(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】冷感剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240806BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240806BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240806BHJP
C07C 67/03 20060101ALI20240806BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09K3/00 B
A61K8/37
A61Q19/00
C07C67/03
C07C69/675
(21)【出願番号】P 2020020037
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】横堀 海
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-105223(JP,A)
【文献】米国特許第02348710(US,A)
【文献】特開平09-227455(JP,A)
【文献】特開2010-254622(JP,A)
【文献】特開2010-254621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61Q,
C09K,C07C,C07F
CAPLUS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを有効成分として含有する冷感剤組成物であって、
該α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルは、8つの光学異性体から選ばれる1つであるか、又は8つの光学異性体から選ばれる2つ以上の光学異性体の任意の割合の混合物である、冷感剤組成物。
【化1】
(式(1)中、*が付された炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【請求項2】
式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが、α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルである、請求項1に記載の冷感剤組成物。
【請求項3】
式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの冷感剤としての使用であって、
該α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルは、8つの光学異性体から選ばれる1つであるか、又は8つの光学異性体から選ばれる2つ以上の光学異性体の任意の割合の混合物である、使用。
【化2】
(式(1)中、*が付された炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【請求項4】
式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが、α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
式(2)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル。
【化3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを有効成分として含有する冷感剤組成物、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの冷感剤としての使用、及びα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルに関する。
【背景技術】
【0002】
メントールは生理学的な冷感剤として有用であり、工業的に重要な化合物である。一方で、(i)冷感作用が長続きせず、作用時間が短いこと、(ii)薄荷様の強い匂いを伴うこと、(iii)常温で固体であるために使用時に加熱融解又は溶媒に溶解させるなどして取り扱いに手間がかかること等の、種々の問題があることが知られている。
【0003】
これらの欠点を改良する方法としてメントールを化学修飾する方法が公知である。
例えば、特許文献1には、天然に得られる炭素数2~6の炭素原子を有するヒドロキシカルボン酸メンチルエステルが無味無臭であり、長く持続する冷感作用を持つとの記載があり、上記のメントールの欠点の(i)及び(ii)の改善が図られている。具体的には乳酸、グリコール酸、β-ヒドロキシ酪酸、α-ヒドロキシイソ吉草酸、α-ヒドロキシ-α-メチル吉草酸、α-ヒドロキシ-γ-メチル吉草酸、α-ヒドロキシカプロン酸、β-ヒドロキシカプロン酸のl-メントールエステルが冷感作用を示すことが提示されている。
【0004】
天然に得られるヒドロキシカルボン酸は、動植物の代謝等によって生産されるために安全性が高い一方で、一般的に生産効率が低い、副生物が多く製品純度が低いという欠点を持つ。そのため、炭素数の少ない低級なヒドロキシカルボン酸である乳酸、グリコール酸などについては天然由来の産出方法の他に化学的な合成方法も開発されており、安価な工業的利用が可能である。一方で炭素数の多い高級ヒドロキシカルボン酸については天然由来の産出方法、化学的な合成方法いずれによっても安価な供給が難しい傾向がある。
工業的に安価に入手しやすい低級ヒドロキシカルボン酸である乳酸、グリコール酸の(-)-メントールエステルについては、各々の融点が32℃(DL-乳酸エステル)、83℃(グリコール酸エステル)と常温で固体である。
そのため、例えば、特許文献2には、乳酸(-)-メンチルがメントールと同様に上記(iii)の欠点を有し、それを回避する方法としてメントールと乳酸(-)-メンチルの特定比率からなる混合物とすることによって、周辺条件(21℃)において液体状態となり、容易に取り扱うことができるとの記載がある。
【0005】
また、特許文献3には、3-ヒドロキシ酪酸メンチル(β-ヒドロキシ酪酸メンチル)が常温にて無色無臭の液体であり、長く持続する冷感作用を持つとの記載があり、上記のメントールの欠点の(i)~(iii)の改善が図られている。同文献には3-ヒドロキシ酪酸メンチルを誘導する方法としてメントールとジケテンを反応させて、アセト酢酸メンチルを合成し、逐次的に還元することで3-ヒドロキシ酪酸メンチルを製造するプロセスが工業的に有利であるとの記載がある。
【0006】
また、特許文献4には、(3S)-3-ヒドロキシ酪酸(-)-メンチルが、苦味や好ましくない刺激性を持たず、冷涼感の持続性に優れた無色液体であるとの記載があり、上記のメントールの欠点の(i)及び(iii)の改善が図られている。同文献には(3S)-3-ヒドロキシ酪酸(-)-メンチルを誘導する方法として、(-)-メントールとアセト酢酸メチルをエステル交換反応させて、アセト酢酸(-)-メンチルを合成し、次に光学活性な貴金属錯体触媒の存在下に不斉水素化還元することで(3S)-3-ヒドロキシ酪酸(-)-メンチルを製造するプロセスの記載がある。
【0007】
また、特許文献5にはα-ヒドロキシイソ酪酸とメントールをエステル化反応させることによりα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが得られること、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが無色無臭の液体であること、ニトロセルロース、樹脂、染料、インク、塗料等の溶媒として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭52-105223号公報
【文献】特表2016-505535号公報
【文献】特開昭61-194049号公報
【文献】特開2010-254621号公報
【文献】米国特許第2,348,710号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、メントールの持つ欠点を改善した、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを有効成分として含有する冷感剤組成物、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの冷感剤としての使用、及び新規な冷感剤として有用な化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々の化合物を合成し、その冷感作用について鋭意検討した結果、工業的に安価に製造することができるα-ヒドロキシイソ酪酸化合物を用いて、簡易な反応プロセスによって製造できるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが冷感剤組成物の有効成分として有用であり、その作用がメントールよりも長く持続することを見出した。
更に、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの光学異性体の一つであるα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルが、持続性に優れた新規な冷感剤として特に有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
<1> 式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを有効成分として含有する冷感剤組成物であって、該α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルは、8つの光学異性体から選ばれる1つであるか、又は8つの光学異性体から選ばれる2つ以上の光学異性体の任意の割合の混合物である、冷感剤組成物。
【0012】
【化1】
(式(1)中、*が付された炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【0013】
<2> 式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが、α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルである、<1>に記載の冷感剤組成物。
<3> 式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの冷感剤としての使用であって、該α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルは、8つの光学異性体から選ばれる1つであるか、又は8つの光学異性体から選ばれる2つ以上の光学異性体の任意の割合の混合物である、使用。
【0014】
【化2】
(式(1)中、*が付された炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【0015】
<4> 式(1)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが、α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルである、<3>に記載の使用。
<5> 式(2)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル。
【0016】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、メントールの持つ欠点を改善した、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを有効成分として含有する冷感剤組成物、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの冷感剤としての使用、及び新規な冷感剤として有用な化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[冷感剤組成物]
本発明の冷感剤組成物は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む。特許文献5には、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルの化合物そのものについては報告があるが、その生理学的な冷感作用について、先行文献に記載はなかった。
その生理学的な冷感作用の発現機構の詳細は不明である。特許文献1に記載されているような天然に得られるヒドロキシカルボン酸のメンチルエステルが生理学的な冷感作用を示すことについては、天然に得られるヒドロキシカルボン酸には生体内の分解酵素によって代謝されるルートが存在し、その過程でヒドロキシカルボン酸のメンチルエステルの一部がメントールの形で放出されるなどして発現していると推察される。一方で、天然由来ではない下記式(1)で表される化合物については、それ自体が冷感作用を有しているのか、又はどのような分解過程で冷感作用を発現しているのか予見できず、生理学的な冷感作用を持つことは驚くべきことである。
また、式(1)で表される化合物は、常温常圧(25℃、101.3kPa)において液体であり、更に、無色無臭でありながら、メントールに比べて冷感作用の持続性が良好であり、これを含有する組成物は、冷感剤組成物として有用である。
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0019】
<式(1)で表される化合物>
本発明の冷感剤組成物に用いられる化合物は、下記式(1)で表される。式(1)で表される化合物は、3つの不斉炭素原子を有し、これらに由来する8つの光学異性体から選ばれる1つであるか、又は8つの光学生体から選ばれる2つ以上の光学異性体の任意の割合の混合物である。
【0020】
【化4】
(式(1)中、*が付された炭素原子は、不斉炭素原子であることを示す。)
【0021】
より具体的には、式(1)で表される化合物は、下記式(1-1)~(1-8)の光学異性体から選ばれる1つのみからなるか、又は下記式(1-1)~(1-8)の光学異性体から選ばれる2つ以上の光学異性体を任意の割合で含む混合物である。
【0022】
【0023】
式(1-1)~(1-8)の化合物は、それぞれ、(-)-メントール、(+)-メントール、(-)-イソメントール、(+)-イソメントール、(-)-ネオメントール、(+)-ネオメントール、(-)-ネオイソメントール、及び(+)-ネオイソメントール(以下、これらを総称して「メントール類」ともいう。)のα-ヒドロキシイソ酪酸エステルである。
これらの中では、天然物中の存在量が最も多く、安価で入手が容易な(-)-メントール((1R,2S,5R)-メントール)から得られるα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル(上式中の式(1-1)であり、2-ヒドロキシイソ酪酸(1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシル、又はα-ヒドロキシイソ酪酸l-メンチルともいう。)が特に好ましい。
【0024】
<冷感剤組成物>
本発明の冷感剤組成物は、式(1)で表される化合物を有効成分として含有する。なお、式(1)で表される化合物を少なくとも1種以上含有すれば特に限定されないが、2種以上の式(1)で表される化合物を任意の割合で混合した状態で含有していてもよい。
本発明の冷感剤組成物は、式(1)で表される化合物を有効成分として含有していればよく、その他の成分については特に限定されないが、他の冷感剤(以下、「従来の冷感剤」ともいう。)、又は冷感促進剤、感覚刺激剤等を更に含有してもよい。
【0025】
式(1)で表される化合物を従来の冷感剤と組み合わせて用いる場合、従来の冷感剤として特に制限はなく、広い範囲の冷感剤が使用でき、下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。例えば、メントール、メントン、カンファー、プレゴール、イソプレゴール、シネオール、ハッカオイル、ペパーミントオイル、スペアーミントオイル、ユーカリプタスオイル、3-ヒドロキシブタン酸メンチル、乳酸メンチル、モノメンチルグルタレート、モノメンチルスクシネート、グリオキシル酸メンチル、メントングリセリンケタール、メントールエチレングリコールカーボネート、メントールプロピレングリコールカーボネート、3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、2-メチル-3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、2-(l-メントキシ)エタン-1-オール、3-(l-メントキシ)プロパン-1-オール、4-(l-メントキシ)ブタン-1-オール、p-メンタン-3,8-ジオール、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブタンアミド、N,2-ジエチル-2-イソプロピル-3-メチルブタンアミド、N-メチル-2,2-イソプロピルメチル-3-メチルブタンアミド、及びN-エトキシカルボニルメチル-3-p-メンタンカルボキサミド等を挙げることができる。
【0026】
また、式(1)で表される化合物を冷感促進剤、感覚刺激剤と組み合わせて用いる場合に特に制限はなく、広い範囲の化合物が使用でき、下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。例えば、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリンプロピレングリコールアセタール、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、カプサイシン、ギンゲロール、バニリルブチルエーテル、4-(l-メントキシメチル)-2-(3'-メトキシ-4'-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン、トウガラシ油、トウガラシオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、ノニル酸バニリルアミド、ジャンブーオレオレジン、サンショウエキス、サンショール-I、サンショール-II、サンショウアミド、黒胡椒エキス、カビシン、ピペリン、及びスピラントール等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明の冷感剤組成物は、冷感剤以外の構成成分として界面活性剤、溶媒、酸化防止剤、着色剤、香料成分、医薬成分等も含んでいてもよい。
【0028】
本発明の冷感剤組成物中の式(1)で表される化合物の配合量は、化合物の種類又は組成、目的とする冷感作用の強さ等により異なるが、式(1)で表される化合物の量として冷感剤組成物中に、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0029】
本発明の冷感剤組成物は、冷感効果が望まれる種々の製品に添加、配合することができ、その対象に特に制限はない。本発明の冷感剤組成物を添加、配合することができる製品を例示すると、例えば、化粧品としては、柔軟化粧水、収れん化粧水、ふきとり用化粧水、カラミンローション、アフターシェーブローション、メイクアップ透明ローション、スキンローションなどの種々の化粧水・美容液類、及びマッサージクリーム、クレンジングクリーム、スキンクリーム、夏用ファンデーションクリーム、サンタンクリーム、ミルキィローション、リップクリームなどのクリーム・乳液類等の皮膚化粧料、香水、オーデコロンなどのコロン類、リップスティク、制汗剤など;トイレタリー製品としては、シャンプー、コンデショナー、ヘアートニック、ヘアジェル、育毛剤、洗顔料、ボディソープ、シェービングフォーム、シェービングクリーム、化粧石鹸、ヘアーリンス、粉末、液体、発泡錠剤等の各種入浴剤;医薬品としては虫除けスプレー及び虫除けローション、養毛剤、パップ剤、鎮痛剤(ローション剤、エアゾール剤)などを挙げることができる。
【0030】
[冷感剤としての使用]
本発明において、上述した式(1)で表される化合物を冷感剤として使用する。
式(1)で表される化合物の好ましい態様、使用の方法、配合量等は、冷感剤組成物におけるものと同様である。
【0031】
[α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル]
本発明の化合物は下式(2)で表されるα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル((1R,2S,5R)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシル 2-ヒドロキシイソ酪酸エステル)である。
【0032】
【0033】
特許文献5にはα-ヒドロキシイソ酪酸とメントールをエステル化反応させることによりα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルが得られることが記載されているが、原料のメントール又は生成物のα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルについての光学異性体に関する情報の記載は認められない。
【0034】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物の製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法から適宜選択して用いればよい。
例えば、α-ヒドロキシイソ酪酸とメントール類とを、触媒の存在下又は不在下にエステル化反応させることによって、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(3)に示した。
【0035】
【0036】
また、別種のα-ヒドロキシイソ酪酸エステルとメントール類とを、触媒の存在下にエステル交換反応させることによって、α-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(4)に示した。
【0037】
【化8】
式(4)中、ROHは原料メントール(α-ヒドロキシイソ酪酸エステルと反応させるメントール類)と異なるアルコールであれば特に制限はない。これらの中でも、Rは、エステル交換反応を容易とする観点から、好ましくは炭素数1~4の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~3の炭化水素基、更に好ましくはメチル基又はエチル基、より更に好ましくはメチル基である。
【0038】
これらの反応に用いられる触媒や反応方式、反応条件、及び反応装置などについても、従来公知な触媒、反応方法、反応条件、及び反応装置を用いることができ、特に制限はない。また、得られた式(1)の化合物を精製する方法についても、従来公知な精製方法を採用することができ、何ら制限はない。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を以って本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、特に断りがない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0040】
反応成績の評価は下記の式によって評価した。
原料転化率(%)=[1-(反応液中の原料メントールのモル数)/(仕込液中の原料メントールのモル数)]×100%
反応選択率(%)=(反応液中の生成エステルのモル数)/[(仕込液中の原料メントールのモル数)-(反応液中の原料メントールのモル数)]×100%
【0041】
<ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)>
装置:GC-2010((株)島津製作所製、製品名)
検出器:FID
カラム:DB-1(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ(内径)×60m(長さ)×0.25μm(膜厚))
【0042】
<比旋光度測定>
装置:P-2200(日本分光(株)製、製品名)
条件:測定光波長 ナトリウムD線(589nm)、温度20℃、セル長100mm、
濃度99.66mg/10ml(メタノール)、10回積算
【0043】
<NMRスペクトル分析>
エステル化合物の同定は1H-NMR測定及び13C-NMR測定によって行った。測定条件を下記に示す。
装置:「ECA500」(日本電子(株)製、製品名)
〔1H-NMR〕
核種:1H
測定周波数:500MHz
測定試料:5%CDCl3溶液
〔13C-NMR〕
核種:13C
測定周波数:125MHz
測定試料:5%CDCl3溶液
【0044】
<ガスクロマトグラフ-質量分析(GC-MS分析)>
エステル化合物の同定は、GC-MS測定(化学イオン化法[CI+]、高分解能質量分析[ミリマス])により分子量を特定することによっても行った。測定条件を下記に示す。
GC装置:「Agilent 7890A」(アジレント社製、商品名)
GC測定条件
カラム:「DB-1」(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ(内径)×30m(長さ)×0.25μm(膜厚))
MS装置:「JMS-T100GCV」(日本電子(株)製、製品名)
MS測定条件、化学イオン化法
検出器条件:200eV,300μA
試薬ガス:イソブタン
化学イオン化法によりプロトン化された状態で検出されたフラグメントのExact.Mass値と、それによって帰属された化学組成式を記載した。
【0045】
<実施例1:α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルの合成>
蒸留管を備えた200mlガラス製フラスコにα-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製)15.6g、(-)-メントール(東京化成工業(株)製)17.8g、28%ナトリウムメトキシド-メタノール溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)1.0g、ヘキサン(富士フイルム和光純薬(株)製)7ml、トルエン(富士フイルム和光純薬(株)製)10mlを充填した。常圧下で加熱還流しながらエステル交換反応を行い、生成するメタノールをヘキサンとの共沸によって抜き出しながら11時間反応を行った。
その結果、下記式(5)の反応により原料転化率95%、反応選択率88%でα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルが得られた。反応系に酢酸エチルを加えて、塩化アンモニウム水溶液及び飽和食塩水を用いて水洗した。その後に減圧蒸留を行い、2hPa、96℃の留分としてα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル9.2g(GC分析による純度(以下、GC純度ともいう。):99.1%)を得た。得られた(-)-メンチルエステルは無色無臭で透明液体であった。この物質の比旋光度、NMRスペクトル分析、及びGC-MS分析の結果を併記した。
【0046】
【0047】
〔α-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル〕
比旋光度 [α]20=-74.8
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.77 (3H, d, J = 7.0Hz), 0.88 (1H, m), 0.91 (3H, d, J = 7.0Hz), 0.93 (3H, d, J = 7.0Hz), 1.01 (1H, q, J = 12.0Hz), 1.03-1.12 (1H, m), 1.42 (3H, s), 1.44 (3H, s), 1.45 (1H, m), 1.49-1.55 (1H, m), 1.69-1.73 (2H, m), 1.87 (1H, sept, d, J = 7.0, 3.0), 1.97-2.02 (1H, m), 3.19 (1H, s), 4.73 (1H, td, J = 11.0, 4.0Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 15.98, 20.75, 21.95, 23.18, 26.17, 27.00, 27.18, 31.34, 34.14, 40.54, 46.96, 71.87, 75.89, 177.18
Exact.Mass 243.19536(C14H26O3, 親ピーク),139.15247(C10H18)
【0048】
<実施例2、比較例1~2:冷感作用の評価>
実施例2として実施例1により調製したα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチル、比較例1として乳酸(-)-メンチル(東京化成工業(株)製)、比較例2として(-)-メントール(東京化成工業(株)製)を各々冷感剤として1%用い、更に99.5%エタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)及び蒸留水を溶媒として用いて下記の表1に記載の配合比率(%)の均一溶液(冷感剤組成物)を調合した。
【0049】
【0050】
実施例2では冷感剤が液体であるために溶液調合は簡単な撹拌程度でよく、容易であったのに対して、比較例1及び比較例2の溶液調合では冷感剤が固体であるために充分な撹拌が必要であった。また、実施例2及び比較例1の溶液では匂いは感じられなかったのに対して、比較例2の溶液は冷感剤濃度が1%であっても薄荷様の匂いを伴っていた。溶液の調合操作、調合された溶液の臭気について、まとめたものが下記の表2である。
【0051】
【0052】
各々の溶液試料500μLをキズあてパッド(30mm×45mm、ニチバンメディカル(株)製)に滴下し、前腕部に張った。パネラー3名による冷感作用の評価を、非常に強い(A)、強い(B)、弱い(C)、殆ど感じない(D)の判断基準で行い、パネラーの平均的な感じ方を経時的な変化にまとめた(表3)。
【0053】
【0054】
この結果からα-ヒドロキシイソ酪酸(-)-メンチルは無臭で、かつ、(-)-メントール及び乳酸(-)-メンチルよりも冷感作用の持続性が良好であった。また、常温で液状であることから、均一な冷感剤含有溶液の調合などの取り扱い上の利便性について乳酸(-)-メンチル、(-)-メントールよりも向上している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の冷感剤組成物は、メントールよりも長く持続する優れた冷感作用を有し、常温で液体状態であり、取り扱いが容易である上に、薄荷様の匂いがないα-ヒドロキシイソ酪酸メンチルを含有する冷感組成物であり、各種製品に配合することにより、所望の冷感作用を発揮するものである。