高い領域に移動すると、負に帯電した電荷キャリアの輸送が増加する。換言すれば、n側半導体層からp側半導体層に向かって、負に帯電した電荷キャリアは、一定でないドーピングプロファイルによって移動度が増加する。
【0013】
したがって、ドーピングプロファイルが一定でないnドープ量子障壁層を使用すると、p側半導体層から注入された十分な量の正に帯電した電荷キャリアが、n側半導体層に近い量子井戸層に到達して、光子の放出下で、負に帯電した電荷キャリアと再結合するのに、十分な時間がかかるようになるので、n側半導体層に近い量子井戸層での発光再結合率が増加する。
【0014】
したがって、一定のドーピングプロファイルを使用するのではなく、一定でないドーピングプロファイルを使用することによって、p側半導体層からの正に帯電した電荷キャリア、及びn側半導体層からの負に帯電した電荷キャリアが、活性領域内で非常に均一に分布するので、コンポーネントの効率を向上させることができる。この場合、電荷キャリア密度に関しては、一定でないドーピングプロファイルにより、活性領域の多重量子井戸構造全体における比較的より少ない移動正孔と、より多くの移動電子との間のバランスが改善されるという結果になる。
【0015】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、n側半導体層からp側半導体層に向かって、量子障壁層のドーパント濃度は徐々に増加する。
【0016】
量子障壁層のドーパント濃度が徐々に増加する場合、それは必ずしも垂直方向に沿ってドーパント濃度が厳密に単調にまたは連続的に増加する必要があることを意味するわけではない。むしろ、ドーパント濃度の増加または増大は、段階的または不連続、すなわち急上昇であってもよい。さらに、例えば最大で10%、7%、5%、3%または1%など、いくらかの変動を引き起こすいくつかの製造公差までは、ドーパント濃度は再び大きく増加する前にわずかに減少する可能性がある。ここで本開示では、特にパーセンテージで与えられる差は、被減数を指す。量子障壁層のドーパント濃度が徐々に増加する場合、活性領域内の量子障壁層の垂直位置に関してドーパント濃度の値を記述する図において、特に曲線適合が増加する。ドーパント濃度とは対照的に、曲線適合は厳密に単調に増加する可能性がある。
【0017】
一定のドーピングプロファイルを有する量子障壁層の場合と比較すると、活性領域全体にわたって、負に帯電した電荷キャリア(電子)の移動度が実質的に一定となるが、一定でないドーピングプロファイルを有する量子障壁層の場合、負に帯電した電荷キャリアは、異なる量子障壁層で異なる輸送特性を持つ。特に、電子がn側半導体層から活性領域に注入されるとき、n側半導体層に近い量子障壁層内のドーパント濃度が低いため、電子は、最初は、移動度が低い、または輸送が少ない。n側半導体層からの距離が増すにつれて、量子障壁層のドーパント濃度が増加し、その結果、電子の移動度または輸送が増加する。したがって、光子の放出下での発光再結合は、活性領域の全ての量子井戸層全体にわたってより均一に発生する可能性がある。
【0018】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、活性領域は、活性領域の主表面に対して斜めに延びるファセットを有する複数の凹部を備え、凹部はp側半導体層に向かって開いている。凹部は、例えばVピットとして形成される。具体的には、複数の凹部のそれぞれにおいて、量子障壁層は、nドープされており、一定でないドーピングプロファイル、例えば本開示で説明する一定でないドーピングプロファイルのいずれかを有している。例えば、製造公差まで、量子障壁層は、異なる凹部で同じ一定でないドーピングプロファイルを有する。
【0019】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、量子障壁層は複数のサブグループに分けられる。例えば最大で10%、7%、5%、3%、または最大で1%の製造公差まで、同じサブグループの量子障壁層は同じドーパント濃度を有することができる。また一方、異なるサブグループの量子障壁層は、異なるドーパント濃度を有することができる。
【0020】
例えば、異なるサブグループのドーパント濃度または平均ドーパント濃度は、互いに少なくとも3%、5%、7%、10%、15%、20%、または少なくとも25%だけ異なり、例えば3%以上35%以下、3%以上30%以下、3%以上25%以下、3%以上20%以下、3%以上15%以下、3%以上15%以下、または3%以上10%以下の範囲で異なる。とりわけ、n側半導体層までの垂直距離がより大きいサブグループの量子障壁層は、n側半導体層までの垂直距離がより短いサブグループの量子障壁層よりもドーパント濃度が高い。
【0021】
例えば、各サブグループは、少なくとも2、3、5または7の量子障壁層、例えば2以上10以下、例えば2以上5以下の量子障壁層を含むことがある。いくつかのサブグループの量子障壁層の数が10を超えること、またはいくつかの特殊な場合ではちょうど1であることも可能である。1つのサブグループの量子障壁層の数が1を超える場合、このサブグループのドーパント濃度の増加または増大は、サブグループの量子障壁層ごとに個別に発生するのではなく、グループで発生する可能性がある。
【0022】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、量子障壁層の各サブグループは平均ドーパント濃度を有し、n側半導体層からp側半導体層に向かって、異なるサブグループの平均ドーパント濃度は徐々に増加する。換言すれば、n側半導体層までの垂直距離がより大きいサブグループの量子障壁層の平均ドーパント濃度は、n側半導体層までの垂直距離がより小さいサブグループの量子障壁層の平均ドーパント濃度よりも大きい。
【0023】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、量子障壁層は、p側量子障壁層とn側量子障壁層とに分けられる。例えば最大で10%、7%、5%、3%、または最大で1%の製造公差まで、p側量子障壁層は同じドーパント濃度を有することができる。特に、p側量子障壁層のうちの1つは、例えば活性領域全体において、全ての量子障壁層の中で最も高いドーパント濃度を有する。活性領域の外側では、本コンポーネントの半導体層列は、より高いドーパント濃度を有することがある正孔障壁構造などの障壁構造を備えることが可能である。通常、超格子構造の形態を有する、そのような障壁構造は、本コンポーネントの活性領域内の量子障壁層として考慮されないものとする。p側量子障壁層は、p側半導体層とn側量子障壁層との間にあり、全てのn側量子障壁層は、p側量子障壁層よりも低いドーパント濃度を有し得る。
【0024】
例えば、多重量子井戸構造における一定でないドーピングプロファイルには、製造公差まではp側量子障壁層が一定のドーピングプロファイルを持つと見なされ得るので、p側量子障壁層のドーパント濃度が反映されないか、または実質的に反映されない。p側量子障壁層は、特に、実質的に同じドーパント濃度を有し、全ての量子障壁層の中で、n側半導体層から最も離れている量子障壁層のグループによって画定される。残りの全ての量子障壁層は、p側量子障壁層と比較して、n側半導体層の近くに位置しており、n側量子障壁層と見なすことができる。
【0025】
p側量子障壁層の最高ドーパント濃度または平均ドーパント濃度は、全ての量子障壁層の基準ドーパント濃度(Ref)を形成することができる。このような基準ドーパント濃度を定義することによって、各量子障壁層のドーパント濃度、または量子障壁層のサブグループの平均ドーパント濃度を、この基準ドーパント濃度に対する比率で表すことができる。多重量子井戸構造の量子障壁層のドーパント濃度は、1E+17~5E+19原子/cm、例えば5E+17~5E+19原子/cm、または5E+17~1E+19原子/cmの間で変動し得る。p側量子障壁層の最高ドーパント濃度または平均ドーパント濃度、すなわち基準ドーパント濃度は、1E+18~5E+19原子/cm、例えば5E+18~5E+19原子/cm、または5E+18~1E+19原子/cmであり得る。
【0026】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、p側量子障壁層は、量子障壁層の基準ドーパント濃度Refを形成する平均ドーパント濃度を有し、ここで、各p側量子障壁層のドーパント濃度は、基準ドーパント濃度Refとは、最大で10%、7%、5%、3%だけ、または最大で1%だけ異なる。特に、全てのn側量子障壁層の平均ドーパント濃度は、0.3Ref以上0.8Ref以下、例えば0.3Ref以上0.7Ref以下、0.3Ref以上0.6Ref以下、または0.3Ref以上0.5Ref以下である。
【0027】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、多重量子井戸構造における一定でないドーピングプロファイルには、n側量子障壁層の異なるドーパント濃度が反映される。具体的には、n側半導体層からp側半導体層に向かって、n側量子障壁層のドーパント濃度は徐々に増加する。例えば最大で10%、7%、5%、3%、または最大で1%の製造公差まで、n側量子障壁層のドーパント濃度を、ゼロ、0.1Ref、0.2Ref、0.3Refから、0.6Ref、0.7Ref、0.8Ref、0.9Ref、0.95Refまで、またはさらにはRefまで増加させることができる。
【0028】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、n側量子障壁層の少なくとも1つまたは少なくとも1つの第1のサブグループは、全ての量子障壁層の中で最も低いドーパント濃度を有する。例えば、n側量子障壁層の第1のサブグループは、全てのサブグループの中で最も低い平均ドーパント濃度を有する。
【0029】
最低ドーパント濃度は、0.1Ref~0.8Ref、0.2Ref~0.8Ref、0.3Ref~0.8Ref、0.4Ref~0.8Ref、0.5Ref~0.8Ref、もしくは0.6Ref~0.8Refの間、または例えば0.3Ref~0.7Ref、もしくは0.4Ref~0.6Refの間であり得る。特に、全ての量子障壁層のうち、ドーパント濃度が最も低いn側量子障壁層、またはn側量子障壁層の第1のサブグループが、n側半導体層の最も近くに位置する。
【0030】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、多重量子井戸構造内の全量子障壁層の少なくとも10%、及び最大で90%がn側量子障壁層である。この場合、多重量子井戸構造における一定でないドーピングプロファイルは、例えば量子障壁層のわずか10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%のドーパント濃度によって実質的に記述される。多重量子井戸構造の一定でないドーピングプロファイルが、全量子障壁層の最大で70%、80%のドーパント濃度、または最大で90%のドーパント濃度によって実質的に記述される場合、活性ゾーンのこの一定でないドーピングプロファイルは、量子障壁層の部分的に「チャープされた」nドーピングのケースと呼ばれ得る。それ以外は、多重量子井戸構造の一定でないドーピングプロファイルが、全量子障壁層の70%、80%を超えるドーパント濃度、または90%を超えるドーパント濃度によって実質的に記述される場合、活性ゾーンのこの一定でないドーピングプロファイルは、量子障壁層の完全に「チャープされた」nドーピングのケースと呼ばれ得る。
【0031】
多重量子井戸構造内の全量子障壁層の少なくとも10%、及び最大で70%が、n側量子障壁層であることが可能である。多重量子井戸構造内の全量子障壁層の少なくとも10%、及び最大で50%、または最大で40%が、n側量子障壁層であることも可能である。さらに、多重量子井戸構造内の全量子障壁層の少なくとも10%、及び最大で30%、または最大で20%が、n側量子障壁層であることも可能である。
【0032】
n側半導体層の近くに位置する最下位量子井戸層での発光再結合に関する重大なプラスの効果が、量子障壁層内に部分的にチャープされたnドーピング、具体的には前に10%または20%だけチャープされたnドーピングの場合のシミュレーション及び実験によって観察されている。これらの効果は、より高いチャープnドーピングによってさらに増加し、その結果、内部量子効率が向上し、ひいてはコンポーネントの効率が向上する。
【0033】
このコンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、n側半導体層からp側半導体層に向かって、量子障壁層のドーパント濃度は、個別に、またはグループで、徐々に増加する。ここで、異なる量子障壁層、または量子障壁層の異なるサブグループは、異なるドーパント濃度を有する。このケースは、活性領域の量子障壁層に完全にまたは完璧に「チャープされた」nドーピングのケースと呼ばれることがある。このケースでは、一定でないドーピングプロファイルは、全ての量子障壁層によって記述される。p側量子障壁層の数は、1つに減らすことができ、あるいは、例えば、p側量子障壁層の総数の30%、20%、10%、5%未満、または3%未満にすることができる。
【0034】
ここで、特に完全にまたは完璧にチャープされたドーピングのケースでは、量子障壁層に隣接する任意の2つのドーパント濃度、または任意の2つの隣接サブグループのドーパント濃度は、互いに少なくとも2%、3%、5%、7%、10%、15%、20%、または少なくとも25%だけ異なり、例えば、2%以上35%以下、2%以上25%以下、2%以上20%以下、2%以上15%以下、2%以上10%以下、2%以上7%以下、または2%以上5%以下の範囲で異なり得る。チャープドーピングの全てのケースにおいて、量子障壁層の数または量子井戸層の数は、5以上50以下、5以上40以下、5以上30以下、好ましくは5以上20以下、または5以上15以下にすることができる。例えば、量子障壁層の数または量子井戸層の数は、少なくとも5、10、15、または少なくとも20である。
【0035】
コンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、凹部の外側でも、量子障壁層はnドープされており、一定でないドーピングプロファイルを示す。特に、凹部内の一定でないドーピングプロファイルと、凹部の外側の一定でないドーピングプロファイルとは、同じ傾向を有する。製造公差まで、1つまたは複数の凹部の内側及び外側の量子障壁層は、同じ一定でないドーピングプロファイルを有することができる。
【0036】
コンポーネントの少なくとも1つの実施形態によれば、半導体層列または活性領域は、InGaN/GaN構造をベースとする。特に、量子障壁層は、Siでドープされる。ここで、一般に、本開示は、Siドープ量子障壁層を有するInGaN/GaN構造のケースにのみ限定されるものではないことを強調しておく。むしろ、半導体層列または活性領域は、別のIII-VまたはII-VI化合物半導体材料をベースとしていてもよく、量子障壁層は、他の適切なドーパントを有していてもよい。
【0037】
このコンポーネントのさらなる利点、好ましい実施形態、及びさらなる発展形態は、図1A図4に関連して以下に説明される例示的な実施形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A】少なくとも1つのVピットを有するコンポーネントの例の概略図を示す。
図1B】コンポーネントの比較例の概略図と、異なる量子井戸層における異なる発光再結合率に関するいくつかの実験結果とを示す。
図2A】コンポーネントの例示的実施形態の概略図を示す。
図2B】コンポーネントの比較例とコンポーネントの例示的実施形態とのいくつかの比較の概略図を示す。
図2C】コンポーネントの比較例とコンポーネントの例示的実施形態とのいくつかの比較の概略図を示す。
図2D】コンポーネントの比較例とコンポーネントの例示的実施形態とのいくつかの比較の概略図を示す。
図3】コンポーネントの別の例示的実施形態の概略図を示す。
図4】一定のドーピングプロファイルを有するコンポーネントと、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネントとの比較に関するいくつかの計算結果及び実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
同一要素、等価要素または同等に作用する要素は、図中では同じ参照番号で示されている。図は概略図であるため、必ずしも縮尺どおりではない。比較的小さな要素、具体的に層厚さは、より明確にする目的で、むしろ誇張して大きく示される場合がある。
【0040】
図1Aは、半導体層列20がその上に配置されたキャリア8を有するコンポーネント10を示す。キャリア8は、半導体層列20がその上にエピタキシャルに成長した成長用基板であってもよい。半導体層列20は、p側半導体層1とn側半導体層2との間に配置された活性領域3を有する。とりわけ、活性領域3は、コンポーネント10の動作中に電磁放射を生成するように構成されている。
【0041】
具体的には、キャリア8は、半導体層列20をエピタキシャル成長させるc面である主表面を有する成長用基板である。活性領域3は、活性領域3の主表面30に対して斜めに延びるファセット41を有する少なくとも1つの凹部4を備え、凹部4はp側半導体層1に向かって開いている。活性領域3は、複数のそのような凹部を有することがある。特に1つの凹部4の外側、または複数の凹部4の外側では、活性領域3は、p側半導体層1に面する主表面30を有する。主表面30は、c面であってもよい。
【0042】
活性領域3は、複数の量子井戸層31と量子障壁層32とが交互に重なる多重量子井戸構造を有する。量子井戸層31の数は、少なくとも5であり、例えば5以上50以下、例えば5以上30以下、例えば13である。量子井戸層31及び量子障壁層32は、III-V族化合物半導体材料、例えば、それぞれInGaN及びGaNをベースとすることができる。コンポーネント10の動作中、正に帯電した電荷キャリアp、すなわちp側半導体層1からの正孔、及び負に帯電した電荷キャリアe、すなわちn側半導体層2の方向からの電子が、活性層3に注入されて放射線を発生させる。
【0043】
さらなる半導体層72は、キャリア8とn側半導体層2との間に配置される。このさらなる半導体層72は、正孔障壁構造、遷移層、コンタクト層、またはそれらの組み合わせとして形成され得る。
【0044】
p側半導体層1は、活性領域3と上部半導体層71との間に配置される。半導体層71は、コンタクト層として、またはコンポーネント10の最上層として形成され得る。コンポーネント10は、例えば活性領域3と半導体層71との間、または活性領域3とp側半導体層1との間に配置される電子障壁構造5(図1Aには示されていないが、例えば図1Bを参照)を備えることが可能である。図1Bに示すように、電子障壁構造5は、製造公差内で、例えば少なくとも所々で1つまたは複数の凹部のファセット41に対してコンフォーマルに延びる。凹部4の外側では、障壁構造5は、その主面としてc面を有することができる。凹部4の領域では、活性領域3と同様に、障壁構造5は、c面の配向とは異なる配向のファセットを有する。
【0045】
1つまたは複数の凹部4がある状態では、p側半導体層1が1つまたは複数の凹部4内に延在するので、正に帯電した電荷キャリアpがより効率的に活性領域3に、具体的には1つまたは複数の凹部4のファセット41を介して様々な量子井戸層31に注入され、正に帯電した電荷キャリアpが垂直方向に沿ってだけでなく横方向にも沿って、異なる垂直レベルで様々な量子井戸層31に注入され、そこで負に帯電した電荷キャリアeと再結合することが達成され得る。特に、ファセット41上の層厚さの減少のため、下側、すなわちn側の量子井戸層31からp側半導体層1までの空間距離は、例えば、凹部41の外側でp側半導体層1の他の領域と比べると、効果的に低減されている。
【0046】
しかしながら、図1Bに概略的に示すように、例えば13個の量子井戸層31と、一定のまたは実質的にドーピングプロファイルを有する量子障壁層32とを有する活性領域13の場合、色別の実験では、特に、最下位のn側量子井戸層31(特に、第1の量子井戸層31及び第2の量子井戸層31を参照)、または最上位のp側量子井戸層31(特に、第12の量子井戸層31及び第13の量子井戸層31を参照)で、異なる色C1、C2、C3、C4、及びC5の発光再結合率は低いままであることが判明している。
【0047】
特に、第1の量子井戸層31及び第2の量子井戸層31、同様に第3の量子井戸層31では、MQW構造内の正に帯電した電荷キャリアpの不均等な分布のため、低い発光再結合率しか達成できない。より具体的には、正孔濃度は、中間の量子井戸層から、n側近くのより深い量子井戸層またはより下部の量子井戸層に向かって大幅に減少する。これは、中間の量子井戸層での発光再結合率が異常に高いためである。異なる色に対して、最も高い発光再結合率は、第4の量子井戸層31から第11の量子井戸層31で得られる。したがって、n側に近い最も深い3つの量子井戸層31は、そこでの低い正孔濃度の影響を大きく受ける。また、p側に近い最上位の2つの量子井戸層31、すなわち第1のp側量子井戸層31pとその隣の量子井戸層31とは、MQW構造における電荷キャリアの不均等な分布の影響を受ける。それによって、いわゆるオージェ効果によって引き起こされる強いドループ効果のために、輝度が低下するということになる。電荷キャリアの分布が不均一であるため、この影響はさらにいっそう深刻なものになる。
【0048】
例えば図2Aに示すように、量子障壁層32が、一定でないドーピングプロファイルDPを有する場合、上述の悪影響を軽減することができる。
【0049】
図2Aによれば、量子障壁層32は、p側量子障壁層32pとn側量子障壁層32nとに分けられる。n側量子障壁層32nは、n側半導体層2に近い最初の3つの量子井戸層31に隣接する量子障壁層32である。p側量子障壁層32pは、第4の量子井戸層31から第13の量子井戸層31に隣接する量子障壁層32である。
【0050】
図2Aに示すように、特に、例えば最大で10%、7%、5%、3%または1%の製造公差まで、p側量子障壁層32pは、基準ドーパント濃度Refを規定する同じドーパント濃度を有し得る。したがって、p側量子障壁層32pのドーピング率DPは約1である。したがって、製造公差までは、p側量子障壁層32pは、一定のドーピングプロファイルを有する。対照的に、n側量子障壁層32nは、多重量子井戸構造内で一定でないドーピングプロファイルDPを示す。換言すれば、多重量子井戸構造における一定でないドーピングプロファイルDPには、n側量子障壁層32nの異なるドーパント濃度が反映される。
【0051】
具体的には、n側半導体層2からp側半導体層1に向かって、n側量子障壁層32nのドーパント濃度は徐々に増加する。ほんの一例として、図2Aによれば、基準ドーパント濃度に対する第1のn側量子障壁層32nのドーピング率DRは0~0.3であり、第2のn側量子障壁層32nのドーピング率DRは0.3~0.6であり、第3のn側量子障壁層32nのドーピング率DRは0.6~0.9であり、第4のn側量子障壁層32nのドーピング率DRは0.9~1である。
【0052】
特に、第1の量子井戸層31nに隣接する量子障壁層32は、0.3の平均ドーピング率DRを有することができる。第2の量子井戸層31に隣接する量子障壁層32は0.5の平均ドーピング率DRを有することができ、第3の量子井戸層31に隣接する量子障壁層32は0.9の平均ドーピング率DRを有することができる。このような一定でないドーピングプロファイルは、量子障壁層32、すなわちp側量子障壁層32pの大部分が、実質的に一定のドーパント濃度を有するので、活性領域3の量子障壁層32における部分的にチャープされたnドーピングのケースと呼ぶことができる。実際には、各量子障壁層32のドーパント濃度は、SIMS(二次イオン質量分析法)を使用して検出することができる。
【0053】
図2B図2C、及び図2Dには、一定のドーピングプロファイルを有するコンポーネント10と、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10との間のいくつかの比較が示されている。一定のドーピングプロファイルを有するコンポーネント10の量子障壁層32は、基準ドーパント濃度Refを有する。対照的に、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10の量子障壁層32は、部分的にチャープされたn型ドーピングプロファイルを示す。したがって、量子障壁層32の一部のみが異なるドーピングレベル、例えば、InGaN/GaNをベースとする活性領域3の場合の異なるSiドーピングレベルを有する。例えば、最初の3つまたは4つの量子障壁層32のみが、異なるドーピング濃度を有する。これは、例えば図2Aに示されている。
【0054】
図2Bに示すように、シミュレーションによれば、一定のドーピングプロファイルを有する基準ケースと比較して、部分的にチャープされたnドーピングのケースでは、電子輸送は、例えば量子障壁層32におけるチャープされたSiドーピングによって妨げられる。この場合、正に帯電した電荷キャリアは、より深いまたはより下部の量子井戸層31に到達し、n側半導体層2の近くのより下部の量子井戸層31内の電子と再結合することができることになる。したがって、図2Bの左側に強調表示されているように、最初の3つの量子井戸層31で発光再結合率が増加する。
【0055】
図2Bと比較すると、図2Cは同様の結果を示すが、活性領域3、特に活性領域3の様々な量子井戸層QWにおける正孔濃度HCに関して、すなわち正に帯電した電荷キャリアの分布に関して示す。図2Cは、左側に、一定のドーピングプロファイルを有する、すなわち一定の基準ドーパント濃度Refを有する量子障壁層32の場合の正孔濃度の分布を示す。図2Cは、右側に、例えば図2Aに示す一定でないドーピングプロファイルを有する量子障壁層32の場合の正孔濃度の分布を示す。具体的に、多重量子井戸構造内の正孔濃度は、1E+18/cmと2.5E+19/cmとの間で変化し得る。コンポーネント10の動作中に、正孔濃度が、最初の3つのn側量子井戸層31でその最大値を有する可能性がある。
【0056】
したがって、ドーピングプロファイルが一定のケースから、ドーピングプロファイルが一定でないケースに移行すると、最初の3つの量子井戸層31での正孔濃度は大幅に増加するが、残りの量子井戸層31での正孔濃度はほとんど変化しないか、またはわずかしか減少しない。これは、電子が減速されて、正孔がより下部のn側量子井戸層32へとさらに向かわされ、その結果、より下部のn側量子井戸層32における発光再結合率が高くなるという事実によるものである。したがって、電流Iに関して図2Dに示すように、コンポーネント10の内部量子効率IEの増加がもたらされる。
【0057】
図3に示すコンポーネント10の例示的な実施形態は、図2Aに示すコンポーネント10の例示的な実施形態に実質的に対応する。部分的にチャープされたドーピングプロファイルを示す図2Aと比較すると、図3によれば、コンポーネント10の量子障壁層32は完全にチャープされたドーピングプロファイルを示す。
【0058】
図3によれば、量子障壁層32は、複数のサブグループ、特に4つのサブグループに分けられる。サブグループの1つは、基準ドーパント濃度Refを有するp側量子障壁層32pを含むp側サブグループである。p側量子障壁層32pは、4つの量子井戸層31、すなわち量子井戸層10、11、12、及び13に隣接する。他の3つのサブグループは、基準ドーパント濃度Refよりも低いドーパント濃度または平均ドーパント濃度を有するn側量子障壁層32nを含み、n側サブグループと呼ぶことができる。
【0059】
第1のn側サブグループは、最初の4つの量子井戸層31、すなわち量子井戸層1、2、3、及び4に隣接するn側量子障壁層32nを含み、約0.3Refの平均ドーパント濃度を有する。第2のn側サブグループは、4つの量子井戸層31、すなわち同様に量子井戸層4、5、6及び7に隣接するn側量子障壁層32nを含み、間に約0.5Refの平均ドーパント濃度を有する。第3のn側サブグループは、4つの量子井戸層31、すなわち量子井戸層7、8、9、及び10に隣接するn側量子障壁層32nを含み、約0.7Refの平均ドーパント濃度を有する。
【0060】
例えば最大で10%、7%、5%、3%、または最大で1%の製造公差まで、同じサブグループの量子障壁層32が同じドーパント濃度を有することが可能である。ただし、同じサブグループの量子障壁層32が異なるドーパント濃度を有することも可能である。図3は、右側に、一定でないドーピングプロファイルDPを、階段状の推移として示し、また階段状の推移の線形適合としての曲線適合として示す。
【0061】
図4は、左側に、図2Aまたは図3に示されるコンポーネント10の例示的な実施形態に実質的に対応するコンポーネント10のさらなる例示的な実施形態を示すが、1から10までの量子井戸層31に隣接する量子障壁層32のみが異なる。図3と同様に、チャープされた量子障壁層32は複数のサブグループ、すなわち3つのサブグループに分けられる。比較の目的で、基準ドーパント濃度Refを持つ一定のドーピングプロファイルを有するコンポーネント10のケースも示されている。
【0062】
コンポーネント10のこの例示的な実施形態によれば、第1のサブグループは、約0.7Refのドーパント濃度を有する量子障壁層32を含む。第2のサブグループは、約0.85Refのドーパント濃度を有する量子障壁層32を含む。第3のサブグループは、基準ドーパント濃度Refを有する量子障壁層32を含む。
【0063】
図4は、中央に、両方のケース、すなわち、一定のドーピングプロファイルを有するコンポーネント10のケースと、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10のケースとについて、1から10までの異なる量子井戸層における発光再結合率RRを示す。
【0064】
図4に示すように、両方のケースの量子井戸層5及び6における発光再結合率はほぼ等しいが、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10は、より下部のn側量子井戸層1、2、3及び4でより高い発光再結合率を有し、より高いp側量子井戸層7、8、9及び10でより低い発光再結合率を有する。これは、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10の場合、荷電キャリア分布が活性領域3全体にわたってより高度に均一化されていることを示している。これにより、図4の右側に明示的に示されているように、一定でないドーピングプロファイルを有するコンポーネント10の内部量子効率IQEが約0.45~0.5%増加することになる。
【0065】
したがって、MQW構造の正孔分布を改善する1つの可能性として、本開示によれば、正孔をより下部のQWへさらに深く流入させるようにするために、特にn側量子障壁層における電子輸送を部分的に悪化させることが提案されている。これは、活性領域内の量子障壁層に部分的または完全にチャープされたnドーピングを行うことで実現され得る。特に、Vピット強化InGaN/GaN LED構造の場合、量子障壁層にSiをnドープして、余分な電圧をかけずに、c面を介した電子の輸送を行うことができる。
【0066】
一定のドーピングレベル、例えばMQW構造内の各QBでの一定のSiドーピングレベルというやり方を変えて、一定でないチャープドーピングプロファイルが提案されている。具体的には、量子障壁層内のドーピングレベルまたはドーパント濃度が、n側半導体層からp側半導体層に向かって徐々に増加するものとする。これは、量子障壁層を部分的または完全にチャープドーピングすることによって実現され得る。この結果として、特に量子障壁層内のチャープSiドーピングにより、電子の輸送が効果的に妨げられ、または速度を落とされることになる。この場合、正に帯電した電荷キャリアは、n側活性領域のより深くまで輸送され、n側半導体層近くのより低いまたはより深いQWで電子と再結合することができるため、コンポーネントの発光再結合率及び内部量子効率が増加する。この効果はシミュレーション及び実験の両方で証明されている。さらに、電子輸送を調整することによって正孔分布を調整するアプローチは、正孔分布を調整するためにp側成長条件を変更するよりも、はるかに柔軟であることが判明している。
【0067】
本発明は、例示的な実施形態を参照して行われた本発明の説明によって、例示的な実施形態に限定されるものではない。本発明は、むしろ、この特徴またはこの組み合わせ自体が特許請求の範囲または例示的な実施形態に明示的に示されていなくても、特に特許請求の範囲における特徴の任意の組み合わせを含む、任意の新規な特徴及び特徴の任意の組み合わせを含むものである。
【符号の説明】
【0068】
10 コンポーネント
1 p側半導体層
2 n側半導体層
3 活性領域
30 活性領域の主表面
31 量子井戸層
31n 第1のn側量子井戸層
31p 第1のp側量子井戸層
32 量子障壁層
32n n側量子障壁層
32p p側量子障壁層
4 凹部/Vピット
41 凹部のファセット
71 最上層/コンタクト層
72 障壁構造/遷移層/コンタクト層
8 キャリア/基板/成長用基板
e 負に帯電した電荷キャリア
p 正に帯電した電荷キャリア
C1 第1の色
C2 第2の色
C3 第3の色
C4 第4の色
C5 第5の色
RR 発光再結合率
QB 量子障壁
QW 量子井戸層
DP ドーピングプロファイル
DR 基準ドーパント濃度に対するドーピング率
Ref 基準ドーピング
Crd チャープドーピング
HC 正に帯電した電荷キャリアの濃度、正孔濃度
I 電流
IE 内部効率
IQE 内部量子効率
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4