(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】非ニュートン流体を塗布するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B05C 1/02 20060101AFI20240806BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20240806BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20240806BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B05C1/02 102
B05C11/00
B05D1/28
B05D7/24 301K
(21)【出願番号】P 2020116862
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】江藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】坂本 洋一
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-244191(JP,A)
【文献】特開2014-046220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00-3/20
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動され、対象部材の対象領域を転動する塗布ローラと、
前記塗布ローラの外周部に非ニュートン流体を供給する供給機構と、
前記塗布ローラが転動する方向における前記塗布ローラの前方に、前記塗布ローラとの間に隙間をあけて配置される供給ローラと、
前記塗布ローラを基準として前記塗布ローラが転動する方向の前方における前記対象領域の表面形状を示す形状パラメータを取得する形状パラメータ取得部と、
前記形状パラメータを用いて、前記対象領域の表面形状変化に対して前記塗布ローラの姿勢を追従させる追従機構と、を備え、
前記追従機構は、
前記表面形状変化に対して前記塗布ローラを上下方向に追従させる伸縮部と、
前記表面形状変化に対して前記対象領域の幅方向に前記塗布ローラを揺動させる揺動機構と、を備え、
前記供給ローラは、前記塗布ローラの回転の向きとは逆向きに回転駆動され、
前記対象部材と前記塗布ローラとを移動機構により相対的に移動させながら、前記塗布ローラから前記対象領域へと前記非ニュートン流体を塗布する、非ニュートン流体塗布システム。
【請求項2】
前記塗布ローラの幅および前記供給ローラの幅は、同一または略同一である、
請求項1に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項3】
前記対象部材と前記塗布ローラとの相対的な移動速度に対して前記塗布ローラおよび前記供給ローラのいずれの回転も同期させる制御部を備える、
請求項1または2に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項4】
前記追従機構は、
前記塗布ローラを基準として前記塗布ローラが転動する方向の前側および後側のそれぞれに配置される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項5】
前記塗布ローラと前記対象領域とを押し付けて互いに接触させる加圧機構を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項6】
前記非ニュートン流体を所定の温度に調整する温度調整機構を備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項7】
前記塗布ローラが転動する方向に沿って前記移動機構により移動される移動体を備え、
前記移動体は、少なくとも前記塗布ローラおよび前記供給ローラを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項8】
前記対象部材は、航空機の部材である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布システム。
【請求項9】
対象部材の対象領域を転動する塗布ローラを用いて前記対象領域に非ニュートン流体を塗布する方法であって、
前記塗布ローラを含む非ニュートン流体塗布システムにより、前記塗布ローラと、前記塗布ローラが転動する方向における前記塗布ローラの前方に、前記塗布ローラとの間に隙間をあけて配置された供給ローラとを逆向きに回転駆動するとともに、前記対象部材と前記塗布ローラとを相対的に移動させつつ、前記非ニュートン流体を前記塗布ローラの外周部に供給しながら、前記塗布ローラから前記対象領域へと前記非ニュートン流体を塗布する塗布ステップを備
え、
前記塗布ステップでは、
前記塗布ローラを基準として前記塗布ローラが転動する方向の前方における前記対象領域の表面形状を示す形状パラメータを取得しつつ、前記形状パラメータを用いて、前記対象領域の表面形状変化に対して前記塗布ローラの姿勢を追従させ、
前記姿勢の追従は、
表面形状変化に対して上下方向に前記塗布ローラを追従させる動作と、
前記表面形状変化に対して前記対象領域の幅方向に前記塗布ローラを揺動させる動作と、を含む、非ニュートン流体塗布方法。
【請求項10】
前記塗布ステップにおいて、
前記対象部材と前記塗布ローラとの相対的な移動速度に対して前記塗布ローラおよび前記供給ローラのいずれの回転も同期させる、
請求項9に記載の非ニュートン流体塗布方法。
【請求項11】
前記塗布ステップは、
前記塗布ローラと前記対象領域とを押し付けて互いに接触させながら行われる、
請求項9
または10に記載の非ニュートン流体塗布方法。
【請求項12】
前記塗布ステップに先立ち、あるいは前記塗布ステップに並行して、
前記非ニュートン流体を所定の温度に調整する、
請求項9から
11のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布方法。
【請求項13】
前記対象領域の幅方向への傾きは一定ではなく不定である、
請求項9から12のいずれか一項に記載の非ニュートン流体塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗布ローラを用いてシール材等の非ニュートン流体を塗布するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の構造部材の組み立てに際しては、防水・耐食要求等に基づいて部材同士の接合面にシール材が塗布される。例えば、シール材を供給した接合面に対してローラを回転させながら、接合面にシール材を塗り拡げる。
ローラを用いるシール材の塗布作業は、手作業により、シール材が接合面になす層の厚さ等の状態を確認しながら行われている。
【0003】
塗布装置によるシール材塗布の自動化を試みた例は少ないが、特許文献1は、航空機のストリンガーに適用可能なシール材塗布装置を開示する。かかるシール材塗布装置は、フレームに吊り下げられレールに沿って走行可能であるとともに上下動が可能な台車に搭載されるシール材塗布機構と、ストリンガー等のワークとシール材塗布機構との接圧を付与可能なワーク支持用ポジショナとを備えている。シール材塗布機構は、シール材の供給器と、供給器に対して直列に配置された鋸歯状のシール材ならしロールとを含む。このシール材塗布機構は、ワークの形状に倣って走行し、ならしロールをワークに押し付けつつ、供給器により接合面に供給されたシール材をならしロールの各鋸歯に均等に分配する。走行速度とならしロールの周速とは同調される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗布装置によりシール材の塗布状態を安定させることが難しいため、シール材の塗布工程を自動化する塗布装置の実用化は難しく、依然、シール材の塗布工程を人手に頼っている。
シール材を介在させて組み付けられる部材間の接合品質を確保するため、接合面に安定した厚さでシール材を塗布したい。
【0006】
習熟した作業者によれば、ディスペンサから吐出されたシール材の粘度や塗布されたシール材の状態を確認しつつ、接合面へのローラの押付力、ローラを動かす速度、必要に応じてローラを往復動作させる回数等を経験に基づいて調整することにより、塗布の状態を安定させることが可能である。
しかしながら、習熟した作業者の確保が必要となることに加え、人手による限り熟練の作業者ではあっても塗布作業の速度には限界がある。塗布作業の都度、シール材の状態を確認しつつローラの速度等を調整することで塗布状態を安定させる現況に鑑みると、塗布工程の高速化による生産性向上の要求に対応することが難しい。
【0007】
以上より、本開示は、シール材等の非ニュートン流体の安定した塗布を実現することを通じて、塗布システムの実用化を図ることが可能なシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の非ニュートン流体塗布システムは、回転駆動され、対象部材の対象領域を転動する塗布ローラと、塗布ローラの外周部に非ニュートン流体を供給する供給機構と、塗布ローラが転動する方向における塗布ローラの前方に、塗布ローラとの間に隙間をあけて配置される供給ローラと、を備える。供給ローラは、塗布ローラの回転の向きとは逆向きに回転駆動される。対象部材と塗布ローラとを移動機構により相対的に移動させながら、塗布ローラから対象領域へと非ニュートン流体を塗布する。
【0009】
また、本開示は、対象部材の対象領域を転動する塗布ローラを用いて対象領域に非ニュートン流体を塗布する方法であって、塗布ローラを含む非ニュートン流体塗布システムにより、塗布ローラと、塗布ローラが転動する方向における塗布ローラの前方に、塗布ローラとの間に隙間をあけて配置された供給ローラとを逆向きに回転駆動するとともに、対象部材と塗布ローラとを相対的に移動させつつ、非ニュートン流体を塗布ローラの外周部に供給しながら、塗布ローラから対象領域へと非ニュートン流体を塗布する塗布ステップを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、塗布ローラに加えて、塗布ローラとは逆向きに回転駆動される供給ローラが用いられることにより、塗布ローラと供給ローラとの間の隙間を通じて安定した厚さの非ニュートン流体からなる層を対象領域に形成することができる。非ニュートン流体の塗布状態を安定させることによって、非ニュートン流体塗布の自動化および高速化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るシール材塗布システムの移動体を示す一部破断図である。
【
図2】
図1のII矢印の向きからシール材塗布システムの移動体を示す図である。
【
図3】
図1に示すシール材塗布システムのブロック図である。
【
図4】ほぼ水平な姿勢に配置された部材、塗布ローラ、および供給ローラを上方から模式的に示す平面図である。
【
図5A】塗布ローラと供給ローラとの間を通過したシール材が対象部材に塗布される様子を模式的に示す図である。
【
図5B】比較例であり、塗布ローラと板との間を通過したシール材が対象部材に塗布される様子を模式的に示す図である。
【
図6】
図1の移動体に備わる揺動機構により塗布ローラおよびシール材供給機構の姿勢が傾斜した状態を示す図である。
【
図7A】塗布の対象部材としてのストリンガーを示す斜視図である。
【
図7B】塗布の対象部材としてのフレームを示す斜視図である。
【
図8】対象部材の形状パラメータとしての法線ベクトルを示す模式図である。
【
図9】第2実施形態に係るシール材塗布システムの移動体を示す図である。
【
図10】
図9に示すシール材塗布システムのブロック図である。
【
図11A】塗布ローラからのシール材の剥がれ易さと、塗布ローラ速度との関係を説明するための模式図である(第2実施形態)。
【
図11B】塗布ローラからのシール材の剥がれ易さと、塗布ローラ速度との関係を説明するための模式図である(第1比較例)。
【
図11C】塗布ローラからのシール材の剥がれ易さと、塗布ローラ速度との関係を説明するための模式図である(第2比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態について説明する。以下に述べる実施形態は、塗布ローラ11を用いてシール材3を部材2に塗布するシステムおよび方法を開示する。
【0013】
[第1実施形態]
本実施形態のシール材塗布システム1(
図1~
図3)によれば、対象部材の一例としての航空機の機体を構成する部材2にシール材3を塗布することができる。
【0014】
〔塗布の対象部材〕
部材2は、例えば、
図7Aに示すストリンガー2-1、あるいは、
図7Bに示すフレーム2-2に相当する。これらストリンガー2-1およびフレーム2-2はいずれも航空機の構造部材であり、図示しないスキンに接合される。ストリンガー2-1の断面形状はあくまで一例である。
防水および耐食の要求から、例えば、ストリンガー2-1の対象領域2Aにシール材3を塗布した後、ストリンガー2-1とスキンとを締結等の適宜な方法で接合する。
図4に示すように、位置決め部材9により部材2を所定位置に位置決めすることができる。
航空機の構造部材の接合面である対象領域2Aにシール材3を塗布する場合は、対象領域2Aの全体に亘りシール材3が塗布されることが要求される。
【0015】
〔シール材〕
シール材3は、耐候性等の観点から選定された適宜な分散質と、分散媒とを含み、硬化する前の流動性を有した状態で部材2の対象領域2Aに塗布される。塗布時において、シール材3は、粘性を示す非ニュートン流体に相当する。
部材2の対象領域2Aと、対応する部材(例えばスキン)の対象領域との間は、シール材3が乾燥等により硬化することで封止される。
【0016】
シール材3は、封止機能に加え、部材同士を接着力により接合させる接着機能を有していてもよい。その場合は、部材間におけるシール材3の硬化に伴い、部材同士が接合される。このとき、部材同士が位置決めされた状態で、必要に応じて加圧および加熱の処理が行われてもよい。
【0017】
本実施形態では、シール材3はシリンダ状の容器3C(
図1および
図2)に封入され、温度管理の下、保管される。容器3Cには、塗布ローラ11にシール材3を吐出するノズル31が設けられている。使用前に容器3Cが開封されると、塗布ローラ11を含む移動体40に容器3Cが着脱可能に装着される。容器3Cを新たな容器3Cと交換する際は、使用済の容器3Cのシール材が、新たな容器3Cのシール材と混在することを避けるため、ノズル31、容器3C内に挿入されるピストン状の押出部32、および塗布ローラ11を含めて、シール材3が接触する部材の全てが洗浄される。なお、定期的な点検時にも、ノズル31や塗布ローラ11を含め、シール材3の接触した経路の洗浄が行われる。
【0018】
〔シール材塗布システム〕
図1~
図3に示すシール材塗布システム1(以下、塗布システム1)は、部材2の対象領域2Aを転動する塗布ローラ11を用いて、部材2と塗布ローラ11とを移動機構8により相対的に移動させながら、塗布ローラ11から対象領域2Aへとシール材3を塗布する。
本明細書における「前」および「後」は、塗布ローラ11の位置を基準として、塗布ローラ11が転動する方向(転動方向RD)の前方および後方を言う。
【0019】
塗布システム1は、
図1~
図3に示すように、塗布ローラ11と、塗布ローラ11の前方に配置される供給ローラ12と、シール材3を塗布ローラ11の外周部11Aに供給する供給機構30と、塗布ローラ11および供給ローラ12を含む移動体40と、塗布ローラ11および供給ローラ12の回転駆動を制御する制御部6とを備えている。
制御部6、または図示しない別の制御部により移動機構8が駆動されることで、塗布ローラ11を備えた移動体40が移動速度にて部材2に対して送られる。
【0020】
さらに、塗布システム1は、塗布ローラ11と対象領域2Aとを弾性力により互いに接触させる加圧機構41と、部材2の形状変化に塗布ローラ11を追従させるための形状パラメータ取得部42および追従機構43とを備えていることが好ましい。加圧機構41、形状パラメータ取得部42、および追従機構43は、本実施形態のように移動体40に設けることができる。
【0021】
(供給機構)
供給機構30(
図1および
図2)は、例えば、容器3Cおよびノズル31と、押出部32とを備えている。
押出部32は、制御部6により駆動制御される例えばエアシリンダ等の駆動装置33により、容器3C内のシール材3をノズル31から押し出す。シール材3は、ノズル31を通じて、塗布厚さに相応の供給量で塗布ローラ11の外周部11Aに安定して供給される。
押出部32は、容器3C内のシール材3の減少に伴い、例えば、
図1に示す位置から
図2に示す位置まで移動する。
【0022】
外周部11Aの近傍に位置するノズル31は、下方に向かうにつれて、転動方向RDには次第に細くなり、塗布ローラ11の幅方向には
図2に示すように次第に開口面積が拡大する。ノズル31から塗布ローラ11の外周部11Aの幅方向全体にシール材3が供給されるように、転動方向RDに対して直交した回転軸11Bの方向におけるノズル31の下端31Aの寸法は、塗布ローラ11の幅の寸法と同等に設定されることが好ましい。
【0023】
(移動体)
移動体40は、塗布ローラ11が転動する転動方向RDに沿って移動機構8(
図2)により部材2に対して移動される。
図2には、移動体40が着脱可能に装着される移動機構8の装着部81のみを示し、装着部81を水平方向や上下方向にガイド可能なレール等を備えた移動機構8の全体の図示は省略する。
所定位置に位置決めされた部材2に対して移動機構8により移動体40が移動する。
【0024】
移動体40は、塗布ローラ11と、供給ローラ12と、塗布ローラ11および供給ローラ12等を支持する支持部400と、弾性体としてのばね411を含む加圧機構41と、形状パラメータ取得部42と、追従機構43とを備えている。
【0025】
(塗布ローラ)
塗布ローラ11は、回転軸11Bを中心に回転可能に支持部400に支持されており、制御部6による制御の下、モータ11M(
図2)により回転駆動される。
塗布ローラ11は、矢印R1の向きに回転駆動されることで、対象領域2Aに接触しつつ、回転軸11Bの周りに回転しながら所定の向き(RD)に移動する。塗布ローラ11の「転動」は、この意味で用いる。
【0026】
塗布ローラ11は、樹脂材料等の適宜な材料から形成されている。供給ローラ12も同様である。
後述するように、制御部6により、部材2と塗布ローラ11との相対的な移動速度に対して塗布ローラ11の回転数および供給ローラ12の回転数のいずれも同期されることが好ましい。塗布ローラ11および供給ローラ12のそれぞれの速度を制御する場合は、モータ11M,12Mにサーボモータが用いられる。
【0027】
図7A,
図7Bに示すように部材2が、所定方向に長い対象領域2Aを有する場合、移動体40の塗布ローラ11は、部材2の長手方向に沿って対象領域2Aを転動する。このとき、塗布ローラ11の転動方向RDは、部材2の長手方向にほぼ一致する。
【0028】
塗布ローラ11には、対象領域2Aと同等の幅が与えられることが好ましい。対象領域2Aの全体に亘りシール材3を確実に塗布するため、塗布ローラ11の幅は、例えば、対象領域2Aの幅よりも数mm大きく設定することができる。
塗布ローラ11の幅と対象領域2Aの幅とが同等であると、塗布ローラ11の幅方向の両側からシール材3が垂れるのを抑えることができるので、溜まったシール材3が対象領域2Aの幅方向両端におけるシール材3の厚さに影響したり、先にノズル31から吐出されたシール材3が、それよりも後に吐出されたシール材3に混入するコンタミネーションが発生したりといったことを避けることができる。
その上、長尺の対象領域2Aの一端から他端まで塗布ローラ11を転動させる一度の塗布ステップにより、対象領域2Aの全体に亘るシール材3の塗布を完了することができる。
【0029】
塗布ローラ11には、シール材3の塗布状態の安定と、塗布ローラ11の回転数および径により決まる塗布速度の高速化を考慮して、一定以上の径が確保されることが好ましい。塗布ローラ11に一定以上の径が確保されるならば、塗布ローラ11が対象領域2Aに接触する箇所を一定以上の領域に亘り確保してシール材3の塗布状態を安定させることができる。また、モータ11Mの回転数を上限に収めつつ、塗布速度の高速化を図ることができる。
塗布ローラ11の径は、例えば、30mm以上であることが好ましい。
塗布ローラ11の回転と同期させる供給ローラ12にも、塗布速度の高速化を考慮して、供給ローラ12と同様に、一定以上の径が確保されることが好ましい。塗布ローラ11および供給ローラ12のそれぞれの径は、同一である必要はなく、相違していてもよい。
【0030】
塗布システム1は、塗布ローラ11の幅よりも幅が広い対象領域2Aにも適用することができる。この場合は、対象領域2Aの幅方向に移動体40を移動機構8により移動させながら、対象領域2Aの全体に亘りシール材3を塗布することができる。
【0031】
(供給ローラ)
供給ローラ12は、塗布ローラ11の前方に隣接し、支持部400に支持されている。供給ローラ12および塗布ローラ11の上方より、塗布ローラ11の外周部11Aに供給されたシール材3は、供給ローラ12と塗布ローラ11との間に溜まりつつ、互いに逆向きに回転駆動される供給ローラ12と塗布ローラ11との隙間13を通じて、塗布ローラ11において隙間13よりも下方の外周部11Cに安定した供給量で供給される。隙間13は、塗布ローラ11の外周部11Cにシール材3を供給するノズルとして機能する。
【0032】
供給ローラ12は、塗布ローラ11の回転の向き(R1)とは逆向き(R2)に、制御部6による制御の下、モータ12M(
図2)により、塗布ローラ11の回転軸11Bに対して平行な回転軸12Bを中心に回転駆動される。
供給ローラ12は、塗布ローラ11による対象領域2Aの塗布時において対象領域2Aには接触しない。
【0033】
外周部11Cの幅方向全体に亘りシール材3を安定して供給するため、供給ローラ12の幅は、塗布ローラ11の幅と同一または略同一であることが好ましい。供給ローラ12の幅が塗布ローラ11の幅よりも広過ぎて供給ローラ12の両側にシール材3が溜まり、溜まったシール材3が塗布ローラ11の幅方向両側におけるシール材3の厚さに影響することを避けるためには、供給ローラ12の幅が広いとしても、ローラ11,12のそれぞれの幅の差を数mmに留めると良い。
【0034】
供給機構30のノズル31から、
図5Aに示すように塗布ローラ11の外周部11Aに供給されたシール材3は、塗布ローラ11および供給ローラ12の回転に伴いローラ11,12間の隙間13を通過し、外周部11Cの幅方向の全域に亘り隙間13の寸法に対応する厚さの層3L1をなす。
外周部11Cは、回転する塗布ローラ11において、隙間13の位置から対象領域2Aまでの範囲に相当する。外周部11Aは、隙間13よりも上方に位置している。
【0035】
ノズル31からのシール材3の単位時間あたりの供給量が仮に変動したとしても、シール材3がローラ11,12間に溜まりつつローラ11,12の回転に伴い隙間13を通じて外周部11Cに幅方向の全域に亘り均一な流量で供給されるため、外周部11Cにおけるシール材3の厚さが安定する。そのため、外周部11Cからの転写により対象領域2A上に形成されるシール材3の層3L2の厚さtを安定させることができる。
【0036】
塗布ローラ11と供給ローラ12との間に溜まるシール材3の量は、シール材3の塗布状態を安定させることの可能な必要最小限の量で足りる。
【0037】
図5Bの比較例に示すように、供給ローラ12の代わりに板14が塗布ローラ11の前方の所定位置に設置される場合は、板14にシール材3が滞留し、隙間15よりも上方から外周部11Cへと移動するシール材3の挙動が安定しないため、外周部11Cにおいても対象領域2Aにおいてもシール材3の厚さが安定しない。
【0038】
供給ローラ12には、軸方向の両側に円形状の仕切121(
図1)が設けられていることが好ましい。一対の仕切121は、供給ローラ12と共に回転軸12Bを中心に回転される。仕切121は、外周部12Aよりも径が大きいため、全周に亘り外周部12Aから突出している。そのため、一対の仕切121の間の区画に溜まったシール材3が仕切121の外部に対して隔てられることにより、外部からの塵埃等のシール材3への混入を避けつつ、一対の仕切121の間にシール材3の付着した領域が限定されるので、シール材3が付着した領域の洗浄を容易に行うことができる。
なお、一対の仕切121は、必ずしも、供給ローラ12と共に回転しなくてもよい。
【0039】
(制御部)
制御部6は、対象領域2Aに塗布されるシール材3の厚さをより安定させるため、部材2と塗布ローラ11との相対的な移動速度Fに対して塗布ローラ11および供給ローラ12のいずれの回転も同期させることが好ましい。
ここで、移動速度Fと、対象領域2Aに要求されるシール材3の厚さtと、供給機構30から塗布ローラ11へのシール材3の供給量c(流量)と、塗布ローラ11の幅W1とは、次式(1)の関係にある。
【0040】
【0041】
αは、供給量cを補正するための係数である。例えば、シール材3が供給ローラ12の外周部12Aや仕切121等に付着することで、対象領域2Aにおけるシール材3の厚さが不足することを避けるため、αに1を超える値を設定するとよい。塗布ローラ11から対象領域2Aへのシール材3の塗布を行いながら、αを変化させることで供給量cを調整することも可能である。
【0042】
制御部6は、対象領域2Aにシール材3を塗布する間に亘り、塗布ローラ11と供給ローラ12との間にシール材3が溜まりつつ、隙間13を通じてシール材3が外周部11Cを経由して対象領域2Aに供給されるように、ノズル31からのシール材3の吐出流量を一定にあるいは可変に制御することができる。
塗布ローラ11と供給ローラ12との間には、塗布前に予め適量のシール材3を供給しておくこともできる。
【0043】
制御部6、または図示しない別の制御部は、移動速度Fにて移動機構8を駆動することで、塗布ローラ11を備えた移動体40を部材2に対して転動方向RDに送る。
このとき、シール材3の厚さをより安定させるため、移動速度Fと塗布ローラ11の周速とを一致させることが好ましい。また、同様の理由から、塗布ローラ11の周速と供給ローラ12の周速とを一致させることが好ましい。移動速度Fおよびローラ11,12のそれぞれの直径D1,D2から、それぞれの回転数s1,s2が決まる。
【0044】
制御部6は、塗布ローラ11の直径がD1であり、供給ローラ12の直径がD2であるとして、例えば、下記の式(2)から塗布ローラ11の回転数s1を導き、下記の式(3)から供給ローラ12の回転数s2を導いて、回転数s1,s2をローラ11,12の同期制御に用いることができる。
【0045】
【0046】
【0047】
制御部6に設定される設定値および制御パラメータのそれぞれの一例を示す。制御部6は、下記の設定値および制御パラメータを記憶媒体に記憶させ、記憶媒体から読み出して供給機構30や塗布ローラ11等の制御に用いることができる。
<設定値>
要求厚さ :t[mm]
移動速度 :F[mm/min]
塗布ローラ11の直径:D1[mm]
塗布ローラ11の幅 :W1[mm]
供給ローラ12の直径:D2[mm]
【0048】
<制御パラメータ>
シール材3の供給量 :c[mm3/min]
塗布ローラ11の回転数:s1[min-1]
供給ローラ12の回転数:s2[min-1]
【0049】
移動速度Fと、回転数s1および直径D1から求められる周速とが一致もしくは実質的に一致するとき、塗布ローラ11の回転は移動速度Fに同期している。同様に、移動速度Fと、回転数s2よび直径D2から求められる周速とが一致もしくは実質的に一致するとき、供給ローラ12の回転は移動速度Fに同期している。塗布ローラ11および供給ローラ12のいずれの回転も移動速度Fに同期しているならば、ローラ11,12のそれぞれの回転も互いに同期している。
【0050】
塗布ローラ11の回転と供給ローラ12の回転とが同期していると、隙間13を通じたシール材3の流れが安定するので、外周部11Cにおけるシール材3の層3L1の厚さも安定する。
さらに、塗布ローラ11の回転が移動速度Fに同期していると、対象領域2Aを塗布ローラ11が滑らずに転動することで、シール材3の層3L1が塗布ローラ11から安定して剥がれて対象領域2Aに転写される結果、対象領域2Aにおけるシール材3の層3L2の厚さをより十分に安定させることができる。
【0051】
(支持部)
支持部400は、塗布ローラ11、供給ローラ12、供給機構30、および温度調整機構7を支持する。この支持部400は、第1支持板401、第2支持板402、および第3支持板403を含む積層体と、容器3Cおよび駆動装置33を支持する支柱404と、移動機構8の装着部81に装着される取付部405とを備えている。
【0052】
(加圧機構)
加圧機構41は、塗布ローラ11および供給ローラ12等を支持する第1支持板401の上方に、第2支持板402を支持する複数(ここでは4つ)の弾性体としてのコイルばね411を有している。これらのコイルばね411の弾性力により塗布ローラ11が対象領域2Aに対して押し付けられた状態に接触するように、支持部400を支持する装着部81の対象領域2Aに対する高さが移動機構8により調整されるとともに、複数(ここでは4つ)の伸縮部431によりコイルばね411の弾性力が調整される。
【0053】
本実施形態とは異なり、部材2を支持する装置に、塗布ローラ11と部材2とを弾性力により接触させる加圧機構を設けてもよい。
【0054】
(形状パラメータ取得部)
形状パラメータ取得部42は、例えばレーザーを用いて対象領域2Aを幅方向に走査するラインセンサである。形状パラメータ取得部42は、例えば第1支持板401に設けられて支持部400と共に転動方向RDに移動しながら、塗布ローラ11よりも前方の対象領域2Aの形状を示す形状パラメータを検知する。形状パラメータは、例えば、対象領域2Aの表面に対して直交する法線のベクトルである。
図8には、ラインセンサにより検知可能な対象領域2Aの法線ベクトルのイメージを複数の矢印により示している。対象領域2Aの形状が転動方向RDに変化すると、検知される法線ベクトルが変化する。
図8の法線ベクトルが示しているように、対象領域2Aの幅方向への傾きは必ずしも一定ではない。
【0055】
形状パラメータ取得部42は、ラインセンサに限らず、例えば、対象領域2Aを撮像するカメラと、カメラにより得られた画像データから形状パラメータを取得する画像処理部とを含んで構成されていてもよい。カメラおよび画像処理部の図示は省略する。
【0056】
(追従機構)
追従機構43は、形状パラメータ取得部42により取得された形状パラメータ(法線ベクトル)を用いて、対象領域2Aの形状変化に対して塗布ローラ11の姿勢を追従させる。上述のコイルばね411を有した加圧機構41により、対象領域2Aの傾きに対して塗布ローラ11をある程度は追従させることができる。追従機構43によれば、加圧機構41による追従範囲を超える大きな傾きに対しても塗布ローラ11を追従させることが可能となる。
追従機構43は、第2支持板402および第3支持板403の間に設けられた複数の伸縮可能なエアシリンダ等からなる伸縮部431と、対象領域2Aの幅方向への揺動機構432とを有する。
【0057】
一対の揺動機構432はそれぞれ、軸部432Aを中心に第2支持板402に対して第1支持板401を駆動するモータ432Bを備えている。揺動機構432は、移動体40の転動方向RDにおける前側と後側とにそれぞれ配置されている。
例えば、部材2が水平面に対して傾斜しているとすると、制御部6によりモータ432Bを駆動することで、
図6に示すように、第1支持板401と、第1支持板401に支持されているローラ11,12や容器3C等を第2支持板402および第3支持板403に対して対象領域2Aの幅方向に揺動させることができる。
【0058】
制御部6は、法線ベクトル等の形状パラメータを監視することで対象領域2Aの傾き等の形状変化を把握し、その形状変化に追従するように各伸縮部431および各揺動機構432を駆動することで塗布ローラ11の姿勢を変化させる。こうした追従機構43を移動体40に備えていることで、例えば塗布ローラ11に追従機構を備えている場合と比べて、対象領域2Aの形状変化に追従可能な角度を拡大することができる。
形状パラメータ取得部42および追従機構43を用いた姿勢制御によれば、航空機の機体を構成する部材2のように、種々の形状が与えられた多数の部材2の形状を、寸法形状の公差を含め、塗布する間に亘り継続して把握しながら、シール材3によって塗布ローラ11が対象領域2Aに対して幅方向に滑ったり、対象領域2Aから離れてしまったりすることなく適切な接圧を塗布ローラ11および部材2に与えながら、シール材3を安定して塗布することができる。
【0059】
追従機構43を用いた姿勢制御により、対象領域2Aに対して塗布ローラ11の外周面がなす角度を例えば5°以下に抑えることが好ましい。当該角度は、対象領域2Aの法線ベクトルと、移動体40に設定されている中心軸Xとがなす角度(例えば
図6のθ)によっても表すことができる。
【0060】
塗布ローラ11と部材2とを押し付けて互いに接触させるために、必ずしもばね411等の弾性体は必要ない。例えば、支持部400を支持する装着部81に加えられる荷重をセンサにより検知しつつ、移動機構8により支持部400を上下方向に変位させることで、塗布ローラ11と部材2の対象領域2Aとが所定の力で押し付けられるようにしてもよい。この場合、加圧機構41を必要としない。
また、移動機構8により支持部400の姿勢を制御するようにすれば、加圧機構41の機能と追従機構43の機能とを移動機構8が兼ねるので、加圧機構41および追従機構43を必要としない。
【0061】
〔シール材塗布方法〕
以上で説明した塗布システム1によりシール材3を塗布する手順の一例を説明する。
制御部6により上述の式(1)~(3)に基づいて、シール材3の供給量c、塗布ローラ11の回転数s1、および供給ローラ12の回転数s2を、演算を経て取得したならば(制御パラメータ取得ステップ)、移動機構8により、移動速度Fにて移動体40を対象領域2Aに対して転動方向RDに送りながら、供給機構30によりノズル31から供給量cにてシール材3を塗布ローラ11に供給しつつ、制御部6による駆動制御の下、塗布ローラ11のR1方向への回転を回転数s1に制御するとともにR2方向への供給ローラ12の回転を回転数s2に制御し、さらに加圧機構41により塗布ローラ11を対象領域2Aに対して押さえつつ、塗布ローラ11によりシール材3を対象領域2Aに塗布する(塗布ステップ)。この塗布ステップにおいて形状パラメータ取得部42により検知された形状パラメータを用いて塗布ローラ11や供給ローラ12等の姿勢を補正すると好ましい。
【0062】
部材2に対する移動体40の移動速度Fは、制御部6あるいは別の制御部により可変に制御することも可能である。例えば、部材2の段差2S(
図5A)においてシール材3の厚さが不足することを避けるため、塗布前または塗布中に取得された形状パラメータに基づいて、対象領域2Aにおける段差2Sの手前で移動体40を減速することにより、塗布ローラ11から対象領域2Aへの単位長さあたりのシール材供給量を増加させ、段差2Sを通過した後に移動体40の速度を移動速度Fに戻すようにしてもよい。こうした移動体40の変速に追従させるように、塗布ローラ11の回転数s
1および供給ローラ12の回転数s
2を調整するとよい。
【0063】
本実施形態によれば、塗布ローラ11に加えて供給ローラ12が用いられることにより、両者の間の隙間13を通り対象領域2Aに供給されるシール材3によって安定した厚さの層3L2を対象領域2Aに形成することができる。さらに、上述したように塗布ローラ11と供給ローラ12との間に必要最小限の量だけシール材3が滞留するので、シール材3への異物等の混入や、ノズル31から吐出されてからの経過時間が異なるシール材3同士の混在を出来るだけ避けることができるとともに、ローラ11,12からシール材3を除去する洗浄作業を容易に行うことができる。
塗布ローラ11および供給ローラ12を備える塗布システム1の使用によれば、手作業による塗布作業から脱却し、シール材塗布の自動化および高速化を実現することができる。
【0064】
[第2実施形態]
図9、
図10、および
図11Aを参照し、第2実施形態を説明する。
以下、第1実施形態とは相違する事項を中心に説明する。第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付している。
第2実施形態の塗布システム1-2は、
図9および
図10に示すように、シール材3を所定の温度に調整する温度調整機構7を備えている。第2実施形態に係る塗布システム1-2およびシール材塗布方法によれば、一度塗りでも対象領域2Aに所望の厚さのシール材3の層を形成する。
【0065】
シール材3の温度は、基本的には、使用される環境の温度に近似し、シール材3の粘度を含む物性は、シール材3の温度に応じて変化する。第2実施形態によれば、シール材3の温度特性に応じた、塗布ローラ11からのシール材3の剥がれ易さと、塗布ローラ11の速度との関係から、塗布時のローラ速度VRを導くことにより、対象領域2Aへのシール材3の塗布の状態を安定させて部材間の接合品質を向上させることができる。
【0066】
シール材3の温度特性に対応したローラ速度VRの設定について説明する。
ローラ速度VRは、塗布ローラ11の周速に相当する。当該周速は、塗布ローラ11の回転数s1、直径D1、および円周率πより換算できるから、シール材3の温度特性に対応するローラ速度としての回転数s1を取得し、回転数s1を用いて塗布ローラ11の周速に換算してもよい。
【0067】
シール材3が、ある温度Tで、かつある粘度ηのとき、塗布ローラ11からのシール材3の剥がれ易さと、塗布ローラ11の速度との関係は、下記の式(4)により表される。
VG<VR<VS (4)
VG:シール材3が、塗布ローラ11の回転による対象領域2Aへの到達に先行して塗布ローラ11の外周部11Aから離脱する速度
VR:塗布ローラ11の周速に相当する速度
VS:対象領域2Aに到達したシール材3が塗布ローラ11の外周部から離脱する速度
【0068】
ここで、VGは、シール材3の物性により、VRとの関係で相対的に定まる速度である。、VSも、シール材3の物性により、VRとの関係で相対的に定まる速度である。試験や解析によりVGやVSを導くことができる。
VG<VRのとき、シール材3は、対象領域2Aへの到達に先行して塗布ローラ11から重力や遠心力等により離脱することなく、外周部11Cに留まることができる。
また、VR<VSのとき、対象領域2Aに到達し、重力や遠心力、対象領域2Aとの密着力等が作用するシール材3が、塗布ローラ11の外周部から離脱することができる。
例えば、ローラ速度VRを変えて塗布試験を行ったとき、VGとVRとの関係が式(4)とは逆転したり、VRとVSとの関係が式(4)とは逆転したりすれば、塗布状態が安定し難い。
【0069】
上記の式(4)より、VGからVSまでの間であるローラ速度VRの範囲(速度域SR)が導かれる。当該範囲においてローラ速度VRが決定される。速度域SRおよびローラ速度VRは、制御部6の記憶媒体に記憶させることができる。
ローラ速度VRは、VGよりも十分に大きく、かつ、VSよりも十分に小さいことが好ましい。例えば、VGからVSまでの中心値をローラ速度VRに定めることができる。
【0070】
図11Aは、設定されたローラ速度V
Rにて塗布ローラ11が回転駆動されるときのシール材3の流れの挙動を模式的に示している。
上記の式(4)の関係が成り立つとき、
図11Aに示すように、シール材3は、隙間13よりも下方の外周部11Cにおいて安定した厚さの層3L1をなすとともに、塗布ローラ11のR1方向への回転に伴い層3L1が対象領域2Aに接触すると塗布ローラ11から離脱し、対象領域2Aにおいても安定した厚さの層3L2をなす。このとき、層3L1の厚さt1と、層3L2の厚さt2とは同等である。
【0071】
上記の式(4)が成り立たない場合について、
図11Bおよび
図11Cを参照して説明する。式(4)が成り立たない場合は、塗布ローラ11の外周部11Aにシール材3が安定した供給量にて供給されるとしても、シール材3の温度による粘度等の物性のばらつきがシール材3の流れの状態に与える影響が大きいため、シール材3の塗布状態を安定させることが難しい。
【0072】
図11Bに示すように、V
RがV
Gよりも十分に小さいとき(V
R<<V
G)、
図11Aと比べてローラ速度V
Rが遅いがために、外周部11Cに付着したシール材3が、塗布ローラ11の回転による対象領域2Aへの到達に先行して、重力や遠心力等より外周部11Cから離脱し、流れ落ちてしまう。流れ落ちるシール材3の挙動が不安定であるため、外周部11Cにおけるシール材3の厚さt1を安定させることが難しい。そうすると、対象領域2Aに付着したシール材3の厚さt2も安定させることが難しい。t1,t2の関係は、t1>t2、あるいはt1<t2となるので、対象領域2A上のシール材3の層3L2の厚さのばらつきが大きい。
【0073】
次に、
図11Cに示すように、V
RがV
Sよりも十分に大きいとき(V
S<<V
R)、
図11Aと比べてローラ速度V
Rが速いがために、外周部11Cに付着したシール材3が対象領域2Aとの接触により塗布ローラ11から離脱する前に、塗布ローラ11の回転により対象領域2Aから離れてしまう。このように対象領域2Aと接触してもシール材3が塗布ローラ11から離脱しない場合のシール材3の挙動が不安定なので、
図11Cに示す例のように、塗布ローラ11から対象領域2Aに一部のシール材3が移行するとしても、シール材3の厚さt2を安定させることが難しい。
【0074】
例えば、外周部11Cに付着したシール材3の一部だけが対象領域2Aに転写され、残りのシール材3が、対象領域2Aを通過しても同じ箇所(外周部11C´)に残される。この場合は、外周部11Cにおけるシール材3の厚さt1と、対象領域2Aに付着したシール材3の厚さt2との関係はt1>t2となるから、t2の不足により対象領域2Aの全体をシール材3により覆うことができずに、対象領域2Aの一部が露出する可能性がある。
【0075】
上記式(4)により示される速度域SRにローラ速度V
Rが選定されるならば、塗布ローラ11からシール材3が離脱するタイミングに塗布ローラ11の回転を同期させることができる。そうすると、シール材3の温度による粘度等の物性のばらつきによらず、
図11Aに示すように、外周部11Cにおいてシール材3が離脱せずに厚さt1を維持し、対象領域2Aに到達すれば対象領域2Aに付着して塗布ローラ11から離脱する。したがって、対象領域2Aに安定した厚さのシール材3の層3L2が形成されることとなる。
【0076】
温度条件毎にローラ速度VRを変えて、塗布システム1-2によりシール材3を対象領域2Aに塗布する試験の結果に基づいて、シール材3の塗布厚さ、およびシール材3が対象領域2Aを覆う割合の観点から安定した塗布状態が得られた速度域を例示する。
検証試験結果:
気温が15℃のとき:2.5~3m/分
気温が35℃のとき:7.5~14m/分
【0077】
15℃および35℃のいずれの条件においても、対象領域2Aの一端から他端まで塗布ローラ11を一度だけ転動させてシール材3を塗布したとき、膜厚ゲージにより測定されたシール材3の塗布厚さ(層3L2の厚さ)は120μm以上であり、さらに、対象領域2Aの100%の範囲がシール材3により覆われていることが目視により確認された。
【0078】
上記と同じ一度塗りで、気温が35℃、ローラ速度VRが5m/分の条件で試験を行ったところ、シール材3の塗布厚さが不足した。この場合は二度塗りなどの膜厚を一定に保つための動作が必要である。
また、一度塗りで、気温が15℃、ローラ速度VRが10m/分の条件で試験を行ったところ、シール材3の塗布厚さが不足し、かつばらついた。この場合は複数回重ね塗りしても膜厚が安定しないおそれがある。
以上の試験結果より、シール材3の温度特性に応じて、シール材3の塗布状態の安定に寄与する速度域SRが存在すると言えるから、試験結果は式(4)に整合した。
【0079】
塗布システム1-2を用いた上記の試験結果から、塗布作業を行うときの環境温度に適合する速度域にて塗布ローラ11を回転駆動することにより、一度塗りによって安定した厚さのシール材3の層3L2を対象領域2Aに得ることができる。
【0080】
上記の試験結果より、温度毎の適合速度は、シール材3の温度が高いほど速い。したがって、環境温度が相対的に高い温度のときに塗布作業を行うと、部材2に対して塗布ローラ11を高速で転動させながらシール材3の塗布が行われることとなるので、塗布工程に要する時間を短縮することができる。
特に、塗布時にシール材3に許容される温度の上限に近い温度(例えば35℃)のときに塗布作業を行うと、塗布工程の短縮の観点から好ましい。
以上に加え、シール材3の温度が高いほど、温度毎の適合速度域が広いことから、塗布ローラ11や移動体40等を駆動する装置の自由度が高く、塗布ローラ11や移動体40にそれぞれ適切な速度を与えることができる。
【0081】
なお、上述の検証試験と同様の試験を水平面に対して5°をなす対象領域2Aに対して実施したところ、十分な塗布厚さで対象領域2Aの全面に亘りシール材3が塗布されることが確認された。
【0082】
(温度調整機構)
温度調整機構7は、加温および冷却の少なくとも一方の機能を有しており、シール材3を所定の温度に調整する。シール材3を加温する場合、温度調整機構7は、例えば、電熱線を備えるもの、あるいは、熱源と、温水や温風等の熱媒体とを備えるものであってよい。シール材3を冷却する場合、温度調整機構7は、例えば、ペルチェ素子を備えるものであってよい。シール材3の許容温度の上限を環境温度が超える場合に、冷却機構を有した温度調整機構7により、シール材3の温度を許容値以下に維持することができる。
【0083】
本実施形態の温度調整機構7は、シール材3の供給源である容器3Cを覆うカバー71と、カバー71に組み込まれる図示しない電熱線とを備えており、通電される電熱線の出力を制御部6により制御することによって、容器3Cを介してシール材3の温度を例えば30℃以上に調整する。但し、シール材3に許容される温度を超えないように温度を制御する。
通電により電熱線から熱が発せられると、
図9にドット状のパターンで示すように、カバー71の内側の容器3C、押出部32、およびノズル31の一部を含む範囲の全体が加温される。
【0084】
温度調整機構7は、供給機構30の構成に応じて適宜に構成することができる。図示を省略するが、例えば、シール材3の供給機構が、供給源としてのタンクと、塗布ローラ11にシール材3を吐出するノズルと、それらのタンクおよびノズルを繋ぐホースとを備えていてもよい。この場合、温度調整機構7としての加温カバーによりタンクおよびホースを覆うようにしてもよい。加温カバーには例えば電熱線を組み込むことができる。
【0085】
温度調整機構7により加温あるいは冷却されることでシール材3に与えられた温度が、対象領域2Aにシール材3が到達するまでに出来るだけ保たれるように、ノズル31や塗布ローラ11、供給ローラ12の全てあるいは一部を、金属材料と比べて熱伝導率が低い樹脂材料等から形成することができる。採用可能な樹脂材料としては、例えば、シリコーン樹脂を挙げることができる。
保温に留まらず、塗布ローラ11や供給ローラ12に温度調整機構7を組み込むことも可能である。
【0086】
温度調整機構7によりシール材3が一定の温度に調整されると、式(4)を示して説明したように、シール材3の安定した塗布状態が得られる塗布ローラ11の速度域SRが決まる。
温度調整機構7を備えていると、環境温度にかかわらず、シール材3の温度と速度域SRとの関係を成立させることができる。例えば、駆動装置により塗布ローラ11や移動体40を駆動することが可能な速度域に適合した温度をシール材3に与えることができる。
【0087】
〔シール材塗布方法〕
塗布システム1-2によりシール材3を塗布する手順の一例を説明する。
上述の式(4)に基づいて速度域SRからローラ速度VRを設定するとともに、上述の式(1)~(3)に基づいて制御部6によりシール材3の供給量c、ローラ速度VRから換算した塗布ローラ11および供給ローラ12のそれぞれの回転数s1,s2をそれぞれ取得する。
そうしたならば、第1実施形態と同様に、移動機構8により、移動速度Fにて移動体40を対象領域2Aに対して転動方向RDに送りながら、供給機構30によりノズル31から供給量cにてシール材3を塗布ローラ11に供給しつつ、制御部6による駆動制御の下、塗布ローラ11のR1方向への回転数をs1に制御するとともに供給ローラ12のR2方向への回転数をs2に制御しつつ、塗布ローラ11によりシール材3を対象領域2Aに塗布する(塗布ステップ)。塗布ステップの間に亘り、加圧機構41により塗布ローラ11を対象領域2Aに対して押さえ、また、形状パラメータ取得部42により検知された形状パラメータを用いて塗布ローラ11等の姿勢を補正すると良い。
塗布ステップに先立ち、あるいは塗布ステップに並行して、温度調整機構7によりシール材3の温度調整を行うと良い。
【0088】
本実施形態によれば、シール材3の温度特性に対応した速度域SRにおいて決定されたローラ速度VRにて塗布ローラ11が回転駆動されるので、一度塗りであっても、シール材3を対象領域2Aへ所望の厚さに塗布することができる。本実施形態によれば、上述の試験結果に示すように、人手による塗布作業の速度を大幅に超える塗布速度を実現することが可能となる。
【0089】
上記以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、第1実施形態の塗布システム1が、シール材3を所定の温度に調整する温度調整機構7を備えていてもよい。その場合に、シール材3の温度に応じた移動速度F、供給量c、回転数s1,s2に供給機構30や移動機構8、ローラ11,12を制御することができる。
【0090】
〔付記〕
以上で説明した非ニュートン流体塗布システムおよび非ニュートン流体塗布方法は、以下を開示する。
(1)非ニュートン流体塗布システム1は、回転駆動され、対象部材(2)の対象領域2Aを転動する塗布ローラ11と、塗布ローラ11の外周部に非ニュートン流体3を供給する供給機構30と、塗布ローラ11が転動する方向(RD)における塗布ローラ11の前方に、塗布ローラ11との間に隙間13をあけて配置される供給ローラ12と、を備える。供給ローラ12は、塗布ローラ11の回転の向きとは逆向きに回転駆動される。対象部材(2)と塗布ローラ11とを移動機構により相対的に移動させながら、塗布ローラ11から対象領域2Aへと非ニュートン流体3を塗布する。
(2)塗布ローラ11の幅および供給ローラ12の幅は、同一または略同一である。
(3)対象部材(2)と塗布ローラ11との相対的な移動速度に対して塗布ローラ11および供給ローラ12のいずれの回転も同期させる制御部6を備える。
(4)塗布ローラ11を基準として塗布ローラ11が転動する方向(RD)の前方における対象領域2Aの形状を示す形状パラメータを取得する形状パラメータ取得部42と、形状パラメータを用いて、対象領域2Aの形状変化に対して塗布ローラ11の姿勢を追従させる追従機構43と、を備える。
(5)塗布ローラ11と対象領域2Aとを押し付けて互いに接触させる加圧機構41を備える。
(6)非ニュートン流体3を所定の温度に調整する温度調整機構7を備える。
(7)塗布ローラ11が転動する方向(RD)に沿って移動機構により移動される移動体40を備え、移動体40は、少なくとも塗布ローラ11および供給ローラ12を含む。
(8)対象部材(2)は、航空機の部材である。
(9)非ニュートン流体塗布方法は、対象部材(2)の対象領域2Aを転動する塗布ローラ11を用いて対象領域2Aに非ニュートン流体3を塗布する方法であって、塗布ローラ11を含む非ニュートン流体3塗布システム(1)により、塗布ローラ11と、塗布ローラ11が転動する方向(RD)における塗布ローラ11の前方に、塗布ローラ11との間に隙間13をあけて配置された供給ローラ12とを逆向きに回転駆動するとともに対象部材(2)と塗布ローラ11とを相対的に移動させつつ、非ニュートン流体3を塗布ローラ11の外周部に供給しながら、塗布ローラ11から対象領域2Aへと非ニュートン流体3を塗布する塗布ステップを備える。
(10)塗布ステップにおいて、対象部材(2)と塗布ローラ11との相対的な移動速度に対して塗布ローラ11および供給ローラ12のいずれの回転も同期させる。
(11)塗布ステップでは、塗布ローラ11を基準として塗布ローラ11が転動する方向(RD)の前方における対象領域2Aの形状を示す形状パラメータを取得しつつ、形状パラメータを用いて、対象領域2Aの形状変化に対して塗布ローラ11の姿勢を追従させる。
(12)塗布ステップは、塗布ローラ11と対象領域2Aとを押し付けて互いに接触させながら行われる。
(13)塗布ステップに先立ち、あるいは塗布ステップに並行して、非ニュートン流体3を所定の温度に調整する。
【符号の説明】
【0091】
1,1-2 シール材塗布システム
2 部材(対象部材)
2-1 ストリンガー
2-2 フレーム
2A 対象領域
2S 段差
3 シール材(非ニュートン流体)
3C 容器
3L1,3L2 層
6 制御部
7 温度調整機構
8 移動機構
9 位置決め部材
11 塗布ローラ
11A,11C 外周部
11B 回転軸
11M モータ
12 供給ローラ
12A 外周部
12B 回転軸
12M モータ
13 隙間
14 板
15 隙間
30 供給機構
31 ノズル
31A 下端
32 押出部
33 駆動装置
40 移動体
41 加圧機構
42 形状パラメータ取得部
43 追従機構
71 カバー
81 装着部
121 仕切
400 支持部
401 第1支持板
402 第2支持板
403 第3支持板
404 支柱
405 取付部
411 コイルばね
431 伸縮部
432 揺動機構
432A 軸部
432B モータ
RD 転動方向
SR 速度域
T 温度
t 厚さ
X 中心軸