(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】消波提
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
E02B3/06 302
(21)【出願番号】P 2024026475
(22)【出願日】2024-02-26
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023045766
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506122246
【氏名又は名称】エム・エムブリッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池末 俊一
(72)【発明者】
【氏名】木原 一禎
(72)【発明者】
【氏名】前川 勉
(72)【発明者】
【氏名】古田 大介
(72)【発明者】
【氏名】古矢 祥一朗
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特許第2548835(JP,B2)
【文献】特開平8-109620(JP,A)
【文献】特開平2-279813(JP,A)
【文献】米国特許第4850742(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤体前部に配置される前部側板と、
堤体後部に配置される後部側板と、
前記前部側板と前記後部側板との間に配置され、前記前部側板との間で振動水塊区画である第1水塊区画の流路を形成する第1仕切り板と、
前記第1仕切り板と前記後部側板との間に配置され、前記第1仕切り板との間でスロッシング区画を形成し、前記後部側板との間で前記第1水塊区画とは異なる第2水塊区画の流路を形成する第2仕切り板と
を備える消波提。
【請求項2】
前記第2水塊区画は、振動水塊区画である
請求項1に記載の消波提。
【請求項3】
前記第1水塊区画及び前記第2水塊区画は、同一周期の波に対応するように前記流路が形成される
請求項2に記載の消波提。
【請求項4】
前記第1水塊区画及び前記第2水塊区画は、異なる周期の波に対応するように前記流路が形成される
請求項2に記載の消波提。
【請求項5】
前記第2水塊区画は、非振動水塊区画である
請求項1に記載の消波提。
【請求項6】
前記第1水塊区画は、前記流路が前方端部に配置される
請求項1に記載の消波提。
【請求項7】
前記第1水塊区画及び前記第2水塊区画の前記流路は、水平方向に平行な水平フィンを用いて形成される
請求項1に記載の消波提。
【請求項8】
前記第1水塊区画及び前記第2水塊区画のうち少なくとも一方の前記流路は、湾曲面及び斜面の少なくとも一方を含んで形成される
請求項1に記載の消波提。
【請求項9】
堤体前部に配置される前部側板と、
堤体後部に配置される後部側板と、
前記前部側板と前記後部側板との間に配置され、前記前部側板との間で振動水塊区画である第1水塊区画の流路を形成する第1仕切り板と、
前記第1仕切り板と前記後部側板との間に前後方向に沿って配置され、上側にはスロッシング区画の少なくとも一部を形成し、下側には前記第1水塊区画とは異なる非振動水塊区画である第2水塊区画を形成し、前記スロッシング区画と前記第2水塊区画とを上下に接続するように設けられる第2仕切り板と
を備える消波提。
【請求項10】
前記第2水塊区画は、前後方向について前記第1仕切り板と前記後部側板との間の全体に亘って形成される
請求項9に記載の消波提。
【請求項11】
前記第2仕切り板は、前記後部側板から前方に延びている
請求項9に記載の消波提。
【請求項12】
前記第2仕切り板は、前記スロッシング区画と前記第2水塊区画とを上下に接続するための間隔を前記第1仕切り板との間に前後方向に空けて配置される
請求項11に記載の消波提。
【請求項13】
前記第1仕切り板は、前記第2仕切り板と同一の高さ位置に前後方向に延びる水平部を有し、
前記第2仕切り板は、前記水平部の後側端部との間に前後方向に前記間隔を空けて配置される
請求項12に記載の消波提。
【請求項14】
前記第2水塊区画は、下端部において、前記第1仕切り板と前記後部側板との間が前後方向の全範囲に亘って開口されている
請求項9に記載の消波提。
【請求項15】
前記第1水塊区画は、前記スロッシング区画よりも水塊の固有周期が長くなるように形成される
請求項9に記載の消波提。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消波提に関する。
【背景技術】
【0002】
堤体前部に配置される前部側板と、堤体後部に配置される後部側板との間に、複数の水塊区画が設けられる消波提が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の消波提において、前部側板と後部側板との間に2つの水塊区画が設定されるが、前部側板側の水塊区画では、スロッシングを発生することで波のエネルギーを消耗させる機能と、水塊が上下に振動することで波のエネルギーを消耗させる機能との両方を発現可能な構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スロッシングが発生する遊水部と、上下に振動する水塊とが同一の自由表面を共有しているため、上下に振動する機能が発現しにくいという課題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、区画ごとに機能を適切に発現可能な消波提を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る消波提は、堤体前部に配置される前部側板と、堤体後部に配置される後部側板と、前記前部側板と前記後部側板との間に配置され、前記前部側板との間で振動水塊区画である第1水塊区画の流路を形成する第1仕切り板と、前記第1仕切り板と前記後部側板との間に配置され、前記第1仕切り板との間でスロッシング区画を形成し、前記後部側板との間で前記第1水塊区画とは異なる第2水塊区画の流路を形成する第2仕切り板とを備える。
【0008】
本開示に係る消波提は、堤体前部に配置される前部側板と、堤体後部に配置される後部側板と、前記前部側板と前記後部側板との間に配置され、前記前部側板との間で振動水塊区画である第1水塊区画の流路を形成する第1仕切り板と、前記第1仕切り板と前記後部側板との間に前後方向に沿って配置され、上側にはスロッシング区画の少なくとも一部を形成し、下側には前記第1水塊区画とは異なる非振動水塊区画である第2水塊区画を形成し、前記スロッシング区画と前記第2水塊区画とを上下に接続するように設けられる第2仕切り板とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、区画ごとに機能を適切に発現可能な消波提を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る消波提の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る消波提の他の例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る消波提の他の例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る消波提の他の例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、他の実施形態に係る消波提の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る消波提の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
図1は、本実施形態に係る消波提100の一例を模式的に示す図である。
図1では、消波提100の断面構成を示している。
図1に示す消波提100は、例えば海岸に沿って設けられ、波のエネルギーを減少させる。消波提100は、例えば海岸に沿って、紙面の奥行方向に延びるようにように形成される。消波提100は、湾曲した構成であってもよい。以下、消波提100の構成を説明するにあたり、海域側を前後方向の前方とし、海岸側を前後方向の後方とする。また、鉛直方向の上側を上方、下側を下方とする。また、入射波は、海域から海岸に向けて到来するとする。
図1に示すように、消波提100は、前部側板10と、後部側板20と、第1仕切り板30と、第2仕切り板40とを備える。
【0013】
前部側板10は、海域側(前方)に配置される。前部側板10は、鉛直方向に沿って配置される。前部側板10は、不図示の係留索により係留される。
【0014】
後部側板20は、海岸側(後方)に配置される。後部側板20は、鉛直方向に沿って配置される。後部側板20は、不図示の係留索により係留される。
【0015】
第1仕切り板30は、前部側板10と後部側板20との間に配置される。第1仕切り板30は、前部側板10との間で振動水塊区画である第1水塊区画W1の流路R1を形成する。
【0016】
前部側板10には、水平フィン11が設けられる。水平フィン11は、前部側板10から水平方向の後方に延びるように配置される。流路R1は、第1水塊区画W1を構成する振動水塊が流通する。流路R1は、流路幅bF0が一定となるように構成される。例えば、第1仕切り板30は、流路幅が一定となるように、水平フィン11の位置に対応して屈曲した構成となっている。流路R1の上端は、自由水面に接続される。また、流路R1は、前部側板10、水平フィン11及び第1仕切り板30により形成される。水平フィン11は、第1水塊区画W1の振動水塊によって生じる鉛直力を堤体に伝達する。流路R1は、第1仕切り板30により、他の水塊区画、具体的には隣り合うスロッシング区画W3の影響を受けないように仕切られる。
【0017】
第1水塊区画W1については、振動水塊の上下揺の固有周期が、
【数1】
と概算される。ただし、L
F0は、第1水塊区画W1の断面2次元面内の流路中心を通る流路長さであり、gは、重力加速度である。
【0018】
第1水塊区画W1において、振動水塊の上下揺を発現させる波周期を調整する場合、ターゲットとなる入射波の周期と、振動水塊の固有周期TF0とが概ね等しいLF0となるように、前部側板10、水平フィン11、第1仕切り板30の配置を調整する。なお、第1水塊区画W1において、流路R1が堤体の前方端部に設置されるため、入射波による直接的な振動水塊の上下揺の発現も見込むことができる。
【0019】
第1水塊区画W1における水塊の上下方向の振動が発生すると、当該水塊の上下方向の振動と、消波提10の上下方向の振動との間に位相差が生じるため、入射波のエネルギーを消耗させることができる。
【0020】
第2仕切り板40は、第1仕切り板30と後部側板20との間に配置される。第2仕切り板40には、水平フィン41が設けられる。水平フィン41は、第2仕切り板40から水平方向の後方に延びるように形成される。また、後部側板20には、水平フィン21が設けられる。水平フィン21は、例えば上下方向の2箇所に配置される。水平フィン21は、水平フィン41を挟む位置に配置され、後部側板20から水平方向の前方に延びるように形成される。
【0021】
第2仕切り板40は、後部側板20との間で第1水塊区画W1とは異なる第2水塊区画W2の流路R2を形成する。本実施形態において、第2水塊区画W2は、振動水塊区画である。
【0022】
流路R2は、第2水塊区画W2を構成する振動水塊が流通する。流路R2は、例えば流路幅bF1が一定となるように構成される。例えば、第2仕切り板40は、流路幅が一定となるように、水平フィン41の位置に対応して屈曲した構成となっている。流路R2の上端は、自由水面に接続される。また、流路R2は、後部側板20、水平フィン21、41及び第2仕切り板40により形成される。水平フィン21、41は、第2水塊区画W1の振動水塊によって生じる鉛直力を堤体に伝達する。流路R2は、第2仕切り板40により、他の水塊区画、具体的には隣り合うスロッシング区画W3の影響を受けないように仕切られる。
【0023】
第2水塊区画W2については、振動水塊の上下揺の固有周期が、
【数2】
と概算される。ただし、L
F1は、第2水塊区画W2の断面2次元面内の流路中心を通る流路長さであり、gは、重力加速度である。
【0024】
第2水塊区画W2において、水塊の上下方向の振動を発現させるための周期を調整する場合、ターゲットとなる入射波の周期と、水塊の固有周期TF1とが概ね等しいLF1となるように後部側板20、水平フィン21、41、第2仕切り板40の配置を調整する。
【0025】
第2水塊区画W2における水塊の上下方向の振動が発生すると、当該水塊の上下方向の振動と、消波提100の上下方向の振動との間に位相差が生じるため、入射波のエネルギーを消耗させることができる。
【0026】
また、第2仕切り板40は、第1仕切り板30との間でスロッシング区画W3を形成する。第1仕切り板30の上側の水平部32と、第2仕切り板40の上側の水平部42とにより、スロッシング区画W3の底部が形成される。スロッシング区画W3は、自由表面を含む遊水部を有する区画である。スロッシング区画W3では、入射波のエネルギーにより遊水部の揺動が発生する。遊水部の揺動が発生すると、当該遊水部の揺動と消波提100の前後方向の揺動との間に位相差が生じるため、入射波のエネルギーを消耗させることができる。
【0027】
スロッシング区画W3については、スロッシングの固有周期が、
【数3】
と概算される。ただし、B:堤体幅、b
F0:第1水塊区画W1の流路幅、b
F1:第2水塊区画W2の流路幅、t:第1仕切り板30及び第2仕切り板40の板厚、H:スロッシング区画W3の水深、である。なお、スロッシング区画W3の水深は、遊水部の自由表面から水平部32、42までの距離とすることができる。
【0028】
スロッシング区画W3において、スロッシングを発現させる波周期を調整する場合、ターゲットとする波周期と固有周期TF2が概ね等しいH、bF0、bF1となるように堤体内部の第1仕切り板30、第2仕切り板40の配置を調整する。
【0029】
図2は、本実施形態の他の例に係る消波提200を模式的に示す図である。
図2に示す消波提200は、前部側板110と、後部側板120と、第1仕切り板130と、第2仕切り板140とを備える。消波提200では、上記した消波提100と同様に、前部側板110と第1仕切り板130との間で、振動水塊区画である第1水塊区画W11の流路R11を形成する。また、消波提200では、上記した消波提100と同様に、第1仕切り板130と第2仕切り板140との間で、スロッシング区画W13を形成する。
【0030】
図2に示す構成では、後部側板120及び第2仕切り板140の構成が消波提100とは異なっている。
図2に示す例において、第2仕切り板140には、例えば水平フィンが設けられない構成である。一方、後部側板120には、水平フィン121が設けられる。水平フィン121は、例えば上下方向の1箇所に配置される。水平フィン121は、後部側板120から水平方向の前方に延びるように形成される。
【0031】
第2仕切り板140は、後部側板120との間で、非振動水塊区画である第2水塊区画W12の流路R12を形成する。
【0032】
第2水塊区画W12は、水塊の上下揺における流動パターンによって動く水塊の質量が変化する。第2水塊区画W12については、固有振動が、
【数4】
の範囲になると概算される。ただし、A
G0:第2水塊区画W12の断面2次元面内の流路面積、b
G0:第2水塊区画W12の自由水面側の流路幅、b
G1:第2水塊区画W12の底面側の流路幅である。
【0033】
第2水塊区画W12において、流路R2は、全体としての流路幅が一定でないことから、第2水塊区画W12における水塊の流れは、1次元流路のような往復動とはならず、局所的な流れが組み合わせる流動パターンとなる。そのため、第2水塊区画W12においては、区画全体としての振動水塊の上下揺の発現は発生しにくい。
【0034】
一方で、第2水塊区画W12において、短周期側では、水塊の局所的に流動により、入射波のエネルギーの消耗が期待できる。また、第2水塊区画W12において、長周期側では、水塊が堤体の上下揺と同期することで、堤体の上下揺の固有周期を長周期化する効果が期待できる。堤体の上下揺が長周期化されることで、透過波の低い領域がより長周期側に伸展するため、消波性能の向上につながることになる。
【0035】
図3は、本実施形態の他の例に係る消波提300を模式的に示す図である。
図3に示す消波提300は、前部側板210と、後部側板220と、第1仕切り板230と、第2仕切り板240とを備える。消波提300では、上記した消波提100と同様に、前部側板210と第1仕切り板230との間で、振動水塊区画である第1水塊区画W21の流路R21を形成する。また、消波提300では、上記した消波提100と同様に、第1仕切り板230と第2仕切り板240との間で、スロッシング区画W23を形成する。
【0036】
図3に示す構成では、後部側板220及び第2仕切り板240の構成が消波提100とは異なっている。
図3に示す例において、後部側板220と第2仕切り板240との間で、振動水塊区画である第2水塊区画W22の流路R22を形成する。また、後部側板220及び第2仕切り板240は、前部側板210及び第1仕切り板230の構成を前後方向に対称となるように配置した構成となっている。このため、第2水塊区画W22では、振動水塊の上下揺の固有周期が、第1水塊区画W21と同一となっている。
【0037】
この構成により、第1水塊区画W21と第2水塊区画W22とで、ターゲットとなる入射波の周期が同一となる。このため、特定の周期の入射波に対して、高い消波性能を有する消波提300を提供することができる。
【0038】
図4は、本実施形態の他の例に係る消波提400を模式的に示す図である。
図4に示す消波提400は、前部側板310と、後部側板320と、第1仕切り板330と、第2仕切り板340とを備える。消波提400では、上記した消波提100と同様に、後部側板320と第2仕切り板340との間で、振動水塊区画である第2水塊区画W32の流路R32を形成する。また、消波提400では、上記した消波提100と同様に、第1仕切り板330と第2仕切り板340との間で、スロッシング区画W33を形成する。
【0039】
図4に示す構成では、前部側板310及び第1仕切り板330の構成が消波提100とは異なっている。
図4に示す例において、前部側板310及び第1仕切り板330は、湾曲部311、331をそれぞれ有する。湾曲部311、331は、例えば円筒面等の曲面により形成される。
【0040】
消波提400では、前部側板310と第1仕切り板330との間で、振動水塊区画である第1水塊区画W31の流路R31を形成する。この構成において、前部側板310及び第1仕切り板330が湾曲部311、331を有することにより、第1水塊区画W31の流路R31は、湾曲面311a、331aを含んで形成される。
【0041】
このように、流路R31が湾曲面を含んで形成されることで、第1水塊区画W31においては、振動水塊が流路R31を湾曲面311a、331aに沿って滑らかに移動することができる。このため、振動水塊の上下揺を滑らかに発生させることができる。なお、湾曲部311、331は、前部側板310及び第1仕切り板330の一方にのみ設けられた構成であってもよい。また、後部側板320及び第2仕切り板340の少なくとも一方に湾曲部が設けられた構成であってもよい。
【0042】
なお、
図4の一点鎖線に示すように、第1仕切り板330は、湾曲部311が設けられず、スロッシング区画W33の水平部332が設けられるように折れ曲がった形状であってもよい。このようにスロッシング区画W33に底部となる水平部332を確保することで、入射波のエネルギーをより確実に消耗させることができる。また、前部側板310は、少なくとも一方の湾曲部311に代えて、傾斜部312を有する形状であってもよい。前部側板310が傾斜部312を有することにより、第1水塊区画W31の流路R31は、傾斜面312aを含んで形成される。傾斜部312を設けた場合、湾曲部311を設けた場合に比べて制作しやすくなる。なお、傾斜部312及び傾斜面312aと同様の構成を、第1仕切り板330側に設けてもよい。
【0043】
以上のように、本開示の第1態様に従えば、堤体前部に配置される前部側板10、110、210、310と、堤体後部に配置される後部側板20、120、220、320と、前部側板10、110、210、310と後部側板20、120、220、320との間に配置され、前部側板10、110、210、310との間で振動水塊区画である第1水塊区画W1、W11、W21、W31の流路を形成する第1仕切り板30、130、230、330と、第1仕切り板30、130、230、330と後部側板20、120、220、320との間に配置され、第1仕切り板30、130、230、330との間でスロッシング区画W3、W13、W23、W33を形成し、後部側板20、120、220、320との間で第1水塊区画W1、W11、W21、W31とは異なる第2水塊区画W2、W12、W22、W32の流路を形成する第2仕切り板とを備える消波提100、200、300、400が提供される。
【0044】
この構成によれば、第1水塊区画W1、W11、W21、W31と、第2水塊区画W2、W12、W22、W32と、スロッシング区画W3、W13、W23、W33とが第1仕切り板30、130、230、330と第2仕切り板30、140、240、340とで個別に区画されるため、区画ごとに機能を適切に発現可能な消波提を提供することができる。
【0045】
本開示の第2態様に従えば、第1態様に係る消波提において、第2水塊区画W2、W22、W32は、振動水塊区画である。この構成によれば、第1水塊区画W1、W21、W31と第2水塊区画W2、W22、W32とで入射波のエネルギーを適切に消耗させることができる。
【0046】
本開示の第3態様に従えば、第2態様に係る消波提において、第1水塊区画W21及び第2水塊区画W22は、同一周期の波に対応するように流路R21、R22が形成される。この構成によれば、第1水塊区画W21と第2水塊区画W22とで特定周期の入射波のエネルギーを適切に消耗させることができる。
【0047】
本開示の第4態様に従えば、第2態様に係る消波提において、第1水塊区画W1、W31及び第2水塊区画W2、W32は、異なる周期の入射波に対応するように流路R1、R2、R31、R32が形成される。この構成によれば、第1水塊区画W1、W31と第2水塊区画W2、W32とで異なる周期の入射波のエネルギーを適切に消耗させることができる。
【0048】
本開示の第5態様に従えば、第1態様に係る消波提において、第2水塊区画W12は、非振動水塊区画である。この構成によれば、第2水塊区画W12において、短周期側では、水塊の局所的に流動により、入射波のエネルギーの消耗が期待できる。また、第2水塊区画W12において、長周期側では、水塊が堤体の上下揺と同期することで、堤体の上下揺の固有周期を長周期化する効果が期待できる。堤体の上下揺が長周期化されることで、透過波の低い領域がより長周期側に伸展するため、消波性能の向上につながることになる。
【0049】
本開示の第6態様に従えば、第1態様に係る消波提において、第1水塊区画W1、W11、W21、W31は、流路R1、R11、R21、R31が前方端部に配置される。この構成によれば、第1水塊区画W1、W11、W21、W31において、流路R1、R11、R21、R31が堤体の前方端部に設置されるため、入射波による直接的な振動水塊の上下揺の発現も見込むことができる。
【0050】
本開示の第7態様に従えば、第1態様に係る消波提において、第1水塊区画W1、W11、W21の流路R1、R11、R21及び第2水塊区画W2、W12、W22、W32の流路R2、R12、R22、R32は、水平方向に平行な水平フィンを用いて形成される。この構成によれば、水平フィンにより振動水塊によって生じる鉛直力を堤体に効率的に伝達することができる。
【0051】
本開示の第8態様に従えば、第1態様に係る消波提において、第1水塊区画W1、W11、W21、W31及び第2水塊区画W2、W12、W22、W32のうち少なくとも一方の流路R31は、湾曲面311a、331a及び傾斜面312aの少なくとも一方を含んで形成される。この構成によれば、振動水塊が流路R31を湾曲面311a、331a及び傾斜面312aの少なくとも一方に沿って滑らかに移動することができる。このため、振動水塊の上下揺を滑らかに発生させることができる。
【0052】
次に、本開示に係る消波提の他の実施形態について説明する。
図5は、他の実施形態に係る消波提500の一例を模式的に示す図である。
図5では、消波提500の断面構成を示している。
図5に示す消波提500は、例えば海岸に沿って設けられ、波のエネルギーを減少させる。消波提500は、例えば海岸に沿って、紙面の奥行方向に延びるようにように形成される。消波提500は、湾曲した構成であってもよい。以下、消波提500の構成を説明するにあたり、海域側を前後方向の前方とし、海岸側を前後方向の後方とする。また、鉛直方向の上側を上方、下側を下方とする。また、入射波は、海域から海岸に向けて到来するとする。
図5に示すように、消波提500は、前部側板410と、後部側板420と、第1仕切り板430と、第2仕切り板440とを備える。
【0053】
前部側板410は、海域側(前方)に配置される。前部側板410は、鉛直方向に沿って配置される。前部側板410は、不図示の係留索により係留される。
【0054】
後部側板420は、海岸側(後方)に配置される。後部側板420は、鉛直方向に沿って配置される。後部側板420は、不図示の係留索により係留される。
【0055】
第1仕切り板430は、前部側板410と後部側板420との間に配置される。第1仕切り板430は、前部側板410との間で振動水塊区画である第1水塊区画W41の流路R41を形成する。
【0056】
前部側板410には、水平フィン411が設けられる。水平フィン411は、前部側板410から水平方向の後方に延びるように配置される。流路R41は、第1水塊区画W41を構成する振動水塊が流通する。流路R41は、流路幅bF0が一定となるように構成される。例えば、第1仕切り板430は、流路幅が一定となるように、水平フィン411の位置に対応して屈曲した構成となっている。流路R41の上端は、自由水面に接続される。また、流路R41は、前部側板410、水平フィン411及び第1仕切り板430により形成される。水平フィン411は、第1水塊区画W41の振動水塊によって生じる鉛直力を堤体に伝達する。流路R41は、第1仕切り板430により、他の水塊区画、具体的には隣り合うスロッシング区画W43の影響を受けないように仕切られる。第1水塊区画W41の振動水塊の上下揺の固有周期は、上記実施形態に記載の第1水塊区画W1と同様に、[数1]で概算される値とすることができる。第1水塊区画W41は、後述するスロッシング区画W43よりも水塊の固有周期が長くなるように形成される。
【0057】
第1仕切り板430は、例えば前部側板410と後部側板420との間における前後方向の中間位置よりも前側に配置される。第1仕切り板430は、水平部431、432を有する。水平部431、432は、水平フィン411に応じて屈曲された部分であり、水平面に沿って前後方向に延びる部分である。水平部431が上側、水平部432が下側に配置される。水平部431は、第2仕切り板440と同一の高さ位置に前後方向に配置される。水平部431は、第2仕切り板440と共にスロッシング区画W43を形成する。
【0058】
第2仕切り板440は、第1仕切り板430と後部側板420との間に配置される。第2仕切り板440は、前後方向に沿って配置される。第2仕切り板440は、後部側板420から水平面に沿って前方に延びている。第2仕切り板440は、例えば水平面に平行又はほぼ平行に配置される。第2仕切り板440は、上側にはスロッシング区画W43の少なくとも一部を形成し、下側に第2水塊区画W42を形成する。
【0059】
第2水塊区画W42は、第1水塊区画W41とは異なる非振動水塊区画である。第2水塊区画W42は、入射波に対して波下側のに配置される。第2水塊区画W42は、仕切り板等の部材が撤廃されたスペースとして設けられ、消波提500が海水を保持するスペースとして設けられる。このように波下側に広範囲に亘って海水を保持するスペースを設けることで、長周期な上下揺特性を維持することができると共に、消波提500の軽量化を図ることができる。第2水塊区画W42は、前後方向について第1仕切り板430と後部側板420との間の全体に亘って形成される。第2水塊区画W42は、下端部460において、第1仕切り板430と後部側板420との間が前後方向の全範囲に亘って開口されている。
【0060】
また、
図5に示す例において、第2仕切り板440は、後部側板420の上部、第1仕切り板430の上部及び水平部431と共にスロッシング区画W43を形成する。第2仕切り板440は、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42とを上下に接続するように設けられる。
【0061】
第2仕切り板440は、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42とを上下に接続するための間隔450を第1仕切り板430との間に前後方向に空けて配置される。第2仕切り板440は、第1仕切り板430の水平部431の後側端部431aとの間に前後方向に間隔450を空けて配置される。
【0062】
間隔450は、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42との間で海水を交換するための連通部として設けられる。間隔450は、海水を交換可能な程度の必要最小限のスペースであればよい。間隔450の位置、個数、形状及び寸法等の各値は、入射波により発達したスロッシングのエネルギーの流出をできるだけ抑制するような値とすることができる。
【0063】
スロッシング区画W43のスロッシングの固有周期は、上記実施形態に記載のスロッシング区画W3と同様に、[数3]で概算される値とすることができる。
【0064】
なお、上記の消波提500においては、第2仕切り板440が後部側板420から前方に延びる構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。第2仕切り板440は、第1仕切り板430から後方に延びる構成であってもよい。例えば、第2仕切り板440は、第1仕切り板430の水平部431から後方に延びる構成であってもよい。
また、上記の消波提500においては、スロッシング区画W43と第2水塊区画42とを上下に接続する間隔450を第2仕切り板440と第1仕切り板430との間に設ける構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。間隔450は、スロッシング区画W43と第2水塊区画42とを上下に接続する位置であれば、上記とは異なる位置に設けられてもよい。
【0065】
以上のように、本開示の第9態様に従えば、堤体前部に配置される前部側板410と、堤体後部に配置される後部側板420と、前部側板410と後部側板420との間に配置され、前部側板410との間で振動水塊区画である第1水塊区画W41の流路を形成する第1仕切り板430と、第1仕切り板430と後部側板420との間に前後方向に沿って配置され、上側にはスロッシング区画W43の少なくとも一部を形成し、下側には第1水塊区画W41とは異なる非振動水塊区画である第2水塊区画W42を形成し、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42とを上下に接続するように設けられる第2仕切り板440とを備える消波提500が提供される。
【0066】
この構成によれば、入射波の波下側に広範囲に亘って海水を保持するスペースが設けられるため、長周期な上下揺特性を維持することができると共に、消波提500の軽量化を図ることができる。
【0067】
本開示の第10態様に従えば、第9態様に係る消波提において、第2水塊区画W42は、前後方向について第1仕切り板430と後部側板420との間の全体に亘って形成される。
【0068】
この構成によれば、海水を保持するスペースを広範囲に確保できるため、長周期な上下揺特性を適切に維持することができる。
【0069】
本開示の第11態様に従えば、第9態様又は第10態様に係る消波提において、第2仕切り板440は、後部側板420から前方に延びている。
【0070】
この構成によれば、第2水塊区画W42の後端上部において、スロッシング区画W43との間を確実に仕切ることができる。
【0071】
本開示の第12態様に従えば、第11態様に係る消波提において、第2仕切り板440は、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42とを上下に接続するための間隔450を第1仕切り板430との間に前後方向に空けて配置される。
【0072】
この構成によれば、間隔450によりスロッシング区画W43と第2水塊区画W42との間で海水を交換するための連通部を確保できる。
【0073】
本開示の第13態様に従えば、第12態様に係る消波提において、第1仕切り板430は、第2仕切り板440と同一の高さ位置に前後方向に延びる水平部431を有し、第2仕切り板440は、水平部431の後側端部との間に前後方向に間隔450を空けて配置される。
【0074】
この構成によれば、スロッシング区画W43と第2水塊区画W42との間で海水を交換するための連通部を水平部431の後側に配置することができる。
【0075】
本開示の第14態様に従えば、第9態様から第13態様のいずれかに係る消波提において、第2水塊区画W42は、下端部460において、第1仕切り板430と後部側板420との間が前後方向の全範囲に亘って開口されている。
【0076】
この構成によれば、仕切り板等の部材が撤廃されたスペースを確保できるため、消波提500の軽量化を図ることができる。
【0077】
本開示の第15態様に従えば、第9態様から第14態様のいずれかに係る消波提において、第1水塊区画W41は、スロッシング区画W43よりも水塊の固有周期が長くなるように形成される。
【0078】
この構成によれば、第1水塊区画W41により長周期側の消波を行うことができ、スロッシング区画W43により短周期側の消波を行うことができる。
【0079】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、各実施形態に係る一部の構成同士を適宜組み合わせて適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
10,110,210,310,410 前部側板
11,21,41,121,411 水平フィン
20,120,220,320,420 後部側板
30,130,230,330,430 第1仕切り板
30,40,140,240,340,440 第2仕切り板
100,200,300,400,500 消波提
311,331 湾曲部
311a,331a 湾曲面
312 傾斜部
312a 傾斜面
431,432 水平部
450 間隔
460 下端部
R1,R2,R11,R12,R21,R22,R31,R32,R41 流路
W1,W11,W21,W31,W41 第1水塊区画
W1,W2,W12,W22,W32,W42 第2水塊区画
W3,W13,W23,W33,W43 スロッシング区画
【要約】
【課題】区画ごとに機能を適切に発現可能な消波提を提供する。
【解決手段】消波提は、堤体前部に配置される前部側板と、堤体後部に配置される後部側板と、前部側板と後部側板との間に配置され、前部側板との間で振動水塊区画である第1水塊区画の流路を形成する第1仕切り板と、第1仕切り板と後部側板との間に配置され、第1仕切り板との間でスロッシング区画を形成し、後部側板との間で第1水塊区画とは異なる第2水塊区画の流路を形成する第2仕切り板とを備える。
【選択図】
図1