(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及び記録媒体温度制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 305
B41J2/01 127
(21)【出願番号】P 2020113700
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外園 豊
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/165003(WO,A1)
【文献】特開2013-129111(JP,A)
【文献】特開2012-121288(JP,A)
【文献】特開2015-127147(JP,A)
【文献】特開2007-118409(JP,A)
【文献】特開2011-168021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部による記録媒体の搬送経路の途中で前記記録媒体に対してインクを吐出して着弾させる記録動作部と、
前記記録動作部により吐出されるインクの着弾位置よりも前記搬送経路に沿って下流側の第1位置から上流側の第2位置へ前記記録媒体を戻す反転部と、
少なくとも前記搬送経路上の前記第2位置から前記着弾位置までの間の一部で前記記録媒体の温度を調節する第1温度調節部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記記録媒体が最初に前記着弾位置を通過する間
を含む前記記録媒体の特性に応じた所定回数、前記反転部により前記記録媒体が前記第1位置から前記第2位置へ戻されるまで、当該記録媒体に対して前記記録動作部によりインクを吐出させない
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記所定回数は、前記記録媒体の厚さ、種別及び前記記録媒体の供給前の温度のうち少なくともいずれかを設定条件として定められることを特徴とする請求項
1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
当該インクジェット記録装置の所定の位置の温度を計測する計測部を備え、
前記制御部は、前記計測部の計測した温度に基づいて前記所定回数を定める
ことを特徴とする請求項
1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記搬送部は、記録媒体を載置して当該載置された面を前記搬送経路に沿って移動させる第1の載置部材を有し、
前記反転部は、前記記録媒体を前記第1の載置部材上の前記第1位置から前記第2位置へ戻し、
前記第1温度調節部は、前記第1の載置部材の表面の温度を調節する
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記搬送部は、
前記搬送経路上の前記第2位置よりも上流側で記録媒体を載置する第2の載置部材を有する前置部と、
前記第2の載置部材の温度を調節する第2温度調節部と、
を備えることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記記録媒体の特性に応じて前記第2温度調節部の動作制御を行うことを特徴とする請求項
5記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記特性には、前記記録媒体の厚さ、種別及び供給前の温度のうち少なくともいずれかが含まれることを特徴とする請求項
6記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記搬送経路上の前記着弾位置よりも下流側かつ前記第1位置よりも上流側の位置で前記記録媒体に対してインクを定着させる所定のエネルギー線を照射する照射部を備え、
前記制御部は、前記インクが着弾していない前記記録媒体に対する前記エネルギー線の
照射を制御する
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記所定のエネルギー線は紫外線であることを特徴とする請求項
8記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
記録媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部による記録媒体の搬送経路の途中で前記記録媒体に対してインクを吐出して着弾させる記録動作部と、前記記録動作部により吐出されるインクの着弾位置よりも前記搬送経路に沿って下流側の第1位置から上流側の第2位置へ前記記録媒体を戻す反転部と、前記搬送経路上の前記第2位置から前記着弾位置までの間の少なくとも一部で前記記録媒体の温度を調節する第1温度調節部と、を備えるインクジェット記録装置の記録媒体温度制御方法であって、
前記記録媒体が最初に前記着弾位置を通過する間
を含む前記記録媒体の特性に応じた所定回数、前記反転部により前記記録媒体が前記第1位置から前記第2位置へ戻されるまで、当該記録媒体に対して前記記録動作部によりインクを吐出させない温度調節ステップ、
を含むことを特徴とする記録媒体温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット記録装置及び記録媒体温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に対してインクを吐出して画像や構造などを記録するインクジェット記録装置がある。インクは、多様な種別の記録媒体に対して定着させることができる一方、適正な定着状態を得るために、インクによってはその温度の制御が重要になる場合がある。
【0003】
また、インクの吐出時の温度だけではなく、着弾後のインクの定着への影響が大きい記録媒体の温度も制御する技術がある。特許文献1では、両面に画像を記録する場合でも適切に記録媒体の温度が保てるような加熱手段を備える技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、記録媒体の熱伝導性や厚さなどによっては、記録動作の直前に加熱を開始しても適切な温度に上昇させることができず、また、適切な温度に急激に上昇させるために大型で消費電力の大きい加熱機構が必要になるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より簡便かつ柔軟に、画像記録時の記録媒体の温度を適切に制御することのできるインクジェット記録装置及び記録媒体温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
記録媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部による記録媒体の搬送経路の途中で前記記録媒体に対してインクを吐出して着弾させる記録動作部と、
前記記録動作部により吐出されるインクの着弾位置よりも前記搬送経路に沿って下流側の第1位置から上流側の第2位置へ前記記録媒体を戻す反転部と、
少なくとも前記搬送経路上の前記第2位置から前記着弾位置までの間の一部で前記記録媒体の温度を調節する第1温度調節部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記記録媒体が最初に前記着弾位置を通過する間を含む前記記録媒体の特性に応じた所定回数、前記反転部により前記記録媒体が前記第1位置から前記第2位置へ戻されるまで、当該記録媒体に対して前記記録動作部によりインクを吐出させない
ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、
前記所定回数は、前記記録媒体の厚さ、種別及び前記記録媒体の供給前の温度のうち少なくともいずれかを設定条件として定められることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録装置において、
当該インクジェット記録装置の所定の位置の温度を計測する計測部を備え、
前記制御部は、前記計測部の計測した温度に基づいて前記所定回数を定める
ことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記搬送部は、記録媒体を載置して当該載置された面を前記搬送経路に沿って移動させる第1の載置部材を有し、
前記反転部は、前記記録媒体を前記第1の載置部材上の前記第1位置から前記第2位置へ戻し、
前記第1温度調節部は、前記第1の載置部材の表面の温度を調節する
ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記搬送部は、
前記搬送経路上の前記第2位置よりも上流側で記録媒体を載置する第2の載置部材を有する前置部と、
前記第2の載置部材の温度を調節する第2温度調節部と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、前記記録媒体の特性に応じて前記第2温度調節部の動作制御を行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項7記載の発明は、請求項6記載のインクジェット記録装置において、
前記特性には、前記記録媒体の厚さ、種別及び供給前の温度のうち少なくともいずれかが含まれることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8記載の発明は、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記搬送経路上の前記着弾位置よりも下流側かつ前記第1位置よりも上流側の位置で前記記録媒体に対してインクを定着させる所定のエネルギー線を照射する照射部を備え、
前記制御部は、前記インクが着弾していない前記記録媒体に対する前記エネルギー線の照射を制御する
ことを特徴とする。
【0016】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載のインクジェット記録装置において、
前記所定のエネルギー線は紫外線であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、
記録媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部による記録媒体の搬送経路の途中で前記記録媒体に対してインクを吐出して着弾させる記録動作部と、前記記録動作部により吐出されるインクの着弾位置よりも前記搬送経路に沿って下流側の第1位置から上流側の第2位置へ前記記録媒体を戻す反転部と、前記搬送経路上の前記第2位置から前記着弾位置までの
間の少なくとも一部で前記記録媒体の温度を調節する第1温度調節部と、を備えるインクジェット記録装置の記録媒体温度制御方法であって、
前記記録媒体が最初に前記着弾位置を通過する間を含む前記記録媒体の特性に応じた所定回数、前記反転部により前記記録媒体が前記第1位置から前記第2位置へ戻されるまで、当該記録媒体に対して前記記録動作部によりインクを吐出させない温度調節ステップ、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うと、より簡便かつ柔軟に、画像記録時の記録媒体の温度を適切に制御することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態のインクジェット記録装置の全体構成を示す模式図である。
【
図2】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】空ターンが行われる場合の画像記録ドラムへの記録媒体の載置順を示す図表である。
【
図5】媒体温度制御処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の全体構成を示す模式図である。
ここでは、インクジェット記録装置1を正面から見た場合について示す。
【0021】
本実施形態のインクジェット記録装置1は、媒体供給部10と、画像記録部20と、媒体排出部30と、制御部40などを備えている。このインクジェット記録装置1では、制御部40による制御に基づいて、媒体供給部10に格納された記録媒体Mが画像記録部20に搬送され、画像が記録された後に媒体排出部30に排出される。
【0022】
媒体供給部10は、内部に格納された記録媒体Mを一枚ずつ画像記録部20へ送る。
記録媒体Mとしては、ここでは、種々の厚さや質の印刷用紙、セル、フィルム、ボードなどの形態の各種樹脂基材(例えば、ポリプロピレンPP、ポリエチレンテレフタラートPET)及び布帛など、種々のものが用いられる。
【0023】
媒体供給部10は、記録媒体Mを格納する供給トレー11と、供給温度計測部12とを有する。供給トレー11は、一又は複数の記録媒体Mを載置可能に設けられた板状の部材である。供給トレー11は、供給トレー11に載置された記録媒体Mの量に応じて上下動するよう設けられており、当該上下動方向について、最も上に位置する記録媒体Mが画像記録部20への送出位置で保持される。
【0024】
供給温度計測部12は、供給トレー11上の一番上の記録媒体Mの表面温度を計測して、計測温度を制御部40へ出力する。供給温度計測部12は、非接触の、例えば、赤外線温度計であってもよい。
【0025】
画像記録部20は、画像記録ドラム21(第1の載置部材)と、前置部22と、ヘッドユニット23(記録動作部)と、照射部24と、デリバリー部25と、反転部26と、温度主調節部27(第1温度調節部)と、主計測部28などを備える。
【0026】
画像記録ドラム21は、円筒状の外形を有し、当該円筒状部分の外周面上に120度ごとに1枚ずつ合計3枚の記録媒体Mを担持(載置)可能であり、円筒の中心軸に対する回転動作に応じて記録媒体Mを搬送する(載置された面を搬送経路に沿って移動させる)搬送動作を行う。画像記録ドラム21の外周面の温度は、温度主調節部27により調節される。
【0027】
温度主調節部27は、ドラム加熱部271と、ファン272とを有し、これらの動作により画像記録ドラム21の外周面(表面)の温度を調節する。ドラム加熱部271は、外周面を加熱し、ファン272は、外周面からの放熱を促進させる。調節される温度は、適切なインクの着弾時温度に応じて定められてよい。ここでは、画像記録ドラム21の回転方向について、記録媒体Mが載置される搬送開始位置(第2位置)から載置された記録媒体Mが除去される搬送終了位置(第1位置)までの載置区間(画像記録ドラム21による記録媒体Mの搬送経路)外で温度主調節部27により外周面の加熱/放熱が行われる。画像記録ドラム21上に担持された記録媒体Mには、載置された第2位置からヘッドユニット23と対向する位置(インクの着弾位置)との間を含む区間(少なくとも第2位置から着弾位置までの一部)で画像記録ドラム21の外周面から加熱(温度の調節)がなされ、上記着弾位置でヘッドユニット23の各ノズルから吐出されるインクが当該記録媒体Mの画像記録ドラム21との接触面とは反対側の面(一の記録対象面)における適切な位置に着弾することで画像などが記録される。
【0028】
前置部22は、媒体供給部10から記録媒体Mを画像記録ドラム21(第2位置)よりも上流側で受け渡されて、当該画像記録ドラム21に受け渡す。前置部22は、記録媒体Mを担持(載置)する円筒状の受け渡しドラム221(第2の載置部材)と、受け渡しドラム221を加熱する前置加熱部222(第2温度調節部)と、受け渡しドラム221の表面温度を計測する前置温度計測部223などを有する。
画像記録ドラム21及び受け渡しドラム221が、本実施形態において記録媒体Mを搬送する搬送部を構成する。
【0029】
ヘッドユニット23は、画像記録ドラム21の回転に応じて移動する搬送経路の途中の記録媒体Mの一の記録対象面に対し、当該ヘッドユニット23において記録媒体Mの当該記録対象面と対向する面(ノズル面)に設けられた複数のノズル開口部から適切なタイミングでインクの液滴を吐出して、上記記録対象面に着弾させていくことで画像を記録する。ヘッドユニット23は、複数のノズルが設けられた記録ヘッドを一又は複数備える。本実施形態のインクジェット記録装置1では、ヘッドユニット23は、記録媒体Mの搬送方向に所定の間隔で複数、ここでは、4色の各インクにそれぞれ応じて4つ並んでいる。4つのヘッドユニット23は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(黒)のインクをそれぞれ出力する。これらのヘッドユニット23の並び順は適宜定められてよい。これらのインクは、所定波長の電磁波、ここでは、紫外線を活性エネルギー線として照射されることで硬化するものが用いられる。なお、インクの温度は図示略のインクヒーターなどにより加熱維持されていてもよい。
【0030】
ヘッドユニット23の各々は、ここでは、それぞれ画像記録ドラム21上で搬送される記録媒体Mの搬送方向に垂直な幅方向に当該記録媒体Mの画像記録幅にわたって配列された複数のノズル開口部を備え、記録媒体Mを搬送方向に移動させながら当該ノズル開口部から記録媒体Mに対してインクを吐出することでシングルパス方式により画像を記録可能なラインヘッドを備える。ヘッドユニット23は、図示略の支持部(キャリッジ)に取り付けられている。
【0031】
照射部24は、エネルギー線(ここでは紫外線)を照射して、ヘッドユニット23から吐出されて記録媒体M上に着弾したインクを硬化させる反応を生じさせて、定着させる。照射部24は、例えば、紫外線を発する発光ダイオード(LED)を有し、当該LEDに電圧を印加して電流を流すことで発光させて紫外線を照射する。照射部24は、画像記録ドラム21の回転により搬送される記録媒体M上にヘッドユニット23からインクの吐出がなされた後、当該記録媒体Mがデリバリー部25に到達する前に(すなわち、着弾位置よりも下流側の位置かつ第1位置よりも上流側の位置)、当該記録媒体M上に着弾したインクに対して紫外線が照射可能に設けられている。照射部24は、必要に応じて所望の照射範囲外への紫外線の漏出を遮るための遮光壁などを備えていてもよい。
【0032】
なお、照射部24において紫外線を発する構成は、LEDに限られない。照射部24は、例えば、水銀ランプを有していてもよい。また、インクが紫外線以外の活性エネルギー線を受けて硬化定着する性質を有する場合には、照射部24は、上述の紫外線を発する構成の代わりに、当該インクを硬化させる活性エネルギー線を発する周知の出射源(光源)を有していてよい。この照射部24は、紫外線の照射に伴う放熱も大きく、放出された熱が記録媒体Mや画像記録ドラム21に伝わることでこれらを加熱する。加熱の必要がない場合には、インクの硬化に必要な範囲でのみLEDが点灯されればよく、その他の期間では消灯される。
【0033】
デリバリー部25は、画像が記録され、記録した画像(インク)が定着した後の記録媒体Mを画像記録ドラム21による記録媒体Mの搬送経路の終点(搬送経路に沿ってインクの着弾位置よりも下流側の第1位置)で当該画像記録ドラム21から取得し、媒体排出部30に搬送する。デリバリー部25は、円筒状の排出選択ローラー251と、受け渡しローラー252と、複数(例えば、2本)のローラー253、254と、内側面でローラー253、254に支持された輪状のベルト255などを有する。
【0034】
排出選択ローラー251は、記録媒体Mを媒体排出部30に排出させるか、又は再度記録媒体Mの供給側(インクの着弾位置よりも上流側の第2位置)に戻すかを切り替える。受け渡しローラー252は、媒体排出部30に排出される記録媒体Mを排出選択ローラー251から受け取ってベルト255上に誘導する。デリバリー部25は、受け渡しローラー252からベルト255上へと受け渡された記録媒体Mをローラー253、254の回転に伴い周回移動するベルト255と共に移動させることで搬送して媒体排出部30に送り出す。
【0035】
反転部26は、搬送終了位置で画像記録ドラム21からデリバリー部25に受け渡された記録媒体Mのうち、媒体排出部30に排出しない記録媒体Mを排出選択ローラー251から受け取ってインクの着弾位置よりも上流側、ここでは、前置部22から画像記録ドラム21に受け渡される搬送開始位置(第2位置)又はこれより若干上流位置で画像記録ドラム21に戻し、再度載置させる。反転部26は、ここでは、一方の面に画像が記録された記録媒体Mの表裏を反転させて画像記録ドラム21に戻すが、反転させずに戻すことが可能であってもよい。なお、ここでは、反転部26は、画像記録ドラム21における3か所の載置可能範囲(A~C)のうちいずれかから記録媒体Mを受け取ると、その載置可能範囲よりも2つ後ろの載置可能範囲(A→C、B→A、C→B)に記録媒体Mを戻す。
【0036】
主計測部28は、温度主調節部27による加熱/放熱後の画像記録ドラム21の外周面温度を計測するドラム温度計測部281と、搬送開始位置で載置された記録媒体Mがヘッドユニット23のインク着弾位置に到達する前の当該記録媒体Mの表面温度を計測する記録前温度計測部282と、インク着弾位置を過ぎてから照射部24による照射範囲に到達する前の記録媒体Mの表面温度を計測する記録後温度計測部283とを有する。主計測部28の各計測データは制御部40に出力される。
【0037】
媒体排出部30は、デリバリー部25により画像記録部20から送り出された記録媒体Mをユーザーにより取り出されるまで格納する。媒体排出部30は、板状の排出トレー31などを有し、この排出トレー31上に記録動作後の記録媒体Mが順に積載される。
【0038】
制御部40は、媒体供給部10、画像記録部20及び媒体排出部30の動作を制御し、画像記録命令(ジョブ)による記録対象画像のデータ及び画像記録動作に係る設定に応じて記録媒体M上に画像を記録させる。
【0039】
図2は、インクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、上記のヘッドユニット23と、照射部24と、制御部40などに加えて、搬送モーター211及び搬送制御部41と、照射制御部44と、駆動波形生成部54と、温度調節部60と、温度計測部65(計測部)と、操作受付部71と、表示部72と、通信部73などを備える。
【0040】
搬送モーター211は、媒体供給部10及び画像記録部20において記録媒体Mを移動させるために動作する各部を各々駆動するモーターを有する。搬送制御部41は、搬送モーター211をそれぞれ適宜なタイミングで、必要に応じて同期させて動作させる。
【0041】
ヘッドユニット23は、ヘッド駆動部231と、電気機械変換素子232などを有する。本実施形態のヘッドユニット23は、特には限られないが、インクを吐出する各ノズルに連通しているインク流路(特にインク室)に沿ってそれぞれピエゾ素子(電気機械変換素子232)が設けられている。ヘッドユニット23は、このピエゾ素子に対する印加電圧の変動に応じて当該ピエゾ素子を変形させることで、インクに圧力変動を生じさせてインクをノズルから吐出させるピエゾ式の駆動機構を有する。ヘッド駆動部231は、出力対象の画像データに基づいて、駆動波形生成部54から入力された駆動信号を各電気機械変換素子232へ適切に出力させる。
【0042】
駆動波形生成部54は、予め定められた駆動波形信号を生成してヘッドユニット23へ出力する。駆動波形生成部54では、所定数の駆動波形パターンがデジタルデータとして保持されており、クロック信号に応じて各デジタルデータをアナログ信号に変換し、適宜な電圧及び電流に増幅して出力する。
【0043】
照射制御部44は、照射部24による紫外線(エネルギー線)の照射タイミング、照射時間及び照射強度を制御する。照射部24は、照射制御部44からの制御信号に基づいてLEDを発光させて紫外線を出射する。
【0044】
温度調節部60は、上述の前置加熱部222及び温度主調節部27と、加熱制御部46などを備える。加熱制御部46は、記録媒体Mの種別に係る設定と、温度計測部65の計測結果などに基づいて、受け渡しドラム221と画像記録ドラム21の温度を適正な温度範囲に維持するように、前置加熱部222、ドラム加熱部271及びファン272の動作の有無の切替制御を行う。
【0045】
温度計測部65は、上述の供給温度計測部12、前置温度計測部223、ドラム温度計測部281、記録前温度計測部282及び記録後温度計測部283を有する。
【0046】
操作受付部71は、外部からのユーザーなどによる入力操作を受け付けて、入力信号として制御部40に出力する。操作受付部71は、例えば、タッチパネルと押しボタンスイッチなどを有する。タッチパネルは、表示部72の表示画面と重ねて位置していてよい。また、操作受付部71は、その他の各種操作スイッチなどを有していてもよい。
【0047】
表示部72は、制御部40の制御に基づいて、各種ステータスやメニューなどを表示画面に表示する。表示部72は、例えば、表示画面とLED(Light Emitting Diode)ランプなどを有する。表示画面は、特には限られないが、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)である。LEDランプは、例えば、電力供給状況や異常発生状況などに応じて、制御部40により各状況に対応する位置及び色のランプが点灯(点滅動作を含む)される。
【0048】
通信部73は、所定の通信規格に従って外部機器などとの間で行うデータ(信号)の送受信を制御する。通信部73は、例えば、LAN(Local Area Network)の規格に従って、通信の制御を行う。また、通信部73は、USB(Universal Serial Bus)の規格により周辺機器などが接続可能であってもよい。
【0049】
制御部40は、CPU401(Central Processing Unit)と、RAM402(Random Access Memory)と、記憶部403などを有する。CPU401は、各種演算処理を行って制御動作を行う。RAM402は、CPU401に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。記憶部403は、不揮発性メモリーを有し、各種設定データやプログラムなどを記憶する。設定データには、加熱設定403aが含まれる。加熱設定403aは、後述のように、記録媒体の種別などに応じて各部による記録媒体Mの加熱動作を調整するためのデータである。プログラムには、後述の媒体温度制御処理に係る制御プログラムが含まれ、記録媒体Mに着弾したインクをその状況(着弾状態)に応じた適切な状態(記録媒体Mなどへの悪影響の抑制も考慮した状態)で確実に定着させるように照射部24による照射量を変更制御する。また、記憶部403は、大容量の揮発性メモリを有し、ジョブデータ及びその作業データ(加工データ)などを記憶することが可能であってもよい。
【0050】
なお、搬送制御部41、照射制御部44及び加熱制御部46は、それぞれ制御部40と別個のプロセッサー(CPUなど)によって動作してもよいし、実際にはCPU401が共通に各処理を行ってもよい。
【0051】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1における記録媒体Mの加熱動作について説明する。
インクジェット記録装置1では、着弾したインクを適正に定着させるために、記録媒体Mの温度、特にインク着弾面の温度を適切な範囲に維持する。適切な温度範囲は、インクの種別に応じて定まるが、常温より高めに維持されることが多いので、少なくとも画像記録動作の開始時には、記録媒体Mを加熱することが多い。
【0052】
一般に熱伝導には時間がかかることが多く、特に、熱伝導度の低い記録媒体や、厚い記録媒体では、画像記録ドラム21に載置されてからインク着弾位置へ移動するまでの間に記録面が適正な温度範囲に加熱されない場合がある。インクジェット記録装置1では、記録媒体の特性に応じて記録媒体Mの加熱動作を調整する。
【0053】
加熱動作としては、ドラム加熱部271による搬送開始位置からインク着弾位置までの通常の加熱に加えて、前置加熱部222による加熱動作がある。また、インクジェット記録装置1では、更に、インク着弾位置に到達した記録媒体Mに対して直ちに(少なくとも最初に(所定回数)着弾位置を通過する間に/第1位置から第2位置に戻されるまで)ヘッドユニット23によるインク吐出をさせない、すなわち、画像記録させずに記録媒体Mを周回させて(空ターンと記す)、画像記録ドラム21による記録媒体Mの加熱状態を維持させることができる。また、インクが着弾していない状態の記録媒体Mの通過時に照射部24のLEDを点灯させることで、照射部24の発熱による加熱も行わせることができる。反転部26により供給側に戻された記録媒体Mの2度目以降の載置、周回時にインクが吐出、着弾されることで、適切な記録媒体Mの温度での画像記録動作が可能となる。
【0054】
図3は、加熱動作レベルの設定を示す図表である。
ここでは、記録媒体Mの特性としてその厚さ(紙厚と記すが、上記の通り紙に限られない)を指標として5段階に前置加熱部222の動作、空ターンの回数(所定回数)及び照射部24の動作を組み合わせた加熱レベルの調整制御がなされる。紙厚レベル1では、前置加熱部222による加熱、空ターンによる加熱及び照射部24による加熱のいずれも行わせず、ドラム加熱部271による通常の加熱のみとされる。紙厚レベル2では、前置加熱部222による加熱が追加される。すなわち、紙厚レベル1、2では、記録媒体Mは、通常通り搬送されてヘッドユニット23による画像記録動作が行われる。
【0055】
紙厚レベル3になると、紙厚レベル2の設定に加えて、空ターンが実行される。記録媒体Mは、画像記録ドラム21に載置されてから最初のインク着弾位置の通過時に画像記録動作がなされず、搬送終了位置から反転部26を介して搬送開始位置へ戻される。そして、画像記録ドラム21上での2周目の移動におけるインク着弾位置の通過時に、この記録媒体Mに対してヘッドユニット23からインクが吐出されて画像が記録される。この場合、空ターンの実行分だけ記録画像の出力速度が低下する。
【0056】
紙厚レベル4では、紙厚レベル3の設定に加えて、更に、照射部24のLEDの点灯による加熱が追加される。インクが吐出されていないので、照射される紫外線自体は、記録媒体Mへの画像記録動作に対して基本的に影響を及ぼさない。また、記録画像の出力速度は紙厚レベル3から変化しない。既存の構成の流用であるので、加熱のためにドラム加熱部271の最大加熱(電力容量など)を増大させる必要がない。なお、ここでは点灯(紫外線の照射)の有無だけが制御されるように定められているが、点灯時間及び/又は点灯強度が定められていてもよい。また、照射部24は、記録媒体Mの通過中だけではなく、通過前に点灯されて、予め遮光壁内の空間の空気を温めておいてもよい。
【0057】
紙厚レベル5では、紙厚レベル3の設定における空ターンの回数が2回に変更されている。
【0058】
記録媒体Mの加熱には、厚さに加えて媒体の質(熱伝導度)や、画像記録部20への供給前の記録媒体Mの温度(供給温度計測部12による計測温度)も影響する。したがって、ここでは、媒体の種別(上質紙、普通紙、塗工紙、非塗工紙、樹脂の種別など)及び供給前の温度(又は供給前の温度と目標温度との差)に応じて(設定条件として)基準となる上記紙厚レベルを所定レベルだけ変更させて設定がなされてもよい。すなわち、熱伝導度の低い記録媒体Mや供給前の温度の低い記録媒体Mでは、紙厚で定められるレベルよりも所定段階(例えば1段階)上のレベルの加熱動作が選択され、熱伝導度の高い記録媒体Mや供給前の温度の高い記録媒体Mでは、紙厚で定められるレベルよりも所定段階(例えば1段階)下のレベルの加熱動作が選択されてもよい。
【0059】
図4は、空ターンが行われる場合の画像記録ドラム21への記録媒体Mの載置順を示す図表である。
【0060】
画像記録ドラム21が回転方向にA、B、Cの3つの載置可能範囲を有する場合、通常の片面記録動作では、画像記録ドラム21が1回転する間に3枚の画像を出力することができる。これに対し、1回の空ターンを挿入する場合、
図4(a)に示すように、例えば、記録媒体を載置可能範囲に1回おきに供給して空ターンでの加熱を行う(温度調節ステップ)。空ターンで加熱された記録媒体Mは、反転部26などにおいて表裏が反転された後、2つ後ろの載置可能範囲に再度載置されて搬送される。この載置可能範囲は、1回目に搬送開始位置で載置されてから当該搬送開始位置を通過する5つ目の載置可能位置であるので、常に1回目の記録媒体Mが載置されない載置可能範囲となっている。2周目の搬送における画像記録範囲でヘッドユニット23から吐出されたインクにより画像が記録されると(画像記録ステップ)、記録媒体Mは、デリバリー部25を介して媒体排出部30へ排出される。
【0061】
両面に画像を記録する場合には、
図4(b)に示すように、記録媒体Mは、最初の空ターンにおける載置位置から5つ後ろへの再度の載置で表面への画像記録がなされ、更に5つ後ろへの載置で裏面への画像記録がなされる。この場合、裏面への記録に係る記録媒体の載置位置が加熱用に最初に供給される記録媒体Mのタイミングと重なることになる。具体的には、1枚目の記録媒体Mの裏面へ記録動作に係る載置可能範囲が6枚目の記録媒体Mの空ターンと重なることになる。
【0062】
ここでは、5枚の記録媒体Mが空ターン用に1回おきに供給された後、記録媒体Mの供給が中断され、5枚目の記録媒体Mへの表側への記録が終了した後、この2回後の載置可能範囲、すなわち、5枚目の記録媒体Mの供給から7つ後ろの載置可能範囲に6枚目の記録媒体Mの供給がなされ、これに続いて、7~10枚目の記録媒体Mの供給が1回おきになされる。このような記録媒体Mの供給パターンにより、載置可能範囲の空きなしに記録画像の出力がなされていくことになる。
【0063】
図5は、本実施形態のインクジェット記録装置1で実行される媒体温度制御処理の制御部40による制御手順を示すフローチャートである。
この処理は、本実施形態の記録媒体温度制御方法を含み、画像記録動作命令を含むジョブデータが取得された場合に画像記録動作に係る制御処理と並行して起動される。あるいは、画像記録動作に係る処理の内部で呼び出されて起動されてもよい。
【0064】
媒体温度制御処理が開始されると、制御部40(CPU401)は、ジョブデータから媒体種別を取得する(ステップS101)。制御部40は、加熱設定403aを参照して媒体種別に応じた加熱設定を取得する(ステップS102)。
【0065】
制御部40は、温度計測部65から各部の温度データの取得を開始する(ステップS103)。なお、開始するまでもなく定期的に温度計測部65から温度データを取得している場合には、ステップS103の処理は省略されてもよい。あるいは、ステップS103の処理において、温度データの取得間隔が調整(例えば狭く変更)されてもよい。
【0066】
制御部40は、供給温度計測部12による供給前の記録媒体Mの温度が基準温度範囲外であるか否かを判別する(ステップS104)。基準温度範囲外であると判別された場合には(ステップS104で“YES”)、制御部40は、基準からの外れ具合に応じて取得した加熱設定を変更する(ステップS105)。それから、制御部40の処理は、ステップS106へ移行する。媒体温度が基準温度範囲外ではない(基準温度範囲内である)と判別された場合には(ステップS104で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS106へ移行する。
【0067】
ステップS106の処理へ移行すると、制御部40は、加熱設定に応じた加熱動作を開始する(ステップS106)。制御部40は、加熱制御部46を介してドラム加熱部271及び必要に応じて前置加熱部222を動作させる。ドラム加熱部271が基準温度を超えると、又は動作開始から所定時間が経過すると、制御部40は、画像記録動作の開始を許可する(ステップS107)。上述のように、画像記録動作は、別途画像記録制御処理で制御されてよい。画像記録制御処理では、
図4に示したように、空ターンの場合(温度調節ステップ)と、表面に画像記録を行う場合と、裏面に画像記録を行う場合(まとめて画像記録ステップ)とが順番に切り替えられる。
【0068】
制御部40は、記録動作が全て終了したか否かを判別する(ステップS108)。終了していないと判別された場合には(ステップS108で“NO”)、制御部40は、温度計測部65から得られた計測温度のうちいずれかに基準温度範囲外のものがあるか否かを判別する(ステップS109)。なお、この基準温度範囲は、ステップS104の判別処理で用いられた基準温度範囲と同一であってもよいし、異なっていてもよい。基準温度範囲外のものがないと判別された場合には(ステップS109で“NO”)、制御部40の処理は、ステップS108に戻る。
【0069】
基準温度範囲外のものがあると判別された場合には(ステップS109で“YES”)、制御部40は、基準温度範囲外の温度が示されている計測位置に応じて適宜加熱設定を変更する(ステップS110)。各部の温度は、画像記録動作の継続により放熱よりも熱の蓄積の方が速い場合が多く、上昇しやすいので、主に変更は加熱動作を一部又は全部休止させる場合が多い。また、画像記録ドラム21の温度が上がり過ぎている場合には、ファン272を動作させて放熱に切り替えてもよい。それから、制御部40の処理は、ステップS108に戻る。
【0070】
ステップS108の処理で、記録動作が全て終了したと判別された場合には(ステップS108で“YES”)、制御部は、媒体温度制御処理を終了する。
なお、温度調節部60の各部の動作は、媒体温度制御処理の終了と同時に全て停止されてもよいし、引き続き他のジョブが実行される場合などを考慮して、所定時間加熱状態を維持又は常温よりもやや高めの値で待機状態とされてもよい。
【0071】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、記録媒体Mを搬送する搬送部(画像記録ドラム21及び受け渡しドラム221)と、搬送部(画像記録ドラム21)による記録媒体Mの搬送経路の途中でこの記録媒体Mに対してインクを吐出して着弾させるヘッドユニット23と、記録動作部により吐出されるインクの着弾位置よりも前記搬送経路に沿って下流側の第1位置から上流側の位置へ記録媒体Mを戻す反転部26と、少なくとも搬送経路上の第2位置からインクの着弾位置までの間の一部で記録媒体の温度を調節する温度主調節部27と、制御部40と、を備える。制御部40は、記録媒体Mが最初にインクの着弾位置を通過する間にヘッドユニット23によりインクを吐出させない。
このように、画像を記録させないまま一周載置させ続けて記録媒体Mを加熱保温して、画像記録ドラム21の外周面温度に近づけるので、温度主調節部27の最大加熱量を増大させずとも通常の構成のまま記録媒体Mを適切な温度とし、着弾したインクを適正に定着させることができる。これにより、インクジェット記録装置1では、記録媒体Mに対して簡便かつ柔軟に適正な画像が得られる。特に、画像記録動作の開始直後などの一時的に大きな目標温度との乖離を調整するために温度主調節部27に大きなコストをかけたりサイズを大きくしたりする必要がない。
【0072】
また、制御部40は、記録媒体Mの特性に応じた所定回数、反転部26により記録媒体が第1位置から第2位置へ戻されるまで、当該記録媒体Mに対してヘッドユニット23によりインクを吐出させない。すなわち、なかなか適切な温度に変化しにくい記録媒体Mに対しては、記録媒体Mの特性に応じて空ターンの回数を増加させることで適切な温度になるまで記録動作を保留させることができる。これにより、容易な制御のみで加熱などに係る構成を高性能化せずとも記録媒体Mに対して適切な温度でインクを着弾、定着させることができる。
【0073】
また、所定回数は、記録媒体Mの厚さ、種別及び記録媒体Mの供給前の温度のうち少なくともいずれかを設定条件として定められる。すなわち、特性として、加熱に影響の大きいこれら3つのパラメーターのうち少なくとも1つを用いることで、より確実に適切な温度となった段階で画像記録動作及び定着動作を行わせることができる。
【0074】
また、インクジェット記録装置1は、自機の所定の位置の温度を計測する温度計測部65を備える。制御部40は、温度計測部65の計測した温度に基づいて空ターンに係る所定回数を定める。上記の供給前の記録媒体Mの温度に加え、記録動作中の温度の変化なども計測して反映することで、記録動作に伴う温度上昇などの影響を考慮して略リアルタイムで加熱量を調整することができる。したがって、空ターンが途中で不要になった場合などには、柔軟に加熱動作を変更して効率よく適切な記録媒体Mの温度を維持することができる。
【0075】
また、搬送部は、記録媒体Mを載置して当該載置された面を搬送経路に沿って移動させる画像記録ドラム21を有する。反転部26は、記録媒体Mを画像記録ドラム21の外周面上の第1位置から第2位置へ戻し、温度主調節部27は、画像記録ドラム21の外周面の温度を調節する。すなわち、記録媒体Mを直接加熱するのではなく、記録媒体Mよりも熱容量の大きい画像記録ドラム21を所望の温度に調整するので、記録媒体Mの温度を安定に所望の温度に保ちやすい。また、記録媒体Mが外周面上にある間は温度調整が継続されるので、記録媒体Mの加熱位置だけでの加熱よりも空ターンの間の温度調整効果が大きい。
【0076】
また、搬送部は、搬送経路上の第2位置よりも上流側で記録媒体Mを載置する受け渡しドラム221第2の載置部材を有し、画像記録ドラム21へこの記録媒体Mを受け渡す前置部22と、受け渡しドラム221の温度を調節する前置加熱部222と、を備える。このように受け渡しドラム221での加熱も可能とすることで、あまり空ターンの回数を多くせずとも加熱を終了しやすくすることができるので、画像の出力効率を大きく低下させない。
【0077】
また、制御部40は、記録媒体Mの特性に応じて前置加熱部222の動作制御を行う。上記温度主調節部27と同様に、記録媒体Mの特性に応じて加熱量を調整することで、記録媒体Mをより適切に画像記録動作及び定着に適切な温度に調整することができる。
【0078】
また、特性には、記録媒体Mの厚さ、種別及び供給前の温度のうち少なくともいずれかが含まれる。これら、加熱に影響の大きいこれら3つのパラメーターのうち少なくとも1つを用いることで、より確実に適切な温度となった段階で画像記録動作及び定着動作を行わせることができる。
【0079】
また、インクジェット記録装置1は、搬送経路上のインクの着弾位置よりも下流側かつ第1位置よりも上流側の位置で記録媒体に対してインクを定着させる紫外線(エネルギー線)を照射する照射部24を備える。制御部40は、記録媒体Mの特性に応じてインクが着弾していない記録媒体Mに対する紫外線の照射を制御する。照射部24の動作に伴う発熱量は、他の構成と比較しても大きいので、通常の温度調節部60の加熱では不足の場合に、インクの吐出がなく定着動作に影響がない状況で、照射部24を加熱部の一部に含めて動作させることができる。これにより、ドラム加熱部271の容量を増大したり空ターンの回数を増やしたりせずとも従来の構成で加熱量を増大させることができる。
【0080】
また、所定のエネルギー線は紫外線である。すなわち、UV硬化型インクが用いられるインクジェット記録装置1で広く加熱に用いられてよい。
【0081】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1の記録媒体温度制御方法は、記録媒体が最初にインクの着弾位置を通過する間にヘッドユニット23によりインクを吐出させない温度調節ステップを含む。
このような記録媒体温度制御方法により、より簡便かつ柔軟に、画像記録時の記録媒体の温度を適切に制御することができる。
【0082】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、第1の載置部材としての画像記録ドラム21が単一であるものとして説明したが、これに限られない。複数の載置部材間で受け渡されて移動されるものであってもよい。この場合、複数の載置部材が共通に加熱制御されてもよいし、各々別個の加熱制御が可能であってもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、5段階の加熱設定を例示したが、これに限られない。各部の電力消費や画像出力効率などの優先度に応じて適宜順番が入替設定されてもよい。また、この設定順は、ユーザーが操作受付部71への入力操作などにより手動で変更可能であってもよい。また、加熱の方法は、本実施形態に示したものに限られなくてもよい。例えば、媒体の搬送速度を微調整してもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、画像記録ドラム21と受け渡しドラム221を外側から赤外線などにより加熱するものとして説明したが、内側から加熱されてもよい。この場合でも、加熱に係る構成は、画像記録ドラム21及び受け渡しドラム221の回転から分離されてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態では、前置部22による加熱があるものとして説明したが、なくてもよい。あるいは、受け渡しドラム221で加熱されるのではなく、先行して加熱するためのスペースが別途媒体供給部10と画像記録ドラム21との間に用意されてもよい。
【0086】
また、上記実施の形態では、供給温度計測部12、前置温度計測部223、ドラム温度計測部281、記録前温度計測部282及び記録後温度計測部283により5か所で温度計測がなされたが、これに限られい。これらの一部が省略されてもよいし、他の箇所で温度計測がなされてもよい。また、当初の昇温後は概ね安定した温度が想定される場合などには、緊急時の対応程度で上記略リアルタイムの制御を行わなくてもよい。
【0087】
また、上記実施の形態では、円筒状の画像記録ドラム21の外周面上に載置して搬送、加熱される記録媒体Mを例に挙げて説明したが、これに限られない。プラテン上などを移動する搬送ベルト上に載置されて平面上を移動し、加熱されるものであってもよい。あるいは、外周面や搬送ベルトなどの載置部材の温度を調節することで記録媒体Mの温度を調整するものに限られなくてもよい。記録媒体Mが直接赤外線などにより加熱されてもよい。この場合、記録媒体Mが載置面上に載置されて搬送されるものに限られなくてもよい。ローラーなどを用いて受け渡されていく搬送部を有するインクジェット記録装置1であってもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、反転部26が記録媒体Mの表裏を反転させて着弾位置の上流側へ戻すものとして説明したが、両面に画像を記録しないインクジェット記録装置では、裏表を反転させずに単純に同一面を記録対象面としたまま戻されてもよい。この場合、画像記録ドラム21の加熱に影響がない構成であれば、記録媒体Mが画像記録ドラム21の外周面から一度離隔されなくてもよい。また、片面に複数回重ねて画像を記録する場合でも同じように反転させずに戻すことができてよい。
【0089】
また、上記実施の形態では、UV硬化型インクに対してUVを照射する場合の照射部24を加熱の補助に用いるものとして説明したが、UV硬化型インクに限られず、他のインクや当該インクに対応する定着動作に係る構成などであってもよい。例えば、インクの水分を蒸発させるための乾燥部などが加熱に利用されてもよい。また、そもそもこのような補助加熱がなされなくてもよい。
【0090】
また、上記実施の形態では、加熱し過ぎた場合にファン272で放熱を促すものとして説明したが、温度を低下させる構成としては、ファンに限られず、例えば、水冷などが用いられてもよい。一方で、温度を下げる必要がない場合には、温度主調節部27がファン272などを有しなくてもよい。
【0091】
また、記録媒体Mの供給パターンや反転時のタイムラグなどは、実施の形態に示したものに限られず、適宜設計、設定されてよい。また、インクジェット記録装置は、ピエゾ式のものに限られず、他の方式のものであってもよい。
【0092】
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0093】
1 インクジェット記録装置
10 媒体供給部
11 供給トレー
12 供給温度計測部
20 画像記録部
21 画像記録ドラム
211 搬送モーター
22 前置部
221 受け渡しドラム
222 前置加熱部
223 前置温度計測部
23 ヘッドユニット
231 ヘッド駆動部
232 電気機械変換素子
24 照射部
25 デリバリー部
251 排出選択ローラー
252 受け渡しローラー
253、254 ローラー
255 ベルト
26 反転部
27 温度主調節部
271 ドラム加熱部
272 ファン
28 主計測部
281 ドラム温度計測部
282 記録前温度計測部
283 記録後温度計測部
30 媒体排出部
31 排出トレー
40 制御部
401 CPU
402 RAM
403 記憶部
403a 加熱設定
41 搬送制御部
44 照射制御部
46 加熱制御部
54 駆動波形生成部
60 温度調節部
65 温度計測部
71 操作受付部
72 表示部
73 通信部
M 記録媒体