(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】建築部材、及び、建築部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240806BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20240806BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240806BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20240806BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20240806BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240806BHJP
【FI】
E04B1/94 W
B32B3/24 Z
B32B5/02 B
B32B27/04 Z
B32B5/28 A
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2020132171
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】辻 芳人
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 博則
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-052471(JP,A)
【文献】米国特許第06123171(US,A)
【文献】特開2000-238224(JP,A)
【文献】特開2000-265589(JP,A)
【文献】特開2020-082705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04C 2/00 - 2/54
B32B 1/00 -43/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密実状の芯部と、
前記芯部に連続して設けられ、複数の空洞部を備えた空気層部
(但し、発泡不織布を除く。)と、
前記空気層部に連続して設けられた密実状の表層部と、
を有し、少なくとも、前記芯部が炭素繊維強化プラスチックで形成されている、
ことを特徴とする建築部材。
【請求項2】
密実状の芯部と、
前記芯部に連続して設けられ、複数の空洞部を備えた空気層部と、
前記空気層部に連続して設けられた密実状の表層部と、
を有し、
前記芯部、前記空気層部、及び、前記表層部
は、材料を変えず全て、炭素繊維強化プラスチックで形成されている、
ことを特徴とする建築部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の建築部材であって、
前記空気層部の厚さは、前記表層部の厚さよりも大きい、
ことを特徴とする建築部材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の建築部材であって、
厚さ方向において、前記空気層部及び前記表層部は、それぞれ、前記芯部の両側に一対設けられている、
ことを特徴とする建築部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の建築部材であって、
前記空気層部及び前記表層部は、前記芯部を覆う四周に設けられている、
ことを特徴とする建築部材。
【請求項6】
3Dプリンタを用いて、炭素繊維強化プラスチックで密実状の芯部を形成する工程と、
前記3Dプリンタを用いて、複数の空洞部を備えた空気層部を形成する工程と、
前記3Dプリンタを用いて、密実状の表層部を形成する工程と、
を有し、前記芯部、前記空気層部、及び前記表層部を連続して形成する、
ことを特徴とする建築部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築部材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂との複合材料である炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)は、強度、剛性および軽さ等に優れており、航空機、自動車、スポーツ用品、建築分野などで広く使用されている。ただし、CFRPは、耐熱性が低く、概ね100℃を超えると樹脂(有機物)が軟化し始め、構造耐力が低下する。このため、耐火建築に用いる場合、CFRPの周囲に、耐火被覆材(モルタルなど)や仕上げ材(耐火塗料など)を設け、火災時にCFRPに熱が伝達するのを抑制するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CFRPで構造体を構成する場合、上述したようにCFRPの周囲に耐火被覆材や仕上げ材を施すと、仕上げ寸法が、構造体で必要なサイズよりもかなり大きくなってしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、仕上げ寸法の低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の建築部材は、密実状の芯部と、前記芯部に連続して設けられ、複数の空洞部を備えた空気層部(但し、発泡不織布を除く。)と、前記空気層部に連続して設けられた密実状の表層部と、を有し、少なくとも、前記芯部が炭素繊維強化プラスチックで形成されている、ことを特徴とする。
【0007】
このような建築部材によれば、芯部(CFRP)と表層部の間に熱伝導率の小さい空気層部を設けることで、断熱効果を高めることができ、火災時の熱を伝わりにくくすることができる。これにより耐火被覆材や仕上げ材を不要とすることができ、仕上げ寸法の低減を図ることができる。
【0008】
また、かかる目的を達成するために本発明の建築部材は、密実状の芯部と、前記芯部に連続して設けられ、複数の空洞部を備えた空気層部と、前記空気層部に連続して設けられた密実状の表層部と、を有し、前記芯部、前記空気層部、及び、前記表層部は、材料を変えず全て、炭素繊維強化プラスチックで形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
このような建築部材によれば、全て同一の材料(CFRP)で構成することができる。また、表層部をCFRPで形成することによりデザイン性の向上を図ることできる。
【0010】
かかる建築部材であって、前記空気層部の厚さは、前記表層部の厚さよりも大きいことが望ましい。
【0011】
このような建築部材によれば、耐火性能を高めつつ、仕上げ寸法の低減を図ることができる。
【0012】
かかる建築部材であって、厚さ方向において、前記空気層部及び前記表層部は、それぞれ、前記芯部の両側に一対設けられていることが望ましい。
【0013】
このような建築部材によれば、厚さ方向の両側における耐火性能を高めることができる。
【0014】
かかる建築部材であって、前記空気層部及び前記表層部は、前記芯部を覆う四周に設けられていることが望ましい。
【0015】
このような建築部材によれば、芯部の周囲が空気層部及び表層部で被覆されるので、耐火性能をより高めることができる。
【0016】
また、かかる目的を達成するために本発明の建築部材の製造方法は、3Dプリンタを用いて、炭素繊維強化プラスチックで密実状の芯部を形成する工程と、前記3Dプリンタを用いて、複数の空洞部を備えた空気層部を形成する工程と、前記3Dプリンタを用いて、密実状の表層部を形成する工程と、を有し、前記芯部、前記空気層部、及び前記表層部を連続して形成することを特徴とする。
【0017】
このような建築部材の製造方法によれば、耐火性能の高い建築部材を簡易に製造できる。これにより、耐火被覆材や仕上げ材を不要とすることができ、仕上げ寸法の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、仕上げ寸法の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】3Dプリンタで形成した建築部材の一例を示す図である。
【
図3】3Dプリンタによる造形の様子を示す概略説明図である。
【
図4】
図2に示す建築部材の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
===実施形態===
<建築部材の構成について>
図1は本実施形態の建築部材の概略説明図である。
【0022】
図1に示す建築部材は、芯部10と空気層部20と表層部30とを備えている。なお、芯部10、空気層部20、表層部30は、全て炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)で形成されている。
【0023】
CFRPは、炭素繊維とマトリックス樹脂との複合材料である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系繊維やピッチ系繊維(コールタールなど石油系原料とした繊維)などの有機繊維が用いられる。また、樹脂としては、熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル、エポキシ、ビニルエステルなど)や、熱可塑性樹脂(ナイロン、ポリプロピレンなど)が用いられる。このようなCFRPは、鉄やアルミなどの金属材料よりも低密度でありながら、力学特性に優れて比強度が高い、軽量かつ高強度の材料である。
【0024】
ただし、CFRPは、耐熱性能が低く、概ね100℃を超えると樹脂(有機物)が軟化し始めて構造耐力が低下する。よって、耐火性能を上げないと建築部材として使用できない。従来では、耐火性能を上げるために、CFRPの周囲に耐火被覆材(例えばモルタルなど)や仕上げ材(耐火塗料など)を施していた。このため、構造体で必要なサイズよりも大きな仕上げ寸法になるおそれがあった。
【0025】
本実施形態では、3次元(3D)プリンタを用いて、CFRPで芯部10と空気層部20と表層部30を連続して形成することで、耐火性能の高い建築部材を構成し、仕上げ寸法の低減を図っている。
【0026】
芯部10は、構造耐力上必要な部位(構造体中心部)であり、CFRPにより密実状に形成されている。
【0027】
空気層部20は、芯部10に連続してCFRPにより形成されており、それぞれ独立した複数の空洞部20aを備えている。空洞部20aは、空気層部20において立体的に分散配置されており、その形状は、3Dハニカム状、3Dバブル状など、どのようなものでもよい。また、空洞部20aの大きさ(径)は1mm~10mmが好ましい。
【0028】
表層部30は、建築部材の外周を覆う部位であり、空気層部20に連続して、CFRPにより密実状に形成されている。なお、CFRPはデザイン性にも優れており、本実施形態では、表層部30をCFRPで形成することにより、表面のデザイン性を高めることができる。
【0029】
このように、本実施形態の建築部材は、芯部10、空気層部20、表層部30が全てCFRPで形成されており、芯部10と表層部30との間に、複数の空洞部20aを備えた空気層部20を設けている。空気層部20の空洞部20aに含まれる空気(気体)は、固体や液体と比べて熱を伝えにくい特性を有しているため、空気層部20を設けることで表層部30側から芯部10への熱伝導率が小さくなる(断熱効果が得られる)。すなわち、CFRPを用いた建築部材の耐火性能を高めることができる。これにより、耐火被覆材(例えば、モルタル)や仕上げ材(例えば、耐火塗料)が不要となるので、仕上げ寸法の低減を図ることができる。
【0030】
なお、空気層部20における熱の伝達時に、空洞部20aの中では熱の対流が生じるため、空洞部20aの大きさが小さい(空洞部20aの数が多い)ほど、熱伝導率が小さく(熱が伝わりにくく)なる。よって、空気層部20において、微小な大きさの空洞部20aを数多く分散配置することがより好ましい。また、この場合、表層部30と芯部10との一体性をより高めることができる。
【0031】
図2は、3Dプリンタで形成した建築部材の一例を示す図である。なお、3Dプリンタによる製造方法については後述する。
【0032】
この例の場合、芯部10の厚さ方向の両側に空気層部20と表層部30をそれぞれ一対設けている。これにより、芯部10の厚さ方向の両側において耐火性能を高めることができる。このような建築部材は、例えば、階段、床、壁、天井などに適用できる。
【0033】
また、一般的に、熱伝導率の小さい空気層部20は、その層厚が厚ければより熱を伝えにくくなる。なお、空気層部20の厚さは、表層部30の厚さよりも大きいことが望ましい。本実施形態では、図に示すように、芯部10の厚さをd1、空気層部20の厚さをd2、表層部d3の厚さをd3としたとき、d2>d1>d3となっている。厚さd2を大きくすることで火災時に芯部10への熱の伝達を遅くすることができる。また、厚さd3を小さくすることで、寸法を抑えることができる。これにより、耐火性能を高めつつ、仕上げ寸法の低減を図ることができる。ただし、これには限らず、例えば、d1≧d2>d3でもよい。これによりデザイン性を高めることができる。
【0034】
<建築部材の製造方法について>
本実施形態では、3Dプリンタを用いて建築部材を製造する。3Dプリンタは、例えば、コンピュータで作成した3次元データ(CADデータ)に基づいて、立体的な造形物の造形を行うプリンタである。
【0035】
図3は、3Dプリンタによる造形の様子を示す概略説明図である。本実施形態で用いる3Dプリンタは、熱溶解積層(FDM)方式である。FDM方式であるため、本実施形態のCFRPにはマトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いている。すなわち、加熱溶融することにより流動性を付与でき、冷却して固化させることができる。
【0036】
プレート100は、3Dプリンタの内部に固定された台(造形台)であり、当該プレート100の上に造形物が形成される。
【0037】
ノズル200は、プレート100の上面と対向しており、プレート100に対して水平方向に移動(水平移動)可能に構成されている。そして、ノズル200は水平移動しつつプレート100に向けて造形の材料(フィラメント300)を押し出す。
【0038】
フィラメント300は、本実施形態ではCFRPであり、連続炭素繊維と熱可塑性樹脂とが一体化されてノズル200に供給される。なお、熱可塑性樹脂は、連続炭素繊維の周りに配置されており接着剤(バインダ)としても機能する。本実施形態では熱可塑性樹脂繊維として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を用いている。PEEK樹脂は、耐熱性が高く、汎用的なポリエチレン(PE)やABS樹脂よりも性能が優れている。前述したように3DプリンタがFDM方式であるので、フィラメント300は、ヒーター(不図示)等で温められた状態(溶融した状態)でノズル200から押し出される。
【0039】
そして、動くノズル200から押し出されたフィラメント300が、
図3に示すように、プレート100の上に積み重なっていき、立体的な造形物(3D造形物:本実施形態では建築部材)が形成される。
【0040】
なお、上述した3Dプリンタでは、プレート100の位置が固定で、ノズル200が水平移動していたが、これには限られない。例えば、ノズル200の移動の軸を多軸に構成することにより、水平方向以外にも移動可能にして、任意の角度で材料(フィラメント300)を積層できるようにしてもよい。あるいは、プレート100の水平面に対する傾きを任意に変えることができるようにしてもよい。また、プレート100が下方に下がりつつ、動くノズル200から押し出された材料が積み重なって造形物が形成されてもよい。
【0041】
図4は、
図2に示す建築部材の製造方法を示すフロー図である。なお、
図4に示す各工程では、全て上述した3Dプリンタ(
図3参照)を用いて、動くノズル200から押し出されたフィラメント300(CFRP)により造形を行う(以下では説明を省略する)。
【0042】
まず、プレート100の上に表層部30(
図2の2つの表層部30のうちの下側)を密実状に形成する(S10)。
【0043】
次に、ステップS10で形成された表層部30の上に、空気層部20(
図2の2つの空気層部20のうちの下側)を形成する(S20)。この際、複数の空洞部20aがそれぞれ独立して立体的に形成される。これにより、複数の空洞部20aを備えた空気層部20が、表層部30に連続して設けられる。
【0044】
次に、ステップS20で形成された空気層部20の上に、芯部10を密実状に形成する(S30)。これにより、密実状の芯部10が、空気層部20に連続して設けられる。
【0045】
次に、ステップS30で形成された芯部10の上に、空気層部20(
図2の2つの空気層部20のうちの上側)を形成する(S40)。この際、複数の空洞部20aがそれぞれ独立して立体的に形成される。これにより、複数の空洞部20aを備えた空気層部20が、芯部10に連続して設けられる。
【0046】
最後に、ステップS40で形成された空気層部20の上に、表層部30(
図2の2つの表層部30のうちの上側)を密実状に形成する(S50)。これにより、密実状の表層部30が、空気層部20に連続して設けられる。
【0047】
以上の工程により、
図2に示す建設部材が製造される。本実施形態では、3Dプリンタを用いて建築部材の各部(層)を形成しているので、複雑な形状であっても、簡易に、且つ、高い精度で形成することができる。特に、空気層部20の空洞部20aの大きさや形状(立体形状)にかかわらず、高い精度で形成することができる。
【0048】
なお、3Dプリンタの構成(方式)は、上述したものには限られない。例えば、本実施形態では、1つのノズル(ノズル200)を用いた1ノズル方式であったが、CFRPノズルと樹脂ノズルを用いた2ノズル方式でもよい。
【0049】
===その他の実施形態===
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0050】
前述の実施形態では、芯部10、空気層部20、表層部30が全てCFRPで形成されていたが、少なくとも芯部10がCFRPで形成されていればよい。つまり、空気層部20及び表層部30は、CFRP以外の材料で形成してもよい。例えば、前述した3Dプリンタを用いて、材料を変えて同様に形成することが可能である。
【0051】
また、
図2では、空気層部20及び表層部30は、芯部10を挟む厚さ方向の両側に一対設けられているが、芯部10の両サイドにも設けられている(すなわち、芯部10を覆う四周に設けられている)ことが望ましい。これにより、芯部10の周囲が空気層部20及び表層部30で被覆されるので、耐火性能をより高めることができる。
【0052】
なお、例えば、芯部10の片側のみ耐火が必要な場合や、片側に別の耐火構造を設ける場合などにおいては、芯部10の片側のみに空気層部20及び表層部30を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 芯部
20 空気層部
20a 空洞部
30 表層部
100 プレート
200 ノズル
300 フィラメント