(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】接合構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 1/00 20240101AFI20240806BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B32B1/00 Z
B32B15/08 M
(21)【出願番号】P 2020013899
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】神岡 渉
(72)【発明者】
【氏名】李 卓唯
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0017242(US,A1)
【文献】国際公開第2007/072603(WO,A1)
【文献】特開2020-022980(JP,A)
【文献】国際公開第2011/045895(WO,A1)
【文献】特開2014-065288(JP,A)
【文献】特開2005-219379(JP,A)
【文献】特開平09-148733(JP,A)
【文献】特開2018-118492(JP,A)
【文献】特開2015-189053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B23K 26/00-26/70
B29C 45/00-45/24,
45/46-45/63,
45/70-45/72,
45/74-45/84,
63/00-63/48,
65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に整列した突起を有する金属加工物である第一部材と、
前記突起を介して前記第一部材と接合している、熱可塑性樹脂を含む第二部材と、を備え、
前記突起は前記第一部材と一体的に形成されており、
前記突起の形状は、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって拡大し、次いで縮小する形状、
前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって縮小し、次いで拡大する形状、
または
前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部まで縮小する形
状である、接合構造体。
【請求項2】
前記突起の高さは、15~200μmである、請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記突起の幅は、10~200μmである、請求項1または2に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記突起の間隔は、10~200μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記突起の先端側から見て、突起の配列は三角形状、四角形状および六角形状の少なくともいずれか1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接合構造体。
【請求項6】
表面に整列した突起を有する金属加工物である第一部材と、
前記突起を介して前記第一部材と接合している、熱可塑性樹脂を含む第二部材と、を備える接合構造体の製造方法であって、該製造方法は、
前記第一部材に、整列した突起を形成する工程を含み、
前記突起を形成する工程はレーザ加工、または化学エッチングによって行われ、
前記突起の形状は、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって拡大し、次いで縮小する形状、
前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって縮小し、次いで拡大する形状、
または
前記突起の高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部まで縮小する形
状である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属と樹脂との接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金属と樹脂とによる接合封止が必要なセンサ、または金属と樹脂とによる接合が必要なリレー等の、金属と樹脂との接合構造体は多くの産業分野において使用されている。この金属と樹脂との接合には様々な方法が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には金属部材の表面に、高エネルギービームによって、複数の窪みもしくは溝を設け、さらにその表面に前記金属部材の溶融物で形成される廂状の隆起部もしくは先端に球状の瘤を備えた括れ部を有する隆起部からなる金属飛沫凝固部を設け、その表面を樹脂部材でモールドした、金属部材と成形樹脂部材との複合成形体が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には重畳的微細粒子構造を有する金属基材の接合予定面と、プラスチックの接合予定面を押圧する工程と、押圧された界面に対しレーザ光を照射し加熱する工程と、加熱により溶融した前記プラスチックが前記重畳的微細粒子構造に入り込みおよび包み込むことで互いに係合する工程と、を含む金属基材とプラスチックの接合方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には開口を有する穿孔部が形成された第1部材と、当該穿孔部に充填された第2部材からなる接合構造体が開示されている。前記穿孔は深さ方向において開口径が大きくなる拡径部と、深さ方向において開口径が小さくなる縮径部とを有し、拡径部が表面側、縮径部が底部側に形成されている接合構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-71312号公報
【文献】特開2016-130003号公報
【文献】国際公開第2016/027775号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る複合成形体の製造方法によると、金属表面が廂状の隆起部、球状の金属飛沫、粒状のスパッタによる粗面形状を有することにより、前記粗面部に樹脂が入り込んで十分な密着性と気密性を有する樹脂複合成形体を安価に製造できるとされている。
【0008】
また特許文献2に係る接合方法によると、金属表面に付着した金属粉末により形成される微細粒子構造にプラスチックが入り込み、または包み込むことによって、アンカー効果を発現し、せん断、剥離、いずれの方向に対しても機械的強度を有する接合体が得られるとされている。
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に係る発明は、加工形状が複雑であり、かつ加工形状を制御することが困難であるため、任意の箇所に所望の加工形状が得られるとは限らず、安定性に欠ける。特許文献2に係る発明ではまた、金属基材に対して金属粉末が表面に付着しているだけであるため、アンカー効果が不十分であり、それゆえ、接合体全体の強度に未だ改善の余地がある。
【0010】
特許文献3に係る接合構造体の製造方法によると、当該接合構造体の拡径部が穿孔内において内側に突出しているため、拡径部と穿孔に充填された第2部材とが剥離方向において係合されることにより、剥離方向の接合強度が向上するとされている。
【0011】
しかしながら、特許文献3に係る発明はアンカー効果を発現する穿孔が独立しているため、熱衝撃などの応力印加時に、応力が集中する部分から順次、穿孔に充填された第2部材が破壊される。したがって、接合部の耐久性は第2部材に含まれる樹脂の強度にのみ依存する。特に、第2部材が繊維強化樹脂を含有した場合、束になった繊維は穿孔に挿入されず、穿孔内に充填されるのは樹脂のみとなるため、当該樹脂が本来よりも低い強度を示す場合がある。
【0012】
したがって、本件発明者は、従来の方法では金属と樹脂を用いた場合、高い接合強度を示す接合構造体を作製することは困難であることを見出した。
【0013】
本発明は、一側面ではこのような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、高い接合強度を有する金属と樹脂との接合構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述した課題を解決するために以下を採用する。
【0015】
すなわち、本発明の一態様に係る接合構造体は、表面に整列した突起を有する金属加工物である第一部材と、前記突起を介して前記第一部材と接合している、熱可塑性樹脂を含む第二部材と、を備える。
【0016】
上記構成では、金属加工物の表面に整列した突起を熱可塑性樹脂が覆う形で固化することで、第一部材と第二部材との間に、物理的に強固なアンカー効果が得られる。上記構成によれば、接合構造体は接合強度が向上する。本明細書において、「整列した突起」とは、規則的に配置された突起を意味する。
【0017】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さは15~200μmであってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の高さ」とは、突起の先端から基部までの距離を意味する。また本明細書において「突起の先端」とは、突起が突出している側から平面を接近させた場合に最初に当該平面に接する突起の部位を意味する。
【0018】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の幅は10~200μmであってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の幅」とは、突起の先端側から見た突起輪郭線の最大フェレ径を意味する。
【0019】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の間隔は10~200μmであってもよい。当該構成によればアンカー効果が発揮されやすい。本明細書において、「突起の間隔」とは、突起の先端側から見て、突起の輪郭線を等距離拡大させた時、隣接する他の突起の輪郭線と最初に接する距離を意味する。
【0020】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の先端側から見て、突起の配列は三角形状、四角形状および六角形状の少なくともいずれか1種であってもよい。当該構成のうち、配列が三角形状であれば、突起が最密配置されるため、垂直引きはがし強度が向上する。また配列が四角形状であればせん断強度の異方性が小さくなる。さらに、配列が六角形状であればせん断強度の異方性が前記四角形状の配列に比べてより小さくなる。
【0021】
本明細書において突起の配列が「四角形状」であるとは、突起の配列が格子型であることを意味する。本明細書において突起の配列が「三角形状」であるとは、突起が第一部材の表面上に最密配置されていることを意味する。また、本明細書において突起の配列が「六角形状」であるとは、突起の配列が亀甲形状であることを意味する。
【0022】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起は、突起の高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって拡大する領域および縮小する領域の少なくともいずれか一方を有してもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が発揮されやすいため、垂直引きはがし強度がより向上する。
【0023】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径は、突起の先端から基部に向かって拡大し、次いで縮小してもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が発揮されやすいため、垂直引きはがし強度がより向上する。
【0024】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径は、突起の先端から基部に向かって縮小し、次いで拡大してもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が発揮されやすいため、垂直引きはがし強度がより向上する。
【0025】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径は、突起の先端から基部まで縮小してもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が発揮されやすいため、垂直引きはがし強度がより向上する。
【0026】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径は、突起の先端から基部まで拡大してもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が得られる。
【0027】
上記一側面に係る接合構造体において、前記突起の高さ方向に垂直な断面の径は、突起の先端から基部まで一定であってもよい。当該構成によれば、前記突起の形状により、アンカー効果が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、高い接合強度を有する金属と樹脂との接合構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施形態に係る接合構造体の断面の一例を模式的に例示する。
【
図2】
図2は、実施形態に係る突起を形成するためのレーザ照射の方法を模式的に表す。
【
図3】
図3は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
【
図4】
図4は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
【
図5】
図5は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
【
図6】
図6は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
【
図7】
図7は、実施形態に係る第一部材の突起の一例を模式的に表す。
【
図8】
図8は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
【
図9】
図9は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
【
図10】
図10は、実施形態に係る第一部材の突起の配列の一例を模式的に表す。
【
図11】
図11は、実施例に係る第一部材のレーザ加工部を模式的に表す。
【
図12】
図12は、実施例に係る垂直引きはがし試験に用いた接合構造体を模式的に表す。
【
図13】
図13は、実施例に係る垂直引きはがし試験の方法を模式的に表す。
【
図14】
図14は、実施例に係るせん断試験に用いた接合構造体を模式的に表す。
【
図15】
図15は、実施例に係るせん断試験の方法を模式的に表す。
【
図16】
図16は、実施例1に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。
【
図17】
図17は、実施例2に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。
【
図18】
図18は、実施例3に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。
【
図19】
図19は、実施例4に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。
【
図20】
図20は、実施例5に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0031】
§1適用例
まず、
図1を用いて本発明の一態様に係る接合構造体の概要を説明する。
図1は、一態様に係る接合構造体の断面の一例を模式的に例示する。
【0032】
図1では、表面に整列した突起3を有する金属加工物である第一部材1と、前記突起3を介して第一部材1と接合している、熱可塑性樹脂を含む第二部材2と、を備える接合構造体が例示されている。
【0033】
第二部材2は、第一部材1に形成された突起3を包み込むように固化しているため、物理的に強固なアンカー効果が得られる。すなわち、第二部材2は、特許文献3のように穿孔に充填される形態ではない。したがって、第二部材2では、穿孔に充填された樹脂部分に応力が集中することがない。これにより、接合構造体が破壊される場合に、接合部の破壊部位が金属突起あるいは第二部材全体となる。また、接合部全体に応力が分散しやすくなるため、第二部材は容易に破壊されない。また、穿孔中で繊維または結晶が挿入されずに樹脂のみが充填されるという事態が生じないので、繊維強化樹脂または結晶性樹脂を用いた場合でも、特許文献3で発生するような樹脂の強度の低下が発生しない。
【0034】
また突起3は整列しているため、接合構造体全体の強度が安定する。加えて、接合に中間層、あるいは接着剤を必要とせず、金属と樹脂とを直接接合させることができる。そのため、高い接合強度を示す接合構造体を提供することができる。
【0035】
§2構成例
<第一部材>
第一部材は、表面に整列した突起を有する金属加工物である。金属加工物の材料としては、例えば、鉄系金属、ステンレス系金属、銅系金属、アルミ系金属、マグネシウム系金属、および、それらの合金等が挙げられる。また、金属加工物は、金属成型体であってもよく、亜鉛ダイカスト、アルミダイカスト、粉末冶金等であってもよい。
【0036】
<突起>
突起は、第一部材の表面に形成される、整列した突起である。第一部材が突起を備えることで、第二部材である熱可塑性樹脂との間に、前記突起を介したアンカー効果が得られる。したがって、接合強度が向上する。
【0037】
前記突起は、第一部材と一体的に形成されていることが好ましい。すなわち、第一部材とは別の部材として形成された突起を第一部材の表面に付着させるのではないことが好ましい。これにより、第一部材に対して突起を付着させる場合に比べて接合強度が向上する。
【0038】
前記突起の高さは、15μm以上、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上、100μm以下である。突起の高さが15μm以上であればアンカー効果が向上する。また突起の高さが200μm以下であれば、樹脂充填性が向上する。
【0039】
前記突起の幅は、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上、100μm以下である。突起の幅が10μm以上であれば、突起形成が容易である。また突起の幅が200μm以下であれば、単位面積当たりの突起の数が増加し、アンカー効果が向上する。
【0040】
前記突起の間隔は、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以上、100μm以下である。突起の間の距離が10μm以上であれば、樹脂充填性に優れる。また、200μm以下であれば、単位面積当たりの突起の数が増加し、アンカー効果が向上する。安定した強度を得る観点からは、突起の間の距離が一定であることが好ましい。
【0041】
前記突起の形状は特に限定されない。例えば、突起は、高さ方向に垂直な断面の径が一定であってもよく、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって拡大する領域および縮小する領域の少なくともいずれか一方を有していてもよい。特に突起が、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって縮小する領域を有している場合、垂直引きはがし強度に優れる。
【0042】
図3~
図7は突起の一例を模式的に例示する。
図3に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって拡大する領域21に次いで、縮小する領域22を備える。
図4に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって縮小する領域22に次いで、拡大する領域21を備える。
図5に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで縮小する領域22のみを備える。
図6に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで拡大する領域21のみを備える。
図7に示す突起3は、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで一定である。また複数の形状の突起を部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば
図3に示す形状と
図4に示す形状とが併存してもよい。
【0043】
前記突起の配列は特に限定されない。
図8~
図10は突起の配列の一例を模式的に例示する。
図8~10では便宜的に、突起の先端を繋いだ形状を太線で示している。突起の先端側から見た突起の配列は、例えば
図8のように四角形状であってもよく、
図9のように三角形状であってもよく、
図10のように六角形状であってもよい。また複数の種類の配列を部分的に使い分けてもよい。すなわち、例えば
図8に示す配列と
図9に示す配列とが併存してもよい。
【0044】
<第二部材>
第二部材は熱可塑性樹脂を含む。第二部材の材料としては、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PAR(ポリアリレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、フルオレン誘導体、EFEP(エチレン四フッ化エチレン系共重合体)、PSU(ポリスルホン)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、AS(アクリロニトリル・スチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)、POM(ポリアセタール)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PPVDC(ポリ塩化ビニリデン)、および、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)が挙げられる。また、樹脂部材はTPE(熱可塑性エラストマ)であってもよく、TPEの一例としては、TPO(オレフィン系)、TPS(スチレン系)、TPEE(エステル系)、TPU(ウレタン系)、TPA(ナイロン系)、および、TPVC(塩化ビニル系)等が挙げられる。材料強度の観点から、上記の中でも結晶性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0045】
また、前記樹脂には充填剤が添加されていてもよい。充填剤としては例えば、無機系充填剤(ガラス繊維、無機塩類など)、金属系充填剤、有機系充填剤、および、炭素繊維等が挙げられる。
【0046】
前記第二部材は、上述の効果を損なわない範囲で、必要に応じて前記熱可塑性樹脂と前記充填剤以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の一例としては、サイジング剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、結晶核材、可塑剤、染料、顔料、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0047】
前記第二部材の材料強度を向上させる目的で、結晶核材として、層状ケイ酸塩を用いることが好ましい。層状ケイ酸塩は、Siを4個の酸素が囲んだ四面体が、3つの頂点を隣の四面体と共有することにより、2次元的に拡がった構造単位(四面体シート)を形成している層状構造をもったケイ酸塩の一群である。また、Siの一部がAlに置換されていてもよい。前記ケイ酸塩の一例としては、マイカ、雲母、タルク、カオリン、モンモリロナイト等が挙げられる。また、Siに加えてMg、Alなどを6個の酸素またはOHが囲んだ八面体の2次元的なつながりである八面体シートも結晶核剤となる。前記八面体シートは層面に平行な劈開が完全であり、一般に板状又は薄片状の形態である。前記八面体シートは化学的には、Si以外にAl、Mg、Fe、アルカリなどを含有する含水ケイ酸塩である。いずれも市販品を利用することができる。
【0048】
<接合構造体の製造方法>
前記接合構造体は、例えば前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程を含む製造方法によって得られる。
【0049】
前記接合構造体の製造方法は、前記第一部材と前記第二部材とを接合する工程の前に、第一部材に突起を形成する工程を含んでいてもよい。第一部材の突起の形成方法は特に限定されず、レーザ加工または化学エッチング等によって行っても良い。
【0050】
突起の形成に用いるレーザは例えばファイバレーザ、YAGレーザ、YVO4レーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ等が挙げられる。突起の高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部に向かって縮小する領域を有する突起を形成する場合はパルスレーザが適しており、それ以外の場合は連続波レーザでもよい。パルスレーザとしては、サブパルスレーザがより好ましい。
【0051】
図2は、実施形態に係る突起を形成するためのレーザ照射の方法を模式的に表す。前記金属に対して、
図2に示すレーザ照射部11が一部重畳するようにレーザ加工することで、レーザ非照射部13が独立した突起となる。
図2では、レーザ照射部が重畳する領域をレーザ照射重畳部12として示している。
【0052】
第一部材と第二部材とを接合する方法としては、レーザ接合、射出成形接合、超音波溶着、熱プレス溶着等が挙げられる。
【0053】
レーザ接合は、例えば以下のように行われる。第一部材の加工部に、第二部材を押圧しながらレーザを照射して、熱により第二部材を溶融させる。レーザを照射する方向は、第二部材がレーザを透過する場合は第二部材側から、第二部材がレーザを透過しない場合は第一部材側から照射する。その後、レーザ照射を停止すると、冷却されて第二部材が突起を包み込むように固化することで、第一部材と第二部材が接合した接合構造体が得られる。
【0054】
射出成形接合は、例えば電動射出成形機を用いて行われる。具体的には、第一部材を前記成形機に設置した金型内にインサートし、当該金型内に溶融した樹脂を充填することにより、第二部材を成形し、接合構造体を得られる。
【0055】
超音波溶着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、超音波溶着用の機器に設置することにより行われる。超音波溶着用のホーンを介して超音波溶着させ、接合構造体を得る。
【0056】
熱プレス接着は、第一部材と第二部材とを接合部を介して重ね合わせ、熱プレス用の機器、あるいは金型に設置することにより行われる。第二部材側から熱と圧力をかけて接合させ、接合構造体を得る。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔垂直引きはがし試験〕
図12は垂直引きはがし試験に用いた接合構造体を模式的に表す。垂直引きはがし試験に用いた接合構造体は、第一部材1の長手方向と第二部材の長手方向とが垂直になるように接合することによって得た。接合構造体の接合時、第一部材1、第二部材2の両側から加圧しながら第二部材側2からレーザを照射した。
【0060】
また、
図13は垂直引きはがし試験の方法を模式的に表す。電気機械式万能試験機5900(インストロン製)を用いて、接合構造体を、接合面に対して垂直方向(
図13に引張方向として示される矢印の方向)に引っ張った。第二部材2または接合界面が破壊された時点で試験を終了した。モーメントの発生を抑制するため、第二部材2の長手方向の両端を樹脂でチャックし、引張速度は5mm/minとした。得られた荷重(N)を、接合部の面積(25mm×2mm)で除することにより、接合強度(N/mm
2=MPa)を求めた。接合強度の数値は、5回の試験から得られた平均値として表した。また表には、接合強度が3MPa未満であれば×、3MPa以上であれば○、10MPa以上であれば◎と表記した。
【0061】
〔せん断強度試験〕
図14はせん断強度試験に用いた接合構造体を模式的に表す。せん断強度試験に用いた接合構造体は、第一部材1の長手方向と第二部材の長手方向とが平行になるように接合することによって得た。接合構造体の接合時、第一部材1、第二部材2の両側から加圧しながら第二部材側2からレーザを照射した。
【0062】
また、
図15はせん断強度試験の方法を模式的に表す。
図15において、第一部材および第二部材の長手方向をX軸方向とし、X軸方向に垂直な方向であって第一部材および第二部材の厚み方向にも垂直な方向をY軸方向とし、第一部材および第二部材の厚み方向をZ軸方向とする。接合部に対してX軸方向に、電気機械式万能試験機5900(インストロン製)を用いて、接合構造体を引っ張った。モーメントの発生を抑制するため、サンプル板と同じ厚みのダミー板を挟んでチャックし、引張速度5mm/minで試験を行った。第二部材の破断もしくは接合界面の破断で試験を終了した。Y軸方向のせん断強度も、同様に測定した。Y軸方向のせん断強度に対するX軸方向のせん断強度の比率を、5回の試験から得られた数値範囲で表した。
【0063】
〔実施例1〕
金属材料であるSUS304(50mm×25mm、厚さ2mm)に対して、ファイバーレーザマーカMX-Z2000H(オムロン製)を用いて突起を形成することにより第一部材を作製した。
【0064】
図11は第一部材1のレーザ加工部4を模式的に表す。レーザ加工部4を第一部材1の長手方向の一方の端部に形成した。レーザ加工部4の面積は2mm×25mmであった。突起形成時のレーザ照射条件は以下の通りである。波長:1062nm、出力:3W、周波数:10kHz、走査速度:400mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。突起の配列が
図8に示す四角形状となるようにレーザを照射した。
【0065】
図16は、実施例1に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。当該突起は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって拡大する領域に次いで、縮小する領域を有する形であった。
【0066】
得られた金属加工物を、金属加工物と同じサイズの、PMMA(アクリライト、三菱レイヨン製)からなる第二部材と重ね合わせ、次いで第一部材と第二部材とを接合するために、金属の加工部に圧力をかけながら半導体レーザを照射して、接合構造体を得た。接合時のレーザ照射条件と加圧条件は以下の通りである。出力:24W、照射径:2mm、走査速度30mm/s、走査回数:30回、加圧力:80N。
【0067】
〔実施例2〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を、以下のように変更したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度700mm/s、走査回数:30回、サブパルス20本。
図17は、実施例2に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。当該突起は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部に向かって縮小する領域に次いで、拡大する領域を有する形であった。
【0068】
〔実施例3〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を、以下のように変更したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:980mm/s、走査回数:30回、サブパルス:20本。
図18は実施例3に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。当該突起は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部まで縮小する領域のみを有する形であった。
【0069】
〔実施例4〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を、以下のように変更したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:6W、周波数:10kHz、走査速度:700mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
図19は実施例4に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。当該突起は、高さ方向に垂直な断面の径が、突起の先端から基部まで拡大する領域のみを有する形であった。
【0070】
〔実施例5〕
第一部材の突起を形成するためのレーザ照射条件を、以下のように変更したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。出力:1W、周波数:10kHz、走査速度:400mm/s、走査回数:20回、サブパルス:20本。
図20は実施例5に係る突起を示す光学顕微鏡画像を表す。当該突起は、実施例4に比べると、高さ方向に垂直な断面の径が突起の先端から基部まで一定に近い形であった。
【0071】
〔比較例1〕
第一部材の金属表面にステンレス、チタン、炭化ホウ素からなる粉体を吹き付け、半導体レーザによるクラッディング層の形成を行った。半導体レーザの照射条件は以下の通りである。波長:970nm、出力:1000W、周波数:1kHz、Duty:70%、走査速度:30mm/s。第二部材との接合は、実施例1と同様に行い、接合構造体を得た。
【0072】
実施例1~5、比較例1の垂直引きはがし試験の結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1より、整列した突起が第一部材と一体的に形成されている実施例1~5は、レーザクラッディングにより作製した比較例1と比較して、より強い接合を示すことが分かった。
【0075】
〔実施例6〕
第二部材の樹脂をPA6としたこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0076】
〔実施例7〕
第二部材の樹脂として、PBTにガラス繊維(GF)を分散させた樹脂を用いた。当該樹脂全体に対するガラス繊維の含有量は30重量%であった。この樹脂はレーザが透過しにくいため、接合時のレーザは裏面から照射し、金属を加熱することによって接合し、接合構造体を得た。接合時のレーザの照射条件は以下の通りである。出力:50W、照射径:2mm、走査速度:30mm/s、走査回数:30回、加圧力:80N。これらのこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0077】
〔実施例8〕
第二部材の樹脂として、PA6に炭素繊維(CF)を分散させた樹脂(CFRTP)を用いたこと以外は実施例7と同様に、接合構造体を得た。CFRTP全体に対する炭素繊維の含有量は30重量%であった。
【0078】
実施例1および実施例6~8の垂直引きはがし試験の結果を表2に示す。結果は、接合強度の数値ではなく、破壊された部材のみを記載した。
【0079】
【0080】
表2より、樹脂の種類を変更した場合でも、接合部ではなく第二部材が破壊された。
【0081】
〔実施例9〕
突起形成のためのレーザ走査軌道を適宜調整し、
図9に示す配列で突起を作製したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0082】
〔実施例10〕
突起形成のためのレーザ走査軌道を適宜調整し、
図10に示す配列で突起を作製したこと以外は実施例1と同様に接合構造体を得た。
【0083】
実施例1、9~10および比較例1の、垂直引きはがし試験とせん断強度試験の結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
表3より、突起が整列した実施例1、9~10は、突起がランダムな配列である比較例1と比較して、垂直引きはがし強度に優れ、せん断強度の異方性を抑制できていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の一態様は、例えば金属と樹脂による接合、または金属と樹脂による接合封止が必要な機器全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 第一部材
2 第二部材
3 突起
4 レーザ加工部
11 レーザ照射部
12 レーザ照射重畳部
13 レーザ非照射部
21 径が拡大する領域
22 径が縮小する領域