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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】極性基含有オレフィン共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/02 20060101AFI20240806BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240806BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F8/12
C08F220/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020011197
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2020117712
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019012097
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智彦
(72)【発明者】
【氏名】上松 正弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳佳
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-135392(JP,A)
【文献】特開2018-165364(JP,A)
【文献】特開2016-079408(JP,A)
【文献】特表2017-519083(JP,A)
【文献】特開2015-028164(JP,A)
【文献】特開昭53-057295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 210/02
C08F 8/12
C08F 220/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンに由来する構造単位(A)、
下記一般式(2)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(b-2)からなる構造単位(B)、及び
カルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)であるアクリル酸t-ブチル単位がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱又は酸による脱離反応を起こさないアクリル酸由来の構造単位(C)、
を含み、ICP-OESで測定したとき0μg/gを超えて20,000μg/g以下の、周期表第10族の遷移金属元素を含み、メチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下であることを特徴とする、多元系極性基含有オレフィン共重合体。
C=CH-X-COOT・・・(2)
[一般式(2)中、Tは、t-ブチル基であり、Xは、直接結合である。]
【請求項2】
前記構造単位(C)が、下記一般式(3)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(C)であることを特徴とする、請求項1記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
C=CH-COOCHZ・・・(3)
[一般式(3)中、Z及びZは、それぞれ独立して、
水素原子、
水酸基、
水酸基で置換された炭素数1~10の炭化水素基、
炭素数1~30のアルキル基
炭素数2~10のアルコキシカルボニル基で置換された炭素数3~20の炭化水素基、
炭素数2~10のアシルオキシ基で置換された炭素数3~20の炭化水素基、
炭素数1~12の置換アミノ基で置換された炭素数2~20の炭化水素基
炭素数3~18の置換シリル基で置換された炭素数4~30の炭化水素基
炭素数2~20のアルコキシカルボニル基
炭素数2~10のアシルオキシ基
アミノ基
炭素数1~12の置換アミノ基
炭素数3~18の置換シリル基
及び、ハロゲンで置換された炭素数1~20の炭化水素基
からなる群より選択される置換基である。また、Z及びZは、互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項3】
前記一般式(3)におけるZ及びZが、それぞれ独立して、
水素原子、
炭素数1~30のアルキル基
炭素数2~10のアルコキシカルボニル基で置換された炭素数3~20の炭化水素基、
炭素数2~20のアルコキシカルボニル基
炭素数2~10のアシルオキシ基
及び、ハロゲンで置換された炭素数1~20の炭化水素基
からなる群より選択される置換基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項4】
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度~75度である、請求項1~のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項5】
前記構造単位(B)を0.1~20.0mol%含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項6】
前記構造単位(C)を0.5~20.0mol%含むことを特徴とする、請求項1に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項7】
前記極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(C)を0.5~20.0mol%含むことを特徴とする、請求項2~のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項8】
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.5以上4.0以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項9】
示差走査熱量測定(DSC)により観測される融点(Tm、℃)と、前記構造単位(B)及び前記極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(C)の合計の含有量[Y](mol%)とが下記の式(I)を満たすことを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
50<Tm<-3.74×[Y]+130・・・(I)
【請求項10】
前記周期表第10族の遷移金属がニッケル又はパラジウムである、請求項1~のいずれか一項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体。
【請求項11】
エチレンに由来する構造単位(A)、
下記一般式(1):
C=CH-T・・・(1)
(一般式(1)中、Tは、カルボキシ基である)
で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(b-1)からなる構造単位(B)、
及び請求項1記載の構造単位(C)を含み、ICP-OESで測定したとき0μg/gを超えて20,000μg/g以下の、周期表第10族の遷移金属元素を含み、メチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下である多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造方法であって、請求項1~10のいずれか一項に記載の多元系極性基含有オレフィン共重合体を80~350℃で熱分解する工程又は酸触媒で加水分解する工程を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基含有オレフィン共重合体、特に、アイオノマーの調製に利用可能であり、かつ引張弾性率・引張破断応力・引張破断伸び・引張衝撃強度・結晶化度・位相角など諸物性のバランスに優れた共重合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系アイオノマーは、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体をベース樹脂とし、ナトリウムや亜鉛等の金属イオンで分子間結合した樹脂である。強靭で弾性に富み、かつ柔軟性があり、耐摩耗性、透明性等の特徴がある(特許文献1)。市販されているエチレン・メタクリル酸共重合体はDupont社が開発した「Nucrel(登録商標)」、エチレン系アイオノマーはDupont社が開発したエチレン-メタクリル酸共重合のナトリウム塩又は亜鉛塩である「Surlyn(登録商標)」等が知られている。
【0003】
この従来公知のエチレン系アイオノマーのベース樹脂となるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体としては、具体的にはエチレンと(メタ)アクリル酸等の極性基含有モノマーを、高圧ラジカル重合法により重合したエチレン-不飽和カルボン酸共重合体が用いられている(特許文献2~4)。しかしながら、高圧ラジカル重合法で製造されるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の分子構造は、多くの長鎖分岐及び短鎖分岐を不規則に有する構造であり、強度的には不十分であるという欠点がある。
【0004】
一方、エチレン系アイオノマーのベース樹脂となるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の他の製造方法として後周期遷移金属触媒を用い、エチレンとアクリル酸t-ブチルの共重合体を製造し(特許文献5)、得られた極性基含有オレフィン共重合体を熱又は酸処理することでエチレン-アクリル酸共重合体に変性する方法が報告されている(特許文献6)。
【0005】
また、剛性の高いアイオノマーのベース樹脂となるエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の製造方法として、エチレン-環状オレフィン共重合体(COC)に無水マレイン酸をグラフト変性させる方法も報告されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3264272号明細書
【文献】特開昭47-23490号公報
【文献】特開昭48-11388号公報
【文献】特開昭63-186710号公報
【文献】特開2015-163691号公報
【文献】特開2016-79408号公報
【文献】国際公開第2009/123138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アイオノマーは一般に、良好な成形性、顔料との相溶性、剛性、透明性などの物性を備えやすい。例えば包装材などの素材として有利であるため、アイオノマー製造のための共重合体の合成方法が研究されている。しかし、特許文献6記載の方法では、遷移金属触媒を用いて製造されるα-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体をベース樹脂としているため、熱的物性、機械強度などに優れるアイオノマーが得られているが、得られるポリマーの結晶化度が高いため透明性が低いことが問題となっている。
特許文献6の実施例に記載されたエチレン-アクリル酸共重合体をベース樹脂としたエチレン系アイオノマーでは結晶化度により透明性を制御可能であるが、結晶化度と剛性がトレードオフの関係にあるため、透明性を上げるために結晶化度を下げると剛性が低下し、透明性、剛性、靱性のバランスをとることが困難であることが課題となっている。
【0008】
特許文献7記載の方法では、グラフト変性によって多量の無水マレイン酸を有するα-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体を製造することは極めて困難であるため、α-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体中の酸含量が少ないという欠点がある。実際に特許文献7の実施例に記載された共重合体の無水マレイン酸含量は0.7~1.4wt%(0.5~1mol%)程度である。そのため、グラフト変性共重合体をベース樹脂としたエチレン系アイオノマーは共重合体の極性部位が少ない為、剛性、靱性,透明性のバランスが不十分であるという欠点がある。また金属イオンとの反応点が少ないため、アイオノマーとして期待される靭性や弾性が十分に発現しないと考えられる。さらに、特許文献7の実施例で用いられるエチレン系アイオノマーのベース樹脂は環状オレフィンを21~35mol%も含有しているため、ガラス転移点(Tg)が高く硬すぎるという欠点がある。
【0009】
アイオノマーはそのベース樹脂となるα-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体(酸コポリマー)の性質を概して受け継ぐため、各種物性に優れた酸コポリマー、又はその変性前の極性基含有オレフィン共重合体を得ることは、各種物性に優れたアイオノマーを得ることにもつながる。しかしそのような、それ自体優れた物性を備えかつアイオノマーにも転用可能な共重合体は得られていなかった。そこで本発明の課題は、結晶性、剛性、靱性など物性のバランスに優れるα-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体または極性基含有オレフィン共重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、熱又は酸による脱離反応を起こさない極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位をポリマー中に導入し、少なくとも3種類の性質を備えた成分に基づく多元系共重合体とすることで、引張弾性率・引張破断応力・引張破断伸び・引張衝撃強度・結晶化度・位相角のバランスが向上することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、エチレン又はα-オレフィンに由来する構造単位(A)、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有する構造単位(B)、及びカルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱による脱離反応を起こさないアクリル酸由来の構造単位(C)を含むことを特徴とする、多元系極性基含有オレフィン共重合体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、引張弾性率・引張破断応力・引張破断伸び・引張衝撃強度・結晶化度・位相角のバランスが向上した共重合体を提供することができる。本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、それ自体を材料としてのみならず、従来よりも優れた物性を備えたアイオノマーの調製に利用することができ、有用な材料である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例及び比較例の共重合体における、剛性と靱性のバランスを示す図である。
図2】実施例及び比較例の共重合体における、剛性と強度のバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一つの態様は、上記のとおりエチレン又はα-オレフィンに由来する構造単位(A)、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有する構造単位(B)、及びカルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱による脱離反応を起こさないアクリル酸由来の構造単位(C)を含むことを特徴とする、多元系極性基含有オレフィン共重合体である。以下、重合体の構成モノマー、触媒成分、製造方法等について詳細に説明する。
【0015】
なお、以下の説明において、「重合」という用語は、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、本明細書においては共重合を単に「重合」と記載することがある。また、本発明はポリマーに関連するものであるが、ポリマーそのものは、一般に化学式などによってその構造を一義的に決定することができない。よって、本明細書において、ポリマーに関する記載を行うにあたっては、必要に応じ、ポリマーをその製造方法を用いることで記載することがある。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、本明細書においては、炭化水素基を必要に応じて添字を付けない「R」などを用いて表記することがある。炭化水素基には、炭素と水素で構成される基一般が含まれ、例えばメチル、エチル、t-ブチル等の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、ビニル等の不飽和結合を有する基、シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニルなどの環状基、フェニル、ナフチル等の芳香族基が例示されるが、個別の文脈において特にこれらのうちいずれかが除外される場合は、その旨明示される。また、特に明示の記載が無い限り「炭化水素基」はアルキル基やフェニル基など1価の置換基であるが、文脈上明らかな場合、価数が明示されている場合は、炭化水素基の価数はその記載に従う。
【0016】
(1)構造単位(A)
構造単位(A)は、エチレンに由来する構造単位及びα-オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
本開示に関わるα-オレフィンのうち、より好ましいものは構造式:CH=CHRで表される、炭素数3~20のα-オレフィンである(ここで、Rは炭素数1~18の炭化水素基であり、直鎖構造であっても分岐を有していてもよい)。より好ましくは、炭素数3~12のα-オレフィンである。
【0017】
構造単位(A)の由来となるモノマーの具体例として、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられ、エチレンであってもよい。
また、構造単位は、一種類であってもよいし、複数種であってもよい。
【0018】
二種類の構造単位(A)の組み合わせとしては、エチレン-プロピレン、エチレン-1-ブテン、エチレン-1-ヘキセン、エチレン-1-オクテン、プロピレン-1-ブテン、プロピレン-1-ヘキセン、プロピレン-1-オクテンなどが挙げられる。
【0019】
三種類の構造単位(A)の組み合わせとしては、エチレン-プロピレン-1-ブテン、エチレン-プロピレン-1-ヘキセン、エチレン-プロピレン-1-オクテン、プロピレン-1-ブテン-ヘキセン、プロピレン-1-ブテン-1-オクテンなどが挙げられる。
【0020】
本開示においては、構造単位(A)の由来となるモノマーとしては、好ましくは、エチレンを必須で含み、必要に応じて1種以上の炭素数3~20のα-オレフィンをさらに含んでもよい。この場合において、構造単位(A)の由来となるモノマー中に含まれるエチレンの割合は、構造単位(A)の全molに対して、65~100mol%であってもよく、70~100mol%であってもよい。
【0021】
(2)構造単位(B)
構造単位(B)は、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有するモノマーに由来する構造単位である。
ここで、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造は、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体の主鎖となる炭素原子で分子鎖末端以外のいずれかの部分に結合している。したがって、構造単位(B)の由来となるモノマーは、炭素-炭素二重結合などの重合の反応点となる構造と、当該構造の炭素原子に結合したカルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有するモノマーである。重合の反応点となる構造は、炭素-炭素二重結合であることが好ましく、ビニル基(HC=CH-)であることがより好ましい。また、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、構造単位(B)が有するカルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造は、当該共重合体の側鎖に位置する。
【0022】
構造単位(B)には、熱又は酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造が含まれる。ここでの「脱離反応」は、エステルの脱保護反応であることが好ましい。これにより、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体から、アイオノマーのベース樹脂となるα-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体を得ることができる。以上から、α-オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体を得るためには、一般的なエステルの脱保護に利用される反応条件であれば特に制限はない。脱離反応の反応条件である熱又は酸としては、一般的に採用される条件、試薬を採用することができる。脱離反応における温度、試薬等の条件は、当業者にとって周知であり、下記例示を参照して適宜組み合わせて採用することができる。
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体を熱により脱離反応させる際の反応温度は、構造単位(B)がカルボン酸になる温度であればよく、加熱温度が低すぎる場合はエステルがカルボン酸に変換されず、高すぎる場合には脱カルボニル化や共重合体の分解が進む。従って、本発明の加熱温度は、好ましくは80℃~350℃、より好ましくは100℃~340℃、更に好ましくは150℃~330℃、更により好ましくは200℃~320℃の範囲である。
反応時間は加熱温度や構造単位(B)の反応性等により変わるが、通常1分~50時間であり、より好ましくは2分~30時間であり、更に好ましくは2分~10時間であり、よりさらに好ましくは2分~3時間であり、特に好ましくは3分~2時間である。
上記工程において、反応雰囲気下に特に制限はないが、一般に不活性ガス気流下で行われるほうが好ましい。不活性ガスの例としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、少量の酸素や空気の混入があってもよい。また、反応媒体として溶媒を用いることもできる。溶媒としては、本反応の条件において不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。溶媒を用いる場合は、反応温度の上限は好ましくは用いる溶媒の沸点である。上記好ましい反応温度の範囲内に沸点があることから、トルエンを用いることが好ましい。
上記工程で用いる反応器としては、特に制限は無いが、共重合体を実質的に均一に攪拌できる方法であれば何ら限定されず、攪拌器を装備したガラス容器やオートクレーブ(AC)を用いてもよいし、ブラベンダープラストグラフ、一軸あるいは二軸押出機、強力スクリュー型混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の従来知られているいかなる混練機も使用することができる。
熱による脱離反応を促進させる添加剤として、従来公知の酸・塩基触媒を使用してもよい。酸・塩基触媒としては特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩、モンモリロナイトなどの固体酸、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸などを適宜用いることができる。反応促進効果、価格、装置腐食性等の観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸が好ましく、パラトルエンスルホン酸がより好ましい。
【0023】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体に対して酸により脱離反応する際には,従来公知の酸を使用することができる。酸触媒としては特に制限されないが、例えばモンモリロナイトなどの固体酸、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸などを適宜用いることができる。
反応促進効果、価格、装置腐食性等の観点からパラトルエンスルホン酸が好ましく、パラトルエンスルホン酸がより好ましい。
【0024】
酸により脱離反応する際の温度は、エステルがカルボン酸になる温度であればよく、温度が低すぎる場合はエステルがカルボン酸に変換されず、高すぎる場合には脱カルボニル化や共重合体の分解が進む。従って、本発明の加熱温度は、好ましくは20℃~250℃、より好ましくは50℃~200℃、更に好ましくは60℃~150℃、特に好ましくは70℃~140℃,更により好ましくは80℃~130℃,更に特に好ましくは90℃~120℃の範囲で行われる。
【0025】
酸により脱離反応する際の反応時間は温度やエステル基部分の反応性等により変わるが、通常1分~50時間であり、より好ましくは2分~30時間であり、更に好ましくは2分~10時間であり、よりさらに好ましくは2分~7時間であり、特に好ましくは3分~5時間である。
【0026】
上記工程において、反応雰囲気下に特に制限はないが、一般に不活性ガス気流下で行われるほうが好ましい。不活性ガスの例としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素が使用できる。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
【0027】
上記工程で用いる反応器としては、特に制限は無いが、共重合体を実質的に均一に攪拌できる方法であれば何ら限定されず、攪拌器を装備したガラス容器やオートクレーブ(AC)を用いてもよいし、ブラベンダープラストグラフ、一軸あるいは二軸押出機、強力スクリュー型混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の従来知られているいかなる混練機も使用することができる。
【0028】
構造単位(B)としての好ましい態様は、下記一般式(1)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(b-1)、及び下記一般式(2)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(b-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
C=CH-T・・・(1)
[一般式(1)中、Tは、
カルボキシ基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数1~30の炭化水素基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数1~20のアルコキシ基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数1~20のアシルオキシ基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数1~12の置換アミノ基、
1つ以上のカルボキシ基で置換された炭素数1~18の置換シリル基
である。]
一般式(1)では、Tがカルボキシ基構造である。
C=CH-X-COOT・・・(2)
[一般式(2)中、Tは、
t-ブチル基、
アリル基
ベンジル基
-CR-O-R(ここで、Rは水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基であり、R、Rは各々炭素数1~10の炭化水素基であり、RとRは一緒になって、1つ以上のメチレン基がエーテル基若しくはエステル基で置き換えられていてもよい、炭素数1~8の2価の炭化水素基であってもよく、各々の基は炭素数1~4の炭化水素置換基を有していてもよい)で示される基からなる群より選択される置換基であり;
Xは、直接結合であるか、又は、-COO-R’-(ここでR’は、炭素数1~30の2価の炭化水素基である)である。]
一般式(2)では、Tが熱又は酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造である。
【0029】
前記一般式(1)で表されるモノマーにおけるカルボキシ基以外のT、すなわち1つ以上のカルボキシ基で置換された、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアシルオキシ基、炭素数1~12の置換アミノ基又は炭素数1~18の置換シリル基は、1つ以上のカルボキシ基で置換されたものであり炭素数の条件を満たすものであれば、特にその構造は制限されない。そして、上記構造においてカルボキシ基が置換されている位置も特に制限されない。ただし、アイオノマーとする際に金属イオンとの反応が起こりやすくなる傾向があるため、上記構造の末端がカルボキシ基で置換されていることが好ましい。
【0030】
に関するアルコキシカルボニル基、炭化水素基、アルコキシ基、アシルオキシ基、置換アミノ基、及び、置換シリル基が有する炭素骨格は、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。ここで、環は芳香環であってもよい。そして、該炭素骨格は、塩素、フッ素、臭素などのハロゲン、水酸基、シリル基、アミノ基などで1つ以上置換されていてもよく、エーテル結合(-O-)、エステル結合やカルボニル基(C=O)、アミノ基などのヘテロ原子を有する基を1つ以上含んでいてもよい。
に関するアルコキシカルボニル基(-COOR)の炭素数は、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、15以下であってもよい。
に関する炭化水素基(R-)の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は30以下であればよく、10以下であってもよい。
に関するアルコキシ基(RO-)の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。ここで、Rは芳香環であってもよく、したがって、Tに関するアルコキシ基には、フェノール類の構造も含まれる。
に関するアシルオキシ基(RCOO-)の炭素数は、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
【0031】
に関する置換アミノ基における、カルボキシ基で置換されていない状態のアミノ基(RN-)の炭素数は、下限値が2つのRの合計で1以上であればよく、2以上であってもよく、上限値は2つのRの合計で12以下であればよく、9以下であってもよい。例えば、2つのRのうち一つがウンデシル基(炭素数11)で、他方がメチル基(炭素数1)のような組合せであってもよい。当該アミノ基において、2種のRは、それぞれ独立して炭素数1~6の置換基であってもよく、当該置換基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよく、いずれか一方が水素原子であってもよい。また、窒素に酸素が直接結合することにより、ヒドロキシルアミン又はヒドロキシルアミン誘導体の構造を有していてもよい。つまり、当該アミノ基においては、Rとして水酸基又はアルコキシ基を含んでもよい。カルボキシ基で置換されていない状態のアミノ基の非限定的な例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、N,O-ジメチルヒドロキシルアミノ等を挙げることができる。
【0032】
に関する置換シリル基における、カルボキシ基で置換されていない状態のシリル基(RSi-)の炭素数は、下限値が3つのRの合計で1以上であればよく、3以上であってもよく、上限値は3つのRの合計で18以下であればよく、12以下であってもよい。例えば、3つのRのうち一つがヘキサデシル基(炭素数16)で、残り2つがそれぞれメチル基(炭素数1)のような組合せであってもよい。置換シリル基において、3種のRは、それぞれ独立して炭素数1~6の置換基であってもよく、当該置換基は同じ炭素骨格を有していてもよく、異なっていてもよく、いずれか1種以上のRが炭素数1~6の置換基を有していれば、その他のRは水素原子であってもよい。また、ケイ素に酸素が直接結合することにより、ヒドロキシシリル又はアルコキシシリル基となるような構造を有していてもよい。つまり、当該シリル基においては、Rとして水酸基又はアルコキシ基を含んでもよい。カルボキシ基で置換されていない状態のシリル基の非限定的な例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn-プロピルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、等が挙げられる。
【0033】
構造単位(b-1)の由来となるモノマーとして好ましいものの非限定的な例として、以下の化合物が挙げられる。当業者であれば、これらの例及び上記定義に基づいて、構造単位(b-1)の由来となるモノマーについて以下の例示にとらわれることなくその構造を定めることができる。
【化1-1】

【化1-2】
【0034】
構造単位(B)としての好ましい態様の一つは、前記一般式(2)で表される極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位(b-2)である。一般式(2)は、HC=CH-X-COOTで表され、ここで、Tは、t-ブチル基、アリル基、ベンジル基、-CR-O-R(ここで、R、R、Rは上記定義のとおりである)で示される基からなる群より選択される置換基であり、Xは、直接結合であるか、又は、-COO-R’-(ここでR’は、炭素数1~30の2価の炭化水素基である)である。すなわち、好ましい態様の一つとしての構造単位(b-2)は、一般式(2)において基Tがエステルの保護基として存在するアクリル酸由来のモノマーであり、特に上記基Tで置換されたアクリル酸由来のモノマーである。構造単位(B)としてのより好ましい態様は、前記一般式(2)におけるTが、t-ブチル基、-CR-O-R(ここで、R~Rは上記定義のとおりである)で示される基からなる群より選択され、Xが直接結合である置換基である、極性基含有オレフィンモノマーに由来する構造単位である。更により好ましい構造単位(B)は、前記一般式(2)におけるTが、t-ブチル基であり,Xが直接結合であるもの、つまりアクリル酸t-ブチルに由来する構造単位である。
【0035】
におけるt-ブチル基、アリル基、ベンジル基は、エステルの保護基として用いられる官能基である。t-ブチル基は強酸条件下で、アリル基はPd触媒存在下で、ベンジル基はエステルの加水分解条件で各々脱保護することができる保護基である。
【0036】
における基-CR-O-R(R~Rは上記定義のとおりである)は、アセタール系のエステル保護基として用いられ、加水分解条件下で脱保護することが可能である。カルボキシ基の保護-脱保護が可能な化学種であれば、R~R各々の構造に特に制限はない。保護基となる試薬が容易に入手できる点で、Rがメチル基であるもの、又はRとRが一緒になって、1つ以上のメチレン基がエーテル基若しくはエステル基で置き換えられていてもよい、炭素数1~8の2価の炭化水素基を形成したものが好ましい態様である。
において基-CR-O-Rを形成するための、つまりカルボキシ基の保護基を導入するための試薬として知られているものの例としては、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン、2,3-ジヒドロフラン、アリルエチルエーテル、アリルイソブチルエーテルなどのアリルアルキルエーテル、クロロメチルメチルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
Xは、直接結合であるか、又は、-COO-R’-(ここでR’は、炭素数1~30の2価の炭化水素基である)で示される基である。基-COO-R’-におけるR’は、2価の炭化水素基であり、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)、プロピレン基(-CHCHCH-)、ブチレン基(-CHCHCHCH-)などのアルキレン基、1,4-フェニレン基(-C-)などのアリーレン基が含まれる。R’としては直鎖状のアルキレン基が好ましい。好ましくは、Xは直接結合である。
【0038】
構造単位(b-2)の由来となるモノマーとして好ましいものの非限定的な例として、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アリル、アクリル酸ベンジルのほか、以下の化合物が挙げられる。当業者であれば、これらの例及び上記定義に基づいて、構造単位(b-2)の由来となるモノマーについて以下の例示にとらわれることなくその構造を定めることができる。
【化2】
【0039】
(3)構造単位(C)
構造単位(C)は、カルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱又は酸による脱離反応を起こさないアクリル酸誘導体由来の構造単位である。したがって、構造単位(C)の由来となるモノマーは、アクリル酸エステル(HC=CHC(=O)OR)であるが、上記構造単位(B)とは異なり、左記Rはカルボキシ基を置換基として有しておらず、かつ脱離反応を起こさないものである。この条件を満たす限り、構造単位(C)の由来となるモノマーの化学種は特に制限されず、モノマーとしての反応性、共重合体に付与しようとする物性などを踏まえて、当業者であれば適宜選択することが可能である。本明細書中、構造単位(C)について「脱離反応を起こさない」というときは、前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では脱離反応を起こさないという意味で用いられる。
【0040】
好ましい構造単位(C)の由来となるモノマーは、下記一般式(3)で表される極性基含有オレフィンモノマーである。
C=CH-COOCHZ・・・(3)
[一般式(3)中、Z及びZは、それぞれ独立して、
水素原子、
水酸基、
水酸基で置換された炭素数1~10の炭化水素基、
炭素数1~30のアルキル基、
炭素数2~10のアルコキシカルボニル基で置換された炭素数3~20の炭化水素基、
炭素数2~10のアシルオキシ基で置換された炭素数3~20の炭化水素基、
炭素数1~12の置換アミノ基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、
炭素数3~18の置換シリル基で置換された炭素数4~30の炭化水素基、
炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、
炭素数2~10のアシルオキシ基、
アミノ基、
炭素数1~12の置換アミノ基、
炭素数3~18の置換シリル基、
及び、ハロゲンで置換された炭素数1~20の炭化水素基
からなる群より選択される置換基である。また、Z及びZは、互いに結合して環を形成してもよい]
【0041】
一般式(3)において、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換アミノ基、置換シリル基、炭化水素基の好ましい炭素数などは、先に一般式(1)において説明したものを採用することができる。
一般式(3)において、Z又はZの一方が水酸基又はアミノ基である場合、もう一方は水素原子であることが好ましい。したがって、アクリル酸由来の酸素原子に結合している置換基は、メチル基、ヒドロキシメチル基、(置換)アミノメチル基、置換シリルメチル基、又は連続して炭素原子を少なくとも2つ有しているものであることが好ましい。
【0042】
好ましい構造単位(C)の由来となるモノマーの、非限定的な例を以下に列挙する。これらは一例であり、上記のとおり条件を満たす限りにおいて構造単位(C)の由来となるモノマーとしてその種類に制限はなく、当業者であれば、これらの例及び上記定義に基づいて、当該モノマーについて以下の例示にとらわれることなくその構造を定めることができる。
【化3-1】

【化3-2】
【0043】
(4)多元系極性基含有オレフィン共重合体
本開示の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、上記のとおり、エチレン又はα-オレフィンに由来する構造単位(A)、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有する構造単位(B)、及びカルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱又は酸による脱離反応を起こさないアクリル酸由来の構造単位(C)を含むことを特徴とする。
【0044】
本開示の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、上記構造単位(A)、(B)、(C)をそれぞれ少なくとも1種類以上含有し、合計3種以上のモノマー単位を含む。
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の構造単位と構造単位量について説明する。
エチレン又はα-オレフィン、カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有するモノマー、及びカルボキシ基を有さず、かつ熱による脱離反応を起こさないアクリル酸モノマーの、それぞれ1分子に由来する構造を、多元系極性基含有オレフィン共重合体中の1構造単位と定義する。
そして、多元系極性基含有オレフィン共重合体中の各構造単位の比率をmol%で表したものが構造単位量である。
【0045】
・エチレン又はα-オレフィン(A)の構造単位量:
本開示に関わる構造単位(A)の構造単位量は、下限値が60.000mol%以上、好ましくは70.000mol%以上、より好ましくは80.000mol%以上、さらに好ましくは85.000mol%以上、さらにより好ましくは87.000mol%以上、特に好ましくは91.400mol%以上であり、上限値が97.999mol%以下、好ましくは97.990mol%以下、より好ましくは97.980mol%以下、さらに好ましくは96.980mol%以下、さらにより好ましくは96.900mol%以下、特に好ましくは94.300mol%から選択される。
上記範囲よりエチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィンに由来する構造単位量が少なければ靱性が劣り、上記範囲よりも多ければ結晶化度が高くなり、透明性が悪くなる傾向がある。
【0046】
・カルボキシ基又は熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造を有するモノマー(B)の構造単位量:
本開示に関わる構造単位(B)の構造単位量は、下限値が2.000mol%以上、好ましくは2.900mol%以上であり、上限値が20.000mol%以下、好ましくは15.000mol%以下、より好ましくは10.000mol%以下、さらに好ましくは8.000mol%、特に好ましくは6.100mol%以下である。上記範囲より当該オレフィンモノマーに由来する構造単位量が少なければ、極性の高い異種材料との接着性が充分ではなく、上記範囲より多ければ充分な機械物性が得られない傾向がある。
【0047】
・カルボキシ基を有さず、かつ前記構造単位(B)がカルボキシ基を生じる熱又は酸による脱離反応と同一条件では熱又は酸による脱離反応を起こさないアクリル酸由来モノマー(C)の構造単位量:
本開示に関わる構造単位(C)の構造単位量は、下限値が0.001mol%以上、好ましくは0.010mol%以上、より好ましくは0.100mol%以上、さらに好ましくは0.500mol%以上、最も好ましくは1.900mol%以上であり、上限値が20.000mol%以下、好ましくは15.000mol%以下、より好ましくは10.000mol%以下、さらに好ましくは7.000mol%以下、特に好ましくは4.800mol%以下である。上記範囲より当該オレフィンに由来する構造単位量が少なければ、剛性が充分ではなく、上記範囲より多ければ剛性と靱性のバランスが取れなくなる傾向がある。
【0048】
構造単位(A)、構造単位(B)、構造単位(C)の量の合計は100mol%でなくてはならないが、構造単位(B)及び(C)の量が上記範囲内になるように、構造単位(A)の量が設定されることが好ましい。
【0049】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基含有モノマーの構造単位量の測定方法:
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基の構造単位量は13C-NMRスペクトルを用いて求められる。13C-NMRスペクトルは例えば以下の方法によって測定する。
試料200~250mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定する。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のAV400M型NMR装置を用いて120℃で行う。
13C-NMRの測定はパルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上とし、逆ゲートデカップリング法で測定をする。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのメチル炭素のピークを1.98ppmとして設定し、他の炭素によるピークの化学シフトはこれを基準とする。
得られた13C-NMRにおいて、共重合体が有する置換基に特有のシグナルを同定しその強度を比較することで、共重合体中の各コモノマーの含有量を解析することができる。置換基とシグナルの位置は公知の資料を参照することもできるし、試料に応じて独自に同定することもできる。このような解析手法は、当業者にとって一般的に行いうるものである。
【0050】
・重量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn):
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常1,000~2,000,000、好ましくは10,000~1,500,000、更に好ましくは20,000~1,000,000、好適なのは31,000~800,000、より好適なのは35,000~800,000の範囲である。Mwが1,000未満では機械的強度や耐衝撃性などの物性が充分ではなく、Mwが2,000,000を超えると溶融粘度が非常に高くなり、成形加工が困難となることがある。
【0051】
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、好ましくは1.5~4.0、より好ましくは1.6~3.3、更に好ましくは1.7~3.0の範囲である。Mw/Mnが1.5未満では成形性を始めとして各種加工性が充分でなくなる場合があり、4.0を超えると機械物性が劣るものとなる場合がある。なお、本開示においては(Mw/Mn)を分子量分布パラメーターと表現することがある。
【0052】
本開示に関わる重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。また、分子量分布パラメーター(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって、更に数平均分子量(Mn)を求め、MwとMnの比、Mw/Mnを算出するものである。
【0053】
本開示に関わるGPCの測定方法の一例は実施例の項にも記載しているが、市販の装置、測定条件を用いて測定することができる。分子量の算出は、標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行うことができる。使用する標準ポリスチレンは、例えば、何れも東ソー社製の、(F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000)の銘柄である。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PE:K=3.92×10-4、α=0.733
PP:K=1.03×10-4、α=0.78
【0054】
・融点(℃):
本開示の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、示差走査熱量測定(DSC)により観測される融点(Tm、℃)と、前記構造単位(B)及び前記構造単位(C)の合計の含有量[Y](mol%)とが下記の式(I)を満たしていることが、より好ましい。
50<Tm<-3.74×[Y]+130・・・(I)
共重合体の機械的物性に影響を与える因子として、共重合体の構造単位(B)及び構造単位(C)の合計の含有量[Y](mol%)の他に、共重合体の融点が大きく影響し、融点が低い方がより高い機械的物性を示しうる。
しかしながら、例えば(A)としてエチレンと(B)との2元系共重合体の場合、共重合体の融点は(B)の含有量に依存し、融点を-3.74×[Y]+130(℃)(ここでの[Y]は構造単位(B)の含有量(mol%)である)よりも低くすることは極めて困難であり、機械的物性の向上が充分に望めない場合がある。
そのため、本開示に関わる共重合体の融点が-3.74×[Y]+130(℃)を超える場合、機械的物性の向上が見込めず充分な機械的物性が発現しにくい場合がある。また、融点が50℃未満では、エチレン系共重合体として最低限必要な耐熱性が保持しにくい場合がある。
【0055】
融点は、例えば、セイコー電子工業株式会社製「EXSTAR6000」を使用し、40℃で1分等温、10℃/分で40℃から160℃までの昇温、160℃で10分等温、10℃/分で160℃から10℃まで降温、10℃で5分等温後、10℃/分で10℃から160℃までの昇温時の測定により求めることができる。
【0056】
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の融点Tmは、上記式(I)の関係を満たすことがより好ましいが、ポリエチレンを想定した場合、融点は50℃超130℃未満であることがさらに好ましく、60℃~128℃であることが特に好ましく、70℃~126℃が最も好ましい。この範囲より低ければ耐熱性が充分ではなく、この範囲より高い場合は耐衝撃性が劣ることがある。
【0057】
・結晶化度(%):
本開示の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、示差走査熱量測定(DSC)により観測される結晶化度は、特に限定されないが、0%を超え、30%以下であることが好ましく、0%を超え、25%以下であることが更に好ましく、5%を超え、25%以下であることが最も好ましい。
結晶化度が、この範囲より低ければ靱性が充分ではなく、この範囲より高い場合は透明性が劣るものとなる。なお、結晶化度は透明性の指標となり、結晶化度が低いほど透明性が優れると判断することができる。
結晶化度は、例えば、セイコー電子工業株式会社製「EXSTAR6000」を使用し、室温から160℃まで昇温した際に得られる融解吸熱ピーク面積から融解熱を求め、その融解熱をポリエチレン(HDPE)完全結晶の融解熱293J/gで除することにより求めることができる。
【0058】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造:
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、構造単位(A)、(B)、(C)のランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。これらの中では、極性基含有量を多く含むことが可能なランダム共重合体であってもよい。
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子鎖末端は、構造単位(A)、(B)、(C)のいずれであってもよい。
【0059】
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造してもよい。
なお、高圧ラジカル重合法プロセスによる重合、金属触媒を用いた重合など、製造方法によってその分子構造は異なることが知られている。
この分子構造の違いは製造方法を選択する事によって制御が可能である。例えば、特開2010-150532号公報に記載されている様に、回転式レオメータで測定した複素弾性率によっても、その分子構造を推定する事ができる。
【0060】
・複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ
本開示の多元系極性基含有オレフィン共重合体においては、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度~75度であってもよい。
より具体的には、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ(G=0.1MPa)が50度以上である場合、その分子構造は直鎖状の構造であって、長鎖分岐を全く含まない構造か、機械的強度に影響を与えない程度の少量の長鎖分岐を含む構造であることを示す。
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ(G=0.1MPa)が50度より低い場合、その分子構造は長鎖分岐を過多に含む構造であることを示し、機械的強度が劣るものとなる傾向がある。
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δは分子量分布と長鎖分岐の両方の影響を受けるが、Mw/Mn≦4、より好ましくはMw/Mn≦3のものに限れば長鎖分岐の量の指標になり、長鎖分岐が多いほどδ(G=0.1MPa)値は小さくなる。なお、Mw/Mnが1.5以上であれば、長鎖分岐をもたない場合でもδ(G=0.1MPa)値が75度を上回ることはない。
【0061】
複素弾性率の測定方法は、以下の通りである。
試料を厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持する。その後、表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作成する。試料からなるプレス板を直径25mm円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定する。
・プレート:φ25mm パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10-2~1.0×10 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G(Pa)の常用対数logGに対して位相角δをプロットし、logG=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G=0.1MPa)とする。
測定点の中にlogG=5.0に相当する点がないときは、logG=5.0前後の2点を用いて、logG=5.0におけるδ値を線形補間で求める。また、測定点がいずれもlogG<5であるときは、logG値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG=5.0におけるδ値を補外して求める。
【0062】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の分子構造:
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもよい。
一般的な三元系の極性基含有オレフィン共重合体の分子構造例(1)を下記に示す。
ランダム共重合体とは、下記に示した分子構造例(1)のエチレン又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)と極性基含有モノマーの構造単位(B)と非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが、ある任意の分子鎖中の位置においてそれぞれの構造単位を見出す確率が、その隣接する構造単位の種類と無関係な共重合体である。
また、極性基含有オレフィン共重合体の分子鎖末端は、エチレン又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)であってもよく、極性基含有モノマーの構造単位(B)であってもよく、非極性環状オレフィンの構造単位(C)であってもよい。
下記のように、極性基含有オレフィン共重合体の分子構造例(1)は、エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)と極性基含有モノマーの構造単位(B)と非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが、ランダム共重合体を形成している。
【化4】

なお、グラフト変性によって極性基を導入したオレフィン共重合体の分子構造例(2)も参考に掲載すると、エチレン及び/又は炭素数3~20のα-オレフィンの構造単位(A)及び非極性環状オレフィンの構造単位(C)とが共重合されたオレフィン共重合体の一部が、極性基含有モノマーの構造単位(B)にグラフト変性される。
【化5】
【0063】
・メチル分岐
重合反応によって得られるポリマーは、通常は上記のようにモノマーが直線状に連なることで主鎖となる分子鎖を形成する。本発明においては、通常は各構造単位(A)、(B)及び(C)のオレフィン部分(C=C)が一直線に連なり、ポリエチレン鎖を形成する。なお、この場合において構造単位(A)がα-オレフィンを含む場合の飽和炭化水素鎖、構造単位(B)の基Tや-X-COOTで示される部分、構造単位(C)の-COOCHZで示される部分などは、ポリエチレン鎖の側鎖として存在することになる。しかし一部、オレフィン部分が一直線に分子鎖を形成せずに分岐を生じることがある。このときメチル基が側鎖として存在するような構造が生じ、これをメチル分岐と表現する。一般にポリエチレン鎖の分岐数と融点とは負の比例関係にあり、分岐数が多ければ融点が下がり、かつ、その分岐基にはよらないことが知られている(Skupov, K. M.; Piche, L.; Claverie, J. P. Macromolecules 2008, 41, p. 2309-2310.を必要に応じて参照されたい)。つまり、共重合体中に構造単位(B)(C)やメチル分岐などが多く含まれているほど共重合体の融点が低下し、耐熱性、強度が低下する傾向がある。また、構造単位(B)(C)の含量が同じである場合は、極性基による機能性は同じレベルに発現すると考えられ、メチル分岐が少ないほど融点が高く、耐熱性や強度の高い共重合体となると考えられる。ラジカル重合法により製造された共重合体は多くの長鎖分岐及び短鎖分岐を不規則に有する構造であり、強度的には不十分であるという欠点がある。本発明においては、メチル分岐数が炭素1,000個当たり50以下であることが好ましく、炭素1,000個当たり5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましく,1.0個以下であることが特に好ましく、下限は、特に限定されず、少なければ少ないほどよい。メチル分岐数が少ないと、耐熱性や強度がより向上するため好ましい。ポリマー中のメチル分岐数の測定方法は、後記のとおりであり、当業者であれば通常行うことができる方法を用いることができる。
【0064】
(5)多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造について
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造してもよい。
【0065】
・重合触媒
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造に用いる重合触媒の種類は、構造単位(A)、(B)、(C)の由来となるモノマーを共重合することが可能なものであれば特に限定されないが、例えば、キレート性配位子を有する第5~11族の遷移金属化合物が挙げられる。
好ましい遷移金属の具体例として、バナジウム原子、ニオビウム原子、タンタル原子、クロム原子、モリブデン原子、タングステン原子、マンガン原子、鉄原子、白金原子、ルテニウム原子、コバルト原子、ロジウム原子、ニッケル原子、パラジウム原子、銅原子などが挙げられる。これらの中で好ましくは、第8~11族の遷移金属であり、さらに好ましくは第10族の遷移金属であり、特に好ましくはニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)である。これらの金属は、単一であっても複数を併用してもよい。
キレート性配位子は、P、N、O、及びSからなる群より選択される少なくとも2個の原子を有しており、二座配位(bidentate)又は多座配位(multidentate)であるリガンドを含み、電子的に中性又は陰イオン性である。Brookhartらによる総説に、その構造が例示されている(Chem.Rev.,2000,100,1169)。
好ましくは、二座アニオン性P、O配位子として例えば、リンスルホン酸、リンカルボン酸、リンフェノール、リンエノラートが挙げられ、他に、二座アニオン性N、O配位子として例えば、サリチルアルドイミナ-トやピリジンカルボン酸が挙げられ、他に、ジイミン配位子、ジフェノキサイド配位子、ジアミド配位子が挙げられる。
【0066】
キレート性配位子から得られる金属錯体の構造は、置換基を有してもよいアリールホスフィン化合物、アリールアルシン化合物又はアリールアンチモン化合物が配位した下記構造式(A)及び/又は(B)で表される。
【0067】
【化6】

【化7】

[構造式(A)、(B)において、Mは、元素の周期表の第5~11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
は、酸素、硫黄、-SO-、又は-CO-を表す。
は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’又はエポキシ含有基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、RとRが互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
は、Mに配位したリガンドを表す。
また、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。]
ここで、「ヘテロ原子を含有してもよい」とは、酸素、窒素、硫黄などのヘテロ原子により炭化水素の炭素若しくはメチレン基(-CH-)が置き換えられているか、又は炭化水素の水素原子がヘテロ原子により置換されている構造、例えばエーテル構造、カルボニル基などが存在することが許容されることを意味する。
【0068】
本発明の共重合体の調製において用いられる触媒は、より好ましくは、下記構造式(C)で表される遷移金属錯体である。
【化8】

[構造式(C)において、Mは、元素の周期表の第5~11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
は、酸素、硫黄、-SO-、又は-CO-を表す。
は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
及びRは、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
、R、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’又はエポキシ含有基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、R~R11から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
は、Mに配位したリガンドを表す。
また、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。]
【0069】
ここで、キレート性配位子を有する第5~11族の遷移金属化合物の触媒としては、代表的に、いわゆる、SHOP系及びDrent系と称される触媒が知られている。
SHOP系触媒は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがニッケル金属に配位した触媒である(例えば、WO2010-050256号公報を参照)。
また、Drent系は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがパラジウム金属に配位した触媒である(例えば、特開2010-202647号公報を参照)。
【0070】
・有機金属化合物:
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の製造において、極性基含有オレフィンモノマーと少量の有機金属化合物とを接触させた後、前記の遷移金属触媒の存在下、構造単位(A)、(B)、(C)の由来となるモノマーを共重合させることにより重合活性をより高められる。
有機金属化合物は、置換基を有してもよい炭化水素基を含んだ有機金属化合物であり、下記構造式(H)で示すことができる。
30nM3030m-n 構造式(H)
(式中、R30は、炭素原子数1~12の置換基を有してもよい炭化水素基を示し、M30は、周期表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群から選択される金属、X30は、ハロゲン原子又は水素原子を示し、mは、M30の価数、nは、1~mである。)
【0071】
上記構造式(H)で示される有機金属化合物としては、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-デシルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド等のアルキルアルミニウムハライド類が挙げられ、好ましくはトリアルキルアルミニウムが選択される。
より好ましくは炭素数が4以上の炭化水素基を有するトリアルキルアルミニウムが、さらに好ましくは炭素数が6以上の炭化水素基を有するトリアルキルアルミニウムが、より好適にはトリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-デシルアルミニウムが選択され、トリ-n-オクチルアルミニウムが最も好適に使用する事ができる。
有機金属化合物は、極性基含有オレフィンコモノマーに対するモル比が10-5~0.9、好ましくは10-4~0.2、更に好ましくは10-4~0.1となる量を接触させることが、重合活性やコストの観点から好ましい。
【0072】
・多元系極性基含有オレフィン共重合体の重合方法:
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体の重合方法は限定されない。
重合方法の一例は下記実施例で明らかにされるとおりであるが、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが用いられる。
重合形式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。
また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。
更に、いわゆるchain shuttling agent(CSA)を併用し、chain shuttling反応や、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
具体的な製造プロセス及び条件については、例えば、特開2010-260913号公報、特開2010-202647号公報に開示されている。また重合反応において上記のような遷移金属触媒を用いる場合、多元系極性基含有オレフィン共重合体の重合において触媒は濾過、再沈殿操作など周知の方法によって取り除かれるが、得られる共重合体には触媒由来の金属が微量残存していてもよい。このような金属元素の存在は共重合体が遷移金属触媒によって調製されたことを示すものであり、本発明の一態様は、重合触媒として用いられた周期表第10族の遷移金属元素、特にニッケル又はパラジウムを含むことを特徴とする、多元系極性基含有オレフィン共重合体に関する。その含有量は、例えばICP-OESのような手段により測定することができる。遷移金属元素が含有される場合、その含有量は20,000μg/g以下、好ましくは10,000μg/g以下、更に好ましくは5,000μg/g以下、特に好ましくは2,000μg/g以下、最も好ましくは1,000μg/g以下である。金属含有量は、重合活性と反比例の関係にあり、活性が高くなると減少する。つまり、高活性になれば金属含量は、限りなくゼロに近づくことになる。
【0073】
(6)添加剤
本開示に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体には、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、金属石鹸、塩酸吸収剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、着色剤、顔料、架橋剤、発泡剤、核剤、難燃剤、導電材、充填材などの添加剤を配合してもよい。
【0074】
本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、それ自体が各構造単位に由来する透明性や相溶性などの物性に優れており、包装材などの材料として有用である。のみならず、本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、一般的な脱保護反応条件によりアイオノマーのベース樹脂として利用可能な共重合体を得ることができる。脱保護反応により、多元系極性基含有オレフィン共重合体に含まれる構造単位(B)の有する、熱若しくは酸による脱離反応でカルボキシ基を生じる構造から、カルボキシ基を生じることができる。温度、試薬、反応雰囲気や溶媒、添加剤の使用、反応器等の条件は、先に構造単位(B)に関して記載したものを採用することができる。本発明の多元系極性基含有オレフィン共重合体は、アイオノマーのベース樹脂の原料としても有用である。
【実施例
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0076】
[共重合体の評価方法]
(1)融点Tm、融解熱ΔH,結晶化度
製造されたオレフィン系共重合体の融点Tmは、以下のDSC測定により求めた。
セイコー電子工業株式会社製「EXSTAR6000」を使用し、40℃で1分等温、10℃/分で40~160℃までの昇温、160℃で10分等温、10℃/分で160~10℃まで降温、10℃で5分等温後、10℃/分で10~160℃までの昇温時の測定により融点Tmを求めた。
また、結晶化度は室温から160℃まで昇温した際に得られる融解吸熱ピーク面積から融解熱ΔHを求め、ΔHをポリエチレン(HDPE)完全結晶の融解熱293J/gで除することにより、結晶化度を求めた。
【0077】
(2)分子量分布パラメーターMw/Mn
製造されたオレフィン系重合体の分子量分布パラメーターMw/MnはGPCにより測定した。
装置:日本ウォーターズ社製Alliance GPCV2000型
検出器:GPCV2000内蔵の示差屈折計検出器
試料の調製:4mLバイアル瓶に試料3mg及びオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤採し、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした後、温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。溶解終了後、不溶成分がないことを目視で確認した。
カラム:昭和電工社製Shodex HT-806M×2本+同社製ShodexHT-G×1本
HT-G較正曲線の作成:4mLガラス瓶を4本用意し、それぞれに下記(i)~(iv)の組み合わせの単分散ポリスチレン標準試料又はn-アルカンを0.2mgずつ秤り採り、続いてオルトジクロロベンゼン(0.1mg/mLの1,2,4-トリメチルフェノールを含む)3mLを秤り採り、樹脂製スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした後、温度150℃に設定したセンシュー科学製SSC-9300型高温振とう機を用いて2時間溶解を行った。
(i)Shodex S-1460,同S-66.0,n-エイコサン
(ii)Shodex S-1950,同S-152,n-テトラコンタン
(iii)Shodex S-3900,同S-565,同S-5.05
(iv)Shodex S-7500,同S-1010,同S-28.5
試料溶液が入ったバイアル瓶を装置にセットし、前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラム(保持時間と示差屈折計検出器の応答のデータセット)を記録した。得られたクロマトグラムから各ポリスチレン標準試料の保持時間(ピーク頂点)を読み取り、分子量の対数値に対してプロットした。ここで、n-エイコサン及びn-テトラコンタンの分子量は、それぞれ600及び1,200とした。このプロットに非線形最小自乗法を適用し、得られた4次曲線を較正曲線とした。
【0078】
分子量の計算:前述の条件にて測定を行い、サンプリング間隔1sでクロマトグラムを記録した。このクロマトグラムを用い、森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)第4章p.51~60に記載の方法で微分分子量分布曲線及び平均分子量値(Mn、Mw及びMz)を算出した。ただし、dn/dcの分子量依存性を補正するため、クロマトグラムにおけるベースラインからの高さHを下記式にて補正した(H‘=補正後のH)。クロマトグラムの記録(データ取り込み)及び平均分子量計算は、Microsoft社製OS・Windows(登録商標)・XPをインストールしたPC上で自社製プログラム(Microsoft製Visual Basic6.0で作成)を用いて行った。H’=H/[1.032+189.2/M(PE)]
なお、ポリスチレンからポリエチレンへの分子量変換は、下記式を用いた。
M(PE)=0.468×M(PS)
測定温度:145℃
濃度:20mg/10mL
注入量:0.2ml
溶媒:オルトジクロロベンゼン
流速:1.0ml/分
【0079】
(3)コモノマー含量
製造されたオレフィン系共重合体のコモノマー含量は、以下の測定を行うことにより求めた。
多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基含有モノマーの構造単位量の測定方法:
本発明に関わる多元系極性基含有オレフィン共重合体中の極性基の構造単位量は13C-NMRスペクトルを用いて求められる。13C-NMRスペクトルは以下の方法によって測定する。
1)試料200~250mgをo-ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定する。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカージャパン(株)のAV400型NMR装置を用いた。
13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定をした。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
【0080】
4)コモノマー含量の解析手法
<E/tBA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8に検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/nBA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、nBAのブトキシ基のメチレンシグナルは、64.1~63.4ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(nBA)+I(E)
nBA総量(mol%)=I(nBA)×100/〔I(tBA)+I(nBA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(nBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(nBA)=I64.1~63.4
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(nBA)×7-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/iBA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、iBAのイソブトキシ基のメチレンシグナルは70.5~69.8ppm、イソブトキシ基のメチルシグナルは19.5~18.9ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(iBA)+I(E)
iBA総量(mol%)=I(iBA)×100/〔I(tBA)+I(iBA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(iBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(iBA)=(I70.5~69.8+I19.5~18.9)/3
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(iBA)×7-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/MA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8、メチルアクリレート(MA)のメトキシ基のメチル炭素シグナルは、51.1~50.4ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(MA)+I(E)
MA総量(mol%)=I(MA)×100/〔I(tBA)+I(MA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(MA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(MA)=I51.1~50.4/2
I(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(MA)×4-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/EA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、エチルアクリレート(EA)のエトキシ基のメチル炭素シグナルは14.7~14.1ppmに検出、メチレン炭素シグナルは60.0~59.3ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(EA)+I(E)
EA総量(mol%)=I(EA)×100/〔I(tBA)+I(EA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(EA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(EA)=(I14.7~14.1+I60.0~59.3)/2
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(EA)×5-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/C6>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、1-ヘキセンのメチレンシグナルは23.4~23.1ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(C6)+I(E)
C6総量(mol%)=I(C6)×100/〔I(tBA)+I(C6)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(C6)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(C6)=I23.4~23.1
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(C6)×6-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/VA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、酢酸ビニルのメチルシグナルは20.9~20.2ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(VA)+I(E)
VA総量(mol%)=I(VA)×100/〔I(tBA)+I(VA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(VA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(VA)=I20.9~20.2
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(VA)×4-I(tBA)×7)/2
<E/tBA/MMA>
tBAのt-ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C-NMRスペクトルの79.6~78.8ppm、メタクリル酸メチルのメトキシシグナルは52.5~49.5ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(MMA)+I(E)
MMA総量(mol%)=I(MMA)×100/〔I(tBA)+I(MMA)+I(E)
ここで、I(tBA)、I(MMA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
(tBA)=I79.6~78.8
(MMA)=I52.5~49.5
(E)=(I180.0~135.0+I120.0~2.0-I(MMA)×5-I(tBA)×7)/2
なお、以下の説明において、各コポリマーの量が不等号を含む「<0.1」で示されている場合、共重合体中の構成単位として存在しているが有効数字を考慮して0.1mol%未満の量であることを意味する。
【0081】
(4)引張試験
各実施例及び各比較例の樹脂を用いて、JIS K7151(1995年)に記載の方法(冷却方法A)で厚さ1mmのシートを作製し、これを打抜いて作製したJIS K7162(1994年)に記載の5B形小型試験片を用いて、JIS K7161(2014年)に従って温度23℃の条件下において引張試験を行い、引張弾性率、引張破断応力及び引張破断伸びを測定した。なお、試験速度は10mm/分とした。
【0082】
(5)引張衝撃強さ試験
1)引張衝撃強さ試験サンプルの作製方法
各実施例及び各比較例の樹脂を、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで樹脂を溶融すると共に溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。状態調節後のプレス板からASTM D1822 Type-Sの形状の試験片を打ち抜き、引張衝撃強さ試験サンプルとした。
【0083】
2)引張衝撃強さ試験条件
各実施例及び各比較例の樹脂を用いて,JIS K 7160-1996のB法を参考として引張衝撃強さを測定した。なお、JIS K 7160-1996と異なるのは、試験片の形状のみである。その他測定条件等に関しては、JIS K 7160-1996に準じた方法で試験を行い、引張衝撃強さを測定した。
【0084】
(6)複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ(G=0.1MPa)
各実施例及び各比較例の樹脂を,厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作成した。試料からなるプレス板を直径25mm円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定した。
・プレート:φ25mm パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10-2~1.0×10 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G(Pa)の常用対数logGに対して位相角δをプロットし、logG=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G=0.1MPa)とした。測定点の中にlogG=5.0に相当する点がないときは、logG=5.0前後の2点を用いて、logG=5.0におけるδ値を線形補間で求めた。また、測定点がいずれもlogG<5であるときは、logG値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG=5.0におけるδ値を補外して求めた。
【0085】
(7)IRスペクトル解析によるエステル構造からカルボン酸構造への変化
共重合体を180℃にて3分間溶融し、圧縮成形して、厚さ50μm程度のフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記共重合体の赤外吸収スペクトルを得た。
製品名:FT/IR-6100_日本分光株式会社製
測定手法:透過法
検出器:TGS
積算回数: Auto (16~64回)
分解能: 4.0cm-1
測定波長: 5000~500cm-1
【0086】
(8)炭素1,000個当たりのメチル分岐数
メチル分岐数の定量には、13C-NMRを用いた。13C-NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定をした。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とし、メチル分岐に由来するメチル基のシグナルの積分比により、メチル分岐数を定量した。13C-NMRによるメチル分岐数の定量方法は、当業者にとって公知である。
【0087】
(9)共重合体中の金属含有量
金属含有量の定量には、ICP-OESを用いた。試料をケルダーフラスコに0.1~0.3g程度採取して、硫酸を添加して加熱し、湿式分解した。分解液をメスフラスコに移液した。定容し、溶液中のNiをICP-OESで測定した。
製品名:ICP-OES_Thermo Fisher Scientific社製, iCAP6500DUO型
【0088】
(10)Vp活性
製造されたオレフィン共重合体の生産性(Vp活性)を、下記式により算出した。
生産性(Vp活性)={製造されたオレフィン共重合体の収量(kg)}÷{触媒量(mol)×重合時間(h)}
【0089】
[金属錯体]
B-27DM/Ni錯体は、特開2013-043871号公報に記載された合成例に従い合成し、以下の化学式で示されるリガンドB-27DMを使用した。また、国際公開WO2010/050256号の実施例に準じて、ビス-1、5-シクロオクタジエンニッケル(0)(Ni(COD)と称する)を用いて、B-27DMとNi(COD)とが1対1(モル比)で反応したニッケル錯体を合成した。
式中「Me」とはメチル基、「C」とはペンタフルオロフェニル基を表す。
【化9】
【0090】
B-423/Ni触媒は以下の化学式で示されるリガンドB-423を使用した。Ni(acac)2(51.4mg)を50mlのナスフラスコに秤り取り、トルエン(10ml)溶解させ、20mMのNi(acac)2トルエン溶液を調製した。得られた溶液は青色透明であった。ここで得られたNi(acac)2トルエン溶液(10ml)を、B-423(111.7mg)を有するナスフラスコに加え、室温で1分攪拌し、紫色透明溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B-423とNi(acac)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
式中「Me」とはメチル基、「iPr」とはイソプロピル基を示す。
【化10】
【0091】
実施例及び比較例
(実施例1)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/tBA/nBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、トリn-オクチルアルミニウム(TNOA)を55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量のアクリル酸n-ブチル(nBA:コモノマー2)4.3ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
38分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/nBA樹脂1を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、980μg/gであった。
【0092】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/AA/nBA)の作製:
容量50mlセパラブルフラスコに、前記樹脂1を4gとパラトルエンスルホン酸一水和物を0.08g、トルエンを18.5ml投入し、105℃で4時間撹拌した。イオン交換水18.5mlを投入し撹拌、静置した後、水層を抜き出した。以後、抜き出した水層のpHが5以上となるまで、イオン交換水の投入と抜き出しを繰り返し行った。残った溶液から溶媒を減圧留去し、恒量になるまで乾燥を行ない、E/AA/nBA樹脂Iを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
前記樹脂IのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、960μg/gであった。
【0093】
(実施例2)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/tBA/iBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量のアクリル酸イソブチル(iBA:コモノマー2)4.3ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
45分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/iBA樹脂2を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、1130μg/gであった。
【0094】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/AA/iBA)の作製:
前記樹脂2を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/iBA樹脂IIを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
上記樹脂IIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。
これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、960μg/gであった。
【0095】
(実施例3)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸メチル(MA)の三元共重合体(E/tBA/MA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを73mg(0.20mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量のアクリル酸メチル(MA:コモノマー2)2.7ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
75分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/MA樹脂3を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、960μg/gであった。
【0096】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸メチル(MA)の三元共重合体(E/AA/MA)の作製:
前記樹脂3を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/MA樹脂IIIを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
上記樹脂IIIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。
これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、950μg/gであった。
【0097】
(実施例4)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸エチル(EA)の三元共重合体(E/tBA/EA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを73mg(0.20mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量のアクリル酸エチル(EA:コモノマー2)3.3ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
49分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/EA樹脂4を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、1,000μg/gであった。
【0098】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸チル(EA)の三元共重合体(E/AA/EA)の作製:
前記樹脂4を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/EA樹脂IVを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
上記樹脂IVのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。
これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、930μg/gであった。
【0099】
(比較例1)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/1-ヘキセン(C6)の三元共重合体(E/tBA/C6)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量の1-ヘキセン(C6:コモノマー2)3.8ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
22分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/C6樹脂5を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、770μg/gであった。
【0100】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/1-ヘキセン(C6)の三元共重合体(E/AA/C6)の作製:
前記樹脂5を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/C6樹脂Vを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
前記樹脂VのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピーク、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、エステルの熱分解ができていることを確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、750μg/gであった。
【0101】
(比較例2)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/酢酸ビニル(VA)の三元共重合体(E/tBA/VA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量の酢酸ビニル(VA:コモノマー2)2.8ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
52分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/VA樹脂6を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、880μg/gであった。
【0102】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/酢酸ビニル(VA)の三元共重合体(E/AA/VA)の作製:
前記樹脂6を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/VA樹脂VIを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
上記樹脂VIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピーク、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、エステルの熱分解ができていることを確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、860μg/gであった。
【0103】
(比較例3)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/メタクリル酸メチル(MMA)の三元共重合体(E/tBA/MMA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を8.7ml(60mmol)、及び、所定量のメタクリル酸メチル(MMA:コモノマー2)3.2ml(30mmol)を仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.2MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が1.0MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒10ml(200μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
23分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ないE/tBA/MMA樹脂7を得た。結果を表1~2に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、800μg/gであった。
【0104】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/メタクリル酸メチル(MMA)の三元共重合体(E/AA/MMA)の作製:
前記樹脂7を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/VA樹脂VIIを得た。物性測定の結果を表3に記載した。
樹脂VIIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピーク、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、エステルの熱分解ができていることを確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、780μg/gであった。
【0105】
(実施例5)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/tBA/nBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を29.1ml(200mmol)、及び、所定量のアクリル酸n-ブチル(nBA:コモノマー2)8.6ml(60mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒24ml(480μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
92分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/nBA樹脂8を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。なお、表中の「no data」は未測定を意味する。
【0106】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/AA/nBA)の作製:
前記樹脂8を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/nBA樹脂VIIIを得た。物性測定の結果を表8に記載した。なお、表中の「no data」は未測定を意味する。
前記樹脂VIIIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。
【0107】
(実施例6)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/tBA/nBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を29.1ml(200mmol)、及び、所定量のアクリル酸n-ブチル(nBA:コモノマー2)11.4ml(80mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを80℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒24ml(480μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
180分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/nBA樹脂9を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。
【0108】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸n-ブチル(AA)の三元共重合体(E/BA/nBA)の作製:
前記樹脂9を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/nBA樹脂IXを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂IXのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。
【0109】
(実施例7)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/tBA/nBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を29.1ml(200mmol)、及び、所定量のアクリル酸n-ブチル(nBA:コモノマー2)7.1ml(50mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒18ml(360μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
88分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/nBA樹脂10を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、164μg/gであった。
【0110】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸n-ブチル(nBA)の三元共重合体(E/BA/nBA)の作製:
前記樹脂10を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/nBA樹脂Xを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、160μg/gであった。
【0111】
(実施例8)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/tBA/iBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を17.0ml(115mmol)、及び、所定量のアクリル酸イソブチル(iBA:コモノマー2)14.0ml(100mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒24ml(480μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
120分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/iBA樹脂11を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、240μg/gであった。
【0112】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/BA/iBA)の作製:
前記樹脂11を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/iBA樹脂XIを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、230μg/gであった。
【0113】
(実施例9)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/tBA/iBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を28.0ml(190mmol)、及び、所定量のアクリル酸イソブチル(iBA:コモノマー2)3.0ml(22mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを90℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒24ml(480μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
55分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/iBA樹脂12を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、200μg/gであった。
【0114】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/BA/iBA)の作製:
前記樹脂12を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/iBA樹脂XIIを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XIIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、190μg/gであった。
【0115】
(実施例10)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/tBA/iBA)の製造:
内容積2.4リットルの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1.0リットル)と、TNOAを55mg(0.15mmol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を27.5ml(189mmol)、及び、所定量のアクリル酸イソブチル(iBA:コモノマー2)1.0ml(7mmol)を仕込んだ。
撹拌しながらオートクレーブを100℃に昇温し、窒素を0.3MPaまで供給した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が3.3MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒24ml(480μmol)を窒素で圧入して共重合を開始させた。
29分間重合させた後、冷却、脱圧して反応を停止した。
反応溶液は、1リットルのアセトンに投入してポリマーを析出させた後、ろ過洗浄を行い回収し、さらに減圧下で恒量になるまで乾燥を行ない、E/tBA/iBA樹脂13を得た。結果を表4及び6に示す。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。
【0116】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/BA/iBA)の作製:
前記樹脂13を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/iBA樹脂XIIIを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XIIIのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。ICP-OESによるNi定量分析結果は、210μg/gであった。
【0117】
(実施例11)
1)エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)/アクリル酸イソブチル(iBA)の三元共重合体(E/tBA/iBA)の製造:
内容積1.6mの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1000リットル)と、TNOAを0.0375kg(0.256mol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を4.4kg(35mol)、アクリル酸イソブチル(iBA:コモノマー2)を1.6kg(12mol)仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを95℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が0.8MPaになるように調整した。
調整終了後、B-423/Ni触媒を供給(3mmol/分)して共重合を行った。反応中は温度を95℃に保ち、圧力が保持されるようにエチレンを供給し、エチレン:tBA:iBA=92.0:5.4:2.6(mol比)となるようにtBA及びiBAを供給した。515分間重合させた後、反応を停止し、E/tBA/iBA樹脂14を得た。結果を表5及び7に示す。
【0118】
2)変性によるエチレン/アクリル酸(AA)/アクリル酸イソブチルの三元共重合体(E/AA/iBA)の作製:
前記樹脂14を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA/iBA樹脂XIVを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XIVのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピークが減少し、t-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、t-ブチルエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認した。
【0119】
(比較例4)
比較原料:エチレン・メタクリル酸共重合体(E/MAA)
エチレンとメタクリル酸の共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造された極性基含有オレフィン共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1560)を比較原料として用いた。物性測定の結果を表8に示した。
【0120】
(比較例5)
エチレン/アクリル酸t-ブチル(tBA)の二元共重合体(E/tBA)の製造:
内容積1.6mの攪拌翼付きオートクレーブに、乾燥トルエン(1000リットル)と、TNOAを50g(0.14mol)と、所定量のアクリル酸t-ブチル(tBA:コモノマー1)を6.3kg(49mol)仕込んだ。
攪拌しながらオートクレーブを100℃に昇温した後、エチレンをオートクレーブに供給し、圧力が0.8MPaになるように調整した。
調整終了後、B-27DM/Ni触媒(160mmol)を供給して共重合を開始した。
反応中は温度を100℃に保ち、B-27DM/Ni触媒(160mmol)を複数回に分けてさらに供給した。また、圧力が保持されるようにエチレンを供給し、エチレン:tBA=94.4:5.6(mol比)となるようにtBAを供給した。240分間重合させた後、反応を停止し、E/tBA樹脂15を得た。結果を表5及び7に示す。
【0121】
2)エチレン/アクリル酸(AA)の二元共重合(E/AA)の作製:
前記樹脂15を使用し、実施例1の2)と同様にしてE/AA樹脂XVを得た。物性測定の結果を表8に記載した。
前記樹脂XVのIRスペクトルにおいて、エステルのカルボニル基に由来する1730cm-1付近のピーク、及びt-ブチルエステルのt-ブチル基に由来する850cm-1付近のピークが消失しており、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm-1付近のピークが増加していた。これにより、エステルの熱分解ができていることを確認した。
【0122】
(比較例6)
エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体(E/MAA/iBA):
エチレンとメタクリル酸とアクリル酸イソブチルの共重合体(樹脂XVI)として、高圧ラジカル法プロセスによって製造された極性基含有オレフィン共重合体(メタクリル酸含量=4wt%、アクリル酸イソブチル含量=16wt%)を用いた。物性測定の結果を表8に記載した。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
【表8】
【0131】
表2より、実施例1~4の、コモノマー2としてアクリル酸エステルを用いた共重合体の樹脂1~4は、比較例1~3のコモノマー2としてα-オレフィン、ビニルエステル、メタクリル酸メチルを用いた共重合体の樹脂5~7と比較して、同一仕込み条件で結晶化度が顕著に低く、高い透明性を備えることがわかる。コモノマー2として、α-オレフィン、ビニルエステル、メタクリル酸メチルを使用して樹脂1~4と同等の透明性を出そうとした場合,多量のコモノマーを必要とし、アクリル酸エステルに比べ相対的に経済性の面で劣る。
表3より、実施例1~4の樹脂1~4を酸コポリマーにした樹脂I~IVは,比較例1~3の樹脂5~7を酸コポリマーにした樹脂V~VIIと比較して、結晶化度が顕著に低く、透明性が高いことがわかる。ここから、樹脂1~4は酸コポリマーにした後も高い透明性を維持していると考えられる。また、樹脂I~IVは,位相角δが樹脂V~VIIよりも大きいことから、より優れた機械的強度を示すと考えられる。以上から、樹脂I~IVは、公知の樹脂に対して,機械的強度だけでなく,透明性の向上を達成している。
表8において、ラジカル重合法で製造された比較例4と比較して、実施例5~9および11から得られた酸コポリマーの樹脂VIII~XIIおよびXIVは、引張破断伸びおよび引張衝撃強度が高い。さらに樹脂VIII、IX、X、XIIおよびXIVは、引張破断応力も高い。さらに樹脂IXおよびXIVにおいては、結晶化度が低く、高い透明性も有している。また,実施例10から得られた酸コポリマーの樹脂XIIIは、比較例4よりも極めて高い引張弾性率を有しており、物性バランスが優れていることがわかる。樹脂VIII~XIVは,比較例4よりも位相角が大きいことから、優れた機械的強度を示すと考えられる。以上から、実施例5~11の方が比較例4よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れる。
表8において、比較例5から得られた酸コポリマーの樹脂XVと比較して、実施例5~11から得られた酸コポリマーの樹脂VIII~XIVは,引張破断応力、引張破断伸びおよび引張衝撃強度が高く、結晶化度が低く、位相角が大きい。以上から、実施例5~11の方が比較例5よりも相対的に剛性、靱性、及び透明性のバランスに優れる。
表8において、ラジカル重合法で製造した比較例6の樹脂XVIと比較して、実施例5~11から得られた酸コポリマーの樹脂VIII~XIVは,引張弾性率および引張破断応力が高く、位相角が大きい。さらに樹脂VIII~XIIにおいては、引張衝撃強度も高い。そして、樹脂VIII、IX、XIおよびXIVにおいては、結晶化度が小さく,透明性も良い。そのため、実施例5~11の方が比較例6よりも相対的に弾性、剛性、及び透明性のバランスに優れる。
【0132】
実施例及び比較例で得られた共重合体の物性を測定した結果を、図1及び図2にまとめている。これらの図によれば、比較例の試料は剛性、強度、靱性のいずれかにおいて他の試料に大きく譲る物性が見られるが、実施例の試料はいずれの物性においてもバランスのとれた値を示している。すなわち、本発明の共重合体が均整のとれた物性を備えた利用しやすいものであることがわかる。
図1
図2