(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】冷却液を指定する装置を備えた溶接部品冷却システム、およびそのような溶接部品冷却システムを含む溶接部品
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20240805BHJP
B23K 9/32 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B23K9/29 Z
B23K9/32 Z
(21)【出願番号】P 2023553047
(86)(22)【出願日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2022067824
(87)【国際公開番号】W WO2023275107
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2024-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】フィンク,ラインホルト
(72)【発明者】
【氏名】リヒト,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レオンハルツベルガー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ブランドルマイヤー,ペーター
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-17617(JP,A)
【文献】米国特許第4560856(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第3501719(EP,A1)
【文献】特開昭58-36672(JP,A)
【文献】特表2020-534160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32、10/00 - 10/02
G05D 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部品(SK)、特に溶接トーチ(SB)を冷却するための溶接部品冷却システム(1)であって、冷却液(3)用の少なくとも1つの容器(2)と、対応する冷却ライン(5)を有する冷却回路(4)と、冷却回路(4)内の冷却ライン(5)を介して冷却液(3)を搬送するために、冷却回路(4)内に配置された少なくとも1つのポンプ(6)と、冷却ライン(5)内に配置された少なくとも1つの熱交換器(7)とを含み、冷却液(3)を脱イオンするための装置(8)が冷却回路(4)内に設けられており、
コンダクタンス(S)を測定するための少なくとも1つのセンサ(14)と、冷却液(3)の温度を測定するための少なくとも1つの温度センサ(16)とが、冷却回路(4)内に配置されると共に、冷却回路(4)内の冷却液(3)の流量(Q)を測定するための少なくとも1つのセンサ(15)が、それぞれの場合に制御装置(17)に接続され、
制御装置(17)は溶接部品(SK)に接続された溶接電流源(SQ)に接続可能であることを特徴とする溶接部品冷却システム(1)。
【請求項2】
脱イオン装置(8)は、その中に混床樹脂(10)が配置された容器(9)によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項3】
混床樹脂(10)は、陽イオン樹脂と陰イオン樹脂の混合物、好ましくは40%の陽イオン塩と60%の陰イオン塩からなることを特徴とする請求項2に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項4】
脱イオン装置(8)は、冷却回路(4)内の冷却ライン(5)に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項5】
脱イオン装置(8)は、冷却回路(4)内の冷却ライン(5)へのバイパス(11)に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項6】
混床樹脂(10)を備えた容器(9)は、中央入口チャネル(12)とそれと同軸の外部出口チャネル(13)とを有することを特徴とする請求項
2または3に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項7】
少なくとも1つのフィルタ(19)は、冷却回路(4)に配置されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接部品冷却システム(1)。
【請求項8】
溶接部品(SK)、特に溶接トーチ(SB)であって、互いに接続され、少なくとも2つの導電性材料(M1、M2)からなる少なくとも2つの部品(B1、B2)と、冷却液(3)を案内するための冷却チャネル(20)と、を含み、この冷却チャネル(20)は、少なくとも2つの部品(B1、B2)によって部分的に形成されており、
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接部品冷却システム(1)が設けられており、その冷却回路(4)は冷却チャネル(20)に接続されていることを特徴とする溶接部品(SK)。
【請求項9】
溶接部品(SK)、特に溶接トーチ(SB)であって、少なくとも2つの部品(B1、B2)は、電気化学的電圧系列の標準電位が0.7V以上異なった、異なる導電性材料(M1、M2)で形成されていることを特徴とする請求項8に記載の溶接部品(SK)。
【請求項10】
溶接部品(SK)、特に溶接トーチ(SB)であって、少なくとも2つの部品(B1、B2)は、冷却チャネル(20)を通る部品(B1、B2)間の最小経路長(l
min
)が12mm未満、好ましくは5mm未満となるように配置されることを特徴とする請求項8に記載の溶接部品(SK)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部品、特に溶接トーチを冷却するための溶接部品冷却システムであって、冷却液用の少なくとも1つの容器と、対応する冷却ラインを備えた冷却回路と、冷却回路内の冷却ラインを通して冷却液を搬送するために冷却回路内に配置された少なくとも1つのポンプと、冷却ライン内に配置された少なくとも1つの熱交換器とを含み、冷却回路が冷却液を脱イオンするための装置を備えた溶接部品冷却システムに関する。
【0002】
本発明はまた、上述の溶接部品冷却システムを有する溶接部品、特に溶接トーチに関する。
【0003】
本発明は、溶接部品またはその冷却、特に不活性ガス溶接部品に関する。
【背景技術】
【0004】
溶接装置用の液体冷却システムは、通常、ポンプ、冷却液、冷却ライン、冷却される溶接部品、冷却液のための容器、熱交換器、および任意にフィルタ、流量モニタ、および冷却液の温度を測定するための装置から構成される。使用される冷却液は、水に様々な添加剤を混ぜたものが主流である。これらの冷却液の電気伝導度は、通常80~120μs/mである。
【0005】
冷却回路の冷却ラインと冷却チャネルは、通常異なる材料で作られる。金属および/または金属合金のような導電性材料の場合、異なる材料は電気化学的電圧系列の異なる標準電位を示す。さらに、冷却回路内の個々の、あるいは複数の構成部品は、選択的または非選択的に電圧が印加されるため、異なる電位(接触管経路/ガスノズル経路)になる。その結果、導電性材料でできた溶接部品の部品間の電圧は、冷却液を通して電気化学的な電流の流れにつながる可能性がある。さらに、冷却液中のイオンの濃度勾配が生じ、これも電気化学的要素の形成を促進する。その結果、部品はプラス電位(犠牲陽極)で徐々に分解する。特に、分解速度は、とりわけ冷却液の導電率に比例する。電気化学的な電流の流れは陽極を分解し、その結果、それぞれの溶接部品を破壊するだけでなく、結果として生じる陽極スラッジは冷却ラインを詰まらせ、冷却効果を低下させるか、あるいは妨げることさえある。電気化学的酸化プロセスの結果、より多くのイオンが冷却液中に蓄積されるほど、冷却液の導電率は安定的に上昇するか、飽和に移行し、場合によってはプロセスが継続的に永続することもある。さらに、放出されたイオンは強い化学的触媒作用を有し、冷却液の難溶性物質への分解を促進し、その結果、目詰まりを引き起こす。
【0006】
冷却液の電気伝導度を低下させるためには、様々な技術領域において、脱イオン樹脂の助けを借りて冷却液からイオンを除去する脱イオン装置を使用することが一般的である。例えば、文献EP 0 072 407 A2には、冷却システムに脱イオン装置を備えたプラズマ噴霧装置が記載されており、これによりプラズマノズルの寿命を延ばすことができる。
【0007】
燃料電池の冷却液を脱イオンするためのイオン交換樹脂ユニットの使用は、例えばEP 2 025 029 B1に記載されている。
【0008】
US 4,560,856 Aには、冷却液を脱イオンする装置を使用した液冷システムを備えたレーザ加工機が記載されている。プラズマ溶射機における同様の液冷システムは、US 4,405,853 Aに開示されている。
【0009】
特開昭59-17617号公報には、冷却液のpH値と温度を測定し、測定値に応じて冷却液を脱イオンする装置を制御する液冷システムが開示されている。
【0010】
液冷システムを備えた溶接部品が、EP 3 501 719 A1に開示されている。冷却液を脱イオンする装置については記載されていない。
【0011】
溶接システムの冷却システムにおいて、冷却液を脱イオンするための装置を使用することは、まだ開示されていない。
【0012】
従って、その目的は、溶接部品冷却システム、およびそのような溶接部品冷却システムを有する溶接部品を作製することであり、このような溶接部品冷却システムは、溶接部品の、部品の可能な最大寿命を達成できるように、可能な最大時間にわたって溶接部品の最適な冷却を保証する。使用される冷却液は、可能な限り長期間使用でき、冷却回路が詰まらないようにする必要がある。公知の溶接部品冷却システムの欠点は、低減されるべきであり、あるいは排除されるべきである。
【発明の概要】
【0013】
本発明による目的は、冷却液の導電率を測定するための少なくとも1つのセンサが冷却回路内に配置され、制御装置に接続され、制御装置が溶接部品に接続された溶接電流源に接続可能である、前述の溶接部品冷却システムによって達成される。冷却回路に配置された脱イオン装置により、冷却液の導電率が低いままであることが保証され、電気化学的酸化プロセスによる各溶接部品の金属成分の急速な破壊と、その結果としての溶接部品の耐用年数の低下、および冷却液の汚染と冷却回路の閉塞の可能性による上述の欠点が発生しないか、またはそれほど急速に発生しない。そのため、冷却回路には少なくとも1つの脱イオン装置が配置され、これにより冷却液が脱塩される。その結果、冷却液の導電率が低下し、金属部品の電気化学的腐食が減少するか、好ましくは完全に停止し、溶接部品および/またはその部品の耐用年数が飛躍的に向上する。
【0014】
冷却液の状態は、冷却回路内の冷却液の導電率を測定するための少なくとも1つのセンサによって調べることができ、適切な警告を発したり、特定の導電率値が検出された場合に自動制御処理を実行したりすることができる。所定の導電率限界値に達した場合、これは、例えば、脱イオン装置の混床樹脂の飽和を示すものとすることができる。したがって、制御装置と溶接機のディスプレイを使用して、混床樹脂の変化を誘導することができる。この場合、脱イオン装置の簡単な交換機能を、例えば、ねじ接続、クリックオン接続、またはバヨネット接続によって提供することができる。専用ディスプレイの代わりに、溶接電流源のディスプレイまたは上位の制御装置のディスプレイを使用することもでき、このディスプレイは対応する接続ケーブルを介して少なくとも1つの導電率センサに接続される。有線接続も無線接続も可能である。例えば、冷却液のコンダクタンス値に対して、以下のリミットを定義することができる:
>50μS 「レッドゾーン」
(電気化学的酸化電位が高い-脱イオン装置または混床樹脂の交換が必要)
25~50μS 「オレンジゾーン」
(平均的な電気化学的酸化電位-脱イオン装置のメンテナンス計画)
10~25μS 「イエローゾーン」
(電気化学的酸化電位が低い)
<10μS 「グリーンゾーン」
(有意な電気化学的酸化電位なし)
【0015】
冷却液の導電率を測定するための少なくとも1つのセンサは、好ましくは冷却回路の戻り冷却ラインに配置される。冷却液が常に非常に低いコンダクタンスを持つようにすることで、冷却液の「絶縁」効果が確保される。これにより、ガスノズルのような溶接機が触れる可能性のある溶接部品の構成部品が、コンタクトチューブのような他の構成部品と同様に、危険なほど高い電位になる危険性が低減される。同様に、「絶縁性」または導電性が非常に低い冷却液は、RF点火エネルギーが溶接構成部品の他の部分に転用されるのを防ぎ、本質的にすべての点火エネルギーが溶接構成部品の電極に到達し、アークの点火を引き起こすようにすることができる。
【0016】
冷却液の導電率を測定するための少なくとも1つのセンサは、制御装置に接続されている。制御装置は、例えばマイクロプロセッサによって形成することができ、データを適宜処理し、所望の上位ステーションに転送する。制御装置は、溶接部品冷却システムの作動状態をユーザに視覚的に表示できるよう、ディスプレイに接続されていることが好ましい。ディスプレイは、単純な光源、特に発光ダイオードから、単純なディスプレイを経て、同時に操作機能を可能にする、より複雑なタッチスクリーンにまで及ぶことができる。ディスプレイは、例えば、脱イオン装置のそれぞれの状態、コンダクタンス値、冷却液の流量および/または温度などを、異なる色、数値、あるいはインジケータの形で表示するためにも使用できる。ある限界値を超えた場合、視覚的な警告に加え、スピーカなどを介して音響信号を出力したり、上位の制御ステーションに転送したりすることもできる。制御装置は、溶接部品に接続された溶接電流源に接続することができるため、溶接電流源を使用して関連情報を表示または処理することができ、別個の制御装置、または少なくともディスプレイを設ける必要はない。
【0017】
溶接部品には、主に溶接トーチが含まれるが、冷却液が適切なラインで通されるホースパッケージ、冷却液を搬送するポンプなども含まれる。本発明による溶接部品冷却システムおよび冷却液のコンダクタンスの低減により、本発明を用いずに従来の冷却液で使用した場合、非常に短時間で破壊を引き起こすような材料を、溶接部品の一部またはその構成部品に使用することができる。冷却回路に脱イオン装置を導入する労力とコストは管理可能であり、達成される溶接部品の耐用年数の長さにより、比較的早く償却される。
【0018】
好ましくは、脱イオン装置は、混床樹脂が配置された容器によって形成される。これは、冷却液を脱イオンする装置を実施するための簡単で費用効果の高い方法である。非常にリーズナブルなコストで入手可能な混床樹脂を、冷却液が流れる容器に入れることにより、冷却液が脱塩される。樹脂は冷却液中の遊離イオンを結合し、その量と配置によって冷却液のコンダクタンスを低下させる。例えば、冷却液のコンダクタンス値は1~50ps/mのオーダーで達成できる。混床樹脂によって形成されるイオン交換体は、(金属)イオンを「捕捉」または貯蔵し、H+イオンまたはOHイオンと置換するのに適しており、これらのイオンはその後結合して中性の水を形成する。混床樹脂に適した材料は、特にOH-およびH+イオン活性化樹脂、例えばピューロライト(登録商標)MB400、万能混床樹脂または選択混床樹脂であり、これらは任意の割合で互いに混合することもでき、異なる粒径を有することもできる。混床樹脂の再処理は提供されない。混床樹脂は、ティーバッグのような液体透過性の袋または容器に配置することができる。
【0019】
脱イオン装置の容器に配置される混床樹脂は、理想的には陽イオン樹脂と陰イオン樹脂の混合物、好ましくは陽イオン塩40%と陰イオン塩60%からなることができる。アニオン塩とカチオン塩の混合比は、通常、混床樹脂の耐用年数が最大になるように選択される。
【0020】
脱イオン装置は、冷却回路内の冷却ラインに配置することができる。これは、冷却液が脱イオン装置を通って流れることを意味し、それによって冷却液が脱イオンされ、コンダクタンスが低下する。
【0021】
あるいは、脱イオン装置は、冷却回路内の冷却ラインにバイパスして配置することもできる。冷却回路内に直接の、上述した配置と比較して、これは、脱イオン装置が冷却回路内の冷却液の流動抵抗を増加させないという利点を有するが、それにもかかわらず、冷却液のコンダクタンスは、それに応じて減少させることができる。
【0022】
本発明の一つの特徴によれば、混床樹脂を有する容器は、中央入口チャネルと、それと同軸の外部出口チャネルとを有する。冷却液は、混床樹脂の中を流れるか、表面に接触している混床樹脂を通過してのみ流れるかのいずれかである。この設計により、容器内に配置された混床樹脂と冷却液との間の最適な相互作用が保証されると同時に、冷却液の流動抵抗が最小限に抑えられる。
【0023】
さらに、冷却液の流量を測定するための少なくとも1つのセンサを冷却回路に配置することができ、これを用いて冷却液の流れに関する重要な情報を得ることができる。測定された冷却液の流量値は、文書化または監視目的で使用することも、特定のプロセスを制御するためにも使用できる。上述した冷却液のコンダクタンスを測定するセンサは、特に好ましい態様では、冷却液の流量を測定するセンサと組み合わせることもでき、冷却回路内の1つまたは複数の場所に配置することができる。冷却液の両方の特性を測定するこのような複合センサは、比較的安価で、小型のものが入手可能である。
【0024】
冷却回路内の冷却液の温度は、少なくとも1つの温度センサを介して検出することができる。もちろん、冷却液の温度を介して冷却効果を測定し、適切な措置を講じることもできる。測定された冷却液の温度は、文書化または監視目的、あるいは特定のプロセスの制御に使用することができる。上述した冷却液のコンダクタンスを測定するセンサおよび冷却液の流量を測定するセンサは、特に好ましい態様では、冷却液の温度を測定するセンサと組み合わせることもでき、冷却回路内の1つまたは複数の場所に配置することができる。上記の全ての特性のためのこのような組み合わされたセンサは、比較的安価であり、小型で入手可能である。
【0025】
冷却液の流量を測定するための少なくとも1つのセンサ、および/または冷却液の温度を測定するための少なくとも1つの温度センサ、または適切な組み合わせセンサも、制御装置に接続することができる。この目的のための専用の制御装置の代わりに、例えば溶接電流源に既にある制御装置を使用することももちろん可能である。このための唯一の前提条件は、この制御装置へのそれぞれのセンサの対応する有線または無線接続と、センサへの電気エネルギーの保証された供給である。
【0026】
冷却液としては、添加剤、例えば不凍液、特にエタノールまたはプロピレングリコールまたはエチレングリコールまたは一般的な水溶性アルコールおよび/または一般的な水溶性多価アルコール、および/または腐食防止剤を添加した水が好ましく用いられる。さらに、殺藻剤および/または殺菌剤を冷却液に添加してもよい。
【0027】
冷却回路に少なくとも1つのフィルタを配置すれば、冷却液中の汚染物質を除去することができる。フィルタは、例えば、金属スクリーン、プラスチックスクリーン、紙または天然繊維フィルタ、フェルト、不織布、開孔焼結材料、バルク材料またはそれらの組み合わせによって形成することができる。冷却水の流量が所定の限界値を下回る場合、フィルタの汚染の程度が高いことを示す可能性があり、フィルタの交換または洗浄が必要となる可能性がある。
【0028】
本発明による目的は、上述の溶接部品、特に溶接トーチであって、上述の溶接部品冷却システムが設けられており、その冷却回路が溶接部品の冷却チャネルに接続されている、または溶接部品の冷却チャネルが溶接部品冷却システムの冷却回路の一部である、溶接部品冷却システムによっても達成される。本発明による冷却システムを使用することにより、冷却液が可能な限り低いコンダクタンス値を有することが保証され、その結果、電気化学的酸化が回避または低減される。さらなる利点については、上述の溶接部品冷却システムの説明を参照されたい。本発明によれば、冷却液のコンダクタンスが低いため、電気化学的電位差が0.7Vより大きく異なる、異なった材料を溶接部品、特に溶接トーチに使用することができる。冷却液のコンダクタンスが低いため、電気化学的な電流の流れが小さくても寿命が短くなることはない。
【0029】
上述のように、冷却液のコンダクタンスが非常に低いため、そうでなければ部品の急速な破壊につながるような金属やその組み合わせを使用することができる。例えば、冷却液が比較的高い電気コンダクタンス値を有する従来の溶接部品冷却システムは、電気化学的電圧系列に従って同様の標準電位を有する導電性材料で作られた部品で構成されるが、本発明による溶接部品冷却システムを使用する場合、電気化学的電圧系列に従って標準電位の差が著しく大きい材料の組み合わせも使用することができる。例えば、必要な寿命を維持しながら、従来の水冷溶接部品は、例えば銅(標準電位+0.35V)とニッケル(標準電位-0.23V)の使用など、標準電位の差が最大0.58Vの金属としか組み合わせることができなかった。しかし、本発明による溶接部品冷却システムを使用する場合、例えば、必要な耐用年数を維持しながら、標準電位差が最大2.46Vの金属の組み合わせが可能である。ここでは、例えばアルミニウム(標準電位-1.66V)を銀(標準電位+0.8V)と組み合わせることができ、それによって溶接部品、特に溶接トーチの著しく長い耐用年数を達成することができる。
【0030】
本発明のさらなる特徴によれば、電気化学的標準電位が異なる溶接部品の少なくとも2つの部品が、冷却チャネルを通る少なくとも2つの部品間の最小経路長または液柱長が12mm未満、好ましくは5mm未満となるように配置できる。冷却液のコンダクタンス値が50~250μsの従来の冷却システムを用いた溶接部品では、例えば、許容可能な電気化学的除去率を維持するためには、液柱長を12mm以上に設計することが要求される。しかし、冷却液のコンダクタンス値が10μS未満の本発明による冷却システムを使用する場合、許容可能な電気化学的除去率を達成するためには、液柱長が5mm未満で十分である。その結果、一部の溶接部品は、よりコンパクトまたは軽量に設計することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明は、添付図面を参照してより詳細に説明されるが、これに限定されることを意図するものではない。
【0032】
【
図1】本発明にかかる溶接部品冷却システムの一実施形態の概略ブロック図である。
【
図2】本発明にかかる溶接部品冷却システムのさらなる実施形態の概略ブロック図である。
【
図3a】内部に混床樹脂が配置された容器の形態で冷却液を脱イオンする装置の第1の実施形態を示す。
【
図3b】内部に混床樹脂が配置された容器の形態で冷却液を脱イオンする装置の第2の実施形態を示す。
【
図3c】内部に混床樹脂が配置された容器の形態の冷却液を脱イオンする装置の第3の実施形態を示す。
【
図3d】内部に混床樹脂が配置された容器の形態の冷却液を脱イオンする装置の第4の実施形態を示す。
【
図4】本発明にかかる溶接部品冷却システムに接続するための溶接トーチの概略断面図である。
【
図5】冷却チャネルの領域内の部品を説明するための、断面A-Aにおける溶接トーチの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明にかかる溶接部品冷却システム1の実施形態の概略ブロック図である。溶接部品SK、例えば溶接トーチSBを冷却するための溶接部品冷却システム1は、冷却液3のための少なくとも1つの容器2を含んでいる。冷却液3は、特に適切な添加物を含む水によって形成され、容器2から冷却回路4内を搬送される。冷却回路4は、対応する冷却ライン5によって形成される。冷却回路4内に配置された少なくとも1つのポンプ6が、冷却回路4内の冷却ライン5を通して冷却液3を搬送する。冷却回路4内の冷却ライン5には、少なくとも1つの熱交換器7が配置され、この熱交換器7を介して熱が環境に放散される。熱交換器7は、例えば、液体/空気熱交換器または液体/液体熱交換器として設計することができる。廃熱は、例えば溶接ホールの加熱など、必要に応じて再利用することができる。冷却液3の導電率Sが高くなりすぎるのを防ぐため、本発明によれば、冷却液3を脱イオンする装置8が冷却回路4に設けられる。図示した例示的な実施形態では、脱イオン装置8は、冷却回路4の戻り冷却ライン5に配置されている。しかし、冷却回路5内の別の位置に配置することもできる。
【0034】
脱イオン装置8は、例えば、その中に混床樹脂10が配置された容器9によって形成することができ(
図3参照)、冷却液3が非常に低い電気コンダクタンスSを有することを保証し、このことは、溶接部品SKにおいて生じる電気化学的酸化による悪影響が顕著でなく、その結果、溶接部品SKがより長い耐用年数を有することを意味する。
【0035】
有利には、冷却液3のコンダクタンスSを測定するための少なくとも1つのセンサ14が、冷却回路4、特に冷却回路4の戻り冷却ライン5に配置される。冷却液3の状態を監視し、脱イオン装置14による脱イオン効果を、冷却液3のコンダクタンスSを測定するために得られるセンサ8の測定値を介して測定することができる。
【0036】
冷却回路内の冷却液3のコンダクタンスSを測定するセンサ14の代わりに、溶接部品SKの対地抵抗、例えばコンタクトチューブの対地抵抗を測定するセンサを設けて、使用する溶接トーチに応じて冷却液3のコンダクタンス値Sを推測することもできる。
【0037】
図2は、本発明にかかる溶接部品冷却システム1のさらなる実施形態の概略ブロック図である。
図1による実施形態とは対照的に、冷却液3を脱イオンするための装置8は、冷却回路4の冷却ライン5に配置されておらず、冷却回路4内の冷却ライン5へのバイパス11に配置されている。その結果、冷却回路5内の冷却液3の流動抵抗は、脱イオン装置8によって悪影響を受けない。さらに、冷却回路4内には、冷却液3の導電率Sを測定するためのセンサ14に加えて、冷却液3の流量Qを測定するための少なくとも1つのセンサ15と、冷却液3の温度Tを測定するための少なくとも1つの温度センサ16とが配置されている。図示された例示的な実施形態では、センサ14、15、16は、冷却回路4内の同じ位置に配置され、好ましくは複合センサによって形成される。
【0038】
冷却液3の導電率Sを測定するための少なくとも1つのセンサ14、冷却液3の流量Qを測定するための少なくとも1つのセンサ15、および/または冷却液3の温度Tを測定するための少なくとも1つの温度センサ16、および容器2内の冷却液3のレベルを測定するためのオプションのセンサ21は、好ましくは、測定値の処理および伝送を保証する制御装置17に接続される。制御装置17に接続されたディスプレイ18は、センサ14、15、16、21の測定値および脱イオン装置8の状態を表示することができる。制御装置17とディスプレイ18は、溶接電流源SQに配置することもできる。制御装置17とセンサ14、15、16、21との間の接続は、有線で形成されてもよいし、無線で実施することもできる。
【0039】
冷却液3を濾過するための少なくとも1つのフィルタ19を冷却回路4に配置することもできる。
【0040】
図3aは、混床樹脂10を入れた容器9の形をした冷却液3の脱イオン装置8の一実施形態を示している。冷却回路4の冷却ライン5に適宜接続される混床樹脂10入りの容器9は、中央入口チャネル12と、それと同軸の外部出口チャネル13とを有する。冷却液3は、混床樹脂10を通って流れるか、または混床樹脂10の表面に接触して流れるだけである。混床樹脂10は、簡単な方法で、好ましくは容器9の下側から交換することができる。混床樹脂10は、好ましくはカチオン樹脂とアニオン樹脂の混合物、特に40%のカチオン塩と60%のアニオン塩からなる。
【0041】
図3bおよび
図3cは、脱イオン装置8のさらに可能な2つの実施形態を示しており、いずれの場合も容器9内の冷却液3は、混床樹脂10の表面に接触して流れる。
【0042】
図3dは、脱イオン装置8のさらに可能な実施形態を示し、そこでは、冷却液3は、一方では容器9内の混床樹脂10を通って流れ、および/または他方では、混床樹脂10の表面と接触して通り過ぎることができる。
【0043】
図4は、本発明による溶接部品冷却システム1に接続するための溶接トーチSBの概略断面図である。溶接トーチSBは、部品B1としてのノズルブロックホルダ、部品B2としてのガスノズルホルダ、部品B3としての冷却スリーブ、部品B4としてのパイプベンドの内管など、様々な部品B1、B2、B3、B4を有する。図示された例示的な実施形態では、部品B1およびB4は導電性材料M1からなり、部品B3は別の導電性材料M2からなる。部品B3は、電気絶縁性材料M3からなる。溶接トーチSB内には、冷却液3を搬送するための冷却チャネル20が延びており、当該冷却チャネルは、上述の溶接部品冷却システム1に接続されている。冷却チャネル20は、溶接トーチSBの上述の部品B1、B2、B3、B4によって部分的に形成されている。さらに、構成部品B1、B2、B3、B4は、例えば、ポジティブフィット、フォースフィットまたは材料接続によって互いに接続される。こうして、冷却チャネル20内を流れる冷却液3を介して電気化学セルが形成される。高い導電率Sを有する冷却液3によって促進されるプロセスにおいて、陽極は電気化学的に酸化され(犠牲陽極)、導電性材料M1およびM2からなる、溶接トーチSBの影響を受ける部品B1および/またはB2および/またはB4の破壊につながる。
【0044】
冷却液3は、本発明に従って脱イオンされ、非常に低い導電率Sを有するので、電気化学的電圧系列の標準電位が0.7V以上異なる導電性材料M1、M2を、溶接トーチSBの部品B1、B2、B4に使用することができる。上述したように、例えばアルミニウム(標準電位-1.66V)を銀(標準電位+0.8V)と組み合わせることができるが、これは従来の水冷溶接部品SKでは不可能であった。
【0045】
最後に、
図5は、冷却チャネル20の領域における部品B1、B2、B3、B4を説明するために、切断線A-Aに沿った
図5による溶接トーチSBの詳細図を示す。本発明によれば、溶接トーチSBの導電性部品B1、B2、B4は、冷却チャネル20を通る、部品B2を有する部品B1またはB4の間の最小経路長または液柱長l
minが、12mm未満、好ましくは5mm未満となるように配置される。
図5に示された距離l
xは、冷却液3によって横断される距離を示しており、ここで示された距離l
xは、直線距離と実質的に同じであり、換言すれば、実際の液柱長l
minは、冷却チャネル20の設計に起因して、
図5に描かれた距離l
xよりもかなり長い。つまり、冷却液3は、冷却チャネル20に追従し、その結果、流曲線を形成する。上述の液柱長l
minが12mm未満、好ましくは5mm未満の溶接トーチSBの製造は、従来の冷却液3の使用では不可能であった。
【0046】
本発明は、溶接部品SKの冷却およびその寿命を改善し、
図4および
図5を用いて説明したように、溶接部品SKの構成部品に新しい材料および材料の組み合わせ、ならびに新しい設計を使用することを可能にする。