(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】免疫測定用デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
G01N33/531 Z
(21)【出願番号】P 2020076700
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/079998(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115635(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/121310(WO,A1)
【文献】特表2009-531704(JP,A)
【文献】特開平06-102182(JP,A)
【文献】特表2007-505326(JP,A)
【文献】特開2012-157267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0187515(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0323330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 35/00 - 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する筒状の枠体と、
一方の面に複数の微細孔を有し、前記枠体に接合されて前記枠体の一方の開口を塞ぐ底部材と、
を備え、
前記底部材は、前記枠体と接合される周縁部と、前記周縁部よりも低く形成され、平面視において、前記周縁部内に位置する中央部と、を有し、
前記中央部に、前記微細孔が
前記底部材を貫通しない非貫通状態で形成されている、
免疫測定用デバイス。
【請求項2】
内部空間を有する筒状の枠体と、
一方の面に複数の微細孔を有し、前記枠体に接合されて前記枠体の一方の開口を塞ぐ底部材と、
を備え、
前記底部材は、前記枠体と接合される周縁部と、前記周縁部よりも低く形成され、平面視において、前記周縁部内に位置する中央部と、を有し、
前記中央部に、前記微細孔が形成され、
前記周縁部は溝を有し、
前記枠体の一部が前記溝内に進入した状態で前記枠体と前記底部材とが
接合されている、
免疫測定用デバイス。
【請求項3】
内部空間を有する筒状の枠体と、
一方の面に複数の微細孔を有し、前記枠体に接合されて前記枠体の一方の開口を塞ぐ底部材と、
を備え、
前記底部材は、前記枠体と接合される周縁部と、前記周縁部よりも低く形成され、平面視において、前記周縁部内に位置する中央部と、を有し、
前記中央部に、前記微細孔が形成され、
前記枠体の内面のうち前記底部材が接合されている側の内面は、前記底部材により塞がれた開口に近づくにつれて内方に
湾曲している、
免疫測定用デバイス。
【請求項4】
前記枠体のうち、前記底部材が接合される側の端面が遮光性を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の免疫測定用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の抗原抗体反応を利用して各種生体分子やガン細胞などの検査を行う免疫系の分析等において使用される免疫測定用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原は、病原性のウイルスや細菌、花粉、卵及び小麦などの生体に免疫応答を引き起こす物質である。抗体は、体内に入った抗原を体外へ排除するために作られる免疫グロブリンというタンパク質の総称である。例えば、ワクチンは、無毒化した病原性細菌やウイルスを投与することで、体内で病原体に対する抗体の産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。
【0003】
病原菌やガン細胞の検出、DNAの遺伝子解析又は環境有害物質等の測定などの、いわゆる生体計測の分野において、免疫反応を用いて測定すべき生体物質(例えば抗原)と、これと選択的に結合する検査用物質(例えば抗体)との結合を測定することで、前記抗原等の種類と量との計測がなされている。
【0004】
公知の免疫系の検査法としては、測定すべき検体が含む抗原を捕捉する抗体を直接又は間接的に蛍光色素、アイソトープその他の標識化物質(以下、マーカーと記す)で標識化し、捕捉後(抗原抗体反応後)のマーカーからの蛍光量や放射線量を計測し、診断に供する方法が一般的に採用されている。
【0005】
抗原等の測定に用いるマーカーとしては、厳密な管理を要求されるラジオアイソトープよりも、使い勝手の良い蛍光マーカー等が一般的に使用されている。蛍光マーカー等を用いる光学的手法では、蛍光マーカーが付加された抗体を抗原に結合させて、そのマーカーからの発光を測定することで抗原の測定及び分析を行なう。その代表的な方法として、エンザイムイムノアッセイ(例えば、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay,ELISA)法では、抗原と結合した抗体に付加した蛍光マーカーが試薬中の酵素と反応することで生じる蛍光を利用する。
【0006】
生体分子の観察を容易にし、測定対象の生体分子を識別するために、個々の生体分子には蛍光マーカーとともに、金コロイド又は微小粒子等が付加される。微小粒子としては、例えばポリスチレンビーズが使用される。生体分子に蛍光マーカーや微粒子を付加することで、光学顕微鏡の分解能では見ることが難しい大きさの分子を可視化することができる。以下、蛍光マーカーと微粒子を合わせて蛍光ビーズ又は単にビーズと記す。
【0007】
上記のような、免疫測定に抗原抗体反応を利用する分析では、測定すべき検体を含む血液などの液体(以下、血液で代表する)、蛍光標識となる蛍光ビーズ、発光(発色)反応を促進する試薬などを入れるために、試験管タイプの容器が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
図19は、前記免疫測定用カップ150に複数の蛍光ビーズ162を滴下する様態を示す模式断面図である。
【0009】
従来の免疫測定用カップ150を用いても、ガン細胞など細胞のレベルでの検出や大型のタンパク質など分子量の大きいもの(例えば分子量が60kDa以上)は検出できる。一方で、
図19から推測できるように、滴下用治具先端部161から従来の免疫測定用カップ150に複数の蛍光ビーズ162を滴下すると、蛍光ビーズ162の配列が不均一となる。そのため、蛍光ビーズ162が血液と試薬の混ざった液体中で分散するため蛍光が散乱して減光してしまう。よって、小さい分子量のタンパク質、例えば5~60kDa程度であるサイトカインなどを正確に測定し分析することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4095176号公報
【文献】特許第4522434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来の免疫測定用カップには改善の余地がある。
さらに、免疫測定に用いる検体は貴重であり、試薬には高価なものが多いため、これらを効率よく利用したいという要望がある。
これらの要望に応えた免疫測定用デバイスの登場が望まれている。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、サイトカインなど小さな分子量のタンパク質などをばらつきがなく高い精度で測定し分析することができ、検体や試薬を効率よく利用できる免疫測定用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、内部空間を有する筒状の枠体と、一方の面に複数の微細孔を有し、枠体に接合されて前記枠体の一方の開口を塞ぐ底部材とを備える免疫測定用デバイスである。
この免疫測定用デバイスの一態様において、底部材は、枠体と接合される周縁部と、周縁部よりも低く形成され、平面視において、周縁部内に位置する中央部とを有し、中央部に微細孔が底部材を貫通しない非貫通状態で形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイトカインなど小さな分子量のタンパク質などをばらつきがなく高い精度で測定し分析することができ、測定効率や製造効率に優れた免疫測定用デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る免疫測定用デバイスの模式断面図である。
【
図2】同免疫測定用デバイスに係る底部材の拡大断面図である。
【
図3】同免疫測定用デバイスに係るマスターの製造における一過程を示す図である。
【
図4】同マスターの製造における一過程を示す図である。
【
図5】同マスターの製造における一過程を示す図である。
【
図6】製造されたマスターの走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】同底部材の製造における一過程を示す図である。
【
図8】同底部材の製造における一過程を示す図である。
【
図9】同底部材の製造における一過程を示す図である。
【
図10】同底部材の製造における一過程を示す図である。
【
図11】製造された底部材上面のSEM写真である。
【
図12】製造された底部材断面のSEM写真である。
【
図13】同免疫測定用デバイスの使用時における拡大断面図である。
【
図14】本発明の第二実施形態に係る免疫測定用デバイスの模式断面図である。
【
図15】本発明の変形例に係る枠体の部分断面図である。
【
図16】本発明の変形例に係る枠体の部分断面図である。
【
図17】本発明の変形例に係る免疫測定用デバイスの部分断面図である。
【
図18】本発明の変形例に係る免疫測定用デバイスの部分断面図である。
【
図19】従来の免疫測定用カップに複数の蛍光ビーズを滴下する様態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第一実施形態について、
図1から
図12を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る免疫測定用デバイス1の模式断面図である。
免疫測定用デバイス1は、筒状の枠体10と、枠体10に接合された底部材30とを備えている。
【0017】
本実施形態の枠体10は円筒状であり、内部空間は略円柱状である。内部空間の径は、下部から上部に向かってわずかに拡大するテーパー状となっている。
枠体10は、上端周縁に、径方向外側に延びるフランジ11を有する。
図1では寸法の関係で明確に示されていないが、枠体10の内周面10aとフランジ11の上面11aとは、滑らかな曲面状に接続されており、明確な稜線を有さない。これらにより、枠体10は、上部開口から検体や試薬等を投入しやすい形状となっている。内部空間の形状は円柱状に限られず、多角柱状であってもよい。
【0018】
枠体10は、後述する検体の蛍光観察時に外光を遮断できるよう、遮光性を有する。このような遮光性材料は、ベースとなる合成樹脂(ベース樹脂)に有色顔料を混合することにより得られる。合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン(PS)、COP(シクロオレフィンポリマー)等を例示でき、コストと成形性の観点からは、PSが好適である。有色顔料としては、カーボンブラック等を例示できる。枠体10は、例えばベース樹脂に有色顔料を含むマスターバッチ剤を3~5%程度混合し、均一に混ざった状態で射出成型することにより形成できる。
【0019】
以下に、枠体10の各部の寸法の一例を示すが、本実施形態に係る枠体は、記載された寸法には限定されない。
枠体10の高さh1:9.0mm~13.0mm。
フランジ11の外径d1:8.0mm~9.5mmが好ましく、8.8mmが最も好ましい。
フランジ11の厚み:0.8mm~1.2mm。
枠体10の内部空間の径方向最大寸法d2:6.0mm~7.0mmが好ましく、6.3mmが最も好ましい。テーパー状に縮径する最下端部における径方向最大寸法は、上部より0.05mm程度小さいことが好ましい。
枠体10の内部空間の平面視における面積:上部における最大値は、20~40mm2。下端部における最小値は、10~30mm2。
【0020】
底部材30は、合成樹脂で形成されており、一方の面(上面)31に多数の微細孔からなる微細孔パターンが形成されている。底部材30を形成する合成樹脂は、後述する観察を好適に行えるよう、透明な樹脂であり、後述する製造方法に応じて、シクロオレフィンポリマー(COP)や電子線硬化型樹脂等を使用できる。
【0021】
底部材30は、枠体10の下端面に接合され、枠体10の下側開口を塞いでいる。すなわち、底部材30の上面31は、免疫測定用デバイス1の底面を構成している。上面31は、平面視における中央部31aが周縁部31bよりも低くなっている。中央部31aおよび周縁部31bは平坦な基本形状を有し、中央部31aと周縁部31bとは球面状の接続部31cにより接続されている。
【0022】
中央部31aには、多数の微細孔32が形成されている。
図2は、微細孔32の模式断面図である。微細孔32の平面視形状は、円形でも多角形でもよいが、その径方向(平面視において中心を通る任意の方向)における最小寸法(平面視形状が円形の場合は直径)は使用されるビーズの最大径の1.1倍~1.9倍であることが好ましく、1.2~1.8倍であることがより好ましく、1.3~1.7倍であることがさらに好ましい。微細孔32の径方向最小寸法がビーズの最大径の1.1倍~1.9倍であると、1つの微細孔32にビーズが1個しか入らず、2個入ることはない。
例えば、ビーズの最大径が3μmである場合、微細孔32の径方向最小寸法は、3.3μm~5.7μmであることが好ましく、3.6μm~5.4μmであることがより好ましく、3.9μm~5.1μmであることが更に好ましい。
【0023】
微細孔32は、開口部の径方向寸法R1より底面の径方向寸法R2の方が小さいテーパー形状を有する。寸法R1はビーズの最大径の1.1倍~1.5倍であることが好ましく、1.2~1.4倍であることがより好ましい。寸法R2は、ビーズの最大径の1.6倍~1.9倍であることが好ましく、1.7~1.8倍であることがより好ましい。
微細孔32の深さD1は、ビーズの最大径の1.1倍~1.5倍であることが好ましく、1.1倍~1.3倍であることがより好ましい。これにより、1つの微細孔32にビーズが1つだけ収まりやすい。
【0024】
微細孔32の底面32aと側面32bとは、断面形状において、角部33を形成している。すなわち、側面32bは、底面32aに対して角部33を形成するように立ち上がっている。一方、側面32bと底部材30の上面31とは、明確な角部を形成しないように、滑らかな曲線状に接続されている。側面32bと上面31との接続態様は、公知のスプライン曲線に基づいて設定されてもよい。
上記のように形成された微細孔32は、ビーズが進入しやすく、かつ進入したビーズが外に出にくい構造となっている。
【0025】
底部材30の平面視における微細孔32の配列パターンに特に制限はないが、規則的な配列とすると、製造および微細孔数の設定を簡便に行える。規則的配列として、隣り合う微細孔32の中心同士を結ぶ三角形を正三角形とする最密充填配置を例示できる。
本実施形態において、中央部31aの平面視形状は円形であり、中央部31aの径は、枠体の内径よりも小さい。
中央部31aの平面視形状は円形に限られず、適宜設定できる。微細孔32は、中央部31aの全面に形成されてもよいし、一部に形成されてもよい。
【0026】
底部材30の製造手順の一例について説明する。底部材30は、微細孔に対応するパターン(マスターパターン)が形成されたマスター(原版)を使用して製造できる。
まず、
図3に示すように、シリコンウェハ100上にレジスト層101を形成する。次に、レジスト層101に対しEB(電子線)描画を行い、
図4に示すように、レジスト層101にフォトリソグラフィによりマスターパターンMpを形成する。
【0027】
さらに、レジスト層101を覆うように導電層(シード層)102を形成した後、
図5に示すように、ニッケル103を用いた電鋳を行う。電鋳後にニッケル103を剥離すると、ニッケルからなるマスター104が完成する。
図6に、ニッケル製のマスター104の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。微細孔32を形成するための微小凸部104aが規則的に配列されて形成されていることがわかる。
ニッケル製のマスターの硬度はHV(ビッカース硬さ)400~500程度であり、底部材30の製造においても高寿命を実現できる。マスターの表面に窒化チタン(TiN)等の表面処理を行うと、さらに寿命を延ばしたり、底部材の製造時における剥離を容易にしたりできる。
【0028】
マスターの製造においては、
図4に示す状態からドライエッチングを行うことにより、シリコンウェハ100にマスターパターンMpを形成して電鋳を行ってもよい。このようにすると、形成される微細孔の形状および寸法の精度を高めることができる。
大型のマスターを作製する等の場合、シリコンウェハ100に代えて、クロム膜が形成された石英ガラス基板が用いられてもよい。
【0029】
次に、製造されたマスターを用いて底部材30を作製する。底部材30は、マスターを用いたインプリント技術により作製できる。
【0030】
まず、
図7に示すように、底部材となる合成樹脂製の基材110を準備する。次に、
図8に示すようにマスター104のマスターパターンMpが形成された側の面を基材110に接触させ、熱および圧力をかけると、マスターパターンMpの形状が基材110に転写される。
これにより、ホットエンボス法により底部材30を製造できる。ホットエンボス法における基材110としては、上述したCOPや、自家蛍光の少ない汎用ポリスチレン(GP-PS)などが好適である。
【0031】
底部材30は、他の方法によっても製造できる。
図9に示す基材111は、合成樹脂製のシート111a上に、未硬化の紫外線硬化樹脂からなる転写層111bを有する。
シート111aとしては、各種樹脂製のものが使用できるが、透明性が高く、自家蛍光が少ないものが好ましい。転写層111bを形成する樹脂は、例えばPMMA等のアクリル系樹脂が好ましい。
【0032】
図10に示すように、基材111の転写層111bにマスター104のマスターパターンMpが形成された側の面を接触させた状態で、転写層111bに対応する波長の紫外線UVを照射する。これにより、転写層111bは、マスターパターンMpの形状が転写された状態で硬化する。紫外線UVの照射は、原則として基材111側から行うが、マスター104が材質等により透明である場合は、マスター104側から行ってもよい。
転写層111bの硬化後に基材111をマスター104から剥離すると、基材111を用いたUVインプリントにより底部材30が完成する。
【0033】
図11および
図12に、
図5に示したマスターを使用してホットエンボス法により作製した底部材の上面31及び断面のSEM写真を示す。基材110として、厚さ188μmのCOPフィルム(日本ゼオン社製 ZF14-188)を使用した。底部材30の上面31に、微細孔32が精度良く形成されていることがわかる。この作製例において、微細孔の寸法は、R1:5.4μm、R2:5.04μm、D1:3.56μmである。
【0034】
上面31の周縁部31bを、枠体10の下面に接触させて枠体10と底部材30とを接合すると、免疫測定用デバイス1を形成できる。接合方法に特に制限はなく、枠体10および底部材30の材質等に応じて、接着剤による接合、熱融着、超音波溶着等を適宜選択できる。
底部材30が枠体10に接合されると、枠体10の下側の開口が底部材30によって塞がれ、上面31の中央部31aに形成された微細孔32が枠体10内の底部に配置される。これにより、免疫測定用デバイス1は、枠体10内に検査対象の液体を貯留し、ビーズおよび液体を微細孔32内に配置できる容器となる。
【0035】
完成した免疫測定用デバイス1は、ビーズを用いた蛍光観察に好適に使用できる。このような蛍光観察の手順は公知であるが、以下に簡潔に説明する。
ビーズは、測定すべき検体を付着させるための微粒子である。具体的なビーズとして、金コロイド及びポリスチレンビーズ等を例示できる。ビーズはその表面に、測定すべき検体に含まれる測定対象物質(つまり検出対象物質)を補足するための抗体(補足抗体)を吸着することができる。
【0036】
測定すべき検体として、がん細胞などの細胞又は血液等が挙げられる。測定すべき検体に含まれる測定対象物質として、分子量が60kDa以上の分子量の大きいタンパク質及び分子量が5~60kDa程度の分子量の小さいタンパク質(つまりサイトカイン)等が挙げられる。免疫測定用デバイス1を用いると、特に5~60kDa程度の分子量の小さいタンパク質であっても高感度に検出が可能である。
【0037】
試薬は、一般的に免疫測定法で用いられる試薬であり、例えばELISAの場合、測定対象物質と特異的に結合する抗体(一次抗体)、一次抗体と特異的に反応する酵素標識済み抗体(二次抗体)及び前記酵素の基質等を例示できる。一次抗体に酵素が標識されている場合は、二次抗体を必要としない場合がある。本実施形態では、酵素の基質は、蛍光試薬であることが好ましい。
【0038】
蛍光観察を行う際は、まず、ビーズを免疫測定用デバイス1の枠体10内に投入してビーズを微細孔32内に配置する。ビーズは、予め補足抗体を吸着させておいてもよいし、ビーズを微細孔32に配置した後、補足抗体を吸着させてもよい。その後所望の検体及び試薬を枠体10の上部開口から注入する。
【0039】
検体及び試薬の注入後に、微細孔32に入らず、余分となったビーズを、余分の検体及び試薬とともに除去する。除去方法としては、封止剤を流し込み、免疫測定用デバイス1を傾けて行う方法が好ましい。すなわち、免疫測定用デバイス1に封止剤を流入し傾けると、上述した形状の微細孔32内のビーズは容易に微細孔32から脱出しないが、微細孔32外に位置するビーズは、免疫測定用デバイス1を傾けることによって余分の検体及び試薬は除去される。
封止剤としては、フッ素系オイルとシリコーン系オイルとのいずれか一方、又はその混合物等が好ましい。
【0040】
この処理が終わると、微細孔32内のビーズ、検体、及び試薬は、封止剤により微細孔32内に閉じ込められ、各微細孔32内が独立した反応空間となる。このため、免疫測定用デバイス1では、従来の免疫測定用カップを用いる場合と比較して、検体及び試薬の量が少なくて済む。つまり、免疫測定用デバイス1を用いると、検体及び試料の量は少ないにもかかわらず、検体と試薬が反応することにより生じる蛍光の強度は強い。
さらに、各微細孔32内で検体と試薬が反応することにより生じる蛍光は、他の微細孔内のビーズの干渉を受けない。また、微細孔32内に2以上のビーズが存在することはほぼないため、微細孔32ごとの蛍光強度が均一となり、ばらつきが生じにくい。
【0041】
微細孔32から出射する蛍光を、免疫測定用デバイス1の下方から、測定システムを用いて測定することができる。測定システムとしては、例えば倒立型の光学顕微鏡や蛍光顕微鏡を備えた公知のシステムを用いることができる。
免疫測定用デバイス1を用いると、検体と試薬が反応することにより生じる蛍光の強度に基づいて、観察の目的となる生体分子の数を特定することもできる。通常、光学顕微鏡の分解能は数百nmという可視光の波長程度である。免疫測定用デバイス1を用いた免疫測定方法においては、測定対象物である生体分子は蛍光色素を使って標識されており、免疫測定用デバイス1を用いることで、蛍光検出感度を向上することが可能である。そのため、測定対象物がサイトカインのような低分子の物質であっても観察可能となる。
【0042】
測定システムは、デジタル顕微鏡やデジタルカメラ等のデジタル観察装置と、演算装置とを備えた通信機器を用いて蛍光を測定及び分析するシステムでもよい。
蛍光の光路には、必要に応じて波長選択用のフィルタを挿入してもよい。
これらにより、生体分子の機能や活性状態に係る情報を得ることも可能である。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る免疫測定用デバイス1は、ビーズを用いた免疫測定に好適に用いることができる。
免疫測定用デバイス1の底面となる底部材30においては、上面31の中央部31aが周縁部より31bよりも低くなっているため、
図13に示すように、投入した検体、ビーズ、試薬等を含む液体Lが自然に中央部31aに集まる。したがって、検体、試薬等を効率よく微細孔32に導くことができ、必要最小限の検体、試薬等を用いて良好な測定を行うことができる。
【0044】
また、底部材30の全面に微細孔32を設けないことにより、検体や試薬等の利用効率を規定する中央部31aの寸法と、検体や試薬等の投入のしやすさを規定する枠体10の寸法とをそれぞれ独立して設定することが容易となり、それぞれの寸法を最適化して使用性を高めやすい構成となっている。
【0045】
本発明の第二実施形態について、
図14を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
図14は、本実施形態に係る免疫測定用デバイス51の模式断面図である。免疫測定用デバイス51は、枠体10に代えて枠体60を、底部材30に代えて底部材70を備えている。
枠体60の下端部61は、下端に近づくにつれて徐々に薄くなっており、
図14に示す断面においてとがった形状を有する。
底部材70の周縁部31bには、平面視において円周状の溝71が形成されている。溝71の断面形状は略V字状であり、下端部61の形状と対応している。
枠体60と底部材70とは、下端部61が溝71内に進入した状態で一体に接合されている。
【0047】
本実施形態の免疫測定用デバイス51は、第一実施形態の免疫測定用デバイス1と同様の効果を奏する。
【0048】
また、枠体60が先細り形状の下端部61を有し、底部材70が下端部61の進入可能な溝71を有することにより、枠体の寸法が同様である場合に、第一実施形態よりも枠体と底部材との接合面積を大きくすることができる。その結果、両者の接合を強固にできる。
【0049】
枠体60と底部材70との接合面は、
図14に示す断面において、下降してから上昇する折り返し形状となっている。その結果、万一接合が十分でない箇所があった場合も、試薬等が漏れ出しにくい構造となっている。
【0050】
本実施形態において、枠体下端部の形状は、
図14に示したものに限られず、溝に進入可能な先細り形状であればよい。例えば、
図15に示すような凸状の下端部61Aや、
図16に示すような、斜面を一方にのみ有する下端部61B等であってもよい。枠体が十分薄い等の場合は、下端部を先細り形状とせずにそのまま溝内に進入させて接合してもよい。
また、底部材70の溝71は、あらかじめ形成してもよいし、枠体の下端部を周縁部に押し当てた状態で底部材70を加熱により変形させることによって形成してもよい。
下端部の先細り形状は、枠体の全周に設けられてもよいし、間隔を空けて設けられてもよい。
【0051】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0052】
・枠体の一部のみが遮光性を有する構成であってもよい。
図17に示す変形例の枠体80は、下端から一定の範囲のみが有色の遮光部81となっており、遮光部81よりも上側は透明となっている。観察時における枠体の自家蛍光による影響は、主に下端部で生じるため、枠体の上側が透明であっても、観察に大きな影響を与えない。
遮光性を有する部位は、少なくとも観察装置で観察される枠体の下側端面を含んでいれば自家蛍光の影響を低減できる。
部分的な遮光部は、透明材料および有色材料を用いた二色成形や、有色塗料の部分的塗工等により形成できる。枠体80のように枠体の外周面または内周面に遮光部を設けると、試薬やオイル等を入れる際の目安として機能させることもでき、試薬やオイル等の節約に寄与できる。
この変更は、上述した実施形態のすべてに適用できる。
【0053】
・
図18に示す変形例の枠体90のように、枠体の断面において、底部材と接合される下側の内面90aが、底部材70に塞がれた下側開口に近づくにつれて枠体の筒形状の中心に近づくように内方に湾曲してもよい。このようにすると、枠体の内面と底部材の上面とが滑らかに接続され、試薬や検体等を円滑に中央部に導入できる。
この変更は、上述した実施形態のすべてに適用できる。
【0054】
・枠体は、上述した各実施形態の枠体が複数つながった状態で形成されてもよい。このような枠体は、複数の内部空間を有し、多数の試料の測定を一括して行える。
内部空間の数や連結態様は適宜設定できるが、8つの内部空間が一方向にならんだ形状であると、一般的な96穴マイクロプレート用の観察環境に対応させやすいため、好ましい。この場合、底部材は中央部および周縁部を複数組有する一続きの部材であってもよい。
この変更は、上述した実施形態のすべてに適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1、51 免疫測定用デバイス
10、60 枠体
30、70 底部材
31 上面(一方の面)
31a 中央部
31b 周縁部
32 微細孔
71 溝