(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】太陽エネルギー収集システム
(51)【国際特許分類】
H02S 20/32 20140101AFI20240805BHJP
【FI】
H02S20/32
(21)【出願番号】P 2024050982
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511282748
【氏名又は名称】品川 悦也
(74)【代理人】
【識別番号】100106954
【氏名又は名称】岩城 全紀
(72)【発明者】
【氏名】品川 悦也
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/070769(WO,A1)
【文献】特開2021-164233(JP,A)
【文献】特許第6554248(JP,B1)
【文献】特開平10-079527(JP,A)
【文献】特開2012-174944(JP,A)
【文献】特開2000-243983(JP,A)
【文献】米国特許第04476854(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 20/00 -20/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーラーパネルが設置される傾動部を有し、該傾動部を支点によって傾動可能に支持する支持用架台と、該傾動部を太陽光の日射角度の変化に追従して一定範囲で傾動させることにより傾斜角度を変更する傾斜角変更手段とを具備する太陽エネルギー収集システムであって、
前記傾斜角変更手段は、
メイン水タンクと、該メイン水タンク内への水の供給・停止動作を行うボールタップと、前記メイン水タンク内の水を、止水又は吐水させる止水バルブと、断熱性・保温性素材からなる集熱部と、該集熱部内に収容されている形状記憶合金製の弾性部材と、を有し、
前記弾性部材の一端は、直接若しくは索条を介して、前記メイン水タンク内の止水バルブと接続され、他端は前記集熱部内に固定されており、
常温では、該弾性部材は弾性力が働かない一方、
該集熱部内に太陽光が射しこむことによって該弾性部材が所定温度以上となった際は、弾性力が働いて前記メイン水タンク内の前記止水バルブを開放することにより、前記メイン水タンクから水を吐水させて、前記傾動部に取り付けられているサブ水タンク内に水を導入し、
該サブ水タンク内の水の重量により前記傾動部の重心位置を変化させて、該傾動部の傾斜角度を変更するように構成されていることを特徴とする太陽エネルギー収集システム。
【請求項2】
前記ソーラーパネルの裏面に水の気化を促進する気化促進シートを取り付け、該気化促進シートに、前記傾動部に取り付けられているサブ水タンクから、水を導くことにより、ソーラーパネルを裏面から冷却することを特徴とする請求項1に記載の太陽エネルギー収集システム。
【請求項3】
前記集熱部の内側に管状部材が配置され、該管状部材の内部には、前記弾性部材の一端と接続された索条が配置されているとともに、該弾性部材の他端は集熱部内の上方位置に、網状部材により吊り下げられるようにして取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽エネルギー収集システム。
【請求項4】
前記メイン水タンク内への水の供給は、その内側上部に設けられたボールタップによって行われ、該ボールタップは、前記メイン水タンク内へ水を供給する給水パイプが接続されているとともに、前記集熱部に水を供給する導水パイプが接続されていることを特徴とする
請求項1又は2に記載の太陽エネルギー収集システム。
【請求項5】
前記集熱部は外筒及び内筒からなる二重構造であり、該外筒と内筒との間に形成されるリング状部分を断熱層とし、該内筒内に設置されている前記形状記憶合金製の弾性部材における、日射による温度上昇の応答性を向上させていることを特徴とする
請求項1又は2に記載の太陽エネルギー収集システム。
【請求項6】
前記集熱部は、太陽光の日射角度に対応する複数の凸レンズが配置された筒状部材によって形成され、該複数の凸レンズにおける、それぞれの焦点位置は該筒状部材内に設置されている形状記憶合金製の弾性部材上に合致しているとともに、該複数の凸レンズの傾き角は、それぞれ異なる角度となるように取り付けられていることを特徴とする
請求項1又は2に記載の太陽エネルギー収集システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーラーパネル(太陽電池)を利用した太陽エネルギーの収集システムに係り、太陽の日射角度に応じてソーラーパネルの傾斜角度(日射に対する傾斜角度)を自動的に傾動させることが可能な支持用架台を備えた太陽エネルギー収集システムに関する。また、ソーラーパネルの冷却機構をも併せて備えた太陽エネルギー収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽光を利用した発電装置や集熱装置は、屋根や地上などに固定した状態で設置されるが、発電装置におけるソーラーパネルの太陽に対する傾斜角度については地域の気候、降雪の有無など、地域の諸特性に合わせて設定される。例えば傾斜角度は、年間の最低発電量若しくは最高発電量を基準に決定するなど、いくつかの設定の仕方がある。一例を挙げると、北緯45度近辺に属する北海道地域では積雪の影響を考慮して35度前後の急角度、北緯27度近辺の沖縄では太陽高度が高くなることから18度前後とするなど、地域によっても変わってくる。
また、太陽は、高度を変えながら東から西へと移動するため、時間帯並びに季節によって日射角度が異なり、ソーラーパネルは可能であるならばパネル面に対して、太陽光が直角に射し込むように傾斜角度を調節することが、発電効率を向上させる上で好ましい。
【0003】
従来、太陽光の日射角度の変化に対応すべく、特開2007-324387号公報(特許文献1)記載の太陽光自動追尾装置に関する発明が公知である。同公報記載の発明は、太陽熱により伸縮する熱変形部材(例えば、形状記憶合金製のバネ)、この熱変形部材に連結された往復軸、ラッチ、歯車等を構成要素とし、太陽光によって加熱された熱変形部材の収縮力を利用して、集光用ミラーの仰角を変化させるようになっている。これによれば、電力を消費することなく、太陽光に対し最適な角度となるよう集光用ミラーの仰角を可変し、集熱効率の向上に寄与するとされている。
【0004】
また、特許第6468575号公報(特許文献2)には太陽光パネルを支持する架台を含む発電システムに関する発明が開示されている。当該発明は一つの架台を、一つの支柱に傾動可能に支持するとともに、第1の展開索条及び巻き取り索条からなる第1索条群、2本の第2展開索条及び1本の係止索条からなる第2索条群等を備え、これらの第1索条群、第2索条群としてワイヤやチェーンなどを利用し、これらの索条群を巻き上げる、又は巻き戻すことにより、架台を支柱に対して上下に傾動させて、太陽光パネルを太陽の日射に対して適する角度に調整するようになっている。当該発明によれば、作業員一人での角度変更作業が可能であるとともに、第1索条群、第2索条群の重量物を支柱の下端直近に集中させることとなるので、架台の揺れを防止して風力による振動を抑制し得るとされている。
【0005】
他方、ソーラーパネルによる発電量はパネルの温度にも左右される。つまり、パネル面の温度が1°C上昇すると発電効率は0.4パーセント程度低下することが知られており、夏季などにパネル面の温度が70°Cに達した場合、2割程度の発電量低下を招くこととなる。そのため、パネルを冷却する仕組みを採り入れた特開2022-172631号公報(特許文献3)に記載された発明が存在している。
【0006】
特許文献3には、その段落番号「0040」~「0044」に記載されているように、ソーラーパネルを支持する架台の下方領域に、空気調和装置の室外機及び偏向部材を設置し、室外機から排出される排気について、室外機の筐体上に設置した偏向部材により、ソーラーパネルの架台の支柱に囲まれた空間内から、室外機の排気を外方向へ吹き出すように構成している。そして、この吹き出された空気に誘引されてソーラーパネルの下方領域周囲の空気も流動することから、それに伴ってソーラーパネル裏面の空気も流れ、これによりソーラーパネルの冷却を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-324387号公報
【文献】特許第6468575号公報
【文献】特開2022-172631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した特許文献1記載の太陽光自動追尾装置は、駆動機構として、ウォームギア、形状記憶合金バネ、ラッチなどを使用しており、構造の複雑化を招くとともに、部品点数の増大や保守管理に手間を要するという課題があった。
また、特許文献2に記載された発電システムでは一つの支柱によってソーラーパネルを含む架台を支え、且つ、それらのソーラーパネル及び架台をワイヤ等の索条群によって巻き取ることにより傾斜角度を設定する構成である。このため、風が強い地域では多数のソーラーパネルを設置するのは難しいと考えられること、又、季節などに応じソーラーパネルを支える架台の角度変更作業が適時必要であり、保守管理に人手を要するという課題が存する。
さらに、特許文献3に記載されているソーラーパネル用の架台は、空調設備の存在する建物の屋上など、設置可能な箇所が限られるという制限が存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、人手による保守管理の手間を少なくすることが可能なであり、且つ、モータなどの電力を必要とする動力が不要な太陽エネルギー収集システムを提供することを目的とする。
また、部品点数の削減が可能であり、構造が簡素化された太陽エネルギー収集システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、ソーラーパネル(12)が設置される傾動部(20)を有し、該傾動部(20)を支点によって傾動可能に支持する支持用架台(14)と、該傾動部(20)を太陽光の日射角度の変化に追従して一定範囲で傾動させることにより傾斜角度を変更する傾斜角変更手段(50)とを具備する太陽エネルギー収集システムであって、前記傾斜角変更手段(50)は、メイン水タンク(52)と、該メイン水タンク(52)内への水の供給・停止動作を行うボールタップ(54)と、前記メイン水タンク(52)内の水を、止水又は吐水させる止水バルブ(56)と、断熱性・保温性素材からなる集熱部(58)と、該集熱部(58)内に収容されている形状記憶合金製の弾性部材(60)と、を有し、前記弾性部材(60)の一端は、直接若しくは索条(68)を介して、前記メイン水タンク(52)内の止水バルブ(56)と接続され、他端は前記集熱部(58)内に固定されており、常温では、該弾性部材(60)は弾性力が働かない一方、該集熱部(58)内に太陽光が射しこむことによって該弾性部材(60)が所定温度以上となった際は、弾性力が働いて前記メイン水タンク(52)内の前記止水バルブ(56)を開放することにより、前記メイン水タンク(52)から水を吐水させて、前記傾動部(20)に取り付けられているサブ水タンク(62A,62B)内に水を導入し、該サブ水タンク(62A,62B)内の水の重量により前記傾動部(20)の重心位置を変化させて、該傾動部(20)の傾斜角度を変更するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、上記1項において、前記ソーラーパネル(12)の裏面に水の気化を促進する気化促進シート(13)を取り付け、該気化促進シート(13)に、前記傾動部(20)に取り付けられているサブ水タンク(62A,62B)から、水を導くことにより、ソーラーパネル(12)を裏面から冷却することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、上記1項又は2項において、前記集熱部(58)の内側に管状部材(70)が配置され、該管状部材(70)の内部には、前記弾性部材(60)の一端と接続された索条(68)が配置されているとともに、該弾性部材(60)の他端は集熱部(58)内の上方位置に、網状部材(74)により吊り下げられるようにして取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、上記1項又は2項において、前記メイン水タンク(52)内への水の供給は、その内側上部に設けられたボールタップ(54)によって行われ、該ボールタップ(54)は、前記メイン水タンク(52)内へ水を供給する給水パイプ(54B)が接続されているとともに、前記集熱部(58)に水を供給する導水パイプ(54C)が接続されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、上記1項又は2項において、前記集熱部(58)は外筒(58A)及び内筒(58B)からなる二重構造であり、該外筒(58A)と内筒(58B)との間に形成されるリング状部分を断熱層とし、該内筒内(58B)に設置されている前記形状記憶合金製の弾性部材(60)における、日射による温度上昇の応答性を向上させていることを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の発明は、上記1項又は2項において、前記集熱部(80)は、太陽光の日射角度に対応する複数の凸レンズ(84A,84B,84C)が配置された筒状部材(82)によって形成され、該複数の凸レンズ(84A,84B,84C)における、それぞれの焦点位置は該筒状部材(82)内に設置されている形状記憶合金製の弾性部材(86)上に合致しているとともに、該複数の凸レンズの傾き角は、それぞれ異なる角度となるように取り付けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、集光部を太陽光に対し、集光効率の高い方位、傾斜角とすることが可能であり、太陽エネルギーを有効に利用することが可能になる。また、構成部品の数が少なくて済むとともに、太陽光に対して動力を必要とすることがないので、エネルギー資源の有効な利用に資する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る太陽エネルギー収集システムの第一の実施形態を示す全体斜視図である。
【
図2】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムについて裏面側から視た斜視図である。
【
図3】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの側面図である。
【
図4】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの支持用架台上の傾動部が傾動した場合を示す全体斜視図である。
【
図5】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの傾動部が傾動した場合について裏面側から視た斜視図である。
【
図6】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムについて、
図4及び
図5の状態を側面から視た側面図である。
【
図7】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムにおける傾斜角変更手段の要部であるメイン水タンクの内部構造に関し、一部を切り欠いて示す概略斜視図である。
【
図8】同じく、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムにおける傾斜角変更手段の要部であるメイン水タンクの内部構造についての概略側面図である。
【
図9】本発明に係る太陽エネルギー収集システムの第二の実施形態の要部である集熱部の構造を示す説明図である。
【
図10】同じく、第二の実施形態の要部である集熱部に関し、その作用を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る太陽エネルギー収集システムの好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの全体斜視図、
図2は第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムについて裏面側から視た斜視図、
図3は第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの側面図、
図4は第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの支持用架台が傾動した場合を示す全体斜視図、
図5は第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの支持用架台が傾動した場合について裏面側から視た斜視図、
図6は
図4及び
図5の状態を側面から視た側面図である。
【0019】
図1乃至
図3に示されるように、第一の実施形態の太陽エネルギー収集システム10は、ソーラーパネル12が設置される支持用架台14と、同様にソーラーパネル12が設置される固定架台15と、架台の傾斜角度を変更する傾斜角変更手段50等とを具備して構成されている。本実施例では合計9基のソーラーパネル12が設置されているが、下方に位置する2基のソーラーパネル12,12は、固定架台15によって傾斜角度が一定のまま、建物の屋根面17に固定して取り付けられている。
一方、上方に設置される計6基のソーラーパネル12・・は、後述する傾斜角変更手段50により、一定範囲で傾動可能に設けられ、太陽光の日射角度に対し追尾可能となっている。
【0020】
図2及び
図3に示されるように、第一の実施形態における支持用架台14、並びに、固定架台15は、例えば角パイプを利用して形成され、支持用架台14は屋根面上に設置される固定部16、立上部18A、18B、傾動部20等を備えている。これらのうち、固定部16は屋根面に設置されているとともに、立上部18A、18Bは、固定部16から上方へ立設して取り付けられている。
立上部18の上端には、傾動部20を支持用架台14に対し、傾動動作可能に軸支する傾動軸部22が取り付けられており、支持用架台14の傾動部20は、これらの傾動軸部22を支点としてシーソーのように一定の範囲内で傾動することができるようになっている。
【0021】
図4~
図6は傾動部20が傾動した状態を示した図であり、これらの図に示されるように、傾動部20は角度変更手段50によって、その傾斜角度に関し、水平方向を基準とした場合、深い角度(第一の傾動角度)から浅い角度(第2の傾動角度)へと動かすことができるようになっている。つまり、日中となって太陽高度が上昇した際は、ソーラーパネル12の受光面を太陽光の日射方向に対し、垂直に近くなる位置へ傾けることができることから、ソーラーパネル12による発電効率を向上させることが可能である。
【0022】
図3及び
図6に示されるように、立上部18Bの上端に緩衝部材24A,24A・・が取り付けられているとともに、固定部16の下部にも緩衝部材24B,24B・・が取り付けられている。緩衝部材24A,24A・・は、
図3の状態から傾動部20が矢印X方向に傾動して、
図6のように傾動角度が浅くなって停止する際に、傾動部20の上端下面に対し当接して支えつつ、衝撃を緩和するようになっている。
【0023】
一方、緩衝部材24B,24B・・は、傾動部20が通常の傾き位置である第一の角度θ1にあるときに、その下端と当接した状態となっている。つまり、緩衝部材24A,24Bは、傾動部20が第一の角度θ1から傾いて、第二の角度で停止する、又は逆の動きの際の衝撃を吸収し、ソーラーパネル12を保護する機能を有している。
緩衝部材24A,24Bは、第一の実施形態ではゴム製の弾性材料で形成されたものが用いられている。勿論、衝撃を緩和することができれば他の部材を用いることが可能であり、例えば傾動軸部22に回転抵抗を生じさせるダンパーなどを利用して徐々に傾動動作を行わせる、或いはゴム製の緩衝部材24A,24Bに代替して油圧ダンパーなどを利用しても良い。
また、傾動部20の傾動範囲は、緩衝部材24Aの位置や高さを変更することでも調整することが可能である。
【0024】
次に、支持用架台14における傾動部20傾斜角度を変更する傾斜角変更手段50の構成を説明する。
図7は傾斜角変更手段50の要部であるメイン水タンク52の構造に関し、一部を切り欠いて示す概略斜視図である。
図8はメイン水タンク52の概略側面図である。
図7及び
図8に示されるように、傾斜角変更手段50は、メイン水タンク52と、該メイン水タンク52内への水の供給動作又は停止動作を行わせるボールタップ54と、メイン水タンク52内の水を、止水又は吐水させるゴムなどを素材とする止水バルブ56と、断熱性・保温性素材からなる集熱部58と、集熱部58内に収容されている形状記憶合金製の弦巻バネ(弾性部材)60等とを具備している。
【0025】
メイン水タンク52は、
図3に示されるように、建物の屋根面17に架台によって設置されており、止水バルブ56と連通している分岐部62は、メイン水タンク52の下部に設けられており、この分岐部62には導水パイプ64A,64Bが接続されている。これらのうち、導水パイプ64Aは傾動部20の上部側に設置されたサブ水タンク62Aに接続されているとともに、導水パイプ64Bは傾動部20の下部側に設置されたサブ水タンク62Bに接続され、それぞれの水タンク62A,62Bに、メイン水タンク52から水を導くことができるようになっている。導水パイプ64A,64Bは可撓性を有する素材、つまり、傾動部20の角度変化に追従することができる製品が好ましい。例えば布製のホースなどが考えられる。
【0026】
図7に示されるように、メイン水タンク52内には、ボールタップ54が配置され、このボールタップ54にはフロート54A、メイン水タンク用給水パイプ54B、集熱部導水用パイプ54Cを備え、フロート54Aは、メイン水タンク52内の水位によって上下動し、ボールタップ54によってメイン水タンク52内への水の供給量を調整する。つまり、メイン水タンク52内が水で一定の水位で満たされているときは、フロート54Aは最上部に位置し、メイン水タンク52の上部に配管されている図示しない水供給管及びメイン水タンク用給水パイプ54B、集熱部導水用パイプ54Cからの水の供給を停止させる。フロート54Aの材質としては、樹脂製又は銅製やステンレス製などの浮き玉が用いられ、又、止水バルブ56にはゴム製のものが用いられる。
【0027】
図7及び
図8に示すように、集熱部58は、メイン水タンク52の一面で、南側など太陽光が射しこむ位置に露出するようにして設置されており、この集熱部58はガラス或いはアクリルガラスなど、透明な材料を素材とする外筒58A、内筒58Bを備えている。
外筒58Aと内筒58Bとに囲まれたリング状の部分は、真空又は不活性ガスによる断熱層であり、集熱部58本体をデュワー瓶として、この集熱部58から放出される熱を極力少なくするようにしている。第一の実施形態では集熱部58に関し、内筒58A及び外筒58Bを有する二重構造のデュワー瓶としたが、断熱性を備えた一重構造とすることも可能である。
【0028】
さらに、内筒58Bの内面には、太陽光の赤外線を選択的に吸収し得る熱吸収層が形成され、集熱部58に太陽光が入射した際の温度上昇に対する形状記憶合金製の弾性部材の熱応答性を向上させている。
加えて、集熱部58は、形状記憶合金製の弾性部材である弦巻バネ60、索条68、管状部材70、球状部材72、網状部74等を備え、弦巻バネ(弾性部材)60は、集熱部58の上部位置に配置されているとともに、その一端(下端)は索条68の上端と接続されている。
【0029】
一方、索条68は、集熱部58内では管状部材70内に収容され、その下端は集熱部58の下方を、略水平方向へと引き回されて止水バルブ56と連結され、これによって止水バルブ56を、弦巻バネ(弾性部材)60及び索条68によって生じる張力で開閉可能としている。管状部材70としては線状のワイヤ(索条)を収納可能なアウターケーブルなどが用いられる。
【0030】
弦巻バネ(弾性部材)60の一端(下端)60Aは、集熱部58内にて、管状部材70よりも上方に位置し、管状部材70によって覆われずに露出して設けられ、弦巻バネ60の他端(上端)60Bは、前述の網状部74によって吊り下げられて、集熱部58内に設置されている。弦巻バネ60は、常温のときは伸びた状態となって弾性力が働かない一方、集熱部58内に太陽光が射しこむことによって集熱部58の内部が高温になり、それに伴って弦巻バネ60の温度が上昇した場合に、形状記憶合金の作用により弦巻バネ60がコイル状に縮み、その弾性付勢力が前述の索条68に作用する。弦巻バネ60は、この索条68に接続されていることから、索条68を介して止水バルブ56を開放するX方向に張力が働く。これによって、メイン水タンク52内に貯められている水を分岐部62へと導き、ひいては導水パイプ64A,64Bから水をサブ水タンク62A,62Bへ送水するようになっている。
【0031】
傾動部20に設置されているソーラーパネル12の裏面には、気化促進シートである、水を吸収する不織布などからなる冷却水吸収膜13が貼り付けられており、サブ水タンク62A,62B内の水を少しずつ導くことによって冷却水吸収膜13を湿らせ、その水分が蒸発することによって生じる気化熱によりソーラーパネル12を裏面側から冷却するようになっている。これにより、日中に気温が上昇し、晴天時に直射日光にさらされた場合でも、ソーラーパネル12の温度上昇を抑制することが可能となり、発電効率の低下を防ぐことができる。
【0032】
また、集熱部58は、その上端部に水導入口59が形成され、その水導入口59の下側には、熱によって膨張又は収縮する球状部材72が、下方側の網状部74との間に挟まれるようにして配置され、この球状部材72によって集熱部58の内部側を閉塞又は開放可能としている。
或いは、球状部材72には吸水性を有する吸水性樹脂を使用することも可能である。つまり、水を吸収して膨張する性質を有するとともに、乾燥すると縮んで体積が減少する性質を有する素材、例えば高分子材料の複合体によって形成された球体などが用いられる。
【0033】
このため、球状部材72が膨らんだ場合は水導入口59を塞ぎ、一方、水導入口59から水が供給されない場合は球状部材72が乾燥することから収縮して体積が減少する。このため、前述の集熱部導水用パイプ54Cから供給される水は、水導入口59及び網状部74を通って集熱部58内へと導かれ、この集熱部58内に導入された水は、弦巻バネ60を直接冷却して常温に戻す働きがある。
なお、第一の実施形態では閉塞動作を行わせる部材として、球状部材72を用いているが、形状は必ずしも高分子材料又は球状に限られず、水分を吸収若しくは放出、或いは温度変化により体積が変化する材料であれば、その素材、形状は問わない。
【0034】
上記のように構成した第一の実施形態の太陽エネルギー収集システムの作用・機能は以下の通りである。
日の出から朝方のように太陽高度が低い時間帯では、
図1~
図3に示されるように、傾動部20は、水平方向を基準とした場合、傾動角度θ1で太陽光を受光するようになっている。また、
図8に示されるように、通常時、メイン水タンク52内は、ボールタップ54によって調整された水位Wの位置まで水で満たされている。
【0035】
そして、太陽高度が徐々に上昇するとともに、周囲の気温が上昇しつつあるとき、太陽光が、前述した
図7及び
図8における外筒58A及び内筒58Bを透過して集光部58内に入射することにより集熱部58内が暖められ、その内部にある形状記憶合金製の弦巻バネ(弾性部材)60の温度も上昇する。その場合、弦巻バネ60は、形状記憶合金としての作用により全長が縮む方向、つまりコイルがより密となる形状に変化する。そして、この弦巻バネ60の変化により索条68に張力が生じ、さらに弦巻バネ60の張力は、索条68を介して止水バルブ56を開放する。
即ち、集熱部58の内部は、太陽光が入射すると、その断熱性ゆえに高温となり、内側に配置されている形状記憶合金製の弦巻バネ60は、元の形状であるコイル状に戻るため、縮む方向、つまり
図8中で上方向へ弾性付勢力が生じる。その結果、索条68をY方向へ引っ張ることになって、止水バルブ56を開放する。
【0036】
止水バルブ56の開放により、メイン水タンク52内に貯留されている水は、分岐部62と通って導水パイプ64A,64Bからサブ水タンク62A,62Bへと送水される。サブ水タンク62A,62Bが水で、ある程度満たされると、ソーラーパネル12が設置されている傾動部20は、重心位置が上側となる。このため、傾動部20は傾動軸部22を支点として、
図3の状態から
図6に示される状態へ移行し、回動して第一の傾動角度のθ1から、ほぼ屋根面と平行(第二の傾動角度)となって浅くなる。これによって、支持用架台14に傾動部20によって設置されているソーラーパネル12は、太陽光に対して垂直に近い角度で光を受けることができるようになる。
【0037】
また、サブ水タンク62A,62B内の水は、ソーラーパネル12の裏面に貼り付けられた冷却水吸収膜13に、図示しない浸透部材又はホース等によって、少しずつ導かれて冷却水吸収膜13を湿らせ、その水分が蒸発することによって生じる気化熱によりソーラーパネル12を裏面側から冷却する。このため、日中に気温が上昇した場合でも、ソーラーパネル12の温度上昇が抑制され、パネル面の温度上昇による発電効率の低下を防止することができる。
【0038】
その後、メイン水タンク52の水が抜けきって空になると、ボールタップ54のフロート54Aも下降し、これによってメイン水タンク52への給水が、メイン水タンク用給水パイプ54Bによって行われる。また、同時に集熱部導水用パイプ54Cからも水が、集光部58内に供給される。このとき、水導入口59を閉塞していた球状部材72は、通常の水位W線よりも上にあることから、水との接触がないために乾燥して収縮することにより体積が減少しており、供給された水を水導入口59から、集光部58内に導入することができるようになっている。
【0039】
或いは、球状部材72として、熱による膨張・収縮可能な素材を用いた場合は、導入された水に、球状部材72が曝されることにより冷やされて体積が収縮して水を水導入口59から、集光部58内に導入することができる。
そして、集光部58内の弦巻バネ60は、集光部58内に導入された水によって冷やされ、弾性付勢力が生じない伸びた状態となり、この結果、索条68に生じていた張力も解除される。これによって、止水バルブ56は、開放からタンクを閉塞する位置へと移動し、メイン水タンク52内に水を貯めることが可能な状態となる。水がメイン水タンク52内に供給されると、ボールタップ54は、メイン水タンク52内の水位がW線となってフロート54Aが上昇したときに、水の供給を停止する。
【0040】
一方、サブ水タンク62A,62B内の水は前述したように、徐々にソーラーパネル12の裏面に取り付けられた冷却水吸収膜13を濡らすように染み出るが、この染み出ていく量の最適化、又は、傾動軸部22の位置つまり支点の位置の最適化を図ることによって、傾動角度を調節することができる。即ち、サブ水タンク62A,62B内の水量、傾動軸部22の位置によって傾動部20の重心位置は変化することから、これらの値に関し、最適な量又は位置とすることで、傾動部20の傾動開始の温度などを設定することができる。なお、サブ水タンク62A,62B内の水が抜けきった場合は、傾動角度は、
図3に示されるθ1へ戻るが、このθ1へ戻り始める気温等の諸条件についても、同様に、サブ水タンク62A,62Bからの水の染み出し量、支点位置(傾動軸部22の位置)によって設定できることになる。
【0041】
第一の実施形態によれば、ソーラーパネル12の傾動角度を、電力などのエネルギーを消費することなく、集光効率の高い角度とすることが可能であり、太陽エネルギーの有効利用に資する。また、日中のパネル本体が高温となる時間帯にソーラーパネルを冷却することができ、発電効率の向上を図ることができ、そのための構造が簡素化されているので、コスト的にも安価であるという長所を有している。
【0042】
次いで、本発明に係る太陽エネルギー収集システムの第二の実施形態について説明する。なお、第二の実施形態では、主に集熱部の構造のみが前述した第一の実施形態と相違し、他の部分は同様であることから集熱部の構造について説明する。
図9は、第二の実施形態における集熱部80を示す側面説明図である。同図は、メイン水タンク50に取り付けられる集熱部80の要部を示しており、その他の部分に関しては省略して図示している。
【0043】
同図に示される集熱部80は、筒状部材82に、3枚の凸レンズ84A,84B,84Cを設置して構成されている点が前述の第一の実施形態の集熱部58と異なる。
それらの凸レンズのうち、凸レンズ84Aが傾斜角度β1、凸レンズ84Bが傾斜角度β2,凸レンズ84Cが傾斜角度β3となるように、筒状部材82に取り付けられている。それぞれの凸レンズ84A,84B,84Cは、その焦点位置が、筒状部材82内に設けられている線材86上に対して結ぶよう、各レンズの屈折率が設定されている。このため、それぞれの凸レンズ84A,84B,84Cから入射した太陽光は、各レンズによる集光効果により線材86上に焦点を結び、これによって、線材86の温度を急速に上昇させることとなる。
また、各凸レンズ84A,84B,84Cは、それぞれ角度を変えて筒状部材82に設置されていることから、太陽の高度が時間又は季節によって変化した場合に、その太陽光の角度変化に対応することができる。
【0044】
筒状部材82は、断熱性を備えた透明の材質を素材とし、その内部には第一の実施形態における集熱部58と同様に、形状記憶合金製の弾性部材である線材86が、その一端を網状部材74に取り付けられて設置されている。線材86は、常温では直線状であるが、所定の温度以上となることでコイル状に変形し、引っ張り力が生ずるようになっている。線材86の下端は索条68と接続され、前述した第一の実施形態と同様に、索条68は止水バルブ56の開閉動作を行うことができるようになっている。
【0045】
即ち、第二の実施形態では集光作用を筒状部材82に設けられた3個の凸レンズ84A,84B,84Cによって行わせるようにしている。このため、筒状部材82の構造を簡略化することが可能であるとともに、形状記憶合金製の線材86の弾性力を利用して、傾動部20の傾斜角の変更動作を、第一の実施形態と同様の作用により行わせることが可能となる。この結果、集熱部80の構造のシンプル化が可能となり、コストの低減を図ることができる。
なお、第二の実施形態では、筒状部材82に3個の凸レンズ84A,84B,84Cを設置しているが、その数の増減は勿論可能である。さらに、透明な筒状部材82の一部を凸状に加工形成し、この凸状の部分の働きにより太陽光を集光して、その焦点を弾性部材としての線材86に合致させることにより、瞬時に線材86を温めてコイル状として収縮させることも同様に可能である。
【0046】
図10は、第二の実施形態における集熱部80に太陽光が入射した場合の作用を示す説明図で、
図10(a)は上部の凸レンズ84Aの角度がβ1のときに太陽光が、凸レンズ84Aに対して、ほぼ垂直に入射する場合である。
図10(a)に示されるように、凸レンズ84Aに入射した太陽光は、その集光作用により形状記憶合金製の線材86を加熱する。この加熱によって線材86は、凸レンズ84Aの焦点付近L1~L1でコイル状となって、索条68を上方向に引っ張ることになる。これによって、索条68に接続されている止水バルブ56を開放し、メイン水タンク52内の水をサブ水タンク62A,62Bへ導くことができる。その後、前述した第一の実施形態と同様な作用により、ソーラーパネル12が設置された傾動部20を傾けることができるとともに、各ソーラーパネル12について、その裏面から冷却することが可能となる。
【0047】
図10(b)は、太陽光が下部の凸レンズ84Cを経て集熱部80に入射した場合を示す説明図で、凸レンズ84Cに太陽光が入射することにより索条68がコイル状となって縮むことから、下方部分を延長して示している。この場合も同様に、凸レンズ84Cの焦点付近L2~L2で、線材86がコイル状となって、索条68を上方へ引っ張ることで止水バルブ56を開放し、
図10(a)の場合と同様の作用により傾動部20を傾ける動作が行われる。
以上の第二の実施形態によれば、集熱部80に使用する筒状部材82に関し、二重構造とする必要がなくなり、コスト的に安価であるという長所を有する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、構成部品の数が少なくて済む一方で、動力を必要とすることなく、季節や時間によって変化する太陽光に対し、最適な傾斜角度となるようにソーラーパネルを傾動させることが可能であり、集光効率の大幅な向上に寄与する。本発明は再生可能エネルギー分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 太陽エネルギー収集システム
12 ソーラーパネル
13 冷却水吸収膜(気化促進シート)
14 支持用架台
15 16 固定部
18A 18B 立上部
20 傾動部
22 傾動軸部
24A 24B 緩衝部材
50 傾斜角変更手段
52 メイン水タンク
54 ボールタップ
54A フロート
54B メイン水タンク用給水パイプ
54C 集熱部導水用パイプ
56 止水バルブ
58 集熱部
59 水導入口
58A 外筒
58B 内筒
60 弦巻バネ(形状記憶合金製)
62 分岐部
64A 64B 導水パイプ
68 索条
70 管状部材
72 閉塞部材
74 網状部
80 集熱部
82 筒状部材
84A 84B 84C 凸レンズ
86 線材
【要約】 (修正有)
【課題】部品点数が少なく、構造が簡素化され、安価に製造することが可能な太陽エネルギー収集システムの提供。
【解決手段】ソーラーパネル12が設置される傾動部20を傾動可能に支持する支持用架台14と、傾斜角変更手段50とを具備し、傾斜角変更手段50は、メイン水タンク52と、メイン水タンク52内への水の供給・停止を行うボールタップと、メイン水タンク52内の水を、止水又は吐水させる止水バルブと、断熱性・保温性素材からなる集熱部と、形状記憶合金製の弾性部材とを有し、弾性部材の一端はメイン水タンク52内の止水バルブと接続され、常温では弾性部材は弾性力が働かない一方、該集熱部内に太陽光が射しこむことによって弾性部材が所定温度以上となった際に弾性力が働くことにより止水バルブを開放して、メイン水タンク52から水を吐水させて、サブ水タンク62A,62B内に水を導入することにより、傾動部20の傾斜角度を変更する。
【選択図】
図3