(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】温水ユニット用の外装ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
F24H 9/02 20060101AFI20240806BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240806BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
F24H9/02 301Z
B41J2/01 127
B41J2/01 125
B41J2/01 123
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2019233415
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福井 宣広
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100554(JP,A)
【文献】特開2018-043354(JP,A)
【文献】特開2016-043678(JP,A)
【文献】特開2018-012278(JP,A)
【文献】特開2018-187931(JP,A)
【文献】特開2017-039293(JP,A)
【文献】特開2019-060509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24H 9/02
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に白色系の塗料層が設けられた金属板をプレス加工し、温水生成用または温水貯留用の温水機器を内部に収容するのに用いられ
、かつ開口周縁部の背面側に筒状のバーリング部が繋がったバーリング孔として形成されている排気口または給気口の少なくとも一方を有する外装ケースの構成部品を成形するプレス工程と、
このプレス工程の前に、前記金属板に対して実行されるインクジェット印刷工程と、
を有している、温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、
前記インクジェット印刷工程の1つとして、顔料を含み、かつ文字、記号、図、または模様の少なくともいずれかを表し、前記排気口または前記給気口の形成予定領域の全周を囲む形状のデザイン用インクジェット印刷層を設ける工程を、有しており、
前記インクジェット印刷工程の他の1つとして、インクジェット印刷
およびこの印刷によって形成されたインクジェット印刷層の硬化処理
を同一箇所において複数回にわたって繰り返すことにより、複数のインクジェット印刷層が重ね塗り状態に積層した厚盛印刷部を形成する
厚盛印刷部形成工程を、有して
おり、
前記厚盛印刷部形成工程においては、前記厚盛印刷部として、前記デザイン用インクジェット印刷層を覆うようにその上側に積層し、かつ前記排気口または前記給気口の形成予定領域の全周を囲む形状であり、顔料を含まない透明のクリヤ層としての複数のインクジェット印刷層が重ね塗り状態に積層した構成の厚盛印刷部を設け、
前記デザイン用インクジェット印刷層を設ける工程および前記厚盛印刷部形成工程においては、前記排気口または前記給気口の形成予定領域よりも幅広い領域を非印刷部分に設定し、
前記プレス工程においては、前記非印刷部分よりも小幅のパンチを用いて前記排気口または前記給気口を形成し、前記デザイン用インクジェット印刷層および前記厚盛印刷部を、前記バーリング部と前記開口周縁部との境界の角部を避けた態様にすることを特徴とする、温水ユニット用の外装ケースの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、
前記インクジェット印刷においては、紫外線硬化樹脂を含むインクを利用し、前記インクジェット印刷層の硬化処理は、紫外線照射により行なう、温水ユニット用の外装ケースの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、
前記インクジェット印刷においては、熱硬化性樹脂を含むインクを利用し、前記厚盛印刷部を形成した後には、前記厚盛印刷部を加熱して熱硬化させる、温水ユニット用の外装ケースの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、
前記厚盛印刷部として、顔料を含む不透明な複数のインクジェット印刷層と、これら複数のインクジェット印刷層を印刷厚み方向において互いに離間させるように、それらの相互間に位置するクリヤ層としてのインクジェット印刷層と、を有する厚盛印刷部を形成する工程を有している、温水ユニット用の外装ケースの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、
前記厚盛印刷部として、互いに離間した複数のドット状であり、かつ点字を構成する厚盛印刷部を形成する工程を有している、温水ユニット用の外装ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば給湯装置やコージェネレーションシステムなどの温水ユニットにおいて、温水生成用または温水貯留用の温水機器を内部に収容するのに用いられる温水ユニット用の外装ケースを製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、温水ユニット用の外装ケースの具体例として、特許文献1,2に記載のものを先に提案している。
これらの文献に記載された温水ユニット用の外装ケースは、たとえば金属板の外面に塗料層が設けられたカラー鋼板にプレス加工を施したものであるが、前記塗料層上には、インクジェット印刷層を設け、かつこのインクジェット印刷層によって文字、記号、図、模様など(以下、図柄と適宜略称する)を表示させている。
【0003】
このような構成によれば、インクジェットプリンタを用いることにより、効率よく迅速に、しかも容易に外装ケースの表面部に所望の図柄を表現し、デザイン性などを高めることが可能である。従来のスプレイ塗装などと比較すると、作業環境を良好とし、かつ生産性も大幅に向上させることが可能であり、温水ユニットの製造コストを低減する効果も得られる。
【0004】
しかしながら、前記従来技術においては、インクジェット印刷層が単層で設けられているに過ぎない。このため、インクジェット印刷層によって平面的な図柄は表現できるものの、それ以上の表現(たとえば立体的な表現など)は難しい。外装ケースの商品価値を高める観点からすると、平面的な図柄表現以外の機能性をもたせることが望まれる。また、単層のインクジェット印刷層は、ダメージを受け易く、とくに経年変化によってチョーキング(塗膜中の顔料が粉化し、印刷層表面上に出てくる現象)が発生する虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-60508号公報
【文献】特開2019-60509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、温水ユニット用の外装ケースに従来にない機能性あるいはデザイン性をもたせることが可能な温水ユニット用の外装ケースの製造方法を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される温水ユニット用の外装ケースの製造方法は、温水生成用または温水貯留用の温水機器を内部に収容するのに用いられる外装ケースの構成部品の外面に、インクジェット印刷を施すことにより、インクジェット印刷層を形成するインクジェット印刷工程を有している、温水ユニット用の外装ケースの製造方法であって、前記インクジェット印刷工程として、前記インクジェット印刷と、この印刷によって形成されたインクジェット印刷層の硬化処理とを、同一箇所において複数回にわたって繰り返すことにより、複数のインクジェット印刷層が重ね塗り状態に積層した厚盛印刷部を形成する工程を、
有していることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、外装ケースの金属板上には、厚盛印刷部が形成されるが、この厚盛印刷部は、複数のインクジェット印刷層が同一箇所に重ね塗り状態に積層したものとなるため、その厚みを大きくし、強度の高いものとすることが可能である。したがって、単層のインクジェット印刷層のみでは表現することが困難な表現(たとえば立体的な表現)が可能となる。また、単層のインクジェット印刷層と比較すると、ダメージを受け難い印刷層とし、経年劣化を生じ難いものとすることもできる。また、後述するように、厚盛印刷部を利用して、点字を設けるといったことも可能となる。厚盛印刷部を形成する際には、インクジェット印刷によってインクジェット印刷層を形成する都度、その硬化処理を行なうため、厚みが大きい厚盛印刷部を適切に形成することが可能である。
【0010】
本発明において、好ましくは、前記インクジェット印刷においては、紫外線硬化樹脂を含むインクを利用し、前記インクジェット印刷層の硬化処理は、紫外線照射により行なう。
【0011】
このような構成によれば、インクジェット印刷層の硬化処理を早期に、かつ短時間で行なうことができるため、厚盛印刷部を形成するための所要時間を短くし、外装ケースの生産性を高めることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、前記インクジェット印刷においては、熱硬化性樹脂を含むインクを利用し、前記厚盛印刷部を形成した後には、前記厚盛印刷部を加熱して熱硬化させる。
【0013】
このような構成によれば、厚盛印刷部の硬化処理をより徹底して図ることができ、厚盛印刷部を耐久性に優れた部位とする上で一層好ましい。
【0014】
本発明において、好ましくは、前記厚盛印刷部の最外層のインクジェット印刷層は、クリヤ層とする。
【0015】
このような構成によれば、厚盛印刷部におけるチョーキングを防止する上で好ましいものとなる。すなわち、クリヤ層は顔料を含まず、チョーキングの現象を生じないため、このクリヤ層が厚盛印刷部の最外層に設けられていれば、経年変化によって厚盛印刷部にチョーキングが生じることは適切に防止される。
【0016】
本発明において、好ましくは、前記外装ケースは、排気口または給気口の少なくとも一方を有しており、前記厚盛印刷部として、前記排気口または前記給気口の周囲に設けられた厚盛印刷部を形成する工程を有している。
【0017】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、外装ケースの排気口や給気口の周囲は、外装ケースの他の一般部分と比較すると、チョーキングなどの経年劣化を生じ易い。これに対して、そのような部分に、厚盛印刷部が設けられていれば、この厚盛印刷部による保護を図り、経年劣化を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明において、好ましくは、前記厚盛印刷部として、顔料を含む不透明な複数のインクジェット印刷層と、これら複数のインクジェット印刷層を印刷厚み方向において互いに離間させるように、それらの相互間に位置するクリヤ層としてのインクジェット印刷層と、を有する厚盛印刷部を形成する工程を有している。
【0019】
このような構成によれば、前記厚盛印刷部を外部から観察した場合に、顔料を含む不透明な複数のインクジェット印刷層どうしが離間した状態に見えるため、不透明な複数のインクジェット印刷層で表現される図柄が、立体感のある図柄として表現され、デザイン性を高めることが可能である。
【0020】
本発明において、好ましくは、前記外装ケースの構成部品の外面に、文字、記号、図、または模様の少なくともいずれかを表すデザイン用インクジェット印刷層を、さらに設ける工程を有している。
【0021】
このような構成によれば、厚盛印刷部の背景として、前記したデザイン用インクジェット印刷層が設けることができるため、外装ケースをデザイン性あるいは装飾性に優れたものとすることができる。
【0022】
本発明において、好ましくは、前記厚盛印刷部として、互いに離間した複数のドット状であり、かつ点字を構成する厚盛印刷部を形成する工程を有している。
【0023】
このような構成によれば、たとえば点字が設けられたプレートなどを外装ケースに貼る必要をなくすことができる。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】(a)は、本発明に係る製造方法によって製造される外装ケースを備えた温水ユニットの一例を示す側面図であり、(b)は、(a)に示した外装ケースの分解斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1(b)のIIa-IIa断面図であり、(b)は、(a)に示す構成に対する他の例を示す要部断面図である。
【
図4】(a)は、
図1(b)に示された第3の厚盛印刷部4Cの一部破断要部断面斜視図であり、(b)は、(a)のIVb-IVb断面図であり、(c)および(d)は、(b)に示された一部のインクジェット印刷層の説明図である。
【
図5】(a)は、
図1(b)に示された厚盛印刷部4Cの他の例を示す一部破断要部断面斜視図であり、(b)は、(a)のVb-Vb断面図であり、(c)および(d)は、(b)に示された一部のインクジェット印刷層の説明図である。
【
図6】(a)~(d)は、本発明に係る製造方法の一例を示す説明図であり、
図1に示すカバー体の製造方法の一連の作業工程に相当する。
【
図7】
図1に示すカバー体の製造に用いられるカラー鋼板の一例を示す要部断面図である。
【
図8】(a)は、インクジェット印刷に用いられるプリンタの概略構成の一例を示す斜視図であり、(b)は、(a)の矢視VIIIbの図であって、(a)に示すプリンタのプリントヘッドの概略構造を示す図である。
【
図9】
図2(a)の構造を得るための作業工程の一例を示す要部断面図である。
【
図10】本発明の製造方法により製造される外装ケースのカバー体の他の例を示す斜視図である。
【
図12】(a)は、本発明の製造方法により製造される外装ケースの他の例を示す斜視図であり、(b)は、(a)のXIIb-XIIb断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
まず、理解を容易にすべく、本実施形態の製造方法により製造される温水ユニット用の外装ケースC、およびこれを備えた温水ユニットUの構成を説明する。
【0028】
図1において、温水ユニットUは、給湯装置であり、外装ケースC内に、温水生成用の温水機器1が収容された構成である。温水機器1は、湯水が流通する熱交換器10、この熱交換器10内の湯水を加熱するためのバーナ11、およびこのバーナ11に燃焼用空気を供給するファン12などを備えている。
【0029】
外装ケースCは、前面に開口部20を有する矩形箱状のケース本体2と、開口部20を塞ぐカバー体3(フロントカバー体)とを備えている。カバー体3は、たとえばビスなどのネジ体9、およびこれが挿通するネジ挿通孔31,21を利用することにより、ケース本体2の前面部に着脱可能に取付けられる。
【0030】
本実施形態においては、カバー体3に、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cが設けられている。ケース本体2には設けられていない。したがって、以降は、カバー体3の構成を詳細に説明することとし、ケース本体2の説明は省略する。ただし、後述するように、ケース本体2に厚盛印刷部などを設けてもよいことは勿論である。
【0031】
カバー体3は、後述のカラー鋼板30(塗料層が設けられた金属板の一例に相当する)に、プレス加工を施して形成されたものであって、正面視略矩形のパネル状である。このカバー体3は、外周フランジ部32と、この外周フランジ部32に周囲が囲まれ、かつこの外周フランジ部32よりも前方(外装ケースCの手前側)に膨出した膨出部33とを備えている。外周フランジ部32は、ケース本体2の前面部のフランジ部22に当接させるための部位である。膨出部33には、外装ケースC内への外気の流入を可能とする複数の給気口34、および熱交換器10による熱回収を終えた排ガスを外装ケースCの外部に排出するための排気口35が設けられている。
【0032】
カラー鋼板30は、
図7に示すように、メッキ鋼板30a、このメッキ鋼板30aの外面としての表面に積層された白色系(白色を含む)の表側の塗料層30b、およびメッキ鋼板30aの外面としての裏面に積層されたサービスコートとしての裏側の塗料層30cを有する複数層構造である。カバー体3は、その表面側に塗料層30bが位置し、この塗料層30b上に、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cが設けられている。
【0033】
第1の厚盛印刷部4Aは、
図2(a)によく表れているように、排気口35の周囲に設けられている。第1の厚盛印刷部4Aは、複数のインクジェット印刷層40が重ね塗り状態に積層した部位である。これら複数のインクジェット印刷層40は、全てクリヤ層であり、顔料を含まない。ただし、各インクジェット印刷層40は、紫外線硬化樹脂、および熱硬化性樹脂を含んでいる(この点は、第2および第3の厚盛印刷部4B,4C、および後述する厚盛印刷部4Dも同様である)。
【0034】
排気口35は、その周縁部の背面側に筒状のバーリング部35aが連設されたバーリング孔として形成されている。第1の厚盛印刷部4Aは、バーリング部35aの角部を避けるように、排気口35に対向する箇所には設けられていない。これは、後述するように、第1の厚盛印刷部4Aの形成後に排気口35を形成する際に、第1の厚盛印刷部4Aの損傷を防止する上で好ましい。ただし、本発明はこれに限定されず、たとえば
図2(b)に示すように、第1の厚盛印刷部4Aを、バーリング部35aの形成箇所まで延設した構成とすることもできる。
【0035】
第2の厚盛印刷部4Bは、
図3によく表れているように、複数の給気口34の周囲に設けられている。第2の厚盛印刷部4Bは、第1の厚盛印刷部4Aと同様に、複数のインクジェット印刷層40が重ね塗り状態に積層した部位である。これら複数のインクジェット印刷層40は、全てクリヤ層である。各給気口34も排気口35と同様に、バーリング孔として形成されており、第2の厚盛印刷部4Bは、そのバーリング部34aを避けるように設けられている。
【0036】
第3の厚盛印刷部4Cは、温水ユニットUのメーカ、機種、あるいは商標などの文字(図面では、一例として「ABCABC」)を表したものである。この第3の厚盛印刷部4Cは、
図4によく表れているように(同図では、「ABC」のみを表している)、互いに重なった複数のインクジェット印刷層40からなるが、それらの一部をなす複数(たとえば2つ)のインクジェット印刷層40a,40bは、顔料を含む不透明な印刷層である。これ以外のインクジェット印刷層40(最外層を含む)は、クリヤ層である。不透明なインクジェット印刷層40a,40bは、いずれもたとえば「ABC」の文字を表しているが、これらの相互間には、クリヤ層としてのインクジェット印刷層40が介在し、不透明なインクジェット印刷層40a,40bは、印刷厚み方向において互いに離間している。このような構成によれば、第3の厚盛印刷部4Cを斜めからみた場合に、「ABC」の文字の奥に、さらに「ABC」の文字が見えることとなり、文字に立体感を生じさせることができる。
【0037】
第3の厚盛印刷部4Cは、
図5に示すような構成とすることも可能である。同図に示す構成においては、不透明な2つのインクジェット印刷層40c,40dの一方が、「ABC」の文字の一部分を表し、かつ他方が、「ABC」の文字の残りの一部分を表している。このような構成によれば、インクジェット印刷層40c,40dが組み合わされて文字が完成しているため、このことによって文字に立体感や面白みをもたせることができる。
第3の厚盛印刷部4Cについては、文字を表示する場合を具体例として説明しているが、これに限定されない。前記したようなインクジェット印刷層40a~40dと同様な不透明なインクジェット印刷層の数や形状を種々に変更し、前記文字以外の文字やその他の所望の図柄を、立体感が生じるように表すことが可能である。
【0038】
次に、前記したカバー体3の製造方法の一例について説明する。
【0039】
まず、
図6(a)に示すように、カバー体3の原材料として、
図7を参照して説明した平板状のカラー鋼板30を準備する。カラー鋼板30の構成は、先に説明したとおりである。次いで、このカラー鋼板30上(厳密には、カラー鋼板30の塗料層30b上)の所定箇所に、インクジェット印刷を複数回にわたって繰り返し施すことにより、
図6(b)に示すように、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cを設ける。
【0040】
インクジェット印刷は、たとえば
図8(a)に示すようなインクジェットプリンタ8を用いて行なう。インクジェットプリンタ8は、カラー鋼板30を載置支持する載置台81の上側において、プリントヘッド80を互いに直交するx,y方向に移動自在としたものである。プリントヘッド80は、
図8(b)に示すように、所定色のインクジェット塗料を微滴化してカラー鋼板30に向けて吹き付ける複数のインクジェットノズル82と、一対の紫外線光源83(83a,83b)とを備えている。
【0041】
たとえば、主走査方向としての同図のx1方向にプリントヘッド80を移動させながらインクジェット印刷を施す際には、主走査方向後側の紫外線光源83aを発光させ、インクジェット印刷がなされた直後の領域に紫外線を照射させる。インクジェット印刷層40には、紫外線硬化樹脂が含有されているため、前記した紫外線の照射によりインクジェッ
ト印刷層40を迅速に硬化(滲みなどを生じない程度の硬化)させることが可能である。このような硬化処理が完了すると、再度のインクジェット印刷を実行し、このようなインクジェット印刷と硬化処理とを繰り返して、複数のインクジェット印刷層40を積層形成(重ね塗り)していく。
インクジェット印刷を、前記したx1方向とは反対方向に進めていく際には、紫外線光源83aに代えて、紫外線光源83bを発光させることにより、前記したのと同様な作用が得られる。
【0042】
カラー鋼板30への前記したインクジェット印刷を終えた後には、
図6(c)に示すように、カラー鋼板30を加熱し、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cを乾燥させつつ、それらに含まれている熱硬化性樹脂を硬化させる。このことにより、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cの強度を高めることが可能であり、その後に実行されるプレス加工に対しても耐久性をもつものとすることができる。
【0043】
前記した熱硬化処理の後には、カラー鋼板30にプレス加工としての絞り加工を施し、
図6(d)に示すように、外周フランジ部32および膨出部33を形成する。また、これに伴い、給気口34や排気口35などを形成するプレス加工、外周フランジ部32の余分な部分を除去するトリミング加工などを行なう。
前記したような一連の作業工程により、前記したカバー体3を適切に製造することができる。
なお、排気口35の形成作業は、たとえば
図9に示すように、パンチ7aとダイ7bを利用して行なうが、第1の厚盛印刷部4Aは、排気口35の形成予定箇所を避けるように設けられ、パンチ7aの幅Laよりも大きな幅Lbの非印刷部分が設けられている。このため、パンチ7aとの接触によって第1の厚盛印刷部4Aが損傷する虞はない。この点は、第2の厚盛印刷部4Bも同様である。
【0044】
前記したカバー体3においては、排気口35の周囲は排ガスにより加熱されて高温となる虞がある。このため、カバー体3を構成するカラー鋼板30の塗料層30bのうち、排気口35の周囲部分は、本来的に劣化し易い。また、給気口34の周囲も、雨垂れなどが生じるため、塗料層30bの給気口34の周囲部分も、本来的には劣化し易い。
これに対し、排気口35および給気口34のそれぞれの周囲には、第1および第2の厚盛印刷部4A,4Bが設けられているため、塗料層30bは保護されることとなり、前記した虞は適切に解消される。その一方、第1および第2の厚盛印刷部4A,4Bは、厚みが大きく丈夫であり、塗料層30bと比較すると、ダメージを受け難いため、耐久性が向上する。また、第1および第2の厚盛印刷部4A,4Bを構成する複数のインクジェット印刷層40は、いずれも顔料を含まないクリヤ層であるため、チョーキングが発生することも適切に防止される。
【0045】
また、第3の厚盛印刷部4Cについては、
図4および
図5を参照して説明したように、立体的な文字表現が可能であるため、温水ユニットUのデザイン性、あるいは装飾性を高めるのに役立つ。この第3の厚盛印刷部4Cの最外層のインクジェット印刷層40は、クリア層であるため、この第3の厚盛印刷部4Cにチョーキングが発生することも適切に防止される。
【0046】
図10~
図12は、本発明の他の実施形態を示している。これらの図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付すこととし、重複説明は省略する。
【0047】
図10に示すカバー体3Aにおいては、このカバー体3Aの前面部(塗料層30b上)に、たとえばペンギンの図柄を表す複数の不透明なインクジェット印刷層6(本発明でい
うデザイン用インクジェット印刷層の一例に相当)が設けられている。
図10におけるカバー体3Aの白色部分は、カラー鋼板30の塗料層30bのうち、インクジェット印刷が施されていない部分である。
カバー体3Aの製造に際しては、カラー鋼板30の塗料層30b上に、インクジェット印刷層6を形成し、かつこれを紫外線照射によって硬化させた後に、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cを設ける。このため、第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cは、インクジェット印刷層6の上に重ねられた状態に設けられ、インクジェット印刷層6を保護することとなる。
具体例を挙げると、
図11に示すように、排気口35の周囲には、図柄を表すインクジェット印刷層6を設ける。次いで、このインクジェット印刷層6上に、第1の厚盛印刷部4Aをさらに重ねて設ける。このような工程は、第2および第3の厚盛印刷部4B,4Cを設ける場合も同様である。
【0048】
本実施形態によれば、複数のインクジェット印刷層6によって図柄を表すことができるため、先に述べたカバー体3と比較すると、デザイン性に優れたものとすることが可能である。
なお、複数のインクジェット印刷層6(本発明でいうデザイン用インクジェット印刷層)は、前記したような図柄に限らず、これ以外の様々な文字、記号、図、または模様を表すものとすることが可能である。
【0049】
図12に示す温水ユニットUaは、屋内設置型であり、カバー体3Bには、フィルタ34bが装着された給気口34aと、操作盤部36とが設けられている。排気口35aは、ケース本体2aの上部に設けられている。
操作盤部36は、カバー体3Bの本体部を構成するカラー鋼板30とは別体の機器として構成され、かつカバー体3Bの一部として前記本体部に組み付けられたものである。この操作盤部36には、給湯温度などの各種の設定を行なうための操作スイッチ36aや、給湯温度などの画面表示を行なうための液晶表示器または7セグメント表示器などによって構成された表示部36bに加え、複数の厚盛印刷部4Dをさらに備えている。
【0050】
複数の厚盛印刷部4Dは、互いに離間した複数のドット状に設けられ、点字を構成している。より具体的には、各厚盛印刷部4Dは、
図12(b)に示すように、複数のインクジェット印刷層40が積層し、かつたとえば、その高さは0.3~0.5mm程度、直径が1.4mm程度の円柱状の小突起である。各厚盛印刷部4Dの複数のインクジェット印刷層40は、顔料を含む不透明なインクジェット印刷層であり、その色彩はたとえば操作盤部36の前面部と同様な色彩とされている。ただし、好ましくは、最外層のインクジェット印刷層40は、クリヤ層とされ、チョーキングの防止が図られている。勿論、複数のインクジェット印刷層40の全てをクリヤ層とすることもできる。
複数の厚盛印刷部4Dは、たとえば「温水ユニットUaにトラブルが発生した場合の連絡先」、あるいは「温水ユニットUaに関する注意書き」などの所望の事項を表示する点字に相当している。
【0051】
前記した複数の厚盛印刷部4Dは、たとえば操作盤部36がカバー体3Bの一部として組み付けられる前の段階で、操作盤部36にインクジェット印刷(インクジェット印刷層40の形成と、その硬化処理とを同一箇所に繰り返す処理)を施すことにより設けることができる。ただし、これに限定されず、厚盛印刷部4Dは、操作盤部36がカバー体3Bの一部して組み付けられた後に設けてもよい。
【0052】
前記した複数の厚盛印刷部4Dは、所望の事項を点字表示するものであるため、ユーザフレンドリなものとすることが可能である。点字を設けるための他の手段としては、たとえば点字が設けられたプレートなどを外装ケースCに貼付することが考えられるが、これ
では、前記プレートが剥離して脱落するといった虞がある。これに対し、本実施形態によれば、そのような虞をなくすことが可能である。
なお、本実施形態とは異なり、厚盛印刷部4Dと同様な厚盛印刷部は、操作盤部36に代えて、カバー体3Bの他の部分や、ケース本体2aに設けることもできる。
【0053】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る温水ユニット用の外装ケースの製造方法の各工程の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0054】
上述の実施形態においては、たとえば第1ないし第3の厚盛印刷部4A~4Cは、カバー体3の表面側の塗料層30b上に設けられた例を示しているが、これに限定されない。本発明でいう厚盛印刷部は、カバー体3の裏面側の塗料層30c上に設けた構成とすることも可能であり、またケース本体2に設けた構成とすることもできる。
【0055】
本発明でいう厚盛印刷部は、複数のインクジェット印刷層が重ね塗り状態に積層して設けられた部位であるが、この厚盛印刷部を構成する複数のインクジェット印刷層の具体的な数、サイズ、顔料の有無(クリヤ層であるか否か)などは限定されない。チョーキングを防止する上では、少なくとも最外層のインクジェット印刷層がクリヤ層とされていることが好ましいが、これに限定されない。また、厚盛印刷部とは別のインクジェット印刷層(たとえば
図10のインクジェット印刷層6)を設ける場合、厚盛印刷部は、そのようなインクジェット印刷層の上側に積層しているか否かは問わない。
本発明でいう厚盛印刷部が設けられる具体的な位置も限定されない。たとえば、外装ケースのビス止め箇所の周囲などに設けることも可能である。ビス止め箇所の周囲は、ビスに錆が発生した場合には、この錆を含んだ雨水が、ビス止め箇所の周囲を汚染し、ダメージを与える場合がある。このようなことを抑制すべく、ビス止め箇所の周囲に厚盛印刷部を設けた構成とすることもできる。
【0056】
本発明でいう温水ユニットは、給湯装置など、温水生成用の温水機器を外装ケース内に収容したものに代えて、貯湯タンクなどの温水貯留用の温水機器が外装ケース内に収容された貯湯タンクユニットなどとして構成することもできる。したがって、外装ケースとしても、前面開口状のケース本体と、その前面開口部を塞ぐカバー体とを組み合わせたものに限定されない。
外装ケースの素材としては、一般的には、金属板が用いられるが、この金属板としては、市販されているカラー鋼板とは異なるものを用いることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
U 温水ユニット
C 外装ケース
1 温水機器
2 ケース本体
3,3A,3B カバー体
30 カラー鋼板
30b,30c 塗料層
34 給気口
35 排気口
4A~4D 厚盛印刷部
40 インクジェット印刷層
6 インクジェット印刷層(デザイン用インクジェット印刷層)