IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トーヨー科建株式会社の特許一覧

特許7532711瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造
<>
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図1
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図2
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図3
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図4
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図5
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図6
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図7
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図8
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図9
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図10
  • 特許-瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】瓦落下・飛散防止工法及び瓦落下・飛散防止構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 1/34 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
E04D1/34 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020123876
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2021124008
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020018894
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 令和 2年 7月10日 掲載アドレス https://www.youtube.com/ https://youtu.be/49kPtDNNZBI https://www.youtube.com/watch?v=49kPtDNNZBI&feature=youtu.be 掲載年月日 令和 2年 7月15日 掲載アドレス https://www.kawara-guard.jp/ https://www.kawara-guard.jp/service/ https://www.kawara-guard.jp/wp-content/themes/otasuke-child/pdf/k-guard_20200707.pdf 発行年月日 令和 2年 7月15日 発行者名 屋根瓦ガード工法協会 刊行物名 「屋根瓦NPガード工法」工法カタログ
(73)【特許権者】
【識別番号】520045583
【氏名又は名称】トーヨー科建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】末綱 威夫
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-085509(JP,A)
【文献】特開2019-132022(JP,A)
【文献】特開2012-057422(JP,A)
【文献】特開2009-197443(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104441834(CN,A)
【文献】特開昭60-055157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/00、1/34
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設瓦葺屋根の縦方向にアスファルトテープを貼り付け、連続する複数枚の瓦を連結する連結工程
前記連結工程の後に、縦方向に隣接する瓦間の段差部において、前記アスファルトテープを跨ぐようにシーリング樹脂を盛る瓦固定工程、
を備えることを特徴とする瓦落下・飛散防止工法。
【請求項2】
前記アスファルトテープを、瓦の山部狭面上に貼り付けることを特徴とする請求項1に記載の瓦落下・飛散防止工法。
【請求項3】
縦方向に連続する複数枚の瓦を連結するアスファルトテープと、
縦方向に隣接する瓦間の段差部において、前記アスファルトテープを跨ぐように盛られたシーリング樹脂を有することを特徴とする瓦落下・飛散防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設瓦葺屋根の瓦の落下、飛散を防止するための工法と、この工法で構築される構造に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国では、傾斜する屋根構造を有する建築物において、瓦葺屋根が広く用いられている。図7に一般的な瓦葺屋根の構造の概略図を示す。図7に示すように、瓦葺屋根は、下葺き材1の上に一定間隔で横方向に延びる複数本の瓦桟2を有し、瓦3の裏面に設けられた凸部を瓦桟2に引っ掛ける「引掛け桟瓦葺き」により構築されている。瓦は、その上縁と下縁の大部分で2枚の瓦が重複し、さらに上縁および下縁の右端と左端とで3枚の瓦が重複している。
瓦葺屋根は、台風、竜巻等による強風に弱いという欠点があるため、2001年には、瓦屋根標準設計・施工ガイドライン(非特許文献1)が策定された。このガイドラインに準拠した瓦葺屋根では、釘、ビス、結線等により、瓦同士、または瓦と瓦桟とが連結されている。
【0003】
令和元年の台風第15号では、千葉県を中心に大きな被害がもたらされたが、現地視察の結果、上記ガイドラインに沿った施工がされた家屋では被害がほとんど見られなかったのに対し、上記ガイドラインに沿っていない家屋では瓦のみならず、屋根そのものも飛散するといった大きな被害が確認された(非特許文献2)。
【0004】
住宅は、長く用いられるものであるため、築20年以上の家屋は多く残存している。また、2001年以降の建築であっても、上記ガイドラインに沿った施工がなされていない家屋も多く存在する。
地球温暖化に伴い、勢力の強い台風の日本列島への接近は今後も頻発することが予想され、これらのガイドラインに沿って施工がなされていない家屋での瓦葺屋根被害の発生が懸念される。ガイドラインに準拠していない瓦葺屋根を、ガイドラインに準拠した構造に葺き替えるには多額の費用がかかるため、安価で強風に耐えうる瓦落下・飛散防止工法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」 発行:社団法人全日本瓦工事業連盟、全国陶器瓦工業組合連合会、全国PCがわら組合連合会、平成13年8月13日発行、平成18年3月3日改定
【文献】「令和1年台風第15号による屋根被害視察報告書」 一般社団法人全日本瓦工事業連盟・全国陶器瓦工業組合連合会 合同調査チーム、2019年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既設瓦葺屋根における瓦の落下、飛散を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.既設瓦葺屋根の縦方向にアスファルトテープを貼り付け、連続する複数枚の瓦を連結する連結工程
を備えることを特徴とする瓦落下・飛散防止工法。
2.前記アスファルトテープを、瓦の山部狭面上に貼り付けることを特徴とする1.に記載の瓦落下・飛散防止工法。
3.既設瓦葺屋根の縦方向に隣接する瓦間の段差にシーリング樹脂で斜面を形成する平滑化工程、
前記シーリング樹脂の上を通るようにアスファルトテープを貼り付ける前記連結工程、
を備えることを特徴とする1.または2.に記載の瓦落下・飛散防止工法。
4.前記連結工程の後に、
縦方向に隣接する瓦間の段差部において、前記アスファルトテープを跨ぐようにシーリング樹脂を盛る瓦固定工程、
を備えることを特徴とする1.または2.に記載の瓦落下・飛散防止工法。
5.縦方向に連続する複数枚の瓦を連結するアスファルトテープを有することを特徴とする瓦落下・飛散防止構造。
【0008】
6.前記アスファルトテープが連結する瓦のうち、少なくとも両端に位置する瓦の瓦桟上方に孔部を穿孔する穿孔工程、
前記孔部にねじを締め込み、前記アスファルトテープを前記瓦桟に固定する固定工程、
を備えることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の瓦落下・飛散防止工法。
7.さらに、穿孔工程と固定工程との間に、前記孔部に接着剤を注入する注入工程を備えることを特徴とする6.に記載の瓦落下・飛散防止工法。
8.アスファルトテープの端部にシーリング樹脂を塗布し、端部をシーリング樹脂で封止する封止工程、を備えることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の瓦落下・飛散防止工法。
9.縦方向に隣接する瓦間の段差に斜面を形成するシーリング樹脂を有し、
前記シーリング樹脂の上を通るアスファルトテープにより複数枚の瓦が連結されており、
前記アスファルトテープが連結する瓦のうち少なくとも両端に位置する瓦が孔部を備え、
前記孔部に締め込まれたねじにより、前記アスファルトテープが瓦桟に固定されていることを特徴とする瓦落下・飛散防止構造。
10.縦方向に連続する複数枚の瓦を連結するアスファルトテープと、
縦方向に隣接する瓦間の段差部において、アスファルトテープを跨ぐように盛られたシーリング樹脂を有することを特徴とする瓦落下・飛散防止構造。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、既設の瓦葺屋根における瓦の落下、飛散を、安価かつ迅速に、防止することができる。本発明により、地震や強風等の災害時の瓦葺屋根の破損を抑えられ、さらに、落下、飛散する瓦による人的、物的被害を抑えることができる。本発明の瓦落下・飛散防止工法は、既設の瓦葺屋根の改修であり、瓦を葺き替えないため、廃棄物の発生量が極めて少ない。アスファルトテープは、数十年以上前からビル屋上の防水等に用いられており、信頼性が高く、耐久性、耐候性に優れている。アスファルトテープを瓦の山部狭面上に貼り付けることにより、アスファルトテープを貼り付ける際にシワになりにくく、また、屋根上での雨水の流れを阻害しない。アスファルトテープの上をトップコートで覆うことにより、アスファルトテープを保護することができ、また、アスファルトテープの端部が剥がれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一例である瓦落下・飛散防止構造を有する瓦葺屋根の概略図。
図2】本発明の一例である瓦落下・飛散防止構造を有する瓦葺屋根の部分拡大図。
図3】本発明の一例である瓦落下・飛散防止構造を有する瓦葺屋根の断面図。
図4】本発明の第一実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図5】本発明の第一実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図6】本発明の第一実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図7】一般的な瓦葺屋根の構造の概略図。
図8】本発明の第二実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図9】本発明の第二実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図10】本発明の第二実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
図11】本発明の第二実施態様である瓦落下・飛散防止工法の工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
・瓦落下・飛散防止構造
本発明の瓦落下・飛散防止構造は、縦方向に連続する複数枚の瓦を連結するアスファルトテープを有する。
図1、2にそれぞれ本発明の一例である瓦落下・飛散防止構造を有する瓦葺屋根の概略図、部分拡大図、図3図2のA-A’断面図を示す。
本発明の一例である瓦落下・飛散防止構造は、縦方向に隣接する瓦3間の段差に斜面を形成するシーリング樹脂4を有し、シーリング樹脂4の上を通るアスファルトテープ6により複数枚の瓦3が連結されており、アスファルトテープ6が連結する瓦のうち少なくとも両端に位置する瓦3A、3Bが孔部を備え、この孔部に締め込まれたねじ8A、8Bにより、アスファルトテープ6が瓦桟2A、2Bに固定されていることを特徴とする。
また、一例である瓦落下・飛散防止構造において、アスファルトテープ6は、プライマー5の上に貼られ、かつ、トップコート7に覆われている。さらに、孔部は接着剤9が注入され、ねじ8をねじ込む際に隙間から流出した接着剤9により、瓦3A、3C、3E間、瓦3Eと瓦桟2Aとが接着されている。
【0012】
・瓦落下・飛散防止工法
本発明の瓦落下・飛散防止工法は、本発明の瓦落下・飛散防止構造を構築するためのものである。
【0013】
・第一実施態様
以下、本発明の第一実施態様である瓦落下・飛散防止工法を、上記した一例である瓦落下・飛散防止構造の図2に示す部分を構築する工程順に沿って説明する。
「平滑化工程」
既設瓦葺屋根の縦方向に隣接する瓦3A、3D間の段差にシーリング樹脂4で斜面を形成する(図4)。
後述する連結工程において、このシーリング樹脂上にアスファルトテープが貼られるが、瓦間の段差に斜面を形成することにより、アスファルトテープの貼付け作業がしやすくなる。また、シーリング樹脂により縦方向に隣接する瓦同士が接着されるため、地震や強風等で瓦が浮き上がり、それに連れてアスファルトテープが剥がれることを防止することができる。シーリング樹脂は、可塑剤の含有量が5重量%以下であるものが好ましい。可塑剤が5重量%より多く含まれていると、可塑剤が瓦に染み込んだ部分が変色してしまう場合がある。
シーリング樹脂は、瓦に接着し、硬化して斜面を形成できるものであれば特に制限することなく使用することができ、市販されているものを適宜用いることができる。例えば、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPシール」、セメダイン株式会社「石材シール」等を挙げることができる。
【0014】
「連結工程」
シーリング樹脂4の上を通るようにアスファルトテープ6を貼り付け、連続する複数枚の瓦3A~3Bを連結する(図5)。なお、本実施態様では、この連結工程の前に、アスファルトテープ6を貼り付ける箇所にプライマー5を塗布するプライマー塗布工程を有する。
アスファルトテープを貼り付ける箇所は特に制限されないが、瓦の山部上に貼り付けることが雨水の流れを阻害しないため好ましく、図1に示すように、瓦の山部狭面上に貼り付けることが、アスファルトテープの幅方向の屈曲が小さく、アスファルトテープがシワになりにくいためより好ましい。
【0015】
アスファルトテープは、縦方向に伸びる瓦の全列、または1列おきに貼り付けることが好ましい。また、アスファルトテープは、その一端を棟部の冠瓦や鬼瓦にも貼り付けることができ、棟部を跨いだ別の面の瓦に貼り付けることもできる。
【0016】
アスファルトテープは、防水工事等に用いられるアスファルトシートと同じ構成を有する、テープ状のものである。アスファルトテープは、炎で炙って貼り付けるトーチタイプ、粘着層を有する自己粘着タイプのどちらも使用することができるが、炎を使わないため安全性が高く、かつ貼り付け作業が容易なため、自己粘着タイプを用いることが好ましい。アスファルトテープの幅は、瓦の幅以下であれば特に制限されないが、山部と谷部を有する瓦にシワなく貼り付けるためには、8cm以下であることが好ましく、6cm以下であることがより好ましく、5cm以下であることがさらに好ましい。さらに、凹凸に追従してシワなく貼り付けるために、アスファルトテープの厚さは、1.4mm以下であることが好ましく、1.2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。アスファルトテープとしては、例えば、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPテープ」、東和工業株式会社「クルタルシートSH-80防食」等を好適に使用することができる。また、プライマーを塗工する場合は、使用するアスファルトテープの種類に応じて、メーカー推奨品等を使用することができ、例えば、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPテーププライマー」等を好適に使用することができる。
【0017】
「トップコート塗布工程」
必要に応じて、アスファルトテープ6を覆うトップコート7を塗布する(図6)。このトップコート塗布工程は、連結工程の後に行えばよく、後述する穿孔工程、注入工程、固定工程の後に行うこともできる。トップコートは、アスファルトテープを覆うよう、すなわち、アスファルトテープよりも広範囲に塗布する。具体的には、トップコートは、アスファルトテープの端部から2mm以上はみ出るように塗布することが好ましい。アスファルトテープの端部がトップコートで被覆されることにより、アスファルトテープ端部の剥がれを防止することができる。トップコートの種類は、使用するアスファルトテープの種類に応じて、メーカー推奨品等を使用することができるが、フッ素系、またはアクリルシリコン系であることが耐候性の点から好ましい。例えば、アスファルトテープとして、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPテープ」を用いる場合、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPトップ」等を好適に使用することができる。また、トップコートは、瓦と同系色に着色されていることが好ましい。
【0018】
「穿孔工程」
アスファルトテープが連結する瓦のうち、少なくとも両端に位置する瓦の瓦桟上方に孔部を穿孔する。本実施態様では、孔部は3枚の瓦3A、3C、3Eが重なっている部分に穿孔されている(図3)。また、本実施態様では、孔部は、アスファルトテープ6上に穿孔されるが、アスファルトテープが貼り付けられていない箇所に穿孔することもできる。穿孔時の振動や騒音、および瓦の割れを防ぐために、穿孔は無振動ドリルを用いることが好ましい。また、孔部の開口部に、ねじの頭部や化粧キャップを収容するための大径の浅い孔を穿つ、いわゆる2段掘を行うことができる。穿孔工程後に、必要に応じてエアブロー等で切削屑を吹き飛ばす清掃工程を行うことができる。
【0019】
「固定工程」
孔部にねじ8Aを締め込み、アスファルトテープ6を瓦桟2に固定する(図2・3)。本実施態様のように、アスファルトテープの上に孔部を穿孔した場合は、座金を介してねじを締め込む、またはフランジ付きのねじを用いることが好ましい。また、アスファルトテープが貼り付けられていない箇所に穿孔した場合は、アスファルトテープを抑え込む板状金具等を介してねじを締め込み、この板状金具等により間接的にアスファルトテープを固定することができる。
ねじは、呼び径(ねじ山を含む外径)が孔部の直径よりも大きいものを使用することが、アスファルトテープが貼り付けられた瓦を強固に締結することができるため好ましい。また、ねじは、軸部の先端側のみにねじ山を有する「木ねじ」状であることが好ましい。木ねじを用いることにより、ねじ山を有する軸部先端が瓦桟に強固に固定されるとともに、軸部頭部側のねじ山を有さない部分に対応する瓦が下方に押し付けられるため、瓦を強固に締結することができる。
【0020】
「注入工程」
必要に応じて、穿孔工程と固定工程との間に、孔部に接着剤9を注入することができる。接着剤は、本発明の被接着物同士を接着できるものであれば種類は特に制限されず、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等を使用することができる。これらの中で、耐候性、耐久性、接着性の点から、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、シリル化アクリレート系接着剤が好ましい。接着剤としては、市販されているものを適宜用いることができ、例えばセメダイン株式会社「EP48」、「EXCEL I」等を用いることができる。
【0021】
瓦は、夏季には昼に70℃近く夜に20℃前後と温度が変化する。地震による衝撃や、温度変化に伴う膨張・収縮による界面剥離や瓦の割れを防止するために、接着剤は弾性接着剤であることが好ましい。弾性接着剤としては、JIS K6251に準拠して、厚さ1mmのダンベル状1号形試験片を用いて温度23℃の条件にて測定される切断時伸びまたは降伏点伸びのいずれか小さい方の値が20%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明において、孔部は閉じておらず、瓦の間、最も下方に位置する瓦と瓦桟との間には隙間が存在している。接着剤は、この隙間から屋根の傾斜で流れ落ちないように、粘度が高いことが好ましく、具体的には、JIS K6833-1に準拠し、BH型粘度計(ローターNo.6)を用いた、23℃、回転数20rpmでの粘度が、1Pa・s以上500Pa・s以下が好ましく、10Pa・s以上200Pa・s以下であることがより好ましい。また、揺変性を有することが、注入時には流動性を有し、注入された後は隙間から流出しにくくなるため好ましい。具体的には、前記条件における回転数1rpmでの粘度の回転数10rpmでの粘度に対する比(1rpmでの粘度/10rpmでの粘度)が2以上であることが好ましい。
【0023】
孔部に接着剤を注入することにより、ねじと孔部の間が接着剤で充填され、孔部から下方に雨水等が浸透することを防ぐことができる。さらに、接着剤は、ねじに押し出されて孔部の隙間から周囲に広がる。そして、この周囲に広がった接着剤が、瓦間、及び瓦と瓦桟の間を接着することにより、より強固に瓦を固定することができる。
【0024】
さらに、必要に応じて、孔部を耐水パテで埋める、ねじの頭部を耐水パテ等で覆う等の耐水処理工程や、2段掘を行った場合は化粧キャップを嵌め込む化粧工程を行うことができる。
【0025】
・第二実施態様
以下、本発明の第二実施態様である瓦落下・飛散防止工法を、工程順に沿って説明する。
「樹脂用プライマー工程」
既設瓦葺屋根の縦方向に隣接する瓦間の段差部に樹脂用プライマー10を塗布する(図8)。
この工程は任意であり、後述する瓦固定工程で使用するシーリング樹脂と、施工する瓦との相性が悪い場合等に実施する。樹脂用プライマーは、使用するシーリング材に応じて選択することができ、例えば、屋根瓦ガード工法協会「瓦NPシールプライマー」等を挙げることができる。
樹脂用プライマーは、後述する連結工程においてアスファルトテープが貼り付けられる領域の両サイドに塗布する。そのため、瓦の山部狭面上にアスファルトテープを貼り付ける場合は、段差部だけでなく、貼り仕舞部にも塗布する。なお、図8では、瓦の変色した部分が、樹脂用プライマー10が塗布された部分であり、段差部と貼り仕舞部に塗布されている。また、アスファルトテープの端部をシーリング樹脂で封止する場合は、アスファルトテープの端部近傍にも樹脂用プライマーを塗布する。
【0026】
「連結工程」
既設瓦葺屋根の縦方向にアスファルトテープ6を貼り付け、連続する複数枚の瓦を連結する(図9)。なお、連結工程の前に、アスファルトテープ6を貼り付ける箇所にプライマーを塗布するプライマー塗布工程を有することもできる。
アスファルトテープは、縦方向に隣接する瓦の段差に沿って貼り付ける。アスファルトテープは、縦方向に伸びる瓦の全列、または1列おきに貼り付けることが好ましい。また、アスファルトテープは、その一端を棟部の冠瓦や鬼瓦にも貼り付けることもでき、棟部を跨いだ別の面の瓦に貼り付けることもできる。アスファルトテープは、瓦の山部上に貼り付けることが好ましく、瓦の山部狭面上に貼り付けることがより好ましい。また、アスファルトテープは、上記第一実施態様の連結工程の記載と同様のものを使用することができる。
【0027】
「瓦固定工程」
縦方向に隣接する瓦間の段差部において、アスファルトテープ6を覆うようにシーリング樹脂4を盛り、瓦を固定する(図10)。
段差部にアスファルトテープを覆うようにシーリング樹脂を盛ることにより、地震や強風等で瓦が動くことを防止することができ、瓦が動くことにより、アスファルトテープにシワが入ったり、アスファルトテープが剥がれたりすることを防止することができる。より強固に瓦を固定するために、シーリング樹脂は、段差部に斜面を形成するように、厚く盛ることが好ましい。
シーリング樹脂は、第一実施態様の平滑化工程において用いたものと同様のものを使用することができる。
【0028】
「封止工程」
アスファルトテープの端部にシーリング樹脂4を盛り、端部をシーリング樹脂で封止する(図11)。
テープの端部をシーリング樹脂で封止するだけで固定することができ、第一実施態様のように瓦に穿孔する必要がないため、騒音、振動、粉塵の発生を抑えることができ、また、低コスト化、短工期化が実現できる。
【0029】
「トップコート塗布工程」
必要に応じて、アスファルトテープ6を覆うトップコートを塗布する。トップコートは、瓦固定工程や封止工程で盛られたシーリング樹脂4の上にも塗布する。なお、このトップコート塗布工程は、瓦固定工程の後に行えばよく、封止工程の前に行うこともできる。
トップコートは、アスファルトテープを覆うよう、すなわち、アスファルトテープよりも広範囲に塗布する。具体的には、トップコートは、アスファルトテープの端部から2mm以上はみ出るように塗布することが好ましい。アスファルトテープの端部がトップコートで被覆されることにより、アスファルトテープ端部の剥がれを防止することができる。トップコートの種類は、使用するアスファルトテープの種類に応じて、メーカー推奨品等を使用することができるが、フッ素系、またはアクリルシリコン系であることが耐候性の点から好ましい。また、トップコートは、瓦と同系色に着色されていることが好ましい。
【0030】
なお、上記した瓦落下・飛散防止構造、瓦落下・飛散防止工法は、本発明の実施態様例であり、本発明はこの実施態様に限定されるものではない。例えば、穿孔工程、固定工程、注入工程と、封止工程とは、どちらを行ってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 下葺き材
2 瓦桟
3 瓦
4 シーリング樹脂
5 プライマー
6 アスファルトテープ
7 トップコート
8 ねじ
9 接着剤
10 樹脂用プライマー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11