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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】触覚センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01L1/20 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020049009
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148609
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅博
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26
G01L 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する電極間に抵抗体層が形成された触覚センサであって、
前記抵抗体層は第1抵抗体層と第2抵抗体層とからなり、
前記第1抵抗体層と前記第2抵抗体層とは接触界面を形成し、
前記接触界面を形成する前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層の表面の、ISO25178で規定される算術平均粗さ(Ra)が、いずれも0.1μm以上であり、
前記第1抵抗体層と前記第2抵抗体層との間に前記接触界面がないときの、前記抵抗体層の凝集力をA、
前記触覚センサを構成する前記抵抗体層以外のn層の凝集力をそれぞれB1、B2、・・・、Bn、
前記触覚センサを構成するそれぞれの層間の界面の界面密着力をそれぞれC1、C2、・・・、Cnとしたとき、
前記凝集力と前記界面密着力とは、A<B1、B2、・・・、Bn、C1、C2、・・・、Cnの関係を満たし、
前記接触界面は、前記抵抗体層を形成する材料を凝集破壊して、再び重ね合わせて接触させた面である、ことを特徴とする触覚センサ。
ここでnは1以上の整数とする。
【請求項2】
前記抵抗体層は前記電極よりも低い導電性を有する樹脂組成物からなる、ことを特徴とする請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の触覚センサの製造方法であって、前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層は、単層で形成した前記抵抗体層を凝集破壊により分離させる工程によって形成し、
前記接触界面は、分離した前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層を重ね合わせて接触させる工程によって形成する、
ことを特徴とする触覚センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧の大きさを電気抵抗の変化として検出する感圧センサの一種である触覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗値変化型の感圧センサは、構造が簡単であり、印刷での製造も可能であることから低コストであり、多くの活用例がある。
尚、以下も含め、電気抵抗値を単に抵抗値と呼ぶ場合がある。
【0003】
電気抵抗の変化方式としては、抵抗体層が物理的に変形し抵抗値が変化する体積変化型、抵抗体層の内部構造の導電パス状態が加圧により変化する材料変化型、材料界面の接触抵抗が加圧により変化する接触抵抗変化型などがある。
【0004】
前記のいずれの抵抗値変化型においても、配線抵抗などよりも抵抗値の絶対値を大きくする必要があり、概ね数千~数万Ωの範囲での抵抗値変化を計測する必要がある。この範囲での抵抗値変化は誤差が大きくなり、微小な加圧の変化を正確に抵抗値変化として捉えることは困難である。
【0005】
図5は、抵抗体層の体積変化を抵抗値変化として検出する従来の感圧センサ2を例示する模式断面図である。この構成の感圧センサ2の場合、抵抗体層12を構成する材料の加圧に対する物理的変形が抵抗値変化になり、センサの感度性能となる。
【0006】
図5の感圧センサ2で、触覚センサレベルへ感度を高めようとすると抵抗体層12を構成する材料の主材となる樹脂のヤング率を数MPa以下にする必要があり、材料制約が大きくなる。適当なヤング率の材料を抵抗体層12に用いた場合も、低加圧領域に対する抵抗値変化は微小であり、測定ノイズに埋もれる問題がある。
【0007】
図6は、材料界面の接触抵抗が加圧により変化する従来の接触抵抗変化型の感圧センサ3を例示する模式断面図である。図6では第1抵抗体層13と第2抵抗体層14間が離間している状態を図示しているが、加圧により貼り合わせるように接触させ、加圧に対する接触抵抗の変化を計測するものである。
【0008】
図6の感圧センサ3の構成の場合は、抵抗体層材料の物理的変形に依らず加圧による接触面積の変化によって検出することから、物理的変形による方式よりも微小な加圧の検出が可能としている。しかしながら、抵抗体層を2層必要とすることから材料利用効率が悪い問題がある。
【0009】
また、図6の構成では、第1と第2の抵抗体層をそれぞれ形成し、平面状に貼り合わされるように接触させて計測するが、接触抵抗は抵抗体層表面の平面性と貼り合わせの位置精度とに左右されるため、加圧前の初期測定値がばらついたり、加圧中の測定値が安定せず、精度の高い圧力計測が難しい問題があった。
【0010】
特許文献1における感圧センサも、抵抗体層を貼り合わせた2層構造として接触領域を形成し、加圧による接触領域の抵抗値の変化により微小な加圧変化を捉えることとしている。
【0011】
しかしながら、図6の感圧センサ3と同様に、接触領域の抵抗値は、平面状に貼り合わ
せた抵抗体層表面の平面性と貼り合わせの位置精度に左右されるため、精度の高い圧力計測が難しい問題が残る。また、構造が複雑で製造工程も長くなることから高価になる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3664622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、触覚センサの感度レベルの、概ね20N以下の小さな加圧変化を検出することができ、材料利用効率が高く、貼り合わせ時の位置精度に留意する必要がない、安価な触覚センサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決する手段として、本発明の触覚センサの第1の態様は、対向する電極間に抵抗体層が形成された触覚センサであって、前記抵抗体層は第1抵抗体層と第2抵抗体層とからなり、前記第1抵抗体層と前記第2抵抗体層とは接触界面を形成し、前記接触界面を形成する前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層の表面の、ISO25178で規定される算術平均粗さ(Ra)が、いずれも0.1μm以上であり、第1抵抗体層と第2抵抗体層との間に接触界面がないときの、抵抗体層の凝集力をA、触覚センサを構成する抵抗体層以外のn層の凝集力をそれぞれB1、B2、・・・、Bn、触覚センサを構成するそれぞれの層間の界面の界面密着力をそれぞれC1、C2、・・・、Cnとしたとき、凝集力と界面密着力とは、A<B1、B2、・・・、Bn、C1、C2、・・・、Cnの関係を満たし、接触界面は、抵抗体層を形成する材料を凝集破壊して、再び重ね合わせて接触させた面である、ことを特徴とする触覚センサである。ここでnは1以上の整数とする。
【0015】
本発明の触覚センサの第2の態様は、前記抵抗体層は前記電極よりも低い導電性を有する樹脂組成物からなる、ことを特徴とする触覚センサである。
【0017】
本発明の触覚センサの製造方法の第1の態様は、前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層は、単層で形成した前記抵抗体層を凝集破壊により分離させる工程によって形成し、前記接触界面は、分離した前記第1抵抗体層及び前記第2抵抗体層を重ね合わせて接触させる工程によって形成する、ことを特徴とする触覚センサの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触覚センサの感度レベルの、概ね20N以下の小さな加圧変化を検出することができ、材料利用効率が高く、貼り合わせ時の位置精度に留意する必要がない、安価な触覚センサ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る、触覚センサの第1例を示す模式断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る、触覚センサの第2例を示す模式断面図である。
図3図2の触覚センサの第2例の、接触界面形成前の形態であり、各層の凝集力、界面密着力の関係を説明するための模式断面図である。
図4】本発明の触覚センサの製造方法に係る、接触界面を有する触覚センサを作製する工程の一部を示す模式断面図である。
図5】抵抗体層の体積変化を抵抗値変化として検出する従来の感圧センサを例示する模式断面図である。
図6】材料界面の接触抵抗が加圧により変化する従来の接触抵抗変化型の感圧センサを例示する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る触覚センサ及びその製造方法について図面を用いて説明する。同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。各図面において、見易さのため構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も減らして図示していることがある。また、本発明は以下の実施形態そのままに限定されるものではなく、主旨を逸脱しない限りにおいて、適宜の組み合わせ、変形によって具体化できる。
【0021】
[触覚センサ]
図1は、本発明の実施形態に係る、触覚センサの第1例を示す模式断面図である。第1例の触覚センサ1aは、対向する第1電極20、第2電極21間に抵抗体層が形成されており、前記抵抗体層は第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとからなり、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとは接触界面11を形成している。かつ、接触界面11を形成する第1抵抗体層10a及び第2抵抗体層10bの表面の、ISO25178で規定される算術平均粗さ(Ra)が、いずれも0.1μm以上である、ことを特徴とする。
【0022】
接触界面11は、後述のように、抵抗体層を凝集破壊して形成されたものである。すなわち、抵抗体層を形成する材料の凝集が破壊され第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとに分離され、再び重ね合わせて接触させた面を接触界面11として抵抗体層内に形成されている。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係る、触覚センサの第2例を示す模式断面図である。第2例の触覚センサ1bは、第1基材30と第2基材31を、図1の第1例の触覚センサに追加することで、保護層としての機能、漏れ電流の低減、検体へ貼付する際の中間部材としての機能を追加し、ハンドリングを高め、実用性を高めた構成となっている。
【0024】
抵抗体層の材料は、後述のような好適な電気抵抗値を有し、凝集破壊を積極的に起こさせるために、第1電極20、第2電極21よりも低い導電性を有する樹脂組成物からなることが好ましい。
【0025】
例えば材料として、樹脂自体が導電機能を有する有機導電材料のポリアセチレン系、ポリチオフェン系が挙げられる。ポリチオフェン系でもPEDOT/PSS(ポリスチレンスルホン酸ドープポリエチレンジオキシチオフェン)は、インクや塗料の水分散系のコロイドから成膜すると、結果的に凝集力の低い膜が形成される。また、バインダー樹脂に金属やカーボン系の導電フィラーを分散した組成物を選択することが可能であるが、この場合はバインダー樹脂の分子量を低分子化することや、導電フィラーの配合やフィラー形状、粒径等を適宜変更することで、所望の体積抵抗値と凝集力を持った組成物を得ることができる。
【0026】
図3は、図2の第2例の触覚センサの1bの、凝集破壊前の形態1b’であり、各層の凝集力、界面密着力の関係を説明するための模式断面図である。Aは、凝集破壊前の抵抗体層10の凝集力、B1~B4は抵抗体層10以外の各層の凝集力、C1~C4は各層間の界面密着力を示している。
【0027】
これらの凝集力と界面密着力の間にはA<B1,B2,B3,B4,C1,C2,C3
,C4の関係があることが好ましく、それにより凝集破壊前の触覚センサ1b’の上下方向に略垂直に力を加えると、Aの凝集力が弱いため抵抗体層10が凝集破壊を起こす。
【0028】
図3では抵抗体層10の上下に第1電極20、第2電極21、及び第1基材30、第2基材31の各層がある例を示しているが、本発明の触覚センサでは、各層の凝集力と界面密着力のうち抵抗体層10の凝集力Aがもっとも小さければ良いので、例えば支持体となる樹脂層や電極の短絡を防止する絶縁性の保護層などの機能層を追加してもよく、層の数に限定されるものではない。
【0029】
尚、抵抗体層10以外の層の数がn(1以上の整数)であるとき、抵抗体層10を含めた各層間の界面の数はnであるので、上記の条件を一般化すると、A<B1、B2、・・・、Bn、C1、C2、・・・、Cnとなる。
【0030】
抵抗体層10は、材料としての単位体積あたりの電気抵抗値である体積抵抗率に制限はなく、凝集破壊して分離した第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとを再び重ね合わせて接触させた状態での抵抗値が、電極パターンの抵抗値より大きければよい。
【0031】
抵抗体層10の凝集力は、抵抗体層10以外の層の凝集力や層間の界面密着力よりも低い値になるよう、膜厚や導電フィラーの配合量によって調整することが可能である。センサとして測定時の抵抗値の変化は接触界面11が担うため、材料個体としての体積抵抗率に多少の差異があっても、以下のように調整することができる。
【0032】
既述のように、感圧センサとして出力される抵抗値の絶対値が、通常の感圧センサのように、数千Ω以上である場合、低加圧では抵抗値の変化が小さく、測定誤差が大きくなる。このため、抵抗値変化によって加圧変化を読み取ることは困難となる。逆に、数Ω以下であると測定系などのノイズに埋もれることになる。
【0033】
以上のことから、抵抗値の絶対値の計測領域は数十Ωから数百Ωの範囲に調整することが望ましい。抵抗値の絶対値の調整方法としては、オームの法則に従い抵抗体層の膜厚や平面視でのパターンサイズを調整すればよい。
【0034】
触覚センサとして使用する場合、抵抗体層以外の構成材料の体積抵抗率とそれらの界面抵抗や、測定系の配線、コネクタの接触抵抗がノイズとして数%発生してしまうことから、20N以下の5N~15Nの加圧変化に対して、抵抗値の絶対値として数Ωから数百Ωの範囲における抵抗値変化は5%以上が良く、10%以上の変化率がより好ましい。
【0035】
凝集破壊の際には、抵抗体層10の残留応力により塑性変形が発生するが、その変形量は僅かであり、上下の破壊面で反転した、ほぼ同じ表面粗さの凸凹面が形成される。また、凝集破壊した後の第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの表面粗さが小さいと無加圧時の接触抵抗の割合が大きくなり、加圧時の抵抗値変化が小さくなる。このため、本発明の触覚センサでは、第1抵抗体層10a及び第2抵抗体層10bの表面粗さとしては、ISO25178で規定される算術平均粗さ(Ra)が、いずれも0.1μm以上であるとする。
【0036】
すなわち、第1抵抗体層10a及び第2抵抗体層10bの表面が、いずれも0.1μm以上の算術平均粗さ(Ra)を有することにより、図6や特許文献1の構成のように、平面状に貼り合わせるように接触させて計測するのではなく、微小な凹凸を有する第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとを重ね合わせて形成した接触界面の接触抵抗の変化を測定することとなる。
【0037】
このため、加圧による抵抗値の変化が従来と同様に界面の接触抵抗によるものであっても、接触界面における導電パスの変化が従来のように面状ではなく、いわば接触界面11の「断層」のずれによる、より点状なものとなるので、より敏感な感圧部となり、概ね20N以下の小さな加圧変化を検出する触覚センサの感度レベルの圧力計測が可能となる。
【0038】
加圧前の初期の抵抗値や加圧時の変化を調整する場合は、平面視でのパターン面積を調整する方法や、凝集破壊した後の第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの表面粗さを調整することで行うことができる。具体的には、抵抗体層への導電フィラー添加量の調整や、バインダー樹脂の分子量や架橋度の調整などにより可能である。あるいは、凝集破壊後に、研磨紙、研磨スラリーなどで表面を研磨して表面粗さを調整してもよい。
【0039】
また、抵抗層から膜厚範囲で上下層に分離し凸凹の粗さ面が形成されることから、抵抗層の膜厚が表面粗さの実質的な上限となる。
【0040】
抵抗体層は、タックが発生するほど柔らかい場合は、重ね合わせをした場合に抵抗体層の表面粗さに関係なく、加圧変化に対して重ね合わせ面が追従してしまい、抵抗値の変化が小さくなる。そのため、抵抗体層材料のヤング率は10MPa以上が良く、100MPa以上がより好ましい。
【0041】
第1、第2電極20、21は、図1のような基材がない構成の場合は、抵抗体層10を担持する基材の役目も担う必要があり、金属箔を用いることが好ましい。具体的には、Al、Cu、Feなど導電性の金属箔であれば何でも良い。
【0042】
図2の第1、第2基材30、31がある構成では、電極はPETなどのプラスチックフィルムに金属箔をラミネートした部材や蒸着した複合材料を用いることができる。また、PETなどにAgペーストなどの導電インクや塗料を印刷やコーティングによりパターン形成しても良い。
【0043】
第1、第2基材30、31は、抵抗体層10と第1電極20と第2電極21を担持でき、保護できる材料であれば良く、PETやアクリルなどのプラスチック基材が好ましい。また、電極との貼り合わせ用に電極界面に接着層を介して接着(界面接着)してもよい。界面接着は、抵抗体層10の凝集力より高くなるよう材料と貼り付け条件を選択する。界面接着の条件を満たせば、基材の素材について限定されるものではない。
【0044】
以上の説明では、単体の触覚センサの構成について説明してきたが、本発明では、センサ素子の数や配置に制限はなく、平面状に多数の触覚センサを配置してマトリックス化した触覚アレイとして動作させることも可能である。
【0045】
[触覚センサの製造方法]
図4は、本発明の触覚センサの製造方法に係る、接触界面を有する触覚センサを作製する工程の一部を示す模式断面図である。図2の第2例の触覚センサ1bを作製する場合を図示している。図1の第1例についても同様である。
【0046】
先ず、第1基材30上に第1電極20を公知の方法でパターン形成し、さらに第1電極20上に抵抗体層10を印刷またはコーティングなどを用いて形成する。具体的には印刷ではスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェットなどの手法が挙げられ、コーティング手法としては、グラビアコート、静電スプレー、ダイコートなどが挙げられる。
【0047】
抵抗体層10のパターンは、一般的な印刷手法やパターニング手法を用いて形成することができる。パターン形成方法は、凝集破壊が生じる厚みに形成できる方法であれば何でもよく、形成方法に限定されるものではない。
【0048】
形成した抵抗体層10に、第2基材31上に形成した第2電極21を貼り付け、積層体(図3の第2例の触覚センサの凝集破壊前の形態1b’と同じ)を作製する。後述の抵抗体層10の凝集破壊後に、破壊面の表面粗さを算術平均粗さ(Ra)0.1μm以上とするには、抵抗体層10の厚みとして3μm~100μmが良く、10μm~30μmがより好ましい。尚、抵抗体層の材料が同じであれば、その厚みが薄いほど抵抗値の絶対値は小さくなる。
【0049】
上記のように形成した前記積層体の一辺に固定テープ40を、第1基材30の表面と積層体の端面とを通り、第2基材31の表面に貼り付けて固定する(図4(a))。このように一辺を固定することで、後述のように積層体が2つに分離しても固定テープ40が蝶番のように働き、破壊前と略同じ位置に戻し重ね合わせることができる。
【0050】
次に、固定テープ40で固定した積層体の他辺の端面の第1基材30と第2基材31とを略垂直方向に同じ大きさの力F1、F2で引っ張ることで、抵抗体層10が凝集破壊し、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとに分離する(図4(b))。この時、凝集破壊が進む先端部分に引きはがし圧力を補助するために、引っ張り側の端面からエアを吹きながら分離してもよい。
【0051】
抵抗体層10の膜厚が厚めの場合は、抵抗体層10の厚さのほぼ中央付近から容易に凝集破壊される。抵抗体層10が薄めの場合は、固定テープ40で固定した積層体の他辺の端面の抵抗体層10の中央付近に切り込みを入れることで、中央付近から凝集破壊できる。
【0052】
次に、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとを凝集破壊前の位置に戻すが、一辺を固定テープ40で固定しているので、凝集破壊した部分とほぼ同じ位置に容易に戻すことができる。最後に固定テープ40を除去して、接触界面11を有する触覚センサ1bが作製される(図4(c))。
【0053】
固定テープ40は、片面粘着型の粘着テープで、第1、第2基材30、31との接着が可能な固定テープであれば何でもよく、例えば市販のセロハンテープを用いてもよい。接触界面11を形成する際に、一時的に固定できれば良いので、固定テープの材質や厚みなどは限定されるものではない。
【0054】
以上のように、印刷・コーティングにより、少なくとも電極層に挟まれた抵抗体層を単層形成しておき、積層体層の一辺に固定テープを貼り付けて固定した後、抵抗体層を凝集破壊して分離し、一対の抵抗体層を形成し、その後さらに固定テープを利用して前記一対の抵抗体層を重ね合わせることで触覚センサを作製する。これにより、材料利用効率が高く、貼り合わせ時の位置精度に留意する必要がなく、安価で高精度な触覚センサの製造方法となる。
【実施例
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は本発明の主旨を逸脱しない範囲で、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
第1基材30(図2参照)としての100μmのPETフィルムに、第1電極20として50μmのCu箔が形成されたシートのCu箔面に、印刷インク化したPEDOT/PSS(へレウス社、商品名Clevios SV-3)をスクリーン印刷によりパッチサイズ1cm角、15μm厚で形成し抵抗体層とした。
【0057】
次に、第2基材31と第2電極(Cu箔)21からなる複合シートのCu箔面に、前記で形成した抵抗体層を、熱可塑接着材を介してホットラミネートして固定し、積層体(図3の第2例の触覚センサの凝集破壊前の形態1b’と同じ)を作成した。
【0058】
次に、前記積層体の一辺に固定テープ40を貼り付け(図4(a)参照)、固定した積層体の他辺の端面の第1基材30と第2基材31とを略垂直方向に同じ大きさの力で引っ張り、端面からエアを当てながら、抵抗体層を凝集破壊させ、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとに分離した(図4(b)参照)。
【0059】
分離した第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの、分離面の表面粗さRaを接触式表面粗さ計(小坂研究所、サーフコーダET4000AK(商品名))で測定したところ、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bともにRa=0.15μmであった。
【0060】
次に、固定テープ40を蝶番のように使い、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bとを、凝集破壊前と略同じ位置に重ね合わせ、最後に固定テープ40を除去して、接触界面11を有する触覚センサ1bを作製した(図4(c)参照)。作製工程中に抵抗体層の表面にタックは見られなかった。
【0061】
作製した触覚センサ1bの第1電極、第2電極に測定端子を当て、加圧負荷装置により触覚センサ1bに2Nから15Nの圧力を加え、電気抵抗値Rを測定したところ、加圧に比例して抵抗値Rは60Ωから50Ωに変化した。従って、この時の抵抗値Rの変化率は
(60-50)/60×100(%)≒17(%)である。
【0062】
<実施例2>
抵抗体層の印刷インクをカーボンインク(十条ケミカル、商品名JELCON CH-N)とした以外は、実施例1と同様な工程で実施例2の触覚センサ1bを作製した。作製工程中に抵抗体層表面にタックは見られなかった。
【0063】
凝集破壊で分離した第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの、分離面の表面粗さRaを実施例1と同じ方法で測定したところ、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bともにRa=0.8μmであった。
【0064】
作製した触覚センサ1bに、実施例1と同じ方法で、2Nから15Nの圧力を加え電気抵抗値Rを測定したところ、加圧に比例して抵抗値Rは100Ωから85Ωに変化した。従って、この時の抵抗値Rの変化率は(100-85)/100×100(%)=15(%)である。
【0065】
<比較例1>
抵抗体層として膜厚1.5μmのPEDOT/PSSを作成した以外は、実施例1と同様な工程で比較例1の触覚センサを作製した。
【0066】
凝集破壊で分離した第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの、分離面の表面粗さRaを実施例1と同じ方法で測定したところ、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bともにRa=0.03μmであった。
【0067】
作製した触覚センサに、実施例1と同じ方法で、2Nから15Nの圧力を加え電気抵抗値Rを測定したところ、加圧に比例して抵抗値Rは52Ωから50Ωに変化した。従って、この時の抵抗値Rの変化率は(52-50)/52×100(%)≒4(%)である。
【0068】
<比較例2>
抵抗体層の印刷インクを、膜厚1.5μmのカーボンインク(十条ケミカル、商品名J
ELCON CH-N)とした以外は、実施例2と同様な工程で比較例2の触覚センサを作製した。
【0069】
凝集破壊で分離した第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bの、分離面の表面粗さRaを実施例1と同じ方法で測定したところ、第1抵抗体層10aと第2抵抗体層10bともにRa=0.07μmであった。
【0070】
作製した触覚センサに、実施例1と同じ方法で、2Nから15Nの圧力を加え電気抵抗値Rを測定したところ、加圧に比例して抵抗値Rは85Ωから82Ωに変化した。従って、この時の抵抗値Rの変化率は(85-82)/85×100(%)≒3.5(%)である。
【0071】
[評価及び判定結果]
表1に実施例1、2と比較例1、2の表面粗さRaと抵抗値Rの変化率(%)をまとめた。抵抗値に10%以上の変化があれば触覚センサとして実用できるセンサ感度とし〇判定、10%に満たない場合を×判定とした。
【0072】
【表1】
【0073】
表1のように、Raが0.15μm以上であれば、触覚センサとして十分に実用に足りることが分かった。
【符号の説明】
【0074】
1a 第1例の触覚センサ
1b 第2例の触覚センサ
1b’ 第2例の触覚センサ(凝集破壊前)
2 体積変化型感圧センサ(従来)
3 接触抵抗型感圧センサ(従来)
10 抵抗体層(凝集破壊前)
10a 第1抵抗体層
10b 第2抵抗体層
11 接触界面
12 抵抗体層(従来)
13 第1抵抗体層(従来)
14 第2抵抗体層(従来)
15 空隙
20 第1電極
21 第2電極
30 第1基材
31 第2基材
40 固定テープ
A 抵抗体層凝集力
B1 第1基材凝集力
B2 第1電極凝集力
B3 第2電極凝集力
B4 第2基材凝集力
C1 第1基材・第1電極界面密着力
C2 第1電極・抵抗体層界面密着力
C3 第2電極・抵抗体層界面密着力
C4 第2基材・第2電極界面密着力
F1、F2 凝集破壊するための引張り力
図1
図2
図3
図4
図5
図6