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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】皮膚嗅覚受容体発現促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/535 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240806BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240806BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240806BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20240806BHJP
【FI】
A61K36/535
A61K31/7028
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P37/08
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/00
A61K8/9789
A61K8/60
A61Q19/00
C12Q1/6876 Z ZNA
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020164579
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056695
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】禹 幸玉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 義之
(72)【発明者】
【氏名】桜井 哲人
(72)【発明者】
【氏名】石渡 潮路
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/078370(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0115705(KR,A)
【文献】特開平09-020672(JP,A)
【文献】特開平06-293652(JP,A)
【文献】PLoS ONE,2013年,vol.8, issue 10,e77458, p.1-8
【文献】Int. J. Mol. Sci.,2020年03月,vol.21, issue 6,2007, p.1-11
【文献】Free. Radic. Biol. Med.,2012年,vol.53, issue 4,p.669-679
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/535
A61K 31/7028
A61K 8/9789
A61K 8/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シソ葉の水抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とする、ダニ抗原、スギ花粉抽出物、ベンゾ[a]ピレンのいずれかの環境因子により皮膚嗅覚受容体(OR2AT4、OR51B5)発現が抑制されたヒト表皮角化細胞のための皮膚嗅覚受容体(OR2AT4、OR51B5)発現促進用組成物。
【請求項2】
シソ葉の水抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とする、ダニ抗原、スギ花粉抽出物、ベンゾ[a]ピレンのいずれかの環境因子によりNFE2L2発現が抑制されたヒト表皮角化細胞のためのNFE2L2発現促進用組成物。
【請求項3】
シソ葉の水抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とする、ダニ抗原、ベンゾ[a]ピレンのいずれかの環境因子によりIL-8発現が増強されたヒト表皮角化細胞のためのIL-8発現抑制用組成物。
【請求項4】
Perilloside(ペリロサイド)がペリロサイドBである請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
外用剤である請求項4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚嗅覚受容体産生促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
嗅覚受容体(Olfactory receptors)は、嗅細胞(嗅覚受容神経)にあるGタンパク質結合受容体として見出された。脊椎動物ではこのタンパク質は嗅上皮に、昆虫では触角に位置し、嗅覚を感知する重要な受容体として知られている。
近年この嗅覚受容体が、皮膚、精子などの様々な組織細胞にも存在することが確認され、現在では、嗅覚受容体が身体全体に存在し、異なる多様な細胞型受容体(ORファミリー)として発現されており、嗅覚以外の生体の生理学的細胞機能を調節すると考えられている。しかしその全体像は、いまだ解明されていない。
嗅覚受容体・ORファミリーに属する受容体の一つであるOR2AT4は、皮膚におけるケラチノサイトの増殖を刺激することがすでに知られている。なかでも、ヒト毛包の上皮、特に外根鞘がOR2AT4を発現し、特異的OR2AT4アンタゴニストPhenirat(登録商標)とOR2AT4の共投与が、毛髪成長を阻害することが明らかにされている(非特許文献1)。
【0003】
また、全身に存在する嗅覚受容体は、免疫の活性化にも関与している。特許文献1には、公知化合物である合成物質のサンダロール(登録商標)及びブラマノール(登録商標)が、OR2AT4受容体の活性化を介して、インターロイキンIL-1αの発現及び分泌を促すことにより創傷治癒を促進することが記載されている。
特許文献2には、嗅覚受容体ファミリー1、2または51などの複数の嗅覚受容体と選択的に結合するか、または発現を選択的に変化させる化合物を癌、自己免疫疾患、感染症及び移植片対宿主病などの治療剤とする発明が開示されている。この特許文献2に開示された発明の化合物は、嗅覚受容体に結合し、あるいは嗅覚受容体の発現を制御することで、病的な細胞性細胞傷害性T細胞(CTL)応答を調節し、免疫を活性化し又は正常に制御する。
【0004】
特許文献3には、香料を有効成分とする皮膚免疫機能調節剤が記載されている。この皮膚免疫調節剤において、含有されている香料が、皮膚嗅覚受容体を刺激する作用を有していることが示されている。
このように嗅覚受容体の発現促進は、癌、自己免疫疾患、感染症、臓器移植などに使用し、治療効果を発揮する可能性があることが推測されている。しかし具体的な物質は、いまだに市場に医薬品や医薬部外品として提供されていない。
【0005】
一方、シソ(紫蘇、学名:Perilla frutescens var. crispa)は、シソ科シソ属の植物で、芳香性の一年生草本として知られている。このシソの葉の水溶性溶媒で抽出したシソ葉抽出物(シソエキスともいう)には様々な薬効が知られており、民間療法や東洋医学において使用される。シソ葉抽出物には抗アレルギー作用を示す有効成分として知られているルテオリン、アピゲニンなどのフラボノイドの配糖体やロスマリン酸が含有されている。
シソ葉抽出物の薬理効果を利用した発明として、美白化粧料(特許文献4、5)、老化抑制化粧料(特許文献6)、アトピー性皮膚炎の皮膚セラミダーゼ調整剤(特許文献7)などが挙げられる。
シソ葉抽出物には、アントシアニジン、ペリロサイド(perilloside)などの多様なグルコシド物質も多く含有されている(特許文献8)。ペリロサイド類は、シソの葉から単離することができる(特許文献9参照)。
【0006】
近年肌荒れなどの原因として考えられる肌ストレス、及びその影響に関する研究が積極的に行われている。肌へのストレスは、加齢や紫外線のほか、化粧品などに含まれる添加剤、あるいは様々な外的環境因子(化学物質、ハウスダスト、花粉)による。環境因子によるストレス、さらには炎症反応が挙げられる。加齢や紫外線、化粧料に含まれる添加剤による肌ストレスについては、従来から多くの研究がおこなわれている。一方、外的環境因子が与える肌への影響は、いまだに明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-518324号公報
【文献】特表2016-535060号公報
【文献】特開2003-206237号公報
【文献】特開2002-128657号公報
【文献】特開2014-169253号公報
【文献】特開2017-014132号公報
【文献】特開2017-124984号公報
【文献】特開2001-270835号公報
【文献】特開平04-300889号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】NATURE COMMUNICATIONS | (2018) 9:3624 | DOI:10.1038/s41467-018-05973-0 | www.nature.com/naturecommunications
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、シソ葉抽出物及び/又はペリロサイドを有効成分とする、新たな皮膚の嗅覚受容体発現促進用組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、シソ葉抽出物及び/又はペリロサイドを有効成分とするNFE2L2発現促進用組成物、IL-8発現抑制用組成物を提供することを課題とする。さらにまた本発明は、シソ葉抽出物及び/又はペリロサイドを有効成分とする皮膚の抗酸化能及び抗炎症能を増強する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の構成である。
(1)シソ葉抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とする皮膚嗅覚受容体(OR2AT4、OR51B5)発現促進用組成物。
(2)シソ葉抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とするNFE2L2発現促進用組成物。
(3)シソ葉抽出物及び/又はPerilloside(ペリロサイド)を有効成分とするIL-8発現抑制用組成物。
(4)Perilloside(ペリロサイド)がペリロサイドBである(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)外用剤である(4)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、皮膚の嗅覚受容体発現促進用組成物、皮膚のNFE2L2発現促進用組成物、皮膚のIL-8発現抑制用組成物、皮膚の抗酸化能及び抗炎症能増強用組成物が提供される。また生体内の嗅覚受容体の発現促進や活性化を介して、生体の免疫機能の調節が正常化されるため、皮膚アレルギーやアトピー症等の改善治療用医薬品や医薬部外品あるいは化粧料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR2AT4のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図2】NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR51B5のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図3】NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR2AT4のタンパク質産生量をウエスタンブロット法で測定した結果を示すグラフである。
図4】NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR51B5のタンパク質産生量をウエスタンブロット法で測定した結果を示すグラフである。
図5】合成したペリロサイドBのLC-MSチャート図である。
図6図5LC-MSチャートの10分付近の拡大図である。
図7図6のLC-MSチャートを示す化合物のMSスペクトルである。
図8】NHEK細胞にペリロサイドBを添加し、4時間後、及び24時間後のOR2AT4のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図9】NHEK細胞にペリロサイドBを添加し、4時間後、及び24時間後のOR51B5のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図10】NHEK細胞にMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract又はBenzo[a]pyreneの添加後のOR2AT4mRNAの測定結果を示すグラフである。
図11】NHEK細胞にMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract又はBenzo[a]pyreneの添加後のOR51B5mRNAの測定結果を示すグラフである。
図12】NHEK細胞にMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract又はBenzo[a]pyreneの添加後のOR2AT4タンパク質を測定した結果を示すグラフである。
図13】NHEK細胞にMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract又はBenzo[a]pyreneの添加後のOR51B5タンパク質を測定した結果を示すグラフである。
図14】環境因子によって低下した皮膚嗅覚受容体OR2AT4mRNAの発現を、シソ葉抽出物の事前添加が予防し、改善することを確認した試験の結果を示すグラフである。
図15】環境因子によって低下した皮膚嗅覚受容体OR51B5mRNAの発現を、シソ葉抽出物の事前添加が予防し、改善することを確認した試験の結果を示すグラフである。
図16】NHEK細胞にノックダウン用siRNAをトランスフェクションし、一時的な皮膚嗅覚受容体OR2AT4遺伝子をノックダウンした時の、OR2AT4のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図17】NHEK細胞にノックダウン用siRNAをトランスフェクションし、一時的な皮膚嗅覚受容体OR51B5遺伝子をノックダウンした時の、OR51B5のmRNA発現量を測定した結果を示すグラフである。
図18】一時的に皮膚嗅覚受容体OR2AT4遺伝子をノックダウンした時のNFE2L2mRNAの発現量を測定した試験結果を示すグラフである。
図19】一時的に皮膚嗅覚受容体OR51B5遺伝子をノックダウンした時のNFE2L2mRNAの発現量を測定した試験結果を示すグラフである。
図20】一時的に皮膚嗅覚受容体OR2AT4遺伝子をノックダウンした時のIL-8mRNAの発現量を測定した試験結果を示すグラフである。
図21】一時的に皮膚嗅覚受容体OR51B5遺伝子をノックダウンした時のIL-8mRNAの発現量を測定した試験結果を示すグラフである。
図22】環境因子によって低下するNFE2L2mRNAの発現量がシソ葉抽出物によって低下が抑制され、さらに発現が増加することを確認した試験結果を示すグラフである。
図23】環境因子によって増加したIL-8mRNAの発現量がシソ葉抽出物によって増加が抑制されることを確認した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明でいう組成物とは、シソ葉抽出物及び/又はペリロサイドを含有し、化粧料、医薬品、医薬部外品とするための添加物を含むものをいう。
本発明でいう環境因子とは、ヒトの肌に対して刺激を与え肌荒れや炎症を誘発する空気中や水などの外部環境に存在する化学物質、生物由来抗原及び花粉などをいう。
本発明で用いられるシソとは、シソ科シソ属の植物であれば使用可能である。基本品種である P. frutescens var. crispa f. crispa (チリメンジソ)や代表的な品種であるアカジソ P. frutescens var. crispa f. purpurea を例示できる。なかでも栽培種であるアカジソ、カタメジソ、チリメンジソ、アオジソが代表的なものとして例示される。これらの中でも、好ましくは、アカジソ、アオジソ及びチリメンジソが選択され、更に好ましくは、アオジソ又はアカジソが選択される。
本発明において、シソ葉抽出物とは、シソの生葉又は乾燥葉を水又はエチルアルコール等の水性溶媒で抽出後、抽出液の溶媒を凍結乾燥装置等の装置で溶媒を除去して残渣を乾燥させたものをいう。
【0014】
上記シソは単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらのシソは、全草を本発明に用いるシソ葉抽出物の原料として使用可能である。好ましくはシソ葉のみを採取して用いる。栽培又は自生するシソから葉のみを採取し、採取したシソ葉は、生のままあるいは、乾燥させた後、これをそのまま、あるいは細断し、抽出する。
抽出は、常法に従って浸漬法等の抽出溶媒と接触させることで行う。超臨界抽出法や水蒸気蒸留法を用いることも可能である。
【0015】
溶媒による抽出に際して用いる抽出溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類;n-ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどの炭化水素系溶媒などが挙げられ、それらは単独で又は二種以上混合して用いられる。
【0016】
抽出溶媒の中でも、本発明においては、水、低級アルコール類又は多価アルコール類などの親水性溶媒が好適である。この親水性溶媒を用いる場合の好ましい例としては、例えば、水、低級アルコール類(特にエタノール)、又は多価アルコール(特に、1,3-ブチレングリコール)の単独使用、或いは、水と低級アルコール類(特にエタノール)との混合溶媒、又は水と多価アルコール類(特に1,3-ブチレングリコール、グリセリン)との混合溶媒の使用等が挙げられるが、なかでも水単独、又は水とエタノール、あるいは水と1,3-ブチレングリコールの混合溶媒が特に好ましい。
【0017】
また、シソ科シソ属のシソの葉乾燥物と抽出溶媒との重量比は好ましくは1:1~1:50の範囲であり、より好ましくは、1:5~1:20の範囲である。
【0018】
抽出物の調製に際して、そのpHに特に限定はないが、一般には4~9の範囲とすることが好ましい。必要であれば、前記抽出溶媒に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性pH調整剤、又はクエン酸、塩酸、リン酸、硫酸などの酸性pH調整剤を配合し、所望のpHとなるように調整してもよい。
【0019】
抽出温度、抽出時間等の抽出条件は、用いる溶媒の種類やpHによっても異なる。通常、抽出温度は、好ましくは0~80℃の範囲であり、より好ましく0~50℃の範囲であり、特に好ましくは0~20℃の範囲である。抽出時間は、好ましくは1~48時間であり、より好ましくは8~24時間であり、特に好ましくは10~15時間の範囲である。
【0020】
かくして抽出した抽出液は、回収後に抽出液に含有されている溶媒を、公知の濃縮手段と乾燥手段を用いて、溶媒を除去し、シソ葉抽出物とする。
シソ葉抽出物には更に、本発明の剤型に応じて各種賦形剤や安定剤、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤及び製造用剤を添加して用いることができる。使用形態も、シソ葉抽出物そのまま、或いは希釈した状態、乳化状態、更には粉末化した様々な製剤の形で用いることができる。
【0021】
また、本発明は、市販のシソ葉抽出物であっても使用可能である。市販されているシソ葉抽出物としては、「シソの葉エキス」(東洋精糖株式会社)、「シソ葉エキスパウダー」(日本粉末薬品株式会社)、「ファルコレックスシソ」(一丸ファルコス株式会社)、「ファルコレックス シソ HB」(一丸ファルコス株式会社)、「ペリーラン・F-QS」(テクノーブル株式会社)、「シソ抽出液 BG-30」(香栄興業株式会社)を例示できる。
本発明の実施に当たっては、1質量%のシソ葉抽出物を含有するペリーラン・F-QSが好ましい。
当該抽出物が、本発明の目的に適しており、好結果を示すことは、実施例に示す通りである。
【0022】
シソ葉抽出物は、ヒト又は哺乳動物の皮膚に塗布又は外用することで、皮膚の嗅覚受容体発現を促進し、皮膚のNFE2L2発現を促進し、IL-8発現を抑制する。このため、シソ葉抽出物は、皮膚の嗅覚受容体を介して皮膚における上記の機構にかかわって生じる抗酸化能を増強し、また抗炎症能を増強する。そして、この作用効果を発揮することで、皮膚におけるアレルギーの進行を予防又は改善する目的の化粧料、医薬部外品、医薬品等の外用剤としても使用可能である。
【0023】
シソ葉抽出物を化粧料、医薬部外品、医薬品等の外用剤の製剤とする場合は、シソ葉抽出物を一般的な製造法により、直接又は製剤上許容し得る担体又は分散媒とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することによって、容易に目的の製剤を得ることができる。この場合、本発明に用いられる抽出物の他に、かかる形態に一般的に用いられる植物油、動物油等の油性基剤、鎮痛消炎剤、鎮痛剤、殺菌消毒剤、収斂剤、ホルモン剤、ビタミン類、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。
本発明のシソ葉抽出物を含有する組成物又は製剤は、その含有量が特に限定されるものではない。シソ葉抽出物として、通常全組成の0.0000001~10質量%、好ましくは0.000001~10質量%、特に好ましくは0.00001~1質量%の範囲で含有する組成物とする。
【0024】
本発明で用いられるPerilloside(以下「ペリロサイド」)は、シソに含有される配糖体であって、シソ科シソ属の植物から抽出するか、化学的に合成した合成物を使用することが可能である。
シソ葉から抽出する場合は、上記のシソ葉抽出物を出発物質としてこれを、特許文献9の記載に従ってヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒で処理して得られる水溶性画分から、モノテルペン配糖体を分離し、精製回収することで得ることができる。特許文献9に従うと、ペリロサイドA、ペリロサイドB、ペリロサイドC、ペリロサイドDの4種のペリロサイド(以下この4種のペリロサイド化合物を総称して「ペリロサイド類」という。)
シソから得る場合は、たとえば、アオジソの葉部をそのまま場合により乾燥して、水溶性の有機溶媒(たとえばメタノール、エタノールなどの低級アルコール)で、室温~加温下(たとえば30~50℃)で抽出処理を行う。この時、アルコールの使用量は、シソの葉1Kgに対して5~20リットル好ましくは10~20リットルである。抽出は、通常1~7日間、好ましくは2~3日間浸漬で行うのが好ましい。得られた抽出液は、10分の1ないし100分の1好ましくは50分の1ないし100分の1の容量まで濃縮する。濃縮は通常60℃以下好ましくは40から50℃の範囲で行われる。濃縮後、析出物を濾別し、濾液に等量の水を加え、低極性溶媒で脂質類を除去する。低極性溶媒としては、n-ペンタン、n-ヘキサン等が好ましく、濃縮液と等量で約5回ないしは6回好ましくはほとんど着色がなくなるまで行うのがよい。次いで残った水層をやや極性の高い溶媒で抽出する。このときの溶媒としてはクロロホルムあるいは酢酸エチル等が用いられ、濃縮液と等量で約5回ないし6回行われる。得られた抽出液を減圧下で濃縮して粗目的画分が得られる。
化学的に合成する場合は、ペリリン酸(541mg)、PPh3(1.3g)を入れ、DMF(50mL)で溶解後、DIAD(1.0mL)、D-グルコース(300mg)を加え、スターラーで攪拌しながら、60℃、一晩反応させる。反応終了後、酢酸エチル(50mL)を加え、飽和塩化ナトリウム(50mL)で、5回分液する。得られた酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮後、シリカゲルオープンカラムクロマトグラフィーにて精製する。精製は、100%クロロホルム、90%:10%=クロロホルム:メタノール、80%:20%=クロロホルム:メタノール画分に分け、80%クロロホルム画分をHPLCにて分取を行う。
【0025】
この粗目的画分は、常法にしたがって、分離、精製工程に付する。たとえば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル量:粗目的画分に対し20~50倍好ましくは20倍、展開溶媒:クロロホルム-メタノール、酢酸エチル-メタノール、クロロホルム-アセトンなど)に付し、得られる溶離液を高速液体クロマトグラフィー(カラム:ODS、溶離液:水-メタノール、水-アセトニトリルなど)に付すと、目的とする化合物であるペリロサイドを単離することができる。なお、化学合成によって製造することもできる。
【0026】
化学合成は、特許文献9の記載に従ってペリラ酸クロライドにピリジンの存在下、常法で糖付加化学反応させて、実施できる。糖(グルコース)の付加反応は通常有機溶媒(例えばエチルエーテル、ジオキサンなど)中、アルキル化グルコースと氷冷下で行われる。反応後、水洗により塩類を除去し、溶媒を留去する。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して再結晶すると目的物の結晶を得ることができる。この合成の反応は、コーニッヒ-クノール法を利用するものでジヒドロペリリルアルコールに炭酸銀の存在下でアルキル化グルコースを反応させればよい。反応は通常有機溶媒(例えばエチルエーテル、ジオキサンなど)中、室温ないし若干高い温度で行うのが好ましい。反応終了後、溶媒を除去し、残渣を例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、その溶離液を濃縮し、さらに濃縮物を再結晶すると目的物の結晶を得ることができる。この化学合成法により、ペリロサイドA、ペリロサイドB、ペリロサイドC、ペリロサイドDを得ることができる。これらのペリロサイドは、いずれも皮膚嗅覚受容体皮膚の嗅覚受容体発現促進作用を有する。
【0027】
各ペリロサイドは、次に示す化学式1~4で特定される。
【0028】
【化1】
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
本発明に係る化合物の代表例であるペリロサイドBを合成する場合は、上記の特許文献9に記載された合成方法以外にも、本明細書の参考例に開示する方法でも得ることができる。すなわち、ペリリン酸と、トリフェニルホスフィンの存在下で、ジメチルホルムアミドで溶解後、アゾジカルボン酸ジイソプロピル及びD-グルコースを加え、撹拌しながら反応させた後、酢酸エチルと飽和塩化ナトリウム水溶液で、5回分液して酢酸エチル層を回収して、溶媒を除去することで得ることが可能である。なお溶媒除去後の残渣は、シリカゲルオープンカラムクロマトグラフィーにて精製しHPLC分取することで、精製ペリロサイドBを得ることができる。
【0033】
また、上記の各化合物は、対応するα-異性体、β-異性体のいずれもこの発明に含まれる。本発明に使用するペリロサイド化合物は、一般に天然物と同じ立体異性体であることが好ましいが、α-異性体であってもよい。
【0034】
シソ葉抽出物やペリロサイドを医薬部外品や医薬品、或いは化粧料等の外用剤の製剤とする場合は、一般的な製剤の製造法により、直接又は製剤上許容し得る担体とともに混合、分散した後、所望の形態に加工することによって、容易に目的の製剤を得ることができる。この場合、本発明に用いられる抽出物の他に、かかる形態に一般的に用いられる植物油、動物油等の油性基剤、鎮痛消炎剤、鎮痛剤、殺菌消毒剤、収斂剤、ホルモン剤、ビタミン類、保湿剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素、香料等を本発明の効果を妨害しない範囲で適宜配合することができる。
本発明のペリロサイドを含有する組成物は、ペリロサイドBの含有量が特に限定されるものではない。ペリロサイドとして、通常全組成の0.0000001~10質量%、好ましくは0.000001~10質量%、特に好ましくは0.00001~1質量%の範囲で含有する組成物とする。
【実施例
【0035】
以下に、実施例としてシソ葉抽出物による嗅覚受容体産生促進試験例、ペリロサイドによる嗅覚受容体産生促進試験、シソ葉抽出物による抗ストレス因子NFE2L2mRNA発現促進試験、炎症因子IL-8mRNA発現促進試験、及び参考実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明する。

実施例1:シソ葉抽出物の皮膚嗅覚受容体mRNA及び嗅覚受容体タンパク質発現促進試験
RNAi技術を用い皮膚嗅覚受容体をノックダウンしたヒト細胞にシソ葉抽出物を添加し、皮膚嗅覚受容体発現促進効果を確認した。
1.試験方法(ヒト細胞試験)
(1) 細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:Thermo Fisher Scientific)(以下 「NHEK」)をEpiLife(登録商標) Medium with 60μM Calcium(Life Technologies Japan)溶液にHumedia-KG2増殖添加剤(クラボウ)を添加し培養した。80-90%程度にコンフルエント状態に細胞が増殖したら0.017%Trypsin/0.007%EDTA((0.05% Trypsin/0.02%EDTA(Sigma-Aldrich)をPBSで3倍希釈))で剥がし、再混濁した後、常法により細胞数をカウントした。
【0036】
(2)NHEK細胞への嗅覚受容体のsiRNA導入
NHEK細胞を4.0×10cell/cm/mlになるように12well plateに播種した。これを37℃、5%COインキュベータで一日培養した後、siRNAをトランスフェクションした。siRNAの調整は、Opti-MEM(登録商標)培地 (Thermo Fisher Scientific)50μl当たり、Hs_OR2AT4_6_siRNA(Qiagen,SI04266388)及びHs_OR51B5_10_siRNA(Qiagen,SI04376239)及びNegative Control(Qiagen,1027280)のsiRNAを最終濃度0.25nMになるように調整し、1.5μlのHiperfect transfection regentと混合した。室温で10分間静置したあと、50μl/wellずつ円を描きながら添加して細胞にトランスフェクションした。その後、37℃、5%COインキュベータで72時間培養し、以下の試験に用いた。
【0037】
(3)シソ葉抽出物
本試験には、シソ葉抽出物として、市販のペリーラン・F-QS(テクノーブル株式会社)を用いた。この製品は、水抽出シソ葉乾燥エキスを、当該製品の全質量当たり、1質量%を含有する。また、1,3ブチレングリコール(以下「BG」という)を30質量%含有する。以下特段の記載のない限り、本明細書においてはペリーラン・F-QSを「ペリーラン」と略記する。
ペリーランは、細胞培養培地で希釈してから、溶媒濃度(BG濃度)を、同じ濃度になるように調整して、さらに段階希釈した。
ペリーラン中に含有されているシソ葉抽出物の最終添加濃度は、予備試験に基づき皮膚嗅覚受容体mRNA産生試験の場合、次の表1の濃度に希釈して調整した。また皮膚嗅覚受容体タンパク質産生試験の場合、次の表2の濃度に希釈して調整した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(4)RT-PCR法による遺伝子増幅
siRNA導入NHEK細胞は、ペリーランを添加後24時間培養した後、上清を除去し、PBS(-)で洗浄した。この細胞に300μl/wellずつRNAiso(タカラバイオ)を添加し、十分ピペッティングしながら破砕した。得られた細胞ホモジナイズを1.5ml Tubeに回収した。60μlのクロロホルムを加え、よく振り混ぜてから室温で5分間静置した。次いで12,000×gで15分間、4℃で遠心し、水層の上層(RNA部分)を新しい遠心Tubeに移した。
さらに300μlのイソプロパノールを加え、よく混合し、室温で10分間静置した。その後12,000×gで10分間、4℃で遠心しRNAを沈殿させた。上清を捨て、300μlの75%冷エタノールを加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、7,500×gで5分間、4℃で遠心した。上清を捨て、室温で数分間乾燥させた後、15μlのRNase-free waterで溶解し、Total RNAを回収した。
NanoDrop 2000C(Thermo Fisher Scientific)を利用し、RNAを定量してから濃度を合わせ、PrimeScript(登録商標) RT reagent Kit(タカラバイオ)のプロトコールに従い逆転写を行い、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を用い調整した後LightCycler(登録商標)480(Roche)を用いリアルタイムPCRを行った。なお、本明細書に記載の実施例及び参考実施例で用いた各マーカー遺伝子の検出のためのプライマーは、下記表3に一括して示す。各配列のプライマーは、すべて市販の合成プライマー製品を購入して使用した。
【0041】
【表3】
【0042】
また遺伝発現量評価のため、RT-PCRで得られた各遺伝子のサイクル数(Cp)値は、HPRT1遺伝子のCp値に対する相対値を求めて、この値で比較した。なお遺伝子発現量は、Housekeeping遺伝子に対する相対量を算出し、12ウエルの平均値を求めた。得られた結果を、0.03%BGを添加した場合の測定値に対して、t検定を行った。
【0043】
(5)Western blot法
嗅覚受容体遺伝子の発現によって産生された嗅覚受容体タンパク質量を測定するためWestern blot法によって測定した。その手法は次の通りである。
回収した後、PBS(-)で洗浄した細胞をCell lysis bufferに入れてタンパク質を抽出し、濃度に合わせ、0.5M Tris-HCl(pH6.8)、2%SDSになるように調整した。SDS-PAGE(5-20% gel)(ディー・アール・シー株式会社)で分離し、0.2μm PVDF Trans-Blot Turbo Transfer Packに転写した。StartingBlock T20(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)に入れて室温、20分、ブロッキングした。
1000倍希釈した1次抗体に交換してから、4℃で振動させながら一晩反応させた。一次抗体にはAnti-Rabbit-Human OR2AT4 antibody(Abcam)、Anti-Rabbit OR51B5 antibody(Abcam)、 Anti-mouse β-actin antibody(Santacruz)を使用した。次いで、0.05%Tween20-PBSで3回洗浄し、HRP-Rabbit-IgG(Cell signaling)、HRP-Mouse-IgG(Invitrogen)をblocking bufferで1:10000に希釈し、室温で1時間反応させた。
ECL prime Western blotting detection reagent(GE Healthcare)で5分間反応させ、ルミノ・イメージアナライザー LAS-4000 miniシリーズ(GE Healthcare)で検出し、解析を行った。なお、OR2AT4及びOR51B5のタンパク質量は、基準タンパク質であるβ-actinに対する相対量として求め、12ウエルの平均値を求めた。
【0044】
(6)データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは希釈溶媒(1,3ブチレングリコール)添加細胞の測定値に対して有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0045】
2.試験結果
(1)シソ葉抽出物による皮膚嗅覚受容体のmRNA発現促進作用
NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR2AT4のmRNA発現量を測定した結果を図1、OR51B5のmRNA発現量を測定した結果を図2に示す。
図1の通り、シソ葉抽出物を添加したNHEK細胞では、OR2AT4の遺伝子発現がシソ葉抽出物濃度に依存して増加した。また図2の通り、OR51B5のmRNA遺伝子発現も、シソ葉濃度に依存して有意に増加した。その効果は0.0000625%という極めて低濃度で有効であった。
【0046】
(2)シソ葉抽出物による皮膚嗅覚受容体タンパク質の産生促進作用
NHEK細胞にシソ葉抽出物を添加し、24時間後のOR2AT4のタンパク質産生量をウエスタンブロット法で測定した結果を図3、OR51B5のタンパク質産生量をウエスタンブロット法で測定した結果を図4に示す。
図3の通り、シソ葉抽出物を添加したNHEK細胞では、OR2AT4タンパク質量は、シソ葉抽出物添加によって明らかに増加した。
また図4の通り、OR51B5タンパク質の産生も、シソ葉抽出物添加によって有意に増加した。その効果は、0.00025%という低濃度で効果を発揮した。
以上の試験結果から、シソ葉抽出物は、OR2AT4及びOR51B5のmRNAを増加させ、皮膚嗅覚受容体の産生を促進することが確認された。
【0047】
<参考実施例1:ペリロサイドBの化学合成>
この参考実施例で合成したペリロサイドBは、本発明の実施例で使用した。
(1)試薬
以下の試薬を用いた。
トリフェニルホスフィン(PPh):富士フイルム和光純薬株式会社
アゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD):富士フイルム和光純薬株式会社
D-グルコース:富士フイルム和光純薬株式会社
ペリリン酸:sigma社
ジメチルホルムアミド(DMF):富士フイルム和光純薬株式会社
塩化ナトリウム:富士フイルム和光純薬株式会社
シリカゲル:富士フイルム和光純薬株式会社
クロロホルム:富士フイルム和光純薬株式会社
メタノール:富士フイルム和光純薬株式会社
アセトニトリル:富士フイルム和光純薬株式会社
ギ酸:富士フイルム和光純薬株式会社
【0048】
(2)使用機器
以下の分取装置及び分析装置を用いた。
分取用HPLC(LC-forte/R):株式会社ワイエムシィ
分取用カラム(Triart C18):株式会社ワイエムシィ
超高速高分離液体クロマトグラフUPLC(Nexera-XR):島津製作所株式会社
質量分析計TOF-4600:株式会社エービー・サイエックス
分析カラム(Inertsil(登録商標) ODS C18):ジーエルサイエンス株式会社
【0049】
(3)化学合成方法
ナスフラスコに、ペリリン酸(541 mg)、PPh(1.3 g)を入れ、DMF(50mL)で溶解後、DIAD(1.0mL)、D-グルコース(300mg)を加え、スターラーで攪拌しながら、60℃、over nightで反応した。反応終了後、酢酸エチル(50mL)を加え、飽和塩化ナトリウム(50mL)で、5回分液した。得られた酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮後、シリカゲルオープンカラムクロマトグラフィーにて精製した。精製は、100%クロロホルム、90%:10%=クロロホルム:メタノール、80%:20%=クロロホルム:メタノール画分に分け、80%クロロホルム画分をHPLCにて分取を行った。
回収した80%クロロホルム画分をロータリーエバポレーターにて濃縮後、メタノールに溶解し、下記条件で分取を実施した。
【0050】
分取用HPLC分取条件
移動相:25%アセトニトリル水溶液
流速:4.7mL/min
カラム温度:40℃
【0051】
単離した化合物を含む溶離液は、ロータリーエバポレーターで濃縮した。精製した化合物を20mg得た。
この精製物を、下記条件でUPLC-MS分析を行い、合成化合物がペリロサイドBであることを確認した。
【0052】
UPLC-MS分析条件
移動相:5%アセトニトリル水溶液 + 0.1%ギ酸~100%アセトニトリル+0.1%ギ酸(0~30min:Gradient)
流速:0.5 mL/min
カラム温度:40℃
イオン化:ESI-Negative
【0053】
LC-MSチャート(図5、6)から、10min付近に本発明化合物のMSピークが検出された。本ピークのMSスペクトルから、[M+FA-H]= 373.1529、分子組成:C1624の物性値が得られた(図7)。
以上の分析結果から、合成によって得られた化合物が、目的化合物であるペリロサイドBであると判断した。
【0054】
実施例2:ペリロサイドBによる皮膚嗅覚受容体mRNA発現促進効果試験
1.試験方法
実施例1と同様の試験を行って、ペリロサイドBの効果を確認するため、(1)NHEK細胞培養、(2)NHEK細胞への嗅覚受容体のsiRNA導入、(3)RT-PCR法による嗅覚受容体mRNA発現試験を行った。
また実施例2では、使用するペリロサイドBは、参考実施例1で合成したものを用いた。
【0055】
皮膚嗅覚受容体mRNA発現促進効果の評価を次のように行った。
1)トランスフェクションNHEK(passage4)細胞を2×10cell/ml/wellになるように12well plateに播種し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
2)24時間後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。新しい培地に調整したペリロサイドBを各wellに添加し、37℃、5% COインキュベータで培養する。
3)ペリロサイドB添加後、4時間経過した後、培養上清を回収し、PBS(-)で一回洗浄する。次いでRNAiso300μlを添加し、試薬に添付されたマニュアル通りTotal RNAを抽出する。抽出方法は、試薬に添付のマニュアルに従って実施する。最後にRneasy free HOを30μl添加し、RNAを溶解し、RNA濃度を測定する。
4)ペリロサイド添加後24時間経過後に、4時間後に行ったのと同じRNA回収操作で同様にRNAを抽出する。
5)PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(タカラバイオ)を用い、cDNA合成する。
6)SYBRR Premix Ex Taq(商標)IIを用いPCRを行う。
7)GAPDH遺伝子の発現量を1として、これに対する相対比で効果を判定する。
【0056】
なおペリロサイドBの最終添加濃度は、予備試験に基づき決定した。
添加したペリロサイドB濃度は、100μMとした。添加は、100%エタノールで溶解し、100mM溶液を調製した後、これを培養培地で1000倍に希釈した。
また、比較対照として、エタノールを培養培地で1000倍希釈したものを用いた。
【0057】
(4) データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。データは、希釈溶媒(エタノール)添加細胞の測定値(比較対照)に対して有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0058】
2.試験結果
・ペリロサイドBによる皮膚嗅覚受容体mRNA発現促進作用
NHEK細胞にペリロサイドBを添加し、4時間後、及び24時間後のOR2AT4のmRNA発現量を測定した結果を図8に示す。また同じく、NHEK細胞にペリロサイドBを添加し、4時間後、及び24時間後のOR51B5のmRNA発現量を測定した結果を図9に示す。
図8、9に示す通り、ペリロサイドBをトランスフェクションNHEK細胞に添加すると、4時間後から、OR2AT4及びOR51B5の遺伝子発現が有意に上昇した。この効果は、24時間後まで持続した。またこの効果は100μMという低濃度で有効性を示した。
すなわち、ペリロサイドBは、嗅覚受容体の遺伝子発現を促進しており、シソ葉抽出物には、ペリロサイドBが含有されている。したがって、ペリロサイドBは、シソ葉抽出物の示す嗅覚受容体産生促進効果の一部を担っているものと考えられる。
【0059】
<参考実施例2:環境因子の皮膚嗅覚受容体mRNA産生抑制作用確認試験>
実施例1と同様の条件で(1)NHEK細胞培養、(2)NHEK細胞に対して環境因子を付加し、(3)RT-PCR法により嗅覚受容体mRNA発現に及ぼす影響を評価試験した。試験方法は実施例1に準じて行った。
【0060】
1.試験に用いた環境因子
皮膚に対する環境因子の代表としてダニ抗原(Mite-Dp Feces AG:株式会社エル・エス・エル)、スギ花粉抽出物(Cedar Pollen Extract:株式会社エル・エス・エル)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene:富士フイルム和光純薬)を選択した。各試験成分は、予備試験に基づき細胞培養培地で次の濃度になるように希釈して試験に用いた。
Mite-Dp Feces AG(3μg/ml、10μg/ml)
Cedar Pollen Extract(1μg/ml、3μg/ml)
Benzo[a]pyrene(10μM、100μM):0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)0.1%に溶解後に細胞培養培地で希釈
【0061】
2.試験方法
1)NHEK(passage5)細胞を1×10cell/ml/wellになるように12well plateに播種し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
2)48時間後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。新しい培地で調整した上記のMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyreneを各wellに添加し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
3)培養上清を回収し、PBS(-)で一回洗浄する。次いでRNAiso(タカラバイオ) 300μlを添加し、使用説明書に従ってTotal RNAを抽出する。なお抽出方法は使用説明書に従う。最後にRNaseFreeWater(Qiagen)を30μl添加し、RNAを溶解し、濃度を測定する。
4)PrimeScript(商標) RT reagent Kit(タカラバイオ)を用い、cDNAを合成する。
5)SYBRR Premix Ex Taq(商標)II(タカラバイオ)を用いPCRを行う
6)HPRT1/RPS18遺伝子に対する相対量で評価する。
【0062】
3.データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは希釈培地又はDMSO)添加細胞の測定値に対して有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0063】
4.試験結果
・皮膚嗅覚受容体mRNA発現量
図10にOR2AT4、図11にOR51B5のmRNAの測定結果を示した。Mite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyreneのいずれも添加濃度が上昇するにつれて、皮膚嗅覚受容体mRNAの発現が有意に減少した。すなわち環境因子は、1μM~100μMの低濃度で皮膚嗅覚受容体mRNAの発現に抑制的に作用していることが確認できた。なお図10及び図11のX軸には上段に添加した環境因子化合物の濃度、下段に添加した環境因子の物質名を示した。
【0064】
<参考実施例3:環境因子の皮膚嗅覚受容体タンパク質産生抑制作用確認試験>
実施例1と同様の条件で(1)NHEK細胞培養、(2)NHEK細胞に対して環境因子を付加し、(3)ウェスタンブロット法によって嗅覚受容体タンパク質発現に及ぼす影響を評価試験した。試験方法は実施例1に準じて行った。
【0065】
1.試験に用いる環境因子
参考実施例2と同一の条件で3種の環境因子を次の濃度に希釈して試験に用いた。
Mite-Dp Feces AG(3μg/ml、10μg/ml)
Cedar Pollen Extract(1μg/ml、3μg/ml)
Benzo[a]pyrene(10μM、100μM):0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)0.1%に溶解後に細胞培養培地で希釈
【0066】
2.試験方法
実施例1に準じて次の手順で試験した。
1)NHEK(passage5)細胞を1×10cell/ml/wellになるように12well plateに播種し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
2)48時間後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。新しい培地で調整した上記のMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyrene(B[a]P)を各wellに添加し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
3)培養上清を回収し除去し、PBS(-)で細胞を一回洗浄する。次いで、Cell lysisi bufferを100μl/well添加し、4℃、冷蔵庫で浸透させて、タンパク質を回収した。
4)タンパク定量及びウェスタンブロット用サンプルを調整する。
5)2μg/laneになるようにアプライし、anti-OR2AT4-Ab(abcam)、anti-OR51B5-Ab(abcam)、anti-β-actin(santacruz)で反応させて検出した。
6)OR2AT4/OR51B5のシグナルに対し、β-actinのシグナルで補正し、比較した。
【0067】
3.データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは、希釈培地又はDMSO添加細胞の測定値に対する有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0068】
4.試験結果
・皮膚嗅覚受容体タンパク質発現量
図12にOR2AT4、図13にOR51B5のタンパク質測定結果を示した。Mite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyreneのいずれの環境因子も添加濃度が上昇するにつれて、皮膚嗅覚受容体mRNA量と同様の変化を示した。すなわち皮膚嗅覚受容体タンパク質の発現が環境因子の添加によって有意に減少した。すなわち環境因子が皮膚嗅覚受容体タンパク質の発現に抑制的に作用していることが確認できた。なお図12及び図13のX軸には、上段に添加した環境因子化合物の濃度、下段に添加した環境因子の物質名を示した。
【0069】
以上の<参考実施例2>、<参考実施例3>から環境因子であるMite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyreneは、皮膚嗅覚受容体を減少させていることが明らかとなった。
【0070】
実施例3:環境因子によって低下した皮膚嗅覚受容体mRNA発現機能及びタンパク質発現機能のシソ葉抽出物による回復試験
上記の<参考実施例2>、<参考実施例3>で示した皮膚嗅覚受容体の減少が、シソ葉抽出物により回復することを確認するため実施した。
なお試験方法は、実施例1に準じて行った。
【0071】
<皮膚嗅覚受容体mRNA発現増強試験>
(1)試験に用いた環境因子
ダニ抗原(Mite-Dp Feces AG:株式会社エル・エス・エル)、スギ花粉抽出物(Cedar Pollen Extract:株式会社エル・エス・エル)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene:富士フイルム和光純薬)を細胞培養培地で次の濃度になるように希釈して試験に用いた。
Mite-Dp Feces AG(3μg/ml)
Cedar Pollen Extract(3μg/ml)
Benzo[a]pyrene(10μM):0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)0.1%に溶解後に細胞培養培地で希釈
【0072】
(2)試験方法
1)NHEK(passage4)細胞を2×10cell/ml/wellになるように12well plateに播種し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
2)24時間後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。次いで新しい培地に、シソ葉抽出物を添加する。シソ葉抽出物の添加濃度は、0.001%、0.00025%とする。
3)さらに24時間培養した後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。次いで新しい培地にB[a]P、Mite DpF AG、Cedar pollen Extractを添加し、さらに37℃、5%COインキュベータで培養する。
4)24時間培養後、培養上清を回収除去し、PBS(-)で一回洗浄する。RNAiso(タカラバイオ)300μlを添加し、使用説明書に従ってTotal RNAを抽出する。最後にRNaseFreeWater(Qiagen)を30μl添加して、RNAを溶解し、濃度を測定する。
5)PrimeScript(TM) RT reagent Kit(タカラバイオ)を用い、cDNA合成する。
6)次いでSYBRR Premix Ex TaqII(タカラバイオ)を用いPCRを行う。
7)HPRT1/RPS18遺伝子の発現量を1として、これに対する発現相対量で評価する。
【0073】
(3)データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは希釈培地又はDMSO)添加細胞の測定値に対して有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0074】
(4)試験結果
・皮膚嗅覚受容体mRNA発現量
図14にOR2AT4、図15にOR51B5のmRNAの測定結果を示した。OR2AT4、OR51B5は、B[a]P、Mite DpF AG, Cedar pollen Extractの添加によって減少するが、シソ葉抽出物をあらかじめ添加することで、Mite-Dp Feces AG、Cedar Pollen Extract、Benzo[a]pyreneによる発現抑制が解消されることが分かった。すなわち環境因子は皮膚嗅覚受容体mRNAの発現に抑制的に作用しているが、シソ葉抽出物が共存することで、このmRNA発現の抑制を予防し、さらに改善することが確認できた。この効果は、シソ葉抽出物0.001%という低濃度で有効であった。
【0075】
<参考実施例4:皮膚嗅覚受容体遺伝子のノックダウンによる抗酸化ストレス因子及び炎症関連因子の発現抑制作用確認試験>
RNAi技術を利用し、NHEK細胞にノックダウン用siRNAをトランスフェクションし、一時的な皮膚嗅覚受容体OR2AT4のmRNA及びOR51B5のmRNA発現を抑制した細胞(以下「ノックダウン細胞」という)を調製し、その際に引き起こされる抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNA、炎症関連因子IL-8mRNAへの影響を確認した。
【0076】
(1)試験方法
実施例1に準じてNHEK細胞を培養し、さらに次の手順でノックダウン細胞を調製し試験した。
1)NHEK(Neo)細胞(passage4)を細胞密度6×10cells/wellで12well plateに播種する。
2)トランスフェクション:Hiperfect1.5μl+siRNA(0.25nM)を100μl OptiMEMに混合し、100μl/wellになるように円を書きながら添加した。そして、比較対照にネガティブコントロールのsiRNAを導入し、siR_Contにした。
なおノックダウン用のトランスフェクションに用いたsiRNAは研究用として市販されている次の製品を用いた。
OR2AT4 siRNA:SI04266388(Qiagen)
OR51B5 siRNA:SI04266388(Qiagen)
Allstars Negative Control siRNA:SI03650318(Qiagen)
3)培養上清を回収除去し、細胞をPBS(-)で一回洗浄する。次いでRNAiso 300μlを添加し、試薬に添付されたマニュアル通りTotal RNAを抽出する。抽出方法は、試薬に添付のマニュアルに従って実施する。最後にRNase-Free Water(Qiagen)を30μl添加し、RNAを溶解し、RNA濃度を測定する。
4)PrimeScript(TM)RT reagent Kit(タカラバイオ)を用い、cDNA合成する。
5)SYBRR Premix Ex Taq(TM)IIを用いPCRを行う
6)測定結果はハウスキーピング遺伝子であるHPRT1/RPS18に対する相対量で評価する。
【0077】
(2)データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは、ノックダウン細胞(siR_Cont)に対する有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0078】
(3)試験結果
1)OR2AT4及びOR51B5の変化
OR2AT4mRNAの測定結果を図16、OR51B5mRNAを図17に示す。図16ではsiR_Contに対してsiR_OR2AT4及びsiR-OR51B5のmRNAが顕著に低下している結果となった。すなわち、それぞれの遺伝子に対するsiRNAによって該当する遺伝子がノックダウンされ、OR2AT4及びOR51B5mRNAの発現が顕著に抑制された。
【0079】
2)抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNAの変化
OR2AT4mRNAを抑制したときの抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNAの発現量の変化を図18に、同じくOR51B5mRNAを抑制したときの抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNAの発現量の変化を図19示す。図18では、OR2AT4mRNAを抑制した細胞において、NFE2L2のmRNAの発現量の低下が顕著となることが確認された。また図19では、OR51B5のmRNA発現を抑制した細胞において、同じくNFE2L2のmRNAの発現量の低下が顕著となることが確認された。
すなわち皮膚嗅覚受容体OR2AT4又はOR51B5の抑制によって抗酸化ストレス因子NFE2L2が選択的に抑制されることが明らかとなった。
【0080】
3)炎症関連因子IL-8mRNAの変化
OR2AT4mRNAを抑制したときの炎症関連因子IL-8のmRNAの発現量の変化を図20に、同じくOR51B5mRNAを抑制したときの炎症関連因子IL-8のmRNAの発現量の変化を図21示す。
図20では、OR2AT4mRNAを抑制した細胞において、炎症関連因子IL-8mRNAの発現量の上昇が顕著となることが確認された。
また図21では、OR2BT4のmRNA発現を抑制した細胞において、同じく炎症関連因子IL-8のmRNAの発現量の上昇が顕著となることが確認された。
すなわち皮膚嗅覚受容体OR2AT4又はOR2BT4の抑制によって炎症関連因子IL-8が選択的に上昇することが明らかとなった。
【0081】
以上の参考実施例4の試験結果から、皮膚嗅覚受容体の発現の抑制は、抗酸化ストレス因子を抑制し、炎症関連因子を増強させることが明らかとなった。
【0082】
実施例4:シソ葉抽出物が皮膚細胞の抗酸化ストレス因子NFE2L2と炎症関連因子IL-8に及ぼす作用
実施例3おいて、シソ葉抽出物が環境因子による皮膚嗅覚受容体の産生抑制を防御し回復させる作用を有することを示した。本実施例4においては、シソ葉抽出物が、参考実施例4で示した環境因子による抗酸化ストレス因子の抑制を同様に防御し回復させ、また炎症関連因子の増加を抑制する効果を有することを確認した。この作用について次に説明する。
【0083】
<シソ葉抽出物による環境因子に対する影響試験>
(1)試験に用いた環境因子
ダニ抗原(Mite-Dp Feces AG:株式会社エル・エス・エル)、スギ花粉抽出物(Cedar Pollen Extract:株式会社エル・エス・エル)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene:富士フイルム和光純薬)を細胞培養培地で次の濃度になるように希釈して試験に用いた。
Mite-Dp Feces AG(3μg/ml)
Cedar Pollen Extract(3μg/ml)
Benzo[a]pyrene(10μM):0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)0.1%に溶解後に細胞培養培地で希釈
【0084】
(2)試験方法
1)トランスフェクションNHEK(passage4)細胞を2×10cell/ml/wellになるように12well plateに播種し、37℃、5%COインキュベータで培養する。
2)24時間後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。次いで新しい培地に、シソ葉抽出物0.001%と上記の環境因子を添加する。
3)さらに24時間培養した後、培地を除去し、PBS(-)で一回洗浄する。次いで新しい培地にB[a]P、Mite DpF AG、Cedar pollen Extractを添加し、さらに37℃、5%COインキュベータで培養する。
4)24時間培養後、培養上清を回収除去し、PBS(-)で一回洗浄する。RNAiso(タカラバイオ)300μlを添加し、使用説明書に従ってTotal RNAを抽出する。最後にRNaseFreeWater(Qiagen)を30μl添加して、RNAを溶解し、濃度を測定する。
5)PrimeScript(TM) RT reagent Kit(タカラバイオ)を用い、cDNA合成する。
6)次いでSYBRR Premix Ex Taq(TM)II(タカラバイオ)を用いPCRを行う。
7)HPRT1/RPS18遺伝子の発現量を1として、これに対する発現相対量で評価する。
【0085】
(3)データの解析
12wellの測定結果から、平均値及び標準偏差値を得た。全データは希釈培地又はDMSO)添加細胞の測定値に対して有意差検定を行った(t-検定、有意水準:*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001)。
【0086】
(4)試験結果
【0087】
1)抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNAの変化
抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNAの発現量の変化を図22に示す。図22では、環境因子によって低下する抗酸化ストレス因子NFE2L2のmRNA発現が回復又は増強されていることが確認された。
すなわち皮膚に対して環境因子が、抗酸化ストレス因子の発現を抑制するのに対して、シソ葉抽出物は、環境因子による抑制作用に対して抗酸化ストレス因子の低下抑制又は回復、あるいは抗酸化ストレス因子の発現を増強していることが明らかとなった。
【0088】
2)炎症関連因子IL-8mRNAの変化
OR2AT4mRNAを抑制したときの炎症関連因子IL-8mRNAの発現量の変化を図23に示す。図23では、環境因子によってIL-8の発現が増加するが、シソ葉抽出物は、このIL-8の増加を抑制し、正常化する作用を有していることが確認された。
すなわち皮膚に対して環境因子が、皮膚の炎症を誘発又は促進する方向に作用する炎症関連因子IL-8の発現を増強するが、シソ葉抽出物は、このIL-8の発現を抑制する方向に作用することが分かった。
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【配列表】
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