(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-02
(45)【発行日】2024-08-13
(54)【発明の名称】押出機並びに押出機のベント装置及び押出機のベント方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/48 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
B29B7/48
(21)【出願番号】P 2024532384
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2022030087
(87)【国際公開番号】W WO2024029068
(87)【国際公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513238408
【氏名又は名称】大野 孝
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 孝
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221565(JP,A)
【文献】特開昭62-191505(JP,A)
【文献】実開昭59-194925(JP,U)
【文献】特開2000-210931(JP,A)
【文献】特開平11-070561(JP,A)
【文献】特開平11-268099(JP,A)
【文献】特開平11-058367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 7/00 - 11/14
B29C 48/00 - 48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融混錬体が一方向に押し出されるバレル孔の内周面に開口する貫通孔に一端が外部接続する筒状体と、
前記貫通孔に位置付けられ、螺旋状の溝が外周面に形成され、前記筒状体の内側において軸回転する螺旋体と、
前記螺旋体を通過して前記バレル孔から前記筒状体の内部空間に流入したガスを
大気側に排出する配管と、
前記筒状体に設けられ、その内部空間の内圧を計測する圧力計と、
前記配管に設けられ、
前記大気側に外部放出される前記ガスの排出量を調整する絞り弁と、
を備える押出機のベント装置。
【請求項2】
請求項1に記載の押出機のベント装置において、
前記螺旋体を先端に固定するシャフトを回転自在に支持し、前記筒状体の他端に接続する軸受け部と、
前記シャフトを回転させるモータ及び前記軸受け部を支持するフレームと、を備える押出機のベント装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の押出機のベント装置において、
前記溶融混錬体が押し出される方向に沿って複数
の前記ベント装置が設けられている
押出機。
【請求項4】
溶融混錬体が一方向に押し出されるバレル孔の内周面に開口する貫通孔に筒状体の一端を外部接続するステップと、
螺旋状の溝が外周面に形成された螺旋体を前記貫通孔に位置付けるステップと、
前記筒状体の内側において前記螺旋体を軸回転させるステップと、
前記螺旋体を通過して前記バレル孔から前記筒状体の内部空間に流入したガスを配管で
大気側に排出するステップと、
前記筒状体に設けられる圧力計で、前記内部空間の内圧を計測するステップと、
前記配管に設けられる絞り弁で、
前記大気側に外部放出される前記ガスの排出量を調整するステップと、を含む押出機のベント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献する樹脂複合材料の製造に適した押出機のベント技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液媒又は過剰な水分を持つ充填材を、合成樹脂に、分散・複合化させる樹脂複合材料の開発が進められている。そして、これらの樹脂複合材料に適した押出機の開発が進められている。混練温度における飽和蒸気圧よりも低くかつ大気圧よりも高い設定圧力でバイオマス由来の過剰水分を脱水する手段を押出機に設け、脱水時におけるバイオマスの凝集を抑制し、樹脂複合材料を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、シリンダの開口部に支持層で支持されたフィルタを有するベント装置を押出機に設け、水分排出の性能向上とベントアップの抑制効果の向上とを両立させ、樹脂複合材料を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。さらに、合成樹脂の連続相に、水と水素結合する吸水性物質の充填材が分散し、樹脂複合材料の熱流動温度における水分率が1%である樹脂複合材料を製造する技術が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4660528号公報
【文献】特許第5467796号公報
【文献】特許第7061239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フィルタ等で構成されるベント装置においては、安定した脱水を実現するために、混練条件を高温かつ高圧に設定する必要があった。また、そのようなフィルタは目詰まりしやすく、脱水能力の低下を回避するために、頻繁にメンテナンスする必要があった。このために、樹脂複合材料の溶融混錬体の水分率を低下させるに当り、上述した事情が、製造の効率化を妨げる要因となっている。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、混練条件の制限無く安定的に脱水でき、メンテナンスも特に必要とせず、SDGsの実現に貢献する樹脂複合材料を効率的に製造する押出機のベント技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る押出機のベント装置において、溶融混錬体が一方向に押し出されるバレル孔の内周面に開口する貫通孔に一端が外部接続する筒状体と、前記貫通孔に位置付けられ、螺旋状の溝が外周面に形成され、前記筒状体の内側において軸回転する螺旋体と、前記螺旋体を通過して前記バレル孔から前記筒状体の内部空間に流入したガスを大気側に排出する配管と、前記筒状体に設けられその内部空間の内圧を計測する圧力計と、前記配管に設けられ前記大気側に外部放出される前記ガスの排出量を調整する絞り弁と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、混練条件の制限無く安定的に脱水でき、メンテナンスも特に必要とせず、SDGsの実現に貢献する樹脂複合材料を効率的に製造する押出機のベント技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態において押出機に装着されたベント装置の断面図。
【
図3】本発明の実施形態においてベント装置が装着された押出機の上面透視図。
【
図4】本発明の実施形態においてベント装置が装着された押出機の側面透視図。
【
図5】本発明の実施形態に係る押出機のベント方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態において押出機30に装着されたベント装置10のX-Y断面図(後述する
図3のA-A断面図)である。
図2は実施形態に係るベント装置10の分解断面図である。
【0011】
このように、ベント装置10は、溶融混錬体が一方向(Z軸方向)に押し出されるバレル孔32の内周面に開口する貫通孔36に一端が外部接続する筒状体11と、この貫通孔36に位置付けられ螺旋状の溝15が外周面に形成され筒状体11の内側において軸回転する螺旋体12と、この螺旋体12を通過してバレル孔32から筒状体11の内部空間16に流入したガス又はドレン液を外部に排出する配管17と、を備えている。
【0012】
図2に示すように螺旋体12の外周面には、一条の螺旋状の溝15が形成されているが、二条以上の複数の螺旋状の溝15が形成される場合もある。このような螺旋体12は、筒状体11の内側に同軸配置されることで、筒状体11の内周面との隙間及び螺旋状の溝15を介して、シリンダ35のバレル孔32と筒状体11の内部空間16とを連通させる。
【0013】
貫通孔36は、筒状体11の中心軸がスクリュー31と直交する方向を向くように、バレル孔32の側面に開口している。そして筒状体11は、貫通孔36の外側にその一端が接続し、シャフト21をベアリング22で回転自在に支持する軸受け部20にその他端が接続する。なお、図示において筒状体11と軸受け部20とは直接接続されているが、スペーサ(図示略)を介して両者が接続する場合もある。このスペーサ(図示略)の長さを調整することで、貫通孔36における螺旋体12の位置を調整できる。
【0014】
そして、螺旋体12が固定された先端とは反対のシャフト21の基端には、軸継手27を介してモータ25が接続されている。このモータ25が回転することにより、先端の螺旋体12とともにシャフト21は、筒状体11の中心軸に対し同軸回転する。なお、螺旋体12のシャフト21にモータ25の回転軸が直結する態様を示しているが、モータ25は各種ギアを介してシャフト21に接続することで任意にレイアウトできる。
【0015】
このように、貫通孔36において螺旋体12が回転することで、溶融混錬体がバレル孔32からベントアップするのを抑制する。さらに、バレル孔32に留まる溶融混錬体から分離した水分やガスを、螺旋体12が配置する貫通孔36に通過させ、筒状体11の内部空間16に案内する。これら水分やガスは、螺旋状の溝15を伝う以外に、筒状体11の内周面と螺旋体12の隙間も伝って、バレル孔32から内部空間16に移動する。
【0016】
配管17は、筒状体11の内部空間16に流入したガス又はドレン液を外部に排出する。この配管17に設けられた絞り弁18は、必須の構成要素ではないが、開度を任意に設定することで筒状体11の内部空間16から外部への又はドレン液の排出量を調整する。なお、図示される配管17は、筒状体11の上側に基端が接続し、主にガスを排出する機能を持つが、筒状体11の下側に基端が接続される配管(図示略)により、主にドレン液を排出する機能を持たせる場合もある。
【0017】
絞り弁18は、内部空間16から大気側に外部放出される気体(水蒸気)に流動抵抗を可変して付与する。これにより、絞り弁18は、圧力計19で計測される内部空間16の内圧Pを、溶融混錬体の設定温度における飽和蒸気圧Pzから大気圧P0までの間で任意に設定できる。つまり、絞り弁18を完全に閉塞すれば内部空間16の内圧は、この飽和蒸気圧Pzに設定され、絞り弁18を完全に開放すればから大気圧P0に設定されることになる。さらに配管17の先端に減圧機器を接続することで、内部空間16の内圧を大気圧P0以下に設定することができ、溶融混錬体の脱水を促進する。
【0018】
フレーム26は、モータ25及び軸受け部20を支持するとともに、基礎40に載置された架台41に固定されている。
図2に示すように、ベント装置10の要素部品が構成されていることにより、メンテナンス時において、押出機30に対するベント装置10の取り付け・取り外し、並びに分解・再組立てを簡便に行える。
【0019】
図3は本発明の実施形態においてベント装置10が装着された押出機30の上面透視図である。
図4は同・側面透視図である。押出機30は、投入部37と、駆動部38と、シリンダ35と、ベント装置10と、から構成されている。シリンダ35の内部には、駆動部38の駆動力で回転するスクリュー31が設けられている。なお
図3においてスクリュー31は、二軸で構成されているが、押出機30は、このような二軸のものに限定されるものではなく、単軸もしくは三軸以上の多軸で構成される場合もある。
【0020】
投入部37は、合成樹脂及びその他配合物の混合物を密閉容器であるシリンダ35の内部に投入する。そしてシリンダ35は、合成樹脂が溶融する温度に設定されている為、スクリュー31の回転により、混合物を加熱混錬して溶融混錬体にする。
【0021】
ベント装置10は、密閉容器であるシリンダ35を開放し、溶融混錬体に含まれる水分を外部に排出させる。ベント装置10において脱水処理された溶融混錬体は、シリンダ35の最下流から吐出される。そして吐出された溶融混錬体は、ペレットに成形されるか、所定のバルク製品やフィルム製品に成形される。
【0022】
図3に示す押出機30は、溶融混錬体の押し出し方向(Z軸方向)に沿って、ベント装置10(10a,10b)が二段に設置されているが、設置段数に特に制限はない。そして溶融混錬体に含まれる水分は、絞り弁18(18a,18b)の絞り量が調整されたベント装置10(10a,10b)から順次排出される。なお、図示を省略するが、配管17の先端に減圧ポンプを設けたベント装置を最下流に設けることができる。
【0023】
それぞれに設けられている絞り弁18(18a,18b)の開度を調整して、ベント装置10(10a,10b)の内圧(圧力計19の値)が、上流からPa>Pb=P0と傾斜するように設定する。この場合、内圧Pbを設定するための絞り弁18の設定は全開となる。また、配管17の先端に減圧ポンプを設けた場合も、この場合の圧力計19の値Pcが大気圧P0よりも小さくなるように(P0>Pc)、絞り弁18を設定する。このように大気圧P0よりも高圧の内圧Paで最初に脱水し、段階的に内圧Pb、Pcを下げて設定することで、溶融混練体に含有する水分量が多い場合であっても、水分の過激な気化を防止し、安定的な脱水を実現できる。
【0024】
図5のフローチャートに基づいて本発明の実施形態に係る押出機30のベント方法を説明する(適宜、
図3参照)。まず、押出機30にベント装置10を外部接続し、筒状体11とバレル孔32を連通させる(S11)。そして、投入部37に原料を投入し、スクリュー31を軸回転させ、上流から下流に向けて押し出しながら、加熱しせん断応力を与え、原料を溶融混錬体にする(S12)。
【0025】
次に、ベント装置10の螺旋体12を軸回転させる(S13)。すると、貫通孔36の開口位置まで押し出された溶融混錬体は、圧力が低下し含有する水分が一気に気化・膨張する。この気化・膨張した水分(水蒸気)は、溶融混錬体の固形成分も巻き込んで、貫通孔36の外に飛び出そうとする。しかし、この固形成分は、軸回転する螺旋体12に押し返されて、貫通孔36を通過できず、バレル孔32のさらに下流に押し出されることになる。
【0026】
一方において、溶融混錬体から気化・膨張した水分(水蒸気)は、バレル孔32から螺旋体12をすり抜け貫通孔36を通過して、内圧Paに設定されたベント装置10aにトラップされる(S14)。そして、このトラップされた水蒸気(ガス成分)又はこの水蒸気が凝縮したドレン液は、配管17を介して外部に排出される(S15)。
【0027】
一方において、バレル孔32の上流側のベント装置10aを通過した溶融混錬体は、内圧Pb(<Pa)に設定された下流側のベント装置10bにおいて、さらに水分がトラップされ外部排出される(S16 Yes,S14、S15)。そして、ベント装置10(10a,10b)において脱水処理された溶融混錬体は、押出機30の最下流から吐出され、ペレットに成形されるか、所定のバルク製品やフィルム製品に成形される(S16 No、S17、END)。
【符号の説明】
【0028】
10…ベント装置、11…筒状体、12…螺旋体、15…螺旋状の溝、16…内部空間、17…配管、18…絞り弁、19…圧力計、20…軸受け部、21…シャフト、21…ベアリング、25…モータ、26…フレーム、27…軸継手、30…押出機、31…スクリュー、32…バレル孔、35…シリンダ、36…貫通孔、37…投入部、38…駆動部、40…基礎、41…架台、P(Pa,Pb)…内圧、P0…大気圧。