(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ヘッドフォン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20240806BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240806BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20240806BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/02 101B
H04R1/02 101E
H04R1/10 101B
G10K11/178 100
H04R1/28 310B
(21)【出願番号】P 2020129922
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 智昭
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-015338(JP,A)
【文献】特開2010-087993(JP,A)
【文献】特開2013-042382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/02
G10K 11/178
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカユニットと、
前記スピーカユニットを固定するバッフル板と、
前記バッフル板に設けられたグリルと、
前記バッフル板に設けられたバスレフポートと、
前記バッフル板に対向して配置されるイヤーパッドと、
前記バッフル板と前記イヤーパッドの間に位置
する吸音材と、
を備え、
前記吸音材は、前記バスレフポートに対向する部分に穴が設けられ、
前記穴の径は、前記バスレフポートの径以上である、
ヘッドフォン。
【請求項2】
前記吸音材と前記イヤーパッドの間には、隙間が設けられている、
請求項1に記載のヘッドフォン。
【請求項3】
前記隙間の厚みは、前記バスレフポートの径以上である、
請求項2に記載のヘッドフォン。
【請求項4】
前記隙間は、前記バスレフポートに対向する位置から前記スピーカユニットに対向する位置まで形成された溝からなる、
請求項2または請求項3に記載のヘッドフォン。
【請求項5】
前記吸音材は、前記スピーカユニットの対向する位置に開口部を有する、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のヘッドフォン。
【請求項6】
前記スピーカユニットは、アクティブ・ノイズ・キャンセル機能を有する、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のヘッドフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、ヘッドフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドフォンは一般的な構成として、スピーカユニットと、ハウジングと、スピーカユニットの支持基板となるバッフル板と、を備える。
【0003】
特許文献1のヘッドフォンは、バッフル板とユーザの耳との間の空間における音響反射を抑制するため、シート134を備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のヘッドフォンはバスレフポートを備えていない。特許文献1のヘッドフォンは、スピーカの出力音の共鳴を抑制することができない。
【0006】
この発明の一実施形態は、バスレフポートを備えたヘッドフォンにおいて、スピーカの出力音の共鳴を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るヘッドフォンは、スピーカユニットと、前記スピーカユニットを固定するバッフル板と、前記バッフル板に設けられたバスレフポートと、前記バッフル板に対向して配置されるイヤーパッドと、前記バッフル板と前記イヤーパッドの間に位置し、前記バスレフポートに対向する部分に穴が設けられた吸音材と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係るヘッドフォンは、スピーカの出力音の共鳴を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ヘッドフォンユニットの一部分解斜視図である
【
図3】
図3(A)は、吸音材を設けていないヘッドフォンの周波数特性の参考例を示す説明図であり、
図3(B)は、吸音材を設けているヘッドフォンの周波数特性の一例を示す説明図である。
【
図4】
図4(A)は、吸音材を設けていないヘッドフォンの位相特性の参考例を示す説明図であり、
図4(B)は、吸音材を設けているヘッドフォンの位相特性の一例を示す説明図である。
【
図5】変形例に係るヘッドフォンユニットの断面図である。
【
図6】変形例に係るヘッドフォンユニットの一部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のヘッドフォン1について図を参照して説明する。ヘッドフォン1は、L側ヘッドフォンユニット11及びR側ヘッドフォンユニット12を備える。L側ヘッドフォンユニット11とR側ヘッドフォンユニット12とは、ヘッドバンド(図示せず)で接続されている。ヘッドフォン1の外観形状は、一般的なヘッドフォンと同じであるため、図示を省略する。
図1はL側ヘッドフォンユニット11の断面図である。
図2は、L側ヘッドフォンユニットの一部分解斜視図である。
【0011】
本実施形態におけるヘッドフォン1は、例えば、音楽プレーヤ、音響ミキサ又はスマートフォン等の音響機器と有線又は無線で接続されている。ヘッドフォン1は、音響機器から音信号を受け取り、受け取った音信号を音に変換して放音する。
【0012】
ヘッドフォン1は、アクティブ・ノイズ・キャンセル(ANC:Active Noise Cancel)機能を備えている。本実施形態のヘッドフォン1は、ヘルムホルツ共鳴を用いたバスレフポートにより低域の音圧を上昇させるように構成されている。ただし、本発明において、ANC機能を備えることは必須ではない。
【0013】
L側ヘッドフォンユニット11及びR側ヘッドフォンユニット12のそれぞれは、
図1および
図2に示すように、筐体2と、バッフル板3と、チャンバ4と、スピーカユニット5と、イヤーパッド7と、吸音材70と、を備えている。
【0014】
L側ヘッドフォンユニット11の詳細について説明する。なお、L側ヘッドフォンユニット11およびR側ヘッドフォンユニット12は、同じ構成である。したがって、ここでは、L側ヘッドフォンユニット11を代表して説明する。
【0015】
筐体2は、
図1および
図2に示すように、内部が空洞であって、バッフル板3に対向する第1端が開放する円筒形状に形成されている。筐体2の内部には、スピーカユニット5およびチャンバ4が配置されている。筐体2の側壁には、貫通孔21が設けられている。貫通孔21は、主に空気を導通するために設けられている。筐体2は、外部からの外乱音を遮断する。これにより、筐体2の内部に配置するチャンバ4は、外乱による共振を防ぐことができる。
【0016】
バッフル板3は、円板形状に形成されている。バッフル板3は、筐体2の開放端を覆うように、筐体2に接続される。言い換えると、バッフル板3の周縁が筐体2の開放端と接続される。バッフル板3は、スピーカユニット5の放音部50と対向する中心部に、スピーカユニット5からの音を通過するための複数の開口からなるグリル31が設けられている。また、バッフル板3は、厚み方向に貫通するバスレフ用の第1ポート32を設けている。
【0017】
スピーカユニット5は、バッフル板3の中心部(グリル31)に配置されている。
【0018】
チャンバ4は、筐体2とバッフル板3とで構成される空間に設けられている。チャンバ4は、内部が空洞であって、バッフル板3側の第1端が開放する円筒形状に形成されている。チャンバ4は、開放端がバッフル板3と接続されている。すなわち、バッフル板3は、チャンバ4の開放端を覆うように配置する。チャンバ4は、内部に、スピーカユニット5を配置する。チャンバ4は、スピーカユニット5の外周面及び背面51を覆うようにして配置する。より詳細には、チャンバ4は、底壁40の内面401とスピーカユニット5の背面51が対向するように配置される。なお、チャンバ4は、スピーカユニット5の音を遮音する機能も有している。
【0019】
チャンバ4は、底壁40にバスレフ用の第2ポート41が形成されている。第2ポート41は、両端が開放されている円筒形状に形成され、底壁40の外側に向かって突出する。この場合、スピーカユニット5は、第2ポート41の開口を塞がないようにチャンバ4内に配置される。
【0020】
第2ポート41により、チャンバ4および筐体2の内部空間が連通する。これにより、チャンバ4および筐体2は、ヘルムホルツ共鳴器のキャビティとして機能する。そして、第2ポート41および第1ポート32は、共鳴管として機能する。
【0021】
イヤーパッド7は、バッフル板3に対して、スピーカユニット5が配置されている側とは反対側に設けられていている。イヤーパッド7は、円筒状に形成されている。イヤーパッド7は、スピーカユニット5の放音部50から放音される音を外部(ユーザの耳)に到達させるように、中央部分が開口している。イヤーパッド7は、周縁部の円筒形状の基材75を介して、バッフル板3に接続される。イヤーパッド7とバッフル板3との間には、当該基材75の厚みに対応する空間が形成される。吸音材70は、当該空間を埋めるように、バッフル板3とイヤーパッド7との間に配置する。吸音材70は、例えばグラスウール、フェルト、またはウレタン等の多孔質材料からなる。吸音材70は、スピーカユニット5から出力された音が空間内で反射して干渉することを防止する。
【0022】
吸音材70は、円筒形状に形成されている。吸音材70は、スピーカユニット5の放音部50から放音される音をユーザの耳に到達させるように、中央部分が開口している。開口部の面積は、スピーカユニット5の前面の面積と同じである。
【0023】
吸音材70は、第1ポート32の位置にも開口部71を有する。開口部71は、本発明の穴に対応する。開口部71の径は、第1ポート32の径と同じか、あるいは第1ポート32の径よりも大きいことが好ましい。また、吸音材70は、バッフル板3に貼り付けられていて、イヤーパッド7との間には隙間を有する。第1ポート32から出力した共鳴音は、開口部71および当該隙間を経てイヤーパッド7の中央の開口部に達し、ユーザの耳に到達する。
【0024】
これにより、吸音材70は、スピーカユニット5から出力された音の干渉を防止しつつ、第1ポート32から出力される共鳴音をユーザの耳に到達させる。なお、隙間の厚みは、バスレフポートである第1ポート32の径よりも大きいことが好ましい。仮に隙間の厚みが第1ポート32の径以下であると、当該隙間もバスレフポートとして機能する可能性がある。この場合、共鳴周波数が設計とは異なる値となり、目的の音質と異なる音質になる可能性がある。隙間の厚みが第1ポート32の径よりも大きいと、隙間はバスレフポートとして機能しないため、目的の音質を再現することができる。なお、本実施形態では、断面が円形状の第1ポート32を示しているが、バスレフポートの断面形状は円形状に限らない。例えば、バスレフポートの断面形状は楕円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。バスレフポートの断面形状が楕円形状である場合も、隙間の厚みは径(長軸の長さ)よりも大きいことが好ましい。バスレフポートの断面形状が多角形状である場合も、隙間の厚みは、バスレフポートの径(最も長い対角線の長さ)よりも大きいことが好ましい。
【0025】
図3(A)は、参考例として、吸音材が設けられていないL側ヘッドフォンユニット及びR側ヘッドフォンユニットの周波数特性の一例を示す説明図である。参考例のヘッドフォンは、本実施形態のヘッドフォン1と吸音材70の有無以外同じ構成である。
図3(B)は、吸音材70を備えた本実施形態のL側ヘッドフォンユニット11及びR側ヘッドフォンユニット12の周波数特性の一例を示す説明図である。
【0026】
図3(A)に示すように、参考例のL側ヘッドフォンユニットとR側ヘッドフォンユニットの周波数特性は、特に、中高音域(2kHz~10kH)において多数のディップ(極小成分)を含む。これらディップは、スピーカユニット5の出力音がバッフル板3およびイヤーパッド7の間で反射して干渉することにより生じる。
【0027】
一方、本実施形態のヘッドフォンは、吸音材70をバッフル板3およびイヤーパッド7の間に配置し、干渉を抑えている。したがって、本実施形態のヘッドフォンは、
図3(B)に示すように、中高音域のディップを抑えている。特に、参考例において3kHz付近に生じていた大きなディップは、本実施形態のヘッドフォンにおいてはほとんど無くなっている。一方で、吸音材70は、開口部71およびイヤーパッド7に隙間を有することにより、第1ポート32の出力する共鳴音を阻害しないため、1kHz未満の中低域における周波数特性も悪化していない。また、本実施形態の構成によれば、1kHz未満の中低域における周波数特性はより平坦となる。本実施形態のヘッドフォンは、1kHz未満の中低域において、入力音に対して余分な周波数特性を付加しないため、より原音に近い音を出力することができる。
【0028】
よって、本実施形態のヘッドフォンは、吸音材70により音質を改善することができる。
【0029】
図4(A)は、吸音材70が設けられていない参考例のL側ヘッドフォンユニットとR側ヘッドフォンユニットの位相特性の一例を示す説明図である。また、
図4(B)は、吸音材70を備えた本実施形態のL側ヘッドフォンユニット11とR側ヘッドフォンユニット12の位相特性の一例を示す説明図である。
【0030】
図4(A)に示すように参考例のヘッドフォンは、スピーカユニット5の出力音がバッフル板3およびイヤーパッド7の間で反射して干渉することにより、300Hz~2kHz程度の中域で、最大で約80°の位相の遅れを生じる。
【0031】
一方、
図4(B)に示すように、本実施形態のヘッドフォンは、300Hz~2kHz程度の中域で、最大でも約60°程度の位相の遅れに改善している。一方で、本実施形態の吸音材70は、開口部71およびイヤーパッド7との隙間により、第1ポート32の出力する共鳴音を阻害しないため、中低域における位相特性も悪化していない。
【0032】
よって、本実施形態のヘッドフォンは、吸音材70により位相特性も改善することができ、ANC機能の効果も向上する。
【0033】
なお、チャンバ4の第2ポート41は、上記実施形態の例に限定されない。第2ポート41は、チャンバ4の底壁40又は側壁のいずれかに設けられていればよい。
【0034】
[変形例]
変形例のヘッドフォン1について
図5を参照して説明する。
図5は、変形例に係るL側ヘッドフォンユニット11Aの断面図である。
図6は、変形例に係るL側ヘッドフォンユニット11Aの一部分解斜視図である。なお、上述の実施形態と同じ構造については、同じ符号を付し、説明を省略する。また、変形例のL側ヘッドフォンユニット11AおよびR側ヘッドフォンユニット12Aも同じ構造を有するため、この例ではL側ヘッドフォンユニット11Aのみを示す。
【0035】
変形例のヘッドフォン1は、吸音材70Aを備える点で、上記実施形態と異なる。吸音材70Aの厚みは、バッフル板3およびイヤーパッド7の間の距離と同じである。しかし、吸音材70Aは、開口部71と中央の開口部(放音部50との対向部分)とを連通する溝71Aを有する。
【0036】
すなわち、吸音材70Aは、バッフル板3およびイヤーパッド7の間の空間をほぼ全て埋めているが、第1ポート32から出力される共鳴音をユーザの耳に到達させるための隙間として溝71Aを備えている。
【0037】
溝71Aの断面積は、第1ポート32の断面積よりも大きいことが好ましい。溝71Aの断面積を第1ポート32の断面積よりも大きくすることで、溝71Aがバスレフポートとして機能することを防止し、目的の音質を再現することができる。なお、溝71Aの断面形状は、円形状、楕円形状、あるいは多角形状等、どの様な形状であってもよい。
【0038】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1…ヘッドフォン
2…筐体
3…バッフル板
4…チャンバ
5…スピーカユニット
7…イヤーパッド
11,11A…L側ヘッドフォンユニット
12,12A…R側ヘッドフォンユニット
21…貫通孔
31…グリル
32…第1ポート
40…底壁
41…第2ポート
50…放音部
51…背面
70…吸音材
70A…吸音材
71…開口部
71A…溝
75…基材
134…シート
401…内面