(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】透析液用固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/12 20060101AFI20240806BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240806BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240806BHJP
A61P 7/08 20060101ALI20240806BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240806BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61K47/12
A61K9/14
A61K47/02
A61K47/26
A61P7/08
A61P13/12
A61M1/16 173
(21)【出願番号】P 2019208163
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大島 譲介
(72)【発明者】
【氏名】城 尭彬
(72)【発明者】
【氏名】安達 美有紀
(72)【発明者】
【氏名】西山 要
(72)【発明者】
【氏名】角野 琢哉
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188193(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057966(WO,A1)
【文献】特開2014-141464(JP,A)
【文献】特開2014-141463(JP,A)
【文献】特開2014-140641(JP,A)
【文献】特開平07-024061(JP,A)
【文献】特開2001-149468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウムおよび酢酸を含有する透析液用固形A剤であって、
塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムおよび酢酸ナトリウムが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムおよび酢酸ナトリウムを含む造粒物として含まれ、
酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:2.10~3.66であり、かつ炭酸ナトリウムを含む透析液用固形B剤と脱イオン水を用いてナトリウムイオン濃度が130~147mEq/Lおよび重炭酸イオン濃度が25~31mEq/Lとなる透析液とした場合の、総酢酸イオンの濃度が5.0~7.0mEq/L、酢酸由来の酢酸イオンの濃度が1.5~2.0mEq/Lである、透析液用固形A剤。
【請求項2】
ブドウ糖を含む請求項1記載の透析液用固形A剤。
【請求項3】
電解質として塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムを含み、透析液とした場合の各成分の濃度が、Na
+:133~145mEq/L、K
+:1.80~2.50mEq/L、Ca
2+:2.0~3.0mEq/L、Mg
2+:1.0~1.5mEq/L、Cl
-:105~115mEq/L、ブドウ糖:100~150mg/dLである請求項1または2記載の透析液用固形A剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の透析液用固形A剤と、炭酸水素ナトリウムを含有する透析液用固形B剤とを組み合わせてなる重曹透析用固形製剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の透析液用固形A剤が、多層構造の包装材により包装されてなる包装体。
【請求項6】
多層構造の包装材が、中間層にガスバリア層を含む包装材である請求項5記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液用固形製剤、特に重曹含有透析液を調製するためのいわゆるA剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎機能が低下した患者に血液透析を実施する場合、患者の血液は人工腎臓中で浄化される。この人工腎臓の内部においては透析液が灌流し、透析膜を介して、該血液中の老廃物を透析液側に移行させることが一般に行われる。近年では、この透析液として、患者の負担を軽減させるために、従来の酢酸透析液に代わり、酢酸の使用量を低減させた重曹含有透析液が広く使用されている。
【0003】
重曹含有透析液では、通常、電解質成分と重炭酸イオンとの反応により不溶性の化合物が生成されるため一剤化に適しておらず、通常、電解質成分(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)およびpH調整剤(例えば酢酸)を含む製剤(以下、「A剤」という)と、重曹を含む製剤(以下、「B剤」という)との2剤型透析液用固形製剤が使用されており、ブドウ糖を使用する場合には、A剤に加えるか、ブドウ糖粉末を別包装とした3剤型透析液用固形製剤も利用されている。
【0004】
これらの透析液用固形製剤には、pH調整剤として酢酸が用いられているが、酢酸は可燃性および揮発性であるため、造粒中に造粒装置内に添加すると、引火したり刺激臭が発生する恐れがあるなどの点から、pH調整剤にクエン酸等の固形有機酸を使用し、酢酸の含有量をさらに低減した製剤も開発されている。しかし、pH調整剤を酢酸以外の有機酸、例えばクエン酸とする場合、クエン酸が十分に溶解せずA剤の濃厚液調製時に沈殿が生じるという問題や、既存の装置に対する適合性が不十分であるという問題などがあった。
【0005】
一方、特許文献1においては、pH調整剤としては酢酸を用いながら、その透析液における総酢酸イオン濃度を2mEq/L以上かつ6mEq/L未満に特定した透析液用A剤において、酢酸:酢酸塩のモル比を1:0.5~2.0とすることにより、保存安定性に優れ、酢酸臭を低減でき、透析液調製装置や透析装置の腐食を抑制できる透析用A剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、透析液中の総酢酸イオン濃度は、(a)pH調整剤としての酢酸の使用量を確保するという点、(b)造粒に寄与する酢酸ナトリウムの使用量を確保するという点、および(c)酢酸不耐症と称される心機能や血管収縮の抑制作用等、循環導体への影響が懸念され、重炭酸型血液透析液製剤の現在の主流である8~10mEq/Lよりもできるだけ低減させることが望まれている点などから、6mEq/L付近、例えば5.0~7.0mEq/Lが好ましい。しかしながら、この総酢酸イオン濃度では、特許文献1に記載された発明では、臭気の低減が十分でなく、また包装材のデラミネーション(層間の浮き、剥離)を引き起こすといった問題があり、さらなる改善が必要とされている。
【0008】
したがって、本発明は、保存中に包装のデラミネーションを生じることなく、また使用時に問題となる酢酸臭を低減させた透析液用固形製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、透析液とした場合の総酢酸イオンの濃度が5.0~7.0mEq/Lであり、酢酸由来の酢酸イオンの濃度が1.5~2.0mEq/Lである、透析液用固形製剤において、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比を1:2.10~3.66とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]酢酸ナトリウムおよび酢酸を含有する透析液用固形製剤であって、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:2.10~3.66、好ましくは1:2.10~3.60、より好ましくは1:2.10~3.50であり、かつ透析液とした場合の総酢酸イオンの濃度が5.0~7.0mEq/L、好ましくは5.1~6.9mEq/L、より好ましく5.1~6.5mEq/L、酢酸由来の酢酸イオンの濃度が1.5~2.0mEq/L、好ましくは1.6~2.0mEq/L、より好ましくは1.7~2.0mEq/Lである透析液用固形製剤、
[2]塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムからなる群より選択される1種以上の電解質およびブドウ糖を含む上記[1]記載の透析液用固形製剤、
[3]電解質として塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムを含み、透析液とした場合の各成分の濃度が、Na+:130~147mEq/L、好ましくは133~145mEq/L、より好ましくは135~143mEq/L;K+:1.80~2.50mEq/L、好ましくは1.85~2.30mEq/L、より好ましくは1.90~2.20mEq/L;Ca2+:2.0~3.0mEq/L、好ましくは2.5~2.9mEq/L、より好ましくは2.7~2.8mEq/L;Mg2+:1.0~1.5mEq/L、好ましくは1.1~1.4mEq/L、より好ましくは1.2~1.3mEq/L;Cl-:105~115mEq/L、好ましくは108~115mEq/L、より好ましくは110~115mEq/L;ブドウ糖:100~150mg/dL、好ましくは120~150mg/dL、より好ましくは130~150mg/dLである上記[1]または[2]記載の透析液用固形製剤、および
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の透析液用固形製剤と、炭酸水素ナトリウムを含有するB剤とを組み合わせてなる重曹透析用固形製剤
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存中に包装材のデラミネーションを生じることなく、また使用時に問題となる酢酸臭を低減させた透析液用固形製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の透析液用固形製剤は、いわゆる「A剤」であり、炭酸水素ナトリウムを含有する「B剤」と、それぞれ適切な濃度に希釈した後に混合希釈して透析液として用いるものである。
【0013】
本発明のような透析液用固形製剤の包装には、通常、アルミニウムやシリコンなどのガスバリア蒸着層を中間層に含む多層構造の包装材が用いられる。そのような包装材としては、例えば、外層に二軸延伸ポリプロピレン(OPP)層を有し、ガスバリア蒸着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)層を中間層に有し、内層にポリエチレン(PE)層、好ましくは多層構造のポリエチレン層を有する多層構造の材料による包装袋などが挙げられる。このような多層構造の材料では、強い揮発酸成分によるデラミネーション(層間の浮き、剥離)を起こす傾向がある。具体的には、酸成分が内層のPE層を透過し、蒸着層とPE層との間の接着層を侵食し、蒸着層に到達することで浮きが生じると考えられる。さらにPET層に至ると、層間に明確な剥離が生じると考えられる。
【0014】
本発明の透析液用固形製剤は、酢酸ナトリウムおよび酢酸を含有する透析液用固形製剤であって、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:2.10~3.66であり、かつ透析液とした場合の総酢酸イオンの濃度が5.0~7.0mEq/L、酢酸由来の酢酸イオンの濃度が1.5~2.0mEq/Lであることを特徴とする。
【0015】
酢酸としては、特に限定されるものではないが、氷酢酸が好ましく用いられる。酢酸ナトリウムとしては、無水酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水和物などが好ましく用いられる。
【0016】
酢酸および酢酸ナトリウムの含有量としては、透析液とした場合の酢酸由来の酢酸イオンの濃度が1.5~2.0mEq/L、酢酸由来の酢酸イオンと酢酸ナトリウム由来の酢酸イオンとを合わせた総酢酸イオンの濃度が5.0~7.0mEq/L、酢酸と酢酸ナトリウムのモル比が1:2.10~3.66となる範囲内でそれぞれ決定される。
【0017】
透析液とした場合の酢酸由来の酢酸イオンの濃度は、1.5mEq/L以上であるが、1.6mEq/L以上が好ましく、1.7mEq/L以上がより好ましい。酢酸由来の酢酸イオン濃度が1.5mEq/L未満であると、透析液pHが至適範囲外(pHが7.4より高い)となりpH調整剤としての役割を果たせないこととなる。また、酢酸由来の酢酸イオン濃度は、2.0mEq/L以下であり、2.0mEq/Lを超えると、透析液のpHが至適範囲外(pHが7.2より低い)となり、pH調整剤としての役割が果たせないことになる傾向がある。
【0018】
透析液とした場合の、酢酸由来の酢酸イオンと酢酸ナトリウム由来の酢酸イオンとを合わせた総酢酸イオンの濃度は、5.0mEq/L以上であるが、5.1mEq/L以上が好ましい。総酢酸イオン濃度が5.0mEq/L未満であると、上記の酢酸由来の酢酸イオンに関する条件から、酢酸ナトリウム由来の酢酸イオンが3.5mEq/L以下となり、粉末透析剤が保存中に潮解を起こす傾向がある。また、総酢酸イオン濃度は、7.0mEq/L以下であるが、6.9mEq/L以下が好ましく、6.5mEq/L以下がより好ましい。総酢酸イオン濃度が7.0mEq/Lを超えると、臨床使用上、酢酸不耐症を惹起する懸念がある。
【0019】
酢酸と酢酸ナトリウムのモル比は、酢酸臭の低減および包装材のデラミネーションの防止という観点から1:2.10以上とするものであり、酢酸の好適な含有量の観点から1:3.66以下とするものである。モル比を1:3.66超とすると、結果的に酢酸由来の酢酸イオン含量が1.5mEq/L未満となり、前述の透析液pHが至適範囲外となるため好ましくない。また、酢酸と酢酸ナトリウムのモル比は、1:2.10~3.60が好ましく、1:2.10~3.50がより好ましい。
【0020】
本発明の透析液用固形製剤は、酢酸および酢酸ナトリウムに加えて、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムからなる群より選択される1種以上の電解質、ならびにブドウ糖を含有することが好ましい。
【0021】
電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化カリウムからなる群より選択される1種以上を含むものであるが、腎不全患者の血中電解質バランスの是正を目的として使用される透析液であるという理由から、これら電解質をすべて含むことが好ましい。
【0022】
塩化ナトリウムとしては、固体状態であって、結晶状態であるものが好ましい。塩化カルシウムとしては、塩化カルシウム二水和物、塩化カルシウム一水和物、塩化カルシウム無水物などが用いられる。塩化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム六水和物などが好ましく用いられる。
【0023】
本発明の透析液用固形製剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、各成分を単純に混合して固形製剤としてもよいが、例えば、遠心流動層造粒法、流動層造粒法、転動攪拌流動層造粒法などによって、造粒することにより得ることもでき、好ましくは転動攪拌流動層造粒法が用いられる。この転動攪拌流動層造粒法には、好ましくは転動攪拌流動層造粒装置が用いられる。転動攪拌流動層造粒装置とは、層璧近傍からの空気流による流動作用と、装置底部のローターの回転による転動作用により、核粒子を転動流動させ、水溶液中の成分を噴霧してコーティングする装置である。空気流の風量は、0.2~300m3/分が好ましく、0.5~200m3/分がより好ましい。空気流の風量が0.2m3/分より少ないと核粒子同士が凝集しやすくなる。また、300m3/分より多いと水溶液中の成分がスプレードライ現象を生じやすくなり、さらに各粒子が受ける衝撃が大きくなるため微粉が生じやすくなる。また給気温度は、70~110℃が好ましく、85~105℃がより好ましい。給気温度が70℃未満であると、流動性が悪化して造粒機内に造粒物が付着する傾向があり、110℃を超えるとスプレー成分が即乾して核粒子に付着せず、造粒が進行しない傾向がある。また、ローターの回転数は20~1,000rpmが好ましく、50~500rpmがより好ましい。ローターの回転数が20rpmより低いとコーティング層の層厚が不均一になり、1,000rpmより高いとコーティングされた粒子同士の衝突や装置内壁との摩擦のためにコーティング層が削れるおそれがある。乾燥は排気温度25~70℃が好ましく、30~50℃がより好ましく、噴霧中に継続して行う。
【0024】
本発明の透析液用固形製剤はブドウ糖を含むことが好ましい。
【0025】
本発明はまた、上述の透析液用固形製剤「A剤」と、炭酸水素ナトリウムを含有する「B剤」とを組み合わせてなる重曹透析用固形製剤を提供する。
【0026】
本発明におけるB剤は、炭酸水素ナトリウムを含有する製剤である。B剤は、炭酸水素ナトリウムの他に、塩化ナトリウム、塩化カリウムからなる群から選ばれる一種以上の電解質を含有していてもよい。また、B剤はブドウ糖を含んでいてもよい。また、ブドウ糖以外の糖成分、例えばマルトース、キシリトール、トレハロース等を必要により添加してもよい。
【0027】
本発明の重曹透析用固形製剤を透析液とする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(1)A剤およびB剤を所定の配合比で混合した後、脱イオン水に溶解させて透析液に調製する方法、(2)A剤およびB剤をそれぞれ脱イオン水に溶解させて二つの水溶液を調製した後、両者を混合し、必要に応じてさらに脱イオン水を加えて透析液を調製する方法、(3)A剤またはB剤を脱イオン水に溶解させて水溶液を調製した後、残りの製剤を溶解させて透析液を調製する方法などにより調製してもよい。
【0028】
得られた透析液は、以下の表1に記載した組成を有することが好ましく、表2に記載した組成を有することがより好ましく、表3に記載した組成を有することがさらに好ましい。表1~3中の「AcO-」は総酢酸イオン濃度を表し、下段に内訳としてそれぞれ酢酸由来の酢酸イオン濃度(「酢酸由来」)の範囲および酢酸ナトリウム由来の酢酸イオン濃度(「酢酸ナトリウム由来」)の範囲を示すが、実際の酢酸ナトリウム由来の酢酸イオン濃度は、各表中に記載した範囲内で、発明に規定する総酢酸イオン濃度の範囲、酢酸由来の酢酸イオン濃度の範囲、ならびに酢酸と酢酸ナトリウムのモル比を考慮して決定されるものである。また、各表中の「アルカリ」は、重炭酸イオンおよび酢酸ナトリウム由来の酢酸イオンの合計濃度を意味する。
【0029】
【0030】
【0031】
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例にもとづき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【0033】
実施例1~5および比較例1
表4に示す組成にしたがい、脱イオン水623.7gに塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび無水酢酸ナトリウムを溶解し、スプレー液を製造した。塩化ナトリウムを核粒子として転動攪拌流動層造粒装置(マルチプレックス MP-01、(株)パウレック製)に投入し、吸気温度47℃、ローター回転数300rpmおよび吸気風量0.7m3/秒の条件下で、上記スプレー液を噴霧すると同時に乾燥させた。スプレー液を全量噴射後、造粒物を装置内で乾燥させた。得られた造粒物に氷酢酸およびブドウ糖を加えて混合し、包材に充填することにより透析液用固形製剤を得た。
【0034】
得られた透析液用固形製剤を、多層包装材((外側)二軸延伸ポリプロピレン(OPP)層/シリカ蒸着GL-PET層/多層PEシーラント層(内側))の袋に入れ密封した。
【0035】
試験例1:臭気官能試験
表4の組成にしたがい、各成分を混合し、ポリエチレン製の袋に封入した。これを袋ごと振り混ぜた後、開封し、開口部を鼻から一定の距離に置き、臭いをかいだ。その際の臭いの評価を次の基準にしたがって点数をつけた。結果を9人の評価の平均として表4に示す。
【0036】
臭気評価基準
0点・・・全く酢酸臭を感じない
1点・・・ほとんど酢酸臭を感じないか、少し酢酸臭を感じる
2点・・・酢酸臭を感じる
3点・・・強い酢酸臭を感じる
4点・・・痛みや不快感を伴う酢酸臭を感じる
【0037】
試験例2:気相中の酢酸濃度
実施例1~5および比較例1で得られた包装済み透析液用固形製剤に対して、包装材にマイクロシリンジ(容量:250μL)を挿し、気相部から試験サンプル(100μL)を抜き取った。その際、シリンジ内を気相部に置換するため、気相部を150μL程度まで吸い上げて押し戻す操作を15~20回繰り返した。抜き取った試料をガスクロマトグラフ質量分析装置(JMS-Q1050GC、日本電子(株)製)にて以下の条件にて酢酸濃度を測定した。一度シリンジを挿した個所にはセロテープ(登録商標)を貼った。結果を表4に示す。
【0038】
測定条件:
カラム:HP-5(アジレント製)(内径:0.32mm×膜厚:0.25μm×長さ:30m)
カラム温度:35℃(保持2.5分)~200℃
注入口温度:200℃
イオン原温度:250℃
GCITF温度:240℃
注入モード:スプリット 50:1
検出器電圧:1050V
キャリアガス:He
【0039】
試験例3:包材のデラミネーションの評価
実施例1、2、4および比較例1で得られた包装済み透析液用固形製剤を加速試験(40℃、75%RH)条件下にて2ヵ月保管したのち包装材を観察した。多層構造の包装材のデラミネーション(層間の浮き、剥離)の有無を観察した。比較例1では、包材の表面部とシール部の境界付近に剥離が観察されたが、実施例1、2および4ではそのような層間の浮きや剥離は観察されなかった。結果を表4に示す。
【0040】
【0041】
試験例1および2の結果より、酢酸:酢酸ナトリウムのモル比が1:2.10以上である実施例1~5では、当該モル比が1:2.07である比較例1と比べて格段に臭気が抑制されていることがわかる。
【0042】
試験例4:透析液中の各成分の濃度
表4に示す組成により、脱イオン水に各成分を加え、室温で60分間撹拌して溶解し、脱イオン水で9Lに希釈することによりA剤の濃厚液を調製した。また、炭酸水素ナトリウム741.3gを脱イオン水に溶解して10.59LとすることでB剤の濃厚液を調製した。得られたA剤の濃厚液とB剤の濃厚液と脱イオン水とを1:1.18:32.82の割合で希釈混合して透析液を調製した。得られた透析液の組成を表5に示す。表5中の「AcO-」は総酢酸イオン濃度を表し、下段に内訳としてそれぞれ酢酸由来の酢酸イオン濃度(「酢酸由来」)および酢酸ナトリウム由来の酢酸イオン濃度(「酢酸ナトリウム由来」)を示した。また、表5中の「アルカリ」は、重炭酸イオンおよび酢酸ナトリウム由来の酢酸イオンの合計濃度を意味する。
【0043】