(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240806BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20240806BHJP
G02B 15/10 20060101ALI20240806BHJP
G02B 13/00 20060101ALI20240806BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240806BHJP
G02B 3/02 20060101ALI20240806BHJP
A61B 3/14 20060101ALI20240806BHJP
C03B 11/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G02B13/18
G02B15/10
G02B13/00
G02B3/00 Z
G02B3/02
A61B3/14
C03B11/00 A
(21)【出願番号】P 2020097289
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】土屋 恵
(72)【発明者】
【氏名】岩田 真也
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184788(JP,A)
【文献】特表2013-546020(JP,A)
【文献】特開2016-123467(JP,A)
【文献】特開2004-045505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G02B 13/18
G02B 15/10
G02B 13/00
G02B 3/00
G02B 3/02
C03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70°以上の画角で眼底を撮影する広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法であって、
70°以上の画角で眼底を撮影する広角眼底撮影装置において
被検眼と非接触で被検眼の最も近くに配置されるレンズ
における、被検眼側のレンズ面である第1面を略平坦な面で形成すると共に、前記レンズにおいて前記第1面に対し反対側の面である第2面を、
前記第1面と比べて急峻な曲面による光軸から離れるほど曲率半径が大きくなるような非球面形状であって、最大レンズ面傾斜角が60°以下となる凸面による非球面形状に、モールド加工を用いて成形することによって作成する、広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法。
【請求項2】
前記レンズは、φ40mm以上、且つ、φ50mm以下の直径を持つ、請求項
1記載の広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法。
【請求項3】
前記レンズは、装置本体に対して着脱可能なアタッチメントに設けられている、請求項1
又は2記載の対物レンズ系の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の眼底を撮影する眼底撮影装置として、眼底カメラ、光走査型検眼鏡(SLO:Scanning Light Ophthalmoscope)、および、光干渉断層計(OCT:Optical coherent Tomography)等の種々の装置が知られている。近年では、画角45°程度の一般的な眼底カメラに対して、より広角な眼底画像を無散瞳かつワンショットで撮影する無散瞳型の広角眼底撮影装置が注目されている。無散瞳で広角な眼底画像が得られることで、例えば、スクリーニングによる疾患の早期発見が実現される。
【0003】
例えば、特許文献1には、被検眼の最も近くに配置される対物レンズに非球面レンズを採用して90°以上の画角で眼底を撮影可能な広角SLO装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無散瞳型の広角眼底撮影装置は、病気の早期発見に資する一方で、部品価格が高く、装置の価格帯を抑えることが難しいことが、普及のネックとなっている。従来の装置では、対物光学系は、最も高コストな部品の1つであり、装置1台につき数十万円以上の部品費用が、対物光学系の部品費用として発生していた。
【0006】
例えば、特許文献1の装置では、被検眼の最も近くに配置される対物レンズが、切削加工によって非球面に形成されている。
【0007】
これに対し、本開示は従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、広角な眼底撮影装置の普及を進めるうえで有利な、眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法を提供すること、を技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係る70°以上の画角で眼底を撮影する広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法は、70°以上の画角で眼底を撮影する広角眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法であって、70°以上の画角で眼底を撮影する広角眼底撮影装置において被検眼と非接触で被検眼の最も近くに配置されるレンズにおける、被検眼側のレンズ面である第1面を略平坦な面で形成すると共に、前記レンズにおいて前記第1面に対し反対側の面である第2面を、前記第1面と比べて急峻な曲面による光軸から離れるほど曲率半径が大きくなるような非球面形状であって、最大レンズ面傾斜角が60°以下となる凸面による非球面形状に、モールド加工を用いて成形することによって作成する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、広角な眼底撮影装置の普及を進めるうえで有利な、眼底撮影装置用の対物レンズ系の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の眼底撮影装置の光学系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本開示の典型的な実施形態を説明する。はじめに、
図1を参照し、第1実施形態における眼底撮影装置の光学系の概略構成を説明する。
図1に一例として示した光学系は、OCTの光学系である。OCTは、眼底の断層画像を、眼底画像として撮影する。但し、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、本開示に係る眼底撮影装置は、眼底の正面画像を撮影可能であってもよい。また、両者が一体化された装置であってもよい。
【0012】
本実施形態において、眼底撮影装置1(本実施例における広角眼底撮影装置1)は、対物レンズ系250を少なくとも備えることで、70°以上の画角で眼底を撮影する。眼底撮影装置1は、撮影光学系として、干渉光学系100と、測定光学系200と、を備える、対物レンズ系250は、測定光学系200の一部である。
【0013】
図1に示すように、対物レンズ系250は、測定光を、光束を被検眼の瞳を通過させて、眼底へと導く。
【0014】
対物レンズ系250は、少なくとも、被検眼の最も近くに配置される第1対物レンズ251として、非球面レンズを備える。第1対物レンズ251において、被検眼側のレンズ面251aと、その反対側のレンズ面251bとを、それぞれ、第1面と第2面と称する。第1対物レンズ251は、φ40mm以上、且つ、φ50mm以下の直径で形成されてもよい。また、第1面251aは球面あり、第2面251bは非球面である。
【0015】
ところで、広角眼底撮影装置では、被検眼の瞼やまつ毛による照明光のケラレが生じやすい。ケラレが生じた場合、眼底周辺部と対応する画像領域の画質低下を招いてしまうので、従来よりも画角を広くした意義が損なわれてしまう。ケラレを抑制するためには、開瞼のために指や開瞼器を挿入するスペース(以下、開瞼のためのスペースと称する)が、装置と被検眼との間に確保されることが、広角眼底撮影装置では特に重要となる。つまり、指が挿入できる程度のワーキングディスタンスを確保できることが、広角眼底撮影装置の対物光学系において要求される。
【0016】
ここで、第1対物レンズ251のレンズ径が大きくなるほど、十分なワーキングディスタンスを確保しやすくなる。しかし、現状では、φ50mmを超える段階から、70°以上の画角を実現するようなレンズを、安価に製造することが困難になっている。その結果として、対物光学系の部品費用が、非常に高価となり得る。
【0017】
そこで、本願発明者は、モールド加工を用いて安価に量産しやすいレンズ径の範囲において、広角眼底撮影装置に適切な対物レンズ系を検討した(詳細は後述)。
【0018】
<第1対物レンズの製造工程>
ここで、本実施形態における第1対物レンズ251を製造するうえでの工程を、一例として示す。本実施形態では、大別すると、レンズモールドの作成と、レンズモールドを用いたプレス加工と、に大別される。レンズモールドは、例えば、旋盤加工によって形成される。旋盤加工等によって、少なくとも第2面252bと対応する非球面が、金型(レンズモールド)に形成される。
【0019】
作成されたレンズモールドを用いて、硝材をプレスすることで、少なくとも第2面252bが形成される。プレスされる硝材は、プリフォームであってもよい。プリフォームには、レンズ面に大まかな曲面が形成されている。このとき、コバを保持して硝材を固定したうえで、プレスが行われる場合がある。
【0020】
第1面252aは、同様にモールド加工で形成されてもよい。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、研磨加工で形成されてもよい。モールド加工の場合、第1面252aと第2面252bとが同時に成形されてもよい。
【0021】
<第1対物レンズの形状>
本実施形態の第1対物レンズ251は、被検眼側の第1面251aが略平坦な面で形成される。例えば、本実施例において、第1面251aは、所要作動距離に対し、10倍以上の曲率で形成される。これにより、ワーキングディスタンスが確保されやすくなる。第1面251aは、球面であってもよいし、非球面であってもよい。
【0022】
第1面251aが略平坦な面であるため、光線が折り曲がりにくいので、70°以上の画角で眼底を撮影するためには、第2面251bで光線を折り曲げるためのパワーを確保する必要がある。そこで、本実施形態において、第2面251bは、急峻な曲面で形成される。そのうえで、第2面251bは、瞳における収差(球面収差)が抑制されるような非球面で形成される。第2面251bは、光軸から離れるほど曲率半径が大きくなる(カーブが緩やかになる)形状に形成される。これにより、瞳における収差(球面収差)が抑制され、光線が瞳を適切に通過することができる。また、上記形状によって、第1面251aの周辺部が被検眼側に突出することなく所要のパワーが確保される。
【0023】
レンズモールドを作成するうえで、最大面傾斜角θmaxに制約があるところ、本実施形態では、第2面251bは、最大面傾斜角θmaxが60°以下となる面形状で形成される。面傾斜角θは、
図2に示すように、レンズ面の接線と、光軸と垂直な線と、が成す角である。光軸からの距離をY、サグ量をS(Y)とすると、S(Y)は次の式で表すことができる。なお、Rは、軸上曲率半径であり、kは、コーニック定数であり、A
iは、非球面係数である。
【0024】
【数1】
また、θ(rad)は、次の式で表すことができる。レンズ面における面傾斜角θの最大値が、最大面傾斜角θmaxである。
【0025】
【数2】
本実施形態では、第2面251bが、光軸から離れるほど曲率半径が大きくなる(カーブが緩やかになる)形状に形成される。この形状により、上記のパワーの確保と球面収差の抑制とが両立される。そのうえ、光軸から離れるほど曲率半径が大きくなることで、最大面傾斜角θmaxが抑制されやすい。結果、第1対物レンズ251の第2面と対応する非球面(凹面)を、レンズモールドへ適正に成形できる。
【0026】
また、広角眼底撮影装置では、第2面251bが急峻な曲面であると、レンズのコバ厚を確保しにくくなる。十分なコバ厚が無ければ、例えば、プリフォームに対するプレス加工中にレンズを保持したり、装置の鏡筒にレンズを配置することが困難となる。これに対し、本実施形態において、第2面251bが光軸から離れるほど曲率半径が大きな曲面であるため、適正なコバ厚を確保しやすい。
【0027】
従って、第1対物レンズ251は、第1面251aが略平坦であり、第2面251bが、光軸から離れるほど曲率半径が大きくなる形状の凸面による非球面であることで、広角眼底撮影装置に要求される性能を満たしつつも、モールド加工を用いて安価に製造可能である。
【0028】
また、レンズ径がφ40mm以上、且つ、φ50mm以下の直径であることで、製造設備の制約が少なくなり、より安価にレンズを製造できる。例えば、第1対物レンズ251の費用を、特許文献1に記載される切削加工で非球面が形成されたレンズと比べて、10分の1程度に低減できる。
【0029】
<第1面の形状によるアーチファクト低減効果>
但し、第1面251aの反射光が、眼底からの光と共に、撮像用の受光素子で検出されることで、アーチファクトの原因となり得る。第1面251aが平面であると、0D眼を撮影するときに、反射光が最も強く検出されてしまう。よって、多くの被検眼で、第1面251aの反射光に起因するアーチファクトが生じ得る。
【0030】
これに対し、第1面251aが曲面(凹面および凸面のいずれか)であることで、アーチファクトが生じる視度値を、0Dからずらすことができる。
【0031】
凹面であるときは、プラス側(遠視側)にずらすことができ、凸面であるときはマイナス側にずらすことができる。アジア圏では、近視眼が多く、また、近年、世界的に近視患者が増大しているため、第1面251aが凹面であることよりが好ましい。つまり、第1対物レンズ251はメニスカスレンズであってもよい。
【0032】
<パワーを補う第2対物レンズ>
対物レンズ系250は、第1対物レンズ251の第2面側へ、第2対物レンズ252を更に有していてもよい。この場合、第1対物レンズ251と第2対物レンズ252とを介して、被検眼Eから見て1つ目の中間結像面が形成される。第2対物レンズ252は、第1対物レンズ251で不足したパワーを補助する。
図1に示すように、第1面251aが凹面であるときに、第2対物レンズ252を配置してもよい。第2対物レンズ252は両面が球面で形成されてもよい。つまり、つまり、本実施形態の対物レンズ系250は、複数枚のレンズで形成される場合であっても、第1対物レンズ251の第2面251bを唯一の非球面とすることができ、その際、第2面251bはモールド加工で成形されるため、対物レンズ系250の部品費用を抑制できる。
【0033】
<アタッチメント光学系>
図1において、対物レンズ系250は、装置本体に配置されていた。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、装置本体に対して着脱可能な、アタッチメント255に、本実施形態の対物レンズ系250が設けられていてもよい(
図3参照)。アタッチメント255は、画角を広角化するために装置本体に対して装着されてもよい。なお、装置本体には、レンズ260が配置されていてもよい。レンズ260は、アタッチメント255の非装着時における対物レンズであり、装着時とは異なる画角で眼底を撮影するために利用されてもよい。
【0034】
以上、実施形態に基づいて本開示を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0035】
250 対物レンズ系
251 第1対物レンズ
251a 第1面
251b 第2面