(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インクセット及びインクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20240806BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240806BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240806BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09D11/54
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 100
D06P5/30
(21)【出願番号】P 2020117433
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/078068(WO,A1)
【文献】特開2011-006805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0040879(US,A1)
【文献】特開2019-178470(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/54
B41J 2/01
B41M 5/00
D06P 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクより構成されるインクジェット捺染用インクセットであって、
前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、
前記界面活性剤Aが、アセチレングリコール系界面活性剤であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が2質量%以上であり、
前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料
及び界面活性剤Bを含有
し、
前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が、前記界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満である
ことを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【請求項2】
前記インクジェット捺染用浸透液における前記界面活性剤Aの総含有量が、5質量%未満であることを特徴とする請求項
1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記有機溶剤が、少なくともアルキルポリオールから選ばれることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記アルキルポリオールの沸点が、200℃以下あることを特徴とする請求項
3に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項5】
前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記有機溶剤の総含有量が、40質量%以上であることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項6】
少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクを用いるインクジェット捺染方法であって、
前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、
前記界面活性剤Aが、アセチレングリコール系界面活性剤であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が2.0質量%以上であり、
前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料
及び界面活性剤Bを含有し、
前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が、前記界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満であり、
前記インクジェット捺染用浸透液を布帛に付着させた後に、インクジェット捺染用カラーインクを付着させて印捺画像を形成することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクセット及びインクジェット捺染方法に関する。より詳しくは、浸透性が向上し、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性に優れたインクジェット捺染用浸透液を有するインクジェット捺染用インクセットと、それを用いたインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
織布、不織布などの布帛に、文字・絵・図柄などの画像を捺染する方法としては、スクリーン捺染法やローラー捺染法の他に、近年では、コンピューターで画像処理を行って実質無版で捺染することができるインクジェット捺染方法が広く普及している。
【0003】
このインクジェット捺染方法による布帛の捺染は、インクをインクジェットヘッドから吐出して布帛に着弾させる工程、インクが着弾された布帛に蒸気を付与してインクが含有する染料を布帛の繊維に定着させる工程、及び蒸気が付与された布帛を洗浄して定着されなかった染料を除去する工程を含んで行われる。
【0004】
インクジェット捺染方法では、捺染された布帛の美観をより高めるため、インクを着弾させた側の布帛の印捺面のみならず、反対側の布帛の裏面でも同様の色調を呈すること、すなわち裏面まで印捺したインクが浸透することが求められている。
【0005】
上記問題に対し、浸透液を適用することにより、カラーインクを裏面まで浸透させ、表面側画像濃度と裏面側画像濃度を近づける方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、インク付与前に、230~260℃の沸点を有する窒素含有化合物と、230~260℃の沸点を有するアルキルポリオールを含有する浸透液を布帛に付与するインクジェット捺染方法が開示されている。特許文献1では、浸透液の組成を、インクの溶剤組成と近似させることにより、布帛へのインクの浸透性を向上させることができ、印捺物の表裏面の濃度差が生じにくいとされている。しかしながら、特許文献1で開示されている方法では、浸透液は沸点の高い有機溶剤を一定量含有しており、布帛上に浸透液を保持させることで浸透性を向上することはできるものの、それだけでは、発色時に残留溶剤が多くなり、発色ムラや、発色阻害による濃度低下を引き起こしやすくなるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、ラクタム構造を有する化合物を20質量%以上含有し、発色時の発色阻害を低下させ、かつ印捺物の表裏面での発色性に差が生じにくいインクジェット捺染用浸透液が開示されている。しかしながら、引用文献2においては、発色ムラについては、全く言及がなされていない。
【0008】
また、特許文献3には、水溶性有機溶剤、界面活性剤、キレート剤、及び芳香族化合物を含有するインクジェット捺染用浸透液が開示されている。特許文献3においては、芳香族化合物を含有することにより、導電性が向上し、マテコン(マテリアルス・コンパティビリティ)性能を良化して、射出安定性が向上させることができるインクジェット捺染用浸透液を得ることができるとされている。しかしながら、特許文献3に記載の発明では、上記特許文献1及び2と同様に、沸点の高い有機溶剤を含有しているため、発色阻害や発色ムラが生じやすいという問題を抱えている。
【0009】
また、特許文献4には、特定の特性を有するグリコール系溶剤と、水を含有するインクジェット捺染用浸透液が開示されている。しかしながら、特許文献4に記載の発明でも、グリコール系溶剤を適用することにより、浸透性は向上させているが、発色性に関する効果については言及がなされていない。
【0010】
したがって、浸透性が向上し、発色安定性が向上したインクジェット捺染用浸透液を用いたンクジェット捺染方法の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2019-077980号公報
【文献】特開2016-141802号公報
【文献】特開2017-031229号公報
【文献】特開2020-033660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、浸透性が向上し、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性に優れたインクジェット捺染用浸透液を有するインクジェット捺染用インクセットと、それを用いたインクジェット捺染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクより構成され、前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aの総含有量が特定量以上であり、前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インクセットにより、浸透性が向上し、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性に優れたインクジェット捺染用浸透液を有するインクジェット捺染用インクセットを得ることができることを見いだし、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
【0015】
1.少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクより構成されるインクジェット捺染用インクセットであって、
前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、
前記界面活性剤Aが、アセチレングリコール系界面活性剤であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が2質量%以上であり、
前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料及び界面活性剤Bを含有し、
前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が、前記界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満である
ことを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【0017】
2.前記インクジェット捺染用浸透液における前記界面活性剤Aの総含有量が、5質量%未満であることを特徴とする第1項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0019】
3.前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記有機溶剤が、少なくともアルキルポリオールから選ばれることを特徴とする第1項又は第2項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0020】
4.前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記アルキルポリオールの沸点が、200℃以下あることを特徴とする第3項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0021】
5.前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記有機溶剤の総含有量が、40質量%以上であることを特徴とする第1項から第4項のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0022】
6.少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクを用いるインクジェット捺染方法であって、
前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aが、アセチレングリコール系界面活性剤であり、前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が2.0質量%以上であり、
前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料及び界面活性剤Bを含有し、
前記アセチレングリコール系界面活性剤の総含有量が、前記界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満であり、
前記インクジェット捺染用浸透液を布帛に付着させた後に、インクジェット捺染用カラーインクを付着させて印捺画像を形成することを特徴とするインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、浸透性が向上し、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性に優れたインクジェット捺染用浸透液を有するインクジェット捺染用インクセットと、それを用いたインクジェット捺染方法を提供することができる。
【0024】
本発明で規定する構成からなる定着部材の技術的特徴とその効果の発現機構は、以下のように推察される。
【0025】
従来、インクジェット捺染方法において、浸透液を用いることで、カラーインクの浸透性を向上させる方法が、例えば、上記特許文献1~4に開示されている。
【0026】
通常、浸透液中には有機溶剤が含まれており、この有機溶剤により布帛表面で浸透液を塗布した後、カラーインクの布帛への浸透性を向上させることが可能になる。また、カラーインクを塗布した後に浸透液を塗布する方法でも、浸透性を向上させることが可能である。
【0027】
しかしながら、浸透液を使用した場合、浸透性を向上させることができる反面、浸透液を使用しない場合に比較して、発色時の残留溶剤量が多くなり、発色阻害や発色ムラが起きやすくなるという問題があった。
【0028】
本発明においては、上記問題に対して鋭意検討を進めた結果、浸透液中の界面活性剤量を増量することにより、発色阻害を防止させることが可能となることが判明した。加えて発色ムラの低減にも効果を発現すること明らかになった。この要因としては、浸透液が含有する界面活性剤が布帛を構成する繊維表面に吸着することで、繊維の濡れ性を向上させ、反応性染料や酸性染料の反応性が向上する、あるいは分散染料が繊維内部へ取り込まれやすくなっているためと推定する。また、染料の拡散性が向上し、発色ムラが低減していると考えられる。
【0029】
一方、界面活性剤の量を増やしすぎることは、布帛における表面濃度の低下を招き、その結果、発色性を低下させることも分かった。
これは、カラーインク中の界面活性剤の量を増やすことでも上記効果が得られるようにも思えるが、カラーインク中の界面活性剤の量を増やすことは、布帛において、浸透させる必要がない箇所までカラーインクを浸透させてしまい、その結果、にじみ等が増大し、表面濃度が低下する恐れがある。カラーインクとは別に浸透インクを備えることで選択的に浸透させたい箇所のみを浸透させることが可能となり、生産適応性の幅を広げることが可能となる。
【0030】
すなわち、印捺品質を満足させる浸透液を提供するためには、カラーインクとは分けて備えておく必要がある。さらに、発色性と浸透性を両立させるためには、浸透液とカラーインク間の界面活性剤量のバランスを適切に調整することにより、本発明の目的効果を達成することができたと推測している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】インクジェット捺染方法に適用可能なインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図
【
図2】インクジェット捺染方法における捺染工程の一例を示す工程フロー図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のインクジェット捺染用インクセットは、少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクより構成され、前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aの総含有量が2質量%以上であり、前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料を含有することを特徴とする。
【0033】
この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0034】
本発明の実施形態としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、前記インクジェット捺染用浸透液に含まれる前記界面活性剤Aの総含有量が、前記インクジェット捺染用カラーインクに含まれる界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満であることが、浸透液の浸透性がより向上し、さらに、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性が向上することができる点で、好ましい。
【0035】
また、前記インクジェット捺染用浸透液における前記界面活性剤Aの総含有量が、5質量%未満であることが、本願発明の目的効果をより向上させることができる点で好ましい。
【0036】
また、前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記界面活性剤Aが、少なくとも、アセチレングリコール系界面活性剤から選ばれることが、より浸透性に優れた浸透液を得ることができる点で好ましい。
【0037】
また、前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記有機溶剤が、少なくともアルキルポリオールから選ばれることが、本願発明の目的効果をより向上させることができる点で好ましい。
【0038】
また、前記インクジェット捺染用浸透液が含有する前記アルキルポリオールの沸点が200℃以下あることが、発色時の残留溶剤量を低減でき、発色ムラや発色阻害を抑制することができる点で好ましい。
【0039】
また、前記インクジェット捺染用浸透液が含有する有機溶剤の総含有量が、インクジェット捺染用浸透液の総質量を100質量%としたとき、40質量%以上であることが、より浸透性に優れた浸透液を得ることができる点で好ましい。
【0040】
また、本発明のインクジェット捺染方法では、少なくとも、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクを用いるインクジェット捺染方法であって、前記インクジェット捺染用浸透液が、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aの総含有量が2.0質量%以上であり、前記インクジェット捺染用カラーインクが、染料を含有し、前記インクジェット捺染用浸透液を布帛に付着させた後に、インクジェット捺染用カラーインクを付着させて印捺画像を形成することを特徴とする。
【0041】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0042】
《インクジェット捺染用インクセット》
本発明のインクジェット捺染用インクセット(以下、単に「インクセット」ともいう。)は、インクジェット捺染用浸透液(以下、単に「浸透液」ともいう。)と、インクジェット捺染用カラーインク(以下、単に「カラーインク」ともいう。)より構成され、前記インクジェット捺染用浸透液が、少なくとも界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aの総含有量が2.0質量%以上であり、前記インクジェット捺染用カラーインクが、少なくとも染料を含有することを特徴とする。
【0043】
さらには、前記浸透液に含まれる前記界面活性剤Aの総含有量が、前記カラーインクに含まれる界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満であることが好ましい態様である。
【0044】
[インクジェット捺染用浸透液]
本発明に係るインクジェット捺染用浸透液は、界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有していることを特徴とする。
【0045】
以下、界面活性剤A、有機溶剤と、その他の浸透液の構成材料について詳細に説明する。
【0046】
〔界面活性剤A〕
本発明においては、浸透液が含有する界面活性剤Aの総含有量が2質量%以上であることを特徴とする。本発明でいう界面活性剤Aの総含有量とは、浸透液の全質量を100質量%としたときに、界面活性剤Aを含有する総質量を質量%で表示した値である。界面活性剤Aの総含有量としては、2質量%以上であることを特徴とするが、好ましくは2質量%以上、10質量%未満の範囲内であり、更に好ましくは、2質量%以上、5質量%未満の範囲内であることが好ましい。本発明に係る界面活性剤Aは、1種であっても、2種以上の界面活性剤で構成されていてもよい。界面活性剤Aが2種以上で構成されている場合には、2種以上の界面活性剤の総質量を、浸透液が含有する界面活性剤Aの総含有量とする。
【0047】
(アセチレングリコール系界面活性剤)
本発明においては、浸透液が含有する界面活性剤Aとしては、特に限定されず、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。このなかでも、布帛への浸透性の観点から、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0048】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール等のアルキレンオキサイド付加物、2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール、2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール等のアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0049】
アセチレングリコール系界面活性剤は市販品として入手することもでき、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1004、E1006、E1010、E1020、E1030等のEシリーズ、オルフィンPD-002W、サーフィノール465やサーフィノール61等(以上、日信化学工業社製)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
その他の界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤(例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等)が挙げられる。また、シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0051】
(浸透液とカラーインクとの界面活性剤含有量比)
本発明のインクセットにおいては、前記インクジェット捺染用浸透液に含まれる前記界面活性剤Aの総含有量が、前記インクジェット捺染用カラーインクに含まれる界面活性剤Bの総含有量の30倍以上、80倍未満であることが好ましく、さらに好ましくは40倍以上、60倍未満である。
【0052】
本発明でいう各界面活性剤の総含有量は、浸透液又はカラーインクの総質量を100質量%としたときに、それぞれの界面活性剤A、界面活性剤Bの含有濃度(質量%)で表示したときの倍率(界面活性剤Aの濃度(質量%)/界面活性剤Bの濃度(質量%))で表す。
【0053】
本発明においては、界面活性剤Aの濃度(質量%)と界面活性剤Bの濃度(質量%)の比を上記で規定する範囲内とすることにより、カラーインクの布帛中への浸透性が向上し、発色阻害耐性及び発色ムラ耐性等の発色安定性に優れた印捺物を得ることができる。
【0054】
〔有機溶剤〕
本発明に係る浸透液においては、界面活性剤Aと共に有機溶剤を含有することを特徴とする。
【0055】
本発明に適用可能な有機溶剤としては、特に制限はなく、例えば、グリコールエーテル系溶剤、窒素含有溶剤、非プロトン性極性溶剤、アルキルポリオール系溶剤、モノアルコール系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に係る浸透液が含有する有機溶媒の総含有量が、浸透液の総質量を100質量%としたとき、40質量%以上であることが好ましい。
【0056】
本発明においては、少なくとも1種の有機溶剤が、アルキルポリオールであることが好ましい。
【0057】
(アルキルポリオール)
本発明に適用可能なアルキルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、1,2-ペンタンジオール(104℃)、プロピレングリコール(188℃)、1,2-ブタンジオール(193℃)、エチレングリコール(197℃)、1,3-ブタンジオール(207℃)、1,3-プロパンジオール(214℃)、1,2-ヘキサンジオール(223℃)、1,4-ブタンジオール(230℃)、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール(230℃)、1,5-ペンタンジオール(242℃)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(244℃)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(249℃)、及び1,6-ヘキサンジオール(250℃)が挙げられる(括弧内の数値は標準沸点を表す。)。このなかでも、沸点が200℃以下のアルキルポリオールが好ましく、例えば、プロピレングリコール(188℃)、1,2-ブタンジオール(193℃)、エチレングリコール(197℃)等を挙げることができる。
【0058】
このようなアルキルポリオールを用いることにより、インクジェット方式で浸透液を付着させる際において、目詰まり信頼性がより向上する傾向にある。これらのアルキルポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0059】
アルキルポリオールの含有量は、インクジェット捺染用浸透液100質量%に対して、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは20~60質量%である。
【0060】
(その他の有機溶剤)
本発明において適用可能な有機溶剤としては、上記アルキルポリオールの他に、グリコールエーテルを挙げることができる。
【0061】
グリコールエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(171℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(176℃)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(179℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(189℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(194℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(212℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(215℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(216℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(230℃)、ジプロピレングリコール(230℃)、ジエチレングリコール(245℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(245℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(249℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(256℃)が挙げられる(括弧内の数値は標準沸点を表す)。このなかでも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点230℃)がより好ましい。
【0062】
〔水〕
水としては、特に制限されることなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。水の含有量は、特に制限されることなく必要に応じて適宜決定すればよく、水は、浸透液に含まれるその他の成分の残部として含まれればよい。例えば、水の含有量は、インクジェット捺染用浸透液の総量(100質量%)に対して30~80質量%範囲内で含まれていてもよい。
【0063】
〔その他の添加剤〕
本発明に係る浸透液には、上記の各添加剤の他に、pH調整剤、キレート剤、保湿剤、還元防止剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
【0064】
防腐剤、防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK、バイエル社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL、ロンザジャパン社製)等が挙げられる。
【0065】
pH調整剤として、例えば、尿素や水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0066】
〔浸透液の液物性〕
25℃における浸透液の粘度は、好ましくは2~10mPa・sであり、より好ましくは4~8mPa・sであり、さらに好ましくは概ね7mPa・s前後である。インク組成物の粘度は、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。また、浸透液の表面張力としては、20~40mN/mの範囲内であることが好ましい。
【0067】
〔浸透液の調製方法〕
本発明に係る浸透液は、上述の各構成成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより調整することができる。各構成材料の混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
【0068】
また、本発明に係る浸透液には、脱気処理を施すことも好ましい。
【0069】
インクジェット方式により布帛に浸透液を付与する場合、浸透液中に溶存気体が含まれていると、インクジェットヘッドから吐出させる際に浸透液中に微細な気泡が発生し、吐出不良を引き起こす要因となる。そこで、そのような溶存気体を浸透液中から除去することが好ましく、その脱気方法としては、大きく分けて、煮沸や減圧等の物理的方法により脱気する方法と、吸収剤を前処理インク中に添加混合させる化学的方法とがあり、適宜選択して適用することができる。
【0070】
[インクジェット捺染用カラーインク]
本発明に係るインクジェット捺染用カラーインクは、色材として染料を含有することを特徴とし、更に好ましくは、界面活性剤Bを含有する。その他には、有機溶剤、尿素類、糖類、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、防錆剤、その他の成分を含んでもよい。
【0071】
以下、カラーインクの構成について説明する。
【0072】
〔色材〕
本発明に係るカラーインクに適用可能な染料として、特に制限はなく、分散染料、反応性染料、酸性染料及び直接染料等の例を挙げることができる。カラーインクを構成する各色インクの色相としては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、ブルー、グリーン、レッドが好ましく用いられ、特に好ましくは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各染料である。
【0073】
以下に、本発明に好ましく用いられる色材である染料の具体的化合物を示すが、本発明はこれら例示した化合物に限定されるものではない。
【0074】
(分散染料)
本発明に係るカラーインクに好ましく用いられる分散染料としては、
C.I.Disperse Yellow:3、4、5、7、9、13、23、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、108、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224、227、231、232、
C.I.Disperse Orange:1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、46、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142、
C.I.Disperse Red:1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、298、302、303、310、311、312、320、324、328、
C.I.Disperse Violet:1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77、
C.I.Disperse Green:9、
C.I.Disperse Brown:1、2、4、9、13、19、
C.I.Disperse Blue:3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、167:1、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、
C.I.Disperse Black:1、3、10、24、
等が挙げられる。
【0075】
分散染料を用いたインクジェット捺染方法においては、高温処理で発色させる場合は、機械や布地の白場に染料が昇華することで汚染の原因とならないために、昇華堅牢度の良い分散染料を選定することが好ましい。
【0076】
(反応性染料)
本発明に係るカラーインクに好ましく用いられる反応性染料としては、
C.I.Reactive Yellow:2、3、7、15、17、18、22、23、24、25、27、37、39、42、57、69、76、81、84、85、86、87、92、95、102、105、111、125、135、136、137、142、143、145、151、160、161、165、167、168、175、176、
C.I.Reactive Orange:1、4、5、7、11、12、13、15、16、20、30、35、56、64、67、69、70、72、74、82、84、86、87、91、92、93、95、107、
C.I.Reactive Red:2、3、3:1、5、8、11、21、22、23、24、28、29、31、33、35、43、45、49、55、56、58、65、66、78、83、84、106、111、112、113、114、116、120、123、124、128、130、136、141、147、158、159、171、174、180、183、184、187、190、193、194、195、198、218、220、222、223、226、228、235、
C.I.Reactive Violet:1、2、4、5、6、22、23、33、36、38、
C.I.Reactive Blue:2、3、4、7、13、14、15、19、21、25、27、28、29、38、39、41、49、50、52、63、69、71、72、77、79、89、104、109、112、113、114、116、119、120、122、137、140、143、147、160、161、162、163、168、171、176、182、184、191、194、195、198、203、204、207、209、211、214、220、221、222、231、235、236、
C.I.Reactive Green:8、12、15、19、21、
C.I.Reactive Brown:2、7、9、10、11、17、18、19、21、23、31、37、43、46、
C.I.Reactive Black:5、8、13、14、31、34、39、
等が挙げられる。
【0077】
(酸性染料)
本発明に係るカラーインクに好ましく用いられる酸性染料としては、
C.I.Acid Yellow:1、3、11、17、18、19、23、25、36、38、40、40:1、42、44、49、59、59:1、61、65、67、72、73、79、99、104、110、159、169、176、184、193、200、204、207、215、219、219:1、220、230、232、235、241、242、246、
C.I.Acid Orange:3、7、8、10、19、22、24、51、51S、56、67、74、80、86、87、88、89、94、95、107、108、116、122、127、140、142、144、149、152、156、162、166、168、
C.I.Acid Red:1、6、8、9、13、18、27、35、37、52、54、57、73、82、88、97、97:1、106、111、114、118、119、127、131、138、143、145、151、183、195、198、211、215、217、225、226、249、251、254、256、257、260、261、265、266、274、276、277、289、296、299、315、318、336、337、357、359、361、362、364、366、399、407、415、
C.I.Acid Violet:17、19、21、42、43、47、48、49、54、66、78、90、97、102、109、126、
C.I.Acid Blue:1、7、9、15、23、25、40、61:1、62、72、74、80、83、90、92、103、104、112、113、114、120、127、127:1、128、129、138、140、142、156、158、171、182、185、193、199、201、203、204、205、207、209、220、221、224、225、229、230、239、258、260、264、277:1、278、279、280、284、290、296、298、300、317、324、333、335、338、342、350、
C.I.Acid Green:9、12、16、19、20、25、27、28、40、43、56、73、81、84、104、108、109、
C.I.Acid Brown:2、4、13、14、19、28、44、123、224、226、227、248、282、283、289、294、297、298、301、355、357、413、
C.I.Acid Black:1、2、3、24、24:1、26、31、50、52、52:1、58、60、63、63S、107、109、112、119、132、140、155、172、187、188、194、207、222、
等が挙げられる。
【0078】
(直接染料)
本発明に係るカラーインクに好ましく用いられる直接染料としては、
C.I.Direct Yellow:8、9、10、11、12、22、27、28、39、44、50、58、86、87、98、105、106、130、137、142、147、153、
C.I.Direct Orange:6、26、27、34、39、40、46、102、105、107、118、
C.I.Direct Red:2、4、9、23、24、31、54、62、69、79、80、81、83、84、89、95、212、224、225、226、227、239、242、243、254、
C.I.Direct Violet:9、35、51、66、94、95、
C.I.Direct Blue:1、15、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、160、168、189、192、193、199、200、201、202、203、218、225、229、237、244、248、251、270、273、274、290、291、
C.I.Direct Green:26、28、59、80、85、
C.I.Direct Brown:44、44:1、106、115、195、209、210、212:1、222、223、
C.I.Direct Black:17、19、22、32、51、62、108、112、113、117、118、132、146、154、159、169、
等が挙げられる。
【0079】
本発明において、カラーインク中に含有される色剤の含有量としては、カラーインク全質量の1~25質量%が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
【0080】
〔界面活性剤B〕
本発明に係るカラーインクに適用可能な界面活性剤Bとしては、特に制限はなく、例えば、前述の浸透液に用いるものと同様のアセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0081】
これらの界面活性剤Bを使用する場合、単独または2種類以上を併用することができ、カラーインク全質量に対して、0.001~1質量%の範囲で添加することが、カラーインクの表面張力を任意に調整することができる点で好ましい。
【0082】
〔有機溶剤〕
本発明に係るカラーインクに用いられる水溶性有機溶剤としては、前述の浸透液に用いるものと同様のものを用いることができる。水溶性有機溶剤の含有量としては、カラーインク全質量に対して10~60質量%の範囲内であることが好ましい。
【0083】
〔その他の各種添加剤〕
本発明に係るカラーインクには、前述の浸透液に用いるものと同様のものを用いることができ、例えば、無機塩、pH調整剤、キレート剤、保湿剤、還元防止剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。さらに必要に応じて、例えば、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解助剤等、インクジェット用のインクにおいて通常用いることができる添加剤を含有してもよい。
【0084】
無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
防腐剤、防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK、バイエル社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL、ロンザジャパン社製)等が挙げられる。pH調整剤として、例えば、尿素や水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
【0086】
〔カラーインクの液物性〕
(pH)
本発明に係るカラーインクでは、pHが7.0以上11.0以下であることが好ましく、7.0以上8.0以下であることがより好ましい。カラーインクのpHがこの範囲であれば、インク中における染料の保存安定性が向上し、得られる画像の発色性や色相の変化を生じにくい。
【0087】
(表面張力)
本発明において、インクジェット捺染用カラーインクは、捺染品質とインクジェット用インクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20~40mN/mの範囲内であることが好ましく、さらには、30~36mN/mの範囲内であることがより好ましい。カラーインクの表面張力が前記で規定する範囲にあることにより、インクジェット捺染において吐出安定性に優れると共に、布帛への付着時にカラーインクが布帛へ均一に濡れ広がりやすく、浸透しやすくなる。これにより、カラーインクが布帛に定着しやすくなる。
【0088】
なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの静的表面張力を確認することにより測定することができる。
【0089】
(粘度)
また、カラーインクの20℃における粘度は、1.5~10mPa・sの範囲内であることが好ましく、2~8mPa・sの範囲内であることがより好ましく、4~5.5mPa・sの範囲内であることがさらに好ましい。インクの20℃における粘度が上記範囲にある場合には、よりインクが布帛に付着した際に定着しやすくなり、発色性が向上する。
【0090】
本発明において、カラーインクの粘度の測定は、例えば、コーンプレート型粘度計、例えば東機産業社製のTVE-33LT粘度計を用いて測定することができる。
【0091】
〔カラーインクの調製方法〕
本発明において、本発明に係るカラーインクは、上記した各成分を任意の順序で混合し、必要に応じてろ過等を行って不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、フィルターろ過等を必要に応じて行なうことができる。
【0092】
《インクジェット捺染方法》
本発明のインクジェット捺染方法(以下、単に「捺染方法」ともいう。)は、インクジェット捺染用浸透液と、インクジェット捺染用カラーインクを用い、前記インクジェット捺染用浸透液が、少なくとも界面活性剤A、有機溶剤、及び水を含有し、前記界面活性剤Aの総含有量が2.0質量%以上であり、前記インクジェット捺染用カラーインクが、少なくとも染料を含有し、前記インクジェット捺染用浸透液を布帛に付着させた後に、インクジェット捺染用カラーインクを付着させて印捺画像を形成することを特徴とする。
【0093】
本発明の捺染方法は、インクジェットヘッド部でインク液滴を吐出するインクジェット記録によって行う。インクジェットヘッドは、オンデマンド方式のものでも、コンティニュアス方式のものでも構わない。また、インクジェットヘッドの吐出方式は、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式であっても構わない。
【0094】
本発明の捺染方法において、印字方式としては特に制限はなく、シングルパス型、スキャン型のどちらでも良いが、高速印刷に効果的であるという点からシングルパス型が好ましい。シングルパス型のインクジェット記録方法とは、記録媒体が一つのインクジェットヘッドユニットの下を通過した際に、一度の通過で、画素を形成するための全てのドットが吐出されるインクジェット記録方式である。
【0095】
シングルパス型の画像形成方法を達成する手段として、ラインヘッド型のインクジェットヘッドを使用することが好ましい。
【0096】
〔インクジェット捺染装置〕
はじめに、本発明のインクジェット捺染方法に適用可能なインクジェット捺染装置の一例について図を交えて説明する。
【0097】
図1は、後述の実施例で用いたインクジェット捺染方法に適用可能なインクジェット記録装置Pの構成で、浸透液とカラーインクを用いて布帛に印捺する工程の一部を示す模式図である。
【0098】
図1に示すインクジェット記録装置Pは、第1ヘッドキャリッジ1と第2ヘッドキャリッジ2が設置されている。第1ヘッドキャリッジ1にはインクジェットヘッド(以下、単にヘッドともいう)が搭載されており、ヘッドには浸透液が装填されている。第2ヘッドキャリッジ2には、複数のヘッド、例えば、イエローインク吐出用ヘッド、マゼンタインク吐出用ヘッド、シアンインク吐出用ヘッド、ブラックインク吐出用ヘッド等が搭載されており、それぞれに対応する各色カラーインクが装填されている。布帛3は、搬送ローラー4及び搬送ローラー5により図に示す搬送方向に搬送される。本発明においては、浸透液を布帛3に付着させた後に、カラーインクを付着させて印捺画像を形成することを特徴とする。
【0099】
従って、第1工程として、搬送された布帛3に対し、まず第1ヘッドキャリッジ1の2つのヘッドから、例えば、15mL/m2の浸透液を布帛3全面に一様に付与したのち、第2工程として、第2キャリッジ2の2つのヘッドから、カラーインクの画像を印捺する。
【0100】
(布帛)
本発明において、インクジェット捺染方法で使用する布帛を構成する素材としては、色剤で染色可能な繊維を含有するものであれば、特に制限はないが、中でも、綿、絹、麻、羊毛、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、ポリエステル繊維及びこれらの混紡から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本発明で使用することのできる布帛としては、色剤で染色可能な繊維が100%であることが好適であるが、混紡織布または混紡不織布等も捺染用布帛として使用することができる。また、上記の様な布帛を構成する糸の太さとしては、10~100dの範囲が好ましい。
【0101】
布帛と染料との組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、反応性染料とセルロースを主成分とする繊維(綿、麻、レーヨン等)、酸性染料と絹、羊毛、ナイロン繊維、塩基性染料とアクリル繊維、直接染料と綿、麻、レーヨン、分散染料とポリエステル繊維が挙げられる。この中でも、反応性染料とセルロースを主成分とする繊維、酸性染料と絹、羊毛、ナイロン繊維が好ましい。このような組み合わせとすることにより、印捺物における表裏面の発色性の差がより抑制される傾向にある。しかしながら、布帛と染料との組み合わせはこれに限定されない。
【0102】
(インクジェットヘッド)
本発明のインクジェット捺染方法においては浸透液及びカラーインクを、ヘッドを用いて布帛上に付与することができる。浸透液及びカラーインクをそれぞれヘッドで付与することで、必要な部位に必要の浸透液及びカラーインクを均一にムラなく付与することができる。
【0103】
浸透液及びカラーインクを布帛に付与するのに用いるヘッドは、浸透液及びカラーインクを付与するヘッドを同一のキャリッジに搭載しても、あるいは
図1で例示したようにそれぞれ分離独立したキャリッジに搭載することもできるが、本発明では後者の形態が好ましい。別キャリッジに浸透液を付与するヘッドを搭載する場合は、浸透液を付与した後、カラーインクを付与するまでの間に、布帛に付与した浸透液を乾燥する乾燥装置を設けることもできる。
【0104】
〔インクジェット印捺工程〕
次いで、工程フロー図を用いて、本発明のインクジェット捺染方法の工程について説明する。
【0105】
図2は、インクジェット捺染方法における捺染工程の一例を示す工程フロー図である。
【0106】
以下、捺染工程における各工程の詳細につて説明する。
【0107】
(ステップS11:布帛の準備)
印捺物である布帛を準備する。
【0108】
(ステップS12:浸透液の付与工程)
浸透液付与工程(ステップS12)は、後述するカラーインクの付与工程(ステップS13)の前に配置し、布帛に浸透液を付与する工程である。
【0109】
浸透液付与工程(ステップS12)において、布帛に浸透液を付与させる場合、インクジェットジェット方式により、浸透液は布帛の表面に付与させても、裏面に付与させても、表面及び裏面の双方に付与させてもよい。また、浸透液は、布帛の全面に付与しても、カラーインクを付与する印捺領域を選択して付与してもよい。布帛への浸透液の付与量は特に制限はなく、例えば、1~100mL/m2の範囲内、好ましくは2~50mL/m2の範囲内で、適用する布帛の特性やカラーインクの付与量に応じて適宜設定することができる。
【0110】
布帛に浸透液を付与した後、必要に応じて、カラーインクの付与工程前に乾燥工程を設けてもよい。
【0111】
(ステップS13:カラーインクの付与工程)
ステップS13のカラーインクの付与工程は、上記ステップS12の浸透液付与工程で浸透液を付与した布帛に対し、カラーインクを付与して、発色前の画像を形成する工程である。例えば、複数のヘッドを搭載する第2ヘッドキャリッジに対して布帛を相対移動させながら、各色インクの液滴をヘッドから吐出して、布帛全面(ベタ画像)又は任意の領域に着弾させることで、発色前の画像を形成する。なお、本発明のインクを含む複数の色のインクを用いて画像を形成する場合、各色のインク液滴は、別々に吐出しても、同時に吐出してもよい。発色前画像の滲みを抑制する観点から、必要に応じて布帛を加熱してステップS13を行ってもよい。
【0112】
また、本発明では、上記ステップS12の浸透液の付与工程の後、浸透液の少なくとも1部を乾燥し、次いでステップS13のカラーインクの付与工程でカラーインクを付与する方法であっても、ステップS12からステップS13を、連続したオンラインで行うインクジェット捺染方法ででもよいが、後者に示した各工程が連続したオンライン方式であることが好ましい。本発明でいう連続したオンラインとは、
図1で模式的に示したように、ステップS12による浸透液の付与とステップS13による布帛へのカラーインクの付与、更に、以下に説明する発色工程、洗浄工程、乾燥工程を、布帛を途中で裁断することなく、同一ライン上で連続して行うことを意味する。
【0113】
(ステップS14:発色工程)
発色工程は、ステップS13で発色前の画像が形成された布帛に高温の蒸気を付与して、色材を布帛の繊維に定着させる工程である。発色工程によって、インク本来の色相が発現する。色材を布帛の繊維に定着させる方法としては、例えば、スチーミング法、HTスチーミング法、HPスチーミング法、サーモフィクス法、アルカリパッドスチーム法、アルカリブロッチスチーム法、アルカリショック法、アルカリコールドフィックス法等が含まれる。
【0114】
高温蒸気を用いるスチーミング方式では、加熱温度が低すぎると、液体の水が多く存在するため、濃色インクや淡色インクに含まれる反応染料は、布帛以外に液体の水と水素結合しやすくなるため、水と共に流されやすくなり、十分には染着できない場合がある。従って、布帛への反応染料の染着を強固にする観点から、加熱温度は、95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。例えば、セルロース系繊維は、95~105℃で、5~15分間処理されることが好ましい。また、インクが付与された布帛は直ちに発色させてもよく、時間が経過してから発色させてもよい。
【0115】
(ステップS15:洗浄工程)
洗浄工程は、上記ステップS14の発色工程後に布帛へ染着できなかった色材である染料や浸透液を除去する工程である。布帛へ染着できなかった色材の除去は、従来公知の洗浄方法を用いることができ、カラーインクを構成する染料種や布帛種等により適宜選択される。例えば、セルロース繊維は、水洗、湯洗の後に非イオン系洗浄剤を含むソーピング浴で処理後、湯洗、水洗を行なうことが一般的である。未染着の染料の除去を行うことで、洗濯堅牢性、耐水堅牢性、耐汗堅牢性等が良好になりやすい。
【0116】
(ステップS16:乾燥工程)
ステップS16の乾燥工程は、上記ステップS15の洗浄工程の後に行われ、洗浄された布帛を乾燥させる工程である。乾燥方法は、特に限定されないが、洗浄された布帛を絞ったり、干したり、乾燥機(ヒートロール、アイロン等)を使用して乾燥させたりする方法であり得る。
【0117】
(その他の工程)
本発明のインクジェット捺染方法においては、ステップS12の浸透液の付与工程の前に、布帛上でのカラーインクの滲みを防止して鮮明な画像を得るために、前処理工程を設けて、糊剤としての水溶性高分子を含有する前処理剤を布帛に予め付与してもよい。前処理剤を付与する方法の例には、パッド法、コーティング法およびスプレー法が含まれる。
【0118】
また、ステップS13のカラーインクの付与工程で布帛にカラーインクを付与した後、ステップS14の発色工程前に、カラーインクを乾燥させるための予備乾燥工程を設けてもよい。乾燥方法には、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、及び照射方式等が含まれる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0120】
《浸透液の調製》
下記の方法に従って、浸透液1~10を調製した。
【0121】
〔浸透液1の調製〕
調製用容器に、下記の各添加剤を順次添加、混合し、十分に撹拌した後、気体透過性のある中空糸膜(三菱レーヨン社製)内に浸透液を通液し、中空糸膜の外表面側を水流アスピレーターで減圧することにより、浸透液中の溶存気体を除去して、浸透液1を調製した。
【0122】
(有機溶剤)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(略称:DEGMBE 沸点:230℃)
30.0質量%
(界面活性剤A)
BYK-348(ポリエーテル変性シロキサン ビックケミー・ジャパン社製)
4.9質量%
(防腐剤)
プロキセルGXL(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン ロンザジャパン社製)
0.2質量%
(水)
イオン交換水 総量として100質量%となる量
【0123】
〔浸透液2の調製〕
上記浸透液1の調製において、界面活性剤AであるBYK-348の含有量を、4.9質量%から3.0質量%に変更した以外は同様にして、浸透液2を調製した。
【0124】
〔浸透液3の調製〕
上記浸透液1の調製において、界面活性剤AとしてBYK-348(含有量:4.9質量%)に代えて、下記界面活性剤に変更した以外は同様にして、浸透液3を調製した。
【0125】
(界面活性剤A)
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤 日信化学工業社製)
2.0質量%
【0126】
〔浸透液4の調製〕
上記浸透液3の調製において、界面活性剤AであるオルフィンE1010の含有量を3.0質量%に変更した以外は同様にして、浸透液4を調製した。
【0127】
〔浸透液5の調製〕
上記浸透液3の調製において、界面活性剤AであるオルフィンE1010の含有量を4.8質量%に変更した以外は同様にして、浸透液5を調製した。
【0128】
〔浸透液6の調製〕
上記浸透液4の調製において、有機溶剤組成を下記の構成に変更した以外は同様にして、浸透液6を調製した。
【0129】
(有機溶剤)
グリセリン(略称:Gly 沸点:290℃) 10.0質量%
プロピレングリコール(略称:PG 沸点:188℃) 20.0質量%
【0130】
〔浸透液7の調製〕
上記浸透液4の調製において、有機溶剤組成を下記の構成に変更した以外は同様にして、浸透液7を調製した。
【0131】
(有機溶剤)
プロピレングリコール(略称:PG 沸点:188℃) 20.0質量%
エチレングリコール(略称:EG 沸点:197℃) 10.0質量%
【0132】
〔浸透液8の調製〕
上記浸透液7の調製において、有機溶剤のプロピレングリコール(略称:PG)の含有量を50.0質量%に変更した以外は同様にして、浸透液8を調製した。
【0133】
〔浸透液9の調製〕
上記浸透液7の調製において、界面活性剤A(オルフィンE1010)を除いた以外は同様にして、浸透液9を調製した。
【0134】
〔浸透液10の調製〕
上記浸透液3の調製において、界面活性剤AであるオルフィンE1010の含有量を1.5質量%に変更した以外は同様にして、浸透液10を調製した。
【0135】
以上調製した各浸透液の構成を、表Iに示す。
【表1】
【0136】
《カラーインクの調製》
下記の方法に従って、カラーインクとしてブラックインク(Kインク)を調製した。
【0137】
〔ブラックインク1の調製〕
下記の各添加剤を順次添加、混合し、十分に撹拌した後、気体透過性のある中空糸膜(三菱レーヨン社製)内にブラックインクを通液し、中空糸膜の外表面側を水流アスピレーターで減圧することにより、浸透液中の溶存気体を除去して、ブラックインク1を調製した。
【0138】
(有機溶剤)
エチレングリコール 20.0質量%
グリセリン 10.0質量%
(色材)
反応性染料:C.I.Reactive Black5 20.0質量%
(界面活性剤B)
オルフィンPD002W(アセチレングリコール系界面活性剤 日信化学工業社製)
0.06質量%
(防腐剤)
プロキセルGXL(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン ロンザジャパン社製)
0.2質量%
(水)
イオン交換水 総量として100質量%となる量
【0139】
《印捺物の作製》
〔印捺物1の作製〕
下記のインクジェット記録方法に従って、上記調製した浸透液1とブラックインク1を用いて、印捺物1を作製した。
【0140】
(インクジェット記録方法)
図1に示すインクジェット記録装置Pを用いて、印捺物1を作製した。
【0141】
図1に示すインクジェット記録装置Pには、第1ヘッドキャリッジ1と第2ヘッドキャリッジ2が設置されている。第1ヘッドキャリッジ1には2つのヘッド(コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド ナッセンジャーV改造)が搭載されており、浸透液1が装填されている。第2ヘッドキャリッジ2には2つのヘッド(コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド ナッセンジャーV改造)が搭載されており、カラーインクとして、ブランクインク1が装填されている。布帛3は搬送ローラー4及び5により図に示す搬送方向に搬送される。布帛3としては綿ブロードを用いた。
【0142】
図面右方向に搬送された布帛3は、第1ヘッドキャリッジ1の2つのヘッドから計15mL/m2の浸透液を布帛全面に一様に付与した。
【0143】
次いで、第2キャリッジ2の2つのヘッドからブラックインク1のベタ画像をプリントした。その後、常法に従い、発色工程、洗浄工程、乾燥工程を経て、印捺物1を作製した。
【0144】
〔印捺物2~10の作製〕
上記印捺物1の作製において、浸透液1に代えて、浸透液2~10を用いた以外は同様にして、印捺物2~10を作製した。
【0145】
〔印捺物11の作製〕
上記印捺物1の作製において、浸透液1の付与を行わなかった以外は同様にして、印捺物11を作製した。
【0146】
《印捺物の評価》
上記作製した各印捺物について、下記の各評価を行った。
【0147】
〔浸透性の評価〕
上記作製した各印捺物の表面側と裏面側の反射明度L*値について、JIS Z 8730-2009に準拠して、測色計(X-Rite938)を用いて測定し、表面側と裏面側のL*値の差を求め、下記の基準に従ってランク分けし、浸透性を評価した。
【0148】
◎:表面側と裏面側のL*値の差が、2.0未満である
〇:表面側と裏面側のL*値の差が、2.0以上、5.0未満である
△:表面側と裏面側のL*値の差が、5.0以上、10.0未満である
×:表面側と裏面側のL*値の差が、10.0以上である
【0149】
〔発色ムラ耐性の評価〕
上記作製した各印捺物のブラック画像全体の発色ムラの有無を目視観察し、下記の基準に従って発色ムラ耐性を評価した。
【0150】
◎:発色ムラの発生が全く認められない
〇:極めて弱い発色ムラが数か所で認められるが、全く問題のない品質である
△:やや弱い発色ムラが数か所で認められるが、実用上は問題のない品質である
×:明らかに強い発色ムラが多数発生しており、実用に耐えない品質である
【0151】
〔発色性の評価〕
上記の方法で作製した各ブラック画像の表面の反射明度L*値について、JIS Z 8730-2009に準拠して、測色計(X-Rite938)を用いて測定し、ブラック画像の基準サンプルとのL*値の差(絶対値)を求め、下記の基準に従って発色性の評価を行った。
【0152】
◎:基準サンプルとのL
*値の差が、1.0未満である
〇:基準サンプルとのL
*値の差が、1.0以上、2.0未満である
△:基準サンプルとのL
*値の差が、2.0以上、5.0未満である
×:基準サンプルとのL
*値の差が、5.0以上である。
以上により得られた結果を、表IIに示す。
【表1】
【0153】
表IIに記載の結果より明らかなように、本発明で規定する構成の浸透液を含むインクジェット捺染用インクセットを用いたインクジェット捺染方法により作製した印捺物は、比較例に対し、布帛へのカラーインクの浸透性、発色ムラ耐性及び発色性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0154】
1 第1ヘッドキャリッジ
2 第2ヘッドキャリッジ
3 布帛
4、5 搬送ローラー
P インクジェット記録装置