(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20240806BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240806BHJP
F16C 19/44 20060101ALI20240806BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240806BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240806BHJP
F16N 11/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H57/04 D
F16H57/04 J
F16H57/04 K
F16C19/44
F16C33/66 Z
F16C33/58
F16N11/12
(21)【出願番号】P 2020102769
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】奥村 幹太
(72)【発明者】
【氏名】越智 逸平
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053461(JP,A)
【文献】特開2007-187293(JP,A)
【文献】特開2003-278847(JP,A)
【文献】特開平08-014369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16H 57/04
F16C 19/44
F16C 33/66
F16C 33/58
F16N 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心として回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側において、前記太陽ギアと噛み合う遊星ギアと、
前記遊星ギアの径方向外側において、前記遊星ギアと噛み合う円環状のインタナルギアと、
を備えた遊星歯車装置であって、
前記遊星ギアは、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転しながら、前記中心軸の周囲を公転し、
前記遊星歯車装置は、
前記遊星軸に沿って延び、前記遊星ギアを支持するキャリアピンと、
前記キャリアピンと前記遊星ギアとの間に介在する複数のニードルローラと、
前記キャリアピンとともに、前記中心軸を中心として回転するキャリアと、
をさらに備え、
前記キャリアピンは、
前記ニードルローラを潤滑させるための半固形状のグリスを保持するグリス保持部を有
し、
前記グリス保持部は、
前記キャリアピンの外周面に設けられた第1開口から前記遊星軸へ向けて延びる第1孔と、
前記第1孔から軸方向に延びる第2孔と、
を有し、
前記第2孔は、前記遊星軸に対して傾斜した孔であり、
前記第2孔の径方向の位置は、前記第1孔へ近づくにつれて徐々に径方向外側へ近づく、遊星歯車装置。
【請求項2】
中心軸を中心として回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側において、前記太陽ギアと噛み合う遊星ギアと、
前記遊星ギアの径方向外側において、前記遊星ギアと噛み合う円環状のインタナルギアと、
を備えた遊星歯車装置であって、
前記遊星ギアは、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転しながら、前記中心軸の周囲を公転し、
前記遊星歯車装置は、
前記遊星軸に沿って延び、前記遊星ギアを支持するキャリアピンと、
前記キャリアピンと前記遊星ギアとの間に介在する複数のニードルローラと、
前記キャリアピンとともに、前記中心軸を中心として回転するキャリアと、
前記キャリアを回転可能に支持する軸受と、
をさらに備え、
前記キャリアピンは、
前記ニードルローラを潤滑させるための半固形状のグリスを保持するグリス保持部を有し、
前記グリス保持部は、
前記キャリアピンの外周面に設けられた第1開口から前記遊星軸へ向けて延びる第1孔と、
前記第1孔から軸方向に延びる第2孔と、
を有し、
前記第2孔は、前記キャリアピンの軸方向一方側の端面に露出して設けられた第2開口まで延び、
前記軸受は、前記キャリアピンの軸方向他方側の端面と軸方向に対向する、
遊星歯車装置。
【請求項3】
中心軸を中心として回転する太陽ギアと、
前記太陽ギアの径方向外側において、前記太陽ギアと噛み合う遊星ギアと、
前記遊星ギアの径方向外側において、前記遊星ギアと噛み合う円環状のインタナルギアと、
を備えた遊星歯車装置であって、
前記遊星ギアは、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転しながら、前記中心軸の周囲を公転し、
前記遊星歯車装置は、
前記遊星軸に沿って延び、前記遊星ギアを支持するキャリアピンと、
前記キャリアピンと前記遊星ギアとの間に介在する複数のニードルローラと、
前記キャリアピンとともに、前記中心軸を中心として回転するキャリアと、
をさらに備え、
前記複数のニードルローラは、
前記遊星軸を中心として円環状に配列された複数の第1ニードルローラと、
前記複数の第1ニードルローラと軸方向に隣接し、前記遊星軸を中心として円環状に配列された複数の第2ニードルローラと、
を有し、
前記キャリアピンは、
前記ニードルローラを潤滑させるための半固形状のグリスを保持するグリス保持部を有し、
前記グリス保持部は、
前記キャリアピンの外周面に設けられた螺旋状の第1溝と、
前記第1ニードルローラと前記第2ニードルローラの境界部に対向する円環状の第2溝を含み、
前記第2溝から軸方向の両側へ、前記第1溝が延びる、遊星歯車装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の遊星歯車装置であって、
JIS K 2220の試験方法による前記グリスのちょう度は、340以下である、遊星歯車装置。
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3、および請求項4のいずれか1項に記載の遊星歯車装置であって、
前記グリス保持部は、少なくとも、前記遊星ギアの軸方向の中央から前記遊星ギアの軸方向の一方の端部までの範囲に設けられる、遊星歯車装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の遊星歯車装置であって、
前記第1開口は、前記キャリアピンの外周面のうち、前記中心軸に対する周方向の両端面以外の箇所に位置する、遊星歯車装置。
【請求項7】
請求項6に記載の遊星歯車装置であって、
前記第1開口は、前記キャリアピンの外周面のうち、前記中心軸に対する径方向外側の端面に位置する、遊星歯車装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の遊星歯車装置であって、
前記複数のニードルローラは、
前記遊星軸を中心として円環状に配列された複数の第1ニードルローラと、
前記複数の第1ニードルローラと軸方向に隣接し、前記遊星軸を中心として円環状に配列された複数の第2ニードルローラと、
を有し、
前記第1開口は、前記第1ニードルローラと前記第2ニードルローラの境界部へ向けて開口している、遊星歯車装置。
【請求項9】
請求項1に記載の遊星歯車装置であって、
前記第2孔は、前記キャリアピンの軸方向の端面に設けられた第2開口まで延びる、遊星歯車装置。
【請求項10】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の遊星歯車装置であって、
前記グリス保持部は、前記キャリアピンの外周面に設けられた溝である、遊星歯車装置。
【請求項11】
請求項3に記載の遊星歯車装置であって、
前記ニードルローラの軸方向の一端と前記キャリアとの間、および、前記ニードルローラの軸方向の他端と前記キャリアとの間に介在する、一対の円環状のワッシャ
をさらに備え、
前記第1溝は、一方の前記ワッシャと同じ軸方向の位置から、他方の前記ワッシャと同じ軸方向の位置まで延びる、遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽ギアと、太陽ギアの周囲に配置された複数の遊星ギアと、複数の遊星ギアを包囲するインタナルギアとを有する遊星歯車装置が知られている。遊星歯車装置は、太陽ギアに入力される回転運動により、遊星ギアを自転および公転させ、遊星ギアの公転運動を出力することにより、回転運動を減速させる装置である。従来の遊星歯車装置については、例えば、特開2017-53461号公報に記載されている。
【文献】特開2017-53461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2017-53461号公報の遊星歯車装置では、遊星ギアの軸受に、複数のローラからなるニードルベアリングが用いられている。また、当該公報には、ニードルベアリングの潤滑のために、遊星ギアの内周面にグリス保持溝を設けることが、記載されている。
【0004】
ニードルベアリングに用いられるニードルローラは、遊星ギアの内周面に対して内接し、遊星ギアを支持するキャリアピンに対して外接する。このため、ニードルローラは、内接関係にある遊星ギアとの間よりも、外接関係にあるキャリアピンとの間において、より強い接触圧を受ける。しかしながら、特開2017-53461号公報の構造では、ニードルベアリングに対して、遊星ギア側からグリスが供給される。このため、強い接触圧が生じるニードルローラとキャリアピンとの間を、十分に潤滑することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、遊星歯車装置において、強い接触圧が生じるニードルローラとキャリアピンとの間を、良好に潤滑させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、中心軸を中心として回転する太陽ギアと、前記太陽ギアの径方向外側において、前記太陽ギアと噛み合う遊星ギアと、前記遊星ギアの径方向外側において、前記遊星ギアと噛み合う円環状のインタナルギアと、を備えた遊星歯車装置であって、前記遊星ギアは、前記中心軸と平行な遊星軸を中心として自転しながら、前記中心軸の周囲を公転し、前記遊星歯車装置は、前記遊星軸に沿って延び、前記遊星ギアを支持するキャリアピンと、前記キャリアピンと前記遊星ギアとの間に介在する複数のニードルローラと、前記キャリアピンとともに、前記中心軸を中心として回転するキャリアと、をさらに備え、前記キャリアピンは、前記ニードルローラを潤滑させるための半固形状のグリスを保持するグリス保持部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、遊星ギア側からではなく、キャリアピン側から、ニードルローラへ、グリスを供給できる。したがって、強い接触圧が生じるニードルローラとキャリアピンとの間を、良好に潤滑させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る遊星歯車装置の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る太陽ギア、複数の遊星ギア、および遊星支持部を、入力側から見た平面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る遊星歯車装置の部分縦断面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る遊星歯車装置の部分縦断面図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る遊星歯車装置の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、太陽ギアの中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0010】
また、以下の説明では、
図1中の右側を「入力側」と称し、
図1中の左側を「出力側」と称する。
【0011】
<1.第1実施形態>
<1-1.遊星減速機の全体構成>
図1は、第1実施形態に係る遊星歯車装置1の縦断面図である。この遊星歯車装置1は、モータから入力される第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数の回転運動に減速して出力する装置である。遊星歯車装置1は、例えば、産業ロボットや包装機等の各種産業機器に組み込まれて使用される。ただし、遊星歯車装置1は、ロボットの関節や、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の遊星歯車装置1は、1つの太陽ギア10、複数の遊星ギア20、遊星支持部30、インタナルギア40、ケーシング50、および出力シャフト60を備えている。
【0013】
太陽ギア10は、中心軸91に沿って配置されるギアである。太陽ギア10は、入力シャフト11を介して、駆動源であるモータと接続される。入力シャフト11は、ケーシング50に対して、図示を省略した軸受を介して、回転可能に支持される。入力シャフト11および太陽ギア10は、モータから入力される駆動力により、中心軸91を中心として、減速前の第1回転数で回転する。太陽ギア10の外周面には、複数の外歯12が設けられている。複数の外歯12は、中心軸91を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各外歯12は、太陽ギア10の外周面において、径方向外側へ突出する。
【0014】
遊星ギア20は、太陽ギア10の径方向外側に配置されたギアである。
図2は、太陽ギア10、複数の遊星ギア20、および遊星支持部30を、入力側から見た平面図である。ただし、
図2では、図の煩雑化を避けるために、各ギアの歯の図示が省略されている。
図2に示すように、本実施形態では、太陽ギア10の周囲に、3つの遊星ギア20が等間隔で配置されている。ただし、遊星歯車装置1が有する遊星ギア20の数は、1~2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0015】
各遊星ギア20は、中央にピン孔22を有する。ピン孔22には、後述するキャリアピン32およびニードルベアリング34が挿入される。各遊星ギア20は、このキャリアピン32およびニードルベアリング34により、中心軸91と平行な遊星軸92を中心として、回転可能に支持される。
【0016】
遊星ギア20は、外周面に複数の外歯21を有する。複数の外歯21は、遊星軸92を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各外歯21は、遊星ギア20の外周面において、外側へ向けて突出する。太陽ギア10の外歯12と、遊星ギア20の外歯21とは、互いに噛み合う。
【0017】
遊星支持部30は、複数の遊星ギア20を支持するユニットである。遊星支持部30は、キャリア31と、複数のキャリアピン32とを有する。キャリア31は、中心軸91と同軸に配置される。ケーシング50の内周面とキャリア31との間には、軸受37が介在する。キャリア31は、この軸受37により、中心軸91を中心として回転可能に支持される。
【0018】
キャリア31は、複数の貫通孔33を有する。貫通孔33は、キャリア31を径方向に貫通する孔である。複数の貫通孔33は、中心軸91を中心として等間隔に設けられる。複数のキャリアピン32は、周方向に間隔をあけた状態で、配置される。各キャリアピン32は、貫通孔33内において、遊星軸92に沿って軸方向に延びる。キャリアピン32の軸方向の両端部は、キャリア31に固定される。キャリア31に対するキャリアピン32の固定方法には、例えば圧入が用いられる。
【0019】
遊星ギア20は、キャリア31の貫通孔33内に配置される。また、遊星ギア20は、キャリアピン32に対して、ニードルベアリング34を介して、回転可能に支持される。したがって、遊星ギア20は、キャリアピン32およびニードルベアリング34に支持された状態で、遊星軸92を中心として自転することが可能である。また、遊星ギア20は、キャリア31、キャリアピン32、およびニードルベアリング34とともに、中心軸91を中心として公転することが可能である。
【0020】
インタナルギア40は、複数の遊星ギア20の径方向外側において、遊星ギア20と噛み合う円環状のギアである。インタナルギア40は、中心軸91と同軸に配置される。インタナルギア40は、複数の内歯41を有する。複数の内歯41は、中心軸91を中心として一定の角度ピッチで設けられている。各内歯41は、インタナルギア40の内周面において、径方向内側へ突出する。上述した遊星ギア20の外歯21は、インタナルギア40の内歯41と噛み合う。
【0021】
ケーシング50は、上述した太陽ギア10、複数の遊星ギア20、および遊星支持部30を内部に収容する筐体である。ケーシング50は、中心軸91を中心とする略円筒状の外形を有する。本実施形態では、インタナルギア40とケーシング50とが、一体の部材により形成されている。ただし、インタナルギア40とケーシング50とは、別部品であってもよい。ケーシング50は、駆動対象となる装置の枠体に固定される。したがって、遊星歯車装置1の駆動時にも、ケーシング50およびインタナルギア40は、静止した状態に保たれる。
【0022】
出力シャフト60は、中心軸91に沿って配置される円柱状の部材である。出力シャフト60は、キャリア31とともに、中心軸91を中心として回転する。本実施形態では、キャリア31と出力シャフト60とが、一体の部材により形成されている。ただし、キャリア31と出力シャフト60とは、別部品であってもよい。
【0023】
太陽ギア10が第1回転数で回転すると、遊星ギア20は、太陽ギア10との噛み合いにより、遊星軸92を中心として自転する。また、遊星ギア20は、インタナルギア40との噛み合いにより、インタナルギア40に沿って、太陽ギア10の周りを公転する。すなわち、複数の遊星ギア20は、遊星軸92を中心として自転しながら、中心軸91を中心として公転する。このとき、中心軸91を中心とする遊星ギア20の公転の回転数は、第1回転数よりも低い第2回転数となる。
【0024】
また、遊星ギア20が第2回転数で公転すると、複数のキャリアピン32、キャリア31、および出力シャフト60も、中心軸91を中心として第2回転数で回転する。したがって、出力シャフト60から、減速後の第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0025】
<1-2.グリスの保持構造について>
続いて、上述した遊星ギア20におけるグリスの保持構造について説明する。
図3は、遊星ギア20の付近(
図1の領域A)における遊星歯車装置1の部分縦断面図である。
【0026】
図3に示すように、キャリアピン32と遊星ギア20との間には、ニードルベアリング34が介在する。ニードルベアリング34は、複数のニードルローラ70を有する。ニードルローラ70は、軸方向に延びる円柱状の金属部品である。複数のニードルローラ70は、遊星軸91を中心として円環状に配列される。遊星歯車装置1の駆動時には、これらの複数のニードルローラ70を、十分に潤滑させる必要がある。そこで、本実施形態では、キャリアピン32に設けられたグリス保持部80に、グリスが保持されている。グリスは、半固形状の油である。
【0027】
グリス保持部80は、キャリアピン32の外周面に設けられた第1開口811から、キャリアピン32の内部へ向けて延びる孔である。具体的には、グリス保持部80は、第1孔81と第2孔82とを有する。第1孔81は、第1開口811から遊星軸92へ向けて延びる。第2孔82は、第1孔81から、キャリアピン32の軸方向の端面に設けられた第2開口821まで、軸方向に延びる。すなわち、第1孔81と第2孔82とで、略L字状の貫通孔が形成されている。グリスは、第1孔81および第2孔82の内部に保持されている。
【0028】
遊星歯車装置1の駆動時には、グリス保持部80に保持されたグリスが、第1開口811を介して、複数のニードルローラ70へ供給される。グリスは、中心軸91を中心とするキャリアピン32の公転に伴う遠心力、または、ニードルローラ70の転がり運動に伴いニードルローラ70の近傍に生じる負圧によって、グリス保持部80からニードルローラ70へ供給される。また、ニードルローラ70に供給されたグリスは、複数のニードルローラ70の転がり運動に伴い、周方向および軸方向に広がる。これにより、複数のニードルローラ70が潤滑される。その結果、キャリアピン32を中心とする遊星ギア20の自転運動が、円滑に行われる。
【0029】
この遊星歯車装置1では、液状のオイルではなく、半固形状のグリスが用いられている。このようにすれば、グリスを、グリス保持部80から流れ出すことなく保持できる。したがって、オイルシールを設ける必要がないので、遊星歯車装置1の部品点数を低減できる。具体的には、JIS K 2220の試験方法において、ちょう度が340以下のグリスを使用することが好ましい。
【0030】
ニードルローラ70は、遊星ギア20に対して内接する。すなわち、ニードルローラ70の外周面は、遊星ギア20の内周面に接触する。また、ニードルローラ70は、キャリアピン32に対して外接する。すなわち、ニードルローラ70の外周面は、キャリアピン32の外周面に接触する。外接箇所は、内接箇所よりも、強い接触圧が生じる。したがって、遊星歯車装置1の駆動時には、ニードルローラ70と遊星ギア20との間よりも、ニードルローラ70とキャリアピン32との間において、強い接触圧が生じる。
【0031】
そこで、この遊星歯車装置1では、遊星ギア20ではなく、キャリアピン32に設けられたグリス保持部80から、ニードルローラ70へ、グリスを供給する。このようにすれば、強い接触圧が生じるニードルローラ70とキャリアピン32との間を、より良好に潤滑させることができる。
【0032】
また、本実施形態の構造では、キャリアピン32の外周面のうち、第1開口811以外の部分には、孔または溝が形成されない。このため、キャリアピン32の外周面のうち、ニードルローラ70と接触可能な面積を、広く確保できる。したがって、キャリアピン32によるニードルローラ70の支持力が低下することを抑制できる。
【0033】
遊星歯車装置1の駆動時には、キャリアピン32の外周面のうち、中心軸91に対する周方向の両端面(
図2において符号321で示した部分)と、ニードルローラ70との間で、特に強い支持力が発生する。すなわち、これらの両端面321は、複数のニードルローラ70を支持するための、特に重要な支持面となる。したがって、第1開口811は、キャリアピン32の外周面のうち、上記両端面321を避けた位置に、設けることが好ましい。このようにすれば、キャリアピン32の上記両端面321における支持力が低下することを、抑制できる。
【0034】
本実施形態では、キャリアピン32の外周面のうち、中心軸91に対する径方向外側の端面に、第1開口811が設けられている。このようにすれば、遊星歯車装置1の駆動時に、中心軸91を中心とするキャリアピン32の公転に伴い発生する遠心力で、第1開口811からニードルローラ70へ、グリスを供給できる。したがって、グリス保持部80からニードルローラ70へのグリスの供給を、より促進させることができる。
【0035】
図3に示すように、本実施形態の複数のニードルローラ70は、複数の第1ニードルローラ71と、複数の第2ニードルローラ72とを含む。複数の第1ニードルローラ71は、遊星軸92を中心として円環状に配列されている。複数の第2ニードルローラ72も、遊星軸92を中心として円環状に配列されている。また、複数の第1ニードルローラ71と、複数の第2ニードルローラ72とは、軸方向に隣接する。このように、ニードルローラ70を2列に配列すれば、各ニードルローラ70の軸方向に対する傾きの量を抑制できる。したがって、ニードルローラ70の傾きに起因する潤滑不良を抑制できる。
【0036】
また、本実施形態の構造では、第1開口811が、第1ニードルローラ71と第2ニードルローラ72の境界部へ向けて開口している。すなわち、キャリアピン32の外周面のうち、第1ニードルローラ71および第2ニードルローラ72が、もともと接触しない部分に、第1開口811を設けている。このようにすれば、キャリアピン32の外周面に第1開口811を設け、かつ、第1ニードルローラ71および第2ニードルローラ72と、キャリアピン32との接触面積が低下することを、最小限に抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態のグリス保持部80は、第1孔81だけではなく、第2孔82を有する。このため、グリス保持部80が第1孔81のみで構成される場合と比べて、グリス保持部80に、より多くのグリスを保持できる。
【0038】
図3に示すように、第2孔82は、遊星軸92に対して傾斜している。第2孔82の径方向の位置は、第1孔81へ近づくにつれて、徐々に径方向外側へ近づく。このようにすれば、中心軸91に対するキャリアピン32の公転に伴う遠心力により、第2孔82に保持されたグリスが、第1孔81側へ移動する。したがって、遊星歯車装置1の駆動時に、第2孔82から第1孔81を介して複数のニードルローラ70へ、グリスをより良好に供給できる。
【0039】
第1孔81および第2孔82に保持されたグリスにかかる遠心力は、遊星歯車装置1の駆動速度に応じて変化する。したがって、遊星歯車装置1の駆動速度に応じて、グリス保持部80からニードルローラ70へのグリスの供給量を調節できる。具体的には、低速駆動時にはグリスの供給量を少なくし、高速駆動時にはグリスの供給量を増加させることができる。すなわち、ニードルローラ70を潤滑させる必要性が高くなるにつれて、グリスの供給を、より促進させることができる。
【0040】
また、本実施形態の構造では、グリス保持部80の第2孔82が、キャリアピン32の入力側(軸方向一方側)の端面に設けられた第2開口821まで延びている。このため、第2開口821から第2孔82へ、グリスを補充できる。特に、
図1~
図3に示すように、第2孔82は、キャリア31の入力側の端面に露出している。したがって、キャリア31、キャリアピン32、ニードルベアリング34、および遊星ギア20を分解することなく、第2開口821から第2孔82へ、グリスを補充できる。これにより、グリスの補充作業にかかるユーザの負担を軽減できる。
【0041】
また、本実施形態の構造では、キャリアピン32の出力側(軸方向他方側)の端面は、軸受37と軸方向に対向する。第2開口821は、キャリアピン32のこのような出力側の端面ではなく、入力側の端面に設けられている。このため、キャリア31および軸受37も分解することなく、第2開口821から第2孔82へ、グリスを補充できる。
【0042】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の箇所については、重複説明を省略する。
図4は、第2実施形態に係る遊星歯車装置1の部分縦断面図である。
【0043】
本実施形態の遊星歯車装置1は、グリス保持部80の構造が、第1実施形態と異なる。
図4に示すように、本実施形態のグリス保持部80は、キャリアピン32の外周面に設けられた溝である。
【0044】
本実施形態のグリス保持部80は、第1溝83と第2溝84とを有する。第1溝83は、キャリアピン32の外周面に設けられた螺旋状の溝である。第2溝84は、キャリアピン32の外周面に設けられた円環状の溝である。第2溝84は、第1ニードルローラ71と第2ニードルローラ72の境界部と対向する位置に、設けられている。第1溝83は、第2溝84から軸方向の両側へ向けて、螺旋状に延びる。
【0045】
キャリアピン32の外周面にグリス保持部80を形成するときには、まず、キャリアピン32の外周面に、円環状の第2溝84を、切削により形成する。その後、第2溝84を起点として、軸方向の両側へ向けて、螺旋状の第1溝83を、切削により形成する。これにより、螺旋状の第1溝83を容易に形成できる。また、第1溝83を螺旋状とすることにより、溝の加工数を抑えつつ、キャリアピン32の外周面の広い範囲に、溝を設けることができる。
【0046】
グリスは、第1溝83および第2溝84の内部に保持される。このため、遊星歯車装置1の駆動時には、第1溝83および第2溝84からニードルローラ70へ、グリスが供給される。本実施形態の構造を採れば、第1実施形態よりも、キャリアピン32の外周面の広い範囲から、ニードルローラ70へ、グリスを供給できる。ただし、本実施形態では、キャリアピン32の外周面に第1溝83および第2溝84を設けているため、キャリアピン32とニードルローラ70との接触面積が小さくなる。このため、キャリアピン32とニードルローラ70との間の支持力を確保する観点では、第1実施形態の構造の方が好ましい。
【0047】
なお、本実施形態においても、円環状の第2溝84は、第1ニードルローラ71と第2ニードルローラ72との境界部に対向する。すなわち、キャリアピン32の外周面のうち、第1ニードルローラ71および第2ニードルローラ72が、もともと接触しない部分に、第2溝84を設けている。このようにすれば、第2溝84を設け、かつ、第1ニードルローラ71および第2ニードルローラ72と、キャリアピン32との接触面積が低下することを、最小限に抑えることができる。
【0048】
また、
図4に示すように、この遊星歯車装置1は、遊星ギア20毎に、一対のワッシャ35を有する。一対のワッシャ35のうちの一方は、第1ニードルローラ71の入力側の端部(軸方向の一端)とキャリア31との間に介在する。一対のワッシャ35のうちの他方は、第2ニードルローラ72の出力側の端部(軸方向の他端)とキャリア31との間に介在する。各ワッシャ35は、遊星軸92を中心とする円環状の外形を有する。ワッシャ35の硬度は、キャリア31の硬度よりも高い。
【0049】
このようなワッシャ35を設けることで、遊星ギア20とキャリア31とが、直接摺動することを防止できる。また、ニードルローラ70からの押圧力で、キャリア31が摩耗することを抑制できる。
【0050】
図4に示すように、本実施形態では、螺旋状の第1溝83が、一方のワッシャ35と同じ軸方向の位置から、他方のワッシャ35と同じ軸方向の位置まで、延びている。このため、ニードルローラ70だけではなく、一対のワッシャ35にも、グリスが供給される。これにより、遊星ギア20、ワッシャ35、およびキャリア31の摺動性を、より向上させることができる。
【0051】
<3.変形例>
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には限定されない。
【0052】
図5は、第1実施形態の変形例に係る遊星歯車装置の部分縦断面図である。
図5の例では、キャリアピン32のグリス保持部80が、第1孔81と、一対の第2孔82とを有する。一対の第2孔82の一方は、上記の第1実施形態と同様に、第1孔81の端部から、入力側(軸方向一方側)へ向けて延びる。一対の第2孔82の他方は、第1孔81の端部から、出力側(軸方向他方側)へ向けて延びる。このように、第2孔82の範囲を拡大すれば、グリス保持部80に、より多くのグリスを保持できる。
【0053】
上記の第1実施形態、第2実施形態、および
図5の変形例のいずれの形態においても、グリス保持部80は、少なくとも、遊星ギア20の軸方向の中央から、遊星ギア20の入力側(軸方向一方側)の端部までの範囲に、設けられている。このように、グリス保持部80の軸方向の範囲を確保することで、グリス保持部80に多くのグリスを保持できる。
【0054】
ただし、本発明のグリス保持部は、必ずしもこのような範囲に亘って設けられたものでなくてもよい。例えば、第1実施形態の構造において、第2孔82を省略し、第1孔81のみによりグリス保持部80を構成してもよい。
【0055】
また、遊星歯車装置の細部の形状については、本願の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、遊星歯車装置に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 遊星歯車装置
10 太陽ギア
11 入力シャフト
12 外歯
20 遊星ギア
21 外歯
22 ピン孔
30 遊星支持部
31 キャリア
32 キャリアピン
33 貫通孔
34 ニードルベアリング
35 ワッシャ
37 軸受
40 インタナルギア
41 内歯
50 ケーシング
60 出力シャフト
70 ニードルローラ
71 第1ニードルローラ
72 第2ニードルローラ
80 グリス保持部
81 第1孔
82 第2孔
83 第1溝
84 第2溝
91 中心軸
92 遊星軸
811 第1開口
821 第2開口