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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20240806BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 7/16 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20240806BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
B60C11/00 H
B60C1/00 A
C08L21/00
C08K7/16
C08K3/22
C08K3/30
C08K3/26
C08L23/06
C08L27/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086947
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181258
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】出雲 優
(72)【発明者】
【氏名】河村 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】川崎 智史
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123209(JP,A)
【文献】特開2013-136334(JP,A)
【文献】特開2013-139180(JP,A)
【文献】特開2012-158710(JP,A)
【文献】特開2013-166815(JP,A)
【文献】特開2010-059248(JP,A)
【文献】特開2017-222817(JP,A)
【文献】特開2011-201968(JP,A)
【文献】特開2006-160932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物が架橋されることで形成されたトレッドを備えた空気入りタイヤであって、
上記ゴム組成物が、基材ゴム及び球状フィラーを含み、この球状フィラーの球形度が0.8以上であり、
上記球状フィラーが、無機フィラー及び/又は有機フィラーであり、
上記有機フィラーが、ポリテトラフルオロエチレン及び/又はポリエチレンであり、
上記トレッドが、その表面に複数の微細突起が形成されたトレッド面を有しており、
上記トレッド面から無作為に選択した領域における上記微細突起の数密度Dが4000(cm-2)以上であり、
上記領域の三次元表面粗さ測定により得られる二乗平均平方根高さがSq(μm)であるとき、上記各微細突起の平均面からの高さがSq(μm)を超えており、
上記各微細突起を、上記平均面に平行で、かつこの平均面からの高さがSq(μm)である切断面で切断したときの断面積が3000(μm)以下であり、
上記領域で計測された微細突起の数を、上記領域の面積(cm)で除すことにより、上記微細突起の数密度D(cm-2)が算出される、空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記球状フィラーの平均粒子径D50が1μm以上20μm以下である、請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記球状フィラーが多数の球状粒子の集合体であり、それぞれの球状粒子がゴム成分からなるマトリクスに分散されており、このマトリクスにおける球状粒子の平均粒子間距離が10μm以上100μm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記球状フィラーが多数の球状粒子の集合体であり、それぞれの球状粒子が、ゴム成分からなるマトリクスに分散されており、
上記マトリクスから無作為に選択された領域において、最も近接する他の球状粒子との粒子間距離が10μm以上100μm以下である球状粒子の、この領域に含まれる全球状粒子に対する割合が50%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記無機フィラーが、マグネシウム、カルシウム又はバリウムの、酸化物、水酸化物、硫酸塩又は炭酸塩からなる群から選択される1又は2以上である、請求項1から4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
上記基ゴム100質量部に対する上記球状フィラーの量が、5質量部以上50質量部以下である、請求項1から5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
ゴム組成物が架橋されることで形成されたトレッドを備えた空気入りタイヤであって、
上記ゴム組成物が、基材ゴム及び球状フィラーを含み、この球状フィラーの球形度が0.8以上であり、
上記球状フィラーが、無機フィラー及び/又は有機フィラーであり、
上記有機フィラーが、ポリテトラフルオロエチレン及び/又はポリエチレンであり、
上記トレッドが、上記タイヤの走行によって摩耗したときに複数の微細突起が出現するトレッド面を有しており、
上記トレッド面から無作為に選択した領域における上記微細突起の数密度Dが4000(cm-2)以上であり、
上記領域の三次元表面粗さ測定により得られる二乗平均平方根高さがSq(μm)であるとき、上記各微細突起の平均面からの高さがSq(μm)を超えており、
上記各微細突起を、上記平均面に平行で、かつこの平均面からの高さがSq(μm)である切断面で切断したときの断面積が3000(μm )以下であり、
上記領域で計測された微細突起の数を、上記領域の面積(cm)で除すことにより、上記微細突起の数密度D(cm-2)が算出される、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、トレッドを備えたスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面を走行するためのタイヤとして、スタッドレスタイヤが知られている。スタッドレスタイヤでは、氷雪路面におけるグリップ性能が重要である。このタイヤのトレッドには通常、軟質な架橋ゴムが採用される。軟質な架橋ゴムは、グリップ性能に寄与する。
【0003】
車両走行時、タイヤのトレッド面が路面と接触することによりグリップ性能が発揮される。氷雪路面では、路面とタイヤとの摩擦熱等により水膜が発生する。この水膜が、トレッド面と路面との間に介在して、摩擦係数を低下させる。これにより、所定のグリップ性能が得られない場合がある。氷雪路面でのグリップ性能向上のために、種々の検討がなされている。
【0004】
特開2014-162434号公報(特許文献1)には、路面の表面粗さに合わせてトレッドの表面粗さを調整した空気入りタイヤが開示されている。特表2013-545835号公報(特許文献2)には、水溶性アルカリ金属またはアルカリ土類金属硫酸塩の微小粒子を含むタイヤのトレッド用ゴム組成物が開示されている。特表2011-528735号公報(特許文献3)には、硫酸マグネシウム微小粒子を含む冬季タイヤのトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-162434号公報
【文献】特表2013-545835号公報
【文献】特表2011-528735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両走行時、タイヤは周方向に回転している。回転中、タイヤのトレッド面のある一点が路面と接触している時間は、短い。短い接触時間において、速やかに接地状態を回復して、グリップ性能を発揮するタイヤが求められている。
【0007】
本発明の目的は、グリップ性能に優れた空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、トレッド面に存在する微小な突起が、特に、氷雪路面における接地状態の回復に寄与することを見出すことにより、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、ゴム組成物が架橋されることで形成されたトレッドを備えている。このトレッドは、その表面に複数の微細突起が形成されたトレッド面を有している。このトレッド面から無作為に選択した領域における微細突起の数密度Dは4000(cm-2)以上である。この領域の三次元表面粗さ測定により得られる二乗平均平方根高さがSq(μm)であるとき、各微細突起の平均面からの高さはSq(μm)を超える。各微細突起を、平均面に平行で、かつこの平均面からの高さがSq(μm)である切断面で切断したときの断面積は3000(μm)以下である。この領域で計測された微細突起の数を、この領域の面積(cm)で除すことにより、微細突起の数密度D(cm-2)を算出する。
【0010】
好ましくは、このゴム組成物は、基材ゴム及び球状フィラーを含む。この球状フィラーの球形度は0.8以上である。好ましくは、球状フィラーの平均粒子径D50は1μm以上20μm以下である。
【0011】
球状フィラーは、多数の球状粒子の集合体である。それぞれの球状粒子は、ゴム成分からなるマトリクスに分散されている。好ましくは、このマトリクスにおける球状粒子の平均粒子間距離は10μm以上100μm以下である。好ましくは、このマトリクスから無作為に選択した領域において、最も近接する他の球状粒子との粒子間距離が10μm以上100μm以下である球状粒子の、この領域に存在する全球状粒子に対する割合は50%以上である。
【0012】
好ましい球状フィラーは、マグネシウム、カルシウム又はバリウムの、酸化物、水酸化物、硫酸塩又は炭酸塩からなる群から選択される1又は2以上である。他の好ましい球状フィラーは、ポリテトラフルオロエチレン及び/又はポリエチレンである。
【0013】
好ましくは、このゴム組成物は、100質量部の基ゴムに対して、5質量部以上50質量部以下の球状フィラーを含む。
【0014】
他の観点から、本発明に係る空気入りタイヤは、ゴム組成物が架橋されることで形成されたトレッドを備えている。このトレッドは、このタイヤの走行によって摩耗したときに複数の微細突起が出現するトレッド面を有している。このトレッド面から無作為に選択した領域における微細突起の数密度Dは4000(cm-2)以上である。この領域の三次元表面粗さ測定により得られる二乗平均平方根高さがSq(μm)であるとき、各微細突起の平均面からの高さはSq(μm)を超える。各微細突起を、平均面に平行で、かつこの平均面からの高さがSq(μm)である切断面で切断したときの断面積は3000(μm)以下である。この領域で計測された微細突起の数を、この領域の面積(cm)で除すことにより、微細突起の数密度D(cm-2)を算出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、氷雪路面走行時、タイヤの回転に伴って、トレッド面に存在する複数の微細突起が、トレッド面と路面との間に介在する水膜を突き抜けて路面と接触する。これによって、トレッド面と路面との間から急速に除水され、良好な接地状態が回復する。このタイヤによれば、特に、氷雪路面において、非常に短い時間で優れたグリップ性能が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤを示す断面図である。
図2図2は、図1のタイヤのトレッド面の形状を示す三次元画像である。
図3図3は、微細突起が形成されたトレッド面の凹凸の輪郭曲線の一部を二次元で表した模式図である。
図4図4は、図2のトレッド面の拡大画像である。
図5図5は、微細突起の断面を示すSEM画像である。
図6図6は、図5の微細突起の断面のSEM-EDX像である。
図7図7は、微細突起の形成メカニズムを説明するための模式図である。
図8図8は、走行時の接地速度の測定方法を説明するた概念図である。
図9図9は、実施例のタイヤの接地状態を示す撮影画像である。
図10図10は、比較例のタイヤの接地状態を示す撮影画像である。
図11図11は、接地面積の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上、Y以下」を意味する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2が示された断面図である。この図において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。なお、図1において、各構成部材はその断面の輪郭のみが示されている。
【0019】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、ベルト12、バンド14及びインナーライナー16を備えている。このタイヤ2は、乗用車に装着される空気入りタイヤである。
【0020】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、トレッド面20を備えている。トレッド面20には、溝22が刻まれている。図示される通り、このトレッド4は、ベース層4aと、キャップ層4bとからなる。ベース層4aは、キャップ層4bの半径方向内側に位置しベルト12と積層されている。トレッド4(ベース層4a及びキャップ層4b)は、ゴム組成物が架橋されることにより形成されている。
【0021】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。それぞれのビード8は、サイドウォール6の半径方向内側に位置している。ビード8は、コア24と、このコア24から半径方向外向きに延びるエイペックス26とを備えている。カーカス10は、カーカスプライ28からなる。カーカスプライ28は、両ビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ28は、コア24の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている
【0022】
ベルト12は、トレッド4の半径方向内側に位置しカーカス10と積層されている。このベルト12は、内側層12a及び外側層12bからなる。バンド14は、ベルト12の半径方向外側に積層されている。図示されていないが、このバンド14は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは実質的に周方向に延びており、螺旋状に巻かれている。バンド14は、いわゆるジョイントレス構造を有する。インナーライナー16は、カーカス10の半径方向内側に位置してカーカス10の内面に接合されている。
【0023】
この実施形態に係るタイヤ2において、トレッド面20には、複数の微細突起が形成されている。このトレッド面20から無作為に選択した領域における微細突起の数密度Dは、4000(cm-2)以上である。
【0024】
図2は、このタイヤ2のトレッド面20の表面形状が示された三次元画像(倍率300倍)である。図1中、矢印で示される部分は、タイヤ2の成形時に起因するリブレットである。後述する通り、複数の微細突起は、概ね、リブレットを除く領域に形成される。画像撮影には、市販のデジタルマイクロスコープ等が用いられる。
【0025】
ここで、本願明細書における微細突起の定義を、図3を用いて説明する。図3において、紙面上下方向が高さ方向である。図3中、実線は、リブレットを除くトレッド面20の凹凸状態を拡大して二次元的に表した輪郭曲線32であり、破線は、ISO25178に定義される平均面34であり、点線は、平均面34に平行な切断面36である。平均面34と切断面36との高さが、両矢印Sqとして示されている。
【0026】
ここで、平均面34とは、ある測定領域において、この平均面34より高い部分(凸部)の体積と、この平均面34よりも低い部分(凹部)の体積とが等しくなる面を意味する。両矢印Sqで示される高さは、リブレットを含まない領域において、ISO25178に準じた三次元表面粗さ測定により得られる二乗平均平方根高さ(μm)であり、ある測定領域における各凹凸の高さの標準偏差に相当する値である。換言すれば、切断面36は、平均面34に平行で、かつ、平均面34からの高さがSq(μm)である面である。
【0027】
平均面34からの高さが高さSq(μm)を超える凸部は、平均面34から明確に突出した形状を有する。さらに、この平均面34に平行で、かつこの平均面34からの高さがSq(μm)である切断面36で切断したとき、その断面積が3000(μm)以下である凸部38は、微小な略棒状又は略錐状の形状で、平均面34から突出する。
【0028】
近年、バイオミメティックスの分野では、ヤモリの足裏に存在する直径3μmから15μm程度の微細な棒状突起が、被着表面との分子間力(ファンデアワールス力)に起因して、優れた接着性に寄与することが知られている。本発明者らは、この微細な棒状突起による接着効果に着目して検討した結果、接地荷重が大きなタイヤでは、直径60μm程度の棒状突起が路面との接触状態の改善に寄与しうることを見出した。
【0029】
例えば、前述した凸部38が直径約60μmの略円柱状であると仮定すると、平均面34に平行な面で切断したときの断面積は3000(μm)程度となる。本発明者らは、更なる検討の結果、その詳細なメカニズムは不明であるが、平均面34からの高さがSq(μm)である切断面36で切断したとき、その断面積が3000(μm)以下である凸部38が、その形状によらず、路面との接地状態の回復に有効であることを見出した。そこで、本願明細書では、平均面34からの高さが二乗平均平方根高さSq(μm)を超え、かつ、切断面36で切断したときの断面積が3000(μm)以下である凸部38を微細突起38と定義した。
【0030】
図4は、タイヤ2のトレッド面20から無作為に選択された測定領域の拡大画像である。図4に付された数字は、この測定領域における微細突起38を含む凸部を示している。このタイヤ2のトレッド面20で得られる測定領域には、複数の微細突起38が存在する。画像解析ソフトを用いて、この測定領域における微細突起38の数を計測し、この測定領域の面積(cm)で除すことにより、微細突起38の数密度D(cm-2)が算出される。
【0031】
前述した通り、このタイヤ2では、そのトレッド面20から無作為に選択した領域における微細突起38の数密度Dが、4000(cm-2)以上である。このタイヤ2では、氷雪路面走行時、複数の微細突起38が、トレッド面20と路面との間に介在する水膜を突き抜けて、路面と接触する。これにより、微細突起38間に排水路が形成され、極めて短い時間で水膜が除去されると考えられる。このタイヤ2が氷雪路面を走行する時、速やかに接地状態が回復して、優れたグリップ性能が発揮される。
【0032】
除水速度の観点から、微細突起38の数密度Dは、7000(cm-2)以上が好ましく、10000(cm-2)以上がより好ましい。数密度Dの上限値は特に限定されないが、他のタイヤ性能とのバランスの観点から、微細突起38の数密度Dは50000(cm-2)以下が好ましい。
【0033】
除水速度の観点から、微細突起38を、平均面34からの高さがSq(μm)である切断面36で切断したときの断面積は、2000(μm)以下が好ましく、1000(μm)以下がより好ましい。強度の観点から、この断面積は500(μm)以上が好ましい。
【0034】
図5は、タイヤ2のトレッド面20に形成された微細突起38の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して得られる画像である。この微細突起38の断面を、X線分析装置付走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)で測定した結果が、図6に示されている。
【0035】
この実施形態において、トレッド4の形成に用いられるゴム組成物は、基材ゴムと、球状フィラーとを含んでいる。球状フィラーは、多数の球状粒子の集合体である。このゴム組成物を架橋して得られる架橋ゴムでは、多数の球状粒子が、ゴム成分からなるマトリクスに分散されている。図6中、矢印で示される淡色部分は球状粒子であり、黒色部分は、ゴムマトリクスである。本発明者らは、この微細突起38をなす架橋ゴムに、球状粒子が含まれないことを確認している。
【0036】
本発明の効果が得られる限り、複数の微細突起38は、タイヤ2の成形時にトレッド面20に形成されるものであってもよく、タイヤ2の走行によりその表面が摩耗することにより、トレッド面20に形成されるものであってもよい。換言すれば、トレッド4が、タイヤ2の走行によって摩耗したときに複数の微細突起38が出現するトレッド面20を有するタイヤ2も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
例えば、トレッド4は、基材ゴム及び球状フィラーを含むゴム組成物を、所定の金型中で加熱及び加硫することにより形成される。この加硫時に金型の内面に当接する架橋ゴムの表面に、スキン層が形成される場合がある。スキン層が形成されたトレッド4では、トレッド面20に微細突起38が形成されない。
【0038】
図7は、タイヤ2の走行により、スキン層を有するトレッド面20に複数の微細突起38が出現するメカニズムを説明するための概念図である。(7a)-(7c)は、トレッド4をなす架橋ゴムの、路面(図示されず)と接しているトレッド面20を含む部分断面図であり、順に、タイヤ2の走行前、走行中、走行後の状態が示されている。図7において、紙面上下方向が周方向(径方向)であり、紙面左右方向が幅方向である。
【0039】
図7の(7a)に示される通り、このタイヤ2では、走行前のトレッド面20に微細突起38は形成されていない。トレッド4をなす架橋ゴムでは、前述した通り、多数の球状粒子42が、ゴム成分からなるマトリクス44に分散されている。このトレッド面20には、球状粒子42に近接する領域20aと、球状粒子42と近接していない領域20bとが存在する。
【0040】
球状粒子42に近接していない領域20bでは、タイヤ2が走行中、この領域20bに位置する架橋ゴムが路面からの荷重により弾性変形する。一方、球状粒子42に近接する領域20aでは、球状粒子42と路面との間に位置することにより、架橋ゴムの見かけ上の硬さが増加する。従って、球状粒子42に近接する領域20aにおける弾性変形の程度は、球状粒子42と近接していない領域20bより、小さい。弾性変形の程度が小さい領域20aは、タイヤ2の走行中に、摩耗しやすい。このため、このタイヤ2では、図7の(7b)に示される通り、球状粒子42に近接する領域20aが選択的に摩耗すると考えられる。
【0041】
球状粒子42に近接する領域20aにおる選択的な摩耗の進行に伴って、トレッド面20の近傍に位置する球状粒子42もマトリクス44とともに削りとられる。所定時間走行後のタイヤ2では、図7の(7c)に示される通り、球状粒子42に近接していない領域20bの架橋ゴムが残されることで、微細突起38が形成されるものと推測される。
【0042】
このタイヤ2では、球状粒子42の分散状態が、微細突起38の形成状態に寄与すると考えられる。好ましくは、マトリクス44における球状粒子42の平均粒子間距離は、10μm以上100μm以下である。平均粒子間距離が10μm以上である架橋ゴムによれば、走行後のトレッド面20に、間隔が適正な微細突起38が形成される。この架橋ゴムからなるトレッド4を備えたタイヤ2が氷雪路面を走行するとき、複数の微細突起38により、間隔が適正な排水路が形成されうる。このタイヤ2における除水速度は、大きい。このタイヤ2では、優れたグリップ性能が発揮される。この観点から、球状粒子42の平均粒子間距離は15μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。
【0043】
球状粒子42の平均粒子間距離が100μm以下である架橋ゴムによれば、トレッド面20の単位面積あたりに適正な数の微細突起38が形成されうる。この架橋ゴムからなるトレッド4を備えたタイヤ2が氷雪路面を走行するとき、単位面積あたりに適正な数の排水路が形成されうる。このタイヤ2における除水速度は、大きい。このタイヤ2では、優れたグリップ性能が発揮される。この観点から、球状粒子42の平均粒子間距離は50μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。球状粒子42の平均粒子間距離は、X線分析装置付走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いて、トレッド4をなす架橋ゴムの断面を観察して得られる画像を、画像解析ソフトで解析することにより求められる。本願明細書において、粒子間距離とは、無作為に選択した球状粒子42と、この球状粒子42の最も近傍に位置する他の球状粒子42との間の空間距離であり、平均粒子間距離とは、5視野撮影して得られる粒子間距離の平均値である。
【0044】
好ましくは、マトリクス44から無作為に選択した領域において、最も近接する他の球状粒子42との粒子間距離が10μm以上100μm以下である球状粒子42の、この領域に含まれる全球状粒子42に対する割合R10-100は、50%以上である。この割合R10-100が50%以上である架橋ゴムからなるトレッド4では、トレッド面20に適正な数密度の微細突起38が形成されうる。除水性能の観点から、この割合R10-100は、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましく、理想的には100%である。
【0045】
このトレッド4の形成に用いるゴム組成物において、基材ゴム及び球状フィラーの種類は特に限定されない。好ましい基材ゴムとして、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム等が例示される。基材ゴムとして、二種以上を併用してもよい。
【0046】
前述した通り、球状フィラーは、多数の球状粒子の集合体である。本願明細書において、「球状」とは、真球に限定されず、略球状を含む概念である。マトリクス44への分散性の観点から、球状フィラーの球形度は0.8以上が好ましく、0.85以上がより好ましく、0.9以上が特に好ましく、その上限値は1である。球状フィラーの球形度は、真球の球形度を1する指数であり、数式:4πS/Lで算出される。この数式において、Sは平面投影した球状粒子42の面積であり、Lは平面投影した球状粒子42の周囲長である。面積S及び周囲長Lは、球状フィラーの走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を画像解析することにより求められる。無作為に選択した100個の球状粒子42について測定した平均値が、球状フィラーの球形度とされる。
【0047】
このゴム組成物において、球状フィラーの平均粒子径D50は特に限定されず、球状フィラーの種類に応じて適宜選択される。微細突起38が形成されやすいとの観点から、球状フィラーの平均粒子径D50は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、8μm以上が特に好ましい。機械的強度とのバランスの観点から、球状フィラーの平均粒子径D50は、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12μm以下が特に好ましい。球状フィラーの平均粒子径D50は、球状フィラーの全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径(メジアン径)である。この平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置により測定される。
【0048】
数密度Dが4000(cm-2)以上である微細突起38が得られる限り、球状フィラーは、無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよい。無機フィラーと有機フィラーとが併用されてもよい。なお、本願明細書において、球状フィラーの概念にシリカは含まれない。
【0049】
好ましい無機フィラーとしては、金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。金属としては、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、チタン、亜鉛等が例示される。より好ましい金属は、マグネシウム、カルシウム及びバリウムである。特に好ましい球状フィラーは、マグネシウム、カルシウム又はバリウムの、酸化物、水酸化物、硫酸塩又は炭酸塩からなる群から選択される1又は2以上である。好ましい有機フィラーは、ポリテトラフルオロエチレン及び/又はポリエチレンである。
【0050】
ゴム組成物に含まれる球状フィラーの量は、その種類に応じて適宜調整される。微細突起38が形成されやすいとの観点から、基ゴム100質量部に対する球状フィラーの量は、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。機械的強度のバランスの観点から、球状フィラーの量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0051】
補強効果の観点から、このゴム組成物が、球状フィラーとは別に、さらにシリカを含んでもよい。このシリカの量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましい。グリップ性能とのバランスの観点から、シリカの量は、基材ゴム100質量部に対して100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。
【0052】
本発明の効果が阻害されない範囲内で、ゴム組成物は、ゴム分野で用いられる他の添加剤を含みうる。他の添加剤の例として、カーボンブラック、老化防止剤、シランカップリング剤、オイル、ワックス、加工助剤、樹脂、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。さらに、このゴム組成物に、本願明細書にて明示されない他の添加剤を配合することも可能である。
【0053】
トレッド面20に、数密度Dが4000(cm-2)以上である微細突起38が形成される限り、ゴム組成物の組成は特に限定されず、従来既知のタイヤ用ゴム組成物の組成に準拠して適宜調整される。典型的には、トレッドゴム用の組成が例示される。
【0054】
本発明の効果が得られる限り、このゴム組成物を製造する方法も特に限定されない。例えば、前述した基材ゴム、球状フィラー及び各種添加剤を、オープンロール、バンバリーミキサー等に投入して混練することによりゴム組成物を調製してもよい。
【0055】
このタイヤ2を製造する方法も特に限定されない。例えば、前述した方法で得たゴム組成物をトレッド4の形状に合わせて押出加工した後、他のタイヤ部材と併せて加硫機中で加熱及び加圧することにより、空気入りタイヤ2が得られうる。このタイヤ2は、特に、氷雪路面でのグリップ性能に優れている。
【0056】
本願明細書では、タイヤの各部材の寸法及び角度は、タイヤが正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤに空気が充填され、タイヤに正規荷重が負荷された状態で測定される。本明細書において正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤの場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。本明細書において正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【実施例
【0057】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。なお、以下の実験例において、特に指定がない限り、試験温度は室温である。
【0058】
[実施例1-13及び比較例1-3]
表1-3に示された配合に従って、硫黄及び加硫促進剤(CZ及びDPG)以外の材料を、容量1.7Lのバンバリーミキサー((株)神戸製鋼製)に投入して、150℃で3分間、混練した。得られた混練物をバンバリーミキサーから取り出して、表1-3に示された量の硫黄、CZ及びDPGをそれぞれ添加した後、オープンロールを用いて、80℃で3分間混練することにより、実施例及び比較例のタイヤに用いるゴム組成物a-pを得た。前述した方法で測定した平均空間距離(μm)及び割合R10-100(%)が、下表1-3に示されている。
【0059】
得られたゴム組成物a-pを、それぞれ、トレッドの形状に合わせて押出加工した後、他のタイヤ部材と組み合わせて183℃で10分間プレス加硫することにより、実施例及び比較例のタイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した。
【0060】
(微細突起の数密度測定)
始めに、実施例1のタイヤをリム(サイズ:15×6.0)に組み込んで、内圧230kPaで空気を充填した後、試験車両に装着した。この試験車両を、一周約3.2km(直線部約2.38km、R150:約470m、R110:約350m)のテストコース(気温:約12℃、路温:約20℃)で、100km走行させた。走行速度は、直線部で100km/h、R150で60km/h(約0.19G)、110Rで50km/h(約0.18G)とした。
【0061】
次に、走行後のトレッド面の表面形状をマイクロスコープ(キーエンス社製の商品名「VHX-7000」)を用いて観察した。得られた視野中、縦1445μm、横1075μmの領域を選択し、PT-SEMモード(倍率:500倍)で撮影した画像が、図4に示されている。この画像全体について傾き補正を実施し、ISO25178の規定に準じて三次元表面粗さを測定して、平均面及び二乗平均平方根高さSqを求めた。この領域で得られた二乗平均平方根高さSqは10μmであった。この測定領域において、平均面からの高さが10μmを超え、かつ、平均面に平行で、この平均面からの高さが10μmである切断面で切断したときの断面積が3000μm以下の微細突起の数を計測し、測定領域の面積(cm)で除すことにより、数密度を算出した。無作為に選択した5箇所の撮影画像から得られた数密度の平均値が、微細突起の数密度D(cm-2)として下表1に示されている。
【0062】
実施例1と同様に、実施例2-13及び比較例1-3のタイヤについてトレッド面における微細突起の数密度Dを求めた。得られた結果が下表1-3に示されている。表1-3には、比較のため、実施例1の数密度Dを100とする指数が併記されている。指数が大きいほど、単位面積あたりの微細突起の数が多い。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表1-3に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
NR:天然ゴムTSR20
BR:JSR社のブタジエンゴム、商品名「BR730」
カーボンブラック:三菱化学社製の商品名「ダイヤブラックN220」
シリカ:エボニックデグッサ社製のVN3
MgO(40):宇部マテリアルズ株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「RF-50-SC」、平均粒子径40~70μm
MgO(20):協和化学工業株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「パイロキスマ3320、平均粒子径17.0μm
MgO(10):宇部マテリアルズ株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「RF-10C-SC-45μm」、平均粒子径7~15μm
MgO(5):協和化学工業株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「キョーワマグ150」、平均粒子径4.46μm
MgO(1):協和化学工業株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「キョーワマグMF150」、平均粒子径0.71μm
MgO(100):宇部マテリアルズ株式会社製の酸化マグネシウム、商品名「RF-70C-SC」、平均粒子径70~110μm
MgSO(100):Laiyu Chemical社製の硫酸マグネシウム、商品名「Sulfate 120-200mesh」、平均粒子径100μm
PTFE:株式会社セイシン企業製のポリテトラフルオロエチレン粒子、商品名「TFW-1000」(平均粒子径10μm)
カップリング剤:エボニックデグッサ社製のシランカップリング剤、商品名「Si266」(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:ジャパンエナジー社製のアロマオイル、商品名「X140」
ワックス:大内新興化学工業社製の商品名「サンノックN」
6C:住友化学社製のN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、商品名「アンチゲン6C」
加工助剤:ストラクトール社製の商品名「WB16」
酸化亜鉛:三井金属鉱業社製の亜鉛華2種
硫黄:三新化学工業社の5%オイル処理硫黄
CZ:大内新興化学工業社製の加硫促進剤、商品名「ノクセラーCZ」
DPG:大内新興化学工業社製の加硫促進剤、商品名「ノクセラーD」
【0067】
[グリップ性能]
実施例及び比較例のタイヤを、それぞれ、正規リムに組み込んで、内圧220kPaで空気を充填した後、排気量が1200ccである乗用車に装着した。ドライバーに、この乗用車を、ミラーバーン状の氷路テストコース(路面温度:-1±0.5℃)で走行させて、速度20km/hからABSブレーキをかけ、15km/hから5km/hの区間減速度(km/h/s)を算出した。実施例1を100としたときの指数が、グリップ性能として、表1-3に示されている。数値が大きいほど、評価が高い。
【0068】
[接地速度測定]
始めに、トレッド面に、数密度Dが4000(cm-2)以上の微細突起が形成された試験タイヤと、数密度Dが4000(cm-2)未満である比較試験タイヤを準備した。各タイヤのトレッド面から、それぞれ、接地速度測定用の試験片を切り出した。各試験片の形状は、直方体(縦70mm、横20mm、厚み8mm)であった。
【0069】
続いて、図8に示された方法を用いて、走行後の各試験片の接地速度を測定した。図8において、上下方向が鉛直方向であり、左右方向が水平方向である。図示される通り、この測定方法では、その表面に水膜52が形成された透明路面54と、デジタルカメラ56と、が用いられた。水膜52は、白濁エマルジョン水溶液を用いて形成された。
【0070】
始めに、この水膜52と、試験片58の、トレッド面であった面とが対向するように、この透明路面54の直上に、試験片58を設置した。その後、(8a)に矢印Mとして示される方向に試験片58を移動させ、(8b)に矢印Fとして示される方向に荷重(20N)を負荷して、試験片58を透明路面54に押しあてた。試験片58が透明路面54に接した時の状態を、透明路面54の下方に設置したデジタルカメラ56を用いて連続撮影した。
【0071】
接地後0.02秒後の撮影画像が、図9及び図10に示されている。図9が試験タイヤについて得られた画像であり、図12が比較試験タイヤについて得られた画像である。図9及び図10中、黒色領域は、試験片58が透明路面54に直接接触(接地)した部分である。白色領域は、試験片58と透明路面54との間に、白濁した水膜52が介在している部分である。
【0072】
次に、試験片58を連続撮影して得られた各画像の輝度を測定して、時間毎にプロットしたグラフが、図11に示されている。試験タイヤの結果が、実施例(黒丸)として示されている。比較試験タイヤの結果が、比較例(白丸)としてプロットされている。
【0073】
図11の横軸は接地開始からの時間(秒)である。試験片58の接地時が0秒とされる。図11の縦軸は、比較試験タイヤの0.096秒後の輝度を100とする指数である。試験片58と透明路面54との接地面積が大きいほど、高い輝度が得られる。換言すれば、図11の縦軸は、移動中の試験片58の接地面積を示す指標であり、図11は、接地面積の経時変化を示すグラフである。
【0074】
通常、走行中のタイヤでは、トレッド面上のある点が路面と接触する時間は短く、0.1秒以内とされる。図11に示される通り、比較試験タイヤと比べて、試験タイヤでは0.02秒で大きな接地面積が得られている。この結果から、本発明に係るタイヤでは、水膜が形成された路面において、極めて短い時間で接地状態が回復しうることがわかる。
【0075】
さらに、表1-3に示されるように、微細突起の数密度Dが4000(cm-2)以上である実施例のグリップ性能は、この数密度Dが4000(cm-2)未満である比較例のグリップ性能に比べて評価が高い。本発明に係るゴム組成物によれば、微細突起により速やかに除水されて接地状態が回復するので、優れたグリップ性能が発揮される。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明された空気入りタイヤは、種々の車両に装着されうる。
【符号の説明】
【0077】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
4a・・・ベース層
4b・・・キャップ層
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・カーカス
12・・・ベルト
12a・・・内側層
12b・・・外側層
14・・・バンド
16・・・インナーライナー
20、20a、20b・・・トレッド面
22・・・溝
24・・・コア
26・・・エイペックス
28・・・カーカスプライ
32・・・輪郭曲線
34・・・平均面
36・・・切断面
38・・・微細突起(凸部)
42・・・球状粒子
44・・・マトリクス
52・・・水膜
54・・・透明路面
56・・・デジタルカメラ
58・・・試験片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11