(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】記録方法、及び記録用水性インク
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240806BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240806BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B41J2/01 125
C09D11/322
B41J2/01 501
B41J2/01 305
B41M5/00 120
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2020086692
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】奥村 祐生
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-22683(JP,A)
【文献】特開2015-63054(JP,A)
【文献】特開2016-78409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0083609(US,A1)
【文献】特開2018-149735(JP,A)
【文献】特開2020-60777(JP,A)
【文献】特開平6-8527(JP,A)
【文献】特開2021-35761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、
上記記録媒体がコート紙であると判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって積算熱量Q1で加熱し、
上記記録媒体がコート紙でないと判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって上記積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2で加熱する記録方法であって、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含み、
上記水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内であり、
上記水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下であり、
上記加熱部と対向する位置における上記搬送機構の搬送速度が、100cm/秒以下であ
り、
上記積算熱量Q2がゼロである記録方法。
【請求項2】
搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、
上記記録媒体がコート紙であると判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって積算熱量Q1で加熱し、
上記記録媒体がコート紙でないと判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって上記積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2で加熱する記録方法であって、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含み、
上記水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内であり、
上記水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下であり、
上記加熱部はIRヒータであって、単位面積あたりの照射熱量が8W/cm2以下で駆動され、
上記積算熱量Q1は、3.0J/cm2以下であ
り、
上記積算熱量Q2がゼロである記録方法。
【請求項3】
搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、
上記記録媒体がコート紙であると判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって積算熱量Q1で加熱し、
上記記録媒体がコート紙でないと判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって上記積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2で加熱する記録方法であって、
上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含み、
上記水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内であり、
上記水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下であり、
上記水溶性有機化合物は、分子量が600から4000の範囲内のポリエチレングリコールであ
り、
上記積算熱量Q2がゼロである記録方法。
【請求項4】
上記加熱部と対向する位置における上記搬送機構の搬送速度が、100cm/秒以下である請求項2又は3に記載の記録方法。
【請求項5】
上記加熱部はIRヒータであって、単位面積あたりの照射熱量が8W/cm2以下で駆動され、
上記積算熱量Q1は、3.0J/cm2以下である請求項3に記載の記録方法。
【請求項6】
上記加熱部と対向する位置における上記搬送機構の搬送速度が、20cm/秒以上40cm/秒以下である請求項1から
5のいずれかに記載の記録方法。
【請求項7】
上記積算熱量が3.0J/cm2以下であり、
上記加熱部はIRヒータであって、単位面積あたりの照射熱量が4.7W/cm2以下で駆動される請求項1から
6のいずれかに記載の記録方法。
【請求項8】
上記記録用水性インクに対する上記水溶性有機化合物の含有量は、3.0質量%以上である請求項1から
7のいずれかに記載の記録方法。
【請求項9】
上記記録用水性インクに対する上記水溶性有機化合物の含有量は、5.0質量%以上である請求項1から
7のいずれかに記載の記録方法。
【請求項10】
上記記録用水性インクに対する上記水溶性有機化合物の含有量は、10.0質量%以下である請求項1から
7のいずれかに記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に吐出されて付着したインクを定着させるために、記録媒体がコート紙であるか否かによって積算熱量を変更する記録方法、及び、記録媒体に吐出されて付着したインクを定着させるために、記録媒体がコート紙であるか否かによって積算熱量を変更する記録装置に適した記録用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドのノズルから吐出されたインクが付着した記録媒体が、ヒータにより加熱されることによって、インクが記録媒体に定着する印刷装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録媒体には、記録面が滑らかになるようにコーティングが施された所謂コート紙と、コーティングが施されていない非コート紙とがある。コート紙では、付着したインクが紙に浸透し難く、記録面に残りやすい。そのため、コート紙では、記録面においてインクが拡がりにくいという問題がある。その結果、コート紙では、インクによるドットが離れやすく所謂埋まりがよくないという問題がある。この問題に対して、インクに界面活性剤を含有させることが考えられる。
【0005】
他方、非コート紙では、インクが紙に浸透しやすく、記録面に残る色材が少なくなるので、記録された画像の印字濃度が劣りやすい。この問題に対して、インクに含有される界面活性剤を少なくすることが考えられる。
【0006】
記録装置の多様性を向上させるには、コート紙及び非コート紙のいずれも使用可能であることが望まれるが、前述されたように、コート紙の問題の解決手段と非コート紙の問題の解決手段とは、相反する点があるため、両方の問題のいずれもを解決することは困難であった。
【0007】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コート紙における埋まりの問題と、非コート紙における印字濃度の問題とを共に解決できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、上記記録媒体がコート紙であると判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって積算熱量Q1で加熱し、上記記録媒体がコート紙でないと判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって上記積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2で加熱する記録方法である。上記記録用水性インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含む。上記水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内である。上記水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下である。
【0009】
また、本発明は、搬送機構により搬送方向へ搬送される記録媒体にヘッドから記録用水性インクを吐出し、上記記録媒体がコート紙であると判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって積算熱量Q1で加熱し、上記記録媒体がコート紙でないと判定したことを条件として、上記記録媒体又は上記記録媒体に付着した上記記録用水性インクを加熱部によって上記積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2で加熱する記録装置に使用される記録用水性インクであって、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含む。上記水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内である。上記水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コート紙における埋まりの問題と、非コート紙における印字濃度の問題とを共に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、印刷装置10の内部構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、ヒータ38を上方から視た模式図である。
【
図4】
図4は、コントローラ74を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、印刷装置10の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る印刷装置10について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、以下の説明においては、印刷装置10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、排出口13が設けられている側を手前側(前面)として前後方向8が定義され、印刷装置10を手前側(前面)から視て左右方向9が定義される。
【0013】
[印刷装置10の外観構成]
図1に示されるように、プリンタ10は、筐体20と、筐体20に保持されるパネルユニット21、カバー22、給紙トレイ23、及び排紙トレイ24と、を備える。プリンタ10は、シート6(
図2参照)に画像を記録する。
【0014】
シート6は、記録媒体の一例である。シート6は、所定の寸法にカットされた記録媒体であってもよいし、シートが円筒形状に巻かれたロールから引き出されたものであってもよいし、ファンフォールドタイプのものであってもよい。また、シート6は、非コート紙であってもよいし、コート紙であってもよい。「コート紙」とは、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙等のパルプを構成要素とした紙に、平滑性、白色度、光沢度等の向上を目的として、コート剤を塗布したものをいい、具体的には、上質コート紙、中質コート紙等があげられる。また、シート6は、粘着剤と剥離紙とが組み合わされたタック紙であってもよい。
【0015】
パネルユニット21は、タッチパネル及び複数の操作スイッチを備える。パネルユニット21は、ユーザの操作を受け付ける。
【0016】
図2に示されるように、給紙トレイ23は、筐体20の下部に位置する。排紙トレイ24は、筐体20の下部であって、給紙トレイ23の上に位置する。カバー22は、筐体20の前面の右部に位置する。カバー22は、筐体20に対して回動可能である。カバー22が開かれると、インクを貯留するタンク70にアクセス可能である。
【0017】
なお、本実施形態では、1つのタンク70のみが示されているが、タンク70は、ブラックなどの1色のインクを貯留するものに限定されず、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ貯留する4つの貯留室を有するものであってもよい。
【0018】
図2に示されるように、筐体20は、印刷エンジン50を内部に保持する。印刷エンジン50は、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27、プラテン28、及び記録ユニット29を主に備える。給送ローラ25は、給紙トレイ23に載置されたシート6に当接可能に、筐体20内に設けられた不図示のフレームに保持されている。給送ローラ25は、不図示のモータによって回転される。回転する給送ローラ25は、シート6を搬送路37に送り出す。搬送路37は、不図示のガイド部材によって区画された空間である。図示例では、搬送路37は、給紙トレイ23の後端から給紙トレイ23の上方となる位置まで湾曲して延びており、次いで、前方に向かって延びている。給送ローラ25、搬送ローラ26及び排出ローラ27は、搬送機構の一例である。
【0019】
搬送ローラ26は、シート6の搬送方向における給紙トレイ23の下流に位置している。搬送ローラ26は、搬送ローラ26は、従動ローラ35とともに、ローラ対を構成している。搬送ローラ26は、不図示のモータによって回転される。回転する搬送ローラ26及び従動ローラ35は、給送ローラ25によって搬送路37に送り出されたシート6を挟持しつつ搬送する。排出ローラ27は、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流に位置している。排出ローラ27は、従動ローラ36とともに、ローラ対を構成している。排出ローラ27は、不図示のモータによって回転される。回転する排出ローラ27及び従動ローラ36は、シート6を挟持しつつ搬送し、排紙トレイ24に排出する。プラテン28は、前後方向8における搬送ローラ26と排出ローラ27との間であって、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流、かつ排出ローラ27の上流に位置している。
【0020】
搬送ローラ26には、ロータリーエンコーダ96が設けられている。ロータリーエンコーダ96は、エンコーダディスク97と、光センサ98とを有する。エンコーダディスク97は、搬送ローラ26と同軸に設けられており、搬送ローラ26と共に回転する。エンコーダディスク97には、透過率が異なる2種のインデックスが周方向の全周に交互に複数が並んでいる。光センサ98は、エンコーダディスク97の2種のインデックスを光学的に読み取り可能である。回転するエンコーダディスク97の2種のインデックスを光センサが読み取ることによって、光センサ98から2種の信号がパルス形状に出力される。光センサ98の出力信号は、後述するコントローラが受信して、搬送ローラ26の回転速度が判定される。
【0021】
記録ユニット29は、印刷ヘッド34及びヒータ38を有する。印刷ヘッド34は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間に位置する。印刷ヘッド34は、いわゆるシリアルヘッドであってもよいし、いわゆるラインヘッドであってもよい。印刷ヘッド34は、インクが流通する流路を内部に有する。当該流路は、チューブ31によって、タンク70と連通されている。すなわち、チューブ31を通じて、タンク70が貯留するインクが印刷ヘッド34に供給される。
【0022】
印刷ヘッド34の下方に、プラテン28が位置する。プラテン28は、その上面がシート6の支持面である。各図には現れていないが、プラテン28の上面には、吸引圧が生ずる開口が形成されている。プラテン28の上面に生じた吸引圧によって、シート6がプラテン28の上面に密接する。
【0023】
図2及び
図3に示されるように、搬送路37の上方において、印刷ヘッド34の下流であって、且つ排出ローラ27の上流に、ヒータ38が位置する。ヒータ38は、所謂ハロゲンヒータである。ヒータ38は、加熱部の一例である。
【0024】
図2に示されるように、ヒータ38は、印刷ヘッド34より搬送方向の下流、すなわち前方に位置する。ヒータ38は、赤外線を放射する発熱体であるハロゲンランプ40、反射板41、及び筐体42を有する。筐体42は、概ね直方体形状であり、下向きに開口する。筐体42の下壁に、開口43が位置する。開口43を通じて、ハロゲンランプ40や反射板41からの熱が外部へ放射されたり、遮断されたりする。
【0025】
筐体42の内部空間に、ハロゲンランプ40が位置する。ハロゲンランプ40は、細長な円筒形状であり、左右方向9が長手方向である。筐体42の内部空間において、ハロゲンランプ40の上方に、反射板41が位置する。反射板41は、セラミック膜などがコーティングされた金属板であり、開口43付近を中心軸とする円弧形状に湾曲している。なお、反射板41に代えて、セラミック膜などがコーティングされたハロゲンランプ40が用いられてもよい。
【0026】
ヒータ38は、開口43の下方を通過するシート6、またはシート6に付着したインクの少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ38は、シート6及びインクの双方を加熱する。インクが加熱されることによって、樹脂微粒子がガラス転移し、ヒータ38の下方を通過したシート6が冷えることによって、ガラス転移した樹脂が硬化する。これにより、シート6にインクが定着される。
【0027】
ヒータ38の消費電力は、小型化の要請からは、600W以下であることが好ましく、更に好ましくは400W以下であり、特に好ましくは200W以下である。ヒータ38の消費電力は、ヒータ38からシートの単位面積当たりに照射されるエネルギー(照射エネルギー(β))に関係する。照射エネルギー(β)は、消費電力に応じてヒータ38が駆動され、ヒータ38の下方を移動するシートが一定の搬送速度で移動するときに、シートの単位面積(cm2)に付与される熱量(J)である。
【0028】
図3に示されるように、ヒータ38の左右方向9(幅方向の一例)に沿った照射長さL、すなわちハロゲンランプ40と開口43とが重複する範囲であって、かつ左右方向9に沿った長さLは、小型化の要請からは、25cm以下であることが好ましく、更に好ましくは21cm以下であり、特に好ましくは15cm以下である。
【0029】
なお、ヒータ38は、シート又はインクを加熱可能なものであれば、ハロゲンヒータに限らない。例えば、ヒータ38は、カーボンヒータ、ドライヤー、オーブン、ベルトコンベアオーブン等であってもよい。
【0030】
図4に示されるように、筐体14の内部空間には、コントローラ74及び電源回路(不図示)が配置されている。コントローラ74は、CPU131、ROM132、RAM133、EEPROM134、ASIC135などがバス137によってデータ通信可能に接続されたものである。CPU131がROM132に記憶されたプログラムを実行し、ASIC135が設定された特定の機能を果たすことによって、印刷装置10の動作が制御される。
【0031】
なお、コントローラ74は、CPU131のみによって各種処理が実行されるものであってもよいし、ASIC135のみによって各種処理が実行されるものであってもよい。また、コントローラ74に複数のCPU131が実装されており、コントローラ74は、複数のCPU131が各処理を分担して実行するものであってもよい。また、コントローラ74に複数のASIC135が実装されており、コントローラ74は、複数のASIC135が各処理を分担して実行するものであってもよい。
【0032】
電源回路は、大容量コンデンサなどによって構成された回路である。本実施形態において、電源回路は、紙フェノールなどで構成された基板に実装されている。電源回路は、印刷装置10が備える各構成要素への給電のための電力の変換などを行う回路である。
【0033】
例えば、電源回路から給送用モータ102及び搬送用モータ101へ電力が供給され、各モータの回転が、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27へ伝達される。また、電源回路から、ヒータ38へ電力が供給される。
【0034】
ヒータ38と対向する位置において、シート6がコート紙である場合に、シート6の単位面積当たりにヒータ38から受ける積算熱量Q1が3.0J/cm2以下であることが好ましく、更に好ましくは2.1J/cm2以下となるように、第1搬送ローラ60及び第2搬送ローラ62の回転速度を制御する。すなわちヒータ38の下方におけるシート6の搬送速度を制御する。ヒータ38の下方におけるシート6の搬送速度は、15cm/秒以上100cm/秒以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは15cm/秒以上70cm/秒以下の範囲内である。シート6が非コート紙である場合に、シート6の単位面積当たりにヒータ38から受ける積算熱量Q2は、積算熱量Q1より小さい(Q1>Q2)ことが好ましい。積算熱量Q2は、0.05J/cm2以下であることが好ましく、更に好ましくは0J/cm2である。また、Q2/Q1の範囲について、好ましくは0~0.05であり、更に好ましくは0である。
【0035】
シート6の単位面積当たりの積算熱量は、例えば、つぎのようにして測定できる。ヒータ38に付与される電力と、ヒータ38が赤外線を輻射する領域(前後方向8及び左右方向9に沿った平面における領域)の面積(例えば、開口43の投影面積)とから、ヒータ38の単位面積当たりの電力である電力密度(W/m2)を算出する。例えば、ヒータ38の消費電力が600Wであり、ヒータ38が赤外線を輻射する領域が129cm2であれば、電力密度は、4.7W/cm2である。また、シート6の搬送速度から、シート6における定点が、ヒータ38が赤外線を輻射する領域を通過するために要する時間(秒)を算出する。そして、当該時間に電力密度を乗じることにより、積算熱量(J/cm2)が算出される。
【0036】
[インクの組成]
以下、タンク70に貯留されるインク(記録用水性インクの一例)の詳細が説明される。インクは、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、水溶性有機化合物と、水と、を含む。
【0037】
樹脂分散顔料は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能なものである。樹脂分散顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等があげられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。これら以外の樹脂分散顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、48:3、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224、238及び254;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等があげられる。なお、インクは、樹脂分散顔料に加え、さらに、他の顔料及び染料等を含んでもよい。
【0038】
水性インク全量における樹脂分散顔料の顔料固形分含有量(顔料固形分量(P))は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。顔料固形分量(P)は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは2質量%以上10質量%以下の範囲内である。顔料固形分量(P)は、顔料のみの質量であり、樹脂微粒子の質量は含まない。樹脂分散顔料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
樹脂微粒子としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。樹脂微粒子は、例えば、モノマーとして、さらに、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。樹脂微粒子は、例えば、樹脂エマルジョンに含まれるものであってもよい。樹脂エマルジョンは、例えば、樹脂微粒子と、分散媒(例えば、水等)とで構成されるものである。樹脂微粒子は、分散媒に対して溶解状態ではなく、特定の粒子径の範囲で分散している。樹脂エマルジョンに含まれる樹脂微粒子としては、例えば、アクリル酸系樹脂、マレイン酸系エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、カーボネート型樹脂、ポリカーボネート型樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びこれらの共重合体樹脂等があげられる。
【0040】
水性インク全量における樹脂微粒子の含有量(R)は、例えば、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下の範囲内である。樹脂微粒子は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
水溶性有機化合物の融点は、20℃以上55℃以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは35℃以上55℃以下の範囲内であり、特に好ましくは35℃以上50℃以下の範囲内である。
【0042】
水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度は、20℃において8.5mPa・s以上であり、且つ50℃において90mPa・s以下であることが好ましく、更に好ましくは20℃において15mPa・s以上であり、且つ50℃において45mPa・s以下の範囲内であり、特に好ましくは20℃において20mPa・s以上であり、且つ50℃において25mPa・s以下の範囲内である。水溶性有機化合物としては、例えば、分子量が600から4000の範囲内のポリエチレングリコールが好ましい。
【0043】
有機溶剤は、特定有機溶剤以外の有機溶剤を含んでもよい。特定有機溶剤以外の浸透剤は、特に限定されず、例えば、グリセリン、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インク全量における水の含有量(W)は、例えば、10質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは20質量%以上80質量%以下の範囲内である。水の含有量(W)は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0045】
インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0046】
インクは、例えば、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、特定有機溶剤と、水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0047】
[印刷装置10の動作]
以下に、
図5が参照されつつ、印刷装置10による画像記録動作が説明される。
【0048】
コントローラ74は、印刷データを受信すると(S11:Yes)、印刷データが有するシート情報に基づいて、印刷を行うシートがコート紙であるか否かを判定する(S12)。なお、コントローラ74は、印刷データが有する記録紙情報に代えて、給紙トレイ23に収容されているシート6の登録情報に基づいて、印刷を行うシートがコート紙であるか否かを判定してもよい。
【0049】
コントローラ74は、印刷を行うシートがコート紙であると判定したことに応じて(S12:Yes)、シート6に付与する積算熱量Q1を、RAM133などのメモリに設定値として格納する(S13)。また、コントローラ74は、印刷を行うシートがコート紙でないと判定したことに応じて(S12:No)、シート6に付与する積算熱量Q2をメモリに設定値として格納する(S14)。
【0050】
ここで、積算熱量Q1,Q2は、シート6の単位面積当たりの積算熱量であり前述したように算出されるものである。ROM132などのメモリには、積算熱量Q1,Q2にそれぞれ対応するヒータ38の下方におけるシート6の搬送速度V1,V2が設定されている。
【0051】
ついで、コントローラ74は、印刷を実行する(S15)。詳細には、コントローラ74は、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27を回転(正転)させて、シート6を、印刷ヘッド34の下方へ送り出す。また、コントローラ74は、コントローラ74は、ヒータ38のハロゲンランプ40に通電する。
【0052】
コントローラ74は、ヒータ38と対向する位置において、搬送ローラ26及び排出ローラ27により搬送方向(前後方向8の前向き)に搬送されるシート6の搬送速度V1又は搬送速度V2を、積算熱量Q1,Q2に基づいて決定して、搬送ローラ26及び排出ローラ27を回転する。このような搬送速度の制御は、例えば、搬送ローラ26に設けられたロータリーエンコーダ96の信号に基づいて、搬送ローラ26の回転が制御されることにより実現される。なお、コントローラ74は、搬送速度を一定として、積算熱量Q1,Q2となるように、ヒータ38に通電される電力(W)を制御してもよい。
【0053】
そして、コントローラ74は、給送ローラ25、搬送ローラ26、及び排出ローラ27を回転(正転)させつつ、印刷データに基づいて、印刷ヘッド34からシート6へ向けてインクを吐出する。プラテン28上を排紙トレイ24へ向かって搬送されるシート6は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間において、プラテン28の上面に吸着されつつ排紙トレイ24へ向かって移動する。印刷ヘッド34から吐出されたインク滴は、プラテン28の上面に支持されているシート6に付着する。インク滴が付着したシート6がヒータ38の下方へ到達すると、シート6はヒータ38により加熱される。ヒータ38の加熱によってインク滴がシート6に定着する。そして、コントローラ74は、印刷後のシート6を排紙トレイ24へ排出して、印刷を終了する。
【0054】
水性インクに含まれる水溶性有機化合物の融点が上記の範囲内であり、且つ水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度が上記の範囲内であることにより、コート紙においては、ヒータ38から積算熱量Q1を加熱されることによってシート6上の水性インクが広がるように流動して、インクの埋まりが向上すると推測される。また、非コート紙においては、ヒータ38から積算熱量Q2を加熱されることによって水性インクが広がるように流動することが抑制される一方、シート6上において水性インク中の水分が紙の繊維に吸収されることによって水性インクが増粘し、シート6の上部に樹脂分散顔料が留まり光学濃度が向上すると推測される。
【0055】
他方、水性インクに含まれる水溶性有機化合物の融点が上記の範囲外であったり、水溶性有機化合物の50質量%水溶液の粘度が上記の範囲外であったりすることにより、所望の効果が得られない。仮に、水溶性有機化合物の50質量%水溶液の50℃における粘度が上記の範囲を超えている場合には、非コート紙において印刷された箇所の光学濃度が向上する効果が得られるものの、コート紙においては、ヒータ38から積算熱量Q1を加熱されてもシート6上の水性インクが流動せずに、水性インクの埋まりが劣るものと推測される。また別の仮定として、水溶性有機化合物の50質量%水溶液の20℃における粘度が上記の範囲を下回っている場合には、コート紙において水性インクの埋まりが向上するものの、非コート紙においては、ヒータ38から積算熱量Q1より小さい積算熱量Q2を加熱されることによっても水性インクが広がるように流動することが抑制されないことにより、シート6の上部に樹脂分散顔料が留まり難く、印刷箇所の光学濃度が劣るものと推測される。
【0056】
また、積算熱量Q1と積算熱量Q2との関係が上記の逆(Q1<Q2)である場合には、仮に、水溶性有機化合物の50質量%水溶液の20℃及び50℃の粘度がいずれも上記範囲内であっても、コート紙において水性インクが広がるように流動して水性インクの埋まりが向上せず、また、非コート紙において水性インクが広がるように流動することが抑制されないことにより、印刷箇所の光学濃度が劣るものと推測される。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0058】
[顔料分散液A]
顔料(カーボンブラック)20質量%、スチレン-アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物7質量%(酸価175mgKOH/g、分子量10000)に、純水を加えて全体を100質量%とし、攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れて、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルタでろ過することにより、顔料分散液Aを得た。なお、スチレン-アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0059】
[記録用水性インクの調製]
以下の成分を表1に示す組成における樹脂微粒子及び樹脂分散顔料分散液を除いた成分を均一に混合してインク溶媒を得た。つぎに、樹脂微粒子を加え、均一に混合した後、樹脂分散顔料分散液を加えて全体を100質量%として混合物を得た。得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1~9及び比較例1~6の記録用水性インクを得た。
樹脂微粒子:ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)6969D」、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス(登録商標)870」、ジャパンコーティングレジン(株)製の「モビニール(登録商標)DM774」、昭和電工(株)「ポリゾール(登録商標)AP-3270N」
水溶性有機化合物:ポリエチレングリコール(PEG600、融点:20℃、分子量:600、50%水溶液20℃粘度 mPa・S、50%水溶液50℃粘度 mPa・S)、ポリエチレングリコール(PEG1000、融点:35℃、分子量:1000、50%水溶液20℃粘度 mPa・S)、ポリエチレングリコール(PEG2000、融点:48℃、分子量:2000、50%水溶液20℃粘度33mPa・S、50%水溶液500℃粘度11mPa・S)、ポリエチレングリコール(PEG4000、融点:54℃、分子量:4000、50%水溶液20℃粘度 mPa・S、50%水溶液50℃粘度 mPa・S)、ポリエチレングリコール(PEG400、融点:6℃、分子量:400、50%水溶液20℃粘度8mPa・S、50%水溶液50℃粘度3mPa・S)、ポリエチレングリコール(PEG6000、融点:60℃、分子量:6000、50%水溶液20℃粘度338mPa・S、50%水溶液50℃粘度94mPa・S)
湿潤剤:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
界面活性剤:日信化学工業(株)製「オルフィン(登録商標)E1004」
【0060】
実施例1~9及び比較例1~6の記録用水性インクを用いてコート紙(王子製紙(株)のOKトップコート+、A4サイズ)又は非コート紙(ブラザー工業(株)製のBP60P、A4サイズ)に印刷した直後、表1に記載した積算熱量Q1又は積算熱量Q2で乾燥を行い、埋まり、光学濃度(以下、単に「OD」と記載する。)及び吐出性の評価を、下記方法により実施した。
【0061】
[埋まり]
ブラザー工業(株)製の「インクジェットプリンタMFC-J6995CDW」を使用して、ブラックインク用のインクカートリッジに実施例1~9及び比較例1~6の記録用水性インクを充填して、解像度600×300dpiの単色パッチの画像をコート紙に記録して、評価サンプルを作製した。その後、評価サンプルをIRヒータ(株)トーコー製の「プロモハンディミニSIR-760」の直下を通過させ、評価サンプルの乾燥を行った。なお、IRヒータには変圧器を接続した上、照射面積を変えることにより、実施例の範囲でヒータ照射熱量を変化させた。印刷されたベタ部分を肉眼で観察して、下記基準に従って評価した。なお、比較例2については、単色パッチ部に焦げが発生したため、評価を「NG」とした。
A:どの距離から視ても白スジが視認できない。
B:30cmよりも近い距離で視ると白スジが視認できる。
C:30cmの距離から白スジが視認できる。
【0062】
[OD]
ブラザー工業(株)製の「インクジェットプリンタMFC-J6995CDW」を使用して、ブラックインク用のインクカートリッジに実施例1~9及び比較例1~6の記録用水性インクを充填して、解像度600×300dpiの単色パッチの画像を非コート紙に記録して、評価サンプルを作製した。その後、評価サンプルをIRヒータ(株)トーコー製の「プロモハンディミニSIR-760」の直下を通過させ、評価サンプルの乾燥を行った。なお、IRヒータには変圧器を接続した上、照射面積を変えることにより、実施例の範囲でヒータ照射熱量を変化させた。なお、Q2を0としたものは、単色パッチの印刷開始から、評価サンプルをIRヒータの直下を通過させるまでの間、IRヒータに電圧を加えない状態で評価を実施した。印刷されたベタ部分を、xRite社製の分光測色計「eXact」により測定し(測定視野:2°、白色基準:Abs(絶対白色)、光源:D50、濃度基準:ANSI T)、下記基準に従ってODの値を評価した。
A:OD値が1.30以上
B:OD値が1.25以上
C:OD値が1.25未満
【0063】
[吐出性]
ブラザー工業(株)製の「インクジェットプリンタMFC-J6995CDW」を使用して、ブラックインク用のインクカートリッジに実施例1~9及び比較例1~6の記録用水性インクを充填して、紙一面に解像度600×300dpiの単色パッチの画像を5枚連続で記録した後、ピンチェックパターンを非コート紙に印刷した。ピンチェックパターンの印刷結果から、吐出されなかったノズル数を計測し、下記基準に従って評価した。
A:吐出されなかったノズル数が1%以下
B:吐出されなかったノズル数が5%以下
C:吐出されなかったノズル数が5%よりも多い
【0064】
実施例1~8及び比較例1~6の記録水性インク組成及び評価結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すとおり、実施例1~8では、埋まり、OD及び吐出性ともに、C評価 がなく、評価結果が良好であった。他方、積算熱量Q1及び積算熱量Q2が同じで ある比較例1では、コート紙における埋まりがC評価であった。
また、積算熱量Q1が5.9J/cm2である比較例2では、印刷においてコー ト紙に焦げが発生した(表1において「NG」と記載。)。また、ヒータの照射熱 量が11.6W/cm2であり、ヒータの下方におけるシートの搬送速度が150 0mm/sの比較例3では、コート紙における埋まり評価がC評価であった。これ は、乾燥により水性インクの流動性が失われるまでの時間が極端に短くなることで、 コート紙上でインクが広がる時間が十分に確保されなかったためと理解される。
他方、水溶性有機化合物として分子量400のポリエチレングリコールを使用 した比較例5では、非コート紙のODがC評価であった。また、水溶性有機化合物 として分子量6000のポリエチレングリコールを使用した比較例6では、コート 紙に対する埋まりがC評価であり、且つ吐出性がC評価であった。
【符号の説明】
【0067】
25・・・給送ローラ(搬送機構)
26・・・搬送ローラ(搬送機構)
27・・・排出ローラ(搬送機構)
34・・・印刷ヘッド(ヘッド)
35・・・ヒータ(加熱部)