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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】音量調整装置および音量調整方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240806BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20240806BHJP
   H03G 3/20 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H04R3/00 310
G10K15/00 L
H03G3/20 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020020807
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021129145
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕介
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-093728(JP,A)
【文献】特開2012-015792(JP,A)
【文献】特開2006-261808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
G10K 15/00
H03G 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクと、
スピーカと、
前記スピーカから測定音を出力し、前記マイクで第1インパルス応答を測定し、前記第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて前記マイクの設置位置とは異なる目的の位置における第2インパルス応答を推定し、前記第2インパルス応答に基づいて、前記スピーカから出力される音の音量を調整する信号処理部と、
を備えた音量調整装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記第1インパルス応答の前記直接音成分のエネルギーと前記間接音成分のエネルギーの比が所定のエネルギー比になるように、前記直接音成分を調整することで、前記第2インパルス応答を推定する、
請求項1に記載の音量調整装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のエネルギーに基づいて、前記測定音の前記目的の位置における音圧を推定して、当該音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整する、
請求項1または請求項2に記載の音量調整装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のパワーの比に基づいて、前記目的の位置における前記音圧を推定する、
請求項3に記載の音量調整装置。
【請求項5】
前記目的の位置は、前記パワーの比が所定値になる位置に対応する、
請求項4に記載の音量調整装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記パワーの比に基づいて前記スピーカから出力される音の減衰量を推定し、前記測定音の前記マイクで測定された第1音圧および前記減衰量に基づいて前記目的の位置における第2音圧を推定する、
請求項4または請求項5に記載の音量調整装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記第2音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整する、
請求項6に記載の音量調整装置。
【請求項8】
前記スピーカは、複数のスピーカを含み、
前記信号処理部は、前記複数のスピーカのそれぞれについて、前記測定音を出力し、前記第1インパルス応答を測定し、それぞれの第1インパルス応答を平均化して、平均化した第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて、前記複数のスピーカから出力する音の音量を調整する、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の音量調整装置。
【請求項9】
前記直接音成分は、前記測定音を出力してから最初のピークの前後所定時間範囲内の前記第1インパルス応答に対応する、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の音量調整装置。
【請求項10】
前記マイクは、室内の天井に設置されている、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の音量調整装置。
【請求項11】
遠端側から音信号を受信する通信部を備え、
前記信号処理部は、前記通信部で受信した音信号のレベルを調整することで、前記スピーカから出力される音の音量を調整する、
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の音量調整装置。
【請求項12】
スピーカから測定音を出力し、マイクで第1インパルス応答を測定し、前記第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて前記マイクの設置位置とは異なる目的の位置における第2インパルス応答を推定し、前記第2インパルス応答に基づいて、前記スピーカから出力される音の音量を調整する、
音量調整方法。
【請求項13】
前記第1インパルス応答の前記直接音成分のエネルギーと前記間接音成分のエネルギーの比が所定のエネルギー比になるように、前記直接音成分を調整することで、前記第2インパルス応答を推定する、
請求項10に記載の音量調整方法。
【請求項14】
前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のエネルギーに基づいて、前記測定音の前記目的の位置における音圧を推定して、当該音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整する、
請求項12または請求項13に記載の音量調整方法。
【請求項15】
前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のパワーの比に基づいて、前記目的の位置における前記音圧を推定する、
請求項14に記載の音量調整方法。
【請求項16】
前記目的の位置は、前記パワーの比が所定値になる位置に対応する、
請求項15に記載の音量調整方法。
【請求項17】
前記パワーの比に基づいて前記スピーカから出力される音の減衰量を推定し、 前記測定音の前記マイクで測定された第1音圧および前記減衰量に基づいて前記目的の位置における第2音圧を推定する、
請求項15または請求項16に記載の音量調整方法。
【請求項18】
前記第2音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整する、
請求項17に記載の音量調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、音量を調整する音量調整装置および音量調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スピーカからテスト音を出力し、マイクで当該テスト音を取得して、周波数特性を制御する音響制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-116036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピーカから出力された後に聴取位置に到達する音は、直接音だけでなく、室内の反射音および残響音等の間接音を含む。スピーカから出力された音を聴取位置で適切な音量で聞くためには、直接音だけでなく間接音も考慮して音量を調整する必要がある。この様な適切な音量調整を行なうためには、マイクを適切な位置に設置して音圧を測定する必要がある。
【0005】
しかし、マイクをどの様な位置に設置して、どの様な測定を行なうのか、判断するのは難しい。
【0006】
そこで、本発明の一実施形態の目的の一つは、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整できる音量調整装置および音量調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態の音量調整装置は、マイクと、スピーカと、前記スピーカから測定音を出力し、前記マイクで第1インパルス応答を測定し、前記第1インパルス応答の直接音成分と間接音成分とのレベルに基づいて、前記スピーカに出力する音信号の音量を調整する信号処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】音量調整装置1の構成を示すブロック図である。
図2】マイク15およびスピーカ17の位置関係を示した室内模式図である。
図3】プロセッサ12の動作を示すフローチャートである。
図4】第1インパルス応答の直接音成分を示す模式図である。
図5】第1インパルス応答の間接音成分を示す模式図である。
図6】距離と音圧の関係を示す図である。
図7】第2インパルス応答を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、音量調整装置1の構成を示すブロック図である。音量調整装置1は、通信部11、プロセッサ12、RAM13、フラッシュメモリ14、マイク15、アンプ16、およびスピーカ17を備えている。
【0011】
図2は、マイク15およびスピーカ17の位置関係を示した室内模式図である。この例では、マイク15は、室内の天井に設置される。スピーカ17は、室内の壁面に設置される。ただし、本発明において、マイクおよびスピーカの設置態様は、図2の例に限らない。例えばスピーカおよびマイクは、机上に設置してもよい。
【0012】
音量調整装置1は、例えば遠隔会議装置を構成する。音量調整装置1は、マイク15で取得した音信号を遠端側に送信する。また、音量調整装置1は、遠端側から受信した音信号に基づいて、スピーカ17から音を出力する。音量調整装置1は、遠端側から受信した音信号の音量を調整する。なお、本発明の音量調整装置は、遠隔会議装置に適用する例に限らない。本発明の音量調整装置は、通信部11を備えている必要はない。音量調整装置1は、例えばフラッシュメモリ14に記憶されているコンテンツを再生し、再生した音信号の音量を調整してもよい。すなわち、本発明の音量調整装置は、少なくともスピーカとマイクと信号処理機能とを備えた装置であればどの様な装置に適用することもできる。
【0013】
図1において、通信部11は、インターネット等を介して遠端側の遠隔会議装置に接続し、遠端側の遠隔会議装置と音信号を送受信する。
【0014】
プロセッサ12は、本発明の信号処理部の一例であり、CPU、DSP、またはSoC(System on a Chip)等からなる。プロセッサ12は、記憶媒体であるフラッシュメモリ14からプログラムを読み出し、RAM13に一時記憶することで、種々の動作を行う。プログラムは、音量調整プログラム141を含む。フラッシュメモリ14は、他にもファームウェア等のプロセッサ12の動作用プログラムを記憶している。
【0015】
マイク15は、室内の音を音信号として取得する。室内の音は、例えば近端側の話者の音声、スピーカから出力される音、および間接音(室内の反射音および残響音)等を含む。マイク15は、取得した音信号をデジタル変換する。マイク15は、デジタル変換した音信号をプロセッサ12に出力する。
【0016】
プロセッサ12は、マイク15で取得した音信号、およびスピーカ17に出力する音信号に対し、所定の信号処理を行なう。例えば、プロセッサ12は、マイク15で取得した音信号の音量調整を行なう。プロセッサ12は、音量調整後の音信号を、通信部11を介して遠端側に送信する。また、プロセッサ12は、通信部11を介して受信した音信号の音量調整を行なう。プロセッサ12は、音量調整後の音信号をアンプ16に出力する。
【0017】
アンプ16は、プロセッサ12から受信した音信号をアナログ変換して増幅する。アンプ16は、増幅後の音信号をスピーカ17に出力する。スピーカ17は、アンプ16から出力された音信号に基づいて、音を出力する。
【0018】
プロセッサ12は、本発明の音量調整方法を実施する。特に、プロセッサ12は、本発明の音量調整方法として、通信部11を介して受信した音信号の音量調整を行なう。具体的には、プロセッサ12は、スピーカ17から測定音を出力してマイク15でインパルス応答を測定する。そして、プロセッサ12は、インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて、スピーカ17に出力する音信号の音量を調整する。以下、図3のフローチャートを参照して、本発明の音量調整方法を詳細に説明する。
【0019】
図3は、プロセッサ12が実行する音量調整プログラム141の具体的動作を示すフローチャートである。
【0020】
まず、プロセッサ12は、スピーカ17から測定音を出力する(S11)。測定音は、どの様な音であってもよいが、例えばホワイトノイズまたはピンクノイズ等である。
【0021】
その後、プロセッサ12は、マイク15で測定音に係る音信号を取得し、インパルス応答(以下、第1インパルス応答と称する。)を測定する(S12)。このとき、プロセッサ12は、アンプ16に出力する測定音の音信号のレベルと、マイク15で取得した音信号の第1音圧(dB SPL)をRAM13またはフラッシュメモリ14に記録する(S13)。なお、マイク15で取得した音信号のレベルに対する音圧(すなわちマイク15の感度)を示す情報は、予めフラッシュメモリ14に記憶されている。プロセッサ12は、当該感度の情報を読み出して、マイク15で取得した音信号のレベルから第1音圧を測定する。
【0022】
そして、プロセッサ12は、第1インパルス応答の直接音成分と間接音成分のエネルギー比を求める(S14)。
【0023】
図4は、第1インパルス応答の直接音成分を示す模式図であり、図5は、第1インパルス応答の間接音成分を示す模式図である。図4および図5に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は振幅である。
【0024】
プロセッサ12は、例えば、図4に示す様に、振幅の絶対値が所定の閾値を超えるレベル(スピーカ17からマイク15に至る直接音のピーク)を検出した場合に、当該直接音のピークから±5msecの第1インパルス応答を直接音成分と定義する。プロセッサ12は、図5に示す様に、第1インパルス応答から直接音成分を除いた部分を間接音成分と定義する。無論、直接音成分および間接音成分の定義の仕方は、この例に限らない。プロセッサ12は、例えば0~50msecの成分を直接音成分と定義し、50msec以降の成分を間接音成分と定義してもよい。あるいは、プロセッサ12は、第1インパルス応答のうち直接音のピークのレベルに対して所定レベル(例えば1/2)となる時点を基準にして、第1インパルス応答のうち基準時点までの成分を直接音成分と定義し、基準時点以降の成分を間接音成分と定義してもよい。
【0025】
プロセッサ12は、直接音成分および間接音成分のエネルギー比を求める。例えば、プロセッサ12は、直接音成分および間接音成分のそれぞれの振幅の二乗積算値(すなわちパワー)を求め、パワーの比をエネルギー比として求める。ただし、エネルギー比は、パワーの比に限らない。例えば、プロセッサ12は、直接音成分および間接音成分のそれぞれの振幅の絶対値の平均を求め、当該平均の比をエネルギー比としてもよい。
【0026】
その後、プロセッサ12は、目的の位置におけるインパルス応答(以下、第2インパルス応答と称する。)を推定する(S15)。図6は、第2インパルス応答の模式図である。図6の点線に示すインパルス応答は、第1インパルス応答であり、実線は第2インパルス応答である。プロセッサ12は、例えば、上記パワーの比が所定値になるように直接音成分を減衰または増幅させることにより、目的の位置における第2インパルス応答を推定する。例えば、プロセッサ12は、直接音成分の全てのサンプルに所定の乗算係数を掛けることで、直接音成分を減衰または増幅させる。所定の乗算係数は、直接音成分のパワーおよび目的のパワー(上記パワーの比)から求める。あるいは、プロセッサ12は、直接音成分のいくつかのサンプルを間引くことで第2インパルス応答を推定してもよい。また、プロセッサ12は、時間経過に応じた振幅の減衰形状を任意の減衰形状(例えば振幅が折れ線状に減衰する形状)に近似することで、第2インパルス応答を推定してもよい。
【0027】
所定値は、例えば-6dBである。すなわち、目的の位置は、一例として、間接音成分のパワーに対して直接音成分のパワーが-6dBとなる位置である。プロセッサ12は、間接音成分のパワーに対して直接音成分のパワーが-6dBよりも大きい場合、第1インパルス応答の直接音成分を減衰させることで第2インパルス応答を推定する。プロセッサ12は、間接音成分のパワーに対して直接音成分のパワーが-6dBよりも小さい場合、第1インパルス応答の直接音成分を増幅させることで第2インパルス応答を推定する。無論、本発明における所定値は、-6dBに限らない。所定値は、例えば、-3dBであってもよい。
【0028】
なお、第2インパルス応答の推定手法は、この例に限らない。例えば、第1インパルス応答のうち閾値を超えるピーク成分を減衰することで、第2インパルス応答を推定してもよい。また、フラッシュメモリ14は、予め理想的なインパルス応答(直接音成分に対して間接音成分が-6dBとなるインパルス応答)、または当該理想的なインパルス応答のパワーカーブをフラッシュメモリ14に記憶してもよい。この場合、プロセッサ12は、第1インパルス応答の間接音成分のパワーに応じて、理想的なインパルス応答の全体のレベルを調整することで、第2インパルス応答を推定する。例えば、プロセッサ12は、第1インパルス応答の間接音成分のパワーが理想的なインパルス応答の間接音成分のパワーより6dB高い場合、理想的なインパルス応答を6dB(または6dBに所定の係数を乗じた値)だけ減衰させて、第2インパルス応答を推定する。また、プロセッサ12は、音量調整装置1の利用者から、室の形状、容積、あるいは吸音率等の入力を受け付けて、これらの情報から第2インパルス応答を推定してもよい。この場合も、プロセッサ12は、第1インパルス応答の間接音成分のパワーに応じて、推定した第2インパルス応答の全体のレベルを調整する。また、音量調整装置1は、カメラを備えている場合、室内のを撮影し、室の形状、容積、あるいは吸音率等を推定してもよい。この場合、プロセッサ12は、推定した室の形状、容積、あるいは吸音率等の情報に基づいて、第2インパルス応答を推定する。
【0029】
本実施形態では、第2インパルス応答は、目的の位置における音圧の推定のために用いるため、第2インパルス応答は、概形を推定するだけで十分である。第2インパルス応答の推定手法は、第2インパルス応答における個々の振幅の値がどの様なものであっても、目的の位置における音圧を推定できる手法であればよい。
【0030】
図7は、距離と音圧の関係を示す図である。図7の横軸はスピーカからの距離(対数)であり、縦軸は音圧(dB SPL)である。図7に示す様に、直接音の音圧は、距離に比例して減衰する。一方、間接音の音圧は、室の音響特性に大きく依存するため、距離に関わらず略一定である。実際にスピーカ17から出力された音の音圧は、室内の音響特性の影響を受けながら減衰するため、図7の「直接音+間接音」に示す通り、スピーカ17からの距離が近いほど直接音の減衰に依存し、スピーカ17からの距離が遠いほど間接音に依存して一定に近くなる。つまり、スピーカ17からの距離が遠くなるほど、インパルス応答のうち直接音成分が減衰し、間接音成分は略変化しない。したがって、プロセッサ12は、第1インパルス応答の直接音成分を減衰または増幅させることで目的の位置(例えば間接音成分のパワーに対して直接音成分のパワーが-6dBとなる位置)の第2インパルス応答を推定することができる。
【0031】
次に、プロセッサ12は、第1インパルス応答および第2インパルス応答に基づいて、減衰量を計算する(S16)。減衰量とは、スピーカ17から出力された音の音圧がスピーカ17からの距離に応じて低下する量を示す値である。プロセッサ12は、第2インパルス応答のパワーを第1インパルス応答のパワーで除算した値の対数値を減衰量とする。図7に示した通り、スピーカ17から出力された音は、徐々に減衰する。プロセッサ12は、計算した減衰量に基づいて目的の位置における第2音圧を推定する(S17)。すなわち、プロセッサ12は、RAM13またはフラッシュメモリ14に記録しておいたマイク15で取得した音信号の第1音圧に上記減衰量を加算することで、目的の位置における第2音圧を推定する。最後に、プロセッサ12は、推定した第2音圧が所望の値(例えば60dB SPL)になるように、アンプ16に出力する音信号のレベルを調整する。プロセッサ12は、RAM13またはフラッシュメモリ14に記録しておいた、アンプ16に出力した測定音の音信号のレベルと、マイク15で取得した音信号の第1音圧と、の関係に基づいて、第2音圧を所望の値になるように、音信号のレベルを調整する。これにより、プロセッサ12は、スピーカ17から出力される音の音量を調整する(S18)。
【0032】
以上の動作により、プロセッサ12は、直接音成分だけでなく室の音響特性に依存する間接音成分も考慮して、音量を調整する。また、プロセッサ12は、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整することができる。
【0033】
本発明の技術思想をまとめると以下の様になる。
(1)音量調整装置は、マイクと、スピーカと、前記スピーカから測定音を出力し、前記マイクで第1インパルス応答を測定し、前記第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて、前記スピーカから出力される音の音量を調整する信号処理部と、を備える。
【0034】
例えば、マイクの設置位置が目的の位置よりもスピーカに近い場合、直接音成分は間接音成分よりも大きくなる。そのため、音量調整装置は、例えば直接音成分のパワーおよび間接音成分のパワーを比較することで、マイクの設置位置と目的の位置(例えば直接音成分が間接音成分に対して-6dBとなる位置)との関係を推定できる。すなわち、音量調整装置は、推定したマイクの設置位置と目的の位置との関係に基づいて、音量を調整することができる。例えば、音量調整装置は、直接音成分が大きい場合に、音量を小さくする。これにより音量調整装置は、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整することができる。あるいは、音量調整装置は、第1インパルス応答のうち振幅が閾値を超える最初のピークの振幅の絶対値と、間接音成分の振幅の絶対値の平均値と、の差分に基づいて、音量を調整してもよい。この場合も、音量調整装置は、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整することができる。
【0035】
(2)前記信号処理部は、前記第1インパルス応答に基づいて目的の位置における第2インパルス応答を推定し、前記第2インパルス応答に基づいて前記音量を調整することが好ましい。例えば、音量調整装置は、測定した第1インパルス応答のパワーと、推定した第2インパルス応答のパワーと、の比率に応じて音量を調整する。この場合、音量調整装置は、目的の位置における第2インパルス応答も考慮するため、より適切な音量に調整することができる。また、例えば、第1インパルス応答の間接音成分のパワーに応じて、理想的なインパルス応答の全体のレベルを調整することで、第2インパルス応答を推定した場合、当該レベルの調整量に基づいて音量を調整してもよい。例えば、プロセッサ12は、理想的なインパルス応答のレベルを6dBだけ減衰させた場合、音量を6dB減衰させる。また、プロセッサ12は、例えば、推定した第2インパルス応答のパワーとフラッシュメモリ14に記憶しておいた所定のパワーに基づいて、音量を調整しても良い。例えば、プロセッサ12は、推定した第2インパルス応答のパワーに対してフラッシュメモリ14に記憶しておいた所定のパワーが6dB大きい場合に、音量を6dB増幅させる。
【0036】
(3)前記信号処理部は、前記第1インパルス応答の前記直接音成分のエネルギーと前記間接音成分のエネルギーの比が所定のエネルギー比になるように、前記直接音成分を調整することで、前記第2インパルス応答を推定する。
(4)前記信号処理部は、前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のエネルギーに基づいて、前記測定音の前記目的の位置における音圧を推定して、当該音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整することが好ましい。
(5)前記信号処理部は、前記第1インパルス応答および前記第2インパルス応答のパワーの比に基づいて、前記目的の位置における前記音圧を推定することが好ましい。
【0037】
上述の様に、スピーカから出力された音は、間接音成分の影響を受けて徐々に減衰する。音量調整装置は、第1インパルス応答および第2インパルス応答のエネルギー(例えばパワーの比)に基づいて、目的の位置における第2音圧を推定する。これにより、音量調整装置は、さらに適切な音量に調整することができる。
【0038】
(6)前記目的の位置は、前記パワーの比が所定値になる位置に対応することが好ましい。これにより、音量調整装置は、直接音成分の音量および間接音成分の音量の割合が適切な割合になる様に音量調整することができる。
【0039】
なお、上述した様に、エネルギー比は、例えばパワーの比であるが、例えば、直接音成分および間接音成分のそれぞれの振幅の絶対値の平均の比であってもよい。
【0040】
(7)前記信号処理部は、前記パワーの比に基づいて前記スピーカから出力される音の減衰量を推定し、前記測定音の前記マイクで測定された第1音圧および前記減衰量に基づいて前記目的の位置における第2音圧を推定する。
(8)この場合、前記第2音圧が所定のレベルになるように前記音量を調整することが好ましい。
【0041】
この場合、音量調整装置は、目的の位置において、直接音成分および間接音成分を含めた音圧(絶対音量)を目的の音圧に調整することができる。
【0042】
(9)前記スピーカは、複数のスピーカを含み、前記信号処理部は、前記複数のスピーカのそれぞれについて、前記測定音を出力し、前記第1インパルス応答を測定し、それぞれの第1インパルス応答を平均化して、平均化した第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて、前記複数のスピーカから出力する音の音量を調整してもよい。無論、信号処理部は、それぞれの第1インパルス応答の直接音成分および間接音成分に基づいて、音量を調整してもよい。
【0043】
(10)前記直接音成分は、例えば、前記測定音を出力してから最初のピークの前後所定時間範囲内の前記第1インパルス応答に対応する。
【0044】
(11)本発明の音量調整装置は、マイクの設置位置に依存せず、適切な音量に調整することができる。そのため、マイクは、室内の天井に設置されていてもよい。
【0045】
(12)音量調整装置は、遠端側から音信号を受信する通信部を備えていてもよい。この場合、信号処理部は、前記通信部で受信した音信号のレベルを調整することで、前記スピーカから出力される音の音量を調整する。
【0046】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【0047】
例えば、音量調整装置は、遠端側に音信号を送信するためのマイク15で第1インパルス応答を測定する必要はない。音量調整装置は、第1インパルス応答を測定するための専用のマイクを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…音量調整装置
11…通信部
12…プロセッサ
13…RAM
14…フラッシュメモリ
15…マイク
16…アンプ
17…スピーカ
141…音量調整プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7