(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】農産物栽培支援装置、農産物栽培システム、および農産物栽培支援方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240806BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20240806BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240806BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G9/24 A
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2020003172
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】原嶋 寛
(72)【発明者】
【氏名】住吉 栄作
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-262852(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108596779(CN,A)
【文献】特開2015-173612(JP,A)
【文献】特開2018-134104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00- 7/06
A01G 9/24
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然換気を行なう換気装置を備えた農業ハウスの栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度からなる光合成要素の測定値を取得する農産物栽培支援装置であって、
栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度が、調整装置によって調整される光合成要素であり、全ての光合成要素の測定値から単一の光合成速度を算出する光合成速度算出部と、
前記光合成速度の算出値が基準値未満であると判定した場合、前記光合成速度と
前記全ての光合成要素との相関モデルに基づいて、前記算出値が前記基準値以上になるように、前記調整装置の駆動を制御する光合成速度制御部と、を備え
、
前記光合成速度算出部は、前記自然換気における外気の二酸化炭素濃度に対応する相関モデルを用いて、前記光合成速度が前記基準値以上となる温度帯を算出し、前記調整装置によって調整された温度環境が前記温度帯にあると判定した場合には、自然換気モードを選択する
農産物栽培支援装置。
【請求項2】
前記相関モデルは、二酸化炭素濃度と光合成速度とを入力値に含み、当該光合成速度を実現するための温度帯を算出可能に構成されたモデルを含み、
前記光合成速度制御部は、二酸化炭素濃度の測定値と光合成速度の前記基準値とを前記相関モデルに適用した温度帯を算出し、前記農業ハウスの設備によって実現される温度環境であって農産物の栽培環境に適した温度環境が前記温度帯の算出結果にない場合、二酸化炭素濃度を高めることによって栽培環境に適した温度環境範囲を広げる制御を行う
請求項1に記載の農産物栽培支援装置。
【請求項3】
前記相関モデルは、二酸化炭素濃度と光合成速度とを入力値に含み、当該光合成速度を実現するための温度帯を算出可能に構成されたモデルを含み、
前記光合成速度制御部は、二酸化炭素濃度の測定値と光合成速度の前記基準値とを前記相関モデルに適用した温度帯を算出し、前記農業ハウスの設備によって実現される温度環境であって農産物の栽培環境に適した温度環境が前記温度帯の算出結果にある場合に、二酸化炭素濃度を保ちながら温度を調整する制御を行う
請求項1に記載の農産物栽培支援装置。
【請求項4】
光合成要素の各量を調整する調整装置を備えた農業ハウスと、
請求項1から3のいずれか一項に記載の農産物栽培支援装置と、を備える
農産物栽培システム。
【請求項5】
自然換気を行なう換気装置を備えた農業ハウスの栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度からなる光合成要素の測定値を取得する農産物栽培支援方法であって、
栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度が、調整装置によって調整される光合成要素であり、全ての光合成要素の測定値から単一の光合成速度を算出し、
前記光合成速度の算出値が基準値未満であると
判定した場合、前記光合成速度と前記
全ての光合成要素との相関モデルに基づいて、前記算出値が前記基準値以上になるように、前記調整装置の駆動を制御
し、
前記自然換気における外気の二酸化炭素濃度に対応する相関モデルを用いて、前記光合成速度が前記基準値以上となる温度帯を算出し、前記調整装置によって調整された温度環境が前記温度帯にあると判定した場合には、自然換気モードを選択する
農産物栽培支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業ハウスが備える設備を制御する農産物栽培支援装置、農産物栽培システム、および農産物栽培支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農産物を栽培するための農業ハウスは、農業ハウスが設置された自然環境とは異なる栽培環境を形成して、農産物の収穫量を高めたり、農産物の品質を高めたりする。
例えば、農業ハウスに搭載される遮光カーテンは、太陽光が栽培空間に入ることを遮って、日長を調整したり、栽培空間の温度上昇を抑制したりする。農業ハウスに搭載される空調装置は、栽培空間に調整空気を供給して栽培空間の温度を調整する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
例えば、農業ハウスに搭載される熱線反射フィルムは、太陽光に含まれる熱線を反射して栽培空間の温度上昇を抑制する一方で、可視光を透過して農産物の生育を促す。農業ハウスに搭載される二酸化炭素供給装置は、栽培空間に二酸化炭素を供給して、農産物の光合成が活発に行われる範囲に二酸化炭素濃度を維持する(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-103856号公報
【文献】特開2017-153475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高温度環境下での栽培が困難であるミニトマトのような農産物を高温度環境下で栽培可能にする技術は、当該農産物を高温度環境地域に普及するための手段として期待されている。上述した遮光装置、空調装置、および二酸化炭素供給装置は、農産物を高温度環境下で栽培可能にする技術の1つである。しかしながら、農業ハウスの設置される外部環境は、周辺地形や緯度などによって区々であることは当然のこと、時刻に対する推移でさえも区々であるから、農産物の栽培に適した環境をより高い精度の下で実現する観点において、依然として、改善の余地を残している。
【0006】
本発明の目的は、農産物の栽培に適した環境を実現可能にした農産物栽培支援装置、農産物栽培システム、および農産物栽培支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための農産物栽培支援装置は、農業ハウスの栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度からなる光合成要素の測定値を取得する農産物栽培支援装置であって、栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度が、調整装置によって調整される光合成要素であり、全ての光合成要素の測定値から単一の光合成速度を算出する光合成速度算出部と、前記光合成速度の算出値が基準値未満であると判定した場合、前記光合成速度と全ての光合成要素との相関モデルに基づいて、前記算出値が前記基準値以上になるように、前記調整装置の駆動を制御する光合成速度制御部と、を備える。
【0008】
上記課題を解決するための農産物栽培システムは、農業ハウスと、上記農産物栽培支援装置と、を備える。
上記課題を解決するための農産物栽培支援方法は、農業ハウスの栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度からなる光合成要素の測定値を取得する農産物栽培支援方法であって、栽培空間の光強度、二酸化炭素濃度、および温度が、調整装置によって調整される光合成要素であり、全ての光合成要素の測定値から単一の光合成速度を算出し、前記光合成速度の算出値が基準値未満であるとき、前記光合成速度と前記光合成要素との相関モデルに基づいて、前記算出値が前記基準値以上になるように、前記調整装置の駆動を制御する。
【0009】
上記各構成によれば、全ての光合成要素の測定値から単一の光合成速度が算出される。そして、光合成速度と全ての光合成要素との相関モデルに基づいて、算出値が基準値以上になるように、調整装置の駆動が制御される。すなわち、光合成速度が基準値以上になるように、光強度、温度、および二酸化炭素濃度の3つのパラメータは、相関モデルに基づいて調整される。農産物の光合成速度とは、農産物の栽培に直接関与するパラメータであるから、光合成速度を基準値以上とする上記駆動の制御であれば、農産物の栽培に好適な環境を形成することができる。この際、相関モデルに基づいて、3つのパラメータが調整されるため、経験則などに基づく調整、および単一のパラメータによる調整と比べて、光合成速度を基準値以上とすることの実効性が高められる。
【0010】
上記農産物栽培支援装置において、前記相関モデルは、二酸化炭素濃度と光合成速度とを入力値に含み、当該光合成速度を実現するための温度帯を算出可能に構成されたモデルを含む。そして、前記光合成速度制御部は、二酸化炭素濃度の測定値と光合成速度の前記基準値とを前記相関モデルに適用した温度帯を算出し、前記農業ハウスの設備によって実現される温度環境であって農産物の栽培環境に適した温度環境が前記温度帯の算出結果にない場合、二酸化炭素濃度を高めることによって栽培環境に適した温度環境範囲を広げる制御を行ってもよい。
【0011】
上記農産物栽培支援装置において、前記相関モデルは、二酸化炭素濃度と光合成速度とを入力値に含み、当該光合成速度を実現するための温度帯を算出可能に構成されたモデルを含む。そして、前記光合成速度制御部は、二酸化炭素濃度の測定値と光合成速度の前記基準値とを前記相関モデルに適用した温度帯を算出し、前記農業ハウスの設備によって実現される温度環境であって農産物の栽培環境に適した温度環境が前記温度帯の算出結果にある場合に、二酸化炭素濃度を保ちながら温度を調整する制御を行ってもよい。
【0012】
上記各構成によれば、二酸化炭素の供給を行うタイミングが好適に設定される。例えば、二酸化炭素濃度が暗呼吸によって低下しにくい日の出直後では、光合成速度を基準値以上とすることに足る温度や二酸化炭素濃度を得られる可能性がある。こうした日の出直後から二酸化炭素を供給するとなると、二酸化炭素の供給が過剰になり得る。この点、上記構成であれば、農業ハウスの設備によって実現され得る農産物の栽培環境に適した温度環境が温度帯の算出結果にない場合に二酸化炭素濃度が高められるため、また、温度帯の算出結果にある場合に二酸化炭素濃度が保たれるため、二酸化炭素濃度が過剰になることが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】農産物栽培システムの一実施形態における構成を示す構成図。
【
図2】農産物栽培支援装置の構成を示すブロック図。
【
図3】農産物栽培支援装置が備える相関モデルの一例を示すグラフ。
【
図4】農産物栽培支援方法の一実施形態での処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から4を参照して、農産物栽培システム、農産物栽培支援装置、および、農産物栽培支援方法の一実施形態を説明する。なお、農産物栽培システムを構成する農業ハウスが設置される地域の一例は、赤道付近の熱帯地域であり、農産物の光合成を促すことに際して外気よりも高い二酸化炭素濃度を要する地域である。農業ハウスが設置される地域における年間平均気温の一例は、25℃以上30℃以下であり、年間平均最高気温の一例は、30℃以上35℃以下である。農産物栽培システムで栽培される農産物の一例は、例えばトマト、なす、きゅうりを含む果菜類、いちご、メロン、すいかを含む果実的野菜、キャベツ、ほうれんそう、レタスを含む葉茎菜類である。
【0015】
図1が示すように、農産物栽培システムは、農業ハウス10と農産物栽培支援装置20とを備える。農業ハウス10は、密封されていてもよいし、半密封されていてもよい。農業ハウス10の内部空間は、栽培空間10Sであり、農業ハウス10の内部環境は、栽培環境である。密封または半密封された農業ハウス10は、外部環境の変化に伴って栽培環境が変化することを抑える。栽培環境を好適な環境に制御しやすい観点において、農業ハウス10は密封されていることが好ましい。
【0016】
農業ハウス10は、換気装置11、遮光装置12、測定装置13、空調装置14、および二酸化炭素供給装置15を備える。遮光装置12、空調装置14、および二酸化炭素供給装置15の各々は、調整装置24である。
【0017】
換気装置11は、例えば、農業ハウス10における栽培空間10Sの上方に位置する換気窓と、換気窓を開閉する駆動部とを備える。換気装置11が行う換気は、自然換気であり、栽培空間10Sの温度を下げる一方で、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度も下げてしまう。例えば、日中では40℃以上になる栽培空間10Sの温度が自然換気によって35℃以下に下がる一方で、二酸化炭素濃度も400ppmに下がってしまう。換気装置11の駆動による自然換気は、主に、空調装置14の故障時などに用いられる。
【0018】
遮光装置12は、例えば、栽培空間10Sの上方に位置する遮光シートと、遮光シートの展開と収納とを行う駆動部とを備える。遮光装置12が備える遮光シートは、太陽光に含まれる熱線を遮蔽する。遮光装置12による熱線の遮蔽は、熱線の吸収でもよいし、熱線の反射でもよい。栽培空間10Sの温度が好適な温度に制御しやすい観点において、遮光装置12による遮蔽は、熱線の反射であることが好ましい。遮光装置12による遮光は、栽培空間10Sの温度を下げる一方で、栽培空間10Sの光強度も下げてしまう。400nm以上700nm以下の光は、農産物に光合成を促すから、遮光装置12における400nm以上700nm以下の光の透過率は、高いことが好ましい。
【0019】
空調装置14は、調整された空気を栽培空間10Sに供給して栽培空間10Sの温度を下げる。調整された空気は、栽培空間10Sの温度を農産物の栽培に適した温度に下げる。農産物の栽培に適した温度は、農産物栽培支援装置20によって定められる温度であって、外気よりも低い温度である。空調装置14による空調は、栽培空間10Sの光強度、および栽培空間10Sの二酸化炭素濃度をほぼ維持した状態で、栽培空間10Sの温度を下げる。
【0020】
二酸化炭素供給装置15は、二酸化炭素を栽培空間10Sに供給して栽培空間10Sの二酸化炭素濃度を高める。二酸化炭素供給装置15による二酸化炭素の供給は、栽培空間10Sの光強度、および栽培空間10Sの温度をほぼ維持した状態で、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度を上げる。30℃以上の栽培環境では、温度の上昇に伴って、農産物の光合成速度が下がってしまう。30℃以上の栽培環境では、農産物に光合成を促す観点において、二酸化炭素供給装置15による二酸化炭素の供給が有効的である。
【0021】
測定装置13は、栽培空間10Sの光強度、栽培空間10Sの温度、および栽培空間10Sの二酸化炭素濃度を測定する。光強度、温度、および二酸化炭素濃度の各々は、農産物に光合成を促す要素である光合成要素の一例である。農産物の栽培は、各光合成要素に大きな影響を受けると共に、湿度、散水量、風量などにも影響される。測定装置13は、各光合成要素の測定に加えて、湿度、散水量、風量などを測定してもよい。測定装置13の測定結果は、農産物栽培支援装置20による栽培環境の制御に用いられる。
【0022】
栽培空間10Sの光強度は、栽培空間10Sの単位面積あたりに照射される400nm以上700nm以下の波長を有した光の強度の単位時間あたりの量であり、光合成有効光量子束密度に相当する。日中の光強度は、光補償点よりも高く光飽和点以下であることが望ましい。光強度が光補償点よりも高いことは、農産物の成長を促すことを可能とする。光強度が光飽和点以下であることは、栽培空間10Sの温度が日射によって不要に高まることを抑制して、農産物の成長を促すことを可能にする。
【0023】
図2が示すように、農産物栽培支援装置20は、光合成速度算出部21、光合成速度制御部22、および記憶部23を備える。光合成速度算出部21、および光合成速度制御部22は、例えばCPU、RAM、ROMなどのコンピュータに用いられるハードウェア要素、および、ソフトウェアによって構成される。光合成速度算出部21、および光合成速度制御部22は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。例えば、光合成速度算出部21、および光合成速度制御部22は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアである特定用途向け集積回路(ASIC)を備えてもよい。光合成速度算出部21、および光合成速度制御部22は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムであるソフトウェアに従って動作する1つ以上のプロセッサであるマイクロコンピュータ、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路として構成してもよい。
【0024】
記憶部23は、農業ハウスの設備によって実現される栽培空間10Sの温度環境のなかで農産物の栽培環境に適した温度環境を、目標温度環境として記憶する。目標温度環境は、例えば、農産物の栽培に適した光合成速度が得られる温度であって、かつ、温度の調整に要する消費電力量が過大とならない温度、または温度範囲である。目標温度環境は、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度と密接な関係を有する。
【0025】
記憶部23は、農産物の栽培に適した当該農産物の光合成速度を、基準値PRiとして記憶する。光合成速度の基準値PRiは、農産物を十分に生育させることを可能とする大きさに設定される。記憶部23は、農産物の種類に対応づけて複数の基準値PRiを記憶してもよい。
【0026】
記憶部23は、農産物の種類に対応付けられた複数の相関モデル23Dを記憶する。相関モデル23Dは、光合成速度と光合成要素との相関を示すモデルである。相関モデル23Dは、全ての光合成要素を入力として単一の光合成速度を出力するモデルである。二酸化炭素濃度と光合成速度とから当該光合成速度を得るための温度を算出可能に構成されている。
【0027】
相関モデル23Dは、例えば、反応速度論に基づいて光強度、温度、および二酸化炭素濃度の関数として光合成速度を表現したFarquharモデルに基づいて作成される。また、相関モデル23Dは、例えば、無機リン酸の濃度が光合成速度を律速させるリン酸律速をFarquharモデルに組み込んだSharkeyモデルに基づいて作成される。また、相関モデル23Dは、例えば、FarquharモデルやSharkeyモデルを用いて作成された、温度と光合成速度との関係を二酸化炭素濃度ごとに示す三次元マップ、および温度と光合成速度との関係を光強度ごとに示す三次元マップである。
【0028】
相関モデル23Dに全ての光合成要素を入力して単一の光合成速度が得られることをFarquharモデルを用いて以下に説明する。式1が示すように、Farquharモデル光合成速度A[μmol/m2・s]は、Rubisco活性Av[μmol/m2・s]と電子伝達速度Aj[μmol/m2・s]とのなかの小さい方の値から、ミトコンドリア呼吸速度Rd[μmol/m2・s]を差し引いた値として示される。
【0029】
【数1】
Rubisco活性A
vは、式2が示すように、カルボキシル化反応の最大速度V
cmax[μmol/m
2・s]と、二酸化炭素分圧C[Pa]と、光呼吸による二酸化炭素放出圧Γ
*[Pa]を用いたミカエリスーメンテン式によって算出される。なお、二酸化炭素放出圧Γ
*は、式3が示すように、葉温として温度Tを用いて算出される。ミカエリス定数K
oとミカエリス定数K
cとは、式4および式5が示すように、これもまた温度Tを用いて算出される。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【数5】
電子伝達速度A
jは、式6が示すように、二酸化炭素分圧C、電子伝達速度要素J[μmol/m
2・s]と、光呼吸による二酸化炭素放出圧Γ
*と、ミトコンドリア呼吸速度R
dとを用いて算出される。なお、電子伝達速度要素Jは、式7が示すように、光量子束密度I
e[μmol/m
2・s]と、光飽和時の最大電子伝達速度J
max[μmol/m
2・s]とを用いて算出される。
【0034】
【0035】
【数7】
このように、Rubisco活性A
vは、光合成要素のなかの温度と二酸化炭素濃度とから算出される一方で、電子伝達速度A
jは、光合成要素のなかの温度、二酸化炭素濃度、および光強度から算出される。すなわち、相関モデル23Dに全ての光合成要素を入力して単一の光合成速度が得られるといえる。また、Rubisco活性A
vが支配的といえるモデルでは、二酸化炭素濃度と光合成速度とを入力して当該光合成速度を得るための温度帯がえられるといえる。
【0036】
図3を参照して、相関モデル23Dを三次元マップに具体化した2つの例を説明する。
図3の左側に示す三次元マップの例は、光強度が500μmol/m
2・sであるときの温度Tと光合成速度Vとの関係を示す。曲線C1は、例えば二酸化炭素濃度が外気とほぼ等しい400ppmであるときの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。曲線C2は、曲線C1よりも高い二酸化炭素濃度である800ppmでの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。曲線C3は、曲線C2よりもさらに高い二酸化炭素濃度である1200ppmでの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。相関モデル23Dは、こうした三次元マップを光強度ごとに有する。
【0037】
曲線C1,C2,C3が示すように、光合成速度Vは、温度Tに対して最大値を示す山型の弧を描き、最も高い光合成速度Vが得られる最適な温度を有する。温度Tごとの光合成速度Vは、二酸化炭素濃度が高いほど高い。これは、高温の栽培環境であっても、二酸化炭素濃度を高めることによって、低温の栽培環境での光合成速度Vと同じような光合成速度を得られることを示す。ただし、温度Tが高すぎる場合には、二酸化炭素濃度を高めたとしても、低温の栽培環境での光合成速度Vと同じような光合成速度は得られない。また、二酸化炭素濃度の上昇による光合成速度Vの上昇度合いは、二酸化炭素濃度が高まるほど緩やかになる。
【0038】
また、上述したように、目標温度環境と二酸化炭素濃度とは、光合成速度に与える影響の観点において、密接な関係を有している。三次元マップの例が示すように、二酸化炭素濃度が400ppmであるとき、光合成速度が基準値PRi以上となる温度帯は、17℃以上30℃以下である。一方、二酸化炭素濃度が1200ppmであるとき、光合成速度が基準値PRi以上となる温度帯は、15℃以上42℃以下であって、二酸化炭素濃度が400ppmであるときよりも広がる。このように、二酸化炭素濃度が互いに異なる栽培環境においては、好適な光合成速度が得られる温度の範囲も互いに異なる。目標温度環境は、例えば30℃以上40℃以下の範囲のように、各二酸化炭素濃度において光合成速度が基準値PRi以上となることを満たし、かつ、農業ハウスの設備によって実現される温度環境である。
【0039】
なお、基準値PRiなどの光合成速度を三次元マップに適用して得られる温度帯のうちで高温側の温度を対象温度ともいう。例えば、上記三次元マップの例において、二酸化炭素濃度が400ppmであるとき、光合成速度が基準値PRiとなる対象温度は30℃であり、二酸化炭素濃度が1200ppmであるとき、光合成速度が基準値PRiとなる対象温度は42℃である。また、目標温度環境が温度帯にあるとは、目標温度環境の少なくとも一部の温度が温度帯に含まれることであり、目標温度環境が温度帯にないとは、当該温度が温度帯に含まれないことである。例えば、目標温度環境が温度帯にあるとは、温度帯における対象温度が目標温度環境に含まれることであり、目標温度環境が温度帯にないとは、当該対象温度が目標温度環境に含まれないことである。
【0040】
図3の右側に示す三次元マップの例は、二酸化炭素濃度が400ppmであるときの温度Tと光合成速度Vとの関係を示す。曲線I1は、例えば光強度が200μmol/m
2・sであるときの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。曲線I2は、曲線I1よりも高い光強度である400μmol/m
2・sでの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。曲線I3は、曲線I2よりも高い光強度である800μmol/m
2・sでの光合成速度Vと温度Tとの関係を示す。相関モデル23Dは、こうした三次元マップを二酸化炭素濃度ごとに有する。
【0041】
曲線I1,I2,I3が示すように、温度Tごとの光合成速度Vは、光強度が高いほど高い。これは、高温の栽培環境であっても、光強度を高めることによって、低温の栽培環境での光合成速度Vと同じような光合成速度を得られることを示す。ただし、温度Tが高すぎる場合には、光強度を高めたとしても、低温の栽培環境での光合成速度Vと同じような光合成速度は得られない。また、光強度の上昇による光合成速度Vの上昇度合いは、光強度が高まるほど緩やかになる。
【0042】
なお、記憶部23は、栽培空間10Sにおける二酸化炭素濃度のなかで、農産物の栽培環境に適した濃度であって、かつ、二酸化炭素濃度の上昇による光合成速度の上昇度合いがほぼ飽和する濃度を、目標二酸化炭素濃度として記憶する。目標二酸化炭素濃度は、相関モデル23Dから導き出される値であってもよいし、予め実施される試験などから得られる値であってもよい。
【0043】
また、記憶部23は、栽培空間10Sにおける湿度のなかで、農産物の栽培環境に適した湿度を目標湿度範囲として記憶してもよい。目標湿度範囲は、農産物の栽培に要する光合成速度が得られる範囲であって、かつ、湿度の調整に要する消費電力量が過大とならない範囲である。
【0044】
また、記憶部23は、栽培空間10Sにおける温度のなかで、遮光装置12の駆動による光強度の低下が微小であると認められる範囲を遮光温度範囲Trとして記憶してもよい。遮光温度範囲Trは、例えば、遮光装置12の駆動による遮光が、温度を急激に低下させる範囲であって、かつ、光強度を緩やかに低下させる範囲である。すなわち、遮光温度範囲Trは、遮光装置12の駆動が光強度に対して不感帯ともいえる範囲である。
【0045】
図2に戻り、光合成速度算出部21は、測定装置13の測定結果である光強度の測定値、温度の測定値、および二酸化炭素濃度の測定値を用いて単一の光合成速度を算出する。光合成速度算出部21は、記憶部23に記憶された相関モデル23Dを用い、全ての光合成要素の測定値を相関モデル23Dに適用して単一の光合成速度を算出する。
【0046】
光合成速度制御部22は、光合成速度の算出値PRcが基準値PRi以上であるか否かを判定する。光合成速度制御部22は、光合成速度の算出値PRcが基準値PRi以上であると判定したとき、現在の栽培環境を維持するように、上述した各調整装置24の駆動を制御する。光合成速度制御部22は、光合成速度の算出値PRcが基準値PRi未満であると判定したとき、上述した相関モデル23Dに基づいて、算出値PRcが基準値PRi以上になるように、各調整装置24の駆動を制御する。
【0047】
光合成速度制御部22は、例えば、各調整装置24の駆動の制御を複数の制御モードのいずれか1つとして実行する。光合成速度制御部22は、例えば、光合成速度の算出値PRcが基準値PRi未満であると判定したとき、算出値PRcを基準値PRi以上とするための制御モードの実行を利用者に推奨し、利用者による選択を経て、推奨した制御モードを実行してもよい。
【0048】
光合成速度制御部22が実行する制御モードは、例えば、維持モード、自然換気モード、遮光モード、空調モード、二酸化炭素供給モード、二酸化炭素供給空調モード、および二酸化炭素供給遮光モードである。
【0049】
維持モードでは、換気装置11の駆動状態、遮光装置12の駆動状態、空調装置14の駆動状態、および二酸化炭素供給装置15の駆動状態が維持される。光合成速度制御部22は、栽培空間10Sにおける光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi以上であって、かつ、栽培空間10Sの湿度が目標湿度範囲内であるときに、栽培空間10Sの環境を維持するための維持モードを推奨する。
【0050】
自然換気モードでは、遮光装置12の駆動状態、空調装置14の駆動状態、および二酸化炭素供給装置15の駆動状態が維持される。自然換気モードでは、換気装置11が駆動されて、栽培空間10Sが換気される。栽培空間10Sの換気は、栽培空間10Sの温度および湿度を下げることを可能にする一方で、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度も下げる。そこで、光合成速度制御部22は、二酸化炭素濃度が外気の二酸化炭素濃度とほぼ等しいときの相関モデル23Dを用いて、光合成速度Vが基準値PRi以上となる温度帯を算出する。そして、光合成速度制御部22は、自然換気モードを実行することによって実現される栽培空間10Sの温度帯に目標温度環境があるか否かを、外気の温度と栽培空間10Sの温度との差などに基づいて推定し、目標温度環境が温度帯にあると判定した場合には、自然換気モードを推奨する。
【0051】
遮光モードでは、換気装置11の駆動状態、空調装置14の駆動状態、および二酸化炭素供給装置15の駆動状態が維持される。遮光モードでは、遮光装置12が駆動されて、栽培空間10Sの温度が下げられる。これによって、栽培空間10Sでは、二酸化炭素濃度が保たれながら温度が調整される。栽培空間10Sの遮光は、栽培空間10Sの温度を下げることを可能にする一方で、栽培空間10Sの光強度を下げる可能性がある。そこで、光合成速度制御部22は、栽培空間10Sにおける光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi以上であって、かつ、温度が遮光温度範囲内であるときに、栽培空間10Sの温度を下げるために、遮光モードを推奨する。
【0052】
空調モードでは、換気装置11の駆動状態、遮光装置12の駆動状態、および二酸化炭素供給装置15の駆動状態が維持される。空調モードでは、空調装置14が駆動されて、栽培空間10Sの温度が下げられる。これによって、栽培空間10Sでは、二酸化炭素濃度が保たれながら温度が調整される。栽培空間10Sの空調は、栽培空間10Sの温度を下げることを可能にすると共に、栽培空間10Sの光強度を保つことが可能となる。そこで、光合成速度制御部22は、栽培空間10Sにおける光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi未満であって、かつ、栽培空間10Sの温度が目標温度環境にあることによって算出値PRcが基準値PRi以上となるとき、栽培空間10Sの温度を下げるために、空調モードを推奨する。
【0053】
二酸化炭素供給モードでは、換気装置11の駆動状態、遮光装置12の駆動状態、および空調装置14の駆動状態が維持される。二酸化炭素供給モードでは、二酸化炭素供給装置15が駆動されて、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度が高められる。これによって、農産物の栽培環境に適した温度環境範囲が広げられる。栽培空間10Sにおける二酸化炭素濃度の上昇は、農産物における光合成速度を高める一方で、過剰な範囲での二酸化炭素の供給は、光合成速度の上昇を鈍化させて消費電力量の上昇を際立たせる。そこで、光合成速度制御部22は、栽培空間10Sの温度が目標温度環境にあることでは算出値PRcが基準値PRi以上とならず、かつ、二酸化炭素の供給のみによって光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi以上となるとき、二酸化炭素供給モードを推奨する。
【0054】
二酸化炭素供給遮光モードでは、換気装置11の駆動状態、および空調装置14の駆動状態が維持される。二酸化炭素供給遮光モードでは、二酸化炭素供給装置15が駆動されて、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度が高められる。さらに、二酸化炭素供給遮光モードでは、遮光装置12が駆動されて、栽培空間10Sの温度が下げられる。栽培空間10Sにおける二酸化炭素濃度の上昇、および栽培空間10Sにおける温度を目標温度環境にすることは、光合成速度を高める。ただし、過剰な範囲での二酸化炭素の供給は、光合成速度の上昇を鈍化させて、消費電力量の上昇を際立たせる。また、栽培空間10Sの遮光は、栽培空間10Sの温度を下げることを可能にする一方で、栽培空間10Sの光強度を下げる可能性がある。そこで、光合成速度制御部22は、栽培空間10Sにおける光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi未満であり、かつ、二酸化炭素の供給のみで基準値PRi以上となる温度帯と目標温度環境との間に小さい乖離が生じるとき、二酸化炭素供給遮光モードを推奨する。
【0055】
二酸化炭素供給空調モードでは、換気装置11の駆動状態、および遮光装置12の駆動状態が維持される。二酸化炭素供給空調モードでは、二酸化炭素供給装置15が駆動されて、栽培空間10Sの二酸化炭素濃度が高められる。さらに、二酸化炭素供給空調モードでは、空調装置14が駆動されて、栽培空間10Sの温度が下げられる。栽培空間10Sにおける二酸化炭素濃度の上昇、および栽培空間10Sにおける温度の目標温度環境内の維持は、光合成速度を高める。ただし、過剰な範囲での二酸化炭素の供給、および温調は、光合成速度の上昇を鈍化させて、消費電力量の上昇を際立たせる。そこで、光合成速度制御部22は、栽培空間10Sにおける光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi未満であり、かつ、二酸化炭素の供給のみで基準値PRi以上となる温度帯と目標温度環境との間に大きい乖離が生じるとき、二酸化炭素供給空調モードを推奨する。
【0056】
[作用]
図4を参照して、農産物栽培支援装置20が実行する農産物栽培支援方法について説明する。なお、上述した制御モードの変更に伴って栽培環境が変更された場合、1時間程度の所定時間後に栽培環境はおよそ安定する。
図4に示す農産物栽培支援方法は、こうした所定時間の間隔を空けて、繰り返し実行される。
【0057】
まず、農産物栽培支援装置20は、各光合成要素の測定値を測定装置13から取得する(ステップS11)。次いで、農産物栽培支援装置20は、取得された各光合成要素を相関モデル23Dに適用して、光合成速度Vの算出値PRcを生成する(ステップS12)。続いて、農産物栽培支援装置20は、光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi以上であるか否かを判定する(ステップS13)。次に、農産物栽培支援装置20は、光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi以上であると判定すると、温度の測定値が遮光温度範囲Tr外であるか否かを判定する(ステップS15)。そして、農産物栽培支援装置20は、温度の測定値が遮光温度範囲Tr外であれば、維持モードを推奨して待機し(ステップS21)、農産物栽培支援方法を終了する。また、農産物栽培支援装置20は、温度の測定値が遮光温度範囲Tr内であれば、遮光モードを推奨し(ステップS22)、利用者の選択を経て遮光モードを実行する。
【0058】
一方、農産物栽培支援装置20は、光合成速度Vの算出値PRcが基準値PRi未満であると判定すると、まず、光強度の測定値、二酸化炭素濃度の測定値、および基準値PRiとを相関モデル23Dに適用して、第1ハウス温度帯T1を算出する。すなわち、農産物栽培支援装置20は、現在の光強度と二酸化炭素濃度とを維持した状態で基準値PRiを得るための温度帯を、第1ハウス温度帯T1として算出する(ステップS14)。
【0059】
次いで、農産物栽培支援装置20は、光強度の測定値、目標二酸化炭素濃度、および基準値PRiを相関モデル23Dに適用して、第2ハウス温度帯T2を算出する。すなわち、農産物栽培支援装置20は、現在の光強度を維持し、かつ目標二酸化炭素濃度とした状態で基準値PRiを得るための温度帯を、第2ハウス温度帯T2として算出する(ステップS16)。
【0060】
次に、農産物栽培支援装置20は、二酸化炭素濃度が外気の二酸化炭素濃度とほぼ等しいときの相関モデル23Dを用いて、光合成速度Vが基準値PRi以上となる温度帯を算出する。次いで、光合成速度制御部22は、自然換気モードを実行することによって実現される栽培空間10Sの温度帯に目標温度環境があるか否かを判定し、目標温度環境が温度帯にあると判定した場合には、推奨する制御モードとして自然換気モードを選択する。一方、農産物栽培支援装置20は、自然換気モードの温度調整による温度帯に目標温度環境がないと判定した場合、第1ハウス温度帯T1、第2ハウス温度帯T2、および目標温度環境を用いて、推奨する制御モードを選択する(ステップS17)。
【0061】
農産物栽培支援装置20は、例えば、目標温度環境が第1ハウス温度帯T1にあるとき、空調モードを推奨し、利用者による制御モードの選択を経て、空調モードを実行する。また、農産物栽培支援装置20は、例えば、目標温度環境が第1ハウス温度帯T1になく、かつ目標温度環境が第2ハウス温度帯T2にあるとき、二酸化炭素供給モードを推奨し、利用者による制御モードの選択を経て、二酸化炭素供給モードを実行する。
【0062】
農産物栽培支援装置20は、例えば、目標温度環境が第1ハウス温度帯T1になく、かつ第2ハウス温度帯T2にもないとき、第2ハウス温度帯T2と目標温度環境との乖離が小さいことを前提として、二酸化炭素供給遮光モードを推奨する。また、農産物栽培支援装置20は、例えば、目標温度環境が第1ハウス温度帯T1になく、かつ第2ハウス温度帯T2にもないとき、第2ハウス温度帯T2と目標温度環境との乖離が大きいことを前提として、二酸化炭素供給空調モードを推奨する。
【0063】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)光合成要素の測定値から光合成速度が算出される。そして、光合成要素と光合成速度との相関モデル23Dに基づいて、算出値が基準値以上になるように、遮光装置12、空調装置14、および二酸化炭素供給装置15の駆動が制御される。農産物の光合成速度とは、農産物の栽培に直接関与するパラメータであるから、光合成速度に基づく上記駆動の制御であれば、農産物の栽培に好適な環境を形成することができる。
【0064】
(2)二酸化炭素濃度が暗呼吸によって低下しにくい日の出直後では、光合成速度を基準値PRi以上とすることに足る温度や二酸化炭素濃度を得られる可能性がある。こうした日の出直後から二酸化炭素を供給するとなると、二酸化炭素の供給が過剰になり得る。この点、上記実施形態であれば、第1ハウス温度帯T1に目標温度環境がないときに二酸化炭素濃度が高められるため、また、第1ハウス温度帯T1に目標温度環境があるときに二酸化炭素濃度が保たれるため、二酸化炭素濃度が過剰になり得ることが抑えられる。
【0065】
(3)農産物の光合成速度における光強度の依存性、温度の依存性、および二酸化炭素濃度の依存性は、農産物の種別によって大きく異なり得る。この点、上記実施形態によれば、農産物の種類ごとの相関モデル23Dに基づいて光強度、温度、および二酸化炭素濃度の調整が行われる。そのため、上記(1)(2)に準じた効果が得られる農産物の適用範囲を拡張することが可能ともなる。
【0066】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
・光合成要素と光合成速度との相関モデル23Dは、光合成要素として湿度を含んでもよい。この際、農産物栽培支援装置20は、測定装置13による湿度の測定値を光合成速度の算出に用いると共に、栽培環境の調整に湿度の測定値を反映させて散水装置などの駆動を制御してもよい。
【0067】
・光合成速度制御部22は、機械学習した学習器を備え、光合成速度の算出値PRcと基準値PRiとの乖離と、光強度、温度、および二酸化炭素濃度とを入力として、農産物の栽培に適した新たな光強度、温度、および二酸化炭素濃度を出力し、この出力に基づいて各調整装置24の駆動を制御してもよい。
【0068】
この際、光合成速度制御部22が備える学習器は、光合成速度の算出値PRcと基準値PRiとの乖離と、光強度、温度、および二酸化炭素濃度とを、学習データとして学習する。そして、光合成速度制御部22が備える学習器は、光合成速度の算出値PRcと基準値PRiとの乖離が小さく、かつ農業ハウスの消費電力量が低い光強度、温度、および二酸化炭素濃度を教師データとして学習する。
【符号の説明】
【0069】
PRc…算出値、PRi…基準値、10…農業ハウス、10S…栽培空間、11…換気装置、12…遮光装置、13…測定装置、14…空調装置、15…二酸化炭素供給装置、20…農産物栽培支援装置、21…光合成速度算出部、22…光合成速度制御部、23…記憶部、24…調整装置、23D…相関モデル。