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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】金属溶湯濾過ユニット
(51)【国際特許分類】
   C22B 9/02 20060101AFI20240805BHJP
   B01D 29/11 20060101ALI20240805BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20240805BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20240805BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20240805BHJP
   C22B 21/06 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C22B9/02
B01D29/10 501C
B01D29/10 510C
B01D39/20 D
B22D1/00 Z
B22D43/00 C
C22B21/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024529975
(86)(22)【出願日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2023042950
【審査請求日】2024-05-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 健介
(72)【発明者】
【氏名】堤 英気
(72)【発明者】
【氏名】川口 一彦
(72)【発明者】
【氏名】高岡 稔
(72)【発明者】
【氏名】松永 真一
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第210261926(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第114672677(CN,A)
【文献】特開2014-210254(JP,A)
【文献】特開平01-184237(JP,A)
【文献】特開昭60-230944(JP,A)
【文献】特開2007-169709(JP,A)
【文献】特開2007-204836(JP,A)
【文献】特開平10-237561(JP,A)
【文献】特開2006-176883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 23/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯濾過ユニットであって、
略平行に配置された、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ、および、前記複数のセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板を含み、
前記複数のセラミックス製濾過チューブは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部、および他方の第2の端部を有し、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、
濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLとし、濾過チューブの外径をDとし、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLとし、濾過チューブの内径をDとするとき、以下の2つの関係式:
(1)L/D≧8.5
(2)L/D≦21
のいずれも満たし、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部において、前記第1の端部での内径が、前記第2の端部での内径よりも大きい、金属溶湯濾過ユニット。
【請求項2】
金属溶湯濾過ユニットであって、
略平行に配置された、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ、および、前記複数のセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板を含み、
前記複数のセラミックス製濾過チューブは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部、および他方の第2の端部を有し、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、
濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをL とし、濾過チューブの外径をD とし、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをL とし、濾過チューブの内径をD とするとき、以下の2つの関係式:
(1)L /D ≧8.5
(2)L /D ≦21
のいずれも満たし、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部において、前記第1の端部の開口形状が、長手方向視にて、前記一対の側板のうちの出湯側の側板に設けられた略円形の貫通孔の濾過チューブ配設側端部の開口形状を包含している、金属溶湯濾過ユニット。
【請求項3】
金属溶湯濾過ユニットであって、
略平行に配置された、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ、および、前記複数のセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板を含み、
前記複数のセラミックス製濾過チューブは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部、および他方の第2の端部を有し、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、
濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをL とし、濾過チューブの外径をD とし、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをL とし、濾過チューブの内径をD とするとき、以下の2つの関係式:
(1)L /D ≧8.5
(2)L /D ≦21
のいずれも満たし、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部において、前記第1の端部での内径が、前記第2の端部での内径よりも大きく、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部において、前記第1の端部の開口形状が、長手方向視にて、前記一対の側板のうちの出湯側の側板に設けられた略円形の貫通孔の濾過チューブ配設側端部の開口形状を包含している、金属溶湯濾過ユニット。
【請求項4】
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部において、前記第1の端部での内径が、前記第2の端部での内径の100.5%以上120%以下である、請求項1または請求項3に記載の金属溶湯濾過ユニット。
【請求項5】
前記出湯側の側板の貫通孔において、その出湯側の端部の内径が濾過チューブ配設側の端部の内径よりも小さい、請求項2または請求項3に記載の金属溶湯濾過ユニット。
【請求項6】
前記出湯側の側板の貫通孔において、前記の出湯側端部の内径が、前記の濾過チューブ配設側端部の内径の80%以上99.5%以下である、請求項5に記載の金属溶湯濾過ユニット。
【請求項7】
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、その長手方向の各端部において、前記側板に穿設された凹部に対して、この凹部に適合した形状を有するパッキンを介して嵌合され、固定されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過ユニット。
【請求項8】
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部が、25%以上50%以下の気孔率を有する多孔性物質で形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属溶湯濾過ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム等の金属溶湯を濾過する金属溶湯濾過ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の製造に用いられるアルミニウム等の金属溶湯には、通常、不純物として水素や酸化物等の非金属の介在物が含まれる。例えば、金属溶湯中の溶存水素は鋳物中にポロシティーと呼ばれる鋳巣を形成し、また酸化物等は鋳物中の介在物となり得る。これらの鋳巣や介在物は、いずれも鋳物の破壊起点となり得るため好ましくない。そこで、金属溶湯を濾過し、当該金属溶湯に含まれる介在物等を除去するための濾過装置が開発されてきた。
【0003】
この目的を達するため、典型的には、金属溶湯から不純物を濾過するための複数のセラミックス製の濾過チューブを有する金属溶湯濾過ユニットが、入湯口および出湯口が設けられた濾過室内に戴置された金属溶湯濾過装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような金属溶湯濾過ユニットは、一般的に、複数のセラミックス製濾過チューブ、及び、この複数の濾過チューブの長手方向の両端にて互いに略平行に配設された一対の側板から構成されている。濾過室の入湯口から濾過室内に導入された金属溶湯は、一方の側板が設けられた濾過チューブの周壁面から入湯し、そこで不純物が濾過され、他方の側板が設けられた濾過チューブの逆側の末端から出湯し、次いで濾過室の出湯口から流出する。
【0004】
金属溶湯濾過ユニットにおける処理能力および効率の向上を目的として、金属溶湯の通湯量を増大させると共に、濾過チューブの使用寿命を延ばすことが試みられてきた。このような試みの一例として、一対の側板の一方に形成された複数の濾過チューブが挿入・保持される凹部の深さに対する隣り合う凹部同士の間隔の比を所定範囲内に調整すると同時に、隣り合う凹部同士の間隔を所定範囲内に調整した金属溶湯濾過ユニットが報告されている(特許文献2参照)。ここでは、複数の濾過チューブおよびこれに対応する凹部をこのような構成とすることによって、側板の強度を維持しつつ、濾過効率を高めることができるという効果が得られると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-4868号公報
【文献】特許第6295108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2にて報告された金属溶湯濾過ユニットのように、側板の強度維持に配慮しながら側板の凹部に挿入される複数のチューブをできる限り密に配置する技術においては、金属溶湯の通湯量の更なる増大および濾過チューブの使用寿命の更なる延伸のためには濾過チューブの本数をより増大させることが望まれる。しかし、濾過チューブの本数を過度に増大させると、濾過チューブに対応する凹部および出湯側の貫通孔を側板に多数形成することが必要になるため、側板の十分な強度を維持することが困難になる場合があるという不都合があった。
【0007】
従って、本発明が解決すべき課題の一つは、従来技術にない新規な金属溶湯濾過ユニットを与えることである。
また、本発明が解決すべき更なる課題は、上記不都合が解消された、すなわち、側板の強度を高度に維持しつつ、金属溶湯の通湯量の更なる増大および増大した通湯量の下での安定な濾過、ならびに濾過チューブの使用寿命の更なる延伸を同時に成すことができる新規な金属溶湯濾過ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ、およびその長手方向の両端に配設された一対の側板を含む金属溶湯濾過ユニットにおいて、複数の濾過チューブの少なくとも一部が、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLの濾過チューブの外径Dに対する比L/Dを特定の下限以上に調整し、かつ、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLの濾過チューブの内径Dに対する比L/Dを特定の上限以下に調整することによって、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明者らは、このような構成を備えた金属溶湯濾過ユニットによれば、濾過チューブ外面の金属溶湯への露出部分の面積を大きくし、かつ、濾過チューブの内径としてある程度の大きさを確保することで、金属溶湯の通湯量(流量)をさらに増大させることができると共に、濾過チューブの単位面積あたりの通湯量を減少させることで濾過チューブの使用寿命をさらに延伸させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
このような本発明の典型的な一態様は、以下のとおりである。
金属溶湯濾過ユニットであって、
略平行に配置された、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ、および、前記複数のセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板を含み、
前記複数のセラミックス製濾過チューブは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部、および他方の第2の端部を有し、
前記複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、
濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLとし、濾過チューブの外径をDとし、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLとし、濾過チューブの内径をDとするとき、以下の2つの関係式:
(1)L/D≧8.5
(2)L/D≦21
のいずれも満たす、金属溶湯濾過ユニット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来技術にない新規な金属溶湯濾過ユニットが提供される。
さらに、本発明の好ましい態様の金属溶湯濾過ユニットによれば、側板の強度を高度に維持しつつも、金属溶湯の通湯量の更なる増大および増大した通湯量の下での安定な濾過、ならびに濾過チューブの使用寿命の更なる延伸を同時に成すことができ、ひいては、金属溶湯濾過ユニットにおける処理量の増大および処理効率の向上を図ることができるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1(a)】図1(a)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの概略図である。
図1(b)】図1(b)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットにおいて金属溶湯が濾過操作に供される機構を示す断面模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットにおける金属溶湯が出湯する側の第1の端部および他方の第2の端部を有するセラミックス製濾過チューブ、ならびにセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板を含む一部分の断面図である。
図3図3は、本発明の変形した一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットのセラミックス製濾過チューブの断面図である。
図4図4(a)および(b)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットにおけるセラミックス製濾過チューブの金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部と、出湯側の側板に設けられた略円形の貫通孔との関係を例示する図である。図4(a)は長手方向視の断面図であり、図4(b)は長手方向に垂直な水平方向視の断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの出湯側の側板に設けられた略円形の貫通孔において、濾過チューブ配設側の内径と出湯側の端部の内径との関係を例示する断面図である。
図6図6は、後述の実施例において、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの濾過性能を評価するための金属溶湯のヘッド高さTおよびTを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの構造および金属溶湯濾過の概略を図1(a)および(b)を参照して説明する。本図に示した構成は説明のため簡略化した一例であり、本発明の金属溶湯濾過ユニットはこれに限定されない。
【0013】
図1(a)および(b)において、1は金属溶湯濾過ユニット、2Aおよび2Bは濾過ユニットの両端に配設された一対の側板(それぞれ、金属溶湯が出湯する側に配された側板、およびこれと逆側に配された側板)、3は金属溶湯から不純物を濾過するための複数のセラミックス製濾過チューブ(以下、単に「濾過チューブ」とも称する)、2eは出湯側の側板の貫通孔である。本図に示していないが、濾過チューブの各末端とこれと対応する側板との間にそれらと嵌合可能な形状を有するパッキンが配置されていてもよい。このようなパッキンを設けることは必須ではないが、濾過チューブを側板に安定して固定可能とすること、および金属溶湯の漏出を確実に防止可能とすることの観点から、パッキンを配設することが好ましい。複数のセラミックス製濾過チューブ3は、互いに略平行に配置され、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状である。濾過チューブ3は、一般的にセラミック製の多孔質物質で形成されている。図1(b)に示す矢印のように、濾過チューブ3の内面および外面の間を金属溶湯が流通することによって金属溶湯に含まれる異物が濾過されて除去され得る。そして、異物の濾過処理を受けた金属溶湯の精製湯は、出湯側の側板の貫通孔2eから排出される。
【0014】
図1(a)および(b)の金属溶湯濾過ユニット1では、説明の容易のため、一例としてセラミックス製濾過チューブ3が4本のみ配設された構造が示されているが、これに限定されるわけではない。セラミックス製濾過チューブ3の個数は、複数個である限りは特に限定されず、例えば2個~50個、または3個~40個、または4個~30個、または5個~20個であってよい。セラミックス製濾過チューブ3の断面形状は、図示されているように、通常略円形であるが、一部に扁平な略楕円形状または略矩形等の略円形以外の断面形状のものを含む混成であってもよい。このような混成の場合、略円形以外の断面形状の濾過チューブの割合は、濾過チューブ全体の過半数未満であってよく、例えば3分の1未満であってよい。複数のセラミックス製濾過チューブ3は、通常、略水平状かつ略等間隔で横設されているが、一部において隣接するセラミックス製濾過チューブが直接接していてもよい。略水平状かつ略等間隔で横設されたセラミックス製濾過チューブ3が、複数列を形成している場合、それらの複数列も略等間隔で配置されていることが好ましい。
【0015】
図2には、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの濾過チューブの長手方向に対して垂直視した断面図が示されている。図2の実施形態の金属溶湯濾過ユニットにおいては、図示の都合上セラミックス製濾過チューブの一部が省かれているが、長手方向に更に延伸された構成を備える。
図2において、1は金属溶湯濾過ユニット、2Aは金属溶湯が出湯する側の側板、2Bは出湯側と逆側の側板(貫通孔を有さず閉塞されている)、2eは出湯側の側板に設けられた略円形の貫通孔、3は外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状のセラミックス製濾過チューブ、3aは濾過チューブの第2の端部における略円形の外側端面、3bは濾過チューブの第2の端部における略円形の内側端面、3cは濾過チューブの内面の金属溶湯に露出される部分、3dは濾過チューブの外面の金属溶湯に露出される部分、3eは濾過チューブの第1の端部における略円形の開口部、3wは濾過チューブの第1の端部における開口部を除く輪環状の端面、4Aは濾過チューブの第1の端部を固定するためのパッキン、4Bは濾過チューブの第2の端部を固定するためのパッキンを指す。図2においては、説明のため、複数存在するセラミックス製濾過チューブ3のうちの1つのみが示されている。セラミックス製濾過チューブ3は、濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部を除く端面3wおよびその周縁部、ならびに第1の端部とは逆側の第2の端部における外側端面3aおよびその周縁部のそれぞれにおいて、金属溶湯が出湯する側の側板2Aおよび出湯側と逆側の側板2Bのそれぞれに穿設された凹部(通常は略円形輪郭の周壁部を有する)と、パッキン4Aまたはパッキン4Bを介して嵌合する形で固定されている。ここで、側板2Aに穿設された凹部およびパッキン4Aまたは側板2Bに穿設された凹部およびパッキン4Bは、それぞれ、セラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部および逆側の第2の端部の形状に適合するように形成されており、第1の端部の側においては濾過チューブの開口部に対応した開口を有する。
【0016】
パッキン4Aおよびパッキン4Bは、濾過チューブ3の端面に接する平板状体である密着部のみから構成されていてよい。このような構成の場合、側板に穿設された凹部の周壁部は、濾過チューブ3の第1の端部および第2の端部の形状に適合するように略円形の断面形状を有し、また、濾過チューブ3の第1の端部および第2の端部におけるチューブ外径と、これに対応する側板に穿設された凹部の周壁部の径とは実質的に等しくなる。
あるいは、パッキン4Aおよびパッキン4Bは、濾過チューブ3の端面に接する平板状体である密着部、ならびに、濾過チューブ3の外面の縁部および側板に穿設された凹部の周壁部に接する環状体である封止部から構成されていてよい。パッキンのこれらの2つの部分は一体的に形成されていてもよいし、2つの独立した部材を接続・接合させたものであってよい。このような構成において、パッキンの密着部は、金属溶湯の設定温度などの環状条件による膨張や収縮などによる濾過チューブの長手方向の寸法変化を吸収し、濾過チューブと側板との密着性を保持する機能を有する。一方、パッキンの封止部は、濾過チューブと側板とを封止・接合させることにより金属溶湯濾過ユニット全体の形状を適切に保持する機能を有する。
パッキン4Aおよび/またはパッキン4Bの密着部は、濾過チューブ3の端部と側板2Aおよび/または側板2Bとの間で、側板2Aおよび/または側板2Bに穿設された凹部に対して圧縮された状態で固定されていてよい。パッキン4Aおよび/またはパッキン4Bの密着部の濾過チューブ長手方向の厚みは、非圧縮状態において、例えば、側板2Aおよび/または側板2Bに穿設された凹部の濾過チューブ長手方向の深さの5%以上80%以下であってよく、好ましくは10%以上70%以下、15%以上60%以下、18%以上50%以下、または20%以上40%以下であってよい。パッキン4Aおよび/またはパッキン4Bの密着部が側板2Aおよび/または側板2Bに穿設された凹部に対して圧縮されるときの圧縮率(非圧縮時の厚みに対する圧縮分の厚みの割合)は、例えば、0%超80%以下、10%以上70%以下、20%以上60%以下、または30%以上50%以下であってよい。圧縮されたときのパッキンの厚みは、例えば、側板2Aおよび/または側板2Bに穿設された凹部の濾過チューブ長手方向の深さの2%以上50%以下、4%以上40%以下、5%以上30%以下、6%以上20%以下、または7%以上15%以下であってよい。
【0017】
図2に例示された金属溶湯濾過ユニット1において、金属溶湯が出湯する側の側板2Aおよび出湯側と逆側の側板2Bは、パッキン4Aおよびパッキン4Bを介してセラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部および逆側の第2の端部のそれぞれが嵌合・固定され得るように穿設された凹部を備える限り、特にその形状は限定されない。側板2Aおよび側板2Bの各々は、通常、扁平な板状であってよい。側板2Aおよび側板2Bの底部は、各々平坦であってもよい。あるいは、濾過チューブ3の長手方向を略水平とした場合において、側板2Aおよび側板2Bの少なくとも一方は、いずれか一方の底辺が他方の底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備えていてもよい。金属溶湯濾過ユニット1が金属溶湯濾過装置の炉床(図2に示さず)上に載置されるとき、側板2Aおよび/または側板2Bの底部をこのような構成とすることによって、出湯側の側板2Aの側端面が濾過ユニットの自重によって濾過装置の内壁面に押圧されることになるため、出湯側の側板2Aの貫通孔2e(複数)と濾過装置の内壁面に設けられた出湯口とが正確な位置で確実に継続的に連通され得るように濾過ユニットを安定的に載置することが可能になる。側板の構造に係る実施形態の詳細については、更に別項にて後述する。
【0018】
図2では、セラミックス製濾過チューブ3は、第2の端部から第1の端部に至るまで同一の外面および内面における略円形断面を有する円筒状として例示されている。
図2において、
[i].濾過チューブ3の外面の金属溶湯に露出される部分3dの長手方向長さ、すなわち、濾過チューブ3の出湯側とは逆側の第2の端部の外面において、出湯側と逆側の側板2Bおよびパッキン4Bによって覆われていない部分の末端点から、出湯側の第1の端部の外面において、出湯側の側板2Aおよびパッキン4Aによって覆われていない部分の末端点までの長手方向長さをLとし、
[ii].濾過チューブ3の内面の金属溶湯に露出される部分3cの長手方向長さ、すなわち濾過チューブ3の出湯側とは逆側の第2の端部における内側端面3bから出湯側の第1の端部における端面3wまでの長手方向長さをLとし、
[iii].濾過チューブ3の外径(本図では第2の端部から第1の端部に至るまで同一の大きさ)をDとし、
[iv].濾過チューブ3の内径(本図では第2の端部から第1の端部に至るまで同一の大きさ)をDとするとき、
通常、以下の関係式が満たされる。
(1)L/D≧8.5
(2)L/D≦21
ここで、濾過チューブ3の「長手方向」とは、出湯側の第1の端部における端面3wの外周円の中心と、出湯側とは逆側の第2の端部における外側端面3aの外周円の中心とを結ぶ方向を指すものとする。
また、濾過チューブ3の外面および/または内面における長手方向に垂直な断面形状である「略円形」が完全な円形でない場合、その断面形状の外接円によって外径および/または内径を定めるものとする。
【0019】
セラミックス製濾過チューブ3が上記関係式(1)を満たすことによって、濾過チューブの外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さが、濾過チューブの外径に対して所定値以上の高い比率を有するまで延設されるように調整され、それによって外側露出部分の面積が増大することで、金属溶湯の通湯量を更に増大させることができ、増大した通湯量の下でもより安定した濾過を行うことができると同時に、濾過チューブの単位面積あたりの通湯量が減少することで、濾過チューブの使用寿命を更に延ばすことができ、ひいては金属溶湯の濾過効率が大幅に向上し得る。
また、セラミックス製濾過チューブ3が、上記関係式(1)に加えて上記関係式(2)を満たすことによって、濾過チューブの内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さが、濾過チューブの内径に対して所定値以下に抑制された比率を有するように調整され、それによって異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の流路が十分に確保されることで、精製湯の出湯側への流通を促進する効果、すなわち増大した金属溶湯の円滑な流通・通湯を可能にする効果が与えられ、上述の金属溶湯の濾過効率の向上効果との両立を図ることができるという大きな利点が得られる。
【0020】
上記関係式(1)L/D≧8.5において、上述の観点から、好ましくは、L/D≧8.6、L/D≧8.7、L/D≧8.8、またはL/D≧8.9であってよく、さらに好ましくは、L/D≧9.0、L/D≧9.1、L/D≧9.2、L/D≧9.3、L/D≧9.4、L/D≧9.5、L/D≧9.6、L/D≧9.7、L/D≧9.8、L/D≧9.9、またはL/D≧10であってよい。あるいは、L/D≧10.5、L/D≧11、L/D≧11.5、またはL/D≧12であってもよい。
上記関係式(2)L/D≦21において、上述の観点から、好ましくは、L/D≦20.5、L/D≦20、L/D≦19.5、L/D≦19、L/D≦18.5、L/D≦18、L/D≦17.5、またはL/D≦17であってよい。あるいは、L/D≦16.5、L/D≦16、L/D≦15.5、L/D≦15、L/D≦14.5、L/D≦14、L/D≦13.5、L/D≦13、L/D≦12.5、またはL/D≦12であってもよい。
【0021】
複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の各々が、第2の端部から第1の端部に至るまで同一の外面および内面における円形断面を有する円筒状である場合(すなわち、第2の端部から第1の端部に至るまで同一の大きさの外径を有し、第2の端部から第1の端部に至るまで同一の大きさの内径を有する場合)において、複数の濾過チューブ3は通常それぞれ同一の外径および内径を有するが、少なくとも一部の濾過チューブにおいて異なる外径および/または内径を有していてもよい。そのような場合、濾過チューブ3の外径Dおよび/または内径Dは、複数の濾過チューブ全体の外径および/または内径の平均値を指すものとする。
【0022】
変形した実施形態において、複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部は、金属溶湯の出湯側とは逆側の第2の端部から第1の端部に至るまでの一部または略全体において、第2の端部におけるものと異なる外面および/または内面における円形断面を有していてよい、すなわち、第2の端部におけるものから変化した外径および/または内径を有していてよい。濾過チューブの外径および/または内径が、第2の端部における外径および/または内径と変化する割合は、例えば20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下であってよい。
このようにセラミックス製濾過チューブ3が、第2の端部におけるものから変化した外径および/または内径を有する場合の外径Dおよび/または内径Dは、濾過チューブの第2の端部における外側端面3aの外径および/または濾過チューブの第2の端部における内側端面3bの内径を指すものとする。そして、上述のような複数の濾過チューブ3の外径Dおよび/または内径Dの平均値による定義は、このように複数の濾過チューブの少なくとも一部が第2の端部から第1の端部に至るまでの一部または略全体において、第2の端部におけるものと異なる外面および内面における円形断面を有する場合にも適用される。
【0023】
複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部が、金属溶湯の出湯側とは逆側の第2の端部から第1の端部に至るまでの一部または略全体において、第2の端部におけるものから変化した外径および/または内径を有している形態の中でも、異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への流通促進の観点から、当該部分において濾過チューブの内径が第2の端部から第1の端部への長手方向に沿って大きくなっていることが好ましい。換言すれば、異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への流通を促進する観点から、複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きいことが好ましい。このような構成によって精製湯の出湯側への円滑な流通が促進され、ひいては、金属溶湯の濾過効率が更に向上し得る。また、複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きいとき、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの外径は、それとは逆側の第2の端部における外側端面3aでの外径と略同一であることがより好ましい。このような構成によって、濾過ユニット全体の構造的強度を良好に保ち、側板に穿設された凹部の設計を容易にすると共に、複数存在する濾過チューブの間隔・配列を最適化して濾過効率をより向上させることができる。
【0024】
複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きい形態としては、例えば、濾過チューブの一部または略全体において、第2の端部から第1の端部への長手方向に沿っていわゆる逆テーパー状の傾斜を有して内径が連続的に増大する形態や、第2の端部から第1の端部への長手方向に沿って濾過チューブの内径が一定である複数部分を含んで内径が階段状に増大している形態が挙げられる。異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への流通を更に促進する観点から、濾過チューブの一部または略全体において、第2の端部から第1の端部への長手方向に沿っていわゆる逆テーパー状の傾斜を有して内径が連続的に増大する形態が好ましく、濾過チューブの全体において、第2の端部から第1の端部への長手方向に沿っていわゆる逆テーパー状の一定の傾斜を有して内径が連続的に増大する形態がより好ましい。
【0025】
上記の各変形形態を含めた本発明の諸実施形態において、セラミックス製濾過チューブ3外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL、濾過チューブ3の外径D、濾過チューブ3内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL、および濾過チューブ3の内径Dは、上記関係式(1)および(2)を満たす限り、特に限定されるものではないが、例えばこれらの径は以下の範囲であってよい。
濾過チューブ3外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLは、例えば、通常300mm以上5000mm以下であってよく、好ましくは、400mm以上4000mm以下、500mm以上3000mm以下、600mm以上2500mm以下、700mm以上2000mm以下、または800mm以上1500mm以下であってよい。
濾過チューブ3の外径Dは、例えば、通常30mm以上300mm以下、好ましくは40mm以上250mm以下、50mm以上200mm以下、60mm以上150mm以下、または70mm以上120mm以下であってよい。
濾過チューブ3内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLは、例えば、通常400mm以上5000mm以下であってよく、好ましくは、500mm以上4000mm以下、600mm以上3000mm以下、700mm以上2000mm以下、または800mm以上1500mm以下であってよい。
濾過チューブ3の内径Dは、例えば、通常15mm以上200mm以下、好ましくは20mm以上150mm以下、25mm以上100mm以下、30mm以上90mm以下または35mm以上85mm以下であってよい。
【0026】
図3には、変形した実施形態の好ましい一例として、セラミックス製濾過チューブ3の全体において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きく、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの外径がそれとは逆側の第2の端部における外側端面3aでの外径と同一である形態が示されている。本図の濾過チューブ3において、第2の端部から第1の端部への長手方向に沿って全体的にいわゆる逆テーパー状の一定の傾斜を有して内径が連続的に増大している。セラミックス製濾過チューブ3のこのような構造によって、異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への円滑な流通を更に促進することができる。
【0027】
金属溶湯の濾過処理を十分に行いつつ、異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への円滑な流通を促進するため、複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きい形態において、通常、濾過チューブの第1の端部での内径は第2の端部での内径の100.5%以上120%以下であってよい。金属溶湯の濾過処理を十分に行いつつ、精製湯の出湯側への円滑な流通を更に促進し、ひいては濾過効率をより向上させる観点から、好ましくは、濾過チューブの第1の端部での内径は第2の端部での内径の100.6%以上118%以下、100.7%以上116%以下、100.8%以上114%以下、100.9%以上112%以下、101%以上110%以下、101.5%以上110%以下、102%以上110%以下、102.5%以上110%以下、または103%以上110%以下であってよい。
【0028】
図4(a)及び(b)は、一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットにおける、円筒状のセラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の略円形の開口部3eと、出湯側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eとの関係を例示する。図4(a)は長手方向視の断面図であり、図4(b)は長手方向に垂直な水平方向視の断面図である。
ここで、図4(b)に示されているように、円筒状のセラミックス製濾過チューブ3の長手方向に延びる内面の金属溶湯に露出される部分3cは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部の縁において略円形の開口部3eを形成する。一方、出湯側の側板2Aは、略円形の貫通孔2eを形成すると共に、貫通孔2eの濾過チューブ配設側の端部の周縁にて、濾過チューブ3の第1の端部を包含する形状の凹部が穿設されている。そして、濾過チューブ3の金属溶湯の出湯側の第1の端部における輪環状の端面3wおよび濾過チューブ3の長手方向に延びる外面の金属溶湯に露出される部分3dの端部の環状周縁を包接するように、パッキン4Aを介して、濾過チューブ3の第1の端部と出湯側の側板2Aとが嵌合され、固定されている。図4に示された一実施形態においては、出湯側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eの濾過チューブ配設側端部の開口形状は、貫通孔2eの濾過チューブ配設側とは逆側、すなわち出湯側の開口形状と同じである。このように、図4の一実施形態において、出湯側の側板2Aの略円形の貫通孔2eにおける出湯側端部の内径は、側板2Aの貫通孔2eにおける濾過チューブ配設側端部の内径Sと等しくなっている。
【0029】
そして、この一実施形態では、図4(b)に併せて図4(a)に示されているように、セラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部3eの形状は、長手方向視にて、出湯側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eの濾過チューブ配設側端部の開口形状を包含(内包)している。すなわち、セラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部3eの直径(濾過チューブ3の第1の端部における内径)D2yは、側板2Aの貫通孔2eにおける濾過チューブ配設側端部の内径Sよりも大きい。換言すれば、側板2Aの貫通孔2eにおける濾過チューブ配設側端部の内径Sは、濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部に設けられた略円形の開口部3eの直径D2yよりも小さい。この実施形態では、S<D2yの範囲である限り特に限定されないが、SのD2yに対する割合([S/D2y]×100(%))は、通常80%以上100%未満、好ましくは、85%以上100%未満、90%以上100%未満、95%以上100%未満、98%以上100%未満、99%以上100%未満、99.5%以上100%未満、または99.9%以上100%未満であってよい。
このように、側板2Aの貫通孔2eにおける濾過チューブ配設側端部の内径Sを濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部3eの直径D2yよりも小さい構造とすることによって、濾過チューブ3の第1の端部における内面縁部が金属溶湯に対して露出されることがないため、当該箇所での濾過チューブ3の劣化・脱粒が効果的に抑制され、濾過チューブの寿命を更に延ばすことができる。
なお、図4の実施形態において、濾過チューブ3の第1の端部の開口部3eおよび/または側板2Aの貫通孔2eの断面形状の略円形が完全な円形でない場合、その断面形状の外接円によってD2yおよび/またはSを定めるものとする。
【0030】
図5の断面図は、一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットの金属溶湯が出湯する側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eにおいて、セラミックス製濾過チューブ3が配設された側(すなわち本図ではパッキン4Aが配設されている側)の端部の内径Sと出湯側の端部の内径Siiとの関係を例示する。図示されているように、本実施形態にて、金属溶湯が出湯する側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eにおいて、出湯側の端部の内径Siiは濾過チューブ3が配設された側の端部の内径Sよりも小さく形成されている。貫通孔2eにおける出湯側の端部の内径Siiを濾過チューブ3が配設された側の端部の内径Sよりも小さくする手段としては、図示されているように一定の角度または変化する角度の傾斜(テーパー形状)を設けてもよいし、1つまたは複数の階段状の段差を設けても良い。
【0031】
図5の実施形態では、S>Siiの範囲である限り特に限定されないが、SiiのSに対する割合([Sii/S]×100(%))は、通常80%以上99.5%以下、好ましくは、83%以上99.4%以下、85%以上99.3%以下、87%以上99.2%以下、89%以上99.1%以下、90%以上99%以下、91%以上99%以下、または92%以上99%以下であってよい。
このように、金属溶湯が出湯する側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eにおいて、出湯側の端部の内径Siiを濾過チューブ3が配設された側の端部の内径Sよりも小さい構造とすることによって、異物の濾過処理が不十分な状態のまま金属溶湯が濾過ユニットから出湯することを抑制し、濾過処理済みの精製湯における異物の含有可能性を更に低減させることができる。
【0032】
本明細書において、ここまで述べた諸実施形態のいずれか2つ以上を互いに組み合わせることができ、さらに所望される場合には、それと後述のいずれかの実施形態とを組み合わせることもできる。
例えば、図3に例示された実施形態(複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きい実施形態)と、図4に例示された実施形態(セラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部3eの形状が、長手方向視にて、出湯側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eの濾過チューブ配設側端部の開口形状を包含・内包している実施形態)とを組み合わせることができる。
または、図3に例示された実施形態と、図5に例示された実施形態(金属溶湯が出湯する側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eにおいて、出湯側の端部の内径Siiが濾過チューブ3が配設された側の端部の内径Sよりも小さく形成されている実施形態)とを組み合わせることができる。
または、図4に例示された実施形態と図5に例示された実施形態とを組み合わせることができる。
または、図3図4、および図5に例示された3つの実施形態を組み合わせることができる。
これらの実施形態の各々によって得られる上述の利点は、これらの実施形態の組み合わせにおいても同様に相加的に奏され、減殺または相殺されることはない。
【0033】
特に好ましい一例は、図3図4および図5に例示された3つの実施形態、すなわち、<1>複数存在するセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部において、金属溶湯の出湯側の第1の端部における端面3wでの内径がそれとは逆側の第2の端部における内側端面3bでの内径よりも大きい実施形態;<2>セラミックス製濾過チューブ3の金属溶湯が出湯する側の第1の端部の開口部3eの形状が、長手方向視にて、出湯側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eの濾過チューブ配設側端部の開口形状を包含・内包している実施形態;<3>金属溶湯が出湯する側の側板2Aに設けられた略円形の貫通孔2eにおいて、出湯側の端部の内径Siiが濾過チューブ3が配設された側の端部の内径Sよりも小さく形成されている実施形態を組み合わせるように変形された実施形態である。
これにより、各実施形態について上述された利点の全てが得られる。すなわち、この実施形態によれば、異物の濾過処理を受けた金属溶湯(精製湯)の出湯側への円滑な流通を更に促進することができ、加えて、濾過チューブの第1の端部における内面縁部での濾過チューブの劣化・脱粒が効果的に抑制され、濾過チューブの寿命を更に延ばすことができると共に、異物の濾過処理が不十分な状態のまま金属溶湯が濾過ユニットから出湯することを抑制し、濾過処理済みの精製湯における異物の含有可能性を更に低減させることができる。
【0034】
好ましい一実施形態において、金属溶湯濾過ユニット1の複数のセラミックス製濾過チューブ3の少なくとも一部は、通常、25%以上50%以下の気孔率を有する多孔性物質で形成されていてよい。このような範囲の気孔率を有する多孔性物質で濾過チューブ3を形成することによって、濾過チューブによる金属溶湯中の異物の除去・濾過性能と、濾過チューブの寿命の延長(短期間での濾過性能低下の抑制)とのバランスの最適化を図り、ひいては濾過効率を向上させることができる。濾過チューブを形成する多孔性物質の気孔率は、上記観点から、好ましくは25%以上45%以下、28%以上42%以下、または30%以上40%以下であってよい。
【0035】
セラミックス製濾過チューブ3が上記範囲の気孔率を有する多孔性物質で形成されている実施形態において、多孔性物質を構成する骨材の例としては、炭化ケイ素、電融アルミナ、焼結アルミナなどのアルミナのうち1種以上が挙げられるが、これに限定されるものではない。多孔性物質を構成する骨材は、好ましくは電融アルミナ、焼結アルミナなどのアルミナのうち1種以上であってよい。
【0036】
セラミックス製濾過チューブ3の多孔性物質を構成する骨材の平均粒子径は、特に限定されないが、気孔率を上記範囲内に調節する観点から、通常200μm以上2500μm以下であってよい。セラミックス製濾過チューブ3の骨材の平均粒子径は、好ましくは250μm以上2000μm以下であってよく、より好ましくは500μm以上1700μm以下であってよい。
ここでの濾過チューブの多孔性物質を構成する骨材の「平均粒子径」は、濾過チューブの長手方向に対して垂直な断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を撮像し、かかるSEM画像からインターセプト法により骨材の粒子径を測定し、その平均を求めた値である。具体的には、濾過チューブの断面のSEM画像に任意の線を引き、かかる線と交差した骨材の粒子について、その長径と短径とを測定する。次いで、粒子形状を楕円とし、長径および短径の平均値を、その骨材の粒子径とする。そして、別の視野の複数のSEM画像も撮像し、撮像した複数のSEM画像を用いて前述の測定を繰り返し、500個以上の骨材の粒子径を測定した後、統計的に処理することで、濾過チューブの断面組織における骨材の平均粒子径を求める。また、上述の濾過チューブの「気孔率」は、濾過チューブの寸法および質量に基づいて実際の密度を算出し、濾過チューブ(例えば、主原料である炭化ケイ素、アルミナ等のセラミックス材料および少量の無機結合剤を含んでなる)の理論密度に対する比として算出され得る。
【0037】
金属溶湯濾過ユニット1のセラミックス製濾過チューブ3以外の各部分を構成する材料の例について、以下に説明する。
金属溶湯濾過ユニット1のパッキン4Aおよびパッキン4Bにおける濾過チューブ3の端面に接する平板状体である密着部は、例えば、アルミナ繊維やセラミックスファイバー等のセラミックスファイバー製の材質、具体例としては、塩基性塩化アルミニウムとシリカの反応生成物などで形成されていてよい。また、パッキン4Aおよびパッキン4Bにおける濾過チューブ3の外面の縁部に接する環状体である封止部は、例えば、ファイバー系の材質、典型的には、アルミナ-シリカ系のセラミックスファイバーに無機バインダを含有させたもので形成されていてよい。密着部と封止部とが一体的に構成されている態様においては、上述のいずれの材料で形成されていてもよい。
【0038】
次に、金属溶湯濾過ユニット1を構成するセラミックス製濾過チューブ3の製造方法の非限定的な一例について概略を説明する。
セラミックス製濾過チューブ3の製造方法は、混練、成形、乾燥、脱脂および焼成の各工程を含んでいてよい。
【0039】
混練工程は、例えば上述した骨材の原料粒子と無機結合材とを含む混合物を混練し、坏土を調製する工程である。具体的には、骨材粒子と、無機結合材と、有機バインダと、水とを含み、セラミックス製濾過チューブ3の原材料を構成する混合物を、例えば混合攪拌機などの混練装置を用いて混練することで得ることができる。
【0040】
骨材粒子としては、例えば上述した材質のものを用いることができる。また、無機結合材としては、例えば、三酸化ホウ素、アルミナ、酸化マグネシウムおよびシリカのうち1種以上を用いることができる。この中でも、無機結合材として三酸化ホウ素およびアルミナを用いると、焼成によりその一部が反応し、9Al・2Bの針状結晶が生成することがある。
【0041】
有機バインダとしては、例えば、デンプン系、セルロース系および多糖類系のうち1種以上を用いることができる。水としては、含有する不純物が少ない脱イオン水または蒸留水が好適に使用されうる。骨材粒子を適切に焼成させるために、さらに焼成助剤を添加して混練してもよい。また、必要に応じて、有機造孔剤、潤滑剤、可塑剤および離型剤などの任意選択の各種添加剤を添加して混練してもよい。
【0042】
成形工程は、混練工程によって得られた坏土を、予め用意した成形用の型に充填し、成形する工程である。これに次いで行われる乾燥工程は、成形工程によって得られた成形体を乾燥させる工程である。かかる乾燥工程により、成形体から水分が除去される。
【0043】
脱脂工程は、乾燥工程において水分が除去された成形体から有機バインダ等の有機成分を除去する工程である。予め定められた温度、時間等の諸条件下に成形体が晒されることにより、成形体に含まれる有機成分が分解、除去されうる。また、有機造孔剤が除去された場合には、有機造孔剤の形状に対応する気孔が生成し得る。
【0044】
焼成工程は、脱脂工程において有機成分が除去された成形体を、焼成装置で焼成する工程である。焼成により得られる焼成体に対して、必要により端部の加工処理等を施して、セラミックス製濾過チューブ3を得ることができる。
【0045】
<側板の構造に関する追加の実施形態>
本発明に係る金属溶湯濾過ユニットが備える一対の側板自体の構造は、添付の請求の範囲にて規定される以外は特に限定されない。これら2つの側板は、各側板が略直方体の板状である実質的に同一の外形を有する形態に加えて、以下の項目(1)~(3)に例示されるとおりの創意工夫された形状または寸法に関する特定の関係を満たすものであってよい。
(1).金属溶湯濾過ユニットの追加実施形態1
金属溶湯濾過ユニットの追加の一例として、以下のとおり特定される一対の側板を備えるものが挙げられる。
一対の側板と
前記一対の側板に対して略垂直に接続された略円筒状の濾過チューブと
を備えた金属溶湯濾過ユニットであって、
前記一対の側板は、
前記濾過チューブに接続した箇所に貫通孔を備えた第一側板と、
前記濾過チューブに接続した箇所が閉塞されている第二側板と、を備え、
前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板の少なくとも一方は、左側底辺又は右側底辺のいずれか一方が他方の底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備える、
前記金属溶湯濾過ユニット。
【0046】
この追加の実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットは、更に以下の非限定的な構成を備えるものであってよい。
(i)
前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記第一側板が、左側底辺又は右側底辺のいずれか一方が他方の底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備え、
前記第一側板が、左側底辺が右側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備える場合、前記第二側板は、左側底辺が右側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備え、又は
前記第一側板が、右側底辺が左側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備える場合、前記第二側板は、右側底辺が左側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された底部を備える。
(ii)
前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板の少なくとも一方が、左側底辺又は右側底辺のいずれか一方が他方の底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された段差部を備える。
(iii)
上記(ii)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板が、左側底辺が右側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された段差部を備える。
(iv)
上記(ii)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記段差部が、最低部である第一底部及び第一底部よりも鉛直方向に高く位置するように形成された第二底部からなり、
前記第一底部の水平方向の長さW1と、前記第二底部の水平方向の長さW2との比(W1/W2)が、0.1以上6.0以下である、但し、W1及びW2は前記濾過チューブの長手方向に平行な方向の長さである。
(v)
上記(ii)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記段差部が、最低部である第一底部及び第一底部よりも鉛直方向に高く位置するように形成された第二底部からなり、
前記第一底部の水平方向の長さW1と、前記第一底部から前記第二底部までの鉛直方向の長さH2との比(W1/H2)が、0.1以上11以下である、但し、W1は前記濾過チューブの長手方向に平行な方向の長さである。
(vi)
前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板の少なくとも一方が、左側底辺又は右側底辺のいずれか一方が他方の底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成され、最低部である第一底部及び前記第一底部から鉛直方向に高く位置する底辺までをつなぐ傾斜部を有する底部を備える。
(vii)
上記(vi)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記第一底部の水平方向の長さW1’と、前記傾斜部の水平方向の長さW2’との比(W1’/W2’)が、0以上6.0以下である、但し、W1’及びW2’は前記濾過チューブの長手方向に平行な方向の長さである。
(viii)
上記(vi)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記第一底部の水平方向の長さW1’と、前記傾斜部の前記第一底部と接する端部から前記傾斜部の他方の端部までの鉛直方向の長さH2’との比(W1’/H2’)が、0以上320以下である、但し、W1’は前記濾過チューブの長手方向に平行な方向の長さである。
(ix)
上記(viii)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記傾斜部と鉛直方向のなす角θ1が60°以上89°以下である。
(x)
上記(vi)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板が、左側底辺が右側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成され、最低部である第一底部及び前記第一底部から左側底辺までをつなぐ傾斜部を有する底部を備える。
(xi)
上記(vi)において、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、
前記一対の側板が、右側底辺が左側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成され、最低部である第一底部及び前記第一底部から右側底辺までをつなぐ傾斜部を有する底部を備える。
(xii)
金属溶湯の出湯口を備える金属溶湯濾過装置であって、
前記一対の側板が、前記濾過チューブの長手方向を略水平とし、かつ前記第一側板が前記濾過チューブの左側に位置し、及び前記第二側板が前記濾過チューブの右側に位置した場合、右側底辺が左側底辺よりも鉛直方向に高く位置するように形成された傾斜部を備える、上記(ix)に記載の金属溶湯濾過ユニットが、前記第一側板が前記出湯口と接するように配置され、
前記濾過装置は、炉床に前記金属溶湯濾過ユニットと接する面と水平面とのなす角θ2を有する、くさび形の突起部を備え、θ2はθ1とθ2の和が61°以上114°以下を満たす、
前記濾過装置。
【0047】
(2).金属溶湯濾過ユニットの追加実施形態2
金属溶湯濾過ユニットの追加の一例として、以下のとおり特定される一対の側板を備えるものが挙げられる。
一対の側板と、
前記一対の側板の各々に対して略垂直に接続された略円筒状の濾過チューブと
を備えた金属溶湯濾過ユニットであって、
前記一対の側板は、
前記濾過チューブに接続した箇所に貫通孔を備えた第一側板と、
前記濾過チューブに接続した箇所が閉塞されている第二側板とを備え、
各側板は、側板の底面から垂設された少なくとも1つの脚部を備え、
前記濾過チューブの長手方向を略水平とした場合、前記第二側板の脚部の鉛直方向の最低位は、前記第一側板の脚部の鉛直方向の最低位よりも低い、
前記金属溶湯濾過ユニット。
【0048】
この追加の実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットは、更に以下の非限定的な構成を備えるものであってよい。
(i)
前記濾過チューブの長手方向を略水平とした場合、前記第二側板の脚部の鉛直方向の長さに対する、前記第一側板の脚部の鉛直方向の長さの比が、0.20以上1.0未満である。
(ii)
金属溶湯濾過ユニットにおける全ての脚部の接地面積の合計が、前記一対の側板の底面積の合計に対して、0.015以上0.075以下である。
(iii)
上記(ii)において、金属溶湯濾過ユニットにおける全ての脚部の接地面積の合計が、前記一対の側板の底面積の合計に対して、0.020以上0.060以下である。
(iv)
少なくとも、第一側板に脚部を2つ備え、第二側板に脚部を1つ備える。
(v)
上記(iv)において、少なくとも、第一側板の底面の長手方向の両端部近傍に2つの脚部を備え、第二側板の底面の長手方向の略中心部に1つの脚部を備える。
【0049】
(3).金属溶湯濾過ユニットの追加実施形態3
金属溶湯濾過ユニットの追加の一例として、以下のとおり特定される一対の側板を備えるものが挙げられる。
一対の側板と、
前記一対の側板の各々に対して略垂直に接続された略円筒状の濾過チューブと
を備えた金属溶湯濾過ユニットであって、
前記一対の側板は、
前記濾過チューブに接続した箇所に貫通孔を備えた第一側板と、
前記濾過チューブに接続した箇所が閉塞されている第二側板とを備え、
各側板は、側板底面から垂設された脚部を備え、
第一側板に備えられた脚部の数が、第二側板に備えられた脚部の数より、少なくとも1つ多い、
前記金属溶湯濾過ユニット。
【0050】
この追加の実施形態に係る金属溶湯濾過ユニットは、更に以下の非限定的な構成を備えるものであってよい。
(i)
第一側板に脚部を2つ備え、第二側板に脚部を1つ備える。
(ii)
第一側板の底面の長手方向の両端部近傍に2つの脚部を備え、第二側板の底面の長手方向の略中心部に1つの脚部を備える。
(iii)
金属溶湯濾過ユニットを水平面に載置したときに鉛直上方から観察した場合における、濾過チューブの長手方向における金属溶湯濾過ユニットの長さ及び側板の長手方向長さの積で表される金属溶湯濾過ユニット面積をS1とし、
金属溶湯濾過ユニットの全ての脚部の接地面積の合計面積をS2とし、
面積比S2/S1が、0.0020以上0.015以下である。
【実施例
【0051】
以下に、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明する。
これらの実施例は、本発明を何ら限定するものではなく、単なる例示として理解されるべきである。
【0052】
セラミックス製濾過チューブの製造例1
平均粒子径が600μmの電融アルミナ(「骨材粒子」)100質量部に対し、無機結合材を10質量部混錬した。無機結合材として、以下の化合物を含む材料を用いた:三酸化ホウ酸45質量%、アルミナ20質量%、酸化マグネシウム20質量%、シリカ10質量%、NaOを0.01質量%、Kを0.01質量%、CaOを0.2質量%。次いで、この電融アルミナおよび無機結合材を含む坏土を用いて、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ円形であり、一方の端部(第1の端部)が開口しており、他方の端部(第2の端部)が閉塞された円筒状の成形体を作製した。この成形体を80℃で8時間、乾燥し、次いで900℃で6時間、脱脂処理を行った。その後、焼成炉内で、乾燥および脱脂処理済みの成形体を1250℃で7時間にわたって焼成し、セラミックス製濾過チューブを製造した。上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが900mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLが930mm、濾過チューブの内径Dが60mmとなるように成形体のサイズを調整した。濾過チューブの外径Dおよび内径Dは、長手方向の全体にわたって一定とした。濾過チューブの骨材の平均粒子径は600μmであり、気孔率は38%であった(以降の製造例でも同様であった)。平均粒子径および気孔率の測定は上述された方法に従った。
【0053】
セラミックス製濾過チューブの製造例2
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが1000mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さLが1030mm、濾過チューブの内径Dが60mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0054】
セラミックス製濾過チューブの製造例3
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが1200mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL1230mm、濾過チューブの内径Dが60mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0055】
セラミックス製濾過チューブの製造例4
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが1000mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL1030mm、濾過チューブの内径Dが50mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0056】
セラミックス製濾過チューブの製造例5
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが1000mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL1030mm、濾過チューブの内径Dが70mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0057】
セラミックス製濾過チューブの製造例1C
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが800mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL830mm、濾過チューブの内径Dが60mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0058】
セラミックス製濾過チューブの製造例2C
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが820mm、濾過チューブの外径Dが80mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL850mm、濾過チューブの内径Dが40mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0059】
セラミックス製濾過チューブの製造例3C
上記円筒状の成形体を作製するにあたり、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さをLが820mm、濾過チューブの外径Dが100mm、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さL850mm、濾過チューブの内径Dが60mmとなるように成形体のサイズを調整した以外は、上記製造例1と同様にセラミックス製濾過チューブを製造した。
【0060】
金属溶湯濾過ユニットの製造
例1
主原料として炭化ケイ素を含む材料から形成された側板を2つ用意した。各側板は、厚み60mm、縦700mm、横720mmの扁平な板状体であった。金属溶湯が出湯する側の一方の側板には、60mmの円形の貫通孔(側板における濾過チューブ配設側およびその逆側の金属溶湯出湯側の内径が等しい孔)が側板の横方向に6つ設けられたセット3つと、同じサイズの貫通孔が側板の横方向に5つ設けられたセット2つとを、各貫通孔の間隔が55mmとなるように交互に設け、これらの貫通孔の合計数は28であった。金属溶湯が出湯する側とは逆側の側板には、このような貫通孔を設けなかった。また、各側板には、濾過チューブの各端部の形状(外径)に適合する円形断面を有する周壁面と、平面である底面を備えた凹部を設けた。凹部の側板の縦横面に対する深さ(濾過チューブの長手方向に対応する方向の深さ)は31.3mmとした。金属溶湯が出湯する側の一方の側板においては、各凹部の中央に上記貫通孔の各々が配置されるようにした。
60mm径の円形開口を有すると共に、上記凹部の底面に適合する形状を有する、厚みが6mmであるアルミナ繊維製のパッキンと、上記の円形開口を有しない以外は同様の構成であるパッキンとを用意した。上記の貫通孔が設けられた金属溶湯出湯側の側板の各凹部に上記の円形開口を有するパッキンを配置すると共に、上記の貫通孔が設けられていない側板の各凹部に上記の円形開口を有しないパッキンを配置した。そして、上記製造例1のセラミックス製濾過チューブの金属溶湯出湯側の開口部を有する第1の端部を、上記の貫通孔が設けられた金属溶湯出湯側の側板の各凹部およびこれに対応する上記の円形開口を有するパッキンに対して嵌合・固定し、この濾過チューブの閉塞された第2の端部を、上記の貫通孔が設けられていない側板の各凹部およびこれに対応する上記の円形開口を有しないパッキンに対して嵌合・固定した。金属溶湯の漏出を防止するため、各側板の両側から押圧してパッキンを元の50%である3mmの厚みになるように圧縮し、例1の金属溶湯濾過ユニットを得た。
【0061】
例2~5および例1C~3C
上記製造例1のセラミックス製濾過チューブに替えて、上記製造例2~5および製造例1C~3Cのセラミックス製濾過チューブの各々を用い、それぞれの濾過チューブの内径に対応するサイズの貫通孔を設けた側板、およびこれに対応するサイズの開口を有するパッキンを用いた以外は、例1と同様にして例2~5および例1C~3Cの金属溶湯濾過ユニットを得た。
【0062】
濾過性能の評価
上で得られた例1~例5および例1C~例3Cの各々の金属溶湯濾過ユニットに対し、以下の(1)および(2)の測定・評価を行った。その結果を、これらのユニットのセラミックス製濾過チューブの構造ファクターと併せて以下の表1に示す。
(1)濾過室内での金属溶湯のヘッド高さ変化量の測定
金属溶湯の入湯口および出湯口を有する濾過室の炉床上に上記金属溶湯濾過ユニットを載置し、この入湯口を通じて金属溶湯濾過ユニットの濾過チューブにアルミニウムの金属溶湯(720℃)を所定量供給し、濾過室内のアルミ溶湯液面高さ(以降「ヘッド高さ」とも称する)の変化量を測定した。具体的には、濾過開始時の濾過室内の金属溶湯ヘッド高さTを測定し、濾過チューブ1本あたり40トン(t)の金属溶湯を通湯させた後の金属溶湯ヘッド高さTを測定した(参考用の図6参照)。この測定試験において、濾過チューブ1本当たりの金属溶湯の流速を16kg/分(約950kg/時)に設定した。参考に付した図6において、1は金属溶湯濾過ユニット、2Aは出湯側の側板、2Bは入湯側の側板、2eは出湯側の側板に設けられた貫通孔、3はセラミックス製濾過チューブ、5は濾過室、6は濾床、6Aおよび6Bの各々は炉床に設けられた台座、7は濾過室の筐体、Iは濾過室への金属溶湯の入湯口、Oは濾過室からの金属溶湯の出湯口、Tは濾過開始時の濾過室内の金属溶湯ヘッド高さ、Tは濾過チューブ1本あたり40トンの金属溶湯を通湯させた後の金属溶湯ヘッド高さを指す。
濾過室内の金属溶湯ヘッド高さの変化量(T-Tの値)が低いほど、継続的な通湯を行った際のろ過抵抗が低く、安定的に使用できたことを意味する。そのため、濾過室内の金属溶湯ヘッド高さの変化量により、下記の3段階の点数で濾過の安定性を評価した。なお、表1にて、各例のヘッド高さ変化量(mm)および括弧内に点数を示した。
3点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が<50mmであった。
2点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が50mm以上100mm以下であった。
1点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が>100mmであった。
(2)金属溶湯の所定ヘッド高さ変化量に達するまでの通湯量の測定(セラミックス製濾過チューブの寿命の評価)
セラミックス製濾過チューブに介在物が捕集されることで金属溶湯が通湯する流路が少なくなると、濾過室の金属溶湯ヘッド高さは経時的に高くなる。一般的に、金属溶湯の濾過は自然流下により行われる。目詰まりした濾過チューブで金属溶湯を濾過する場合、通湯に十分な圧力を生み出すためのヘッド高さが必要となるが、ヘッド高さが高くなると金属溶湯が濾過室の槽内から溢れる危険性や、濾過速度の低下が考えられる。本試験では、濾過前と濾過後の金属溶湯ヘッド高さの変化量が120mmとなるまでの通湯量(トン/本)を測定することで、濾過チューブの寿命を評価した。なお、本試験は上記(1)の金属溶湯ヘッド高さの測定試験を継続して行い、最終的な金属溶湯ヘッド高さの変化量(T-Tの値)が120mmとなった際の通湯量(トン/本)を算出して行った。この試験では、通湯量に応じて下記の3段階の点数で濾過チューブの寿命を評価した。なお、表1にて、各例の通湯量(トン/本)および括弧内に点数を示した。
3点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が120mmとなるまでの通湯量が>60トン/本(濾過チューブ1本あたり60トン超)であった。
2点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が120mmとなるまでの通湯量が50トン/本~60トン/本であった(金属溶湯ヘッド高さの変化量が120mmとなるまでの濾過チューブ1本あたりの通湯量が50トン以上60トン以下であった)。
1点:金属溶湯ヘッド高さの変化量が120mmとなるまでの通湯量が<50トン/本(濾過チューブ1本あたり50トン未満)であった。
(3)セラミックス製濾過チューブの濾過性能の総合的評価
上記(1)及び(2)の試験結果の合計点にて、セラミックス製濾過チューブの濾過性能の総合的な評価を行った。A評価およびB評価の例では、金属溶湯の濾過量が増加しても、通湯させる際のヘッド高さが低く、安定して濾過できると共に、濾過寿命も長く良好であった。一方で、C評価の例は、金属溶湯の濾過量が増加すると、ヘッド高さが高くなるため、濾過室の槽内からの金属溶湯の溢れ出し等や濾過量も総じて少ない点が懸念され、操業するにあたり適当とは言えない。なお、表1にて、各例の評価および括弧内に合計点数を示した。
A評価:6点
B評価:4~5点
C評価:3点以下
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示された結果から明らかなように、本発明による関係式(1)L/D≧8.5および(2)L/D≦21を満たすセラミックス製濾過チューブを含む金属溶湯濾過ユニットを用いることにより、これらの関係式のいずれかを満たさない場合と比べて、金属溶湯の通湯量(流量)を十分確保しつつ安定な濾過が可能になると共に、濾過チューブの寿命が大幅に向上することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の金属溶湯濾過ユニットは、側板の強度を高度に維持しつつも、金属溶湯の通湯量の更なる増大および増大した通湯量の下での安定な濾過、ならびに濾過チューブの使用寿命の更なる延伸を同時に成すことができ、ひいては、金属溶湯濾過ユニットにおける処理量の増大および処理効率の向上を図ることができるため、濾過室内に載置した金属溶湯濾過装置の形態でアルミニウム等の金属溶湯から介在物を除去するために好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0066】
1:金属溶湯濾過ユニット
2A:出湯側の側板
2B:出湯側と逆側の側板
2e:出湯側の側板に設けられた貫通孔
3:セラミックス製濾過チューブ
3a:濾過チューブの第2の端部における外側端面
3b:濾過チューブの第2の端部における内側端面
3c:濾過チューブの内面の金属溶湯に露出される部分
3d:濾過チューブの外面の金属溶湯に露出される部分
3e:濾過チューブの第1の端部における開口部
3w:濾過チューブの第1の端部における端面
4A:濾過チューブの第1の端部を固定するためのパッキン
4B:濾過チューブの第2の端部を固定するためのパッキン
:濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さ
:濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分の長手方向長さ
:濾過チューブの外径
:濾過チューブの内径
2x:濾過チューブの第2の端部での内径
2y:濾過チューブの第1の端部での内径
:出湯側の側板の貫通孔における濾過チューブ配設側端部での内径
ii:出湯側の側板の貫通孔における出湯側端部での内径
5:濾過室
6:濾床
6A、6B:炉床に設けられた台座
7:濾過室の筐体
I:濾過室への金属溶湯の入湯口
O:濾過室からの金属溶湯の出湯口
:濾過開始時の濾過室内の金属溶湯ヘッド高さ
:濾過チューブ1本あたり40トンの金属溶湯を通湯させた後の金属溶湯ヘッド高さ
【要約】
本発明は、金属溶湯濾過ユニット(1)であって、略平行に配置された、外面および内面において長手方向に垂直な断面形状がそれぞれ略円形である円筒状の複数のセラミックス製濾過チューブ(3)、および、複数のセラミックス製濾過チューブの長手方向の両端に配設された一対の側板(2A,2B)を含み、複数のセラミックス製濾過チューブは、金属溶湯が出湯する側の第1の端部、および他方の第2の端部を有し、複数のセラミックス製濾過チューブの少なくとも一部は、濾過チューブ外面の金属溶湯に露出される部分(3d)の長手方向長さをLとし、濾過チューブの外径をDとし、濾過チューブ内面の金属溶湯に露出される部分(3c)の長手方向長さをLとし、濾過チューブの内径をDとするとき、以下の2つの関係式:(i)L/D≧8.5(ii)L/D≦21のいずれも満たす、金属溶湯濾過ユニットである。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4
図5
図6