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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】植物ベースの液状栄養組成物の製造法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/185 20160101AFI20240806BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20240806BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240806BHJP
   A23J 3/08 20060101ALI20240806BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A23L33/185
A23L33/19
A23J3/16
A23J3/08
A23J3/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019178835
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021052655
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】本山 貴康
(72)【発明者】
【氏名】井上 量太
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-013395(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084094(WO,A1)
【文献】特開2002-101837(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00 - 23/00
A23D 7/00 - 9/06
A23J 1/00 - 7/00
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上、乳タンパク質の割合が50質量%以下である、植物ベースの液状栄養組成物の製造において、
原料として下記a)~d)及びf)の要件を満たす植物性タンパク質素材を用いることを特徴とする、植物ベースの液状栄養組成物の製造法:
a)固形分中のタンパク質含量が50質量%以上、
b)NSIが85以上、
c)分子量分布の測定結果で10000Da以上の面積比率が45~70.7%、かつ2000Da以上10000Da未満の面積比率が22.4~40%、2000Da未満の面積比率が9%以下、
d)22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときにゲル化しないこと
f)分子量分布調整処理が施されたものであり、該処理はNSIを維持しながら植物性タンパク質を分解する処理である。
【請求項2】
該植物性タンパク質素材が、さらに下記e)の特徴を有する、請求項1記載の製造法:
e)タンパク質含量が10質量%となるように調製した水溶液の粘度が、50mPa・s以下である。
【請求項3】
該液状栄養組成物の原料として、乳タンパク質を含まない、請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
該液状栄養組成物の原料として、乳タンパク質としてホエータンパク質を含む、請求項1又は2記載の製造法。
【請求項5】
該液状栄養組成物の原料として、乳化剤を含む、請求項1~4の何れか1項記載の製造法。
【請求項6】
該液状栄養組成物の原料として、乳化剤を含まない、請求項1~4の何れか1項記載の製造法。
【請求項7】
該液状栄養組成物のカロリーが1.5kcal/ml以上である、請求項1~6の何れか1項記載の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物ベースの液状栄養組成物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会によって、高齢者や通常の食事摂取の困難者が摂取できる、いわゆる液状栄養組成物の市場が拡大している。液状栄養組成物は、通常の食事に使われる材料を液状にした栄養食品であり、人が生活する上で不可欠の栄養素をバランス良く、所要量含むことが求められている。そのため、主要なカロリー源である油脂、糖質、タンパク質と共に、体に必要なミネラル類が一般に含まれている。液状栄養組成物のカロリーは、1kcal/ml以上に設計されている場合が多く、タンパク質源の配合量もカロリーが高く設定されるほど多くなる。
これまで液状栄養組成物のタンパク質源としては、混在するミネラル(特に、カルシウムやマグネシウムなどの第二族元素)等との反応による凝集や沈澱が生じにくく、かつレトルト等の高温殺菌処理に対する安定性が高い乳タンパク質として、主にカゼインナトリウムが使用されてきた。
【0003】
また、大部分の市販の液状栄養組成物には、乳タンパク質のほかにショ糖脂肪酸エステルや有機酸モノグリセリド等の乳化剤が用いられてきた。乳化剤が用いられる理由は、液状栄養組成物の製造工程中で加熱殺菌する際に高温の条件下にさらされたり、タンパク質とミネラルとの反応などにより、凝集や沈澱、溶液粘度の上昇やゲル化などが発生するのを防止するためであり、高度な耐熱性と乳化安定性が付与された液状栄養組成物を得るためには、乳タンパク質の乳化性のみでも不十分であった。
【0004】
一方、人口増加に伴う食糧供給不安から、動物性タンパク質を使用した食品から植物性タンパク質を使用した食品に代替する試みが進んでいる。
【0005】
しかしながら、一般に大豆タンパク質やエンドウタンパク質などの植物性タンパク質は、高ミネラル環境やレトルト加熱による耐性に乏しく、液状栄養組成物に配合したときに粘度が高くなったり、凝集物を多数発生する問題がある。例えば液状栄養組成物をチューブにて直接胃へ投与する際は、チューブ内で詰り等を発生させる可能性がある。このように、液状栄養組成物を調製したときの粘度の高さ、溶解性、レトルト加熱等による耐熱性といった点で乳タンパク質に劣っており、増粘や凝集物の発生などの問題が乳タンパク質よりも生じやすく、その配合量が制限されてしまう。このような点が阻害要因となり、植物性タンパク質の乳タンパク質の代替物としての利用が、なかなか進まないのが現状である。
【0006】
特許文献1では、大豆タンパク質分解物を使用した液状栄養組成物が示されている。しかし、全タンパク質に対する植物性タンパク質の使用比率は低い上に、そもそも植物タンパク質を用いた具体的な実施例は開示されていない。そのため、いかなる大豆タンパク質分解物が使用されているのか不明であるが、おそらく液状栄養組成物への使用においてミネラルとの凝集反応を起こさないためには、酵素分解度が相当高いタイプの使用を想定しているであろう。酵素分解度の高い大豆タンパク質分解物はミネラルとの凝集反応を起こしにくいが、酵素分解度が低い大豆タンパク質分解物、あるいは未分解の大豆タンパク質を使用して、凝集や沈殿の発生の少ない液状栄養組成物を得ることについては開示されていない。
【0007】
特許文献2では、タンパク質含量が50質量%以上、NSIが50未満、水溶液のpHが6.8未満という特定の大豆タンパク質素材が添加された液状栄養組成物が開示されている。しかし、該大豆タンパク質素材は溶解性が低いため、食感がざらつく傾向にあり、また保存中に沈澱が生じないように、分散安定剤の使用が必須となる。
【0008】
上記文献および本明細書内に示される文献は、出典明示により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-210951号公報
【文献】国際公開WO2009/116635号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
液状栄養組成物は、高度にタンパク質及びミネラル(特に、カルシウムやマグネシウム等の第二族元素化合物)を含有し、カゼインナトリウム等の乳タンパク質が多用されている。その中でも乳化剤を用いずに耐熱性や乳化安定性に優れた品質の製品を製造することは、健康嗜好が高まる中でニーズがあるが、技術的に多くの困難が生ずる。ましてや植物ベースの食品を求めるニーズが高まりつつある中で、乳タンパク質よりも耐熱性や乳化安定性が低い傾向にある植物性タンパク質を乳代替原料として用いることは、極めて困難である。さらに、液状栄養組成物の中でもより高カロリーの1.5kcal/ml以上の製品を製造する場合、各成分の濃度が高くなるため、上記困難性がさらに増加することになる。
【0011】
そこで本発明者らは、植物性タンパク質素材を配合し、満足のいく耐熱性や乳化安定性を有する、植物ベースの液状栄養組成物を製造できる技術を提供することを課題とする。さらに、乳タンパク質を配合しなくても、上記の植物ベースの液状栄養組成物を製造できる技術を提供することを課題とする。さらに、乳化剤を添加しなくても、上記の植物ベースの液状栄養組成物を製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究した結果、タンパク質素材に、乳タンパク質の代替として特定の植物性タンパク質素材を選択し、これを添加したところ、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち本発明は、以下のような構成を包含するものである。
(1)全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上、乳タンパク質の割合が50質量%以下である、植物ベースの液状栄養組成物の製造において、
原料として下記a)~d)の要件を満たす植物性タンパク質素材を用いることを特徴とする、植物ベースの液状栄養組成物の製造法:
a)固形分中のタンパク質含量が50質量%以上、
b)NSIが67以上、
c)分子量分布の測定結果で10000Da以上の面積比率が30~80%、かつ2000Da以上10000Da未満の面積比率が20~50%、
d)22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときにゲル化しないこと、
(2)該植物性タンパク質素材が、さらに下記e)の特徴を有する、前記(1)記載の製造法:
e)タンパク質含量が10質量%となるように調製した水溶液の粘度が、50mPa・s以下である、
(3)該液状栄養組成物の原料として、乳タンパク質を含まない、前記(1)又は(2)記載の製造法、
(4)該液状栄養組成物の原料として、乳タンパク質としてホエータンパク質を含む、前記(1)又は(2)記載の製造法、
(5)該液状栄養組成物の原料として、乳化剤を含む、前記(1)~(4)の何れか1項記載の製造法、
(6)該液状栄養組成物の原料として、乳化剤を含まない、前記(1)~(4)の何れか1項記載の製造法、
(7)該液状栄養組成物のカロリーが1.5kcal/ml以上である、前記(1)~(6)の何れか1項記載の製造法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(植物ベースの液状栄養組成物)
本明細書において、「液状栄養組成物」の用語は、栄養成分として少なくとも蛋白質,脂質,炭水化物,ミネラル,ビタミンを含み、栄養補助や食事代替を目的とし、具材等の固形物がないスープ、ポタージュ、ミルク飲料や果汁飲料等の形態を有する液状の栄養組成物を指す。該用語はその使用目的によっては「濃厚流動食」、「経腸栄養剤」などと称される場合もある。「液状」の用語は、高粘度の液体の意味で使われる「半固形状」も包含する。また、本明細書における液状栄養組成物は、粉末の製品形態で販売され、消費者がこれを水に溶解又は分散させて液状とするものを包含する。さらに、本明細書における液状栄養組成物は、ゲル状の製品形態に加工されて販売されるものも、製造途中においては液状である場合は包含する。
液状栄養組成物は、ある態様では、蛋白質:10~25%、脂質:15~45%,炭水化物:35%以上のエネルギー組成と,カルシウム:20~110mg/100kcal,マグネシウム:10~70mg/100kcalの組成を持つものである。
さらにある態様では、蛋白質:16~20%、脂質:20~30%,炭水化物:50~65%のエネルギー組成と、カルシウム:35~65mg/100kcal,マグネシウム:15~40mg/100kcalの組成を持つものである。
液状栄養組成物は、典型的には0.5kcal/ml以上又は1kcal/ml以上である。本発明においては特に1.5kcal/ml以上である場合により効果を奏しやすく、2kcal/ml以上、2.5kcal/ml以上、3kcal/ml以上、3.5kcal/ml以上又は4kcal/ml以上であり得る。またある態様では、5kcal/ml以下、4.5kcal/ml以下又は4kcal/ml以下であり得る。
液状栄養組成物の粘度(25℃、B型粘度計)は、ある態様では200mPa・s以下、150mPa・s以下、100mPa・s以下又は50mPa・s以下の低粘度が好適である。また液状栄養組成物は、ある態様では1000mPa・s超、2000mPa・s以上、3000mPa・s以上であり、30000mPa・s以下、25000mPa・s又は20000mPa・s以下の高粘度、いわゆる半固形状であることもできる。液状栄養組成物は、下痢などの副作用を最小限に抑える低浸透圧、低粘度の場合は細いチューブでも通過する流動性、良好な風味、数ヶ月常温保存可能な乳化安定性などを有することが好ましい。
【0016】
本明細書において「植物ベース」という用語は、植物原料を主体とすることを意味し、特に含まれるタンパク質が主に植物由来であることを指す。
より具体的には、液状栄養組成物が植物ベースであるためには、液状栄養組成物中に含まれる全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上である。ある実施形態における該割合は、より好ましくは55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上であることができ、最も好ましくは100質量%である。
【0017】
また、ある実施形態において、液状栄養組成物中に含まれる全タンパク質に対するカゼイン塩や脱脂粉乳等に由来する乳タンパク質の割合は、50質量%以下である。ある実施形態における該割合は、より好ましくは45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であることができ、最も好ましくは0質量%、すなわち液状栄養組成物の原料として乳タンパク質を含まないことが最も好ましい。これによって植物性タンパク質による乳タンパク質からの代替効果がより高まり、本発明の効果が一層有意義なものとなる。
【0018】
ある実施形態において、乳タンパク質としてホエータンパク質を用いることができる。ホエータンパク質は、乳由来のタンパク質の中でも特に耐熱性とミネラル耐性が低く、通常は液状栄養組成物において使用することが困難である。しかし、本発明によれば、ホエータンパク質を乳タンパク質として用いても、低粘度で耐熱性を有する安定な液状栄養組成物を得ることができる。
【0019】
(植物性タンパク質素材)
本発明の植物ベースの液状栄養組成物(以下、「本液状栄養組成物」と称する。)は、植物性タンパク質素材を原料とする。
本明細書において「植物性タンパク質素材」の用語は、植物性タンパク質を主成分とし、各種加工食品や飲料に原料として使用されている食品素材を指す。該植物性タンパク質素材の由来の例として、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類などが挙げられる。一例として大豆由来のタンパク質素材の場合、脱脂大豆や丸大豆等の大豆原料から、さらにタンパク質を濃縮加工して調製されるものであり、一般には分離大豆タンパク質、濃縮大豆タンパク質や粉末豆乳、あるいはそれらを種々加工したものなどが概念的に包含される。
【0020】
本液状栄養組成物は、タンパク質として任意の植物性タンパク質素材が選択されて、上記の組成範囲となるように添加されるのみでは、ミネラル耐性や耐熱性において満足できる品質の液状栄養組成物を得ることが困難である。すなわち、上記組成範囲において下記に示すa)~d)の全特徴を満たす特定の植物性タンパク質素材を選択し、組み合わせることが本発明において重要である。
【0021】
a)タンパク質純度
本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、固形分中のタンパク質含量が50質量%以上である。該タンパク質含量の値は60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上とすることもできる。
上記範囲に含まれる植物性タンパク質素材の種類としては、分離タンパク質(protein isolate)が好ましく、例えば大豆由来のタンパク質素材の場合であれば、分離大豆タンパク質などが含まれる。
タンパク質の純度が高い上記範囲に含まれる植物性タンパク質素材を用いることは、液状栄養組成物中のタンパク質含有量を効率的に高めるのに好適である。タンパク質含量が50質量%に満たないタンパク質含量が低いものを使用した場合、タンパク質を高度に含有させるために、より多量に該素材を配合する必要が生じる。該配合量が多くなると、他の原料の配合に制約が生じるなどの別の問題が発生しやすい。
【0022】
b)タンパク質のNSI
本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、タンパク質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が67以上のものである。より好ましくはNSIが70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、又は97以上のものを用いることができる。例えば、NSIが高い植物性タンパク質素材としては、タンパク質が不溶化される処理、例えば酵素分解処理やミネラルの添加処理等、がされていないもの、あるいは当該不溶化処理がなされていてもその後に溶解処理がなされているものなどを用いることが好ましい。
植物性タンパク質素材のNSIが高いことは、水への分散性が高いことを示し、本液状栄養組成物の分散安定性に寄与し得る。NSIが低すぎると液状栄養組成物自体に沈殿が生じやすくなり、保存安定性が低下して好ましくない。
なお、NSIは後述する方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗タンパク)の比率(質量%)で表すものとし、本発明においては後述の方法に準じて測定された値とする。
【0023】
c)分子量分布
本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、ゲルろ過による分子量を測定した場合に、その分子量分布の面積比率は、10000Da以上が30~80%、2000Da以上10000Da未満が20~50%である。また、ある実施形態において、2000Da未満の面積比率は15%以下である。
10000Da以上の面積比率はさらに、30~75%、35~75%、40~70%又は45~70%であるのが好ましい。
2000Da以上10000Da未満の面積比率はさらに、20~45%、25~45%、25~40%又は25~35%であるのが好ましい。
2000Da未満の面積比率はさらに、15%以下、13%以下、9%以下、8%以下又は7%以下であるのが好ましい。また下限は特に限定されないが、例えば0%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上又は3%以上が挙げられる。
植物性タンパク質素材の分子量分布がこのような範囲にあることは、何ら分解処理等がされていない未分解のタンパク質よりも中程度に低分子化されたものが多いことを示す一方、高度に分解された低分子のペプチドは少ないことを示している。該植物性タンパク質がかかる分子量分布を有することは、本液状栄養組成物の乳化安定性と、ミネラル耐性や耐熱性などに寄与し得る。
なお、分子量分布の測定は、後述する方法に基づくものとする。
【0024】
d)加熱ゲル化性
本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、この溶液を高濃度で加熱したときにゲル化性を示さないものであることが好ましい。ゲル化性の有無は、より詳細には後述する方法により確認するものとするが、22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときに、該溶液がゲル化しないことが重要である。
植物性タンパク質素材に加熱ゲル化性がないことにより、本液状栄養組成物の溶液粘度が低く、レトルト加熱等により加熱しても液状栄養組成物の粘度が上昇しにくくなり、本液状栄養組成物の温度変化に対する安定性に寄与する。植物性タンパク質素材が加熱ゲル化性を有すると、液状栄養組成物の粘度が加熱やミネラルとの反応により上昇してしまい、経管投与の際にチューブ流動性が低下し、経管での摂取が困難となるので、好ましくない。
【0025】
NSIが高い植物性タンパク質素材は、その高濃度溶液において加熱によるゲル化性を示すことが一般的である。一方で、分子量分布で高分子量の領域の面積比率が低くなっている植物性タンパク質は、加熱ゲル化性を示しにくくなる一方、NSIが90未満となって溶解性が低下することが一般的である。しかし、本液状栄養組成物に用いられる上記特定の植物性タンパク質素材は、高分子領域の面積比率を若干低くすることにより、タンパク質のNSIを高く維持しながら、加熱によるゲル化性を示さないものである。
【0026】
e)粘度
本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、上記a)~d)の特性を満たせばよいが、この植物性タンパク質素材溶液の粘度を一定条件で測定したときに、低粘度であることが好ましく、具体的には50mPa・s以下、好ましくは40mPa・s以下、より好ましくは35mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下、さらにより好ましくは20mPa・s以下、またさらに好ましくは15mPa・s以下が好ましい。また、粘度の下限は特に限定されないが、例えば0.5mPa・s以上、1mPa・s以上等が挙げられる。
なお、粘度は後述する方法により測定する。
【0027】
f)分子量分布調整処理
上記植物性タンパク質素材は、植物性タンパク質をわずかに分解させることにより、またはある程度分解させた後に、上記の分子量の比率となるようにろ過、ゲルろ過、クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動等の技術を組み合わせることにより得られ得る。また、上記処理に、わずかな変性処理を組み合わせてもよいし、変性処理を行わなくてもよい。タンパク質を分解または変性させる処理の例として、酵素処理、酸処理、アルカリ処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、減圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、これらの処理の組み合わせの際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間を置いてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。これらの処理の条件、例えば酵素活性、酸、アルカリ、溶媒、ミネラル等の濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。本明細書において、このような処理を便宜上「分子量分布調整処理」と称する。なお、上記特性を満たす限り、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材と、分子量分布調整処理を経ていない植物性タンパク質を混合して、本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材としてもよい。この場合、両者の比率(分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材:分子量分布調整処理を経ていない植物性タンパク質)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材のみを本液状栄養組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材とする。
【0028】
本液状栄養組成物中の植物性タンパク質素材の含量は、該組成物の固形分中にタンパク質換算で3~30質量%、10~30質量%、15~30質量%又は15~25質量%等とすることができる。
【0029】
<その他の原料>
本液状栄養組成物には、植物性タンパク質素材以外の各種原料を本液状栄養組成物の実施形態や、最終製品の実施形態に合わせ、必要に応じて含有させることができる。
【0030】
(油脂)
本液状栄養組成物は、カロリー源として通常は油脂を水中油型乳化物の形態で含む。油脂種は特に限定されないが、全油脂中の植物性油脂の割合を50質量%以上とするのが好ましい。ある実施形態における該割合は、より好ましくは55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上とすることができ、最も好ましくは100質量%である。
例えば、植物性油脂としては、大豆油、菜種油、コ-ン油、綿実油、落花生油、ヒマワリ油、こめ油、サフラワ-油、オリ-ブ油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などを用いることができ、これらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が使用でき、中鎖脂肪酸や多価不飽和脂肪酸を含有する油脂も使用できる。また、植物性油脂は藻類等の微生物由来の油脂に置き換えることもできる。
本液状栄養組成物中の油脂含量は、該組成物の固形分中に5~30質量%、10~30質量%又は10~25質量%等とすることができる。
なお、上記油脂含量は、植物性タンパク質素材に油脂が含まれる場合には、該タンパク質素材中の油脂の量を含めて油脂の含量が算出される。なお、油脂含量は、酸分解法により測定される。
【0031】
(炭水化物)
本液状栄養組成物は、カロリー源として通常は炭水化物を含む。
本液状栄養組成物に含まれる炭水化物の具体例として、でん粉を含む糖質と食物繊維が挙げられる。より具体的に、炭水化物としては、果糖、ブドウ糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、水飴、カップリングシュガー、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖,還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール、還元水飴等)、デキストリン、澱粉類(生澱粉、加工澱粉等)が挙げられる。また食物繊維としては、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、結晶セルロース、増粘多糖類等が挙げられる。
本液状栄養組成物中の炭水化物含量は、該組成物の固形分中に30~90質量%、40~85質量%又は50~80質量%とすることができる。
【0032】
(乳化剤)
本液状栄養組成物は、ある態様では乳化剤を含むことができる。また、ある態様では乳化剤を含まないことも可能である。ここで乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、レシチンなどが例示される。これら乳化剤は単独又は複数を組み合わせて選択しても良い。
本液状栄養組成物中の乳化剤の配合量は、本液状栄養組成物の実施形態や、最終製品である乳化食品の実施形態に応じて適宜調整することができる。
本液状栄養組成物がレトルト加熱等の熱履歴の大きい加熱処理を経て製造される態様においては、当該加熱処理による粘度の上昇やメディアン径の粗大化を防止し、より安定した物性の液状栄養組成物を得るために、乳化剤の添加が有効である。
【0033】
(ミネラル類)
本液状栄養組成物は、ある態様では、カルシウムやマグネシウムの他に、種々の他の追加のミネラル類をさらに含んでもよく、その非限定的な例としては、リン、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ナトリウム、カリウム、モリブデン、クロム、セレン、コバルト、マンガン等やその組合せが挙げられ、それぞれの塩化物や硫化物等の任意の塩の形態で配合することができる。特に、塩化カルシウム等の溶解度の高い塩の形態が好ましい。本発明によれば、ミネラル耐性の高い液状栄養組成物を提供することができ、上記のミネラルを含有していても、本液状栄養組成物の製造過程における加熱処理によって凝集を生じにくいことが一つの特徴である。ナトリウムやカリウム等の金属塩や、リンの供給源としては、クエン酸ナトリウム等の有機酸塩、第二リン酸ナトリウム、第二リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、重炭酸ナトリウム等の塩類が用いられる。
【0034】
本液状栄養組成物は、ある態様では、種々のビタミンまたは関連する栄養素のいずれかをさらに含んでもよく、その非限定的な例としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ビタミンB12、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC、コリン、イノシトール、塩類およびその誘導体、ならびにその組み合わせが挙げられる。
【0035】
(その他添加物)
本液状栄養組成物には、風味や色、甘味、粘度、栄養の調節を目的として、香料、着色料、保存料、緩衝剤、高甘味度甘味料、増粘多糖類、プレバイオティクス、プロバイオティクス、医薬活性物質等を必要に応じて添加してもよいし、しなくてもよい。
【0036】
(液状栄養組成物のメディアン径)
ある実施形態において、本液状栄養組成物のメディアン径は、2μm以下であり、好ましくは1μm以下、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下、さらにより好ましくは0.6μm以下の範囲である。メディアン径がかかる範囲であることにより、乳化安定性がより良好となる。なお、メディアン径の測定方法は後述の方法による。
【0037】
(液状栄養組成物の製造態様)
本液状栄養組成物の製造は、上記原料の配合割合に応じて適宜常法に従って行えば良く、特に限定はされない。以下、油脂を配合する液状栄養組成物の一つの製造態様を示すが、あくまで例示であってかかる態様のみに限定されるものではない。
上記特定の植物性タンパク質素材、およびその他の原料を混合し、高圧ホモゲナイザー等により溶液を均質化し、必要により加熱殺菌を行い、本液状栄養組成物を得る。具体的な液状栄養組成物の調製方法は公知の方法によればよいが、以下具体例を説明する。
【0038】
○植物性タンパク質素材
本液状栄養組成物は、上記特定の植物性タンパク質素材を用いて調製できる。典型的には、本液状栄養組成物は、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材を原料として調製できる。あるいは、上記特定の植物性タンパク質素材は、植物性タンパク質素材の製造業者、例えば不二製油株式会社等から購入する、又は製造業者に製造を依頼することによって、容易に入手することができる。なお、従来の市販の大豆タンパク質素材である「フジプロE」、「フジプロCL」、「フジプロAL」、「ニューフジプロ4500」、「プロリーナRD-1」、「プロリーナ900」、「プロリーナHD101R」などは、いずれも上記a)~d)の全特性を満たす植物性タンパク質素材に該当しない。したがって、これらを用いたとしても本液状栄養組成物を得ることはできない。
【0039】
○混合・均質化
水相部については、任意の温度範囲で調製できる。より具体的な実施形態では、加熱により溶解性が向上する親水性乳化剤や炭水化物などを含む場合は、例えば20~70℃、好ましくは55~65℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。水相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、塩類や水溶性の香料等を加える場合には、水相部に添加する。
油相部については、油脂を含む油溶性の材料を混合して、例えば50~80℃、好ましくは55~70℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。油相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、親油性乳化剤を用いる場合には、原料油脂の一部または全部に添加する。
得られた油相部と水相部は、例えば40~80℃、好ましくは55~70℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化はホモミキサー等の回転式攪拌機を用いて行うことができる。予備乳化後、ホモジナイザー等の均質化装置にて均質化する。ホモジナイザーによる均質化の際の圧力は10~100MPaとすることができ、好ましくは30~100MPaとすることができる。
【0040】
○加熱殺菌
得られた組成物は、必要により加熱殺菌処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。加熱殺菌処理を行う場合、例えば間熱加熱方式又は直接加熱方式によるUHT滅菌処理法やレトルト殺菌などにて処理し、必要により再度ホモジナイザーにて均質化し、2~15℃などに冷却する。加熱殺菌の温度はUHT殺菌の場合、例えば110~150℃、好ましくは120~140℃で行い、加熱殺菌の時間は例えば1~30秒間、好ましくは3~10秒間で行うことができる。またレトルト殺菌の場合、例えば105~125℃、好ましくは115~125℃で行い、加熱殺菌の時間は例えば5~60分間、好ましくは10~40分間で行うことができる。
【0041】
○製品化
本液状栄養組成物は、液状のまま、ペースト状に加工し、又は粉末状に加工するなどして、密閉容器に充填し、製品として提供することができる。
【0042】
(本液状栄養組成物の特徴)
ある実施形態では、本液状栄養組成物は、調製時に平均粒子径が1μm以下、好ましくは0.9μm以下の極めて乳化粒子径が小さいものである。またさらなる実施形態では、本液状栄養組成物は、レシチンや脂肪酸エステルなどの乳化剤を添加しなくても前記乳化粒子径に調製できる。またさらなる実施形態では、本液状栄養組成物は、加熱処理を行っても乳化破壊が生じにくく、そのため低粘度で乳化安定性の高いものである。
さらに、ある実施形態では、本液状栄養組成物はミネラル耐性が高く、カルシウムなどの第二族元素化合物のイオンを含有させても、低粘度で高い乳化安定性である特徴は殆ど失われない。
【0043】
(測定方法)
本明細書において、本液状栄養組成物やその原料に関する成分や物性の測定は、以下の方法に準ずる。
【0044】
<タンパク質含量>
ケルダール法により測定する。具体的には、105℃で12時間乾燥したタンパク質素材重量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中のタンパク質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0045】
<油脂(脂質)含量>
酸分解法により測定する。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0046】
<炭水化物>
試料から水分、タンパク質、脂質、灰分(直接灰化法による)の含量を引いた値とする。
【0047】
<NSI>
試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液及び(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これをろ紙(NO.5)にてろ過した後、ろ液中の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素量(水溶性窒素)の試料中の全窒素量に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0048】
<分子量分布>
溶離液でタンパク質素材を0.1質量%濃度に調整し、0.2μmフィルターでろ過したものを試料液とする。2種のカラム直列接続によってゲルろ過システムを組み、はじめに分子量マーカーとなる既知のタンパク質等(表1)をチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。次に試料液をチャージし、各分子量画分の含有量比率%を全体の吸光度のチャート面積に対する、特定の分子量範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(1stカラム:「TSK gel G3000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、2ndカラム:「TSK gel G2000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、溶離液:1%SDS+1.17%NaCl+50mMリン酸バッファー(pH7.0)、23℃、流速:0.4ml/分、検出:UV220nm)。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0049】
(表1)分子量マーカー
【0050】
<0.22M TCA可溶率>
タンパク質素材の2質量%水溶液に、0.44M トリクロロ酢酸(TCA)を等量加え、可溶性窒素の割合をケルダール法により測定した値とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0051】
<加熱ゲル化性>
タンパク質素材を22質量%濃度となるよう水に溶解してpH7に調整し、遠心脱泡してスラリー状とする。ケーシングチューブに充填し、80℃×30分の加熱を行った後、一晩冷蔵し、室温に戻して、物性評価用の試料とする。
試料のケーシングを剥離したときに、液状又は無定形のペースト状であるものを「加熱ゲル化性なし」とする。また、試料が剥離前の形状を維持できているものを「ゲル化性あり」とする。
【0052】
<界面張力>
タンパク質素材をタンパク質含量が10質量%濃度となるよう水に溶解した後、脱気し、ホモジナイザーで50MPaの圧力で均質化したものを再度脱気する。この溶液を同様の操作で10倍ずつ希釈して0.01質量%濃度の溶液を試料液とする。
試料液は懸滴法による界面張力測定装置(望ましくはKYOWA社製)で20℃に調温されたなたね油が入ったガラスセルに試料液が入ったシリンジを挿入して液滴を作製し、測定を行う。液滴作製3分後の値を記録する。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0053】
<遠心沈殿>
液状栄養組成物及びタンパク質素材の保存中の安定性の加速試験として、遠心沈殿の有無を観察する。
タンパク質素材の10質量%水溶液、又は液状栄養組成物を容量50mLの遠心チューブに35mL入れ、1500×g(3000rpm)で10分間遠心分離を行う。遠心後のチューブをゆっくりと転倒し、沈殿の層の厚みを測定し、この測定値を沈殿量(mm)とした。沈殿量が3mm未満である場合は「-」、3~5mmである場合は「±」、5mmを超える場合は「+」とし、沈殿量の程度が大きい順に「+++」>「++」>「+」とする。
【0054】
<粘度>
タンパク質素材の粘度は、該水溶液をタンパク質含量が10質量%となるように調製し、25℃にてB型粘度計(望ましくはBrookfield社製)でローターは「#LV-1」を使用し、100rpmで1分後の測定値とする。「#LV-1」で測定不能な場合は順次ローターを「#LV-2」、「#LV-3」、「#LV-4」、「#LV-5」に代えて使用する。「#LV-1」/100rpmで低粘度により測定不能の場合は「下限」とし、「#LV-5」/100rpmで高粘度により測定不能な場合は「上限」とする。液状栄養組成物の粘度もそのまま上記と同様の方法で測定する。
【0055】
<メディアン径>
メディアン径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(望ましくは島津製作所社製)で測定し、体積基準での積算分布を用いたメディアン径とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値、数値が低い場合は有効数字を2桁として次の桁の数値、を四捨五入して求められる。
【実施例
【0056】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてより具体的に説明する。なお、特記しない限り、例中の「%」や「部」は「質量%(w/w)」や「質量部」を意味する。
【0057】
(植物性タンパク質素材の準備)
植物性タンパク質素材として、表2のサンプルを入手又は製造した。
【0058】
(表2)
【0059】
上記サンプルA~Lの各種成分、物性の測定値を表3、表4に示した。
【0060】
(表3)各種植物性タンパク質素材の主要分析値
【0061】
(表4)各種植物性タンパク質素材の主要分析値
【0062】
(製造例1)液状栄養組成物の製造工程
液状栄養組成物の基本的な製造工程は、以下の通りとした。
1)容器に入れた水を50℃に温度調整し、ホモミキサーで撹拌しながら、植物性タンパク質素材を添加し、溶解させる。
2)全原料を混合し、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のpH調整剤でpHを7に調整する。
3)高圧ホモジナイザーを用いて圧力15MPaにて均質化処理する。
4)プレート式加熱殺菌機にて、140℃で4秒間加熱殺菌処理を行う。
5)再度ホモジナイザーを用いて圧力50MPaで均質化処理してから、プレート式冷却機にて5℃まで冷却し、液状栄養組成物を得る。
【0063】
(実施例1)植物ベースの本液状栄養組成物の調製1
各種の植物性タンパク質素材を用いて、カゼインナトリウム等の乳タンパク質を含まない、植物ベースの液状栄養組成物を調製し、該液状栄養組成物に適する植物性タンパク質素材を検討した。
植物性タンパク質素材として、表1のサンプルAmを用い、表5の配合100gに対してデキストリンを18.9gを混合し、製造例1の方法により、1.5K(1.5kcal/ml)タイプの液状栄養組成物を製造した。
得られた液状栄養組成物の物性(粘度、メディアン径、遠心沈澱の有無)を測定した。結果を表6に示した。
【0064】
(表5)液状栄養組成物の配合
【0065】
(実施例2,3)植物ベースの本液状栄養組成物の調製2
植物性タンパク質素材として、表1のサンプルAmの代わりにBm(実施例2)およびCm(実施例3)をそれぞれ用いて、実施例1と同様にして表5の配合および製造例1の方法により、1.5Kタイプの液状栄養組成物を製造した。得られた液状栄養組成物の物性(粘度、メディアン径、遠心沈澱の有無)を測定し、結果を表6に示した。
【0066】
(表6)液状栄養組成物の品質評価
【0067】
実施例1~3の液状栄養組成物は、カゼインナトリウムのような乳タンパク質が添加されていなくとも、いずれもミネラルによる凝集が発生しておらず、低粘度で均質であり、安定性に優れた物性であった。なお、植物性タンパク質素材としてサンプルAmの代わりにサンプルDm,Em,Fm,Gmを用いた液状栄養組成物も別途製造したところ、同様にホワイトナー適性を有するものであった。
【0068】
(比較例1)
植物性タンパク質素材として、表1のサンプルAmの代わりにサンプルAを用いて、実施例1と同様にして表5の配合および製造例1の方法により、1.5Kタイプの液状栄養組成物を製造を試みた。
しかしながら、原料を混合する工程中に明らかに配合液の粘度が上昇し、またミネラルによる凝集が発生してしまった。そのため低粘度で均質であり、安定性に優れた品質の液状栄養組成物を製造することができなかった。なお、植物性タンパク質素材としてサンプルAの代わりにサンプルB~Gを用いた液状栄養組成物も別途製造を試みたが、いずれも比較例1と類似の品質であり、液状栄養組成物としての適性がないものであった。
【0069】
以上の実施例および比較例の結果より、植物性タンパク質素材は、原料植物の種類に関わりなく、NSI、分子量分布が特定の範囲にあり、ゲル化性を有さないものが、植物ベースの液状栄養組成物のタンパク質素材として有効であることが示された。
【0070】
(試験例1)配合中への乳化剤の有無の検討
植物性タンパク質素材として、サンプルAmを用い、実施例1と同様にして表5の配合および製造例1の方法により、液状栄養組成物を製造した(T-1)。また、表5の配合から乳化剤を除き、同様にして液状栄養組成物を製造した(T-2)。
得られた各液状栄養組成物を、再度120℃で10分間のレトルト加熱を行い、プレート式冷却機にて5℃まで冷却した。得られたレトルト加熱済みの各液状栄養組成物について、物性(粘度、メディアン径、遠心沈澱の有無)を測定し、結果を表7に示した。
【0071】
(表7)液状栄養組成物の品質評価
【0072】
表7の結果の通り、乳化剤が配合中に添加されなくても、レトルト加熱のような熱履歴の大きい加熱処理がされない場合では、低粘度で均質であり、安定性に優れた品質の液状栄養組成物を製造することができた。一方、レトルト加熱を行う場合は、粘度の維持および耐熱性のために乳化剤を添加する方が、品質良好な液状栄養組成物を得られた。
【0073】
(試験例2)ホエー蛋白質の混合による影響の検討
植物性タンパク質素材として、サンプルAmを用い、実施例1と同様にして表5の配合および製造例1の方法により、液状栄養組成物を製造した(T-3)。次に、サンプルAmの配合量のうち50%を濃縮ホエータンパク質(WPC)に置換して、同様にして液状栄養組成物を製造した(T-3)。さらに、サンプルAmの配合量の全量をWPCに置換して、同様にして液状栄養組成物を製造した(T-4)。
得られた各液状栄養組成物を、再度120℃で10分間のレトルト加熱を行い、プレート式冷却機にて5℃まで冷却した。得られたレトルト加熱済みの各液状栄養組成物について、物性(粘度、メディアン径、遠心沈澱の有無)を測定し、結果を表8に示した。
【0074】
(表8)液状栄養組成物の品質評価
【0075】
表8のT-4の結果より、サンプルAmを植物性タンパク質素材として用い、WPCを1:1で併用した場合、レトルト加熱前ではT-3と同程度に低粘度で均質であり、安定性に優れた品質の液状栄養組成物を製造することができた。一方、WPCをタンパク質素材として単独で用いたT-5では、レトルト加熱によりゲル化してしまった。
以上より、NSI、分子量分布が特定の範囲にあり、ゲル化性を有さない植物性タンパク質素材を用いることにより、耐熱性の低いホエータンパク質と1:1で併用した場合でも、許容できる物性の液状栄養組成物を製造できることが示された。
【0076】
以上の実施例にサポートされる通り、本発明によれば、乳タンパク質を使用しなくとも、ミネラル耐性及び耐熱性に優れた植物ベースの液状栄養組成物を提供することができる。