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特許7532829ピロロキノリンキノンの安定化方法、並びに、コーヒー及び紅茶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノンの安定化方法、並びに、コーヒー及び紅茶
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20240806BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240806BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240806BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20240806BHJP
   C07D 471/04 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
A23F5/24
A61K31/4745
A61K47/22
A61K47/26
A61P25/28
A61P3/10
A61P39/06
A61P43/00 111
A23F3/16
C07D471/04 104Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020049077
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021145612
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】モハマドイシャク ヌルシャフィカ
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235306(WO,A1)
【文献】特開2017-175966(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082547(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045564(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0020815(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
A61K
A61P
C07D 471/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー又は紅茶に、
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 1~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を添加する、
ピロロキノリンキノンの安定化方法。
【請求項2】
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
請求項1に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
【請求項3】
前記糖が、二糖を含む、
請求項1又は2に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
【請求項4】
前記コーヒー又は前記紅茶のpHが、2~7である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
【請求項5】
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 5~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を含む、
コーヒー。
【請求項6】
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
請求項5に記載のコーヒー。
【請求項7】
前記糖が、二糖を含む、
請求項5又は6に記載のコーヒー。
【請求項8】
pHが、2~7である、
請求項5~7のいずれか一項に記載のコーヒー。
【請求項9】
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 5~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を含む、
紅茶。
【請求項10】
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
請求項9に記載の紅茶。
【請求項11】
前記糖が、二糖を含む、
請求項9又は10に記載の紅茶。
【請求項12】
pHが、2~7である、
請求項9~11のいずれか一項に記載の紅茶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノンの安定化方法、並びに、それを用いたコーヒー及び紅茶に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール水溶液(ソフトドリンクとも呼ばれる)は、手軽な水分補給の手段として親しまれているほか、バラエティに富んだ風味や機能によって、多様な嗜好やニーズをもつ消費者を楽しませている。その構成は、コーヒーや紅茶のような香気や味わいの成分、甘味料、pH調整剤である。特にコーヒーや紅茶は人気の高い嗜好性飲料である。
【0003】
近年では様々な嗜好性飲料が提供されており、嗜好面だけではなく、機能面の向上も試みられている。一例としては、特定保健用食品の認定を受けたコーヒーや紅茶などが流通している。ところで、ピロロキノリンキノンは脳機能改善、血糖値改善、抗酸化、寿命延長効果等の機能性を有していることが知られており、また、ピロロキノリンキノンにはミトコンドリア活性化機能など、健康亢進作用が期待される化合物である。
【0004】
このようなピロロキノリンキノンを含む飲料としては、例えば、茶葉を必要としない紅茶風飲料を提供することを目的として、ピロロキノリンキノンおよびその塩と甘味料を含む飲料や(特許文献1)、エタノールとピロロキノリンキノンを含有するアルコール飲料(特許文献2)がこれまで知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-175966号公報
【文献】特開2011-024476号公報
【文献】特開平9-70296号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Am. Chem. Soc., 1995, 117, 3278-3279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される紅茶風飲料は、実際に紅茶の茶葉抽出成分を含むものではなく、特許文献2に関しても、ピロロキノリンキノンをコーヒーや紅茶に添加するものではない。ピロロキノリンキノンは固体状態や単独で存在する分には比較的安定な化合物であるが、水中でアミノ酸などの他の有機物が共存する環境下では、反応して減少しやすいという問題がある。例えば、ピロロキノリンキノンとアミノ酸は溶液状態において反応することが報告されている(非特許文献1,特許文献4)。
【0008】
そこで、本発明者らは、ピロロキノリンキノンをコーヒーや紅茶、その他の飲料に混合し、その安定性に関して検討を進めた。その結果、ピロロキノリンキノンをコーヒーや紅茶に添加した場合に、特にピロロキノリンキノンが減少しやすいという問題があることを見出した。しかしながら、従来、ピロロキノリンキノンとコーヒー成分や紅茶成分とが反応することは知られておらず、ましてや、その反応を防止する手段については知られていない。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、コーヒーや紅茶中において、ピロロキノリンキノンが低減しないよう安定化する方法、及び当該方法により安定化されたコーヒーや紅茶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ピロロキノリンキノンを含むコーヒー又は紅茶に、アスコルビン酸と糖を所定量添加することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
コーヒー又は紅茶に、
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 1~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を添加する、
ピロロキノリンキノンの安定化方法。
〔2〕
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
〔1〕に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
〔3〕
前記糖が、二糖を含む、
〔1〕又は〔2〕に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
〔4〕
前記コーヒー又は前記紅茶のpHが、2~7である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のピロロキノリンキノンの安定化方法。
〔5〕
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 5~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を含む、
コーヒー。
〔6〕
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
〔5〕に記載のコーヒー。
〔7〕
前記糖が、二糖を含む、
〔5〕又は〔6〕に記載のコーヒー。
〔8〕
pHが、2~7である、
〔5〕~〔7〕のいずれか一項に記載のコーヒー。
〔9〕
ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、
アスコルビン酸及び/又はその塩 5~500質量部と、
糖 50~1000質量部と、を含む、
紅茶。
〔10〕
前記ピロロキノリンキノン及び/又はその塩の濃度が、10~1000mg/Lである、
〔9〕に記載の紅茶。
〔11〕
前記糖が、二糖を含む、
〔9〕又は〔10〕に記載の紅茶。
〔12〕
pHが、2~7である、
〔9〕~〔11〕のいずれか一項に記載の紅茶。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コーヒーや紅茶中において、ピロロキノリンキノンが低減しないよう安定化する方法、及び当該方法により安定化されたコーヒーや紅茶を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0014】
〔ピロロキノリンキノンの安定化方法〕
本実施形態のピロロキノリンキノンの安定化方法は、コーヒー又は紅茶に、ピロロキノリンキノン及び/又はその塩(以下、まとめて「ピロロキノリンキノン」ということもある。) 1質量部と、アスコルビン酸及び/又はその塩(以下、まとめて「アスコルビン酸」ということもある。) 1~500質量部と、糖 50~1000質量部と、を添加する。
【0015】
本発明者らの検討により、コーヒー又は紅茶にピロロキノリンキノンを添加すると、ピロロキノリンキノンの含有量が減少するというこれまで知られていない課題があることが分かった。これに対して、本実施形態では、ピロロキノリンキノンを含むコーヒー又は紅茶中に、アスコルビン酸と糖を共存させることにより、ピロロキノリンキノンの減少が抑制することができる。
【0016】
そのメカニズムは特に制限されるものではないが、アスコルビン酸及び/又はその塩により還元型になったピロロキノリンキノンを、糖が覆うことによってピロロキノリンキノン及び/又はその塩の安定性が向上し、コーヒー又は紅茶に存在するピロロキノリンキノンを減少させる成分からピロロキノリンキノンが保護するためと考えられる。
【0017】
添加方法は、特に制限されないが、例えば、コーヒー又は紅茶に対して、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸と糖を固体又は溶液の状態で、添加する方法が挙げられる。また、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸と糖を所定量ずつ含む混合液を予め調製しておき、それをコーヒー又は紅茶に対して加えてもよい。このような混合液を用いることにより、ピロロキノリンキノンを含むコーヒー又は紅茶を安定して生産することができる。
【0018】
コーヒー又は紅茶に対して、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸と糖を添加する順序、あるいは、混合液の調製において、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸と糖を添加する順序は、特に制限されず、同時に添加しても、任意の順序で添加してもよい。糖によるピロロキノリンキノンの安定化作用は、アスコルビン酸によるピロロキノリンキノンの安定化作用よりも、ゆっくりと進行する。そのため、還元型になったピロロキノリンキノンを糖が覆う際には、その添加順序は特に制限されない。
【0019】
このなかでも、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸をはじめに添加し、その後、糖を添加することが好ましい。これにより、ピロロキノリンキノンを還元型にした後、還元型になったピロロキノリンキノンを糖が覆うため、ピロロキノリンキノンの減少がより抑制される傾向にある。特に、添加を室温よりも高い条件で行う場合には、糖によるピロロキノリンキノンの安定化作用が早く進行するため、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸をはじめに添加し、その後、糖を添加することが好ましい。なお、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸を添加してから糖を添加するまでの間隔は、好ましくは30分以上である。
【0020】
ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸との接触、及び、ピロロキノリンキノンと糖の接触の温度は、好ましくは-10℃~120℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、さらに好ましくは20~25℃である。このような温度範囲でピロロキノリンキノンとアスコルビン酸との接触、及び、ピロロキノリンキノンと糖の接触を行うことにより、ピロロキノリンキノンの減少がより抑制される傾向にある。
【0021】
ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸との接触、及び、ピロロキノリンキノンと糖の接触において、これら成分を混合したあと、窒素ガスやアルゴンのような不活性ガスを使用して液中の溶存酸素を減らすことが好ましい。これにより、溶存酸素によるピロロキノリンキノンの酸化が抑制され、ピロロキノリンキノンの減少がより抑制される傾向にある。
【0022】
後述する甘味料やpH調整剤等のその他の成分は、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸とを接触させるときに存在していてもよい。そのなかでも、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸を接触させた後に、その他の成分を添加することが好ましい。甘味料を配合した水溶液を例に説明すると、ピロロキノリンキノンとアスコルビン酸を水中で、例えば30分以上接触した後に、糖や甘味料を添加することが好ましい。
【0023】
その他、必要な成分を調合した後に、殺菌工程、ボトルへの充填工程など、公知の工程を経ることで、容器詰めのコーヒー又は紅茶を得ることができる。なお、殺菌工程では、加熱滅菌やフィルター滅菌を使用することができる。また、加熱殺菌の条件は、特に制限されないが、例えば、90℃以上で30秒以上とすることができる。
【0024】
なお、本実施形態のコーヒー又は紅茶は、その豆や茶葉等の種類によらず、従来公知のものを用いることができる。さらに、コーヒー又は紅茶は、直接飲用に適した濃度のものの他、濃縮液の状態で保管及び流通するものであってもよい。以下、各成分について説明する。
【0025】
(ピロロキノリンキノン及び/又はその塩)
ピロロキノリンキノンには、下記式(1)で表される酸化型PQQと、下記式(2)で表される還元型PQQがある。通常、ピロロキノリンキノンと表示された場合は酸化型PQQを示すが、環境に応じて酸化型PQQが相対的に多い状態から還元型PQQが相対的に多い状態まで様々取りうる。
【化1】
【0026】
また、上記ピロロキノリンキノンの塩としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属などの金属との塩;アンモニウムカチオン等の非金属との塩が挙げられる。このなかでも、食用に用いる点から、アルカリ金属塩が好ましい。
【0027】
ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、ルビジュウムなどの塩が挙げられる。このなかでも、入手しやすい点で、ナトリウム塩およびカリウム塩がより好ましい。
【0028】
ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩としては、特に制限されないが、例えば、モノアルカリ金属塩、ジアルカリ金属塩、トリアルカリ金属塩が挙げられる。このなかでも、ジアルカリ金属塩が好ましく、ジナトリウム塩およびジカリウム塩がより好ましい。
【0029】
ピロロキノリンキノン又はその塩は、特に制限されず、市販されているものを用いても、公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0030】
ピロロキノリンキノン又はその塩の濃度は、好ましくは10~1000mg/Lであり、より好ましくは10~400mg/Lであり、さらに好ましくは10~100mg/Lである。ピロロキノリンキノン又はその塩の濃度が上記範囲内であることにより、コーヒー又は紅茶の摂取により得られるピロロキノリンキノン又はその塩による効能がより向上する傾向にある。なお、上記濃度は、酸化型と還元型の合計の濃度である。
【0031】
(アスコルビン酸及び/又はその塩)
アスコルビン酸及び/又はその塩を用いることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する。アスコルビン酸の塩としては、食用用途に用いられる公知の塩であれば特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウムなどが挙げられる。このなかでも、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する観点から、アスコルビン酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
アスコルビン酸及び/又はその塩の含有量は、ピロロキノリンキノン及び/又はその塩1質量部に対して、1~500質量部であり、より好ましくは5~300質量部であり、さらに好ましくは10~100質量部である。アスコルビン酸及び/又はその塩の含有量が1質量部以上であることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する。また、アスコルビン酸及び/又はその塩の含有量が500質量部以下であることにより、アスコルビン酸及び/又はその塩がコーヒー又は紅茶の味に与える影響を抑制できる傾向にある。
【0033】
また、アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度は、コーヒー又は紅茶に対して、好ましくは50~10000mg/Lであり、より好ましくは300~5000mg/Lであり、さらに好ましくは500~2000mg/Lである。アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度が50mg/L以上であることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する傾向にある。また、アスコルビン酸及び/又はその塩の濃度が10000mg/L以下であることにより、アスコルビン酸及び/又はその塩がコーヒー又は紅茶の味に与える影響を抑制できる傾向にある。
【0034】
(糖)
糖としては、特に制限されないが、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、異性化糖、上記以外の多糖類、糖アルコールが挙げられる。
【0035】
単糖としては、特に制限されないが、例えば、グリセリンアルデヒド、トレオース、アラビノース、キシロース、リボース、リブロース、キシルロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、タガトース、アロース、アルトース、グロース、イドース、タロース、ソルボース、プシコース、フルクトース等が挙げられる。
【0036】
また、二糖としては、特に制限されないが、例えば、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、乳糖等が挙げられる。
【0037】
オリゴ糖としては、特に制限されないが、例えば、マルトトリオース、ラフィノース、シクロデキストリンが挙げられる。上記以外の多糖類としては、特に制限されないが、例えば、水あめ、水素化水あめ等が挙げられる。
【0038】
異性化糖は、でん粉をアミラーゼ等の酵素又は酸により加水分解して得られた主としてぶどう糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼ又はアルカリにより異性化したぶどう糖又は果糖を主成分とする糖である。このような異性化糖としては、特に制限されないが、例えば、ぶどう糖液糖、果糖液糖、ハイフラクトース、コーンシロップが挙げられる。
【0039】
また、ぶどう糖液糖としては、特に制限されないが、例えば、ぶどう糖果糖液糖に当該ぶどう糖果糖液糖の糖の量を超えない量の砂糖を加えたもの(以下「砂糖混合ぶどう糖果糖液糖」という。)、果糖ぶどう糖液糖に当該果糖ぶどう糖液糖の糖の量を超えない量の砂糖を加えたもの(以下「砂糖混合果糖ぶどう糖液糖」という。)及び高果糖液糖に当該高果糖液糖の糖の量を超えない量の砂糖を加えたもの(以下「砂糖混合高果糖液糖」という。)が挙げられる。
【0040】
さらに、糖アルコールとしては、特に制限されないが、例えば、トレイトール、エリスリトール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、タリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ズルシトール、イノシトール等が挙げられる。このなかでも、ソルビトール、キシリトールが好ましい。
【0041】
糖アルコールは一般的な糖類や水あめに水素添加して作られ、活性なカルボニル基を有していない。そのため、酸や熱に安定であるためコーヒー又は紅茶としての取り扱い性に優れ、かつ、摂取カロリーを低く抑えたコーヒー又は紅茶を実現できる。
【0042】
上記の中でも、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、グルコース、キシリトール、エリスリトール、ソルビトールが好ましく、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオースなどの二糖がより好ましく、スクロースがさらに好ましい。このような糖を用いることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少がより抑制され、安定性がより向上する傾向にある。
【0043】
糖の含有量は、ピロロキノリンキノン及び/又はその塩1質量部に対して、50~2000質量部であり、より好ましくは100~1000質量部であり、さらに好ましくは200~750質量部である。糖の含有量が50質量部以上であることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する。また、糖の含有量が2000質量部以下であることにより、糖がコーヒー又は紅茶の味に与える影響を抑制できる傾向にある。
【0044】
また、糖の濃度は、コーヒー又は紅茶に対して、好ましくは0.5~200g/Lであり、より好ましくは1~100g/Lであり、さらに好ましくは5~500g/Lである。糖の濃度が0.5g/L以上であることにより、ピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する傾向にある。また、糖の濃度が200g/L以下であることにより、糖がコーヒー又は紅茶の味に与える影響を抑制できる傾向にある。
【0045】
(pH調整剤)
本実施形態のコーヒー又は紅茶は、アスコルビン酸以外のpH調整剤をさらに含んでもよい。pH調整剤としては、食用用途に使用されるものであれば特に制限されないが、例えば、クエン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、リン酸、コハク酸、リンゴ酸、又は、これらのナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。このなかでも、クエン酸、クエン酸ナトリウムが好ましい。
【0046】
pH調整作用の観点から、pH調整剤の含有量は、コーヒー又は紅茶に対して、好ましくは10~10000mg/Lであり、より好ましくは250~5000mg/Lであり、さらに好ましくは500~2000mg/Lである。
【0047】
本実施形態のコーヒー又は紅茶が水を含む場合、そのpHは、好ましくは2~7であり、より好ましくは2~6であり、さらに好ましくは2~4である。コーヒー又は紅茶のpHが上記範囲内であることにより、糖によるピロロキノリンキノン又はその塩の保護機能がより向上し、結果としてピロロキノリンキノン又はその塩の減少が抑制され、安定性がより向上する傾向にある。また、pHが2以上であることにより、飲食に適した飲料となり、pHが7以下であることにより、コーヒー又は紅茶の味への悪影響も抑制される傾向にある。
【0048】
(その他の成分)
本実施形態のコーヒー又は紅茶は、上記以外の成分として、食用用途に使用されるその他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、特に制限されないが、例えば、甘味料、酸味料、保存料、色素類、酸化防止剤等が挙げられる。また、目的に応じて、果汁、コーヒー抽出物、茶葉抽出物、乳成分等の食品成分を添加してもよい。
【0049】
例えば、甘味料として非糖質系甘味料を添加してもよい。非糖質系甘味料としては、特に制限されないが、例えば、アスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、甘草抽出物、ステビア抽出物、グリチルリチン酸2K、羅漢果抽出物、ソーマチンが挙げられる。このなかでも、アセスルファムカリウムがより好ましい。このような非糖質系甘味料は低カロリー飲食品に好適に用いることができる。
【0050】
〔コーヒー及び紅茶〕
本実施形態のコーヒー及び紅茶は、上記方法によりピロロキノリンキノンが安定化されたものであり、ピロロキノリンキノン及び/又はその塩 1質量部と、アスコルビン酸及び/又はその塩 5~500質量部と、糖 50~1000質量部と、を含む。
【0051】
本実施形態のコーヒー及び紅茶に含まれるピロロキノリンキノン及び/又はその塩、アスコルビン酸及び/又はその塩、及び糖、並びに、それらの量に関しては、上記安定化方法と同様とすることができる。また、本実施形態のコーヒー及び紅茶のpHに関しても上記安定化方法と同様とすることができる。
【0052】
本実施形態におけるコーヒーの豆又は紅茶の茶葉は、特に制限されず、市販されているものを用いることができる。また、コーヒー又は紅茶は、豆又は茶葉から常法により抽出した抽出液を用いてもよいし、抽出液の状態で市販されているものを用いてもよい。さらに、本実施形態のコーヒー及び紅茶は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ビン、缶、またはペットボトル等の密封容器に充填して、容器詰めコーヒー又は紅茶とすることができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
〔原料〕
酸化型ピロロキノリンキノンジナトリウムとしては、三菱ガス化学社製の製品名BioPQQを使用した。その他の試薬については、特に断りのない限り和光純薬製を使用した。
【0055】
〔残存率〕
実施例及び比較例において調製したコーヒー又は紅茶を60℃で7日間保管した。コーヒー又は紅茶を調整した直後及び保管後に、コーヒー又は紅茶中に存在しているピロロキノリンキノンの量を、還元型として島津製作所製HPLCを使ってUV検出器により行った。全てのピロロキノリンキノンを還元化するため、飲料を前処理液(5%アスコルビン酸10%γシクロデキストリン、0.4%リン酸(85%))と混合し、40℃で1時間反応させた。測定条件を以下に示す。また、結果を表1~2に示す。
送液ユニット:LC-10AD(島津製作所社製)
逆相カラム :InertSustain C18
粒子径5μm、内径4.6mm×長さ150mm
溶離液 :35%MeOH/0.4%リン酸(85%)(pH2.1)
流速 :1.5mL/min
カラム温度 :40℃
注入量 :100μL
検出器UV :320nm
分析時間 :30min
【0056】
〔コーヒーにおけるピロロキノリンキノンの安定化〕
(実施例1)
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、スクロースを濃度が20g/Lになるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩の濃度が40mg/Lになるように添加し、さらにアスコルビン酸を濃度が1000mg/Lになるよう添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。得られたコーヒーのpHは4.8であった。
【0057】
(実施例2~6)
糖類を表1に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。得られたコーヒーのpHは4.8であった。
【0058】
(実施例7)
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、異性化糖(三和澱粉工業株式会社製、製品名ハイフラクトースF-550[N])を濃度が50g/Lになるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加し、さらにアスコルビン酸を濃度が1000mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。得られたコーヒーのpHは4.8であった。
【0059】
(比較例1)
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lとなるように添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。得られたコーヒーのpHは5.0であった。
【0060】
(比較例2)アスコルビン酸添加
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lとなるように添加して、さらにアスコルビン酸を濃度が1000mg/Lになるよう添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。得られたコーヒーのpHは4.8であった。
【0061】
(比較例3)
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、異性化糖(三和澱粉工業株式会社製、製品名ハイフラクトースF-550[N])を濃度が50g/Lになるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。
【0062】
(比較例4)
常温下、ネスレコーヒー無糖に対して、スクロースを濃度が50g/Lになるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含むコーヒーを調製した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1~7により、糖とアスコルビン酸を併用することにより、ピロロキノリンキノンの残存率が高いことが分かる。特に、スクロースを用いることにより、ピロロキノリンキノンの残存率が高くなった。
【0065】
一方で、アスコルビン酸のみを含む比較例2と、糖のみを含む比較例3~4では、ピロロキノリンキノンの減少が認められることが分かる。さらに、アスコルビン酸も糖も含まない比較例1では、ピロロキノリンキノンの減少が特に顕著であった。このようにコーヒー中でピロロキノリンキノンの減少が生じることはこれまで知られておらず、その減少が糖とアスコルビン酸を併用することにより、十分に抑制されたことは驚くべきことである
【0066】
〔紅茶におけるピロロキノリンキノンの安定化〕
(実施例8~9)
常温下、キリンの紅茶飲料(ダージリン20%)無糖に対して、アスコルビン酸を濃度が100mg/Lとなるように添加し、スクロースを濃度が4g/L又は10g/Lになるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含む紅茶を調製した。得られた紅茶のpHは4.7であった。
【0067】
(比較例5)
常温下、キリンの紅茶飲料(ダージリン20%)無糖に対して、アスコルビン酸を濃度が200mg/Lとなるように添加し、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含む紅茶を調製した。得られた紅茶のpHは4.7であった。
【0068】
(比較例6)
常温下、キリンの紅茶飲料(ダージリン20%)無糖に対して、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩を濃度が40mg/Lになるように添加して、ピロロキノリンキノンを含む紅茶を調製した。得られた紅茶のpHは4.7であった。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例8~9により、紅茶においても糖とアスコルビン酸を併用することにより、ピロロキノリンキノンの残存率が高いことが分かる。一方で、アスコルビン酸のみを含む比較例5やアスコルビン酸も含まない比較例6では、ピロロキノリンキノンの減少が認められた。このように紅茶中でピロロキノリンキノンの減少が生じることはこれまで知られておらず、その減少が糖とアスコルビン酸を併用することにより、十分に抑制されたことは驚くべきことである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、コーヒー又は紅茶において、ピロロキノリンキノンを安定化する方法として産業上の利用可能性を有する。